精密標点位置の作成治具
【課題】伸び計のロッド先端を固定する標点位置としてのくぼみを形成する際に試験片を破損させることがなく、かつ、くぼみの位置の精度の向上を図った精密標点位置の作成治具を提供する。
【解決手段】中空円筒状の試験片120に、伸び計のロッド先端を固定する標点位置としてのくぼみを形成するための精密標点位置の作成治具であって、試験片120の中空部120aに挿入され、試験片120を内面側より支持する円柱状の中子2と、試験片120の中空部120aに挿入された中子2の両端部を下方から支持する基台3と、試験片120にくぼみを形成するためのポンチ4と、基台3と中子2とに支持された試験片120の上部を覆うように設けられ、基台3に位置決めして固定され、ポンチ4を通すための貫通孔5aが形成された上蓋5とを備えたものである。
【解決手段】中空円筒状の試験片120に、伸び計のロッド先端を固定する標点位置としてのくぼみを形成するための精密標点位置の作成治具であって、試験片120の中空部120aに挿入され、試験片120を内面側より支持する円柱状の中子2と、試験片120の中空部120aに挿入された中子2の両端部を下方から支持する基台3と、試験片120にくぼみを形成するためのポンチ4と、基台3と中子2とに支持された試験片120の上部を覆うように設けられ、基台3に位置決めして固定され、ポンチ4を通すための貫通孔5aが形成された上蓋5とを備えたものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空円筒状の試験片に、伸び計のロッド先端を固定する標点位置としてのくぼみを形成するための精密標点位置の作成治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
材料の疲労特性に及ぼす多軸負荷の影響を把握するために、単軸負荷と多軸負荷の疲労試験を実施し、それらの結果を比較する必要がある。多軸強度研究に用いられる試験手法は複数あり、試験片形状や試験手法により実現できる多軸状態が異なる。
【0003】
このような多軸強度研究に用いられる試験手法の中で、図12に示すような薄肉の円筒状の試験片(薄肉円筒試験片:以下、単に試験片という)120を用い、引張・圧縮とねじりを繰返し負荷する試験は、最も多く採用されている方法である。その理由としては、試験方法が比較的簡単なこと、応力とひずみの両者を実験的に測定可能であること、応力とひずみの主軸方向を自由に変化させることができること、などが挙げられる。
【0004】
試験片120は、その軸方向中央部に薄肉の平行部(試験部)121が形成されている。平行部121の板厚tを薄くすることで、平行部121における応力やひずみの勾配を小さくでき、高精度な試験を実施できる。平行部121の板厚tは、例えば、1mmである。試験片120の両端部には、径の大きいフランジ状のつかみ部122がそれぞれ形成されている。
【0005】
試験片120でのひずみ計測方法としては、図13に示すようなレバー式の伸び計130がよく用いられる。この伸び計130は、2本のロッド131と、両ロッド131の後端部に取り付けられた計測部132と、両ロッド131を上下左右に移動自在に支持する支持部材133とを備えている。計測部132は、一方のロッド131の後端に取り付けられたL字状の第1計測部132aと、他方のロッド131の後端に取り付けられ、第1計測部132aのL字状の欠損部に配置された第2計測部132bとからなる。
【0006】
伸び計130を用いて試験片120のひずみを計測する際には、予め試験片120の平行部121に、軸方向に沿って所定間隔で標点位置となる標点部123(図14参照)を形成しておき、形成した両標点部123に、ロッド131先端を固定する。この状態で試験片120に引張や圧縮、ねじりの負荷を加え、両計測部132a,132bの図示上下方向の間隔ΔLA、図示左右方向の間隔ΔLTをそれぞれ検出することにより、両標点部123の間隔の変化(すなわち試験片120の軸方向の変形量)、両標点部123の周方向のずれ(すなわち、ねじり方向の変形量)をそれぞれ計測することができる。
【0007】
レバー式の伸び計130の両ロッド131を試験片120の標点部123に取り付ける際には、負荷によるロッド131先端のズレを防ぐために、図14(a)に示すように、試験片120の平行部121の表面にセラミックスボンドでコブ141を設けたり、あるいは、図14(b)に示すように、ポンチなどでくぼみ142を設けたりする。
【0008】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、非特許文献1がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】社団法人日本材料学会 高温強度部門委員会、「高温サイクル疲労試験法標準」、社団法人日本材料学会、平成15年6月2日、p.79−97
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、セラミックスボンドからなるコブ141は、伸び計130のロッド131先端の位置決め精度が悪く、信頼性の高いデータの取得が困難となってしまう問題がある。さらには、セラミックスボンドからなるコブ141は高温で融けてしまうため、高温環境下での試験には用いることができないという問題がある。
【0011】
したがって、標点位置を決定する標点部123としては、ポンチなどで形成したくぼみ142を用いることが望ましい。
【0012】
しかし、試験片120の平行部121にくぼみ142を設ける場合、平行部121の板厚tが薄いため、ポンチで叩打してくぼみ142を設ける際に、試験片120が破損してしまうおそれがある。
【0013】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、伸び計のロッド先端を固定する標点位置としてのくぼみを形成する際に試験片を破損させることがなく、かつ、くぼみの位置の精度の向上を図った精密標点位置の作成治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、中空円筒状の試験片に、伸び計のロッド先端を固定する標点位置として前記試験片の軸方向に沿った2つのくぼみを形成するための精密標点位置の作成治具であって、前記試験片の中空部に挿入され、前記試験片を内面側より支持する円柱状の中子と、前記試験片の中空部に挿入された前記中子の両端部を下方から支持する基台と、前記試験片に前記くぼみを形成するためのポンチと、前記基台と前記中子とに支持された試験片の上部を覆うように設けられると共に、前記基台に位置決めして固定され、前記試験片の軸方向に沿って前記ポンチを通すための2つの貫通孔が形成された上蓋とを備えた精密標点位置の作成治具である。
【0015】
