説明

粘膜内壁の生物物理学的な性質を変化させる製剤

【課題】体内に存在する粘膜内壁の生物物理学的性質を変化させる方法を提供すること。
【解決手段】荷電物質を含む導電性の生物適合性製剤であって、前記導電性製剤は、人または他の動物の粘膜内壁液または粘膜内壁に投与された時、誘電正接(loss tangentもしくはtanδ)、表面張力、または粘性により定義される粘膜内壁液の表面粘弾性を変化させる導電性の生物適合性製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粘膜内壁の粒子の発散を制御し、薬物分子と病原体の動態を変化させる製剤と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの器官は液体粘膜内壁を有しており、その液体粘膜内壁の生物物理学的な性質により、正常な機能が促進されたり妨害されたりする。多種多様な健康被害が粘膜内壁と関係している。例えば、通常の呼吸の間に、上気道粘膜内壁体液(UAL)から「発散した」粒子は、呼吸の吸入を通じて健康な個体中に広がる能力を有する重症急性呼吸器症候群(SARS)、インフルエンザ、結核などを引き起こす感染力のある細菌性またはウイルス性の病原体を運んでくると考えられている。また、UALの表面張力が閉塞型睡眠時無呼吸症候群において重要な役割を果たしていることが示されている。また、ウイルス/ミコバクテリウムによる腸管の粘膜内壁の変性は、時間の経過と共に、炎症性腸疾患を引き起こすと可能性がある。これらの健康被害の症状の多くは、粘膜内壁の生物物理学的な性質の変性を制御することによって、効果的に、治療/予防することができる。さらに、粘膜内壁の生物物理学的な性質は病原体や薬物分子の体内への取り込みに影響を与えることができる。従って、これらの性質の操作を、病原体の取り込みの予防、または、薬物分子の取り込み/生物学的利用の改善に使用できる可能性がある。
【0003】
空気感染は、病原体感染の主なルートの1つである。肺と鼻腔からでる粘液小滴から成るエアロゾルは、人間または動物が咳をするか、単に呼吸するときに、生産される。これらのバイオエアロゾルは、人間または動物に接触することで吸入され病気を媒介する病原体を含むことができる。加えて、上気道で生じる呼吸により吸い込みやすい病原性のバイオエアロゾルは、病気の症状を悪化させ実質的に感染している宿主によって最吸入され得る。
【0004】
特に呼吸によって感染する場合、ウイルス性、細菌性の感染症はしばしば非常に伝染しやすい。コロナウイルスにより引き起こされることが知られているSARSに関するレポートは、空気感染による感染の速度がどれほど早いかを証明している。例えば、インフルエンザのような他の病気は、空気感染により感染し、早急に大流行し、老人や免疫力が低下した人が多数犠牲となる。
【0005】
呼吸器系の感染症の流行は人間に限定されるものではない。口蹄疫ウイルス(FMDV)は口蹄病(FMD)の病因物質である。口蹄病は牛、豚、その他の偶蹄類の病気である。FMDは、感染した動物の舌、鼻、鼻口部、馬蹄輪の水胞の形成により特定される。いくつかの固有の特徴をもっていることから、口蹄疫は今日世界の中でも最も経済的に破壊的な病気であるとされている。接触とエアロゾルによる感染により、その組み合わせが感染力を高めることとなり、実質的に、全てではないにしても、群れの殆どの個体はFMDを発症する。特に冷蔵による、感染した動物の組織と器官による、FMDVの長期保存により、食物連鎖を通して、国家的および国際的な伝染の機会が生じる。複数の血清型と多数の亜種型の存在のため、ワクチンの効果と信頼性は減少している。予防接種をされた動物の中のキャリアの開発とFMDから回復した動物が新しい大流行の潜在的な素となる。これらの特徴により、世界中の家畜経営において巨大な経済的影響を有する病気となっている。英国連邦の家畜におけるFMDの流行は、以前に感染していない地域において感染が生じる懸念が残っている(Ferguson, 他., Nature 2001 414(6861):329)。感染の流行の力学モデルから得られた予測によると、必要な範囲で流行を制御するには、拡張選択プログラムが重要であったと示され、さらに、流行の初期に最も効果的な方法が使用されていたなら、その流行は実質的に抑えられていたと、示された。
【0006】
UALから伝染性のエアロゾル物質を「発散する」ことを予防するか減少させることに加えて、体内の粘膜内壁の生物物理学的性質を変化させることにより、いくつかの他の目的を達成できる。1つの目的は、閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSA)の発生の制御である。OSAは睡眠中に発生し、上気道の頻繁な閉鎖と最開放を繰り返す。OSAは、睡眠咽頭弛緩筋(sleep-relaxed throat muscles)が息を吸う時に完全に収縮している場合、特に咽頭が細い人(遺伝的要因、もしくは腫れや脂肪の蓄積などの外的要因により)に、生じやすい。アルコールの消費と同様に抗ヒスタミン剤のような特定のアレルギー薬は、のどを弛緩させることとなり、OSAを引き起こす。慢性のOSAは、一般の人の中で、約4%の人で見られ、夜間は、呼吸の途切れや呼吸の停止が増加し、日常生活においては疲労と突然の睡魔に襲われる。麻酔されたウサギの研究で、UALの表面張力が、ウサギの上気道の開口性に影響をあたえることが示され、UALの表面張力がOSAの発生に重要な枠割りを果たしているらしいと結論付けられている(Kirkness, J. P.他. J Physiol 2003, 547.2 pp. 603-611)。
【0007】
粘膜内壁が重要な役割を果たしている他の器官は、胃腸系である。過敏性腸症候群(IBS)は腸の炎症性疾患で、いくつかの異なる理由(正確な原因がわかっていないが)により進行する。しかしながら、最近の研究によると、IBSの進行が病気への遺伝的感受性の問題である多くの場合では、特定のウイルスまたは細菌が腸の粘膜内壁を変性させることができ、時間の経過と共に、その変性がIBSの進行を引き起こすことができることが示唆されている(A.D.A.M., http://adam.about.com/reports/000069_l.htm, May 12, 2005)。その研究によると、子供のIBSの進行と、特に特定されたはしかのような小児期感染症の感染増加頻度には相関があることが報告されている。粘膜内壁の性質を変性させることのできる他の感染症の研究中の試薬は、大腸菌(Escherichia Coli(E. Coli))とサイトメガロウイスル(Cytomegalovirus(CMV))である。IBSの研究の中の1つでは、登録された43%をこえる感染症がCMVの影響を受けると報告された。
【0008】
粘膜内壁は体内の多くの領域で免疫系の最初のスクリーニング機構であり、選択的に下層の上皮層から血流にまで有益な成分のみ通過させ、有害な病原体とアレルゲンの取り込みを予防する。有害な取り込みを予防する主要な構成要素は、抗ウイルス性活性、抗菌性活性、抗炎症性活性で、抗アレルギー性活性を示す、分泌性免疫グロブリンA(IgA)である(Williams, J. E., Alternative Medicine Review Vol. 8, Number 9, 2003)。IgAは、粘膜の表面、もしくはその近傍で、化学的に病原体/アレルゲンが粘膜層を通過するのを予防する。最終的には、病原体/アレルゲンは、大便や小便、呼吸器を通じて、繊毛細胞の活性を利用して、排出される。しかしながら、多くの病原体は、粘膜層に浸透するために、高度に進化した化学輸送システムを有しており、免疫欠陥のある個体においては、病原体の取り込みを予防する機構は無効、無力化される。粘膜内壁の生物物理学的性質の変化により(例えば粘膜表面のゲル化の促進)、病原体の粘膜内壁への物理的浸透能力を減少、予防することができかもしれない。粘膜内壁の副次的な効果として、有益な薬剤も、有害であるとみなされ、粘膜内壁の通過を阻害される可能性がある。粘膜内壁の生物物理学的性質の変化により、薬剤の内層への浸透力を増加させ、薬剤分子の取り込む効率を改良できる。内層へ十分に吸収されない抗生物質とペブチドを効果的に輸送するために、様々な方法と製剤がある。ラウリル硫酸ナトリウム、キレート剤、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)のようなイオン性界面活性剤によると、薬剤分子の腸管吸収を促進することが見出されている。しかし、不幸なことに、これらの物質を多量に摂取すると粘膜の膜に有害であることが見出されている。
【0009】
国際公開WO03/092654号パンフレット(David Edwards他)では、バイオエアロゾルの拡散を予防する界面活性剤のような物質によって、感染症の蔓延を減少させる方法が、記述されている。この技術は、膜表面の変性と、肺の内在性界面活性剤の物理的性質に基づいた技術であり、それにより、少数のバイオエアロゾルを排出させることができる。
【0010】
