説明

精神病性障害用のバイオマーカーをモニタリング、診断及び同定する方法

刺激T細胞サンプル又は非刺激T細胞サンプルは、精神病性障害を診断又はモニタリングするのに、バイオマーカーを同定するのに、又は潜在的治療剤として候補物(considerate)を試験するのに使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、T細胞ベースのアッセイ及びバイオマーカーを使用して、精神病性障害、特に統合失調症を診断又はモニタリングする方法に関する。本発明はまた、T細胞刺激アッセイを組み込んでいるバイオマーカーの同定方法に関する。さらに、本発明は、精神病性障害の治療に有用な作用物質を同定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精神病は、重度の精神疾患の症状である。精神病は任意の特定の精神状態又は身体状態に専ら関連されるとは限らないが、精神病は、特に統合失調症、双極性障害(躁うつ病)及び重度の臨床的うつ病に関連する。これらの状態、それらの特性化及びカテゴリー化(DSM IV診断基準を含む)は、PCT/GB2006/003870号(この内容は、参照により本明細書に援用される)に記載されている。
【0003】
国際公開特許第WO01/63295号は、神経精神病状態又は神経学的状態(双極性情動障害、統合失調症及び血管性認知症を含む)をスクリーニングするための方法及び組成物、それらを診断するための方法及び組成物並びにそれらの予後を測定するための方法及び組成物、これらの状態における治療の有効性をモニタリングするための方法及び組成物、並びに薬物開発における使用のための方法及び組成物について記載している。
【0004】
前頭葉及び側頭葉並びに基底核の微妙な変化に基づく磁気共鳴映像法又は陽電子射出断層撮影法のような他の技法は、統合失調症を有する個体と正常な比較被験体との間においてこれらの報告される差の絶対的な大きさが、2つの群間で顕著な重なりを伴って一般的に小さいため、個々の患者における統合失調症の診断、治療又は予後に関してほとんど価値がない。これらの神経画像技法の役割は、脳腫瘍又は出血のような統合失調症の症状に付随し得る他の状態を除外して大いに制限されている。
【0005】
精神障害の逆転又は進行に具体的に相関される初期変化を検出することができるバイオマーカーの検証は、介入をモニタリング及び最適化するのに必須である。予測の判断材料として使用される場合、これらのバイオマーカーは、危険性の高い個体及び化学介入試験用の標的集団として役立ち得る疾患の亜群を同定するのに役立つ助けとなり、サロゲートエンドポイント項目として使用される場合、バイオマーカーは、顕在性精神障害の発生が評価項目として使用される場合に現在のところあり得ない速度で予防的介入の有効性及び費用効果を評価する可能性を有する。
【0006】
国際公開特許第WO2005/020784号は、被験体の予後或いは疾患、障害又は身体状態に対する被験体感受性を測定するための低侵襲的技法による代用細胞遺伝子発現特性を開示している。様々な遺伝子が、特に精神病で調節されることが報告されている(実施例2において)。
【0007】
したがって、統合失調症又は双極性障害のような精神病性障害の診断に関する高感度且つ特異的な方法及びバイオマーカー、並びにそれらをモニタリングするための高感度且つ特異的な方法並びにバイオマーカーを同定する必要がある。さらに、これらの障害の治療のための既存の治療剤及び新規治療剤の同定並びに評価のための方法、モデル、試験及びツール、並びに精神病性疾患を診断するための方法が明らかに必要とされる。
【0008】
T細胞は、胸腺で発生し、且つ免疫系において重要な役割を果たすリンパ球である。T細胞の2つの亜集団が存在し、CD4マーカーを有する細胞がヘルパーT細胞と呼ばれるのに対して、CD8+細胞は細胞障害性T細胞である。T細胞型はともに、抗原認識用のT細胞受容体(TCR)を有する。静止T細胞の刺激又は活性化は、TCR−CD3複合体と抗原提示細胞の表面上の抗原MHCクラスII分子との相互作用により開始される。この相互作用は、最終的にT細胞の成長、増殖及び分化をもたらすT細胞における生化学的事象(遺伝子転写の活性化を含む)のカスケードを開始させる。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、刺激又は非刺激T細胞に対して実施されたアッセイが被験体の状態に関する価値のある情報を提供することができるという発見に少なくとも一部基づいている。T細胞は、それらが例えば末梢血から高純度で比較的単離しやすく且つ低侵襲的様式で得ることができるため、細胞機能を研究するのに良好なモデルを提供する。
【0010】
本発明の一態様は、被験体において精神病性障害を診断又はモニタリングする方法であって、
a.被験体由来の試験T細胞サンプルを準備すること、
b.試験T細胞サンプルに刺激を与えること、及び
c.刺激に対する応答を評価すること、
を含む。
【0011】
この方法は、精神病性障害の予後を評価するのに利用され得る。この方法はまた、精神病性障害を有するか、精神病性障害を有する疑いがあるか、又は精神病性障害に対する素因がない被験体において治療物質の有効性をモニタリングする方法で使用することができる。
【0012】
本発明の第2の態様は、精神病性障害のバイオマーカーを同定する方法であって、
a.精神病性障害を有する被験体由来の試験T細胞サンプルを準備すること、
b.前記試験T細胞サンプルに刺激を与えること、
c.刺激に対する応答を評価すること、
d.応答を、対照T細胞サンプルにおける刺激に対する応答と比較すること、及び
e.応答における任意の差を検出し、それによりバイオマーカーを同定すること、
を含む。
【0013】
本発明の第3の態様は、精神病性障害の治療の潜在的作用物質に関して試験する方法であって、
a.精神障害を有する被験体由来の試験T細胞サンプルを準備すること、
b.試験T細胞サンプルを候補作用物質と接触させること、
c.試験T細胞サンプルに刺激を供給すること、及び
d.刺激に対する応答を評価すること、
を含む。
【0014】
本発明の第4の態様は、被験体において精神病性障害を診断又はモニタリングする方法であって、
a.被験体由来の試験T細胞サンプルを準備すること、及び
b.試験サンプルにおける遺伝子及び/又はタンパク質発現を、対照サンプルと比較すること、
を含む。
【0015】
本発明のさらなる態様は、以下で定義されるようなセンサー、例えばバイオセンサーである。本発明の方法では、バイオマーカーは、1つ又は複数の酵素、結合受容体又は輸送タンパク質、抗体、抗体断片、合成受容体又は他の選択的結合パートナー(例えば、アプタマー、及びバイオマーカーの直接的又は間接的な検出のためのペプチド)を含むセンサーを使用して検出することができる。センサーの認識要素は、電気変換器、光変換器、音響変換器、磁気変換器又は熱変換器に、或いは変換器に付随する微小工学的(microengineered)システムに、或いは量子ドット又は表面プラズモン粒子のようなナノ粒子システムに連結され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
疑念を回避するために、「応答」、「対照」及び「サンプル」のような用語は本明細書中で使用される場合、それぞれ2つ以上のこのような応答、対照又はサンプルが存在する可能性を包含する。
【0017】
「診断」という用語は本明細書中で使用される場合、精神病性障害、特に統合失調症、双極性障害、関連精神病性障害又はそれらに対する素因の同定、確認及び/又は特徴付けを包含する。素因とは、被験体が現時では障害を提示していないが、時が経てば障害に罹患される傾向にあることを意味する。
【0018】
本発明のモニタリング方法を用いて、精神病性障害の発症、進行、安定、改善、及び/又は再発をモニタリングすることができる。
【0019】
「精神病性障害」という用語は本明細書中で使用される場合、精神病が認識されている症状である障害を指し、これには、神経精神病性障害(心因性うつ病及び他の精神病エピソード)及び神経発達障害(特に自閉症スペクトル障害)、神経変性障害、うつ病、躁病、及び特に統合失調症(妄想型統合失調症、緊張型統合失調症、解体型統合失調症、鑑別不能型統合失調症、及び残遺型統合失調症)並びに双極性障害が含まれる。本発明は好ましくは統合失調症に関する。
【0020】
T細胞サンプルは、被験体から採取される末梢血から得られることが好ましい。好ましくは、T細胞サンプルは単離したてであり、即ちT細胞サンプルは、サンプル採取直後に使用される。
【0021】
T細胞単離に関する方法の例は、本明細書中に記載されている(実施例1)。しかしながら、末梢血のような生物学的サンプルからT細胞を獲得又は単離するための当該技術分野で既知の他の方法も同様に用いられ得ることは当業者に理解されよう。
【0022】
「刺激」という用語は本明細書中で使用される場合、応答、好ましくはT細胞増殖及びT細胞受容体誘発に関連した応答を誘導することが可能な刺激を指す。
【0023】
