説明

粘膜感染症の処置のための組成物および方法

【課題】粘膜感染の予防および/または治療処置に有用な新規の組成物およびワクチン。また、特に経口ワクチン、および呼吸器管の感染に対する粘膜耐性の向上または確立した感染症の治療方法の提供。
【解決手段】(1)Th1タイプの細胞免疫応答を誘導するする能力のある少なくとも1つの種の共生生物細菌の反復投与量であって、前記共生生物細菌は好酸性乳酸桿菌および発酵乳酸桿菌、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される;および(2)粘膜表面で感染を起こす能力のある微生物の少なくとも1つを由来とする少なくとも1つの抗原であって、前記微生物は型別不能型インフルエンザ菌、緑膿菌、肺炎球菌、白色ブドウ球菌、および黄色ブドウ球菌、またはそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される経口投与可能な組成物。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
技術分野
本発明は粘膜防御を誘導する新規のワクチン組成物、特に、経口ワクチンおよび感染に対する粘膜耐性の向上または確立した感染症の治療のための方法に関する。
【0002】
技術背景
気管支炎(endobronchitis)が粘膜免疫のモデルとして、特に粘膜表面におけるホスト/寄生体相関の特定のバランスを反映させるために使用されてきた。通常は無菌の気管支粘膜に、一般的には浸潤しない“無毒性の”細菌のコロニーが形成される。最も知られているのは型別不能型インフルエンザ菌(non-typical Haemophilus influenza: NTHI)である。従って慢性肺疾患を有する被験体における感染の急性発作は、コロニーを形成している細菌と気管支粘膜間の微妙に均衡のとれた関係を妨害する事象によって開始されるらしい。ホストの抑制応答はTh1 T細胞(γインターフェロンを生成する)に関係し、これは気管支粘膜内で好中球を漸増および活性化させることによって作用する。過剰な、および/または不適当な場合、この過程は咳および膿性痰の増加(確立した慢性肺疾患を有する被験体における“急性気管支炎”の特徴)となる。
【0003】
最初の経口ワクチンでは死滅したNTHIが使用されたが、これによって通常の粘膜系が活性化され、小腸に沿ったパイエル板からのリンパ球(その後抗体産生Bリンパ球になると考えられる)の放出が増加され、これは気管支粘膜内で移動し、IgA抗体を産生し、これが細菌の気管支への侵入を阻止する。この概念は取って代わられた。このワクチンは(i)単一の細菌含有(single bacterial content)を必要とし、そして(ii)アジュバントの添加を必要としない。アジュバントを存在させないことは、高度に抑制的に調節された粘膜環境による、考慮される制限を回避するために必要であると考えられる。すなわち、単純な単一細菌ワクチンにアジュバントを添加すると、粘膜の抑制的調節が促進され、ワクチンの有効性が低減し、そして感染が促進または悪化されさえもする。
【0004】
これまでの当該分野の制限の1つ以上を克服するか、もしくは少なくとも改善する、または別の有用ものを提供することが本発明の目的である。
発明の概要
第1の観点によれば本発明は粘膜投与可能な組成物を提供し、該組成物は粘膜表面で感染を起こす能力のある微生物の少なくとも1つを由来とする1つ以上の抗原およびTh1細胞免疫応答を誘導する能力のあるアジュバントを含有し、ここで該アジュバントは粘膜表面において感染を起こす能力を有する微生物由来ではない。
【0005】
好ましくは、抗原は細菌、真菌、またはウィルス由来である。より好ましくは抗原は完全体の微生物である。更に好ましくは抗原が完全体の微生物である場合は死滅した微生物であるが、理解されるように、生きた、または弱毒化した生きた微生物を有効に使用してもよい。しかしながら、個々の抗原または微生物のホモジネートおよび音波処理物を使用しても同様の結果が得られると予想できることも理解される。
【0006】
呼吸器管細菌性および真菌性病原体、または通常呼吸器管にコロニーを形成して感染を起こす可能性のあるもの、例えばNTHI、緑膿菌、肺炎球菌、白色ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌などのそれぞれ、または組み合わせたものは特に好ましい。
【0007】
