説明

粘膜障害の処置のための方法および組成物

【課題】特定のプロスタグランジン化合物を用いる粘膜障害の処置のための方法および組成物を提供する。
【解決手段】プロスタグランジン化合物は、タイトジャンクションの立体構造変化を誘導し、その結果、粘膜バリア機能が回復する。したがって、本発明にて用いられるプロスタグランジン化合物は粘膜障害の処置に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘膜障害の処置のための方法および組成物に関する。
【0002】
特に、本発明は、哺乳類対象における粘膜バリア機能の低下に関連する症状の処置のための方法および組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
上皮組織は、2つの液体区画の間のバリアとして作用し、上皮のバリア機能は、上皮細胞およびそれらを連結するタイトジャンクション((密着結合)以下、TJと称する) によって提供される。TJは、細胞-細胞結合複合体のもっとも頂端の成分であり、組織内の細胞の極性の確立および維持において重要な役割を果たしており、高分子に対する選択的バリアとして機能し、頂端と側底膜領域の間の脂質およびタンパク質の拡散を妨げる。TJはまた、上皮シートを通る分子の傍細胞運動を制御する可変性のバリアを作り、それによって組織恒常性が維持される。粘膜上皮のTJは動的構造であり、上皮組織再構築、創傷修復、炎症および腫瘍への形質転換の際に調節される。異常なTJ機能と上皮腫瘍発達との関連が、上皮癌のTJ構造の変化を示す以前の研究によって示唆されている。
【0004】
粘膜TJ機能の低下または欠損と多数の癌との間の重要な関係についての多くの報告が存在する。
【0005】
胃癌の進行において役割を果たしているピロリ菌(Helicobacter pylori)が、上皮バリア機能を破壊するということが報告されている(Infection and Immunity 66(6): 2943-2950、1998 およびScience 300: 1430-1434、2003)。タイトジャンクションタンパク質の下方制御が、進行した胃癌に共通してみられることも報告されている (Oncology Reports 13: 193-199、2005)。
【0006】
結腸上皮のTJ 透過性の上昇およびその結果としての上皮バリア機能の低下が、結腸癌の発達に先行するということが報告されている(Carcinogenesis 20(8): 1425-1431、1999) 。
【0007】
TJ 機能の変化が、膀胱の炎症性疾患および移行細胞癌の両方の発達に重要であり得るということが報告されている(International Journal of Molecular Medicine 16:3-9、2005)。
【0008】
TJ 機能およびTJ 分子発現の欠損がヒト乳癌において観察されるということが報告されている(American Journal of Pathology 153(6):1767-1773、1998 およびJournal of Mammary Gland Biology and Neoplasia 8(4): 449-462、2003)。
【0009】
タイトジャンクションの欠損は、ヒト子宮内膜癌の進行における構造的非定型性およびその悪性度と密接な関係を有するということが報告されている (Human Pathology 35(2)、159-164: 2004)。
【0010】
上皮腫瘍形成に寄与すると考えられているTJの破壊が、卵巣癌細胞において観察されたということが報告されている(The Journal of Biological Chemistry 280(28): 26233-26240、2005)。
【0011】
TJの変化が甲状腺の膨大細胞腫においてみられたということが報告されている(Ultrastructural Pathology 22(6): 413-420、1998)。
【0012】
肝細胞癌においてタイトジャンクションの組織崩壊がみられ、かかる構造的異常は透過性バリアを変化させ得、細胞間情報伝達を制限し得、それが腫瘍細胞の増殖性挙動に寄与している可能性があるということが報告されている(J. Submicrosc. Cytol. 15(3); 799-810、1983)。
【0013】
バレット食道 (BE)は胃食道逆流症 (GERD)のもっとも深刻な組織学的結果であり、GERD患者の5-10%において発症する。バレット食道は前癌性状態であると認識されており、バレット食道患者の腺癌の発生率は全集団のものよりもかなり高い。
【0014】
傍細胞バリアはバレット食道の上皮において顕著に異なっており、正常の食道と比較してバレット食道の上皮のバリア特性は劇的に機能的に相違しているということが報告されている(American Journal of Gastroenterology 98(8): 1901-1903、2003)。
【0015】
逆流性食道炎 (GERD)におけるTJ タンパク質の変化は、食道上皮の透過性をおそらく上昇させており、それによってこの上皮の防御機構を妨害するということが報告されている(Journal of Gastroenterology 40、781-790、2005)。
【0016】
腸のバリア機能は、潜在的に有害な管腔成分、例えば、細菌および関連毒素が、上皮を横切って移動し、全身組織に接近可能となることを妨げる腸粘膜の能力をいう。腸のバリア機能の崩壊は、虚血傷害、ショック、ストレス、感染症、および炎症性腸疾患(IBD)を含む様々な病状に起因しうる。
【0017】
炎症性腸疾患(IBD)は原因不明の慢性の再発性腸炎症と定義され、その2つの主な形態はクローン病および潰瘍性大腸炎である。両疾患は、胃腸 (GI) 管抗原に対する制御を失った免疫応答、粘膜バリア機能の欠陥、および/または、持続性腸感染、コラーゲン疾患、放射線療法、経口投与薬物療法等に対する有害な炎症反応のいずれかを伴うようである。
【0018】
クローン病は胃腸壁の肥厚領域により特徴づけられ、全層に広がる炎症、粘膜の深部の潰瘍形成および亀裂ならびに肉芽腫の存在を伴う。回腸末端がしばしば罹患するが罹患領域は胃腸管のいずれの部分にも起こり得、それらは比較的正常な組織の領域の中に分散しうる。潰瘍性大腸炎においては、疾患は結腸および直腸にも存在する。炎症は表層性であるが、罹患領域上に連続しており、肉芽腫は稀である。
【0019】
多くの重篤の患者は、不良な内臓灌流によって惹起される多臓器不全を患うことを示す証拠も増えつつある。多臓器不全は集中治療室の患者における主な死因である。
【0020】
これらの胃腸粘膜障害は治療が一般に困難であり、場合によっては、外科的処置が適用される。これらの障害のための現在利用可能な薬物療法としては、ステロイド、サラゾピリン(一般名は、サリチルアゾスルファピリジン)、免疫抑制剤等が挙げられる。 しかし、ステロイド系薬剤は長期間にわたって高用量投与すると副作用を示し、免疫抑制剤は非常に有害な副作用のために注意深く使用しなければならない。したがって、難治性胃腸粘膜障害の処置に有効であって、長期間にわたって安全に利用できる医薬の開発が望まれている。
【0021】
プロスタグランジン類(以後プロスタグランジンはPGとして示す)はヒトまたは他の哺乳類の組織または器官に含有され、広範囲の生理学的活性を示す有機カルボン酸の1群である。天然に存在するPG類(天然PG類)は一般的に、式(A)に示すプロスタン酸骨格を有する。
【0022】
【化1】

【0023】
PG類は5員環の構造および置換基にしたがって以下のようないくつかのタイプに分類される:
プロスタグランジンA類(PGA類);
【0024】
【化2】