in vitroでのT細胞刺激は、第一に統合失調症における疾患進行の末梢的な兆候を研究するために、並びにさらに細胞シグナル伝達、遺伝子転写、タンパク質合成及びタンパク質輸送のような細胞過程における広範囲の異常又は欠陥がこの障害の病態生理学の根底にあるかどうかを研究するために、患者細胞及び対照細胞の機能的応答を比較する方法として使用され得る。in vivoでのT細胞活性化は、MHCに関連して提示される特異的抗原との相互作用によるT細胞受容体(TCR)の連結を包含する。TCRシグナル伝達複合体は、複合体の細胞質シグナル伝達機能を提供するCD3、阻害性リン酸化チロシンモチーフの脱リン酸化に関与するCD45、及びシグナル伝達複合体を安定化すると考えられるCD4又はCD8のいずれかを含む多数の分子で構成される。最適なT細胞応答に関して、共刺激は、初期シグナルの増幅及び調節に好ましい。これは、CD28、CD40、CD80/CD86及びOX40Lのような分子により提供される。
【0024】
好ましくは、T細胞の刺激は、モノクローナル抗体(抗CD3)を使用して、細胞表面のCD3の架橋を介してTCRシグナルを模倣することによりin vitroで実施される。これは最終的には細胞周期移行をもたらし、またT細胞刺激は転写因子活性化、遺伝子転写、タンパク質合成及びタンパク質輸送を誘導するため、本発明の方法は、これらの生理学的プロセスにおける任意の異常及び任意の結果(例えば、このような異常に関連したmRNA、タンパク質、脂質若しくは他の代謝産物のレベル又は比の差として現れ得る刺激に応じた差)を同定及び追跡することを目指す。
【0025】
好ましくは、刺激は抗CD3抗体である。T細胞の刺激はまた、単独で或いはCD3と組み合わせて、他の作用物質、例えばイオノマイシン及びPMAを使用して実施され得る。
【0026】
したがって、「応答」という用語は本明細書中で使用される場合、静止T細胞の刺激/活性化に対する応答において誘発される応答を指してもよい。このような応答は、増殖、転写因子の活性化又は不活性化、並びに以下:遺伝子発現、タンパク質合成、シグナル伝達、サイトカイン合成、タンパク質輸送及びタンパク質ターンオーバー、代謝産物又は脂質プロファイルの1つ又は複数の調節を包含する。好ましくは、応答は、増殖、遺伝子発現、タンパク質合成及び/又はタンパク質ターンオーバーの調節を含む。
【0027】
したがって、精神性障害を有するか又は精神病性障害に対する素因がある被験体由来のT細胞サンプルにおける応答と、精神病性障害により罹患されていないか又は精神病性障害に対する素因がない正常な被験体における刺激応答との間の差の同定は、精神病性疾患を診断又はモニタリングするのに使用することができる。本発明の方法は、被験体由来の試験T細胞サンプルにおける応答を、対照における刺激に対する応答と比較することを含んでもよい。適切な対照は、精神病性障害により罹患されていないか又は精神病性障害に対する素因がない個体に由来する正常な対照、及び精神病性障害、好ましくは統合失調症を伴う個体に由来する障害対照を包含する。
【0028】
本発明の方法は、試験サンプルと対照サンプルとの間の応答の差を検出することを含んでもよい。
【0029】
したがって、本発明の方法は、試験T細胞サンプルにおける応答と、正常な対照T細胞サンプルにおける応答を比較することを包含してもよく、ここで応答の差は、統合失調症のような精神病性障害の存在又は精神病性障害に対する素因を示している。応答の差は、刺激に対する特定の応答の存在、非存在、増加又は減少として検出され得る。
【0030】
或いは又はさらには、本発明の方法は、試験T細胞応答を特定の精神病性障害に特徴的な応答に適合させることが可能であるように、試験T細胞サンプルにおける応答を精神病性障害対照T細胞サンプルにおける応答と比較することを含んでもよく、このような比較は、類似した臨床症状又は重複している臨床症状を提示する精神病性障害の識別診断に有用である。
【0031】
実施例2に示されるように、刺激後に、統合失調症患者由来のT細胞は、健常な対照と比較して有意に低い増殖を有することが見出されている。したがって、応答が増殖であるこれらの実施形態では、正常な対照T細胞サンプルにおける増殖と比較して被験体由来のT細胞サンプルにおける増殖の低下は、精神病性障害、特に統合失調症が存在していることを示している。実施例1に示されるように、増殖は、子孫細胞DNAへの[H]−チミジン取込みにより評価され得る。
【0032】
精神病性障害を有するか又は精神病性障害に対する素因がある個体由来のT細胞の応答と、正常な個体由来の応答との差はまた、刺激への曝露に応答した、好ましくはT細胞増殖に関する刺激への曝露に応答した遺伝子発現の調節を評価することにより検出され得る。応答の差はまた、精神病性障害を患わないか又は精神病性障害に対する素因がない正常な個体におけるものと比較して、精神病性障害を有するか又は精神病性障害に対する素因がある被験体における差次的遺伝子発現の下流効果、例えば代謝プロファイル、脂質プロファイルの差又はバイオマーカーのレベル若しくは比の差を考察することにより評価され得る。
【0033】
「調節された」及び「調節」という用語は、本明細書中で使用する場合、遺伝子の発現の上方調節若しくは下方調節又はプロテオームの差、例えばタンパク質レベルの増加又は減少を意味する。遺伝子発現の調節は、mRNA又はタンパク質レベルの変化を検出することにより測定され得る。タンパク質レベルの増加又は減少は、単にタンパク質の存在又は非存在を測定することにより、或いは定量的な方法を使用することにより評価され得る。
【0034】
遺伝子の発現レベルを測定する方法は、当該技術分野で周知である。本発明の方法によれば、発現の調節は、mRNA、mRNA由来の核酸又はmRNAから翻訳されたタンパク質の量或いは濃度を評価することによって同定され得る。遺伝子発現は、逆転写およびポリメラーゼ連鎖反応(「RT−PCR」)、例えば定量PCR(特に、リアルタイム定量PCR)及びノーザンブロッティングを含む方法を用いて、mRNAレベルを評価することにより測定され得る。mRNAの発現レベルを測定する適切な方法の1つでは、総RNAサンプルは細胞から得られ、cDNAは、対象の遺伝子(複数可)のmRNAから合成され、cDNAがリアルタイム定量PCR分析に用いられ、サンプルの対象のmRNAのレベルを測定する。このような方法を実行するためのシステム及びキットは市販されている。
【0035】
アレイを使用して、例えばタンパク質のSELDI分析用の弱陽イオン交換(CM10)チップ、又は遺伝子発現用のCodelink Bioarraysを使用して、複数の遺伝子又はタンパク質の発現を評価してもよい。遺伝子発現を評価するのに使用される方法の例は、実施例3に示されている。
【0036】
タンパク質の発現レベルを測定するのに好適な方法又はタンパク質バイオマーカーを同定する適切な方法の一例は、対象のタンパクと特異的に結合することができる抗体又は抗体断片を伴う免疫学的方法である。好適な免疫学的方法には、ペプチドの検出が、異なるエピトープを認識する2つの抗体を用いて行われるサンドイッチELISA等のサンドイッチイムノアッセイ、放射免疫測定法(RIA)、直接又は競合の酵素結合免疫吸着法(ELISA)、酵素免疫測定法(EIA)、ウェスタンブロッティング法、免疫沈降法及び任意の粒子ベースの免疫測定法(例えば、金粒子、銀粒子、ラテックス粒子若しくは磁性粒子又は量子ドットを用いる)が含まれる。免疫学的方法は、例えばマイクロタイタープレート又はストリップフォーマットで行うことができる。
【0037】
例えばバイオマーカーの検出、同定及び/又は定量化のための、例えば存在する核酸、タンパク質、脂質又は代謝産物のレベルを定量化するための本発明の方法で使用され得る他の技法としては、スペクトル分析(例えば、NMR分光法及び高分解能NMR分光法(H NMR)、表面増強レーザ/脱離イオン化(SELDI)(−TOF)及び/又はMALDI(−TOF)のような質量分析法、1−Dゲルベース分析、2−Dゲルベース分析、LC−MSベース技法又はiTRAQ(商標)が挙げられる。タンパク質を分析するのに使用される例を実施例4に示す。
【0038】
iTRAQ(商標)技術は、トリプシンによるタンパク質消化に起因するN−末端ペプチドの化学的タグ付けを包含する。最大4つの標識サンプルが組み合わせられ、ナノ−LCにより分画され、タンデム質量分析法により分析される。次に、タンパク質同定は、断片化データのデータベース検索により達成される。ペプチドの相対的定量化は、低分子量レポーターイオンを生じる化学的タグの断片化により達成される。サンプルがトリプシン消化後に標識される場合、膜貫通型受容体のような高分子量タンパク質の分析が可能であり、断片化されたタグの定量化は、タンパク質アイデンティティー及び定量化においてより大きな信頼性を提供する。
【0039】
本発明によれば、第1の発症の個体及び/又は最小限に治療された個体を含む患者並びに対照の適切なコホートが選択されてもよく、これらは、より確立された病歴を有する慢性疾患患者と比較される。これにより、疾患進行及び薬物治療の効果の両方の比較が可能となる。膜結合タンパク質及び可溶性タンパク質は、刺激を受けたT細胞から調製され得る。したがって、精神病患者及び対照由来のT細胞のプロテオームプロファイリングが実施されてもよく、刺激後に、高分子量及び小分子量並びにタンパク質(例えば、リンタンパク質)の異なる発現に関する情報を提供する。
