説明

精紡交撚糸条

【課題】特に切創防止並びにソフト風合、精密作業性に優れた手袋に好適な精紡交撚糸を提供する。
【解決手段】芯部が短繊維束、鞘部がフィラメント糸の鞘芯構造の精紡交撚糸条であって、鞘部を構成するフィラメント糸が、繰り返し単位の95モル%以上が下記式(1)で示されるポリケトンで構成される繊維のフィラメント糸で構成されていることを特徴とする精紡交撚糸条。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は精紡交撚糸条に関するものであり、特に切創防止に優れた手袋に好適な精紡交撚糸条であって、ソフト風合で、かつ精密作業性に優れた手袋を提供できる精紡交撚糸条に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、芯成分に短繊維を用い、鞘糸にパラ系アラミド繊維等のフィラメント糸捲縮糸を用いてなる複合紡績糸が開示され、該複合紡績糸は、毛羽が少なく糸表面、布帛表面の平滑性に優れ、例えば、切創防止並びに精密作業性等に優れた手袋を提供できると記載されているが、特にソフト風合面や精密作業性面でも十分であるとはいえないものであった。
【0003】
【特許文献1】特開2005−256212号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる欠点を改良した精紡交撚糸を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明に到達したものである。
すなわち、本発明は下記の通りである。
(1)芯部が短繊維束、鞘部がフィラメント糸の鞘芯構造の精紡交撚糸条であって、鞘部を構成するフィラメント糸が、繰り返し単位の95モル%以上が下記式(1)で示されるポリケトンで構成される繊維(以下、ポリケトン繊維という)のフィラメント糸で構成されていることを特徴とする精紡交撚糸条。
【化1】

(2)上記(1)記載の精紡交撚糸条で構成されたことを特徴とする手袋。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、特に切創防止に優れた手袋に好適な精紡交撚糸条を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明について以下に具体的に説明する。
本発明のポリケトン繊維を構成するポリケトンは、繰り返し単位の95モル%以上、好ましくは98モル%以上、特に好ましくは99.6モル%以上が、上記式(1)で示されるものであり、5モル%未満の範囲で、上記式(1)以外の繰り返し単位、例えば、下記式(2)に示すもの等を含有していても良い。
【化2】

但し式中、Rは、エチレン以外の炭素数1〜30の有機基であり、例えば、プロピレン、ブチレン、1−フェニルエチレン等の基であり、Rの水素原子の一部または全部が、ハロゲン基、エステル基、アミド基、水酸基、エーテル基で置換されていてもよい。もちろん、Rは二種以上であってもよく、例えば、プロピレン基と1−フェニルエチレン基が混在していてもよい。
【0008】
ポリケトンの固有粘度[η]は、好ましくは1dl/g以上、より好ましくは2dl/g以上、特に好ましくは4dl/g以上であり、好ましくは20dl/g以下、より好ましくは15dl/g以下、特に好ましくは10dl/g以下である。
尚、固有粘度[η]は次の定義式に基づいて求められる値である。
【数1】