【0025】
プロスタグランジンB類 (PGB類);
【0026】
【化3】

【0027】
プロスタグランジンC類 (PGC類);
【0028】
【化4】

【0029】
プロスタグランジンD類 (PGD類);
【0030】
【化5】

【0031】
プロスタグランジンE類 (PGE類);
【0032】
【化6】

【0033】
プロスタグランジンF類 (PGF類);
【0034】
【化7】

【0035】

等である。さらにそれらは、13,14-二重結合を含むPG1類、5,6-および13,14-二重結合を含むPG2類、および、5,6-、13,14-および17,18-二重結合を含むPG3類に分類される。PG類は様々な薬理学的および生理学的活性を有していることが知られており、例えば、血管拡張、炎症誘導、血小板凝集、子宮筋刺激、腸管運動亢進性、および抗潰瘍活性などが挙げられる。ヒトの胃腸 (GI)系において産生される主なプロスタグランジンはE、IおよびF類のものである(Sellin、Gastrointestinal and Liver Disease: Pathophysiology、Diagnosis、and Management. (WB Saunders Company、1998); Robert、Physiology of the Gastrointestinal Tract 1407-1434 (Raven、1981); Rampton、Prostagrandins: Biology and Chemistry of Prostagrandins and Related Eicosanoids 323-344 (Churchill Livingstone、1988); Hawkey、et al.、Gastroenterology、89: 1162-1188 (1985); Eberhart、et al.、Gastroenterology、109: 285-301 (1995))。
【0036】
通常の生理条件下では、内因的に産生されるプロスタグランジン類は、GI 機能の維持において主要な役割を果たしており、例えば、腸運動および輸送の制御、ならびに便の堅さの制御が挙げられる(Sellin、Gastrointestinal and Liver Disease: Pathophysiology、Diagnosis、and Management. (WB Saunders Company、1998); Robert、Physiology of the Gastrointestinal Tract 1407-1434 (Raven、1981);Rampton、Prostagrandins: Biology and Chemistry of Prostagrandins and Related Eicosanoids 323-344 (Churchill Livingstone、1988); Hawkey、et al.、Gastroenterology、89: 1162-1188 (1985); Eberhart、et al.、Gastroenterology、109: 285-301 (1995); Robert、Adv Prostagrandin Thromboxane Res、2:507-520 (1976); Main、et al.、Postgrad Med J、64 Suppl 1: 3-6 (1988); Sanders、Am J Physiol、247: G117 (1984); Pairet、et al.、Am J Physiol.、250 (3 pt 1): G302-G308 (1986); Gaginella、Textbook of Secretory Diarrhea 15-30 (Raven Press、1990))。薬理用量にて投与されると、PGE2およびPGFの両方が、腸の輸送を刺激し、下痢を引き起こすことが示された(Robert、Physiology of the Gastrointestinal Tract 1407-1434 (Raven、1981); Rampton、Prostagrandins: Biology and Chemistry of Prostagrandins and Related Eicosanoids 323-344 (Churchill Livingstone、1988); Robert、Adv Prostagrandin Thromboxane Res、2:507-520 (1976))。さらに、消化管潰瘍疾患の処置のために開発されたPGE1 アナログであるミソプロストールのもっとも一般的に報告されている副作用は下痢である(Monk、et al.、Drugs 33 (1): 1-30 (1997))。
【0037】
PGEまたはPGFは腸の収縮を刺激しうるが、エンテロプーリング効果には乏しい。
【0038】
したがって、PGE類またはPGF類を下剤として用いるのは腹痛を起こす腸の収縮などの副作用のために実用的でない。
【0039】
多数の機構、例えば、腸管神経応答の調節、平滑筋収縮の変化、粘膜分泌の刺激、細胞のイオン分泌の刺激 (特に、起電性 CI- 輸送)および腸の液体容積の増加などがプロスタグランジン類のGI効果に寄与することが報告されている (Robert、Physiology of the Gastrointestinal Tract 1407-1434 (Raven、1981); Rampton、Prostagrandins: Biology and Chemistry of Prostagrandins and Related Eicosanoids 323-344 (Churchill Livingstone、1988); Hawkey、et al.、Gastroenterology、89: 1162-1188 (1985); Eberhart、et al.、Gastroenterology、109: 285-301 (1995); Robert、Adv Prostagrandin Thromboxane Res、2:507-520 (1976); Main、et al.、Postgrad Med J、64 Suppl 1: 3-6 (1988); Sanders、Am J Physiol、247: G117 (1984); Pairet、et al.、Am J Physiol、250 (3 pt 1): G302-G308 (1986); Gaginella、Textbook of Secretory Diarrhea 15-30 (Raven Press、1990); Federal Register Vol. 50、No. 10 (GPO,1985); Pierce、et al.、Gastroenterology 60 (1): 22-32 (1971); Beubler、et al.、Gastroenterology、90: 1972 (1986); Clarke、et al.、Am J Physiol 259: G62 (1990); Hunt、et al.、J Vet Pharmacol Ther、8 (2): 165-173 (1985); Dajani、et al.、Eur J Pharmacol、34(1): 105-113 (1975); Sellin、Gastrointestinal and Liver Disease: Pathophysiology、Diagnosis、and Management 1451-1471 (WB Saunders Company、1998))。プロスタグランジン類は細胞保護効果も更に有することが示されている(Sellin、Gastrointestinal and Liver Disease: Pathophysiology、Diagnosis、and Management. (WB Saunders Company、1998); Robert、Physiology of the Gastrointestinal Tract 1407-1434 (Raven、1981); Robert、Adv Prostagrandin Thromboxane Res 2:507-520 (1976); Wallace、et al.、Aiiment Pharmacol Ther 9: 227-235 (1995))。
【0040】
米国特許第5225439、5166174、5284858、5428062、5380709、5876034および6265440号には、特定のプロスタグランジンE化合物が、潰瘍、例えば、十二指腸潰瘍および胃潰瘍の処置に有効であることが記載されている。
【0041】
上野らの米国特許第5317032号には、二環式互変異性体の存在を含むプロスタグランジン化合物の下剤が記載されており、上野の米国特許第6414016号には、該二環式互変異性体が抗便秘薬として顕著な活性を有することが記載されている。1以上のハロゲン原子によって置換されている二環式互変異性体は、低用量にて便秘の軽減に用いることが出来る。C−16位に、特にフッ素原子を有するものは、低用量で便秘の軽減に用いることが出来る。
【0042】
上野らの米国特許出願公開第2003/0130352および2003/0166632号には、クロライドチャンネル、特にClC チャンネル、特にClC-2チャンネルをオープンし、活性化するプロスタグランジン化合物が記載されている。
【0043】
上野らの米国特許出願公開第2003/0119898号には、便秘の処置および予防のためのハロゲン化プロスタグランジン化合物の特定の組成物が記載されている。
【0044】
本発明者らは、ブタの腸虚血のインビトロモデルにおいて、腸のバリア機能の修復は、シクロオキシゲナーゼ-依存経路を介するプロスタグランジン (PG) 産生および活性化されたCl 分泌を伴う機構に媒介されることを以前に示した(Am J Physiol、276: G28-36、1999 およびAm J Physiol Gastrointest Liver Physiol、284:G46-56、2003)。
【0045】
本発明者らはまた、PGE2およびPGI2が、腸のバリア機能の修復において相乗的役割を有し、それぞれ単独での添加では効果は低減することも以前に示した (J. Clin. Invest. 1997. 100(8):1928-1933)。
【0046】
さらに、PGE1に刺激されるCl分泌は腸のバリア機能の修復を低下させることが示されている(J. Clin. Invest. 76:1828-1836,1985)。
【0047】
さらなる研究において、デオキシ-PGE1およびスルプロストンはバリア機能に対して効果がないのに対し、ミソプロストールはバリア機能に対して効果を有することが示された (Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol. 281:G375-81、2001)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0048】
本発明の目的は、哺乳類対象における粘膜障害の処置のための方法および組成物を提供することである。本発明のさらなる目的は、哺乳類対象における粘膜の保護のための方法および組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0049】
従来技術に反して、本発明者らは特定のプロスタグランジン化合物がTJの立体構造変化に対して有意な効果を有し、その結果粘膜バリア機能の回復をもたらすことを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0050】
即ち、本発明は、下記一般式 (I)で示される有効量のプロスタグランジンを必要とする対象に投与することを含む、哺乳類対象における粘膜障害の処置方法に関する:
【0051】
【化8】

【0052】

[式中、
L、MおよびNは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ(低級)アルキル、低級アルカノイルオキシまたはオキソ; ここで、LおよびMの少なくとも一方は水素以外の基であり、5員環は少なくとも1つの二重結合を有していてもよい;
Aは、−CH3、−CHOH、−COCHOH、−COOH またはそれらの官能性誘導体;
Bは、単結合、−CH−CH−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH−CH−CH−、−CH=CH−CH−、−CH−CH=CH−、−C≡C−CH−または−CH−C≡C−;
Zは、
【0053】
【化9】