国際公開WO2005/084638号パンフレット(Pulmatrix他)では、内在性界面活性剤流体の希釈を通して、体液の内側を覆っている肺粘液の表面張力、表面の弾力と大きさ粘性などの物理的性質を変化させる非界面活性剤溶液が記述させている。等張性食塩液、高緊張の食塩液、活性材料を浸透して含んでいる他の溶液であって良い。製剤は、内在性界面活性剤が希釈された塩または浸透している活性物質を有する粉末として、投与されると良い。エアロゾルは、溶液、懸濁液、噴霧、霧状のもの、蒸気、液滴、粒子、乾燥粉末であって良い。塩類または糖類の典型的な濃度は溶質の5〜6%の範囲にある。製剤は、去痰を引き起こさず、肺の気道の内側の表面安定性を減少させるのに有効量で、投与される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開WO03/092654号パンフレット
【特許文献2】国際公開WO2005/084638号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
バイオエアロゾル形成および/または感染の拡大をさらに制限する手段が求められている。したがって、本発明は、体内に存在する粘膜内壁の生物物理学的性質を変化させる方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、体内に存在する粘膜内壁の生物物理学的性質を変化させる組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
塩類、イオン性界面活性剤、水溶液または有機溶媒中でイオン化されている、もしくは容易にイオン化される物質のような荷電物質を含む導電性の製剤と、その使用法を開発した。製剤は、任意に、抗ウイルス剤、抗菌物質、抗炎症剤、タンパク質またはペプチドのような一つか二つ以上の活性剤を含んでいても良い。活性剤は製剤とともに投与してもよいし、製剤中に含まれていても良いし、また、導電性の製剤の投与後、投与しても良い。粘膜内壁液に使用された時、製剤は、例えば、粘膜内壁の空気/液体の界面、粘膜内壁の表面張力、粘膜内壁の表面の粘性、粘膜内壁の表面の弾性、粘弾性のような物理的性質を変化させる。製剤は、体の粘膜内壁の生物物理学的な性質を変化させるのに十分な量で投与する。本製剤は、いくつかの異なった目的に使用することができる。例えば、ウイルス性感染症、細菌性の感染症、および、例えば、重症急性呼吸器症候群(SARS)、インフルエンザ、結核、人のRSV、偶蹄類の口蹄疫などのウイルス性、細菌性の伝染病の拡大の減少;(例えば、風邪などの)急性感染症を含む咽頭の炎症やうっ血、喘息、慢性気管支炎、気腫、気管支拡張症などの緩和;クリーンルームに特に適用されるとき重要である、呼吸、咳、くしゃみ、会話中の粒子形成による空気からの雑菌混入の最小化;閉塞型睡眠時無呼吸症候群の発生と過敏性大腸症候群のいくつかの症例の減少と予防;薬物分子と病原体の取り込みの制御である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、実施例で使用した呼吸シミュレーションマシン(SRM)装置の模式図である。
【図2】図2は、疑似粘液上の異なるエアロゾル化された製剤投与後の累積粒子数(>300nm)の棒グラフである。測定は、(3psi気圧下、疑似粘液の高さ2mm(総疑似粘液量6.4ml)、架橋反応15分、製剤のエアロゾル化時間2分で)試験管内(in vitro)で、SRM装置を使用した。
【図3】図3は、疑似粘液上の異なるエアロゾル化された製剤(水中および生理食塩水中で)投与後の累積粒子数(>300nm)の棒グラフである。測定は、(3psi気圧下、疑似粘液の高さ2mm(総疑似粘液量6.4ml)、架橋反応15分、製剤のエアロゾル化時間2分で)試験管内(in vitro)で、SRM装置(水中および生理食塩水中で)を使用した。
【図4】図4は、ブッルクヘブン ゼータパルス ゼータサイザー(Brookhaven ZetaPALS zetasizer)(Brookhaven Instruments, Holtsville, ニューヨーク)で測定した製剤の誘電率(μS/cm)と、試験管内(in vitro)で、SRM装置で(3psi気圧下、疑似粘液の高さ2mm(総疑似粘液量6.4ml)、架橋反応15分、製剤のエアロゾル化時間2分で)測定した累積粒子数(>300nm)のグラフである。
【図5】図5は、界面応力血流計(interfacial stress rheometer;ISR)により(0.25Hz、製剤のエアロゾル化時間2分、架橋反応75分で)測定した誘電正接(loss tangent)と、試験管内(in vitro)で、SRM装置で測定した累積粒子数(>300nm)のグラフである。
【図6A】図6Aは、疑似粘液上の異なるエアロゾル化された製剤投与後の累積粒子数(>300nm)の棒グラフである。測定は、(4psi気圧下、疑似粘液の高さ2mm(総疑似粘液量6.4ml)、架橋反応15分、製剤のエアロゾル化時間2分で)試験管内(in vitro)で、SRM装置を使用した。
【図6B】図6Bは、同様製剤投与対して、処置をしていない疑似粘液と比較したときの累積粒子の抑制の割合(>300nm)の棒グラフである。測定は、図6Aと同様の条件で、(4psi気圧下、疑似粘液の高さ2mm(総疑似粘液量6.4ml)、架橋反応15分、製剤のエアロゾル化時間2分で)試験管内(in vitro)で、SRM装置を使用した。
【発明を実施するための形態】
【0015】
多種多様の多種多様な健康被害は粘膜内壁の性質と関係している。従って、粘膜内壁の生物物理学的性質を変化させる能力は、病気の蔓延の治療と予防に価値のあるツールである。加えて、粘膜内壁の生物物理学的性質の変化を利用することで、病原体だけでなく薬剤の取り込みの制御が可能となる。
【0016】
粘膜内壁は複数の物質からなる。内層表面の電荷と電荷の分布が変化することで粘膜内壁中の架橋機構が変性する。その後、これにより、呼吸、咳、くしゃみ、会話中のエアロゾル形成の抑制(これにより、インフルエンザやSARSなどの伝染病の拡大の最小化);(例えば、風邪などの)急性感染症を含む咽頭の炎症やうっ血、喘息、慢性気管支炎、気腫、気管支拡張症などの緩和;薬物分子の取り込み/生物学的利用可能性の増加;神経内層を通して病原体の取り込みの抑制、などの様々な病気の予防と治療に有効な粘膜内壁の生物物理学的変性を引き起こすことができる。
【0017】
粘膜内壁の粘弾性や体積粘性率などの生物物理学的性質は、試験管内(in vitro)の実験で決定することができる。粘弾値G*は、実数として、弾性係数G’、そして粘性係数(またはロス(LOSS)係数)G”を含む複素数としてあらわされる。その関係は下記に示した通りである。
【数1】

ここで、G*は弾性値であり、機械インピーダンスとして知られているものである。
また、G’は弾性係数または保存係数であり、
G”は粘性係数またはロス(LOSS)係数である。
【0018】
負荷(ストレス)と測定した反応(張り、strain)の間の位相のずれのタンジェントが弾性係数と粘性係数の割合に等しい。これは一般に“誘電正接(loss tangent)”または“tanδ”と示され、下記のように示される。
【数2】

【0019】
誘電正接(loss tangent)は、システムの減衰の基準として使用される。粘弾性サンプルの場合、0°<δ<90°である。半流動体サンプルの場合、δ>45°でG”>G’である。半固体サンプルの場合、δ<45°でG”<G’である。例えば、tanδが大きくなると、G’に関係するG”が大きくなり、従って、粘度が大きいと、物質のエネルギーを蓄える能力が小さくなる。完全な弾性固体においては、tanδは0となる(ここで、G’>G”)。物質の粘弾性を測定するために、ストレスの正弦関数が使用され、反応(strain)の正弦関数を開発した(量によってストレスがずれる)(実施例4参照)。反応とずれの両方の数値を測定することができ、その測定から、G’とG”を決定できる。
【0020】
肺の粘膜繊毛のクリアランスは、粒子を覆っている液体層に現存する粒子から気道を清潔に保つための主要な機構である。誘導気道には粘膜繊毛が立ち並んでおり、粘膜繊毛は、繊毛運動(beat)し、咽頭に向かって粘膜の層を駆動して、それにより、24時間にわたって最も低い繊毛領域をクリーニングする。流体コーティングは、水、砂糖、タンパク質、グリコプロテインと脂質が含まれる。流体コーティングは気道上皮と粘膜下腺に発生し、人間、ネズミ、および、モルモットで、その層の厚みは、気管での数μmから、気道末梢での約1μmの範囲にある。
【0021】