【0040】
本発明の方法は、サンプルの刺激に応答した1つ又は複数のバイオマーカーの変化を評価することによりサンプルを比較することを含み得る。「バイオマーカー」という用語は、或る過程、事象又は状態に特有の生物学的指標又は生物学的に誘導された指標を意味する。バイオマーカーは、診断の方法(例えば、臨床スクリーニング)、予後評価の方法において、療法の結果をモニタリングすること、特定の治療上の処置に応答する可能性が最も高い患者を同定すること、薬物のスクリーニング及び開発において使用することができる。好ましくは、バイオマーカーは、遺伝子、mRNA、タンパク質又はペプチド、脂質或いは代謝産物である。タンパク質及びペプチドという用語は、本明細書中では交換可能に使用される。バイオマーカーは定量化され得る。バイオマーカー及びそれらの使用は、新規薬物治療の同定及び薬物治療用の新たな標的の発見に価値がある。サンプル中に存在するバイオマーカーの量を定量化することは、サンプル中に存在するペプチドバイオマーカーの濃度を測定することを包含し得る。検出すること及び/又は定量化することは、サンプルに関して直接的に、或いはそれらの抽出物又は希釈物に関して間接的に実施され得る。検出すること及び/又は定量化することは、生物学的サンプルにおける特異的なタンパク質の存在及び/又は量を同定するのに適した任意の方法により実施することができる。
【0041】
一実施形態では、対照サンプルは、正常な対照サンプルを含む。別の実施形態では、対照サンプルは、精神病性障害対照サンプルを含む。別の実施形態では、上記方法はまた、正常なプロファイル、精神病性障害プロファイル又は精神病性障害素因プロファイルを有するとしてサンプルの増殖応答を分類することを含み得る。
【0042】
本発明の方法、特に診断及びモニタリングの方法では、T細胞サンプルは、試験被験体から二回以上採取され得る。試験被験体から二回以上採取されたサンプルの刺激応答を比較して、種々の場合で採取されたサンプルにおける刺激応答間の差を同定することができる。上記方法は、生物学的サンプル中に存在する1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを定量化するための試験被験体から二回以上採取された生物学的サンプルの刺激応答の分析、並びに二回以上採取されたサンプル中に存在する1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを比較することを包含し得る。
【0043】
本発明の診断及びモニタリングの方法は、精神病性障害の予後を評価する方法において、精神病性障害を有するか、精神病性障害を有する疑いがあるか又は精神病性障害に対して素因があることが疑われる被験体において投与した治療物質の有効性をモニタリングする方法において、並びに抗精神病物質又は前精神病(pro-psychotic)物質を同定する方法において有用である。このような方法は、試験被験体から採取された試験生物学的サンプルにおける1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを、物質の投与に先立って試験被験体から採取された1つ又は複数のサンプル、及び/又は物質による治療中の初期の段階で試験被験体から採取された1つ又は複数のサンプル中に存在するレベルと比較することを含んでもよい。さらに、これらの方法は、二回以上、試験被験体から採取された生物学的サンプルにおける1つ又は複数のバイオマーカーのレベルの変化を検出することを含んでもよい。
【0044】
本発明による診断又はモニタリングの方法は、試験被験体から採取された試験生物学的サンプルにおいて1つ又は複数のバイオマーカーを定量化すること、並びに上記試験サンプル中に存在する1つ又は複数のバイオマーカーのレベルを、1つ又は複数の対照と比較することを含んでもよい。対照は、正常な対照及び/又は精神病性障害対照から選択され得る。本発明の方法で使用される対照は、正常な被験体由来の正常な対照サンプルに見出されるバイオマーカーのレベル、即ち正常なバイオマーカーレベル、正常なバイオマーカー範囲、統合失調症、双極性障害、関連精神病性障害又はそれらに対する診断された素因を伴う被験体由来のサンプルにおけるレベル、即ち統合失調症マーカーレベル、双極性障害マーカーレベル、関連精神病性障害マーカーレベル、統合失調症マーカー範囲、双極性障害マーカー範囲及び関連精神病性障害マーカー範囲から選択することができる。
【0045】
応答における差を検出することにより、精神病性障害に関するバイオマーカーの同定が可能となる。応答は、任意の適切な方法又は方法の組合せにより、例えばmRNAレベル及び/又はタンパク質レベルで遺伝子発現を考察して、障害サンプルと対照サンプルとの間での差次的遺伝子発現を検出することにより、タンパク質レベル(例えば、細胞溶解産物中)、脂質プロファイル及び/又は代謝産物プロファイルを考察することにより評価され得る。差は、バイオマーカーの存在又は非存在、或いはバイオマーカーのレベル又はバイオマーカー(複数可)の比の差(増加又は減少)として現れ得る。
【0046】
遺伝子発現の差は、mRNAレベル又はタンパク質レベルにおける調節により検出され得る。バイオマーカーが遺伝子である場合、障害サンプル中に存在する遺伝子の発現は、対照サンプルにおける遺伝子の発現と比較して調節されてもよく、したがって遺伝子から転写されるmRNAの種々のレベルが検出される。例えば、発現は増加又は減少されてもよく、或いはmRNAの種々のスプライス変異体又はスプライス変異体の比が検出されてもよい。別の実施形態では、バイオマーカーはタンパク質であり、サンプル中に存在するタンパク質のレベルは、対照サンプル中に存在するタンパク質レベルと異なる。例えば、レベルは、該レベルが増加又は減少されるように調節されてもよく、或いはタンパク質切断生成物の差が見出されてもよく、これは、定量的な方法により評価され得るか、或いはタンパク質の存在又は非存在により測定され得る。
【0047】
一実施形態では、1つ又は複数のバイオマーカーのレベル又は比が検出される。これは、バイオマーカーの直接的又は間接的な検出用の1つ又は複数の酵素、結合受容体若しくは輸送タンパク質、抗体、合成受容体又は他の選択的結合分子を含むセンサー、例えばバイオセンサーを使用して実施され得る。検出に関して、センサーは、電気変換器、光変換器、音響変換器、磁気変換器又は熱変換器に連結され得る。
【0048】
本明細書で用いられる「抗体」という用語は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、ヒト化抗体又はキメラ抗体、一本鎖抗体、Fab断片及びF(ab’)断片、Fab発現ライブラリで産生された断片、抗イディオタイプ(抗Id)抗体、及び上記のいずれかのエピトープ結合断片が挙げられるが、これらに限定されない。本明細書で用いられるような「抗体」という用語は、免疫グロブリン分子、及び免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部分、即ち抗原と特異的に結合する抗原結合部位を含有する分子も表す。本発明の免疫グロブリン分子は、任意のクラス(例えば、IgG、IgE、IgM、IgD及びIgA)又は免疫グロブリン分子のサブクラスであり得る。
【0049】
本発明の方法を使用して同定されるバイオマーカーは、精神病性障害又は精神病性障害に対する素因用のバイオマーカーとして使用することができる。したがって、上記バイオマーカーは、精神病性疾患をモニタリング又は診断する方法で有用である。
【0050】
本発明は、精神病性障害の防止、治療又は改善のための潜在的治療剤を同定するのに使用され得る。一実施形態では、本発明は、刺激に対する応答を、対照サンプルにおける応答と比較することを含む。特に、候補治療剤に曝露された試験T細胞サンプル及び正常な対照T細胞サンプルにおける応答が比較されてもよく、試験T細胞サンプルにおける1つ又は複数の応答が、正常な応答が回復されるように調節される場合に、候補物を潜在的治療剤として同定する。
【0051】
この態様によれば、候補治療剤は、特に1つ又は複数の応答が正常な個体由来のT細胞に特徴的な応答に回復されるように、候補治療剤が精神病性障害を有する被験体由来のT細胞における応答を調節することが可能である場合に同定される。好ましくは、応答は、遺伝子発現の増殖又は調節、即ちmRNAレベル又はタンパク質レベルの変化である。応答は、特に本明細書中に記載されるように同定される応答のバイオマーカーを評価することにより、本明細書中に記載される方法を使用して評価することができる。増殖の変化は、候補治療剤の存在下及び非存在下でT細胞の増殖を比較することにより評価することができる。1つ又は複数の遺伝子の発現の調節は、候補治療剤の存在下及び非存在下で遺伝子(複数可)の発現レベルを(mRNAレベル又はタンパク質レベルで)比較することにより評価することができる。タンパク質レベルの調節は、候補治療剤の存在下及び非存在下でタンパク質(複数可)のレベルを比較することにより評価することができる。応答の他の適切なバイオマーカーとしては、障害サンプル及び正常な対照サンプルにおける種々のレベルで見出される脂質及び代謝産物が挙げられる。