【0054】

または単結合、
ここでRおよびRは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシまたはヒドロキシ(低級)アルキル、ただしRおよびRが同時にヒドロキシおよび低級アルコキシであることはない;
は、非置換またはハロゲン、アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基で置換された、飽和または不飽和の二価の低〜中級脂肪族炭化水素であり、脂肪族炭化水素における少なくとも1つの炭素原子は酸素、窒素または硫黄で置換されていてもよい;および、
は、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基で置換された飽和または不飽和の低〜中級脂肪族炭化水素残基; 低級アルコキシ; 低級アルカノイルオキシ; シクロ(低級)アルキル; シクロ(低級)アルキルオキシ; アリール; アリールオキシ; 複素環基; 複素環オキシ基;
ただし、Rはハロゲンで置換されているか、または、ZはC=Oである]。
【0055】
特に、本発明は、有効量の式 (I)のプロスタグランジン化合物を必要とする対象に投与することを含む、哺乳類対象における低下した粘膜バリア機能に関連する症状を処置する方法に関する。
【0056】
本発明はまた、有効量の特定のプロスタグランジン化合物を保護を必要とする対象に投与することを含む、哺乳類対象における粘膜を保護する方法にも関する。
【0057】
本発明のさらに別の側面において、有効量の式 (I)のプロスタグランジン化合物を含む、哺乳類対象における粘膜障害の処置のための組成物を提供する。本発明の組成物は上記の本発明の方法に有用であり得る。
【0058】
本発明のさらなる側面において、哺乳類対象における粘膜障害の処置用医薬組成物の製造のための式 (I)のプロスタグランジン化合物の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、虚血損傷ブタ回腸における化合物A (13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-PGE1)に応答しての経上皮電気抵抗 (TER) を示すグラフである。値は平均 ± SEを表す; n=6。インドメタシン (5×10-6 M) 含有リンゲル液に浸した虚血組織は、30分の平衡期間の後に添加した化合物A (0.1μM および1 μM 用量) の存在下で経上皮電気抵抗 (TER)の顕著な上昇を示した。
【図2A】図2Aは、短絡回路電流に対する化合物Aの効果を示すグラフである。
【図2B】図2Bは、虚血損傷ブタ回腸における化合物Aに応答しての短絡回路電流の変化(ΔIsc)を示すグラフ である。両方の図において、値は平均 ±SEを表す; n=6。虚血組織をインドメタシン (5×10-6 M) 含有リンゲル液に浸した。短絡回路電流 (Isc)および短絡回路電流の絶対的相違(ΔIsc)によって示される有意な (P < 0.05)Cl 分泌の上昇は、上昇用量の化合物Aによる処理に応答して観察された(*P < 0.05)。
【図3】図3は、粘膜から漿膜への3H-マンニトール流に対する化合物Aの効果を示すグラフである。値は平均 ± SEを表し、n=4である。虚血組織をインドメタシン (5×10-6 M) 含有リンゲル液に浸した。腸虚血に供したブタ回腸は非虚血対照と比較して3H-マンニトールの粘膜から漿膜への流れの上昇を示した。1μMの化合物Aの適用は、非虚血対照レベルへと3H-マンニトールの粘膜から漿膜への流れを低下させた。 *P < 0.05。
【図4】図4は、虚血損傷ブタ上行結腸における化合物Aでの処理に応答しての短絡回路電流の変化を示すグラフである。
【図5】図5は、虚血損傷ブタ上行結腸における化合物Aによる処理に応答しての経上皮電気抵抗 (TER)を示すグラフである。
【図6】図6は、虚血損傷ブタ上行結腸における化合物Aによる処理に応答しての漿膜から粘膜への 3H-マンニトール流を示すグラフである。
【0060】
発明の詳細な説明
本発明のプロスタグランジン化合物の命名に際しては、前記式(A)に示したプロスタン酸骨格の番号を用いる。
【0061】
前記式(A)はC−20の基本骨格のものであるが、本発明では炭素数がこれによって限定されるものではない。即ち、式(A)においてPG化合物の基本骨格を構成する炭素の番号はカルボン酸を1とし5員環に向かって順に2〜7までをα鎖上の炭素に、8〜12までを5員環の炭素に、13〜20までをω鎖上に付しているが、炭素数がα鎖上で減少する場合、2位から順次番号を抹消して命名する。炭素数がα鎖上で増加する場合、カルボキシル基(C−1)の代わりに2位において対応する置換基を有する置換化合物として命名する。同様に炭素数がω鎖上で減少する場合、20位から順次番号を抹消して命名する。また、炭素数がω鎖上で増加する場合、21番目以後の炭素原子は置換基として命名する。また、立体配置に関しては、特に断りのない限り、上記基本骨格(A)の有する立体配置に従うものとする。
【0062】
例えばPGD、PGE、PGFは、9位および/または11位に水酸基を有するPG化合物をいうが、本発明では、9位および/または11位の水酸基に代えて他の基を有するものも包含する。これらの化合物を命名する場合、9−デヒドロキシ−9−置換−PG化合物あるいは11−デヒドロキシ−11−置換−PG化合物の形で命名する。なお、水酸基の代わりに水素を有するPG化合物は、単に9−あるいは11−デオキシ−PG化合物と称する。
【0063】
前述のように、PG化合物の命名はプロスタン酸骨格に基づいて行うが、上記化合物がプロスタグランジンと類似の部分構造を有する場合には、簡略化のため「PG」の略名を利用することがある。この場合、α鎖の骨格炭素数が2個延長されたPG化合物、すなわちα鎖の骨格炭素数が9であるPG化合物は、2−デカルボキシ−2−(2−カルボキシエチル)−PG化合物と命名する。同様に、α鎖の骨格炭素数が11であるPG化合物は、2−デカルボキシ−2−(4−カルボキシブチル)−PG化合物と命名する。また、ω鎖の骨格炭素数が2個延長されたPG化合物、すなわちω鎖の骨格炭素数が10であるPG化合物は、20−エチル−PG化合物と命名する。なお、命名はこれをIUPAC命名法に基づいて行うことも可能である。
【0064】
アナログ(置換誘導体を含む)または誘導体の例は、上記PG類のα鎖末端のカルボキシル基がエステル化された化合物、α鎖が延長された化合物、それらの生理学的に許容し得る塩、2−3位の炭素結合が2重結合あるいは5−6位の炭素結合が3重結合を有する化合物、3位、5位、6位、16位、17位、18位、19位および/または20位の炭素に置換基を有する化合物、9位および/または11位の水酸基の代りに低級アルキル基またはヒドロキシ(低級)アルキル基を有する化合物等である。
【0065】
本発明において3位、17位、18位および/または19位の好適な置換基としては、例えば炭素数1〜4のアルキル基が挙げられ、特にメチル基、エチル基が挙げられる。16位の好適な置換基としては、メチル、エチル等の低級アルキル、ヒドロキシ、塩素、フッ素等のハロゲン原子、およびトリフルオロメチルフェノキシ等のアリールオキシが挙げられる。17位の好適な置換基としては、メチル、エチル等の低級アルキル、ヒドロキシ、塩素、フッ素等のハロゲン原子、およびトリフルオロメチルフェノキシ等のアリールオキシが挙げられる。20位の好適な置換基としては、C1−4アルキルのような飽和または不飽和の低級アルキル基、C1−4アルコキシのような低級アルコキシ基、C1−4アルコキシ−C1−4アルキルのような低級アルコキシアルキルを含む。5位の好適な置換基としては、塩素、フッ素などのハロゲン原子を含む。6位の好適な置換基としては、カルボニル基を形成するオキソ基を含む。9位および/または11位にヒドロキシ基、低級アルキルまたはヒドロキシ(低級)アルキル置換基を有する場合のPG類の立体配置はα,βまたはそれらの混合物であってもかまわない。
【0066】
さらに、上記アナログまたは誘導体は、ω鎖が天然のPG類より短い化合物のω鎖末端にアルコキシ基、シクロアルキル基、シクロアルキルオキシ基、フェノキシ基、フェニル基等の置換基を有する化合物であってもよい。
【0067】
本発明に用いられる特定のプロスタグランジン化合物は式 (I)で表される:
【0068】
【化10】

【0069】
[式中、L、M、N、A、B、Z、RおよびRaは上記と同じ意味である]。
【0070】
本発明に用いられる好ましい化合物は式 (II)で表される:
【0071】
【化11】

【0072】

[式中、
LおよびMは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、ヒドロキシ(低級)アルキル、低級アルカノイルオキシまたはオキソ、ここで、LおよびMの少なくとも一方は水素以外の基であり、5員環は少なくとも1つの二重結合を有していてもよい;
Aは、−CH3、−CHOH、−COCHOH、−COOH またはそれらの官能性誘導体;
Bは、単結合、−CH−CH−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH−CH−CH−、−CH=CH−CH−、−CH−CH=CH−、−C≡C−CH−または−CH−C≡C−;
Zは、
【0073】
【化12】

