説明

精密部材収納容器

【課題】 アウトガスがより少なく、静電気によるパーティクルの付着がより少ない、精密部材収納容器を提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂100質量部に対して、導電性化合物を1〜10質量部含有した導電性樹脂からなり、前記導電性樹脂は、80℃にて60分放置した時に熱脱離する揮発性有機ガスの総発生ガス量が0.3ppm以下であり、表面抵抗値が103〜108Ωであることを特徴とする。熱可塑性樹脂が粘度平均分子量10000〜30000のポリカーボネート樹脂であり、導電性化合物がDBP吸油量が300cm3/100g以上、BET比表面積が500m2/g以上の導電性カーボンブラックであること、前記ポリカーボネート樹脂は、ペレット2gを100mlの超純水に入れ、50℃で3時間加熱した時に溶出するイオンの溶出液濃度の総量が8ppb以下であること、また、前記ポリカーボネート樹脂は、安定剤及び離型剤の添加量がが500ppm以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ICやLSI等の半導体部品の製造に使用されるフォトマスクやレチクル(以下、マスクと総称する)、あるいはこれらの表面への異物の付着を防止するために使用されるペリクルフレーム、シリコンウェーハやガラスからなる薄板基板等の精密部材を収納するための精密部材収納容器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の精密部材収納容器は、1又は複数枚の精密基板を収納して支持する棚部や載置部を備えた容器本体と、この容器本体の開口部をシール可能に被覆するとともに精密部材を容器本体の載置部との間で固定して保持する蓋体と、容器本体と蓋体とを係止するための係止手段とを備えたものが使用されていた。
【0003】
従来、蓋体は内部に収納される精密部材を外部から視認できるように透明性の材料から形成され、容器本体は不透明性の材料で形成されることが多かった。
そのため、これらの原材料としては、親水性のポリマーを分散させて帯電防止性が付与されたアクリル樹脂やABS樹脂等が使用されていた(特許文献1参照)。
また、基板収納容器内部での基板の保管中に揮発性有機ガス(以下、単にアウトガスという)の発生を防止するために、ガスバリア被膜を収納容器内部に設けたものも提案されていた(特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特開平8−110631号公報
【特許文献2】特開2002−46793号公報
【0005】
上記したような精密部材を使用して生産される半導体部品は、最近の益々の小型化、薄肉化に伴ない、電子回路の狭ピッチ化も進んでいる。そのため、従来問題にならなかった微小なパーティクルや有機物による汚染が深刻な問題となってきた。
そこで、精密部材を搬送する容器においても、よりクリーンな環境が求められるようになってきた。特には、精密部材を容器に保管中に、容器から発生するアウトガスが精密部材を汚染し、それが原因で半導体部品の生産歩留や製品性能に悪影響を及ぼすことが懸念されてきた。
【0006】
親水性ポリマーを添加した従来の精密部材収納容器では、容器の材料から発生するアウトガスが多く、こうした問題に対応することが難しかった。また、ガスバリア被膜を精密部材収納容器に設ける場合、スパッタリングや蒸着などの複雑で高価な装置を用いた工程を経なければならないので、非常に生産性が悪くなり、コストも大幅に増加するので、あまり実用的ではなかった。
特には、300mmウェーハを使った最小加工線幅が90nm以下の最先端の半導体部品の加工工程で使用される精密部材及びその収納容器において、精密部材に付着するパーティクルや有機物の付着がないように、収納容器から発生するアウトガスを減らして保管中もクリーンな環境とできる容器が望まれていた。
【0007】
また、半導体基板に電子回路を形成するフォトリソグラフィー工程では、上記したような狭ピッチの回路を形成するために、従来使用されていたKrFレーザー(波長238nm)に加えて、より波長の短いArFレーザー(波長193nm)が使用され、半導体基板に細線を形成するようになってきた。
そのため、従来以上に微量のアウトガスや微細なパーティクルの影響を受けやすくなっていた。特には、アウトガスが精密部材表面に付着して、表面を曇らせたり変質させることが問題であった。
