説明

精製された造血性鉄−サッカリド錯体の生成方法およびそれによって生成した生成物

【課題】スクロース中のグルコン酸第二鉄ナトリウム錯体、水酸化第二鉄−スクロース錯体、およびサッカリン酸第二鉄錯体、ならびに同様の形態および機能を有する物質を含む鉄−サッカリド錯体中に存在する有効造血性化学種の精製および分離方法の提供。
【解決手段】鉄−サッカリド錯体を1種類以上の賦形剤から分離し、好ましくは凍結乾燥を行う方法。鉄−サッカリド錯体の分離によって、分析による定量化、新規で有用な生成物のためのさらなる濃縮または精製、新規で有用な薬物を再設計した製剤の調製、および/または凍結乾燥が可能となる。造血機能に起因する鉄−サッカリド錯体の凍結乾燥形態を含む分離によって、医薬の完全性、患者の安全性、および臨床性能の確認および実証ための分析用物質の調製手段が提供され、さらに、それらを使用して分析的監視、造血剤の製造工程における規格化および品質制御の検査、および標準物質の確立が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の背景]
本発明は、非経口造血剤などの治療に有効な鉄含有化学種(iron-containing species)に関する。本発明の目的では、「造血剤(hematinic)」は、哺乳動物、特にヒトの血液中のヘモグロビン量を増加させる傾向にある形態の、鉄を含有する化合物または組成物を意味する。このような化合物は、鉄−炭水化物錯体(デキストランなどを含みうる)として一般に特徴づけることができるが、本発明は、鉄−サッカリド錯体として知られる包括的なサブクラスに関し、スクロース中のグルコン酸第二鉄ナトリウム錯体(SFGCS:sodium ferric gluconate complex in sucrose)、水酸化第二鉄−スクロース錯体(FHSC:ferric hydroxide sucrose complex)、および/または、鉄サッカレートとして特徴づけられる他の物質などの化学種を含む。本発明の目的では、このような有効鉄含有化学種を総称して鉄−サッカリド錯体または有効造血性化学種(AHS:active hematinic species)と呼ぶ。用語「錯体」は、関連技術分野における種々の状況で異なる意味となりうる。1つの態様では、錯体という用語は、所定の一連の条件で1つずつ存在する比較的低分子量の非ポリマー組成物を形成する2種類以上のイオンの間の会合を表すために使用されうる。この種の錯体は「1次錯体」と呼ばれている。この用語は別の場合には、大きな高分子(macromolecule)への複数の1次錯体の会合または凝集を表すために使用され、「2次錯体」とも呼ばれる。本発明の目的では、本明細書において後者の凝集物をも高分子として言及される。本発明の目的では、このような高分子または2次錯体は、「錯体」に区分され、単に錯体と呼ばれる。上記の区別の例として、グルコン酸第一鉄は、二価の鉄イオンとグルコン酸陰イオンを含む組成物である。二価の鉄イオンと2つのグルコン酸陰イオンが比較的低分子量(約450ダルトン)の1次錯体を形成し、この種の1次錯体は水性媒体に溶解した場合に凝集して高分子になることはない。したがって、グルコン酸第一鉄は、本明細書における用語「錯体」の範囲内に入る組成物ではない。しかし、グルコン酸第二鉄は、三価の鉄イオンとグルコン酸陰イオンの1次錯体が凝集して大きな高分子(分子量は約100,000〜約600,000ダルトンまたはそれを超える値となりうる)を形成するので本明細書で使用される用語での錯体として存在する。治療的に有効な第二鉄化合物としては数種類が市販されており、これに関しては後述する。本発明の目的では、用語「賦形剤(excipient)」は、合成反応の副生成物および未反応出発物質、分解副生成物、希釈剤などの、鉄−サッカリド錯体などの治療に有効な鉄含有化学種と混合されて存在する非造血性有効成分を意味する。
【背景技術】
【0002】
鉄欠乏性貧血は、種々の鉄含有治療薬を使用して治療可能な血液疾患である。これらの製剤としては、硫酸第一鉄、グルコン酸第一鉄、フマル酸第一鉄、オロチン酸第一鉄などの鉄の単塩が挙げられる。このような経口投与物質を使用して鉄欠乏症が改善されない場合には、次の段階の治療として非経口の鉄投与が挙げられる。患者の臨床状態に依存するが、ポリグルカンまたはデキストランが結合した鉄の非経口投与が、有効な治療的鉄送達媒体として機能しうる。これらの鉄デキストランの投与に、筋肉内注射または静脈経路を使用することができる。このような製品の市販例としては、「Imferon」および「INFeD」などの商品名のものが挙げられる。非経口鉄が必要となる種々の臨床症状から、鉄デキストランの造血作用が実用的であることが示されている。鉄デキストランの使用は、それらの合成、生成、および過敏症などの患者の応答における特異性に応じて調節される。これらの作用により、アナフィラキシーとして明らかな重篤なアレルギー応答を示したり、軽い場合には一過性の痒み感としての症状を示したりすることがある。これらのアレルギーその他の副作用が、有効成分に対する個々の患者の感受性によるものであるのか、または副生成物、不純物もしくは非経口溶液中の分解生成物に対するものであるのかは確認されていない。
【0003】
鉄デキストランに変わるものとして、本明細書では鉄−サッカリド錯体を非デキストラン造血剤と考える。鉄デキストランは重合した単糖の残基(monosaccharidic residue)を含むが、本発明にかかる鉄−サッカリド錯体はこのような重合した単糖(monosaccharides)が実質的に存在しないことを特徴とする。鉄−サッカリド錯体は、例えばフェルレシット(Ferrlecit)で市販されており、これはスクロース中のグルコン酸第二鉄ナトリウム錯体(SFGCS)である。製造元によると、この製品の構造式は[NaFe2O3(C6H11O7)(C12H22O11)5]n(式中nは約200である)であり、見かけの分子量は350,000±23,000ダルトンである。しかし、公開されている構造式に基づくと、その式量ははるかに高い417,600となるはずである(しかし、公開されているように、この式で正確に解釈することは困難である)。さらに、この市販の造血性組成物は、水中に20%のスクロース(重量/体積)(195mg/mL)を含む。化学名は、この形態の治療用の鉄(Fe)が、還元された二価のFe(II)の形態ではなく酸化された第二鉄形態のFe(III)として薬理学的に投与されることを示している。Fe(III)の荷電酸化状態のために、グルコン酸(ペンタヒドロカプロン酸、C6H12O7)もスクロース溶液中で配位錯体または配位子の形態で存在すると思われる。本発明の目的では、Fe(III)と配位子錯体を形成していても、またはしていてなくても、グルコネートは、その化学的性質により、スクロースなどの存在しうる他の炭化水素との相互作用から免れることはないと理解すべきである。したがって、鉄−サッカリド錯体という用語を使用する場合、種々の結合相互作用によってイオン化したグルコン酸(グルコネート)とスクロース分子が弱く会合し、Fe(III)を取り込む分子の足場(molecular scaffolding)を形成する、非特異的で不明確な構造が存在することを示すものと理解される。本発明の別の非デキストラン造血剤を組成で示すと水酸化第二鉄−スクロース錯体(FHSC)である。この非経口造血剤は商品名「ベノファー(Venofer)」で市販されている。SFGCSと同様に、説明の名称から、スクロースまたはスクロースのある誘導体との立体的な錯体として存在する第二鉄Fe(III)の形態であることが示唆される。従って、本発明の非デキストランの鉄−サッカリド錯体としては、SFGCS、FHSC、およびそれらの混合物が挙げられる。本発明の目的では、これらの鉄送達賦形薬は、有効造血性化学種(AHS)と記載される鉄含有構造錯体を含有する。
【0004】
本発明の目的では、AHSという用語は、鉄−サッカリド錯体、鉄サッカリド送達賦形薬、およびサッカリン酸鉄と交換可能に使用される。用語「サッカレート」または「サッカリド」は、構造
−CH(OH)−C(O)−
のサッカロース基を示す別の個々の分子またはそのポリマーと相互作用する鉄を一般的に示すために使用される。
【0005】
サッカロース基が最も簡単に形成されるのは、分子の標準的なフィッシャー分子投影モデルにおける2つの末端位置が、
(−CH(OH)−CHO)または(−CHO−CH2OH)
でそれぞれ表されるアルド基またはケト基として現れる場合である。この命名法は、ザプサリス(Zapsalis),C.およびR.A.ベック(Beck),1985,「食品化学と栄養生化学(Food Chemistry and Nutritional Biochemistry)」第6章,ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons),315〜321ページ(許可される範囲内で参照して本明細書に組み込まれる)にも記載されている。このような基およびそれらの第一酸化または還元生成物は、水と同じ比率の水素および酸素と炭素とを有する単糖類として認識される分子である。例えば、グルコースとして知られるアルドース糖は、第一酸化生成物としてグルコン酸を有し、第一還元生成物としてはソルビトールとしても知られるグルシトールを有する。グルコースのモデルとして表される元の単糖類および存在しうるその反応生成物の両方は、酸化または還元形態の特徴的なサッカリド基の性質が残る。これらの異なる形態の構造が存在するが、どちらも単糖類および炭水化物として認識される。実際的な命名法では、サッカロース基の酸化形態はカルボキシル基であり、これは適切なpH条件下で固有のイオン化定数およびpKa値にしたがってイオン化する。イオン化すると、酸化したサッカロース基は「サッカレート」と呼ばれ、また、イオン化したプロトンが酸化したサッカロース基と結合して残っている場合には一般的にサッカリン酸と呼ばれる場合もある。サッカロース基のイオン化したカルボキシル基がナトリウムなどの陽イオンと会合すると、サッカリン酸塩が形成される。例えば、グルコースの酸化によってグルコン酸が生成し、このサッカリン酸のナトリウム塩はグルコン酸ナトリウムである。同様に、第一鉄(FeII)陽イオンが静電的にグルコン酸のカルボキシル基と会合すると、グルコン酸第一鉄が得られる。一般に、アルドースである単糖類は、酸化するとサッカリド酸同等物が得られ、また、イオン化されると、モノサッカレート(monosaccharate)の形態は+1〜+3の価数の選択された陽イオンと相互作用しうる。グリセルアルデヒドはこのようなアルド基を示す最も単純な構造であり、一方ジヒドロキシアセトンは対応するケト基の例となる。6個の炭素原子を有するこのような構造を実際的に拡張すると、炭水化物の2種類の分類であるアルドースと他のケトースを説明できる。アルドースおよびケトースはグルコースまたはフルクトースなどの単糖類でそれぞれ表される。単糖類から誘導される多くの可能な分子内および分子間の反応生成物(例えばグルコン酸として知られるグルコースの酸化生成物)を使用して、鉄をサッカレートと錯形成させる試みによってAHSを得ることができる。本発明の目的では、AHSは、スクロース中のグルコン酸第二鉄ナトリウム錯体(SFGCS)または水酸化第二鉄−スクロース錯体(FHSC)よりも化学的により複雑な造血性鉄であると考えられ、したがって、鉄−サッカリド錯体またはサッカリド−鉄送達賦形薬またはサッカリド−鉄を含む名称はAHSと交換可能に使用される。結果として、造血剤の合成中の単糖類と鉄の反応による分子内および分子間反応または会合によって、本発明の範囲内に含まれる造血性を有する多種多様な構造の化学種が同時に生成しうる。
【0006】
通常、鉄−デキストランは最大100mgFe(III)/注射液2.0mLで送達できるが、鉄−サッカリド錯体では単回投与で市販用に調剤される体積で50〜120mgFe(III)/5.0mLで送達可能である。製造される場合、これらの鉄−サッカリド錯体生成物の多くは、10〜40%(重量/体積比)の非造血性賦形剤ならびに合成反応副生成物を含有する。
【0007】
一部の造血剤は米国薬局方(USP:United States Pharmacopoeia)または国民医薬品集(NF:National Formulary)の保護下の公定書基準を満たしているが、鉄−サッカリド錯体は公定書による承認のない化合物であり、規格化された分子特性または報告される分子特性はこの有効造血性化学種に独特のものである。このことは、SFGCSやFHSCなどの非デキストラン造血剤中の鉄送達賦形薬では、詳細な特性決定を行えるほど十分な精製および分離が賦形剤の製造において従来実施されていないことを示している。その結果、性質が未知である他の物質から1種類の所望の造血剤の特性決定が可能となる、基準となる対照標準、すなわち賦形剤を含有しない分析品質の対照指標が開発されていない。1975年にUSPとNFが合併して薬物のUSP−NF公定書基準が制定されてから、3,800種類を超える医薬品に関する指標となる性質および分析プロトコルが開発されてきたが、市販の医薬品の35%はなおUSP−NFには含まれていない。SFGCSやFHSCなどの造血剤はこの後者の分類に入る。最近この問題が、「医薬品質の水準を上げる(Raising the Bar for Quality Drugs)」,26〜31ページ,Chemical and Engineering News, American Chemical Society、2001年3月19日で取り扱われている。特定の抗原によって誘発される免疫応答およびアナフィラキシー反応の場合、分子特性および組成の区別の明確な基準によって、ある造血有効性分子構造および賦形剤の副作用がないレベルを、副作用を誘発しうる別のものと区別することができる。したがって、鉄送達賦形薬、合成試薬の過剰を示す賦形剤、または造血剤合成反応の副生成物に関する情報が少ない場合に、ある造血剤の安全性および有効性に関する情報を得るための性質を同定する必要がある。さらに、長期間にわたる詳細な試料の保存は行われておらず、最も安全な非経口鉄−サッカリド錯体の化学的性質を有意に特性決定するための現在の分析設備を使用したデータも存在しない。さらに、得られる薬物の化学構造の変化として同定するための、通常の造血剤製造条件のばらつきとそれらによって得られる作用との間の相関についても確認されていない。本発明の方法はこのような問題に対処可能である。
【0008】
本発明は、SFGCS、FHSC、およその他の鉄−サッカリド錯体の識別および特性決定、ならびに競合する生成物およびそれぞれの生成物によって示される構造変化物の識別のためのルーチンプロトコルに利用される分析基準も提供可能である。
【0009】
AHSの特性決定の必要性は、特に吸熱条件および熱伝達の問題が最終製品の品質に影響しうる場合に、製造工程における品質制御の条件にも反映される。どんな独自開発された合成方法であっても、一部の非デキストラン工業製品で熱誘発性またはストレッカー反応による副生成物が生成されうることから、製造過程中の熱供給の少なくとも一部を制御することによって造血性生成物の生成を制御できることを示している。約50℃未満の工程温度が不要であるならこのような賦形剤は生成しない。したがって、生成物の品質は、熱伝達速度および熱曝露時間とある程度関連がある。生成物が熱加工条件に特に敏感な場合は、賦形剤の性質に関する知識があれば、有効薬物の製品品質に関する重要な見通しが得られる。言い換えると、市場で発売されるときに薬物中に存在する賦形剤の性質および安定性を調べることによって、安全で有効な薬物の監視も可能となる。
【0010】
AHSなどの鉄−サッカリド錯体および同時に存在する賦形剤の分析研究は、低濃度、分子相互作用、分析信号の重なり合いなどによって妨害される。SFGCSとFHSCの両方に関して、分析上の問題として、過剰の反応物および反応と反応後の副生成物を含む高濃度の親水性賦形剤が挙げられ、そのため従来それぞれのAHSについて単離されず、それぞれの性質に関する報告もされていない。分析的に区別し、検査および確認が可能となる方法を使用して日常的に利用可能な実用的プロトコルによって使用され続ける対照標準が必要である。本発明のこのような方法および応用によって、このようなプロトコルの遵守が促され、製造の一貫性および製品の安定性を検査可能となることが必要とされている。
【発明の概要】
【0011】
[発明の要約]