【0074】

または単結合、
ここで、RおよびRは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシまたはヒドロキシ(低級)アルキルであり、RおよびRが同時にヒドロキシおよび低級アルコキシであることはない;
およびXは、水素、低級アルキル、またはハロゲン;
は、非置換またはハロゲン、アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基で置換された飽和または不飽和の二価の低〜中級脂肪族炭化水素であり、脂肪族炭化水素における少なくとも1つの炭素原子は、酸素、窒素または硫黄によって置換されていてもよい;
は、単結合または低級アルキレン;および、
は、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基;
ただし、XおよびXの一方はハロゲンで置換されているか、または、ZはC=Oである]。
【0075】
上記式中、RおよびRaの定義における「不飽和」の語は、主鎖および/または側鎖の炭素原子間の結合として、1つまたはそれ以上の二重結合および/または三重結合を孤立、分離または連続して含むことを意味する。通常の命名法に従って、連続する2つの位置間の不飽和結合は若い方の位置番号を表示することにより示し、連続しない2つの位置間の不飽和結合は両方の位置番号を表示して示す。
【0076】
「低〜中級脂肪族炭化水素」の語は、炭素原子数1〜14の直鎖または分枝鎖(ただし、側鎖は炭素原子数1〜3のものが好ましい)を有する炭化水素基を意味し、好ましくは炭素原子数1〜10、特に1〜8の炭化水素基である。
【0077】
「ハロゲン」の語は、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素を包含する。
【0078】
「低級」の語は、特にことわりのない限り炭素原子数1〜6を有する基を包含するものである。
【0079】
「低級アルキル」の語は、炭素原子数1〜6の直鎖または分枝状の飽和炭化水素基を意味し、例えばメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、t−ブチル、ペンチルおよびヘキシルを含む。
【0080】
「低級アルキレン」の語は、炭素原子数1〜6の直鎖または分枝状の二価飽和炭化水素基を意味し、例えばメチレン、エチレン、プロピレン、イソプロピレン、ブチレン、イソブチレン、t−ブチレン、ペンチレンおよびヘキシレンを含む。
【0081】
「低級アルコキシ」の語は、低級アルキルが上述と同意義である低級アルキル−O−基を意味する。
【0082】
「ヒドロキシ(低級)アルキル」の語は、少なくとも1つのヒドロキシ基で置換された上記のような低級アルキルを意味し、例えばヒドロキシメチル、1−ヒドロキシエチル、2−ヒドロキシエチルおよび1−メチル−1−ヒドロキシエチルが挙げられる。
【0083】
「低級アルカノイルオキシ」の語は、式RCO−O−(ここで、RCO−は上記のような低級アルキル基が酸化されて生じるアシル基、例えばアセチル)で示される基を意味する。
【0084】
「シクロ(低級)アルキル」の語は、炭素原子3個以上を含む上記のような低級アルキル基が閉環して生ずる環状基を意味し、例えばシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルを含む。
【0085】
「シクロ(低級)アルキルオキシ」の語は、シクロ(低級)アルキルが上述と同意義であるシクロ(低級)アルキル−O−基を意味する。
【0086】
「アリール」の語は、非置換または置換の芳香族炭化水素環基を包含し、(好ましくは単環式基の)、例えばフェニル、トリル、キシリルが例示される。置換基としては、ハロゲン原子、ハロ(低級)アルキル(ここで、ハロゲン原子および低級アルキルは前記の意味)が含まれる。
【0087】
「アリールオキシ」の語は、式ArO−(ここで、Arは上記のようなアリール)で示される基を意味する。
【0088】
「複素環基」の語としては、置換されていてもよい炭素原子および、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選ばれる1種または2種のヘテロ原子を1〜4個、好ましくは1〜3個含む、5〜14員環、好ましくは5〜10員環の、単環式〜3環式、好ましくは単環式の複素環基が含まれる。複素環基としては、フリル基、チエニル基、ピロリル基、オキサゾリル基、イソキサゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、フラザニル基、ピラニル基、ピリジル基、ピリダジニル基、ピリミジル基、ピラジニル基、2−ピロリニル基、ピロリジニル基、2−イミダゾリニル基、イミダゾリジニル基、2−ピラゾリニル基、ピラゾリジニル基、ピペリジノ基、ピペラジニル基、モルホリノ基、インドリル基、ベンゾチエニル基、キノリル基、イソキノリル基、プリニル基、キナゾリニル基、カルバゾリル基、アクリジニル基、フェナントリジニル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズイミダゾリニル基、ベンゾチアゾリル基、フェノチアジニル基などが例示される。置換基としてはハロゲン、ハロゲン置換低級アルキル基(ここで、ハロゲンおよび低級アルキル基は前記の意味)が例示される。
【0089】
「複素環オキシ基」の語は、式HcO−(ここでHcは上記のような複素環基)で示される基を意味する。
【0090】
Aの「官能性誘導体」の語は、塩(好ましくは、医薬上許容し得る塩)、エーテル、エステルおよびアミド類を含む。
【0091】
適当な「医薬上許容し得る塩」としては、慣用される非毒性塩を含み、無機塩基との塩、例えばアルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩等)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩、マグネシウム塩等)、アンモニウム塩;または有機塩基との塩、例えばアミン塩(例えばメチルアミン塩、ジメチルアミン塩、シクロヘキシルアミン塩、ベンジルアミン塩、ピペリジン塩、エチレンジアミン塩、エタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、トリエタノールアミン塩、トリス(ヒドロキシメチルアミノ)エタン塩、モノメチル−モノエタノールアミン塩、プロカイン塩、カフェイン塩等)、塩基性アミノ酸塩(例えばアルギニン塩、リジン塩等)、テトラアルキルアンモニウム塩等が挙げられる。これらの塩類は、例えば対応する酸および塩基から常套の反応によってまたは塩交換によって製造し得る。
【0092】
エーテルの例としてはアルキルエーテル、例えば、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、イソブチルエーテル、t−ブチルエーテル、ペンチルエーテル、1−シクロプロピルエチルエーテル等の低級アルキルエーテル;オクチルエーテル、ジエチルヘキシルエーテル、ラウリルエーテル、セチルエーテル等の中級または高級アルキルエーテル;オレイルエーテル、リノレニルエーテル等の不飽和エーテル;ビニルエーテル、アリルエーテル等の低級アルケニルエーテル;エチニルエーテル、プロピニルエーテル等の低級アルキニルエーテル;ヒドロキシエチルエーテル、ヒドロキシイソプロピルエーテル等のヒドロキシ(低級)アルキルエーテル;メトキシメチルエーテル、1−メトキシエチルエーテル等の低級アルコキシ(低級)アルキルエーテル;例えばフェニルエーテル、トシルエーテル、t−ブチルフェニルエーテル、サリチルエーテル、3,4−ジメトキシフェニルエーテル、ベンズアミドフェニルエーテル等の所望により置換されたアリールエーテル;およびベンジルエーテル、トリチルエーテル、ベンズヒドリルエーテル等のアリール(低級)アルキルエーテルが挙げられる。
【0093】
エステルとしては、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、イソブチルエステル、t−ブチルエステル、ペンチルエステル、1−シクロプロピルエチルエステル等の低級アルキルエステル;ビニルエステル、アリルエステル等の低級アルケニルエステル;エチニルエステル、プロピニルエステル等の低級アルキニルエステル;ヒドロキシエチルエステル等のヒドロキシ(低級)アルキルエステル;メトキシメチルエステル、1−メトキシエチルエステル等の低級アルコキシ(低級)アルキルエステルのような脂肪族エステル;および例えばフェニルエステル、トリルエステル、t−ブチルフェニルエステル、サリチルエステル、3,4−ジメトキシフェニルエステル、ベンズアミドフェニルエステル等の所望により置換されたアリールエステル;ベンジルエステル、トリチルエステル、ベンズヒドリルエステル等のアリール(低級)アルキルエステルが挙げられる。
【0094】
Aのアミドは、式−CONR’R''(式中、R’およびR''はそれぞれ水素、低級アルキル、アリール、アルキル−またはアリール−スルホニル、低級アルケニルおよび低級アルキニル)で示される基を意味し、例えばメチルアミド、エチルアミド、ジメチルアミド、ジエチルアミド等の低級アルキルアミド;アニリド、トルイジド等のアリールアミド;メチルスルホニルアミド、エチルスルホニルアミド、トリルスルホニルアミド等のアルキル-またはアリール-スルホニルアミドが挙げられる。
【0095】
好ましいLおよびMの例は、水素、ヒドロキシ、オキソを含み、特にMがヒドロキシでLがオキソであるいわゆるPGEタイプと称される5員環構造を有するものを含む。
【0096】
好ましいAは、−COOH、その医薬上許容し得る塩、エステルまたはアミドである。
【0097】
好ましいXおよびXの例は、両方がハロゲンであり、より好ましくは両方がフッ素であり、いわゆる16,16−ジフルオロタイプと称される構造を提供するものである。
【0098】
好ましいRは、炭素原子数1〜10であり、好ましくは炭素原子数6〜10の炭化水素残基である。脂肪族炭化水素における少なくとも1の炭素原子は酸素、窒素または硫黄で置換されていてもよい。
【0099】
の具体例としては、例えば、次のものが挙げられる。
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH=CH−、
−CH−C≡C−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−O−CH−、
−CH−CH=CH−CH−O−CH−、
−CH−C≡C−CH−O−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH=CH−、
−CH−C≡C−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH(CH)−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH(CH)−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH=CH−CH−CH−CH−CH−CH−、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH=CH−、
−CH−C≡C−CH−CH−CH−CH−CH−、および、
−CH−CH−CH−CH−CH−CH−CH(CH)−CH−。
【0100】
好ましいRaは、1−10の炭素原子、より好ましくは1−8の炭素原子を有する炭化水素である。Raは1の炭素原子を有する1または2の側鎖を有していてもよい。
【0101】
最も好ましい態様において、プロスタグランジン化合物は、13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-プロスタグランジンE1または13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-18-メチル-プロスタグランジンE1である。
【0102】
上記式(I)および(II)において、環およびα−および/またはω−鎖の配置は、天然PG類の配置と同じであっても異なっていてもよい。しかしながら、本発明は、天然タイプの配置を有する化合物と非天然タイプの配置を有する化合物の混合物も包含する。
【0103】
本発明において、13と14位がジヒドロであり、15位がケト(=O)であるPG化合物は、11位のヒドロキシと15位のケト間のへミアセタール形成により、ケト−ヘミアセタール平衡を生ずる場合がある。
【0104】
例えば、XおよびXの両方がハロゲン原子、特にフッ素原子の場合、化合物は互変異性体、二環式化合物を含むことが確認されている。
【0105】
このような互変異性体が存在する場合、両異性体の存在比率は他の部分の構造または置換基の種類により変動し、場合によっては一方の異性体が圧倒的に存在することもあるが、本発明においてはこれら両者を含むものとする。
【0106】
さらに、本発明に用いられる15-ケト-PG 化合物は、二環式化合物およびそのアナログまたは誘導体を含む。
【0107】
二環式化合物は式 (III)で表される:
【0108】
【化13】

