説明

粘膜適用剤及びその製造方法

【課題】粘膜において滞留性及び薬理効果を発揮する、粘膜適用剤の提供。
【解決手段】ヒアルロン酸に代表されるグリコサミノグリカン(GAG)に結合鎖を介して疎水基を結合させることにより得られる「疎水基結合型グリコサミノグリカン」を有効成分とする組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、疎水基結合型グリコサミノグリカンを有効成分として含有する粘膜適用剤、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、炎症及び損傷のような粘膜障害に治癒効果を有する物質としては、代表的なグリコサミノグリカン(本明細書では以降「GAG」と記載される)であるヒアルロン酸が知られている(例えば、特許文献1)。しかし、外界と接触する、角膜、口腔及び鼻腔の粘膜、及び結膜;並びに膀胱の粘膜では、涙液、唾液及び尿のような分泌物及び排泄物で粘膜表面が洗浄され、異物は除去される。よってGAGが本来持つ薬効を保持し、かつこれらの粘膜組織において高い滞留性を発揮するGAGの誘導体が求められていた。
【0003】
一方、ヒアルロン酸にケイ皮酸のような光架橋基を結合させ、更にここにアルカリ処理を加えることにより、水溶性を上昇させた光反応性ヒアルロン酸が知られている(例えば、特許文献2)。この光反応性ヒアルロン酸は、光架橋を与えることにより癒着防止材等の医用材料を提供するために、ヒアルロン酸にケイ皮酸のような光架橋基を結合させることにより提供されており、粘膜組織における滞留性を増強することを目的としてはいない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−238530号
【特許文献2】特開2002−249501号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、粘膜において優れた滞留性及び薬理効果を発揮する、粘膜適用剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために広く研究を行った結果、本発明者らは、GAGに結合鎖を介して疎水基を結合させることにより得られる「疎水基結合型GAG」が、粘膜適用剤における極めて優れた有効成分として使用することができる(なぜなら、このGAGは、炎症及び損傷のような粘膜障害に対してGAGが本来持つ治癒効果を保持し、かつそこに適用されると高い滞留性を示すため)ことを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、結合鎖を介して疎水基が導入されたグリコサミノグリカン(GAG)を含有する、粘膜適用剤に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の粘膜適用剤は、粘膜において高い滞留性を示すことにより長時間患部に滞留できるため、低頻度の投与によってさえ、炎症及び損傷のような粘膜障害に対して持続的な治癒効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、光透過率のスペクトルを示す図である。
【図2】図2は、治癒面積率(百分率)を示す図である。
【図3】図3は、治癒面積を示す図である。
【図4】図4は、治癒速度を示す図である。
【図5】図5は、治癒面積を示す図である。
【図6】図6は、治癒速度を示す図である。
【図7】図7は、治癒面積を示す図である。
【図8】図8は、治癒速度を示す図である。
【図9】図9は、治癒面積を示す図である。
【図10】図10は、治癒速度を示す図である。
【図11a】図11aは、ウサギ角膜上皮の剥離部位での残留性を示す図である。
【図11b】図11bは、ウサギ角膜上皮の剥離部位での残留性を示す図である。
【図11c】図11cは、ウサギ角膜上皮の剥離部位での残留性を示す図である。
【図11d】図11dは、ウサギ角膜上皮の剥離部位での残留性を示す図である。
【図12a】図12aは、ウサギ角膜上皮の剥離部位での残留性を示す図である。
【図12b】図12bは、ウサギ角膜上皮の剥離部位での残留性を示す図である。
【図12c】図12cは、ウサギ角膜上皮の剥離部位での残留性を示す図である。
【図12d】図12dは、ウサギ角膜上皮の剥離部位での残留性を示す図である。
【図13】図13は、紫外線照射後の眼球の写真を示す図である。
【図14】図14は、摘出角膜における水分蒸発量を示す図である。
【図15】図15は、摘出角膜における水分蒸発量を示す図である。
【図16】図16は、口腔乾燥症のモデルハムスターにおける水分蒸発量比の変化を示す図である。
【図17】図17は、治癒面積を示す図である。
【図18】図18は、治癒速度を示す図である。
【図19】図19は、治癒面積を示す図である。
【図20】図20は、治癒速度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、本発明を実施するための最良の形態により以下に更に詳述される。
本明細書において、アルキル基とは、記載された数の炭素原子を有する直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基をいう。アルケニル基とは、少なくとも1個の二重結合を有する、記載された数の炭素原子を有する直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基をいう。アルキニル基とは、少なくとも1個の三重結合を有する、記載された数の炭素原子を有する直鎖又は分岐の脂肪族炭化水素基をいう。
【0011】
アリール基とは、環構成原子として6〜20個の炭素原子を有する単環式又は多環式の芳香族炭化水素基をいう。ヘテロアリール基とは、環構成原子として、3〜20個の炭素原子、並びに窒素、硫黄及び酸素原子から選択される1個以上のヘテロ原子を有する単環式又は多環式の芳香族炭化水素基をいう。
【0012】
アリールアルキル基とは、上に定義されるアリール基で置換された、上に定義されるアルキル基をいう。アリールアルケニル基とは、上に定義されるアリール基で置換された、上に定義されるアルケニル基をいう。アリールアルキニル基とは、上に定義されるアリール基で置換された、上に定義されるアルキニル基をいう。
【0013】
アミノ酸基とは、天然又は合成アミノ酸から化学結合によりカルボキシル基、アミノ基又はヒドロキシル基を失うことによって誘導された基をいう。
【0014】
本明細書において、「処置」という用語は、粘膜障害の予防、進行の抑制(悪化の防止)、改善(軽減)及び治療を包含する。「粘膜障害」は、粘膜が本来持つべき形態、特性及び機能が何らかの形で障害されている状態を意味する。例えば、損傷、欠損、びらん、炎症、潰瘍及び乾燥のような状態を粘膜障害として挙げることができる。
【0015】
本発明の粘膜適用剤に有効成分として含まれる、結合鎖を介して疎水基が導入されたGAGは、そのGAGが、水に難溶で油に可溶な性質を有する疎水性化合物から誘導された疎水性を有する基に結合している限り、任意のGAGであってよい。この疎水基は、結合鎖を介してGAGに結合している。後述されるように、GAGの全ての構成単位が疎水基を結合している必要はない。
【0016】
1) GAG
本発明の粘膜適用剤に含まれる、結合鎖を介して疎水基が導入されたGAGにおけるGAGは、アミノ糖とウロン酸(又はガラクトース)からなる二糖の繰り返し長鎖構造を有する酸性多糖である。このようなGAGの例としては、ヒアルロン酸、コンドロイチン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸及びケラタン硫酸が挙げられるが、これらの中でヒアルロン酸が好ましい。これらのGAGは、薬剤学的に許容しうるその塩であってもよい。このような塩の例としては、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩及びカルシウム塩が挙げられるが、これらの中でナトリウム塩が好ましい。したがって、本発明の粘膜適用剤におけるGAGは、ヒアルロン酸ナトリウムであることが最も好ましい。GAGの由来は特に限定されず、そしてGAGは、動物若しくは微生物由来であっても、又は化学合成したものであってもよい。例えば、ヒアルロン酸ナトリウムを使用する場合、鶏冠由来のものを例示することができる。GAGの分子量は特に限定されないが、その重量平均分子量は、好ましくは200,000〜3,000,000、更に好ましくは500,000〜2,000,000、そして最も好ましくは600,000〜1,200,000である。ヒアルロン酸又は薬剤学的に許容しうるその塩を使用する場合、その重量平均分子量は、好ましくは200,000〜3,000,000、更に好ましくは500,000〜2,000,000、そして最も好ましくは600,000〜1,200,000である。
【0017】
2) 疎水基
本発明の粘膜適用剤に含まれる、結合鎖を介して疎水基が導入されたGAGにおける疎水基は、その疎水基が、水に難溶で油に可溶な性質を有する化合物に由来する限り、任意の基である。このような基の例としては、2〜18個の炭素原子を有するアルキル基、2〜18個の炭素原子を有するアルケニル基、2〜18個の炭素原子を有するアルキニル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、アリールアルキニル基及びアミノ酸基を挙げることができる。
【0018】
