説明

精子活力向上剤、受胎率向上剤、精子活力向上方法、及び受胎率向上方法

【課題】 家畜などの繁殖成績を向上させる。
【解決手段】 ガンマ−リノレン酸を含有させて、精子活力向上剤を構成する。また、ガンマ−リノレン酸を含有させて、雄に給与することで、該雄の精子を種付けした雌の受胎率を向上させる受胎率向上剤を構成する。この受胎率向上剤は、雄と雌の両方に給与して、雄の精子活力を向上させ、かつ、該雄の精子を種付けした雌の受胎率を向上させることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜などの繁殖成績を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
畜産業などにおいて、繁殖成績の向上は重要な課題である。家畜の受胎率が1%違っただけでもその影響は極めて大きい。例えば、大ヨークシャー種の雌豚は、1年に2回ほど受胎し、1回の受胎で10頭程度の子供を産む。1000頭の母豚を飼育する農場の場合、仮に受胎率が10%違えば、1年後の個体数には数千頭の違いが生じることになる。
したがって、受胎率を少しでも向上させることは、畜産業において大きな意味がある。また、1年間の受胎回数に関係する分娩回転率を向上させることも、畜産業においては同様に大きな意味がある。
【0003】
従来、このような家畜の繁殖成績を向上させるための様々な技術が提案されている。
例えば、非特許文献1には、雌豚にガンマ−リノレン酸を与えることで、排卵率が改善し、正常胚が増加することが記載されている。
また、特許文献1には、ガンマ−リノレン酸などを含有する飼料を雌豚に与えることで、産子数、年間平均分娩回数等を増加させることが記載されている。
【0004】
特許文献2には、ガンマ−リノレン酸等を含有する糸状菌を熱処理することで、ガンマ−リノレン酸の酸化安定性、及び熱安定性を向上させ、ガンマ−リノレン酸を含有させた動物用飼料を提供することが記載されている。また、この飼料を動物に与えることで、肝機能障害の減少、体重増加、肉質改善、へい死率低下などの健康改善効果があることが記載されている。
特許文献3には、雌牛にガンマ−リノレン酸などを含有する飼料を与えることで、受胎率の向上、分娩間隔日数の短縮などの効果が得られることが記載されている。
【0005】
【非特許文献1】Journal of Reproduction and Development, Vol.43, 121-127, No.2, 1997 Dietary Administration of Fatty Acids-Enriched Mold Dried Cell Containing γ-Linolenic Acid to Female Pigs Improves Ovulation Rate and Embryo Quality in Summer
【特許文献1】特許第3492349号公報
【特許文献2】特公平3−27184号公報
【特許文献3】特開2008−125377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような従来の繁殖成績の向上に関する技術は、雌に対して適用されるのみであり、雄に対してはこれまで全く考慮されてこなかった。
これは、雌の母体の機能を向上させることは、繁殖に直接的な影響を与えることが想像できる一方、雄の精子の機能向上を図ることは、容易には考えられないことであったためではないかと思われる。
【0007】
これに対し、本発明者は、ED(Erectile Dysfunction)の治療薬として、プロスタグランジンンが存在していることに着目した。ガンマ−リノレン酸は、このプロスタグランジンンの前駆物質であることから、ガンマ−リノレン酸は、雌のみならず、雄の繁殖能力向上にも寄与するのではないかと想到するに到った。
そこで、鋭意研究を重ねることで、ガンマ−リノレン酸は、精子活力を向上させ得ることを見いだした。また、このような活性化された精子を用いて雌に種付けを行うことで、雌の受胎率及び分娩回転率が向上することを見いだした。さらに、雄と雌の両方にガンマ−リノレン酸を与えることで、より雌の受胎率及び分娩回転率を向上させ得ることを見いだした。