肺を清潔に保つための第2の重要な仕組みは、粘液コーティングへの、肺を介した空気の流れによる、運動量の移動を介したものである。咳をすることで、運動量の移動が増加し、それにより、体が過剰な粘液を排出することを助けることになる。多くの病気の症状と関係する粘液分泌が過剰な時に生じることであるが、粘液が繊毛の繊毛運動(beat)で十分に排出できないときに、それは重要になる。効果的な咳であれば、200m/s程度の気流が発生する。粘液層の不安定な正弦波変動(disturbance)の発生は、そのような対気速度で観察された。この変動(disturbance)は、空気から粘液への運動量の移動の促進により生じたものであり、従って、それにより肺からの粘液の浄化の割合を高めることになる。膜の厚さ、表面張力、粘性の機能を示す値がある臨界こえる対気速度となったときに、この変動(disturbance)が発生することが、実験によって示された(M. Gad-El-Hak, R.F. Blackwelder, JJ. Riley. J. Fluid Mech.(1984)140:257-280)。理論的な予測と、粘液に似せた薄膜の実験によると、肺で変動(disturbance)が始まる臨界値は、5〜30m/sである。
【0022】
PapineniとRosenthal (J. Aerosol Med., 1997, 10(2): 105-116)が示したところによると、標準的な口と鼻の呼吸、咳の間に、通常の人間は、より多くの蒸発したバイオエアロゾルの液滴を伴って、直径1μm未満の数十から数百の液体上のバイオエアロゾルの液滴を吐き出す。咳をすることで、吐き出される粒子の平均径は1μm未満であるにも関わらす、粒子を最大多数吐き出すことが示されている。これらの粒子の大部分は、吸収した病原体より大きい(例えば150nmを超える)。通常吸入される病原体で、同定されている大きさは、例えば、結核菌で1000〜5000nm、インフルエンザで80〜120nm、はしかで100〜250nm、水痘で120〜200nm、FMDで27〜30nmである。
【0023】
I.製剤
本発明の以下に説明する製剤は、粘膜内壁の生物物理学的性質を変化させるのに効果的である。これらの性質は、粘液表面のゲル化、粘膜内壁の表面張力、粘膜内壁の表面の弾力と、粘膜内壁の体積粘弾率が含まれる。肺の被覆液の生物物理学的性質を変化させるために好ましい製剤は、特定の電荷密度と流動性、および液体の導電率を含んでいる製剤である。
【0024】
適切な製剤は導電性を有する水溶液または懸濁液を含む(また、本明細書中では「導電性の製剤」と示す)。適切な製剤は、典型的には、導電率の値が5,000μS/cmを超え、好ましくは10,000μS/cmを超え、より好ましくは20,000μS/cmを超える。適切な実施形態としては、製剤はイオン性の生理食塩水の導電率を超える導電率を有していることである。これらの製剤は、粒子の放出を抑制するために投与した場合が、特に有用である。溶液の導電率は、イオン強度、濃度、および流動性 (後者2つは、全体として、製剤の導電率に寄与する)の積である。イオン性の構成要素は同のような形(陰イオン性、陽イオン性、もしくは両性)でも使用できる。これらの導電性の物質は、粘膜内壁の性質を、活性、例えば、粘膜内の架橋剤のような活性により、変化させることができる。ここで述べている製剤中のイオン性の構成要素は、通常の気管気管支粘液の内で強く結合した陰イオン性のグリコプロテインと相互作用しても良い。これらの相互作用は共有結合、水素結合、疎水性結合および静電相互作用を含んだ非共有結合であるために、気道内壁液の気体/液体界面の状態、および一過性で物理的な絡み合いの性質に影響を与える(Dawson, M他, The Journal of Biological Chemistry. Vol. 278, No. 50, pp. 50393-50401 (2003))。
【0025】
製剤は、任意に、MUC5ACムチン、MUC5Bムチン、核酸、N−アセチルシステイン(NAC)、システイン、ナステリン(nacystelyn)、ドルナーゼ アルファ(dornase alfa)、ゲルゾリン、ヘパリン、硫酸ヘパリン、P2Y2作用薬(例えば、UTP、INS365)およびネドクロリム(nedocromil)ナトリウムのような粘液活性剤(mucoactive agents)または、粘液溶解剤(mucoactive agents)を含む。
【0026】
製剤は特定の用途のために設計することもできる。ある実施例においては、製剤は粘膜内壁をより液体状とするために、粘膜表面に投与し、他方、他の実施例では、製剤を、粘膜内壁をより固体状にするために、投与することもある。例えば、病原体の取り込み、または粒子の放出を減じるために、製剤は粘膜内壁の固体性を高めるよう(例えば、δが45°未満、上記の式2参照)に設計する。逆に、薬剤の取り込みを増加させるために、製剤は粘膜内壁の液体性を高めるよう(例えば、δが45°を超える、上記の式2参照)に設計する。
【0027】
a.導電性試薬
本発明の製剤は、水溶液中、または有機溶媒中で、容易にイオン化する物質(ここでは「導電性試薬」と示す)を含む。導電性試薬としては、例えば、塩、イオン性界面活性剤、荷電アミノ酸、荷電タンパク質またはペプチド、荷電核酸、および荷電物質(陰イオン性、陽イオン性または両性)が挙げられる。塩としては、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、珪素、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロミウム、コバルト、ニッケル、銅、マンガン、亜鉛、スズ、および類似の元素のあらゆる塩が含まれる。例えば、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、リン酸カルシウム、アルギン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ソルビン酸カルシウム、硫酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、三ケイ酸マグネシウム、炭酸水素カリウム、塩化カリウム、クエン酸カリウム、ホウ酸カリウム、亜硫酸カリウム、リン酸水素カリウム、アルギン酸カリウム、安息香酸カリウム、塩化マグネシウム、硫酸第二銅、塩化第二クロム、塩化スズ、およびメタケイ酸ナトリウム、ならびに類似の塩である。適切なイオン性界面活性剤としては、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)(またはラウリル硫酸ナトリウム(SLS)として知られている)、ラウリル硫酸マグネシウム、ポリソルベート20(Polysorbate20、商標)、ポリソルベート80(Polysorbate80、商標)、および類似の界面活性剤が含まれる。適切な荷電アミノ酸としては、L-リジン、L-アルギニン、ヒスチジン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、システイン、チロシンが含まれる。荷電アミノ酸を含んだ荷電タンパク質またはペプチドは、カルモジュリン(CaM)、トロポミンCが含まれる。1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−エチルホスファコリントリフラート(EDOPC)、アルキルホスファコリントリエステル(alkyl phosphocholine trimesters)のような荷電リン脂質を使用することもできる。陰イオン性のリン脂質としては、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロールおよびホスファチジン酸、カルジオピリン、ジアルカノイルホスファチジルグリセロール(ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、およびジミルストイルホスファチジルグリセロール)、ホスファチジルイノシトール−4−リン酸(PIP)、ホスファチジルイノシトール−4,5−ビスリン酸(PIP2)、およびホスファチジルエタノールアミンが含まれる。陽イオン性のリン脂質としては、ジオレオイルトリメチルアンモニウムプロパン、ならびに、例えば、ジパルミトイルホスファチジン酸、およびジステアロイルホスファチジン酸をアミノアルコール(例えば、ヒドロキシエチレンジアミン)と反応させたホスファチジン酸エステルを含む。
【0028】
好ましい製剤は、塩、例えば生理食塩水溶液(0.15MのNaClまたは0.9%のNaCl)、CaCl2溶液、CaCl2生理食塩水溶液、または、例えばSDSまたはSLSのようなイオン性界面活性剤を含んでいる生理食塩水溶液を含んでいる製剤である。好ましい実施形態によれば、製剤は生理食塩水溶液、およびCaCl2を含んでいる。塩または他の導電性物質/荷電物質の適切な濃度範囲は0.01〜20%(導電性物質または荷電物質の質量÷製剤の質量)であり、好ましくは、0.1〜10%(導電性物質または荷電物質の質量÷製剤の質量)であり、より好ましくは、0.1〜7%(導電性物質または荷電物質の質量÷製剤の質量)である。好ましい実施形態によれば、製剤は高浸透圧の生理食塩水溶液(例えば、0.9質量%を超える塩化ナトリウム濃度)を含む。
【0029】
