説明

粘膜内層の生物物理学的性質の改変のためのクエン酸カルシウムおよび乳酸カルシウム製剤

本発明は、活性成分として乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウムを含む、吸入に適した医薬組成物に関する。本発明は、また、気道の感染症の蔓延を治療、防止、および低減する方法であって、活性成分として乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウムを含む医薬組成物を投与する工程を含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2009年3月26日に出願された米国仮特許出願第61/163,772号、および2009年12月8日に出願された米国仮特許出願第61/267,747号の利益を主張するものである。前記出願の全教示は、参照することにより本明細書に組み入れられている。
【背景技術】
【0002】
世界中で何百万もの人々が、粘膜内層を改変することによって治療または防止され得るであろう疾患または病状に苦しんでいる。多くの器官は、その生物物理学的性質によって正常機能が促進または阻害され得る液体粘膜内層を有する。様々な健康への悪影響が粘膜内層の性質に関連しており、例えば、通常の呼気の間に上気道粘膜内層流体(UAL)から「排出された」粒子は、吸入することによって健常個体に蔓延し得る重症急性呼吸器症候群(SARS)コロナウイルス、インフルエンザ、および結核などの生存可能な感染性の細菌性またはウイルス性病原体を運び得;UALの表面張力は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群に影響を及ぼすことが示されており;かつウイルス/マイコバクテリウムによる腸管の粘膜内層の改変は、時間をかけて炎症性腸疾患を引き起こし得る。粘膜内層の生物物理学的性質の制御改変によって、これらの健康への悪影響の多くは効果的に治療および/または防止され得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
以前に、肺粘液内層流体の物理的性質を改変する非界面活性剤溶液は、いくつかの疾患および病状の伝播を治療および防止することが示されている。等張食塩液または高張食塩液を含有するエアロゾル化製剤は、主にバイオエアロゾル形成および/または感染症の蔓延を抑えるのに用いられている。乾燥粉末は、液剤よりも相当な利点を提供する(例えば、送達の容易さ、等々)。しかしながら、これらの製剤の多くは、塩を加工して乾燥粉末の呼吸に適した形態にすることに関する課題、多くの塩の低溶解性、より可溶性の塩の高吸湿性、および吸入治療を制限する発熱属性など、それらを乾燥粉末として望ましくないものにする問題がある。
【0004】
したがって、上記の望ましくない性質のない、粘膜内層を改変し得るさらなる製剤を開発する必要性が存在する。そのため、さらなる製剤化作業(すなわち、塩化カルシウムを他の賦形剤と組み合わせて、最終生成物中の負荷量を低減させる)を追求し、かつ製剤中の所望のカルシウム、ナトリウム、および塩素イオン含有量を達成する他の塩を同定する必要がある。理想的には、これらの新しい製剤は、肺送達のためにエアロゾル化し得る安定した乾燥粉末状の大量のカルシウム塩を含むであろう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、活性成分として、乳酸カルシウムおよびクエン酸カルシウムからなる群より選択されるカルシウム塩を含む医薬組成物に関するものであって、該医薬組成物は吸入に適している。
【0006】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、ナトリウム塩をさらに含む。ナトリウム塩は、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、重リン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、またはメタケイ酸ナトリウムであってよい。好ましい実施形態では、ナトリウム塩は塩化ナトリウムである。
【0007】
いくつかの実施形態では、医薬組成物は、カルシウムおよびナトリウムを8:1(モル:モル)の比率で含む。他の実施形態では、医薬組成物は、カルシウムおよびナトリウムを1:2(モル:モル)の比率で含む。他の実施形態では、医薬組成物は、カルシウムおよびナトリウムを1:1.3(モル:モル)の比率で含む。いくつかの実施形態では、医薬組成物を、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約10mg/kg体重のカルシウム用量が肺へ送達されるように製剤化する。他の実施形態では、医薬組成物を、1用量あたり約0.001mg/kg体重〜約10mg/kg体重のナトリウム用量が肺へ提供されるように製剤化する。いくつかの実施形態では、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約10mg/kg体重のカルシウム用量が鼻腔へ送達されるように製剤化する。他の実施形態では、医薬組成物を、1用量あたり約0.001mg/kg体重〜約10mg/kg体重のナトリウム用量が鼻腔へ提供されるように製剤化する。
【0008】
いくつかの実施形態では、組成物は液剤である。液剤は、溶液または懸濁液であってよい。いくつかの実施形態では、乳酸カルシウムは、約0.1%〜約20%(重量/容量)で存在する。
【0009】
他の実施形態では、組成物は乾燥粉末である。カルシウム塩は、乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウムであってよい。いくつかの実施形態では、カルシウム塩は、約0.5%〜約90%(重量/重量)で存在する。
【0010】
医薬組成物は、さらなる治療薬をさらに含んでいてよい。医薬組成物は、単位用量組成物であってよい。
【0011】
本発明は、また、気道の感染症を治療するための方法であって、気道の感染症を有するまたは気道感染症の症状を示す個体に、活性成分として乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウムを含む、吸入に適した有効量の医薬組成物を投与する工程を含む方法に関する。
【0012】
本発明は、さらに、気道の感染症の予防のための方法であって、気道の感染症に罹患する危険性がある個体に、活性成分として乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウムを含む、吸入に適した有効量の医薬組成物を投与する工程を含む方法に関する。
【0013】
本発明は、また、気道の感染症の蔓延を低減させるための方法であって、気道の感染症を有する、気道感染症の症状を示す、または気道感染症に罹患する危険性がある個体に、活性成分として乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウムを含む、吸入に適した有効量の医薬組成物を投与する工程を含む方法に関する。
【0014】
いくつかの実施形態では、気道感染症は、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、ブドウ球菌属(Staphylococcus spp.)、レンサ球菌属(Streptococcus spp.)、ストレプトコッカス・アガラクティアエ(Streptococcus agalactiae)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)、肺炎クラミジア(Chlamydophila pneumoniae)、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、エンテロバクター属(Enterobacter spp.)、アシネトバクター属(Acinetobacter spp.)、アシネトバクター・バウマンニイ(Acinetobacter baumannii)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、ステノトロホモナス・マルトフィリア(Stenotrophomonas maltophilia)、バークホルデリア属(Burkholderia spp.)、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される細菌によって引き起こされる感染症である。他の実施形態では、感染症は、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、メタニューモウイルス、サイトメガロウイルス、パラインフルエンザウイルス、ライノウイルス、単純ヘルペスウイルス、SARSコロナウイルス、および天然痘からなる群より選択されるウイルスによって引き起こされる感染症である。
【0015】
本発明は、また、喘息(例えば、アレルギー性/アトピー性、小児性、遅発性、咳型、または慢性閉塞性)、気道過敏症、アレルギー性鼻炎(季節性または通年性)、気管支拡張症、慢性気管支炎、肺気腫、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、小児期喘鳴等を含む慢性肺疾患の治療のための方法に関する。塩製剤は、個体における慢性肺疾患の急性増悪を阻止するのに有効である。例示的肺疾患には、喘息(例えば、アレルギー性/アトピー性、小児性、遅発性、咳型、または慢性閉塞性)、気道過敏症、アレルギー性鼻炎(季節性または通年性)、気管支拡張症、慢性気管支炎、肺気腫、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、小児期喘鳴等が含まれる。本発明は、さらに、慢性肺疾患の急性増悪を阻止する、ならびに抗原暴露(例えば、アレルゲン、病原体、および他の環境刺激物)による気管支収縮および気管支痙攣を防止するための方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、クエン酸カルシウム乾燥粉末に暴露させた細胞では、未処理のコントロール細胞(空気)およびコントロールのロイシン乾燥粉末に暴露させた細胞の両方と比較して、投薬の24時間後にインフルエンザ力価が低減していたことを示すグラフである。
【図2】図2は、乳酸カルシウムの液剤が、インフルエンザ感染を阻害することを示すグラフである。乳酸カルシウム製剤は、未処理のコントロール(空気)と比較して、ウイルス感染を有意に低減させた。
【図3】図3は、乳酸カルシウム乾燥粉末で処理した細胞が、投薬の24時間後のウイルス力価の低減によって示されるように、未処理のコントロール(空気)と比較して、インフルエンザ感染を低減させたことを示すグラフである。
【図4】図4は、通過モデルの概略図である。
【図5A】図5Aは、乾燥粉末への暴露を用いた、細菌の通過モデルの結果を示すグラフである。硫酸カルシウム(4.5μg/cmのCa送達用量)によって、アルギン酸ナトリウム模倣体中の細菌の動きが低減した。
【図5B】図5Bは、乾燥粉末への暴露を用いた、細菌の通過モデルの結果を示すグラフである。試験したカルシウム塩製剤は、0μg、4.3μg、6.4μg、または10μgのカルシウムを含有するものであった。硫酸カルシウム塩(4.3μg/cmのCa送達用量)、酢酸カルシウム塩(10μg/cmのCa送達用量)、および乳酸カルシウム塩(6.4μg/cmのCa送達用量)によって、アルギン酸ナトリウム模倣体中の細菌の動きが低減する。
【図6】図6は、乳酸カルシウムによって、インフルエンザ感染が用量応答的様式で低減することを示すグラフである。乳酸カルシウム乾燥粉末の各濃度とも、空気コントロールと比較して、ウイルス力価を低減させた。
【図7】0.116Mの濃度の乳酸カルシウムの液剤によって、肺炎感染における細菌負荷が穏やかに低減することを示すグラフである。
【図8】図8A〜Cは、異なるウイルス性病原体に対するカルシウム乾燥粉末製剤の抗ウイルス活性を示すグラフである。製剤に暴露させていないCalu−3細胞をコントロールとして用い、PUR111、PUR112、およびPUR113に暴露させたCalu−3細胞と比較した。各エアロゾル製剤に暴露させた細胞によって放出されたウイルスの濃度を定量化した。バーは、各試験に対する2重のウェルの平均および標準偏差を表す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の詳細な説明
本発明は、乳酸カルシウムおよびクエン酸カルシウム製剤に関する。製剤は、ナトリウム塩も含んでいてよい。具体的には、製剤は、ナトリウム塩(例えば、塩化ナトリウム)の有無にかかわらず、クエン酸カルシウムおよび/または乳酸カルシウムから構成されていてよい。製剤は、液体(例えば、溶液、懸濁液)または乾燥粉末であってよい。製剤を、それらの物理的および空気動力学的性質が気道(例えば、上気道、呼吸気道、肺)への送達に適しているように加工および製剤化する。本明細書に記載されるように、気道の感染症の蔓延の抑制、防止、および防止に関する調査の結果を示す。
【0018】
「気道感染症」という用語は、上気道感染症(例えば、鼻腔、咽頭、喉頭の感染症)および下気道感染症(例えば、気管、原始気管支、肺の感染症)、ならびにそれらの組み合わせを表す専門用語である。気道感染症に伴う典型的な症状には、鼻づまり、咳、鼻水、のどの痛み、発熱、顔面圧迫感、くしゃみ、胸痛、および呼吸困難が含まれる。
【0019】
「肺炎」という用語は、肺の炎症性の疾病を表す専門用語である。肺炎は、細菌、ウイルス、真菌、または寄生虫による感染、および肺への化学的または物理的損傷を含む様々な原因によって生じ得る。肺炎に伴う典型的な症状には、咳、胸痛、発熱、および呼吸困難が含まれる。肺炎の臨床診断は、当該技術分野において周知であり、X線および/または喀痰検査を含んでよい。
【0020】
「細菌性肺炎」という用語は、例えば肺炎レンサ球菌、黄色ブドウ球菌、ブドウ球菌属、レンサ球菌属、ストレプトコッカス・アガラクティアエ、インフルエンザ菌、肺炎桿菌、大腸菌、緑膿菌、モラクセラ・カタラーリス、肺炎クラミジア、肺炎マイコプラズマ、レジオネラ・ニューモフィラ、エンテロバクター属、アシネトバクター属、アシネトバクター・バウマンニイ、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、ステノトロホモナス・マルトフィリア、バークホルデリア属、およびそれらの組み合わせによる気道の感染を含む細菌感染によって引き起こされる肺炎を表す。
【0021】
「ウイルス性肺炎」という用語は、ウイルス感染によって引き起こされる肺炎を表す。ウイルス性肺炎を一般に引き起こすウイルスには、例えばインフルエンザウイルス、RSウイルス(RSV)、アデノウイルス、およびメタニューモウイルスが含まれる。単純ヘルペスウイルスは、一般集団に対しては肺炎のまれな原因であるが、新生児ではより多く見られる。免疫系が弱っている人々は、サイトメガロウイルス(CMV)によって引き起こされる肺炎の危険性もある。
【0022】
本明細書において使用する「エアロゾル」という用語は、典型的には、約0.1〜約30ミクロンの幾何学的容量中央径または約0.5〜約10ミクロンの間の空気動力学的質量中央径を有する、微細な霧状の粒子(液体および液体でない粒子、例えば乾燥粉末を含む)の任意の調製物を表す。好ましくは、エアロゾル粒子の幾何学的容量中央径は、約10ミクロン未満である。エアロゾル粒子の好ましい幾何学的容量中央径は、約5ミクロンである。例えば、エアロゾルは、約0.1〜約30ミクロンの間、約0.5〜約20ミクロンの間、約0.5〜約10ミクロンの間、約1.0〜約3.0ミクロンの間、約1.0〜5.0ミクロンの間、約1.0〜10.0ミクロンの間、約5.0〜15.0ミクロンの間の幾何学的容量中央径を有する粒子を含有し得る。好ましくは、空気動力学的質量中央径は、約0.5〜約10ミクロンの間、約1.0〜約3.0ミクロンの間、または約1.0〜5.0ミクロンの間である。
【0023】
本明細書において使用する「気道」という用語には、上気道(例えば、鼻道、鼻腔、咽喉、咽頭)、呼吸気道(例えば、喉頭、気管、気管支、細気管支)、および肺(例えば、呼吸細気管支、肺胞管、肺胞嚢、肺胞)が含まれる。
【0024】
本明細書において使用するとき、「1×」張性とは、正常なヒトの血液および細胞と比べて等張である溶液を表す。正常なヒトの血液および細胞と比較して低張または高張である溶液を、適切な乗数を用いて1×溶液と比べて記載する。例えば、低張液は0.1×、0.25×、または0.5×張性を有し得、高張液は2×、3×、4×、5×、6×、7×、8×、9×、または10×張性を有し得る。
【0025】
本明細書において使用する「乾燥粉末」という用語は、吸入デバイス中で分散され、その結果、対象によって吸入され得る微細分散した呼吸に適した乾燥粒子を含有する組成物を表す。そのような乾燥粉末または乾燥粒子は、最高約15%までの水または他の溶媒を含有していてよく、あるいは実質的に水または他の溶媒なし、あるいは無水であってよい。
【0026】
製剤
本発明は、活性成分として乳酸カルシウムおよび/またはクエン酸カルシウムを含み、かつ場合によってはさらなる塩または薬剤を含有し得る塩製剤に関する。塩製剤は、例えばエアロゾルのような、気道への投与のためのものである。塩製剤は、気道の感染性疾患(例えば、ウイルス感染症、細菌感染症)の伝染を治療、予防、および/または低減するのに有効である。塩製剤は、慢性肺疾患の治療に有効である。例示的肺疾患には、喘息(例えば、アレルギー性/アトピー性、小児性、遅発性、咳型、または慢性閉塞性)、気道過敏症、アレルギー性鼻炎(季節性または通年性)、気管支拡張症、慢性気管支炎、肺気腫、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、小児期喘鳴等が含まれる。塩製剤は、個体における慢性肺疾患の急性増悪を阻止するのに有効である。塩製剤は、抗原(例えば、アレルゲン、病原体、および他の環境刺激物)による気管支収縮および気管支痙攣を防止するのに有効である。
【0027】
塩製剤は、気道の粘膜内層の生物物理学的性質を改変するのに有効である。これらの性質には、例えば粘液表面でのゲル化、粘膜内層の表面張力、粘膜内層の表面弾性および/または表面粘性、粘膜内層の体積弾性および/または体積粘性が含まれる。特定の理論に束縛されることを望むことなく、本明細書に記載される塩製剤および方法によって生じる効用(例えば、治療的および予防的効用)は、該塩製剤の投与後の気道(例えば、肺粘液または気道内層流体)中のカルシウムカチオン(該塩製剤中のカルシウム塩によって提供されるCa2+)の量の増加によってもたらされると考えられる。塩製剤によって、気道内層流体中の抗原の通過が減速し、それによって、炎症を誘発し得る抗原への暴露、ならびにそれに続く免疫応答によって生じる気管支収縮および気管支痙攣が低減する。
【0028】