すなわち、本発明は、ガンマ−リノレン酸を含有する精子活力向上剤、ガンマ−リノレン酸を含有し、雄に給与することで、該雄の精子を種付けした雌の受胎率を向上させ得る受胎率向上剤、精子活力向上方法、及び受胎率向上方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の精子活力向上剤は、ガンマ−リノレン酸を含有するものとしてある。
また、本発明の受胎率向上剤は、ガンマ−リノレン酸を含有し、雄に給与することで、該雄の精子を種付けした雌の受胎率を向上させるものとしてある。
【0009】
また、本発明の精子活力向上方法は、家畜の雄にガンマ−リノレン酸を給与し、精子活力を向上させる方法としてある。
また、本発明の受胎率向上方法は、家畜の雄にガンマ−リノレン酸を給与し、該雄の精子を家畜の雌に種付けし、該雌の受胎率を向上させる方法としてある。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、家畜などの動物の雄の精子活力を向上させることができ、これによって、雌の受胎率や分娩回転率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1及び比較例1の実験条件とその結果を示す図である。
【図2】実施例1及び比較例1の実験結果を比較した図である。
【図3】実施例2及び比較例2の実験条件とその結果を示す図である。
【図4】実施例3、参考例1及び比較例3の実験条件とその結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る精子活力向上剤、受胎率向上剤、精子活力向上方法、及び受胎率向上方法について具体的に説明する。
【0013】
<精子活力向上剤、精子活力向上方法>
本実施形態の精子活力向上剤は、ガンマ−リノレン酸を含有させてなるものである。
また、本実施形態の精子活力向上方法は、家畜などの動物の雄に、ガンマ−リノレン酸を給与して、その精子活力を向上させるものである。
【0014】
「精子活力」は、顕微鏡観察により確認される精子の活動状態を段階評価した狭義の精子活力、精子の生存率、及び生存精子濃度を意味する。
狭義の精子活力は、以下の実施例では3段階で判定し、「3」が最も活発な前進運動をするもの、「2」が活発な運動をするもの、「1」が微弱な運動をするものとしている。
【0015】
精子の生存率は、総精子数に対する運動している精子数の割合である。
一般に優秀な種雄豚を1頭所有していれば、100頭以上の雌豚を繁殖用に飼育することが可能である。従って、精子活力があり、繁殖能力に優れた雄個体の作出は畜産業の発展に大きく貢献するものである。
【0016】
[ガンマ−リノレン酸]
ガンマ−リノレン酸(γ−リノレン酸、略称GLA)は、炭素数18のトリ不飽和脂肪酸のひとつである。C6,C9,C12位にいずれもシス型の二重結合を持つ。オメガ6系脂肪酸(ω6系脂肪酸、18:3,n−6)に分類される。ガンマ−リノレン酸は、動物の体内でジホモ-γ-リノレン酸(略称DGLA)となり、アラキドン酸(略称AA)やプロスタグランジン(略称PG)などの原料となる。
【0017】
ガンマ−リノレン酸の供給源は、特に限定されない。例えば、ムコール(Mucor)属、モルティエレラ(Mortierella)属、リゾプス(Rizopus)属等の糸状菌、月見草,ボラージ、黒スグリ、ヘンプ等の植物や、スピルリナ等の藻類、エミュー等の動物などに含まれる油脂から得ることができる。また、ガンマ−リノレン酸は、化学合成によって得ることもでき、市販されているものを使用しても良い。
【0018】
また、ガンマ−リノレン酸は、上記の通り、動物の体内でジホモ-γ-リノレン酸となり、アラキドン酸やプロスタグランジンなどの原料となることから、これらのオメガ6系脂肪酸を、本実施形態においてガンマ−リノレン酸に変えて使用しても、ガンマ−リノレン酸を使用した場合に近い効果が得られるものと推測される。
【0019】