生理食塩水溶液は、例えばベータ作用薬、副腎皮質ステロイドまたは抗生物質のような治療に必要な少量の活性剤とともに、継続的に肺に長期にわたり輸送される。例えば、VENTOLIN(登録商標)吸入溶液(GSK)は、喘息と運動によって誘発される気管支痙攣症の長期の治療に使用される硫酸アルブテロール溶液である。噴霧療法に使用するVENTOLIN(登録商標)は、溶液の総量が3mlとなるように、無菌の通常の生理食塩水に1.25〜2.5mgの硫酸アルブテロール(0.25〜0.5mLの水溶液中で)を混合することで(患者自身が)準備する。たとえ、たとえ噴霧化時間が5〜15分の間であっても、VENTOLIN(登録商標)噴霧化による肺への生理食塩水の輸送に関連する副作用は見つかっていない。また、去痰を誘導するために、生理食塩水をより相当量、輸送する。しばしば、これらの生理食塩水溶液は高浸透圧(0.9質量%を超える塩化ナトリウム濃度であり、しばしば5質量%程度となる)であり、一般に、20分程度で輸送される。
【0030】
b.活性成分
ここに明らかにされる製剤は、抗生物質、抗ヒスタミン剤、気管支拡張薬、咳抑制剤、抗炎症剤、ワクチン、佐剤、および去痰剤を含む抗ウイルス剤と抗菌剤のような、様々な有機または無機分子、特に小分子量の薬剤のあらゆる輸送のためのどのような投与方法であっても、用いることができる。高分子の例としては、タンパク質および巨大ペプチド、多糖類およびオリゴ糖類、DNAおよびRNAの核酸分子、ならびに、治療活性、予防活性、または診断用の活性を有しているそれらの核酸分子のアナログが含まれる。核酸分子は、転写を抑制するために相補的DNAと結合するアンチセンス遺伝子、およびリボザイムを含む。好ましい試薬は、抗ウイルス剤、ステロイド、気管支拡張薬、抗生物質、粘液生産抑制剤とワクチンである。
【0031】
好ましい実施形態によれば、活性剤の濃度は0.01〜20質量%であり、より好ましい実施形態によれば、0.1〜10質量%である。
【0032】
II.投与のためのキャリアとエアロゾル
製剤は、溶液、懸濁液、噴霧、霧状のもの、蒸気、液滴、粒子、乾燥粉末により輸送されて良い(例えば、HFA推進剤を含んだ定量噴霧式吸入器、非HFA推進剤の定量噴霧式吸入器、ネブライザー、加圧缶、または連続噴霧器)。キャリアは、溶液または懸濁液(液体製剤)を介して投与する場合のキャリアと粒子(乾燥粉末製剤)を介して投与する場合のキャリアに分けることができる。
【0033】
A.異なる粘膜内壁に投与するための投薬形態
気道の粘膜表面への投与のために、製剤は一般的には溶液、懸濁液または乾燥粉末である。好ましくは、製剤はエアロゾル化する。製剤は、例えば、乾燥粉末吸入器(DPI)、ネブライザーまたは加圧式定量噴霧式吸入器s(pMDI))のようなエアロゾル発生器によってでも発生させることができる。ここで用いられる用語「エアロゾル」は、典型的には直径10μm未満の粒子の噴霧状の製剤を表す。水性製剤エアゾール粒子の好ましい平均直径は約5μmであり、例えば0.1〜30μmであり、そして、好ましくは0.5〜20μmであり、最も好ましくは0.5〜10μmである。
【0034】
頬側粘膜を含む口腔粘膜への投与する場合、製剤は、経口投与の後で溶解する、および/または、粘膜表面もしくは粘膜液に付着する固体として投与すると良い。
【0035】
膣の粘膜への投与する場合、製剤は、粘着性溶液または懸濁液の状態、ジェル、泡、軟膏、クリーム、ローションまたは坐薬の形であることが望ましい。任意で、製剤は、例えば膣のリングのような挿入のための装置に設置してもよい。
【0036】
胃腸粘膜への投与する場合、製剤は、一般的には溶液、懸濁液、固体投与形態(例えばカプセルまたはタブレット)または乾燥粉末である。任意で、製剤は生物粘着性で、一つ以上の生物粘着性を有するポリマーまたは他の賦形剤を含んでも良い。
【0037】
B.水性製剤
気道への治療剤の輸送のためのエアロゾルは開発されている。例えば、(Adjei, A. および Garren, J. Pharm. Res., 7: 565-569 (1990));ならびに、(Zanen, P. および Lamm, J.-W. J. Int. J. Pharm., 114: 111-115 (1995))を参照すれば良い。これらは、典型的には、ネブライザーによる圧力の下、または定量噴霧式吸入器(「MDI」)を用いることにより、溶液または懸濁液を霧状にすることによって、形成される。好ましい実施例によると、これらは水溶液または懸濁液である。
【0038】
C.乾燥粉末製剤
気道の構造は、肺の薬分散に対する主要な障壁となる。肺は、例えば埃のような、吸い込まれる異物の粒子を捕らえられるように設計されている。沈着には3つの基本機構、埋伏、沈殿、ブラウン(Brownian)運動がある(J.M. Padfield. 1987. In: D. Ganderton および T. Jones 編集. Drug Delivery to the Respiratory Tract, Ellis Harwood, Chicherster, U.K.)。特に気道枝で、粒子が空気の流れの中にとどまることができないとき、埋伏が生じる。粒子は気管支の壁をおおっている粘液層の上へ吸着されて、粘膜繊毛のアクションによって一掃される。埋伏は、大部分は直径5μmを超える粒子で生じる。(5μmより小さい)より小さな粒子は、空気の流れの中にとどまることができて、肺の中深くに輸送されることができる。沈殿は、しばしば、気流がより遅い下部の呼吸器系に生じる。非常に小さな粒子(0.6μmより小さい)は、ブラウン運動によって沈澱することができる。沈着が肺胞をターゲットとすることができないので、この体制は沈着にとっては好ましくない(N. Worakul および J.R. Robinson. 2002. In: Polymeric Biomaterials, 2nd ed. S. Dumitriu ed. Marcel Dekker. New York)。
【0039】
吸入のために、空気力学的に軽い粒子の好ましい平均粒径は、少なくともおよそ5μmであり、例えば、5〜30μmであり、最も好ましくは、3〜7μmである。粒子は、気道(例えば肺の奥または上気道)の選択された部位に、局所化する輸送のための適当な材料、表面の粗さ、粒径およびタップ密度で形成されると良い。たとえば、より高い密度またはより大きな粒子が、上気道への輸送のために使われると良い。同様に、異なる大きさに設定された粒子の混合により、同じ治療剤または異なる治療剤を提供すると共に、一回の投与で肺の異なる部位を目標として投与することもできる。
【0040】
ここで使用されている、フレーズ「空気力学的に軽い粒子」は、約0.4g/cm3より小さいタップ密度または平均密度を持っている粒子のことを言う。乾燥粉末の粒子のタップ密度は、標準的なUSPタップ密度測定法によって測定すれば良い。タップ密度は、エンベロープマス(Envelope mass)密度の基準である。等方性粒子のエンベロープマス(Envelope mass)密度は、粒子が囲まれることができる最小限の球エンベロープ体積によって分割できる質量(mass)により定義される。低いタップ密度を成立させている特徴としては、不規則な表面テクスチャーと多孔質構造を含む。
【0041】
大きい粒子サイズによる乾燥粉末製剤(「DPFs」)により、例えば、凝集の減少(Visser, J., Powder Technology 58: 1-10 (1989))、エアロゾル化の容易化、ファゴサイトーシスの潜在的減少(Rudt, S. および R. H. Muller, J. Controlled Release, 22: 263- 272 (1992); Tabata, Y., および Y. Ikada, J. Biomed Mater. Res., 22: 837-858 (1988))のように流動性の性質を改善できる。吸入療法のための乾燥粉末エアロゾルは、通常、主に、5μm未満の平均粒径で得られるが、しかしながら、粒径の好ましい範囲としては空気力学的に1〜10μmである(Ganderton, D., J. Biopharmaceutical Sciences, 3:101-105 (1992); Gonda, I. "Physico-Chemical Principles in Aerosol Delivery," in Topics in Pharmaceutical Sciences 1991, Crommelin, D. J. および K. K. Midha, 編集., Medpharm Scientific Publishers, Stuttgart, pp. 95-115 (1992))。大きな「キャリア」粒子(薬剤を含まない)は、他の可能な効果の間に効率的なエアロゾル化を達成するのを助ける治療に利用できるエアロゾルと共に、共同輸送されていた(French, D. L., Edwards, D. A. および Niven, R. W., J. Aerosol ScL, 27: 769-783 (1996))。秒から月の時間で脱落と放出により生じる粒子は、従来技術よって設計でき、作製できる。
【0042】
