説明

精測進入レーダ及びレーダ信号処理方法

【課題】降下路周辺の気象情報を提供し、着陸誘導における安全性向上を図る。
【解決手段】本実施形態に係る精測進入レーダは、電子走査式空中線1からレーダ波を送信し、その反射波を受信するレーダ送受信機2と、反射波の受信信号をもとに航空機目標を検出し、ターゲットデータを出力する目標検出部33と、受信信号をもとに気象目標を検出し、ウェザーデータを出力する気象検出処理部7と、受信信号からレーダビデオデータを作成するビデオ作成部32と、上記レーダビデオデータに基づいてレーダビデオを表示し、上記ターゲットデータに基づくシンボルと、上記ウェザーデータに基づく気象情報とを重畳表示するレーダ表示部5とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、精測進入レーダ及びレーダ信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子走査式の精測進入レーダ(Precision Approach Radar;PAR)は、覆域内の目標を一定期間内で捜索しながら、追跡指定された複数の目標に対して追跡ビーム制御を行い、短周期、かつ高精度で追跡目標の検出処理を行い、レーダ表示部に捜索目標と共に追跡目標のシンボルを表示更新する。
【0003】
追跡指定は、運用者がレーダ表示部に表示されている捜索目標シンボルを手動操作により指定、またはASR(Airport Surveilance Radar)またはSIF(Selective Identification Feature)等の二次監視レーダ(SSR:Secondary Surveilance Radar)で検出した管制対象機がPARの覆域内に進入し、データ処理部においてPAR捜索目標と相関が得られた場合に目標処理部に対して当該目標の追跡指示コマンドを送出する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】社団法人電子情報通信学会,「改訂 レーダ技術」,初版,平成8年10月1日,p.224−225
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
PAR装置は、航空機を滑走路へ着陸誘導するためのレーダシステムである。着陸時のダウンバースト等の気象環境の急激な変化は重大事故の危険性がある。しかしながら、上述したような通常のPAR装置は航空機のみを検出してレーダ表示部に表示を行うものであり、ダウンバースト等の気象情報が含まれる雨滴反射信号等は不要な信号として抑圧されレーダ表示部には表示されないという問題がある。
【0006】
本実施形態の目的は、降下路周辺の気象情報を提供し、着陸誘導における安全性向上を図る精測進入レーダ及びレーダ信号処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本実施形態に係る精測進入レーダは、空中線装置からレーダ波を送信し、その反射波を受信する送受信手段と、前記反射波の受信信号をもとに航空機目標を検出し、ターゲットデータを出力する目標検出手段と、前記受信信号をもとに気象目標を検出し、ウェザーデータを出力する気象検出手段と、前記受信信号からレーダビデオデータを作成するビデオ作成手段と、前記レーダビデオデータに基づいてレーダビデオを表示し、前記ターゲットデータに基づくシンボルと、前記ウェザーデータに基づく気象情報とを重畳表示する表示手段とを具備する。
【0008】
本実施形態に係るレーダ信号処理方法は、空中線装置からレーダ波を送信し、その反射波の受信信号を処理する方法であって、前記受信信号をもとに航空機目標を検出し、ターゲットデータを出力し、前記受信信号をもとに気象目標を検出し、ウェザーデータを出力し、前記受信信号からレーダビデオデータを作成し、前記レーダビデオデータに基づいてレーダビデオを表示し、前記ターゲットデータに基づくシンボルと、前記ウェザーデータに基づく気象情報とを重畳表示するものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本実施形態に係る精測進入レーダの構成を示す図。
【図2】レーダ表示部の画面表示例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係る精測進入レーダ及びレーダ信号処理方法を説明する。
【0011】
図1は、本実施形態に係る精測進入レーダの構成を示す図である。精測進入レーダは、電子走査式空中線1、レーダ送受信機2、目標処理部3、データ処理部4、レーダ表示部5、入力部6及び気象検出処理部7を備える。
【0012】
レーダ送受信機2で発生された送信波は、電子走査式空中線1を経由して空間に放射される。航空機等の目標からの反射波は、電子走査式空中線1を経由してレーダ送受信機2で受信される。
【0013】
目標処理部3は、レーダ信号処理部31と、ビデオ作成部32と、目標検出部33と、ビーム制御部34とを備える。
【0014】
レーダ信号処理部31は、レーダ送受信機2からの受信信号を2分岐し、一方を気象検出処理部7へ供給し、他方に対してグランドクラッタ、ウェザークラッタ、及び干渉波等の不要な信号を抑圧した後にビデオ作成部32と、目標検出部33とに供給する。
【0015】
ビデオ作成部32は、レーダ信号処理部31から出力される信号から、レーダビデオデータを生成し、レーダ表示部5に入力する。
【0016】
目標検出部33は、レーダ信号処理部31から出力される信号をもとに目標検出処理を行い、検出された目標のうち、装置仕様等で予め決められた上限数のターゲットデータを生成してデータ処理部4に出力する。
【0017】
ビーム制御部34は、目標検出部33からの追跡指示、及び後述する動作モード選択指示にしたがって、電子走査式空中線1の走査制御を行う。追跡指示は、運用者がレーダ表示部5で入力部6を手動操作することにより指定した目標、または管制対象機がPARの覆域内に進入した場合には自動的に、レーダ表示部5またはデータ処理部4から目標処理部3に対して当該目標の追跡指示コマンドを送出する。