さらに、ガンマ−リノレン酸やこれらのオメガ6系脂肪酸の誘導体として、各種アルコール類との反応により得られるエステル、例えばエチルエステル,グリセロールエステル、リン脂質等、あるいは無機,有機の塩基とを、等モル比で作用して得られる塩、例えばナトリウム塩,カリウム塩等を挙げることができる。これらを、本実施形態においてガンマ−リノレン酸に変えて使用しても、ガンマ−リノレン酸を使用した場合に近い効果が得られるものと推測される。
【0020】
本実施形態の精子活力向上剤による精子活力向上効果は、含有されているガンマ−リノレン酸にもとづき得られるものであるため、当該効果の観点から、精子活力向上剤におけるガンマ−リノレン酸含有割合は高いほど好ましい。
また、本実施形態の精子活力向上剤において、ガンマ−リノレン酸の他に、各種アミノ酸を含有させてもよい。例えば、アルギニン、リジン、トレオニン、メチオニン、L−バリン、トリプトファンなどを、ガンマ−リノレン酸と共に含有させることも好ましい。特に、アルギニンは、精液に多く含まれ、精子活力を向上させると言われている。
【0021】
さらに、本実施形態の精子活力向上剤に、アスタキサンチン、ビタミンE、コエンザイムQ10、カルニチンを含有させることも好ましい。いずれもエネルギー産生に関わる成分であり、精子活力向上に寄与する可能性があるためである。
また、本実施形態の精子活力向上剤に、亜鉛やセレンなどのミネラル成分を含有させることも好ましい。
【0022】
[給与対象動物]
本実施形態の精子活力向上剤を給与する対象は、家畜などの動物の雄である。「家畜」は、犬、猫、豚、牛、馬、羊、にわとり等の人以外のほ乳類及び鳥類であって、人により飼育されるものとして用いている。また、ヒトに対して投与しても精子活力向上効果があると考えられる。
【0023】
[給与方法]
本実施形態の精子活力向上剤を家畜に与える場合、飼料に配合して給与しても、飼料とは別個に与えてもかまわない。また、その他の配合成分と共に給与してもよく、剤型も特に制限されない。GLA油を用いる場合、飼料に混ぜたり、ソフトゼラチンカプセルに入れて給与したりすることもできる。
【0024】
[給与期間]
本実施形態の精子活力向上剤の給与期間は、精子採取の前、最低3日以上とすることが好ましい。これ未満の期間にすると、精子活力が十分に向上しない場合があるためである。
【0025】
[給与量]
本実施形態の精子活力向上剤の投与量は、1日当たりのガンマ−リノレン酸の量が、投与対象の家畜の体重の1mg/kg〜100mg/kgとなるようにすることが好ましい。また、1mg/kg〜50mg/kgとすることがより好ましく、3mg/kg〜30mg/kgとすることがさらに好ましい。例えば、300kgの種雄豚の場合には、毎朝0.3g〜30gを好適に投与することができ、0.3g〜15gとすることがより好ましく、0.9g〜9gとすることがさらに好ましい。
【0026】
ここで、特許文献1及び3では、雌豚及び雌牛のいずれに対しても、ガンマ−リノレン酸などを含有する飼料を、当該脂肪酸に換算して1日1頭当たり20g〜200g給与している。
これに対して、本実施形態の精子活力向上剤の場合、上記の通り、例えば毎朝0.3g〜30g給与することで、十分な効果を得ることができる。
【0027】
<受胎率向上剤、受胎率向上方法>
本実施形態の受胎率向上剤は、ガンマ−リノレン酸を含有し、家畜などの動物の雄に給与することで、該雄の精子を種付けした雌の受胎率を向上させるものである。また、本実施形態の受胎率向上剤として、家畜などの動物の雄と雌の両方に給与して、雄の精子活力を向上させ、かつ、該雄の精子を種付けした雌の受胎率を向上させるものとすることも好ましい。
【0028】
また、本実施形態の受胎率向上方法は、家畜などの動物の雄にガンマ−リノレン酸を給与し、該雄の精子を雌に種付けし、該雌の受胎率を向上させるものである。また、本実施形態の受胎率向上方法として、家畜などの動物の雄にガンマ−リノレン酸を給与し、雄の精子活力を向上させ、ガンマ−リノレン酸を給与した家畜などの動物の雌に該雄の精子を種付けし、該雌の受胎率を向上させることも好ましい。
なお、「受胎率」とは、種付けを行った雌の頭数に対する受胎した雌の頭数の割合を意味する。
【0029】