本発明の組成物は経口で投与することが意図され、従って既知の薬剤的に許容されるキャリアー、溶媒、および添加剤と合一してもよい。
好ましくは本発明の組成物に使用されるアジュバントは、粘膜表面で感染を起こす能力を有する生物ではなく、そしてTh1タイプの細胞免疫応答を誘導することのできる微生物またはその一部である。アジュバントが細菌、例えば、限定される訳ではないが乳酸菌、ミコバクテリウム種、またはビフィドバクテリウム種から選択できるものであるのも好ましい。好酸性乳酸桿菌(L. acidphilus)、発酵乳酸桿菌(L. fermentum)、もしくはミコバクテリウム・バッカエ(M. vaccae)、またはそれらの一部でTh1細胞応答を誘導する能力があるものは更に好ましい。L. acidphilusは特に好ましい。L. acidphilus、L. fermentum、またはM. vaccaeは、Th1応答を誘導する能力を有する限り、生きたもの、または不活性化調製品として使用してもよい。好ましくはL. acidphilusおよびL. fermentumは生きた調製品として使用する。考えられるように、他の細菌も(それらが共生生物作用を有していてもいなくても)アジュバントとして好適でありえ、それらは例えば周知のアジュバント細菌、例えばラクトバシラス・カゼイ(L.casei)、ラクトバシラス・プランタルム(L. plantarum)、ラクトバシラス・ラムノサス(L. rhamnosus)、ビフィドバクテリウム・ブレーベ(Bifidobacterium breve)などである。共生生物細菌をアジュバントとして使用するのは好ましい。
【0008】
更なる周知の従来のアジュバントを含有させてもよい。好適な薬剤アジュバント、添加剤、およびキャリアーの範囲、および好適な製剤の調製法は医薬品の分野において当業者に周知であり、それらのアジュバント、添加剤、およびキャリアーの詳細は標準的な教本およびマニュアル(例えば“レミントン:薬学の科学と実践”、Mack Publishing社, 1995)に見ることができ、これは参照によりその全体を本明細書に組み込む。更に、本発明の組成物は食物または食物サプリメント、例えば乳製品またはサプリメントの形態であってもよい。それらの製品およびサプリメントの調製法は当業者に明白であり、それらは周知の方法および加工、特に例えばヨーグルトおよび他の乳製品の製造に関するものである。
【0009】
本発明の第2の観点によれば、第1の観点にかかる組成物を含有するワクチンを提供する。
第3の観点によれば、本発明は粘膜感染の治療または予防処置の方法を提供し、該方法は、それらの処置を必要とする被験体に第1の観点にかかる組成物または第2の観点にかかるワクチンを投与することを含む。
【0010】
しかしながら、理解されるように、処置(それが予防のためであっても治療のためであっても)を必要とする被験体にまず組成物の一部のみ、例えば細菌(例えば好酸性乳酸桿菌および発酵乳酸桿菌)の形態のアジュバントを投与し、次いで、最終的に可能性のある病原体に対する特定の免疫を提供することを意図する単一または複数の抗原を投与してもよい。アジュバントでの最初の処置は1回の大量注射の形態をとってもよいが、必要により、抗原を投与する前の一定期間、反復投与を行ってもよい。また、アジュバントの投与は抗原投与の停止後に継続してもよい。
【0011】
現在、粘膜免疫系が全ての粘膜表面に共通であることが明らかとなっているので、本発明の組成物およびワクチンを可能性のある粘膜病原体および粘膜表面(限定される訳ではないが、口腔前庭、呼吸器管、および腸管がある)のいずれにも適用できる。
【0012】
好ましくは本発明の組成物またはワクチンは経口で投与するが、いずれの粘膜表面(例えば呼吸器管粘膜または腸管粘膜)への適用も考えられる。
本発明の組成物およびワクチンを便宜に使用して感染に対する粘膜防御を誘導するが、存在する細菌、真菌、および/またはウィルスによる粘膜感染の処置における予防薬として使用することもできる。更に、本発明の組成物およびワクチンの好ましい使用は、粘膜表面に既に細菌がコロニーを形成している場合である。
【0013】
従って第4の観点によれば、本発明は粘膜感染の治療または予防処置の方法を提供し、該方法はそれらの処置を必要とする被験体に第1に観点にかかる組成物のアジュバント部分、次いで第1の観点にかかる組成物の抗原部分を投与することを含む。
【0014】
