説明

精液注入装置

【課題】動物の子宮内に確実に精液を注入するための精液注入装置を提供する。
【解決手段】精液注入装置1は、動物の子宮内に精液を注入するため装置である。この精液注入装置1は、子宮内に挿入されるパイプ状に形成されてその一端側に螺旋状の挿入部2を有するガイド部材3と、該ガイド部材3の他端側からその内部に挿入されて前記精液を前記子宮内に注入するためのカテーテル4と、該カテーテル4と同時に前記ガイド部材3の他端側からその内部に挿入されて前記子宮内を観察するための観察装置5と、を具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、動物の子宮内に精液を注入するための精液注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、豚や牛等の家畜を繁殖させる際には、これらの雄と雌とを交尾させていた。しかし、近年では交尾による繁殖は効率が悪く、家畜の雄の精液を採取してこれを雌の子宮内に注入することにより人工的に受精させて繁殖を行っている。そして、前述のように精液を子宮内に注入する装置として以下のような、カテーテルが考案されている。
【0003】
このカテーテルは、家畜の子宮体内挿入用の外側パイプの内部に、先端部にノズル部を有する可撓性のチューブを押出し自在に挿入して成り、ノズル部を有するチューブの先端側を外側パイプの先端から押し出した状態で、チューブの後端部側からノズル部に向かって精子又は卵子を送り出す形式の家畜用人工授精カテーテルにおいて、外側パイプの少なくとも先端部を弾性部材で構成し、前記弾性部材で構成された先端部に、通常閉で且つノズル部からの押圧力が作用したときに押し広げられる口部を予め形成したものである(例えば、特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2005−211190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前述のようなカテーテルにおいては、当該カテーテルの先端部分が子宮のどの位置まで挿入されたかを判断することができないため、精液を子宮の頚管部分に正確に注入することができず、受胎率を向上させることが困難であった。
【0006】
この発明は上記のような種々の課題を解決することを目的としてなされたものであって、家畜等の動物の子宮の頚管部分に確実に精液を注入することができる精液注入装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1記載の精液注入装置は、動物の子宮内に精液を注入するための精液注入装置において、前記子宮内に挿入されるパイプ状に形成されてその一端側に螺旋状の挿入部を有するガイド部材と、該ガイド部材の他端側からその内部に挿入されて前記精液を前記子宮内に注入するためのカテーテルと、該カテーテルと共に前記ガイド部材の他端側からその内部に挿入されて前記子宮内を観察するための観察装置と、を具備することを特徴としている。
【0008】
請求項2記載の精液注入装置は、前記挿入部が前記ガイド部材の一端部に着脱自在に設けられることを特徴としている。
【0009】
請求項3記載の精液注入装置は、前記ガイド部材の他端側の外周面に前記挿入部より大径な握持部が設けられることを特徴としている。
【0010】
請求項4記載の精液注入装置は、前記ガイド部材を回転自在となるようにその外周面を保持する保持部と、当該保持部に連設されて前記ガイド部材から直角方向に延出する把持部と、具備することを特徴としている。
【0011】
請求項5記載の精液注入装置は、前記挿入部が発光自在であることを特徴としている。
【0012】
請求項6記載の精液注入装置は、前記保持部材の内部に把持部から保持部に亘って連続的に設けられた光路と、前記把持部の内部に設けられて前記光路を通って前記ガイド部材の方向に光を照射可能な照明装置と、を具備し、前記ガイド部材、及び、前記挿入部が透光自在に形成されると共に、当該ガイド部材が前記照明装置から照射される光を当該挿入部の方向へ反射可能な反射部を具備することを特徴としている。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の精液注入装置によれば、前記子宮内に挿入されるパイプ状に形成されてその一端側に螺旋状の挿入部を有するガイド部材と、該ガイド部材の他端側からその内部に挿入されて前記精液を前記子宮内に注入するためのカテーテルと、該カテーテルと共に前記ガイド部材の他端側からその内部に挿入されて前記子宮内を観察するための観察装置と、を具備している。これにより、ガイド部材を動物の子宮に挿入した後でカテーテルと観察装置とを当該ガイド部材の他端部から挿入することにより、該観察装置で子宮内を観察しながら該カテーテルから精液を子宮内に注入することができるので、当該子宮の頚管部に確実に精液を注入することができる。従って、子宮に精液を注入した後の受胎率を向上させることができ、家畜等の動物を効率的に繁殖することができる。
