説明

粘膜体表面に接触させてワクチン抗原を包含する物質の効果を調節する新規非抗原性粘膜アジュバント処方

【課題】粘膜体表面に接触するワクチン抗原を包含する、物質の効果を調節する粘膜ワクチン用アジュバント。
【解決手段】粘膜表面に投与された医薬物質の効果を調節する、β−1,3結合及びβ−1,6結合によって分枝鎖中に共に結合したグルコースモノマーから構成された多糖類を含むアジュバント組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的にワクチンと共に使用するためのアジュバントに関し、より詳細には、非免疫原性であり、動物及びヒトの粘膜表面に接触する抗原に対する免疫応答を調節するのに役立つ粘膜ワクチンと共に使用するためのアジュバント(adjuvant)に関する。
【背景技術】
【0002】
粘膜ワクチンは世界的な規模で人気が増しつつある。その理由の一つは、皮下又はその他の昔からの投与手段とは対照的に、これらワクチンの投与が容易であるからであり、他の理由は、伝統的なワクチン投与に人の集団を集めることに伴う昔からの遅れや、皮下注射針を減らし結果としてそれをなくするということとは対照的に、粘膜ワクチンの自己投与を促進することが容易であるためである。効果的な粘膜ワクチンの開発の他の恩恵は自己投与であり、それによって伝統的な手段で投与するための、訓練された要員の必要性が避けられる。
【0003】
粘膜表面は、動物及びヒトにおける疾病を引き起こす微生物の最も頻繁な入り口経路である。大量のリンパ系細胞を備えた専門の免疫系が、微生物による侵略に対してこれら表面を防御している。この、いわゆる粘膜免疫系は、進入する病原微生物に対し、又粘膜表面に投与されたワクチン抗原に対し、強力な特異的免疫応答を発生する。この免疫系の重要な部分に直接作用する粘膜ワクチン用のヒト及び動物医薬の両者に増大しつつある関心については、大きな生物学的基盤がある。この分野における急速な発展は、又、注射ワクチンに比較して、鼻内噴霧剤又は経口トニック剤として投与されるワクチンの明らかな進歩によって促進されている。しかしながら、粘膜ワクチンは、そのようなワクチンの有効性が改善されない限り、現在の注射ワクチンに取って代わる現実的な代替品にならないであろう。補助物質、あるいはアジュバントの使用は、粘膜ワクチンの抗体応答及び臨床有効性を増強する最も有望な方法の一つである。
【0004】
アジュバントは、免疫応答を改善してより少ないワクチンの使用で免疫応答を生み出すことを可能にするために、伝統的なワクチンと共に長年使われている。
【0005】
より伝統的な注射手段と粘膜投与とを比較した免疫方法の経路間の差に関する多くの研究が行われ、その結論は広く受け入れられている。実質的な証拠は、二つの免疫系を示唆している。即ち、末梢免疫機構及び粘膜免疫機構である。これらの機構は、ヒトを含む殆どの種で、別々にそして同時に作用していると信じられている。
【0006】
本出願の焦点は粘膜ワクチンであり、より詳細には、ワクチン及びアジュバントの新規処方に関する。ここで、アジュバントは、非毒性でなければならず、粘膜の健全性を破壊せず、粘膜組織におけるM細胞を通した輸送に適した物理化学的性質を有し、それ自身(アジュバント)に対して抗体を産生することなしに非特異的免疫を活性化し、抗原に対し特異的に向けられた抗体を産生するようリンパ細胞を刺激し、抗原に対し寛容性を誘導せず、抗原に対する互換性のある担体として作用し、非特異的免疫を増強し、そして特異的ワクチンの臨床効果を改善するものでなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、初めて、これら所望の性質を有する粘膜ワクチン処方を開示し、粘膜アジュバント自身に対し同時的に抗体応答を起こさない真の粘膜アジュバント効果の証拠を開示するものである。それ故、ここに提示された新規粘膜アジュバント処方は、ヒト及び動物医薬への有用な新しい貢献であることを予見するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
