説明

粘稠液生体試料の処理と分析

本発明は、痰などの高粘稠液生体試料の液化に適したカオトロピック剤及び還元剤を含む溶解バッファー、高粘稠液生体試料の処理のための当該溶解バッファーの使用、高粘稠液生体試料の処理と又は分析方法、高粘稠液生体試料内の病原体の検知方法を提供する。さらに、本発明は、高粘稠液生体試料及び本発明の溶解バッファーを含む溶解物、本発明の溶解バッファーを含むready−to−use反応チューブ及びキットに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば痰を含む生体試料などの高粘稠液生体試料の処理と分析に関する。
【背景技術】
【0002】
診断の手順において、しばしば体液などの生体試料の分析が必要となる。特に、核酸をベースとした診断手法がますます重要になっている。しかしながら、このような方法は時間がかかり、困難で、そしてコンタミ(汚染物)のリスクが伴う生体試料の初期処理が一般に必要になる。例えば、結核の診断においては、痰、膿汁、胸膜液、胃吸引物、気管内吸引物、経気管吸引物、気管支肺胞洗浄物、喉頭部スワブ及び鼻咽頭スワブなどの高粘稠液生体試料の分析を行うが、当該試料は、通常、異なる化学的特性及び物理的特性を有する多く異なる組成の不均一な混合物である。
【0003】
痰は、様々な量の糖タンパク(ムチン)、唾液、免疫細胞、宿主組織粒子、遊離したDNA、脂質、及び溶解された宿主組織からのタンパク質から構成される。生化学分析により明らかになったのは、気道内部の細胞から分泌されたムチンMUC5AC及びMUC5Bは気道粘液の主要なゲル形成ポリマー組成であるということである。これらのムチンに存在するシステインドメインはポリマー形成に寄与し、そしてジスルフィド結合により隣接するムチン鎖と相互作用することができる。痰の中には、コンタミとして一定量の血液や残留食料粒子を含むことがある。この結果、一面では均一なものから多面相のものまで痰の組成のサンプル−サンプル間のばらつきが大きくなり、そして他方液体が高粘稠となる。個々の患者の病態によっては、痰はさらに炎症性病原体を含むことがあり、また、いくつかのサンプルの組成物においては非常に多くなる、例えば、肺の炎症による血液のコンタミ、嚢胞性線維症又は気管支炎の患者における過剰なDNA放出による粘度の増加などである。
【0004】
多様なサンプルゆえに、診断用の痰からのDNA分離のような痰サンプルの不均一な処理はむしろ挑戦的である。例えば、炎症性病原体の接触性と溶解は、それらが固体及び粘度環境にトラップされた場合、十分ではない。さらに痰組成物の多様性により後に続くDNA増幅のような鋭敏な反応の阻害剤の同時精製に繋がることとなる。不溶及び不液化の痰組成物は一般に使用されている後のDNA精製技術を妨げることとなる、例えば、シリカ膜精製技術における膜の目詰まりなどである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
他方、結核が疑われる患者にとって、痰サンプルの分析は標準的な診断手順である。診断の古典的な方法においては、抗酸マイコバクテリアの顕微鏡下での痰標本の試験、及び、病原体の同定の現在のところの判断基準となる痰から分離した培養マイコバクテリアの微生物分析試験、及び、結核診断における抵抗力の試験を含む。さらに、幾つかの分子のテストが開発されている。一般的には、痰サンプル中のマイコバクテリアの検出を目的とした全てのこれらの診断方法は、プロテアーゼ、リパーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ又はグリコシダーゼなどの酵素、洗浄剤、カオトロピック剤、キレート剤、及び還元剤などを使用して汚染除去及び液化のための手間のかかるサンプル処理を必要とする。しかしながら、SDSのようにこれらの試薬のいくつかは核酸増幅及び分析方法の阻害剤となることが知られている。さらに、その高い感染リスクにより、結核が疑われる痰の幾つかの処理は、保証された層流と高価な保護手段により個人の生きているバクテリアへの暴露を除外するS3環境が必要となる。したがって、分子テストにおいて、痰を核酸診断に直接的に使用し、そして集中的な汚染除去及び液化手順処理を避けることが有利となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、溶解バッファー(lysis buffer)、その使用、及び、分子診断のために痰などの高粘稠液生体試料をワンステップ溶解させる前記緩衝溶液の適用方法を提供することにより上記課題を解決する。驚くべきことに、本発明であれば、痰などの高粘稠液生体試料の処理に必要な試薬のセットとのみで、十分な液化を行うことができ、例えば、本発明の溶解バッファーで処理された加工していない痰を直接的に核酸の分離及び/又は分子診断手順に適用することができる、ことがわかった。
【0007】
本発明は、高粘稠液生体試料を溶解させるための少なくとも一つのカオトロピック剤及び少なくとも一つの還元剤を含むバッファーを提供する。好ましくは、溶解バッファーは、プロテアーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、グリコシダーゼ、及び、リパーゼを含まない。好ましくは、溶解バッファーは、好ましくは、ガラス、セラミック、金属、又は他の固体、及び不活性物質からなるビーズをさらに含む。本発明の溶解バッファーの好ましい実施形態においては、試料と溶解バッファーを混合したときに高粘稠液生体試料の液化が達成されるような少なくとも一つのカオトロピック剤の特性と濃度及び/又は少なくとも一つの還元剤の特性と濃度とする。好ましくは、カオトロピック剤は、グアニジニウムチオシアネート、グアニジニウムイソチオシアネート、塩酸グアニジン、塩化グアニジン、アルカリチオシアネート、アルカリイソチオシアネート、ヨウ化アルカリ、及び過塩素酸アルカリから成る群から選択される。好ましくは、還元剤は、ジチオスレイトール(DTT)、N−アセチル−システイン(NALC)、β−メルカプトエタノール、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)及びチオレドキシンから成る群から選択される。
【0008】
さらに、本発明は、高粘稠液生体試料の処理のための本発明の溶解バッファーの使用を提供する。好ましくは、処理には高粘稠液生体試料の液化が含まれる。
【0009】
別の形態においては、本発明は、(a)試料を本発明の溶解バッファーに混合する、(b)場合によっては混合物を加熱する、そして(c)場合によっては混合物をビーズミルする、ステップを含む高粘稠液生体試料を処理するための方法を提供する。
【0010】
さらに、本発明は、(a)試料を本発明の溶解バッファーに混合する、(b)場合によっては混合物を加熱する、(c)場合によっては混合物をビーズミルする、(d)混合物を核酸増幅/分析方法に適用する、ステップを含む高粘稠液生体試料を分析するための方法を提供する。
【0011】
さらに、本発明は高粘稠液生体試料中の病原体の存在を検知するための方法であって、(a)試料を本発明の溶解バッファーに混合する、(b)場合によっては混合物を加熱する、(c)場合によっては混合物をビーズミルする、(d)混合物を前記病原体を検知するのに適した核酸増幅/分析方法に適用する、ステップを含む前記方法に関する。
【0012】
本発明の方法の好ましい実施形態においては、ステップ(a)における試料の溶解バッファーへの混合の前に、試料を処理しない(例えば、粘度を減少させるためにsputolysinのような還元剤を混合しない)。好ましくは、本発明の方法は、ステップ(c)の混合物から核酸を分離するステップをさらに含む。前記分離は、有機溶媒による抽出や沈殿などの更なる処理を行う必要がなく行われることが好ましい。
【0013】
別の形態においては、本発明は、高粘稠液生体試料及び本発明の溶解バッファーを含む高粘稠液生体試料の溶解物に関する。
【0014】
さらに本発明は、本発明の溶解バッファーを含有するすぐに使用できる(ready−to−use)反応チューブを提供する。
【0015】
さらに、本発明は、本発明の溶解バッファー、及び、高粘稠液生体試料の液化のための溶解バッファーの使用の説明を含んだ取り扱い説明書を含んだキットに関する。
【0016】
本発明の溶解バッファー、使用、方法、溶解物、及び、キットの特に好ましい実施形態においては、高粘稠液生体試料が痰、膿汁、胸膜液、胃吸引物、気管内吸引物、経気管吸引物、気管支肺胞洗浄物、喉頭部スワブ及び鼻咽頭スワブを含む生体試料からなる群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】:図1は、カオトロピック塩と還元剤の組合せによる痰の液化を示す。未処理の痰を異なるカオトロピック剤と還元剤を含む様々な溶解バッファーを使用してガラスビーズなしで液化した。試料を96℃で15分加熱し、粘度は処理前後で点数付けした。
【図2】:図2は、保存、ビーズミル、及び試料分注量の変化の効果。未処理の痰を溶解バッファー1を使用して、DTT又はNALC、ビーズと共に液化した。試料は96℃で15分加熱した。ミルのカラム中「X」で示した幾つかの試料は5分間ビーズミルした。バッファーを実験前に15℃〜25℃で、0、2、7、21、28、56、70、又は100日保存した。粘度は処理前後で図1の点数表で測定した。
【図3】:図3は、事前処理された痰プールの性能及び感度試験である。スプトリシン事前処理痰プール(各プールに異なる患者からの5つの試料)を、M. smegmatis(50000病原体/ml又は10000病原体/ml)と共に添加し、DTT及びガラスビーズと共に溶解バッファー1を使用して液化し、その後、例1及び4に示されるようにDNA分離をした。単離したDNAにはM. smegmatisに特異的なプライマーを使用したPCR反応を行った。図は、50000病原体/ml又は10000病原体/ml共に添加された痰試料のからの増幅されたM. smegmatisDNAのモル濃度と、各調合の相対収率を示す。異なるDNA分離手順、すなわち、シリカ膜ベース(QIAamp)と電磁ビーズ(EZ−1)が比較される。
【図4】:図4は、事前処理された痰プールから単離されたDNAの分光高度分析を示す。液体痰プールから単離されたDNAのスペクトルと粘性のある痰プールから単離されたDNAのスペクトルが比較されている。
【図5】:図5は、未処理の個々の痰試料の性能及び感度試験を示す。個々の未処理の生の痰試料をM. smegmatis(25000/ml)と共に添加し、実施例1及び4に示されるようにDTT及びガラスビーズと共に溶解バッファー1を使用して液化した。単離したDNAにはPCR反応を行った。図は、25000病原体/ml共に添加された痰試料のからの増幅されたM. smegmatisDNAのモル濃度を示す。異なるDNA分離手順、すなわち、シリカ膜ベース(QIAamp)と電磁ビーズベース(EZ−1)が比較される。未処理の生の痰試料1〜4が事前処理された液体痰プールと比較される。