粒子は、導電性の試薬単独で、または、薬剤、抗ウイルス剤、抗菌剤、抗菌物質、界面活性剤、タンパク質、ペプチド、ポリマーもしくはそれらの組合せと結合したものを含むことができる。代表的な界面活性剤は、L-α-ジパルミトイルホスファチジルコリン(「DPPC」)、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール(DPPG)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−L−セリン(DPPS)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスファコリン(DSPC)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DSPE)、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルコリン(POPC)、脂肪アルコール、ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル、表面活性を有する脂肪酸、三オレイン酸ソルビタン(Span(商標)85)、グリココール酸、スルファクチン(surfactin)、ポロキソマー(poloxomers)、ソルビン脂肪酸エステル、チロキサポール、リン脂質とアルキル化された糖を含む。ポリマーは、下記に記すような粒子の性質を最適化するように手直しすれば良い、すなわち、i)輸送中の試薬の安定と活性の保持を提供するような輸送される試薬とポリマー間の相互作用;ii)ポリマー分解と、それに伴う薬剤の放出の動態;iii)化学就職を介した表面の性質とターゲティング能力;およびiv)粒子多孔性。ポリマー粒子は、一つか二つの乳化液の蒸発、噴霧乾燥、溶液の抽出、溶液の蒸発、相分離、単一または複合コアセルベーション(液滴形成)、界面ポリメリゼーション、および当業者にとって既知のその他の従来技術により、作成すればよい。粒子は、既知の微小球体またはマイクロカプセルを作成する技術を使用して、作成すればよい。好ましい製造方法は、噴霧乾燥、凍結乾燥であり。それらは、導電性/荷電物質を含んでいる溶液を使用して、望ましいサイズの液滴を形成するために、基材上に溶液を噴霧して、溶液を除去する。
【0043】
III.導電性製剤の用途
体内の粘膜内壁の生物物理学的性質を変化させることができる製剤は、体内のあらゆる経路の輸送にも対応できるように開発され、またいくつかの異なる目的のために使用されている。その目的とは、すなわち、(ウイルス性および細菌性の)感染症、例えば、SARS、インフルエンザ、結核、人のRSV、および偶蹄類の口蹄病の拡大の防止;(例えば、風邪などの)急性感染症を含む咽頭の炎症、うっ血、喘息、慢性気管支炎、気腫、気管支拡張症などの緩和;クリーンルームに特に使用されるような、呼吸、咳、くしゃみ、会話中の粒子形成による空気からの雑菌混入の最小化;閉塞型睡眠時無呼吸症候群の発生と過敏性大腸症候群のいくつかの症例、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症および赤痢の減少と予防;薬物分子と病原体の取り込みの制御である。
【0044】
A.薬剤輸送製剤の投与
ある実施例においては、製剤の投与する部位の粘膜の粘弾性を増加させるために、導電性製剤は、薬剤を有し、適切な導電性を有する。薬剤としては、導電性試薬がよく、また、製剤は、薬剤および導電性試薬が含まれていると良い。導電性製剤は吸入により投与され、気管支粘液層の気体/液体界面と相互作用して、粘液層の生物物理学的性質を変化させ、気道細胞を通じて、薬剤の輸送と拡散を増進させる。あるいは、製剤は、非経口的に、経口的に、経直腸的に、経膣的に、あるいは、局所的に、または眼球の領域に投与することによって投与し、他の粘膜表面と相互作用する。
【0045】
なお、ある例においては、高い唾液の粘弾性により、ナノ粒子の輸送がよりマクロ多孔性となる(Sanders, N.N., De Smedt, S. C, Rompaey, E.V., Simoens, P., De Baets, F. およびDemeester, J. (2000) Am J Respir Crit Care Med. 162, 1905-1911)。したがって、これらの製剤により、ネット推進力もしくは、薬剤取り込みの増加のための気体/液体界面から細胞への勾配を引き起こすと考えられる。
【0046】
B.薬剤輸送のための前処理製剤の投与
導電性の製剤は、薬剤輸送の“前処理”として使用すれば良い。ある実施例においては、導電性の製剤が輸送され、その後、薬剤製剤が患者に輸送される。薬剤としては、抗ウイルス剤、siRNA製剤およびリポソーム型製剤を含んだ広い範囲のものであって良い。導電性の製剤が、吸入により投与された時、導電性の製剤は、以後の薬剤の輸送が改善されるように、望ましい結果が得られるように、弾力を増減させることで気道内壁液の界面の生物物理学的性質を変化させることができるように設計する。また、製剤は、非経口的に、経口的に、経直腸的に、経膣的に、あるいは、局所的に、または眼球の領域に投与することによって投与し、他の粘膜表面と相互作用する。なお、場合によっては、生物物理学的性質(表面張力と粘弾性)の中で大きい勾配の導入は、輸送またはμm以下のテフロン(登録商標)粒子の浸漬の深さを改善する(Im Hof, V., Gehr, P., Gerber, V., Lee, M.M. および Schurch, S. (1997) Respir. Physiol. 109, 81-93. および Schurch, S., Gehr, P., Im Hof, V., Geiser, M. および Green, F. (1990) Respir Physiol. 80, 17-32.)。
【0047】
C.病原体輸送と取り込みを変性させるための導電性製剤の投与
別の実施形態においては、体内の病原体の取り込み動態を防止するか減少させるために、導電性製剤は、製剤を投与した部位において、粘弾性を増加させるか、粘膜の電荷勾配を変化させるために、適切な導電率を有している。なお、場合によっては、急電荷勾配の導入によって、微生物試薬の輸送と粘着力を改善し(Goldberg, S他, J Bacteriology 172, 5650-5654 (1990)を参照)、ウイルスの侵入の性質を変化させることができる((Davis, H.E他, Biophys J, 86, 1234-1242 (2004)を参照)。
【0048】
望ましい結果に基づいて、弾性を増減させることにより、気道内壁液の界面の生物物理学的性質を変化させるか、気道内壁液/気道組織界面の電荷相互作用を変化させることができるように、導電性製剤を設計する。製剤には、この効果を得るために、陽イオンまたは陰イオン分子が含まれると良い。電荷勾配のこの変化により、その後、細胞内の病原体の取り込みおよび輸送を防止、あるいは、遅らせることになり、または、複製された病原体の細胞外へ放出を変化させることになる。あるいは、電荷勾配により、病原体の粘着力と免疫原性を変化させることもある。
【0049】
導電性製剤は、典型的には、吸入により投与される。製剤は、非経口的に、経口的に、経直腸的に、経膣的に、あるいは、局所的に、または眼球の領域に投与することによって投与され、他の粘膜表面と相互作用する。
【0050】
D.吸入粒子の量を減少させるための導電性製剤の投与
別の実施形態においては、呼吸、咳、くしゃみ、および/また会話中のバイオエアロゾル形成の抑制または減少させるために、導電性製剤は、製剤を投与した部位において、粘膜の粘弾性を増加させるのに適した導電性を有している。肺感染症、特に、ウイルス性または細菌性の感染症、他の動物や人間への流行を、減少または制限するために、細菌性またはウイルス性感染症に罹患している一個体あるいは二以上の個体に体九して投与することが好ましい。あるいは、製剤を、体による病原体の取り込みを予防または減少させるために、健康な個人または免疫に欠陥がある個人に投与しても良い。
【0051】
E.気道への投与
気道は、空気と血流の間での気体の交換に関係する構造を有している。肺は、気体の交換がおこる肺胞を有した分岐が終末端となる分岐構造を有している。呼吸器系において、肺胞の表面積は最も広く、またそこで薬剤が吸収される。肺胞は、繊毛または粘液被覆を有さない薄い上皮で覆われていて、界面活性剤であるリン脂質を分泌する。(J.S. Patton および R.M. Platz. 1992. Adv. Drug Del. Rev. 8:179- 196)。
【0052】
気道は中咽頭と喉頭を含む上気道を含み、気管支と細気管支に分岐が続く気管を含む下気道へと続く。上気道および下気道は、誘導気道と呼ばれている。終末端の細気管支は、呼吸のための細気管支に分岐し、完全に呼吸器である、肺胞または肺の深い部分へ通じている。肺の深い部分、または肺胞は、吸入された治療用のエアロゾルの薬剤輸送の最小のターゲットとなる。
【0053】
典型的には、製剤は、上気道の内在性流体の表面張力と粘性のような物理的性質を変化させる有効量を輸送できるように、個体に投与する。それにより、薬剤の肺への輸送が促進され、および/または、咳が抑制され、および/または、肺のクリアランスが改善される。効果は、下記のようにシステムを使用して測定することができる。例えば、生理食塩水を、通常の大人に1グラム投与し、その後、粒子の放出量を測定する。それから、輸送を、服用量と粒子数が最小となるように最適化する。