2〜18個の炭素原子を有するアルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、t−ブチル、n−ペンチル、t−ペンチル、イソペンチル、ネオペンチル、n−ヘプチル、5−メチルヘキシル、4,4−ジメチル−ペンチル、1,1−ジメチル−ペンチル及びn−オクチルを挙げることができる。これらの中で、2〜6個の炭素原子を有するn−ブチルのようなアルキル基を、好ましく挙げることができる。
【0019】
2〜18個の炭素原子を有するアルケニル基としては、ビニル、1−プロペニル、2−プロペニル、1−ブテニル、2−メチル−1−プロペニル、1−メチル−1−プロペニル、1−ペンテニル、3−メチル−2−ブテニル、1−ヘプテン−1−イル及び2−ヘプテン−1−イルを挙げることができる。これらの中で、1−ブテニルのような、2〜6個の炭素原子を有するアルケニル基を、好ましく挙げることができる。
【0020】
2〜18個の炭素原子を有するアルキニル基としては、エチニル、1−プロピニル、2−プロピニル、1−ブチニル、2−ブチニル、3−ブチニル、1−へプチニル、2−へプチニル及び3−ヘプチニルを挙げることができる。これらの中で、1−ブチニルのような、2〜6個の炭素原子を有するアルキニル基を、好ましく挙げることができる。
【0021】
アリール基としては、フェニル、ナフチル、アントリル及びフェナントリルのような基を挙げることができる。
ヘテロアリール基としては、フリル、チオニル、チアゾリル、オキサゾリル、ピロリル、ピリジル、ピリミジニル及びインドリルのような基を挙げることができる。
アリールアルキル基としては、ベンジル、フェネチル、ナフチルメチル及びナフチルエチルのような基を挙げることができる。
アリールアルケニル基としては、2−フェニル−エテニル及びp−アミノフェニルエテニルのような基を挙げることができる。
アリールアルキニル基としては、2−フェニル−エチニル及びp−アミノフェニルエチニルのような基を挙げることができる。
【0022】
アミノ酸基としては、グリシン、アラニン及びβ−アラニンのような脂肪族アミノ酸;ロイシン、イソロイシン及びバリンのような分岐鎖脂肪族アミノ酸;フェニルアラニン及びチロシンのような芳香族アミノ酸;並びにトリプトファン及びヒスチジンのような複素環式アミノ酸から誘導される基を挙げることができる。
【0023】
これらの疎水基は、ヒドロキシル、カルボキシル、シアノ、アミノ(上記アルキルで単置換又は二置換されていてもよい)、ニトロ、オキソ及びアルキルカルボニルオキシのような基で単置換又は多置換されていてもよい。
【0024】
上記疎水基の中で、アリール基を含む疎水基である、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基及びアリールアルキニル基を、好ましく挙げることができ、そしてアリールアルケニル基、及びアルキルカルボニルオキシ基で置換されたアリール基を、特に好ましく挙げることができる。このようなアリールアルケニル基としては、具体的にフェニルエテニル及びp−アミノフェニルエテニルを使用することができる。アリール基としては、好ましくはCH3−(CH2l−COO−フェニル(ここで、lは、0又は1〜18の整数を表す)のような基を使用することができる。
【0025】
これらの疎水基はまた、疎水基に含まれる上に例示されたフェニル−エテニルのような官能基により示されるように、疎水基中に二重結合を有することにより、紫外線吸収能のような機能を有してもよい。例えば、本発明の粘膜適用剤を後述の点眼剤として使用する場合、疎水基として紫外線吸収能を有する基を使用することにより、有害な紫外線を効果的に吸収する機能を有する点眼剤とすることができる。更に、例えば、本発明の粘膜適用剤を、角膜乾燥症(ドライアイ)、角結膜炎、点状表層角膜炎(SPK)、角膜上皮びらん、角膜上皮欠損及び角膜腫瘍のような角膜上皮層障害の処置に使用する場合、疎水基として紫外線吸収能を有する基を使用することにより、上記障害に及ぼす薬理作用を、有害な紫外線を効果的に吸収する機能と併せて有する粘膜適用剤とすることができる。紫外線吸収能を有する基として、例えば、上述の2−フェニル−エテニル及びp−アミノフェニルエテニルにより例示される、共役二重結合を有するアリールアルケニル基が好ましい。本発明の粘膜適用剤を、角膜障害に使用する場合、本発明の粘膜適用剤の有効成分である「疎水基が導入されたGAG」は、0.1重量%の水溶液にしたときに、後述の実施例に記載される方法により紫外線透過率を測定するとき、200〜300nmの波長の紫外線の透過を70〜100%ブロックすることが好ましい。紫外線吸収能を有するこのような疎水基は、好ましくは2−フェニル−エテニル及びp−アミノフェニルエテニルのようなアリールアルケニル基を含むことができる。
【0026】
3) 結合鎖
本発明の粘膜適用剤に含まれる、結合鎖を介して疎水基が導入されたGAGにおいて、上記のGAGは、上記の疎水基に結合鎖を介して結合している。GAGは、側鎖としてカルボキシル、ヒドロキシル又はスルホン酸(−SO3H)基である官能基を有する。よって疎水基は、これらの官能基と一緒に、エーテル結合、カルボン酸エステル結合、硫酸エステル結合、カルボン酸アミド結合又はスルホン酸アミド結合を形成することにより得られる結合鎖を介して、GAGに結合することができる。このような結合鎖は、具体的には−CONH−、−COO−、−O−、−SO3−及び−SO2NH−を含んでよい。これらの中で、−CONH−のカルボン酸アミド結合及び−COO−のカルボン酸エステル結合を好ましくは使用することができ、そして−CONH−のカルボン酸アミド結合を特に好ましく使用することができる。
【0027】
4) スペーサー鎖
本発明の粘膜適用剤に含まれる、結合鎖を介して疎水基が導入されたGAGにおいて、疎水基は、上記の結合鎖を介してGAGに結合しており、そしてスペーサー鎖が、結合鎖と疎水基との間に更に存在してもよい。このようなスペーサー鎖としては、このスペーサー基が、GAGが有する薬理作用を完全に消失させるものでない限り、任意の鎖状基を使用することができる。具体的には、−(CH2m−及び−(CH2)−(OCH2n−(ここで、m及びnは、それぞれ1〜18の整数である)が含まれてよい。
これらのスペーサー鎖は更に、疎水基側に上記と同じ−CONH−、−COO−、−O−、−SO3−及び−SO2NH−のような結合鎖を有することができる。疎水基側に結合鎖を有するこのようなスペーサー鎖は、具体的には−COO−(CH2m−、−COO−(CH2)−(OCH2n−、−CONH−(CH2m−及び−CONH−(CH2)−(OCH2n−を含むことができる。
【0028】
5) 疎水基を有する割合
本発明の粘膜適用剤に含まれる、結合鎖を介して疎水基が導入されたGAGにおいて、GAG構成単位の全てがそれぞれ疎水基を有する必要はない。GAGの二糖繰り返し単位のモル当量に対する結合した疎水基のモル当量の割合(本明細書では以降「導入率」と呼ばれる)は、疎水基のタイプ、必要な疎水性の程度、粘膜適用剤を投与される粘膜障害のタイプ及び投与部位などに応じて適宜決定することができる。例えば、疎水基として、置換されていてもよいフェニルエテニル基を使用するとき、GAGの二糖繰り返し単位のモル当量に対して、好ましくは5〜30%、そして更に好ましくは10〜20%のモル当量の疎水基が導入される(後述の架橋結合が形成されない場合)。
【0029】
6) 架橋形成基
本発明の粘膜適用剤に含まれる、結合鎖を介して疎水基が導入されたGAGにおいて、疎水基は、基に含まれる官能基により、GAG分子の間に架橋結合を形成してもよい。架橋結合を形成できる疎水基としては、その疎水基が、紫外線の照射により光二量化反応又は光重合反応を引き起こし、かつ上記と同義である限り、任意の基を使用することができる。架橋結合を形成できる疎水基は、例えば、フェニルエテニル、p−アミノフェニルエテニル、エテニル、2−カルボキシエテニル及びペンタン−1,3−ジエニルを含む。これらの基は、カルボニル基を含む結合鎖を介してGAGに結合していることが望ましい。これらの疎水基の中で、カルボニル基を含む結合鎖を介してGAGに結合している、フェニルエテニル又はp−アミノフェニルエテニルを、特に好ましく使用することができる。
架橋結合を形成できる疎水基が導入されたこのようなGAGにおいて、GAG分子は、常法により光二量化反応又は光重合反応に付すことによって、相互に架橋することができる。例えば、特許公開公報 特開2002−249501号に記載される方法により、光二量化反応又は光重合反応に付すことができる。
【0030】
7) 好ましいGAG構成単位
本発明の粘膜適用剤に含まれる、結合鎖を介して疎水基が導入されたGAGの代表例としては、具体的には、Ph−CH=CH−COO−(CH2m−NHCO−;Ph−CH=CH−COO−CH2−(OCH2n−NHCO−;Ph−CH=CH−CONH−(CH2m−NHCO−;Ph−CH=CH−CONH−CH2−(OCH2n−NHCO−;Ph−CH=CH−COO−(CH2m−O−CO−;Ph−CH=CH−COO−CH2−(OCH2n−O−CO−;Ph−CH=CH−CONH−(CH2m−O−CO−;Ph−CH=CH−CONH−CH2−(OCH2n−O−CO−;CH3−(CH2l−COO−Ph−CONH−(CH2m−NHCO−又はCH3−(CH2l−COO−Ph−CONH−CH2−(OCH2n−NHCO−(ここで、Phは、フェニル基を表し、m及びnは、それぞれ1〜18の整数を表し、そしてlは、0又は1〜18の整数を表す)が導入されたGAGを有効成分として含む粘膜適用剤を挙げることができる。