クエン酸カルシウムおよび乳酸カルシウムは、液体および乾燥粉末の両方の形態でのカルシウムの経肺投与のための製剤における使用に対して、代替カルシウム塩よりもいくつかの利点を有する。特に、クエン酸カルシウムおよび乳酸カルシウムは、呼吸に適した乾燥粉末への噴霧乾燥によるそれらの加工を可能にし、かつ肺に蓄積するとそれらの溶解を促すのに十分な水溶解度を備えており、さらに常湿および高湿にさらされた場合に比較的物理的に安定である、高いカルシウム塩負荷量を有する乾燥粉末の生成を可能にするのに十分な低吸湿性を備えている。加えて、塩化カルシウム(例えば、塩化カルシウム二水和物(dehydrate))は大量の発熱性溶解熱を有し、それが溶解するときに相当な熱が生成される。このことが、塩化カルシウムを粘膜へ投与した場合に熱傷の危険を引き起こす。クエン酸カルシウムおよび乳酸カルシウムは、発熱性溶解熱に関して、塩化カルシウム塩に伴う限界も有さない。最後に、クエン酸イオンおよび乳酸イオンは、医薬組成物における封入に安全かつ許容可能であると考えられている。
【0029】
さらに、乾燥粉末製剤に関して、クエン酸カルシウムおよび乳酸カルシウムは、塩化カルシウム塩形態を含む他のカルシウム塩形態のものよりも好ましい性質の組み合わせを備えている。クエン酸カルシウムおよび乳酸カルシウムは、(i)経肺投与に適した粒径分布の乾燥粉末形態へ加工され得、(ii)高湿条件にさらされることを含む様々な条件にわたって分散され得かつ物理的に安定である乾燥粉末の生成を促すのに十分な乾燥粉末形態での物理化学的安定性を備え、(iii)肺に蓄積すると急速に溶解し得、かつ(iv)著しい発熱性混合熱を備えている等々の不十分な忍容性または有害事象をもたらし得る性質を備えていない。
【0030】
乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウムに加えて、塩製剤は、元素ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ケイ素、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、コバルト、ニッケル、銅、マンガン、亜鉛、スズ、銀、および類似元素の任意の毒性のない塩形態を含んでいてよい。塩製剤は、溶液、エマルション、懸濁液、または乾燥粉末などの任意の所望の形態であってよい。溶液および乾燥粉末などの好ましい塩製剤を、エアロゾル化することができる。好ましい塩製剤は、乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウムに加えて、ナトリウム塩(例えば、生理食塩水(0.15M NaClまたは0.9%溶液))を含有する。製剤が乳酸カルシウムおよびナトリウム塩、またはクエン酸カルシウムおよびナトリウム塩を含む場合、所望に応じて、それは1種以上の他の塩も含有し得る。塩製剤は、所望どおりに、複数回用量を含んでいても、単位用量組成物であってもよい。
【0031】
適切なナトリウム塩には、例えば塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、重リン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム等、またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0032】
適切なカルシウム塩には、例えば塩化カルシウム、炭酸カルシウム、酢酸カルシウム、リン酸カルシウム、アルギン酸カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ソルビン酸カルシウム、硫酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、クエン酸カルシウム、乳酸カルシウム等、またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0033】
適切なマグネシウム塩には、例えば炭酸マグネシウム、酢酸マグネシウム、リン酸マグネシウム、アルギン酸マグネシウム、ソルビン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、三ケイ酸マグネシウム、塩化マグネシウム、クエン酸マグネシウム、乳酸マグネシウム等、またはそれらの組み合わせが含まれる。
【0034】
適切なカリウム塩には、例えば重炭酸カリウム、塩化カリウム、クエン酸カリウム、ホウ酸カリウム、亜硫酸水素カリウム、リン酸二水素カリウム、アルギン酸カリウム、安息香酸カリウム等、またはそれらの組み合わせが含まれる。さらなる適切な塩には、硫酸銅、塩化クロム、塩化第一スズ、および類似の塩が含まれる。
【0035】
他の適切な塩には、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、および塩化銀が含まれる。
【0036】
塩製剤は、一般に、生理学的に許容可能なキャリアまたは賦形剤中で調製される、あるいは生理学的に許容可能なキャリアまたは賦形剤を含む。溶液、懸濁液、またはエマルションの形態の塩製剤に対して、任意の適切なキャリアまたは賦形剤が含まれていてよい。適切なキャリアには、水、生理食塩水、エタノール/水の溶液、エタノール溶液、緩衝培地、噴射剤等を含む、例えば水性、アルコール性/水性、およびアルコール性の溶液、エマルション、または懸濁液が含まれる。乾燥粉末の形態の塩製剤に対して、適切なキャリアまたは賦形剤には、例えば糖類(例えば、ラクトース、トレハロース)、糖アルコール(例えば、マンニトール、キシリトール、ソルビトール)、アミノ酸(例えば、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(dipalmitoylphosphosphatidylcholine)(DPPC)、ジホスファチジルグリセロール(DPPG)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−L−セリン(DPPS)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DSPE)、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルコリン(POPC)、脂肪アルコール、ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル、表面活性脂肪酸、ソルビタントリオレエート(スパン85)、グリココール酸、サーファクチン、ポロキサマー(poloxomer)、ソルビタン脂肪酸エステル、チロキサポール、リン脂質、アルキル化糖類、リン酸ナトリウム、マルトデキストリン、ヒト血清アルブミン(例えば、組換えヒト血清アルブミン)、生分解性ポリマー(例えば、PLGA)、デキストラン、デキストリン等が含まれる。所望に応じて、塩製剤は、添加剤、防腐剤、あるいは流体、栄養素、または電解質の補給剤も含有し得る(一般に、Remington’s Pharmaceutical Sciences,第17編,Mack Publishing Co.,PA,1985を参照されたい)。
【0037】
塩製剤は、好ましくは、有効量の製剤の気道への好都合な投与を可能にする濃度の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウムを含有する。例えば、一般に、液剤は、対象の気道へ有効量を送達するために、大量の霧状化される製剤を必要とするほど希釈されないことが望ましい。長い投与期間は好まれず、一般に、製剤は、有効量が気道(例えば、霧状化液体またはエアロゾル化乾燥粉末などのエアロゾル化製剤の吸入によって)または鼻腔へ約120分以内、約90分以内、約60分以内、約45分以内、約30分以内、約25分以内、約20分以内、約15分以内、約10分以内、約7.5分以内、約5分以内、約4分以内、約3分以内、約2分以内、約1分以内、約45秒以内、または約30秒以内に投与されるのを可能にするのに十分濃縮されるべきである。例えば、液体乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤は、約0.01%〜約30%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム(重量/容量)、0.1%〜約20%の間の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム(重量/容量)、あるいは0.1%〜約10%の間の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム(重量/容量)を含有し得る。液剤は、約0.001M〜約1.5Mの乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、約0.01M〜約1.0Mの乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、約0.01M〜約0.9Mの乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、約0.01M〜約0.8Mの乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、約0.01M〜約0.7Mの乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、約0.01M〜約0.6Mの乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、約0.01M〜約0.5Mの乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、約0.01M〜約0.4Mの乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、約0.01M〜約0.3Mの乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、約0.01M〜約0.2Mの乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、約0.1M〜約1.0Mの乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、約0.1M〜約0.9Mの乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、約0.1M〜約0.8Mの乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、約0.1M〜約0.7Mの乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、約0.1M〜約0.6Mの乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、約0.1M〜約0.5Mの乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、約0.1M〜約0.4Mの乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、約0.1M〜約0.3Mの乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、あるいは約0.1M〜約0.2Mの乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウムを含有し得る。クエン酸カルシウムおよび乳酸カルシウムの溶解度は、溶液の調製を制限し得る。そのような状況では、液剤は、所望のモル濃度に到達するのに必要とされるであろう等量のカルシウム塩を含有する懸濁液の形態であってよい。
【0038】
乾燥粉末製剤は、少なくとも約5重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約10重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約15重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約19.5重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約20重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約22重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約25.5重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約30重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約35重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約40重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約45重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約50重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約55重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約60重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約65重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約70重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約75重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約80重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約85重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約90重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約95重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約96重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約97重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、少なくとも約98重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、あるいは少なくとも約99重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウムを含有し得る。例えば、いくつかの乾燥粉末製剤は、約20重量%〜約80重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、約20重量%〜約70重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、約20重量%〜約60重量%の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウムを含有しており、あるいは実質的に乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウムからなってもよい。
【0039】
代わりにまたは加えて、そのような乾燥粉末製剤は、少なくとも約5重量%のCa2+、少なくとも約7重量%のCa2+、少なくとも約10重量%のCa2+、少なくとも約11重量%のCa2+、少なくとも約12重量%のCa2+、少なくとも約13重量%のCa2+、少なくとも約14重量%のCa2+、少なくとも約15重量%のCa2+、少なくとも約17重量%のCa2+、少なくとも約20重量%のCa2+、少なくとも約25重量%のCa2+、少なくとも約30重量%のCa2+、少なくとも約35重量%のCa2+、少なくとも約40重量%のCa2+、少なくとも約45重量%のCa2+、少なくとも約50重量%のCa2+、少なくとも約55重量%のCa2+、少なくとも約60重量%のCa2+、少なくとも約65重量%のCa2+、または少なくとも約70重量%のCa2+の量でCa2+を提供するカルシウム塩を含有し得る。
【0040】
乾燥粉末塩製剤が乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウムおよびナトリウム塩を含有する場合、乾燥粉末製剤中のナトリウム塩の量は、所望のカルシウム:ナトリウム比に依存し得る。例えば、乾燥粉末製剤は、少なくとも約1.6重量%のナトリウム塩、少なくとも約5重量%のナトリウム塩、少なくとも約10重量%のナトリウム塩、少なくとも約13重量%のナトリウム塩、少なくとも約15重量%のナトリウム塩、少なくとも約20重量%のナトリウム塩、少なくとも約24.4重量%のナトリウム塩、少なくとも約28重量%のナトリウム塩、少なくとも約30重量%のナトリウム塩、少なくとも約30.5重量%のナトリウム塩、少なくとも約35重量%のナトリウム塩、少なくとも約40重量%のナトリウム塩、少なくとも約45重量%のナトリウム塩、少なくとも約50重量%のナトリウム塩、少なくとも約55重量%のナトリウム塩、または少なくとも約60重量%のナトリウム塩を含有し得る。
【0041】
代わりにまたは加えて、乾燥粉末製剤は、少なくとも約0.1重量%のNa、少なくとも約0.5重量%のNa、少なくとも約1重量%のNa、少なくとも約2重量%のNa、少なくとも約3重量%のNa、少なくとも約4重量%のNa、少なくとも約5重量%のNa、少なくとも約6重量%のNa、少なくとも約7重量%のNa、少なくとも約8重量%のNa、少なくとも約9重量%のNa、少なくとも約10重量%のNa、少なくとも約11重量%のNa、少なくとも約12重量%のNa、少なくとも約14重量%のNa、少なくとも約16重量%のNa、少なくとも約18重量%のNa、少なくとも約20重量%のNa、少なくとも約22重量%のNa、少なくとも約25重量%のNa、少なくとも約27重量%のNa、少なくとも約29重量%のNa、少なくとも約32重量%のNa、少なくとも約35重量%のNa、少なくとも約40重量%のNa、少なくとも約45重量%のNa、少なくとも約50重量%のNa、または少なくとも約55重量%のNaの量でNaを提供するナトリウム塩を含有し得る。
【0042】