また、本発明は、中空円筒状の試験片に、伸び計のロッド先端を固定する標点位置として前記試験片の軸方向の2箇所に周方向に沿ったケガキ線を形成するための精密標点位置の作成治具であって、前記試験片の中空部に挿入され、前記試験片を内面側より支持する円柱状の中子と、前記試験片の中空部に挿入された前記中子の両端部を下方から支持する基台と、前記試験片に前記ケガキ線を形成するためのケガキ針と、前記基台と前記中子とに支持された試験片の上部を覆うように設けられると共に、前記基台に位置決めして固定され、前記試験片の軸方向に沿って前記ケガキ針を通すための2つの貫通孔が形成された上蓋とを備えた精密標点位置の作成治具である。
【0016】
前記基台は、前記中子の一端部を通すための第1支持穴が形成された側壁を有する基台本体と、該基台本体と別体に形成され、前記中子の他端部を通すための第2支持穴が形成された位置決め用側壁とからなり、前記位置決め用側壁を前記基台本体の側壁側に押し付けることにより、前記試験片を前記位置決め用側壁と前記基台本体の側壁とで挟み、前記試験片を前記基台に対して位置決めするようにしてもよい。
【0017】
前記中子の両端部にネジ部を形成し、前記基台本体の側壁から突出したネジ部と、前記位置決め用側壁から突出したネジ部をナットでそれぞれ締結することで、前記側壁と前記試験片と前記位置決め用側壁とを固定するようにしてもよい。
【0018】
前記貫通孔は、その位置が前記上蓋の前記側壁側の端部を基準として決定され、前記上蓋には、前記側壁側の端部を表示するためのマークが表示されてもよい。
【0019】
前記基台と前記上蓋との位置決めは、前記基台と前記上蓋に形成した位置決め用穴に位置決め用ピンを通すことによって行われ、前記基台と前記上蓋との固定は、前記基台と前記上蓋に形成したネジ穴にボルトを螺合することによって行われてもよい。
【0020】
前記基台を前記試験片の軸方向に対して2分割して形成すると共に、該分割した基台の少なくとも一方をスライド移動可能とし、前記試験片の軸方向の長さに応じて前記基台の長さを変更可能としてもよい。
【0021】
前記中子の外周には、前記中子を前記試験片の中空部に挿入する際に前記試験片を傷つけないようにするための保護層が設けられてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、伸び計のロッド先端を固定する標点位置としてのくぼみを形成する際に試験片を破損させることがなく、かつ、くぼみの位置の精度の向上を図った精密標点位置の作成治具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態に係る精密標点位置の作成治具の側面図である。
【図2】図1の精密標点位置の作成治具に用いる中子の側面図である。
【図3】図1の精密標点位置の作成治具に用いる基台本体を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図4】図1の精密標点位置の作成治具に用いる基台の位置決め用側壁を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図5】図1の精密標点位置の作成治具に用いる上蓋を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図6】(a)〜(d)は、図1の精密標点位置の作成治具の組み立て手順を説明する図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る精密標点位置の作成治具を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図8】図7の精密標点位置の作成治具に用いる基台を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図9】図7の精密標点位置の作成治具に用いる試験片固定用部材を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図10】図7の精密標点位置の作成治具に用いる上蓋を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図11】図7の精密標点位置の作成治具に用いる上蓋固定部材を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図12】薄肉円筒試験片を示す側面図である。
【図13】伸び計を示す斜視図である。
【図14】(a)は、標点部としてコブを用いたときの拡大斜視図および部分拡大側面図であり、(b)は、標点部としてくぼみを用いたときの拡大斜視図および部分拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0025】
図1は、本実施の形態に係る精密標点位置の作成治具の側面図である。
【0026】
図1に示すように、精密標点位置の作成治具1は、中空円筒状の試験片(薄肉円筒試験片)120に、伸び計のロッド先端を固定する標点位置としてのくぼみを形成するためのものであり、試験片120の中空部120aに挿入され、試験片120を内面側より支持する円柱状の中子2と、試験片120の中空部120aに挿入された中子2の両端部を下方から支持する基台3と、試験片120に標点位置としてのくぼみを形成するための2つのポンチ(ピン)4と、基台3と中子2とに支持された試験片120の上部を覆うように設けられると共に、基台3に位置決めして固定され、ポンチ4を通すための2つの貫通孔5aが形成された上蓋5とを備えている。
【0027】
中子2、基台3、上蓋5としては、さびの生じにくい材料を用いることが好ましく、例えば、SUS304やチタンからなるものを用いるとよい。また、ポンチ4としては、試験片120よりも硬い材料を用いるとよく、例えば、SK4(工具鋼)からなるものを用いるとよい。
【0028】
ポンチ4は、円柱状に形成されると共に、その先端部が円錐形(先端先細)に形成されている。ポンチ4の先端部を試験片120に当接させ、ポンチ4の上方からハンマーなどで叩打することで、試験片120にくぼみを形成することができる。
【0029】
図2に示すように、中子2の外周には、中子2を試験片120の中空部120aに挿入する際に試験片120の内面を傷つけないようにするための保護層2aが設けられている。保護層2aは、例えば、フッ素樹脂などの熱収縮樹脂(熱硬化性樹脂)からなる。また、中子2の両端部には、ネジ部2bがそれぞれ形成される。
【0030】
基台3は、基台本体3aと、基台本体3aと別体に形成された位置決め用側壁3bとからなる。
【0031】
図3(a)〜(c)に示すように、基台本体3aは、底壁3dと底壁3dの先端部(図3(a)では左側の端部)から上方に伸びる側壁3cとからなり、側面視で略L字状に形成される。側壁3cの略中央部には、中子2の一端部を通すための第1支持穴6aが形成されている。底壁3dには、その両側面から上方に伸びる脚部3eが2対形成されている。各脚部3eの上面には、ネジ穴3fがそれぞれ形成されており、各脚部3eのうち対角に位置した脚部3e(図3(a)では左下と右上の脚部3e)の上面には、さらに、上蓋5を位置決めするための位置決め用穴3gが形成されている。
