説明

粘着構造及びその粘着構造を備えたスリップレイヤシート

【課題】すべり層全体に必要となる特性を満たすすべり層において、気温10℃程度の温度領域で構造物等に対する十分な粘着力を備える粘着構造及びその粘着構造を備えたスリップレイヤシートを提供する。
【解決手段】本発明に係る粘着構造は、土壌に面するアスファルト層と、地中構造物に対する粘着層を備え、前記粘着層は、10℃における載荷時間1秒(周波数1Hz)での、貯蔵弾性率が1×10Pa以下であり、かつ損失正接tanδが1以上である。10℃における載荷時間100秒での損失正接tanδが1以下となることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地中構造物周囲の地盤沈下によって、周囲の地盤から地中構造物の外面に作用する力を低減するすべり層の粘着構造及びその粘着構造を備えたスリップレイヤシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
臨海部や埋め立て地などの軟弱地盤に基礎杭などの地中構造物を構築した場合、地中構造物における地盤との接触面には、周囲の地盤の地盤沈下によって、鉛直方向に下向きの力が作用する。この下向きの力をネガティブフリクション(以降NF)という。NFは、地中の土質や、地下水の流れまたはその変化、さらに地中構造物を構築した後の周囲の地盤の掘削などによって発生するが、これらの要因を地中構造物の構築前に精確に予測することは困難であり、したがってNFの発生量を精確に予測することも困難である。すなわち、基礎杭は長いもので地下80から100mまで打ち込まれ、そこまでの地中構造を精確に把握することは困難であり、そのため想定以上のNFが発生し、基礎杭が損傷することで地上の構造物が損傷したり、また地中構造物の破壊に至る場合もあった。
【0003】
そこで、このNFの低減が必要となるが、従来、地中構造物のNF対策としては、特に基礎杭の分野において、杭径の増大や杭の本数の増加による対策、また杭を密集させ軟弱地盤を拘束する群杭と呼ばれる方法、また杭を2重構造とし外筒がNFを受け、内筒で地上の建物を支持する2重管杭を採用する方法などが実施されていた。しかし、杭径の増大や杭の本数の増加は材料費の増大を招き、群杭を用いる方法では材料費の増大や、杭本数の増加に伴う建設残土の増加、また杭本数の設計にはNFを予測する必要があるとともに、最外周に打ち込まれた杭に作用するNFを低減できない等の問題点があった。また、2重管杭を用いる方法は、材料費の増大と非常に困難な施工を伴うという問題があった。
【0004】
一方、他の方法として、近年では、基礎杭の周囲にアスファルト系材料を塗布し、アスファルト系材料をすべり層(SlipLayer)として機能させ、瀝青材料の変形によってNFを低減させる方法(SL杭工法)が実施されている。このSL杭工法では、適切なアスファルト系料を基礎杭の周囲にすべり層として塗布すれば、基礎杭に作用するNFを低減することが確認されている。ただし、この場合、専用の工場で基礎杭の周囲にあらかじめ溶融したアスファルト系材料を塗布し、すべり層を形成しておくことが必要であり、杭を打設する現場でのアスファルト系材料の塗布はできないという問題があった。すべり層を形成するにあたっては、地中構造物の構成材にアスファルトを直接塗布する方法もあるが、この方法は、構成材の形状によっては適用できない場合もあった。すなわち地下トンネルや共同構の外壁など、垂直面には適用できなかった。
【0005】
そこで、SL杭工法の適用範囲を広げるために、例えば、特開昭55−154154号公報(特許文献1)には、上記アスファルト系材料をシート状としてアスファルト層を形成し、その片面にアクリルエマルジョンやゴムアスファルトを用いた粘着層を設け、構造物或いは構成材(以下、構造物等という)の表面に貼付する手法が提案されている。また、この手法において使用される粘着層は、アスファルト層に対しても強く結合する必要があるが、そのような粘着層として、例えば、特開平1−174721号公報(特許文献2)や特開2004−74753号公報(特許文献3)に開示されている、ストレートアスファルトにSBSの合成ゴムを添加したゴムアスファルトコンパウンドで形成したものが知られている。なお、アスファルト系材料をシート状とし、そこに粘着層を設けたものはスリップレイヤーシートと称されている。
【0006】