あるカルシウム塩は、溶解すると1モルのカルシウム塩あたり2モル以上のCa2+を提供する。そのようなカルシウム塩は、カルシウムが濃密である液剤または乾燥粉末製剤を生成するのに特に適し得、ゆえに、有効量のカチオン(例えば、Ca2+、Na、またはCa2+およびNa)を送達し得る。例えば、1モルのクエン酸カルシウムは、溶解すると3モルのCa2+を提供する。また、一般に、カルシウム塩は、低分子量を有する塩であること、かつ/または低分子量アニオンを含有することが好ましい。カルシウムイオンおよび低分子量アニオンを含有するカルシウム塩などの低分子量のカルシウム塩は、高分子量の塩および高分子量アニオンを含有するカルシウム塩と比べてカルシウムが濃密である。一般に、カルシウム塩は、約1000g/モル未満、約950g/モル未満、約900g/モル未満、約850g/モル未満、約800g/モル未満、約750g/モル未満、約700g/モル未満、約650g/モル未満、約600g/モル未満、約550g/モル未満、約510g/モル未満、約500g/モル未満、約450g/モル未満、約400g/モル未満、約350g/モル未満、約300g/モル未満、約250g/モル未満、約200g/モル未満、約150g/モル未満、約125g/モル未満、または約100g/モル未満の分子量を有することが好ましい。加えてまたは代わりに、一般に、カルシウムイオンは、カルシウム塩の全重量に対して相当な部分の重量に寄与することが好ましい。一般に、カルシウムイオンは、カルシウム塩全体の少なくとも約10%、カルシウム塩全体の少なくとも約16%、少なくとも約20%、少なくとも約24.5%、少なくとも約26%、少なくとも約31%、少なくとも約35%、または少なくとも約38%の重量があることが好ましい。
【0043】
いくつかの塩製剤は、カルシウム対カルシウム塩の全重量の重量比が、約0.1〜約0.5の間であるカルシウム塩を含有する。例えば、カルシウム対カルシウム塩の全重量の重量比は、約0.15〜約0.5の間、約0.18〜約0.5の間、約0.2〜約0.5の間、約0.25〜約0.5の間、約0.27〜約0.5の間、約0.3〜約0.5の間、約0.35〜約0.5の間、約0.37〜約0.5の間、または約0.4〜約0.5の間である。
【0044】
いくつかの塩製剤は、乳酸カルシウムおよびナトリウム塩、例えば0.15Mの塩化ナトリウム中に0.12Mの乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム、あるいは0.90%の生理食塩水中に3.7%(重量/容量)の乳酸カルシウムを含有する。乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウムおよびナトリウム塩を含有するいくつかの塩製剤は、カルシウム:ナトリウム(モル:モル)の比率によって特徴付けされる。カルシウム:ナトリウム(モル:モル)の適切な比率は、約0.1:1〜約32:1、約0.5:1〜約16:1、約2:1〜約16:1、約4:1〜約12:1、約1:1〜約8:1に及んでよい。例えば、カルシウム:ナトリウム(モル:モル)の比率は、約0.77:1、約1:1、約1:1.3、約1:2、約2:1、約4:1、約8:1、または約16:1(モル:モル)であってよい。特定の例では、塩製剤は、乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウムおよび塩化ナトリウムを含有し、かつ約8:1(モル:モル)のカルシウム:ナトリウム比を有する。このタイプの水性液体塩製剤は、張性、ならびに製剤中に存在するカルシウム塩およびナトリウム塩の濃度が変化し得る。例えば、塩製剤は、表1に一覧にした張性およびモル濃度で、乳酸カルシウムおよび塩化ナトリウムを含有し得る。
【0045】
【表1】

【0046】
ある態様では、塩製剤はカルシウム塩およびナトリウム塩を含有し、かつCa2+対Naの比率は、約4:1(モル:モル)〜約16:1(モル:モル)である。例えば、製剤は、約5:1(モル:モル)〜約16:1(モル:モル)、約6:1(モル:モル)〜約16:1(モル:モル)、約7:1(モル:モル)〜約16:1(モル:モル)、約8:1(モル:モル)〜約16:1(モル:モル)、約9:1(モル:モル)〜約16:1(モル:モル)、約10:1(モル:モル)〜約16:1(モル:モル)、約11:1(モル:モル)〜約16:1(モル:モル)、約12:1(モル:モル)〜約16:1(モル:モル)、約13:1(モル:モル)〜約16:1(モル:モル)、約14:1(モル:モル)〜約16:1(モル:モル)、約15:1(モル:モル)〜約16:1(モル:モル)のCa2+対Naの比率を含有し得る。
【0047】
ある態様では、塩製剤はカルシウム塩およびナトリウム塩を含有し、かつCa2+対Naの比率は、約4:1(モル:モル)〜約5:1(モル:モル)、約4:1(モル:モル)〜約6:1(モル:モル)、約4:1(モル:モル)〜約7:1(モル:モル)、約4:1(モル:モル)〜約8:1(モル:モル)、約4:1(モル:モル)〜約9:1(モル:モル)、約4:1(モル:モル)〜約10:1(モル:モル)、約4:1(モル:モル)〜約11:1(モル:モル)、約4:1(モル:モル)〜約12:1(モル:モル)、約4:1(モル:モル)〜約13:1(モル:モル)、約4:1(モル:モル)〜約14:1(モル:モル)、約4:1(モル:モル)〜約15:1(モル:モル)である。
【0048】
塩製剤は、約4:1(モル:モル)〜約12:1(モル:モル)、約5:1(モル:モル)〜約11:1(モル:モル)、約6:1(モル:モル)〜約10:1(モル:モル)、約7:1(モル:モル)〜約9:1(モル:モル)のCa2+対Naの比率を含有し得る。
【0049】
特定の例では、Ca2+対Naの比率は、約4:1(モル:モル)、約4.5:1(モル:モル)、約5:1(モル:モル)、約5.5:1(モル:モル)、約6:1(モル:モル)、約6.5:1(モル:モル)、7:1(モル:モル)、約7.5:1(モル:モル)、約8:1(モル:モル)、約8.5:1(モル:モル)、約9:1(モル:モル)、約9.5:1(モル:モル)、約10:1(モル:モル)、約10.5:1(モル:モル)、約11:1(モル:モル)、約11.5:1(モル:モル)、約12:1(モル:モル)、約12.5:1(モル:モル)、約13:1(モル:モル)、約13.5:1(モル:モル)、約14:1(モル:モル)、約14.5:1(モル:モル)、約15:1(モル:モル)、約15.5:1(モル:モル)、または約16:1(モル:モル)である。
【0050】
より特定の例では、Ca2+対Naの比率は、約8:1(モル:モル)または約16:1(モル:モル)である。
【0051】
塩製剤は、所望どおりに、低張、等張、または高張であってよい。例えば、本明細書に記載される塩製剤のいずれかは、約0.1×張性、約0.25×張性、約0.5×張性、約1×張性、約2×張性、約3×張性、約4×張性、約5×張性、約6×張性、約7×張性、約8×張性、約9×張性、約10×張性、少なくとも約1×張性、少なくとも約2×張性、少なくとも約3×張性、少なくとも約4×張性、少なくとも約5×張性、少なくとも約6×張性、少なくとも約7×張性、少なくとも約8×張性、少なくとも約9×張性、少なくとも約10×張性、約0.1×〜約1×の間、約0.1×〜約0.5×の間、約0.5×〜約2×の間、約1×〜約4×の間、約1×〜約2×の間、約2×〜約10×の間、または約4×〜約8×の間を有し得る。
【0052】
所望に応じて、塩製剤は、粘液活性剤(mucoactive)または粘液溶解剤、界面活性剤、抗生物質、抗ウイルス剤、抗ヒスタミン剤、鎮咳薬、気管支拡張剤、抗炎症剤、ステロイド、ワクチン、アジュバント、去痰薬、高分子、CFの慢性維持に役立つ治療法などの1種以上のさらなる薬剤を含んでいてよい。
【0053】
適切な粘液活性剤または粘液溶解剤の例には、MUC5ACおよびMUC5Bムチン、DNAアーゼ、N−アセチルシステイン(NAC)、システイン、ナシステリン、ドルナーゼα、ゲルゾリン、ヘパリン、ヘパリン硫酸、P2Y2作動薬(例えば、UTP、INS365)、高張食塩水、およびマンニトールが含まれる。
【0054】
適切な界面活性剤には、L−α−ホスファチジルコリンジパルミトイル(「DPPC」)、ジホスファチジルグリセロール(DPPG)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−L−セリン(DPPS)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DSPE)、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルコリン(POPC)、脂肪アルコール、ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル、表面活性脂肪酸、ソルビタントリオレエート(スパン85)、グリココール酸、サーファクチン、ポロキサマー、ソルビタン脂肪酸エステル、チロキサポール、リン脂質、およびアルキル化糖類が含まれる。
【0055】
所望に応じて、塩製剤は、抗生物質を含有し得る。例えば、細菌性肺炎またはVATを治療するための塩製剤は、抗生物質、例えばマクロライド(例えば、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、およびエリスロマイシン)、テトラサイクリン(例えば、ドキシサイクリン、チゲサイクリン)、フルオロキノロン(例えば、ゲミフロキサシン、レボフロキサシン、シプロフロキサシン、およびモキシフロキサシン(mocifloxacin))、セファロスポリン(例えば、セフトリアキソン、セフォタキシム(defotaxime)、セフタジジム、セフェピム)、場合によってはβ−ラクタマーゼ阻害剤(例えば、スルバクタム、タゾバクタム、およびクラブラン酸)を含むペニシリン(例えば、アモキシシリン、クラブラン酸を含むアモキシシリン、アンピシリン、ピペラシリン、およびチカルシリン)、例えばアンピシリン−スルバクタム、ピペラシリン−タゾバクタム、およびクラブラン酸を含むチカルシリンなど、アミノグリコシド(例えば、アミカシン、アルベカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、パロモマイシン、ロドストレプトマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、およびアプラマイシン)、ペネムまたはカルバペネム(例えば、ドリペネム、エルタペネム、イミペネム、およびメロペネム)、モノバクタム(例えば、アズトレオナム)、オキサゾリジノン(例えば、リネゾリド)、バンコマイシン、糖ペプチド抗生物質(例えば、テラバンシン)、結核性マイコバクテリウム抗生物質等をさらに含んでいてよい。
【0056】
所望に応じて、塩製剤は、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)などのマイコバクテリウムによる感染症を治療するための薬剤を含有し得る。マイコバクテリウム(例えば、結核菌)による感染症を治療するための適切な薬剤には、アミノグリコシド(例えば、カプレオマイシン、カナマイシン、ストレプトマイシン)、フルオロキノロン(例えば、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、モキシフロキサシン)、イソジアニド(isozianid)およびイソジアニド類似体(例えば、エチオナミド)、アミノサリチル酸、サイクロセリン、ジアリルキノリン、エタンブトール、ピラジナミド、プロチオナミド、リファンピン等が含まれる。
【0057】
所望に応じて、塩製剤は、オセルタミビル、ザナミビル(zanamavir)、アマンタジン(amantidine)またはリマンタジン、リバビリン、ガンシクロビル(gancyclovir)、バルガンシクロビル(valgancyclovir)、ホスカビル、Cytogam(登録商標)(サイトメガロウイルス免疫グロブリン)、プレコナリル、ルピントリビル、パリビズマブ、モタビズマブ、シタラビン、ドコサノール、デノチビル、シドフォビル、およびアシクロビルなどの適切な抗ウイルス剤を含有し得る。塩製剤は、ザナミビル、オセルタミビル、アマンタジン、またはリマンタジンなどの適切な抗インフルエンザ剤を含有し得る。
【0058】
適切な抗ヒスタミン剤には、クレマスチン、アゼラスチン(asalastine)、ロラタジン、フェキソフェナジン等が含まれる。
【0059】
適切な鎮咳薬には、ベンゾナテート、ベンプロペリン、クロブチナル(clobutinal)、ジフェンヒドラミン、デキストロメトルファン、ジブナート、フェドリレート、グラウシン、オキサラミン(oxalamine)、ピペリジオン、コデイン(codine)などのオピオイド(opiod)等が含まれる。
【0060】
適切な気管支拡張剤には、短時間作用型β作動薬、長時間作用型β作動薬(LABA)、長時間作用型ムスカリン拮抗薬(LAMA)、LABAとLAMAとの組み合わせ、メチルキサンチン等が含まれる。適切な短時間作用型(short−active)β作動薬には、アルブテロール、エピネフリン、ピルブテロール、レバルブテロール、メタプロテレノール(metaproteronol)、マックスエア(maxair)等が含まれる。適切なLABAには、サルメテロール、ホルモテロールおよび異性体(例えば、アルホルモテロール)、クレンブテロール、ツロブテロール、ビランテロール(Revolair(商標))、インダカテロール等が含まれる。LAMAの例には、チオトロピウム(tiotroprium)、グリコピロレート、アクリジニウム(aclidinium)、イプラトロピウム等が含まれる。LABAとLAMAとの組み合わせの例には、グリコピロレートを含むインダカテロール、チオトロピウムを含むインダカテロール等が含まれる。メチルキサンチンの例には、テオフィリン等が含まれる。
【0061】
適切な抗炎症剤には、ロイコトリエン阻害剤、PDE4阻害剤、他の抗炎症剤等が含まれる。適切なロイコトリエン阻害剤には、モンテルカスト(システイニル(cystinyl)ロイコトリエン阻害剤)、マシルカスト、ザフィルルカスト(zafirleukast)(ロイコトリエンD4およびE4受容体阻害剤)、ジロートン(5−リポキシゲナーゼ阻害剤)等が含まれる。適切なPDE4阻害剤には、シロミラスト、ロフルミラスト等が含まれる。他の抗炎症剤には、オマリズマブ(抗IgE免疫グロブリン)、IL−13阻害剤およびIL−13受容体阻害剤(例えば、AMG−317、MILR1444A、CAT−354、QAX576、IMA−638、アンルキンズマブ(Anrukinzumab)、IMA−026、MK−6105、DOM−0910等)、IL−4阻害剤およびIL−4受容体阻害剤(例えば、ピトラキンラ(Pitrakinra)、AER−003、AIR−645、APG−201、DOM−0919等)、カナキヌマブなどのIL−1阻害剤、AZD1981(AstraZeneca社製)などのCRTh2受容体拮抗薬、AZD9668(AstraZeneca社製)などの好中球エラスターゼ阻害剤、ロスマピメド(losmapimed)などのP38キナーゼ阻害剤等が含まれる。
【0062】
適切なステロイドには、コルチコステロイド、コルチコステロイドとLABAとの組み合わせ、コルチコステロイドとLAMAとの組み合わせ等が含まれる。適切なコルチコステロイドには、ブデソニド、フルチカゾン、フルニソリド、トリアムシノロン、ベクロメタゾン、モメタゾン、シクレソニド、デキサメタゾン等が含まれる。コルチコステロイドとLABAとの組み合わせには、フルチカゾンを含むサルメテロール、ブデソニドを含むホルモテロール、フルチカゾンを含むホルモテロール、モメタゾンを含むホルモテロール、モメタゾンを含むインダカテロール等が含まれる。
【0063】
適切な去痰薬には、グアイフェネシン、グアイアコールスルホン酸(guaiacolculfonate)、塩化アンモニウム、ヨウ化カリウム、チロキサポール、五硫化アンチモン等が含まれる。
【0064】
適切なワクチンには、鼻からの吸入によるインフルエンザワクチン等が含まれる。
【0065】
適切な高分子には、タンパク質と大きなペプチド、多糖とオリゴ糖、およびDNAとRNA核酸分子、ならびに治療、予防、または診断活性を有するそれらの類似体が含まれる。タンパク質には、モノクローナル抗体などの抗体が含まれてよい。核酸分子には、遺伝子、相補的なDNA、RNA、またはリボソームに結合して、転写または翻訳を阻害するsiRNAなどのアンチセンス分子が含まれる。
【0066】
CFの慢性維持に役立つ選択された治療法には、抗生物質/マクロライド抗生物質、気管支拡張剤、吸入LABA、および気道分泌物の除去を促す薬剤が含まれる。抗生物質/マクロライド抗生物質の適切な例には、トブラマイシン、アジスロマイシン、シプロフロキサシン、コリスチン等が含まれる。気管支拡張剤の適切な例には、アルブテロールなどの短時間作用型β作動薬等が含まれる。吸入LABAの適切な例には、サルメテロール、ホルモテロール等が含まれる。気道分泌物の除去を促す薬剤の適切な例には、ドルナーゼα、高張食塩水等が含まれる。
【0067】
乾燥粉末製剤を、適切な粒径、表面粗度、および気道の選択領域への局所的送達のための密度で調製する。例えば、高密度またはより大きな粒子を、上気道送達に用いることができる。同様に、異なるサイズの粒子の混合物を投与して、1回の投与で肺の異なる領域を標的にすることができる。
【0068】
本明細書において使用するとき、「空気動力学的に軽い粒子」という語句は、約0.4g/cm未満のタップ密度を有する粒子を表す。乾燥粉末の粒子のタップ密度を、標準的USPタップ密度測定によって得ることができる。タップ密度は、エンベロープ質量密度の一般的尺度である。等方性粒子のエンベロープ質量密度は、粒子の質量を、それを包み込むことができる最小球体のエンベロープ容積で割ったものとして定義される。低タップ密度に寄与する特質には、不規則な表面性状および多孔質構造が含まれる。
【0069】
大きな粒径を有する乾燥粉末製剤(「DPF」)は、あまり凝集しない(Visser,J.,Powder Technology 58:1−10(1989))、エアロゾル化しやすい、かつ潜在的にあまり食作用されないなどの流動性特性を改良してきている。Rudt,S.およびR.H.Muller,J.Controlled Release,22:263−272(1992);Tabata Y.,およびY.Ikada,J.Biomed.Mater.Res.22:837−858(1988)。しかしながら、口腔を越えて肺気道(pulmonary tract)における蓄積を所望する場合、一般に、DPFは10ミクロン未満、より好ましくは5ミクロン未満の空気動力学的質量中央径を有するべきであると理解される。したがって、任意の所望の空気動力学的径の範囲を有する乾燥粉末を生成することができるが、吸入治療のための乾燥粉末エアロゾルは、一般に、主に10ミクロン未満、好ましくは5ミクロン未満の範囲の幾何学的容量平均径で生成される。Ganderton D.,J.Biopharmaceutical Sciences,3:101−105(1992);Gonda,I.“Plysico−Chemical Principles in Aerosol Delivery.”in Topics in Pharmaceutical Sciences 1991,Crommelin,D.J.およびK.K.Midha,Eds.,Medpharm Scientific Publishers,Stuttgart,pp.95−115(1992)。大きな「キャリア」粒子(塩製剤を含有していない)は、治療用エアロゾルと共送達されて、他の効用の可能性があるものの中でも効率的なエアロゾル化を達成するのに役立ち得る。French,D.L.,Edwards,D.A.およびNiven,R.W.,J.Aerosol Sci.27:769−783(1996)。数秒から数ヶ月に及ぶ分解および放出時間を有する粒子を、当該技術分野において確立された方法によって設計および製造することができる。
