説明

精神異常症の治療または予防処置のための、ミルタザピンと抗精神病剤の新規組み合わせ

【課題】使用する抗精神病剤の効果が増強し、従って抗精神病剤の使用量を低減することができ、それ故、更に薬剤関連の毒性及び副作用の一層良好な管理が可能になる、精神異常症を治療及び/又は予防するための医薬品の提供。
【解決手段】ミルタザピンと抗精神病剤の治療用の組み合わせ、並びに該組み合わせを含有する医薬組成物、及び精神異常症の治療または予防におけるそれらの使用。該抗精神病剤が、ハロペリドール、リスペリドン、およびクエチアピンから選択される前記医薬品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミルタザピンと抗精神病剤の治療用の組み合わせ、該組み合わせを含有する医薬組成物、及び精神異常症の治療または予防におけるそれらの使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
抗精神病剤という用語は、ドパミンD2受容体遮断により作用し、しばしば「典型(typical)」抗精神病薬または神経遮断」抗精神病剤と呼ばれ薬と呼ばれる古典的な抗精神病薬と、「異型(atypical)る新たな抗精神病薬を含む。この異型性は数多くの方法で定められているが、最近、既定の抗精神病剤と同等の効能を発揮する一方で錐体外路副作用の生じる頻度が少ない特性を有するものとして定義された(Meltzer H.Y.Br.J.Psychiatry、1996年、168Suppl.129:23−31)。そのような典型及び異型抗精神病薬の例は、アセプロマジン、クロルプロエタジン、クロルプロマジン、シアメマジンフルオプロマジン、メトトリメプラジン、プロマジン、メソリダジン、ペリシアジン、ピペラセタジン、ピポチアジン、スルホリダジン、チオリダジン、アセトフェナジン、カルフェナジン、ジキシラジン、フルフェナジン、ペラジン、ペルフェナジン、プロクロルペラジンチオプロパザート、チオプロペラジン、トリフルペラジン、クロルプロチキセン、フルペンチクソール、チオチキセン、ズクロペンチクソール、ベンペリドール、ブロムペリドール、ドロペリドール、フルアニソン、ハロペリドール、メルペロン、モペロン、ピパムペロン、スピペロン、チミペロン、トリフルペリドール、フルスピリレン、ペンフルリドール、ピモジド、アミスルプリド、ラクロプリド、レモキシプリド、スルピリド、スルトプリド、チアプリド、モリンドン、オキシペルチン、クロザピン、ロキサピン、リスペリドン、オランザピン、セルチンドール、クエチアピン、及びジプラシドンを含む。
【0003】
今や、最新の抗鬱薬の一つであり、米国特許第4,062,848号に開示されているミルタザピンを抗精神病剤と組み合わせて投与することにより、該抗精神病薬の抗精神病効果を増強できることが明らかになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第4,062,848号
【特許文献2】米国特許第4,062,843号
【特許文献3】米国特許第3,438,991号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Meltzer H.Y.Br.J.Psychiatry、1996年、168Suppl.129:23−31
【非特許文献2】Gennaroらによるレミントンの薬学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)(第18版、Mack Publishing Company、1990年、特に第8部:医薬製剤とその製造(Pharmaceutical Preparations and their Manufacture)を参照
【非特許文献3】1976年のProtaisらによる「マウスにおける、アポモルヒネにより誘発される登はん行動(Climbing behaviour induced by apomorphine in mice):線条体のドパミン受容体を調査するための簡易試験(a simple test for the study of dopamine receptors in striatum)、Psychopharmacology 50:1−6
【発明の概要】
【0006】
本発明は、そのような薬剤を組み合わせて使用することにより、使用する抗精神病剤の効果が増強し、従って抗精神病剤の使用量を低減することができ、それ故、更に薬剤関連の毒性及び副作用の一層良好な管理が可能になることを特徴とするものである。
【0007】
従って、一つの態様によれば、本発明は、ミルタザピンと本明細書で前述したような抗精神病剤からなる組み合わせを提供する。好適には、その組み合わせはミルタザピンを含む。