アスファルト系材料をシート状にする技術については、上記粘着層の他、アスファルト層を改善する技術も提案されている。例えば、平2−48937号公報(特許文献4)には、コンクリートとコンクリート又はコンクリートと鋼板等の二重壁構造の界面に生ずる、位置がずれることによる摩擦を低減するための技術として、アスファルトコンパウンドとゴムアスファルトコンパウンドの層からなるシートが開示されている。このシートによれば、載荷時間(応力の作用する時間)の長短によってスチフネス係数の異なるアスファルトコンパウンドとゴムアスファルトコンパウンドを積層させることで、(載荷時間が長い)地盤沈下や(載荷時間が短い)地震動によって生じる、コンクリートとコンクリート又はコンクリートと鋼板等の間で生じる位置ずれによる摩擦を低減することができる。
なおスチフネス係数とは、測定するコンパウンドの一方の面を鉛直方向に固定し、他方の面全体に一定荷重を鉛直方向に一定時間加え、その際の変位で荷重を除した値として算出される計測値である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭55−154154号公報
【特許文献2】特開平1−174721号公報
【特許文献3】特開2004−74753号公報
【特許文献4】特開平2−48937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
すべり層に求められる性状として、施工時におけるずれのないことが求められる。施工時においてずれるものであれば、例えば、基礎杭の外周面に設けられた場合、基礎杭の打ち込み作業中に変形してしまい、基礎杭の施工完了後の供用時にNFを低減させるために変形すべき部分が残らず、その本来の機能を発揮し得ないからである。なお、この要求性状を得るためには、一般に、スチフネス係数の大きいことが必要とされている。その一方で、施工時における割れにくさも求められる。施工時にすべり層が損傷すれば、当然、供用時にはその機能を果たさないからである。なお、この要求性状を得るためには、10−2秒におけるスチフネス係数を1×10Pa以下にする必要があるとされている。すなわち、施工時におけるずれにくさと割れにくさには、相反する面があるといえる。
【0009】
そして、このように複雑な関係を有する必要性状を考慮して形成された従来のすべり層では、構造物等への粘着層となるべきゴムアスファルトコンパウンドが上手く粘着材として機能せず、特に気温10℃程度での施工時において、粘着層が地中構造物に付着せず、粘着層をバーナーで加熱し溶着させる必要がある等の問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、すべり層全体に必要となる特性を満たすすべり層において、気温10℃程度の温度領域で構造物等に対する十分な粘着力を備える粘着構造及びその粘着構造を備えたスリップレイヤシートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る粘着構造は、土壌に面するアスファルト層と、地中構造物に対する粘着層を備え、前記粘着層は、10℃における載荷時間1秒(周波数1Hz)での、貯蔵弾性率が1×10Pa以下であり、かつ損失正接tanδが1以上である。
【0012】
また、本発明に係るスリップレイヤシートは、アスファルト層と粘着層が積層され、前記粘着層は、10℃における載荷時間1秒(周波数1Hz)での、貯蔵弾性率が1×10Pa以下であり、かつ損失正接tanδが1以上である。粘着層の表面には、施工時まで、粘着層の表面状態を正常に保つための保護層を積層してもよい。保護層としてはポリエステル、レーヨン、ホリプロピレン、ナイロン等から製造される不織布を使用しても良い。
【0013】
本発明における貯蔵弾性率は、動的粘弾性試験機により測定することができる。具体的には、バインダーを2枚の平行円盤の間に挟み、一方の円盤に所定の周波数の正弦波歪みγを加え、バインダーを介して他方の円盤に伝わる正弦的応力σ、および正弦波歪みと正弦波応力との位相差δを測定する。そして、測定結果に基づき、次の式(1)から求めることができる。
【数1】

また、本発明における損失正接tanδは、上記試験法により得た、正弦波歪みと正弦波応力との位相差δの正接である。
【0014】
粘着層の素材は、上記性状を満たすものであれば制限は無いが、例えば、アスファルト材とブチルゴムの混合物が好適である。ここでブチルゴムに混合するアスファルト材は、原油を減圧蒸留した残油として得られるストレートアスファルト、原油の減圧蒸留残油をプロパン等により脱れきして得られたプロパン脱れきアスファルト、或いは原油の減圧蒸留残油をプロパン等の溶剤により脱れきして得られた溶剤脱れき油を溶剤抽出して得られたエキストラクト等のアスファルト原料で構成できる。このエキストラクトの代わりに、アロマ系オイルで構成するようにしてもよい。このアロマ系オイルは、JISK6200に規定されているものであり、芳香族炭化水素を、少なくとも35質量%含む炭化水素系プロセスオイルである。