さらに、半導体チップヘの回路の焼付けに使用されるレチクル基板に取り付けられるペリクル膜に有機物が付着する場合、これによって間接的にレチクル基板も有機物汚染されるといったクロスコンタミネーション、レチクルの曇り、コントラストの低下が生じるといった問題が発生するおそれがあった。
【0008】
こうした問題が生じると、高価なレチクルが変質してしまい使えなくなるので、多大な損害であった。
また、精密部材収納容器と精密部材に、静電気によるパーティクル付着がないように、精密収納容器に導電性能を付与して、収納する精密部材を帯電させないこと、並びにパーティクル等による汚染させることなく収納することが望まれていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の事情に鑑みて、本発明は、アウトガスがより少なく、静電気によるパーティクルの付着がより少ない、精密部材収納容器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の精密部材収納容器は、上記した問題点に鑑みてなされたものであり、熱可塑性樹脂100質量部に対して、導電性化合物を1〜10質量部含有した導電性樹脂からなり、前記導電性樹脂は、80℃にて60分放置した時に熱脱離する揮発性有機ガスの総発生ガス量が0.3ppm以下であり、表面抵抗値が103〜108Ωであることを特徴とする。
前記熱可塑性樹脂が粘度平均分子量10000〜30000のポリカーボネート樹脂であり、導電性化合物がDBP吸油量が300cm3/100g以上、BET比表面積が500m2/g以上の導電性カーボンブラックであること、前記ポリカーボネート樹脂は、ペレット2gを100mlの超純水に入れ、50℃で3時間加熱した時に溶出するイオンの溶出液濃度の総量が8ppb以下であること、また、前記ポリカーボネート樹脂は、安定剤及び離型剤の添加量がが500ppm以下であることが好ましい。
【0011】
さらに、前記精密部材収納容器が、上蓋と下トレーと、下トレーに設けられ、ペリクル膜付フレームを載置する枠状の載置部を有し、マスク基板の保護に使用されるペリクル膜付フレームを収納するものであること、前記導電性化合物が、平均繊維長100ミクロン以下、平均アスペクト比が20以下であるカーボン繊維1〜10質量部とカーボンブラック1〜10質量部とを混合したものであること、前記導電性化合物がカーボンナノチューブであることが好ましい。
ここで、アスペクト比は、平均繊維長/平均繊維径である。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、精密基板収納容器の材料となる樹脂からのアウトガス量が、0.3ppm以下と大幅に低減しているので、精密部材への汚染も減り、その結果これが使用される半導体部品の生産性や性能劣化(コンタミネーション、くもり等の変質、コントラストの低下等)を防止できる。
また、容器を導電性を付与した樹脂から構成したので、静電気によるパーティクル付着も防止できるし、精密部材の帯電も防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明に用いられる熱可塑性樹脂としては、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリエーテルイミド、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトンなどが好適に使用できる。
熱可塑性樹脂からの揮発性有機ガス量や溶出イオンを低減するには、熱可塑性樹脂の重合や生産工程に使用する有機溶媒の除去を所定の値以下に管理することで達成できる。加えて、熱可塑性樹脂に通常添加されている安定剤や滑剤等の添加剤の量を制限することが好ましい。
【0014】
上記熱可塑性樹脂に添加される導電性化合物としては、そのDBP吸油量が300ml/100g以上で、その比表面積が500m2/g以上であるカーボンブラックや、繊維長が100μm以下で、アスペクト比が20以下のカーボン繊維、カーボンナノチューブ及びこれらの配合物が好適に使用でき、配合量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、1〜15質量部の範囲で添加される。
本発明の実施の形態の精密部材収納容器として、マスクガラスの防塵に使用されるペリクル膜を支持するフレームを収納するペリクル収納容器を例に、図面を参照して説明する。
【0015】
図1は、本発明のペリクル収納容器の一例に係り、図の上半部は容器本体の中央部にペリクルを上表面に接着した環状フレームを載置したときの状態を示す平面図、図の下半部は蓋体の平面図である。図2は、図1のA−A矢視線に添う縦断面図である。