粘膜表面においてM細胞に対する抗原及びアジュバントを選択的に標的とすることは、分泌型免疫応答を備えるための最も有望な方法であると思われる。何故なら、これらの細胞は、消化管及び気道における粘膜組織の免疫細胞に直接曝露される抗原のサンプリングに対して特化されているからである。M細胞を通した輸送は、微粒子の方が可溶性物質よりもより効果的であることが知られている。粒子とは対照的に、可溶性物質は上皮の内層の他の部分に接着し透過するので、免疫応答性細胞の広い範囲に干渉し、そしてその結果、免疫応答で微粒子抗原や微粒子アジュバントよりも、より予測しにくい効果を有する。粒子の輸送効率は、粒子のサイズによって影響され、多分それらの化学的性質によっても影響される。サイズが1〜10マイクロメートルの範囲にある粒子が、最も効率的に輸送されるようである。
【0009】
注射用及び粘膜投与用のより安全でより優れたワクチンの探索は、高い抗体応答及び高い防御度を誘発する精製ワクチンの決定と生産に集中されてきた。しかしながら、最も精製されたワクチン抗原は、それらを粘膜表面に適用するときは弱い免疫原である。それ故、効果的な抗体応答を誘発するための粘膜ワクチン抗原の能力を増強するアジュバントを提供することが必要になっている。この能力を有する多くの物質がある。しかしながら、粘膜ワクチンの効能を増強する能力を試験した全てのアジュバントは、一つないしそれ以上の欠点を有している。現在の製品の最も深刻な問題点は、1)受け入れがたい毒性効果、2)アジュバント自身に対する抗体産生の誘導、3)ワクチン抗原に対する免疫寛容の誘導、である。
【0010】
界面活性作用を付与する親油性又はその他の性質を有するいくつかの物質は、粘膜を通しての吸収を増大し、それによってワクチン抗原の粘膜免疫原性を増大させる。そのような添加物は、ジフテリア及び破傷風トキソイド用の経鼻アジュバントとして混合して試験され、そしてヒト試験において経鼻投与のアルミニウム吸着ワクチンと比較された。明らかなアジュバント効果が示されたが、しかし、上皮膜における添加物の効果に多分起因している局所副作用が顕著であった。粘膜の完全性の崩壊は、粘膜表面に付随して存在するワクチン抗原以外に対する免疫応答に関しても懸念を提起する。
【0011】
コレラは、例外的に強力な粘膜免疫原であり、そして同時に同じ部位に適用された無関係の抗原に対する粘膜及び全身抗体応答様の強力なアジュバントである。そのアジュバント活性のメカニズムは複雑であり、多分、Bサブユニットを経由して上皮細胞を通しての増大した抗原の取り込み、抗原提示細胞の上方調節、及びB細胞スイッチングの促進を包含している。しかし、イン・ビトロでのT細胞におけるCT及びCTB(コレラ毒素B)両者の直接的効果は阻害的であり、それはアジュバント活性及び寛容誘導に対する可能なメカニズムとして示唆されている。
【0012】
組換えCTBに対する抗原の結合は、経口投与の後CTB自体及び複合した抗原の両者に対し全身性寛容を増強することが示されている。腸管投与における寛容原性と比較した経鼻投与でのアジュバントとしてのCTBの明白な効果は、市販のCTB製剤に混入する微量のホロトキシンが、アジュバント活性を回復することによるものであろう。しかしながら、市販品と組換えCTBを比較した最近の報告は、ワクチン抗原がCTBに結合された場合及び混合された場合の両者で、経鼻投与における組換えCTBのアジュバント効果を示した。
【0013】
CT/CTBは、いくつかの異なったワクチン抗原と共に経鼻投与後に感染防御免疫を誘導することが示されている。更に、CT及び関連抗原に対する長期免疫記憶応答が誘導される。「野生」ホロトキシン(holotoxin)は、ヒトにおける粘膜アジュバントとして使用するには余りにも毒性があるので、毒性を除いたCTの新しい組換え体が開発されている。しかし、CTのアジュバント活性がその毒性から分離されたかどうかは決着していない。CTBは非毒性とみなされているが、しかしヒトにおいて高投与量で経鼻投与試験をしたとき、実質的な刺激性の効果が誘導されている。
【0014】
CTは、それ自身及び混合された抗原に対する免疫性を誘導し、そしてそれは繰り返しての使用でアジュバント効果を制限することになる。この問題に向けた2〜3の研究で、このアジュバントに対する前以って存在する免疫性が、局所粘膜応答よりも、抗原に対する血清応答を阻害することが示された。
【0015】
全細胞細菌ワクチン製剤用アジュバントとしてCTを使った最近の研究で、そのアジュバント活性、特に経鼻投与で更に限界が明らかにされた。この研究は、CTのアジュバントのメカニズムが、微粒子アジュバントのメカニズムとは多分異なること、及び免疫化の異なった経路での異なったアジュバント活性を有していることを確認した。
