説明

精度管理システム

【課題】病院の臨床検査室で、分析装置,標準液,コントロール検体の品質維持には、膨大な労力がかかっていた。本発明はコストの削減が可能な臨床検査室の管理方法、及び管理装置を提供することを目的とする。
【解決手段】分析装置,標準液,コントロール検体のデータ管理をするために、サポートセンターと各病院の分析装置をネットワーク回線で結び、各種の分析パラメータ,測定結果を相互にやり取りとして、リアルタイムで各病院の検査室に、管理状況を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体試料中の成分を分析する自動分析装置の精度管理システムに係り、特に標準液の測定結果を使用した精度管理システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
臨床検査における自動分析装置では、患者検体を測定し、医師から依頼された項目を分析する。これらの装置の管理手法としては、既知の濃度の精度管理検体(コントロール検体)の測定を患者検体の測定の合間に定期的に実施する。測定したデータが、コントロール検体に含まれる濃度から乖離した場合、装置はデータ異常としてアラームを発生する。コントロール検体の測定により、その日の装置の異常の有無,試薬の劣化,調整の良否判定,標準液の調整の可否を検出する。キャリブレーション,コントロール検体の測定結果は、臨床検査技師が集計し、記録・保存する。
【0003】
コントロール検体の管理手法としては、病院検査室の臨床検査技師が管理するだけでなく、以下の複数のシステムが既に開発され、市販、あるいは公的な機関により実施されている。
【0004】
1.コントロール検体を活用した管理手法
コントロール検体を各病院に配布し、管理する手法としては、試薬メーカ,医師会等の公的な機関から市販されている方法がある。
(1).試薬メーカが供給するコントロール検体を利用した精度管理
試薬メーカは、値が既に決定されている血清などをコントロール検体として、病院等に販売する。各病院では、既に決定されている平均値、ばらつきの指標である標準偏差などが各コントロール検体には付けられており、分析装置、または、各病院のデータ管理用のコンピュータに値を入力する。
【0005】
臨床検査における自動分析装置では、患者検体を測定し、医師から依頼された項目を分析する。コントロール検体を患者検体の測定中に定期的に割り込ませてデータを測定する。測定したデータが既に測定したものから乖離した場合、データ異常として装置,試薬,標準液などの異常をチェックする。測定データは臨床検査技師が、集計し、日々の変動を記録する。
【0006】
(2).試薬メーカがコントロール検体を市販し、測定した結果をネットワーク回線,郵便等を利用して市販した試薬メーカにデータを送り返し、試薬メーカに手データ集計を実施する場合
上記の(1)において、試薬メーカは、コントロール検体を供給し、その値を試薬メーカが個々の病院から回収し、試薬メーカのサービスセンター等で集計するシステムもある。集計は、自動分析装置から直接データを集計するのではなく、ネットワーク回線で測定結果一般のパソコンからコントロール検体のデータを送信する。コントロール検体のデータをFD等に記憶し郵便等で送付する当の手段が使用されている。集計された結果は統計処理がなされ、平均値からの変動,乖離が多い場合、各病院に測定結果と診断結果が送付される。各病院では、検査室の品質管理の指標として使用できる。
【0007】
(3).医師会などの公的な機関がコントロール検体を配布する場合
日本医師会などの公的な機関が年に1−2回程度、全国の病院,臨床検査センターなどに全国共通のコントロール検体を一斉に配布する。各施設を分析装置で配布されたコントロール検体を測定し、測定結果を日本医師会に送付して統計処理を実施する。平均値,標準偏差を算出し、平均値からのずれでA(±1SD),B(±2SD),C(±3SD),D(±4SD)と判定し、各病院長あてに判定結果を送付している。
【0008】
日本医師会外にも、県単位,病院グループ単位で実施されている。
【0009】
2.装置の管理システム
自動分析装置などを製造している装置メーカでは、各病院に販売,設置された自社の分析装置とサービス部門のサーバー等を、ネットワーク回線で結び、装置の状態を遠隔監視するシステムも実用化されている。全体の概略図を図1に示す。
【0010】
本システムでは、(1)サポートセンターのシステムから自動分析装置に送信される情報と、(2)自動分析装置からサポートセンターのシステム側に送信される情報から構成される。および、(3)システム側で管理されている情報を確認するために各施設が問い合わせをおこなうネットワーク回線の3種類の情報より構成される。
【0011】