【0032】
図4(a),(b)に示すように、位置決め用側壁3bの略中央部には、中子2の他端部を通すための第2支持穴6bが形成されている。
【0033】
図5(a)〜(c)に示すように、上蓋5には、試験片120に軸方向に沿って2つのくぼみを形成するために、試験片120の軸方向に沿って2つの貫通孔5aが設けられている。貫通孔5aは、ポンチ4の径と略等しい径に形成され、試験片120の平行部121に位置するように形成される。貫通孔5aは、その位置が上蓋5の側壁3c側の端部(図5(a)では左側の端部)を基準として形成され、上蓋5には、基準となる側壁3c側の端部を表示するためのマーク5fが表示される。
【0034】
また、上蓋5には、その先端面(図5(a)では左側の面)と後端面(図5(a)では右側の面)から下方に伸びる脚部5bが形成される。両脚部5bの幅方向(図5(b)では左右方向)中央部には、上下反転したV字状の切欠き溝5cがそれぞれ形成されている。また、上蓋5の四隅近傍には、ネジ取付穴5dが形成されており、四隅のうち対角する部分(図5(a)では左下隅、右下隅の部分)には、位置決め用穴5eが形成されている。
【0035】
精密標点位置の作成治具1を組み立てる際には、まず、図6(a)に示すように、試験片120の中空部120aに、中子2を挿入する。
【0036】
その後、図6(b)に示すように、試験片120の中空部120aに挿入した中子2の一端部を、基台本体3aの側壁3cに形成された第1支持穴6aに挿入すると共に、中子2の他端部を、位置決め用側壁3bの第2支持穴6bに挿入し、位置決め用側壁3bを基台本体3aの側壁3c側に押し付けることにより、試験片120を位置決め用側壁3bと基台本体3aの側壁3cとで挟む。この状態で、両側壁3b、3cから突出した中子2の端部に形成されたネジ部2bをナット7で締結する。これにより、両側壁3b、3c間に試験片120が固定され、試験片120が基台3に対して位置決めされる。
【0037】
その後、図6(c)に示すように、基台本体3aの脚部3eの上面に形成された位置決め用穴3gに、位置決め用ピン8を差し込む。
【0038】
位置決め用穴3gに位置決め用ピン8を差し込んだ後、図6(d)に示すように、上蓋5を試験片120の上方からかぶせ、位置決め用ピン8を上蓋5の位置決め用穴5eに差し込んで、上蓋5を基台3に対して位置決めする。この状態でボルト9をネジ取付穴5d、ネジ穴3fに螺合させて、上蓋5を基台3に固定する。
【0039】
その後、上蓋5の貫通孔5aにポンチ4を通せば、図1の精密標点位置の作成治具1が得られる。ポンチ4を上方からハンマーなどで叩打することにより、試験片120に標点位置となるくぼみを形成することができる。
【0040】
本実施の形態の作用を説明する。
【0041】
本実施の形態に係る精密標点位置の作成治具1では、試験片120の中空部120aに中子2を挿入し、試験片120の中空部120aに挿入された中子2の両端部を基台3で下方から支持し、基台3と中子2とに支持された試験片120の上部を覆うように上蓋5を設けると共に、上蓋5に、試験片120に標点位置となるくぼみを形成するためのポンチ4を通す貫通孔5aを形成している。
【0042】
試験片120の中空部120aに中子2を挿入することで、中子2により試験片120を内面側から支持することが可能となり、ポンチ4を叩打してくぼみを形成する際に、試験片120が破損してしまうことがなくなる。
【0043】
また、精密標点位置の作成治具1では、試験片120を位置決め用側壁3bと基台本体3aの側壁3cとで挟んで試験片120を基台3に対して位置決めしており、さらに、中子2の両端部にネジ部2bを形成し、両側壁3b,3cから突出したネジ部2bをナット7で締結して、両側壁3b、3cと試験片120とを固定しているため、試験片120を基台3に対して精密に位置合せすることができる。
【0044】
さらに、精密標点位置の作成治具1では、基台3と上蓋5に形成した位置決め用穴3g,5eに位置決め用ピン8を通すことにより、基台3と上蓋5との位置決めを行い、基台3と上蓋5に形成したネジ穴3f、ネジ取付穴5dにボルト9を螺合することにより、基台3と上蓋5とを固定しているため、基台3に対して上蓋5を精密に位置合わせすることができ、かつ、基台3と上蓋5とを強固に固定することができる。
【0045】
さらにまた、精密標点位置の作成治具1では、上蓋5の側壁3c側の端部を基準として貫通孔5aの位置を決定し、上蓋5に側壁3c側の端部を表示するためのマーク5fを表示しているため、貫通孔5aの位置を精密に作成することができる。
【0046】
このように、精密標点位置の作成治具1によれば、基台3に対して試験片120と上蓋5とを精密に位置合せでき、かつ、ポンチ4を通す貫通孔5aの位置を精密に作成できるので、各部材の組合せ寸法公差を高精度にすることで、試験片120に形成するくぼみの位置、すなわち標点位置を高精度で作成することが可能となる。
【0047】
また、精密標点位置の作成治具1では、中子2の外周に保護層2aを設けているため、中子2を試験片120の中空部120aに挿入する際に、試験片120を傷つけてしまうおそれがない。
【0048】
本発明の他の実施の形態を説明する。
【0049】
図7(a)〜(c)に示す精密標点位置の作成治具71は、基台72を試験片120の軸方向に対して2分割して形成し、分割した基台72の一方をスライド移動可能としたものである。
【0050】
より具体的には、精密標点位置の作成治具71の基台72は、固定側基台72aと、移動側基台72bとからなり、両基台72a,72bは、レール73上にスライド移動可能に設けられたリニアガイド79a,79bにそれぞれ載置されている。固定側基台72aが載置されたリニアガイド79aは、ストッパ80により固定されており、移動側基台72bが載置されたリニアガイド79bのみがスライド移動可能とされている。
【0051】
両基台72a,72bには、支持ボルト74がそれぞれ設けられており、この支持ボルト74により、試験片120の中空部120aに挿入した中子2の端部を支持するようにされている。試験片120は、両基台72a,72bをまたぐように配置される。
【0052】
支持ボルト74、中子2に支持された試験片120の上方には、上蓋75が設けられる。上蓋75は、その長さ(図7(a)では左右方向の長さ)が試験片120の軸方向の長さより短く形成され、その幅が両基台72a,72bの幅と等しく形成されている。
【0053】
上蓋75の両側面の先端部(図7(a)では左側)と後端部(図7(a)では右側)には、上蓋75から下方に延びる上蓋固定用部材76が設けられる。先端側に設けられた上蓋固定用部材76の下端部は、固定側基台72aの側面に固定される。後端側に設けられた上蓋固定用部材76の下端部は、移動側基台72aの側面に固定される。また、上蓋75は、ボルト9により両基台72a,72bに固定される。つまり、上蓋75は、上蓋固定用部材76とボルト9により、両基台72a,72bに固定される。なお、図7(c)では、図の簡略化のため、上蓋固定用部材76を省略している。
