説明

粘膜適用組成物

【課題】本発明の目的は、(A)第四級アンモニウム塩系防腐剤を含有していながら、優れ
た安定性を有しており、使用感が良好で粘膜に適用可能な組成物を提供することである。更に、本発明の目的は、(A)第四級アンモニウム塩系防腐剤を0.02重量%以下の低濃
度で含有していながら、優れた安定性を有しており、使用感が良好で、粘膜の洗浄に好適に使用される粘膜適用組成物を提供することである。
【解決手段】(A)第四級アンモニウム塩系防腐剤、(B)エデト酸及び/又はその塩、並びに(C)ポリソルベートを含有する粘膜適用組成物において、(A)第四級アンモニウム塩系防腐剤1重量部に対して、(C)ポリソルベートが0.5〜110重量部であり、且つ(C)ポリソルベート1重量部に対して、(B)エデト酸及び/又はその塩が0.001〜1.5重量部
となる比率を充足するように設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘膜適用組成物に関する。より詳細には、(A)第四級アンモニウム塩系防腐剤、(B)エデト酸及び/又はその塩、並びに(C)ポリソルベートを特定の比率で含有する粘膜適用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
口腔粘膜、鼻腔粘膜、眼粘膜等の粘膜は、直接外界に露出されており、外界からの刺激に対して敏感に反応する上皮組織であり、花粉、微生物、ハウスダスト等の異物が付着すると、耐え難い不快感を生じたり、アレルギー疾患や感染症等の各種疾患を発症したりすることが知られている。このような粘膜症状を予防乃至改善するには、粘膜用の洗浄液等によって粘膜に付着した異物を除去することが有効であると考えられている。粘膜は、皮膚等の他の上皮組織とは異なり、表皮に覆われていないため、粘膜に適用される製剤には、粘膜細胞に対する影響や、使用感等の官能的側面に配慮して処方することが必要とされている。
【0003】
従来から、塩化ベンザルコニウム等の第四級アンモニウム塩系防腐剤を含有する粘膜適用組成物の処方が種々報告されている(例えば、特許文献1参照)。粘膜適用組成物の処方は、一般に、粘膜を介して薬物を吸収させることを主目的とするものと、粘膜に付着した異物の除去を主目的とするものに大別される。後者の粘膜適用組成物は、とくに鼻うがいといわれる方法に使用されるものである。しかし、塩化ベンザルコニウム等の第四級アンモニウム塩系防腐剤を配合すると、粘膜適用組成物中で析出物が発生し易くなり、しかも使用感についても経時的に劣悪化していくという問題があった。そこで従来、第四級アンモニウム塩系防腐剤を含む粘膜適用組成物は、エアゾール製剤にしたり、不透明容器に充填したりすることにより、析出物の発生を目立たない状態にして使用されていることが多い。また、第四級アンモニウム塩系防腐剤を含む粘膜適用組成物における使用感の劣悪化を補う手段として、粘膜への適用形態としてエアゾールやスプレーによる噴霧適用が採用されていることも多い。しかしながら、これらは、当該粘膜適用組成物自体の安定性や使用感等を根本的に改善するものではなく、満足できるものではなかった。
【0004】
また、粘膜に付着した異物の除去を主目的とする粘膜適用組成物では、一般に有効成分は低濃度に設定されている。このように有効成分が低濃度(例えば、0.02重量%以下程度)に設定されている粘膜適用組成物は、40℃以上の温度条件下では、より不安定となり析出物を発生し易くなる傾向があることが知られている。実際に、第四級アンモニウム塩系防腐剤を低濃度で含む粘膜適用組成物では、40℃以上の温度条件下で、析出物が発生し易くなる傾向があり、使用感が損なわれ易いことが分かっている。粘膜適用組成物の製造段階、市場流通段階、及び消費者による保管時に、上記温度条件に晒されることがあるため、第四級アンモニウム塩系防腐剤を低濃度で含む粘膜適用組成物については、高い安定性を備えていることが強く求められる。
【0005】
このような従来技術を背景として、塩化ベンザルコニウム等の第四級アンモニウム塩系防腐剤を含みながら、安定性に優れており、使用感が良好である粘膜適用組成物の開発が切望されていた。特に、塩化ベンザルコニウム等の第四級アンモニウム塩系防腐剤を0.02重量%以下程度で含有していながら、優れた安定性を備えている粘膜適用組成物の開発が求められていた。
【特許文献1】特開平11−92368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の課題を解決することである。詳細には、本発明は、(A)第四級アンモニウム塩系防腐剤を含有していながら、優れた安定性を有しており、使用
感が良好で粘膜に適用可能な組成物を提供することを目的とする。特に、本発明は、(A)