また粘着剤にはブチルゴムとアスファルト材の混合性を向上させるために、無機充填材として炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化カルシウム、マイカ、タルク、ケイ酸、酸化チタン、カーボンブラックなどの顔料類などを添加してもよい。
さらに粘着剤には、樹脂類として、ロジン樹脂、テルペン系樹脂、クマロンインデン樹脂、脂肪族系石油樹脂、及び芳香族系石油樹脂などを添加してもよい。
【0015】
アスファルト層は、すべり層の主要な機能、すなわち、構造物に発生するNFを低減する機能を十分に担うものであれば特に制限は無く、公知のアスファルトコンパウンドで形成することができる。アスファルトコンパウンドを構成するアスファルト原料は、上述した減圧蒸留法、ブローイング(空気吹き込み法)、調合法(ブレンド法)の何れかの方法により製造される。すなわち、アスファルトコンパウンドは、プロパン脱れきアスファルト、ストレートアスファルト、エキストラクトのアスファルト原料うち何れか1種以上が含まれるものである。
【0016】
上記プロパン脱れきアスファルトは、減圧蒸留残油に対して、プロパン、又はプロパンとブタンの混合物を溶剤として使用し、脱れき処理して得られた、いわゆる溶剤脱れきアスファルトである。本発明に好適なプロパン脱れきアスファルトとして、例えばJISK2207の下で25℃における針入度が8(1/10mm)、軟化点が66.5℃、15℃における密度が1.028g/cmであるのものを使用するようにしてもよい。このプロパン脱れきアスファルト以外には、例えばストレートアスファルトや、ブローンアスファルト等のいかなるアスファルトを使用するようにしてもよい。
【0017】
また、ストレートアスファルトとしては、例えば、25℃における針入度が65(1/10mm)、軟化点が48.5℃、15℃における密度が1.034g/cmであるのものを使用するようにしてもよい。ブローンアスファルトとしては、例えば、25℃における針入度が32(1/10mm)、軟化点が102.0℃、15℃における密度が1.032g/cmであるのものを使用するようにしてもよい。
【0018】
エキストラクトは、原油の減圧蒸留残油をプロパン等により脱れきして得られた溶剤脱れき油を更に極性溶剤を用いて溶剤抽出することにより、重質潤滑油を精製油として得る際の抽出油である。エキストラクトは、例えば、100℃における動粘度が119.2mm/s、40℃における動粘度が3970mm/s、15℃における密度が0.9764g/cmであるのものを使用するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係るすべり層の粘着構造及びスリップレイヤシートは、10℃程度の温度領域において、構造物等に対する十分な粘着力を備えたものとなる。また、構成されるすべり層は、高温時に変形を起こすことなく、また、土壌に打ち込まれる作業においても変形せずにその形状を保つことができ、その結果として構造物に発生するNFを低減する機能を備えたものとなる。
【0020】
ここで、すべり層が形成された構造物等に働くNFの大きさは、地盤沈下量に比例し、すべり層の厚さに反比例する。またすべり層が塑性変形しやすいほど構造物等に働くNFは低減できる。従来は、すべり層の塑性変形のしやすさを、スチフネス係数を用いて表すこととしていた。スチフネス係数は、すべり層の一方の面を鉛直方向に固定し、他方の面全体に一定荷重を鉛直方向に一定時間加え、その際の変位で荷重を除した値として得ていた。なお荷重を加えた時間のことを載荷時間と呼ぶ。
ところが、このスチフネス係数は、測定装置の構造のため、100秒程度以上の載荷時間の場合であれば比較的精度良く計測できるが、10秒以下の載荷時間の場合は計測誤差が大きく、またすべり層を構成するアスファルト系材料の物性値であるポワソン比をみなし値とするなど、実際のすべり層の性状を正確に表したものではなかった。
そこで、本発明者は、すべり層の性状をより正確に把握するための手法についての研究を行ったところ、レオロジーの理論における貯蔵弾性率、損失弾性率、及び損失正接(tanδ)を適用することで、すべり層の粘着性能を従来のスチフネス係数よりも正確に表せることを見出した。本発明は、この新たな知見によるものである。
【0021】
本発明は、特に粘着層の最適な物性を提案するものである。すなわち、実際の施工現場で構造物等に粘着層を粘着させようとした際の載荷時間(1から10秒程度)における、粘着層の物性を詳細に明らかにする必要があったところ、従来用いられてきたスチフネス係数に基づく材料設計ではなく、貯蔵弾性率と損失正接tanδを用いた粘着層の最適化を行ったものである。