少なくとも1種類の有効造血性化学種を含む鉄−サッカリド錯体生成物の監視方法であって、このような監視は、(a)前記錯体の製造工程中、(b)前記錯体の製造工程の終了時、および(c)前記錯体の製造後からなる群から選択される時間中に実施され、前記方法は、前記少なくとも1種類の有効造血性化学種の分析における応答を、少なくとも1種類の化学種に対応する標準物質と比較することを含む。このような標準物質は、希釈剤(通常は水)中の鉄−サッカリド錯体を含む造血性組成物を精製することによって得ることができ、この錯体は少なくとも1種類の有効造血性化学種と少なくとも1種類の賦形剤とを含む。この精製方法は、(1)少なくとも1種類の有効造血性化学種を、少なくとも1種類の賦形剤から分離するステップと、必要に応じて任意に(2)少なくとも1種類の有効造血性化学種を凍結乾燥するステップとを含む。分離は、例えば、クロマトグラフィー用カラムを使用することによって実施可能である。種々の高性能で強力な分析装置を精製標準物質に使用して、それによって得られる生成物の生成工程および安定性の監視、ならびに新規造血剤の開発促進が可能となる。さらに、本発明は、スクロース中の水酸化第二鉄錯体、スクロース中のグルコン酸第二鉄ナトリウム錯体、およびサッカリン第二鉄錯体(ferric saccharate complex)からなる群から選択され、賦形剤を実質的に含有しない鉄−サッカリド錯体を提供する。製造後に、賦形剤を実質的に含有しない錯体は、非経口組成物中または凍結乾燥生成物として、例えば最長で5年以上の長期間の保存性を有する(storage stable)場合がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、単離または精製したAHS、またはフラクション1として単離した鉄−サッカリド錯体の第1の対照標準に関して得られたクロマトグラフィーのチャートである。
【図2】図2は、少量のAHSまたは第1の対照標準を加えたフラクション2中の4種類の単離された賦形剤に関して得られたクロマトグラフィーのチャートである。
【図3】図3は、高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用してフラクション1(AHS)とフラクション2(賦形剤)に分離された鉄−サッカリド錯体試料の屈折率(RI)およびレーザー光散乱(LLS)による分析結果である。
【図4】図4は、鉄−サッカリド錯体の市販試料のHPLC分析に基づくLLSおよびRIのデータであり、有効造血性化学種凝集体ピーク(AHSAP)として現れ、AHSまたは第1の対照標準とは構造的に異なることが示されている。
【図5】図5は、鉄−サッカリド錯体の第2の市販試料のHPLC分析に基づくLLSおよびRIのデータであり、有効造血性化学種凝集体ピーク(AHSAP)として現れ、AHSまたは第1の対照標準とは構造的に異なることが示されている。
【図6】図6は、鉄−サッカリド錯体試料のHPLC分析に基づくLLSおよびRIのデータであり、製造後の時間間隔1による鉄凝集体ピーク(AHSAPTAM1)を示している。
【図7】図7は、鉄−サッカリド錯体試料のHPLC分析に基づくLLSおよびRIのデータであり、製造後の時間間隔2による鉄凝集体ピーク(AHSAPTAM2)を示している。
【図8】図8は、鉄−サッカリド錯体試料のHPLC分析に基づくLLSおよびRIのデータであり、製造後の時間間隔3による鉄凝集体ピーク(AHSAPTAM3)を示している。
【図9】図9は、鉄−サッカリド錯体試料のHPLC分析に基づくLLSおよびRIのデータであり、製造後の時間間隔4による鉄凝集体ピーク(AHSAPTAM4)を示している。
【図10】図10は、フラクション1として単離し、凍結乾燥し、再構成して、RIおよびLLSを使用するHPLCで分析した鉄−サッカリド錯体試料のクロマトグラフィーのチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[詳細な説明]
本発明の開示以前には、非経口の鉄送達を担うAHSは、制御された再現性のある純度で賦形剤から好適に分離されていなかった。このように賦形剤とAHSとが混合されているために、改良された造血剤の開発や、AHSの特性決定が困難であった。本明細書に開示される改良された方法によると、基準となる対照標準を使用することによって、生成物を製造規格に適合させるための鉄−サッカリド錯体の分析的監視、保存性指標の測定、およびバッチ間の比較が可能となる。このような基準となる対照標準は、特にAHSが単離されていなかったことが原因で従来は使用されなかった。本発明の方法によって、共存する賦形剤から治療に有効なAHSの効率的な分離および濃縮を行い、続いて希望するなら乾燥または凍結乾燥することが可能である。本発明は、スクロース中のグルコン酸第二鉄ナトリウム錯体、SFGCS、水酸化第二鉄スクロース錯体、FHSC、およびサッカリン酸鉄の調製、特性決定、および使用のための、情報、方法、および分析に関するする詳細を提供する。これらの材料は、一般的に鉄−サッカリド錯体または造血剤と呼ばれる。本発明は、従来存在しなかったこれらの材料の対照標準の確立方法も提供する。本開示は、製造、およびこれらの生成物の販売後の継続的な監視に関連する日常的な識別のための分析基準も提供する。一般に、本明細書で開示される分析方法およびその他の方法は、市販および一般的な鉄−サッカリド錯体、ならびに造血作用を有する現在市販の非経口鉄−サッカリド錯体などの鉄−サッカリド錯体に適用可能である。
【0014】
本明細書に開示される方法が開発される以前には、AHSに悪影響を及ぼしたり分解したりせずにAHSの分離、精製、および特性決定を行うための方法が存在しなかったため、鉄−サッカリド錯体の標準物質は使用できなかった。しかしながら、高圧液体クロマトグラフィーをレーザー光散乱と併用してAHSの非破壊的特性決定を行うことによって、このような糖−鉄錯体の安全かつ正確な特性決定が行える分析方法が得られる。本明細書で教示される分離および精製方法と組み合わせることによって、AHSの対照標準の提供方法が開発され、生成物の特定のためにこのような材料を使用できる可能性がさらに高まる。
【0015】
本発明によると、賦形剤を含有しないAHSの特性決定方法は、AHSと関連する賦形剤とを少なくとも2つのフラクションに分離することを含む。通常AHSは非常に低濃度で存在するため、一度分離すると、より詳しく分析研究できるようにするためにAHSを濃縮することが好ましい。AHSは分解しやすいが、濃縮前または濃縮時に組成物中に親水性賦形剤が実質的に存在しなければ濃縮可能である。濃縮は、乾燥および好ましくは凍結乾燥によって行うことができるが、その他の方法を使用することもできる。水と賦形剤の間の水素結合などの弱い電子結合による相互作用のために、AHSの分離および乾燥は困難である。非経口形態などで販売される場合、溶質を含有しない水(すなわち純水)よりも水分活性(Aw)が低い水性系中に通常のAHSは存在する。一般的には、溶質を含有しない水のAw値は1.0に近づくか1.0となる。水分活性は、物理的、化学的、および生物学的過程において、物質または組成物中に存在する水の利用可能性(availability)に対するパラメーターである。水溶性または親水性物質(特に低分子量の物質)が存在すると、水分活性は低下する。言い換えると、物質と結合するか物質を溶解させる水の
フラクションに相当する水の一部は、その他の機能を果たさない。その結果、溶解または結合する物質の数および/または濃度が増加すると、水分活性が減少する。食品産業および医薬産業のほとんどの場合に当てはまるが、水分活性値の増加は化学的および生物学的分解と関連があり、そのためAw値を減少させるために水溶性または親水性の物質が加えられる。本発明では、AHSに含まれるサッカリド賦形剤を含む、水性組成物中に懸濁または分散される物質を含む、溶質および/またはコロイドは水と相互作用する。例えば、これらの物質は親水性であるか、あるいは水素結合が可能である。このような物質は、存在する水のAw値を1.0未満まで減少させる。AHSが存在する水中に親水性賦形剤が存在する限り、水の一部とこのような賦形剤との結合が維持され、AHSの濃縮によってAHSを含む組成物から水を十分除去することはできない。その結果、AHSを含む層またはフラクション中でAHSから親水性賦形剤を分離するとAw値が増加して1.0に近づき、これらの好ましい化学種の濃縮、乾燥、および分析が容易になる。
【0016】
SFGCSおよびFHSCを含む系における水に対する溶質の影響は、水蒸気圧が増加し、関連してAwが増加すると、放出される親水性物質および賦形剤濃度が低下することにより、これらの化学種が乾燥する挙動(凍結乾燥を含む)に直接影響する。Awで表される水分活性の概念は、食品科学の分野で最も顕著に有用性が見いだされている(例えば、「食品科学の原理(Principles of Food Science)」,O.R.フェネマ(Fennema)編著、「パートII、食品保存の物理的原則(Part II,Physical Principles of Food Preservation)」,M.カレル(Karel)ら,237〜263ページ,マーセル・デッカー(Marcel Dekker,Inc.)1975、食品科学百科事典(Enclyclopedia of Food Science),M.S.ピーターソン(Peterson)ら編著,「食品に関する水分活性(Water Activity in Relation to Food)」,D.H.チョウ(Chou),852〜857ページ,アビ・パブリッシング(Avi Publ.Co.,Inc.),1978を参照されたい(許可される範囲でこれらそれぞれを本明細書に組み込む)。食品保存中に起こりうる化学的および物理的過程と食品中の水の状態との間の関係があることがこの前提となっている。同じ原理は、水を含有し水の影響を受けうる別の物質または組成物にも適用可能である。溶媒や希釈剤などとして組成物中に存在する水は、賦形剤またはAHSに関する場合など、他の化合物に対して種々の程度で遊離、または未結合、または結合の状態であるとして特徴づけることができる。水が結合する程度を測定するために種々の方法を使用可能であり、核磁気共鳴、誘電性測定、および蒸気圧測定による0℃未満の水含有組成物中の未凍結水量の測定が挙げられ、後者の方法は簡単であるため好ましい。この方法では、水分活性は、水を含有する組成物または化合物中の水の分圧の、所与の温度における純水の蒸気圧に対する比として定義される。これはラウール(Raoult)の法則に従い、この場合、溶液中に存在する水蒸気圧(P)が、純水(溶質を含有しない)の蒸気圧(P0)と比較される。比P/P0が1.0から減少していくと、Aw値が減少していき、このような水のエントロピー状態が減少し、その蒸気圧が減少し(おそらく水−溶質間の結合の相互作用が増加するためである)、水の蒸気相の除去がより困難になる。これらの条件は凍結乾燥などの乾燥工程に影響する。さらに、錯体混合物(言い換えると、化合物または錯体が完全に溶解したり真の溶液の形態で存在したりすることがない場合)では、理想的なラウールの法則から実質的なずれが生じることがあり、そのため組成物を含む成分の水分活性が異なる値となる場合がある。多相組成物では、濃縮の推進力(concentration driving force)に基づく推測とは異なり、Awが高い成分から低い成分への水の移動または拡散が発生しうることが観察されている(M.カレルら,251ページ)。錯体組成物が乾燥すると、水との相互作用の程度が異なる(例えば水素結合の程度が異なる)溶質の濃縮が、複雑な変化で、水の除去しやすさに影響することも確認できる。このことが、有効造血性化学種を賦形剤から実質的に分離または単離するさらに重要な理由であり、そのため適切な乾燥工程条件を決定し制御することができる。カルボニル基、アミノ基、および、水素結合、イオン−双極子結合またはその他の強い相互作用によって水を保持できる他の部分と同様に、多糖類のヒドロキシル基を含む化合物の特定の部位に水は強く結合することができる。したがって本発明の場合、水は、AHSおよび賦形剤上の特定の部位に、例えば単層として結合可能である。温度が0℃よりはるかに低温でなければ、このような水は非凍結性の水として存在することができ、さらに非溶媒の水として存在することもできる。本発明の組成物では、水はスクロースと強く結合することが知られており、そのためスクロース含有組成物のAwは減少する。したがって、乾燥、特に凍結乾燥(後に詳細に説明する)によって悪影響が生じうる。
【0017】
凍結乾燥をする場合でもしない場合でも、独立した物質としてAHSを調製できれば、このような造血性生成物を特徴づける化学的および構造的特徴の画定が容易になる。このような造血剤について確立された立証され再現性のあるパラメーターを使用すると、AHSのバッチ間均一性などの品質制御の機構を確立することが可能となる。AHSの確認された構造均一性からのずれは、保存性の指標として使用でき、製造工程における変量の因果関係の特定に使用することができる。現在の技術、特にレーザー光散乱を使用することで、これらの物質の単離および分析による特性決定が可能であれば、このような鉄−サッカリド錯体の性質の決定に有用である
【0018】
一般に独自の方法によって合成が行われているため、造血剤用途の鉄−サッカリド錯体の合成に関してはほとんど知られていない。同様に、このような錯体に関して入手可能な分析情報もわずかである。造血剤中の医薬的に有効な造血性化学種または鉄送達賦形薬は、全固形分の重量/体積測定によると5%未満であると考えられており、最低で1.0%となる場合もある。したがって、市販の製品では、販売時のAHSの特性決定は、親水性賦形剤の比率が高い状態で実施されるのが一般的である。賦形剤量が比較的多いために、固有の第二鉄送達賦形薬の濃度がこのように低くなることから、AHSの特性決定は困難であった。さらに、不安定であり分析のための単離が不可能であると考えられていたため、AHSに関する対照標準は確立されていなかった。本明細書に記載の方法に基づいてAHSを賦形剤と効果的に分離することによって、これらの方法は、改良された単独の造血剤または他の薬物と混合された造血剤の開発に拡張することができる。例えば、精製したAHSをエリスロポエチンまたは他の有用な薬物と併用することができる。
【0019】
賦形剤を含有しないAHSを使用できることで、AHSおよびその薬効のより詳細な分析による監視が可能となる。さらに、全固形物重量に対する賦形剤の比率が高い医薬の場合、このような賦形剤を独立して監視できることは、品質制御、製造、および臨床特性などに関して同様に有意義である。製造中に存在する賦形剤の、従来は注目されないかまたは異なる分布や種類によって、予期せぬ臨床作用が得られることも考えられる。食品システムでは、糖類の熱作用による副生成化合物の生成は、製造工程の妥当性および制御に関する重要な情報となる。このような問題は、H.−J.キム(Kim)の米国特許第5,254,474号による他の生成物に関して対処されているが、そのほかではバイオテクノロジー用途で熱によって生成したアルデヒドが注目されており、C.M.スメールズ(Smales)、D.S.ペッパー(Pepper)、およびD.C.ジェームズ(James),2000,「スクロースの存在下におけるβ−ラクトグロブリン変異体Aのモデル抗ウイルス熱処理バイオプロセス中のタンパク質修飾の機構(Mechanisms of protein modification during model antiviral heat-treatment bioprocessing of beta-lactoglobulin variant A in the presence of sucrose)」,Biotechnol.Appl.Biochem.,Oct.,32(Pt.2)109-119を参照されたい。熱が合成の要素である場合には、医薬製造における糖類に対する熱の影響と関連がある化合物の検出も重要となりうる。実際、公称賦形剤量およびFHSCやSFGCSなどの錯体中の分布を測定することによって、適切な合成が使用されていることを確認することができる。
【0020】
本発明は、SFGCS、FHSC、およびサッカリン酸鉄などの造血剤を少なくとも2つの独立したフラクションに分離する方法を提供する。さらに、一般に、炭水化物から誘導される負に帯電したカルボキシル基とともに鉄が保持される鉄−サッカリド錯体または鉄送達賦形薬として鉄が供給される製品に、本発明の方法を適用可能である。最初に、本発明ではフラクション1として同定される造血剤のフラクションは、鉄−サッカリド錯体または鉄送達性の有効造血性化学種(AHS)を含む。本発明ではフラクション2として同定されるもう1つのフラクションは、元の組成物中にAHSとともに存在する、例えば合成または放出された実質的にすべての賦形剤の混合物を含む。フラクション2中の賦形剤は、例えば親水性の有機化合物またはイオン性化合物であってよい。
【0021】