装置メーカによっては、これら3種類の情報の中で、ネットワーク回線を利用して質問に答えるだけ、分析装置からサービスセンターに装置異常の発生の連絡だけが送信される一方方向の流れなど、種々の形態が存在する。
【0012】
3種類の情報の一般的な例について示す。
(1).サポートセンターのシステムから送信される情報
サポートセンターは、以下の情報を連絡する。
・各項目ごとの分析パラメータ
・各項目ごとの標準液濃度
・各コントロール検体の平均値,標準偏差
【0013】
(2).自動分析装置からサポートセンターに送信される情報
本システムは、病院等の施設に設置している装置から、装置の異常などのアラーム情報、コントロール検体の測定結果,標準液の測定吸光度,キャリブレーション結果などの基本情報を取り出し、これら情報を情報センターに集める。
(a)装置の異常などのアラーム情報
装置で発生した電気回路,メカの異常
(b)コントロール検体の測定結果
各コントロール検体の測定結果、および、試薬ロット,コントロール検体のロットなど
(c)キャリブレーション結果
標準液を測定した結果
(a)測定データ
・各標準液の測定吸光度(主波長,副波長)
・初期吸光度
(b)計算パラメータ
・Kファクター
・S1ABS
【0014】
(3).データセンターのデータ集計法
情報センターでは、施設ごとに、コントロール検体のデータを集計して、平均値の比較,標準偏差の情報を集計する。
各施設ごとの集計
・平均値
・日差再現性
・標準偏差
これらデータ、情報をネットワーク回線輪利用して問い合わせに回答する。データ乖離が異常に大きい場合など、改善方法のコメントなどを連絡する。また、装置の取り扱い方法がわからない場合、問い合わせに回答するなどのサービスも実施する。標準液管理結果をグラフ表示する。
【0015】
上記に関連する技術として例えば特許文献1に記載されたものが特許出願されている。
【0016】
【特許文献1】再公表特許公報WO2002/052278号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記の既存技術は、試薬メーカ,装置メーカ,公的な機関等より提示され、実施されている。しかしながら、臨床検査すべてをひとつのシステムがカバーしているわけではない。装置メーカは装置の管理が主体であり、試薬メーカは、コントロール検体の販売,試薬の管理である。公的な機関の場合、1年に1度の実施であり、日常的な検査には、品質管理,サポートシステムとしては実質的に機能していない。一方、臨床検査は、医療費抑制の大きな経済的な流れの中で、世界的なデータの互換性の確保と、医療の信頼性の確保という課題が出てきた。
【0018】
1.データの互換性の確保
臨床検査では、装置,試薬の定期的な校正として、標準液を測定した。しかしながら、標準液は、各試薬メーカから、各社の規定に従って、作成されたものが多く標準液によっては、校正結果が同じにならない。また、同じ項目の測定試薬であっても、測定原理の違い、酵素法でありながら、酵素の種類,濃度により、同じ標準液を測定しても、コントロール検体を測定すると値が異なることが発生した。すなわち、各病院の検査室がどんな種類の標準液を使用して、キャリブレーションを実施したのか把握することが重要である。試薬の測定原理,標準液の製造元メーカが異なる条件で比較することは意味が無い。
【0019】
一方、患者は、1病院の中で治療を終了するわけではなく、疾病によっては複数の病院の転院することが普通となってきている。しかしながら、病院ごとに標準液が異なっていれば、同一の患者の採決した血液ら分析しても、データは異なる。データ確認のために何度も測定を繰り返す無駄が発生する。患者にとっても、自分の検査データが異なることにより、医師,病院に対する不信感が発生した。
【0020】
病院では、自分の病院のデータが他の病院と互換性があるか認識することも重要なことである。
【0021】
また、製薬メーカの治療成果の確認、学会に発表する場合にもデータの互換性に疑問があることは大きな課題であった。
【0022】
2.医療の信頼性の確保(ISO15189に関連する検査室の管理)
病院等の医療機関は、患者からの信頼性の確保の観点からも、患者の検査データが一定の条件で実施されことを、記録として残すことが重要となってきた。特にISO15189などのグローバルな規格、病院評価機構の判定など毎日の検査データ,検査条件が記録されていることが必要不可欠である。患者データはカルテ,電子カルテなども記録されるので当然であるが、分析装置の測定条件を記録し、保存することは大変な労力の必要とする作業である。検査条件は、各項目ごとのキャリブレーション結果、試薬のロット,試薬劣化の有無、標準液のロットの変化の有無,キャリブレーション結果の良否判定など、数十項目について毎日記録し残すことが要求される。