好ましくはアジュバント部分での処置はアジュバントの1回の大量注射による投与で行うが、アジュバント部分での処置はアジュバントの反復投与によって行うこともできる。しかしながら、更に好ましくはアジュバントと抗原を共投与する。
【0015】
本発明の更なる態様ではアジュバントを抗原の前に、または抗原と共に投与するが、アジュバントの投与を抗原部分の投与後に継続してもよい。
本発明の組成物およびワクチンはいずれの粘膜表面に投与してもよく、粘膜免疫系が共通であるために所望の効果を有する。好ましい粘膜表面は上記のように口腔前庭、呼吸器管、および腸管であるが、当業者に理解されるようにいずれの粘膜表面への投与も有効である。
【0016】
好ましくは組成物またはワクチンは経口で投与する。
好ましくはワクチンは2つの過程で投与し、後に追加免疫過程を行う。
アジュバントの好ましい投与量は、アジュバントが完全体の生きた共生生物細菌の場合、約1x108から約1x1012生物体である。
【0017】
抗原が完全体の死滅微生物である場合、抗原の好ましい投与量は約1x108から約1x1012生物体である。完全体の死滅微生物(抗原)と共生生物細菌(アジュバント)の比が約5:1以上である投与量が更に好ましい。
【0018】
また、組成物またはワクチンを毎年、季節的感染の発生前に投与するのも好ましい。
好ましい実施態様の説明
例えば粘膜感染に関係する特異的抗原(例えばインフルエンザ菌のような完全体の細菌)と非特異的細菌(すなわち通常、粘膜感染と関係ないもの)とを組み合わせることによって、粘膜感染に対する防御を延長できるという驚くべき発見がなされた。特定の作用機構に拘束されることは望まないが、本発明は、使用される非特異的細菌によってT細胞による特定のサイトカイン応答の生成が誘導され、これによって伝統的なワクチン製剤の投与から予期されるのとは異なる防御が増幅されるという考えに基づいている。更に詳細に言えば、(しかしここでも特定の作用機構に拘束されることは望まないが)非特異的細菌の投与によって粘膜免疫系がT細胞応答スペクトルのTh1(すなわちIFN-γ)端に偏ると考えられる。Th1応答は粘膜のコロニー形成を最もよく制御すると考えられる。それらの生物体、およびTh1応答を刺激する能力のある他のアジュバントの使用によって、検出可能であって投与部位から離れた所で効果を有することができるTh1応答が測定される。
【0019】
ここで、乳酸菌のような非特異的細菌が、高度に“Th2に偏った”マウスモデルにおいてIL-4を抑制的に調節し、IFN-γ生成を促進する能力を有することを証明する(実施例1参照)。型別不能型インフルエンザ菌(NTHI)の気管支からのクリアランスのラットモデルにおいて、乳酸桿菌のような非特異的細菌によって更なる防御が提供されることも証明する(抗原がなくても、CD4 T細胞が関与することを示す)(実施例2参照)。
【0020】
本研究の例として使用する動物モデルはコロニー形成モデルであり、これは感染の治療および予防の両方に関係する。コロニー形成は本質的な感染の決定要因であり、このモデルは他の治療および予防ワクチンに関係して有効性、投与量、投与プロトコールなどの確立のために使用されてきた。
【0021】
本発明の特定の態様では、治療用経口ワクチンは以下を合一するものである:1)呼吸器管内で見られる特異的細菌(単一で、または組み合わせて)(例えば、それに限定されるわけではないがNTHI、肺炎球菌、緑膿菌、白色ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌)を死滅菌体または生きた菌体として、および2)非特異的細菌(ここでは共生生物(probiotic)細菌とも言う)で、粘膜免疫をTh1 T細胞応答の方向に切り替える能力を有するもの(死滅させた菌体でも生きた菌体でもよい)、例えば、それに限定されるわけではないが乳酸桿菌種(例えば好酸性乳酸桿菌)および/またはミコバクテリウム種(例えばミコバクテリウム・バッカエ)。
【0022】
このタイプの経口ワクチンは、粘膜表面に既にコロニーが形成されている場合に最も作用する(これらの細菌は粘膜内で新たに移動した細胞を再び刺激するため)、すなわち治療用ワクチンとして機能する。しかしながら、予防用ワクチンとしても機能できる。
【0023】
胃酸による細菌の不活性化を回避するために、腸溶カプセル(または類似するもの)を使用して細菌含有物を小腸で放出させてもよい。あるいはまた、非特異的細菌の長期間の使用によってより持続性のあるTh1粘膜環境を生成し、その後、可能性のある粘膜病原体に対する特異的免疫応答を誘導することを意図する特異的抗原または細菌を投与する。‘非特異的’細菌のみでは特異的防御は誘導されない。