液体フラクション1または2中に存在する溶質、あるいは懸濁または分散した成分は、詳細な分析研究または特性決定の目的に使用することができ、新しい製品の開発のためにさらに濃縮したり出発物質として使用したりすることができる。本発明は、スクロース中のグルコン酸第二鉄ナトリウム錯体(SFGCS)および水酸化第二鉄スクロース錯体(FHSC)を賦形剤と区別する基準となる対照標準の確立を促すための、これらのフラクションの独立した、しかし関連性のある分析的役割を開示する。さらに、本発明は、濃縮、凍結乾燥、および必要に応じて任意に再構成したAHSの調製方法を開示する。種々の成分の分離は、水性(水)組成物中でAHSおよび賦形剤を含有する合成されたまたは市販の造血剤について行われ、賦形剤を選択的に再配置または抽出して、賦形剤が実質的に分離した水相中に存在するようになる。2つのフラクションが得られてから、それぞれについて、分析、合成、または製造の目的を果たすために、詳細な分析による特性決定、希望に応じてさらなる生成、および濃縮を行うことができる。
【0022】
造血剤は造血のために有用な鉄を送達するために設計された医薬の一種であり、フラクション1は、少なくとも約75〜約100%未満、好ましくは少なくとも約80重量%〜約99.9重量%、より好ましくは少なくとも約90重量%〜約99.9重量%、最も好ましくは少なくとも約95重量%〜約99.9重量%の非経口送達用AHSを含み、フラクション2は、対応する少量のAHS、例えば約0.1重量%を含み、さらに造血性組成物中に本来存在する実質的にすべての賦形剤を含む。
【0023】
1.共存する賦形剤からのAHSの実質的な分離。
少なくとも1種類の有効造血性化学種(AHS)は、合成された造血剤または鉄−サッカリド錯体として特徴づけられる市販の医薬中に存在する賦形剤から単離または実質的に分離することができる。本発明者らは、このような分離を、鉄−サッカリド錯体を含む造血性組成物のいくつかの重要な性質の測定によって実現した。そのような性質としては、(1)AHS含有相またはフラクションのAw値の増加が必要、(2)AHSは検出可能であり式量が約250,000〜約3,000,000ダルトンまたはそれを超える少なくとも1種類の鉄化学種を示すこと、(3)製造および安定性のばらつきによって、2種類以上の検出可能な鉄含有化学種が存在しうること、(4)Fe(III)含有化学種は、例えば、レーザー光散乱で測定した場合に異なる形状を示しうること、(5)Fe(III)含有AHSは電荷を有すること、および(6)Fe(III)含有AHSは、第二鉄(Fe(III))または第一鉄(Fe(II))の存在を示す検出可能な酸化−還元(レドックス)電位を有しうること、が挙げられる。AHSを賦形剤と分離して少なくとも2つのフラクションを得ることは、あらかじめpHを、約6.0〜約8.0の範囲、好ましくは約6.4〜約7.8の範囲、より好ましくは約6.6〜約7.6の範囲、例えば約6.8〜約7.4の範囲で安定させるかまたは安定させずに、以下の方法の1つ以上を使用することで実現可能である。
【0024】
1.帯電したAHSを、帯電した捕集面に付着させるか、または帯電面が存在する水溶液体積内部に移動させて賦形剤との分離を起こさせる直流電流に、AHS濃度が依存する動電移動。
【0025】
2.半透膜パーティションによって分離された水系中にカソードとアノードが配置される動電系膜技術。膜に直流電流が印加されることによって、互いに反対の電荷の間の引力が生じて、帯電したAHSが適切な電極上で濃縮する。1つの区画内の1つの電極上でのこのようなAHSの濃縮では、半透膜によって親水性賦形剤炭水化物をもう1つの区画に透析除去することができる。好ましい半透膜としては、セルロース、酢酸セルロース、セルロースエステル、および再生セルロースが挙げられる。AHSを一方の区画に維持するために、膜の好ましい分子量排除サイズは約90,000〜約300,000であり、好ましくは約150,000〜約200,000である。この方法の好ましい条件としては、pHが約7.5〜約9.8の蒸留脱イオン水の使用、約1.0atmの圧力、および約2℃〜約50℃の温度が挙げられる。親水性賦形剤の透析除去速度は、水性透析液を頻繁に交換することで向上させることができる。一般にこの過程はフィック(Fick)の法則(F=−DA(dc/dx)、式中、F=全流束、Dは水などの媒体中の化学種の拡散係数であり、Aは拡散に使用される表面積であり、dc/dxは膜を通る賦形剤の濃度勾配である)で説明される。
【0026】
3.共存する賦形剤からAHSを濃縮するキャピラリー電気泳動法。キャピラリー電気泳動(キャピラリーゾーン電気泳動と呼ばれることもある)は、帯電した分析物を、直径が約50〜約75μmであり長さが約50〜約100cmである溶融石英キャピラリーに入れ、最大約30kVの電圧をかけることによって実施される。組成物中の帯電物質の動電移動の差を、UV−VIS、蛍光、および質量分析法などの本明細書に記載される種々の方法によって検出し記録することができる。キャピラリー中の帯電物質の最終移動位置を電気泳動図として記録することができる。この方法は、鉄−サッカリド錯体中のAHS上に実質的な電荷があるために特に有用となりうる。
【0027】
4.AHSの選択的分離に特に好ましい方法であるカラムクロマトグラフィー。共存する賦形剤とは対照的にAHSの式量、大きさ、形状、および電荷はばらばらであるために、液体キャリアまたは溶離液(例えば、水)が固体支持体を通り越しおよび/または透過して移動するときに、AHSには複数の固定相相互作用が起こる。したがって、このような分離の原因となる拡散および移動速度の差は、相対的電荷および/またはサイズ排除差によって生じ、これによってクロマトグラフィーシステムを通過するこれらの物質の溶出が遅れたり加速されたりする。分離は、固定相表面の多孔度、電荷、または吸着特性を変化させることによって調整することもできる。このようなクロマトグラフィー法は、1つまたは複数の直列の流動形態のカラムに水性または非水性の溶媒を供給して約3℃〜約150℃、好ましくは約15℃〜約35℃、通常は25℃で実施することができる。AHSのクロマトグラフィーによる分配は、カラムの流入および流出に関する任意の圧力低下(pressure drop)で実施することができる。カラムの内圧は、大気圧未満から固定層材料が耐えうる任意の圧力までの範囲にすることができる。操作圧力は約1気圧(0.1MPa)を超えることが好ましいが、最大約10,000ポンド/平方インチ(69MPa)の圧力を使用することができる。カラムに供給される溶離液としては、AHSが鉄−サッカリド錯体として維持されるあらゆる溶媒または希釈剤を挙げることができる。このような溶離液としては、C1〜C6アルカノール、エタノールアミン、ジメチルスルホキシド、カルボニル系溶媒、ジメチルホルムアミド、水、水性緩衝液、ならびに水−糖類溶液を含む種々の混合物が挙げられる。微生物の増殖の可能性を制御するためには、約2.0〜約25重量%の第1級アルコールを使用することが有用となりうる。好適な固定相材料としては、デキストランと同定されている多孔質シリカ架橋ポリグルカン、架橋メタクリレートポリマー、エチレングリコールとメタクリレートのコポリマー、架橋ポリスチレン、アルミナ、アガロースゲル、シクロデキストランなどが市販されており、陽イオン性および陰イオン性イオン交換充填材も使用することができる。造血性組成物中のAHSを賦形剤からカラムクロマトグラフィーで分離するために特に好ましい固定相は、セファデックス(Sephadex)G−10、G−15およびG−25(アマシャム−ファルマシア・バイオテック(Amersham-Pharmacia Biotech.),ニュージャージー州ピスカタウェイ(Piscataway))の種々のグレードで市販される架橋ポリグルカンまたはデキストラン、ならびに粒径13μm、および孔径約100〜約2000Åであり、ポリメタクリル酸メチル主鎖を有するGMPWXLと呼ばれる市販のカラム(トーソー・バイオセップ(Tosoh Biosep),ペンシルバニア州モンゴメリービル(Montgomeryville))である。固体固定相充填材を使用する場合、約30〜約9000Åの範囲の孔径が好ましく、より好ましくは約100〜約8000Åの範囲である。デキストラン固定相は、例えば低圧クロマトグラフィーを使用したAHSの大量分離には特に好ましく、ポリメチル酸メチル主鎖は、例えばHPLCを使用したAHSの分析的特性決定に特に好ましい。
【0028】
FHSCまたはSFGCSに起因する所望の薬効が本質的または実質的に得られるAHSの分離のために、本発明の方法を単独または互いに併用して使用することができる。実質的に分離され、その結果生成されたAHSは、第1の対照標準の確立のための基礎となる。そして、第1の対照標準によって、製造の監視および医薬品質の制御に使用するための基準を得ることができる。希望するなら、本明細書で教示する方法を使用してAHSをさらに精製することもできる。例えば、HPLCを例えばLLSおよびRIと併用した造血性組成物の分析で、AHSの第1の対照標準の前にショルダーまたはピークが見られる場合には、さらなる分離方法を使用することができる。本明細書の説明では、このようなショルダーまたは2次ピークは、好ましい製造条件から逸脱した結果として、または造血性組成物の貯蔵の結果として、特に親水性賦形剤が存在する場合に、造血性組成物中に存在しうる。さらなる分離または精製工程は、LLS検出器から直接得られるHPLC分析結果またはデータを使用して分取クロマトグラフィー用カラムを使用して、分取クロマトグラフィー用カラムからの最初の溶出物質をさらに分離することを含む。この方法では、実質的な比率または実質的にすべての望ましくない凝集AHSを好ましいAHSから分離することができる。最初に非AHSピークが存在し、特徴的なAHS第1の対照標準ピークから明確に分離される場合には、このようなピークに対応する実質的にすべての凝集物質を、例えばフラクション1中の所望のAHSから分離することができる。後に詳細に説明するように、第1の対照標準AHSピークにショルダーが見られる場合、凝集物質などの望ましくない物質を実質的にすべて分離するためには、好ましいAHSの一部とともに分離することが必要となる場合があり、そうでなければすべての凝集物質を除去することはできない。分離および精製の程度は、本発明の方法により得られるデータを参照しながら決定することができる。したがって、本発明の造血性組成物中に存在するより低分子量の主要な親水性賦形剤を実質的にすべて除去するだけでなく、本明細書に教示される方法によって、実質的に精製され凝集鉄錯体を含まないAHSを得ることができる。
【0029】
本発明の教示を使用すると、鉄−サッカリド錯体として特徴づけられる市販の非経口組成物中の個別の有効造血性化学種(AHS)を賦形剤から分離することができ、こうして分離された物質は「第1の対照標準」として機能しうる。AHSを共存する賦形剤から分離する方法の1つでは、低圧ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を利用する。本発明においては、低圧とは、充填カラムに流体を圧送する場合にほぼ周囲圧力(周囲圧力よりもわずかに高い圧力も含む)で、クロマトグラフィーカラムを作動させることを意味し、カラムにはバルブ付きラインが取り付けられ、さらに必要に応じて任意に1種類以上の分析装置または検出器などの他の装置が接続される。この方法は分離下物質の分析にのみ使用可能なのではなく、新しい非経口組成物の調製のためにAHSを大量に製造する場合にも使用可能である。好ましくは、カラム充填材は、約5,000ダルトンを超える分子量またはサイズ排除特性を有するエピクロロヒドリン架橋ポリグルカンを含み、より好ましくは約1,500ダルトンを超えるサイズ排除特性を有することが好ましい。好適な装置は、(アマシャム−ファルマシア・バイオテック,ニュージャージー州ピスカタウェイ)より入手可能である。さらに、GPC特性を有するイオン交換ゲルおよびアフィニティークロマトグラフィーカラムも好適である。
【0030】
通常、AHSはフラクション1中に存在し、その後に賦形剤はフラクション2に溶出する。カラムから物質は連続的に溶出するため、賦形剤から実質的に分離した実質的にすべての好ましい標準のAHSまたは一次標準のAHSが存在するカラムからの溶出物質部分に基づいて、フラクションの基準がとられる。このような溶出物質の分離を行うための方法の1つは、LLS信号が移動相のベースライン値に近づくまたは戻り、その後AHSおよび/または凝集AHS(後により詳細に説明する)の存在を示す初期ピークが現れるのを観察することである。好ましい方法では、重量または定量供給流によって、溶媒貯蔵槽から水性希釈剤または溶媒が、クロマトグラフィーカラム(長さが直径の少なくとも2倍であるのならば任意の選択された直径または長さである)に供給される。カラムは、ガラス、ステンレス鋼、ポリカーボネート、または使用される組成物および希釈剤または溶媒に非反応性であり床とも呼ばれる固定クロマトグラフィー支持材料を含むことができるその他の材料から作製することができる。通常、床は好適な多孔度を有するビーズを含むが、その場で注入される多孔質ポリマー(poured-in-place porous polymer)など、カラム内にインサイチューで他の形態の床を形成させることもできる。本発明の方法を実施する場合、最初に移動相と呼ばれる水性溶媒(または希釈剤)が、間隙にも通るようにビーズ状多孔質支持床に流される。液流または溶出物がカラムから出ると、例えば、チュービングを通って1つ以上の検出器に送られ、ベースラインの性質を決定する目的で液流の分析が行われる。検出器の配置は、溶出液の連続流が1つの検出器から次の検出器に送られるか、または並行して複数の検出器で監視するために液流が分割されるようにすることができる。このような検出器では、液流の実時間体積流として溶出物の性質が求められる。好適な検出器は、pH、導電率、電気化学的還元電位、屈折率(RI)、およびその他の有用な分析的性質などの液流の性質を測定し記録するために使用される。UV−VIS吸収(A)および屈折率(RI)が、移動相のベースライン特性の測定のために好ましい検出器である。
【0031】
市販の非経口組成物などの鉄−サッカリド錯体を、充填カラム床の上部に続く水流に注入することによって、組成物の種々の成分が多孔質クロマトグラフィー用ビーズ全体に分散しビーズ内を通過する。理論によって束縛しようと望むものではないが、鉄−サッカリド錯体を含む、異なる大きさの化学種の分離は、例えばふるい分け効果、および場合によると水素結合相互作用によって進行すると考えられている。孔隙より大きな化学種は孔隙から排除され、比較的少ない溶出体積(Ve1)で最初にカラムから出る。試料がカラムを流れ続けると、だんだん小さな分子が孔隙内に取り込まれ、続いて比較的多い溶出体積(Ve2)でカラムから出る。したがって、造血剤中のAHSなどの大型の化学種がフラクション1に最初に溶出し(Ve1)、より小さな賦形剤の化学種が後でフラクション2に溶出する(Ve2)。このようなクロマトグラフィーの分離によって、SFGCSやFHSCなどの成分を含む造血剤の初期非経口体積を使用した場合には、AHSと賦形剤の少なくとも2つの成分またはフラクションが得られる。後述するが、より大型の副生成物または分解化学種を、AHSと同時またはより速く溶出させることができる。AHSの分離が実質的に完了すると、最初には共存していた賦形剤(特に親水性賦形剤、ならびに異なる蛍光特性を有しうる賦形剤)と分離される。その結果、AHSは高Awの水性フラクションのフラクション1中に存在し、これは実質的に賦形剤を含有せず、実質的にすべての賦形剤は第2のフラクションであり低Aw条件を特徴とするフラクション2中に存在する。大きさとクロマトグラフィー床の相互作用以外に、カラム床内の酸性水素−塩基結合(AH−B)の動力学によって、カラムからの賦形剤の有効溶出体積(Ve2)がさらに増加しうる。酸性水素−塩基結合相互作用は、ホッジ(Hodge),J.E.およびE.M.オスマン(Osman),1976,「食品化学(Food Chemistry)」第3章,O.R.フェンネマ(Fennema)編著、マーセル・デッカー(Marcel Dekkar),ニューヨーク,92〜96ページ、およびザプサリスC.およびR.A.ベック,1985,「食品化学と栄養生化学」第10章,ジョン・ワイリー・アンド・サンズ,588〜591ページ(許可される範囲でこれらのそれぞれの記載内容を本明細書に組み込む)で一般的に議論されている。本発明の目的では、分離したAHSが賦形剤を実質的に含有しない場合に使用される用語「実質的に含有しない」は、AHS含有フラクションが、約75重量%を超え、一般には約85重量%を超え、好ましくは約95重量%を超え、より好ましくは約98重量%を超え、さらにより好ましくは約99重量%を超え、最も好ましくは約99.9重量%を超え約100重量%以下の、カラムから溶出したAHSを含むことを意味する(言い換えると、微量の賦形剤が存在することがあり、溶出したAHS量には、カラム、チュービング、検出器の内部で残留したり、処理中に失われたりした可能性のある少量または微量のAHSは含まれない)。これに対応して、クロマトグラフィー用カラムに供給された組成物中にもともと存在するか処理中に生成するような賦形剤は、後の賦形剤フラクションのフラクション2に含まれ、これは100重量%の値から上記の値を引いた値の量となる。例えば、AHSフラクションが約99.9重量%を超えるAHSを含む場合、賦形剤は約0.1重量%未満の量で存在しうる。