【0070】
一般に、乾燥粉末である塩製剤を、噴霧乾燥、凍結乾燥、ジェットミル、単一および二重乳化溶媒蒸発、ならびに超臨界流体によって生成することができる。好ましくは、塩製剤を、該製剤の塩および他の構成成分を含有する液体供給ストックを調製する工程、密閉チャンバー内に該液体供給ストックを噴霧する工程、ならびに溶媒を加熱した気体蒸気で除去する工程を伴う噴霧乾燥によって生成する。一般に、ミルは、粒径分布に対する制御が不十分なために、呼吸に適した乾燥粉末の生成には好ましくない。
【0071】
塩化カルシウムおよび乳酸カルシウムなど、水または水性溶媒中で十分な溶解度を有する塩を含有する噴霧乾燥した粉末を、従来方法を用いて容易に調製することができる。クエン酸カルシウムおよび炭酸カルシウムなどのいくつかの塩は、水および他の水性溶媒中で比較的低い溶解度を有する。そのような塩を含有する噴霧乾燥した粉末を、任意の適切な方法を用いて調製することができる。一つの適切な方法は、溶液中で他のより可溶性の塩を混ぜ合わせる工程、および乾燥粉末製剤のための所望の塩を生成する反応(沈殿反応)を可能にする工程を伴う。例えば、クエン酸カルシウムおよび塩化ナトリウムを含む乾燥粉末製剤を所望する場合、高溶解度の塩である塩化カルシウムおよびクエン酸ナトリウムを含有する溶液を調製することができる。クエン酸カルシウムをもたらす沈殿反応は、3CaCl+2NaCit→CaCit+6NaClである。ナトリウム塩は、カルシウム塩を添加する前に完全に溶解していること、かつ溶液を連続的に撹拌することが好ましい。例えば溶液を噴霧乾燥させることによって、所望どおりに、沈殿反応を完了まで進ませるまたは完了前に停止させることができる。
【0072】
代わりに、2種の飽和または部分飽和(sub−saturated)溶液を静的ミキサー内に供給し、静的混合後の飽和または過飽和溶液を得る。好ましくは、噴霧乾燥後の溶液を過飽和させる。2種の溶液は、水性でも有機性であってもよいが、好ましくは実質的に水性である。次いで、静的混合後の溶液を、噴霧乾燥器のアトマイジング装置内に供給する。好ましい実施形態では、静的混合後の溶液をアトマイザー装置内に直ちに供給する。アトマイザー装置のいくつかの例には、2流体ノズル、回転アトマイザー、または圧力ノズルが含まれる。好ましくは、アトマイザー装置は2流体ノズルである。一実施形態では、2流体ノズルは、気体が最も外側にあるオリフィスに出る前に液体供給物に作用することを意味する、内部混合型ノズルである。別の実施形態では、2流体ノズルは、気体が最も外側にあるオリフィスに出た後に液体供給物に作用することを意味する、外部混合型ノズルである。
【0073】
結果として生じる溶液は、完全に溶解した塩を含んで透明に見え得る、あるいは沈殿物が形成し得る。反応条件に依存して、沈殿物はすぐにまたは時間をかけて形成し得る。安定した均質な懸濁液の形成をもたらす軽い沈殿物を含有する溶液を、噴霧乾燥させることができる。
【0074】
乾燥粉末製剤を、最終的な製剤中に個々の構成成分を混成させることによっても調製することができる。例えば、カルシウム塩を含有する第一の乾燥粉末を、ナトリウム塩を含有する第二の乾燥粉末と混成させて、カルシウム塩およびナトリウム塩を含有する乾燥粉末塩製剤を生成することができる。所望に応じて、賦形剤(例えば、ラクトース)および/または他の活性成分(例えば、抗生物質、抗ウイルス剤)を含有するさらなる乾燥粉末を、混成物中に含ませてもよい。混成物は、任意の所望の相対量または比率の塩、賦形剤、および他の成分(例えば、抗生物質、抗ウイルス剤)を含有し得る。
【0075】
所望に応じて、i)送達の際の薬剤の安定化および活性の保持を提供する、送達される薬剤(例えば、塩)とポリマーとの間の相互作用;ii)ポリマーの分解速度、ゆえに薬剤の放出プロファイル;(iii)化学修飾を介した表面特性および標的化能;ならびに(iv)粒子の多孔性、を含む粒子特性を最適化するように調整されたポリマーを用いて、乾燥粉末を調製することができる。ポリマー粒子を、単一および二重乳化溶媒蒸発、噴霧乾燥、溶媒抽出、溶媒蒸発、相分離、単純および複合コアセルベーション、界面重合、ジェットミル、ならびに当業者に周知の他の方法を用いて調製することができる。当該技術分野において公知のマイクロスフェアまたはマイクロカプセルを作製するための方法を用いて、粒子を作製することができる。
【0076】
カルシウム塩を含有する乾燥粉末塩製剤は、一般に、少なくとも約3重量%のカルシウム塩、少なくとも約5重量%のカルシウム塩、10重量%のカルシウム塩、約15重量%のカルシウム塩、少なくとも約19.5重量%のカルシウム塩、少なくとも約20重量%のカルシウム塩、少なくとも約22重量%のカルシウム塩、少なくとも約25.5重量%のカルシウム塩、少なくとも約30重量%のカルシウム塩、少なくとも約37重量%のカルシウム塩、少なくとも約40重量%のカルシウム塩、少なくとも約48.4重量%のカルシウム塩、少なくとも約50重量%のカルシウム塩、少なくとも約60重量%のカルシウム塩、少なくとも約70重量%のカルシウム塩、少なくとも約75重量%のカルシウム塩、少なくとも約80重量%のカルシウム塩、少なくとも約85重量%のカルシウム塩、少なくとも約90重量%のカルシウム塩、または少なくとも約95重量%のカルシウム塩を含有する。
【0077】
代わりにまたは加えて、そのような乾燥粉末製剤は、少なくとも約3重量%のCa2+、少なくとも約5重量%のCa2+、少なくとも約7重量%のCa2+、少なくとも約10重量%のCa2+、少なくとも約11重量%のCa2+、少なくとも約12重量%のCa2+、少なくとも約13重量%のCa2+、少なくとも約14重量%のCa2+、少なくとも約15重量%のCa2+、少なくとも約17重量%のCa2+、少なくとも約20重量%のCa2+、少なくとも約25重量%のCa2+、少なくとも約30重量%のCa2+、少なくとも約35重量%のCa2+、少なくとも約40重量%のCa2+、少なくとも約45重量%のCa2+、少なくとも約50重量%のCa2+、少なくとも約55重量%のCa2+、少なくとも約60重量%のCa2+、少なくとも約65重量%のCa2+、または少なくとも約70重量%のCa2+の量でCa2+を提供するカルシウム塩を含有し得る。
【0078】
乾燥粉末塩製剤がカルシウム塩およびナトリウム塩を含有する場合、乾燥粉末製剤中のナトリウム塩の量は、所望のカルシウム:ナトリウム(モル:モル)比に依存し得る。例えば、乾燥粉末製剤は、少なくとも約1.6重量%のナトリウム塩、少なくとも約5重量%のナトリウム塩、少なくとも約10重量%のナトリウム塩、少なくとも約13重量%のナトリウム塩、少なくとも約15重量%のナトリウム塩、少なくとも約20重量%のナトリウム塩、少なくとも約24.4重量%のナトリウム塩、少なくとも約28重量%のナトリウム塩、少なくとも約30重量%のナトリウム塩、少なくとも約30.5重量%のナトリウム塩、少なくとも約35重量%のナトリウム塩、少なくとも約40重量%のナトリウム塩、少なくとも約45重量%のナトリウム塩、少なくとも約50重量%のナトリウム塩、少なくとも約55重量%のナトリウム塩、または少なくとも約60重量%のナトリウム塩を含有し得る。
【0079】
代わりにまたは加えて、乾燥粉末製剤は、少なくとも約0.1重量%のNa、少なくとも約0.5重量%のNa、少なくとも約1重量%のNa、少なくとも約2重量%のNa、少なくとも約3重量%のNa、少なくとも約4重量%のNa、少なくとも約5重量%のNa、少なくとも約6重量%のNa、少なくとも約7重量%のNa、少なくとも約8重量%のNa、少なくとも約9重量%のNa、少なくとも約10重量%のNa、少なくとも約11重量%のNa、少なくとも約12重量%のNa、少なくとも約14重量%のNa、少なくとも約16重量%のNa、少なくとも約18重量%のNa、少なくとも約20重量%のNa、少なくとも約22重量%のNa、少なくとも約25重量%のNa、少なくとも約27重量%のNa、少なくとも約29重量%のNa、少なくとも約32重量%のNa、少なくとも約35重量%のNa、少なくとも約40重量%のNa、少なくとも約45重量%のNa、少なくとも約50重量%のNa、または少なくとも約55重量%のNaの量でNaを提供するナトリウム塩を含有し得る。
【0080】
乾燥粉末塩製剤に好ましい賦形剤(例えば、マンニトール、マルトデキストリン、またはロイシン)は、製剤中に約50%(重量/重量)以下の量で存在し得る。例えば、乾燥粉末製剤は、約50重量%以下、約45重量%以下、約40重量%以下、約35重量%以下、約30重量%以下、約25重量%以下、約20重量%以下、約18重量%以下、約16重量%以下、約15重量%以下、約14重量%以下、約13重量%以下、約12重量%以下、約11重量%以下、約10重量%以下、約9重量%以下、約8重量%以下、約7重量%以下、約6重量%以下、約5重量%以下、約4重量%以下、約3重量%以下、約2重量%以下、または約1重量%以下の量でアミノ酸ロイシンを含有し得る。例示的賦形剤には、ロイシン、マルトデキストリン、マンニトール、ロイシンとマルトデキストリンとマンニトールの任意の組み合わせ、あるいは本明細書に開示されるまたは当該技術分野において一般に用いられる任意の他の賦形剤が含まれてよい。
【0081】
一実施形態では、マルトデキストリンは、乾燥粉末塩製剤中に約50%(重量/重量)以下の量で存在し得る。例えば、乾燥粉末製剤は、約50重量%以下、約45重量%以下、約40重量%以下、約35重量%以下、約30重量%以下、約25重量%以下、約20重量%以下、約18重量%以下、約16重量%以下、約15重量%以下、約14重量%以下、約13重量%以下、約12重量%以下、約11重量%以下、約10重量%以下、約9重量%以下、約8重量%以下、約7重量%以下、約6重量%以下、約5重量%以下、約4重量%以下、約3重量%以下、約2重量%以下、または約1重量%以下の量でマルトデキストリンを含有し得る。
【0082】
別の実施形態では、乾燥粉末は、2種の異なる賦形剤(例えば、ロイシン、マルトデキストリン、マンニトール、ラクトース、等々)を含有し得る。賦形剤は、製剤中に約4:1、約3:1、約2:1、または約1:1の比率で存在し得る。好ましくは、乾燥粉末製剤は、賦形剤としてロイシンおよびマルトデキストリンを1:1の比率で含む。
【0083】
例えば、液体医薬製剤は、約0.115M〜1.15MのCa2+イオン、約0.116M〜1.15MのCa2+イオン、約0.23M〜1.15MのCa2+イオン、約0.345M〜1.15MのCa2+イオン、約0.424M〜1.15MのCa2+イオン、約0.46M〜1.15MのCa2+イオン、約0.575M〜1.15MのCa2+イオン、約0.69M〜1.15MのCa2+イオン、約0.805M〜1.15MのCa2+イオン、約0.849M〜1.15MのCa2+イオン、または約1.035M〜1.15MのCa2+イオンを含有し得る。あるカルシウム塩(例えば、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム)の溶解度は、溶液の調製を制限し得る。そのような状況では、液剤は、所望のモル濃度に到達するのに必要とされるであろう等量のカルシウム塩を含有する懸濁液の形態であってよい。
【0084】
カルシウム塩およびナトリウム塩を含有する製剤など、塩製剤がナトリウム塩を含有する場合、液体医薬製剤中のNaイオンは、所望のCa2+:Na(モル:モル)比に依存し得る。例えば、液剤は、約0.053M〜0.3MのNaイオン、約0.075M〜0.3MのNaイオン、約0.106M〜0.3MのNaイオン、約0.15M〜0.3MのNaイオン、約0.225M〜0.3MのNaイオン、約0.008M〜0.3MのNaイオン、約0.015M〜0.3MのNaイオン、約0.016M〜0.3MのNaイオン、約0.03M〜0.3MのNaイオン、約0.04M〜0.3MのNaイオン、約0.08M〜0.3MのNaイオン、約0.01875M〜0.3MのNaイオン、約0.0375M〜0.3MのNaイオン、約0.075M〜0.6MのNaイオン、約0.015M〜0.6MのNaイオン、または約0.3M〜0.6MのNaイオンを含有し得る。
【0085】
いくつかの好ましい乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤の組成を、表2に提示する。表2に開示される組成は、本発明の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤の限定しない例である。
【0086】
【表2】



【0087】
方法
感染性疾患の治療
本発明は、気道の感染性疾患(例えば、ウイルス感染症、細菌感染症)の伝染を治療、予防、および/または低減するための方法を提供する。有効量の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤を、個体(例えば、ヒトまたは他の霊長類などの哺乳動物、あるいはブタ、ウシ、ヒツジ、ニワトリなどの家畜)の気道へ投与する。好ましくは、乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤を、エアロゾルの吸入によって投与する。前記方法を、気道の細菌またはウイルス感染症、例えばウイルス性肺炎、細菌性肺炎、インフルエンザ、咽頭炎、気管支炎、喉頭・気管気管支炎、細気管支炎(brochiolitis)等の伝染を治療、予防、および/または低減するために用いることができる。
【0088】
本発明は、肺疾患、例えば喘息(例えば、アレルギー性/アトピー性、小児性、遅発性、咳型、または慢性閉塞性)、気道過敏症、アレルギー性鼻炎(季節性または通年性)、気管支拡張症、慢性気管支炎、肺気腫、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、小児期喘鳴等の治療(予防的治療を含む)のための、ならびにこれらの慢性疾患の急性増悪、例えばウイルス感染(例えば、A型インフルエンザウイルスまたはB型インフルエンザウイルスなどのインフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、RSウイルス、ライノウイルス、アデノウイルス、メタニューモウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、コロナウイルス、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス等)、細菌感染(例えば、一般に肺炎球菌とも称される肺炎レンサ球菌、黄色ブドウ球菌、ストレプトコッカス・アガラクティアエ、化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)、インフルエンザ菌、パラインフルエンザ菌(Haemophilus parainfluenzae)、肺炎桿菌、大腸菌、緑膿菌、モラクセラ・カタラーリス、肺炎クラミジア、肺炎マイコプラズマ、レジオネラ・ニューモフィラ、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)、バークホルデリア・セパシア(Burkholderia cepacia)、類鼻疽菌(Burkholderia pseudomallei)、炭疽菌(Bacillus anthracis)、セレウス菌(Bacillus cereus)、ステノトロホモナス・マルトフィリア、シトロバクター科由来の細菌、アシネトバクター(ecinetobacter)科由来の細菌、結核菌、百日咳菌(Bordetella pertussis)等)、真菌感染(例えば、ヒストプラズマ・カプスラーツム(Histoplasma capsulatum)、クリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)、ニューモシスチス・イロヴェチ(Pneumocystis jiroveci)、コクシジオイデス・イミチス(Coccidioides immitis)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、ニューモシスチス・イロヴェチ(ニューモシスチス症とも呼ばれるニューモシスチス肺炎(PCP)を引き起こす)等、寄生虫感染(例えば、トキソプラズマ原虫(Toxoplasma gondii)、糞線虫(Strongyloides stercoralis)等)、あるいは環境アレルゲンおよび刺激物(例えば、花粉、チリダニ、ネコのふけなどの動物の鱗屑、カビ、ゴキブリ、空中微小粒子等を含むエアロアレルゲン)によって引き起こされる増悪の治療(予防的治療を含む)のための方法を提供する。
【0089】
一態様では、本発明は、気道の細菌感染症を有するまたは気道の細菌感染症の症状を示す個体を治療するための方法であって、該個体の気道へ、有効量の本発明の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤を投与する工程を含む方法である。
【0090】
いくつかの実施形態では、個体は、肺炎レンサ球菌、黄色ブドウ球菌、ブドウ球菌属、レンサ球菌属、ストレプトコッカス・アガラクティアエ、インフルエンザ菌、肺炎桿菌、大腸菌、緑膿菌、モラクセラ・カタラーリス、肺炎クラミジア、肺炎マイコプラズマ、レジオネラ・ニューモフィラ、エンテロバクター属、アシネトバクター属、アシネトバクター・バウマンニイ、バークホルデリア属、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、ステノトロホモナス・マルトフィリア、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される細菌であって、そのすべてが肺炎を引き起こし得る細菌に感染している。特定の実施形態では、個体は、肺炎レンサ球菌、肺炎桿菌、または緑膿菌に感染している。より特定の実施形態では、個体は肺炎レンサ球菌に感染している。他の実施形態では、個体は、炭疽菌または結核菌に感染している。
【0091】
ある実施形態では、気道感染症は、細菌性肺炎などの細菌感染症である。ある実施形態では、細菌感染症は、肺炎レンサ球菌(肺炎球菌とも称される)、黄色ブドウ球菌、ストレプトコッカス・アガラクティアエ、化膿レンサ球菌、インフルエンザ菌、パラインフルエンザ菌、肺炎桿菌、大腸菌、緑膿菌、モラクセラ・カタラーリス、肺炎クラミジア、肺炎マイコプラズマ、レジオネラ・ニューモフィラ、セラチア・マルセッセンス、バークホルデリア・セパシア、類鼻疽菌、炭疽菌、セレウス菌、百日咳菌(Bordatella pertussis)、ステノトロホモナス・マルトフィリア、シトロバクター科由来の細菌、アシネトバクター科由来の細菌、および結核菌からなる群より選択される細菌によって引き起こされる。