【図6】:図6は、本発明の「ワンチューブ」溶解法を古典的な結核診断法(浄化の後の濃縮病原体フラクションからのスメア顕微鏡及びPCR)の性能比較を示す。4つの異なるカテゴリーの試料が試験された:0:PCRのみで陽性が検出された(スメア顕微鏡では検出されなかった);1+:少ない病原体量(スメア顕微鏡で検出);2+:中間の病原体量(スメア顕微鏡で検出);3+:高い病原体量(スメア顕微鏡で検出)。この実験において、Mycobacterium tuberculosi複合体(MTBC)特異的なプライマーを使用した。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を以下に詳細に記載するが、明細書中に記載された特定の方法、プロトコール、及び、試薬に限定されず、改変できるものと理解される。また、明細書中に使用される専門用語は特定の実施形態を記載するためにのみ使用されるものであり、添付された特許請求の範囲にのみ限定される本願発明の範囲の限定を意図するものではない。定義されていない場合、明細書中に使用される全ての技術的用語及び科学的用語は、当該技術分野の通常の技術を有するものが一般に理解する意味と同じで意味を持つ。
【0019】
以下に、本発明の要素を説明する。これらの要素は特定の実施形態と共に列挙されるが、しかしながら、これらは如何なる形態及び如何なる順序で組み合わせて他の実施形態を創造することができると理解される。記載された種々の実施例及び好ましい実施形態により、本発明を明確に記載された実施形態にのみ制限するものではない。この記載は、開示された要素及び/又は好ましい要素の多くを明確に記載された実施形態例と組み合わせた実施形態をサポートし拡張するものだと理解される。さらに、明細書中に記載がない限りは、本願中に記載のすべての要素の如何なる置き換えも如何なる組合せも考慮できる。例えば、好ましい実施形態において本発明の溶解バッファーのカオトロピック剤が塩酸グアニジンであり他の好ましい実施形態において還元剤がジチオスレイトールである場合、本発明の好ましい実施形態としては、本発明の溶解バッファー中に塩酸グアニジンとジチオスレイトールが存在するということである。
【0020】
好ましくは"A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)", H.G.W. Leuenberger, B. Nagel, and H. Kolbl, Eds., Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel, Switzerland, (1995).明細書中に使用される用語は、に定義される。
【0021】
特に記載がない限り、本発明の手法は本分野の文献(例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Edition, J. Sambrook et al. eds., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor 1989)で説明される化学的技術、生化学的技術及び組み替えDNA技術の一般的な方法が使用される。
【0022】
特に記載がない限り、明細書及び特許請求の範囲に記載のある「含む」は「含有する」、「具備する」等の変形があるが、これは、示されている構成、整数若しくはステップ、又は構成、整数若しくはステップの群を含むことを意図するが、他の構成、整数若しくはステップ、又は他の構成、整数若しくはステップの群を除外することを意図しないことが理解される。明細書中及び添付の特許請求の範囲中に使用される単数形の表記は、特に記載がない限り、複数形の対象も含むものとする。
【0023】
複数の文献がこの明細書のテキスト中で引用される。明細書中で引用される文献の各々は(全ての特許、特許出願、科学的文献、製造者の仕様書、取扱説明書等を含む)、前記及び上記で引用されたものの何れも、完全に引例として明細書中に組み込まれる。本発明は先行発明を理由として前記開示に先行する資格がないと認めると解釈されることはない。
【0024】
本発明の範囲において「溶解バッファー」は、細胞の内容物を分析するために細胞の溶解に適するものをいう。好ましくは、本発明の溶解バッファーは、細菌性細胞の溶解、より好ましくはマイコバクテリアの溶解に適している。本発明の溶解バッファーの溶解特性は溶解する細胞のタイプによっては、溶解バッファーに溶かす試料の加熱が必要となることがある。
【0025】
用語「カオトロピック剤」は、タンパク質、DNA、又はRNAなどの高分子の三次元構造を破壊し、変性させる試薬を示す。カオトロピック剤は、水素結合、ファン・デル・ワールス力、及び疎水性効果などの非共有結合力による分子間相互作用の安定化を阻害する。カオトロピックイオンとしては、例えば、グアニジニウム、バリウム、チオシアネート、ヨーダイド(iodide)、及びパークロレートであり、いわゆるHofmeisterシリーズによる(カチオン:NH>Rb>K>Na>Cs>Li>Mg2+>Ca2+>Ba2+>グアニジニウム;アニオン:PO3−>SO2−>HPO2−>アセテート>シトレート>タートレート>Cl>Br>NO>ClO>ClO>I>SCN)。このHofmeisterシリーズにおいて左側のカチオンとアニオンは「コスモトロピック(kosmotropic)」(若しくはアンチカオトロピック)といわれ、疎水性相互作用の強度を増加させる。右側のイオンは「カオトロピック」である、疎水性相互作用を弱くする傾向がある。本発明の全ての形態において、カオトロピック剤、カルシウムよりもさらに右側にあるHofmeisterシリーズの少なくとも一つのカチオン、又は、クロレート(ClO)アニオンよりさらに右側にあるHofmeisterシリーズの少なくとも一つのアニオンを含む。例えば、本発明の範囲において、カオトロピック剤は、以下のものを少なくとも一つ含む:バリウム、グアニジニウム、パークロレート、ヨーダイド、チオシアネート、又はイソチオシアネート。例えば、本発明の全ての形態の範囲において、カオトロピック剤は、グアニジニウムチオシアネート、グアニジニウムイソチオシアネート、塩酸グアニジン、塩化グアニジン、アルカリチオシアネート、アルカリイソチオシアネート、ヨウ化アルカリ、又は過塩素酸アルカリとすることができる。この範囲においては、アルカリイオンは、カリウム又はナトリウムが好ましい。
【0026】
本発明の範囲において「還元剤」は、タンパク質などの高分子中又は高分子内のジスルフィド結合を切断できる任意の試薬である。本発明の全て形態において、還元剤は、ジチオスレイトール(DTT)、N−アセチル−システイン(NALC)、β−メルカプトエタノールmトリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)、又はチオレドキシンである。好ましくは、還元剤はDTTである。
【0027】
「試料と溶解バッファーを混合したときに高粘稠液生体試料の液化が達成されるような少なくとも一つのカオトロピック剤の特性と濃度」及び「試料と溶解バッファーを混合したときに高粘稠液生体試料の液化が達成されるような少なくとも一つの還元剤の特性と濃度」が意味するところは、カオトロピック剤及び/又は還元剤及びそれらの濃度が、それらの高粘稠液生体試料の液化の能力に応じて選択されるということである。特に、高粘稠液生体試料は、カオトロピック剤及び/又は還元剤により処理する前はその処理後の粘度に比べて高い粘度を示すということを意味する。処理前の粘度は処理後の粘度よりも少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、又は10倍高いことが好ましく、処理前の年度は、処理後の粘度より10倍高いことが最も好ましい。したがって、カオトロピック剤及び/又は還元剤及びそれらの濃度を決定するためには、当業者であれば、例えば、1M、2M、3M、4M、5M、及び6Mのカオトロピック剤、及び/又は、1mM、5mM、10mM、25mM、50mM、及び100mMの還元剤のように様々な濃度のカオトロピック剤及び/又は還元剤と、痰などの高粘稠液生体試料を、例えば、10分間、20分間、又は30分間一定の時間、インキュベートすることができ、そして、処理前後の試料の粘度を測定することができる。そのように、上記のように高粘稠液生体試料を液化するのに適した濃度でカオトロピック剤及び/又は還元剤を選択する。例えば、濃度2M〜6Mの塩酸グアニジン及びグアニジニウムチオシアネートにより、痰などの高粘稠液生体試料を液化することができる。
【0028】
本発明の範囲において、用語「処理」とは、一般に処理の前後でその物理的特性を測定した場合、その試料の一つ以上の物理的特性の変化が含まれるような全ての処理を示す。本発明の範囲において、用語「処理」とは、処理手順によって試料の粘度が減少するような試料の液化を含む。特に好ましくは、「処理」は試料の溶解を含み、それは試料中に存在する細胞の分解を意味する。そのような細胞としては、原核細胞でも真核細胞でもよく、例えば、細菌性細胞、酵母細胞、真菌性細胞、動物細胞、哺乳類細胞などでよく、ここで処理は、試料中の全ての細胞、細胞の中で特定の種類のみ、又は細菌の小集団の溶解を導くことができる。本発明の範囲においては。処理にはマイコバクテリアの溶解が含むことが最も好ましい。
【0029】
本発明の範囲において、用語「液化」とは、液化前の高粘稠液生体試料の粘度を好ましくは液化後の粘度と比較して高くすること、好ましくは液化後の粘度と比較して少なくとも2倍高くすることを意味する。液化前の試料の粘度を、液化後の粘度と比較して少なくとも3倍高くすることが好ましい。液化前の試料の粘度を、液化後の粘度と比較して少なくとも5倍高くすることがより好ましく、より好ましくは10倍高くする。
【0030】
本発明の範囲において、「粘度」とは動的粘度、すなわちη、であり、kg・m-1・s-1= Pa・sで測定される。他の動的粘度の共通単位は、センチポイズ(cP)であり、1cpは1mPa・sに等しい。水は20℃で粘度1.0020cPである。高い粘度を持つ物質の例としては、血液(37℃)=4−25mPa・s、オリーブ油=〜100mPa・s、蜂蜜=2000−10000mPa・s、チョコレートシロップ=10000−25000mPa・s、溶けたチョコレート=45000−130000mPa・s及び、ビーナッツバター=〜250000mPa・sである。当業者であれば、試料の粘度の測定方法は周知である。例えば、粘度測定のための装置、すなわち粘度計は商業的に利用可能である。
【0031】