式中のt及びTは、それぞれヘキサフルオロイソプロパノール(セントラル硝子(株)社製)及び該ヘキサフルオロイソプロパノールに溶解したポリケトンの希釈溶液の25℃での粘度管の流過時間である。Cは、上記希釈溶液の濃度であり、ヘキサフルオロイソプロパノール100ml中のポリケトンの質量(g)である。
ポリケトンには必要に応じて、酸化防止剤、ラジカル抑制剤、他のポリマー、艶消し剤、紫外線吸収剤、難燃剤、金属石鹸等の添加剤を含んでいてもよい。
【0009】
次に、ポリケトン繊維の好ましい特性としては、引張強度は5cN/dtex以上、より好ましくは10cN/dtex以上、特に好ましくは15cN/dtex以上、30cN/dtex以下であり、引張伸度は3%以上、より好ましくは3.5%以上、特に好ましくは4%以上、15%以下、より好ましくは10%以下、さらに好ましくは8%以下、特に好ましくは6%以下であり、引張弾性率は100cN/dtex以上、より好ましくは200cN/dtex以上、特に好ましくは300cN/dtex以上、1000cN/dtex以下である。
本発明の精紡交撚糸条の鞘部に用いるポリケトン繊維の形態は、フィラメント糸であり、長さ方向に均一なものや太細のあるものでもよく、繊維の断面形状は、丸型、三角、L型、T型、Y型、W型、八葉型、扁平(扁平度1.3〜4程度のもので、W型、I型、ブーメラン型、波型、串団子型、まゆ型、直方体型等がある)、ドッグボーン型等の多角形型、多葉型、中空型や不定形なものでもよい。
【0010】
ポリケトン繊維の糸条形態としては、マルチフィラメント糸、モノフィラメント糸であり、本発明の目的達成上、マルチフィラメント糸が好ましい。又、フィラメント糸は原糸(無撚糸や甘撚糸等の有撚糸)でもよいが、好ましくは、仮撚加工、流体噴射加工、ニットデニット加工等従来公知の嵩高加工を施した嵩高加工糸がよく、さらに、原糸と嵩高加工糸を引き揃えや混繊、交撚等により複合して用いても良い。
好ましい単糸繊度は、マルチフィラメント糸の場合は、0.01〜10dtex、より好ましくは0.1〜10dtex、特に好ましくは0.5〜5dtexの範囲であり、モノフィラメント糸の場合は、10〜100000dtexの範囲である。又、好ましい総繊度は10〜100000dtex、より好ましくは30〜50000dtexの範囲である。
【0011】
本発明は、かかるポリケトン繊維のフィラメント糸により鞘部を構成した鞘芯構造の精紡交撚糸条である。
鞘部は、ポリケトン繊維100質量%でもよいが、必要に応じて、好ましくは50質量%以下の範囲で、ポリケトン繊維以外の繊維例えば、綿、羊毛等の天然繊維、レーヨン繊維、ライオセル繊維等のセルロース繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アラミド繊維(パラ系、メタ系)、ポリビニルアルコール繊維、ポリ(p−フェニレンベンゾビスオキサゾール)繊維、超高分子量ポリオレフィン繊維、炭素繊維、セラミック繊維、ガラス繊維、金属繊維等公知の各種繊維と混用しても良い。混用する各種繊維の糸条形態は、短繊維でも、長繊維でもよく、引揃え、混繊、交撚等により混用する。
【0012】
又、芯部は、短繊維束であればよく、繊維素材としては、ポリケトン繊維や、ポリケトン繊維以外の繊維(上記混用する繊維として例示したもの)が挙げられ、これら繊維の一種以上を混用して用いても良い。本発明では、好ましくはポリケトン繊維100質量%がよく、必要に応じて、50質量%以下の範囲で、ポリケトン繊維以外の繊維と混用しても良い。繊維の太さ、繊維長分布、繊維本数、繊維断面形状については、必要に応じて、適宜選定すればよく、例えば、短繊維束の繊維素材や希望する用途に応じて、綿紡、2インチ紡、3インチ紡、梳毛紡を選定すればよく、例えば、繊維長としては、30〜200mm程度が好ましいが、必要に応じて、300〜400mm程度でもよく、さらには、牽切によって得られる平均繊維長70mm以上、より好ましくは100mm以上、特に200mm以上、さらには250mm以上であり、1500mm以下、1200mm以下、1000mm以下であるものでも良い。
【0013】