下記のGAGは、代表例として挙げることができる。
化学式1:
【化1】


[式中、Rは、R1又はR2を表し;
Acは、アセチル基を表し;
1は、ONa又はOHを表し;
2は、(1) Ph−CH=CH−COO−(CH2m−NH−;
(2) Ph−CH=CH−COO−CH2−(OCH2n−NH−;
(3) Ph−CH=CH−CONH−(CH2m−NH−;
(4) Ph−CH=CH−CONH−CH2−(OCH2n−NH−;
(5) Ph−CH=CH−COO−(CH2m−O−;
(6) Ph−CH=CH−COO−CH2−(OCH2n−O−;
(7) Ph−CH=CH−CONH−(CH2m−O−;
(8) Ph−CH=CH−CONH−CH2−(OCH2n−O−;
(9) CH3−(CH2l−COO−Ph−CONH−(CH2m−NH−;又は
(10) CH3−(CH2l−COO−Ph−CONH−CH2−(OCH2n−NH−を表す(ここで、Phは、フェニル基を表し、m及びnは、それぞれ1〜18の整数を表し、そしてlは、0又は1〜18の整数を表す)]で表される構造単位の繰り返し構造を基本骨格として有するGAG[ここで、GAGの二糖繰り返し単位のモル当量に対する、RがR2を表す上記構造単位のモル当量の割合は、5〜30%である]。
【0031】
8) 結合鎖を介して疎水基が導入されたGAGの製造方法
結合鎖を介して疎水基が導入されたGAGを得るために、GAGは、上記疎水基が、GAG中のカルボキシル、ヒドロキシル又はスルホン酸(−SO3H)基と一緒にエーテル結合、カルボン酸エステル結合、硫酸エステル結合、カルボン酸アミド結合又はスルホン酸アミド結合を形成できる、ヒドロキシル、カルボキシル、アミノ又はスルホン酸基のような官能基に結合している疎水性化合物と反応させる。具体的には、この結合がカルボン酸アミド結合であるとき、カルボキシル基を有するGAGを、アミノ基を有する疎水性化合物と反応させることにより、GAG中のカルボキシル基を疎水性化合物中のアミノ基に結合させる。カルボン酸エステル結合の場合には、GAGを、ヒドロキシル又はカルボキシル基を有する疎水性化合物と反応させることにより、GAG中のカルボキシル基を疎水性化合物中のヒドロキシル基に結合させるか、又はGAG中のヒドロキシル基を疎水性化合物中のカルボキシル基に結合させる。エーテル結合の場合には、ヒドロキシル基を有するGAGを、ヒドロキシル基を有する疎水性化合物と反応させることにより、GAG中のヒドロキシル基を疎水性化合物中のヒドロキシル基と反応させる。スルホン酸エステル結合の場合には、GAGを、ヒドロキシル基又はスルホン酸基を有する疎水性化合物と反応させることにより、GAG中のヒドロキシル基を疎水性化合物中のスルホン酸基に結合させるか、又はGAG中のスルホン酸基を疎水性化合物中のヒドロキシル基に結合させる。これらの反応は、一般的な常法により実施することができ、そして反応条件は、当業者であれば適宜選択することができる。
【0032】
結合鎖と疎水基との間にスペーサー鎖が存在するとき、スペーサー鎖及び疎水基をGAGに導入する順序は、特に限定されない。例えば、GAG中の官能基と一緒にエーテル結合、カルボン酸エステル結合、硫酸エステル結合、カルボン酸アミド結合又はスルホン酸アミド結合を形成できる、ヒドロキシル、カルボキシル、アミノ又はスルホン酸基のような官能基を上記スペーサー鎖の一方の末端に有するスペーサー化合物をGAGと反応させ、次にスペーサー化合物のもう一方の末端を、ヒドロキシル、カルボキシル、アミノ又はスルホン酸基のような官能基に結合している疎水性化合物と反応させる方法、あるいは、疎水性化合物中の官能基と一緒にエーテル結合、カルボン酸エステル結合、硫酸エステル結合、カルボン酸アミド結合又はスルホン酸アミド結合を形成できる、ヒドロキシル、カルボキシル、アミノ又はスルホン酸基のような官能基を一方の末端に有するスペーサー化合物を、疎水基が、ヒドロキシル、カルボキシル、アミノ又はスルホン酸基のような官能基に結合している疎水性化合物と反応させ、次にスペーサー化合物のもう一方の末端をGAGと反応させる方法のいずれも、利用することができる。特に、スペーサー化合物を疎水性化合物と反応させ、続いてGAGと反応させる方法を好ましく利用することができる。
【0033】
上述の方法は、公知の方法により適宜実施することができるが、好ましくは縮合剤の存在下で実施される。このような縮合剤としては、好ましくは、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl)のような水溶性カルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)及びN−ヒドロキシコハク酸イミド(HOSu)のような縮合剤を挙げることができる。例えば、ヒアルロン酸をGAGとして使用し、そしてスペーサー化合物に結合した疎水性化合物として、Ph−CH=CH−COO−(CH2m−NH2又はPh−CH=CH−COO−CH2−(OCH2n−NH2(ここで、m及びnは、それぞれ1〜18の整数である)のようなケイ皮酸誘導体を使用する場合、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl)のような水溶性カルボジイミド及びN−ヒドロキシコハク酸イミドを用いる縮合法を、好ましくは利用することができる。この反応は、水と、ジオキサン、ジメチルホルムアミド又はエタノールのような水溶性有機溶媒との混合溶媒を用いて行うことができる。水性媒体に高溶解性のヒアルロン酸誘導体は、反応の終了後、炭酸水素ナトリウムのような塩基で処理することにより得ることができる。
【0034】
こうして製造された、結合鎖を介して疎水基が導入されたGAGを、光二量化反応又は光重合反応に付すことにより、GAG分子を相互に架橋する場合、例えば、特開2002−249501号公報に記載される方法を用いることができる。具体的には、−COO−(CH2m−NHCO−を介して疎水基としてのフェニルエテニル基がGAGに結合している化合物の場合、架橋は、紫外線ランプを用いてこれらを含む溶液に光照射することにより形成することができる。
【0035】
9) 本発明の粘膜適用剤
本発明の粘膜適用剤は、結合鎖を介して疎水基が導入された1種以上のGAGを有効成分として含み、そしてまた、結合鎖を介して疎水基が導入されたGAG以外の医学的、薬剤学的又は生物学的に許容しうるその他の物質を更に含んでもよい。このような物質は、特に限定されないが、塩化ナトリウム、塩化カリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム及びリン酸水素一カリウムのような塩、並びにパラオキシ安息香酸エステル類、塩化ベンザルコニウム、クロロブタノール及びグルコン酸クロルヘキシジンのような保存料、並びに他の薬理活性成分を含む。
本発明の粘膜適用剤は、粘膜適用のための医薬として任意の公知の剤形(例えば、顆粒剤及び粉剤のような固形製剤、水性液剤、懸濁剤及びエマルションのような液体製剤、並びにゲル製剤)にすることができる。本発明の粘膜適用剤において、製剤化及び流通させる際のその剤形と、粘膜に適用する際のその剤形とは、同一であっても異なっていてもよい。例えば、本発明の粘膜適用剤は、液剤の剤形で製剤化して、そのまま粘膜に直接適用することができる。また、本発明の粘膜適用剤は、固体の剤形として製剤化及び流通させて、粘膜に適用するときに液剤又はゲル剤にしてもよい。よって、本発明の粘膜適用剤は、用時調製用の製剤にすることができる。
水に溶解することにより液剤にする場合、結合鎖を介して疎水基が導入されたGAGの量は、好ましくは0.02〜5重量%、更に好ましくは0.1〜3重量%、極めて好ましくは0.1〜1重量%であり、そして最も好ましくは0.1〜0.6重量%である。
【0036】
<適用対象>
本発明の粘膜適用剤は、粘膜に適用することを目的とする。本発明の粘膜適用剤を適用する動物は、粘膜を有する限り特に限定されないが、哺乳動物が好ましい。哺乳動物としては、特に限定されないが、ヒト、ウマ、ウシ、イヌ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモット及びマウス等が例示される。本発明の粘膜適用剤は、当然ヒト用の医薬にすることができ、また動物用の医薬にもすることができる。なかでも、ヒト用の製剤にすることが好ましい。
本発明の粘膜適用剤を適用することができる粘膜は、この粘膜が動物に存在する粘膜である限り、特に限定されない。このような粘膜としては、胃や腸のような消化器系、循環器系、呼吸器系、膀胱、直腸及び肛門のような排泄系、膣のような生殖器系、並びに眼、鼻及び口腔のような外界と接触のある器官等に例示される器官や組織に存在する粘膜組織が含まれる。これらの中で、本発明の粘膜適用剤は、好ましくは角膜、結膜、口腔粘膜及び膀胱粘膜に適用することができる。
【0037】
<適用疾患>
本発明の粘膜適用剤は、このような粘膜に広範囲に適用することができる。適用の目的としては、特に限定されないが、例えば、粘膜組織の保護(例えば、紫外線による雪目、翼状片及び白内障の予防)、粘膜乾燥の予防及び粘膜障害の処置のような目的を挙げることができる。よって、本発明の粘膜適用剤は、異常な状態の粘膜(例えば、障害が発生した粘膜)だけでなく、正常な状態の粘膜にも適用することができる。しかし、本発明の粘膜適用剤は、障害が発生した粘膜において優れた薬理作用を発揮するため、好ましくは粘膜障害、例えば、角膜、結膜、口腔粘膜及び膀胱粘膜における障害の処置に使用することができる。