【0054】
固定側基台72aには、試験片120のつかみ部122を固定するための試験片固定用部材78が設けられる。精密標点位置の作成治具71では、試験片120のつかみ部122を試験片固定用部材78で固定側基台72aに固定すると共に、試験片120のつかみ部122を試験片固定用部材78と上蓋75とで挟むことにより、試験片120と上蓋75の位置合せを行うようにしている。つまり、精密標点位置の作成治具71では、試験片固定用部材78を固定側基台72aに固定し、上蓋75にて試験片120を固定側基台72a側(試験片固定用部材78側)に押し付けることにより、試験片120と上蓋75の位置合せを行うようにしている。なお、図7(b)では、図の簡略化のため、試験片120のつかみ部122、及び試験片固定用部材78を省略している。
【0055】
図8(a)〜(c)に示すように、基台72(固定側基台72a、移動側基台72b)の幅方向中央部には、V字状の切欠き溝73が形成されており、その切欠き溝73の幅方向中央部には、支持ボルト74を取り付けるための支持ボルト用ネジ穴72cが形成されている。また、基台72には、ボルト9を取り付けるためのネジ穴72dと、試験片固定用部材78を取り付けるための側壁固定用部材取付穴72eとが形成されている。基台72の側面には、上蓋固定用部材76を固定するための上蓋固定用部材取付穴72fが形成されている。
【0056】
図9(a),(b)に示すように、試験片固定用部材78は、平面視で略コ字状に形成されており、該コ字状の欠損部78bに試験片120のつかみ部122を嵌め込むようになっている。また、試験片固定用部材78の両側部には取付穴78aが形成されており、取付穴78aを通して固定側基台72aの側壁固定用部材取付穴72eにボルトを螺合することで、試験片固定用部材78が固定側基台72aに取り付けられる。
【0057】
図10(a),(b)に示すように、上蓋75は、その四隅近傍にネジ取付穴75aが形成されており、ネジ取付穴75aを介してボルト9を両基台72a,72bのネジ穴72dに螺合することにより、両基台72a,72bをまたぐようにして両基台72a,72bに固定される。
【0058】
図11(a),(b)に示すように、上蓋固定用部材76は、その下端部に取付穴76aが形成されており、取付穴76aを介してボルトを基台72の上蓋固定用部材取付穴72fに螺合することで、基台72に取り付けられる。
【0059】
精密標点位置の作成治具71によれば、試験片120の軸方向の長さに応じて基台72の長さ(固定側基台72aと移動側基台72bとの間隔)を変更することが可能となり、汎用性を向上させることが可能となる。
【0060】
なお、上蓋75は、試験片120の軸方向の長さに応じてその都度作成するようにしてもよいし、任意の間隔で複数のネジ取付穴75aおよび貫通孔5aを形成しておき、使用するネジ取付穴75a、貫通孔5aを適宜選択することで、試験片120の軸方向の長さに対応するようにしてもよい。
【0061】
上記実施の形態では、ポンチ4を用いて標点位置としてのくぼみを形成する場合を説明したが、これに限らず、ポンチ4に替えてケガキ針を貫通孔5aに通し、試験片120を回転させることで、試験片120の軸方向の2箇所に、標点位置としての周方向に沿ったケガキ線(細い溝)を形成するようにしてもよい。これにより、伸び計のロッド先端を標点位置であるケガキ線に固定する際に、伸び計のロッド先端を試験片120の周方向に規制されないようにすることができる。
【0062】
また、上記実施の形態では、試験片として中空円筒状の試験片120を用いたが、これに限らず、中実の試験片を用いることも当然可能である。この場合、中子を省略して、基台の表面で試験片を支持するようにすればよい。
【0063】
このように、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0064】
1 精密標点位置の作成治具
2 中子
3 基台
4 ポンチ
5 上蓋
5a 貫通孔
120 試験片
120a 中空部
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空円筒状の試験片に、伸び計のロッド先端を固定する標点位置としてのくぼみを形成するための精密標点位置の作成治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
材料の疲労特性に及ぼす多軸負荷の影響を把握するために、単軸負荷と多軸負荷の疲労試験を実施し、それらの結果を比較する必要がある。多軸強度研究に用いられる試験手法は複数あり、試験片形状や試験手法により実現できる多軸状態が異なる。
【0003】
このような多軸強度研究に用いられる試験手法の中で、図12に示すような薄肉の円筒状の試験片(薄肉円筒試験片:以下、単に試験片という)120を用い、引張・圧縮とねじりを繰返し負荷する試験は、最も多く採用されている方法である。その理由としては、試験方法が比較的簡単なこと、応力とひずみの両者を実験的に測定可能であること、応力とひずみの主軸方向を自由に変化させることができること、などが挙げられる。
【0004】
試験片120は、その軸方向中央部に薄肉の平行部(試験部)121が形成されている。平行部121の板厚tを薄くすることで、平行部121における応力やひずみの勾配を小さくでき、高精度な試験を実施できる。平行部121の板厚tは、例えば、1mmである。試験片120の両端部には、径の大きいフランジ状のつかみ部122がそれぞれ形成されている。
【0005】
試験片120でのひずみ計測方法としては、図13に示すようなレバー式の伸び計130がよく用いられる。この伸び計130は、2本のロッド131と、両ロッド131の後端部に取り付けられた計測部132と、両ロッド131を上下左右に移動自在に支持する支持部材133とを備えている。計測部132は、一方のロッド131の後端に取り付けられたL字状の第1計測部132aと、他方のロッド131の後端に取り付けられ、第1計測部132aのL字状の欠損部に配置された第2計測部132bとからなる。
【0006】
伸び計130を用いて試験片120のひずみを計測する際には、予め試験片120の平行部121に、軸方向に沿って所定間隔で標点位置となる標点部123(図14参照)を形成しておき、形成した両標点部123に、ロッド131先端を固定する。この状態で試験片120に引張や圧縮、ねじりの負荷を加え、両計測部132a,132bの図示上下方向の間隔ΔLA、図示左右方向の間隔ΔLTをそれぞれ検出することにより、両標点部123の間隔の変化(すなわち試験片120の軸方向の変形量)、両標点部123の周方向のずれ(すなわち、ねじり方向の変形量)をそれぞれ計測することができる。
【0007】
レバー式の伸び計130の両ロッド131を試験片120の標点部123に取り付ける際には、負荷によるロッド131先端のズレを防ぐために、図14(a)に示すように、試験片120の平行部121の表面にセラミックスボンドでコブ141を設けたり、あるいは、図14(b)に示すように、ポンチなどでくぼみ142を設けたりする。