【0016】
E.coli易熱性エンテロトキシンHLTは、CTに類似するA−B構造、及びアミノ酸配列において80%の相同性を有している。HLTアジュバント活性のメカニズムは、CT程広範には研究されていないが幾分異なっていると思われる。それでもHLTは、CTと同じ方法で、上皮内リンパ細胞に対するその効果を通じて粘膜寛容を排除することが示唆されている。HLTは、幾分CTよりも毒性が低く、CTのようにBサブユニットと共に適用された微量のホロトキシンは、毒性なしにアジュバント活性を回復する。
【0017】
HLTは強力な粘膜アジュバントであり、広範に分布した、鼻内投与後の感染防御免疫応答を誘導することができ、感染防御免疫を誘導する点でCTのような効果があると思われる。血清及び粘膜抗体に対し、HLTと同時に投与された一つの抗原よりも有効なアジュバントである。保存されたアジュバント活性を有する非毒性変異体が構成されている。しかし、これら変異体が感染防御免疫を誘導することができるかどうか、そしてアジュバント活性と毒性とを分離することができるかどうかが今後確立されるべきこととして残されている。HLTのサブユニットで、微量の組換えLTを補充された組換えLTBを、インフルエンザ用のアジュバントとしてヒト試験において鼻内で試験したとき、アジュバント効果はむしろ大きくなく、そして局所の望ましくない副作用が顕著であった。
【0018】
抗原に結合した組換えLTBを経鼻投与したものは、CTBの経口投与と同じく末梢性免疫寛容を誘導することができる。
【0019】
百日咳毒素のような他の細菌毒素又は誘導体は、又、コレラ毒素に類似し、非毒性変異体が産生された。非毒性Bサブユニットは、ある研究での経鼻投与でインフルエンザに対する感染防御免疫を誘導し、別の研究では非毒性変異体がCTと比較された。変異体は、全身性抗体増強の点からはCTよりも免疫原性は劣るが、感染防御免疫の点では百日咳毒素と同じ位僅かに有効であった。百日咳毒素のアジュバント活性は公知であり、その分裂促進効果に帰せられる。
【0020】
ムラミルジペプチド及び誘導体は、マイコバクテリア属の細胞壁に由来する成分であり、抗原投与に先立って経鼻的に与えられた場合、これらの物質は、免疫応答の非特異的増強を誘導することが示されている。
【0021】
同じ作用原理がキチン誘導体及びサイトカインGM−CSFで明らかにされている。サイトカインIL−2は、リポソームに封入された鼻内投与で試験され、感染防御免疫を誘導したが、IL−4は無効であった。IL−2は、ワクチンと結合したとき、類似の抗体レベルにも拘わらず感染防御免疫の誘導においてLTBよりも優れていた。IL−5及びIL−6は、目に適用した場合、ミクロスフェアに捉えられ、粘膜IgA応答を増強した。
【発明を実施するための形態】
【0022】
リポソーム
リポソームは、抗原がリポソームの水性の区画内に包み込まれており、或いは表面カップリング技術を経て表面に抗原と会合している脂質層からなる人工脂質小胞である。リポソームは、大量に、容易かつ低廉に、そして包み込まれた抗原に対し温和な条件下で調製することができる。それ自体免疫応答を誘導せず、非経口的に投与される薬物用としてヒトにおいて使用される。
【0023】
リポソームの粘膜アジュバント活性は、最初その粒子性に帰せられており、そのため担体の活性を意味していた。担体活性は少なくとも抗原及び担体の同時投与における担体と抗原の間のある種の物理的会合に帰せられる。しかし、ある研究で、サブユニット抗原で鼻内免疫の前48時間までに投与された空のリポソームが増強された免疫を誘導することができたということが示された。
【0024】