【0054】
製剤は、定量噴霧式吸入器(「MDI」)、ネブライザーまたは乾燥粉末吸入器を使って投与することができます。適当な装置は市販されており、文献に記述されている。
【0055】
例えば、Gonda Iが「気道の治療診断試薬の輸送のためのエアロゾル」(Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems, 6:273-313, 1990)あるいは、Morenが「エアロゾル投与量と製剤」(Aerosols in Medicine, Principles, Diagnosis and Therapy, Moren他, 編集. Esevier, Amsterdam, 1985)で言及しているように、特定の治療目的のために、エアロゾル投薬量、製剤および輸送システムが選択される。
【0056】
輸送は、例えば、HFA推進剤を含んだ定量噴霧式吸入器、非HFA推進剤の定量噴霧式吸入器、ネブライザー、加圧缶、または連続噴霧器を使用したいくつかの方法のうちの1つにより行うことができる。例えば、患者は治療用に前懸濁した乾燥粉末を溶液に混合することで、それを霧状にすることができる。さらに、予め霧状にされた溶液を使用し、投与量を調節し、懸濁液の損失を回避すると、より適切である。噴霧化の後、エアロゾルに圧力をかけて、それを定量噴霧式吸入器(MDI)により投与することが可能である。ネブライザーは溶液または懸濁液から、細かい霧を発生させることができ、そして、それを患者が吸入する。Lloydらの米国特許第5,709,202号に示されている、装置を使用することができる。典型的には、MDIは、一般的に、1メートルの弁を備えている加圧可能なキャニスターを有している。また前記キャニスターは溶液または懸濁液および推進剤が充填される。溶媒自体が推進剤としての機能を有していても良く、また、組成物が、例えば、FREON(登録商標)(E. I. Du Pont De Nemours and Co. Corp.)のような推進剤と結合しても良い。キャニスターから放出されるとき、圧力のために組成物は細かい霧となっている。推進剤と溶媒は、圧力の減少により、完全に、または、部分的に蒸発していても良い。
【0057】
他の実施例においては、製剤は、分散体もしくは賦形剤中で、塩として形成されているか、他の導電性物質の形である。賦形剤は、好ましくは、安全で(無害な)および生物分解可能な材料である。典型的な賦形剤としては、デキストラン、ラクトースおよびマンニトールが挙げられる。
【0058】
治療の対象となる個体としては、感染の危険性がある個体、ウイルス性または細菌性感染症した個体、アレルギー患者、喘息患者、および、免疫に欠陥がある患者または感染した患者と共に働いている個体が含まれる。
【0059】
製剤は、ウイルスの分散による感染から保護するために、人または競争馬、育成家畜、もしくは絶滅に瀕している動物に、投与しても良い。動物への製剤の投与は、ネブライザーシステムを動物の水場の近くに設置し、動物が水場に出入りするときに、エアロゾルを生産することで、行っても良い。また、動物が、誘導路や囲いを歩いているときに、製剤を上から噴霧しても良い。また、噴霧用の軌道、または、穀物を散布する飛行機により製剤を噴霧しても良い。また、バイオエアロゾルの形成または/および分散を最小にするために、殺虫剤の噴霧に使用されている個々の電池式噴霧器を、動物への製剤の投与に適用しても良い。
【0060】
流行のレベルまでに病気が拡散を予防するために、ウイルスまたは細菌の発生予期で、製剤は、人間または動物に、投与すれば良い。口蹄病の発生源の10キロメートルの半径の範囲内の動物は、現在のところ感染したとみなしている。これらの動物は、その後屠殺されて、消毒されます。このエアロゾルシステムは、発生の封じ込めを保証するために、この10キロメートルの半径地帯、および、さらにこの地域の外で定められた緩衝地帯中でも、動物に、直ちに投与される。また、このエアロゾルは、成功を確実にする期間、例えば、最小の感染と、症状発現の通常の期間を超えて、投与すると良い。
【0061】
人間または動物が、移動し、肺を治療するに十分な期間、とどまるような水性の環境を作ることで、製剤を、投与しても良い。このような空気は、ネブライザーの使用によって、または加湿機の使用によってでさえ、作ることができる。
【0062】
主に、肺への投与に関して記述したが、製剤は、非経口的に、経口的に、経直腸的に、経膣的に、あるいは、局所的に、または眼球の領域に投与することによって動物個体や人の固体に投与しても良い。
【0063】
IV.粘膜内壁の電荷を変化させるその他の方法
粘膜内壁の生物物理学的性質の変化は、その他の方法によっても可能である。1つの方法では、電極またはパッチを治療する固体の体に設置して、電界を発生させる。これにより、粘膜内壁の電荷の位置、イオン密度またはイオン強度を変化させて、生物物理学的性質を修飾しても良い。
本発明をさらに理解するために、以下に実施例を述べるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0064】
試験管内(in vitro)の研究に使用される疑似粘液の製剤および方法
疑似粘液の製剤
気管支粘液に類似した流動学的な性質を有する弱い重合ゲル類は、Kingらによって示された方法(King 他, Nurs Res. 31(6):324-9 (1982))と同様に、テトラホウ酸ナトリウム(Na247)(J.T.Baker)で架橋されたイナゴマメ溶液(LBG)(Fluka BioChemika)を使用し、準備した。2質量%のLBGを、沸騰しているMilli-Q(登録商標)蒸留水に溶解した。濃縮したテトラホウ酸ナトリウムは、Milli-Q(登録商標)蒸留水溶液とした。LBG溶液を室温まで冷やした後、少量のテトラホウ酸ナトリウムを加え、混合物を一時間、ゆっくりと攪拌した(また、ここではこれを「疑似粘液」とする)。水性の疑似粘液の特定量をモデル気管(機械加工された管)の上に流し、管の深さも模倣し作成した。疑似粘液の層は、試験管内(in vitro)の実験の開始の前に、15分間架橋反応させた。テトラホウ酸ナトリウムの最終濃度は、1〜3mMであった。
【0065】
方法
以下の試験管内(in vitro)の方法は、生理食塩水や生理食塩水中の塩化カルシウムのように異なる製剤の効果を試験するために、使用した。上記のように、疑似粘液をモデル気管(管)に適用し、15分間、架橋反応させた。管は呼吸シミュレーションマシン(SRM)に接続する(「咳」マシンとしてKingらによって作製された(M. King, J.M. Zahm, D. Pierrot, S. Vaquez-Girod, E. Puchelle, Biorheology (1989) 26:737-745))。疑似粘液の表面の定められた気流の呼吸イベントを、モデルとなる管を通して始めた(気管の中の粘液層の上のシミュレーションされた呼吸)。図1は、研究において使用された呼吸シミュレーション機械(SRM)の概略図である。
【0066】
疑似粘液表面で断片化が生じることで、エアロゾル粒子の形成が生じ、気流で捕まったエアロゾルは下流に運ばれた。光学的粒子カウンター(OPC)(図1の中、20)(CLiMET Instruments、Redlands、カルフォルニア(CA))を、発生するエアロゾル粒子のサイズをカウントおよび計測するために、管の下流に設置した。
【0067】
試験管内(in vitro)のテストシステムは、図1に示している。その構成要素は以下の通りである。
1. 圧力調整器
2. 圧縮空気タンク−システムへの圧縮空気を供給する
3. 10nmテフロン(登録商標)膜フィルタ−空気がシステムを侵入する前に、小さい粒子をカウントするために圧縮空気を濾過する
4. ベーカー(Baker)バイオフード−空気からの粒子の侵入の防止する
5. 空気安全弁−システムの過加圧の防止する
6. 6.2L気密性圧力容器−圧縮空気のシステムへの放出の制御する(肺の静電容量機能の模倣)
7. LED圧力計
8. アスコ双方向(Asco two-way)ソレノイド弁−管に圧縮空気の輸送を制御する電気スイッチ
9. ソレノイド弁の開閉スイッチ
10. Fleisch No.4呼吸気流計−層気流を圧力変換器へ供給する
11. Validyne DP45圧力変換器−呼吸気流計を通じた圧力低下を測定する
12. Pall Conserveフィルタ−入力システムからソレノイド弁の機械動作により発生する粒子を防止する
13. Validyne CD15シグナル復調器/アンプ−データ収集システムのために圧力変換器から受け取る電気信号を制御する
14. モデル気管(管)−気管をシミュレーションするアクリル製の30cm×1.6cm×1.6cm(長さ×幅 ×高さ)の管
15. 調節スタンド−管を水平にする
16. ドリップトラップ(Drip trap)−保持チャンバー(holding chamber)へ流入する疑似粘液のバルクムーブメント(bulk movement)の防止
17. データ収集のためのコンピュータ