【0014】
請求項2記載の精液注入装置によれば、前記挿入部が前記ガイド部材の一端部に着脱自在に設けられている。これにより、牛、馬、豚等の動物によって子宮内の構造が異なる場合であっても、各動物の子宮等の形状に応じて作成された挿入部を使用することで子宮内に確実に精子を注入でき、受胎率を向上させることができる。さらに、各動物によって複数の精液注入装置自体を用意する必要がなく挿入部のみを複数用意すればよいので経済的である。
【0015】
請求項3記載の精液注入装置によれば、前記ガイド部材の他端側の外周面に前記挿入部より大径な握持部が設けられている。これにより、挿入部を動物の子宮内に挿入する際に、作業者が当該挿入部よりも大径な握持部を回転させることで、てこの原理を利用することができ、挿入部を回転させる作業を容易に行うことができる。
【0016】
請求項4記載の精液注入装置によれば、前記ガイド部材を回転自在となるようにその外周面を保持する保持部と、当該保持部に連設されて前記ガイド部材から直角方向に延出する把持部と、具備している。これにより、挿入部を動物の子宮内部に挿入する作業を行う際には、作業者が把持部を持ちながら挿入部を回転させることができるので、前記作業の際に挿入部の先端がぶれることがなく、当該挿入部を確実に子宮内部に挿入することができる。
【0017】
請求項5記載の精液注入装置によれば、前記挿入部が発光自在であるので、子宮内部を挿入部で照らすことで観察装置による観察をより容易にして動物の子宮に挿入部を挿入する際の作業等を容易に行うことができる。
【0018】
請求項6記載の精液注入装置によれば、前記保持部材の内部に把持部から保持部に亘って連続的に設けられた光路と、前記把持部の内部に設けられて前記光路を通って前記ガイド部材の方向に光を照射可能な照明装置と、を具備し、前記ガイド部材、及び、前記挿入部が透光自在に形成されると共に、当該ガイド部材が前記照明装置から照射される光を当該挿入部の方向へ反射可能な反射部を具備している。これにより、ガイド部材を回転させた状態においても常に挿入部を発光させることができ、挿入部を確実に動物の子宮内に挿入することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
この発明における精液注入装置の最良の実施形態について、以下に説明する。本発明の実施形態に係る精液注入装置1は、図2、図4に示すように、動物の子宮内に精液を注入するため装置である。この精液注入装置1は、前記子宮内に挿入されるパイプ状に形成されてその一端側に螺旋状の挿入部2を有するガイド部材3と、該ガイド部材3の他端側からその内部に挿入されて前記精液を前記子宮内に注入するためのカテーテル4と、該カテーテル4と共に前記ガイド部材3の他端側からその内部に挿入されて前記子宮内を観察するための観察装置5と、を具備している。
【0020】
前記動物は、牛、豚、馬、山羊等の家畜として人間が飼育するものを始め、これ以外にも、犬、猫、兎等の愛玩動物として人間が飼育するもの、さらには、これら以外の絶滅危惧種等であり、特に限定されるものではない。
【0021】
前記精液は、動物の雄から予め採取された精子を含む精液を遠心分離した後、例えばグリセリン等で希釈されて液体窒素やドライアイス等で凍結された保存状態のものを、湯浴等で解凍したものである。しかし、前記精液としては、前述のように凍結保存されたもの以外にも、動物の雄から予め採取されたものをそのまま使用してもよい。尚、前述の精子の凍結保存方法や解凍方法は一例でありこれに限定されるものではない。
【0022】
前記ガイド部材3は、図1乃至3に示すように、中空のパイプ状に形成された長尺の部材であり、アクリルやポリカーボネート等の透光性の合成樹脂から形成されている。そして、このガイド部材3の一端部には、螺旋状に形成された螺旋翼2aを先端に有する挿入部2が当該ガイド部材3に着脱自在に設けられている。この挿入部2は、ガイド部材3と同様に中空のパイプ状に設けられており、その内径は当該ガイド部材3の外径と同径となるように形成されている。そのため、挿入部2をガイド部材3に取付ける際には、当該ガイド部材3の一端部を挿入部2に挿入するように取付ければよく、これにより容易に該挿入部2が外れることがない。
【0023】
尚、挿入部2の形状は、本実施形態のように筒状に限定されず、各動物の膣内の形状等に応じて適宜変更することができ、動物の性器の形状を模していてもよい。また、挿入部2は、ガイド部材3と同様の材料から形成されていてもよいが、動物の子宮等を傷つけることがないように透光性のシリコンやウレタン等の柔軟な材料が使用されることが好ましい。