本発明の範囲において、「高粘稠液生体試料」は高い粘度、好ましくは少なくとも1x10mPa・sの粘度を有する物質を意味し、ここで物質の一部、好ましくは物質の50%超の部分が液体であれば、試料は「液」であると考えられる。試料物質の一部分、好ましくは50%未満、好ましくは40%未満、より好ましくは30%未満、最も好ましくは20%未満が、例えば組織的な塊として固体物質であってもよい。したがって、本発明の範囲において、半固体の物質、例えば、ビーナッツバターなどもまた液体と認識する。本発明の範囲において、高粘稠液生体試料は、動物由来のものが好ましく、ヒト由来のものが好ましく、また試料は疾病診断、例えば病原体の存在の検知のための試料が好ましい。最も好ましくは、本発明の範囲における「高粘稠液生体試料」は痰試料である。
【0032】
本発明の範囲において、用語「未処理」とは、高粘稠液生体試料が一つ又は二つ以上の化学的試薬又は、温度若しくはせん断力などの物理的な力、又は、遠心分離、濾過、若しくは篩いなどの他の手段の適用によって処理されていないことを意味する。本発明の全ての形態において、本発明の溶解バッファーと混合する前まで、高粘稠液生体試料は未処理であることが好ましい。しかしながら、結果的には、本発明の溶解バッファーと混合する前まで、例えば、8時間、一定期間、高粘稠液生体試料を保存することになり、高粘稠液生体試料は0℃未満の温度で、好ましくは−5℃未満、より好ましくは−10℃未満、最も好ましくは−20℃未満で保存することが好ましい。したがって、本発明の範囲における高粘稠液生体試料の唯一つの処理は試料の凍結であることが好ましい。
【0033】
本発明の範囲において、用語「核酸の分離手順」とは、細胞溶解物などの物質及び/又は分子の複合混合物から拡散を分離できる方法をいう。好ましくは、本発明の範囲における「核酸の分離手順」はシリカ膜又は電磁ビーズ技術をベースとするものである。核酸分離キットは商業的に利用可能であり、例えば、Qiagen製のEZ−1 DNA Tissue Kit(オーダーナンバー953034)又はQIAamp DNA Blood Kit(オーダーナンバー51104)である。核酸の分離手順及び使用するキットによっては、核酸の分離手順を行う前にさらなる試薬によって処理された高粘稠液生体試料を補足処理する必要があることがある。例えば、シリカ膜精製、すなわちQiagen製のQIAampスピン手順を使用した場合、エタノールとQiagen lysis buffer AL (80%/20%)の混合物を、核酸の分離手順を行う前に、試料に加える必要がある。最も好ましくは、本発明による核酸の分離手順は、フェノール及び/又はクロロホルムなどの有機溶媒による抽出、又は、エタノールやイソプロパノールなどのアルコールによる沈殿を含まない。分離した核酸は、核酸の分離手順を行った後、好ましくは90%、より好ましくは95%、最も好ましくは99%、タンパク質などの他の高分子構造からフリーである。
【0034】
本発明の範囲において、「核酸の増幅方法」とは、核酸増幅、すなわち核酸を増やすのに適したあらゆる分子生物学的技術であり、増幅は線形的又は指数関数的でよい。核酸の増幅方法の例としては、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、核酸配列ベース増幅(NASBA)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、鎖置換合成(SDA)、多置換増幅(MDA)、Q−βレプリカーゼ増幅、及びLAMP法(loop−mediated isothermal amplification)が挙げられる。当該核酸の増幅方法は特定の遺伝子又はその配列などの特定の核酸に対して特異的であってもよく、また、全ての、若しくは特定のタイプの核酸、例えば、mRNAを普遍的に増幅できるように、普遍的であることもできる。例えば、当業者であれば、所望の核酸に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーを設計することができ、そして、PCR実験においてそれらプライマーを使用することができる。
【0035】
本発明の範囲において、「核酸の分析方法」とは、特定の核酸を検知及び/又は同定できるあらゆる方法をいい、ここで用語「検知」はまた核酸の定量方法もまた含む。検知及び/又は同定は、例えば、ポリメラーゼ連鎖反応において特定のDNA配列に特異的なオリゴヌクレオチドプライマーを使用した特定のDNA配列増幅など、特定の増幅をベースとしたものでよい。当業者であれば、所望の核酸に特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドプライマーを設計する方法は周知である。また、増幅なしに検知及び/又は同定を行うこともできる、例えば、分析する核酸のシークエンシング、又はマイクロアレイ実験の範囲に入る配列特異的なハイブリダイゼーションなどで行うことができる。シークエンシング技術及びマイクロアレイベースの分析はこの分野で周知の手法である。
【0036】
分離、増幅、検知及び/又は同定する核酸は、DNA、例えば、ゲノムDNA、若しくはcDNA、又はRNA、例えば、メッセンジャーRNA(mRNA)若しくはリボソーマルRNA(rRNA)であってよい。好ましくは、核酸はDNAである。当業者であれば、核酸の分離、増幅、及び分析方法は本分野の一般的知識として、また文献を考慮すると周知である。
【0037】
本発明の範囲において、用語「すぐに使用できる(ready−to−use)反応チューブ」とは、試料処理に直接使用できるプレ分割反応チューブをさす。これは、反応バッファーを各々の使用の前に準備し等分する必要がない点で利点を有する。
【0038】
ここで示される物質と処理は、高粘稠生体試料などの生体試料のワンチューブ処理に適している。
【0039】
用語「ワンチューブ処理」は、一つのチューブです全ての処理ステップを行うことであり、更なる操作ステップの必要性をなくしたものを意味する。本発明の成句「ワンチューブ」は、核酸試料などの所望の物質を含んだ処理された試料又はその一部を、処理ステップの間に、一つの容器から他の容器に移動させないことを意味する。しかしながら、本発明の用語「チューブ」の意味するところは適切なサイズと形の全ての反応容器を含む。本発明の範囲において、「ワンチューブ処理」は「ワンチューブ液化」を意味することが好ましく、より好ましくは「ワンチューブ溶解」を意味する。すなわち、液化及び/又は溶解までの全ての処理ステップの各々が一つの容器で行われる。もっとも好ましくは、それ故、処理された物質が、核酸分離、核酸増幅、核酸分析及び/又は検知の手順などの次の手順に直接的に適用できる。
【0040】
本発明の範囲において「病原体」とは、ウイルス、細菌、原虫、酵母、菌類、又は、寄生生物などの感染性の生物をいう。本発明の範囲における病原体は、細菌であることが好ましく、ヒト病原体であることがより好ましい。細菌としては、Mycobacteriaceae族、すなわち、マイコバクテリアが好ましく、最も好ましくはM. tuberculosisである。
【0041】
第一の態様において、本発明は、少なくとも一つのカオトロピック剤及び少なくとも一つの還元剤を含む溶解バッファー、好ましくは少なくとも一つのカオトロピック剤及び少なくとも一つの還元剤からなる溶解バッファーに関し、当該溶解バッファーは、プロテアーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、グリコシダーゼ、及び、リパーゼを含まない。本発明の溶解バッファーは、ビーズをさらに含むことが好ましい。ビーズは、ガラス、セラミックなどの不活性物質、又は、鋼鉄などの金属からなることが好ましく、最も好ましくはビーズはガラス製である。好ましい実施形態においては、試料と溶解バッファーを混合したときに高粘稠液生体試料の液化が達成されるようなカオトロピック剤の特性と濃度及び/又は還元剤の特性と濃度とする。その際、高粘稠液生体試料は痰、膿汁、胸膜液、胃吸引物、気管内吸引物、経気管吸引物、気管支肺胞洗浄物、喉頭部スワブ及び鼻咽頭スワブからなる群から選択されることが好ましく、最も好ましくは痰である。特に好ましい実施形態においては、高粘稠液生体試料は未処理の痰、すなわち生の痰である。
【0042】
本発明の溶解バッファーの好ましい実施形態において、カオトロピック剤は、グアニジニウムチオシアネート、グアニジニウムイソチオシアネート、塩酸グアニジン、塩化グアニジン、アルカリチオシアネート、アルカリイソチオシアネート、ヨウ化アルカリ、又は過塩素酸アルカリであり、アルカリイオンは、カリウム又はナトリウムが好ましい。より好ましい実施形態において、カオトロピック剤は、塩酸グアニジン、グアニジニウムチオシアネート、及びグアニジニウムイソチオシアネートから成る群から選択され、カオトロピック剤は、塩酸グアニジン又はグアニジニウムチオシアネートであることが最も好ましい。当業者であれば、本発明の溶解バッファーにおいて一つ以上のカオトロピック剤を組み合わせることができることを認識するであろう。例えば、塩酸グアニジン及びグアニジニウムチオシアネートを組み合わせることができる。ある実施形態においては、本発明の範囲におけるカオトロピック剤は、成分として、好ましくは主成分としてカオトロピック剤を含む商業的に利用可能な溶解バッファーである。これに関連して、「主成分」とは、水に加えて主にカオトロピック剤を含むバッファーを意味する。カオトロピック剤として認められるそのような商業的に利用可能な溶解バッファーの例としては、塩酸グアニジンを含むQiagen lysis buffer AL(Qiagenオーダーナンバー019075)である。
【0043】
好ましい実施形態において、カオトロピック剤又はカオトロピック剤のコンビネーションは、2M〜8Mの濃度で存在し、例えば、2M、2.5M、3M、3.5M、4M、4.5M、5M、5.5M、6M、6.5M、7M、7.5M、又は、8Mの濃度であり、好ましくは4Mより大きい濃度であり、より好ましくは5M〜6Mの濃度であり、最も好ましくは5.5Mの濃度である。しかしながら、当業者であれば、本発明の溶解バッファー中のカオトロピック剤の濃度が、カオトロピック剤及び処理する試料の特性によっていること、そして使用するカオトロピック剤又はカオトロピック剤のコンビネーションをベースとして調整できることを認識するであろう。もっとも好ましいカオトロピック剤は、塩酸グアニジン及びグアニジニウムチオシアネートである。
【0044】
上記のように、本発明の溶解バッファー中に含まれるカオトロピック剤は、商業的に利用可能な溶解バッファーにより提供されることができる。これに関連して、上記の商業的に利用可能な溶解バッファーは、本発明の溶解バッファー中に好ましくは少なくとも80%(v/v)、より好ましくは少なくとも85%(v/v)、さらにより好ましくは少なくとも90%(v/v)、もっとも好ましくは少なくとも95%(v/v)存在し、そして商業的に利用可能な溶解バッファーとしては、Qiagen lysis buffer ALがもっとも好ましい。