具体的には粘着層の物性として、載荷速度1秒(周波数1Hz)において、貯蔵弾性率(すなわち粘着層の弾性率について、加えた変位を取り除けば元の形に戻る弾性体として測定した弾性率)の上限を設け、被着体表面の微細な凹凸によくなじませ(よく入り込ませ)、さらに損失正接tanδの下限値を設け、すなわち塑性変形しやすくして、被着体表面の微細な凹凸になじんだ(入り込んだ)ままの形状を維持させるようにし、粘着層の機能向上をはかったものである。
また、本発明における粘着層はすべり層と併用されるので、すべり層と共に構造物等に貼り付けられた後、すなわち載荷時間が100秒以上の場合では、必要以上に粘着層が塑性変形しすべり層の機能を低下させることを防ぐために、損失正接tanδの上限値を設け、すなわち塑性変形しににくくしている。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る粘着構造における粘着材の実施例の載荷時間に対する損失正接の変化を示すグラフである。
【図2】従来の粘着材(ゴムアスファルトコンパウンド)の載荷時間に対する損失正接の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る粘着構造の実施例を説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0024】
スリップレイヤーシートの粘着材として、ブチルゴム、アスファルト材、樹脂類および無機充填材の混合物を調製した。また、比較例として従来の粘着材である、SBSとアスファルト材のゴムアスファルトコンパウンドを調製した。
【0025】
なお、粘着材及びゴムアスファルトコンパウンドに混合するアスファルト材として、ストレートアスファルト、プロパン脱れきアスファルト、及びエキストラクトの混合物を採用した。
実施例の粘着剤は、ブチルゴム15重量%、樹脂類を15重量%、無機充填剤を50重量%、アスファルト材20重量%を、バンバリータイプミキサー等を用いて、分散混練して調製した。
また、比較例のゴムアスファルトコンパウンドは、ストレートアスファルト10重量%、ブローンアスファルト23重量%、プロパン脱れきアスファルト25重量%、及びエキストラクト30重量%の混合物からなるアスファルト材を、195℃程度の温度で維持した状態で、SBSを12重量%添加し、ホモミキサーにより、混合並びに攪拌し調製した。調製した粘着材及びゴムアスファルトコンパウンドの性状を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】
なお、表1に示す針入度は、JIS K 2207に示される方法で得たものである。また貯蔵弾性率、損失正接は、以下の方法で得たものである。
まず、厚さが2mmのバインダーを、直径が8mmの平行円盤2枚の間に挟み、動的粘弾性試験機を用いて、一方の円盤に10%の正弦波歪みを加え、バインダーを介して他方の円盤に伝わる正弦的応力σ、および正弦波歪みと正弦波応力との位相差δを測定した。そして、測定結果に基づき、既述の式(1)から貯蔵弾性率G’を求めた。また、損失正接tanδは、正弦波歪みと正弦波応力との位相差δに基づいて算出した。
【0028】
上記実施例及び比較例について、試験シートを作製し、90°ピール剥離強度試験を行った。試験結果を表2に示す。なお、試験シートの作製の手順、及び90°ピール剥離強度試験の手順は以下に示す通りである。
<試験シートの作製>
実施例の粘着材および比較例のゴムアスファルトコンパウンドを、160℃に保持し、シリコーンを用いた離型紙とプレス機を用いて1.5mm厚のシートを作製し、常温まで放冷した。次に、それらシートの上部の離型紙を剥がし、80℃に保持したSL層用のアスファルトコンパウンドをのせ、プレス機を用いて全面にわたって4mm厚のSL層を形成した。その後、直ちにSL層用の上部にポリエステル製の不織布をのせ軽くプレスし、試験用のシートした。そして、この試験用のシートを25mm×150mmに切断し、試験シートとした。なお、SL層用のアスファルトコンパウンドは、従来のアスファルトコンパウンドである昭和シェル石油(株)製SLコンパウンドBグレード(針入度43)を採用した。
<90°ピール剥離強度試験(単位N/25mm)>
実施例および比較例の試験シート及び試験鋼板(冷間圧延鋼板)を試験温度に保持した空気オーブン内に1時間放置し、その後試験シートの25×50mm部分の離型紙を剥がし、35mm×150mm(厚み0.8mm)の試験鋼板に貼り付けた。貼り付けた部分の上部を重さ1kgのローラーを3往復させ圧着し、供試体とした。
圧着後、引張り試験機において、引張速度200mm/minで90°剥離方向に剥離し、最大剥離荷重(N)を求めた。剥離荷重はN/25mmとして計測した。なお試験は5℃、25℃、50℃で行った。