【0008】
本発明はミルタザピン及び抗精神病剤の誘導体をも含むことが理解されよう。そのような誘導体は医薬的に許容可能なそれらの塩を含む。好ましい塩は、例えば塩酸、フマル酸、マレイン酸、クエン酸、またはコハク酸等の酸付加塩を含むが、これらの酸は単に例示のために揚げたものであり、何らこれらに制限するものではない。
【0009】
ミルタザピンと抗精神病剤の組み合わせは、以後、本発明による組み合わせと呼ぶことがある。
【0010】
本組み合わせの化合物は、同一の医薬製剤または異なる医薬製剤のいずれかにおいて、同時に投与しても良く、あるいは逐次的に投与してもよいことが理解されよう。逐次的に投与する場合は、2番目の活性成分の投与の遅れが、活性成分の組み合わせの効果的な効能の便益性を失うようなものでってはならない。
【0011】
本発明は更に、治療に使用するための、より詳細には精神分裂病、躁病、活動亢進症、物質乱用、嘔吐、及び精神分裂病型異常症等の精神異常症の治療または予防に使用するための、本発明による組み合わせを提供する。
【0012】
本発明は、更に、例えば、前述の障害のいずれかを含む精神異常症に罹患した、またはそれらの疾患に罹りやすいヒトを含む哺乳動物等の動物の治療法を含んでおり、該治療法は、有効量の本発明による組み合わせを投与することからなっている。
【0013】
本発明の更なる特徴は、動物に抗精神病効果をもたらすために必要な抗精神病剤の量の低減方法であり、この方法は、該動物を治療上有効量の本発明による組み合わせで処置することを含むものである。
【0014】
また、本発明は、精神異常症の治療及び/又は予防用の抗精神病剤と同時または逐次的に投与するための薬剤の製造におけるミルタザピンの使用法も提供する。また、ミルタザピンと同時または逐次的に投与する上記薬剤の製造において抗精神病剤を使用し得ることも理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】マウスにおける、アポモルヒネ(1mg/kg)誘導登はん行動に及ぼすミルタザピンの効果。アポモルヒネの30分前にミルタザピンをs.c.注射した。プラシーボ療法と比べた場合、P<0.05。
【図2】マウスにおける、アポモルヒネ(1mg/kg)誘導登はん行動に及ぼすハロペリドール並びにハロペリドール+ミルタザピン療法の効果。プラシーボ+プラシーボ治療グループと比べた場合、P<0.05;**P<0.01;***P<0.001。プラシーボ+ハロペリドール治療グループと比べた場合、P<0.05;00P<0.01。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ミルタザピンと組み合わせて抗精神病剤を投与することにより、抗精神病剤の用量を低減して、同一の抗精神病効果を得ることができる。抗精神病剤の用量を25〜90%低減することができ、例えば40〜80%、及び代表的には50〜70%低減することができる。
【0017】
必要な抗精神病剤の量の低減度は与えられたミルタザピンの量に依存するであろう。使用されるミルタザピンの典型的な用量は以下に開示されている。
【0018】
有効な効果をもたらすために必要なミルタザピンと抗精神病剤の組み合わせの量は勿論変化し、結局は診療医の裁量によって決まるであろう。量を決定する際に考慮すべき因子は、投与経路と処方薬の性状、動物の体重、年齢、及び全体的な状態、並びに治療すべき疾患の性状と重症度を含む。
【0019】
一般的に、ヒトに投与する際のミルタザピンの適当な用量は、1日当たり、レシピエントの体重1キログラムに付き0.01mgから30mgの範囲であり、好適には1日当たり体重1キログラムに付き0.1mgから5mgの範囲であり、最適には1日当たり体重1キログラムに付き0.3mgから1.0mgの範囲であろう。
【0020】
抗精神病剤の適当な用量は、1日当たり、レシピエントの体重1キログラムに付き0.001mgから25mgの範囲であり、好適には1日当たり体重1キログラムに付き0.1mgから10mgの範囲であり、最適には1日当たり体重1キログラムに付き0.25mgから5mgの範囲であろう。
【0021】
活性成分と呼ぶことがある本組み合わせの構成成分は、例えばヒトを含む哺乳動物等の動物を治療するために従来の方法で投与することができる。
【0022】
本組み合わせの活性成分は生の化学物質(raw chemical)として投与することもできるが、それらを医薬製剤として投与することが好ましい。本発明による医薬製剤は、本発明による組み合わせと共に、1つもしくはそれ以上の医薬的に許容可能な担体または賦形剤と、任意に他の治療薬を含んでいる。担体は本処方薬の他の成分と適合性を有するという意味において許容可能なものでなければならず、レシピエントに有害なものであってはならない。本組み合わせの個々の構成成分を別々に投与する場合、一般的に、それらはそれぞれ医薬製剤として投与される。