【0045】
本発明の溶解バッファーさらに好ましい実施形態において、還元剤は、ジチオスレイトール(DTT)、N−アセチル−システイン(NALC)、β−メルカプトエタノール、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)及びチオレドキシンから成る群から選択される。好ましくは、還元剤はNALC又はDTTであり、もっとも好ましくはDTTである。二つ以上の還元剤のコンビネーションもまた考慮される。還元剤又は還元剤のコンビネーション、溶解バッファー中に1mM〜100mMの濃度で、例えば、1Mm、5mM、10mM、15mM、20mM、25mM、30mM、40mM、50mM、60mM、70mM、80mM、90mM、又は100mMの濃度で、好ましくは20mMより大きい濃度で、より好ましくは約50mMで存在すればよい。しかしながら、当業者は、本発明の溶解バッファー中の還元剤の濃度が、還元剤の特性及び処理する試料の特性に左右され、そして使用する還元剤又は還元剤のコンビネーションに基づき調整すればよいことを認識するであろう。
【0046】
好ましい実施形態において、本発明の溶解バッファー中のビーズ、好ましくはガラスビーズは、約300μm〜約800μmの直径、例えば、300μm、400μm、500μm、600μm、700μm又は800μmの直径を有しており、好ましくは約600μmの直径を有している。好ましくは、ビーズは酸洗浄され未処理のビーズ上にあるであろうあらゆるコンビネーションを洗浄又は加水分解するとよい。例えば、ビーズ、好ましくはガラスビーズは2MのHNO中に少なくとも1時間浸され、そして洗浄水が少なくとも酸性を示さなくなるまで水で洗浄することで酸洗浄されればよい。もしくは、酸洗浄ガラスビーズを商業的に入手してもよい。例えば、Sigma−Aldrich社(オーダーナンバー G8772)から入手できる。好ましくは、ビーズ、好ましくはガラスビーズは、約650〜900mg/ml,の量で、例えば、650mg/m、700mg/ml、750mg/ml、800mg/ml、850mg/ml、又は900mg/mlの量で、最も好ましくは約750mg/mlの量で存在するとよい。例えば、140mgのガラスビーズを180μlの溶解バッファーに加えて、777mg/mlの量のガラスビーズを含む溶解バッファーが得られる(ガラスビーズの体積は考慮していない)。本発明の溶解バッファーの好ましい実施形態において、ビーズ、好ましくはガラスビーズはビーズミルに適している。
【0047】
特に好ましい実施形態において、溶解バッファーは、酵素不含である。別の好ましい実施形態において、溶解バッファー中のカオトロピック剤は尿素ではない。さらに、好ましい実施形態において、還元剤はβ−メルカプトエタノールではない。別の好ましい実施形態において、溶解バッファーは界面活性剤(detergent)を含まず、特に、当該実施形態において溶解バッファーは、N−ラウロイル−サルコシン、Tween 20、Tween 80、及びTriton−X−100を含まない。さらに、別の好ましい実施形態において、本発明の溶解バッファーはキレート剤を含まない、特に、EDTAを含まない。特に好ましい実施形態において、溶解バッファーは酵素を含まず、そして、溶解バッファーは界面活性剤を含まない。別の特に好ましい実施形態において、溶解バッファーは酵素を含まず、そして、溶解バッファーはキレート剤を含まない。最も好ましい実施形態において、溶解バッファーは酵素、界面活性剤、及びキレート剤を含まない。
【0048】
好ましい実施形態においては、溶解バッファーは、おおよそ中性のpHを有している。好ましい実施形態においては、溶解バッファーは、5.5〜8の範囲のpH、例えば、5.5、6、6.5、7、7.5、又は8のpH、好ましくは約7のpHを有している。
【0049】
好ましい実施形態においては、本発明の溶解バッファーは、キレート剤を4〜6Mの範囲の濃度、好ましくは約5.5Mの濃度で、還元剤を25〜75mMの範囲の濃度、好ましくは約50mMの濃度で、そして、任意で、500〜700μM、好ましくは約600μMの直径のビーズ、好ましくはガラスビーズを700〜800mg/mlの範囲の濃度で、好ましくは約750mg/mlの濃度で含む。カオトロピック剤は、塩酸グアニジン若しくはグアニジニウムチオシアネートであり、及び/又は還元剤は、DTTであることが好ましい。ビーズ、好ましくはガラスビーズが溶解バッファー中に存在していることが好ましい。
【0050】
特に好ましい実施形態においては、本発明の溶解バッファーは、キレート剤を4〜6Mの範囲の濃度、好ましくは約5.5Mの濃度で、還元剤を25〜75mMの範囲の濃度、好ましくは約50mMの濃度で、そして、任意で、500〜700μM、好ましくは約600μMの直径のビーズ、好ましくはガラスビーズを700〜800mg/mlの範囲の濃度で、好ましくは約750mg/mlの濃度でからなる。カオトロピック剤は、塩酸グアニジン若しくはグアニジニウムチオシアネートであり、及び/又は還元剤は、DTTであることが好ましい。ビーズ、好ましくはガラスビーズが溶解バッファー中に存在していることが好ましい。
【0051】
本発明の溶解バッファーの特に好ましい実施形態において、溶解バッファーは、85〜95%(vol/vol)のQiagen lysis buffer AL及び5%(vol/vol)の1MのDTTを含み、任意にガラスビーズを含み、好ましくは、約95%のQiagen lysis buffer AL及び5%(vol/vol)の1MのDTTからなりガラスビーズは加えられても加えられなくてもよい。
【0052】
本発明の第二の態様は、高粘稠液生体試料を処理するための本発明の第一の態様の溶解バッファーの使用に関する。高粘稠液生体試料としては、あらゆる高粘稠液生体試料でもよいが、しかしながら動物由来、好ましくはヒト由来であることが好ましい。本発明の当該態様における好ましい実施形態においては、高粘稠液生体試料は痰、膿汁、胸膜液、胃吸引物、気管内吸引物、経気管吸引物、気管支肺胞洗浄物、喉頭部スワブ及び鼻咽頭スワブからなる群から選択される。高粘稠液生体試料としては、痰であることが好ましい。
【0053】
好ましい実施形態においては、本発明の第一の態様である溶解バッファーの使用による処理の前に、高粘稠液生体試料は未処理である。高粘稠液生体試料は、処理していない痰を意味する生の痰であることが最も好ましい。別の実施形態においては、高粘稠液生体試料、好ましくは痰は、本発明の第一の態様である溶解バッファーの使用による処理の前に、凍結されていることが好ましいが、しかしながら、本発明の第二の態様である使用は、処理の前に他のあらゆる処理を含まない。
【0054】
本発明の第二の態様における好ましい実施形態において、処理には高粘稠液生体試料の液化、好ましくは痰の液化、最も好ましくは生の痰の液化が含まれる。
【0055】
本発明の第二の態様である使用のある実施形態において、溶解バッファーは、すぐに使用できる(ready−to−use)反応チューブ中に存在する。この実施形態においては、高粘稠液生体試料をready−to−use反応チューブに添加し、当該チューブ中で処理が行われる。全ての処理が一つのチューブで行われることが好ましく、それにより更なるコンタミのリスクを伴うであろう処理ステップを簡略化することができる。
【0056】
本発明の第二の態様の使用における特に好ましい実施形態において、処理の後、高粘稠液生体試料は核酸の分離手順に直接的に適用するのに適しており、核酸の分離手順の前に有機溶媒による抽出や沈殿などの更なる処理を行う必要がない。しかしながら、核酸の分離手順によっては,さらなる試薬によって処理された高粘稠液生体試料を補足処理する必要があることがある。核酸の分離手順としては、シリカ膜又は電磁ビーズ技術をベースとするものであることが好ましい。例えば、商業的に利用可能な核酸分離キット、例えば、Qiagen製のEZ−1 DNA Tissue Kit(電磁ビーズ技術)、又は、QIAamp DNA Blood Kit(シリカ膜ベース)を本発明の範囲の中で使用することができる。EZ−1核酸分離のためには、処理された高粘稠液生体試料は、直接的にBioRobot(登録商標)EZ−1ワークステーションに置かれ、さらに製造者の指示に従い処理が行われる。QIAamp核酸分離のためには、エタノール/Qiagen lysis buffer AL(80%/20%)が、製造者の指示に従い処理された高粘稠液生体試料に添加され、混合物は、QIAampスピンカラム上に移される。製造者によれば、その後、さらなるステップが勧められる。その代わりに、シリカ膜ベースの単離には、真空ベースのセットアップ(Curetis custom prototype)を使用してもよい。この実験セットアップにおいて、少なくとも400mbar、より好ましくは少なくともも500mbar、最も好ましくは少なくとも600mbarの減圧状態を結合及び洗浄ステップに適用することが好ましい。
【0057】
本発明の第三の態様は、(a)試料を本発明の第一の態様である溶解バッファーに混合する、(b)場合によっては混合物を加熱する、(c)場合によっては混合物をビーズミルするステップを含む、好ましくはこれらのステップから成る高粘稠液生体試料を処理するための方法に関連する。高粘稠液生体試料としては、あらゆる高粘稠液生体試料でもよいが、しかしながら動物由来、最も好ましくはヒト由来であることが好ましい。本発明の当該態様における好ましい実施形態においては、、高粘稠液生体試料は痰、膿汁、胸膜液、胃吸引物、気管内吸引物、経気管吸引物、気管支肺胞洗浄物、喉頭部スワブ及び鼻咽頭スワブからなる群から選択される。高粘稠液生体試料としては、痰であることが好ましい。
【0058】
好ましい実施形態において、本発明の第三の態様である方法におけるステップ(a)における試料の溶解バッファーへの混合の前に、試料を処理しない。高粘稠液生体試料は、処理していない痰を意味する生の痰であることが最も好ましい。別の実施形態においては、高粘稠液生体試料、好ましくは痰は、本発明の第三の態様である方法のステップ(a)において溶解バッファーと混合される前に、凍結されていることが好ましいが、しかしながら、本発明の第二の態様である使用は、ステップ(a)の前に凍結以外の他のあらゆる処理を含まない。したがって、好ましい実施形態においては、溶解バッファーと混合される前の、高粘稠液生体試料、好ましくは痰の唯一つの処理は、試料の凍結である。
【0059】