【0109】

[式中、
Aは、−CH3、−CHOH、−COCHOH、−COOH またはそれらの官能性誘導体;
’およびX’は、水素、低級アルキル、またはハロゲン;
Yは、
【0110】
【化14】

【0111】

ここでR’およびR’は、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシまたはヒドロキシ(低級)アルキルであり、R’およびR’は同時にヒドロキシおよび低級アルコキシであることはない;
は、非置換またはハロゲン、アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基で置換された飽和または不飽和の二価の低〜中級脂肪族炭化水素であり、脂肪族炭化水素における少なくとも1つの炭素原子は、酸素、窒素または硫黄によって置換されていてもよい;および、
'は、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基で置換された飽和または不飽和の低〜中級脂肪族炭化水素残基; 低級アルコキシ; 低級アルカノイルオキシ; シクロ(低級)アルキル; シクロ(低級)アルキルオキシ; アリール; アリールオキシ; 複素環基; 複素環オキシ基;および、
'は、水素、低級アルキル、シクロ(低級)アルキル、アリールまたは複素環基]。
【0112】
本発明に用いられる化合物は、異性体の存在の有無にかかわりなくケト型の構造式または命名法によって化合物を表わすことがあるが、これは便宜上のものであってヘミアセタール型の化合物を排除しようとするものではない。
【0113】
本発明において、いずれの異性体、例えば、個々の互変異性体、その混合物、または光学異性体、その混合物、ラセミ混合物、およびその他の立体異性体も同じ目的に用いることが出来る。
【0114】
本発明に用いられる化合物のいくつかは、米国特許第5073569、5166174、5221763、5212324、5739161および6242485号に開示の方法によって調製することが出来る(これら引用文献は引用によりその内容を本明細書に含める)。
【0115】
本発明によると、哺乳類対象における粘膜障害は、対象に上記のプロスタグランジン化合物を投与することによって処置することが出来る。対象はヒトを含むいずれの哺乳類対象であってもよい。化合物は全身的または局所的に適用しうる。通常、化合物は、経口投与、静脈内注射 (注入を含む)、皮下注射、直腸内投与、膣内投与、経皮投与等によって投与しうる。
【0116】
投与量は動物の種類、年令、体重、処置されるべき症状、所望の治療効果、投与経路、処置期間等により変化する。1日1〜4分割用量で全身投与または連続投与する場合、1日当たり0.001〜1000μg/kg体重、より好ましくは0.01〜100μg/kg体重の活性成分の投与量で満足な効果が得られる。
【0117】
プロスタグランジン化合物は好ましくは、常套的に投与に好適な医薬組成物に製剤するとよい。組成物は、経口投与、注射または灌流に好適なものであってもよいし、外用剤、坐薬または膣坐薬であってもよい。
【0118】
本発明の組成物は生理学的に許容される添加剤をさらに含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、賦形剤、希釈剤、増量剤、溶剤、滑沢剤、補助剤、結合剤、崩壊剤、被覆剤、カプセル化剤、軟膏基剤、坐薬基剤、エアロゾル化剤、乳化剤、分散剤、懸濁剤、増粘剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤、保存剤、抗酸化剤、矯味剤、芳香剤、着色剤、機能性素材(例えばシクロデキストリン、生体内分解高分子など)、安定剤が挙げられる。これらの添加剤は当該技術分野で周知であり、製剤学に関する一般書籍に記載されているものから適宜選択すればよい。
【0119】
本発明の組成物における上記プロスタグランジン化合物の量は組成物の剤形に応じて変動し得、一般的には、0.000001−10.0%、より好ましくは0.00001−5.0%、最も好ましくは0.0001−1%でありうる。
【0120】
経口投与のための固体組成物の例としては、錠剤、トローチ剤、舌下錠、カプセル、丸剤、散剤、顆粒剤等が挙げられる。固体組成物は、1以上の活性成分を少なくとも1つの不活性希釈剤と混合することによって調製できる。組成物はさらに、不活性希釈剤以外の添加剤を含んでいてもよく、例えば、滑沢剤、崩壊剤および安定化剤が挙げられる。錠剤および丸剤は必要であれば腸溶または胃腸溶フィルムでコーティングしてもよい。
【0121】
それらは2以上の層で被覆してもよい。それらはまた、徐放物質に吸着させてもよいし、マイクロカプセルに封入してもよい。さらに、組成物は易分解性物質、例えばゼラチンによってカプセル化してもよい。それらはさらに適当な溶媒、例えば、脂肪酸またはそのモノ、ジまたはトリグリセリドに溶解して軟カプセルとしてもよい。即効性を要する場合には舌下錠を用いてもよい。
【0122】
経口投与のための液体組成物の例としては、乳濁液、溶液、懸濁液、シロップおよびエリキシル剤等が挙げられる。該組成物はさらに、常套的に用いられる不活性希釈剤、例えば、精製水またはエチルアルコールを含んでいてもよい。組成物は補助剤等の不活性希釈剤以外の添加剤、例えば、湿潤剤および懸濁化剤、甘味料、香味料、香料および保存料を含んでいてもよい。
【0123】
本発明の組成物は1以上の活性成分を含む噴霧組成物の形態であってもよく、公知の方法にしたがって調製することが出来る。
【0124】
非経口投与のための本発明の注射可能組成物の例としては、無菌の水性または非水性溶液、懸濁液および乳濁液が挙げられる。水溶液または懸濁液のための希釈剤としては、例えば、注射用蒸留水、生理的食塩水およびリンゲル液が挙げられる。
【0125】
溶液および懸濁液のための非水性希釈剤としては、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、例えば、オリーブ油、アルコール、例えば、エタノールおよびポリソルベートが挙げられる。組成物はさらに、添加剤、例えば、保存料、湿潤剤、乳化剤、分散剤等を含んでいてもよい。それらは例えば細菌保持フィルターでのろ過によって、滅菌剤を配合することによって、あるいはガスまたは放射性同位体照射滅菌によって滅菌してもよい。注射可能組成物は、注射用無菌溶媒に使用時に溶解される滅菌された粉末組成物として提供してもよい。
【0126】
本発明の外用剤は、皮膚科学および耳鼻科学の分野で用いられるいずれの形態の外用剤であってもよく、軟膏、クリーム、ローションおよびスプレーが挙げられる。
【0127】
組成物のさらなる形態は坐薬または膣坐薬であり、これは活性成分を体温で軟化する常套の基材、例えば、カカオ脂と混合することによって調製でき、好適な軟化温度を有する非イオン性界面活性剤を吸収性を高めるために用いてもよい。
【0128】
本明細書において用いる「処置」の語は、例えば、症状の予防、治療、軽減、症状の減弱、進行の阻害などのあらゆる管理手段をいう。
【0129】
本発明によると、式 (I)のプロスタグランジン化合物は、タイトジャンクションの立体構造変化を誘導し、その結果、粘膜バリア機能が回復する。したがって、本発明に用いられるプロスタグランジン化合物は粘膜障害の処置に有用である。
【0130】
本明細書において用いる「粘膜障害」という用語は、粘膜バリア機能の低下に関連する症状をいう。
【0131】
かかる粘膜バリア機能の低下に関連する症状は、いずれの病理因子によって引き起こされたいずれの粘膜損傷であってもよい。かかる因子としては、例えば、これらに限定されないが、炎症、虚血傷害、ショック、ストレス、抗原に対する制御を失った免疫応答、感染、腸疾患、コラーゲン疾患、放射線、医薬等が挙げられる。好ましい例としては、胃腸粘膜障害が挙げられる。
【0132】
胃腸粘膜障害としては、例えば、これらに限定されないが、虚血傷害、例えば、絞扼性腸閉塞、例えば、腸捻転、急性または慢性腸間膜虚血傷害、腸虚血、腸のバリア傷害、粘膜傷害、例えば、ショック誘発性粘膜傷害、炎症性腸疾患、例えば、クローン病、大腸炎、例えば、潰瘍性大腸炎、虚血性大腸炎、潰瘍性直腸炎、潰瘍性S字結腸炎、リンパ球性大腸炎、難治性遠位大腸炎、回結腸炎、コラーゲン形成大腸炎、顕微鏡的大腸炎、嚢炎、放射線性大腸炎、抗生物質関連大腸炎および憩室炎、およびベーチェット病が挙げられる。
【0133】
本発明において用いる化合物は、内臓灌流の不良、およびその結果起こる腸のバリア特性の欠損によって起こる多臓器不全の処置にも有用である。
【0134】
上記のように、粘膜タイトジャンクション機能の低下または欠損と多数の癌との間には重要な関係があるため、粘膜バリア機能が低下した症状の別の側面は、癌または前癌性症状を含む。
【0135】
本明細書において用いる癌または前癌性症状としては、これらに限定されないが、食道癌、胃食道逆流症、バレット食道、胃癌、十二指腸癌、小腸癌、虫垂癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、肛門癌、膵臓癌、肝臓癌、胆嚢癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌、子宮癌、卵巣癌、乳癌、肺癌および甲状腺癌が挙げられる。
【0136】
本発明において用いる化合物は、上記に例示の粘膜障害に基づくかまたは付随する感染の処置にも有用である。
【0137】
本発明の医薬組成物はさらに本発明の目的を損なわない限りその他の薬理成分を含んでいてもよい。
【0138】
本発明が提供する実施態様の非限定的な例には、以下(1)〜(27)が含まれる。
(1)
下記一般式 (I)で表されるプロスタグランジン化合物の、哺乳類対象における粘膜障害の処置用医薬組成物の製造のための使用:
【化15】