本発明のペリクル収納容器としては、図1および図2に例示したような形状のものとすることが出来る。ペリクル収納容器は、容器本体10と、蓋体20と、これらを係止する図示しないクリップ部材からなり、内部には、環状フレーム31に装着されたペリクル30が収納される。
【0016】
容器本体10は、周縁部に上方に突出するリブからなる嵌合部11が一体に設けられ、中央部に環状フレーム31と対応した大きさの長方形状の載置部12が下側に凹部12aを形成して上方へ膨出して設けられ、この載置部12の上部周縁には複数の係止部13が間隔をおいて突設されている。他方、蓋体20は、周縁部に断面U字状に上方に屈曲した嵌合部21があって、この嵌合部21の内側、中央部との間には中央部より一段下がった段差状の押え部22が角環状に形成されている。このペリクル収納容器は、環状フレーム31に装着されたペリクル30を容器本体10の載置部12上に係止部13の内側で載置し、容器本体10の嵌合部11に蓋体20の嵌合部21を嵌入・係止させると共に、蓋体20の押え部22により環状フレーム31を押えて、がたつきを防止している。なお、19は容器本体10の裏面(外面)に一体形成された脚部である。
【0017】
本発明のここに示す実施の形態では、上記蓋体と容器本体の両方をポリカーボネート樹脂100質量部に対して、導電性カーボンブラックが1〜15質量部添加された導電性ポリカーボネート樹脂から形成したものである。
こうしたポリカーボネート樹脂は、メルト法(ホスゲンとフェノールとを反応させてジフェニルカーボネートを製造し、これとジフェノールとを溶融縮合条件下で反応させる方法等)、ホスゲン法(ホスゲンとジフェノールとを界面重縮合条件下もしくは溶液重合条件下で反応させる方法)など、公知の製法で生産されるものが使用できる。
【0018】
本発明の実施の形態のポリカーボネートの場合、出発原料としてのホスゲンは、塩素濃度が1000ppb以下のものを用いることが好ましい。
原料ホスゲン中の塩素の除去方法としては、活性炭等による塩素の吸着除去や、沸点差を利用した蒸留による分離除去等があり、いずれの方法で除去してもかまわない。用いる活性炭としては、酸性ガス用活性炭、塩基性ガス用活性炭、一般ガス用活性炭が使用できる。
上記ジフェニルカーボネートと、ジフェノールとを溶融縮合する方法における典型的な反応条件としては、精製されたジフェニルカーボネートとジフェノールとを溶融下(〜300℃)、高真空条件下(≦約67hPa(50mmHg))でフェノールを蒸留しながらエステル交換により分子量伸張させてゆくものがある。
【0019】
本発明の実施形態のポリカーボネートを生産するに当っては、例えば、ホスゲン法においては、樹脂中に含有される塩素、溶媒として使用される塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素の残留分を、メルト法においては原料であるジフェニルカーボネートなどを、できるだけ少なくなるようにする。
具体的には、上記したように含有塩素の少ないホスゲンを選択すること、樹脂の重合工程で使用される触媒や有機溶媒の分離除去のための吸着処理、洗浄、乾燥処理を十分行うことが重要である。
また、添加剤として加える安定剤等にも、加工時の残留物や外部からの混入物等の不純物の除去処理がなされて不純物含有量の少ないものを使用することが好適である。
いずれの場合も低分子量のオリゴマー、その他重合プロセス内外から混入する可能性があるコンタミネーションについて対処することが、アウトガスや溶出イオン低減の点から好ましい。
【0020】
こうして得られるポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、通常10000〜30000のものが使用できる。特には、15000〜25000の範囲のものが、成形性や強度面から好適である。
また、重合に使用される触媒残渣や有機溶媒(ハロゲン化炭化水素)の含有率が、0.1ppm以下になるように調整するとよい。こうした低い値にするには、ポリカーボネート樹脂ペレット製造中にポリカーボネート樹脂粉粒体から触媒残渣や有機溶媒を、蒸留や吸着で可能な限り除去するとともに、洗浄操作の後で熱風循環式の乾燥機で十分に乾燥することで得られる。
また、ポリカーボネート樹脂粉粒体をダストが生じない範囲で微粉砕すると乾燥時の有機成分除去に有効である。
さらに、ポリカーボネート樹脂ペレットを製造するときに、ベント付きの押出機を使ってハロゲン化炭化水素等の有機物を除去するのも好適である。
【0021】