【0092】
ある実施形態では、気道感染症は、インフルエンザまたはウイルス性肺炎などのウイルス感染症である。ある実施形態では、ウイルス感染症は、インフルエンザウイルス(例えば、A型インフルエンザウイルスまたはB型インフルエンザウイルス)、RSウイルス、アデノウイルス、メタニューモウイルス、サイトメガロウイルス、パラインフルエンザウイルス(例えば、hPIV−1、hPIV−2、hPIV−3、hPIV−4)、ライノウイルス、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、エコーウイルス、コロナウイルス、単純ヘルペスウイルス、SARSコロナウイルス、および天然痘からなる群より選択されるウイルスによって引き起こされる。
【0093】
ある実施形態では、気道感染症は真菌感染症である。ある実施形態では、真菌感染症は、ヒストプラズマ・カプスラーツム、クリプトコッカス・ネオフォルマンス、ニューモシスチス・イロヴェチ、コクシジオイデス・イミチス、カンジダ・アルビカンス、およびニューモシスチス・イロヴェチ(ニューモシスチス症とも呼ばれるニューモシスチス肺炎(PCP)を引き起こす)からなる群より選択される真菌によって引き起こされる。
【0094】
ある実施形態では、気道感染症は寄生虫感染症である。ある実施形態では、寄生虫感染症は、トキソプラズマ原虫および糞線虫からなる群より選択される寄生虫によって引き起こされる。
【0095】
別の態様では、本発明は、肺疾患を有する個体(例えば、肺疾患を有する、肺疾患の症状を示す、または肺疾患に罹患しやすい個体)を治療する(予防的に治療することを含む)ための方法であって、該個体の気道へ、カルシウム塩およびナトリウム塩を含み、Ca2+対Naの比率が約4:1(モル:モル)〜約16:1(モル:モル)である有効量の医薬製剤を投与する工程を含む方法を提供する。
【0096】
別の態様では、本発明は、個体における慢性肺疾患の急性増悪を治療する(予防的に治療することを含む)ための方法であって、それを必要としている個体(例えば、肺疾患の慢性増悪を有する、肺疾患の急性増悪の症状を示す、または肺疾患の慢性増悪に罹患しやすい個体)の気道へ、カルシウム塩およびナトリウム塩を含み、Ca2+対Naの比率が約4:1(モル:モル)〜約16:1(モル:モル)である有効量の医薬製剤を投与する工程を含む方法を提供する。例示的肺疾患には、喘息(例えば、アレルギー性/アトピー性、小児性、遅発性、咳型、または慢性閉塞性)、気道過敏症、アレルギー性鼻炎(季節性または通年性)、気管支拡張症、慢性気管支炎、肺気腫、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、小児期喘鳴等が含まれる。
【0097】
ある実施形態では、インフルエンザは、A型インフルエンザまたはB型インフルエンザウイルスのいずれかによって引き起こされる。
【0098】
ある実施形態では、インフルエンザ様疾病は、RSV、ライノウイルス、アデノウイルス、パラインフルエンザ、ヒトコロナウイルス(重症急性呼吸器症候群を引き起こすウイルスを含む)、およびメタニューモウイルスによって引き起こされる。
【0099】
ある実施形態では、人工呼吸器関連肺炎(VAP)、人工呼吸器関連気管気管支炎(VAT)、または院内獲得性肺炎(HAP)は、ニューモニエ(pneumoniae)、肺炎レンサ球菌(S.pneumoniae)、黄色ブドウ球菌(S.aureus)、型別不能型インフルエンザ菌(non−typeable Haemophilus influenzae)(NTHI)、緑膿菌(psuedominas aeruginosa)、アシネトバクター属、大腸菌(E coli)、カンジダ属(Candida spp)(真菌)、セラチア、エンテロバクター属、およびステノトロホモナスによって引き起こされる。代わりに、VAPまたはVATは、肺炎の誘発を伴うグラム陽性またはグラム陰性細菌によって引き起こされ得る。
【0100】
ある実施形態では、地域関連肺炎(CAP)は、以下の細菌:モラクセラ・カタラーリス、肺炎マイコプラズマ、肺炎クラミジア(Chlamydophilia pneumoniaまたはChlamydia pneumoniae)、肺炎レンサ球菌(strep pneumonia)、インフルエンザ菌、クラミジア(chlamydophia)、マイコプラズマ、およびレジオネラのうちの少なくとも1種によって引き起こされる。代わりにまたは前述の細菌に加えて、CAPは、以下の真菌:コクシジオイデス(Coccidiomycosis)、ヒストプラスマ(histoplasmosis)、およびクリプトコッカス(cryptococcocus)のうちの少なくとも1種によっても引き起こされ得る。代わりに、CAPは、肺炎の誘発を伴うグラム陽性またはグラム陰性細菌によって引き起こされ得る。
【0101】
ある実施形態では、喘息を有する患者の急性増悪は、上気道ウイルス感染、あるいはCAPを含む肺炎を伴うグラム陽性またはグラム陰性細菌によって引き起こされる。代わりにまたは加えて、急性増悪は、チリダニ、卵、または花粉などのアレルゲンまたは環境因子によって引き起こされ得る。COPDを有する患者の急性増悪は、喘息に対するものと同じ原因によって、加えてインフルエンザ菌、肺炎球菌(pneumococcus)、およびモラクセラによって引き起こされる。CFの軽度増悪は、CFの気道でのコロニー形成を特徴付ける、緑膿菌、バークホルデリア・セパシア、類鼻疽菌等の日和見(opportunitistic)細菌性病原体に加えて、前述のすべてによって、ならびに非定型マイコバクテリウムおよびステノトロホモナスによっても引き起こされ得る。
【0102】
別の態様では、本発明は、気道のウイルス感染症を有する個体または気道のウイルス感染症の症状を示す個体を治療するための方法であって、該個体の気道へ、有効量の本発明の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤を投与する工程を含む方法である。いくつかの実施形態では、個体は、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、メタニューモウイルス、サイトメガロウイルス、パラインフルエンザウイルス、ライノウイルス、コロナウイルス(coronoavirus)(例えば、SARSコロナウイルス)、ポックスウイルス(例えば、天然痘)、および単純ヘルペスウイルスからなる群より選択されるウイルスに感染している。
【0103】
好ましくは、気道の感染症を治療する方法は、気道の感染症を有するまたは気道感染症の症状を示している個体に、有効量の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤を投与する工程を含む。より好ましくは、乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤は、塩化ナトリウムなどのナトリウム塩も含む。乳酸カルシウムおよびナトリウム塩、またはクエン酸カルシウムおよびナトリウム塩を含有する製剤を含む、適切な乳酸カルシウムおよびクエン酸カルシウム製剤を本明細書に記載する。
【0104】
予防
別の態様では、本発明は、気道の感染症の予防または防止のための方法であって、病原体(例えば、細菌、ウイルス)による気道の感染の危険性がある個体の気道へ、有効量の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤を投与する工程を含む方法である。前記方法を用いて、気道の感染症を引き起こす病原体(例えば、細菌、ウイルス)による感染の割合または発生を防止または減少させることができる。
【0105】
治療される個体は、肺炎レンサ球菌、黄色ブドウ球菌、ブドウ球菌属、レンサ球菌属、ストレプトコッカス・アガラクティアエ、インフルエンザ菌、肺炎桿菌、大腸菌、緑膿菌、モラクセラ・カタラーリス、肺炎クラミジア、肺炎マイコプラズマ、レジオネラ・ニューモフィラ、エンテロバクター属、アシネトバクター属、アシネトバクター・バウマンニイ、バークホルデリア属、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、ステノトロホモナス・マルトフィリア、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される細菌による感染の危険性があり得る。特定の実施形態では、個体は、肺炎レンサ球菌、肺炎桿菌、または緑膿菌による感染の危険性がある。より特定の実施形態では、個体は肺炎レンサ球菌による感染の危険性がある。
【0106】
別の態様では、本発明は、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、メタニューモウイルス、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス、コロナウイルス(例えば、SARSコロナウイルス)、ライノウイルス、パラインフルエンザ、およびポックスウイルス(例えば、天然痘)からなる群より選択されるウイルスによる感染の予防または防止のための方法である。
【0107】
一般に、個体は、それらが一般集団よりもより頻繁に病原体に暴露される場合または感染に対する抵抗力が低下している場合、気道の感染症を引き起こす病原体(例えば、ウイルス、細菌)による感染の危険性がある。そのような感染症の危険性がある個体には、例えば医療従事者、免疫抑制されている個体(例えば、医療的に、他の感染症により、または他の理由のために)、集中治療室にいる患者、高齢者および若年者(例えば、幼児)、慢性基礎呼吸器疾患(例えば、喘息、慢性気管支炎、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症)を有する個体、手術または外傷を受けている個体、ならびに感染者の介護者および家族が含まれる。
【0108】
好ましくは、気道の感染症を防止する方法は、気道の感染症の危険性がある個体に、有効量の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤を投与する工程を含む。より好ましくは、乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤は、塩化ナトリウムなどのナトリウム塩も含む。乳酸カルシウムおよびナトリウム塩、またはクエン酸カルシウムおよびナトリウム塩を含有する製剤を含む、適切な乳酸カルシウムおよびクエン酸カルシウム製剤を本明細書に記載する。
【0109】
伝染の低減
本発明は、気道の感染症(例えば、ウイルス感染症、細菌感染症)の伝染を低減させるための方法であって、気道の感染症を引き起こす病原体に感染した、気道の感染症の症状を示す、気道の感染症の危険性がある、または気道の感染症を引き起こす病原体(例えば、細菌、ウイルス)による感染の危険性がある個体の気道(例えば、肺、鼻腔)へ、有効量の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤を投与する工程を含む方法を提供する。
【0110】
いくつかの実施形態では、個体は、細菌感染によって引き起こされる気道の感染症を有し得る、気道の感染症の症状を示し得る、または本明細書に記載されるような感染症の危険性があり得る。例えば、個体は、肺炎レンサ球菌、黄色ブドウ球菌、ブドウ球菌属、レンサ球菌属、ストレプトコッカス・アガラクティアエ、インフルエンザ菌、肺炎桿菌、大腸菌、緑膿菌、モラクセラ・カタラーリス、肺炎クラミジア、肺炎マイコプラズマ、レジオネラ・ニューモフィラ、エンテロバクター属、アシネトバクター属、アシネトバクター・バウマンニイ、バークホルデリア属、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、ステノトロホモナス・マルトフィリア、およびそれらの組み合わせからなる群より選択される細菌に感染している可能性があるまたは選択される細菌による感染の危険性があり得る。特定の実施形態では、個体は、肺炎レンサ球菌、肺炎桿菌、または緑膿菌に感染しているまたはそれによる感染の危険性がある。より特定の実施形態では、個体は肺炎レンサ球菌に感染しているまたはそれによる感染の危険性がある。
【0111】
他の実施形態では、個体は、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、メタニューモウイルス、サイトメガロウイルス、単純ヘルペスウイルス、コロナウイルス(例えば、SARSコロナウイルス)、ライノウイルス、パラインフルエンザ、およびポックスウイルス(例えば、天然痘)からなる群より選択されるウイルスに感染している可能性があるまたは選択されるウイルスによる感染の危険性があり得る。
【0112】
好ましくは、気道の感染症の伝染を低減させるための方法は、気道の感染症を有するまたは気道の感染症の症状を示している個体に、有効量の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤を投与する工程を含む。より好ましくは、乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤は、塩化ナトリウムなどのナトリウム塩も含む。乳酸カルシウムおよびナトリウム塩、またはクエン酸カルシウムおよびナトリウム塩を含有する製剤を含む、適切な乳酸カルシウムおよびクエン酸カルシウム製剤を本明細書に記載する。
【0113】
慢性疾患の治療
本発明は、喘息(例えば、アレルギー性/アトピー性、小児性、遅発性、咳型、または慢性閉塞性)、気道過敏症、アレルギー性鼻炎(季節性または通年性)、気管支拡張症、慢性気管支炎、肺気腫、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、小児期喘鳴等を含む、慢性の呼吸器および肺疾患の治療のための方法を提供する。有効量の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤を、個体(例えば、ヒトまたは他の霊長類などの哺乳動物、あるいはブタ、ウシ、ヒツジ、ニワトリなどの家畜)の気道へ投与する。好ましくは、乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤を、エアロゾルの吸入によって投与する。前記方法を、慢性の呼吸器および肺疾患、例えば嚢胞性線維症の治療のために用いることができる。
【0114】
好ましくは、慢性の肺または呼吸器疾患を治療する方法は、該慢性疾患を有する個体に、有効量の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤を投与する工程を含む。より好ましくは、乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤は、塩化ナトリウムなどのナトリウム塩も含む。乳酸カルシウムおよびナトリウム塩、またはクエン酸カルシウムおよびナトリウム塩を含有する製剤を含む、適切な乳酸カルシウムおよびクエン酸カルシウム製剤を本明細書に記載する。
【0115】
急性増悪の防止
本発明は、個体における慢性肺疾患の急性増悪を防止するための方法であって、それを必要としている個体(例えば、肺疾患の慢性増悪を有する、肺疾患の急性増悪の症状を示す、または肺疾患の慢性増悪に罹患しやすい個体)の気道へ、活性成分としてクエン酸カルシウムまたは乳酸カルシウムを含む、有効量の医薬製剤を投与する工程を含む方法を提供する。例示的肺疾患には、喘息(例えば、アレルギー性/アトピー性、小児性、遅発性、咳型、または慢性閉塞性)、気道過敏症、アレルギー性鼻炎(季節性または通年性)、気管支拡張症、慢性気管支炎、肺気腫、慢性閉塞性肺疾患、嚢胞性線維症、小児期喘鳴等が含まれる。
【0116】
本発明は、また、慢性肺疾患の急性増悪を防止する、ならびに慢性肺障害を有する患者における抗原暴露(例えば、アレルゲン、病原体、および他の環境刺激物)による気管支収縮および気管支痙攣を防止するための方法を提供する。有効量の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤を、個体(例えば、ヒトまたは他の霊長類などの哺乳動物、あるいはブタ、ウシ、ヒツジ、ニワトリなどの家畜)の気道へ投与する。好ましくは、乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤を、エアロゾルの吸入によって投与する。前記方法を、慢性の呼吸器および肺疾患、例えば嚢胞性線維症の治療のために用いることができる。
【0117】
好ましくは、エアロアレルゲンによる急性増悪を治療または防止する方法は、抗原暴露(例えば、アレルゲン、病原体、および他の環境刺激物)による気管支収縮および気管支痙攣の傾向が高まっている個体に、有効量の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤を投与する工程を含む。より好ましくは、乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤は、塩化ナトリウムなどのナトリウム塩も含む。乳酸カルシウムおよびナトリウム塩、またはクエン酸カルシウムおよびナトリウム塩を含有する製剤を含む、適切な乳酸カルシウムおよびクエン酸カルシウム製剤を本明細書に記載する。
【0118】
カルシウム含有塩は、気道内層流体(ALF)の粘弾性を調節することによって、肺のALF中のアレルゲンおよび病原体の通過を減速させる働きをする。カルシウム含有塩によって、粘液線毛(mucocilliary)エスカレーター、および気道における他の除去メカニズムによる異物の自然除去が促される。上皮におけるアレルゲンおよび病原体の負荷量を低減させることによって、炎症は低減する。炎症の低減は、気管支収縮および気管支痙攣をもたらすことが知られている有害な副産物(biproducts)の生成の低減につながる。したがって、カルシウム含有塩の投与によって、慢性肺障害を有する患者における気管支収縮および気管支痙攣の発作の頻度および/または重症度は低減する。
【0119】
乳酸カルシウムおよびクエン酸カルシウム製剤の投与
乳酸カルシウム製剤およびクエン酸カルシウム製剤は、気道への(例えば、気道の粘膜表面への)投与を目的とするものであり、溶液、懸濁液、水煙、霧状のもの、泡、ゲル、蒸気、液滴、粒子、または乾燥粉末の形態などの任意の適切な形態で投与されてよい。好ましくは、乳酸カルシウム製剤およびクエン酸カルシウム製剤は、気道への投与のためにエアロゾル化されている。任意の適切な方法および/またはデバイスを用いて、乳酸カルシウム製剤およびクエン酸カルシウム製剤をエアロゾル化することができ、多くの適切な方法およびデバイスは、当該技術分野において慣習的でありかつ周知である。例えば、スペーサーまたは保持チャンバー、ネブライザー、アトマイザー、連続噴霧器、経口噴霧、あるいは乾燥粉末吸入器(DPI)の有無にかかわらず、定量吸入器(例えば、HFA噴射剤またはHFA以外の噴射剤を含む加圧型定量吸入器(pMDI))を用いた口腔からの投与のために、乳酸カルシウム製剤およびクエン酸カルシウム製剤をエアロゾル化することができる。スペーサーまたは保持チャンバー、鼻用アダプターまたは鼻カニューレを備えたまたは備えていないネブライザー、アトマイザー、連続噴霧器、あるいは乾燥粉末吸入器(DPI)の有無にかかわらず、鼻用ポンプまたは噴霧器、定量吸入器(例えば、HFA噴射剤またはHFA以外の噴射剤を含む加圧型定量吸入器(pMDI))を用いた鼻気道からの投与のために、塩製剤をエアロゾル化することができる。例えば鼻洗浄によって鼻粘膜表面へ、および例えば口腔洗浄によって口腔粘膜表面へ、塩製剤を送達することもできる。例えば鼻用アダプターを備えたネブライザー、および振動またはパルス気流を備えたおよび鼻用ネブライザーによって副鼻腔の粘膜表面へ、塩製剤を送達することができる。