【0024】
非特異的細菌は、非経口投与されたある種の抗原、特に粘膜防御に影響するものへの応答を(特定の免疫の結果に好性を示すことによって)向上する。
グラム陽性菌を共生生物アジュバントとしてグラム陰性菌と組み合わせることはこの系において相乗活性を有し、これもここで企図される。粘膜免疫系は全ての粘膜表面に共通であるため、種々の呼吸器粘膜表面が防御できる(例えば特に気管支、洞(sinus)、および中耳)。
【0025】
ここで、特定の非限定的な実施例を参照して、本発明についてより詳細に記載する。
実施例1:Th1/Th2サイトカイン応答に対する共生生物細菌の影響
共生生物細菌がTh2サイトカイン応答を抑制的に調節し、Th1サイトカイン応答を亢進的に調節するかどうかを確認するために、栄養補給針(feeding needle)を使用してC57/B16マウスに種々の数の好酸性乳酸桿菌(University of New South Wales, School of Microbiology and Immunology Culture Collection, Sydney, Australiaから入手)を2週間の間毎日、胃内投与し、その後、感作するために8μgのオボアルブミン(OVA)および水酸化アルミニウムを0.2mLのリン酸緩衝液に混合したものを腹膜内注射によって投与した。マウスに2週間の間2日毎に好酸性乳酸桿菌を更に10回投与した後、殺害した。ふるいを通して脾臓をティージング(teasing)してリンパ球を単離し、PBSで洗浄し、10x106で再懸濁した。細胞懸濁液の1mLアリコートを24ウェル平底マイクロタイタープレートのウェルに注入し、OVA(5μg/mL)で刺激した。4日間インキュベートした後、上清を回収し、標準的なELISA技術でIL-4またはIFN-γモノクローナル抗体ペアを使用してIL-4およびIFN-γの生成についてアッセイを行った。
【0026】
手短に言えば、24ウェルマイクロタイタープレートのウェルを捕捉抗IL-4抗体で被覆した。室温で1時間インキュベートした後、ウェルを洗浄し、ビオチニル化した抗IL-4抗体を各ウェルに添加した。更に1時間インキュベートした後、ウェルを洗浄し、ストレプトアビジン-ペルオキシダーゼ・コンジュゲートを各ウェルに添加した。30分間のインキュベート後、ウェルを洗浄し、次いでTMB基質を添加した。ELISAプレートリーダーで、450/620nmでの発色を測定した。未知のサンプル中のIL-4レベルを検量線を使用して補間法によって定量した。同様の手順を使用してIFN-γの測定を行った。
【0027】
図1AおよびBに示す結果は、好酸性乳酸桿菌の投与によってIL-4生成が用量依存的に抑制され(図1A)、一方IFN-γの生成は促進される(図1B)ことを示している。
実施例2:生きた好酸性乳酸桿菌および死滅させたNTHiの1回の管腔内投与による呼吸器管からのNTHiのクリアランスの向上
型別不能型インフルエンザ菌(NTHI)の呼吸器管からのクリアランスを向上する好酸性乳酸桿菌の能力をラットモデルで検討した。
【0028】
DAラット(200-250グラム、8-10週齢、Animal Resouece Centre, Perth, WA)を免疫化するために、5x109の死滅NTHiを単独で、または2.5x1010の好酸性乳酸桿菌と組み合わせて含有するPBS 0.75mlを管腔内(IL)に(小腸の管腔内へ)1回注射した(表1に示す通り)。IL投与は、開腹術によって十二指腸を露出させた後、腸管腔に直接注入して行った。これは経口摂取後に腸管腔内に遊離される腸溶性製剤(ヒトのために調製されうるため)と同等であるとみなされる。14日目に、50μLのPBSのみ(A群)または5x108の死滅NTHIを含有するPBS 50μL(B-D群)をラットの気管内に(IT)追加免疫投与した。21日目、ラットの気管内に50μLのPBSに混合した5x108の生きたNTHIを感染させた。4時間後、ラットを殺害し、気管支洗浄液(BAL)および肺ホモジネート(LH)中のNTHIの総数を測定するためにBALまたはLHの連続した10倍希釈液をチョコレート寒天プレートに播種した。37℃で一晩インキュベートした後、コロニー数を計数した。表2に示すようにBALおよびLH中の細菌の総数をコロニー形成単位(CFU)として表した。
【0029】
【表1】