【0052】
図5に示されるように、増殖応答は、CD28による共刺激を使用して回復させることができる。したがって、CD28による共刺激は、増殖応答を回復させるための対照として使用され得る。CD28による共刺激はまた、精神病性障害の病態生理を精査するための有用なアプローチである。
【0053】
上記議論は、T細胞の刺激に対する応答に焦点を当てている。本発明の第4の態様では、刺激は必要ではない。比較すると、対照を用いて、精神病性障害は、例えば遺伝子発現の調節並びに/或いは1つ又は複数のタンパク質の存在又は非存在を同定することにより診断或いはモニタリングされ得る。この目的の例証的手順は上述されている。
【0054】
細胞周期に関して見出されている1つの改変転写物はSTAT1であり、これは統合失調症患者において増加される。STAT1は、サイトカインシグナル伝達に関与し、転写因子NFκBと相互作用する。RBL2発現の増加及びRBL1発現の減少が患者サンプルにおいて見出されており、ここで増殖応答は有意により低かった。これらの遺伝子産物の機能は、GSK3Bによるリン酸化によって支配されており、GSK3Bもまた上方調節されることが見出されている。
【0055】
統合失調症患者においてジストニン遺伝子及びジストロブレビン遺伝子の変化された発現が見られる。ジストニンは、細胞骨格リンカータンパク質として作用し、アクチン及び微小管と相互作用して、染色体を安定化するよう機能する。
【0056】
CDCL5及びNLKもまた、統合失調症において変化することが見出されている。シグナル伝達のカテゴリーに注記されるが、それらもまた細胞周期調節に関与する。
【0057】
シグナル伝達に関与する機能的経路は有意に改変される。グルタチオンペルオキシダーゼ7、チオレドキシン2及びフェレドキシン還元酵素の差次的発現、シトクロムcオキシダーゼサブユニットVa(統合失調症で上方調節される)及びシトクロムb−5(下方調節される)、特にACADVL(上方調節される)及びACAD9(下方調節される)の統合失調症における改変された発現が見られる。これらは、より低いグルコース利用可能性の結果として代替的エネルギー源として使用される脂肪酸のβ−酸化に関与するアシルCoAデヒドロゲナーゼ酵素である。球状赤血球により一般的に関連した細胞骨格要素であるアンキリン1及びアンキリン2もまた、ともに下方調節される。統合失調症で上方調節されることが見出されているGADD45Aは、伸長因子1aと相互作用して、実質的には細胞骨格安定性を崩壊する。
【0058】
別の態様では、本発明は、本明細書中に記載される方法を実施するのに適した診断キット又はモニタリング用キットに関する。本発明によるキットは、キットの使用説明書、1つ又は複数の正常な対照及び/又は精神病性障害対照、本発明に従ってバイオマーカーを検出するのに適した及び/又は適合されたセンサー或いはバイオセンサー、並びに本発明に従ってバイオマーカーを特異的に結合することが可能であるか、又はバイオマーカー若しくはバイオマーカーの作用に由来する物質を特異的に結合することが可能であるリガンド、例えば核酸、抗体、アプタマー等から選択される1つ又は複数の構成成分を含んでもよい。リガンドは、例えば本発明の方法で使用するのに適合されたアレイの形態で、ビーズ又は表面のような固体支持体上に固定化されて提供されてもよい。
【0059】
以下の実施例は本発明を説明する。
[実施例]
【実施例1】
【0060】
T細胞の単離
関与する実験は全て、CD3+T細胞(CD4+細胞及びCD8+細胞を含む、活性化状態に関して全て異種性である)に関して実施した。T細胞は、統合失調症患者、並びに年齢、性別及び人種適合対照の末梢血から単離された。
【0061】
末梢血単核細胞(PBMC)は、50ml管中で750×gで20分間、Ficoll−paque(Amersham)上での末梢血の遠心分離により単離された。PBMCは、滅菌パスツールピペットを使用して血漿/Ficoll界面から取り出して、PBSを含有する清潔な50ml管に移した。これらの細胞をPBS中で三度洗浄して、血球計を使用して計数した。T細胞は、製造業者のプロトコルに従うことでMACSヒトT細胞単離キット(Miltenyi Biotech)を使用してPBMCから精製された。次に、CD3+T細胞をRPMI培地(Sigma)中で二度洗浄して、計数して、完全T細胞培地(RPMI、10%ウシ胎児血清、1%ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミン)中で2.5×10細胞/mlで培養した。
【実施例2】
【0062】
T細胞のin vitroでの刺激
in vitroでのT細胞刺激は、抗CD3(クローンOKT3)単独を使用して実施した。これは、この抗体がTCRの構成成分全てを結集してシグナルをもたらすように役立つため、in vitroでの刺激の最も簡潔な方法である。共刺激によるT細胞応答をさらに研究するための続く実験は、抗CD3+抗CD28、抗CD3+IL−2、抗CD3+PBMCを使用して、並びにPMA及びイオノマイシンを用いて実施した。
【0063】
抗CD3によるin vitroでのT細胞の刺激は、PBS中0、0.01、0.1及び1μg/mlのOKT3をコーティングした96ウェル丸底組織培養プレート(Nunc)において37℃で1時間実施した。プレートをPBSで洗浄した後、完全T細胞培地200μl中に0.2×10個のT細胞を添加した。
【0064】
刺激に対する増殖応答は、子孫細胞DNAへの[H]−チミジン取込みを使用して測定された。簡潔に述べると、T細胞をCOインキュベータ中で37℃にて48時間培養して、ウェル1つ当たり1μCiの[H]−チミジンで24時間パルス化した。細胞を96ウェルフィルタープレート上で回収して、標識DNAを捕促して、蛍光シンチレーション液を使用して、[H]−チミジン取込みを測定した。
【0065】
T細胞は、統合失調症患者から得られた。統合失調症患者は、慢性のクロザピン治療患者、即ち長年の間クロザピン療法を受けている患者、最小限に治療された患者、即ち2ヶ月未満の間クロザピン以外の治療を受けているか、治療に順守していない患者、及び未治療の最近診断された統合失調症患者を包含していた。全てにおいて、抗CD3の全ての濃度で対照と比較して有意に低い増殖応答を有することが見出された。これは、統合失調症患者と対照との間の末梢の差が末梢組織で観察され得るという証拠を提供しただけでなく、またこの障害においての細胞機能障害の役割に対する動的研究に関するモデルを供給した。
【実施例3】
【0066】
Codelink遺伝子アレイ分析
患者サンプル及び対照サンプルは、3×10個の新たに単離したT細胞から、及び1μg/mlの抗CD3の存在下で24時間培養した細胞から作製した。
【0067】
総RNAは、QIAamp RNA血液ミニキット(Qiagen)を使用してこれらのサンプルから抽出した。RNAの特性は、Agilent lab−on−a−chipナノチップを使用して調べて、Nanodrop系を使用して定量化した。
【0068】
RNAは、製造業者の使用説明書に従って、且つ推奨される試薬を使用して、Codelink発現バイオアレイ系を使用したCodelink遺伝子アレイチップへのハイブリダイゼーション用に調製した。簡潔に述べると、総RNA1μgを第1の鎖合成に使用して、第2の鎖合成後に、二重鎖cDNAをQIAquick PCR精製キット(Qiagen)を使用して精製した。ビオチン標識したcRNAは、キットに付属のin vitroでの転写試薬を使用して合成され、続いてRNeasyミニキット(Qiagen)を使用して精製した。cRNA濃度は、Nanodrop系を使用して測定され、Agilent lab−on−a−chipを使用して特性を調べた。ビオチン標識したcRNA 10μgは、製造業者のプロトコルに従うことでCodelinkアレイスライドへハイブリダイズさせた。スライドを洗浄して、GenePix Personal 4100Aマイクロアレイスキャナーを使用してスキャンした。
【実施例4】
【0069】
差次的タンパク質発現
細胞は、24ウェル組織培養プレート(Nunc)において2.5×10細胞/mlの密度で48時間培養した。次に、細胞を1.5mlのマイクロ遠心チューブに移して、PBS中で一度洗浄した後、−80℃で保管した。5×10細胞/サンプルを、プロテアーゼ及びホスファターゼ阻害剤(Rocheの完全阻害剤カクテル、オルトバナジン酸塩、ピロリン酸塩、グリセロリン酸塩、NaF)を含有する結合緩衝液(9M尿素、50mM hepes、2% chaps、pH7)250μl中に溶解させた。サンプルを5秒間ボルテックスして、10分間氷上に置いて溶解させた。サンプルを再びボルテックスして、13,000rpmで4℃にて5分間遠心分離して、細胞残屑を除去した。各サンプルの40μlアリコートを、上述するpH7結合緩衝液を使用して、製造業者のプロトコルに従って、Ciphergen CM10弱陽イオン交換チップ上へ負荷した。チップを風乾させて、1.2 mlのシノピン酸(sinopinic acid)(SPA)を各スポットへ添加した後、ProteinChipリーダーで分析した。