第四の態様において、本発明は、(a)試料、好ましくは痰試料を本発明の第一の態様である溶解バッファーに混合する(b)場合によっては混合物を加熱する、(c)場合によっては混合物をビーズミルし、そして、(d)混合物を核酸増幅/分析方法に適用する、ステップを含む、好ましくはこれらのステップから成る高粘稠液生体試料、好ましくは痰を分析するため方法を提供する。ステップ(d)がステップに先行することが好ましく、その際、ステップ(a)及び任意の(b)又は(c)の混合物が核酸分離される。
【0060】
第五の態様において、本発明は、(a)試料を本発明の溶解バッファーに混合する、(b)場合によっては混合物を加熱する、(c)場合によっては混合物をビーズミルし、そして(d)混合物を前記病原体を検知するのに適した核酸増幅/分析方法に適用する、ステップを含む、好ましくはこれらのステップから成る高粘稠液生体試料中、好ましくは痰中の病原体の存在を検知するための方法を提供する。ステップ(d)がステップに先行することが好ましく、その際、ステップ(a)及び任意の(b)又は(c)の混合物が核酸分離される。本発明の範囲における病原体とは、他の生命体において疾患を引き起こすあらゆる生命体を示す。病原体としては、ウイルス、細菌、原虫、酵母、菌類、原虫、寄生生物などである。本発明の範囲に第五の態様における病原体は、細菌であることが好ましく、マイコバクテリアなどのMycobacteriaceae族の細菌であることがより好ましい。さらに、疾患とは関連しないマイコバクテリアもまた、本発明の第五の態様である方法を使用して検知できる。本発明の第五の態様である方法を使用して検知できるMycobacteriaceae族の種は以下のとおりである:M. abscessus, M. africanum, M. agr, M. aichiense, M. alvei, M. arosiense, M. arupense, M. asiaticum, M. aubagnense, M. aurum, M. austroafricanum, Mycobacterium avium complex (MAC)(エイズ患者の十分な死因となる種の群、この複合体の種も含む: M. avium, M. avium paratuberculosis, これはヒトのクーロン病(Crohn's disease)と関連し、羊のヨーネ病(Johne's disease)と関連する, M. avium silvaticum, M. avium "hominissuis", M. colombiense), M. boenickei, M. bohemicum, M. bolletii, M. botniense, M. bovis, M. branderi, M. brisbanense, M. brumae, M. canariasense, M. caprae, M. celatum, M. chelonae, M. chimaera, M. chitae, M. chlorophenolicum, M. chubuense, M. conceptionense, M. confluentis, M. conspicuum, M. cookii, M. cosmeticum, M. diernhoferi, M. doricum, M. duvalii, M. elephantis, M. fallax, M. farcinogenes, M. flavescens, M. florentinum, M. fluoroanthenivorans, M. fortuitum, M. fortuitum subsp. acetamidolyticum, M. frederiksbergense, M. gadium, M. gastri, M. genavense, M. gilvum, M. goodii, M. gordonae, M. haemophilum, M. hassiacum, M. heckeshornense, M. heidelbergense, M. hiberniae, M. hodleri, M. holsaticum, M. houstonense, M. immunogenum, M. interjectum, M. intermedium, M. intracellulare, M. kansasii, M. komossense, M. kubicae, M. kumamotonense, M. lacus, M. lentiflavum, M. leprae (これはハンセン病を引き起こす), M. lepraemurium, M. madagascariense, M. mageritense, M. malmoense, M. marinum, M. massiliense, M. microti, M. monacense, M. montefiorense, M. moriokaense, M. mucogenicum, M. murale, M. nebraskense, M. neoaurum, M. neworleansense, M. nonchromogenicum, M. novocastrense, M. obuense, M. palustre, M. parafortuitum, M. parascrofulaceum, M. parmense, M. peregrinum, M. phlei, M. phocaicum, M. pinnipedii, M. porcinum, M. poriferae, M. pseudoshottsii, M. pulveris, M. psychrotolerans, M. pyrenivorans, M. rhodesiae, M. saskatchewanense, M. scrofulaceum, M. senegalense, M. seoulense, M. septicum, M. shimoidei, M. shottsii, M. simiae, M. smegmatis, M. sphagni, M. szulgai, M. terrae, M. thermoresistibile, M. tokaiense, M. triplex, M. triviale, Mycobacterium tuberculosis complex (MTBC) (ヒトと動物の結核引き起こす剤のメンバー;この複合体における種も含む: M. tuberculosis, これはヒト結核の主要因であり, M. bovis, M. bovis BCG, M. africanum, M. canetti, M. caprae, M. pinnipedii), M. tusciae, M. ulcerans, これは"Buruli"又は"Bairnsdale, ulcer"を引き起こす, M. vaccae, M. vanbaalenii, M. wolinskyi及びM. xenopi。
【0061】
本発明の第四及び第五の態様の好ましい実施形態において、高粘稠液生体試料は痰であり、処理していない痰であることが好ましい。しかしながら、当業者は、本発明の第四の態様による方法における分析の目的によって、又は、本発明の第五の態様による方法における検知すべき病原体によって、高粘稠液生体試料が如何なる高粘稠液生体試料であってもよいと認識するであろう。したがって、病原体の検知に適した全ての高粘稠液生体試料が、本発明の第五の態様に含まれる。
【0062】
本発明の第三、第四及び第五の態様の好ましい実施形態において、試料は、ステップ(a)において、溶解バッファーと1:1〜1:2の比で、例えば、1:1、1:1.2、1:1.4、1:1.6、1:1.8、又は1:2、好ましくは1:1.2の比で混合される。例えば、180μlの溶解バッファー、好ましくは約600μmの直径を有する任意に140mg±20mgのビーズ、好ましくはガラスビーズを、220μl±30μlの高粘稠液生体試料、好ましくは痰試料、より好ましくは未処理の痰試料と混合する。当業者であれば、痰試料などの高粘稠液生体試料の正確な分注量とすることは困難であることが予測されるが、しかしながら、システムは試料のインプット量の変化に対して敏感ではなく、したがって、サンプル量の変化が比較的高くてもよい。溶解バッファーの組成は、高粘稠液生体試料に別々に添加されてよく、溶解バッファーを前混合して、その後、高粘稠液生体試料に添加されてもよく、又は、痰試料を前混合溶解バッファーに混合してもよい。痰試料は、ready−to−use反応チューブ中に含まれる前混合溶解バッファーに混合されることが好ましい。
【0063】
本発明の第三、第四及び第五の態様の好ましい実施形態において、試料は、ステップ(a)において、溶解バッファーと試料の良好な接触が保証されるように混合される。当業者であれば、高粘稠液生体試料を溶解バッファーへの混合の達成方法は周知であり、例えば、試料を溶解バッファーに添加してもよく、その逆でもよく、その後、ボルテックス、又はピペットアップ及びダウンで混合すればよい。ピペットアップ及びダウンで混合する場合、広く開口したピペットチップ、例えば、カットしたピペットチップを使用することが望ましい。好ましい実施形態においては、ステップ(a)の今後は、5分〜1時間の範囲で、例えば、5、10、15、20、25、30、40、50、又は60分間、好ましくは室温で、例えば、18、20、22、24、又は26℃でインキュベートする。インキュベート時間はステップ(b)及び/又は(c)を行うか否かによる。当業者であれば、ステップ(b)若しくは(c)、又はその両方を省略した場合、インキュベーション時間が長くすればよい、例えば60分間とすればよいことは認識できるであろう。
【0064】
本発明の第三、第四及び第五の態様の好ましい実施形態において、溶解バッファーがready−to−use反応チューブ中に存在し、好ましくは、本発明の第七の態様によるready−to−use反応チューブ中に存在する。この実施形態においては、高粘稠液生体試料を、溶解バッファーの準備及び分注(アリコート)とすることなしに、又は各バッファーの組成を個々に加える必要なしに、ready−to−use反応チューブに直接的に添加することができる。
【0065】