異なった抗原を鼻内投与で試験したとき、そのアジュバント効果の結果は相容れないものであった。殆どの試験は、防御機能と共に全身性及び分泌体液性応答の増強を明らかにしている。しかしながら、これらの研究は、鼻内にワクチンを沈積する際に麻酔が採用されていたことが指摘されており、この処置は、ワクチンを、肺を含む気管支全体を通して広げることとなる。このことは鼻に関連した組織の他にリンパ上皮性の構造を含むので、抗原が鼻腔のみに沈積したときに誘導されるのとは異なった免疫応答をもたらす結果となる。事実、リポソームは、通常貧弱な抗原提示細胞である肺胞マクロファージにおけるその効果を通して、アジュバント活性を発揮していることが示唆された。リポソームが非麻酔下の動物の鼻内で使用されたそれらの研究では、アジュバント効果は、一貫しては明らかにされてはいなかった。ウイルス膜から調製されたリポソームを使った一研究で、それは多分リポソームよりもプロテオソームとして分類することができるのであるが、非麻酔動物においてインフルエンザに対して防御するアジュバント効果を明らかに示した。それ故、リポソームのいずれのアジュバント活性のメカニズムも確立されるべきものとして残されている。更に、リポソームは使用に際し安全であるように見えるので、粘膜アジュバント活性は、なおヒトでの研究で評価されるべきである。
【0025】
ISCOM類(免疫促進複合体類、Immune−stimulating complexes)
ISCOMマトリックスは、負に荷電したかご様の構造をしており、グリコシドサポニンとコレステロール及びリン脂質との相互作用によって創製されたものであって、その中にタンパク質のような抗原が取り込まれ得る。それらは広く動物ワクチンに使用されており、体液性免疫及び細胞傷害性(CTL)T細胞介在応答の両者を誘導することが示されている。表面活性を有する組み込まれたアジュバントサポニンの内容に関連していると思われる、毒性に幾分かの関心が持たれている。
【0026】
近年、ISCOM類は、粘膜アジュバントとして試験された。しかし、アジュバント活性は、経鼻免疫が非麻酔実験動物で行われたときには明らかには示されなかった。
【0027】
生分解性高分子ミクロスフェア
生分解性高分子ミクロスフェアは、通常、加水分解によりイン・ビボで乳酸とグリコール酸に生分解するDL−ラクチド及びグリコリド(PLG)からなる粒子をいう。ワクチンは粒子に取り込まれ、そのサイズ、及び、従ってその分解率及び体内分布は制御され得る。PLG粒子は非免疫性であり、非経口的薬物分布でヒトでの使用に対し安全であることが証明されている。しかしながら、封入される抗原の分解の可能性がある有機溶媒への曝露、それと共に、微量の溶媒が粒子内に残留する可能性を含む封入処理に関し懸念がある。抗原の変化が、イン・ビボで加水分解性崩壊に際し粒子内部の酸性環境で起こる可能性がある。
【0028】
PLGに封入されたワクチン抗原での粘膜免疫の殆どの研究は、経口又は消化管経路を使用していたが、いくつかにおいては、経鼻投与が使われた。それらは、記憶応答を含む防御機能を有する免疫応答を増強し、二つの研究においては細胞介在応答が誘導された。しかしながら、CTL応答は、抗原の経口投与での研究において、PLG粒子よりもISCOM類を用いた方が一貫して誘導された。別の研究では、目に適用したとき、粒子に封入されたサイトカインを有する分泌抗体が増加したことが明らかにされた。
【0029】
ポリアルキルシアノアクリル酸のような他の粒子は、タンパク質を吸着する生体適合性粒子であることがクレームされており、経口免疫によりアジュバント活性が明らかにされていた。誘導体化したα−酸から調製されたミクロスフェアが調製され、経口投与後のアジュバント活性が明らかにされた。これらの粒子のどれも感染防御免疫の誘導は明らかにされていないし、ヒトにおいても試験されていない。
【0030】
プロテオソームは60から100nmの小胞からなる粒子であり、元来meningococciからの外膜タンパク質から調製されたものである。異なった細菌又はウイルスからの別の膜タンパク質調製物は、類似の性質及び活性を有しており、これらもまたプロテオソームと呼ばれるものである。プロテオソームは、ワクチン抗原として非経口投与でヒトでの使用に安全性が証明されており、大量生産が容易であり、粘膜表面においては弱い免疫原性である合成ペプチド又はタンパク質に結合することができる。それらの粒子性状に加えて、B細胞でそれらの効果を通してアジュバント活性を発揮する。それらの親油性の性質は、生体膜を通した吸収の増強を暗示している。
【0031】