【0024】
そして、ガイド部材3には、図1乃至3に示すように、その他端部の外側面3aを覆うようにして円柱状の握持部6が設けられている。この握持部6は、少なくとも挿入部2の直径よりも大径となるように形成されているため、ガイド部材3に取付けられた挿入部2を回転させて動物の子宮内に挿入する際に、てこの原理を利用することができ螺旋状の挿入部2を動物の子宮内に容易にねじ込むことができる。尚、握持部6は、ガイド部材3の他端部でなくとも、該ガイド部材3の一端部と他端部との中間に設けられていてもよく、さらに、その表面に凹凸状等の滑り止めを形成していてもよく、形状も円柱状に限定されずその他の形状であってもよい。
【0025】
ガイド部材3は、図1、図3、図5に示すように、その中間部分を保持部7によって回転自在に保持されている。この保持部7は、円柱状に形成されると共に、その中心部には、一方面側から他方面側にガイド部材3を貫通可能な貫通孔7aが設けられており該ガイド部材3が貫通孔7aを貫通するようにして、当該保持部7がガイド部材のを保持している。そして、貫通孔7aの一方側の開口部7b、及び他方側の開口部7cにはそれぞれ周知のベアリング8が設けられており、前述のように貫通されたガイド部材3が、パイプ状に形成された透光性のパイプ部材9を介して回転自在に保持されている。また、保持部7には、図5に示すように、ガイド部材3から直角方向に延出して把持部10が連設されている。そのため、作業者は把持部10を把持しながら握持部6を回転させることができるので挿入部2を動物の子宮に挿入する際に当該挿入部2の先端がぶれることがなく確実に該挿入部2を子宮内に挿入することができる。
【0026】
また、把持部10は、図5に示すように、その内部を透光可能となるように中空状に形成されて第1の光路11が設けられており、当該第1の光路11の底部12にはガイド部材3の方向に光を照射可能な照明装置13が設けられている。この照明装置13としては、豆電球やLED等を適宜選択して使用することができ、また、当該把持部10の内部に電池等の蓄電手段(不図示)を具備しており、スイッチ等で照明のON、OFFが可能である。また、照明装置13の電源としては、蓄電手段を具備する以外にも商業用電源と配線を介して電気的に接続されていてもよい。尚、本実施形態における第1の光路11は中空状となるように形成されているが、当該第1の光路11にアクリル等の透光性の樹脂やガラス等が充填されていてもよい。
【0027】
そして、把持部10が設けられた箇所における保持部7には、図5に示すように、照明装置13から照射された光を第1の光路11からさらにガイド部材3の方向に透光可能となるように第2の光路14が設けられている。この第2の光路14は保持部7の一部を切欠くように形成されていてもよく、さらに、この切欠かれた箇所にアクリル等の透光性の樹脂やガラス等が充填されていてもよい。このように、第1の光路11と第2の光路14とが照明装置13からガイド部材3に至るまで連続的に形成されており、当該照明装置13から照射される光がガイド部材3にまで届くようになっている。さらに、照明装置13から照射される光が効率的にガイド部材3に届くように第1の光路11及び第2の光路14の側面に鏡面加工が施されていてもよい。
【0028】
また、ガイド部材3における照明装置13の光が照射される箇所には、図5に示すように、当該光を挿入部2の方向へ反射可能な反射部15が設けられている。そして、本実施形態においては、その断面形状が直角二等辺三角形状の溝部16がガイド部材3の外周面3aの周方向に亘って複数形成され、当該溝部16の斜辺16aが反射部15となっている。この反射部15としては、これ以外にも例えばアルミ蒸着された樹脂等が埋め込まれていてもよく、これらに限定されるものではない。
【0029】
そのため、図5に示すように、照明装置13から照射された光は第1の光路11、第2の光路14を経て反射部15で挿入部2の方向へ反射される。さらに、溝部16はガイド部材3の周方向に亘って形成されているため、挿入部2を動物の子宮に挿入する際に、ガイド部材3を回転させた場合にも常に溝部16の斜辺16aが照明装置13からの光を挿入部2の方向へ反射することができる。そして、前述のように挿入部2の方向へ反射された光は、ガイド部材3内を透過して挿入部2から当該光が照射される。この際には、挿入部2を成型する際に照明装置13の光で励起可能な蛍光物質を混錬しておくことが好ましく、これにより、反射部15で反射された光と挿入部2に混錬された蛍光物質の蛍光とで動物の子宮内を照らすことができる。
【0030】