【0029】
【表2】

【0030】
また、実施例及び比較例の粘着材について、載荷時間を変えた場合の損失正接を求めた。図1及び図2は、載荷時間に対する損失正接の変化を示す。なお、レオロジー理論においては、高い温度環境下における、ある載荷時間での損失正接は、低い温度環境下におきかえた場合にはより長い載荷時間での損失正接に相当すること、すなわち温度と載荷時間の変換が行えることが証明されている(例えば、岡 小天編、レオロジー入門、pp.164、株式会社工業調査会 (1970))。ここでWilliams−Landel−Ferryらによって提唱されたWLF式によって導かれるシフトファクターを用いて、長い載荷時間での性状を、測定温度を上昇させることで測定することとした。
【0031】
具体的には、載荷時間の長い場合の損失正接は、10℃よりも高い環境下で、具体的には20℃及び30℃の環境下で測定した。図1及び図2において菱形印は10℃における測定点を、四角印は20℃における測定点を、三角印は30℃における測定点を意味するものである。
【0032】
表2によれば、実施例は比較例に比べ、いずれの試験温度においても剥離強度が大きく、被着体に良く粘着していることが確認できた。また実施例の剥離形態は、いずれの試験温度においても凝集破壊であり、貯蔵弾性率を小さくしかつtanδを大きくしたために、被着体表面によくなじんだことが確認できた。一方、比較例は、いずれの試験温度においても、その剥離形態は界面剥離であり、貯蔵弾性率が大きくtanδも小さいために、被着体表面によくなじまず、結果として剥離強度が小さいことが確認できた。すなわち、貯蔵弾性率が1×10Pa以下であり、損失正接tanδが1以上である実施例は、貯蔵弾性率が1×10Pa以上、損失正接tanδが1以下である比較例よりも粘着力において優れていることが確認された。なお、レオロジーの理論によると、貯蔵弾性率G’が1×10Pa以上の場合、粘着体は被粘着体の表面に存在する微小な凹凸に適合する変形ができず、また、損失正接tanδが小さいほど変形状態が維持されにくく、被粘着体に対する粘着力が小さくなるとされているが、実施例及び比較例によれば、すべり層の粘着層についても、この理論の当てはまることが確認された。 そして、表1より、従来から性状評価に使用されていた針入度では、貯蔵弾性率や、特に載荷時間による損失正接の変化を捉える事が不可能な事がわかる。
なお、この物性値を満足する範囲で、さらに粘着力を向上させるためには、極性基を有する分子を添加することが有効である。例えば、カルボン酸を有するロジン、マレイン化樹脂、テルペン樹脂等を使用することも有効である。
【0033】
更に、図1によれば、実施例の粘着層は、載荷時間が長くなるに従って損失正接tanδが小さくなり(すなわち弾性体としての振る舞いが大きくなり、塑性変形しにくくなっている)、従来の粘着層と同様、粘着層を保管する際に(1ヶ月程度で、載荷時間2×10秒程度に相当する)塑性変形しにくくなっていることが確認された。なお、アスファルト層には従来のアスファルトコンパウンドを採用しているため、すべり層全体に必要となる特性を満たすものと、すなわち、構造物に発生するNFを低減する機能を備えたものと期待できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
土壌に面するアスファルト層と、地中構造物に対する粘着層を備え、前記粘着層は、10℃における載荷時間1秒(周波数1Hz)での、貯蔵弾性率が1×10Pa以下であり、かつ損失正接tanδが1以上であることを特徴とする粘着構造。
【請求項2】
10℃における載荷時間100秒での損失正接tanδが1以下である請求項1に記載の粘着構造。
【請求項3】
アスファルト層と粘着層が積層され、前記粘着層の、10℃における載荷時間1秒(周波数1Hz)での、貯蔵弾性率が1×10Pa以下であり、かつ損失正接tanδが1以上であることを特徴とするスリップレイヤシート。
【請求項4】
前記粘着層の、10℃における載荷時間100秒での損失正接tanδが1以下である請求項3に記載のスリップレイヤシート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−132667(P2011−132667A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290016(P2009−290016)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(000186913)昭和シェル石油株式会社 (322)
【Fターム(参考)】