説明

精油を含有するフェンタニル製剤

フェンタニルの製剤、特に舌下送達に適したポンプ噴霧製剤は、少量のメントールを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精油を含有する新規フェンタニル製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
フェンタニルは鎮痛薬である。その薬物は舌下投与される場合に特に有用である。
【0003】
WO2004/080382(その内容は参照により組み入れられる)は、一般的に水、極性溶媒、クエン酸バッファーおよびメントールとともに、例えば遊離塩基としてフェンタニルを含有する噴霧可能な組成物を開示する。メントールの所定量は0.25%〜7.5%である。
【0004】
発明の概要
現在では、フェンタニル製剤におけるメントール含量は以前に考えられていたよりも重要であることが発見されている。その量が多すぎる場合、特に0.5%を超える場合、スケールアップによって結晶が生じうる。
【0005】
本発明に従って、WO2004/080382に記載される種類の製剤は、0.25%より少ない量でメントール(または同様の精油)を含有するように改変される。このような製剤は、長期間にわたる良好な化学的および物理的安定性を有する。
【0006】
好ましい実施形態の説明
本発明の製剤は、好ましくはスプレーとして舌下投与される。それは敏感な舌下粘膜に投与される場合、良好な耐容性を示し、その投与はフェンタニルの治療効果の速やかな発現をもたらす。
【0007】
本発明の製剤は、好ましくはいずれの噴射剤も含まない。具体的には、水性であることによって、それは加圧ヒドロフルオロカーボン噴射剤の使用に関連する問題を回避する。本製剤は、好ましくは部分的に加圧され、揮発性クロロフルオロカーボン(例えば噴霧剤(propellant) 12)、揮発性ヒドロフルオロアルカン(例えば1,1,1,2-テトラフルオロエタンおよび1,1,1,2,3,3,3-ヘプタフルオロ-n-プロパン)、揮発性アルカン(例えばプロパン、ブタン)ならびに常温常圧で大きな蒸気圧を有する他の物質などの噴射剤を含まない。
【0008】
本発明の1つの実施形態では、本製剤は懸濁液ではなく溶液である。懸濁液を噴霧することは可能であるが、ほとんどの懸濁液が沈殿するという事実は、投与される用量中に含まれる活性物質の量が変化しうることを意味する。懸濁液の沈殿の影響は噴霧前に組成物を振ることによってある程度減少され得るが、いくつかの懸濁液は非常に迅速に沈殿し得るため、用量間での活性物質のばらつきの可能性はなおも存在する。
【0009】
フェンタニルは水溶性の生理的に許容されうる塩の形で極性有機溶媒とともに使用されうる。適切な塩の例は、塩酸塩、塩化物、硫酸塩、酒石酸塩およびクエン酸塩を含む。好ましくは、フェンタニルは遊離塩基として使用される。
【0010】
好ましくは、フェンタニル(本明細書では生理的に許容されうるその塩を含むことが理解される)は、0.1〜10 mg/ml、好ましくは0.5〜4.4 mg/mlの濃度で製剤に使用される(重量はフェンタニル遊離塩基の重量として表される)。
【0011】
水中でのフェンタニルの溶解度を向上させるために使用されうる極性有機溶媒の例は、エタノールなどの低級アルコール(例えばC2-4アルコール)、グリセロールおよびプロピレングリコールなどの低級ポリオール(例えばC2-4ポリオール)、ならびにPEG200およびPEG400などのポリエチレングリコールを含む。
【0012】
上記の物質の混合物が使用されうる。好ましい極性有機溶媒はエタノールである。
【0013】
本発明の別の実施形態では、製剤はエタノールを含まない。実際に、製剤は実質的にいずれのアルコールも含まなくてもよく、または全くアルコールを含まなくてもよい。組成物がアルコールを含まない場合、使用される担体は好ましくはポリオールである。好ましいポリオールはプロピレングリコールおよびグリセロールを含む。
【0014】
一般的に言えば、予想される使用または暴露条件下において溶液中にフェンタニルが存在し続けるように、フェンタニルを適切に可溶化するために必要な(または必要とされるよりわずかに多い)最小量の極性有機溶媒を用いることが望ましい。極性有機溶媒の濃度は、好ましくは6〜50%、より好ましくは20〜45%、特に35〜42%である。
【0015】
好ましくは、水はUSP(米国薬局方)またはEP(欧州薬局方)の「精製水」規格を満たす。
【0016】
製剤の特性は、1つ以上のさらなる製剤成分を含有することによって改善されうる。
【0017】