第四級アンモニウム塩系防腐剤を0.02重量%以下の低濃度で含有していながら、優れた安定性を有しており、使用感が良好で、粘膜の洗浄に好適に使用される粘膜適用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、(A)第四級アンモニウム
塩系防腐剤を含有する粘膜適用組成物において、(B)エデト酸及び/又はその塩、並びに(C)ポリソルベートを特定の比率を充足するように配合することによって、優れた安定性を有し、刺激性がなく良好な使用感を備え得ることを見出した。更に、上記の各含有成分が特定の比率を充足することにより、第四級アンモニウム塩系防腐剤が0.02重量%以下の範囲においても、優れた安定性を備え、実用可能な粘膜適用組成物を提供できることを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、完成したものである。
【0008】
即ち、本発明は、下記に掲げる発明を提供する:
項1. (A)第四級アンモニウム塩系防腐剤、(B)エデト酸及び/又はその塩、並びに(C)
ポリソルベートを含有する粘膜適用組成物であって、(A)第四級アンモニウム塩系防腐剤
1重量部に対して、(C)ポリソルベートが0.5〜110重量部であり、且つ(C)ポリソルベート1重量部に対して、(B)エデト酸及び/又はその塩が0.001〜1.5重量部で
あることを特徴とする粘膜適用組成物。
項2. (A)第四級アンモニウム塩系防腐剤1重量部に対して、(C)ポリソルベートが1〜60重量部であり、且つ(C)ポリソルベート1重量部に対して、(B)エデト酸及び/又はその塩が0.002〜0.08重量部である、項1記載の粘膜適用組成物。
項3. 粘膜適用組成物中に、(A)第四級アンモニウム塩系防腐剤を0.0001〜0.
02重量%含有する、項1又は2に記載の粘膜適用組成物。
項4. (A)第四級アンモニウム塩系防腐剤が、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニ
ウム及び塩化デカリニウムよりなる群から選択される少なくとも1種である、項1乃至3のいずれかに記載の粘膜適用組成物。
項5. (B)エデト酸及び/又はその塩が、エデト酸2ナトリウムである、項1乃至4の
いずれかに記載の粘膜適用組成物。
項6. (C)ポリソルベートが、ポリソルベート80である、項1乃至5のいずれかに記
載の粘膜適用組成物。
項7. 更に、多価アルコール、等張化剤および香料からなる群より選択される1種以上を含有する、項1乃至6のいずれかに記載の粘膜適用組成物。
項8. 鼻腔粘膜適用組成物である、項1乃至7のいずれかに記載の粘膜適用組成物。
項9. 項1乃至8のいずれかに記載の粘膜適用組成物が透明容器に充填されてなることを特徴とする粘膜適用剤製品。
項10. 前記透明容器が、ポリエチレンテレフタレート又はガラスから構成されていることを特徴とする、項9記載の粘膜適用剤製品。
【0009】
以下、本発明について、詳述する。
【0010】
本発明の粘膜適用組成物は、(A)第四級アンモニウム塩系防腐剤(以下、単に(A)成分と表記することもある)を含有する。本発明において、第四級アンモニウム塩系防腐剤とは、防腐及び/又は殺菌作用を有する第四級アンモニウム塩であり、公知の防腐及び/又は殺菌成分である。第四級アンモニウム塩系防腐剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化デカリニウム、塩化セチルピリジニウム、塩化ジステ
アリルジメチルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ラウリルピリジニウムなどが例示される。これらの中でも、危険性が低く無臭で有るうえに抗菌スペクトルが広く、安全性および有効性に優れる点から、好ましくは、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化デカリニウムであり、更に好ましくは塩化ベンザルコニウムである。当該(A)成分は、1種単独で使用してもよ
く、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0011】
また、本発明の粘膜適用組成物は、(B)エデト酸及び/又はその塩(以下、単に(B)成分と表記することもある)を含有する。エデト酸とは、別名エチレンジアミン四酢酸とも称されており、公知の化合物である。本発明の粘膜適用組成物において、(B)成分として使
用されるエデト酸の塩としては、例えば、2ナトリウム塩、2ナトリウムカルシウム塩、4ナトリウム塩等が挙げられる。これらのエデト酸の塩は、二水物や四水物等の水和物であってもよい。これらの中でも、安全性に優れ、水に対する溶解度が高いためポリソルベート等の他成分に作用しやすい点から、好ましくは、エデト酸の2ナトリウム塩であり、更に好ましくはエデト酸の2ナトリウム塩である。当該(B)成分は、1種を単独で使用し
てもよく、2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0012】