こうして得られるポリカーボネート樹脂は、ペレット2gを100mlの超純水に入れ、50℃で3時間加熱した時に溶出する陰イオンの溶出液濃度が3ppb以下となるように精製されたものであることが好ましい。
ここで、陰イオンとは、Cl-、F-、NO2-、NO3-、SO42-等のイオンをいう。こうした陰イオンが一定量以上生じると、精密部材を汚染したり、変質させたり、精密部材から形成される電子回路を腐食させたりするので、好ましくない。
さらに、上記したような樹脂によれば、発生するイオン性不純物自体だけでなく、これらと環境中に存在する同種のイオン性不純物とが反応することにより生成する硫酸アンモニウムといった化合物がペリクル膜やガラス基板に付着してくもりを発生するといったトラブルを低減する効果が得られる。
【0022】
これらイオン性不純物が間接的にレチクルに付着することによって、例えばクロム等の金属を腐食し、ピンホールやカケ、変形といったトラブルの可能性があり、樹脂からの溶出イオンを低減することは必要である。
上記したポリカーボネート樹脂には、安定剤や離型剤を500ppm以下の適量添加することができる。また、ポリカーボネート樹脂ペレットからのアウトガスや溶出イオンを所定の値以下に抑制するためには、こうした安定剤や離型剤は300ppm以下とするのが好ましく、安定剤や離型剤を添加しないことがさらに好適である。
【0023】
一般に安定剤としては、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト等のリン系の安定剤が単独又はフェノール系の安定剤と組み合わされて用いられるが、こうしたリン系安定剤中には、安定剤の製造過程で副生する塩化水素や、塩化水素をアンモニアで中和することで生じた塩化アンモニウムが含有されているので、ポリカーボネート樹脂ペレットからのアウトガスや溶出イオンを上記のような所定の値以下に抑制するためには、これらを十分に除去しておくことも好適である。
【0024】
本発明の実施の形態に用いられる導電性カーボンの添加量は、表面抵抗値が103〜108Ωとなるように、ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、1〜15質量部添加される。
1質量部未満だと表面抵抗値が108Ω以上に大きくなり、帯電防止性能が低下してしまう。また、15質量部を超えると機械的強度、成形性が悪くなり、また添加したカーボンによる汚染性が増すので好ましくない。
導電性カーボンの添加量は、特には、5〜10質量部が好適である。
また、導電性カーボンの混合方法は、特には制限が無く、タンブラーによる混合や、押出機による溶融混練が挙げられる。また、導電性化合物としては、導電性カーボンの他にも、カーボン繊維、カーボンナノチューブ及びこれらの適量を混合したものが使用できる。
【0025】
本発明の実施の形態で使用される導電性カーボンとしては、特にそのDBP吸油量が300ml/100g以上で、そのBET比表面積(脱気したカーボンブラックを液体窒素に浸漬させて、平衡時におけるカーボンブラック表面に吸着した窒素量から比表面積を算出)が500m2/g以上であるケッチェンブラックが好適に使用できる。DBP吸油量は、カーボンブラック100gあたりに包含されるジブチルフタレートのml数で、カーボンブラックのストラクチャーの程度を示す。DBP吸油量が300ml/100g未満、比表面積が500m2/g未満では、表面抵抗値を所望の値にするためには、カーボンブラックの添加量を多くしないといけなくなり、そのため、添加したカーボンブラックによる汚染が発生しやすくなるという問題が生じる。
【0026】
カーボン繊維を用いる場合、その平均繊維長を100ミクロン以下、平均アスペクト比が20以下であるカーボン繊維が好ましい。また、こうしたカーボン繊維1〜10質量部とカーボンブラック1〜10質量部とを混合したものは容器の平面性を確保するのに好適である。この場合、導電性について、カーボンブラックの添加量を少なくても、所望の表面抵抗値を得ることができ、かつ、カーボンブラック単体配合に比べ、弾性率といった機械強度がさらに向上し、保管・搬送中の安全性が向上する。ここで、平均アスペクト比20以下にカーボン繊維を使用することで、配向性を抑制して、ペリクルケースの要求特性である平面度(ペリクル載置部の変位の最大と最小の差が0.15mm未満)を実現することができる。カーボン繊維は、樹脂との相溶性を出すために、表面をコーティングしたり表面に酸化等の処理をしたものが好適である。
カーボン繊維は、石油タールやピッチからなるピッチ系カーボン繊維、アクリル長繊維からなるPAN系カーボン繊維があり、そのどちらも使用可能ではあるが、カーボン繊維の純度と強度からはPAN系カーボン繊維の使用が好ましい。