【0030】
【表2】

【0031】
A群と比較してp=0.034
A群と比較してp=0.018
B群と比較してp=0.264
B群と比較してp=0.165
p<0.05を統計学的に有意であるとみなす
このデータは、死滅NTHiと生きた好酸性乳酸桿菌の組み合わせがNTHi単独または好酸性乳酸桿菌単独より有効性が高いことを示している。
実施例3:好酸性乳酸桿菌を投与した免疫化ラットの肺からのNTHiのクリアランスの向上
DAラット(200-250グラム、8-10週齢、Animal Resouece Centre, Perth, WA)に、1.0mLのPBSに混合した5x1010の好酸性乳酸桿菌またはPBSのみを2日毎に7日間強制栄養によって投与し、この時点でホルマリンで死滅させたNTHi(5x109/ラット)を0.5mLのPBSに混合して管腔内(IL)投与してラットを免疫化した。ラットに2日毎に2週間投与を継続し、その後ホルマリンで死滅させたNTHi(5x108/ラット)を含有するPBS 50μLを気管内(IT)経路で追加免疫投与した。好酸性乳酸桿菌を更に7日間投与した後、ラットを5x108の生きたNTHiを含有するPBS 50μLでIT感染させた。4時間後、肺におけるコロニー形成のレベルを、実施例2に記載するようにBALおよびLHで測定した。種々の群の免疫化および給餌を表3に示す。細菌の回収を表4に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】
a A群と比較してp=0.011
b A群と比較してp=0.018
c A群と比較してp=0.043
d A群と比較してp=0.093
e A群と比較してp=0.018
f A群と比較してp=0.033
g B群と比較してp=0.235
h pはBと比較して有意差なし
好酸性乳酸桿菌を投与して死滅NTHiで免疫化したラットは、死滅NTHiで免疫化しただけのラットまたは好酸性乳酸桿菌を投与しただけのラットより、肺におけるNTHiでの感染に対して耐性が高かった。更に、好酸性乳酸桿菌を強制栄養で反復投与したラットは好酸性乳酸桿菌の1回の大量投与を行ったラット(実施例2)より感染に対する耐性が高かった。特定の作用機構に拘束されることは望まないが、このデータはクリアランスの向上が好酸性乳酸桿菌の反復投与後の腸におけるコロニー形成の増加によるものでありうることを示唆している。
実施例4:死滅NTHiおよび生きた発酵乳酸桿菌の管腔内投与によって、その後の急性NTHi感染に対する防御が向上する
NTHiのクリアランスを向上する発酵乳酸桿菌(単独で、または死滅NTHiと組み合わせて)の能力を、急性NTHi呼吸感染のラットモデルにおいて評価した。
【0035】
特異的病原体非保有DAラット(177-200g)をCentral Animal house, University of Newcastle, NSWから入手した。5ラットの群で、小腸の腸管腔に以下を1回注射した:0.75mLのPBSのみ、または、5x109死滅NTHiのみ、5x109死滅NTHiプラス2.5x1010発酵乳酸桿菌、もしくは2.5x1010発酵乳酸桿菌のみを含有するPBS(以下の表5に示す通り)。14日目に、A群のラットに50μLのPBSをITで偽性追加免疫投与し、B-D群のラットに5x108死滅NTHiを含有するPBS 50μLを追加免疫投与した。21日目に、ラットを50μLのPBSに混合した5x108の生きたNTHiにIT感染させた。4時間後、ペントバルビトン(pentobarbitone)を腹膜内に過剰投与してラットを殺害した。肺を10mLのPBSで洗浄して気管支肺胞洗浄液(BAL)を得た。次いで肺を10mLのPBS中でホモジナイズして肺ホモジネート(LH)を得た。BALおよびLH中の細菌数を測定するために、BALおよびLHの連続希釈を行い、チョコレート寒天培地に既知の容量を播種した。37℃で一晩インキュベートした後、コロニーを計数し、BALおよびLHのコロニー形成単位(CFU)の総数を測定した。各ラット群の細菌数を表6に示す。
【0036】
【表5】