18. バッフル(Baffle)−保持チャンバー(holding chamber)の過加圧を防止するために、システム中の圧力差を調整する
19. 保持チャンバー(holding chamber)−OPCによって測定の前に空気中へのエアロゾル液滴の放出を防止する
20. CLiMET 500OPC−レーザー回折によりエアロゾル液滴数と物理的なサイズを測定する
【0068】
CLiMET OPCは、1つのCFMのレーザー光線の通り道を介して、空気の流れを作る。空気中の粒子がレーザーに当たり、粒子によりレーザー光が回析し、そして、回析された光の強さを計測する。回折の強さおよび頻度を使用し、粒子の物理的なサイズと粒子の総数を計算する。
【0069】
疑似粘液に取り込まれるナノ粒子を使用した別の方法を使用することができ、そして、それはエアロゾル液滴で下流を実現することができ、更なる分析のための管の出口設置されるフィルタを使用することで収集することができる。
【0070】
粘膜内壁、例えば表面の粘弾性と表面張力のような生物物理学的性質に対する効果を調べるために様々な製剤をテストした。各々適切なエアロゾル化方法を用いて製剤をエアロゾル化することで、各々の製剤を、粘液層上へ導入した。溶液/懸濁液のために、Aeroneb Goネブライザー(エーロゲン、マウンテンビュー、カルフォルニア(Aerogen, Mountain View, CA))を使用した。Aeroneb Goネブライザーは、溶液をエアロゾル化するために振動メッシュ技術を利用している。エアロゾル化時間は、すべてのテストで2分に設定した。疑似粘液は管の入り口に設置され、そして、気圧は3psiとセットし、咳を模倣した。これらの条件は、最適化されたタンジェントと、弁/液体トラップの疑似粘液の動きが最小となり、管壁上の大量の疑似粘液の放出を最小にするための疑似粘液に生じる通常のストレスに基づいて選択した。
【0071】
〈実施例1〉
SRM装置を使用した異なる製剤の粒子数における効果の試験管内(in vitro)研究
上述のSRM装置を使って、試験管内(in vitro)で4つの製剤をテストした。対照実験として、疑似粘液をのみのもの(空、sham)と比較した。各々の実験では、上述の疑似粘液の作製およびSRM方法を使用した。以下の製剤をテストした:(1)0.9%等張性生理食塩水(Hudson salineまたはisotonic saline)、(2)0.9%等張性生理食塩水中に溶解させた1.29%塩化カルシウム(CaCl2)、(3)0.9%等張性生理食塩水中に溶解させた0.1%ナトリウムドデシル硫酸(SDS)および(4)0.9%等張性生理食塩水中に溶解させた1%のデキストラン(dextran)。管上の疑似粘液の高さは、すべてのテストにおいて、2mm(総疑似粘液量6.4ml)に維持した。疑似粘液を15分間架橋反応させた後、テスト前の2分間で、Aeroneb Go(エーロゲン、マウンテンビュー、カルフォルニア(Aerogen, Mountain View, CA))を用いて、疑似粘液上で、各々の製剤のエアロゾル化を行った。各々のテストは少なくとも3回繰り返し、平均累積粒子をカウントし、標準偏差を算出した。これらの結果は、図2に示した。
【0072】
図2で示すように、各々の製剤は、1桁か2桁以上の粒子抑制を示した。CaCl2を含んでいる等張性生理食塩水溶液は、最も大きな粒子抑制(すなわち3桁)を示した。
【0073】
〈実施例2〉
SRM装置を使用した測定における放出エアロゾル粒子減少への(生理食塩水と水溶液中の製剤の試験管内(in vitro)での影響
粒子抑制の基礎をなすメカニズムをさらに理解するために、製剤を、イオン交換水および生理食塩水中両方で作製した。各々の実験では、上述の疑似粘液の作製およびSRM方法を使用した。管上の疑似粘液の高さは、すべてのテストにおいて、2mm(総疑似粘液量6.4ml)に維持した。疑似粘液を15分間架橋反応させた後、テスト前の2分間で、Aeroneb Go(エーロゲン、マウンテンビュー、カルフォルニア(Aerogen, Mountain View, CA))を用いて、疑似粘液上で、各々の製剤のエアロゾル化を行った。各々のテストは少なくとも3回繰り返し、平均累積粒子をカウントし、標準偏差を算出した。これらの結果は、図3に示した。
【0074】
図3に示すように、製剤をイオン交換水(DI water)に入れ替えると、製剤による粒子抑制効果は減少した。CaCl2の場合、生理食塩水をイオン交換水に入れ替えても、製剤の粒子形成抑制能力は僅かしか減少しておらず、CaCl2を含んだイオン交換水溶液および生理食塩水溶液製剤両方共に、生理食塩水単独よりも良好な粒子抑制効果を示した。しかしながら、SDSとデキストランの場合、生理食塩水をイオン交換水に入れ替えると、抑制は殆ど見られなかった。これらの結果は、粒子形成抑制においては塩(NaClおよびCaCl2)が重要な役割を果たしていることを示唆している。
【0075】
〈実施例3〉
種々の製剤の導電率と、SRM装置を使用した測定における累積粒子数に対する製剤の導電率の試験管内(in vitro)での効果
粒子形成抑制に対して、製剤の電荷/導電率の効果を調べるために、種々の製剤の導電率を測定し、それを累積粒子数に対してプロットした。以下の10の製剤をテストした;(1)0.45%の生理食塩水、(2)0.9%等張性生理食塩水、(3)1.45%生理食塩水、(4)等張性生理食塩水中の1.29%CaCl2、(5)イオン交換水中の1.29%CaCl2、(6)イオン交換水中の1.87%CaCl2(7)等張性生理食塩水中の0.1%SDS、(8)イオン交換水中の0.1%SDS、(9)等張性生理食塩水中の1% デキストラン、および、(10)イオン交換水中の1%デキストラン。各々の製剤と疑似粘液の導電率は、ブッルクヘブン ゼータパルス ゼータサイザー(Brookhaven ZetaPALS zetasizer) (Brookhaven Instruments, Holtsville, ニューヨーク)を使用して測定した。この装置により、誘電率の最初の測定から溶液/製剤のゼータ電位を測定でき(電界の強度を決定する)、そして、任意に、溶液の流動性を測定する。誘電率は、ゼータ電位測定以前に、報告されており、その値を表1に報告する。導電率は所定のサンプルの電気抵抗と相互作用するものであり、電荷の流動性およびサンプルの中で電荷の強さ/濃度に依存する。幾何学的な補正係数は適用され(測定容器定数(measurement cell constant)と呼ばれ、電極域によって容器の長さを分割することで測定される)、その係数は、センチメートル当たりμS(マイクロシーメンス、micro-Siemens)の単位で、特定の導電率として報告されている導電率となる。
【0076】
【表1】

【0077】
本実験では、上述のSRM方法、および、疑似粘液の作製を使用した。管上の疑似粘液の高さは、すべてのテストにおいて、2mm(総疑似粘液量6.4ml)に維持した。疑似粘液を15分間架橋反応させた後、テスト前の2分間で、Aeroneb Go(エーロゲン、マウンテンビュー、カルフォルニア(Aerogen, Mountain View, CA))を用いて、疑似粘液上で、各々の製剤のエアロゾル化を行った。各々のテストは少なくとも3回繰り返し、平均累積粒子をカウントし、標準偏差を算出した。これらの結果は、図4に示した。図4は製剤の誘電率と放出粒子数のグラフである(試験管内(in vitro)のSRM実験から)。
【0078】
図4で示すように、誘電率と放出粒子数の相関関係が強いことは明白である。例えば、誘電率がより高い場合、放出粒子数は小さくなる。このように、より高い伝導率を有する製剤により、より大きなエアロゾル液滴抑制を得られる。
【0079】
〈実施例4〉
誘電率と誘電正接(loss tangent)の比較(界面応力血流計(interfacial stress rheometer)の測定による)
表面でエアロゾル化されたいくつかの製剤(0.9% NaCl水溶液 (または等張性生理食塩水)、生理食塩水中の1.29% CaCl2、生理食塩水中の0.1% SDS、および、生理食塩水中の1.0%デキストラン)の中の1つを含んだ疑似粘液だけでなく疑似粘液の、G'、G"、G*およびTan δの値は、界面応力血流計(interfacial stress rheometer;ISR)により得られた。ISRは、(界面でデータ得て、大きさの効果(bulk effect)を制限するために)長さ比率で小直径の磁化ロッドを利用した。ロッドは、小さな管に含まれたサンプルの表面に設置した。振動磁場(呼吸をシミュレーションする0.25Hzの周波数で)をストレスとしてサンプル全体に適用し、そして、ロッドをその長さの方向に沿って動かした。光学的カメラは動きを捕え、そして、画像認識ソフトウェアにより反応(ロッドが動いた距離、またはひずみ(strain))を計算した。G'、G"、G*および誘電正接(loss tangent)(Tan δ)の値は、この情報から決定した。
【0080】