このようなさらなる成分の1つはバッファーである。バッファーは、好ましくは、製剤のpHをpH 7.4〜8.5、好ましくはpH 8.0〜8.5、より好ましくは8.1〜8.3、または約8.2で安定するように調整される。より高いpH値では、製剤の生物学的利用能はより低いpH値(例えばpH 6付近)と比較して改善されうる。典型的なバッファー系は、酢酸ナトリウム/酢酸、酢酸アンモニウム/エデト酸二ナトリウム、ホウ酸/水酸化ナトリウム、オルトリン酸/水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム/炭酸ナトリウム、オルトリン酸水素二ナトリウム/クエン酸(英国薬局方から抜粋)を含む。クエン酸バッファー、例えばクエン酸、クエン酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウムを含むバッファーの使用が好ましい。
【0018】
本発明の製剤の水性成分(水またはより好ましくは水性バッファー)の濃度は、好ましくは50〜94%、より好ましくは55〜80%、特に58〜65%である。
【0019】
製剤中に1つ以上の下記の成分を含むことが望ましいこともある。
【0020】
1)(患者の受容性を改善するための)甘味剤、香味剤(flavouring agents)または矯味剤(taste-masking agents)、例えばバニラ、パイナップル抽出物、サッカリンおよびサッカリンナトリウム。
【0021】
2)(患者の快適性を改善し、エタノールおよび他の極性有機溶媒の乾燥傾向を克服するための)保湿剤、例えばパイナップル抽出物、ラノリン、ポリプロピレングリコール、およびポリエチレングリコール。
【0022】
3)(粘膜上での滞留時間を増加させるための)粘膜付着剤、例えばカルボキシビニルポリマー、キトサン、ポリアクリル酸、ゼラチンおよびポリビニルピロリドン。
【0023】
4)(微生物汚染に対する長期間の抵抗性を改善するための)保存剤、例えばエタノール、メタ重亜硫酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウムおよびNipas。
【0024】
5)抗酸化剤、例えば没食子酸アルキル、ブチル化ヒドロキシアニソール、ブチル化ヒドロキシトルエン、ノルジヒドログアヤレト酸(nordihydroguaiaretic acid)、トコフェロール、アスコルビン酸およびメタ重亜硫酸ナトリウム。
【0025】
6)陰イオン界面活性剤、例えばステアリン酸マグネシウム、セトステアリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、硫酸化ヒマシ油、オレイン酸ナトリウム、ステアリルフマル酸ナトリウムおよびテトラデシル硫酸ナトリウム。
【0026】
7)非イオン界面活性剤、例えばモノステアリン酸グリセリン、マクロゴールセトステアリルエーテル、ポロキサマー、ステアリン酸ポリオキシル、ポリソルベート、ソルビタンエステル、ショ糖エステル、チロキサポール、モノステアリン酸プロピレングリコール、キラヤ、ポリオキシルヒマシ油、ノノキシノール、レシチンおよびその誘導体、オレイン酸およびその誘導体、ならびにオレイルアルコールおよびその誘導体。
【0027】
8)発泡剤、例えばアルギン酸およびその塩、アルギン酸プロピレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、セトステアリル硫酸ナトリウム、カルボマーならびにヒドロキシエチルセルロース。
【0028】
上記に提案されるいくつかの成分は、既に他の目的のために本発明の組成物に含まれうる。適切な保湿剤は、例えば、グリコールなどの極性有機溶媒、特にプロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール、グリセロール、メチルセルロース、ヒプロメロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ならびに多くの他の置換セルロースを含む。
【0029】
製剤の受容性および他の特性を改善する多用途の成分はメントールである。メントールは、製剤の矯味だけでなく、保湿効果を有する。それはまた、浸透促進剤としての効果をも有しうる。好ましくは、メントールは0.25%より少ない濃度範囲、少なくとも0.01%または0.1%、最大0.2%までで用いられ、最適濃度は0.1%である。スケールアップバッチにおけるこの割合のいくらかの増加は、結晶化を引き起こすことがあり、商業用途/臨床用途での適切性を低下させうる。
【0030】
メントールの特別な利点の1つは、それが噴霧製剤においてフェンタニルと適合することである。一方、ハッカ油(メントールはそのうちの1成分である)はフェンタニルを劣化させうる。
【0031】
本発明の1つの実施形態では、製剤は甘味剤を含有する。好ましい甘味剤は、サッカリンまたは生理的に許容されうるその塩(サッカリンナトリウムなど)である。好ましくは、サッカリンナトリウムまたは生理的に許容されうるその塩の濃度は、約0.1〜0.5%、例えば約0.28%である。
【0032】