【0032】
クロマトグラフィーの溶出流中における、賦形剤と比較した場合のAHSの存在は、前述のようにレーザー光散乱を使用して観察することができる。さらに、AHSおよび賦形剤の溶出プロファイルは、溶出流に関する出力信号が同時に記録される1種類以上の異なる検出器を使用して検出可能である。好ましい方法では、UV−VIS吸光度検出器を使用した波長(λ)に対して敏感な検出器を使用し、さらに濃度に敏感な屈折率(RI)検出器も使用する。これらの検出器からの2重の独立した出力信号が処理され、2つの独立した縦軸(y軸)と共通の横軸(x軸)に対して別々に記録され、前述したように累積溶出体積(例えば、ミリリットル)またはスライス(i)の単位で表現される。この方法は、実質的にすべてのAHSを含むいわゆるフラクション1から実質的に開始し、実質的にすべての賦形剤を含むフラクション2で実質的に終了する場合に同定可能である。これらのフラクションは時間内に実質的に分離されることが実験的に示されており、賦形剤を実質的に含有しないAHSを得ることができる。
【0033】
ベール−ランバート(Beer-Lambert)の法則によると、光の吸収は特定の吸光性化学種の濃度と関連がある。吸光性化学種の吸光度(A)は:
A=εbc ・・・式5
で表現され、式中cは吸光性化学種の濃度(単位モル/リットル(M/L))であり、bは吸光性化学種を透過する光路(単位センチメートル(cm))であり、εはモル吸光係数として知られる比例定数である。この比例定数は所与の波長の光において吸光性化学種に固有のものである。この基本法則より、特定の波長(λ)における吸光性化学種の吸光度から、その化学種のモル濃度の定量的測定が行える。したがって、分析物の所定の波長の吸光度の増加は、そのモル濃度の増加に対応する。クロマトグラフィー溶出流中のSFGCSまたはFHSCのAHSを監視する場合には、波長435nmで鉄−サッカリド錯体が高い吸光係数6.590log10を示すので、この波長が好ましい。クロマトグラフィー分離によって実質的に賦形剤を含有しないAHSを調製する場合、カラム溶出体積に対するA430nm値の表が作成される。これより、A430nmの縦軸(y軸)値と溶出体積(x軸)を互いにプロットすれば、クロマトグラフィー溶出プロファイルに変換することができる。前述したように、より大きなAHSはより小さな賦形剤よりも早くクロマトグラフィー用カラムから溶出する。溶出体積の変化(ΔV)に対する吸光度の変化(ΔA)、すなわちΔA/ΔVが、溶質を含有しない溶離液のベースラインの上で一貫して正の比(+ΔA/ΔV)を示す限りは、溶出体積中のAHS濃度が増加する。負の比(−ΔA/ΔV)の場合には、反対のことが言える。ΔA/ΔV比が(+)から(−)に変化する場合、AHSのクロマトグラフィー溶出は「クロマトグラフィーピーク」として最大となる。これより先は、クロマトグラフィープロファイルは負の比(−ΔA/ΔV)を示し、溶出体積中のAHS濃度が減少する。A430nmが漸近的に減少してA430nm値が約0.0に近づく限りは、AHS濃度に関してこのことは正しい。この測定値はAHSの溶出の終了を示すので、濃度に敏感なRI検出器は、溶出物に含まれる親水性賦形剤およびその他の賦形剤の量の増加に応答し始める。上述のように、体積変化に対するRIの比の正(+)の変化(+ΔRI/ΔV)は、賦形剤濃度の増加を表している。ΔA/ΔVがなお負の比(−ΔA/ΔV)を示す溶出物捕集体積では、約0.0Aの値に漸近的に近づき、RI検出器は+ΔRI/ΔVの勾配を示し始めるが、これは、フラクション1が実質的に終了しフラクション2が実質的に開始する実質的な境界を示している。フラクション1は高Aw環境のAHSを含み、フラクション2は低Aw環境の親水性またはその他の賦形剤を含む。この方法では、溶出プロファイルが測定される。
【0034】
フラクション1が実質的に終了しフラクション2が効果的に開始する分離を規定する溶出境界は、430nmにおけるカラム溶出物のAHSの%分光透過率を測定することによっても測定可能である。この目的に好適な装置は、ハンター・アソシエイツ・ラボラトリー(Hunter Associates Laboratory,Inc.)(バージニア州レストン(Reston))製造の「カラークエスト(ColorQuest)XE」システムである。溶出液中に存在するAHSが漸近的に0%に近づいて透過率が増加することで、AHSの分離または溶出の終了を示すことができる。引き続く溶出流のRI応答の増加は、賦形剤を含む溶出体積の開始を示す。さらに別の実施形態では、フラクション1が実質的に終了しフラクション2が効果的に開始する境界は、溶出流のA620nmアントロン系吸光度を測定することで求めることができる。AHSと賦形剤の両方は顕著なデキストロース当量(DE)吸光度を有するため、検出可能なA620nmDE値は、フラクション1とフラクション2の間で極小となる。この分析の概念を裏付ける原理は、R.ドレイウッド(Dreywood),「炭水化物材料の定性試験(Qualitative Test for Carbohydrate Material」,Indus.and Eng.Chem.,Anal.Ed.,18:499(1946)、J.E.ホッジ(Hodge)およびB.T.ホフレイター(Hofreiter),「還元糖および炭水化物の測定(Determination of Reducing Sugars and Carbohydrate)」,Methods Carbohydrate Chem.,1:384-394(1962)、およびより最近のC.ザプサリスおよびR.A.ベック,「食品化学と栄養生化学」第6章,ジョン・ワイリー・アンド・サンズ,353〜354ページ(1985)(許可される範囲でこれらそれぞれの開示を本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0035】
本発明の方法は、あらゆる種類の鉄−サッカリド錯体中に存在するAHSを、大量製造バッチ(例えば、約500mg超〜約1.0g以上、または約1.0g〜約10g以上、約1.0g〜約100g以上、約1.0g〜約1kg以上、例えば、希望するなら数百kgまたは場合によっては数千kgを本発明によって製造可能である)または少量の分析試料(約5.0〜約500.0mg)で調製可能である。AHSは、これらの非経口組成物に存在する錯形成された鉄の好ましい成分であるので、AHSを分離できることは、第1の対照標準を得るために重要である。フラクション1を分離することによって、さらに詳細な化学的および/または構造的分析が可能となり、このような方法は本明細書の他所に記載している。しかし、単離されたAHS(例えばフラクション1)ならびに賦形剤(例えばフラクション2)は、詳細に研究するためにさらに濃縮することができる。
【0036】
本発明は、少量のAHS(約1.0mg未満〜約5.0mg未満)の製造にも好適であり、好ましくは高圧(または高性能)液体クロマトグラフィー(HPLC)によって製造される。AHSを賦形剤から分離するために適切なクロマトグラフィー用固体支持体を使用することができる。これによってAHSは、カラム内で高Aw(例えば、1.0に近づく値を示す)流体力学的体積に移動する。賦形剤は、低Aw(例えばAHS含有層より低い値)の低Aw流体力学的体積に移動する。この方法の操作の原理は、前述の低圧クロマトグラフィー法と類似しているが、HPLC法の固定カラム床材料は、約5,000〜約10,000ポンド/平方インチ(約35〜約69MPa)の圧力に耐えられる範囲でより微粉砕されている。このため、カラムから溶出液が流れる速度は遅くなるが、高い静水圧によってこれが補償されるかそれ以上の速度となる。吸着−脱着による分析物分離現象に依拠するシリカ系固定床を使用して、AHSを賦形剤から分離することができる。しかし、このようなシリカ系分離法は制御が困難であり、アジド含有水性移動相を正確に調製する必要があり、その結果、分析誤差がより大きくなりやすい。さらに、シリカ系床からの粒子が流出するためにLLS検出器の使用が困難となるか、または効率的に使用できなくなる。したがって、水性移動相を使用するトーソー・バイオセップ(ペンシルバニア州モンゴメリービル)製造のGMPWXLブランドなどのポリマーHPLCカラムが、シリカ系カラムよりも好ましい。市販の形態などの鉄−サッカリド錯体のこのようなHPLC分析には、アノトップ(Anotop)25ブランド無機膜(ワットマン(Whatman),英国メードストン(Maidstone))などの予備的な0.02μmろ過が必要である。
【0037】
2.AHS第1の対照標準および共存する賦形剤の特性決定方法。
鉄の分析から分かったことは、前述のフラクション1で示される高Awフラクションに造血剤用の鉄の約90%を超える量が存在することが分かり、一般に少なくとも約75重量%〜約150重量%未満存在し、好ましくは約80重量%〜約99.9重量%存在し、例えば、約90重量%〜約99.9重量%、約95重量%〜約99重量%存在し賦形剤はフラクション2と呼ばれる低Awフラクション中に存在する。フラクション1中の鉄原子は原子吸光分析法(AAS)によって定量することができるが、AAS単独による鉄の定量では、本発明の生成物の造血作用を測定できない。
【0038】
本発明の非デキストラン造血剤の関連する性質は、生理学的に許容されるまたは良性の第二鉄Fe(III)源を好ましくは非経口で送達できることである。この第二鉄組成物は、会合コロイド(association colloid)と類似した性質を有し非経口的に許容される化学種である。会合コロイドは、弱い化学結合による可逆性の化学構造であり、最大数百個の分子またはイオンが凝集して約1〜約2000nmまたはそれを超える大きさのコロイド構造を形成する。糖化合物と相互作用する第二鉄イオンのこのようなコロイドは、レーザー光散乱(LLS)によって同定される光学活性以外に、電界による方向性移動も示す。本発明と関連するLLSの性質はチンダル現象と関連があり、コロイドを通過する入射光ビーム(I0)が元の光路に対して90°の角度で出現する。入射光の波長が分子の大きさに近い場合に、でんぷん、タンパク質、または他のコロイド状化学種などの高分子と光が相互作用する場合にのみ光散乱が起こる。光散乱は、散乱光波長が互いに打ち消し合うように相互作用する弱め合う干渉として起こる場合があるし、2つの波長の光が互いに増強する強めあう干渉によって起こる場合もある。LLSデータを数学的に評価することによって、種々のコロイド状化学種の大きさおよび形状を求めることができる。例えば、大きさは、単分子の分子量、または複数分子またはイオンの凝集体(aggregate)の式量として求めることができる。分子量および式量の表現はいずれの場合も、そのような構造中に存在する全原子の原子量の合計を表している。ほとんどの凝集体またはポリマーなどの分子の構造の多様性は、平均分子量分布(MWD)で通常表される重量のばらつきの分布として存在する。大きさ以外では、コロイドの形状が重要な意味をもつ場合がある。例えば、コロイドの形状が細い棒状、ランダムコイル構造、または球状である場合、それらの他の分子または構造との相互作用はそれぞれ異なりうる。多角度レーザー光散乱(MALLS)または低角度レーザー光散乱(LALLS)などのLLSを、HPLC一体型検出器の1種類以上の分析方法と組み合わせて、鉄−サッカリド錯体の評価に使用することができる。本発明の目的では、LLSについて言及する場合にはMALLSを含むものと理解すべきであり、後者は好ましい種類の検出器である。本発明においてLLS測定を使用することで、通常の、言い換えると適宜制御されて合成された好ましいAHSである鉄−サッカリド錯体の特性決定、または崩壊または分解生成物の証拠を示すための優れた好ましい分析方法が得られる。高分子構造および会合コロイドの特性決定のためのHPLCと、レーザー光散乱および屈折率検出器の併用に基本的な数学的関係および操作についてはすでに報告されている(P.ワイアット(Wyatt),「光散乱高分子の光散乱および絶対特性決定(Light scattering and absolute characterization of macromolecules)」,Analytica Chimica Acta.(1993)272:1-40(許可される範囲内で参照して組み込む)を参照されたい)。本明細書で前述したように、このような方法を、AHSを含む鉄−サッカリド錯体に適用可能である。
【0039】
LLSデータの取得は、サッカリド−鉄錯体中のAHSの同定に特に有用であり、分析基準となる対照標準が必要となる場合に特に有用である。LLSデータは単離した試料に基づいて個々のバッチから得ることができるし、あるいはLLSデータは、液体クロマトグラフィーによる単離の後でAHSを含む連続工程の溶出流のインライン分析を使用して得ることもできる。言い換えると、糖が結合した第二鉄錯体が生成され、LLS単独または本明細書に開示されるような他の方法と併用して分析が行われれば、一連の製造におけるバッチ間の比較を、式量ならびに薬物の形態に関して機械的に行うことができる。LLSで強化されたHPLCの操作ソフトウェアに組み込まれたLLSアルゴリズムを使用することによって、AHSの大きさおよび形状の特性決定を使用して、AHS製造工程、AHS製品品質、およびAHS安定性を監視することができる。具体的には、本明細書に教示されるように、いわゆる正常なAHS(例えば、第1の対照標準物質または好ましいAHS)および異常なAHS(例えば、分解または凝集したAHS)の構造に起因する大きさおよび広がりは、ASTRA(ワイアット・テクノロジー(Wyatt Technology Corp.),カリフォルニア州サンタバーバラ(Santa Barbara))などの操作ソフトウェアにより作成される標準的デバイ(Debye)プロットによって求められる。このような方法の詳細は、P.ワイアット,「光散乱高分子の光散乱および絶対特性決定」,Analytica Chimica Acta,272:1-40(1993)(許可される範囲内で記載内容を援用する)に記載されている。好ましいAHSは略球形であり、大きさが約10nm以下であることが観察されており、一方分解または凝集AHS(好ましいAHSの前にクロマトグラフィー用カラムから溶出する物質など)は大きさが約10nmを超え、例えば約10〜約30nm以上、例えば、約20〜約30nm以上となる傾向にある。大きさおよび形状は、生理学的および代謝的許容度、ならびに造血剤の組織動態に関する有用な因子となりうる。したがって、LLS法の使用は、本発明の造血剤の定期的な特性決定(製造後や保存中を含む)および製造監視に好ましい。
【0040】
AHSのレーザー光散乱によって、絶対式量または絶対分子量に関する特性決定パラメーターが得られる。しかし、AHSは単分子化学種ではなく、会合コロイドとしての挙動を示すため、絶対分子量の使用が特に好ましい。このようなLLSに基づく分子量測定は、いわゆる相対分子量が得られる他の分子量評価法よりも好ましい。AHSの相対分子量測定では、光とAHSの間の物理的相互作用に依存する大きさおよび形状は分子量評価とは無関係である。その代わり、相対分子量測定は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)(ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)と呼ばれる場合もある)の標準物質法により行われる。以降、本明細書ではSECとGPCは交換可能に使用される。GPC分析では、AHSなどの高分子または凝集体の有効サイズは式量ではなく、溶出体積を決定し、較正されたクロマトグラフィーカラムから排出される。したがって、AHSの推測分子量付近の狭い幅におさまる一連の標準物質を基準にした、GPCカラムを通過するAHSの相対的な溶出および通過から、鉄含有錯体の相対式量に関する情報が得られる。この概念より、屈折率(RI)検出器などの濃度感受性検出器を使用して、カラムから溶出するAHSの検出および標準物質の較正が行われる。濃度感受性検出器検出器のRI測定はRI検出器セルを通過するそれぞれの流れの分析物(溶質など)の濃度(c)が増加または減少するときの光の屈折率(n)の変化に依拠している。時間間隔が等しい場合、このような屈折率と濃度の変化の比がdn/dc値として記録される。それぞれのdn/dc値は特定の分析物または溶質に固有のものであり、ある物質に特徴的なdn/dc値は、任意の別の物質に一般に適用可能な経験的な値ではない。公知の較正用標準物質および未知の分析物の溶出時に記録されるこのようなdn/dc値は、正確な時間間隔における取得および記録が可能である。液体クロマトグラフィーカラムの全体の溶出プロファイルにおける各dn/dc測定はスライス(i)と呼ばれる。スライス数、その溶出時間、または溶出体積は、このスライスを基準に使用することができる。1つのスライスの溶出時間を、溶離液がカラムを流れる速度で乗じると、溶出体積が求められる。体積または数に関してスライス数を記録しても、このデータ記録の概念の一般的重要性が損なわれることはない。したがって、GPC測定全体にわたってdn/dc(縦軸)対スライス数(横軸)をプロットすると、全体的に互いに無関係の場合もあるが、装置の監視に好適なdn/dc検出可能な大きさを有する任意の未知物質に関する較正標準物質の溶出プロファイルが得られる。