【0027】
こうした導電性化合物を使用することで、ポリカーボネートの機械的特性をできる限り保持し、また、アウトガス、イオン性不純物、金属といった汚染の混入をできる限り排除することができる。
また、カーボンナノチューブであれば、前記したカーボンブラックやカーボン繊維よりもさらに添加量をより少なくでき、汚染防止に対して大きな効果を得ることができる。
カーボンナノチューブは、単層構造のもの、多層構造のものいずれも使用できる。さらに、こうした導電性のカーボンを添加することで、容器が黒色となることによって紫外線劣化防止性を付与することができ、長期にわたる精密部材収納容器の機械特性、分解・劣化防止など安定性にも寄与できる。また、ベンゾトリアゾール系やベンゾフェノン系の紫外線吸収剤を適量加えておくと、精密部材収納容器の紫外線による劣化、ラジカルの発生をさらに防止できる。
【実施例】
【0028】
[実施例1]
ビスフェノールを原料として、ホスゲン法を用いて重合した粘度平均分子量20000のポリカーボネート樹脂94質量部と、DBP吸油量が155cm3/100g以上、BET比表面積が225m2/gの市販のケッチェンブラックEC(商品名、ライオン株式会社)をタンブラーを使用してドライブレンドした後に、2軸押出機により溶融混練して成形用のペレットを得た。
このペレット0.1gについて、ヘッドスペース法により高純度ヘリウム流通下80℃、60分の条件で加熱した際に発生するアウトガスを捕集してガスクロマトグラフで分析、n−デカンを標準物質としてアウトガスの総量を定量したところ、0.18ppmであった。
【0029】
また、このペレット2gをテフロン(登録商標)製密閉ボトルに100mlの超純水とともに入れ、50℃で3時間加熱した後、溶出液をイオンクロマトグラフにて分析、溶出液の陰イオン(Cl-、F-、NO2-、NO3-、SO42-等)濃度を測定したところ、総量が3.4ppbであった。
また、この成形用ペレットを使用して、射出成形により、図1、2にあるような蓋と下ケースから構成されるペリクル収納容器のそれぞれの部品を成形し、次にあげた各種評価を行い、外観、アウトガス量、材料溶出イオン総量、ロックウェル硬度、荷重たわみ量と共に、結果を表1にまとめた。
【0030】
[表面抵抗率測定]
三和MIテクノス社製抵抗値測定器 モデル5501DMを用いて、ASTM D257に準拠し、温度24℃、湿度50%の環境にて、ペリクル収納容器の表面抵抗値の測定を行った。
[振動試験後のベリクル膜帯電量評価]
上記ペリクル収納容器にペリクルを収納し、振動試験機を用いて振動周波数10Hz、加速度1Gの条件で 1時間の振動を与えた。つぎに、ペリクル収納容器を温度24℃、湿度50%に管理されたクリーンルーム内に持ち込み、ペリクル膜をペリクル収納容器より取り出し、ION SYSTEM 社製 モデル SFM775(販売元 原田産業(株))を用いて、ペリクル膜から25mmの距離で帯電量を測定した。
【0031】
[パーティクル増加の有無評価]
上記ペリクル収納容器にペリクルを収納し、振動試験後のペリクル膜帯電量と同じ条件で振動試験機を用いて、ペリクル収納容器をクリーンルームに持ち込み、ペリクルを容器より取り出しペリクル膜中の異物を集光ランプを用いて目視で測定し、異物の増加の有無を確認した。
【0032】
[実施例2]
ビスフェノールを原料として、ホスゲン法を用いて重合した粘度平均分子量20000のポリカーボネート樹脂97質量部と、カーボンナノチューブ(ハイペリオンカタリシス社製)3質量部を配合し導電性樹脂ペレットとし、実施例1に記載したのと同じ評価を行った。結果を表1にまとめた。
[実施例3]
ビスフェノールを原料として、ホスゲン法を用いて重合した粘度平均分子量20000のポリカーボネート樹脂94質量部と、実施例1で使用したカーボンブラック3質量部と、平均繊維長100ミクロン以下、アスペクト比が20以下であるカーボン繊維3質量部(東邦テナックス社製)とを配合してペレットとし、実施例1に記載したと同じ評価を行った。結果を表1にまとめた。
【0033】
[実施例4]
日本ゼオン(株)製シクロオレフィン樹脂(COP 、商品名 ゼオノア 1020R)97質量部に、前記実施例2で使用したカーボンファイバー6質量部を配合し導電性樹脂ペレットとし、実施例1に記載したと同じ評価を行った。結果を表1にまとめた。
[比較例1]