【0023】
最近のように検査室の効率化の中で、検査技師の人数が必要最小限まで削減されている状況において、これら膨大な情報を紙で管理することは臨床検査技師にとって困難である。
【0024】
また、臨床検査室が毎日報告しているデータが、安定しているか確認することが非常に重要である。とりわけ、リアルタイムで確認できることは重要である。紙で残してある場合、記録してあっても、過去にさかのぼって確認することは困難である。試薬メーカにより発売されているコントロール検体の管理システムは、標準液などのキャリブレーション結果は管理されておらず、コントロール検体,キャリブレーション結果の両方をシステム上で管理することは困難であり、管理としては不十分であった。
【0025】
また、日常で使用しているこれらに対する確認手段として公知例の特開2003−
4750号公報では、精度管理データを専用回線で結びチェックする方法が発明された。
【0026】
毎日の検査で使用しているデータが本当に正しいのか、リアルタイムで確認する手段がなかった。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、各病院の臨床検査室が測定しているキャリブレーション結果,精度管理物質の測定結果、および、測定した時の試薬ロット,標準液ロット,精度管理物質のロットなどをあわせて、ネットワーク回線を利用して、リアルタイムでサポートセンターに送信する。サポートセンターでは、キャリブレーション結果、精度管理物質のデータを集計し、統計処理を実施し、前日との変化,試薬データのチェックを実施する。各病院の臨床検査室は、ネットワーク回線を介してサポートセンターにアクセスして、分析装置の状況を確認する。
【0028】
試薬メーカ,装置メーカは、サポートセンターに、各項目ごとの各ロットごとの標準液,コントロール検体の平均値,標準偏差などの許容値,試薬のロット番号を提供する。サポートセンターはこれら情報を、各病院の分析装置にネットワーク回線を利用して送信する。また、サポートセンター内部の統計処理のベースとしても利用する。
【0029】
統計処理機能としては、該当の単独施設の経時変化のデータ処理ばかりでなく、複数の施設の中から、各項目ごとに、同じロットのコントロール検体、同じ標準液の測定結果を取り出して統計処理を実施し、精度管理データ,キャリブレーション結果の平均値,偏差などの分布情報も計算する。各病院の処理データを表示するときに、これらの複数施設の統計データ,平均値,偏差を各項目ごとにあわせて表示する。
【発明の効果】
【0030】
各病院は、サポートセンターが、コントロール検体の精度管理,キャリブレーション結果の管理を実施することにより以下の2点の効果がある。
1.管理からの開放
過去のコントロール検体,キャリブレーション結果、および、試薬,標準液,コントロール検体のロット番号を集計して記録する。特にキャリブレーション結果の統計処理をサポートセンターが実施するため、各病院が実施する作業量が大幅に低減される。また、サポートセンターに問い合わせれば、標準液、コントロール検体の情報を組み合わせて表示できるため、リアルタイムで確認することができ、データ検索時間が大幅に低減できる。
【0031】
ISO15189等、検査室の品質管理の規格に対しても、すべての分析にかかわる試薬,標準液,コントロール検体の情報が記憶されるため、管理は容易となる。
【0032】
2.データの違いの確認、および、データの統一化
サポートセンターでデータ確認を実施しているため、分析装置の違い,試薬メーカの違い,試薬処方の違いが明白である。一方、同一の試薬条件で測定した場合、他施設とのデータの違いが明白となり、データの統一化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下実施例を用いて本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0034】
システムは、各病院に設置された分析装置、および、分析装置とサポートセンターを結ぶネットワーク回線を仲立ちする中継器、または、パソコンより構成される。
【0035】
これらシステムの間を下記の情報が、相互に送受信される。
【0036】
(a)パラメータ
・各項目ごとのコード番号,分析パラメータ
・各項目ごとの標準液のロット番号、および、濃度
・各項目ごとのコントロール検体のロット番号、および、濃度
【0037】
(b)装置の情報
・装置のアラーム発生内容,回数
・標準液測定結果
・コントロール検体測定結果
【0038】
(c)統計処理した結果
・各項目ごとのキャリブレーション結果
項目ごとの初期吸光度,感度の平均値,標準偏差
・試薬のロット変動
・精度管理情報
各コントロール検体ごとの平均値,標準偏差、
【0039】
1分析装置.