【0041】
標準的なGPC手順ではすべての大型分子またはコロイド構造に共通の有意な物理的相互作用を認識しないため、SFGCS、FHSC、または他の同様の造血剤中に存在するAHSに関するGPC分子量評価では分析誤差が生じやすい。さらに、RIに基づくGPC法は、構造の分岐などのAHSの形状およびトポロジー特徴の特性決定には使用できない。また、RIに基づくGPC法を使用する相対式量評価は、データにばらつきも生じやすく、少量の分析物誤差に敏感であり、高密度の会合コロイド内の化学種の大きさのばらつきには完全に反応しない。会合コロイド、特にFHSCおよびSFGCSの場合、非サッカリド系凝集鉄原子はAHSを含有する所望の鉄−サッカリド錯体と共存しうるため、これらの特徴は重要である。したがって、RIに基づくGPCは、妥当な正確さおよび精度でAHS分析物の相対式量が求められるが、この方法はAHS構造の他の重要な特性を見逃すことを認識することが重要である。
【0042】
光散乱の物理学の公知の原理に基づくと、高分子やコロイドなどの小さな等方性粒子は光と相互作用し、そのためそれらの絶対分子量および形状を計算することができる。これは、FHSCおよびSFGCSに含まれるAHSの場合に当てはまる。GPC−RIに基づく分析とは異なり、あらかじめ確立された複数の分子量の標準物質に依存する較正曲線とは独立にコロイド状化学種の絶対式量を測定できる(M.J.ボールド(Vold)およびR.D.ボールド(Vold),1964,「コロイド化学(Colloid Chemistry)」,ラインホルド(Reinhold),NY、およびザプサリス,C.およびR.A.ベック,1985,「食品化学と栄養生化学」第8章,ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley & Sons),507〜547ページ、以降ザプサリスおよびベック1985と記載する)(許可される範囲でこれらそれぞれを本明細書に組み込まれる)。粒子が角度θに散乱する光の強度(Iθ)は、入射光ビーム強度(I0)、光散乱体積を通過する光路距離(γs)、および粒子の分極率(α)に依存することが証明されている。非偏光の場合、その式は、
Rθ(1+cos2θ)=Iθγs2/I0=8π4/(1+cos2θ) 式1
となる。Rθ(1+cos2θ)の項はレイリー(Rayleigh)比に基づく。この光散乱測定を、入射光(I0)の波長よりも小さい粒子の非常に希薄な溶液に拡張すると、次式
Rθ=2π2η02[(η−η0)/C]2/Lλ4・CM=K*CM 式2
が得られ、式中、Rθはレイリー比(R)になり、ηは粒子状化学種を含有する溶液の屈折率であり、η0は粒子状化学種を含有しない溶媒の屈折率であり、Cは溶質の濃度(単位体積当たりの質量)であり、Mは分子または粒子状化学種のそれぞれの分子量または式量であり、Lはアボガドロ数であり、λは光の波長であり、K*=2π2η02[(η−η0)/C]2/Lλ4は光学定数である。この表現は、入射光の波長(λ)が一部の粒子状化学種と同等かこれよりも大きい場合に、粒子によって散乱する入射光(I0)のレイリー比(R)またはその一部が求められることを示している。したがって、Rは、光散乱現象の物理学によってSFGCS、FHSC、およびその他の鉄−サッカリド錯体中のAHSなどの分析物の式量と関係があり、関連のない物質に基づくGPC較正曲線との相対的比較は行わない。入射光(I0)が粒子と相互作用する場合、レイリー比(R)の検出における装置検出器の形状とは無関係に、
R=K*CM 式3
の関係が成立する。GPC−RIシステムでdn/dc値が求められる場合の前述の溶出流中の溶出物測定の概念と同じで、レイリー比(R)測定は各スライス(言い換えると「i」)で求められ、Riおよびレイリー比は各スライド濃度(Ci)、分子量(Mi)、および光学定数(K*)の単純な積であり、すなわち
Ri=K*CiMi 式4
で表される。
【0043】
ある前方の角度θで散乱される光と、その補角180−θの間の非対称比(Iθ/I180−θ)に基づいて、光散乱による鉄−サッカリド錯体中のAHSの構造一貫性の特性決定も可能である。すべての可能な光散乱角の中では、約45°と135°が有益な基準点となる。Iθ/I180−θ(縦軸)対L/λ(横軸)をプロットすると、球、ロッド、およびランダムコイルの構造的非対称は、ザプサリスおよびベック,1985の535ページを参照することによって容易に求められる。
【0044】
前述のフラクション1のようにAHSが実質的に単離される場合、(a)大量の製造量、または(b)液体クロマトグラフィーの溶出流に一般に見られる少量の分析量で回収することができる。いずれの場合も、LLS法は、この種類の医薬のあらゆる鉄−サッカリド錯体の定期的な対照標準の確立のための好ましい分析方法となる。
【0045】
本開示の教示を使用して精製AHSまたは鉄−サッカリド錯体を製造できることによって、コロイドおよび分子特性の決定などの包括的な分析および特性決定が可能となる。AHS、ならびに特にSFGCSおよびFHSCに適用可能な好適な分析および特性決定方法としては、紫外(UV)分光光度法、可視(VIS)分光光度法、およびUV−VIS複合分光光度法(例えば光ダイオードアレイ(PDA)法)、赤外(IR)分光法、電子スピン共鳴(ESR)、パルスポーラログラフィー(pulse polarography)、エネルギー分散型X線分析(EDS)、円偏光二色性(CD:circular dichroism)、および旋光分散(ORD:optical rotatory dispersion)、蛍光分光法、旋光分析(polarimetry)、熱分解、および熱分解質量スペクトル分析、核磁気共鳴分光法、示差走査熱分析(DSC:differential scanning calorimetry)、質量分析法と一体となった液体クロマトグラフィー(LC−GC)、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析(MALDI−MS:matrix assisted laser desorption/ionization-mass spectrometry)法、放射性の鉄などの放射性同位体、造血性物質に対する抗体を利用する分析、キャピラリー電気泳動、および誘導結合プラズマ分光法(inductively-coupled plasma spectrometry)、原子吸光分析、電気化学分析、ならびに特定のpHにおける保存および安定性の分析、およびサッカリド生成物を有するAHSの目標グルコシド分解の分析が挙げられる。MALDI−MSでは、高分子分析物のイオン化にレーザー光が使用され、減圧装置中でそのイオンが試料マトリックスから脱離する。この方法は、質量分析を併用することで広範囲の高分子の質量の測定に使用される。
【0046】
さらに、AHSを少なくとも2つのフラクションのフラクション1(高Awフラクション)およびフラクション2(低Awフラクション)に分離できることで、フラクション2に濃縮された賦形剤の独立した分析が可能である。賦形剤を識別できる特徴を使用して、AHSの特性決定、製品同定、ならびに品質制御および保証の監視を実施することができる。代表的または予想される賦形剤の出現および確認によって、製造の規格化および監視が容易になる。これによって、造血剤が投与される場合に臨床設定で好都合な患者を採用しやすくなる。賦形剤は通常の市販の非経口組成物の全固形分の75%を超える場合があるため、賦形剤の確認および分析が重要となりうる。さらに、熱処理した糖類は、加工履歴を反映する特定可能な化学指標を形成することが知られているため、これらおよび余剰の反応物質、ならびに造血剤製造中に生成される副生成物(本発明の目的では、これらの物質のすべては一般に用語「賦形剤」に含まれる)を造血剤および造血剤製造に使用される方法の両方の監視および特性決定に使用することができる。
【0047】
第二鉄イオンが造血性鉄−サッカリド錯体と相互作用するかこの錯体中に存在する場合、少なくとも3つの表現が可能である。第1に、好ましい主要物質(すなわちAHS)は会合コロイドとしての挙動を示し、これは望ましい鉄−サッカリド送達賦形薬である。第2に、高式量凝集体がAHSから生成することがあり、これらも検出可能である。第3に、鉄は、合成反応段階の余剰のサッカリド反応物および/または副生成物との錯体として存在しうる。この形態の鉄は、フラクション2中の親水性賦形剤とともに検出可能である。非経口組成物が、フラクション(2)の(a)鉄含有率、(b)残留サッカリド量、および(c)熱依存性の合成反応副生成物の形跡とともに監視されることが特に好ましい。このような分析物の監視のための特に好ましい方法としては、屈折率(RI)と、レーザー光散乱(LLS)、電気化学的検出(ECD)、光ダイオードアレイ(PDA)系UV−VIS分光光度法、赤外(IR)分光法、および質量分析付き液体クロマトグラフィー(LC−MS)の少なくとも1種類を使用するインライン溶出流検出とを有する液体クロマトグラフィー分析の使用、および必要に応じて任意に前述の1種類以上の分析および特性決定方法が挙げられる。RIは賦形剤サッカライドの定量が可能な濃度に敏感な検出器であるが、ECD検出器は特徴的な電気化学的酸化還元電位を有する金属および非金属含有化合物に応答し、UV−VISに基づくPDA分析によって式量の小さな鉄錯化化学種以外に熱により生成するサッカリド誘導体の検出が可能となる。
【0048】
本発明の方法は、AHSおよび共存する賦形剤の特性決定方法をさらに含む。AHSを含むフラクション1のあらかじめ調製した試料について、前述のポリマーカラムと、HPLC溶出物のインラインのRIおよびLLS二重検出器を使用してHPLCを行うと、図1に示す結果が得られる。この図は、賦形剤は存在しないフラクション1中に存在するAHSの分離精製したクロマトグラフィーのチャートを示している。このようなHPLC溶出図は、密封ガラスアンプルで販売される製品などの製造されたAHS含有造血剤の好ましい結果である。図2は、フラクション1が得られた同じ試料から得られたフラクション2中に存在する4種類の賦形剤のクロマトグラフィーのチャートを示している。この試験では、フラクション1からの少量のAHSを意図的にフラクション2に混入して、AHSに対する賦形剤の相対的位置を観察できるようにした。図2および3で注目すべきことは、賦形剤はRI検出器によってより明確に観察されることであり、この理由は、RIは濃度に敏感であるが、LLS検出器は質量に反応しAHS賦形剤の炭水化物よりもAHSに強く応答するためである。これらの効果は、賦形剤の溶出の進行を相対的に測定するために極微量の純AHSを内部標準として加えた図2において明確に示されている。この場合のRIは純AHSの出現を全く検出していないが、LLS信号は分析化学種としてその存在を記録している。さらに図3は、ポリマーカラムを使用したLLSおよびRIに基づくHPLC法を、AHSを賦形剤から分析的に分離するために使用できることを示している。すなわち、AHS成分は高Awの流体力学的体積に分離され、同時に、最初はAHSと混合されていた共存する賦形剤は、AHSより後に溶出する流体力学的カラム体積に実質的に分離される。図3は多成分初期組成物(AHSおよび賦形剤)の結果を表しているが、これらの結果は、独立して先に単離した第1の対照標準の図1と整合性がある。このことから、本発明の方法を、AHSと賦形剤を含む工業的に製造されたものなどの造血性組成物の監視に使用可能であることが確認できる。
【0049】
AHSの不安定性およびエージングなどの条件、ならびに製造のばらつきは、1つの検出器モードとして少なくともLLSを搭載したHPLC分析を使用して鉄−サッカリド錯体により監視することができる。さらに、濃度感受性検出器(RIなど)と併用されるLLS搭載HPLCを使用して、AHSの基準クロマトグラフィーピーク図の構造のばらつきを監視することができる。このようなばらつきは、図4のクロマトグラフに見ることができ、図1の第1の対照標準、または図3の分離した混合物により得られる図と比較すると特に明確となる。同様に、図5は、別の製造元の造血剤製品の異なるAHSピークの存在を示している。異なる検出器を使用すれば異なる情報を得ることができ、例えば、LLS−クロマトグラフィー検出器と濃度感受性RI検出器では異なる情報を得ることができる。濃度感受性RI検出器は分析物の濃度を感知し記録するがLLS検出器で独立に記録される質量は感知しない。したがって、LLS系検出器は、AHSの錯形成または架橋などによって生成する化学種の質量増加を感知することができ、これらはAHS第1の対照標準よりさきに流出する。図1に示されるAHSは希望通りの造血剤であるが、図4および5に示される化学種は、AHSより生じると考えられるより式量の大きな副生成物である。この新しいピークは、好ましいAHSの定量的な犠牲(quantitative expense)によって生じる。
【0050】
本発明の方法は、AHSを含む造血剤の保存性を監視するために使用することができる。ほとんどの有機分子と同様に、AHSは構造的に不安定になりやすく、そのため、供給用の密封された造血剤用ガラスアンプ中でさえも分解または変質が起こって新しい化学種が生じうる。AHSのこのような構造変化は時間依存性であり、温度によっても促進されることがある。経時によるAHSの構造変化の形跡は、製造後6か月間、12か月間、22か月間、および25か月間、暗所で室温において供給用密封ガラスアンプル中に保存した鉄−サッカリド錯体のLLSおよびRI搭載HPLCの一連のプロファイルに見られる。これらの製品の関連するクロマトグラフィープロファイルは、それぞれ図6、7、8、および9に対応している。構造変化の形跡は、これらの図の非対称なAHSピークを、図1のAHSにより示される好ましく対称的な第1の対照標準と比較すれば明らかである。AHSの分解による新しい物質は、LLSで検出され、第1の対照標準またはAHSよりも前にカラムから溶出し、これらも図に見ることができる。この新しい物質は非常に高密度で、式量の大きな構造を特徴としており、概念的には「BBショット」と同様である。これらの性質は、LLS装置に搭載された前出(ワイアット・テクノロジー,カリフォルニア州サンタバーバラ)のASTRAブランドソフトウェアを使用して光散乱データを処理することにより得られるデバイプロットに基づいて決定され、これらの方法および計算は前出の参考文献のAnalytica Chimica Acta(1993)に記載されている。デバイプロットによって、特定のLLSデータが取得でき、これを平方自乗平均(rms)または回転半径(Rg)測定と組み合わせることによって、分子化学種またはコロイドの大きさを測定することができる。図6〜9では、粒径を示すrms値から20nm以上の平均値が得られる。図1のAHSのクロマトグラフィーチャートの対応するrms値は10nm以下であり、LLSの事実上の測定限界未満である。したがって、本発明の方法は、AHSを含む造血性組成物の品質および保存性の監視に使用することができる。
【0051】
工業的に製造される造血剤は、製造工程中、製造終了時(例えば包装時)、および製造後(製品が保存される場合)に、AHSおよび賦形剤を監視することができる。同様に、賦形剤を分離した後のAHSを含む鉄−サッカリド錯体組成物(水性組成物の形態の組成物や乾燥(例えば凍結乾燥)後の組成物など)についても同様に監視することができる。AHSを含む鉄−サッカリド錯体は、製造中にのみ監視できるのではなく、製造後に短期間(例えば製造後1週間)保管後、ならびに製造から約6か月〜約5年以上の中期間の保管後にも監視可能であり、長期間の保存は約1年〜約5年、または約1年〜約3年となりうる。それぞれの場合で、AHSは、前述の種々の分析的性質などの性質を比較することよって監視することができ、例えば、LLSおよびRIを併用したHPLCを使用して得られるクロマトグラフィーのチャートを第1の対照標準と比較することができる。
【0052】