【0120】
塩製剤のエアロゾルを生成するおよび肺へ送達するための適切な方法を選択する場合、気道の形状は重要な検討事項である。肺は、チリなどの吸い込まれた異物の粒子を閉じ込めるように設計されている。蓄積の3つの基本的メカニズム:固着、堆積、およびブラウン運動が存在する(J.M.Padfield.1987.In:D.GandertonおよびT.Jones編,Drug Delivery to the Respiratory Tract,Ellis Harwood,Chicherster,U.K.)。固着は、特に気道の分岐点で、粒子が気流内に留まることができない場合に生じる。固着した粒子は、気管支壁を覆っている粘液層上に吸着し、最終的には粘液線毛作用によって肺から除去される。上気道中の固着は、空気動力学的径が5μmを上回る粒子に多く生じる。より小さな粒子(空気動力学的径が約3μm未満のもの)は、気流内に留まり、堆積によって肺の奥深くまで運ばれる傾向がある。堆積は、気流がよりゆっくりとした下気道系でしばしば生じる。非常に小さな粒子(約0.6μm未満のもの)は、ブラウン運動によって蓄積し得る。
【0121】
投与のために、適切な方法(例えば、噴霧化、乾燥粉末吸入器)を選択して、肺深部(一般に、直径約0.6ミクロン〜5ミクロンの間の粒子)、上気道(一般に、直径約3ミクロン以上の粒子)、または肺深部および上気道などの気道の所望の領域への好ましい送達に適した粒径を有するエアロゾルを生成する。
【0122】
有効量の乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤を、気道の感染症を有する、気道の感染症の症状を示している、または気道の感染症の危険性がある個体など、それを必要としている個体に投与する。入院している個体、特に人工呼吸器をつけているものは、気道の感染症を引き起こす病原体による感染の危険性がある。有効量とは、感染症の症状を軽減する、回復するまでの時間を短縮する、個体における病原体を低減させる、肺粘液または気道内層流体中を病原体が通過するのを阻害する、気道の感染症を引き起こす病原体による感染の発生または割合を減少させる、粘液線毛除去を増加させる(例えば、シンチグラフィー(sinticraphy)によって測定される)(Grothら,Thorax,43(5):360−365(1988))、ならびに/あるいは気道の感染症を引き起こす病原体を含有する吐き出される粒子の排出を減少させるのに十分な量など、所望の治療または予防効果を達成するのに十分な量である。乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤は、一般に吸入によって気道へ投与されるため、投与される用量は、乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤の組成(例えば、カルシウム塩濃度)、エアロゾル化の速度および効率(例えば、噴霧化の速度および効率)、ならびに暴露の時間(例えば、噴霧化時間)に関係している。例えば、濃縮した液体乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤と短い(例えば、5分間)噴霧化時間とを用いて、あるいは希釈液体塩製剤と長い(例えば、30分間以上)噴霧化時間とを用いて、あるいは乾燥粉末製剤と乾燥粉末吸入器とを用いて、実質的に等価な用量を投与することができる。通常の技術を有する臨床医は、これらの検討事項および他の因子、例えば個体の年齢、感度、耐性、および全体的健康状態に基づいて適切な投与量を決定することができる。塩製剤を、単回用量、または適応があれば複数回用量で投与することができる。
【0123】
本明細書に記載されるように、塩製剤の治療および予防効果は、塩製剤を投与した後の気道(例えば、肺)におけるカチオン(Ca2+などの塩のカチオン)量の増加の結果であると考えられる。したがって、提供されるカチオンの量は選択される特定の塩に依存して変化し得るため、投薬は、肺へ送達される所望のカチオン量に基づいてよい。例えば、1モルの塩化カルシウム(CaCl)は、解離して1モルのCa2+を提供するが、1モルのリン酸三カルシウム(Ca(PO)、3モルのCa2+を提供し得る。一般に、有効量の塩製剤は、1用量あたり約0.001mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.002mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.005mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約60mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約50mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約40mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約30mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約20mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約10mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約5mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.02mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.03mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.04mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.05mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約1mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約0.5mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.2mg/kg体重〜約0.5mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.18mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.001mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.005mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.01mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.02mg/kg体重のCa2+、または1用量あたり約0.5mg/kg体重のCa2+の用量を送達する。いくつかの実施形態では、カルシウム塩(例えば、塩化カルシウム、乳酸カルシウム、クエン酸カルシウム)を含む塩製剤を、1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、または1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約1mg/kg体重のCa2+、または1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約0.5mg/kg体重のCa2+、または1用量あたり約0.18mg/kg体重のCa2+の用量を送達するのに十分な量で投与する。
【0124】
いくつかの実施形態では、気道(例えば、肺、呼吸気道)へ送達されるカルシウムの量は、1用量あたり約0.005mg/kg体重〜約60mg/kg体重、または1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約50mg/kg体重、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約40mg/kg体重、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約30mg/kg体重、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約20mg/kg体重、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約10mg/kg体重、1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約10mg/kg体重、1用量あたり約0.2mg/kg体重〜約0.5mg/kg体重、または1用量あたり約1mg/kg体重〜約10mg/kg体重、または1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約1mg/kg体重、または1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約1mg/kg体重、または1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、または1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約0.5mg/kg体重のCa2+、または1用量あたり約0.18mg/kg体重のCa2+である。
【0125】
他の実施形態では、上気道(例えば、鼻腔)へ送達されるカルシウムの量は、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約60mg/kg体重、または1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約50mg/kg体重、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約40mg/kg体重、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約30mg/kg体重、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約20mg/kg体重、1用量あたり0.01mg/kg体重〜約10mg/kg体重、1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約10mg/kg体重、または1用量あたり約1mg/kg体重〜約10mg/kg体重、または1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約1mg/kg体重、または1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約1mg/kg体重、1用量あたり約0.001mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.002mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.005mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約60mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約50mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約40mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約30mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約20mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約10mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約5mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.02mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.03mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.04mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.05mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約2mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約1mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約0.5mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.2mg/kg体重〜約0.5mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.18mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.001mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.005mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.01mg/kg体重のCa2+、1用量あたり約0.02mg/kg体重のCa2+、または1用量あたり約0.5mg/kg体重のCa2+である。
【0126】
いくつかの実施形態では、ナトリウム塩(例えば、塩化ナトリウム)を含む塩製剤を、1用量あたり約0.001mg/kg体重〜約10mg/kg体重のNa、または1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約10mg/kg体重のNa、または1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約10mg/kg体重のNa、または1用量あたり約1.0mg/kg体重〜約10mg/kg体重のNa、または1用量あたり約0.001mg/kg体重〜約1mg/kg体重のNa、または1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約1mg/kg体重のNa、1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約1mg/kg体重のNa、1用量あたり約0.2mg/kg体重〜約0.8mg/kg体重のNa、1用量あたり約0.3mg/kg体重〜約0.7mg/kg体重のNa、または1用量あたり約0.4mg/kg体重〜約0.6mg/kg体重のNaの用量を送達するのに十分な量で投与する。
【0127】
いくつかの実施形態では、気道(例えば、肺、呼吸気道)へ送達されるナトリウムの量は、1用量あたり約0.001mg/kg体重〜約10mg/kg体重、または1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約10mg/kg体重、または1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約10mg/kg体重、または1用量あたり約1mg/kg体重〜約10mg/kg体重、または1用量あたり約0.001mg/kg体重〜約1mg/kg体重、または1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約1mg/kg体重、または1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約1mg/kg体重である。
【0128】
他の実施形態では、上気道(例えば、鼻腔)へ送達されるナトリウムの量は、1用量あたり約0.001mg/kg体重〜約10mg/kg体重、または1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約10mg/kg体重、または1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約10mg/kg体重、または1用量あたり約1mg/kg体重〜約10mg/kg体重、または1用量あたり約0.001mg/kg体重〜約1mg/kg体重、または1用量あたり約0.01mg/kg体重〜約1mg/kg体重、または1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約1mg/kg体重である。
【0129】
所望の治療効果を提供する投薬間の適切な間隔を、病状(例えば、感染症)の重症度、対象の全体的健康状態および塩製剤に対する対象の耐性、ならびに他の検討事項に基づいて決定することができる。これらのおよび他の検討事項に基づいて、臨床医は、投薬間の適切な間隔を決定することができる。一般に、塩製剤を必要に応じて1日に1回、2回、または3回投与する。
【0130】
所望に応じてまたは適応があれば、乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤を、本明細書に記載される粘液活性剤、界面活性剤、鎮咳薬、去痰薬、ステロイド、気管支拡張剤、抗ヒスタミン剤、抗生物質、抗ウイルス剤のうちの任意の1種以上などの1種以上の他の治療薬とともに投与することができる。他の治療薬を、経口で、非経口(例えば、静脈内、動脈内、筋肉内、または皮下注射)で、局所的に、吸入(例えば、気管支内、鼻腔内または経口吸入、鼻腔内ドロップ)によって、直腸内に、経膣的に等、任意の適切な経路によって投与することができる。乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤を、他の治療薬の投与の前、実質的に同時に、または後に投与することができる。好ましくは、乳酸カルシウムまたはクエン酸カルシウム製剤および他の治療薬を投与して、それらの薬理活性の相当な重複を提供する。