【0008】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、非特許文献1がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】社団法人日本材料学会 高温強度部門委員会、「高温サイクル疲労試験法標準」、社団法人日本材料学会、平成15年6月2日、p.79−97
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、セラミックスボンドからなるコブ141は、伸び計130のロッド131先端の位置決め精度が悪く、信頼性の高いデータの取得が困難となってしまう問題がある。さらには、セラミックスボンドからなるコブ141は高温で融けてしまうため、高温環境下での試験には用いることができないという問題がある。
【0011】
したがって、標点位置を決定する標点部123としては、ポンチなどで形成したくぼみ142を用いることが望ましい。
【0012】
しかし、試験片120の平行部121にくぼみ142を設ける場合、平行部121の板厚tが薄いため、ポンチで叩打してくぼみ142を設ける際に、試験片120が破損してしまうおそれがある。
【0013】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、伸び計のロッド先端を固定する標点位置としてのくぼみを形成する際に試験片を破損させることがなく、かつ、くぼみの位置の精度の向上を図った精密標点位置の作成治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、中空円筒状の試験片に、伸び計のロッド先端を固定する標点位置として前記試験片の軸方向に沿った2つのくぼみを形成するための精密標点位置の作成治具であって、前記試験片の中空部に挿入され、前記試験片を内面側より支持する円柱状の中子と、前記試験片の中空部に挿入された前記中子の両端部を下方から支持する基台と、前記試験片に前記くぼみを形成するためのポンチと、前記基台と前記中子とに支持された試験片の上部を覆うように設けられると共に、前記基台に位置決めして固定され、前記試験片の軸方向に沿って前記ポンチを通すための2つの貫通孔が形成された上蓋とを備えた精密標点位置の作成治具である。
【0015】
また、本発明は、中空円筒状の試験片に、伸び計のロッド先端を固定する標点位置として前記試験片の軸方向の2箇所に周方向に沿ったケガキ線を形成するための精密標点位置の作成治具であって、前記試験片の中空部に挿入され、前記試験片を内面側より支持する円柱状の中子と、前記試験片の中空部に挿入された前記中子の両端部を下方から支持する基台と、前記試験片に前記ケガキ線を形成するためのケガキ針と、前記基台と前記中子とに支持された試験片の上部を覆うように設けられると共に、前記基台に位置決めして固定され、前記試験片の軸方向に沿って前記ケガキ針を通すための2つの貫通孔が形成された上蓋とを備えた精密標点位置の作成治具である。
【0016】
前記基台は、前記中子の一端部を通すための第1支持穴が形成された側壁を有する基台本体と、該基台本体と別体に形成され、前記中子の他端部を通すための第2支持穴が形成された位置決め用側壁とからなり、前記位置決め用側壁を前記基台本体の側壁側に押し付けることにより、前記試験片を前記位置決め用側壁と前記基台本体の側壁とで挟み、前記試験片を前記基台に対して位置決めするようにしてもよい。
【0017】
前記中子の両端部にネジ部を形成し、前記基台本体の側壁から突出したネジ部と、前記位置決め用側壁から突出したネジ部をナットでそれぞれ締結することで、前記側壁と前記試験片と前記位置決め用側壁とを固定するようにしてもよい。
【0018】
前記貫通孔は、その位置が前記上蓋の前記側壁側の端部を基準として決定され、前記上蓋には、前記側壁側の端部を表示するためのマークが表示されてもよい。
【0019】
前記基台と前記上蓋との位置決めは、前記基台と前記上蓋に形成した位置決め用穴に位置決め用ピンを通すことによって行われ、前記基台と前記上蓋との固定は、前記基台と前記上蓋に形成したネジ穴にボルトを螺合することによって行われてもよい。
【0020】
前記基台を前記試験片の軸方向に対して2分割して形成すると共に、該分割した基台の少なくとも一方をスライド移動可能とし、前記試験片の軸方向の長さに応じて前記基台の長さを変更可能としてもよい。
【0021】
前記中子の外周には、前記中子を前記試験片の中空部に挿入する際に前記試験片を傷つけないようにするための保護層が設けられてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、伸び計のロッド先端を固定する標点位置としてのくぼみを形成する際に試験片を破損させることがなく、かつ、くぼみの位置の精度の向上を図った精密標点位置の作成治具を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態に係る精密標点位置の作成治具の側面図である。
【図2】図1の精密標点位置の作成治具に用いる中子の側面図である。
【図3】図1の精密標点位置の作成治具に用いる基台本体を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図4】図1の精密標点位置の作成治具に用いる基台の位置決め用側壁を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図5】図1の精密標点位置の作成治具に用いる上蓋を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図6】(a)〜(d)は、図1の精密標点位置の作成治具の組み立て手順を説明する図である。
【図7】本発明の一実施の形態に係る精密標点位置の作成治具を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図8】図7の精密標点位置の作成治具に用いる基台を示す図であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図9】図7の精密標点位置の作成治具に用いる試験片固定用部材を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図10】図7の精密標点位置の作成治具に用いる上蓋を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図11】図7の精密標点位置の作成治具に用いる上蓋固定部材を示す図であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図12】薄肉円筒試験片を示す側面図である。
【図13】伸び計を示す斜視図である。