本発明における精紡交撚糸条を製造する方法としては、例えば、精紡機のフロントローラーに鞘部を構成するフィラメント糸を、芯部を構成する短繊維束、例えば短繊維フリースよりも速く供給し、次いで、撚合することにより得られる。又、一対のフロントテーパーローラーを有するリング精紡機の送り出し量の高い供給側へガイドを介して鞘部を構成するフィラメント糸を供給し、芯部を構成する短繊維束は送り出し量の低い側へバックローラーから供給し、フロントローラーに把持され出てきた両者を間隔3〜15mmの範囲で合糸、実撚を付与して、短繊維束を中心にフィラメント糸が巻回したものとする。
本発明における精紡交撚糸条は、その断面における、つまり同心円上で区別される鞘部(外層部)と芯部(内層部)の2層からなる仮想円において、外層部にフィラメント糸、内層部に短繊維束が存在しているものである。換言すれば、短繊維束は内層部領域内で、フィラメント糸は外層部領域内でそれぞれ繊維マイグレーションを完結し、実質的に短繊維束とフィラメント糸が混ざり合わない構造を呈する状態で両成分が糸軸方向にそれぞれ配置されているものである。
【0014】
本発明における鞘芯構造の精紡交撚糸条における芯部と鞘部の構成比率は、好ましくは、芯部/鞘部比が10〜90/90〜10、特に40〜90/60〜10、より好ましくは50〜90/50〜10がよい。又、好ましい糸番手は、10〜120s(英国式綿番手)であり、用途に応じて選定すればよい。尚、本発明の精紡交撚糸条は実撚を有しており、下記式で表される撚係数(K)の好ましい範囲は、1.2〜8.5である。
T=KN1/2
(T=2.54cm当たりの撚数、N=英国式綿番手)
本発明の精紡交撚糸は、例えば、通常の双糸加工をして手袋として用いた時に、特にその有用性を発揮するものであり、ソフト風合で、かつ精密作業性に優れた切創防止に優れた手袋が提供できる。
手袋とは、編物、織物、不織布並びにこれらを組み合わせた布帛形態で構成されているものを包含するが、例えば、島精機製作所製等市販のコンピューター手袋編機を用いて製編したものが挙げられる。
【0015】
又、編物(横編、丸編、経編地)や織物(平、綾、朱子並びにこれらの変化組織、絡み織)、不織布(スパンボンド不織布やニードルパンチ、柱状流等により繊維交絡させた不織布、フェルト等)並びにこれらを組み合わせたもの(以下、単に布帛という)や豚革等の天然皮革や人工皮革を、手型に裁断して縫製した手袋として用いてもよく、本発明の精紡交撚糸をもつて、かかる布帛の一部又は全部を構成すればよい。
尚、布帛としては、一層(表面及び裏面で構成)で構成されるものと、二層や三層以上の多層構造(表面、裏面及び中間層で構成)で構成されるものが挙げられる。
多層構造布帛としては、編物では、リバーシブルのシングルニットやダブルニット、スライバーニット、ダンボールニットやダブルラッセルが挙げられ、織物ではダブルベルベット織機で製造した織物が挙げられ、不織布では、一種又は二種以上の繊維ウェブを多層に積層して、又は、繊維ウェブと編織物を多層に積層して繊維交絡させたものが挙げられる。ここで、中間層は接結糸、連結糸、挿入糸(紡績糸、フィラメント糸並びにスライバーを含む)をいう。
【0016】
又、手袋はそのまま用いても良いが、従来公知の各種処理例えば、防滑性等付与を目的に手袋の一部又は全部に、手のひら側の外面や外面全面に塩化ビニル樹脂やラテックス、天然ゴム、合成ゴム等のエラストマーを公知の手段によってコーティングやラミネートしてもよい。又、蒸れ防止等からガス透過性かつ液体不透過性のエラストマー、例えば多孔質や無孔質ポリウレタン、多孔質ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)をコーティングまたはラミネートしてもよい。この手袋の上にさらにゴム等のエラストマーを加工しても良い。
具体的な手袋の用途例としては、製鉄用、溶接用、塗装用、消防用、カーレースのレーシング用が挙げられるが、特に本発明では、優れた精密作業性から、精密機械産業用、航空機産業、情報機器産業、医療手術又は衛生分野のように繊細な作業が要求される分野に好適である。
【0017】
本発明の精紡交撚糸条は、手袋用途以外の例えば腕カバー等防護材料やアウトドアスポーツ衣料にも有用であり、さらには防護材料やアウトドアスポーツ衣料等の縫い糸としても有用である。