本実施形態の受胎率向上剤及び受胎率向上方法において使用するガンマ−リノレン酸は、精子活力向上剤の説明において上述したものと同様のものを用いることができる。また、オメガ6系脂肪酸をガンマ−リノレン酸に変えて使用したり、これらの誘導体をガンマ−リノレン酸に変えて使用してもよく、アルギニンなどのアミノ酸やアスタキサンチン等のその他の配合成分を含有させてもよい。
【0030】
また、本実施形態の受胎率向上剤は、家畜などの動物の雄に給与することができる。すなわち、受胎率向上剤を給与されていない雌に対し、受胎率向上剤を給与された雄の精子を用いて種付けを行うことで、雌の受胎率が向上する。これは、受胎率向上剤を給与された雄の精子が活性化されることによるものと考えられる。
【0031】
さらに、本実施形態の受胎率向上剤は、家畜などの動物の雄と雌の両方に給与することも好ましい。このようにすれば、ガンマ−リノレン酸を含有する受胎率向上剤により、雌自身の受胎率が向上することに加え、当該受胎率向上剤により雄の精子が活性化されるため、受胎率を格段に向上させることが可能となる。
なお、本実施形態の受胎率向上剤は、ヒトに対して投与した場合にも効果があるものと考えられる。
【0032】
本実施形態の受胎率向上剤の給与方法は、精子活力向上剤の給与方法と同様のものとすることができ、その給与期間も同様のものとすることができる。
また、雌に対して給与する場合は、種付け前、最低3日以上とすることが好ましい。これ未満の期間にすると、受胎率が十分に向上しない場合があるためである。
【0033】
さらに、本実施形態の受胎率向上剤の給与量についても、精子活力向上剤と同様に、1日当たりのガンマ−リノレン酸の量が、給与対象の家畜の体重の1mg/kg〜100mg/kgとなるようにすることが好ましい。また、1mg/kg〜50mg/kgとすることがより好ましく、3mg/kg〜30mg/kgとすることがさらに好ましい。例えば、200kgの雌豚の場合には、毎朝0.2g〜20gを好適に投与することができ、0.2g〜10gとすることがより好ましく、0.6g〜6gとすることがさらに好ましい。
【0034】
「分娩回転率(分娩回転数)」は、次式により算出することができる。不妊の場合は、前回の離乳から発情までの期間が延びるため、回転率が高いほど効率良く分娩できることを意味する。
分娩回転率=365日÷(妊娠期間114日+泌乳期間(3〜4週間)+離乳から発情期間(4〜10日)の合計(139〜152日))
【実施例】
【0035】
以下、本発明の精子活力向上剤、及び精子活力向上方法を用いて、種雄豚に対する精子活力を向上させた実施例、本発明の受胎率向上剤、受胎率向上方法を用いて、雌豚の受胎率と分娩回転率を向上させた実施例に関して説明する。
【0036】
<精子活力向上試験>
(実施例1)
マルニ印配合飼料マーテル(鹿島飼料株式会社)で飼育されている種雄豚のデュロック種4頭(D1:体重300kg、D2:体重320kg、D3:体重280kg、D4:体重300kg)、及び大ヨークシャー種1頭(W1:体重300kg)を対象に、本発明のガンマ−リノレン酸を含有する精子活力向上剤を給与して、精子活力向上試験を行った。
【0037】
具体的には、それぞれの豚に毎朝1回、ムコール シルシネロイデス菌体約40gを計量カップで測定し、トップドレスで給与した。ムコール シルシネロイデス菌体には、ガンマ−リノレン酸含有油脂が含まれ、その含有量は、菌体1g中に、ガンマ−リノレン酸として約75mgである。したがって、菌体約40gは、ガンマ−リノレン酸の量としては、約3gに相当し、各雄豚の体重1kgに対するガンマ−リノレン酸の給与量は、約10mgとなる。
【0038】
給与期間は、採取するサンプル数によって異なり、その数に応じて長くなる。例えば、デユロックD1では、6回の採取(サンプル数6)を行っており、最初の採取は、給与開始後5日目、2回目が19日目、3回目が33日目である。最後の採取は、給与開始後75日目であり、合計75日間給与した。
また、給与開始後5日目から約2週間に1回の割合で、各豚を擬牝台に乗せ、精液を採取した。採取後、精液検査を実施した。精液検査は、顕微鏡的検査により行った。以上の結果を図1に示す。
【0039】
なお、同図において、サンプル数は、精液を採取した容器数を示しており、採取回数に対応する。また、採取した精液を1ボトル当たりに約55億個の精子が含まれるように保存液で希釈し、精液ボトルを作成した。