プロテオソームは、細菌リポポリサッカライド、StaphylococcusエンテロトキシンB、及びウイルスタンパク質と共に、経鼻投与で粘膜アジュバントとして試験された。これらのいくつかの試験は、これら粒子が、防御、長期にわたる免疫応答を増加することができることを示した。それらは、少なくともコレラ毒素と同じ位良いアジュバントであった。ヒトにおいて、経鼻ワクチンとしてmeningococciからの外膜小胞を用いた最近の研究では、免疫原性が示され、副作用がないことが明らかにされた。更に、臨床的感染防御に関連している細菌抗体が誘導されたが、これは特異的抗体価のELISA測定から予想された以上に大きな殺菌活性を有していた。
【0032】
不活化細菌は、又、粘膜適用のための粒子アジュバントとしての可能性を有している。このことは、全meningococci及びpertussis細菌での最近の研究において明らかにされ、ここでは、非麻酔マウスに鼻内投与したとき、不活化インフルエンザウイルスに対する全身性及び分泌性抗体が大きく増強された。ファージを介した溶菌によって起こる、いわゆる細菌ゴースト(ghost)が、粘膜投与用の可能性のあるワクチン担体として挙げられている。
【0033】
しかしながら、細菌毒素は、その自然形で使用するには余りにも毒性が強い強力な粘膜アジュバントである。非毒性誘導体及び可溶性界面活性剤は、上皮粘膜を通してワクチン抗原の取り込みを増加するので、粘膜アジュバント活性を有している。しかし、ヒト試験に使用するときこれらの薬剤に対するアジュバント活性対寛容原性について、及び副作用についてのメカニズムに関する決着していない疑問がある。粒子性アジュバントのM細胞介在取り込みは、非増殖性ワクチン抗原の粘膜投与後の免疫応答を誘導する、より信頼できる方法のように見える。リポソーム、ISCOM類及び生分解性ミクロスフェアのような不活性粒子は、それらの安全性の記録からヒトでの使用に対し可能性を有している。しかし、経鼻投与におけるそれらのアジュバント効果は、好ましくはヒト試験において検証されることが残されている。顕著な副作用もなくヒトで経鼻的に試験された、プロテオソーム及び全細胞細菌のような細菌由来粒子は、動物において強力な粘膜アジュバントである。現時点では、そのような粒子はそれら自体免疫原性であるが、最も有望な粘膜アジュバントであるように思える。
【0034】
もし、アジュバントに関連する認識された問題及び粘膜免疫又は予防接種におけるそれらの使用を克服することができたなら、技術上の進歩であろう。
【0035】
従って、本発明は、粘膜投与に効果的なアジュバントを提供するものであり、該アジュバントは、β−1,3及びβ−1,6結合により分枝鎖に結合したグルコースモノマーからなる多糖類を含む。これらアジュバントは、粘膜表面に接触し、又は投与されるような薬物の生物学的効果を有利に調節する。驚くべきことに、アジュバントは、インフルエンザウイルスワクチン、アレルギーワクチン及び関節炎に限定されないが、これらの治療に使われるワクチンを含む、粘膜ワクチン処方の効能を増強することが示されている。
【0036】
粘膜ワクチン及びβ−1,3/β−1,6多糖類(グルカン)のアジュバントは、経口、経鼻、経直腸、経膣、消化管投与経由、或いは、ワクチン及びアジュバントが粘膜表面と接触できるような、どのような別の手段によっても、投与することができる。
【実施例】
【0037】
(粘膜用新規アジュバントの調製)
予防接種(投与)
微粒子産物:この産物は、米国特許第5,401,727号(参照することにより本明細書の一部に取り入れられている)に記載された手順に従って、乾燥Saccharomyces cerevisiaeのアルカリ及び酸での繰り返し抽出によって調製された。記載された抽出工程は、酵母細胞内部の成分及び細胞表面にある多糖類及びプロテオグリカンを含むマンノースを除去する。前に記載された手順に従って調製された産物は、粒子径2〜5マイクロメートルを有するβ−1,3β−1,6グルカンから構成されている。この微粒子β−1,3β−1,6グルカンの化学構造は、83%β−1,3結合グルコース、6%β−1,6結合及び5%β−1,3,6結合グルコースで特徴付けられ、そして分枝点としてβ−1,3,6結合グルコースを有するβ−1,3グルカン鎖である。微粒子産物は、滅菌蒸留水中の3%(w/v)懸濁液(貯蔵懸濁液)として調製され、そして0.3%ホルムアルデヒドと共に保存された。実験用微粒子アジュバント産物は、遠心分離し、ホルムアルデヒドを除去するため滅菌蒸留水中に再懸濁し、次いで粘膜投与用に適当な濃度に希釈することによって、この貯蔵懸濁液から調製された。
【0038】