尚、例えば屋外で強い紫外線を受けることによってポリケトン繊維の引張強度等の低下を抑制する目的で、繊維又は精紡交撚糸や織編物等の形態で紫外線吸収剤(例えば、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、ヒンダードアミン系の一種又は二種以上の組み合わせがある。)及び/又は紫外線遮蔽剤(例えば、酸化チタン、酸化鉄、酸化セリウム等の微粒子があり、平均粒径は0.01〜0.6μmが好ましい。)を含有させることが好ましい。含有させる方法としては、例えば、繊維又は精紡交撚糸や織編物等に紫外線吸収剤及び/又は紫外線遮蔽剤を含有した樹脂やフィルムを付与又は被覆する方法があり、紫外線吸収剤及び/又は紫外線遮蔽剤の含有量は、樹脂やフィルムの質量に対して0.001〜10質量%の範囲が好ましい。
【実施例】
【0018】
以下に、本発明を実施例、比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれら実施例などにより何ら限定されるものではない。
本発明における測定方法及び評価方法は以下の通りである。
(1)繊維の引張強度、引張伸度、引張弾性率
JIS−L−1013に準じて測定する。
サンプル長:20cm、引張速度:20cm/分で測定し、20回測定した時の平均値を求める。
(2)手袋のソフト風合
繊維の研究に従事する5人の検査員によって手触りによる官能検査を行い、下記のランク付けを行った。
<ソフト風合>
○:ソフトと感じる。
△:ややソフトと感じる。
×:硬いと感じる。
【0019】
(3)手袋の精密作業性
繊維の研究に従事する5人の検査員によって着用による官能検査を行い、下記のランク付けを行った。
<精密作業性>
○:精密作業性に優れている。
△:精密作業性やや優れている。
×:精密作業性に劣っている。
(4)耐切傷性
JIS−T−8052に準ずる。
【0020】
[実施例1]
1670dtex/1250fのポリケトン繊維マルチフィラメント糸(旭化成せんい(株)社製;商標サイバロン;引張強度18cN/dtex、引張伸度5%、引張弾性率350cN/dtex)を用い、繊維長51mmにカットして、短繊維フリースとなし、リング精紡機にて紡績糸を製造する際に、280dtexのポリケトン繊維マルチフィラメント糸(旭化成せんい(株)社製;商標サイバロン;引張強度18cN/dtex、引張伸度5%、引張弾性率350cN/dtex)を、短繊維フリースの速度(精紡機のフロントローラーの速度に相当)に対して1.05倍速く、精紡機のフロントローラーに短繊維フリースよりも速く供給し、ポリケトン繊維マルチフィラメント糸が鞘部を主体的に形成し、ポリケトン繊維短繊維が芯部を主体的に形成した鞘芯構造の精紡交撚糸条(英国式綿番手20/1’s相当、撚数15.7回/2.54cmのZ撚)を得た。
この精紡交撚糸条を常法により双糸加工した糸条を5本合糸したものを用いて、7ゲージの手袋編機で手袋を作製して評価した結果、手袋のソフト風合(○)、精密作業性(○〜△)と優れたものであった。尚、耐切傷性は9Nと優れたものであった。
【0021】
[比較例1]
芯がパラ系アラミド繊維短繊維(繊維長51mm)、鞘が280dtexパラ系アラミド繊維マルチフィラメント糸を用いた以外は、実施例1と同様にして得られた精紡交撚糸条を用いて、実施例1同様に手袋を作製して評価した結果、手袋のソフト風合(△〜×)、精密作業性(△〜×)と実施例1と対比して劣ったものであった。尚、耐切傷性は8Nであった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、特に切創防止並びにソフト風合、精密作業性に優れた手袋に好適な精紡交撚糸条を提供するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯部が短繊維束、鞘部がフィラメント糸の鞘芯構造の精紡交撚糸条であって、鞘部を構成するフィラメント糸が、繰り返し単位の95モル%以上が下記式(1)で示されるポリケトンで構成される繊維のフィラメント糸で構成されていることを特徴とする精紡交撚糸条。
【化1】

【請求項2】
請求項1記載の精紡交撚糸条で構成されたことを特徴とする手袋。

【公開番号】特開2008−274494(P2008−274494A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−122036(P2007−122036)
【出願日】平成19年5月7日(2007.5.7)
【出願人】(303046303)旭化成せんい株式会社 (548)
【Fターム(参考)】