【0040】
平均精子活力は、精子の活動状態を段階評価したものの平均値であり、最も活発な前進運動をおこなうものを「3」、活発な運動をするものを「2」、微弱な運動をするものを「1」として算出している。
平均生存率は、各サンプルにおける運動している精子の割合の平均値である。生存率は、血球計算盤を用いて、運動している精子数を測定し、総精子数に対する割合を算出して得た。
平均生存精子濃度は、採取精液1mlあたりの平均生存精子数をいう。
【0041】
(比較例1)
実施例1と同じ雄豚について、実施例1を行う前に、ガンマ−リノレン酸を含有する精子活力向上剤を給与する点を除いて同様の条件で飼育し、精液検査を実施して、その精子活力を確認した。その結果を図1に示す。
【0042】
図2は、実施例1及び比較例1における同一の雄豚毎に、平均精子活力、平均生存率、平均生存精子濃度、及び濃度増加率を示したものである。
同図に示されるように、デュロック1,2については、比較例1−1,1−2の平均精子活力がいずれも2.8であり、比較的高い数値を示していたが、実施例1−1,1−2では、いずれも3.0となり、精子活力が一層向上している。また、デュロック3,4及び大ヨークシャーについては、比較例1−3,1−4,1−5の平均精子活力がいずれも2.3であり、比較的低い数値を示していたが、実施例1−4では2.8に、実施例1−3,1−5では3.0になり、いずれも精子活力が大きく向上している。
【0043】
また、平均生存率についても、個体毎の実施例及び比較例を比較すると、いずれも3〜6%の増加を示している。
さらに、平均生存精子濃度については、個体間で大きなばらつきがあるものの、実施例の結果は、いずれも比較例に対して、十%程度から数十%程度増加している。特に、デュロック1,4と大ヨークシャーでは、平均生存精子濃度が著しく増加している。
【0044】
<受胎率向上試験>
1.雄豚へのGLA給与効果の確認試験
(実施例2)
マルニ印配合飼料マーテルで飼育されている種雄豚のデュロック種D5(体重300kg)に対し、毎朝1回、ムコール シルシネロイデス菌体約40gを計量カップで測定し、トップドレスで給与した。給与量は、実施例1と同様に、ガンマ−リノレン酸の量として約3gであり、このデュロックD5の体重1kgあたりのガンマ−リノレン酸の給与量は、約10mgであった。
給与開始後7日目に、この豚を擬牝台に乗せ、精液を採取した。採取後、精液検査を実施した。精液検査は、顕微鏡的検査により行った。その結果、精子活力は3、生存率は85%であった。
【0045】
次に、この精液を使用し、大ヨークシャー(父系)−ランドレース(母系)種の雌豚20頭に対して種付けを行った。これらの雌豚は、ガンマ−リノレン酸を給与することなく、マルニ印配合飼料マーテルにより飼育した。
種付けは、発情鑑定を行うために雄豚による本交配を行い、翌日午前と午後の2回、人口受精を行った。人口受精は、デュロックD5から採取して得られた精液ボトルを使用し、精液ボトルからカテーテルを用いて実施した。精液ボトルは、1ボトル当たりに約55億個の精子が含まれるように保存液で希釈して作成し、1回の人口受精で1ボトルを使用した。
その結果、図3に示すように、受胎頭数は20頭、受胎率は100%であった。
【0046】
(比較例2)
実施例2と同じ雄豚のデュロックD5を、実施例2を行う前に、ガンマ−リノレン酸の給与を行うことなく、その他の点は実施例2と同様の条件でマルニ印配合飼料マーテルにより飼育し、精液検査を実施して、その精子活力を確認した。その結果、精子活力は2、生存率は80%であった。
この精液を使用して、実施例2と同様に、大ヨークシャー(父系)−ランドレース(母系)種の雌豚20頭に対して種付けを行った。これらの雌豚は、ガンマ−リノレン酸を含有していないマルニ印配合飼料マーテルを用いて、実施例2と同様に飼育されたものである。
その結果、図3に示すように、受胎頭数は18頭、受胎率は90%であった。
【0047】
2.雄豚及び雌豚へのGLA給与効果の確認試験
(実施例3)