【0023】
ミルタザピンと抗精神病剤の組み合わせは、単一な投与形態の製剤として都合よく提示することができる。都合のよい単一の用量製剤は、それぞれ0.1mgから1g、例えば5mgから100mgの量の活性成分を含んでいる。典型的には、単位用量は、例えば5mgから50mg、好適には10mgのミルタザピンを含むことができる。
【0024】
より一般的に、近頃では、医薬製剤は、単一包装、通常はブリスターパックに治療の全コースを含有する「患者用包装」の形態で患者に処方される。患者用包装は従来の処方に比べて利点を有しており、そこでは、薬剤師がバルク供給品から製剤の患者用供給品を分割し、患者は、従来の処方には通常含まれていない、患者用包装に含まれている添付文書を常に見ることになる。添付文書を包装に含めることにより、患者が医師の指示に従う程度が改善されることが示されている。
【0025】
本発明の正しい使用法を患者に指示する添付文書を備えた単一の患者用包装または各製剤の患者用包装による本発明の組み合わせの投与がこの発明の更なる望ましい特徴であることが理解されよう。ミルタザピンの適当な用量単位は例えば5mgから50mgであり、抗精神病剤を含有する適当な用量単位は0.1mgから100mgである。
【0026】
本発明の更なる態様によれば、本発明の組み合わせの少なくとも1つの活性成分と、本発明の組み合わせの使用法に関する指示を含む情報添付文書からなる患者用包装が提供される。
【0027】
別の態様によれば、本発明は、ミルタザピンと抗精神病剤のそれぞれを別々に投与するように構成された二重包装を提供する。
【0028】
製剤は、経口投与、経直腸投与、経鼻投与、局所的(経皮、経口腔粘膜、及び舌下を含む)投与、経膣投与、または非経口(皮下、筋肉内、静脈内、及び皮内を含む)投与に適したものを含む。製剤は、薬剤学の分野でよく知られているあらゆる方法により調製することができ、例えば、Gennaroらによるレミントンの薬学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)(第18版、Mack Publishing Company、1990年、特に第8部:医薬製剤とその製造(Pharmaceutical Preparations and their Manufacture)を参照)に開示されているもの等の方法を用いて調製することができる。そのような方法は、活性成分を1つもしくはそれ以上の副成分を構成する担体と会合させるステップを含む。そのような副成分は、充填剤、結合剤、希釈剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、香味剤、及び湿潤剤等の当分野で通常用いられるものを含む。
【0029】
経口投与に適した製剤は、それぞれが予め定められた量の活性成分を含有する丸剤、錠剤、またはカプセル剤等の個別的な単位として提供することができるほか、粉末または顆粒として、あるいは溶液または懸濁液として提供することもできる。また、活性成分はボーラスまたはパスタ剤として提供することもでき、あるいはリポソーム内に包含させてもよい。
【0030】
経直腸投与用の製剤は坐剤または浣腸剤として提供することができる。
【0031】
非経口投与用の適当な製剤は、水性及び非水系の滅菌注射剤を含む。これらの製剤は、1回量または多回量容器、例えば密封されたバイアル及びアンプルに入れた形態で提供することができ、また、使用前に例えば水等の滅菌された液状の担体を付加することだけが必要な凍結乾燥条件下で保存してもよい。
【0032】
経鼻的な吸入により投与するのに適した製剤は、計量された用量の加圧エアゾル、ネブライザー、またはインサフレーターにより生成することができる微細なダストまたはミストを含む。
【0033】
本発明の組み合わせの化合物は従来の方法で得ることができる。ミルタザピンは米国特許第4,062,843号に開示されている方法を用いて調製することができる。
【0034】
抗精神病剤は化学文献で既知の方法により調製することができる。ハロペリドールは、例えば、米国特許第3,438,991号に開示されている方法を用いて合成することができる。
【実施例】
【0035】
以下に示す実施例は例証することのみを意図したものであり、如何なる意味においても本発明の範囲を制限することを意図したものではない。
【0036】