実施例で使用したものと同じポリカーボネート75質量部、導電性カーボンブラックとして、DBP吸油量が155cm3/100g以上、BET比表面積が225m2/gの市販の導電性カーボンブラック、トーカブラック#5500(商品名、東海カーボン(株)製)を15質量部配合したペレットを形成し、これを用いて精密部材収納容器を射出成形し、実施例と同様の評価を行った。
【0034】
[比較例2]
実施例で使用したものと同じポリカーボネート75質量部、導電性カーボンブラックとして、市販の導電性アセチレンブラック(商品名、デンカブラック 電気化学工業(株)製)を25質量部配合したペレットを形成し、これを用いて精密部材収納容器を射出成形し、実施例と同様の評価を行った。
[比較例3]
ABS樹脂をベースとし親水性ポリマーを樹脂中に分散させた永久帯電防止樹脂、(商品名、ADION−A 旭化成工業(株)製)を用いて射出成形により精密部材収納容器を得て、これを用いて精密部材収納容器を射出成形し、実施例と同様の評価を行った。
[比較例4]
材料としてアクリル樹脂をベースとし親水性ポリマーを樹脂中に分散させた永久帯電防止樹脂(商品名、BAYON、呉羽化学工業(株)製)を用いて射出成形を行い精密部材収納容器を形成して、ペレットと容器にて実施例1と同様の評価を行った。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、ICやLSI等の半導体部品の製造に使用されるフォトマスクやレチクル、あるいはこれらの表面への異物の付着を防止するために使用されるペリクルフレーム、シリコンウェーハやガラスからなる薄板基板等の精密部材を極めて清浄な状態で収納することが出来るため、ますます小型化、狭線化、精密化が追求されているIT産業界に裨益するところ大である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のペリクル収納容器の一例に係り、図の上半部は容器本体の中央部にペリクルを上表面に接着した環状フレームを載置したときの状態を示す平面図、図の下半部は蓋体の平面図である。
【図2】図1のA−A矢視線に添う縦断面図である。
【符号の説明】
【0038】
10:容器本体
11:嵌合部
12:載置部
12a:凹部
13:係止部
19:脚部
20:蓋体
21:嵌合部
22:押え部
30:ペリクル
31:環状フレーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂100質量部に対して導電性化合物1〜15質量部含有した導電性樹脂からなり、前記導電性樹脂は80℃にて60分放置した時に熱脱離する揮発性有機ガス量が0.3ppm以下であり、表面抵抗値が103〜108Ωであることを特徴とする精密部材収納容器。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が粘度平均分子量10000〜30000のポリカーボネート樹脂であり、導電性化合物のDBP吸油量が300cm3/100g以上、BET比表面積が500m2/g以上の導電性カーボンブラックである請求項1に記載の精密部材収納容器。
【請求項3】
前記ポリカーボネート樹脂は、ペレット2gを100mlの超純水に入れ、50℃で3時間加熱した時に溶出する陰イオンの溶出液濃度の総量が8ppb以下である請求項2に記載の精密部材収納容器。
【請求項4】
前記ポリカーボネート樹脂は、安定剤及び離型剤の添加量が500ppm以下である請求項2又は3のいずれかに記載の精密部材収納容器。
【請求項5】
前記精密部材収納容器が、上蓋と下トレーと、下トレーに設けられ、ペリクル膜付フレームを載置する枠状の載置部を有し、マスク基板の保護に使用されるペリクル膜付フレームを収納する請求項1〜4のいずれかに記載の精密部材収納容器。
【請求項6】
前記導電性化合物が、平均繊維長100ミクロン以下、平均アスペクト比が20以下であるカーボン繊維1〜10質量部とカーボンブラック1〜10質量部とを混合したものである請求項1〜5のいずれかに記載の精密部材収納容器。
【請求項7】
前記導電性化合物が、カーボンナノチューブである請求項1〜6のいずれかに記載の精密部材収納容器。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−12793(P2007−12793A)
【公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−190129(P2005−190129)
【出願日】平成17年6月29日(2005.6.29)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】