酵素処理微粒子産物:この産物において、微粒子産物中のβ−1,6結合グルコースの側鎖は、ノルウエー特許第300692号に従って、ポリグルコース鎖中のβ−1,6結合に特異的に作用する酵素で酵素処理することによって選択的に除去された。米国特許第5,401,727号に記載されたものと同様にして調製された微粒子産物(0.2g)を、50mM酢酸アンモニウムバッファー40ml、pH5.0、に懸濁し、β−1,6グルカナーゼ酵素20単位と混合した。混合物を、連続的に6時間37℃で撹拌し、酵素作用を5分間煮沸によって停止した。残渣の酵素処理粒子は、滅菌蒸留水中で遠心分離及び再懸濁によって繰り返し洗浄した。得られた産物は、分枝点でβ−1,6結合することによって結合したβ−1,3グルカン側鎖を有する分枝β−1,3グルカンで、分枝点から延長する側鎖中にβ−1,6結合グルコースを有しない。
【0039】
可溶化産物:この産物は、上記により製造された粒子産物と同じ化学組成を有する。相違は、粒子がより小さい分子凝集体に分解されていて水に溶けることである。産物は、ノルウエー特許第300692号に従って作られた。微粒子産物(2g)を1リットルのギ酸(90%)に懸濁し、そして連続的に撹拌しつつ80℃に加熱した。懸濁液を、35℃に冷却し、遊離のギ酸を減圧下蒸発により除去した。残渣を0.5リットルの蒸留水に懸濁し、3時間沸騰した。懸濁液を冷却後、ミクロポアフィルター(孔サイズ0.44ミクロン)を通してろ過し、凍結乾燥した。凍結乾燥産物を、0.1リットルの蒸留水に懸濁し、蒸留水で24時間透析し(カットオフ値5000ダルトン)、凍結乾燥した。乾燥産物は、適当な水溶液に溶解して実験に使用した。
【0040】
可溶化酵素処理産物:この産物は、上記したのと同じ手順に従って得た酵素処理微粒子産物(6.1.2.)の可溶化によって作られた。
【0041】
実験用ワクチン
上記した、β−1,3β−1,6グルカン製剤のアジュバント効果を調べるために、実験用インフルエンザワクチン処方を、a)特異的抗体応答を誘導する、及びb)イン・ビトロでワクチン抗体に後に曝露したとき増殖するようT細胞を刺激する、能力に関して比較した。対照ワクチンは、アジュバントを含まない加熱不活化全インフルエンザウイルス(=INV)か、又は、アジュバントを含まない同じウイルスの精製抗原(「スプリットワクチン(split vaccine)」=split−INV)のいずれかを含有した。実験用ワクチンは、同じインフルエンザウイルスワクチン製剤から作成したが、ただし上記したアジュバントを混合した。
【0042】
使用した動物は、雌性BALB/cマウス、6〜8週令(実験開始時)であった。
【0043】
実験計画
6〜10頭のマウスを、ワクチン処方の1つで、1週間間隔にて4回鼻内で免疫した。ワクチンは、麻酔したマウスの鼻腔内に30μlの投与量を滴下投与した。対照として非免疫マウスを用いた。最終ワクチン投与1週間後に、唾液、血清及び脾細胞の試料を、特異的抗体応答及び抗原特異的T細胞増殖の解析用に採取した。
【0044】
B及びT細胞応答の解析
本研究において使用したインフルエンザワクチンに対する特異的応答として生成した抗体のIgG及びIgA型を、血清及び唾液の両者について、酵素免疫測定法(ELISA)に記載された方法で解析した。イン・ビトロでの脾細胞培養におけるCD4+T細胞の抗原特異的増殖をC14標識チミジンの核酸への取り込み率を測定することによって解析した。
【0045】
結果
上記した全てのβ−1,3β−1,6グルカン産物が、先天的及び非特異的防御機構を刺激することによって(米国特許第5,401,727号;ノルウエー特許第300693号参照)動物の疾病抵抗性を増強することは公知である。β−1,3β−1,6グルカンは、それ自身に対して抗体産生を誘導しないことも公知である。β−1,3β−1,6グルカンは、動物にワクチン抗体と共に注射するとき、ワクチンの効果を増強するアジュバントとして作用するであろうことが以前から仮定されていた。しかしながら、β−1,3β−1,6グルカンの動物の粘膜表面への投与が、粘膜表面に投与された抗原に対しより活性に応答するような方法で体内の特異的免疫系に影響することは、以前から示されていなかった。以下の実施例は、β−1,3β−1,6グルカン産物が、粘膜表面に共同的に投与されたワクチン抗原に対して、特異的抗体を産生するように増強した能力を誘導すること、そして更に、β−1,3β−1,6グルカン産物が、脾臓内のT細胞を、同じワクチン抗原の後の曝露に対してより活発に応答するように刺激することを示している。