分析装置は下記のように動作する。
(1)分析部の動作
分析部の動作は下記のようにサンプリング,試薬分注,撹拌,測光,反応容器の洗浄,濃度換算等のデータ処理の順番に実施される。
【0040】
試料を入れた検体容器1は、ラック上に複数個設置されている。前記ラックは、コンピュータ3によりインターフェイス4を介して制御される。
【0041】
また、前記ラックは、分析される試料の順番に従って前記検体分注プローブ5の下まで移動し、所定の検体容器1の検体は、検体分注機構に連結された検体用ポンプ7により反応容器6の中に所定量分注される。
【0042】
前記検体を分注された前記反応容器6は、反応槽9の中を第1試薬添加位置まで移動する。移動した前記反応容器6には、試薬分注プローブ8に連結された試薬用ポンプ11により試薬容器12から吸引された試薬が所定量加えられる。試薬容器は、どの位置にどの項目の試薬がセットされているか試薬ボトルに添付されたバーコードラベルをバーコードリーダーが読み取り判別する。
【0043】
第1試薬添加後の反応容器6は、撹拌機構13の位置まで移動し、最初の撹拌が行われる。
【0044】
このような試薬の添加−撹拌が、第1〜第4試薬について行われる。
【0045】
内容物が撹拌された前記反応容器6は光源から発した光束中を通過し、この時の吸光度は多波長光度計15により検知される。検知された前記吸光度信号はA/Dコンバータ
16を経由して、インターフェイス4を介してコンピュータ3に入り、検体の濃度に変換される。
【0046】
濃度変換されたデータは、前記インターフェイス4を介してプリンタから印字出力され、画面21に表示される。
【0047】
反応液が測定して、測光の終了した前記反応容器6は、洗浄機構19の位置まで移動し、容器洗浄ポンプ20により内部を排出後、水で洗浄され、次の分析に供される。
【0048】
ラック方式の装置の場合、検体ラックには、標準液,コントロール検体,一般検体用に識別が可能である。また、サンプルディスクタイプの場合、ディスク上のサンプルをセットする所にコントロール検体,標準液をセットするところがある。いずれの方式でも、これら検体には、バーコードラベルが添付されており、バーコードリーダーでラベルを読み取り、識別をおこなう。読み取り後、分析装置は、情報に従って、キャリブレーションの字冊子,コントロール検体の測定を実施する。
【0049】
(2)情報識別
試薬容器,標準液,コントロール検体には、項目ごとに識別するために、識別情報が添付されている。これら情報を元に、装置,システムは、全体の情報の管理を実施する。
・試薬容器
【0050】
項目ごとの情報を識別するための識別情報、一般にはバーコードラベルが添付してある。試薬バーコードには下記の情報がある。
【0051】
項目コード
ロット番号
有効期限
・標準液
標準液には、項目ごとの情報を識別するための識別情報、一般にはバーコードラベルが添付してある。試薬バーコードには下記の情報がある。
【0052】
標準液コード
ロット番号
有効期限
・コントロール検体
コントロール検体には、項目ごとの情報を識別するための識別情報、一般にはバーコードラベルが添付してある。試薬バーコードには下記の情報がある。
【0053】
コントロール検体コード
ロット番号
有効期限
【0054】
(3)パラメータのダウンロード
ネットワークから中継器を経由して、送信されるパラメータは、各項目ごとの分析に必要なサンプル量,試薬量などを含む分析パラメータ,標準液に関するパラメータ,コントロール検体に関するパラメータの3種類がある。
・各項目の分析パラメータバージョン情報
項目コード,サンプル量,試薬量,波長,分析法(レート分析,エンドポイント分析など),反応時間
・標準液パラメータ
標準液コード
ロット番号
各項目の項目コードと標準液濃度
・コントロール検体パラメータ
コントロール検体コード
ロット番号
各項目の項目コードとコントロール検体濃度
・ダウンロード方法
分析装置の操作部から、中継器を通して、必要とする分析項目とパラメータのダウンロードの指示をだす。中継器は、パラメータをサポートセンターから既に送信され、メモリー上に記憶している内容から、指定のパラメータを分析装置に送信する。
【0055】
これら分析,標準液,コントロール検体のパラメータは、項目コードにより相互の関係が連携して分析装置に記憶される。装置に実際にセットされた試薬,標準液,コントロール検体に添付された識別情報、一般にバーコードラベルで認証される。