本発明の第三、第四及び第五の態様の好ましい実施形態において、ステップ(b)において、好ましくは試料の液化を引き起こすのに、より好ましくは試料、例えば試料に存在する細胞、の溶解を引き起こすのに十分な温度及び/又は十分な時間加熱することが好ましい。好ましい実施形態において、加熱ステップはサンプル中の細胞の不活性化、特に、マイコバクテリアの不活性化を含む。当業者であれば、条件を変化させる、すなわち温度と時間を変化させた条件下で加熱処理を行った前後の試料の粘度を測定するシンプルな実験により、液化を生じさせる適切な温度と加熱期間を容易に決定することができる。例えば、80℃で5分間、85℃で5分間、90℃で5分間、95℃で5分間、98℃で5分間、80℃で10分間、85℃で10分間、90℃で10分間、95℃で10分間、98℃で10分間、80℃で15分間、85℃で15分間、90℃で15分間、95℃で15分間、又は、98℃で15分間であり、粘度は加熱ステップの前後で測定すればよい。当業者であれば、使用する試料の性質により適切な加熱温度と加熱期間が決まることは認識できるであろう。本発明の第三、第四及び第五の態様の特に好ましい実施形態において、加熱ステップは試料中に存在する細胞の少なくとも一部、好ましくは細胞の全ての溶解を含む。加熱ステップの後、混合物中に生きている細胞が存在しないこと、最も好ましくは生きているマイコバクテリアが存在しないこと、特に、M. tuberculosisが存在しないことが最も好ましい。当業者の間では、混合物中に生きている細菌が存在するかどうかの決定方法、例えば、培養試験はよく知られている。好ましくは、本発明の第三、第四及び第五の態様の方法におけるステップ(b)において、混合物は、80℃〜99℃の範囲の温度、例えば、80℃、85℃、90℃、92℃、94℃、95℃、96℃、97℃、98℃、または99℃に加熱することが好ましく、混合物を少なくとも90℃に加熱することがより好ましく、最も好ましくは96℃に加熱する。混合物は加熱されたその温度に5〜30分の範囲の間、例えば、5、10、15、20、25、又は30分、より好ましくは少なくとも10分、最も好ましくは少なくとも15分の間、保つことが好ましい。本発明の第三、第四及び第五の態様の特に好ましい実施形態においては、混合物を96℃に加熱し、15分間その温度で保つ。前記の効果が達成される限りは、温度と期間のあらゆる組合せが本発明の範囲となることは、当業者が認識できることである。例えば、90℃で5分間、90℃で10分間、90℃で15分間、90℃で20分間、90℃で25分間、90℃で30分間、96℃で5分間、96℃で10分間、96℃で15分間、96℃で20分間、96℃で25分間、又は96℃で30分間、試料を加熱すればよい。
【0066】
本発明の第三、第四及び第五の態様の他の好ましい実施形態において、ステップ(c)において混合物をビーズミルする。ビーズミルとは、小ビーズの存在下での試料の攪拌を意味する。ビーズは固体の不活性材、例えば、ガラス、セラミック又はスチールなどの金属からなり、好ましくはガラス製であり、通常、0.2〜1.0mmの直径を有する。ビーズミルの結果、高い液体せん断勾配とビーズとの衝突のために、試料の均一化と細胞の破壊が生じる。均一化と細胞溶解の速度と効果は、装置の大きさだけでなく、攪拌の速度及びビーズのサイズを変化させることで調整できる。好ましくは、本発明の第三、第四及び第五の態様の方法のビーズミルステップ(c)の条件は、ビーズミルステップの前後で混合物の一つか二つ以上の特性が異なるようにすることが好ましい。混合物はビーズミルの後より均一化されていることが好ましく、混合物はビーズミルの後より粘度が小さくなっていることがより好ましく、例えば、2の要因により、ビーズミルが混合物中に存在する細胞の溶解を含むことがもっとも好ましく、細菌細胞の溶解がもっとも好ましい。当業者はビーズミル工程についてよく認識している。例えば、様々な大きさのビーズミルが商業的に利用可能である。好ましくは、本発明の第三、第四及び第五の態様のステップ(c)のビーズミル工程において使用されるビーズは、300μm〜800μmの直径、例えば、300μm、400μm、500μm、600μm、700μm、又は800μmの直径を有しており、好ましくは600μmの直径を有している。好ましくは、ビーズ、好ましくはガラスビーズは、あらゆるコンタミを溶解又は加水分解する酸洗浄されていることが好ましい。例えば、ビーズ、好ましくはガラスビーズは、少なくとも1時間、2MのHNOに浸漬し、リンス水が少なくとも酸性でなくなるまで、水でリンスすることで酸洗浄すればよい。もしくは、酸洗浄ガラスビーズを、例えば、Sigma−Aldrich (オーダーナンバー G8772)より商業的に得ることができる。好ましくは、ビーズ、好ましくはガラスビーズは、約650〜950mg/mlの範囲の量、例えば、約650mg/ml、700mg/ml、750mg/ml、800mg/ml、850mg/ml、又は、900mg/mlの量で、もっとも好ましくは約750mg/mlの量で存在すればよい。例えば、140mgの酸洗浄ガラスビーズを180μlの溶解バッファーに加え、溶解バッファー中777mg/mlの量(ここでガラスビーズの体積は考慮していない)のガラスビーズを得るとよい。ビーズ、好ましくはガラスビーズを含む混合物は2500〜3500rpmの範囲の速度、例えば、2500、2750、3000、3100、3200、3300、3400、又は3500rpmの速度で攪拌することが好ましく、もっとも好ましくは3100±100rpmの速度で攪拌すればよく、好ましくは、少なくとも5分間攪拌する。
【0067】
本発明の第三、第四及び第五の態様の特に好ましい実施形態において、混合物を上記のようにステップ(b)で加熱し、上記のようにステップ(c)でビーズミルする。例えば、ステップ(b)において混合物を96℃で15分間加熱し、その後、ステップ(c)において、3100±100rpmの速度で少なくとも5分間ビーズミルする。上記の加熱とビーズミル条件のあらゆる組合せも、また考慮される。しかしながら、重要なことは、本発明の第三、第四及び第五の態様における方法においては、加熱ステップ(b)、又はビーズミルステップ(c)、又はその両方のステップ(b)及び(c)を省略してもよいということである。ステップ(b)及び/又は(c)、特に両方のステップ(b)及び(c)を省略した場合、混合物を溶解バッファーと共に試料の一つかそれ以上の物理的特性が変化するのに、少なくとも2の要因によって、好ましくは粘度が低下するのに十分な時間、そして、例えば、もっとも好ましくは試料に存在する病原体を溶解及び/又は不活性化させるのに十分な時間、インキュベートすることが好ましいことを当業者は認識するであろう。
【0068】
本発明の第三、第四及び第五の態様のさらなる実施形態において、当該方法は、ステップ(c)の後、ステップ(c)を行わない場合はステップ(b)の後、ステップ(b)及び(c)を行わない場合はステップ(a)の後、混合物から核酸を分離するステップをさらに含む。もっとも好ましくは、混合物に任意に存在するビーズは、混合物を核酸分離又は増幅工程に適用する前に、分離する。例えば、重力によりビーズを沈ませて、上澄みを当たらし反応チューブに移動させることでビーズを除去すればよい。当該方法は、ステップ(c)の後、ステップ(c)を行わない場合はステップ(b)の後、ステップ(b)及び(c)を行わない場合はステップ(a)の後、得られた混合物がさらなる工程、例えば、核酸分離工程前の有機溶媒による抽出、若しくは沈殿などのさらなる工程を行う必要なしで直接的に核酸分離工程に適用できるのに適していることがもっとも好ましい。したがって、特に好ましい実施形態において、混合物は、核酸分離工程前の有機溶媒を使用した抽出、又は沈殿などの更なる如何なる工程なしに核酸分離工程に直接的に適用される。しかしながら、使用する核酸分離工程によっては、混合物にさらなる試薬を追加する必要がある場合がある。核酸分離工程はシリカ膜又は電磁ビーズ技術をベースであることが好ましい。例えば、EZ−1 DNA Tissue Kit(電磁ビーズ技術)、又はQiagen製のQIAamp DNA Blood Kit(シリカ膜ベース)などの商業的に利用可能な核酸分離キットを本発明の範囲内で使用してよい。EZ−1核酸分離においては、処理された高粘稠液生体試料、好ましくは処理された痰、例えば、ステップ(a)からの混合物、任意にはステップ(a)及び(b)からの混合物、任意にはステップ(a)及び(c)からの混合物、任意にはステップ(a)、(b)及び(c)からの混合物を直接的に、BioRobot(登録商標)EZ−1に置き、取り扱い説明書にしたがい更なる処理を行う。QIAamp核酸分離においては、エタノール/Qiagen lysis buffer AL(80%/20%)の混合物を、取り扱い説明書にしたがい処理された高粘稠液生体試料、好ましくは処理された痰試料に添加し、そして、混合物をQIAampスピンカラム上に移す。もしくは、エタノール及びQiagen lysis buffer ALの他のあらゆる組成、又はエタノールのみ(96〜100%)を溶解物に添加すればよく、シリカ膜に混合物を装填する前に、試料とQiagen lysis buffer ALとエタノールの最終割合が1:1:1とする。取り扱い説明書の示唆にしたがいさらなる工程ステップを行う。もしくは、シリカ膜ベースの分離のときは、真空ベースのセットアップ(Curetis特注試作品)を使用することもできる。結合及び洗浄ステップでは、少なくとも400mbar、より好ましくは少なくとも500mbar、もっとも好ましくは600mbarの圧力とすることが好ましい。
【0069】
本発明の第四及び第五の態様の好ましい実施形態において、核酸の増幅/分析方法は、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)、核酸配列ベース増幅(NASBA)、リガーゼ連鎖反応(LCR)、鎖置換合成(SDA)、Q−βレプリカーゼ増幅、LAMP法(loop−mediated isothermal amplification)、多置換増幅(MDA)、及びマイクロアレイ分析からなる群から選択される。しかしながら、他の核酸の増幅/分析方法も本発明の範囲に含まれることを留意すべきである。本分野の一般的知識及び文献によれば、核酸の増幅/分析方法及びそれらの方法のやり方は当業者はよく習熟している。特に好ましい実施形態においては、核酸の増幅/分析方法はPCRである。
【0070】
本発明の第五の態様における核酸の増幅手順は病原体を探知、より好ましくは同定するのに適しているのがもっとも好ましく、ここで病原体は、好ましくはMycobacteriaceae族の細菌であり、好ましくはM. tuberculosis族である。例えば、本発明の第五の態様による方法で得られた核酸を、探知する病原体、例えばマイコバクテリアに特異的なプライマーっを使用したPCRにより増幅させることができる。当業者は、一般に利用可能な、例えば、National Center for Biotechnology Information(NCBI)のホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)の病原体ゲノムの配列を基にしてそのような特定のプライマーをデザインする方法にはよく習熟している。
【0071】