【0070】
群間で異なるピークを同定するために、特徴抽出プロセス及び分類プロセスを実施した。特徴抽出は、4つの工程:ピーク同定、アラインメント、ウィンドウィング及び定量化で構成された。ピーク同定は、誘導体が兆候を変化させる点を決定することを包含する。ピークアラインメントは、全てのスペクトルにおいて存在する最大ピークの同定を要する。スペクトルは全て、このピークが全てのスペクトルにおいて同じ時点で出現するようにシフトされた。これは、較正ドリフトに起因する広範囲のシフトから成る。
【0071】
ウィンドウィングは、各ピーク周辺のウィンドウをセンタリングすることにより実施された。重複誤差は、重複するウィンドウの群を考慮すること、次にこの領域内の最大ピークを同定すること、このピーク周辺のウィンドウをセンタリングすること、続いて本来の領域が網羅されるまで両方向でさらなるウィンドウを配置することにより構成された。最終的に、各ウィンドウに対して台形積分を実施して、このような値のセットを特徴セットとみなした。分類は、線形判別分析、判別ツリー、ブースティング、サポートベクターマシン又は人工ニューラルネットワークのような任意数の標準的な技法により実施され得る。この場合、部分最小二乗判別分析(PLS−DA)を実施して、セット間で有意に異なるピークを同定した。PLS−DA分析は、患者群及び対照群の完全な分離を可能にした。
【0072】
患者群と対照群との間、並びに患者応答と対照応答との間の幾つかの差次的に発現されたピークは、この方法を使用して同定された。タンパク質同定は、2つの方法を使用して行われた。4KDa以下のピークに関しては、SELDI MS MSを使用して、直接的なシーケンシングを実施した。4KDaより大きいタンパク質は、ゲル電気泳導及びLS MS MSシーケンシングにより同定された。最初に、タンパク質成分を簡素化するために、疎水性又は陽イオン性タンパク質分画が細胞溶解産物に関して実施された。
【0073】
PLRP−S逆相ビーズ(Polymer laboratories)50μlを10%ACN/0.1%TFAで平衡化させて、遠沈させて、上清を除去した一方で、上述するように調製したT細胞溶解物は、400μl容量で10%ACN、0.1%TFAの濃度を含有するように調節されて、PLRP−Sビーズに添加した。タンパク質を回転子上で室温にて30分間ビーズに結合させた。次に、サンプルを5000rpmで1分間回転させて、上清を除去して、続いて10%ACN、0.1%TFA中で三度洗浄した。上清を除去して、連続したタンパク質分画を、0.1%TFA中の20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%及び100%ACN 400μlで溶出した。各分画を1.5mlのマイクロ遠心チューブ(microfuge tube)へ回収して、製造業者のプロトコルに従ってNP20チップを使用して、2μlを所望のピークに関してプロファイリングした。
【0074】
分画は、所望のピークの発現に従って選択され、これらをプールして、完全に乾燥するまで、Speed vacにおいて30℃で2時間濃縮した。分画を非変性ゲル上に流して、所望の分子量のバンドを切り取って、一晩トリプシン処理して、LC MS MSシーケンシング用に提示した。
【0075】
陽イオン性タンパク質分画は、CM10カラム(Ciphergen)へ4℃で2時間、T細胞溶解物(上述するような)を適用させることにより調製された。このことは、CM10チップ(Ciphergen)を使用して本来プロファイリングされたタンパク質の特異的結合を可能にした。カラムを溶解緩衝液で二度洗浄して、未結合のタンパク質を除去したのに対して、対象のタンパク質は、pH11で溶解緩衝液を使用して溶出させた。50mM Tris(pH7)への緩衝液交換は、5KDa分子量カットオフスピンカラムを使用して実施した。完全に乾燥するまで、Speed vacにおいて30℃で2時間、溶出液を濃縮して、非変性SDS−PAGEゲル上で分子量に従って、対象のタンパク質を分離した。所望の分子量のバンドを切り取って、一晩トリプシン処理して、LC MS MSシーケンシング用に提示した。
【実施例5】
【0076】
共刺激
T細胞はまた、増殖応答がより複雑な刺激方法を使用して回復され得るかどうかを判定するために、10ng/ml IL−2、抗CD28及びPBMCの添加により共刺激した。これらは、上述するように抗CD3コーティングされたプレートにおいて培養されたT細胞へ直接添加された。B細胞及び単核球抗原提示細胞上に存在する全ての共刺激分子の存在下でのT細胞の抗CD3刺激は、0.26×10個の細胞/mlでの抗CD3でコーティングされたウェルにおける、上述するようにFicoll−paque上での遠心分離により単離されたPBMCのインキュベーションにより試験され、PBMC中での70%CD3+T細胞を可能にした。T細胞活性化の下流経路もまた、それぞれPKC及びカルシウム流を直接活性化する50ng/mlの酢酸ミリスチン酸ホルボール(PMA)及び500ng/mlイオノマイシンを有する培養液中での刺激により試験した。これもまた、96ウェルプレートにおいて200μl容量で実施した。in vitroでの共刺激後に、T細胞増殖を上述するように測定した。
【0077】
抗CD3及び抗CD28による共刺激に対する患者T細胞応答は、健常な対照応答と比較して有意に異なるとは見出されず、CD28による共刺激が患者応答を回復することができることを示唆した。
【実施例6】
【0078】
サンプル回収
末梢血は、統合失調症の診断に関するDSM−IV基準を満たすクロザピン治療慢性疾患患者、及び4週未満の療法を受けているか、又は薬物療法に順守していない統合失調症の確定診断を有する最小限に治療された患者から採取した。血液はまた、統合失調症の最終的な診断と一致する臨床症状を提示する第1の発症の精神病を有する薬物未投与の患者からも採取された。血液は、各患者に関して年齢、性別及び人種適合対照から採取され、同時に処理した。人工統計学的詳細を表1に示す。
【0079】
【表1】

【0080】
T細胞単離
CD3+T細胞は、統合失調症患者並びに年齢、性別及び人種適合対照の末梢血から単離された。簡潔に述べると、末梢血は、EDTAを含有するS−モノヴェット血液回収系(Sarstedt)を使用して採取した。単核細胞(PBMC)は、Ficoll−Paque(Amersham Biosciences, Amersham, UK)上での遠心分離により単離され、次に、CD3+ pan T細胞は、LS分離カラム(Miltenyi Biotech, UK)に関連してMACSヒトpan T細胞単離キットを使用したネガティブ選択によりこれらから精製された。T細胞純度は、フローサイトメトリー(FACS Calibur、Becton Dickinson)によりCD3−ε発現に関して分析される場合に、ルーチンに99%を上回った。指示される場合には、細胞は、10%ウシ胎児血清及び1%ペニシリン、ストレプトマイシン及びグルタミンを含有するRPMI培地(Sigma UK)中で37℃にて培養した。
T細胞増殖
刺激に対する増殖応答は、子孫細胞DNAへのH−チミジン取込みを使用して測定した。T細胞は、0、0.01、0.1及び1μg/mlの抗CD3(クローンOKT3)でコーティングされた96ウェルプレートにおいて48時間培養して、2×10細胞/ウェルの密度で播種して、細胞周期への移行を刺激した。細胞は、ウェル1つ当たり0.037MBq(1μCi)H−チミジン(Amersham Biosciences, UK)でさらに24時間パルス化して、DNAの取込みを可能にして、96ウェルフィルタープレート(Perkin Elmer)上へ回収して、標識DNAを捕促した。標識DNA、したがって増殖は、シンチレーションカウンター(Top Count、Packard)を使用して測定した。統計学的有意性は、ノンパラメトリックマン・ホイットニーU検定を使用して測定され、0.05未満のP値が有意であるとみなされた。
患者T細胞及び対照T細胞上でのCD3発現の分析
患者T細胞及び対照T細胞は、1μg/mlのプレート結合抗CD3の存在又は非存在下で72時間培養させた。細胞を計数して、5×10細胞/サンプルをFACS緩衝液(PBS、2%ウシ胎児血清、Sigma, UK)中で三度洗浄して、Cy5に結合された抗CD3を含有するFACS緩衝液100μl中に再懸濁させた。細胞を4℃で20分間インキュベートした後、FACS緩衝液中でさらに洗浄した。細胞は、FACS Caliber及びCell Questソフトウェア(BD Bioscinces, UK)を使用して計数した。データは、WinMDI(Purdue University, Indiana)及びFlowio(Treestar)を使用して分析した。統計学的有意性は、マン・ホイットニーU検定を使用して測定した。
T細胞遺伝子発現のマイクロアレイ分析