【0046】
(例1)
表1:ワクチンのみ、又は実験用アジュバントを混合した同じワクチンで、マウスを経鼻免疫化した後、インフルエンザウイルス「スプリットワクチン」(split−INV)に対して生成した血清抗体の量(数字はIgGキロ単位/mlを示す)。
【表1】

【0047】
例1のデータは、新規アジュバント処方、本件の場合微粒子産物が、非増殖インフルエンザウイルスワクチンと共に、マウスの鼻腔内に投与したとき、インフルエンザワクチン抗原に対する血清(IgG)抗体の産生を増強することを示している。
【0048】
(例2)
表2:ワクチンのみ、又は実験用アジュバントを混合した同じワクチンで、マウスを経鼻免疫化した後、インフルエンザウイルス「スプリットワクチン」(split−INV)に対する分泌(唾液)抗体の量(数字はIgA単位/mlを示す)。
【表2】

【0049】
例2のデータは、新規非増殖アジュバント処方、本件の場合微粒子産物が、非増殖インフルエンザウイルスワクチンと共に、マウスの鼻腔内に投与したとき、インフルエンザワクチン抗原に対する分泌抗体(IgA)の産生を増強することを示している。
【0050】
(例3)
表3:ワクチンのみ、又は実験用アジュバントを混合した同じワクチンで、マウスを経鼻免疫化した後、全インフルエンザウイルスワクチン(=whole INV)に対する分泌(唾液)抗体の量(IgA単位/ml)。
【表3】

【0051】
例3のデータは、新規非増殖アジュバント処方が、マウスの鼻腔内に共投与した全インフルエンザウイルスワクチン中の抗原に対しても、又、分泌抗体(IgA)の産生を増強することを示している。
【0052】
(例4)
表4:インフルエンザウイルス抗原への後の曝露に対して応答するマウス脾T細胞を「刺激する」インフルエンザウイルス抗原の能力に対する新規粘膜アジュバントの効果。インフルエンザワクチン(=INV)は鼻噴霧で与え、単独又は新規アジュバント25、75及び150マイクログラムと共に投与した。3週間後、同じインフルエンザワクチンに対して応答する脾T細胞の能力を、放射性チミジンの核酸への取込み率(cpm)として表される、増殖率としてイン・ビトロで測定した。
【表4】

【0053】
例4のデータは、実験用微粒子アジュバント処方が、非増殖性インフルエンザワクチンと共にマウスの鼻腔に投与した場合、後に同じインフルエンザワクチンに脾T細胞を曝露したときに脾T細胞の増殖能力を増強したことを示す。このことは、新規アジュバント処方が、粘膜表面に投与された抗原に対する抗原特異的T細胞応答用の真の粘膜アジュバントであることを示している。
【0054】
(例5)
表5:3週間前に、アジュバントなし(対照)、及び新規アジュバント75マイクログラムを含有(実験用ワクチン)した、経鼻インフルエンザワクチンで予防接種されたマウスにおける脾T細胞の増殖応答。T細胞を、インフルエンザウイルスワクチンの0.8マイクログラム/ml又はアジュバントの0.8マイクログラムで、イン・ビトロで刺激した。応答は、放射性(cpm)チミジンの核酸への取込み率として測定した。
【表5】

【0055】
例5のデータは、粘膜アジュバント製剤が、同じアジュバントに後に曝露されたときに脾T細胞が応答するように刺激しないことを示し、新規粘膜アジュバント製剤はT細胞用の抗原として作用しないことを示している。比較すると、T細胞は、ワクチン中のインフルエンザウイルス抗原の後の曝露に対して応答するように刺激され、そしてこの刺激は、新規非複製粘膜アジュバント処方によって著しく増強され、粘膜ワクチン処方におけるアジュバントとしての力価を示している。
【0056】
(例6)
表6:アジュバントなし(対照ワクチン)又は新規アジュバントと混合(75マイクログラム/ml)(実験用ワクチン)の全インフルエンザワクチン(25マイクログラム/ml)の繰り返し経鼻投与の、マウスにおけるインフルエンザウイルスに対する分泌(唾液)抗体の産生に対する効果。マウスは、経鼻で、1週間間隔で4回、実験開始時(0、1、2、3週目)、その後8、9、10及び11週目、その後16、17、18及び19週目に予防接種された。唾液を4、8、12、16及び20週目に採取し、抗INVIgA含量を分析した(数字はU/mlを示す)。