本発明の第三、第四及び第五の態様の特に好ましい実施形態において、方法は高粘稠液生体試料又は痰の液化を含み、好ましくは試料中に存在する細胞の溶解を含む、もっとも好ましくは、試料中に存在する病原体、特にマイコバクテリアの溶解及び不活性化を含む。本発明の第三、第四及び第五の態様における方法の好ましい実施形態においては、高粘稠液生体試料、好ましくは痰をプロテアーゼで処理しないことが好ましい。本発明の第三、第四及び第五の態様における方法の別の実施形態においては、高粘稠液生体試料、好ましくは痰を、ステップ(a)の前に、特に洗浄又は浄化しない。これの意味するところは、高粘稠液生体試料、好ましくは痰は、DTT又はNALCなどのあらゆる試薬、若しくは、試料を洗浄/液化するそれら試薬のコンビネーション、又は、SDS、NaOH、NALC、若しくは、試薬を浄化するるそれら試薬のコンビネーションにより処理しないということである。「浄化(decontamination)」の意味するところは、マイコバクテリア、特にM. tuberculosisを除いたあらゆる生命体、例えば、細菌、酵母、ホストフローラ(host flora)などを、試料中のマイコバクテリアの存在を探知するための混合物の培養の前に、不活性化するということである。
【0072】
特に好ましい実施形態において、本発明の第三の態様による方法は、本発明の第一の態様に溶解バッファーと、高粘稠液生体試料、好ましくは生の痰試料を混合させるステップ(a)からなり、ここで溶解バッファーは、ビーズ、(b)好ましくは、96℃、15分間の加熱、(c)少なくとも5分間の3100±100rpmでのビーズミル混合を含む。
【0073】
特に好ましい実施形態において、本発明の第四の態様による方法は、本発明の第一の態様に溶解バッファーと、高粘稠液生体試料、好ましくは生の痰試料を混合させるステップ(a)からなり、ここで溶解バッファーは、ビーズ、(b)好ましくは、96℃、15分間の加熱、(c)少なくとも5分間の3100±100rpmでのビーズミル混合、(d)任意にビーズの除去、(e)混合物からの核酸の分離、及び、核酸の核酸の増幅/分析方法、好ましくはPCRへの適用を含む。
【0074】
特に好ましい実施形態において、本発明の第五の態様による方法は、本発明の第一の態様に溶解バッファーと、生の痰試料を混合させるステップ(a)からなり、ここで溶解バッファーは、ビーズ、(b)好ましくは、96℃、15分間の加熱、(c)少なくとも5分間の3100±100rpmでのビーズミル混合、(d)任意にビーズの除去、(e)混合物からの核酸の分離、及び、核酸の核酸の増幅/分析方法、好ましくはPCRへの適用を含み、PCRにおいては、マイコバクテリア、好ましくはM. tuberculosis又は、Mycobacterium tuberculosis複合体中に存在するマイコバクテリアを探知できるようにするプライマーを使用する。
【0075】
本発明の第三、第四及び第五の態様の特に好ましい実施形態において、ステップ(a)、(b)及び(c)は、上澄み液の移動を必要とすることなく、又は、反応チューブから試料/混合物の除去が必要な他の処理ステップを必要とすることなく、一つのチューブで行う。したがって、本発明の第三の態様による方法は、「ワンチューブ処理」であることが好ましい。本発明の第三、第四及び第五の態様による方法におけるこれらのステップ(a)、(b)及び(c)は、本発明の第七の態様によるready−to−use反応チューブにおいて行われることが好ましい。
【0076】
本発明の第六の態様は、高粘稠液生体試料と本発明の第一の態様による溶解バッファーを含む高粘稠液生体試料の溶解物に関する。当該溶解物は、本発明の第三の態様による方法によって製造されることが好ましく、ここで、好ましくはステップ(b)及び/又は(c)、もっとも好ましくは(b)及び(c)を行う。溶解物の好ましい実施形態においては、高粘稠液生体試料は、痰、膿汁、胸膜液、胃吸引物、気管内吸引物、経気管吸引物、気管支肺胞洗浄物、喉頭部スワブ及び鼻咽頭スワブからなる群から選択され、より好ましくは、高粘稠液生体試料は痰である。本発明の第六の態様による溶解物の特に好ましい実施形態においては、高粘稠液生体試料、好ましくは痰は、溶解バッファーと混合される前は未処理であった。好ましい実施形態においては、高粘稠液生体試料、好ましくは痰の溶解バッファーと混合される前の唯一つの処理は、高粘稠液生体試料の凍結のみである。
【0077】
本発明の第六の態様の好ましい実施形態において、溶解物は、体積比1:1〜1:2の範囲の割合で、例えば、体積比1:1、1:1.2、1:1.4、1:1.6、1:1.8又は1:2、好ましくは1:1.2で溶解バッファーと高粘稠液生体試料を混合することで調製される。好ましい実施形態において、たとえば、溶解バッファーにガラスビーズが含まれていない、又は、溶解物からガラスビーズが除去されているので、溶解物はガラスビーズを含まない。好ましくは、溶解物の調製のためには、高粘稠液生体試料の混合物を加熱及び/又はビーズミルし、好ましくは、加熱及びビーズミル、上記の本発明の第三、第四及び第五の態様と同様である。
【0078】
第七の態様において、本発明は、本発明の第一の態様により溶解バッファーを含むready−to−use反応チューブを提供する。チューブはスクリューキャップなどで安全に閉じることができることが好ましい。好ましくは、チューブは、好ましくはスクリューキャップチューブは、1〜2mlの範囲の体積、好ましくは1.5mlの体積を有している。標準的なヒートブロックに直に使用できるので、1.5mlチューブが好ましい。しかしながら、処理/分析する試料の特性と量に応じて、チューブの体積の最大1/4の溶解バッファーを含むことが好ましく、チューブの体積の1/8の溶解バッファーを含むことがより好ましく、ここで溶解バッファーの体積は、ガラスビーズなしで決定される。もっとも好ましい実施形態において、本発明の第七の態様におけるready−to−use反応チューブは、約180μlの溶解バッファーを含み、ここで、溶解バッファーにガラスビーズを含む場合、好ましくは1.5mlの体積のチューブ中の溶解バッファーの体積はガラスビーズの体積なしに決定される。
【0079】
本発明の第八の態様は、本発明の第一の態様による溶解バッファー、及び、溶解バッファーの処理、好ましくは、高粘稠液生体試料の液化のための溶解バッファーの使用の説明を含んだ取り扱い説明書を含んだキットに関する。例えば、キットは、本発明の第三、第四及び第五の態様による方法のステップを指示した取り扱い説明書を含む。好ましい実施形態において、高粘稠液生体試料は痰であり、好ましくは未処理の痰である。特に好ましい実施形態において、溶解バッファーは、ready−to−use反応チューブ中において、分注(アリコート)されており、好ましくはキットは本発明の第七の態様によるready−to−use反応チューブを含む。好ましい実施形態において、キットは、DNA分離のための手段、好ましくはシリカベース又は電磁ビーズベースの核酸精製技術マトリックスをさらに含むことが好ましい。さらに、キットは、高粘稠液生体試料を溶解バッファーと混合するのに、そして、用怪物を新しいチューブに移すのに適した使い捨てのピペットをさらに含む。
【0080】
本発明は、特に核酸を分子し、その後、その分析が必要とされる場合、痰などの高粘稠液生体試料の処理の現存の方法に対する価値ある代替法を提供する。本発明の複数の利点としては、高い病原性生命体を探知する場合の低い感染リスク、高粘稠試料の効果的な可溶化/液化、操作手順の省力化、及び他のDNA分離方法との相性の良さである。
【実施例】
【0081】
例1:溶解バッファーの調整と試料処理
以下に、試験に使用する溶解バッファー及び試料処理のためのステップを示す。
【0082】
溶解バッファー
溶解バッファー1:170μl±5μlQiagen溶解バッファーAL(取り扱い説明書にしたがい、50%までの塩酸グアニジン)、10μl±2μlの1MのDTT又は10%のNALC又は水、任意に、140mg±20mgのガラスベース(600μm、酸洗浄)
【0083】
溶解バッファー2:170μl±5μlの6Mの塩酸グアニジン、10μl±2μlの1MのDTT又は水
【0084】
溶解バッファー3:170μl±5μlの6Mのグアニジニウムチオシアネート、10μl±2μlの1MのDTT又は水
【0085】
溶解バッファー4:170μl±5μlの6Mの尿素、10μl±2μlの水
【0086】
バッファーを1.5mlスクリューキャップチューブに分注(アリコート)された。チューブを15℃〜25℃で異なる期間置いた(例えば、例3)。
【0087】
試料投入
DTT又はNALC処理した痰プール(比較例)又は生の痰試料を、ここに示す実験の試料として使用した。しかしながら、バッファー(例えば、PBS)又は成長培地中のマイコバクテリア懸濁液もまた試料として使用することができる。ここに示す実験においては、サンプル量は220μl±30μlであった。ここで、試料が粘液状の場合、痰試料から分注するのが困難となることに留意すべきであるが、しかしながら、当該システムは、試料投入量の変化に敏感ではなく、より粘度のない液に関しては上限下限はより高くすることが可能である。溶解チューブに試料を添加した後、チューブを軽くボルテックスし、試料と溶解バッファーの接触を良くした。M. tuberculosisの含有が疑われる痰に関する全ての作業は、S3実験室内の層流下(又は直接的に患者の下)で行われる。フィルタチップを、ピペッティングステップのために使用した。高粘稠試料を扱うので、痰試料の分注ぴペッティングのために広くした開口部を有する傾斜カットフィルタチップを使用した。
【0088】
熱による不活性化
商業的に利用可能なヒートブロック(Eppendorf thermomixer)を熱による不活性化ステップに使用した。加熱時間は少なくとも15分とした。加熱温度は96℃±1℃であった。ヒートブロックからチューブを取り除いた後、チューブを軽くボルテックスし、液化していない痰の残片を溶解させた。ヒートブロックの後、試料をS1又はS2研究室に移した。
【0089】
ビーズミル
ビーズミルを任意にCuretisの特注試作品のlysator中で3100±100rpmの速度で少なくとも5分間行った。
【0090】
上澄み移動
ビーズを定着させた後、上澄みを新規の1.5mlのスクリューキャップチューブに、フィルタチップを使用して移動させた。次のEZ−1核酸分離のためには、移動量は200μl±5μlとし;シリカ膜核酸分離のためには、移動量は350μl±5μlとした。10μlまでのガラスビーズの移動は許容した。
【0091】
プレ溶解試料へのさらなる処理
EZ−1核酸分離においては、更なる処理を行うことなく、上澄みを直接使用した。シリカ膜核酸分離(QIAampスピン手順又は真空セットアップ)においては、250μl±5μlエタノール/Qiagen溶解バッファーAL(80%/20%)を上澄みに添加し、ボルテックスにより軽く混合し、そして、混合物をシリカ膜上に置いた。更なる処理を取扱説明書にしたがい行った。
【0092】
例2:溶解バッファー中の異なるカオトロピック剤の比較
220μlの未処理の痰試料を180μlの溶解バッファー1〜4に、ガラスビーズなしで添加した(実施例1参照)。軽いボルテックスの後、混合物を96℃で15分間加熱した。その後、混合物を再度ボルテックスし、液化の結果を図1に示した図にしがたい点数化した。