【図14】(a)は、標点部としてコブを用いたときの拡大斜視図および部分拡大側面図であり、(b)は、標点部としてくぼみを用いたときの拡大斜視図および部分拡大側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の好適な実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0025】
図1は、本実施の形態に係る精密標点位置の作成治具の側面図である。
【0026】
図1に示すように、精密標点位置の作成治具1は、中空円筒状の試験片(薄肉円筒試験片)120に、伸び計のロッド先端を固定する標点位置としてのくぼみを形成するためのものであり、試験片120の中空部120aに挿入され、試験片120を内面側より支持する円柱状の中子2と、試験片120の中空部120aに挿入された中子2の両端部を下方から支持する基台3と、試験片120に標点位置としてのくぼみを形成するための2つのポンチ(ピン)4と、基台3と中子2とに支持された試験片120の上部を覆うように設けられると共に、基台3に位置決めして固定され、ポンチ4を通すための2つの貫通孔5aが形成された上蓋5とを備えている。
【0027】
中子2、基台3、上蓋5としては、さびの生じにくい材料を用いることが好ましく、例えば、SUS304やチタンからなるものを用いるとよい。また、ポンチ4としては、試験片120よりも硬い材料を用いるとよく、例えば、SK4(工具鋼)からなるものを用いるとよい。
【0028】
ポンチ4は、円柱状に形成されると共に、その先端部が円錐形(先端先細)に形成されている。ポンチ4の先端部を試験片120に当接させ、ポンチ4の上方からハンマーなどで叩打することで、試験片120にくぼみを形成することができる。
【0029】
図2に示すように、中子2の外周には、中子2を試験片120の中空部120aに挿入する際に試験片120の内面を傷つけないようにするための保護層2aが設けられている。保護層2aは、例えば、フッ素樹脂などの熱収縮樹脂(熱硬化性樹脂)からなる。また、中子2の両端部には、ネジ部2bがそれぞれ形成される。
【0030】
基台3は、基台本体3aと、基台本体3aと別体に形成された位置決め用側壁3bとからなる。
【0031】
図3(a)〜(c)に示すように、基台本体3aは、底壁3dと底壁3dの先端部(図3(a)では左側の端部)から上方に伸びる側壁3cとからなり、側面視で略L字状に形成される。側壁3cの略中央部には、中子2の一端部を通すための第1支持穴6aが形成されている。底壁3dには、その両側面から上方に伸びる脚部3eが2対形成されている。各脚部3eの上面には、ネジ穴3fがそれぞれ形成されており、各脚部3eのうち対角に位置した脚部3e(図3(a)では左下と右上の脚部3e)の上面には、さらに、上蓋5を位置決めするための位置決め用穴3gが形成されている。
【0032】
図4(a),(b)に示すように、位置決め用側壁3bの略中央部には、中子2の他端部を通すための第2支持穴6bが形成されている。
【0033】
図5(a)〜(c)に示すように、上蓋5には、試験片120に軸方向に沿って2つのくぼみを形成するために、試験片120の軸方向に沿って2つの貫通孔5aが設けられている。貫通孔5aは、ポンチ4の径と略等しい径に形成され、試験片120の平行部121に位置するように形成される。貫通孔5aは、その位置が上蓋5の側壁3c側の端部(図5(a)では左側の端部)を基準として形成され、上蓋5には、基準となる側壁3c側の端部を表示するためのマーク5fが表示される。
【0034】
また、上蓋5には、その先端面(図5(a)では左側の面)と後端面(図5(a)では右側の面)から下方に伸びる脚部5bが形成される。両脚部5bの幅方向(図5(b)では左右方向)中央部には、上下反転したV字状の切欠き溝5cがそれぞれ形成されている。また、上蓋5の四隅近傍には、ネジ取付穴5dが形成されており、四隅のうち対角する部分(図5(a)では左下隅、右下隅の部分)には、位置決め用穴5eが形成されている。
【0035】
精密標点位置の作成治具1を組み立てる際には、まず、図6(a)に示すように、試験片120の中空部120aに、中子2を挿入する。
【0036】
その後、図6(b)に示すように、試験片120の中空部120aに挿入した中子2の一端部を、基台本体3aの側壁3cに形成された第1支持穴6aに挿入すると共に、中子2の他端部を、位置決め用側壁3bの第2支持穴6bに挿入し、位置決め用側壁3bを基台本体3aの側壁3c側に押し付けることにより、試験片120を位置決め用側壁3bと基台本体3aの側壁3cとで挟む。この状態で、両側壁3b、3cから突出した中子2の端部に形成されたネジ部2bをナット7で締結する。これにより、両側壁3b、3c間に試験片120が固定され、試験片120が基台3に対して位置決めされる。
【0037】
その後、図6(c)に示すように、基台本体3aの脚部3eの上面に形成された位置決め用穴3gに、位置決め用ピン8を差し込む。
【0038】
位置決め用穴3gに位置決め用ピン8を差し込んだ後、図6(d)に示すように、上蓋5を試験片120の上方からかぶせ、位置決め用ピン8を上蓋5の位置決め用穴5eに差し込んで、上蓋5を基台3に対して位置決めする。この状態でボルト9をネジ取付穴5d、ネジ穴3fに螺合させて、上蓋5を基台3に固定する。
【0039】
その後、上蓋5の貫通孔5aにポンチ4を通せば、図1の精密標点位置の作成治具1が得られる。ポンチ4を上方からハンマーなどで叩打することにより、試験片120に標点位置となるくぼみを形成することができる。
【0040】
本実施の形態の作用を説明する。
【0041】
本実施の形態に係る精密標点位置の作成治具1では、試験片120の中空部120aに中子2を挿入し、試験片120の中空部120aに挿入された中子2の両端部を基台3で下方から支持し、基台3と中子2とに支持された試験片120の上部を覆うように上蓋5を設けると共に、上蓋5に、試験片120に標点位置となるくぼみを形成するためのポンチ4を通す貫通孔5aを形成している。
【0042】
試験片120の中空部120aに中子2を挿入することで、中子2により試験片120を内面側から支持することが可能となり、ポンチ4を叩打してくぼみを形成する際に、試験片120が破損してしまうことがなくなる。
【0043】
また、精密標点位置の作成治具1では、試験片120を位置決め用側壁3bと基台本体3aの側壁3cとで挟んで試験片120を基台3に対して位置決めしており、さらに、中子2の両端部にネジ部2bを形成し、両側壁3b,3cから突出したネジ部2bをナット7で締結して、両側壁3b、3cと試験片120とを固定しているため、試験片120を基台3に対して精密に位置合せすることができる。
【0044】
さらに、精密標点位置の作成治具1では、基台3と上蓋5に形成した位置決め用穴3g,5eに位置決め用ピン8を通すことにより、基台3と上蓋5との位置決めを行い、基台3と上蓋5に形成したネジ穴3f、ネジ取付穴5dにボルト9を螺合することにより、基台3と上蓋5とを固定しているため、基台3に対して上蓋5を精密に位置合わせすることができ、かつ、基台3と上蓋5とを強固に固定することができる。