前述したように、もともと存在するAHSの分解または変性により得られるより小さなLLSの検出可能なピークは、式量の非常に大きな物質であり、図6〜9ではAHS凝集体ピーク(AHSAP:AHS aggregate peak)として示されている。この特徴的AHSAPに対応する物質の式量は、光散乱測定によると約350,000〜約3,000,000ダルトンまたはそれを超えるが、超遠心法およびその他の方法を使用してこの化合部の高い式量を求めることもできる。AHS合成または製造工程の結果通常生成する賦形剤とは無関係であると考えられる。AHSAPはエージング現象と関係していると思われるが、好ましい製造条件から有意に逸脱した場合にも生成しうる。本発明の方法は、非経口造血剤製品中のAHSAPの定量的許容量の特定に使用することができる。鉄−サッカリド錯体の製造後の任意の時間におけるAHSAP(AHSAPTAM)の発生および検出を、規定の条件に曝露しながら造血剤を所定の期間保存した後に検出されるAHSAPの全定量的HPLC信号(AHSAPTOTAL)と比較することができる。例えば、保管期間は任意の好都合な期間におよぶことができ、例えば、約6か月〜約10年以上、あるいは約1〜約8年、または約1〜約5.0年にすることができる。例えば5年の期間が試用される場合、5年におけるAHSAP5yrTORALは、販売後の造血剤で測定される性質の最大限許容される分解または変性を特定するための基準となる。言い換えると、5年が経過するとAHSが分解して、医薬的に効果のない鉄凝集体と、非経口用に最初販売された鉄−サッカリド錯体の意図する実施形態とは明らかに異なる組成物の残留物になる場合がある。したがって、AHSAP5yrTORALまでの任意の時間で定量されるAHSAPTAMを出現割合[AHSAPTAM]/[AHSAP5yrTORAL]で表現すると、造血剤品質の評価のための時間依存性安定性比または指標が得られ、造血剤製品中に残留する無傷のAHSの実際の組成物中の比率を求めることができる。市場に出された後の鉄−サッカリド錯体のエージングおよび分解に定量的に対処するためのこのような標準化された方法は現在存在しない。出現割合は5年経過の時間間隔の使用に限定されるのではなく、前述したように任意の好都合に選択された経過時間間隔に適用されることを理解されたい。規定の条件における鉄−サッカリド錯体のエージングおよび安定性の評価にも有用であり、例えば、製造時または市場で発売後に50%の鉄−サッカリド錯体が元の形態で残留する条件で、鉄−サッカリド錯体以外の鉄(例えば、遊離または未結合の鉄または鉄凝集体)と比較すると、鉄−サッカリド錯体の半減期を求めることができる。[AHSAPTAM]/[AHSAPTORAL]比が約0.5の値に近づくと、この0.5比の値は薬物動態学的な指標として使用することができ、製造された製品が最初の販売時の少なくとも50%の鉄−サッカリド錯体がそのまま残留していることを保証する安全基準となる。造血剤の保存寿命定量的評価の基準は本明細書の場合にはAHS中の鉄錯体の50%残存値であるが、50%を超える実際的な品質基準がより望ましく、実際的には約0.5〜約0.98であり、好ましくは約0.75〜約0.95であり、より好ましくは約0.80〜約0.99であり、例えば約0.5以下〜約1.0の値の任意の1つの値(これと対応して、鉄−サッカリド錯体、AHS以外の鉄の場合、値は0.02〜約0.5未満、約0.05〜約0.25、および約0.01〜約0.20であり、例えば約0以上〜約0.5以下の任意の1つの値)を規格設定機関、または製造元が設定することができる。このように設定された[AHSAPTAM]/[AHSAPTORAL]比は、このような造血剤の臨床効果、性能、および安全性の指標、保証、または規格価の目的に特に有用である。本発明以前には、薬物に一般的に適用される基準を使用した鉄−サッカリド錯体のための、品質の変動に対応させた基準は存在しなかった。本明細書に記載されるように、HPLCクロマトグラフィー法(好ましくはLLSおよびRI系検出器を有する)を使用することによって、このような指標を提供することができる。さらに、これらの鉄−錯体中に存在するAHSを単離できるために、この方法の実際的用途が補強される。
【0053】
AHS(鉄−サッカリド錯体の場合には第1の対照標準と呼ばれる)は、合成または製造後短期間で分解し始める可能性があるため、第2の対照標準を確立すると有用である場合もある。実際的には、第2の対照標準は、有効造血性化学種から誘導される鉄凝集体の、経時に設定条件で有効造血性化学種によって生成しうる鉄凝集体の全量に対する出現割合に基づく。検出可能な鉄凝集体量は第1の対照標準が消費されると生成するので、鉄凝集体の測定は、有効造血性化学種の完全性および安定性のこのような基準の確立に合わせられる。[AHSAPTAM]/[AHSAPTORAL]比を、鉄−サッカリド錯体製造または販売後の時間に対してプロットすることによって、製品保存性の指標が得られる。HPLC信号の[AHSAPTAM]/[AHSAPTORAL]の商に基づいた適当な比または性能と関連する比(例えば、0.5)に到達するのに必要な時間が特に有用となりうるが、有効造血性化学種の製品品質を保証する基準として任意の比を選択することができる。臨床効果を監視するための最小許容基準とするためにどんな比を選択しても、歴史的な使用に基づいた有用性および安全性のため、第2の対照標準として組成上の標準が設定される。このような第1の対照標準または第2の対照標準は、研究室間および研究室内の監視または性能の監視に使用される実際的な分析標準として調製することができ、製品品質の指標および製品規格化の道具として調製することができる。
【0054】
分離されたAHS含有組成物である、第1の対照標準を含むフラクション1は長期間の保存のために乾燥させることができ、非経口用途およびさらなる研究のために再構成することができる。
【0055】
乾燥および/または再構成したAHSは、より決定的な化学的基準の確立のためなどのさらなる分析特性決定の目的、ならびにAHS試料をさらに参照する目的で保存することができる。鉄−サッカリド錯体は合成後に不安定化および分解が起こりやすいため(特にこのような錯体が希釈剤または液体、特に水性担体中に残留する場合)、分離し凍結乾燥したAHSの保存は重要である。対照的に、乾燥したAHSは長期間の保存が可能であり、好ましくは密封容器などの水分を含まない環境に保存することができる。さらに、乾燥した安定な錯体を適宜輸送して、使用時に必要であれば再構成することができ、そのため使用直前まで安定性が延長される。例えば、乾燥したAHSは金属箔パウチまたはガラス容器などの防湿容器に封入され、周囲温度(約20℃〜約25℃)以下で長期間保存することができる。例えば、乾燥した錯体は、製造後に短期間(例えば製造後1週間)保存することができるし、ならびに製造から約6か月〜約5年以上の中期間の保存も可能であり、約1年〜約5年、または約1年〜約3年の長期間の保存も可能である。このような製造後の保存中、AHSは、前述の種々の分析的性質などの性質を比較することよって安定性を監視することができ、例えば、LLSおよびRIを併用したHPLCを使用して得られるクロマトグラフィーのチャートを第1の対照標準と比較することができる。
【0056】
製造時または任意の特定の時間後に単離したAHS(フラクション1)は、保存および輸送を容易にするため、ならびにさらなる研究のために、凍結乾燥して、再構成することができる。凍結乾燥には必要であるが、前述したように、鉄送達賦形薬または鉄−サッカリド錯体として存在するAHSは、共存する親水性賦形剤またはその他の賦形剤と分離することが好ましい。このような賦形剤としては、過剰の合成反応物、反応副生成物、廃棄
グルカン(waste glucans)、ポリグルカン、糖ラクトン、分解複製生物、およびその他の物質が挙げられる。好ましい実施形態ではフラクション1の第1の対照標準化学種のようにAHSが分離される。AHSを共存する親水性物質から分離することによって、AHSが存在するフラクションまたは組成物のAw値が増加し、言い換えるとAHS含有フラクションのAw値は1.0に近づく。
【0057】
凍結乾燥法は食品加工産業では公知であり、医薬品の乾燥にも使用されている。この方法は水を含有する組成物の乾燥のために通常使用されるが、別の希釈剤または溶媒単独、または水などとの混合物に分散または溶解し、凍結乾燥しやすい物質または溶質の乾燥も可能である。一般に、組成物は0℃よりはるかに低温で凍結され、低い絶対圧力(absolute pressure)、つまり高真空にかけられる。氷を昇華させるために注意深く加熱される。この方法は、熱感受性材料を熱による損傷から保護し、迅速かつ完全に再水和できるようにするため乾燥中の多孔質材料の収縮を防止するために使用されている。本発明は、非経口鉄送達賦形薬として使用するために製造された有効造血性化学種の分離および凍結乾燥または凍結乾燥濃縮のための方法を提供する。
【0058】
凍結乾燥中、凍結組成物中の氷(生成氷と呼ばれる)と、システム圧力および温度条件との間に、アンバランスな変化状態が存在する。生成氷界面からの水蒸気の移動は、このアンバランス状態が存在するときのみに起こり、生成氷は系の残りよりも高いエネルギーレベルにある。凍結乾燥装置は、所与の生成物に対して好ましい温度および差圧を作用させ維持する一連の制御条件を提供するように設計されており、そのため最小の時間で生成物を乾燥させることができる。
【0059】
アンバランスの境界は、固体から液体への変化(メルトバックと呼ぶ)が起こらずに生成物に加えることができる最大の熱によって決定される。これは、最低圧力の領域に最も近い面(この面は氷界面と呼ばれる)から生成物の乾燥が起こるため、チャンバー圧力が低くても発生しうる。この界面より上に乾燥させる固体組成物または粒子を配置すると下からの蒸気の放出が起こりにくくなるため、生成物の温度と圧力が上昇する。メルトバックを防止するために、生成物に加えられる熱エネルギーの速度が、水蒸気が生成物を離れる速度に接近し、好ましくは超えないようにする。この方法に影響を与えるもう1つの要因は、生成氷に加えられる(そして移動する蒸気によって運ばれる)熱エネルギーが、コンデンサー冷凍システムによって除去されることである。コンデンサーを低温に維持することによって、水蒸気は氷粒子として捕捉され、系から効率的に除去することができ、それによって減圧ポンプの要求が軽減され簡略化される。チャンバー内の空気およびその他の非凝縮性分子、ならびに生成氷とコンデンサーの間の機械的配置の制限のために、コンデンサーに向かって移動する蒸気に対してさらに抵抗性が必要である。
【0060】
凍結乾燥には実質的に4つの条件が一般に考慮される。これらの工程条件は、(1)生成物は共融点(eutectic point)またはガラス転移温度(glass transition temperature)より低温で固化し凍結すること、(2)氷界面温度(ice interface temperature)よりも約20℃低温、通常は約−40℃未満に到達できる凝縮面(condensing surface)、(3)減圧システムは約5〜約65μmHg(約0.5〜約10Pa、好ましくは約1〜約8Pa)の絶対圧力に減圧可能であること、および(4)生成物の加熱源が約−60℃〜約+65℃、好ましくは約−40℃〜約+65℃、より好ましくは約−30℃〜約+55℃、最も好ましくは約−25℃〜約+25℃で制御され、通常は約+20℃が、水を固体状態から蒸気状態にするために必要な熱(すなわち昇華熱)を与えるために使用されることである。これら4つの条件を満たすように設計された装置の物理的機構は、多種多様であり、個別のフラスコ凍結乾燥装置、およびバッチ工程凍結乾燥装置が挙げられる。凍結乾燥工程は、化学および製薬産業などのように、工程の厳密な制御が必要な場合にはバッチ式でチャンバー内で通常は実施される。これによって、昇華中の生成物の状態をより正確に制御できる。好適な装置は、例えば、米国特許第6,122,836号(ニューヨークのバーティス・ディビジョン・オブ・S・P・インダストリーズ(Virtis Division of S.P.Industries,Inc.)に譲渡された)(この記載内容を本明細書に組み込まれる)ならびにザプサリスおよびベック「食品化学と栄養生化学」,1985,第1章23〜26ページ(許可される範囲内でこれらすべての記載内容を本明細書に組み込まれる)に記載されている。その他の好適な市販の装置および工程条件は、ファンモストランド科学百科事典(van Mostrand's Scientific Encyclopedia)第8版の「凍結乾燥(Freeze Drying)」の項1338〜1342ページ,1995(許可される範囲内でこれの記載内容を本明細書に組み込まれる)に詳細に記載されている。
【0061】
凍結乾燥法の有効性は、水の三重点曲線によって説明することができ、この場合、氷の形態である固体の水は、0℃未満の温度、および4.58Torr(610.5Pa)未満の圧力で直接気相に変化する。効率的な凍結乾燥は、約10μm〜約200μmHg、好ましくは約40〜100μmHg、より好ましくは約40〜約80μmHgの圧力(減圧)で実施され、通常は約60μmHgの圧力が使用される。(a)水和した物理的マトリックス内の氷、または(b)単純な水溶液から生成した氷として存在する水分子が除去されることによって、理想的には、水が存在しない乾燥残留物理的マトリックス、またはある所望の水非含有溶質の残留物が得られる。しかし、サッカリド賦形剤のように、親水性溶質、コロイド、懸濁液、または分散液が氷の系内に存在する場合、氷が凍結乾燥にかけられると、氷構造内にこれらが濃縮し、溶媒または希釈剤の水の体積が減少する。凍結乾燥が進行するとこのような物質はさらに濃縮されるので、これによって凍結した水性系の凝固点はますます低下する。この条件が進行すると、溶質と水の相互作用による束一性が共融点(eutectic point)よりも高温で現れることがあり、これはメルトバック現象の原因となりうる。本発明の好ましい凍結乾燥法とは逆であり、本発明の場合では、AHSと会合する実質的にすべての水が昇華によって除去されるまでは所望の溶質のAHSを有する氷が凍結状態で維持され、除去が困難な水を含みうる親水性溶質化学種によって実質的に変化することはない。
【0062】
AHSの好ましい凍結乾燥は、有意な部分が試料中にもともと存在する実質的にすべての鉄−サッカリド錯体を含む高Awのフラクション(フラクション1)で実施され、プレート上で急速なシェル型凍結が促進され、凍結フラクションの表面の体積に対する比が大きくなるような容器壁面または他の一部の三次元の足場を有する。シェル型凍結が効率的に起こるほど、凍結乾燥生成物の品質が向上する。凍結は、通常約−160℃〜約−10℃の温度、好ましくは約−80℃〜約−20℃の温度、例えば約−60℃で実施される。凍結組成物中にAHSが存在し、水が1.0に近づくAw値を示し、圧力が約4.58Torr(610.5Pa)未満であると、水蒸気圧が増加し、記載の温度条件で水蒸気圧が増加して効率的に昇華が起こりうる。残留する氷の表面上の蒸気圧未満に凍結AHS周囲の圧力を維持することによって水が除去され、減圧ポンプによって水蒸気が除去され、約−120℃〜約−25℃、好ましくは約−80℃〜約−50℃、通常−60℃の温度に維持された冷却面上で凝縮する。特に、先に分離されたAHSが高Awであるために、凍結した生成物の昇華先端の移動速度が増加する。賦形剤(特に親水性賦形剤)がAHSまたは鉄−サッカリド錯体から除去されない場合、凍結工程中にAHSのメルトバックが起こる。言い換えると、親水性物質が存在すると、このような親水性物質が存在するAHS組成物に十分水が結合するか保持される。このように結合した水を除去するために蒸気圧を増加させようとより高温を使用すると、氷相の溶融の原因となる望ましい影響が生じることがあり、そのため凍結乾燥が不十分になる。そのため、凍結乾燥前にすべてまたは実質的にすべての親水性賦形剤がAHSから除去または分離されることが好ましく、好ましくは最初に存在する親水性賦形剤の約95%を超える量が除去され、より好ましくは約98%を超える量、さらにより好ましくは約99%を超える量、最も好ましくは約99.9%を超える量が除去され、賦形剤が微量しか存在しなくなる程度まで、凍結乾燥前にAHSは親水性賦形剤から分離される。
【0063】
本発明の目的では、乾燥したAHS残分は、医薬的に有用な鉄−サッカリド錯体を含む。したがって、分離し乾燥したAHSはさらなる分析研究に好適であり、他の分析的および医薬的研究への使用に適合させるために任意に再構成される。通常、本発明の方法は、これによって賦形剤は実質的に除去されたAHSの乾燥に好適であり、これによって、約85%〜少なくとも約99%、好ましくは約90%〜少なくとも約97%、最も好ましくは約92%〜少なくとも約95%の水が除去される分離したAHS中にもともと存在する少量の水は、AHSと会合または強く結合する場合があり、このように結合した水を除去しようとするとAHSが不必要に劣化する原因となりうる。凍結乾燥された後に再構成したAHS試料をLLSおよびRI搭載HPLC分析した結果を図10に示す。このクロマトグラフィーのチャートは、第1の対照標準となる図1と実質的に同じであることが分かる。さらに、図1および10の分析物は、賦形剤が残留する図3のAHSと実質的に同一であった。