6人の最小限に治療された統合失調症患者由来のT細胞と、6人の年齢、性別及び人種適合対照由来のT細胞との間の差次的遺伝子発現を、CodeLink(商標)ヒト全ゲノムバイオアレイ(GE Healthcare, UK)を使用して研究した。総RNAは、QIAamp RNA血液ミニキット(Qiagen, UK)を使用して単離したてのT細胞から抽出して、性質は、高分解能電気泳動系(Agilent Technologies, Palo Alto, CA, USA)を用いて評価した。ビオチン標識したcRNAは、製造業者のプロトコルに従って各サンプルから生成した。cRNAは、CodeLink全ゲノムマイクロアレイスライド上へハイブリダイズさせて、洗浄して、ハイブリダイズしたcRNA種は、Cy5−ストレプトアビジン(Ameraham, UK)を使用して検出した。スライドは、GenePix Personal 4100Aマイクロアレイスキャナー(Axon Instruments)を使用してスキャンして、CodeLink Expression分析ソフトウェアを用いて分析した。
マイクロアレイデータの前処理及び標準化
プローブセットは最初に、プローブが実験において全てのチップ上でCodelinkソフトウェアにより「良好」と標識付けられ(flagged)なくてはいけないという厳しい基準を使用して、バックグラウンドノイズレベルを超えるシグナルを有するもののみを包含するようにフィルタリングされた。これにより、分析に含まれるプローブの数は54000から12416へ減少した。これらのプローブに関するスポット平均シグナル強度は、適切な場合にはBioconductor(1)パッケージを使用して、さらなる分析のためにR統計学的プログラム(http://www.r-project.org/)へ読取った。データは、「分位点(quantile)」法(2)を使用して標準化されて、品質管理(QC)手順を実施して、異常なチップを同定した。これらは、全てのチップに関する標準化された発現値のペアワイズ相関の分析、全てのチップに関する標準化された発現値のボックスプロット及び各チップを擬似メジアンチップと比較することを包含した。異常値の1つが同定され、さらなる分析から排除された。続いて、残りのサンプルを再度標準化した。
単離したてのT細胞における差次的に発現された遺伝子の検出
Limmaパッケージ(マイクロアレイデータの線形モデル)を使用して、患者と対照との間で対応のあるt検定を実施して、差次的発現を同定した(2、3)。多重検定に関する相関は、「q値」パッケージ(4)を用いて適用されて、0.05未満のqを有するプローブを差次的に発現されたとみなした。
有意に改変された転写物の機能的プロファイリング
対照と比較して統合失調症患者由来の単離したてのT細胞において有意に改変された遺伝子を特性化するための経路分析は、Onto−Expressを使用して実施した。まず有意なプローブセットを、Onto−Translate(5)を使用して相当するEntrez IDへマッピングして、この出力をOnto−Expressに提示した。参照アレイとしてCodelinkヒト全ゲノムでデフォルト設定を使用した。0.05未満の補正pを有し、且つ3つ以上の遺伝子を含有する生物学的過程カテゴリーは、疾患状態において影響を受けた最も重要な経路として選択された。
染色体マッピング
染色体マッピング及び分析は、Affymetrixデータとともに使用するように最初に設計された社内アルゴリズムを使用して実施した。したがって、まずCodelinkプローブIDは、Onto−Translate(5)を使用して、AffymetrixプローブIDへマッピングされた。分析の主な工程は、(i)そのアラインメント領域へマッピングされ、且つ各遺伝子が標的遺伝子の位置に相当しない場合には破棄される各遺伝子に関する代表的なプローブセットの選択、(ii)スライドウィンドウを使用したゲノムにわたる差次的に発現された遺伝子の分布の評価、(iii)ハイスコアが、過剰の差次的に発現された遺伝子を含有する領域に相当するような2項分布に基づく各ウィンドウに対するスコアの割り当て、(iv)生物学的に有意であり得る高比率の差次的に発現された遺伝子を有する染色体領域の同定、であった。
抗CD3による刺激に対する増殖応答は、統合失調症を伴う患者において有意により低い
H−チミジン取込みを使用して、0、0.01、0.1及び1μg/mlの抗CD3で処理した39人の患者及び32人の対照由来の末梢血T細胞の増殖を測定した。統合失調症を伴う患者は、ノンパラメトリックマン・ホイットニーU検定を使用して分析される場合、全ての濃度の抗CD3で刺激に対して有意により低い応答を有することがわかった(0.01μg/mlの抗CD3 p=0.0007、0.1μg/mlの抗CD3 p=0.001、1μg/mlの抗CD3 p=0.001)。これらのサンプルは、抗精神病薬の投与で治療した慢性患者、最小限に治療された患者、薬物療法に順守していない個体の組合せから、並びに薬物未投与の第1の発症の精神病患者から採取した。より低い増殖応答が薬物の影響であるという可能性を排除するために、薬物未投与の個体及び最小限に治療された個体の変化を個々に検査した。H−チミジン取込みは、同じ方法により刺激された11人の未治療/最小限に治療した患者、及び12人の適合対照において測定されて、同様に0.1μg/ml(p=0.034)及び1μg/ml(p=0.034)の濃度で抗CD3による刺激に対してより低い増殖応答を示した。
統合失調症T細胞におけるより低い増殖応答は、より低いCD3発現の結果ではない
CD3発現は、Cy5に結合されたCD3εに対する抗体を使用して、刺激の前及び後に患者由来及び対照由来のT細胞において測定された。非刺激細胞において、また抗CD3で処理した細胞において、患者と対照との間でT細胞上でのCD3の発現の有意な差は見られず、患者のより低い増殖応答は、より低いCD3発現の結果ではなかった。
統合失調症患者由来及び適合対照由来の単離したてのT細胞における差次的に発現された遺伝子の分析
抗CD3による刺激に対するT細胞増殖応答は、多くの因子により影響され得る。T細胞活性化に関与する過程としては、細胞シグナル伝達、遺伝子転写、タンパク質合成及びタンパク質輸送、細胞周期への移行(entry)並びにサイトカイン分泌が挙げられる。これらのいずれかの機能障害は、患者の観測されるより低い増殖応答をもたらし得る。最初に予備研究を行って、抗CD3によるT細胞刺激の5分後に上流シグナル伝達を研究した。これは、包括的なホスホ−チロシンに対して産生された抗体を使用して、T細胞溶解物に関するウェスタンブロット分析により実施された。患者と対照との間ではチロシンリン酸化のパターンにおいて差は明白ではなく、より低い増殖応答を招く欠陥は、T細胞刺激後の下流事象にあることを示唆した。サイトカイン生産、特にT細胞増殖を誘導するIL−2もまた、T細胞刺激後に研究され、患者と対照との間で有意な差を示さなかった(準備中の論文)。患者におけるより低い増殖応答の根底にある可能性のある改変された遺伝子発現を同定するために、CodeLink(商標)ヒト全ゲノムマイクロアレイを使用して、患者由来及び対照由来の末梢血T細胞における遺伝子発現をプロファリングした。
【0081】
ハイブリダイゼーション及びスキャニングに続いて、データセットは、100%マイクロアレイスライド上で「良好」と標識付けられたか、又はその上に存在する遺伝子のみを包含するようにフィルタリングされた。次に、対応のあるt検定を使用して、有意に差次的に発現された遺伝子を同定して、多重検定補正後に0.05未満のqで有意な399個のプローブを生じた。320個(80%)のプローブが統合失調症で減少され、79個が増加された。
有意に改変された転写物の機能的プロファイリング
OntoExpressを使用して、有意に改変された遺伝子に対して機能的カテゴリーを割り当てて、有意な遺伝子のリストにおいて過剰表現される(over-represented)経路を同定した。分析により、細胞周期(p=0.0005)、細胞周期停止(p=0.0007)、細胞周期の負の調節(p=0.001)、有糸分裂(p=0.005)及び細胞周期の調節(p=0.039)を含む細胞周期に関する5つの有意なカテゴリーが明らかとなった(表2)。
【0082】
細胞周期に関するカテゴリーは、単離したての非刺激T細胞において有意に改変された。細胞周期を通じた進行を支配することに関与する多数の転写物の異常調節が観察された。これらとしては、本研究において上方調節されることが見出されているSTAT1、RBL1(p107)、RBL2(p130)、Cul2及びGADD45Aが挙げられ、これは、UV損傷後にG2/M進行を停止するのを担う細胞周期チェックポイント遺伝子である(6)。
【0083】
細胞内シグナル伝達に関する4つのカテゴリーは、上流経路に影響を及ぼすことにより抗CD3に対する増殖応答を妨害し得る機能的プロファイリングにより同定された。細胞内シグナル伝達は、エネルギー利用、成長因子に対する応答及び神経伝達物質シグナル伝達を含むほとんどの細胞過程に重大な細胞の最も基礎的な機能の1つである。細胞シグナル伝達に関する4つの経路は、シグナル伝達(p=0.0009)、細胞間シグナル伝達(p=0.012)、タンパク質アミノ酸リン酸化(p=0.015)、細胞内シグナル伝達カスケード(p=0.050)であった。表3を参照されたい。
【0084】
他の有意に改変されたシグナル伝達転写物は、CDC2L5及びNLK(それぞれ、1.42倍及び1.54倍下方調節された)であった。ともに細胞周期に関連する。
【0085】