マルニ印配合飼料マーテルで飼育されている体重180〜200kgの雌豚の体重のランドレース−大ヨークシャー種100頭、及び大ヨークシャー−ランドレース種103頭を対象に、実施例1で採取した精液を使用して、種付けを行った。
これらの雌豚には、上記飼料にガンマ−リノレン酸を含有させて給与した。具体的には、飼料の給与量は、分娩前7日間は4kg/日であり、各雌豚の飼料に0.2wt%となるように、実施例1と同じムコール シルシネロイデス菌体を配合した。したがって、同菌体の配合量は8gであり、菌体1g中にガンマ−リノレン酸は約75mg含まれるため、菌体8gはガンマ−リノレン酸の量としては約600mgに相当し、各雌豚の体重1kgに対するガンマ−リノレン酸の給与量は、約3mgである。なお、分娩から離乳後7日までの飼料の給与量は6kg/日であり、各雌豚の飼料に0.08wt%となるようにムコール シルシネロイデス菌体を配合した。
【0048】
また、種付けは、実施例2と同様に、本交配と人口受精により行った。人口受精には、実施例1のデュロック種(D1,D2,D3,D4)の雄豚から採取して得られた精液ボトルを使用した。
その結果、図4に示すように、ランドレース−大ヨークシャー種100頭中、96頭が受胎し、大ヨークシャー−ランドレース種103頭中、100頭が受胎し、合計受胎頭数は196頭、受胎率は97%であった。試験豚の中には不妊等の個体固有の欠点を含む雌豚も存在するため、97%は最高レベルの受胎率と考えられる。また、実施例3における平均分娩回転率は、2.46であった。
【0049】
3.雌豚へのGLA給与効果の確認試験
(参考例1)
マルニ印配合飼料マーテルで飼育されている体重180〜200kgの雌豚の体重のランドレース−大ヨークシャー種44頭、及び大ヨークシャー−ランドレース種40頭を対象に、比較例1で採取された、GLAによる活性化が行われていない精液を使用して、種付けを行った。
各雌豚の飼料には、実施例3と同様に、ガンマ−リノレン酸を含有させて、分娩前7日間は毎日4kg給与した。各雌豚の体重1kgに対するガンマ−リノレン酸の給与量は、約3mgである。なお、分娩から離乳後7日までの飼料の給与量は6kg/日であり、各雌豚の飼料に0.08wt%となるようにムコール シルシネロイデス菌体を配合した。
【0050】
また、種付けは、実施例3と同様に、本交配と人口受精により行った。人口受精には、比較例1のデュロック種(D1)の雄豚から採取して得られた精液ボトルを使用した。
その結果、図4に示すように、ランドレース−大ヨークシャー種44頭中、40頭が受胎し、大ヨークシャー−ランドレース種40頭中、38頭が受胎し、合計受胎頭数は78頭、受胎率は93%であった。また、参考例1における平均分娩回転率は、2.36であった。
【0051】
(比較例3)
マルニ印配合飼料マーテルで飼育されている体重180〜200kgの雌豚のランドレース(父系)−大ヨークシャー(母系)種170頭、及び大ヨークシャー(父系)−ランドレース(母系)種170頭を対象に、比較例1で採取された、GLAによる活性化が行われていない精液を使用して、種付けを行った。
各雌豚の飼料には、ガンマ−リノレン酸を含有させなかった。分娩前7日間の飼料の給与量は4kg/日であり、分娩から離乳後7日までの飼料の給与量は6kg/日であった。
【0052】
種付けは、参考例1と同様に、本交配と人口受精により行った。人口受精には、比較例1のデュロック種(D1、D2、D3、D4)の雄豚から採取して得られた精液ボトルを使用した。
その結果、図4に示すように、ランドレース−大ヨークシャー種170頭中、140頭が受胎し、大ヨークシャー−ランドレース種170頭中、149頭が受胎し、合計受胎頭数は289頭、受胎率は85%であった。また、比較例3における平均分娩回転率は、2.15であった。
【0053】
図3の比較例2に示されるように、ガンマ−リノレン酸を給与していない雌豚に対して、ガンマ−リノレン酸を給与していない雄豚の精子を用いて種付けした場合、その受胎率は90%であった。
これに対して、実施例2に示されるように、ガンマ−リノレン酸を給与していない雌豚に対して、ガンマ−リノレン酸を給与した雄豚の精子を用いて種付けした場合、その受胎率は100%となり、10%向上している。