【0064】
図1または図10などの第1の対照標準とは異なるHPLCプロファイルを有する造血性物質は、異常な形状を有し凍結乾燥生成物のAHSAPの形跡も示す物質である。HPLC分析の過程でAHSの一部としてAHSAPの存在が確認される場合、凍結乾燥AHSを倍率100倍以上で顕微鏡観察すると、コールテン型構造を見ることができる。薄い炭水化物の板の透明な帯を有し、均一に間隔が開いた第二鉄の赤褐色の平行な帯またはうねが見られる。第二鉄の赤褐色の平行な帯は互いに平行な円柱状であり、間隔をおいて繰り返している長い平面状の透明炭水化物の板によって示される厚さの少なくとも2倍の直径を有する。このように観察される微視的形状は、構造的および分析に重要であり、クロマトグラフィーのプロファイルが図4〜9に示されるようになるHPLC光散乱データに対応する。鉄−サッカリド錯体の第1の対照標準に相当する新しく調製した望ましいAHSが存在する場合、凍結乾燥生成物の形態は、円柱構造が存在しないという点で異なる特徴を有する。
【0065】
分析または使用のために再構成する前に、凍結乾燥生成物の保存は、減圧下、または窒素、アルゴン、およびヘリウム(ならびに凍結乾燥生成物と非反応性であるあらゆる気体)などの不活性ガスの存在下で維持することができる。また、凍結乾燥法単独で鉄−サッカリド錯体の構造を破壊することがないので、凍結乾燥が実施される所与の時間に造血性化学種が存在するように種々の時間間隔でこれらの造血剤を維持するためにこの方法は有用である。これによって、保存、および製品製造および品質の維持方法が得られる。別の場合では、これらの造血性組成物の第1および/または第2の対照標準の安定化および保存のために特に凍結乾燥を使用することができる。さらに、適時調製され維持された凍結乾燥AHSは、生成物の有意な劣化の危険性が少なく必要となるまで安全に保存が可能である。さらに、このような形態の生成物は適宜地理的に離れた位置に輸送することができ、必要となるまで適宜保存することができ、使用時の非経口用造血剤の再構成は容易に実施できる。例えば、本発明により調製した凍結乾燥生成物は、密封ガラス中、または適宜保護された金属容器中に保存することができ、好都合には実質的に水分を含まない不活性が上部に充填される。あるいは、このような生成物は、1回の非経口投与量などの再構成に好適な量の金属箔パウチ中に封入することができる。鉄−サッカリド錯体は、鉄を必要とするヒトまたは哺乳動物に送達するための非経口造血性錯体を製造するために調製される。鉄が非経口的に穏やかに投与され、哺乳動物、特にヒトの種々の臨床症状の管理が必要な造血機構を増強することができる様な形態で、一般にこれらの鉄錯体が生成する。
【0066】
用語「約」は、修飾語句として使用されるか、または変数と組み合わせて使用される場合、本明細書に開示される数および範囲に自由度があることを意味し、さらに、当業者によって本発明を実施する場合、範囲外または1つの値とは異なる温度、濃度、量、含有率、炭素数、分子量、粘度、溶解性などの性質を使用して本発明を実施すると、凍結乾燥に好適な造血性鉄−サッカリド錯体の調製、本発明の方法により生成される高純度造血性鉄−サッカリド錯体、およびその使用に関して所望の結果が得られることを意味する。さらに、ある値の範囲で表現されている場合、他に明記しない限りは、最も広い範囲に含まれる他の範囲の使用も包含しているものと理解されたい。
【実施例】
【0067】
[実施例]
本発明の目的では、未乾燥(すなわち乾燥前の)物質または組成物の含水率は、未乾燥物質または組成物の全重量のパーセント値で示す。乾燥物質または組成物の含水率は、全水分を除いた乾燥物質のみの全重量のパーセント値で示す。
【0068】
以下は、試験結果が図1、2、および10に見られる試料の調製に使用した低圧ゲル浸透クロマトグラフィーの手順を示しており、精製され実質的に賦形剤を含有しないAHSの調製を含む。AHS分離のための特殊用途の低圧ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)には、分子量排除得意性が約5,000を超え、好ましくは約1,500ダルトンを超える架橋ポリグルカンまたはデキストランを使用する。固定GPC相は「セファデックスG−10」(アマシャム−ファルマシア・バイオテック,ニュージャージー州ピスカタウェイである。溶媒貯蔵槽は、HPLCグレードの水の移動相を重力または計量供給によって、固定デキストラン相を含むGPCカラムに供給する。カラムは直径2.0cmおよび長さ25cmのガラス製である。固定相は、デキストランの水和および使用前の減圧脱気を含む製造元の推奨にしたがって準備する。密封ガラスアンプルに入れて製造元から販売されるものなどの400μLの試料体積の造血剤溶液(鉄−サッカリド錯体を含む)をGPCカラム上部に供給し、固定相に浸透させる。濃い色の造血剤溶液が固定相に浸透してから、HPLCグレード水を手または1〜4mL/分でポンプによって供給し、カラム全体で色の帯として遊離が確認できるようにする。特徴的な色のAHSが430nmの最小分光光度吸収によって測定されるカラムから溶離すると、これはフラクション1の溶出の終了を示している。フラクション1の分離点と、これに続くフラクション(本明細書ではフラクション2と呼ぶ)の開始をより高精度で分析するために、アントロン反応が使用される(前述のドレイウッド,1946)。分配過程の全溶出流中のフルフラルを生成する炭水化物の最低濃度は、AHSと含水賦形剤の間で起こるため、2つのフラクションの間の溶出の境界を求めることができる。実際は、100μLの溶出流試料を採取し、アントロン試薬と反応させ。得られる620nmにおける吸光度を測定する。赤褐色のフラクション1は、販売時にはAHSと共存していた親水性および高含水性賦形剤を実質的に含まないAHSを含有する。カラムから溶出する残りの体積はフラクション2と見なす。
【0069】
例えば、蒸気フラクション1から得られたAHS、または臨床用途で供給されている造血性組成物のガラスアンプルから直接採取した試料のAHS、またはフラクション1の濃縮体積から調製した試料(凍結乾燥から再構成した組成物を含む)は、HPLCによる屈折率(RI)およびレーザー光散乱(LLS)分析を使用してさらに分析することができる。特に、この方法は、ウォーターズ(Waters)590ポンプ(ウォーターズ・コーポレーション(Waters Corporation),マサチューセッツ州ミルフォード(Milford))を使用して水性移動相を直径7.8mm×長さ30cmのGMPWXLカラム(トーソー・バイオセップ,ペンシルバニア州モンゴメリービル)に供給する。内部カラム支持材料はポリメタクリル酸メチル主鎖のないポリマービーズで構成され、粒径は13μmであり、約100Å未満〜約2000Åの範囲の種々の孔径を有する。カラム溶出流はワイアット・ミニドーン(Wyatt miniDawn)高角光散乱検出器を、Optilab DSP干渉屈折計(どちらもワイアット・テクノロジー,カリフォルニア州サンタバーバラ)と組み合わせて監視する。カラムヒーターおよび屈折計作動温度は35℃に維持した。水性移動相は、200ppmのアジ化ナトリウムを含み、pHは6.0に調整し、0.02μmの減圧ろ過を実施し、沸騰ヘリウムを使用前にパージした。1.0mL/分の流速および150ポンド/平方インチの圧力で移動水相を系に供給した。試験試料の調製には、メンブレンフィルター(例えば、「アノトップ」フィルター、ワットマン,英国メードストン)による0.02μmろ過が必要である。造血性組成物、鉄−サッカリド錯体、またはそれらのエージング成分の場合、詰まらせずにより大きな粒子を除去するために最大0.45μmのメンブレンフィルターが必要となることがある。HPLC装置に注入する前の分析試料から粒子がなくならない場合には、HPLC分析性能は非常に低下する。試料は希望に応じて最高2.5%(w/w)まで希釈し、80〜200μLの体積の試料をHPLC装置に注入して分析を行う。複数試料分析の場合、「ウォーターズ・オートサンプラー(Water's autosampler)」モデル717(マサチューセッツ州ミルフォード)を使用することで自動化を促進できる。
【0070】
HPLCにRIとLLSを併用することによって、クロマトグラフィーピークを形成する分析物の絶対高分子量ならびに平方自乗平均(rms)半径値(回転半径(Rg)とも呼ばれる)が求められる。rms値を絶対分子量測定と組み合わせることで、ロッド、コイル、球、またはディスクなどの光散乱化学種に関する情報が得られる。AHSの式量および特定の鉄−サッカリド錯体の形状は、種々の監視目的に使用することができる。
【0071】
本発明の実施例で使用した凍結乾燥法は以下の通りである。
フラクション1(前述)は凍結乾燥の出発物質として使用できる。以下の方法を使用して、体積が10mLまたは100mLでありAHSを含む材料は、水のエントロピーと蒸気圧を下げる傾向にある糖類を実質的に含まない試料であれば、簡単に凍結乾燥を行うことができる。これらの体積は、シェル型凍結の物理的応力に耐える任意のガラス容器に入れることができ、この方法はAHSの全体の脱水および濃縮の促進に使用することができる。液体体積の容器容積に対する好ましい比率は約1〜約5であるが、これ以外の比率も使用可能である。実質的に賦形剤が存在しないAHSを含有する液体を容器に入れてから、容器を低温浴中で約50回転/分で回転させる。この浴は、ドライアイスとアセトンを混合して作製することができるし、あるいは少なくとも約−50℃以下の温度が維持できるのであれば液体窒素を使用することもできる。容器を浸漬し回転させることで、AHS含有水性体積が容器壁面上で凍結する。これによってAHS含有水性体積の表面の体積に対する比率が増加して、水の昇華が促進される。この手順で他の方法および装置を使用しても、同一または同様の結果を得ることができる。
【0072】
水とAHSを含むシェル型凍結組成物の1つ以上の容器を、凍結乾燥装置の棚に置く。「バーティス・ユニトップ(Virtis Unitop)600L」に「フリーズモービル(Freezemobile)12ES」(ガードナー(Gardiner),NY)をこの目的のために使用することができる。系内を60μmHg(7.5Pa)の真空に維持し、コンデンサー温度は少なくとも約−60℃以下に維持した。好ましい凍結乾燥サイクルは、初期の棚の維持温度−50℃で2時間、12時間かけて25℃まで上昇、25℃でさらに24時間試料を維持、のサイクルである。好ましくは、乾燥生成物は、アルゴンまたは窒素などの乾燥不活性ガスの存在下など乾燥条件下で保存すべきである。この乾燥AHSは所望の水性体積で再構成することができ、すぐに溶液となり、前述のような0.02μm膜で容易にろ過することができる。
【0073】
RIおよびLLS検出を使用するHPLC分析を、鉄−サッカリド錯体を使用した以下の10試料で実証する。試料1〜10のそれぞれの結果は図1〜10に対応している。造血剤試料1〜4および6〜10は、スクロース中のグルコン酸第二鉄ナトリウム錯体(SFGCS)として同定される鉄−サッカリド錯体であり、商品名フェルレシット(登録商標)(ローン−プーランク・ローラー(Rhone-Poulenc Rorer)(英国エセックス州ダゲナム(Dagenham))製造)で販売されている。試料5および対応する図5は、水酸化第二鉄スクロース錯体(FHSC)であり、商品名ベノファー(登録商標)(ルイトポルド・ファーマスーティカルズ(Luitpold Pharmaceuticals)(ニューヨーク州シャーリー(Shirley))製造)で販売されている。HPLC分析で使用した試料は、室温条件で保管たガラスアンプルを新しく開けて採取した。さらに、試料6、7、8、および9は、製品の製造から6か月後、12か月後、22か月後、および25か月後に分析した。これらの時間間隔を、本明細書では「販売後時間」、TAMと呼び、実施例のTAM#1、TAM#2、TAM#3、およびTAM#4に対応する。試料は1:20で希釈して調製し、これらの希釈物200mLを前述のHPLC法で分析した。
【0074】
実施例1の試験結果を図1に示す。この結果は、ガラスアンプルから得た鉄−サッカリド錯体試料と低圧分取GPCを使用して得られたフラクション1に単離されたAHSの、RIおよびLLS検出器を有するHPLCを使用した評価に基づいている。1つの明確なクロマトグラフィーのプロファイルが得られ、これによると、AHS溶出に関するLLS信号とRI信号が一致しているが、生成物質中に他の賦形剤は見られない。
【0075】
実施例2の結果を図2に示す。この結果は、実施例1の鉄−サッカリド錯体試料と低圧分取GPCを使用して得られたフラクション2に単離されたAHSの、RIおよびLLS検出器を有するHPLCを使用した評価に基づいている。これら2つの結果から、賦形剤とAHSは独立した2つのフラクションに分離または単離されていることが明らかである。賦形剤に対するAHSの溶出位置を確認するために、実施例1のフラクション1の15mLのAHSをフラクション2溶出液に内部標準として加えた。
【0076】
実施例3の結果を図3に示す。結果は、実施例1と同じ造血剤試料に対する、RIおよびLLS検出器を有するHPLCの使用に基づいており、AHSの特徴を有するフラクション1が、通常はフラクション2に観察される賦形剤と実質的に分離した。HPLC法は、1つのクロマトグラフィーのプロファイルで造血性組成物の種々の鉄−サッカリド錯体を識別することができる。HPLCは迅速な分析試験に特に好適であるが、低圧クロマトグラフィーは好ましいAHSの分取法として特に好適である。AHSのLLS信号は観察されるRI信号に対応している。
【0077】
実施例4の結果を図4に示す。結果は、もとのAHSからの構造のばらつきを検出するための好ましいHPLC法の使用に基づいている。劣化のない形態では、AHSは、これらの図で「第1の対照標準」と記載される品質標準となる。RIおよびLLSを使用するHPLC分析を、供給用アンプルから直接取り出され鉄−サッカリド錯体を含む造血性組成物について実施した。この図は予測される、すなわち理想のAHSピークとの不一致を示している。新しく観察されるクロマトグラフィーの第2のピークがAHSの第1の対照標準と隣接しているように見える。この特徴は、AHSの分解による鉄凝集体化学種を示している。この図は、LLS検出を使用した有効造血性化学種凝集体ピーク(AHSAP)としての第2のピークを示している。このピークはRI検出単独では観察されないことに特に注意されたい。
【0078】
実施例5の結果を図5に示す。結果は、RIおよびLLS検出器を有するHPLCの使用に基づいている。この図も、FHSCを含む造血剤のAHSまたは第1の対照標準ピークの構造変化を示している。この製品の試料は、製造日が1999年12月のアンプルであり、使用期限が2002年12月であった。この実施例では、AHSピークのショルダーとしてAHSAPが見られ、これは実施例4と同じ試料と比較すると変化の割合が異なることを示している。LLSとRIのクロマトグラフィープロファイルはおおむね重なっているが、LLS信号のみが非経口造血剤中の鉄凝集体を検出している。前出の各実施例と同様に、この実施例の試料は臨床配布用の密封ガラスアンプルから直接取り出した。
【0079】
実施例6〜9。RIおよびLLSを使用するHPLCの溶出プロファイルの、AHSの予想されるクロマトグラフィープロファイルからのずれを容易に検出可能であり、このずれは、好ましい製造条件からのずれか、供給用ガラスアンプルに密封した状態でのエージングおよび不安定化によるAHSの分解を反映している。不安定化によって、望ましいAHS構造の成分として正常時には存在する鉄の凝集体が形成される。HPLCのRI検出では、鉄−サッカリド錯体の変化を検出できないが、LLS検出ではこのような生成物の不安定化の形跡が明確に検出される。鉄−サッカリド錯を含む造血性製品の状態の監視方法としての本発明の利点は、鉄凝集体形成によって示されるAHSの分解を検出するためにHPLCをRIおよびLLS検出器と併用することによって示される。鉄凝集体の形成は、AHSAPで示されるHPLCクロマトグラフィーピークとして観察される。数ヶ月にわたって製造された鉄−サッカリド錯体の個々の試料、特にSFGCSを、ガラスアンプルに封入した状態で製品の安定性を損なうことが知られているあらゆる妨害は取り除き、暗所において室温で保存した。試料を暗所において室温で製造から6か月、12か月、22か月、および25か月エージングして、それぞれのアンプルを開けて、その内容物を前述のようにRIおよびLLSを有するHPLCで分析した。保存した製品試料はいずれも、包装材料に記載の使用期限に達していなかった。最短のTAM値6.0か月の試料をTAM#1と表記し、最長の25か月の貯蔵の飼料はTAM#4と表記した。この範囲で連続的にエージングした造血剤試料のHPLC分析結果を図6〜9に示す。図6〜9に示されるクロマトグラフィープロファイルの分析的に重要な領域はAHSの領域であり、RIおよびLLS分析プロファイルに示される特定の溶出範囲のみである。