【0131】
(実施例)
実施例1.クエン酸カルシウム:乾燥粉末
a.製剤
乾燥粉末製剤は、50.0%ロイシン、19.5%塩化カルシウム、および30.5%クエン酸ナトリウム(重量パーセント(%))を含むものであった。これは、1対2(Ca:Na,1:2)のカルシウム対ナトリウムのモル比に相当する。
【0132】
b.手法
i.材料
塩化カルシウム二水和物およびL−ロイシンをSigma−Aldrich社(セントルイス,ミズーリ州)から、ならびにクエン酸ナトリウム二水和物をJ.T.Baker(フィリップスバーグ,ニュージャージー州)から入手した。脱イオン(DI)水は、Milli−Q水精製システム(Millipore社,ビルリカ,マサチューセッツ州)によるものであった。液体供給物を、出発材料として可溶性の塩である塩化カルシウムおよびクエン酸ナトリウムを用いて調製した。噴霧乾燥、ゆえに液体蒸発すると、溶液は、沈殿反応を起こして、クエン酸カルシウムおよび塩化ナトリウムを生成する。製剤は、50.0%ロイシン、19.5%塩化カルシウム、および30.5%クエン酸ナトリウム(重量パーセント(%))を含有するものであった。これを、まず1.0LのDI水に2.51gのロイシン、次いで1.74gのクエン酸ナトリウム二水和物、最後に1.30gの塩化カルシウム二水和物を溶解させることによって調製した。連続的に撹拌しながら、材料を室温で水に完全に溶解させた。Niro Mobile Minor噴霧乾燥器(GEA Process Engineering社,コロンビア,メリーランド州)を用いた。気体を乾燥させる手法として、窒素を利用した。気体の注入口温度を140℃に設定し、排気口温度は72℃を表示した。気体の速度は97〜101kg/時間であり、液体供給速度は約28〜約30ml/分間に及んだ。手法全体を通して、溶液をかき混ぜ続けた。噴霧乾燥した粉末を、サイクロンの排出口における容器内に回収し、収率は約62%であった。
【0133】
c.インビトロの特徴付け
i.材料
インフルエンザ感染の細胞培養モデルを用いて、ウイルス感染に対する異なる噴霧化溶液の効果を調べた。Calu−3細胞(米国培養細胞系統保存機関(American Type Culture Collection),マナサス,バージニア州)を、コンフルエントになる(メンブレンが細胞で完全に覆われる)まで透過性メンブレン(12mmトランスウェル;孔径0.4μm,Corning,ローウェル,マサチューセッツ州)上で培養し、かつ先端部培地を除去して、37℃/5%COで培養することによって気液界面(ALI)培養物を確立した。各実験の前に、ALIで細胞を2週間より長く培養した。各実験に先立って、各トランスウェルの先端面をPBSで3回洗浄した。
【0134】
製剤の送達のために、カプセル(QUALI−V−I,ヒプロメロース,サイズ2;Qualicaps社,ヨーロッパS.A.,マドリード,スペイン)を充填し、かつ各カプセル調製のために、暴露の前後の各カプセルの重量を記録して、放出された用量を判定した。カプセルを、2叉穿刺フォークで穴を開け、乾燥粉末堆積チャンバーに適合した乾燥粉末吸入器内に直ちに詰め込んだ。1分おきに置かれた3連続の間隔の中で真空が0.3秒間オンになる自動真空システムを用いて、乾燥粉末をカプセルから堆積チャンバー内に入れた。液剤に対して前述したように、感染および洗浄を行った。
【0135】
製剤への暴露の直後に、側底部培地(トランスウェルの底部側にある培地)を新しい培地と交換した。各試験において、3重のウェルを各製剤に暴露させた。第二の細胞培養プレートを同じ製剤に暴露させて、細胞への全体の塩またはカルシウムの送達を定量化した。暴露の1時間後に、細胞を10μLのインフルエンザA/WSN/33/1に0.1〜0.01の感染多重度(細胞1個あたり0.1〜0.01個のビリオン)で感染させた。エアロゾル処理の4時間後に、先端面を洗浄して、過剰な製剤および付着していないウイルスを除去し、細胞を37℃プラス5%COでさらに20時間培養した。翌日(エアロゾル処理の24時間後)、感染細胞の先端面上に放出されたウイルスを培養培地またはPBS中に回収し、先端部洗浄液中のウイルスの濃度をTCID50(50%組織培養感染量)アッセイによって定量化した。TCID50アッセイは、サンプル中にどれくらいの与えられたウイルスが存在するかを定量化するために用いられる標準的エンドポイント希釈アッセイである。
【0136】
ii.クエン酸カルシウム乾燥粉末はインフルエンザ感染を阻害した
Calu−3細胞を、クエン酸Ca乾燥粉末製剤または100%ロイシンからなる乾燥粉末に暴露させた。クエン酸Ca乾燥粉末に暴露させた細胞では、未処理のコントロール細胞(p<0.01)およびコントロールのロイシン乾燥粉末に暴露させた細胞[p<0.05;(図1;一元配置の分散分析およびTukeyの多重比較検定)]の両方と比較して、投薬の24時間後の先端部洗浄液中のインフルエンザ力価が低減していた。したがって、クエン酸Caを含有する乾燥粉末製剤を効果的に用いて、インビトロでインフルエンザ感染を抑制することができる。
【0137】
実施例2.乳酸カルシウム:液体
a.製剤
液剤は、3.0%(重量/容量)の乳酸カルシウム(または、0.14Mの乳酸カルシウム)および0.90%(重量/容量)の塩化ナトリウム(または、0.15Mの塩化ナトリウム)を含有するものであった。これは、1.0〜1.1(Ca:Na,1:1.1)のカルシウム対ナトリウムのモル比に相当する。
【0138】
b.溶液調製
i.材料
乳酸カルシウム五水和物をSpectrum Chemicals(ガーデナ,カリフォルニア州)から、および塩化ナトリウムをSigma−Aldrich社(セントルイス,ミズーリ州)から入手した。脱イオン(DI)水は、Milli−Q水精製システム(Millipore社,ビルリカ,マサチューセッツ州)によるものであった。
【0139】
ii.液剤調製
乳酸カルシウム液剤を、乳酸カルシウムおよび塩化ナトリウムのストック溶液を用いて調製した。20mLの0.15MのNaCl中に0.853gの乳酸カルシウム五水和物を溶解させることによって、0.15MのNaCl[0.90%(重量/容量)のNaCl]中に0.14M[3.0%(重量/容量)]の乳酸カルシウム溶液を調製した。まず、17mLの滅菌水中に3mLの1MのNaClストック溶液を希釈することによって、NaCl溶液を作製した。すべての固形物が溶解するまで溶液をかき混ぜ、室温で保存した。
【0140】
c.インビトロの特徴付け
i.材料
インフルエンザ感染の細胞培養モデルを用いて、ウイルス感染に対する異なる噴霧化溶液の効果を調べた。Calu−3細胞(米国培養細胞系統保存機関,マナサス,バージニア州)を、コンフルエントになる(メンブレンが細胞で完全に覆われる)まで透過性メンブレン(12mmトランスウェル;孔径0.4μm,Corning,ローウェル,マサチューセッツ州)上で培養し、かつ先端部培地を除去して、37℃/5%COで培養することによって気液界面(ALI)培養物を確立した。各実験の前に、ALIで細胞を2週間より長く培養した。各実験に先立って、各トランスウェルの先端面をPBSで3回洗浄した。その後、自家開発堆積チャンバーおよびシリーズ8900ネブライザー(Slater Labs,アーヴィン,カリフォルニア州)を用いて、細胞を噴霧化製剤に暴露させた。暴露の直後に、側底部培地(トランスウェルの底部側にある培地)を新しい培地と交換した。各試験において、3重のウェルを各製剤に暴露させた。第二の細胞培養プレートを同じ製剤に暴露させて、細胞への全体の塩またはカルシウムの送達を定量化した。暴露の1時間後に、細胞を10μLのインフルエンザA/WSN/33/1に0.1〜0.01の感染多重度(細胞1個あたり0.1〜0.01個のビリオン)で感染させた。エアロゾル処理の4時間後に、先端面を洗浄して、過剰な製剤および付着していないウイルスを除去し、細胞を37℃プラス5%COでさらに20時間培養した。翌日(エアロゾル処理の24時間後)、感染細胞の先端面上に放出されたウイルスを培養培地またはPBS中に回収し、先端部洗浄液中のウイルスの濃度をTCID50(50%組織培養感染量)アッセイによって定量化した。TCID50アッセイは、サンプル中にどれくらいの与えられたウイルスが存在するかを定量化するために用いられる標準的エンドポイント希釈アッセイである。
【0141】
ii.乳酸カルシウム液剤はインフルエンザ感染を阻害した
Calu−3細胞を、等張食塩水(0.15M)中に乳酸Ca(0.14M)の液剤に暴露させ、インフルエンザA/WSN/33/1に感染させた。投薬の24時間後に、細胞の先端面上のウイルス力価を測定した。乳酸Ca製剤は、未処理のコントロールと比較して、ウイルス感染を有意に低減させ(図2;未処理の(空気)コントロールと比較してp<0.01;対応のないt検定)、乳酸Ca塩がインフルエンザ感染を効果的に阻害し得ることを示した。
【0142】
実施例3.乳酸カルシウム:乾燥粉末
a.製剤
50.0%ロイシン、37%乳酸カルシウム、および13%塩化ナトリウム(重量%)から構成される乾燥粉末製剤を調製した。これは、1.0〜1.3(Ca:Na,1.0:1.3)のカルシウム対ナトリウムのモル比に相当する。
【0143】
b.手法
i.材料
乳酸カルシウム五水和物をSpectrum Chemicals(ガーデナ,カリフォルニア州)から入手し、一方、L−ロイシンおよび塩化ナトリウムをSigma−Aldrich社(セントルイス,ミズーリ州)から購入した。脱イオン(DI)水は、Milli−Q水精製システム(Millipore社,ビルリカ,マサチューセッツ州)によるものであった。液体供給物を、可溶性の塩である乳酸カルシウムおよび塩化ナトリウムを用いて調製した。製剤は、50.0%ロイシン、37%乳酸カルシウム、および13%塩化ナトリウム(重量%)を含有するものであった。これを、まず1.0LのDI水に2.51gのロイシン、次いで0.65gの塩化ナトリウム、最後に2.62gの乳酸カルシウム五水和物を溶解させることによって調製した。連続的に撹拌しながら、材料を室温で水に完全に溶解させた。Niro Mobile Minor噴霧乾燥器(GEA Process Engineering社,コロンビア,メリーランド州)を用いた。気体を乾燥させる手法として、窒素を利用した。気体の注入口温度を140℃に設定し、排気口温度は75℃を表示した。気体の速度は97〜101kg/時間であり、液体供給速度は約29〜約32ml/分間に及んだ。手法全体を通して、溶液をかき混ぜ続けた。噴霧乾燥した粉末を、サイクロンの排出口における容器内に回収し、収率は約65%であった。
【0144】
c.インビトロの特徴付け
乾燥粉末製剤の活性を、Calu−3細胞の感染アッセイを用いることによって査定した。
【0145】
製剤の送達のために、カプセル(QUALI−V−I,ヒプロメロース,サイズ2;Qualicaps社,ヨーロッパS.A.,マドリード,スペイン)を充填し、かつ各カプセル調製のために、暴露の前後の各カプセルの重量を記録して、放出された用量を判定した。カプセルを、2叉穿刺フォークで穴を開け、自家開発乾燥粉末堆積チャンバーに適合した乾燥粉末吸入器内に直ちに詰め込んだ。1分おきに置かれた3連続の間隔の中で真空が0.3秒間オンになる自動真空システムを用いて、乾燥粉末をカプセルから堆積チャンバー内に入れた。液剤に対して前述したように、感染および洗浄を行った。
【0146】
製剤への暴露の直後に、側底部培地(トランスウェルの底部側にある培地)を新しい培地と交換した。各試験において、3重のウェルを各製剤に暴露させた。第二の細胞培養プレートを同じ製剤に暴露させて、細胞への全体の塩またはカルシウムの送達を定量化した。暴露の1時間後に、細胞を10μLのインフルエンザA/WSN/33/1に0.1〜0.01の感染多重度(細胞1個あたり0.1〜0.01個のビリオン)で感染させた。エアロゾル処理の4時間後に、先端面を洗浄して、過剰な製剤および付着していないウイルスを除去し、細胞を37℃プラス5%COでさらに20時間培養した。翌日(エアロゾル処理の24時間後)、感染細胞の先端面上に放出されたウイルスを培養培地またはPBS中に回収し、先端部洗浄液中のウイルスの濃度をTCID50(50%組織培養感染量)アッセイによって定量化した。TCID50アッセイは、サンプル中にどれくらいの与えられたウイルスが存在するかを定量化するために用いられる標準的エンドポイント希釈アッセイである。
【0147】
ii.乳酸Ca乾燥粉末製剤はインフルエンザ感染を阻害した
投薬の24時間後の先端部洗浄液中のウイルス力価の低減によって示されるように、乳酸Ca乾燥粉末での処理によって、インフルエンザ感染が低減した(図3;p<0.001;対応のないt検定)。液剤に関して出されたデータと合わせて、データは、乳酸Caが、液体および乾燥粉末のいずれの形態でもインフルエンザ感染を低減させるように作用することを示している。
【0148】
実施例4.細菌の通過アッセイ
方法
通過モデルを用いて、細菌の粘液模倣体の透過に対するエアロゾル化乾燥粉末製剤の効果を調べた。細菌は感染を確立するのに気道粘液を横断しなければならないため、このアッセイは気道の細菌感染モデルである。このモデルでは、200μLの4%アルギン酸ナトリウム(Sigma−Aldrich,セントルイス,ミズーリ州)を、12mmのCostarトランスウェルメンブレン(Corning,ローウェル,マサチューセッツ州;孔径3.0μm)の先端面に添加し、その後、乾燥粉末製剤に暴露させた。乾燥粉末を、乾燥粉末散布器(Penn−Century社,フィラデルフィア,ペンシルベニア州)を用いてチャンバー内にエアロゾル化し、5分間以上かけて重力によって沈降させた。この暴露の後に、10μLの肺炎桿菌(生理食塩水中に〜10CFU/mL)を前記模倣体の先端面に添加した。細菌添加後の種々の時点で、側底部緩衝液の一定分量を取り出し、連続希釈および血液寒天プレート上にプレーティングすることによって、各一定分量中の細菌の数を測定した。この方法の概略図を図4に示す。各トランスウェルに送達された塩の濃度をHPLCによって定量化した。この目的のために、各トランスウェルに隣接しており、かつ同じ用量の製剤に暴露させた12ウェル細胞培養プレートの空のウェルを、滅菌水でリンスし、酢酸で1:1に希釈して各乾燥粉末を可溶化した。
【0149】
ロイシンおよび塩化ナトリウムとともに、異なる溶解性プロファイルを有するカルシウム塩から構成される乾燥粉末製剤を、モデル中の細菌通過の活性についてスクリーニングした。以下の乾燥粉末(重量%):50%ロイシン/22%塩化カルシウム/28%硫酸ナトリウム;50%ロイシン/25.5%塩化カルシウム/24.5%炭酸ナトリウム;50%ロイシン/19.5%塩化カルシウム/30.5%クエン酸ナトリウム;50%ロイシン/37%乳酸カルシウム/13%塩化ナトリウム;および50%ロイシン/33.75%酢酸カルシウム/16.25%塩化ナトリウムを試験した。この調査の結果を図5Aおよび5Bに示す。硫酸塩、酢酸塩、および乳酸塩を含有する乾燥粉末は、細菌の模倣体の透過を低減させたのに対し(図5B)、クエン酸塩および炭酸塩の乾燥粉末は、効果が低かった(図5A)。これらの知見は、水中でのカルシウム塩の公知の溶解度に相関したものであり、炭酸塩およびクエン酸塩が肺炎桿菌(K.pneumoniae)の動きを阻害しないことは、アルギン酸ナトリウム模倣体の表面におけるこれらの乾燥粉末の溶解度に関係している。これらの塩の最も溶けにくいものから最も溶けやすいものの溶解度は、炭酸カルシウム<クエン酸カルシウム<硫酸カルシウム<乳酸カルシウム<酢酸カルシウムである。
【0150】
実施例6.インフルエンザ感染を低減させるための乾燥粉末製剤
Calu−3細胞を、コンフルエントになるまで透過性メンブレン(12mmトランスウェル;孔径0.4μm,Corning,ローウェル,マサチューセッツ州)上で培養し、かつ先端部培地を除去して、37℃/5%COで培養することによって気液界面(ALI)培養物を確立した。各実験の前に、ALIで細胞を2週間より長く培養した。各実験に先立って、各トランスウェルの先端面を500μL/ウェルのPBSで3回洗浄し、乾燥粉末暴露の後に、側底部培地(トランスウェルの底部側にある培地)を1.5mL/ウェルの新しい培地と交換した。自家開発堆積チャンバーを用いて、乾燥粉末製剤を細胞に暴露させた。各試験において、3重のウェルを各製剤に暴露させた。乾燥粉末製剤への暴露の1時間後の時点で、細胞を10μL/ウェルのインフルエンザA/WSN/33/1に0.1〜0.01の感染多重度で先端部に感染させた。暴露の4時間後に、先端面を500μL/ウェルのPBSで洗浄して、過剰な製剤および付着していないウイルスを除去し、細胞を37℃プラス5%COでさらに20時間培養した。翌日(感染の24時間後)、感染細胞の先端面上に放出されたウイルスを回収し、先端部洗浄液中のウイルスの濃度をTCID50(50%組織培養感染量)アッセイによって定量化した。
【0151】
DPIの堆積チャンバーを用いたカプセルの暴露の後、各カプセルの最終重量を記録して、収率パーセントを判定した。各実験に対して、新しいQualicapカプセルの重量を記録した。試験した各乾燥粉末の条件に対して、これらのカプセルの2つを適切な充填重量まで充填した。これらのカプセルの一方を細胞暴露に用い、もう一方を定量化に用いた。試験した乾燥粉末の条件は、15mg充填重量の100%ロイシン、および低、中、高(それぞれ、5mg、15mg、60mg)充填重量の乳酸カルシウム乾燥粉末であった。
【0152】
A.乳酸Caは用量応答的様式でインフルエンザ感染を低減させる
Calu−3細胞を、用量反応の乳酸Ca(50%ロイシン、37%乳酸カルシウム、および13%塩化ナトリウム)乾燥粉末またはロイシンコントロール乾燥粉末(100%ロイシン)に暴露させて、カルシウム乾燥粉末が液剤と同程度の有効性を示すかどうかを試験した。処理の24時間後に、Calu−3細胞由来の先端部洗浄液中のウイルスの力価をTCID50アッセイによって測定した。図6に示されるように、乳酸Ca乾燥粉末の各濃度とも、空気コントロールと比較して、用量応答的様式でウイルス力価を低減させた(一元配置の分散分析およびTukey多重比較事後検定から判定されたp<0.001)。
【0153】
実施例7.乳酸カルシウム製剤は細菌負荷を効果的に低減させる
細胞を、トリプトソイ寒天(TSA)血液プレート上にて37℃プラス5%COで一晩培養することによって、細菌を調製した。単一コロニーを、滅菌PBS中にOD600が〜0.3まで再懸濁し、その後、滅菌PBSで1:4に希釈した[〜2×10コロニー形成単位(CFU)/mL]。マウスを、麻酔下にある間に、気管内注入によって50μLの細菌懸濁液(〜1×10CFU)に感染させた。
【0154】
C57BL6マウスを、最高11匹の動物が個別に入るパイチャンバーケージ(pie chamber cage)に連結させた、高出力プロトタイプPulmatrixネブライザーまたはPari LC Sprintネブライザーのいずれかを用いた全身暴露システムでエアロゾル化液剤に暴露させた。血清型3の肺炎レンサ球菌による感染の2時間前に、処理を行った。別様に記述されていない限り、暴露時間は持続して3分間であった。感染の24時間後に、マウスをペントバルビタール注射によって安楽死させ、肺を回収して、滅菌PBS中でホモジナイズした。肺ホモジネートサンプルを滅菌PBSで連続希釈し、TSA血液寒天プレート上にプレーティングした。翌日、CFUを数えた。