更に、本発明の粘膜適用組成物は、(C)ポリソルベート(以下、単に(C)成分と表記することもある)を含有する。ポリソルベートとは、ソルビタン脂肪酸エステルにエチレンオキシド20モルを付加させた親水性の非イオン界面活性剤である。本発明に使用されるポリソルベートとして、具体的には、ポリソルベート80(ポリオキシエチレンソルビタンオレエート)、ポリソルベート65(ポリオキシエチレンソルビタントリステアレート)、ポリソルベート60(ポリオキシエチレンソルビタンステアレート)、ポリソルベート40(ポリオキシエチレンソルビタンパルミテート)、ポリソルベート20(ポリオキシエチレンソルビタンラウレート)、ポリソルベート85(ポリオキシエチレンソルビタントリオレエート)等が例示される。これらの中でも、粘膜適用組成物の安定性、とくに(A)第四級アンモニウム塩系防腐剤の溶解性を一層向上させるという点から、好ましくはポ
リソルベート80、ポリソルベート60であり、更に好ましくはポリソルベート80である。当該(C)成分は、1種を単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用し
てもよい。
【0013】
本発明の粘膜適用組成物の安定性をより向上させ、粘膜適用時に感じる刺激性をより一層低減させて使用感をも良好にするという観点から、上記(A)〜(C)成分の組み合わせ態様として、塩化ベンザルコニウム、エデト酸の2ナトリウム塩、及びポリソルベート80の組み合わせが好適に例示される。
【0014】
本発明の粘膜適用組成物において、前記(A)成分1重量部に対する(C)成分の配合比率は、0.5〜110重量部であり、好ましくは0.7〜100重量部であり、より好ましくは1〜60重量部である。当該配合比率が0.5重量部未満または110重量部を超えると、低温下および高温下での安定性が低下し、析出物が発生したり、不快な臭いがする。
【0015】
また、本発明の粘膜適用組成物において、前記(C)成分1重量部に対する(B)成分の配合比率は、0.001〜1.5重量部であり、好ましくは0.002〜1.0重量部であり、より好ましくは0.002〜0.08重量部である。当該配合比率が0.001重量部未満であると、高温下での安定性が低下し、また、1.5重量部を超えると、低温下および高温下での安定性が低下する。安定性が低下すると、析出物が発生したり、不快な臭いがする。
【0016】
上記の比率を具備するように(A)、(B)及び(C)成分を含有することにより、優れた安定
性を獲得し、刺激性がなく良好な使用感を得ることができる。
【0017】
本発明の粘膜適用組成物において、前記(A)成分の濃度としては、前記(A)〜(C)成分の
配合比率、(A)成分の種類等に応じて異なるが、該組成物当たり、通常0.01×10
〜0.1重量%、好ましくは0.01×10−1〜0.05重量%、更に好ましくは0.02×10−1〜0.02重量%である。このような範囲内で、(A)成分を含有するこ
とにより、防腐乃至殺菌作用を有効に発揮させることができる。
【0018】
また、前記(B)及び(C)成分の濃度については、前述する(A)〜(C)成分の配合比率を充足する範囲内で設定される限り特に制限されないが、これらの成分の配合量の一例として、粘膜適用組成物当たり、通常(B)成分が0.01×10−4〜1.8重量%且つ(C)成分が0.05×10−2〜2.2重量%;好ましくは(B)成分が0.02×10−4〜1.2
重量%且つ(C)成分が0.07×10−2〜2重量%;更に好ましくは(B)成分が0.02×10−4〜0.1重量%且つ(C)成分が0.01×10−1〜1.2重量%が例示され
る。
【0019】
(A)成分を0.02重量%以下で含有する組成物では、従来、40℃以上の温度条件で
は析出物の発生が顕著になり、特に安定性が損なわれ易くなるという問題点があったが、(A)、(B)及び(C)成分が上記の比率を満たすことにより、低濃度で(A)成分を含有していながらも、優れた安定性を備えることができる。従って、低濃度で(A)成分を含有する組成
物における長年の問題点を解決するという観点から、本発明の粘膜適用組成物の好適な一実施態様として、(A)成分が0.02重量%以下の低濃度であることが挙げられる。低濃
度で(A)成分を含有する場合として、より具体的には、粘膜適用組成物当たり、(A)成分が、0.01×10−2〜0.02重量%、好ましくは0.01×10−1〜0.01重量%、更に好ましくは0.02×10−1〜0.05×10−1重量%となる濃度が例示される。このような濃度で(A)成分を使用する粘膜適用組成物は、粘膜の洗浄等を目的とす
る場合に特に好適である。
【0020】
また、(A)成分を0.02重量%以下で含有する場合において、前記(B)及び(C)成分の