前記カテーテル4は、図4に示すように、例えばポリプロピレン等の可撓性の合成樹脂から長尺に形成されて成る中空の部材である。このカテーテル4は、少なくともガイド部材3よりも長尺に形成され、使用状況に応じて所望の長さにカットする等して使用することができる。また、カテーテル4は、ガイド部材3の一端側の挿入部2が動物の子宮に挿入された後、図4に示すように、当該ガイド部材3の他端側からその内部に挿入されて該子宮の頚管部等にまでその先端部を到達させる。そして、動物の精液を、図4に示すように、周知の使い捨てシリンジ17等でカテーテル4の後端部から注入して、当該精液を子宮の頚管部等に注入する。
【0031】
前記観察装置5は、図4に示すように、カテーテル4と共にガイド部材3の他端側からその内部に挿入されて子宮内を観察するためのものである。この観察装置5としては、本実施形態のように、周知の光ファイバーセンサー18を使用することができる。この光ファイバーセンサーは、光を伝達するための光ファイバー18aと、当該光ファイバーの先端部に設けられた集光レンズ18bと、光ファイバー18aの後端部に設けられて光ファイバー18bに伝達された光を検出するための検出器18cとを具備している。
【0032】
当該検出器18cでは、子宮内の光の強度、可視光スペクトル等を検出することができ、図外の液晶ディスプレイ等の表示装置にこれらの検出情報を表示することができる。これにより、観察装置5と共に動物の子宮内に挿入されたカテーテル4を確実に子宮の頚管部に誘導することができ、受胎率を向上させることができる。また、表示装置は検出器と一体化されていてもよく、観察装置5としては光ファイバーセンサー以外にも周知の小型のCCDカメラ等を適宜使用することができる。
【0033】
以上のような精液注入装置1によれば、家畜等の動物の子宮の頚管部分に確実に精液を注入することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る精液注入装置1は、牛、豚、馬等の家畜以外にも犬、猫等の愛玩動物等の種々の動物に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】挿入部を取外した状態の本実施形態に係る精液注入装置の全体斜視図
【図2】挿入部が取付けられた状態の本実施形態に係る精液注入装置の全体斜視図
【図3】本実施形態に係る精液注入装置の側面図
【図4】ガイド部材にカテーテルと観察装置とが挿入された状態を示す側面図
【図5】本実施形態に係る保持部材の断面拡大図
【符号の説明】
【0036】
1 精液挿入装置
2 挿入部
3 ガイド部材
4 カテーテル
5 観察装置
6 握持部
7 保持部
10 把持部
13 照明装置
16 溝部
16a(15) 斜辺
18(5) 光ファイバーセンサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物の子宮内に精液を注入するための精液注入装置において、
前記子宮内に挿入されるパイプ状に形成されてその一端側に螺旋状の挿入部を有するガイド部材と、
該ガイド部材の他端側からその内部に挿入されて前記精液を前記子宮内に注入するためのカテーテルと、
該カテーテルと共に前記ガイド部材の他端側からその内部に挿入されて前記子宮内を観察するための観察装置と、
を具備することを特徴とする精液注入装置。
【請求項2】
前記挿入部が前記ガイド部材の一端部に着脱自在に設けられることを特徴とする請求項1記載の精液注入装置。
【請求項3】
前記ガイド部材の他端側の外周面に前記挿入部より大径な握持部が設けられることを特徴とする請求項1又は2記載の精液注入装置。
【請求項4】
前記ガイド部材を回転自在となるようにその外周面を保持する保持部と、当該保持部に連設されて前記ガイド部材から直角方向に延出する把持部と、具備することを特徴とする請求項1乃至3記載の精液注入装置。
【請求項5】
前記挿入部が発光自在であることを特徴とする請求項1乃至4記載の精液注入装置。
【請求項6】
前記保持部材の内部に把持部から保持部に亘って連続的に設けられた光路と、前記把持部の内部に設けられて前記光路を通って前記ガイド部材の方向に光を照射可能な照明装置と、を具備し、
前記ガイド部材、及び、前記挿入部が透光自在に形成されると共に、当該ガイド部材が前記照明装置から照射される光を当該挿入部の方向へ反射可能な反射部を具備することを特徴とする請求項5記載の精液注入装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−213948(P2010−213948A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65504(P2009−65504)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(592072791)鳥取県 (19)
【出願人】(307016180)地方独立行政法人鳥取県産業技術センター (32)