【0045】
さらにまた、精密標点位置の作成治具1では、上蓋5の側壁3c側の端部を基準として貫通孔5aの位置を決定し、上蓋5に側壁3c側の端部を表示するためのマーク5fを表示しているため、貫通孔5aの位置を精密に作成することができる。
【0046】
このように、精密標点位置の作成治具1によれば、基台3に対して試験片120と上蓋5とを精密に位置合せでき、かつ、ポンチ4を通す貫通孔5aの位置を精密に作成できるので、各部材の組合せ寸法公差を高精度にすることで、試験片120に形成するくぼみの位置、すなわち標点位置を高精度で作成することが可能となる。
【0047】
また、精密標点位置の作成治具1では、中子2の外周に保護層2aを設けているため、中子2を試験片120の中空部120aに挿入する際に、試験片120を傷つけてしまうおそれがない。
【0048】
本発明の他の実施の形態を説明する。
【0049】
図7(a)〜(c)に示す精密標点位置の作成治具71は、基台72を試験片120の軸方向に対して2分割して形成し、分割した基台72の一方をスライド移動可能としたものである。
【0050】
より具体的には、精密標点位置の作成治具71の基台72は、固定側基台72aと、移動側基台72bとからなり、両基台72a,72bは、レール73上にスライド移動可能に設けられたリニアガイド79a,79bにそれぞれ載置されている。固定側基台72aが載置されたリニアガイド79aは、ストッパ80により固定されており、移動側基台72bが載置されたリニアガイド79bのみがスライド移動可能とされている。
【0051】
両基台72a,72bには、支持ボルト74がそれぞれ設けられており、この支持ボルト74により、試験片120の中空部120aに挿入した中子2の端部を支持するようにされている。試験片120は、両基台72a,72bをまたぐように配置される。
【0052】
支持ボルト74、中子2に支持された試験片120の上方には、上蓋75が設けられる。上蓋75は、その長さ(図7(a)では左右方向の長さ)が試験片120の軸方向の長さより短く形成され、その幅が両基台72a,72bの幅と等しく形成されている。
【0053】
上蓋75の両側面の先端部(図7(a)では左側)と後端部(図7(a)では右側)には、上蓋75から下方に延びる上蓋固定用部材76が設けられる。先端側に設けられた上蓋固定用部材76の下端部は、固定側基台72aの側面に固定される。後端側に設けられた上蓋固定用部材76の下端部は、移動側基台72aの側面に固定される。また、上蓋75は、ボルト9により両基台72a,72bに固定される。つまり、上蓋75は、上蓋固定用部材76とボルト9により、両基台72a,72bに固定される。なお、図7(c)では、図の簡略化のため、上蓋固定用部材76を省略している。
【0054】
固定側基台72aには、試験片120のつかみ部122を固定するための試験片固定用部材78が設けられる。精密標点位置の作成治具71では、試験片120のつかみ部122を試験片固定用部材78で固定側基台72aに固定すると共に、試験片120のつかみ部122を試験片固定用部材78と上蓋75とで挟むことにより、試験片120と上蓋75の位置合せを行うようにしている。つまり、精密標点位置の作成治具71では、試験片固定用部材78を固定側基台72aに固定し、上蓋75にて試験片120を固定側基台72a側(試験片固定用部材78側)に押し付けることにより、試験片120と上蓋75の位置合せを行うようにしている。なお、図7(b)では、図の簡略化のため、試験片120のつかみ部122、及び試験片固定用部材78を省略している。
【0055】
図8(a)〜(c)に示すように、基台72(固定側基台72a、移動側基台72b)の幅方向中央部には、V字状の切欠き溝73が形成されており、その切欠き溝73の幅方向中央部には、支持ボルト74を取り付けるための支持ボルト用ネジ穴72cが形成されている。また、基台72には、ボルト9を取り付けるためのネジ穴72dと、試験片固定用部材78を取り付けるための側壁固定用部材取付穴72eとが形成されている。基台72の側面には、上蓋固定用部材76を固定するための上蓋固定用部材取付穴72fが形成されている。
【0056】
図9(a),(b)に示すように、試験片固定用部材78は、平面視で略コ字状に形成されており、該コ字状の欠損部78bに試験片120のつかみ部122を嵌め込むようになっている。また、試験片固定用部材78の両側部には取付穴78aが形成されており、取付穴78aを通して固定側基台72aの側壁固定用部材取付穴72eにボルトを螺合することで、試験片固定用部材78が固定側基台72aに取り付けられる。
【0057】
図10(a),(b)に示すように、上蓋75は、その四隅近傍にネジ取付穴75aが形成されており、ネジ取付穴75aを介してボルト9を両基台72a,72bのネジ穴72dに螺合することにより、両基台72a,72bをまたぐようにして両基台72a,72bに固定される。
【0058】
図11(a),(b)に示すように、上蓋固定用部材76は、その下端部に取付穴76aが形成されており、取付穴76aを介してボルトを基台72の上蓋固定用部材取付穴72fに螺合することで、基台72に取り付けられる。
【0059】
精密標点位置の作成治具71によれば、試験片120の軸方向の長さに応じて基台72の長さ(固定側基台72aと移動側基台72bとの間隔)を変更することが可能となり、汎用性を向上させることが可能となる。
【0060】
なお、上蓋75は、試験片120の軸方向の長さに応じてその都度作成するようにしてもよいし、任意の間隔で複数のネジ取付穴75aおよび貫通孔5aを形成しておき、使用するネジ取付穴75a、貫通孔5aを適宜選択することで、試験片120の軸方向の長さに対応するようにしてもよい。
【0061】
上記実施の形態では、ポンチ4を用いて標点位置としてのくぼみを形成する場合を説明したが、これに限らず、ポンチ4に替えてケガキ針を貫通孔5aに通し、試験片120を回転させることで、試験片120の軸方向の2箇所に、標点位置としての周方向に沿ったケガキ線(細い溝)を形成するようにしてもよい。これにより、伸び計のロッド先端を標点位置であるケガキ線に固定する際に、伸び計のロッド先端を試験片120の周方向に規制されないようにすることができる。
【0062】
また、上記実施の形態では、試験片として中空円筒状の試験片120を用いたが、これに限らず、中実の試験片を用いることも当然可能である。この場合、中子を省略して、基台の表面で試験片を支持するようにすればよい。
【0063】
このように、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0064】
1 精密標点位置の作成治具
2 中子
3 基台
4 ポンチ
5 上蓋
5a 貫通孔
120 試験片