【0054】
また、図4の比較例3に示されるように、ガンマ−リノレン酸を給与していない雌豚に対して、ガンマ−リノレン酸を給与していない雄豚の精子を用いて種付けした場合、その受胎率は、85%であった。
これに対して、参考例1に示されるように、ガンマ−リノレン酸を給与した雌豚に対して、ガンマ−リノレン酸を給与していない雄豚の精子を用いて種付けした場合、その受胎率は93%となり、比較例3の結果に比べ8%向上している。
さらに、実施例3に示されるように、ガンマ−リノレン酸を給与した雌豚に対して、ガンマ−リノレン酸を給与した雄豚の精子を用いて種付けした場合、その受胎率は97%となり、比較例3の結果に比べ12%向上している。
【0055】
また、図4に示されるように、平均分娩回転率は、比較例3が2.15、参考例1が2.36、実施例3が2.46となっている。
【0056】
これらの受胎率及び分娩回転率にもとづいて、1000頭の母豚を飼育する農場における1年後の計算上の頭数を以下に示す。以下の計算では、母豚1頭あたりの子豚の出荷頭数を10頭とする。
比較例3の1年後の出荷頭数=1000×10×0.85×2.15=18,275頭
参考例1の1年後の出荷頭数=1000×10×0.93×2.36=21,948頭
実施例3の1年後の出荷頭数=1000×10×0.97×2.46=23,862頭
【0057】
よって、参考例1の受胎率及び分娩回転率によれば、1年後の頭数は、比較例3の場合よりも、3,673頭増加することがわかる。また、実施例3の受胎率及び分娩回転率によれば、1年後の頭数は、参考例1の場合よりも、1,914頭増加し、比較例3の場合よりも、5,587頭増加することがわかる。
【0058】
また、受胎率及び分娩回転率を向上させることで、受精が失敗することにより生じる、次回の発情まで母豚に必要な飼料給与を低減させることが可能となる。
さらに、精子活力、及び精子生存濃度が向上することにより、一頭の種雄豚から活力のある精子がより多く得られるとともに、人口受精用の精子の本数がより多く得られ、種雄の飼育頭数を減らすことも可能となり、飼育コストを低減させることが可能となる。
【0059】
本発明は、以上の実施形態や実施例に限定されるものではなく、本発明の範囲内において、種々の変更実施が可能であることは言うまでもない。
例えば、上記の実施例では、豚を使用しているが、牛や馬、鳥などの家畜でも同様に適用することが可能である。また、ヒトに対する効果も期待することができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、家畜などの動物を効率的に繁殖するために、好適に利用することが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガンマ−リノレン酸を含有することを特徴とする精子活力向上剤。
【請求項2】
ガンマ−リノレン酸を含有し、雄に給与することで、該雄の精子を種付けした雌の受胎率を向上させることを特徴とする受胎率向上剤。
【請求項3】
雄と雌の両方に給与して、雄の精子活力を向上させ、かつ、該雄の精子を種付けした雌の受胎率を向上させる請求項2記載の受胎率向上剤。
【請求項4】
家畜の雄にガンマ−リノレン酸を給与し、精子活力を向上させることを特徴とする精子活力向上方法。
【請求項5】
家畜の雄にガンマ−リノレン酸を給与し、該雄の精子を家畜の雌に種付けし、該雌の受胎率を向上させることを特徴とする受胎率向上方法。
【請求項6】
家畜の雄にガンマ−リノレン酸を給与し、雄の精子活力を向上させ、ガンマ−リノレン酸を給与した家畜の雌に該雄の精子を種付けし、該雌の受胎率を向上させることを特徴とする受胎率向上方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−32288(P2013−32288A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−241366(P2009−241366)
【出願日】平成21年10月20日(2009.10.20)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】