【0038】
本発明の粘膜適用剤は、粘膜障害の中でも特に粘膜上皮における障害に優れた薬理作用を発揮するため、好ましくは粘膜上皮における障害の処置に使用することができる。
【0039】
このような粘膜上皮における障害の例としては、角膜乾燥症(ドライアイ)、角結膜炎、点状表層角膜炎(SPK)、角膜上皮びらん、角膜上皮欠損及び角膜腫瘍のような角膜上皮層障害;口腔乾燥症(ドライマウス)、アフタ性潰瘍、口内炎及び舌炎のような口腔粘膜障害;鼻粘膜の乾燥及び掻痒;間質性膀胱炎のような膀胱粘膜障害;潰瘍性直腸炎、及び直腸又は膣の乾燥を含む。また外科手術での臓器粘膜の乾燥及び損傷も挙げることができる。これらの中で、好ましくは角膜上皮層障害、口腔粘膜上皮層障害及び膀胱粘膜上皮層障害の処置に使用することができる。
【0040】
適用方法と量
本発明の粘膜適用剤は、上に例示された粘膜組織に適用することができ、その適用方法及び適用剤形は、当業者であれば、適用すべき粘膜の位置、形態、性質及び機能、並びに適用の目的に応じて適宜決定することができる。しかし、本発明の粘膜適用剤は、使用に際して溶液のような液剤として粘膜に適用するのが好ましい。その場合、本発明の粘膜適用剤の製造(製剤)又は適用の際に、この液剤は、結合鎖を介して疎水基が導入されたGAGを溶媒に溶解することにより得ることができる。溶媒は、結合鎖を介して疎水基が導入されたGAGを溶解することができ、かつ薬剤学的に許容しうる溶媒である限り、特に限定されない。例えば、リン酸緩衝液のような緩衝液又は生理食塩水を使用することができるが、溶媒はこれらに限定されない。この場合に、液剤中の、結合鎖を介して疎水基が導入されたGAGの濃度は、特に限定されず、適用すべき粘膜の種類及び粘膜障害の程度に応じて適宜決定することができる。本発明の粘膜適用剤が点眼剤である場合、本発明の粘膜適用剤が口腔粘膜又は膀胱粘膜に適用される場合、例えば、濃度は、好ましくは0.02〜5重量%、更に好ましくは0.1〜3重量%、更になお好ましくは0.1〜1重量%、更になお好ましくは0.1〜0.6重量%、極めて好ましくは0.1〜0.5重量%、そして最も好ましくは0.1〜0.3重量%である。
【0041】
本発明の粘膜適用剤を、上述のような液剤として胃の粘膜に適用する場合、経口投与又はカテーテルを用いる投与法を選択することができる。例えば、眼、鼻又は口腔の粘膜に適用する場合、点眼、点鼻又は含嗽のような投与方法を選択することができる。例えば、本発明の粘膜適用剤を膀胱、直腸又は膣の粘膜、あるいは乾燥が外科手術に関係する臓器の粘膜に適用する場合、本発明の粘膜適用剤を、これらの臓器又は組織の内腔又は表面に注入、噴霧又は塗布することにより投与する方法を選択することができるが、これらの方法に限定されない。
【0042】
本発明の粘膜適用剤の適用(投与)の量、回数及び頻度は、特に限定されないが、適用を受ける粘膜、適用の目的、適用される動物の種類、年齢、体重、性別、及び粘膜障害の程度に応じて決定すべきである。
【0043】
具体的には、本発明の粘膜適用剤を、ヒト角膜上皮層障害を処置する目的で使用する場合、上述の濃度の、結合鎖を介して疎水基が導入されたGAGを含む点眼用液体製剤(点眼剤)としての本発明の粘膜適用剤は、1回の投与に1〜3滴、1日に1〜5回点眼することにより投与することができ、1回の投与に1〜3滴、1日に1〜3回点眼することにより投与してもよい。
【0044】
本発明の粘膜適用剤を、ヒト口腔粘膜障害を治療する目的で使用する場合、上述の濃度の、結合鎖を介して疎水基が導入されたGAGを含む液剤としての本発明の粘膜適用剤は、本発明の粘膜適用剤を1日に1〜5回、口腔内に含み、約数十秒間(好ましくは約20〜30秒間)濯ぎ、次にこれを吐き出すことにより投与することができる。
【0045】
本発明の粘膜適用剤を、膀胱粘膜障害に適用する場合、好ましくは、急性細菌性膀胱炎の症状と類似した症状を示すが抗菌剤に反応しない、間質性膀胱炎、好酸球性膀胱炎及び出血性膀胱炎により例示される非細菌性難治性膀胱炎に例示される膀胱粘膜障害の治療に使用される。この場合に、上述の濃度の、結合鎖を介して疎水基が導入されたGAGを含む液剤としての本発明の粘膜適用剤は、1回の投与に50mLの量で1週間に1〜7回、膀胱に本発明の粘膜適用剤を直接投与することにより、又はカテーテルで膀胱に投与することにより、投与することができる。
【0046】
本発明の粘膜適用剤は、本剤に含まれる有効成分が、疎水基が結合していないヒアルロン酸を有効成分として含む従来の薬剤に比較して粘膜における高い滞留性を示すため、患部に長時間留まることができる。したがって、本発明の粘膜適用剤はまた、粘膜の炎症及び損傷のような障害に対して、低い投与頻度であっても、持続的に治療効果を発揮できる。しかし本発明の粘膜適用剤は、その投与頻度により限定されるものではない。
【0047】
以下に本発明を実施例により説明する。
<実施例1>
(1−1) ケイ皮酸誘導体導入ヒアルロン酸ナトリウムの調製
172mg/5mLのN−ヒドロキシコハク酸イミド(HOSu:渡辺化学株式会社)の水溶液、143mg/5mLの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl)(渡辺化学株式会社)の水溶液、及び181mg/5mLのケイ皮酸3−アミノプロピル塩酸塩(東京化成工業株式会社)の水溶液を、水(115mL)/ジオキサン(144mL)中のヒアルロン酸ナトリウム(1.06g、2.7mmol/二糖単位、重量平均分子量900,000;鶏冠由来、生化学工業株式会社)の溶液に加えた。この混合物を3時間撹拌して、750mg/10mLの炭酸水素ナトリウム(日本薬局方)水溶液を加えた。更に2時間30分撹拌後、酢酸(214mg)及び塩化ナトリウム(1.0g)により反応を停止させた。エタノール(300mL)を加え、生じた沈殿物を濾別して、順に80%エタノール、95%エタノールで2回洗浄した。この固体を真空で40℃で一晩乾燥することにより、白色の固体(1.06g)を得た(実施例において以降、「ケイ皮酸誘導体導入ヒアルロン酸ナトリウム」は「ケイ皮酸誘導体導入HA」と略記する)。ケイ皮酸誘導体の導入率は、16%であった。ケイ皮酸誘導体の導入率は、吸光度測定法(波長:269nm)によるケイ皮酸誘導体の量と、カルバゾール硫酸法によるヒアルロン酸の量とに基づいて算出した。
(1−2) ケイ皮酸誘導体導入HA溶液の調製
上記(1−1)で得られたケイ皮酸誘導体導入HA 86mgに生理食塩水を加えることにより、全量15.45mlとし、次に均一に溶解するまで、この溶液を一晩振盪機で振盪した。ケイ皮酸誘導体導入HAの0.5重量%溶液(乾燥減量10%)を得た。同様に、ケイ皮酸誘導体導入HAの0.3重量%及び0.1重量%溶液を得た。
【0048】
<実施例2>
(2−1) ケイ皮酸誘導体導入HAの調製
75mg/5mLのHOSuの水溶液、62mg/5mLのEDCI・HClの注射用水(本明細書では以降WFIと呼ばれる)溶液、及び92mg/5mLのケイ皮酸6−アミノヘキシル塩酸塩(東京化成工業株式会社)のWFI溶液を、WFI(150mL)/ジオキサン(75mL)中のヒアルロン酸ナトリウム(1.0g、2.5mmol/二糖単位、重量平均分子量1,500,000;鶏冠由来、生化学工業株式会社)の溶液に加えた。この混合物を4時間撹拌して、塩化ナトリウム(1.0g)を加えた。エタノール(500mL)を加え、生じた沈殿物を濾別して、順に80%エタノール、エタノールで2回洗浄した。この固体を真空で40℃で乾燥することにより、白色の固体(1.1g)を得た。ケイ皮酸誘導体の導入率は、2.7%であった。
(2−2) 架橋ケイ皮酸誘導体導入HAの調製
上記ケイ皮酸誘導体導入HA(12.5g)をリン酸緩衝化生理食塩水(リン酸濃度:1.5mM、本明細書では以降「PBS」と略記される)に溶解することにより、ケイ皮酸誘導体導入HAの2.5%溶液を調製した(500mL)。このケイ皮酸誘導体導入HAの2.5%溶液を、800W高圧水銀ランプにより照射して、121℃のオートクレーブ中で7.5分間熱処理することにより、架橋ケイ皮酸誘導体導入HAを得た。
更に、上記架橋ケイ皮酸誘導体導入HA 1gを、WFI 11.5mlに溶解することにより、架橋ケイ皮酸誘導体導入HAの0.2重量%溶液を調製した。
【0049】
<実施例3>
(3−1) ケイ皮酸誘導体導入HAの調製
172mg/5mLのHOSuの水溶液、143mg/5mLのEDCI・HClの水溶液、及び181mg/5mLのケイ皮酸3−アミノプロピル塩酸塩(東京化成工業株式会社)の水溶液を、水(150mL)/ジオキサン(75mL)中のヒアルロン酸ナトリウム(1.0g、2.5mmol/二糖単位、重量平均分子量900,000;鶏冠由来、生化学工業株式会社)の溶液に加えた。この混合物を3時間撹拌して、750mg/10mLの炭酸水素ナトリウム(日本薬局方)の水溶液を加えた。更に2時間30分撹拌後、酢酸(214mg)及び塩化ナトリウム(1.0g)で反応を停止させた。エタノール(300mL)を加え、生じた沈殿物を濾別して、順に80%エタノール、95%エタノールで2回洗浄した。この固体を真空で40℃で乾燥することにより、白色の固体(1.0g)をケイ皮酸誘導体導入HAとして得た。ケイ皮酸誘導体の導入率は、10.1%であった。
(3−2) 蛍光色素標識ケイ皮酸誘導体導入HAの調製