【0037】
【表6】

【0038】
*A群と比較
また、LHでもB>D(p=0.041)およびC>D(p=0.015)。
このデータは、発酵乳酸桿菌は単独で、または死滅NTHiと組み合わせると、死滅NTHi単独の場合よりもその後の急性呼吸器感染に対する予防薬として高い有効性を有することを示唆している。従ってこの乳酸桿菌株も急性呼吸器感染に対して有効である。
実施例5:一定用量のNTHiと共に投与する好酸性乳酸桿菌の用量範囲の研究
特異的病原体非保有DAラット(197-230g)をCentral Animal house, University of Newcastle, NSWから入手した。6ラットの群にPBS、または一定用量の死滅NTHi(5x109)プラス種々の投与量の生きた好酸性乳酸桿菌の1回IL投与を行った(以下の表7に示す通り)。14日目にA群のラットには50μLのPBSで偽性追加免疫を行い、B-D群のラットには5x108の死滅NTHiを含有するPBS 50μLで追加免疫を行った。21日目、50μLのPBSに混合した5x108の生きたNTHiの気管内点滴注入でラットを感染させた。4時間後、ペントバルビトンの腹膜内過剰投与によってラットを殺害した。肺を10mLのPBSで洗浄して気管支肺胞洗浄液(BAL)を得た。次いで肺を10mLのPBS中でホモジナイズし、肺ホモジネート(LH)を得た。BALおよびLH中の細菌数を測定するために、BALおよびLHの連続希釈を行い、チョコレート寒天培地に既知の容量を播種した。37℃で一晩インキュベートした後、コロニーを計数し、BALおよびLHのコロニー形成単位(CFU)の総数を測定した。各群の細菌数を表8に示す。
【0039】
【表7】

【0040】
【表8】

【0041】
* A群と比較
乳酸桿菌の低濃度投与は、高濃度投与より有効性が高い。ここでも、特定の作用機構に拘束されることは望まないが、このデータは‘アジュバント効果’が乳酸桿菌のみでの効果とは異なって作用しうることを示唆している。
【0042】
上記のデータから、ヒトでの相当する投与量は1x108から1x1012細菌のオーダーであると考えられる。
実施例6:NTHi免疫化の最適な投与量/投与計画の評価
死滅NTHi免疫化の最適な投与量および投与計画を決定した。評価を行った種々の投与計画を表9に示す。IL1回投与、IL1回投与後に強制栄養による投与、そしてIL1回投与後に2回の強制栄養による投与について評価した。十二指腸を暴露するための手術を伴うため、IL投与は1回しか行えなかった。動物倫理学的理由から、外科手術的介入は1回しか許されない。従ってその後の投与は強制栄養によって行った。
【0043】
【表9】

【0044】
結果:
(i)投与計画1
特定病原菌非保有DAラット(187-213g)をCentral Animal house, University of Newcastle, NSWから入手した。ラット(6/群)に表10に示すような種々の投与量の死滅NTHiのIL1回投与を、表9の投与計画1によって行った。死滅NTHiを0.3mLのPBSに含有させた。IT追加免疫をPBS(A群)または2x107の死滅NTHi(B-D群)で行った。ラットに5x108の生きたNTHiを含有するPBS 50μLを気管内感染させた。BALおよびLHから回収した細菌を表11に示す。
【0045】
【表10】

【0046】
【表11】

【0047】
a D群と比較
* A群と比較
1回の免疫化IL投与ではいずれの高投与量レベル(3x109および3x108)も防御免疫の提供において同等に有効であった。最も低い投与量(3x107)は有効ではなかった。
(ii)投与計画2
特定病原菌非保有DAラット(187-219g)をCentral Animal house, University of Newcastle, NSWから入手した。ラット(6/群)に表12に示すような種々の投与量の死滅NTHiのIL1回投与を、表9の投与計画2によって行った。死滅NTHiは0.3mLをPBSに含有させた。IT追加免疫をPBS(A群)または50μLのPBSに混合した2x107の死滅NTHi(B-D群)で行った。ラットに5x108の生きたNTHiを含有するPBS 50μLを気管内感染させた。BALおよびLHから回収した細菌を表13に示す。
【0048】
【表12】