【表6】

【0057】
例6のデータは、新規微粒子アジュバント産物が、インフルエンザウイルス抗原に対する寛容を誘導しないこと、及び分泌IgA産生に関する粘膜アジュバントの効果が、鼻腔中の粘膜表面への抗原の繰り返し投与を少なくとも20週間行うことで保持されることを示している。
【0058】
(例7)
表7:アジュバントなし(対照ワクチン)又は新規アジュバント(75マイクログラム/ml)(実験用ワクチン)の全インフルエンザワクチン(25マイクログラム/ml)の繰り返し経鼻投与のマウスにおける、インフルエンザウイルスに対する血清抗体の産生に対する効果。マウスは、経鼻で、1週間間隔で4回、実験開始時(0、1、2、3週目)、その後8、9、10及び11週目、その後16、17、18及び19週目に予防接種された。血液試料を4、8、12、16及び20週目に採取し、抗INVIgG含量を分析した(数字はU/mlを示す)。
【表7】

【0059】
例7のデータは、新規粘膜アジュバント、この場合は微粒子産物が、インフルエンザウイルス抗原に対する寛容を誘導しないこと、及び血清IgG産生に関する粘膜アジュバントの効果が、鼻腔中の粘膜表面への抗原の繰り返し投与を少なくとも20週間行うことで保持されることを示している。
【0060】
上記実施例は、以下に述べる特許請求の範囲を支持する実験からの代表的な結果を示す。数字は異なるものの、対応する結果は、本明細書に記載された4つの全てのアジュバント製剤で得られた。
【0061】
他の例
上記実施例は、β−1,3β−1,6グルカン産物が、粘膜表面と接触するとき、ウイルスワクチン抗原及び脾T細胞の抗原特異的刺激に対する特異的抗体の産生のような体内機能に対する効果を誘導することを示している。類似の結果が、粘膜ワクチン中の細菌抗原、特にNeisseria meningitidis及びBordetella pertussisの抗原を用いても得られている。
【0062】
更に、同じ産物が、粘膜表面に投与されたとき、炎症反応及びアレルギー応答の注目すべき目に見える減少を引き起こすということが本明細書に初めて報告される。このことは、非特異的免疫を増強する産物に対する明白な逆説的応答であり、そしてそれゆえに予測されざる観察であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘膜表面に投与された医薬物質の効果を調節する、β−1,3結合及びβ−1,6結合によって分枝鎖中に共に結合したグルコースモノマーから構成された多糖類を含むアジュバント組成物。
【請求項2】
物質がワクチン処方である請求項1記載の組成物。
【請求項3】
物質がインフルエンザウイルスワクチンである請求項1記載の組成物。
【請求項4】
物質が鼻腔に投与される請求項1記載の組成物。
【請求項5】
物質が経口投与される請求項1記載の組成物。
【請求項6】
物質が粘膜アジュバント製剤と混合される請求項1記載の組成物。
【請求項7】
物質が粘膜アジュバント製剤の前に、同時に、又は後に投与される請求項1記載の組成物。
【請求項8】
物質及び粘膜アジュバント製剤が鼻内噴霧剤又は点鼻剤として投与されることを意図した請求項1記載の組成物。
【請求項9】
該物質がアレルギーに対して使用されることを意図した請求項2記載の組成物。
【請求項10】
該物質がアレルギーに対して使用するためのものであり、そしてコルチゾン誘導体である請求項9記載の組成物。
【請求項11】
アレルギーに対する物質が気管支拡張剤を含む請求項10記載の組成物。
【請求項12】
物質が関節炎に対して使用されることを意図した請求項2記載の組成物。
【請求項13】
物質が経膣、経直腸又は経胃投与用であることを意図した請求項1記載の組成物。

【公開番号】特開2011−190278(P2011−190278A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−138288(P2011−138288)
【出願日】平成23年6月22日(2011.6.22)
【分割の表示】特願2001−561347(P2001−561347)の分割
【原出願日】平成13年2月2日(2001.2.2)
【出願人】(502250695)バイオテク ファーマコン エイエスエイ (3)
【Fターム(参考)】