3.0mmol/mLのHOSuの水溶液、1.5mmol/mLのEDCI・HClの水溶液及び1.5mmol/mLの4−アミノフルオレセイン(東京化成工業株式会社)の水溶液を、水(150mL)/ジオキサン(75mL)中の上記(3−1)で得られたケイ皮酸誘導体導入HA(1.00g、2.5mmol/二糖単位)の溶液に加えた。この混合物を1日撹拌して、500mg/10mLの炭酸水素ナトリウム(日本薬局方)の水溶液を加えた。更に4時間30分撹拌後、酢酸(2mL)及び塩化ナトリウム(6.0g)で反応を停止させた。エタノール(500mL)を加え、生じた沈殿物を濾別して、80%エタノールにより4回、エタノールにより2回洗浄した。この固体を真空で一晩乾燥することにより、蛍光色素標識固体(782mg)を得た。蛍光の導入率は、0.60%であった。
【0050】
<比較実施例1>
蛍光色素標識HAの調製
3.0mmol/mLのHOSuの水溶液、1.5mmol/mLのEDCI・HClの水溶液及び1.5mmol/mLの4−アミノフルオレセイン(東京化成工業株式会社)の水溶液を、水(150mL)/ジオキサン(75mL)中のヒアルロン酸ナトリウム(1.00g、2.5mmol/二糖単位、重量平均分子量900,000;鶏冠由来、生化学工業株式会社)の溶液に加えた。この混合物を1日撹拌して、500mg/10mLの炭酸水素ナトリウム(日本薬局方)の水溶液を加えた。更に4時間30分撹拌後、酢酸(2mL)及び塩化ナトリウム(6.0g)で反応を停止させた。エタノール(500mL)を加え、生じた沈殿物を濾別して、80%エタノールにより4回、エタノールにより2回洗浄した。この固体を真空で一晩乾燥することにより、蛍光色素標識固体(830mg)を得た。蛍光の導入率は、0.32%であった。
【0051】
<実施例4>
ケイ皮酸誘導体導入HA溶液の紫外線透過率の測定
0.1重量%の上記(1−1)で得られたケイ皮酸誘導体導入HAの水溶液を調製して、分光計(UV−1600、株式会社島津製作所)により紫外線透過率を測定した。
透過率を示すスペクトルを図1に示し、種々の波長での透過率(%)を表1に示した。結果として、100%の透過率は340nm以上の波長で示されたが、約320nm以下の波長での透過率は、20%以下と極めて低いため、この溶液が紫外線の透過を効果的に遮断することが立証された。
図1中、目盛は、横軸が65nm間隔で、そして縦軸が20%間隔で示される。
【表1】


表中、λ及びTは、それぞれ波長及び透過率(%)を表す。
【0052】
<実施例5>
ウサギ角膜上皮の遊走に及ぼすケイ皮酸誘導体導入HAの効果
外科的切除をしたウサギ角膜上皮の遊走に及ぼす、実施例1で調製したケイ皮酸誘導体導入HAの効果(外科的モデル)。
(5−1) 方法
1) 角膜上皮の外科的切除(外科的モデル)
5mg/kgのケタミン及び2mg/kgのキシラジンの静脈内注射、並びに0.4%オキシブプロカイン塩酸塩の局所投与による麻酔後、角膜上皮の中央部を、トレフィン(内径8mm)、23G注射針及びマイクロ剪刀を用いることにより切除した。
2) 局所投与
角膜上皮を剥離して1時間及び4時間後、生理食塩水150μlを対照物質として左眼に投与し、上記実施例(1−2)で調製した0.5重量%のケイ皮酸誘導体導入HA溶液150μlを被験物質として右眼に投与した。剥離の1日及び2日後、3時間間隔で全部で4回、そして剥離の3日後、3時間間隔で、上記と同じ投与を実施した。投与には、1mlの注射シリンジを使用した。上記1)に記載された角膜上皮層障害のモデルウサギ6羽を投与対象として使用した。
3) 角膜上皮欠損部の撮影
ウサギに5mg/kgのケタミン及び2mg/kgのキシラジンの静脈内注射により全身麻酔をかけ、次に角膜上皮消失部位を、PBSに溶解した0.2%フルオレセインナトリウムで染色して、紫外線下で撮影した。撮影は、角膜を剥離して1時間後の被験物質の投与の直前、及び剥離の3日後の最終投与の3時間後に実施した。撮影時、焦点距離は、写真の倍率が一定になるように一定にした。
4) 角膜上皮欠損部の測定
フルオレセインナトリウムで染色した角膜上皮欠損部の面積は、プリントした写真上で画像解析装置を用いて測定した。角膜上皮の剥離を実施してから1時間後の被験物質の投与の直前の剥離部位の面積(剥離面積)から、剥離の3日後の最終投与の3時間後の剥離部位の面積を差し引くことにより得られた値を「治癒面積」とした。
【0053】
(5−2) 試験結果
各個体の治癒面積率の結果は図2に示し、各個体の治癒面積率及び治癒面積率比の結果は表2に示した。治癒面積率及び治癒面積率比は、以下のとおり算出した。
治癒面積率(%)=(治癒面積/剥離面積)×100
治癒面積率比=(右眼の治癒面積率/左眼の治癒面積率)×100
【0054】
【表2】

【0055】
個体番号1〜6の各個体について、左の列は、右眼(ケイ皮酸誘導体導入HA投与)の治癒面積率を示し、そして右の列は、左眼(生理食塩水投与)の治癒面積率を示す。図2及び表2において、角膜上皮層障害の治癒を促進する明らかな効果は、投与6個体のうち5例に観察された。
【0056】
<実施例6>
ウサギ角膜上皮の遊走に及ぼす0.5%ケイ皮酸誘導体導入HAの効果
外科的切除をしたウサギ角膜上皮の遊走に及ぼす、実施例1で調製したケイ皮酸誘導体導入HAの効果(外科的モデル)。
(6−1) 方法
1) 角膜上皮の外科的切除(外科的モデル)
5mg/kgのケタミン及び2mg/kgのキシラジンの静脈内注射、並びに0.4%オキシブプロカイン塩酸塩の局所投与による麻酔後、角膜上皮の中央部を、トレフィン(内径8mm)、23G注射針及びマイクロ剪刀を用いることにより切除した。
2) 局所投与
角膜上皮を剥離して1時間及び4時間後、生理食塩水150μlを対照物質として左眼に投与し、上記実施例(1−2)で調製した0.5重量%のケイ皮酸誘導体導入HA溶液150μlを被験物質として右眼に投与した。剥離の1日及び2日後、3時間間隔で全部で4回、そして剥離の3日後、3時間間隔で、上記と同じ投与を実施した。投与には、1mlの注射シリンジを使用した。上記1)に記載された角膜上皮層障害のモデルウサギ14羽を投与対象として使用した。
3) 角膜上皮欠損部の撮影
ウサギに5mg/kgのケタミン及び2mg/kgのキシラジンの静脈内注射により全身麻酔をかけ、次に角膜上皮消失部位を、PBSに溶解した0.2%フルオレセインナトリウムで染色して、紫外線下で撮影した。撮影は、角膜を剥離して1時間後の被験物質の投与の直前、及び剥離の1〜3日後の2回目投与の3時間後に実施した。撮影時、焦点距離は、写真の倍率が一定になるように一定にした。
4) 角膜上皮欠損部の測定
フルオレセインナトリウムで染色した角膜上皮欠損部の面積は、プリントした写真上で画像解析装置を用いて測定した。角膜上皮を剥離してから1時間後の被験物質の投与の直前の剥離部位の面積(剥離面積)から、剥離の3日後の最終投与の3時間後の剥離部位の面積を差し引くことにより得られた値を「治癒面積」とした。
【0057】
(6−2) 試験結果
各個体の治癒面積の結果は図3に示し、各個体の治癒速度の結果は図4に示した。治癒面積及び治癒速度は、以下のとおり算出した。
治癒面積=剥離後面積*−各時点(1〜3日後)の面積
*本明細書では以降、「剥離後面積」は、治癒面積の算出における「角膜を剥離して1時間後の被験物質の投与の直前」を意味する。
治癒速度=各時点(1〜3日後)の治癒面積の平均値
図3及び4において、角膜上皮の治癒面積は、対照眼の角膜上皮の治癒面積と比較して、0.5重量%ケイ皮酸誘導体導入HA溶液を投与した眼では有意に上昇したことが観察された。また、治癒速度も、0.5重量%ケイ皮酸誘導体導入HA溶液を投与した眼で有意に増大したことが観察された。
【0058】
<実施例7>
ウサギ角膜上皮の遊走に及ぼす0.3%ケイ皮酸誘導体導入HAの効果
外科的切除をしたウサギ角膜上皮の遊走に及ぼす、実施例1で調製したケイ皮酸誘導体導入HAの効果(外科的モデル)。
(7−1) 方法
1) 角膜上皮の外科的切除(外科的モデル)
5mg/kgのケタミン及び2mg/kgのキシラジンの静脈内注射、並びに0.4%オキシブプロカイン塩酸塩の局所投与による麻酔後、角膜上皮の中央部を、トレフィン(内径8mm)、23G注射針及びマイクロ剪刀を用いることにより切除した。
2) 局所投与
角膜上皮を剥離して1時間及び4時間後、生理食塩水150μlを対照物質として左眼に投与し、上記実施例(1−2)で調製した0.3重量%のケイ皮酸誘導体導入HA溶液150μlを被験物質として右眼に投与した。剥離の1日及び2日後、3時間間隔で全部で4回、そして剥離の3日後、3時間間隔で、上記と同じ投与を実施した。投与には、1mlの注射シリンジを使用した。上記1)に記載された角膜上皮層障害のモデルウサギ14羽を投与対象として使用した。
3) 角膜上皮欠損部の撮影
ウサギに5mg/kgのケタミン及び2mg/kgのキシラジンの静脈内注射により全身麻酔をかけ、次に角膜上皮消失部位を、PBSに溶解した0.2%フルオレセインナトリウムで染色して、紫外線下で撮影した。撮影は、角膜を剥離して1時間後の被験物質の投与の直前、及び剥離の1〜3日後の2回目投与の3時間後に実施した。撮影時、焦点距離は、写真の倍率が一定になるように一定にした。
4) 角膜上皮欠損部の測定
フルオレセインナトリウムで染色した角膜上皮欠損部の面積は、プリントした写真上で画像解析装置を用いて測定した。角膜上皮を剥離してから1時間後の被験物質の投与の直前の剥離部位の面積(剥離面積)から、剥離の3日後の最終投与の3時間後の剥離部位の面積を差し引くことにより得られた値を「治癒面積」とした。
【0059】
(7−2) 試験結果