図5は、誘電正接(loss tangentまたはTan δ)と、誘電率を示したグラフである。誘電正接(loss tangent)が低いほど(より弾性を有するサンプル)、誘電率が高いという相関関係が観察された。このデータを導電率と放出粒子数(実施例3)の間で見出された相関関係と比較すると、放出粒子により導電率が増加し(電荷の強さ/濃度と流動性が増加する)、誘電正接(loss tangent)(粘性よりも相対的に弾力が増加する)が減少することが示される。これは、放出粒子数が抑制される潜在的な機構を示唆する。すなわち、疑似粘液表面での製剤のエアロゾル化を通じて電荷を付加することにより、疑似粘液の粘弾性が変化し、それにより誘電正接(loss tangent)が減少し、疑似粘液の表面で増加した架橋結合と化学結合を通じて、表面(G*)の機械的剛性が増加する。
【0081】
〈実施例5〉
4psiの圧力下で粒子形成抑制に対する異なる導電率を有する異なる製剤の効果
異なる製剤による粒子抑制に対する導電率/電荷影響をさらに識別するために、SRMテストにおける圧力を、3から4psiに増やした。0.9%等張性生理食塩水、0.9%等張性生理食塩水中に溶解させた1.29%塩化カルシウム(CaCl2)、イオン交換水中に溶解させた1.29%塩化カルシウム(CaCl2)、1.8%生理食塩水溶液の4つの製剤をテストに使用した。4つの製剤の導電率の値を、表2に示した。各々の異なる製剤の導電率の値は、上記実施例3で述べたように、ブッルクヘブン ゼータパルス ゼータサイザー(Brookhaven ZetaPALS zetasizer)(Brookhaven Instruments, Holtsville, ニューヨーク)を使用し、測定した。
【0082】
【表2】

【0083】
本実験では、上述の疑似粘液の作製、および、SRM方法により行った。管上の疑似粘液の高さは、すべてのテストにおいて、2mm(総疑似粘液量6.4ml)に維持した。疑似粘液を15分間架橋反応させた後、テスト前の2分間で、Aeroneb Go(エーロゲン、マウンテンビュー、カルフォルニア(Aerogen, Mountain View, CA))を用いて、疑似粘液上で、各々の製剤のエアロゾル化を行った。各々のテストは少なくとも3回繰り返し、平均累積粒子をカウントし、標準疑似粘液を基準として抑制の割合を算出し、図6Aおよび図6Bにそれぞれ示した。
【0084】
図6Aおよび図6Bに示されるように、製剤の誘電率が高くなるとともに、その粒子抑制能力が大きくなる。
【符号の説明】
【0085】
1 圧力調整器
2 ウルトラゼロ(Ultra Zero)圧縮空気タンク
3 10nmテフロン(登録商標)膜フィルタ
4 ベーカー(Baker)バイオフード
5 空気安全弁
6 気密性圧力容器
7 LED圧力計
8 アスコ双方向(Asco two-way)ソレノイド弁
9 ソレノイド弁の開閉スイッチ
10 Fleisch No.4呼吸気流計
11 Validyne DP45圧力変換器
12 Pall Conserveフィルタ
13 Validyne CD15シグナル復調器/アンプ
14 管/モデル気管
15 調節スタンド
16 粘液トラップ
17 データ収集のためのコンピュータ
18 バッフル(Baffle)
19 エアロゾル保持チャンバー
20 CLiMET 500OPC

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電物質を含む導電性の生物適合性製剤であって、前記導電性製剤は、人または他の動物の粘膜内壁液または粘膜内壁に投与された時、誘電正接(loss tangentもしくはtanδ)、表面張力、または粘性により定義される粘膜内壁液の表面粘弾性を変化させる導電性の生物適合性製剤。
【請求項2】
水溶液、乾燥粉末、蒸気、水性懸濁液、非毒性有機溶液または懸濁液、および乾燥粉末以外の固体投与形態からなる群から選択される請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
気道、消化管、生殖器、眼部、中咽頭または鼻腔よりなる群から選択される領域に投与される請求項1に記載の製剤。
【請求項4】
前記荷電物質が、塩、イオン性界面活性剤、荷電アミノ酸、荷電タンパク質またはペプチド、荷電核酸、およびそれらの組み合わせよりなる群から選択される請求項1に記載の製剤。
【請求項5】
核酸、タンパク質、炭水化物、アミノ酸、無機物質および有機物質よりなる群から選択される活性剤を含む請求項1に記載の製剤。
【請求項6】
前記荷電物質が、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、塩化カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、リン酸カルシウム、アルギン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ソルビン酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、三ケイ酸マグネシウム、炭酸水素カリウム、塩化カリウム、クエン酸カリウム、ホウ酸カリウム、亜硫酸カリウム、リン酸水素カリウム、アルギン酸カリウム、安息香酸カリウム、塩化マグネシウム、硫酸第二銅、塩化第二クロム、塩化スズ、およびメタケイ酸ナトリウムならびにこれらの組合せよりなる群から選択される塩である請求項4に記載の製剤。
【請求項7】
前記荷電物質が、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ラウリル硫酸マグネシウム、ポリソルベート20(Polysorbate20、商標)、ポリソルベート80(Polysorbate80、商標)、1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−エチルホスファコリントリフラート(EDOPC)、アルキルホスファコリントリエステル(alkyl phosphocholine trimesters)から選択されるイオン性界面活性剤である請求項4に記載の製剤。
【請求項8】
生理食塩水および塩化カルシウムを含む請求項1に記載の製剤。
【請求項9】
導電率が5,000μS/cmを超える請求項1に記載の製剤。
【請求項10】
導電率が10,000μS/cmを超える請求項9に記載の製剤。
【請求項11】
導電率が20,000μS/cmを超える請求項10に記載の製剤。
【請求項12】
δが45°を超え90°未満になるように粘膜内壁の粘弾性を変化させることができる請求項1に記載の製剤。
【請求項13】
δが0°より大きくて45°未満になるように粘膜内壁の粘弾性を変化させることができる請求項1に記載の製剤。
【請求項14】
粒子の放出の減少、または、個体中で病原体の細胞間移動を減少させる方法であって、個体の粘膜内壁に荷電物質を含む生物適合性製剤を有効量で投与することを含み、前記製剤を、粘膜内壁の固形性を増加させ、tanδが1.0未満となるように粘膜内壁の粘弾性を調節できる有効量で投与する方法。
【請求項15】
製剤の導電率が5,000μS/cmを超える請求項14に記載の方法。
【請求項16】
個体中の薬剤取り込みを増加させる方法であって、個体の粘膜内壁に荷電物質を含む第一の生物適合性製剤を有効量で投与することを含み、前記製剤を、粘膜内壁の吸収性、拡散性を増大させ、tanδが1.0を超えるように粘膜内壁の粘弾性を調節できる有効量で投与する方法。
【請求項17】
前記製剤が活性剤をさらに含む請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記第一の製剤の投与の後に、活性剤を含む第2の製剤を粘膜内壁に投与することをさらに含む請求項16に記載の方法。
【請求項19】
個体に閉塞型睡眠時無呼吸症候群、過敏性腸症候群、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、嚢胞性線維症または赤痢を発生することを減少もしくは予防する方法であって、個体の粘膜内壁に、荷電物質を含む有効量の生物適合性製剤を投与することを含む方法。
【請求項20】
前記製剤をエアロゾルの形で気道に投与する請求項14〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記第一の製剤は、非経口的に、経口的に、経直腸的に、経膣的に、局所的に、または、吸入によって投与する請求項16〜18のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【公開番号】特開2012−176990(P2012−176990A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−137900(P2012−137900)
【出願日】平成24年6月19日(2012.6.19)
【分割の表示】特願2008−512543(P2008−512543)の分割
【原出願日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(506299858)プルマトリックス インコーポレイテッド (5)
【Fターム(参考)】