【0155】
マウスを、肺炎レンサ球菌による感染の2時間前に、等張食塩水またはPUR003(0.15MのNaCl中に0.116MのCaCl;1:1.3のCa:Na比)で処理した。コントロールの動物と比較して、PUR003で処理した動物(概算用量1.9mg/kgのCaCl)は、感染の24時間後に5倍低い細菌力価を示し(図7)、該処理に対する治療的効用を示した。この効果が塩化カルシウムを含有する製剤に特異的であるかどうかを判定するために、本発明者らは、等張食塩水に溶解させた乳酸カルシウム(0.116M)を含む類似の製剤を試験した。
【0156】
実施例8.ウイルス複製アッセイ
本実施例は、インフルエンザ、パラインフルエンザ、またはライノウイルスに対する、カルシウム塩の乳酸カルシウム、硫酸カルシウム、またはクエン酸カルシウム乾燥粉末を含む乾燥粉末製剤の有効性を実証する。
【0157】
Mobile Minor噴霧乾燥器(Niro,GEA Process Engineering社,コロンビア,メリーランド州)を利用して噴霧乾燥することによって、PUR111、PUR112、およびPUR113粉末を生成した。すべての溶液は、10g/Lの固体濃度を有しており、表3に一覧にした構成成分で調製されたものであった。ロイシンおよびカルシウム塩をDI水に溶解し、かつロイシンおよびナトリウム塩を別々にDI水に溶解し、2つの溶液を別々の容器で維持した。並流2流体ノズル(Niro,GEA Process Engineering社,コロンビア,メリーランド州)を用いて、液体供給物の霧化(atomization)を行った。液体供給物を、2流体ノズル内への導入の直前に、ギアポンプ(Cole−Parmer Instrument Company,ヴァーノンヒルズ,イリノイ州)を用いて、静的ミキサー(Charles Ross&Son Company,ホーポージ,ニューヨーク州)内に供給した。2流体ノズルへ供給される霧化気体としての乾燥用気体および乾燥圧縮空気として、窒素を用いた。70mL/分間の液体原料速度で、手法の気体の注入口温度は282℃であり、排気口温度は98℃であった。2流体アトマイザーを供給する気体は、およそ14.5kg/時間であった。乾燥チャンバー内の圧力は、−2”WCであった。噴霧乾燥した生成物を、濾過デバイスから容器内に回収した。
【0158】
【表3】

【0159】
インフルエンザA/パナマ/2007/99、ヒトパラインフルエンザ3型(hPIV3)、またはライノウイルス(Rv16)感染の細胞培養モデルを用いて、乾燥粉末製剤の有効性を評価した。このモデルは、気道上皮細胞のインフルエンザ感染のモデルとして、気液界面で生育したCalu−3細胞を利用する。Calu−3細胞を、乾燥粉末堆積チャンバーを用いて、乾燥粉末に暴露させた。各ウェルに送達されたカルシウムイオン(Ca2+)の量を、細胞培養プレートの空のウェルから回収した乾燥粉末を用いて、HPLCによって測定した。各調査において、蓄積したカルシウムの濃度を表4に示す。
【0160】
【表4】

【0161】
暴露の1時間後に、細胞を10μLのインフルエンザA/パナマ/2007/99に0.1〜0.01の感染多重度(細胞1個あたり0.1〜0.01個のビリオン)で、ヒトパラインフルエンザ3型(hPIV3)に0.1〜0.01の感染多重度(細胞1個あたり0.1〜0.01個のビリオン)で、または10μLのライノウイルス(Rv16)に0.1〜0.01の感染多重度(細胞1個あたり0.1〜0.01個のビリオン)で感染させた。乾燥粉末処理の4時間後に、先端面を洗浄して、過剰な製剤および付着していないウイルスを除去し、細胞を37℃プラス5%COでさらに20時間培養した。翌日(感染の24時間後)、感染細胞の先端面上に放出されたウイルスを培養培地中に回収し、先端部洗浄液中のウイルスの濃度をTCID50(50%組織培養感染量)アッセイによって定量化した。TCID50アッセイは、サンプル中にどれくらいの与えられたウイルスが存在するかを定量化するために用いられる標準的エンドポイント希釈アッセイである。前記3種の粉末のそれぞれに対して、Calu−3細胞を、3つの異なるCa2+用量に暴露させ、各ウイルスの複製を査定した。
【0162】
インフルエンザ
インフルエンザモデルでは、3種の乾燥粉末すべてが、試験した最大用量で同程度のレベルまでウイルス力価を有意に低減させ、PUR111、PUR112、およびPUR113は、ウイルス力価をそれぞれ最高3.25、3.80、および3.95log10TCID50/mL低減させた(図8A)。試験した最大用量では、これらの乾燥粉末はインフルエンザに対して同様の活性を示したが、より低い用量では、最も有効な乾燥粉末はPUR113(ロイシン、乳酸カルシウム、および塩化ナトリウムから構成される)であったことをデータが示唆していることに留意することが重要である。PUR113は、低用量および中用量でウイルス力価を3.70および3.75log10TCID50/mL低減させたのに対し、低用量のPUR111およびPUR112は、ウイルス力価をそれぞれ2.50および2.95log10TCID50/mL低減させ、中用量のPUR111およびPUR112は、ウイルス力価をそれぞれ2.65および3.30log10TCID50/mL低減させた。
【0163】
パラインフルエンザ
PUR111、PUR112、およびPUR113を、パラインフルエンザに対して、同様の用量範囲にわたって試験した。PUR112で処理した細胞培養物中のパラインフルエンザ力価は、インフルエンザ実験に用いたものと同様のカルシウムの用量でコントロール細胞と同程度であり(図8B)、硫酸カルシウムベースの製剤が特定の病原体に対してのみ活性を示し得ることを示した。対照的に、PUR111およびPUR113処理によって、パラインフルエンザ感染の用量依存的低減がもたらされた。高用量では、PUR111およびPUR113は、コントロール細胞と比較して、感染をそれぞれ2.70および4.10log10TCID50/mL低減させた。同様に、PUR113は、試験した中用量でPUR111よりもより高い有効性を示したが、いずれの製剤とも、試験した最低用量では感染を低減させなかった(図8B;表4)。まとめると、これらのデータは、カルシウムベースの乾燥粉末製剤が、パラインフルエンザの感染力を効果的に低減させることを実証している。これらの効果はあるカルシウム塩に特異的であり、かつ有効な用量範囲はインフルエンザに対して観察されるものとは大きく異なる。
【0164】
ライノウイルス
インフルエンザおよびパラインフルエンザは、エンベロープウイルスである。カルシウム乾燥粉末製剤の広域スペクトル活性を試験し、かつこれらの知見を非エンベロープウイルスに拡大するために、同じ乾燥粉末をライノウイルスに対して試験した。3種の製剤すべてがライノウイルスをある程度低減させ、PUR113乾燥粉末が最も高い活性を示した。PUR113処理によって、試験した最高用量で2.80log10TCID50/mLの有意なウイルスの低減がもたらされた。低用量および中用量のこの乾燥粉末は、コントロール細胞と比較して、力価をそれぞれ1.15および2.10log10TCID50/mL低減させた。PUR113より程度は少ないが、PUR111およびPUR112処理によってもライノウイルス感染は低減した。試験した最高用量で、PUR111は、感染を1.70log10TCID50/mL低減させ、PUR112は、感染を1.60log10TCID50/mL低減させた。総合してこれらの結果は、カルシウムベースの乾燥粉末製剤を、多様なウイルス感染に広範に適用することができることを示している。
【0165】
前記のデータは、カルシウム乾燥粉末製剤の送達用量を増加させることによって、より低い用量で以前に観察されたものよりもより高い活性が示されることを示唆している。乳酸カルシウムベースの製剤(PUR113)は、硫酸カルシウム(PUR112)およびクエン酸カルシウム(PUR112)製剤よりもより高い効力を示したが、試験した3種の乾燥粉末すべてによって、インフルエンザ感染は低減した。加えて、3種のウイルス株すべてにわたって、PUR113処理によってウイルス力価の最も大きな低減がもたらされた。より高い用量で、PUR111は、3種のウイルス株すべてでウイルス力価を効果的に低減させたが、効果はインフルエンザおよびパラインフルエンザに関してよりいっそう顕著であり、ウイルス株特異性に関係し得るメカニズムの相違を示唆した。PUR112処理はパラインフルエンザに対して活性を有したが、インフルエンザおよびライノウイルスの両方に対してより良好な活性を示し、特定のカルシウム対イオンが製剤の最適活性に何らかの役割を果たし得ることを示唆した。
【0166】
本明細書に引用されたすべての文献の全教示は、本明細書によって参照することにより本明細書に組み入れられている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分として、乳酸カルシウムおよびクエン酸カルシウムからなる群より選択されるカルシウム塩を含む医薬組成物であって、吸入に適している医薬組成物。
【請求項2】
ナトリウム塩をさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ナトリウム塩が、塩化ナトリウム、酢酸ナトリウム、重炭酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、重リン酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、ホウ酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム、およびメタケイ酸ナトリウムからなる群より選択される、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
カルシウム対ナトリウムの比率が約2:1(モル:モル)〜約16:1(モル:モル)である、請求項2または3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
カルシウム対ナトリウムの比率が約4:1(モル:モル)〜約12:1(モル:モル)である、請求項2または3に記載の医薬組成物。
【請求項6】
カルシウム対ナトリウムの比率が約4:1(モル:モル)〜約16:1(モル:モル)である、請求項2または3に記載の医薬組成物。
【請求項7】
カルシウム対ナトリウムの比率が約8:1(モル:モル)である、請求項2または3に記載の医薬組成物。
【請求項8】
カルシウム対ナトリウムの比率が約1:1(モル:モル)である、請求項2または3に記載の医薬組成物。
【請求項9】
カルシウム対ナトリウムの比率が約1:1.3(モル:モル)である、請求項2または3に記載の医薬組成物。
【請求項10】
カルシウム対ナトリウムの比率が約1:2(モル:モル)である、請求項2または3に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記ナトリウム塩が塩化ナトリウムである、請求項2〜10のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項12】
Ca:Naの比率が約8:1(モル:モル)である、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記医薬組成物が、1用量あたり約0.005mg/kg体重〜約10mg/kg体重のカルシウム塩用量を肺または鼻腔へ送達するように製剤化されている、請求項1から12のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記医薬組成物が、1用量あたり約0.1mg/kg体重〜約2mg/kg体重のカルシウム塩用量を肺または鼻腔へ送達するように製剤化されている、請求項1から13のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記医薬組成物が、1用量あたり約0.001mg/kg体重〜約10mg/kg体重のナトリウム用量を肺または鼻腔へ提供するように製剤化されている、請求項1から14のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記カルシウム塩が乳酸カルシウムである、請求項1〜15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記組成物が液剤である、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
乳酸カルシウムが約0.5%〜約20%(重量/容量)の濃度で存在する、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記医薬組成物が乾燥粉末である、請求項1〜15のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記カルシウム塩が乳酸カルシウムである、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記カルシウム塩がクエン酸カルシウムである、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項22】
前記カルシウム塩が約20%〜約99%(重量/重量)の濃度で存在する、請求項19〜21のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項23】
さらなる治療薬をさらに含む、請求項1〜22のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項24】
賦形剤をさらに含む、請求項1〜23のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項25】
前記賦形剤が、ラクトース、グリシン、アラニン、ロイシン、イソロイシン(isolucine)、トレハロース、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジホスファチジルグリセロール(DPPG)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−L−セリン(DPPS)、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(DSPC)、1,2−ジステアロイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミン(DSPE)、1−パルミトイル−2−オレオイルホスファチジルコリン(POPC)、ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル、ソルビタントリオレエート(スパン85)、グリココール酸、サーファクチン、チロキサポール、リン酸ナトリウム、デキストラン、デキストリン、マンニトール、マルトデキストリン、ヒト血清アルブミン、組換えヒト血清アルブミン、および生分解性ポリマーからなる群より選択される、請求項24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
前記組成物が単位用量組成物である、請求項1〜25のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項27】
気道の感染症を治療するための方法であって、気道の感染症を有する、または気道の感染症の症状を示す個体に、有効量の請求項1〜26のいずれか一項に記載の医薬組成物を投与する工程を含む、前記方法。
【請求項28】
気道の感染症の予防のための方法であって、気道の感染症に罹患する危険性がある個体に、有効量の請求項1〜26のいずれか一項に記載の医薬組成物を投与する工程を含む、前記方法。
【請求項29】
気道の感染症の蔓延を低減させるための方法であって、気道の感染症を有する、気道の感染症の症状を示す、または気道の感染症に罹患する危険性がある個体に、有効量の請求項1〜26のいずれか一項に記載の医薬組成物を投与する工程を含む、前記方法。
【請求項30】
粒子の放出を低減させるための方法であって、気道の感染症を有する、気道の感染症の症状を示す、または気道の感染症に罹患する危険性がある個体に、有効量の請求項1〜26のいずれか一項に記載の医薬組成物を投与する工程を含む、前記方法。
【請求項31】
前記感染症が、肺炎レンサ球菌(Streptococcus pneumoniae)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、ストレプトコッカス・アガラクティアエ(Streptococcus agalactiae)、インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)、大腸菌(Escherichia coli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、モラクセラ・カタラーリス(Moraxella catarrhalis)、肺炎クラミジア(Chlamydophila pneumoniae)、肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)、レジオネラ・ニューモフィラ(Legionella pneumophila)、結核菌(Mycobacterium tuberculosis)、バークホルデリア属(Burkholderia spp.)、および炭疽菌(Bacillus anthracis)からなる群より選択される細菌によって引き起こされる感染症である、請求項27〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記感染症が、インフルエンザウイルス、RSウイルス、アデノウイルス、メタニューモウイルス、サイトメガロウイルス、パラインフルエンザウイルス、ライノウイルス、単純ヘルペスウイルス、SARSコロナウイルス、および天然痘からなる群より選択されるウイルスによって引き起こされる感染症である、請求項27〜30のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2012−522012(P2012−522012A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−502306(P2012−502306)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【国際出願番号】PCT/US2010/028914
【国際公開番号】WO2010/111650
【国際公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(511229455)パルマトリックス,インコーポレイテッド (4)
【Fターム(参考)】