各個体の治癒面積の結果は図5に示し、各個体の治癒速度の結果は図6に示した。治癒面積及び治癒速度は、以下のとおり算出した。
治癒面積=剥離後面積−各時点(1〜3日後)の面積
治癒速度=各時点(1〜3日後)の治癒面積の平均値
図5及び6において、角膜上皮の治癒面積は、対照眼の角膜上皮の治癒面積と比較して、0.3重量%ケイ皮酸誘導体導入HA溶液を投与した眼では1〜3日目の全時点で有意に上昇したことが観察された。また、治癒速度も、0.3重量%ケイ皮酸誘導体導入HA溶液を投与した眼で有意に増大したことが観察された。
【0060】
<実施例8>
ウサギ角膜上皮の遊走に及ぼす0.1%ケイ皮酸誘導体導入HAの効果(0.1重量%のケイ皮酸誘導体導入HA水溶液及び0.1重量%のHA水溶液、1日4回の点眼)
外科的切除をしたウサギ角膜上皮の遊走に及ぼす、実施例1で調製したケイ皮酸誘導体導入HAの効果(外科的モデル)。
(8−1) 方法
1) 角膜上皮の外科的切除(外科的モデル)
5mg/kgのケタミン及び2mg/kgのキシラジンの静脈内注射、並びに0.4%オキシブプロカイン塩酸塩の局所投与による麻酔後、角膜上皮の中央部を、トレフィン(内径8mm)、23G注射針及びマイクロ剪刀を用いることにより切除した。
2) 局所投与
角膜上皮を剥離して1時間及び4時間後、重量平均分子量600,000〜1,200,000のHAの0.1重量%水溶液150μlを対照物質として左眼に投与し、上記実施例(1−2)で調製した0.1重量%のケイ皮酸誘導体導入HA溶液150μlを被験物質として右眼に投与した。剥離の1日及び2日後、3時間間隔で全部で4回、そして剥離の3日後、3時間間隔で、上記と同じ投与を実施した。投与には、1mlの注射シリンジを使用した。上記1)に記載された角膜上皮層障害のモデルウサギ8羽を投与対象として使用した。
3) 角膜上皮欠損部の撮影
ウサギに5mg/kgのケタミン及び2mg/kgのキシラジンの静脈内注射により全身麻酔をかけ、次に角膜上皮消失部位を、PBSに溶解した0.2%フルオレセインナトリウムで染色して、紫外線下で撮影した。撮影は、角膜を剥離して1時間後の被験物質の投与の直前、及び剥離の1〜3日後の2回目投与の3時間後に実施した。撮影時、焦点距離は、写真の倍率が一定になるように一定にした。
4) 角膜上皮欠損部の測定
フルオレセインナトリウムで染色した角膜上皮欠損部の面積は、プリントした写真上で画像解析装置を用いて測定した。角膜上皮を剥離してから1時間後の被験物質の投与の直前の剥離部位の面積(剥離面積)から、剥離の3日後の最終投与の3時間後の剥離部位の面積を差し引くことにより得られた値を「治癒面積」とした。
【0061】
(8−2) 試験結果
各個体の治癒面積の結果は図7に示し、各個体の治癒面積及び治癒速度の結果は図8に示した。治癒面積及び治癒速度は、以下のとおり算出した。
治癒面積=剥離後面積−各時点(1〜3日後)の面積
治癒速度=各時点(1〜3日後)の治癒面積の平均値
図7及び8において、角膜上皮の治癒面積は、0.1重量%のHA水溶液を投与した対照眼の角膜上皮の治癒面積と比較して、0.1重量%ケイ皮酸誘導体導入HA溶液を投与した眼では有意に上昇したことが観察された。また、治癒速度も、0.1重量%ケイ皮酸誘導体導入HA溶液を投与した眼で有意に増大したことが観察された。
【0062】
<実施例9>
ウサギ角膜上皮の遊走に及ぼす0.1%ケイ皮酸誘導体導入HAの効果(0.1重量%のケイ皮酸誘導体導入HA水溶液及び0.1重量%のHA水溶液、1日1回の点眼)
外科的切除をしたウサギ角膜上皮の遊走に及ぼす、実施例1で調製したケイ皮酸誘導体導入HAの効果(外科的モデル)。
(9−1) 方法
1) 角膜上皮の外科的切除(外科的モデル)
5mg/kgのケタミン及び2mg/kgのキシラジンの静脈内注射、並びに0.4%オキシブプロカイン塩酸塩の局所投与による麻酔後、角膜上皮の中央部を、トレフィン(内径8mm)、23G注射針及びマイクロ剪刀を用いることにより切除した。
2) 局所投与
角膜上皮を剥離して1時間後、重量平均分子量600,000〜1,200,000のHAの0.1重量%水溶液150μlを対照物質として左眼に投与し、上記実施例(1−2)で調製した0.1重量%のケイ皮酸誘導体導入HA溶液150μlを被験物質として右眼に投与した。更には、剥離の1〜3日後に1日1回、上記と同じ投与を実施した。投与には、1mlの注射シリンジを使用した。上記1)に記載された角膜上皮層障害のモデルウサギ8羽を投与対象として使用した。
3) 角膜上皮欠損部の撮影
ウサギに5mg/kgのケタミン及び2mg/kgのキシラジンの静脈内注射により全身麻酔をかけ、次に角膜上皮消失部位を、PBSに溶解した0.2%フルオレセインナトリウムで染色して、紫外線下で撮影した。撮影は、角膜を剥離して1時間後の被験物質の投与の直前、及び剥離の1〜3日後の投与の6時間後に実施した。撮影時、焦点距離は、写真の倍率が一定になるように一定にした。
4) 角膜上皮欠損部の測定
フルオレセインナトリウムで染色した角膜上皮欠損部の面積は、プリントした写真上で画像解析装置を用いて測定した。角膜上皮を剥離してから1時間後の被験物質の投与の直前の剥離部位の面積(剥離面積)から、剥離の3日後の最終投与の3時間後の剥離部位の面積を差し引くことにより得られた値を「治癒面積」とした。
【0063】
(9−2) 結果
各個体の治癒面積の結果は図9に示し、各個体の治癒速度の結果は図10に示した。治癒面積及び治癒速度は、以下のとおり算出した。
治癒面積=剥離後面積−各時点(1〜3日後)の面積
治癒速度=各時点(1〜3日後)の治癒面積の平均値
図9及び10において、角膜上皮の治癒面積は、0.1重量%のHA水溶液を投与した対照眼の角膜上皮の治癒面積と比較して、0.1重量%ケイ皮酸誘導体導入HA溶液を投与した眼では1〜3日目の全時点で有意に上昇したことが観察された。また、治癒速度も、0.1重量%ケイ皮酸誘導体導入HA溶液を投与した眼で有意に増大したことが観察された。
【0064】
<実施例10>
蛍光標識ケイ皮酸誘導体導入HAを用いるウサギ角膜上皮剥離部位での残留性
外科的切除をしたウサギ角膜上皮の残留性に及ぼす、実施例3で調製した蛍光標識ケイ皮酸誘導体導入HA及び比較実施例1で調製した蛍光標識HAの効果(外科的モデル)。
(10−1) 方法
1) 角膜上皮の外科的切除(外科的モデル)
5mg/kgのケタミン及び2mg/kgのキシラジンの静脈内注射、並びに0.4%オキシブプロカイン塩酸塩の局所投与による麻酔後、角膜上皮の中央部を、トレフィン(内径8mm)、23G注射針及びマイクロ剪刀を用いることにより切除した。
2) 局所投与
角膜上皮を剥離して1時間後、上記比較実施例1で調製した蛍光標識HAの0.3重量%水溶液150μlを対照物質として左眼に投与し、上記実施例3で調製した蛍光標識ケイ皮酸誘導体導入HAの0.3重量%水溶液150μlを被験物質として右眼に投与した。投与には、1mlの注射シリンジを使用した。上記1)に記載された角膜上皮層障害のモデルウサギ8羽を投与対象として使用した。
3) 角膜上皮の摘出及び凍結ブロックの作成
被験物質及び対照物質の投与の30分後、1時間後、1.5時間後及び2時間30分後に、ウサギ2羽に、ウサギ1羽あたり5mg/kgのケタミン及び2mg/kgのキシラジンの静脈内注射により全身麻酔をかけ、眼球を摘出した。メスを用いて、摘出した眼球の角膜と強膜の間に孔を開け、マイクロ剪刀を用いて角膜だけを摘出した。摘出した角膜を生物試料細切板(日新EM株式会社製、カタログ番号428)に載せて、観察すべき部分を、片刃トリミング用ステンレススチールカミソリ(GEM(登録商標)ステンレス・スチール・アンコーテッド(STAINLESS STEEL UNCOATED)、日新EM株式会社、カタログ番号429)を用いて切り出した。切り出した部分をOCT化合物(ティシュー・テック(Tissue-Tek)(登録商標)4583、ロット1178)中に浸漬し、次に観察すべき部分が底になるように、OCT化合物を充填したクリオスタット・トレー(村角工業株式会社製、カタログ番号31)に包埋し、そして発泡ポリスチレン内で液体窒素を用いて急速凍結して、未固定凍結ブロックを作成した。
4) 凍結切片の作成
次に、凍結ブロックをクリオスタット・トレーから取り外して、OCT化合物を用いて試料台に取り付けた。試料台及びミクロトーム替え刃(ライカマイクロシステムズ株式会社製、モデル818、ロット番号913212)を研究用高性能凍結ミクロトームに据え付け、凍結チャンバー温度(CT)−20℃及び試料側温度(OT)−16℃の条件下でブロックを薄切りにすることにより、シランコーティングスライドガラス(武藤化学薬品株式会社製、スターフロストスライドガラス(Star Frost Slide Glass)、カタログ番号5116)を用いて5μm厚の切片を作成した。
5) 観察及び撮影の方法
凍結切片を落射式蛍光顕微鏡(オリンパス株式会社、BH2−RFC)に据え付けて、FA像及び自己蛍光像を、それぞれIBキューブ(BH2−DMIB、励起波長:495nm、吸収波長:460nm)及びUキューブ(BH2−DMU、広帯域U励起、吸収波長:435nm)で観察した。FA像及び自己蛍光像は、冷却高感度CCDカメラ(株式会社キーエンス、VB−6010)を用いて、露光時間1秒及びISO感度200の条件下で撮影した。
【0065】
(10−2) 試験結果