【0056】
(4)キャリブレーションの実施
キャリブレーションは上記の分析装置で、原点であるブランク液と標準液の二種類を装置にセットして、各サンプルで各二回分析する。
【0057】
キャリブレーションの結果は、反応させた吸光度である。
・ブランク液,標準液の反応で測定した主波長と副波長の吸光度
これの吸光度は、各項目ごとに主波長,副波長が設定されており、反応液の吸光度スペクトルにより異なる。
・計算過程、これらブランク液と標準液から、反応の校正曲線を算出する。
[S1ABSの算出]
ブランク液からは、原点を決定する。ブランク液の2回の平均値から、ブランク吸光度S1ABSを算出する。
[Kファクターの算出]
ブランク液と標準液から、校正曲線の傾きを決定する。一般的に下記の計算式が使用される。
[(標準液吸光度)−(ブランク液吸光度)]/[(標準液濃度)−(ブランク液濃度)]
標準液吸光度,ブランク液吸光度は二回の平均値を用いる。
【0058】
一般的には、ブランク液、標準液の測定は二回、または、三回実施する場合が多い。反応が不安定な場合には、精度向上のために、三回以上、実施する場合も多い。
【0059】
また、二種類以上の標準液を使用した多点検量線も使用する場合がある。検量線の算出には、近似曲線を使用する。
【0060】
(5)精度管理の実施
患者検体の測定中に試薬,装置の状態を監視するために、一定数の患者検体ごとに、濃度既知のコントロール検体を測定する必要がある。一般的に精度管理と称する。コントロール検体は、各項目の濃度,活性値がいくつの程度で添加されているかわかっている。これらの数値は、システムより送信される。
【0061】
2.中継器
中継器は、以下の機能より構成される。
(1)サポートセンターより、パラメータを受けて記憶し、分析装置の要求に応じて転送する機能
パラメータの情報は、サポートセンターより受信して、中継器に記憶される。各パラメータは、バージョン情報,ロット番号を含めて同一項目でも複数の情報が記憶される。分析装置では、すべてのロット番号が必要ではないので、分析装置に実際にセットされた試薬,標準液,コントロール検体の情報に従って、分析装置に送信する。
・各項目の分析パラメータ
バージョン情報
項目コード,サンプル量,試薬量,波長,分析法(レート分析,エンドポイント分析など),反応時間、
・標準液パラメータ
標準液コード
ロット番号
各項目の項目コードと標準液濃度
・コントロール検体パラメータ
コントロール検体コード
ロット番号
各項目の項目コードとコントロール検体濃度
【0062】
(2)分析装置から、情報を受け、サポートセンターに送信する機能
分析装置からは、装置アラーム,標準液の測定結果,コントロール検体の測定結果が送信される。
・装置のアラーム発生内容,回数
装置で発生したアラームコード番号 回数
発生時刻
・標準液測定結果
各項目で、測定に使用した標準液のロット番号,試薬のロット番号と下記の情報が送信される。
[ブランク液,標準液の反応で測定した主波長と副波長の吸光度]
[S1ABSの算出]
[Kファクター]
・コントロール検体測定結果
各項目で測定したコントロール検体のロット番号,試薬のロット番号と、下記の情報が送信される。
[測定結果]
[測定日時]
【0063】
3.サポートセンター
サポートセンターのシステムは大きく、下記の機能より構成される。
(1)各病院より、分析装置用の中継器に、パラメータ転送の機能
サポートセンターでは、試薬メーカから登録されている各分析項目ごとの分析パラメータ,標準液パラメータ,コントロール検体パラメータの転送機能を持つ。
【0064】
(2)分析装置の中継器からの情報収集機能
サポートセンターでは、各病院からの分析装置の情報をすべて、各病院ごとに記憶する。
・装置のアラーム発生内容,回数
装置で発生したアラームコード番号回数
発生時刻
・標準液測定結果
各項目で、測定に使用した標準液のロット番号,試薬のロット番号と下記の情報が送信される。
[ブランク液,標準液の反応で測定した主波長と副波長の吸光度]
[S1ABSの算出]
[Kファクター]
・コントロール検体測定結果
【0065】
(3)統計処理機能
サポートセンターでは、病院ごとに、統計処理を行い、各項目ごとに標準液の平均値,標準偏差を計算する。
・病院ごとの計算
過去、10回以上の標準液測定値から、平均値,標準偏差を算出する。標準偏差の3倍を許容限界として、平均値に対して±3SDとする。