好ましくは、製剤はサッカリンを含有する。意外にも、本発明者らは、サッカリンを含有する製剤の長期的な安定性がサッカリンナトリウムを含有する製剤の安定性よりも良好であることを発見した。
【0033】
エタノールが存在する場合、その保存特性のため、製剤中に保存剤を含むことは一般的に必要ではない。
【0034】
本発明の製剤は、鎮痛および痛み、例えば中程度から重度の痛みの治療に有用である。治療上有効な量の製剤が使用されるべきであり、これは当業者によって容易に決定され得る。
【0035】
本発明の製剤は、好ましくは、定量ポンプを備えた密封容器を有するポンプ噴霧システムに複数回投与量を含むバルク溶液として包装される。このような容器は好ましくは20〜200回分の投与量を含む。例えば容器はプラスチック、ガラスおよび金属(例えばアルミニウム)製のものであるが、ガラス容器が好ましい。ガラス容器は、容器の内容物を見ることができる(すなわち、いつ内容物がなくなりつつあるかを視覚的に確認することができる)という利点を有する。さらに、ガラス容器は不正開封(tampering)を受けにくく、それは麻薬物質にとって重要な考慮事項である。
【0036】
好ましくは、ガラス容器は、破損から保護するために、プラスチック材料の適切な成形フィルムで外側をコーティングされる。例えば、フィルムはポリプロピレンでありうる。その材料は着色され、UV吸収剤を含有しうる。任意選択で、容器の内側は、製品の安定性を向上させるためにコーティングされ得る。コーティングはポリマーおよびラッカーを含むが、また二酸化ケイ素(silicone dioxide)も、容器の内部を非反応性コーティングで被覆するために使用されうる。
【0037】
本発明の別の態様は、本発明の製剤を含み、定量ポンプ、作動装置およびチャネリング装置(channelling device)を備えた密封容器を有する定量投与システムである。定量投与システムは、好ましくは舌下投与に適している。
【0038】
適切な定量ポンプは、直立方向または逆方向での容器による投与に適したものを含む。好ましくは、舌下投与を容易にするので、定量チャンバーは直立方向での容器による投与に適している。従って、定量チャンバーは浸漬管によってバルク製剤と連絡している。
【0039】
適切な定量ポンプの例は、Valoisによって製造され、WO01/66089において説明されるものである。
【0040】
定量ポンプは、好ましくは浸漬管を有するノンベント式である。このようなノンベント定量ポンプは、例えば、100μlの定量チャンバー容量を有しうる。それらの構造物の適切な材料は、ポリプロピレンおよびポリエチレンを含む。適切なシーリング材、例えば目的に適した熱可塑性圧着ガスケットが使用されうる。加えて、ガラス容器に圧着する目的で設計された適切なアルミニウムフェルールが使用されうる。適切な品質等級のステンレス鋼のバネが採用されることが好ましい。
【0041】
好ましくは、作動装置は舌下で有効な量を送達するように設計される。包装は、患者による服用遵守を促進するために、ロックアウトシステムを備えることによってさらに改善されうる。
【0042】
通常、患者は1〜4回の作動、例えば噴霧ポンプからの1回または2回の作動での舌下投与によって治療される。1または2回の投与によって、必要であれば1回の作動によって患者が容易に投与量を調整できることが、舌下噴霧送達の利点である。これは他の薬物送達形態(パッチ、ロゼンジ、錠剤、坐薬)には当てはまらない。
【0043】
下記の実施例は本発明を説明し、また比較研究を含み、本発明が基づく根拠を提供する。
【実施例】
【0044】
実施例1
下記の製剤が調製された。
フェンタニル塩基 0.43%
無水エタノール 44.69%
メントール 0.75%
サッカリン 0.25%
クエン酸バッファー 53.88%
バルクからの製剤を10 mlのガラスPurguard容器に充填し、25℃で保存した。その単位(units)を安定性試験前に一貫性について検査した。検査において、その単位は浸漬管の基部に結晶成長を示した。10本をさらに音波処理したところ、結晶は溶解したがその後再発生した。
【0045】
エタノールに溶解しクエン酸バッファー溶液で調整された3つの異なるメントールのバッチを用いて、実験を繰り返した。3つの異なるメントール濃度、すなわち0.25%、0.50%および0.75%が評価された。
【0046】
その単位は少量で調製され、様々な所要の割合に渡るそれぞれの濃度について6本のPurguard瓶を実施した。0.75%メントールを用いて少量を調製することは可能であるが、その割合では6単位以上のスケールアップにおいて、および0.5%のいくつかのサンプルにおいてさえも、結晶が形成されることがわかった。結晶成長を止める方法は、より低い濃度のメントールを使用することであった。
【0047】