標本の角膜の写真は、図11及び12に示した。図11及び12から、対照物質である蛍光標識HAの0.3重量%水溶液は、投与の30分後まで残留したが、1時間後には残留していなかったことを、蛍光標識体の発色により確認した。一方、被験物質である、蛍光標識ケイ皮酸誘導体導入HAの0.3重量%水溶液の蛍光発色は、時間経過と共に弱くなったが、投与の30分後〜2時間30分後までの全時点で観察され、これにより高い残留性能が確認された。
【0066】
<実施例11>
紫外線に曝露後のウサギの眼に及ぼす0.3%ケイ皮酸誘導体導入HAの効果
角膜表層の点状角膜症を有するウサギに及ぼす、実施例1で調製したケイ皮酸誘導体導入HAの保護作用
(11−1) 試験手順
1) ウサギの麻酔及び眼の開瞼
ウサギに、5mg/kgのケタミン及び2mg/kgのキシラジンの静脈内注射により麻酔を導入して、イソフルランの吸入により麻酔を維持した。次に、小児用開瞼器を用いて眼瞼を常に開かせた。
2) 被験物質及び対照物質の投与
眼を開かせた状態で、重量平均分子量600,000〜1,200,000のHAの0.3重量%水溶液150μlを対照物質として右眼に投与し、上記実施例(1−2)で調製した0.3重量%のケイ皮酸誘導体導入HA 150μlを被験物質として左眼に投与した。投与には、1mlの注射シリンジを使用した。上記1)に記載されたウサギ1羽を投与対象として使用した。
3) ウサギ角膜への紫外線の照射
紫外線は、ウサギの眼球から約10cm離した距離から、15kWの殺菌灯を用いて両眼に照射した。照射は3時間実施した。
4) 紫外線照射部位の撮影
ウサギの継続麻酔下で眼球を0.2%フルオレセインナトリウムで染色して、紫色灯下で撮影した。撮影時、焦点距離は、写真の倍率が一定になるように一定にした。
【0067】
(11−2) 試験結果
紫外線の照射後の写真は図13に示した。図13から、対照物質の投与後に紫外線を照射した眼球では、0.2%フルオレセインナトリウムで染色された障害部位が明らかだった。一方、被験物質の投与後に紫外線を照射した眼球では、0.2%フルオレセインナトリウムで染色された障害部位は、対照物質のそれよりも明確に小さく、紫外線により引き起こされる角膜障害は防止された。
【0068】
<実施例12>
摘出角膜を用いた保湿効果
ウサギの摘出角膜を用いて、実施例1で調製したケイ皮酸誘導体導入HAの保湿性能を検証した。
(12−1) 方法
1) 角膜の摘出
ウサギを、5mg/kgのケタミン及び2mg/kgのキシラジンの静脈内注射により全身麻酔して、眼球を摘出した。メスを用いて、摘出した眼球の角膜と強膜の間に孔を開け、マイクロ剪刀を用いて角膜だけを摘出した。
2) 角膜の乾燥処理
摘出した角膜を、入れ歯安定剤によりパラフィンブロックに載せ、ドライヤーを用いて5分間、角膜から約1mの距離から冷風を供給することにより、乾燥処理を実施した。
3) 試験物質(被験物質、対照物質及び陰性対照物質)の投与
乾燥処理の終了後、陰性対照物質として生理食塩水を、対照物質として重量平均分子量600,000〜1,200,000のHAの0.3重量%水溶液を、又は被験物質として上記実施例(1−2)で調製したケイ皮酸誘導体導入HAの0.5重量%水溶液を100μlずつ2つの角膜に投与した。投与には、1mlの注射シリンジを使用した。上記1)に記載されたウサギ3羽(角膜6つ)を投与対象として使用した。
4) 水分蒸発量の測定
水分蒸発量は、水分蒸発量測定装置(AS−TW2、アサヒバイオメッド)を使用して、試験物質の投与前、乾燥処理後、試験物質の投与後、及び試験化合物の投与後10分間隔で40分後まで測定した。
【0069】
(12−2) 試験結果
水分蒸発量の測定結果は、図14に示した。図14から、水分蒸発量は、陰性対照の生理食塩水よりも対照物質のHA水溶液でわずかに高かったが、生理食塩水は40分後には0に近い値となった。一方、被験物質の投与後の水分蒸発量は、40分経過後にも高い値を保ったが、これにより、被験物質の明確な保湿性能を確認した。
【0070】
<実施例13>
(13−1) 方法
1) 角膜上皮の摘出
ウサギを安楽死させて、眼球を摘出した後、強膜に沿って切開することにより角膜全層を摘出した。摘出した角膜は、生理食塩水中に保存し、測定の直前に角膜上皮を入れ歯安定剤によりパラフィンブロックに載せることにより固定した(本明細書では以降「被測定角膜」と記述される)。
2) 角膜上皮の水分蒸発
被測定角膜に、ドライヤーにより30cmの距離から5分間冷風を当て、室温で1時間放置した。
3) 被験物質の投与
水分の蒸発後、陰性対照物質として生理食塩水を、対照物質として重量平均分子量600,000〜1,200,000のHAの0.3重量%水溶液を、又は被験物質として上記実施例(1−2)で調製したケイ皮酸誘導体導入HAの0.5重量%水溶液を2滴(約100μl)ずつ1mlシリンジにより投与した。
4) 水分蒸発量の測定
水分蒸発量測定装置(AS−TW2)を使用して、不感知蒸発量として感知される量(1時間1m2あたりの放出水分量)を被測定角膜からの水分蒸発量として直接測定した。
【0071】
(13−2) 試験結果
水分蒸発量の測定結果は、図15に示した。図15から、水分蒸発量は、陰性対照の生理食塩水よりも対照物質のHA水溶液でわずかに高かったが、生理食塩水は40分後には0に近い値を示した。一方、被験物質投与の場合の水分蒸発量は、40分経過後にも高い値を保ったが、これにより、被験物質が、生理食塩水及びHA水溶液と比較して持続性の高い角膜上での保水性を有することを確認した。
【0072】
<実施例14>
架橋ケイ皮酸誘導体導入HAの治癒効果の検証
口腔乾燥症のモデルハムスターを用いて、口腔乾燥症に及ぼす実施例2で調製した架橋ケイ皮酸誘導体導入HAの治癒効果を検証した。
(14−1) 試験方法
1) 口腔乾燥症のモデルハムスターの作成
約10mmの直径の試験管を口腔内の頬側の近くに挿入して、ネンブタールでの麻酔下でこれを裏返すことにより、オスのシリアンハムスターの口腔の内側を露出させた。露出させた口腔の内側にドライヤーを用いて、約20秒間熱風を当て、次に2分40秒間冷風を当てることにより、口腔乾燥症のモデルハムスターを得た。口腔の内側は、測定が終了するまで絶え間なく露出させておいた。
2) 被験物質及び対照物質の投与
口腔乾燥症モデルの作成直後に、(A)PBS、(B)0.2重量%HA溶液(生化学工業株式会社製、重量平均分子量:1,500,000)又は(C)0.2重量%架橋ケイ皮酸誘導体導入HA溶液100μlずつを、マイクロシリンジを使用して口腔の内側に塗布することにより投与した。
本明細書では以降、(A)を投与した群、(B)を投与した群、及び(C)を投与した群は、それぞれPBS群、HA群及び架橋ケイ皮酸誘導体導入HA群と呼ばれる。投与区分(投与群構成)について、PBS群、HA群及び架橋ケイ皮酸誘導体導入HA群のそれぞれにハムスター7匹を使用した。
3) 水分蒸発量比の算出
口腔乾燥症モデルハムスターの口腔の内側の水分蒸発量は、水分蒸発システム(アサヒバイオメッド)を用いて測定して、口腔乾燥症モデルハムスター作成直後の測定値を1としたときの水分蒸発量比を算出した。この水分蒸発量比が大きいほど、保湿状態がより維持されている(口腔乾燥の程度が低い)。測定は、口腔乾燥症モデルハムスター作成直後、投与直後、投与の10分後及び20分後に実施した。
【0073】
(14−2) 試験結果
水分蒸発量の測定結果は、図16に示した。図中、横軸の丸数字1、2、3及び4は、それぞれ、口腔乾燥症モデルハムスター作成直後、投与直後、投与の10分後及び20分後のデータを表す。Pは、有意水準を表す。投与直後、全ての投与群は、3.3〜4.5の水分蒸発量比を示した。投与の10分後の水分蒸発量比は、PBS群で平均0.9、そしてHA群で平均2.3であった。一方、架橋ケイ皮酸誘導体導入HA群では平均3.2であり、PBS群及びHA群よりも高い水分蒸発量比を示した。更に、投与の20分後の水分蒸発量比は、PBS群で平均0.9、そしてHA群で平均1.3であった。一方、架橋ケイ皮酸誘導体導入HA群では平均3.2であり、PBS群及びHA群と比較して極めて高い水分蒸発量比を示した。更には、図16から明らかであるように、架橋ケイ皮酸誘導体導入HA群の水分蒸発量比は、時間の経過にかかわらず非常に安定であった。このことは、架橋ケイ皮酸誘導体導入HAが、投与部位で長時間滞留し、そして持続性の高い効果を発揮することを示した。
上記結果から、ケイ皮酸誘導体導入HA及び架橋ケイ皮酸誘導体導入HAを含む、結合鎖を介して疎水基が導入されたGAGは、粘膜への適用に適しており、そして粘膜に適用されると粘膜上皮層の障害を有効に処置できることが示された。また、処置の効果は、持続性が高いことが示された。
上記動物試験のいずれにおいても、ケイ皮酸誘導体導入HA及び架橋ケイ皮酸誘導体導入HAの投与による有害作用は観察されなかったため、本発明の粘膜適用剤の安全性は、充分に推定することができる。
【0074】
<実施例15>
(15−1) オクチルアミン導入ヒアルロン酸ナトリウムの調製
オクチルアミンの25.8mg/2mL溶液(エタノール:0.1M HCl=1:1)、DMT−MM(和光純薬工業株式会社)の0.1M溶液(エタノール:水=1:1)2mLを、水(50mL)/エタノール(50mL)中のヒアルロン酸ナトリウム(502mg、1.25mmol/二糖単位、重量平均分子量900,000)の溶液に加えた。この混合物を一晩撹拌して、炭酸水素ナトリウム(日本薬局方)の376mg/5mL水溶液を加えた。更に5時間撹拌後、酢酸(107mg)及び塩化ナトリウム(522mg)で反応を停止させた。エタノール(250mL)を加えて、生じた沈殿物を濾別して、順に80%エタノール、エタノールで2回洗浄した。固体を真空で乾燥することにより、白色の固体(475mg)を得た。オクチルアミンの導入率は、HPLCによると12.6%であった。