・複数の病院を使用した統計処理
複数の病院で、試薬ロット,標準液ロットが同一の場合に、各病院の平均値,標準偏差から全体の平均値,偏差を推計する。
【0066】
(4)測定結果の表示機能
各項目の表示機能には、以下がある。
(a)標準液だけの情報表示
・標準液の測定結果を主波長/副波長単独の表示する。
・標準液の測定結果を主波長−副波長の差を表示する。
・統計処理した平均値と、標準偏差から管理値を表示する。
【0067】
図2,図3にキャリブレーション結果と、算出した平均値,標準偏差から許容幅を示した例を示す。毎日、運用している施設では、この管理幅により、そのひのキャリブレーションの問題発生の有無を確認できる。
【0068】
(b)複合表示
(a)の標準液の各情報に、複数のコントロール検体の測定結果を重ね合わせる。
・標準液の結果と複数のコントロール検体の測定結果を表示する。
【0069】
図4,図5に標準液のブランク吸光度とコントロール検体の測定結果を表示する。図4では、コントロール検体のロットが変動したものであるが、コントロール検体の変化がよくわかる。図5では、試薬ロットが変更しているが、キャリブレーション結果、コントロール検体の測定データには大きな変化は見られず、試薬ロット変更の影響は無かったことがわかる。
【0070】
(c)コメント表示
(a)(b)の情報表示画面において、試薬のロット,試薬ボトルの区別,標準液のロット,コントロール検体のロットが異なっていることを表示する。表示法方法はロットにより色を変える。ロット番号を画面表示するなどの方法がある。
【0071】
図6,図7にALPの測定例を示す。図6の二波長差では、試薬ボトル内の液の状態変化は明確でないが、図7の主/副波長では、試薬ボトルの変化,試薬ロットの変化が明確に観察できる。
【0072】
(d)他の病院との比較表示
(a)(b)の情報表示画面において、サポートセンターと接続されている複数の病院で、試薬のロット,標準液のロットが同一である場合、これら施設の平均値,分布を標準液画面に表示する。表示法方法はロットにより色を変える。ロット番号を画面表示するなどの方法がある。
【0073】
(5)病院の検査室がサポートセンターに問い合わせる方法
各病院からデータの問い合わせをする場合、サポートセンターのホームページにネットワーク回線を使用して問い合わせる。各病院には、サポートセンターよりアクセスに必要なパスワード,病院コードを配布しておく。アクセスすると、各病院担当者は、各画面より各病院の情報のみが取り出せる。
【0074】
本発明を適応したシステム,分析装置では、装置,試薬,標準液,コントロール検体の全体から、管理値を決定し、管理するために高い信頼性の臨床検査が維持できる。
【実施例2】
【0075】
装置構成は実施例1と同じで、中継器を担当する回線,メモリーを分析装置に内蔵したシステム。中継器はデータ通信のメモリーのみの機能のため、分析装置に中継器を組み込むことにより代替が可能となる。中継器を別に置く必要が無くなり、スペース的にも余裕ができる。
【実施例3】
【0076】
システム構成例は実施例1と同じである。統計処理機能にISO15189で制定されている標準液の濃度計算方法を採用する。複数回の標準液で、標準液の不確かさを算出する臨床検査システム。
【0077】
標準液のロットごとに必要な不確かさを算出することが、サポートセンターで可能となり、検査室の業務量が大幅に削減される。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】システム概略図。
【図2】ALPキャリブレーション結果の精度管理。
【図3】TPのキャリブレーション結果の精度管理。
【図4】キャリブレーション結果と精度管理情報の組み合わせ。
【図5】試薬のロット変動と精度管理。
【図6】キャリブレーション結果の試薬ボトルごとの管理(主副波長の差)。
【図7】試薬ボトルごとの管理(主副波長)。
【符号の説明】
【0079】
1…検体容器、2…試料容器配列部、3…コンピュータ、4…インターフェイス、5…検体分注プローブ、6…反応容器、7…検体用ポンプ、8…試薬分注プローブ、9…反応槽、11…試薬用ポンプ、12…試薬ボトル、13…撹拌機構、15…多波長光度計、
16…A/D変換コンバータ、19…洗浄機構、20…容器洗浄ポンプ、21…画面、