【0093】
この実験は、カオトロピック塩が未処理の痰試料の液化に適していることを示している(図1)。効果と成否は、異なる剤と個々の試料の間で変化する。グアニジニウムチオシアネートはもっとも優れた液化特性を示した。通常、還元剤の添加によって、特に塩酸グアニジンをカオトロピック剤として使用した場合、高い液化効果を示す。
【0094】
例3:液化効果の持続効果
「ワンチューブ溶解アッセイ」のコンセプトは、事前充填されたready−to−useチューブにより、そして最終バッファーの、好ましくは周辺温度での、保存を必要とする。したがって、(ガラスビーズがある、又はガラスビーズのない、DTT又はNALCを含む)溶解バッファー1を含有する長い期間保存された事前充填されたチューブの液化効果を痰分注(アリコート)と共に調べた。100日の保存後、不利益となる効果は見られなかった。効果における変化は明らかに時間により変化しておらず、しかし、むしろ、試料とバッファーの良好な均一性が性能に決定的となる場合、その効果の変化は同じ(不均一の)痰試料の個々の分注(アリコート)のばらつきによって、又は、加熱の前のボルテックスのばらつきによって効果が変化することがある。(図2に示す)追加的なビーズミルステップにより溶解していないあらゆる小片や塊を溶解又は均一化し効果を更に改善し、次のDNA分離ステップに求められる液化特性を提供する(図2)。
【0095】
例4:事前処理された痰試料及び生の痰試料からのDNA分離
事前処理された痰試料
5つの個々のスプトリシン事前処理試料を組み合わせた、例えば「液体プール」及び「粘性プール」など2つの痰プールを、新規に調製されたPBSの懸濁液由来の1mlあたり50000又は10000の病原体(Mycobacterium smegmatis及びStaphylococcus aureus)と共に添加する。M. smegmatisは、M. tuberculosisの同様の細胞壁特性を有しており、S3実験室の作業の必要性を回避するためにM. tuberculosisのモデルとして使用される。細菌懸濁液の濃度は、寒天プレート上のPBSの分注量、及びコロニーの計測により変化した(図3及び4)。
【0096】
未処理の生の痰試料
その代わりに、M. smegmatis(25000/ml)と共に添加した別の生の未処理の痰試料を使用した(図5)。
【0097】
DNA分離及び試料試験
220μlの痰プール又は別の生の痰試料を、DTT及びガラスビーズと共に180μl溶解バッファー1を含む事前に分注した溶解チューブに移した。96℃で15分加熱し、そして、Curetisの特注試作品のlysatorを使用して5分間ビーズミルした後、200μlの溶解した上澄みを新しいチューブに移し、そしてさらに、EZ−1 BioRobot(登録商標)を使用して処理を行った。同時に、350μlの溶解した上澄みを新しいチューブに移し、その後、250mlのエタノール/Qiagen溶解バッファーAL[80%(vol/vol)/20%(vol/vol)]を添加し、軽く混合し、そしてQIAampシリカ膜へ移すことで、QIAamp DNA分離方法を使用した試験を行った。
【0098】
DNAの分離が終了後、200μlのDNA溶出液から1〜3μlを、PCR試験に使用し、PCR試験においては、30μl中にホットスタートTaqポリメラーゼ(Qiagen)を、M. smegmatis又はS. aureusに特異的なプライマーと共に使用し、35〜38サイクル増幅させた。増幅産物のモル濃度をAgilent Bioanalyzer 9700を使用して測定した。
【0099】
使用した全ての個々の痰試料又はプールは、例えば、生又はスプトリシン処理の試料は、後に続く核酸分離手順及び核酸増幅手順、例えばPCRを妨害することなく、本発明の「ワンチューブ」溶解手順を使用して、よく液化した。添加されたマイコバクテリア(Mycobacterium smegmatis)又はグラム陽性病原体(Staphylococcus aureus)に対して達成された感度は、治療に対応する範囲である10000病原体/ml又はそれよりも小さい範囲である(図3)。これは、濃縮病原体フラクションからのスメア顕微鏡及びPCRのような標準的な診断技術により通常観察できる感度の範囲である。一般的に、単離したDNAは純粋なDNAの典型的なスペクトルを示す(図4)。さらに、添加した生の痰から増幅したPCR産物のモル濃度は、スプトリシン処理した痰プールからのモル濃度の範囲と同様の範囲であった。
【0100】
例5:古典的な結核の診断手順との比較
本出願の「ワンチューブ」液化/溶解アプローチの効果と感度を現状の診断手順と比較するために、結核陽性の患者からの冷凍痰試料による研究を行った。痰試料は、浄化の後の濃縮病原体フラクションからのスメア顕微鏡に陽性又はPCRに陽性のものから選択した。220μlの痰試料をDTT及びガラスビーズを含む180μlの溶解バッファー1に加えた。96℃で15分間加熱し、そして、Curetisの特注試作品のlysatorを使用して5分間ビーズミルした後、200μlの溶解した上澄みを新しいチューブに移し、そしてさらに、取り扱い説明書にしたがいEZ−1 BioRobot(登録商標)を使用して処理を行った。200μlのDNA溶出液から1〜3μlを、PCR試験に使用し、PCR試験においては、30μl中にホットスタートTaqポリメラーゼ(Qiagen)を、Mycobacterium tuberculosi複合体(MTBC)特異的又はマイコバクテリア特異的な23SrRNA遺伝子に対するPCRプライマーと共に、使用した。
【0101】
本発明の「ワンチューブ」溶解手法により、試料の大部分はMycobacterium tuberculosi複合体に対して直ちに陽性が検知され、本発明の「ワンチューブ」溶解手法に基づく診断が古典的な結核診断手法と同等であることが示された(図6)。いくつかの試料は、貯蔵(冷凍、解凍効果)により、及び、この研究に使用された痰の残りがすでに高い病原体ロードと主に痰区分として流失しえるという事実により、検知できず、また検出限界に近かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つのカオトロピック剤及び少なくとも一つの還元剤を含むバッファー溶解バッファーであって、溶解バッファーは、プロテアーゼ、デオキシリボヌクレアーゼ、グリコシダーゼ、及び、リパーゼを含まない溶解バッファー。
【請求項2】
さらにビーズを含む、請求項1に記載の溶解バッファー。
【請求項3】
高粘稠液生体試料と溶解バッファーを混合したときに高粘稠液生体試料の液化が達成されるような少なくとも一つのカオトロピック剤の特性と濃度及び/又は少なくとも一つの還元剤の特性と濃度を有している、請求項1又は2に記載の溶解バッファー。
【請求項4】
カオトロピック剤が、グアニジニウムチオシアネート、グアニジニウムイソチオシアネート、塩酸グアニジン、塩化グアニジン、アルカリチオシアネート、アルカリイソチオシアネート、ヨウ化アルカリ、及び過塩素酸アルカリから成る群から選択される、請求項1〜3の何れか一つに記載の溶解バッファー。
【請求項5】
還元剤は、ジチオスレイトール(DTT)、N−アセチル−システイン(NALC)、β−メルカプトエタノール、トリス(2−カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)及びチオレドキシンから成る群から選択される、請求項1〜4の何れか一つに記載の溶解バッファー。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一つに記載の溶解バッファーの、高粘稠液生体試料の処理への使用。
【請求項7】
a.試料を請求項1〜5の何れか一つに記載の溶解バッファーに混合する、
b.任意に、混合物を加熱する、そして
c.任意に、混合物をビーズミルする、ステップを含む高粘稠液生体試料を処理するための方法。
【請求項8】
a.試料を請求項1〜5の何れか一つに記載の溶解バッファーに混合する、
b.任意に、混合物を加熱する、
c.任意に、混合物をビーズミルする、そして
d.混合物を、核酸増幅/分析方法に適用する、
ステップを含む高粘稠液生体試料を分析するための方法。
【請求項9】
a.試料を請求項1〜5の何れか一つに記載の溶解バッファーに混合する、
b.任意に、混合物を加熱する、
c.任意に、混合物をビーズミルする、そして
d.混合物を、病原体を検知するのに適した核酸増幅/分析方法に適用する
ステップを含む高粘稠液生体試料中の病原体の存在を検知するための方法。
【請求項10】
ステップaにおいて試料を溶解バッファーと混合する前に、試料を処理しない、請求項7〜9の何れか一つに記載の方法。
【請求項11】
ステップcの混合物から核酸を分離するステップをさらに含む、請求項7〜10の何れか一つに記載の方法。
【請求項12】
有機溶媒による抽出や沈殿などの更なる処理を行うことなく、ステップcの混合物から直接前記の核酸分離を行う、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
高粘稠液生体試料及び請求項1〜5の何れか一つに記載の溶解バッファーを含む高粘稠液生体試料の溶解物。
【請求項14】
請求項1〜5の何れか一つに記載の溶解バッファーを含有するすぐに使用できる(ready−to−use)反応チューブ。
【請求項15】
請求項1〜5の何れか一つに記載の溶解バッファー、及び、高粘稠液生体試料の液化のための溶解バッファーの使用の説明を含んだ取り扱い説明書を含むキット。
【請求項16】
高粘稠液生体試料が痰、膿汁、胸膜液、胃吸引物、気管内吸引物、経気管吸引物、気管支肺胞洗浄物、喉頭部スワブ及び鼻咽頭スワブからなる群から選択される、請求項3〜5のの何れか一つに記載の溶解バッファー、請求項6に記載の使用、請求項7〜12の何れか一つに記載の方法、請求項13に記載の溶解物、又は、請求項15に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−515539(P2012−515539A)
【公表日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−546670(P2011−546670)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【国際出願番号】PCT/EP2010/000252
【国際公開番号】WO2010/086099
【国際公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【出願人】(511181500)クレティス・アクチェンゲゼルシャフト (1)
【Fターム(参考)】