【0075】
(15−2) ヘキサデシルアミン導入ヒアルロン酸ナトリウムの調製
オクチルアミンの30mg/3mL溶液(エタノール:0.1M HCl=1:1)、DMT−MM(和光純薬工業株式会社)の0.1M溶液(エタノール:水=1:1)1.25mLを、水(50mL)/エタノール(50mL)中のヒアルロン酸ナトリウム(501mg、1.25mmol/二糖単位、重量平均分子量900,000)の溶液に加えた。この混合物を一晩撹拌して、炭酸水素ナトリウム(日本薬局方)の381mg/5mL水溶液を加えた。更に5時間撹拌後、酢酸(107mg)及び塩化ナトリウム(497mg)で反応を停止させた。エタノール(250mL)を加えて、生じた沈殿物を濾別して、順に80%エタノール、エタノールで2回洗浄した。固体を真空で乾燥することにより、白色の固体(497mg)を得た。ヘキサデシルアミンの導入率は、HPLCによると12%であった。
【0076】
(15−3) 試料溶液の調製
上記(15−1)で得られた化合物64mgを5mMリン酸緩衝生理食塩水に加えることにより、全量59mlとし、次にこの溶液を一晩振盪機で振盪した。上記(15−1)で調製した化合物の0.1重量%溶液を得た。
同様に、上記(15−2)で調製した化合物の0.1重量%溶液を得た。
【0077】
<実施例16>
ウサギ角膜上皮の遊走に及ぼす0.1%ケイ皮酸誘導体導入HAの効果
外科的切除をしたウサギ角膜上皮の遊走に及ぼす、実施例1で調製したケイ皮酸誘導体導入HAの効果(外科的モデル)。
(16−1) 方法
1) 角膜上皮の外科的切除(外科的モデル)
5mg/kgのケタミン及び2mg/kgのキシラジンの静脈内注射、並びに0.4%オキシブプロカイン塩酸塩の局所投与による麻酔後、角膜上皮の中央部を、トレフィン(内径8mm)、23G注射針及びマイクロ剪刀を用いることにより切除した。
2) 局所投与
角膜上皮を剥離して1時間及び4時間後、生理食塩水150μlを対照物質として左眼に投与し、上記実施例(1−2)で調製した0.1重量%のケイ皮酸誘導体導入HA溶液150μlを被験物質として右眼に投与した。剥離の1日及び2日後、3時間間隔で全部で4回、そして剥離の3日後、3時間間隔で、上記と同じ投与を実施した。投与には、1mlの注射シリンジを使用した。上記1)に記載された角膜上皮層障害のモデルウサギ14羽を投与対象として使用した。
3) 角膜上皮欠損部の撮影
ウサギに5mg/kgのケタミン及び2mg/kgのキシラジンの静脈内注射により全身麻酔をかけ、次に角膜上皮消失部位を、PBSに溶解した0.2%フルオレセインナトリウムで染色して、紫外線下で撮影した。撮影は、角膜を剥離して1時間後の被験物質の投与の直前、及び剥離の1〜3日後の2回目投与の3時間後に実施した。撮影時、焦点距離は、写真の倍率が一定になるように一定にした。
4) 角膜上皮欠損部の測定
フルオレセインナトリウムで染色した角膜上皮欠損部の面積は、プリントした写真上で画像解析装置を用いて測定した。角膜上皮を剥離してから1時間後の被験物質の投与の直前の剥離部位の面積(剥離面積)から、剥離の3日後の最終投与の3時間後の剥離部位の面積を差し引くことにより得られた値を「治癒面積」とした。
【0078】
(16−2) 試験結果
各個体の治癒面積の結果は図17に示し、各個体の治癒速度の結果は図18に示した。治癒面積及び治癒速度は、以下のとおり算出した。
治癒面積=剥離後面積−各時点(1〜3日後)の面積
治癒速度=各時点(1〜3日後)の治癒面積の平均値
図17及び18において、角膜上皮の治癒面積は、対照眼の角膜上皮の治癒面積と比較して、0.1重量%ケイ皮酸誘導体導入HA溶液を投与した眼では、1〜3日目の全時点で有意に上昇したことが観察された。また、治癒速度も、0.1重量%ケイ皮酸誘導体導入HA溶液を投与した眼で有意に増大したことが観察された。
【0079】
<実施例17>
ウサギ角膜上皮の遊走に及ぼす0.1%オクチルアミン導入HA及びヘキサデシルアミン導入HAの効果
外科的切除をしたウサギ角膜上皮の遊走に及ぼす、実施例15で調製したオクチルアミン導入HA及びヘキサデシルアミン導入HAの効果(外科的モデル)。
(17−1) 方法
1) 角膜上皮の外科的切除(外科的モデル)
5mg/kgのケタミン及び2mg/kgのキシラジンの静脈内注射、並びに0.4%オキシブプロカイン塩酸塩の局所投与による麻酔後、角膜上皮の中央部を、トレフィン(内径8mm)、23G注射針及びマイクロ剪刀を用いることにより切除した。
2) 局所投与
角膜上皮を剥離して1時間及び4時間後、生理食塩水150μlを対照物質として左眼に投与し、上記実施例(15−2)で調製した0.1重量%のオクチルアミン導入HA及びヘキサデシルアミン導入HA溶液150μlを被験物質として右眼に投与した。剥離の1日及び2日後、3時間間隔で全部で4回、そして剥離の3日後、3時間間隔で、上記と同じ投与を実施した。投与には、1mlの注射シリンジを使用した。上記1)に記載された角膜上皮層障害のモデルウサギ8羽を投与対象として使用した。
3) 角膜上皮欠損部の撮影
ウサギに5mg/kgのケタミン及び2mg/kgのキシラジンの静脈内注射により全身麻酔をかけ、次に角膜上皮消失部位を、PBSに溶解した0.2%フルオレセインナトリウムで染色して、紫外線下で撮影した。撮影は、角膜を剥離して1時間後の被験物質の投与の直前、及び剥離の1〜3日後の2回目投与の3時間後に実施した。撮影時、焦点距離は、写真の倍率が一定になるように一定にした。
4) 角膜上皮欠損部の測定
フルオレセインナトリウムで染色した角膜上皮欠損部の面積は、プリントした写真上で画像解析装置を用いて測定した。角膜上皮を剥離してから1時間後の被験物質の投与の直前の剥離部位の面積(剥離面積)から、剥離の3日後の最終投与の3時間後の剥離部位の面積を差し引くことにより得られた値を「治癒面積」とした。
【0080】
(17−2) 試験結果
各個体の治癒面積の結果は図19に示し、各個体の治癒速度の結果は図20に示した。図19において、C8−L(a:対照)、C8−R(b)、C16−L(c:対照)、C16−R(d)は、それぞれ、生理食塩水をC8−Rの対照として投与した左眼、0.1%オクチルアミン導入HA溶液を投与した右眼、生理食塩水をC16−Rの対照として投与した左眼、0.1%ヘキサデシルアミン導入HA溶液を投与した右眼を表す。図20において、C8は、オクチルアミンを用いた上記試験の結果を表し、そしてC16は、ヘキサデシルアミンを用いた上記試験の結果を表す。治癒面積及び治癒速度は、以下のとおり算出した。
治癒面積=剥離後面積−各時点(1〜3日後)の面積
治癒速度=各時点(1〜3日後)の治癒面積の平均値
図19及び20において、角膜上皮の治癒面積は、対照眼の角膜上皮の治癒面積と比較して、0.1重量%オクチルアミン導入HA及びヘキサデシルアミン導入HA溶液を投与した眼では、1〜3日目の全時点で有意に上昇したことが観察された。また、治癒速度も、0.1重量%オクチルアミン導入HA又はヘキサデシルアミン導入HA溶液を投与した眼で有意に増大したことが観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合鎖を介して疎水基が導入されたグリコサミノグリカンを有効成分として含有する、角膜上皮層障害の治療用粘膜適用剤であって、
結合鎖が−CONH−又は−COO−であり;
疎水基が2〜18個の炭素原子を有するアルキル基であり;
グリコサミノグリカンがヒアルロン酸又はその塩である;
角膜上皮層障害の治療用粘膜適用剤。
【請求項2】
結合鎖が、−CONH−である、請求項1記載の粘膜適用剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図11a】
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【図11b】
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【図11c】
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【図11d】
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【図12a】
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【図12b】
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【図12c】
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【図12d】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−211171(P2012−211171A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−144630(P2012−144630)
【出願日】平成24年6月27日(2012.6.27)
【分割の表示】特願2009−186548(P2009−186548)の分割
【原出願日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【出願人】(000195524)生化学工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】