ミルタザピンと神経遮断性化合物であるハロペリドールとの相互作用はアポモルヒネ登はん試験で評価した。アポモルヒネ誘導登はん行動に及ぼすハロペリドールの効果は、ミルタザピンにより増強されることが判明した。
【0037】
ドパミン作動薬であるアポモルヒネをマウスに投与すると、主にケージの壁に対して垂直に後ろ足で立つ、またはよじ登ることからなる特異な運動行動を誘発する。この行動は、線条体のドパミン受容体を刺激することにより引き起こされるもので、この構造体の凝固後はその行動が抑制され、6−ヒドロキシドパミンまたはハロペリドールで前処理してこの領域の受容体を過敏にするとその行動が促進される。中隔側坐核の病変は登はん行動に変化を及ぼさなかった。アポモルヒネにより誘発されるこの登はん行動は、クロザピン及びスルピリドを含む抗精神病薬により中和される(Protaisら、1976年;Costentinら、1975年、Von Voigtlanderら、1975年;Puechら、1978年;Costallら、1978年)。
【0038】
次に、アポモルヒネ誘導登はん行動のハロペリドールによる抑制が、新しい抗鬱薬であるミルタザピンとの共存療法により如何に影響を受けるかを報告する。
【0039】
材料及び方法
使用した試験法は、1976年のProtaisらによる「マウスにおける、アポモルヒネにより誘発される登はん行動(Climbing behaviour induced by apomorphine in mice):線条体のドパミン受容体を調査するための簡易試験(a simple test for the study of dopamine receptors in striatum)、Psychopharmacology 50:1−6」に記載されているものである。体重21g〜25gの雄のマウス(Charles River,Germanyから入手したCrL:CD−1(IcR)BRまたはHarlan OLAC UKから入手したMFI)を用いた。それぞれ10匹のマウスからなるグループに、プラシーボまたはミルタザピンと、ある用量のハロペリドールまたはリスペリドンを同時に皮下(s.c.)注射した。30分後、全てのマウスに1mg/kgまたは0.75mg/kgのアポモルヒネをs.c.注射した。アポモルヒネの注射後、直ちにそれらのマウスをワイヤメッシュ製の筒(直径12cm、高さ14cm)に1匹ずつ入れた。その10分後及び20分後にそれらのマウスの登はん行動を次のように評点する:4本の足が床に着いている=0点;1本乃至2本の足が壁を掴んでいる=1点;3本乃至4本の足が壁を掴んでいる=2点。それぞれのマウスに付き、10分後及び20分後の観察結果の合計点を計算し、各治療グループの平均点を決定する。対照グループの平均点は少なくとも2.0点(可能な最高点数は4.0点である)でなければならない。有意性の示度は両側イェーツ検定で試験する。
【0040】
結果及び検討
ハロペリドール実験の結果が第1/2図に示されている。プラシーボグループの平均点±平均標準誤差(S.E.M.)は3.35±0.20であった。22μg/kg及び46μg/kgのハロペリドール後の平均点±S.E.M.は、それぞれ、3.2±0.33及び2.6±0.37であった。ハロペリドールによる登はん行動の抑制は、マウスがミルタザピン(1mg/kg及び10mg/kg)と同時治療された場合、用量依存的に増強された。ミルタザピンのみを用いた実験の結果は、22mg/kgまでミルタザピンを投与しても、アポモルヒネ誘導登はん行動に効果を及ぼさないことを示した;第2/2図参照。
【0041】
リスペリドン及びクエチアピンを用いた実験の結果が表1及び表2に示されている。
【0042】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ミルタザピンと抗精神病剤とを異なる医薬処方として含む、精神異常症を治療及び/又は予防するための医薬品であって、該抗精神病剤が、ハロペリドール、リスペリドン、およびクエチアピンから選択される前記医薬品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−280596(P2009−280596A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−168383(P2009−168383)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【分割の表示】特願平10−541168の分割
【原出願日】平成10年3月25日(1998.3.25)
【出願人】(398057282)ナームローゼ・フエンノートチヤツプ・オルガノン (93)
【Fターム(参考)】