【0049】
【表13】

【0050】
* A群と比較
2回投与を行うと3つの投与量の全てで、LHにおける防御の程度が同じであることは明らかである。防御のレベルはBALにおける3つの投与量でも同等であったが、この実験では一番高い濃度が統計学的に有意なだけである。
(iii)投与計画3
特定病原菌非保有DAラット(176-213g)をCentral Animal house, University of Newcastle, NSWから入手した。ラット(6/群)に表14に示すような種々の投与量の死滅NTHiのIL1回投与を、表9の投与計画3によって行った。死滅NTHiを0.3mLのPBSに含有させた。IT追加免疫を50μLのPBS(A群)または50μLのPBSに混合した2x107の死滅NTHi(B-D群)で行った。ラットに5x108の生きたNTHiを含有するPBS 50μLを気管内感染させた。BALおよびLHから回収した細菌を表15に示す。
【0051】
【表14】

【0052】
【表15】

【0053】
* A群と比較
3回の腸投与(IL1回プラス強制栄養2回)では、3つの投与レベルの全てで同様の防御が得られる。2回投与(投与計画2)に優る3回投与の利点は明らかではない。
【0054】
上記のデータから、ヒトでの相当する投与量は1x108から1x1012細菌のオーダーであると考えられる。
実施例7:NTHiおよび好酸性乳酸桿菌を用いるIL1回投与での長期免疫化
好酸性乳酸桿菌の添加によって提供される防御の持続期間の向上を測定するために実験を行った。特定病原菌非保有DAラット(201-293g)をCentral Animal house, University of Newcastle, NSWから入手した。6ラットの群に、表16に示すように0.75mLのPBS、または5x109の死滅NTHIもしくは5x109の死滅NTHIおよび2.5x1010の生きた好酸性乳酸桿菌の混合物を含有するPBSをIL投与した。14日後、表16に示すようにラットに50μLのPBS、または5x108の死滅NTHIを含有するPBSでIT追加免疫を行った。IL投与の3ヶ月後、ラットを50μLのPBSに混合した5x108の生きたNTHiで気管内(IT)感染させた。感染の4時間後、ラットを殺害し、BALおよびLHを調製して総細菌数を測定したが、測定は上記の実施例に記載したように行い、コロニー形成単位(CFU)で表した。
【0055】
【表16】

【0056】
【表17】

【0057】
注:D群のラット1検体はIL投与を実施するための手術中に死亡した
* A群と比較
a C群と比較
この3ヶ月の実験期間にわたって、NTHiのみでの免疫化が最も有効であった。この期間にわたって更なる好酸性乳酸桿菌投与の効果は明らかではない。
【0058】
本発明について特定の実施例および好ましい態様と関連して記載したが、理解されるようにここに記載する本発明の広い概念および意図と一致して変化を加えることも考えられる。
【0059】
本願発明は以下のものに関する。
(1)粘膜表面で感染を起こす能力のある微生物の少なくとも1つを由来とする1つ以上の抗原およびTh1細胞免疫応答を誘導するする能力のあるアジュバントを含有する粘膜投与可能な組成物であり、アジュバントが粘膜表面で感染を起こす能力のある微生物由来ではない上記組成物。
(2)抗原が細菌、カビ、またはウィルス由来である、(1)記載の組成物。
(3)抗原が完全体の(whole)微生物である、(1)または(2)記載の組成物。
(4)完全体の微生物が死滅した微生物である、(3)記載の組成物。
(5)生きた微生物が生きた微生物または弱毒化した生きた微生物である、(4)記載の組成物。
(6)抗原が1つ以上の微生物のホモジネートまたは音波処理物である、(1)または(2)記載の組成物。
(7)微生物が呼吸器管細菌性および/もしくは真菌性病原体、または通常呼吸器管にコロニーを形成し、感染を起こす可能性のある微生物である、(1)から(6)のいずれか1つに記載される組成物。
(8)微生物が型別不能型インフルエンザ菌(Heamophilus influenzae, NTHI)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、白色ブドウ球菌(Staphylococcus albus)、および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、またはそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される、(7)記載の組成物。
(9)アジュバントが微生物またはその一部であり、粘膜表面で感染を起こす能力のある生物ではなく、そしてTh1タイプの細胞免疫応答を誘導することができる、(1)から(8)のいずれか1つに記載される組成物。
(10)アジュバントが細菌である、(9)記載の組成物。
(11)細菌が乳酸菌、ミコバクテリウム種、およびビフィドバクテリア、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される、(10)記載の組成物。
(12)細菌が好酸性乳酸桿菌(Lactobacillus acidphilus)、発酵乳酸桿菌(Lactobacillus fermentum)、およびミコバクテリウム・バッカエ(Mycobacterium vaccae)、またはそれらの一部でTh1細胞応答を誘導する能力があるものからなる群から選択される、(11)記載の組成物。
(13)細菌が好酸性乳酸桿菌である、(12)記載の組成物。
(14)細菌が生きている、(9)から(13)のいずれか1つに記載される組成物。
(15)組成物が経口投与可能な組成物である、(1)から(14)のいずれか1つに記載される組成物。
(16)1つ以上の薬剤的に許容されるキャリアー、アジュバント、溶媒、または添加剤を更に含有する、(15)記載の組成物。
(17)食品または食品サプリメントである、(1)から(15)のいずれか1つに記載される組成物。
(18)(1)から(15)のいずれか1つに記載される組成物を含有するワクチン。
(19)粘膜感染の治療または予防処置のための方法であり、それらの処置を必要とする被験体に(1)から(16)のいずれか1つに記載される組成物、または(18)記載のワクチンを投与することを含む上記方法。
(20)粘膜感染の治療または予防処置のための方法であり、それらの処置を必要とする被験体に(1)から(16)のいずれか1つに記載される組成物のアジュバント部分、次いで(1)から(16)のいずれか1つに記載される組成物の抗原部分を投与することを含む上記方法。
(21)アジュバント部分での処置がアジュバントの1回の大量注射による投与によるものである、(20)記載の方法。
(22)アジュバント部分での処置がアジュバントの反復投与によるものである、(20)記載の方法。
(23)抗原部分の投与後にアジュバントの投与を継続する、(20)または(22)記載の方法。
(24)化合物またはワクチンを粘膜表面に投与する、(19)から(23)のいずれか1つに記載される方法。
(25)粘膜表面が口腔前庭(bucal cavity)、呼吸器管、および腸管からなる群から選択される、(24)記載の方法。
(26)組成物またはワクチンを経口投与する、(19)から(25)のいずれか1つに記載される方法。
(27)ワクチンを2つの過程で投与し、次いで追加免疫過程を行う、(19)から(26)のいずれか1つに記載される方法。
(28)アジュバントが細菌であり、投与する細菌の量が約1x108から約1x1012生物である、(19)から(27)のいずれか1つに記載される方法。
(29)抗原が完全体の死滅した微生物であり、微生物の量が約1x108から約1x1012生物である、(19)から(28)のいずれか1つに記載される方法。
(30)完全体の死滅微生物とアジュバント細菌の比率が約5:1以上である、(28)または(29)記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】好酸性乳酸桿菌投与後のIL-4およびIFN-γの生成