[式中、L、MおよびNは、水素原子、ヒドロキシ、ハロゲン原子、低級アルキル、ヒドロキシ(低級)アルキル、低級アルカノイルオキシまたはオキソ、ここでLおよびMの少なくとも1つは水素以外の基であり、五員環は少なくとも1つの二重結合を有していてもよい;
Aは、−CH、−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはその官能性誘導体;
Bは、単結合、−CH−CH−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH−CH−CH−、−CH=CH−CH−、−CH−CH=CH−、−C≡C−CH−または−CH−C≡C−;
Zは
【化16】


または単結合、
ここでRおよびRは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシまたはヒドロキシ(低級)アルキルであり、ただし、RおよびRが同時にヒドロキシおよび低級アルコキシであることはない;
は、非置換またはハロゲン、アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基で置換された飽和または不飽和二価低〜中級脂肪族炭化水素残基であり、脂肪族炭化水素における少なくとも1の炭素原子は、酸素、窒素または硫黄によって置換されていてもよい;そして、
Raは、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基で置換された飽和または不飽和の低〜中級脂肪族炭化水素残基;低級アルコキシ;低級アルカノイルオキシ;シクロ(低級)アルキル;シクロ(低級)アルキルオキシ;アリール;アリールオキシ;複素環基;複素環オキシ基;
ただし、Raはハロゲンによって置換されているか、または、ZはC=Oである]。
(2)
該プロスタグランジン化合物が16−モノまたはジハロゲン-プロスタグランジン化合物である(1)に記載の使用。
(3)
該プロスタグランジン化合物が15-ケト-プロスタグランジン化合物である(1)に記載の使用。
(4)
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-16−モノまたはジハロゲン-プロスタグランジン化合物である(1)に記載の使用。
(5)
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-15-ケト-プロスタグランジン化合物である(1)に記載の使用。
(6)
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-15-ケト-16−モノまたはジハロゲン-プロスタグランジン化合物である(1)に記載の使用。
(7)
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-16−モノまたはジフルオロ-プロスタグランジン化合物である(1)に記載の使用。
(8)
該プロスタグランジン化合物が15-ケト-16−モノまたはジフルオロ-プロスタグランジン化合物である(1)に記載の使用。
(9)
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-15-ケト-16−モノまたはジフルオロ-プロスタグランジン化合物である(1)に記載の使用。
(10)
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-16−モノまたはジハロゲン-プロスタグランジンE化合物である(1)に記載の使用。
(11)
該プロスタグランジン化合物が15-ケト-16−モノまたはジハロゲン-プロスタグランジンE化合物である(1)に記載の使用。
(12)
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-15-ケト-16−モノまたはジハロゲン-プロスタグランジンE化合物である(1)に記載の使用。
(13)
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-16,16-ジフルオロ-プロスタグランジンE1 化合物である(1)に記載の使用。
(14)
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-15-ケト-プロスタグランジンE1 化合物である(1)に記載の使用。
(15)
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16- ジフルオロ-プロスタグランジンE1 化合物または13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-18-メチル-プロスタグランジンE1 化合物である(1)に記載の使用。
(16)
該粘膜障害が粘膜バリア機能の低下に関連する症状である、(1)〜(15)のいずれかに記載の使用。
(17)
該粘膜バリア機能の低下に関連する症状が胃腸粘膜障害である(16)に記載の使用。
(18)
該胃腸粘膜障害が炎症性腸疾患である(17)に記載の使用。
(19)
該炎症性腸疾患が、クローン病、大腸炎またはベーチェット病である(18)に記載の使用。
(20)
該大腸炎が、潰瘍性大腸炎、虚血性大腸炎、潰瘍性直腸炎、潰瘍性S字結腸炎、リンパ球性大腸炎、難治性遠位大腸炎、回結腸炎、コラーゲン形成大腸炎、顕微鏡的大腸炎、嚢炎、放射線性大腸炎、抗生物質関連大腸炎および憩室炎からなる群から選択される(19)に記載の使用。
(21)
該粘膜バリア機能の低下に関連する症状が癌または前癌性症状である(16)に記載の使用。
(22)
該癌または前癌性症状が、食道癌、胃食道逆流症、バレット食道、胃癌、十二指腸癌、小腸癌、虫垂癌、大腸癌、結腸癌、直腸癌、肛門癌、膵臓癌、肝臓癌、胆嚢癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣癌、子宮癌、卵巣癌、乳癌、肺癌および甲状腺癌からなる群から選択される(16)に記載の使用。
(23)
哺乳類対象における粘膜を保護するための医薬組成物の製造のための下記一般式 (I)で示されるプロスタグランジン化合物の使用:
【化17】