MAP2K1に関する転写物は、統合失調症患者において1.37倍下方調節された。T細胞刺激では、T細胞受容体(TCR)を介した活性化は最終的に、遺伝子転写及び増殖をもたらし、MAPKを含む多数のシグナル伝達経路のクロストークを包含し、IL−2遺伝子転写及びプロテインキナーゼCファミリー(PKC)のメンバーを活性化する。活性化にDAGを要するが、カルシウムを要さないPKCシータ及びPKCイプシロン(ともに、新規PKCファミリーのメンバー)は、統合失調症において、それぞれ1.24倍上方調節され、また1.47倍下方調節された。
【0086】
OntoExpressにより有意に改変されたとして明らかとなった他のカテゴリーとしては、酸化ストレスに対する応答(p=0.0003)、電子輸送(p=0.001)及び代謝(p=0.013)が挙げられた。表4を参照されたい。これらの機能的カテゴリーのメンバーは、統合失調症患者T細胞において発現の下方調節寄りの傾向を示した。概して、転写物の80%が下方調節され、前頭前皮質死後脳研究からのタンパク質発現における改変を反映しており、これは、ミトコンドリア及び酸化ストレスに関連したタンパク質の主要な下方調節を示した(9)。
【0087】
酸化防止剤グルタチオンペルオキシダーゼ7、チオレドキシン2及びフェレドキシン還元酵素の発現の増加が見られた。チオレドキシン還元酵素2の下方調節が観察された。メチオニンスルホキシド還元酵素の下方調節もまた同定された。これは、正常な機能を損ない得るタンパク質における酸化メチオニン側鎖の還元を担うタンパク質修復酵素である。酸化防止剤及びラジカルスカベンジャーの発現の改変は、酸化的ストレスを示し得る。
有意に改変された転写物の染色体位置
統合失調症患者と対照との間の遺伝子発現の差をさらに理解するため、ヒートマップを作成して、差次的に発現された遺伝子の染色体位置を可視化した。単離したてのT細胞由来の患者と対照との間で有意に変化した遺伝子のクラスターは、染色体領域1p36、1q42、4q12、6p22、9q22及び10q26で同定された。1p36、1q42及び6p22は、統合失調症にとって強力な感受性遺伝子座である(OMIM)。
【実施例7】
【0088】
この実施例では、15人の統合失調症患者及び15人の適合健常対照に関してT細胞のSELDIプロテオームプロファイリングを実施した。溶解物を非刺激T細胞から作製して、抗CD3刺激T細胞を48時間培養して、それぞれの応答を比較した。
【0089】
溶解物(lysate)は、弱陽イオン交換表面を有するCM10チップを使用してプロファイリングされた。非常にストリンジェントな結合条件(9M尿素、50mM Hepes、2%chap pH7)を使用した。これにより、pH7で強力な陽イオン性タンパク質の結合のみが確保される(より低いpHではあまりストリンジェントではない)。これは、プロテオームの小部分を研究しているに過ぎないが、タンパク質同定の機会を高める。
【0090】
PCA分析により、患者群と対照群との分離に寄与する差次的に発現されたピークが示された。これらとしては、3242Da(=ヒストン1.4)、3450Da(=αデフェンシン1)、3374Da(=αデフェンシン1)、10918Da、13791Da及び6700Daが挙げられた(考え得る生成物は括弧で示される)。
【0091】
ピーク同定は下記の通りに行った:
・4KDa未満 チップ上で直接的に、SELDI TOF TOF(Ciphergen CA)でシーケンシング
・4KDaを超える場合 LC MS MSでシーケンシング
大きなタンパク質は、LC MS MS同定用にタンパク質分解的に処理されなくてはならない。この結果として、各タンパク質に関するペプチドの混合物において、本来のタンパク質へと戻って関連付けるためにタンパク質ミックスは非常に簡素である必要がある。
【0092】
デフェンシンは、3つのジスルフィド結合を含有することが知られている。このことは、10mM DTTを使用して、ほぼ完全な還元及び6KDaのシフトが見られ得るという点で確認される。
【0093】
【表2】

【0094】
【表3】


【0095】
【表4】

【0096】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験体において精神病性障害を診断又はモニタリングする方法であって、
a.該被験体由来の試験T細胞サンプルを準備すること、
b.該試験T細胞サンプルに刺激を与えること、及び
c.該刺激に対する応答を評価すること、
を含む、精神病性障害を診断又はモニタリングする方法。
【請求項2】
前記応答を、対照サンプルにおける刺激に対する応答と比較することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記対照サンプルは、精神病性障害対照T細胞サンプルを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記対照サンプルは、正常なT細胞対照サンプルを含む、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
前記試験T細胞サンプルと前記正常対照T細胞サンプルとの間の応答の差を検出することを含む、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記評価することは、T細胞増殖を分析することを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
正常対照T細胞サンプルと比較して前記試験T細胞サンプルにおけるより低い増殖は、精神病性障害又は精神病性障害に対する素因の存在を示している、請求項4〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
正常なプロファイル、精神病性障害プロファイル又は精神病性障害素因プロファイルを有するとして試験サンプルの応答を分類することをさらに含む、請求項2〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記評価することは、遺伝子発現を分析することを含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記評価することは、mRNA及び/又はタンパク質及び/又は酵素活性を分析することを含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
mRNAは、RT−PCR又はQRT−PCRにより分析される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記評価することは、脂質及び/又は代謝産物プロファイルを分析することを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記評価することは、iTRAQ、質量分析法、SELDI(−TOF)及び/又はMALDI(−TOF)、1−Dゲルベース分析、2−Dゲルベース分析、LC−MSベース技法、無標識の定量的LC−MS/MS、免疫学的技法及びNMRから選択される方法により分析することを含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記分析することは、定量的である、請求項6〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記刺激は、T細胞増殖に関する刺激である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記刺激は、抗CD3抗体である、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか一項に記載の方法を含む、精神病性障害の予後又は診断を評価する方法。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか一項に記載の方法を含む、精神病性障害を有するか、精神病性障害を有する疑いがあるか、又は精神病性障害に対する素因がある疑いのある被験体において治療物質の有効性をモニタリングする方法。
【請求項19】
精神病性障害のバイオマーカーを同定する方法であって、
a.精神障害を有する被験体由来の試験T細胞サンプルを準備すること、
b.該試験T細胞サンプルに刺激を与えること、
c.該刺激に対する応答を評価すること、
d.該応答を、対照T細胞サンプルにおける刺激に対する応答と比較すること、及び
e.該応答における任意の差を検出し、それによりバイオマーカーを同定すること、
を含む、精神病性障害のバイオマーカーを同定する方法。
【請求項20】
前記刺激は、T細胞増殖に関する刺激である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記刺激は、抗CD3抗体である、請求項19又は20に記載の方法。
【請求項22】