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のもの:
(1)Th1タイプの細胞免疫応答を誘導するする能力のある少なくとも1つの種の共生生物細菌の反復投与量であって、前記共生生物細菌は好酸性乳酸桿菌(Lactobacillus acidphilus)および発酵乳酸桿菌(Lactobacillus fermentum)、またはそれらの組み合わせからなる群から選択される;および
(2)粘膜表面で感染を起こす能力のある微生物の少なくとも1つを由来とする少なくとも1つの抗原であって、前記微生物は型別不能型インフルエンザ菌(Heamophilus influenzae, NTHI)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)、白色ブドウ球菌(Staphylococcus albus)、および黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、またはそれらのいずれかの組み合わせからなる群から選択される、
を含む呼吸器官感染を治療するための経口投与可能な組成物であって、ここで、少なくとも1つの種の共生生物細菌の反復投与量を少なくとも1つの微生物の少なくとも1つの抗原の前に経口投与する、上記組成物。
【請求項2】
抗原が、粘膜表面で感染を起こす能力のある完全体の(whole)微生物である、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
完全体の微生物が死滅した微生物である、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
完全体の微生物が生きた微生物または弱毒化した生きた微生物である、請求項2記載の組成物。
【請求項5】
抗原が微生物のホモジネートまたは音波処理物である、請求項2記載の組成物。
【請求項6】
共生生物細菌が好酸性乳酸桿菌である、請求項1記載の組成物。
【請求項7】
共生生物細菌が生きている、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
1つ以上の薬剤的に許容されるキャリアー、アジュバント、溶媒、または添加剤を更に含有する、請求項1記載の組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2012−153706(P2012−153706A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−80832(P2012−80832)
【出願日】平成24年3月30日(2012.3.30)
【分割の表示】特願2001−583799(P2001−583799)の分割
【原出願日】平成13年5月21日(2001.5.21)
【出願人】(508280313)ハンター・イミュノロジー・リミテッド (3)
【Fターム(参考)】