濃度については、前述する(A)〜(C)成分の配合比率を充足する範囲内で適宜設定されるが、これらの成分の濃度として、粘膜適用組成物当たり、(B)成分が0.01×10−4
0.1重量%且つ(C)成分が0.05×10−2〜1.2重量%;好ましくは(B)成分が0.02×10−4〜0.05重量%且つ(C)成分が0.07×10−2〜0.12重量%
;更に好ましくは(B)成分が0.02×10−4〜0.25×10−1重量%且つ(C)成分が0.01×10−1〜0.06重量%が挙げられる。
【0021】
本発明の粘膜適用組成物には、上記(A)〜(C)成分に加えて、使用感を向上させるために、多価アルコール、等張化剤、及び香料の中の1種又は2種以上を組み合わせて配合しておくことが望ましい。特に、その使用感を、長期保存や温度変化等に影響されず安定で、しかも良好なものにするには、上記(A)〜(C)成分と共に、多価アルコール、等張化剤、及び香料の3種全てを組み合わせて含有することが望ましい。
【0022】
ここで、多価アルコールとしては、例えば、グリセリン(濃グリセリンを含む)、プロピレングリコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ソルビトール、マンニトール、キシリトール等が挙げられる。これらの多価アルコールは1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの多価アルコール中で、粘膜適用組成物の等張化に加え、味および香りの点で優れることから、好ましくはグリセリンである。多価アルコールを配合する場合、その配合割合としては、例えば0.0125〜3重量%、好ましくは0.05〜2.5重量%、更に好ましくは0.2〜2重量%が挙げられる。
【0023】
等張化剤としては、具体的には、塩化ナトリウム、塩化カリウム、ホウ酸、ホウ砂等が挙げられる。これらの中で、好ましくは塩化ナトリウム、塩化カリウムが挙げられる。これらの等張化剤は、1種のみを使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。等張化剤を配合する場合、その配合割合は、他の成分の配合量等に応じて適宜設定されるが、通常0.15重量%〜1.5重量%、好ましくは0.3〜1.2重量%、更に好ましくは0.45〜0.9重量%となる割合が挙げられる。
【0024】
前記多価アルコールおよび等張化剤を組み合わせて使用し、前記範囲の配合量とすることで、特に優れた使用感の粘膜適用組成物とすることができる。
【0025】
香料としては、粘膜適用組成物の安定性に影響を及ぼさない限りとくに制限されず、天然香料、合成香料及び調合香料等を広く使用することができる。特に、本発明の粘膜適用組成物に優れた使用感を付与するという観点からは、ペパーミント香料、ペパーミント油、l-メントール等の香料が好適に使用される。本発明の粘膜適用組成物において、香料は、1種のみを単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて調香して使用してもよい。香料を配合する場合、その配合割合は、使用する香料の種類等に応じて適宜設定されるが、通常0.0001〜2重量%以下、好ましくは0.001〜1重量%以下、更に好ましくは0.01〜0.5重量%以下となる割合が挙げられる。
【0026】
本発明の粘膜適用組成物において、上記(A)〜(B)成分と共に、グリセリン、塩化ナトリウム、及びペパーミント香料を組み合わせて含有させることにより、特に良好な使用感を付与することができる。また、かかる態様の粘膜適用組成物によれば、長期保存又は環境的影響によっても、その良好な使用感が損なわれることなく安定に保持されので、粘膜適用組成物の形態及び使用感の双方の点で優れた安定性を備えることができる。
【0027】
本発明の粘膜適用組成物には、上記成分の他に、消炎剤、殺菌剤、抗菌剤、収斂剤、充血除去剤、抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤、ビタミン類、アミノ酸類等の薬理成分や、溶解剤、増粘剤、界面活性剤、pH調整剤、酸化防止剤、着色剤、防腐剤、緩衝剤、安定化剤等の添加剤を適当量含んでいても良い。
【0028】
本発明の粘膜適用組成物は、液状であり、滅菌水、蒸留水、精製水、海洋深層水等に上記配合成分を所定量添加して溶解させ、必要に応じて滅菌処理に供することにより製することができる。
【0029】
本発明の粘膜適用組成物において、適用対象となる粘膜については、特に制限されず、鼻腔粘膜、眼粘膜、口腔粘膜、咽頭部粘膜、膣粘膜、直腸粘膜等のあらゆる粘膜に適用される。中でも、特に鼻腔粘膜に適用される組成物として有用である。特に、本発明の粘膜適用組成物は、(A)〜(C)成分を低濃度(即ち、(A)成分が0.02重量%以下)で含有す
る場合には、粘膜用洗浄液、特に鼻腔粘膜用の洗浄液として有用である。
【0030】