【0018】
一方、気象検出処理部7は、レーダ送受信機2からの受信信号に対し、グランドクラッタ、及び干渉波等不要な信号を抑圧し、雨滴反射信号の信号強度から雨域及び降雨強度情報を得る。また気象検出処理部7は、ドップラ速度成分を解析し、風向、風速、ウィンドシアの発生状況を検出する。これらの気象情報をウェザーデータとしてレーダ表示部5(または気象用端末)に伝送する。
【0019】
データ処理部4には、ASR(Airport Surveilance Radar)及びSIF(Selective Identification Feature)等の二次監視レーダ(SSR:Secondary Surveilance Radar)で捜索されたターゲットデータが入力される。データ処理部4は、目標検出部33からのPARターゲットデータを、ASR/SIF(SSR)ターゲットデータと対応付ける相関処理を行い、管制対象の航空機を特定する。
【0020】
また、データ処理部4には、運用者がレーダ表示部5で入力部6により指定した動作モード選択指示が入力される。降雨を伴わない風向、風速の情報は、目標検出に適した通常のPARの動作では得ることが難しい。そこで、目標処理部3では、気象観測用の動作モードとして、気象観測に適したビーム走査スケジュール、パルス幅、パルス繰り返し周波数等のパラメータを用意しておく。例えば、パルス幅を広げたり、パルス繰り返し周波数を高くする。運用者の操作によりレーダ表示部5で気象観測用の動作モードを選択すると、目標処理部3は、所定時間内で気象検出処理を行った後、通常の動作モードに復帰させる。このような機能を付加することは、管制対象機がPARの覆域に入る前の気象情報を得るのに有効である。
【0021】
レーダ表示部5は、ビデオ作成部32で作成されたビデオデータをもとにレーダビデオを表示すると共に、相関処理後のPARターゲットデータをもとに、目標をシンボル表示する。さらに、レーダ表示部5は、気象検出処理部7から伝送されるウェザーデータをもとに航空機の情報と併せて気象情報の表示を行う。
【0022】
図2に、レーダ表示部5の画面表示例を示す。図2において、航空機の情報として、21はシンボル及びビデオ、22はビデオのみを示すように、レーダビデオにシンボルが重畳表示される。さらに、気象情報として、降雨量(Precipitation)、風向(Wind direction)、及び風速(Wind velocity)が表示され、飛行機の運航に危険を及ぼすウィンドシア(Wind shear)が検出された場合は、斜線部のようにウィンドシアの発生範囲が航空機の情報に重畳表示される。
【0023】
通常のPARでは、航空機のみを検出してレーダ表示部に表示を行うため、雨滴反射信号等は不要な信号として抑圧され、レーダ表示部には表示されない。本実施形態では、目標処理部3からレーダ受信信号を分岐して気象検出処理を行い、得られたウェザーデータをもとに降下路周辺の風雨の状況やウィンドシアの発生状況を航空機情報と共にレーダ表示部に表示し、航空機の安全な着陸誘導に寄与するものである。
【0024】
なお、降雨を伴わない風向、風速の情報は、通常のPARの動作では得ることが難しいため、PARの動作モードとして、気象観測に適したビーム走査スケジュール、パルス幅、パルス繰り返し周波数等のパラメータを用意しておき、運用者の操作によりこの動作モードを選択すると、所定時間内で気象検出処理を行った後、通常の動作モードに復帰させる機能を付加する。このような機能は、管制対象機がPARの覆域に入る前の気象情報を得るのに有効である。また、気象観測用の動作モードから所定時間後には自動的に目標検出の動作モードに復帰するので、運用者の手を煩わせることがなく、本来の管制業務に専念できる。
【0025】
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0026】
1…電子走査式空中線、2…レーダ送受信機、3…目標処理部、4…データ処理部、5…レーダ表示部、6…入力部、7…気象検出処理部、31…レーダ信号処理部、32…ビデオ作成部、33…目標検出部、34…ビーム制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空中線装置からレーダ波を送信し、その反射波を受信する送受信手段と、
前記反射波の受信信号をもとに航空機目標を検出し、ターゲットデータを出力する目標検出手段と、
前記受信信号をもとに気象目標を検出し、ウェザーデータを出力する気象検出手段と、
前記受信信号からレーダビデオデータを作成するビデオ作成手段と、
前記レーダビデオデータに基づいてレーダビデオを表示し、前記ターゲットデータに基づくシンボルと、前記ウェザーデータに基づく気象情報とを重畳表示する表示手段と
を具備することを特徴とする精測進入レーダ。
【請求項2】
前記空中線装置を、前記気象目標の検出に適した動作モードで所定時間動作させた後に、前記航空機目標の検出に適した動作モードで動作させるように制御する制御手段をさらに具備することを特徴とする請求項1記載の精測進入レーダ。
【請求項3】
空中線装置からレーダ波を送信し、その反射波の受信信号を処理する方法であって、
前記受信信号をもとに航空機目標を検出し、ターゲットデータを出力し、
前記受信信号をもとに気象目標を検出し、ウェザーデータを出力し、
前記受信信号からレーダビデオデータを作成し、
前記レーダビデオデータに基づいてレーダビデオを表示し、前記ターゲットデータに基づくシンボルと、前記ウェザーデータに基づく気象情報とを重畳表示することを特徴とするレーダ信号処理方法。
【請求項4】
前記空中線装置を、前記気象目標の検出に適した動作モードで所定時間動作させた後に、前記航空機目標の検出に適した動作モードで動作させるように制御することをさらに特徴とする請求項3記載のレーダ信号処理方法。

【図1】
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【図2】
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