前記試験T細胞サンプルは、第1の精神病性障害を有する被験体由来であり、前記対照T細胞サンプルは、第2の精神病性障害を有する被験体由来である、請求項19〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記対照T細胞サンプルは、正常な被験体由来である、請求項19〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記評価することは、遺伝子発現を分析することを含む、請求項19〜23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
遺伝子発現の差は、前記対照サンプルと比較して前記試験サンプルにおける差次的遺伝子発現を同定することにより検出される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記差は、前記対照サンプルにおける遺伝子の発現と比較して前記試験サンプルにおける該遺伝子の発現の減少である、請求項24又は25に記載の方法。
【請求項27】
前記差は、前記対照サンプルにおける遺伝子の発現と比較して前記試験サンプルにおける該遺伝子の発現の増加である、請求項24〜26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記差は、mRNA及び/又はタンパク質及び/又は酵素活性のレベルの調節として検出される、請求項24〜27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記評価することは、遺伝子発現又はタンパク質レベルの定量的分析を含む、請求項19〜28のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
前記遺伝子発現は、RT−PCR又はQRT−PCRにより分析される、請求項24〜29のいずれか一項に記載の方法。
【請求項31】
アレイが、遺伝子発現を評価するのに使用される、請求項24〜30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記評価することは、iTRAQ又は質量分析法、NMR、SELDI(−TOF)及び/又はMALDI(−TOF)、1−Dゲルベース分析、2−Dゲルベース分析、LC−MSベース技法、無標識の定量的LC−MS/MS、免疫学的技法及びNMRから選択される方法により分析することを含む、請求項19〜31のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
精神病性障害の治療の潜在的作用物質を試験する方法であって、
a.精神病性障害を有する被験体由来の試験T細胞サンプルを準備すること、
b.該試験T細胞サンプルを候補作用物質と接触させること、
c.該試験T細胞サンプルに刺激を与えること、及び
d.該刺激に対する応答を評価すること、
を含む、精神病性障害の治療の潜在的作用物質を試験する方法。
【請求項34】
前記応答を、対照サンプルにおける刺激に対する応答と比較すること、及び前記試験サンプルにおける前記応答が調節される場合に前記候補を潜在的治療剤として同定することをさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記対照サンプルは、精神病性障害サンプルを含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記対照サンプルは、正常な対照サンプルを含む、請求項34又は35に記載の方法。
【請求項37】
前記刺激は、T細胞分化に関する刺激である、請求項33〜36に記載の方法。
【請求項38】
前記刺激は、抗CD3抗体である、請求項33〜37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
前記応答は、T細胞増殖を含む、請求項33〜38のいずれか一項に記載の方法。
【請求項40】
前記T細胞増殖は、子孫細胞DNAへの[H]−チミジン取込みにより評価される、請求項39に記載の方法。
【請求項41】
前記評価することは、1つ又は複数のタンパク質のレベルを分析することを含む、請求項39又は40に記載の方法。
【請求項42】
前記応答は、遺伝子発現の調節を含む、請求項33〜41のいずれか一項に記載の方法。
【請求項43】
前記評価することは、RT−PCR又はQT−PCRを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
前記評価することは、1つ又は複数のタンパク質若しくは酵素活性の存在又は非存在を分析することを含む、請求項33〜43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
前記応答は、前記候補作用物質による処置に応答して正常に回復される、請求項33〜44のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
被験体において精神病性障害を診断又はモニタリングする方法であって、
a.該被験体由来の試験T細胞サンプルを準備すること、及び
b.該試験サンプルにおける遺伝子及び/又はタンパク質発現を、対照サンプルと比較すること、
を含む、精神病性障害を診断又はモニタリングする方法。
【請求項47】
前記対照サンプルは、精神病性障害対照T細胞サンプルを含む、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
前記対照サンプルは、正常なT細胞対照サンプルを含む、請求項46又は47に記載の方法。
【請求項49】
前記試験T細胞サンプルと前記正常な対照T細胞サンプルとの間の応答の差を検出することを含む、請求項46〜48のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
正常なプロファイル、精神病性障害プロファイル又は精神病性障害素因プロファイルを有するとして試験サンプルの応答を分類することをさらに含む、請求項46〜49のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
前記評価することは、遺伝子発現を分析することを含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記遺伝子は、表2から表4のいずれかに示される通りである、請求項51に記載の方法。
【請求項53】
前記評価することは、mRNA及び/又はタンパク質及び/又は酵素活性を分析することを含む、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
mRNAは、RT−PCR又はQRT−PCRにより分析される、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
前記タンパク質は、3242Da、3450Da、3374Da、10918Da、13791Da及び6700Daでピークを示すものの1つ又は複数である、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
前記評価することは、脂質及び/又は代謝産物プロファイルを分析することを含む、請求項46〜55のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記評価することは、iTRAQ、質量分析法、SELDI(−TOF)及び/又はMALDI(−TOF)、1−Dゲルベース分析、2−Dゲルベース分析、LC−MSベース技法、無標識の定量的LC−MS/MS、免疫学的技法及びNMRから選択される方法により分析することを含む、請求項46〜56のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記分析することは、定量的である、請求項51〜57のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
請求項46〜58のいずれか一項に記載の方法を含む、精神病性障害の予後を評価する方法。
【請求項60】
請求項46〜58のいずれか一項に記載の方法を含む、精神病性障害を有するか、精神病性障害を有する疑いがあるか、又は精神病性障害に対する素因がある疑いのある被験体において治療物質の有効性をモニタリングする方法。
【請求項61】
前記精神病性障害は統合失調症である、先行請求項のいずれか一項に記載の方法。
【請求項62】
前記統合失調症は、妄想型統合失調症、緊張型統合失調症、解体型統合失調症、鑑別不能型統合失調症及び残遺型統合失調症から選択される、請求項61に記載の方法。
【請求項63】
前記精神病性障害は双極性障害である、請求項1〜60のいずれか一項に記載の方法。

【公表番号】特表2009−517073(P2009−517073A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−542840(P2008−542840)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【国際出願番号】PCT/GB2006/004509
【国際公開番号】WO2007/063333
【国際公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(500341551)ケンブリッジ エンタープライズ リミティッド (8)
【Fターム(参考)】