[式中、L、M、N、A、B、Z、RおよびRaは請求項 1と同義]。
(24)
下記一般式 (I)で示される有効量のプロスタグランジン化合物を、必要とする対象に投与することを含む、哺乳類対象における粘膜障害の処置方法:
【化18】


[式中、L、M、N、A、B、Z、RおよびRaは請求項 1と同義]。
(25)
下記一般式 (I) で示される有効量のプロスタグランジン化合物を、必要とする対象に投与することを含む、哺乳類対象における粘膜の保護方法:
【化19】


[式中、L、M、N、A、B、Z、RおよびRaは請求項 1と同義]。
(26)
下記一般式 (I)で示される有効量のプロスタグランジン化合物を含む、哺乳類対象における粘膜障害の処置用組成物:
【化20】


[式中、L、M、N、A、B、Z、RおよびRaは請求項 1と同義]。
(27)
下記一般式 (I)で示される有効量のプロスタグランジン化合物を含む、哺乳類対象における粘膜の保護用組成物:
【化21】


[式中、L、M、N、A、B、Z、RおよびRaは請求項 1と同義]。
【0139】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定する意図ではない。
【実施例】
【0140】
実施例 1
(方法)
実験動物手術
6-8週齡のいずれかの性のヨークシャー交雑種ブタを個別に飼育し、市販のペレット飼料を与えて維持した。ブタを実験手術前24 時間絶食させた。全身麻酔をキシラジン (1.5 mg/kg、IM)、ケタミン (11 mg/kg、IM)、およびチオペンタール (15mg/kg、IV)によって誘導し、チオペンタールの間欠的注入(6 - 8mg/kg/時)を維持した。ブタを加温パッド上に置き、時間サイクル型ベンチレータを用いて気管切開を介して100% O2によって酸素供給した。頸静脈および頸動脈をカニューレ処置し、血液ガス分析を行って、正常 pHおよび CO2 とO2の分圧を確認した。乳酸加リンガー液を一定速度 15ml/kg/時で静脈内投与した。回腸に腹部正中切開により接近した。回腸セグメントを腸を 10 cm間隔で結紮することにより線引きし、局所腸間膜血液供給を45 分間閉塞させることにより虚血を起こした。
【0141】
Ussing チャンバー研究
45分間の虚血期間の後、組織をブタから回収し、剥がす手順中の内因性 PG 産生を妨げるため5x10-6 M インドメタシンを含む含酸素 (95% O2/ 5% CO2) リンゲル液 (mmol/l: Na+、154; K+、6.3; Cl-、137; HCO3-、24; pH 7.4)中で粘膜を漿膜筋層から剥がした。組織を次いで3.14 cm2 開口部 Ussing チャンバーにマウントした。Ussing チャンバー実験のために、1頭のブタからの回腸組織を複数の Ussing チャンバーにマウントし、様々なインビトロ処理に供した。組織を漿膜および粘膜側上を10ml リンゲル液で浸した。漿膜浸漬液は 10mM グルコースを含んでおり、粘膜側の10mM マンニトールと浸透圧的に平衡させた。浸漬液は酸素を含んでおり(95% O2/5% CO2)、水ジャケット付き容器中を循環させた。自発性電位差 (PD)を塩化第一水銀電極に連結したリンゲル-寒天橋を用いて測定し、PDを、液体抵抗を補正する電圧固定法を用いてAg-AgCl 電極を介して短絡させた。 経上皮電気抵抗 (Ω.cm2)を自発性 PD および短絡回路電流 (Isc)から算出した。自発性 PDが -1.0〜1.0 mVであれば、組織を±100 μAで5 秒間電流固定し、PDを記録した。短絡回路電流およびPDは、15分間隔で4時間の実験の間記録した。
【0142】
実験処理
組織をUssing チャンバーにマウントした後、安定なベースライン測定が達成されるように組織を30 分間順化させた。組織を次いで様々な用量の化合物A (13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-PGE1)(0.01μM、0.1μM、および1μM)で、化合物を粘膜浸漬液に添加することによって処理した(t = 30 分)。
【0143】
3H-マンニトール流動研究
これらの研究は電気計測を記録すると同時に行った。粘膜から漿膜への流れを評価するために、3H-マンニトールを粘膜溶液に添加した。15分間の平衡化期間の後、浸漬容器から標準をとった。処理の添加の30分後、3回連続する60 分間の流動期間(実験の30〜210 分)を同位体添加の反対側の浸漬容器からサンプルを採取することにより行った。サンプルを液体シンチレーションカウンターにおいて3H-マンニトールについてカウントした。一方向性の粘膜から漿膜への流れ (Jms)を標準式を用いて決定した。
【0144】
組織学的検討
組織を常套の組織学的評価のために0、60、および180 分にて採取した。組織を切片にし(5 μm)、ヘマトキシリンおよびエオシンで染色した。各組織について、3つの切片を評価した。4つのよく配向した絨毛および陰窩を各切片において同定した。絨毛の長さを光学顕微鏡の接眼部におけるマイクロメータを用いて得た。さらに、各絨毛の上皮被覆部分の高さを測定した。絨毛の表面積を円柱の表面積についての式を用いて算出した。式は、絨毛の基部面積を差し引き、各絨毛が切断された可変部分を決定する因子をかけることによって改変した(Gastroenterology 1993; 104:440-471)。剥皮されて残っている絨毛表面積のパーセンテージを、絨毛総表面積と上皮に被覆された絨毛表面積とから算出した。パーセント剥皮絨毛表面積を上皮回復の指標として用いた。
【0145】
統計分析
データは平均± SEとして記録した。すべてのデータは反復測定のためのANOVAを用いて解析したが、ただし、ピーク応答は、標準一方向性 ANOVAを用いて解析した(Sigmastat、Jandel Scientific、San Rafael、CA)。テューキー検定をANOVA後に処理の間の相違を判定するために用いた。
【0146】
(結果)
虚血損傷ブタ回腸を横切る短絡回路電流および経上皮抵抗に対する効果
ブタ回腸を45分間腸間膜虚血に供し、Ussing チャンバーにマウントし、その上で、Cl 分泌の指標である短絡回路電流 (Isc)および粘膜バリア機能の指標である経上皮抵抗 (TER)を評価した。45分間の腸の虚血により、非虚血対照組織と比較してTER が40%低下し、バリア機能が虚血組織において損傷されたことが示された。0.01μM、0.1μMおよび1μMの化合物Aの虚血損傷粘膜の粘膜側への適用(図 1)は、TERの用量依存的上昇を誘導し、1μMの化合物AによりTERの2倍の上昇が刺激された (ΔTER =26 Ω.cm2、P<0.01)。
【0147】
0.1 μM および1 μMの化合物Aの虚血粘膜への適用は、用量依存的にIscにおける鋭く有意な(P<0.05) ピークを刺激し、これら組織における起電性 Cl 分泌の活性化が示された。類似の用量応答が、Iscの絶対的相違に対する化合物Aの効果を評価した場合も観察された(1μM、0.1μM、および0.01μMの化合物Aについて、Δ Isc = 29±5.1、16±4.5、および2±0.8)。Iscの上昇はTERの上昇より先に起こった。
【0148】
虚血損傷ブタ回腸におけるマンニトールの粘膜から漿膜への流れに対する効果
3H-マンニトールの粘膜から漿膜への流れは粘膜バリア機能の高感度の指標であることが示されているために、本発明者らは虚血損傷粘膜を横切る3H-マンニトール流を測定してTER 値を確認した。虚血傷害の結果、非損傷対照組織と比較してマンニトール流が有意に上昇し (図3) 、バリア機能が虚血組織において損なわれていたことが示された。1 μMの化合物Aの適用の結果、 3H-マンニトール流は非虚血対照レベルに回復した。
【0149】
化合物Aで処理した虚血組織の組織学的評価
損傷粘膜のバリア機能の急性修復には、3つの協調した機構が関与する: (1)修復のための総剥皮表面積を低下させる絨毛収縮、(2)曝露した基底膜を封じるための回復即ち細胞遊走、および(3)傍細胞空間およびタイトジャンクションの閉鎖。化合物A処理に応答したバリア機能の改善が部分的には上皮回復の促進に起因するのかを調べるために、本発明者らは、回復期間の間のいくつかの時点での回復中の虚血組織の組織学を評価した。損傷組織の組織学的分析により、絨毛の頂端 1/3部分での腸上皮の脱落および懸垂が明らかとなった。これは形態測定分析により上皮の剥皮表面積の30%と相関していた(表 1)。組織をUssing チャンバーにマウントしてから60 分以内に、腸の絨毛は、迅速且つ完全に回復した。
【0150】
表 1.虚血損傷ブタ回腸粘膜における上皮回復の形態測定評価
【0151】
【表1】