本発明の粘膜適用組成物は、光が透過可能な透明容器に充填できる。従来、析出物が発生し易い粘膜適用組成物は、内容物を目視にて確認できない容器に充填されることが一般的であった。従来は、このような容器を使用することによって、析出物の発生が認識されて使用者に不快な心理的影響を与えるのを回避していた。これに対して、本発明の粘膜適用組成物は、透明容器に充填するのに適している。即ち、本発明の粘膜適用組成物を透明容器に充填した粘膜適用剤製品は、長期間保存しても、析出物が発生することなく安定であるので、容器内の粘膜適用組成物の性状を目視できるようにしても、使用者に不快な心理的影響を与える等の不都合はない。更に、当該粘膜適用剤製品は、使用者にとっては、容器内部の残存量を容易に確認可能になるという利点があり、その実用的価値が高められ
ている。
【0031】
本発明の粘膜適用組成物を充填する容器は、ガラス製、ポリエチレンテレフタレート製、ポリエチレン製、ポリプロピレン製等のいずれであってもよいが、特にガラス製又はポリエチレンテレフタレート製に充填することにより、本発明の粘膜適用組成物は、経時的安定性や温度変化に対する安定性をより有効に発揮することができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明の粘膜適用組成物は、(A)第四級アンモニウム塩系防腐剤を含有していながら、
透明容器内で経時的安定性や温度変化に対する安定性等に優れ、しかも粘膜に適用した際の使用感が良好である。
【0033】
また、従来、第四級アンモニウム塩系防腐剤を0.02重量%以下で含有する組成物では、40℃以上の温度条件では不安定になるため、製造時における滅菌処理、市場における流通段階での保管、使用者による保管等によって、上記温度条件下に晒されると、析出物の発生が顕著になるという問題点があった。これに対して、本発明の粘膜適用組成物では、第四級アンモニウム塩系防腐剤を0.02重量%以下で含有していながらも、優れた安定性を備えおり、その有用性は極めて高いといえる。
【0034】
また、本発明の粘膜適用組成物を透明容器に充填した粘膜適用剤製品は、内部の残存量を容易に確認できるという利点だけでなく、長期保存をしても、また温度変化等の環境的影響を受けても安定であるという有利な効果があり、その実用的価値は非常に高い。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
試験例1 安定性の評価
表1−3に示す組成の粘膜適用組成物(実施例1−14及び比較例1−9)を調製した。調製したそれぞれの粘膜適用組成物をガラス瓶(ガラス製容器)に充填し、下記の条件1又は2の環境下で保存を行った。
条件1:40℃で3週間静置する。
条件2:−20℃から5℃まで毎時12.5℃の速度で昇温し、次いで5℃の状態を10時間保つ。その後再び5℃から−20℃まで毎時12.5℃の速度で降温し、次いで−20℃の状態を10時間保つ。この操作を1サイクルとして、合計10サイクル行う。
【0036】
保存後のガラス瓶内の粘膜適用組成物の性状を室温(20℃)で目視にて評価すると共に、PARTICLE MEASURING SYSTEMS製の「製薬用液中パーティクルカウンター APSS−200」を用いて、粘膜適用組成物1mL当たりに存在する直径30μm以上の粒子(析出物)の数を計測した。なお、粘膜適用組成物の性状は、下記
の基準に従って評価した。
<目視評価基準>
○:目視にて析出物の存在が確認されない
×:目視にて析出物の存在が確認された。
【0037】
得られた結果を表1−3に併せて示す。この結果から、本発明で規定する配合比を満たしている粘膜適用組成物(実施例1−14)は、40℃で3週間保存しても、また過酷な温度変化環境下で保存しても、析出物の発生は認められず、該組成物が安定に保持されていることが確認された。これに対して、本発明で規定する配合比を満たしていない粘膜適用組成物(比較例1−9)では、いずれも安定性が悪く、析出物の発生が顕著に認められた。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
【表3】

【0041】
試験例2 使用感の評価
上記試験例1で使用した粘膜適用組成物(実施例3−7及び比較例3−7)の使用感(刺激性)について評価を行った。具体的には、6名の健常成人をパネラーとして、試験例1に示す条件1での保存後の粘膜適用組成物の約10mlを、室温(20℃)に戻してから鼻道に流入し、使用感(刺激)を下記基準に従って評点化した。
<使用感の判定基準>
5点:刺激を感じない
4点:刺激があまり感じない
3点:どちらともいえない
2点:刺激をやや感じる
1点:刺激を感じる。
【0042】
6名のパネラーにより評点化した結果を下記のように集計した。
◎:6名の評点の合計が24〜30点
○:6名の評点の合計が19〜23点
△:6名の評点の合計が13〜18点
×:6名の評点の合計が12点以下。
【0043】