120a 中空部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空円筒状の試験片に、伸び計のロッド先端を固定する標点位置として前記試験片の軸方向に沿った2つのくぼみを形成するための精密標点位置の作成治具であって、
前記試験片の中空部に挿入され、前記試験片を内面側より支持する円柱状の中子と、前記試験片の中空部に挿入された前記中子の両端部を下方から支持する基台と、前記試験片に前記くぼみを形成するためのポンチと、前記基台と前記中子とに支持された試験片の上部を覆うように設けられると共に、前記基台に位置決めして固定され、前記試験片の軸方向に沿って前記ポンチを通すための2つの貫通孔が形成された上蓋とを備えたことを特徴とする精密標点位置の作成治具。
【請求項2】
中空円筒状の試験片に、伸び計のロッド先端を固定する標点位置として前記試験片の軸方向の2箇所に周方向に沿ったケガキ線を形成するための精密標点位置の作成治具であって、
前記試験片の中空部に挿入され、前記試験片を内面側より支持する円柱状の中子と、前記試験片の中空部に挿入された前記中子の両端部を下方から支持する基台と、前記試験片に前記ケガキ線を形成するためのケガキ針と、前記基台と前記中子とに支持された試験片の上部を覆うように設けられると共に、前記基台に位置決めして固定され、前記試験片の軸方向に沿って前記ケガキ針を通すための2つの貫通孔が形成された上蓋とを備えたことを特徴とする精密標点位置の作成治具。
【請求項3】
前記基台は、前記中子の一端部を通すための第1支持穴が形成された側壁を有する基台本体と、該基台本体と別体に形成され、前記中子の他端部を通すための第2支持穴が形成された位置決め用側壁とからなり、前記位置決め用側壁を前記基台本体の側壁側に押し付けることにより、前記試験片を前記位置決め用側壁と前記基台本体の側壁とで挟み、前記試験片を前記基台に対して位置決めするようにした請求項1または2記載の精密標点位置の作成治具。
【請求項4】
前記中子の両端部にネジ部を形成し、前記基台本体の側壁から突出したネジ部と、前記位置決め用側壁から突出したネジ部をナットでそれぞれ締結することで、前記側壁と前記試験片と前記位置決め用側壁とを固定するようにした請求項3記載の精密標点位置の作成治具。
【請求項5】
前記貫通孔は、その位置が前記上蓋の前記側壁側の端部を基準として決定され、前記上蓋には、前記側壁側の端部を表示するためのマークが表示される請求項3または4記載の精密標点位置の作成治具。
【請求項6】
前記基台と前記上蓋との位置決めは、前記基台と前記上蓋に形成した位置決め用穴に位置決め用ピンを通すことによって行われ、前記基台と前記上蓋との固定は、前記基台と前記上蓋に形成したネジ穴にボルトを螺合することによって行われる請求項1〜5いずれかに記載の精密標点位置の作成治具。
【請求項7】
前記基台を前記試験片の軸方向に対して2分割して形成すると共に、該分割した基台の少なくとも一方をスライド移動可能とし、前記試験片の軸方向の長さに応じて前記基台の長さを変更可能とした請求項1または2記載の精密標点位置の作成治具。
【請求項8】
前記中子の外周には、前記中子を前記試験片の中空部に挿入する際に前記試験片を傷つけないようにするための保護層が設けられる請求項1〜7いずれかに記載の精密標点位置の作成治具。
【請求項1】
中空円筒状の試験片に、伸び計のロッド先端を固定する標点位置として前記試験片の軸方向に沿った2つのくぼみを形成するための精密標点位置の作成治具であって、
前記試験片の中空部に挿入され、前記試験片を内面側より支持する円柱状の中子と、前記試験片の中空部に挿入された前記中子の両端部を下方から支持する基台と、前記試験片に前記くぼみを形成するためのポンチと、前記基台と前記中子とに支持された試験片の上部を覆うように設けられると共に、前記基台に位置決めして固定され、前記試験片の軸方向に沿って前記ポンチを通すための2つの貫通孔が形成された上蓋とを備えたことを特徴とする精密標点位置の作成治具。
【請求項2】
中空円筒状の試験片に、伸び計のロッド先端を固定する標点位置として前記試験片の軸方向の2箇所に周方向に沿ったケガキ線を形成するための精密標点位置の作成治具であって、
前記試験片の中空部に挿入され、前記試験片を内面側より支持する円柱状の中子と、前記試験片の中空部に挿入された前記中子の両端部を下方から支持する基台と、前記試験片に前記ケガキ線を形成するためのケガキ針と、前記基台と前記中子とに支持された試験片の上部を覆うように設けられると共に、前記基台に位置決めして固定され、前記試験片の軸方向に沿って前記ケガキ針を通すための2つの貫通孔が形成された上蓋とを備えたことを特徴とする精密標点位置の作成治具。
【請求項3】
前記基台は、前記中子の一端部を通すための第1支持穴が形成された側壁を有する基台本体と、該基台本体と別体に形成され、前記中子の他端部を通すための第2支持穴が形成された位置決め用側壁とからなり、前記位置決め用側壁を前記基台本体の側壁側に押し付けることにより、前記試験片を前記位置決め用側壁と前記基台本体の側壁とで挟み、前記試験片を前記基台に対して位置決めするようにした請求項1または2記載の精密標点位置の作成治具。
【請求項4】
前記中子の両端部にネジ部を形成し、前記基台本体の側壁から突出したネジ部と、前記位置決め用側壁から突出したネジ部をナットでそれぞれ締結することで、前記側壁と前記試験片と前記位置決め用側壁とを固定するようにした請求項3記載の精密標点位置の作成治具。
【請求項5】
前記貫通孔は、その位置が前記上蓋の前記側壁側の端部を基準として決定され、前記上蓋には、前記側壁側の端部を表示するためのマークが表示される請求項3または4記載の精密標点位置の作成治具。
【請求項6】
前記基台と前記上蓋との位置決めは、前記基台と前記上蓋に形成した位置決め用穴に位置決め用ピンを通すことによって行われ、前記基台と前記上蓋との固定は、前記基台と前記上蓋に形成したネジ穴にボルトを螺合することによって行われる請求項1〜5いずれかに記載の精密標点位置の作成治具。
【請求項7】
前記基台を前記試験片の軸方向に対して2分割して形成すると共に、該分割した基台の少なくとも一方をスライド移動可能とし、前記試験片の軸方向の長さに応じて前記基台の長さを変更可能とした請求項1または2記載の精密標点位置の作成治具。
【請求項8】
前記中子の外周には、前記中子を前記試験片の中空部に挿入する際に前記試験片を傷つけないようにするための保護層が設けられる請求項1〜7いずれかに記載の精密標点位置の作成治具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2011−99830(P2011−99830A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−256368(P2009−256368)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】
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