【0152】
表 1において、値は、% 絨毛剥皮表面積および絨毛高さについて平均± SEを表す; n=3。組織はインビボで45分間虚血させ、その後回復応答をモニターするためにUssing チャンバーにマウントした哺乳類回腸であった。組織はインビトロ回復相の間に虚血の0 分、60 分および180 分後に収集し、10% 緩衝ホルマリン中で固定し、標準的プロトコールにしたがって組織学的検討のために処理した。インドメタシン (Indo)を選択した組織に5μMにて投与し、化合物Aは1μM与えた。共通の上付き記号 (*,#)を欠く値はP<0.05にて異なる。
【0153】
実施例 2
実施例 1に記載のものと同じ手順にしたがって、ただし、回腸の代わりに結腸を用いて虚血症状における粘膜バリア機能の化合物Aによる回復を調べた。
【0154】
A)虚血損傷ブタ上行結腸における化合物Aに対する短絡回路電流応答の変化、B)虚血損傷ブタ上行結腸における化合物Aに応答しての経上皮電気抵抗 (TER)、およびC) 虚血損傷ブタ上行結腸における化合物Aに応答しての漿膜から粘膜への 3H-マンニトール流を、それぞれ図4〜6に示した。
【0155】
虚血ブタ上行結腸への化合物Aの適用はIsc(図 4)およびTERを上昇させ、漿膜から粘膜への3H-マンニトール流を低下させた(図5および6)。
【0156】
結論
データは、ClC-2 アゴニストである化合物Aは、虚血損傷ブタ回腸および結腸においてCl 分泌、およびその結果粘膜バリア機能の回復を刺激することを示す。さらに、化合物Aの粘膜バリア機能に対するよい影響は、傍細胞透過性の低下を介して、上皮回復とは独立して起こるようである。これらの観察は、ClC-2 アゴニストである化合物Aがタイトジャンクションの立体構造変化を誘導する結果、バリア機能が回復することを示す。ClC-2の選択的アゴニストは、急性に損傷を受けた腸の回復を促進する新規な薬理的手段を提供しうる。
【0157】
実施例 3
雌性 Crl:CD(SD)IGS BR VAF/Plusラットを4つの実験群に分けた(65匹/群)。群2〜4には、それぞれ20、100、または400 μg/kg/日の化合物Aを104週間強制経口投与した。対照群 (群1)には媒体である1%ポリソルベート 80水溶液を与えた。用量体積はすべての群について5 mL/kg/日であった。実験期間の間に予定外の動物の死亡が起こった場合は、その動物の剖検を行った。処理の104週間後、すべての生存動物を屠殺し、剖検を行った。各ラットを乳癌の存在について顕微鏡によって評価した。
【0158】
表 2に示すように、化合物Aは乳癌の発生率を低下させた。
表 2. 乳癌の発生率
【表2】

【0159】
本発明を特定の態様により詳細に説明しているが、当業者には本発明の精神と範囲内から逸脱することなく様々な改変および変更を可能であることが明らかであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式 (I)で表される有効量のプロスタグランジン化合物を含む、哺乳類対象における胃腸粘膜障害の処置用医薬組成物:
【化1】


[式中、L、MおよびNは、水素原子、ヒドロキシ、ハロゲン原子、低級アルキル、ヒドロキシ(低級)アルキル、低級アルカノイルオキシまたはオキソ、ここでLおよびMの少なくとも1つは水素以外の基であり、五員環は少なくとも1つの二重結合を有していてもよい;
Aは、−CH、−CHOH、−COCHOH、−COOHまたはその官能性誘導体;
Bは、単結合、−CH−CH−、−CH=CH−、−C≡C−、−CH−CH−CH−、−CH=CH−CH−、−CH−CH=CH−、−C≡C−CH−または−CH−C≡C−;
Zは
【化2】


または単結合、
ここでRおよびRは、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、低級アルキル、低級アルコキシまたはヒドロキシ(低級)アルキルであり、ただし、RおよびRが同時にヒドロキシおよび低級アルコキシであることはない;
は、非置換またはハロゲン、アルキル、ヒドロキシ、オキソ、アリールまたは複素環基で置換された飽和または不飽和二価低〜中級脂肪族炭化水素残基であり、脂肪族炭化水素における少なくとも1の炭素原子は、酸素、窒素または硫黄によって置換されていてもよい;そして、
Raは、非置換またはハロゲン、オキソ、ヒドロキシ、低級アルキル、低級アルコキシ、低級アルカノイルオキシ、シクロ(低級)アルキル、シクロ(低級)アルキルオキシ、アリール、アリールオキシ、複素環基または複素環オキシ基で置換された飽和または不飽和の低〜中級脂肪族炭化水素残基;低級アルコキシ;低級アルカノイルオキシ;シクロ(低級)アルキル;シクロ(低級)アルキルオキシ;アリール;アリールオキシ;複素環基;複素環オキシ基;
ただし、Raはハロゲンによって置換されているか、または、ZはC=Oである]。
【請求項2】
該プロスタグランジン化合物が16−モノまたはジハロゲン-プロスタグランジン化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
該プロスタグランジン化合物が15-ケト-プロスタグランジン化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-16−モノまたはジハロゲン-プロスタグランジン化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-15-ケト-プロスタグランジン化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-15-ケト-16−モノまたはジハロゲン-プロスタグランジン化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-16−モノまたはジフルオロ-プロスタグランジン化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
該プロスタグランジン化合物が15-ケト-16−モノまたはジフルオロ-プロスタグランジン化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-15-ケト-16−モノまたはジフルオロ-プロスタグランジン化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-16−モノまたはジハロゲン-プロスタグランジンE化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項11】
該プロスタグランジン化合物が15-ケト-16−モノまたはジハロゲン-プロスタグランジンE化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-15-ケト-16−モノまたはジハロゲン-プロスタグランジンE化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-16,16-ジフルオロ-プロスタグランジンE1 化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項14】
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-15-ケト-プロスタグランジンE1 化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項15】
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16- ジフルオロ-プロスタグランジンE1 化合物または13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-18-メチル-プロスタグランジンE1 化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
該プロスタグランジン化合物が13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16- ジフルオロ-プロスタグランジンE1または13,14-ジヒドロ-15-ケト-16,16-ジフルオロ-18-メチル-プロスタグランジンE1である請求項1に記載の組成物。
【請求項17】
該胃腸粘膜障害が炎症性腸疾患である請求項1−16のいずれかに記載の組成物。
【請求項18】
該炎症性腸疾患が、クローン病、大腸炎またはベーチェット病である請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
該大腸炎が、潰瘍性大腸炎、虚血性大腸炎、潰瘍性直腸炎、潰瘍性S字結腸炎、リンパ球性大腸炎、難治性遠位大腸炎、回結腸炎、コラーゲン形成大腸炎、顕微鏡的大腸炎、嚢炎、放射線性大腸炎、抗生物質関連大腸炎および憩室炎からなる群から選択される請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
粘膜を保護するものである、請求項1−19のいずれかに記載の組成物。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−180380(P2012−180380A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−144537(P2012−144537)
【出願日】平成24年6月27日(2012.6.27)
【分割の表示】特願2008−502641(P2008−502641)の分割
【原出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(501131276)スキャンポ・アーゲー (37)
【氏名又は名称原語表記】Sucampo AG
【出願人】(507316550)ノース・カロライナ・ステイト・ユニバーシティ (2)
【氏名又は名称原語表記】NORTH CAROLINA STATE UNIVERSITY
【Fターム(参考)】