得られた結果を表4に示す。この結果から、比較例3−7の粘膜適用組成物では、条件1での保存により使用感が劣悪化することが明らかとなった。これに対して、実施例3−7の粘膜適用組成物は、刺激は殆ど感知されず、使用感の点でも優れていることが確認された。この良好な使用感は、40℃で3週間保存しても損なわれることなく安定に保持されていることも確認された。
【0044】
【表4】

【0045】
試験例3
上記表4に示す実施例3−7及び比較例3−7の粘膜適用組成物を透明ガラス製容器又は透明ポリエチレンテレフタレート(透明PET)製容器に充填し、これを試験例1に示す
条件1で保存し、保存後の各々の粘膜適用組成物の香りについて評価を行った。香りの評価は次のようにして実施した。即ち、6名の健常成人をパネラーとして、保存後の粘膜適用組成物の約10mlを、室温(20℃)に戻してから鼻道に流入し、使用感(香り)を下記基準に従って評点化した。
<使用感の判定基準>
5点:香りが良い
4点:香りがやや良い
3点:どちらともいえない
2点:香りがやや悪い
1点:香りが悪い
6名のパネラーにより評点化した結果を下記のように集計した。
◎:6名の評点の合計が24〜30点
○:6名の評点の合計が19〜23点
△:6名の評点の合計が13〜18点
×:6名の評点の合計が12点以下。
【0046】
得られた結果を表5に示す。この結果から、比較例3−7の粘膜適用組成物では、ガラス製容器又はポリエチレンテレフタレート製容器に充填した場合、条件1での保存により使用感が劣悪化することが明らかとなった。これに対して、実施例3−7の粘膜適用組成物をガラス製容器又はポリエチレンテレフタレート製容器に充填することによって、使用感が損なわれることなく安定に、該粘膜適用組成物が保持できることが確認された。
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)第四級アンモニウム塩系防腐剤、(B)エデト酸及び/又はその塩、並びに(C)ポリソルベートを含有する粘膜適用組成物における析出物を抑制する方法であって、
粘膜適用組成物において、(A)第四級アンモニウム塩系防腐剤1重量部に対して、(C)ポリソルベートを0.5〜110重量部、且つ(C)ポリソルベート1重量部に対して、(B)エデト酸及び/又はその塩を0.001〜1.5重量部とし、且つ
粘膜適用組成物を、ポリエチレンテレフタレート又はガラスから構成されている透明容器に充填することを特徴とする方法。
【請求項2】
粘膜適用組成物において、(A)第四級アンモニウム塩系防腐剤1重量部に対して、(C)ポリソルベートを1〜60重量部、且つ(C)ポリソルベート1重量部に対して、(B)エデト酸及び/又はその塩を0.002〜0.08重量部とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
粘膜適用組成物において、(A)第四級アンモニウム塩系防腐剤を0.0001〜0.02重量%含有させる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
(A)第四級アンモニウム塩系防腐剤が、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム及び塩化デカリニウムよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1乃至3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
(B)エデト酸及び/又はその塩が、エデト酸2ナトリウムである、請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
(C)ポリソルベートが、ポリソルベート80である、請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
粘膜適用組成物において、更に、多価アルコール、等張化剤および香料からなる群より選択される1種以上を含有させる、請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
粘膜適用組成物が、鼻腔粘膜適用剤製品である、請求項1乃至7のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2012−214506(P2012−214506A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−176033(P2012−176033)
【出願日】平成24年8月8日(2012.8.8)
【分割の表示】特願2005−289100(P2005−289100)の分割
【原出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000186588)小林製薬株式会社 (518)
【Fターム(参考)】