22…試薬バーコード、23…試薬バーコード読み取り装置、24…フロッピー(登録商標)ディスク、25…ハードディスク、26…試薬ディスク、27…検体を載せたラックを移動するメインライン、28…ラックを分析部に引込み、サンプリングするための引込線、29…サンプルの収納部、30…メインライン上を流れるラックを認識する機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体と試薬を混合して該検体中の目的成分の分析を行う自動分析装置を少なくとも1台所有する施設と、
校正用標準液,精度管理用標準液のロット情報を含む分析パラメータに関する情報、それらの校正用標準液,精度管理用標準液の測定結果に関する情報を通信回線を介して施設毎に収集する収集手段と、該収集手段により収集された情報を施設毎に記憶するデータベース記憶手段と、
該データベース記憶手段に記憶された施設毎の校正用標準液,精度管理用標準液のロット情報を含む分析パラメータに関する情報、それらの校正用標準液,精度管理用標準液の測定結果に関する情報に基づき、各施設毎の分析装置のキャリブレーション結果の統計処理結果を算出する統計処理算出手段を備えたことを特徴とする精度管理システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記統計処理算出手段を備えたサポートセンターが各施設に対して統計処理算出結果をレポートする手段を備えたことを特徴とする精度管理システム。
【請求項3】
請求項2において、
各施設ごとに、毎日測定した各項目ごとの測定感度,試薬のブランク吸光度を各上限値,下限値を前記統計処理算出手段で算出し、各分析装置のキャリブレーション結果が上下限値から外れた場合、ネットワーク回線を利用して各施設に情報を伝達する手段を備えたことを特徴とする精度管理システム。
【請求項4】
請求項2において、
前記サービスセンターで統計処理したキャリブレーションの管理値と、精度管理検体の測定結果を、各項目ごとに前記各施設の前記自動分析装置の画面に同時に表示させる手段を備えたことを特徴とする精度管理システム。
【請求項5】
請求項4において、
前記標準液、または試薬のロットが変わった場合に前記画面に、変更されたロットを識別表示する手段を備えたことを特徴とする精度管理システム。
【請求項6】
請求項1において、
キャリブレーション結果の試薬のブランク吸光度を主波長と副波長、別々に表示することを特徴とする精度管理システム。
【請求項7】
請求項1において、
各項目ごとに試薬ボトルごとのキャリブレーションの表示の色を変える手段を備えたことを特徴とする精度管理システム。
【請求項8】
請求項1において、
試薬ロット,標準液のロットが同じ場合、過去10回以上の複数回分の吸光度データから、標準偏差,平均値を算出して、管理係数として記憶し、キャリブレーションのたびに計算する手段を備えたことを特徴とする精度管理システム。
【請求項9】
請求項2において、
複数回のキャリブレーション結果から、Kファクターの許容値を算出し、±2SDを超えた場合に、ネットワーク回線で警告を発する手段を備えたことを特徴とする精度管理システム。
【請求項10】
請求項7において、
各項目ごとに試薬ボトルごとの吸光度の経時変化のパターンを記憶する記憶手段を備え、各ボトルごとにこのパターンと比較して、経時変化パターンと異なる場合、異常としてネットワーク回線で警告を発する手段を備えたことを特徴とする精度管理システム。
【請求項11】
請求項1において、
コントロール検体の精度管理データもあわせて画面表示する手段を備え、複数の他の施設の精度管理データ,キャリブレーション結果も表示することを特徴とする精度管理システム。
【請求項12】
請求項10において、
複数の施設の中から、各項目ごとに、同じロットのコントロール検体、同じ標準液の測定結果を取り出して統計処理を実施し、精度管理データ,キャリブレーション結果の平均値,偏差などの分布情報を表示する手段を備えたことを特徴とする精度管理システム。
【請求項13】
請求項8において、
試薬ロット,標準液のロットが同じ場合、過去10回以上の複数回分のキャリブレーションデータから、不確かさを算出する手段を備えたことを特徴とする精度管理システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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