本実験の結論は、この特定の種類のポンプ噴霧製剤において使用されるメントールは商業生産のためのスケールアップにおいて注意深く考慮されなければならず、約0.1%の濃度が使用されるべきであることを示唆した。結晶化は、常温でガラス容器での保存において、使用されたメントールの量に応じて時間とともに観察された。これは200、400および600μgの濃度で一貫していた。
【0048】
実施例2
本発明を説明する、舌下ポンプ噴霧に適した、1回用量あたり20μgを提供する製剤の例は、以下のものを含有する。
フェンタニル塩基 0.2017%
無水エタノール 40.4371%
クエン酸バッファー 59.0602%
メントール 0.1013%
サッカリン 0.1997%
クエン酸バッファーは、以下のもので構成される。
無水クエン酸 1.0%
クエン酸ナトリウム 0.5%
水酸化ナトリウム 0.5%
精製水で100%にする。
【0049】
必要に応じて、バッファーを重量で最終的に調製する前に、バッファーを水酸化ナトリウム溶液またはクエン酸溶液でpH 8.2に調整する。
【0050】
0.1%メントールを含有する製剤の大規模調製は成功した。様々な濃度のそれぞれについて1 kgのバッチサイズが調製された。この規模では、約2500本の10 mlガラスPurgard容器が4.3 gの溶液で充填された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体噴霧医薬製剤であって、
(a)フェンタニルまたは製薬上許容されうるその塩;
(b)担体としての水;および
(c)フェンタニルまたはその塩の水中での溶解度を向上させるために十分な量の極性有機溶媒;および
(d)0.25重量%より少ない量のメントール(または同等の精油)
を含有する製剤。
【請求項2】
フェンタニルが遊離塩基として存在する、請求項1に記載の製剤。
【請求項3】
部分的に加圧された、請求項1または請求項2に記載の製剤。
【請求項4】
フェンタニルまたはその塩が0.1〜10 mg/mlの濃度で存在する、上記の請求項のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項5】
前記極性有機溶媒が、エタノール、プロピレングリコール、グリセロール、ポリエチレングリコールおよびそれらの混合物より選択される、上記の請求項のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項6】
前記極性有機溶媒がエタノールである、請求項5に記載の製剤。
【請求項7】
前記極性有機溶媒が6〜50% w/wの量で存在する、上記の請求項のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項8】
前記極性有機溶媒が35〜42% w/wの量で存在する、請求項7に記載の製剤。
【請求項9】
緩衝化された、上記の請求項のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項10】
クエン酸バッファーで緩衝化された、請求項9に記載の製剤。
【請求項11】
pHが7.4〜8.5である、上記の請求項のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項12】
pHが約8.2である、請求項11に記載の製剤。
【請求項13】
甘味剤を含有する、上記の請求項のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項14】
前記甘味剤がサッカリンである、請求項13に記載の製剤。
【請求項16】
痛みの治療における使用または鎮痛薬としての使用のための、上記の請求項のいずれか1項に記載の製剤。
【請求項17】
スプレーとして舌下投与される、上記の請求項のいずれか1項に記載の製剤を含有する噴霧装置。
【請求項19】
請求項1〜16のいずれか1項に記載の製剤の複数回投与量を含有する密封容器。
【請求項20】
ガラス製である、請求項19に記載の容器。
【請求項21】
請求項19または請求項20に記載の密封容器を有し、定量ポンプ、作動装置およびチャネリング装置を備えた定量投与システム。
【請求項22】
直立方向での容器による投与に適している定量チャンバーを有し、前記定量チャンバーが浸漬管によって製剤と連絡している、請求項21に記載の投与システム。

【公表番号】特表2009−500387(P2009−500387A)
【公表日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−520002(P2008−520002)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【国際出願番号】PCT/GB2006/002526
【国際公開番号】WO2007/007059
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(507303376)ソーセイ アールアンドディ リミテッド (16)
【Fターム(参考)】