【0080】
TAM#1(図6)〜TAM#4(図9)の一連のグループとしてとらえると、これらの試料のRI信号は、AHSの分解および鉄の凝集による試料のエージングによる影響はわずかであることが明らかである。一方、4つすべての試料についてLLSで検出すると、鉄の凝集を伴うAHSの不安定化の形跡は、AHSAPのショルダーまたは第2のピークとして顕著に見られた。
【0081】
これらの実施例より明らかなように、RIおよびLLSを使用する好ましいHPLC法によって、AHSまたは共存する賦形剤(非経口用途で販売されるときには通常含まれる)の検査を行うことができる。これ以外に、本発明の方法によって、一群の鉄−サッカリド錯体に基づく造血剤の監視、ならびに調査および開発を行うことができる。この種の造血剤は、不安定化によって鉄凝集体が形成されやすく、これは好ましいまたは正常なAHSと混合されることが分かる。RI検出とともに少なくともLLS検出をHPLCに使用しないのであれば、造血剤中の鉄凝集体の形成を検出することができない。
【0082】
前述したように、本発明の好ましい方法を実施する場合、試料の作業上の問題を回避するために、試料は定期的に0.02μmアノトップブランドのメンブレンフィルターでろ過してから、HPLCに注入される。AHSAPの発生が見られない鉄−サッカリド試料は分析の準備として容易にろ過できるが、古い試料では0.45μmフィルターを使用した場合でもろ過が非常に困難または不可能となる。特定の好ましい方法によるHPLC分析用の試料の予備的ろ過が困難となるのは、AHSAP量が最大限となる場合と関連があることが観察された。メンブレンフィルター上への鉄凝集体の重大で大量の取り込みによって、不十分であるが別の評価方法では、意図せぬ量の造血剤の凝集を評価することになる可能性がある。しかし、非経口で使用する前に造血剤のこのようなろ過方法の使用は非実用的であり、さらに、ろ過可能な鉄凝集段階を通らなない場合の分解AHSの影響は現れない。有意量の鉄凝集体が試料中に発生し、造血剤分析が重要である場合、HPLC装置の性能および維持のために試料のろ過が必要である。また、HPLC分析のAHSの調製の結果、鉄凝集体の残留物またはその他の粒子状物質がメンブレンフィルター上に取り込まれると、フィルター上の凝集体の定量的な量は、製品の分解の相補的な指標としてHPLC分析とともに考慮すべきである。造血剤中にろ過可能な材料がほとんどまたは全く存在せず、粒子の直径が10nm未満である場合には、HPLC法はより高精度で造血剤の品質を監視できる好ましい方法となる。
【0083】
実施例10の結果を図10に示す。この実施例は、凍結乾燥状態から再構成したAHSに対して、RIおよびLLS分析を使用するHPLCの好ましい方法を適用することを含んでいる。鉄−サッカリド錯体から単離されたAHSは従来報告されていないが、分解、劣化、または鉄凝集体形成が起こらずに、凍結乾燥および再構成が可能であるかどうかは特に不明瞭であった。販売される鉄−サッカリド錯体(SFGCS)の試料2.5mLを密封したガラスアンプルから取り出し、実質的に賦形剤を含有しないAHSの調製のための低圧クロマトグラフィー法にしたがって、フラクション1およびフラクション2に分離した。AHSを含有するフラクション1を前述のように凍結乾燥した。凍結乾燥から1週間後、このフラクションにHPLCグレードの水を加えて元の体積(2.5mL)まで再構成した。2.5mLの再構成溶液のうちの500μLを20.0mLまで希釈し、この200μLを、前述のRIおよびLLS分析装置を有するHPLCに注入した。得られたクロマトグラフィーのプロファイルを図10に示す。LLSおよびRIの両方の信号はわずかに重なっておらず、図1に見られるクロマトグラフィーのプロファイルと一致しているが、図6〜9に見られる鉄凝集体形成またはAHSAPは見られない。この実施例によって、RIおよびLLS検出を有するHPLCは、凍結乾燥AHSの品質の監視にも有用であることが分かる。
【0084】
実施例11は、未処理の造血剤に対する処理した造血剤による凍結乾燥の反応の比較を行った。AHS、スクロース、および残留賦形剤を含む製造された鉄−サッカリド錯体(SFGCS)の3つの試料について凍結乾燥を行った。3つすべての試料は同じ製造バッチで異なるガラスアンプルで販売されたものであった。実施例10の造血剤の場合と同じ凍結乾燥方法を使用したが、前実施例とは異なり、凍結乾燥中にAHSは賦形剤を残したままにした。この実験の目的は、親水性賦形剤が存在しない状態で凍結乾燥した同じ製品と比較して、親水性賦形剤の存在による最終凍結乾燥製品の重量の不一致が見られるかどうかを観察することであった。賦形剤を含有して乾燥させた造血剤の結果を表Aにまとめる。
【0085】
【表1】

*元の試料重量に対する%で表現した
【0086】
表Aで使用したものと同じ供給元の同じ造血剤バッチのさらに3つの試料を、別の未開封アンプルから入手し、前述の低圧クロマトグラフィー用カラムの処理を行った。各試料のフラクション1(AHSを含有するが、関連する親水性賦形剤(スクロースなど)は含有しない)について前述のように凍結乾燥した。結果を表Bにまとめる。
【0087】
【表2】

*元の試料重量に対する%で表現した
【0088】
試験結果から、カラム分離を行い同一条件の凍結乾燥を行った試料から除去される水のパーセント値が有意に高いことが明らかに分かる。本明細書において、特定の実施形態を参照しながら本発明を説明してきたが、これらの実施形態は本発明の原理および応用の単なる例であることを理解されたい。したがって、添付の請求項によって規定される本発明の意図および範囲から逸脱せずに、例示的実施形態に対する多数の修正を行うことができ、他の構成を考案することも可能であることを理解されたい。
【0089】
[1] 少なくとも1種類の有効造血性化学種を含み、鉄−サッカリド錯体生成物を監視する方法であって、前記監視が、(a)前記錯体の製造工程中、(b)前記錯体の製造工程の終了時、および(c)前記錯体の製造後からなる群から選択される時間中に実施され、前記方法が、前記少なくとも1種類の有効造血性化学種の分析における応答を、前記少なくとも1種類の化学種に対応する標準物質と比較するステップを含む方法。
[2] 前記錯体の製造後の前記時間が約1週間〜約5年である[1]の方法。
[3] 光散乱で向上させた液体クロマトグラフィー、紫外分光法、可視分光法、紫外および可視複合分光法(前記紫外および可視分光法は光ダイオードアレイの使用を必要に応じて任意に含む)、赤外分光法、電子スピン共鳴、パルスポーラログラフィー、エネルギー分散型X線分析、円偏光二色性、および旋光分散、蛍光分光法、旋光分析、熱分解質量分析法、核磁気共鳴分光法、示差走査熱分析、液体クロマトグラフィー−質量分析法、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析、キャピラリー電気泳動、誘導結合プラズマ分光法、原子吸光分析、電気化学分析、放射性の鉄などの放射性同位体、造血性物質に対する抗体、約0.02〜約0.45μmの範囲内の多孔度を有するメンブレンフィルターでのろ過後に残る固形分を利用する分析、および、必要に応じて任意に質量感受性検出器を備える光散乱併用型高圧液体クロマトグラフィーからなる群から選択される少なくとも1種類の分析方法を使用して前記分析における応答が得られる[1]の方法。
[4] 前記分析方法が、光散乱で向上させた液体クロマトグラフィーである[3]の方法。
[5] 前記少なくとも1種類の有効造血性化学種が、必要に応じて任意に濃度感受性検出器を備える光散乱分析併用型高圧液体クロマトグラフィーを使用して監視される[1]の方法。
[6] 前記少なくとも1種類の有効造血性化学種を単離するステップを含み、前記少なくとも1種類の有効造血性化学種が、スクロース中のグルコン酸第二鉄ナトリウム錯体、水酸化第二鉄スクロース錯体、およびサッカリン第二鉄錯体からなる群から選択される[1]の方法。
[7] 前記監視が、濃度感受性検出器を併用する光散乱分析、原子吸光分析、X線分析、電気化学分析、電子スピン共鳴、質量分析法、および超遠心法からなる群から選択される少なくとも1つの方法を使用して実施され、前記監視によって鉄凝集体の存在の検出が可能である[1]の方法。
[8] 前記鉄凝集体が、鉄−サッカリド錯体以外の鉄で実質的に構成される[7]の方法。
[9] 前記鉄凝集体の平均式量が、約200,000〜約3,000,000ダルトンである[8]の方法。
[10] 鉄−サッカリド錯体以外の鉄の出現割合が、約0.5以下である[7]の方法。
[11] 鉄−サッカリド錯体と希釈剤とを含む組成物を精製する方法であって、前記錯体が少なくとも1種類の有効造血性化学種と少なくとも1種類の賦形剤とを含み、前記方法が、(1)前記少なくとも1種類の有効造血性化学種を前記少なくとも1種類の賦形剤から実質的に分離するステップと、必要に応じて任意に、(2)前記少なくとも1種類の有効造血性化学種を凍結乾燥するステップとを含む方法。
[12] 前記少なくとも1種類の賦形剤が、非造血性有効成分を含む[11]の方法。
[13] 前記少なくとも1種類の非造血性有効成分が、鉄−サッカリド錯体合成反応副生成物、未反応鉄−サッカリド錯体合成出発物質、鉄−サッカリド錯体分解副生成物、廃棄グルカン、ポリグルカン、糖ラクトン、溶媒、および希釈剤からなる群から選択される[12]の方法。
[14] ステップ(2)をさらに含む[11]の方法。
[15] 凍結乾燥するステップが、
(1)共融点未満の温度およびガラス転移温度未満の温度からなる群から選択される温度で、前記組成物を完全に凍結させるステップと、
(2)氷界面温度よりも少なくとも約20℃低温に到達する氷凝縮面を提供するステップと、
(3)約0.5〜約10Paの絶対圧力に減圧可能な減圧装置を備える容器中に前記凍結組成物を配置するステップと、
(4)前記組成物中に存在する凍結水を蒸気状態に昇華させて前記氷凝縮面(2)上で凍結させるのに十分な熱エネルギー源に前記凍結組成物を曝露するステップと
を含む[14]の方法。
[16]
(1)前記組成物が共融点より低温で完全に凍結し、
(2)前記氷凝縮面が約−40℃未満の温度であり、
(3)前記減圧が約1Pa〜約8Paの絶対圧力であり、
(4)前記熱エネルギー源が約−60℃〜約+65℃に制御される
[15]の方法。
[17]
前記実質的に分離するステップが、前記組成物をクロマトグラフィー用カラムに通して、カラム溶出液をフラクションに分離することによって前記組成物を処理することを含む[11]の方法。
[18] 前記カラムが、高圧液体クロマトグラフィーカラム、およびサイズ排除クロマトグラフィーカラムからなる群から選択される[17]の方法。
[19] 前記サイズ排除クロマトグラフィーカラム中の固定相が架橋デキストランを含む[18]の方法。
[20] 前記組成物が高分子量鉄凝集体をさらに含み、前記分離するステップが、(1)前記組成物の溶出組成プロファイルを同定するステップであって、前記溶出プロファイルが、少なくとも、前記鉄凝集体を含む第1の溶出成分と、前記鉄−サッカリド錯体の有効造血性化学種成分を含む第2の溶出成分と、低分子量賦形剤を含む第3の溶出成分とを含むステップ、および(2)前記第1および第3の溶出物を前記第2の溶出物から分離するステップをさらに含む[19]の方法。
[21] 前記溶出組成プロファイルが、レーザー光散乱検出器、紫外−可視光透過検出器、1つ以上の規定の波長で検出するための可視光検出器、および屈折率検出器からなる群から選択される少なくとも1つの検出器を使用して決定される[20]の方法。
[22] [11]または[16]のいずれかの方法を使用して保存性が向上した造血性組成物を製造する方法。
[23] スクロース中の水酸化第二鉄錯体、スクロース中のグルコン酸第二鉄ナトリウム錯体、およびサッカリン第二鉄錯体からなる群から選択され、実質的に賦形剤を含有しない鉄−サッカリド錯体。
[24] 前記賦形剤が約5重量%未満存在する[23]の錯体。
[25] 前記賦形剤が約2重量%未満存在する[24]の錯体。
[26] 前記錯体の溶媒、前記錯体の溶媒希釈剤、および前記溶媒と希釈剤との混合物からなる群から選択される液体をさらに含む[23]の錯体。
[27] 前記液体が水を含む[26]の錯体。
[28] 非経口送達に好適な[27]の錯体。
[29] スクロース中の水酸化第二鉄錯体、スクロース中のグルコン酸第二鉄ナトリウム錯体、およびサッカリン第二鉄錯体からなる群から選択され、賦形剤および水を実質的に含有しない、保存性鉄−サッカリド錯体。
[30] 前記賦形剤が約5重量%未満存在する[29]の錯体。
[31] 前記賦形剤が約2重量%未満存在する[30]の錯体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄−サッカリド錯体と希釈剤とを含む組成物を精製する方法であって、前記錯体が少なくとも1種類の有効造血性化学種と少なくとも1種類の賦形剤とを含み、前記鉄−サッカリド錯体が非経口投与に好適であり、前記方法が、(1)前記少なくとも1種類の有効造血性化学種を前記少なくとも1種類の賦形剤から実質的に分離するステップと、必要に応じて任意に、(2)前記少なくとも1種類の有効造血性化学種を凍結乾燥するステップとを含む方法。
【請求項2】
前記少なくとも1種類の賦形剤が、非造血性有効成分を含み、前記少なくとも1種類の非造血性有効成分が、鉄−サッカリド錯体合成反応副生成物、未反応鉄−サッカリド錯体合成出発物質、鉄−サッカリド錯体分解副生成物、廃棄グルカン、ポリグルカン、糖ラクトン、溶媒、および希釈剤からなる群から選択される請求項1の方法。
【請求項3】
ステップ(2)をさらに含む請求項1の方法。
【請求項4】
前記実質的に分離するステップが、前記組成物をクロマトグラフィー用カラムに通して、カラム溶出液をフラクションに分離することによって前記組成物を処理することを含む請求項1の方法。
【請求項5】
前記カラムが、高圧液体クロマトグラフィーカラム、およびサイズ排除クロマトグラフィーカラムからなる群から選択され、それぞれのカラムが固定相を含む請求項4の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1種類の有効造血性化学種以外に、前記組成物が、前記少なくとも1種類の有効造血性化学種よりも分子量が高い鉄凝集体をさらに含み、前記分離するステップが、(1)前記組成物の溶出組成プロファイルを同定するステップであって、前記溶出プロファイルが、少なくとも、前記鉄凝集体を含む第1の溶出物と、前記鉄−サッカリド錯体の前記少なくとも1種類の有効造血性化学種を含む第2の溶出物と、前記少なくとも1種類の有効造血性化学種よりも分子量が低い賦形剤を含む第3の溶出物とを含むステップ、および(2)前記第1および第3の溶出物を前記第2の溶出物から分離するステップをさらに含む請求項5の方法。
【請求項7】
前記溶出組成プロファイルが、レーザー光散乱検出器、紫外−可視光透過検出器、1つ以上の規定の波長で検出するための可視光検出器、および屈折率検出器からなる群から選択される少なくとも1つの検出器を使用して決定される請求項6の方法。
【請求項8】
請求項1の方法を使用して保存性が向上した造血性組成物を製造する方法。
【請求項9】
鉄−サッカリド錯体と希釈剤とを含む組成物の精製方法であって、前記錯体が少なくとも1種類の有効造血性化学種と少なくとも1種類の賦形剤とを含み、前記方法が、(1)前記少なくとも1種類の有効造血性化学種を前記少なくとも1種類の賦形剤から実質的に分離するステップと、必要に応じて任意に、(2)前記少なくとも1種類の有効造血性化学種を凍結乾燥するステップとを含み、前記実質的に分離するステップが、前記組成物をクロマトグラフィー用カラムに通して、カラム溶出液をフラクションに分離することによって前記組成物を処理することを含み、前記フラクションの少なくとも1つが前記有効造血性化学種を含む精製方法。
【請求項10】
水酸化第二鉄錯体、グルコン酸第二鉄ナトリウム錯体、およびサッカリン第二鉄錯体からなる群から選択される有効造血性化学種を含む組成物であって、分子量が約5,000ダルトン未満である賦形剤を実質的に含有しない組成物。
【請求項11】
前記賦形剤が約5重量%未満存在する請求項10の組成物。
【請求項12】
前記有効造血性化学種の溶媒、前記有効造血性化学種の希釈剤、および前記溶媒と希釈剤との混合物からなる群から選択される液体をさらに含む請求項10の組成物。
【請求項13】
前記有効造血性化学種が、少なくとも約100,000ダルトンの絶対分子量を有する請求項10の組成物。
【請求項14】
溶媒または希釈剤を混合物としてさらに含み、該混合物が非経口投与に好適である請求項13の組成物。
【請求項15】
水酸化第二鉄錯体、グルコン酸第二鉄ナトリウム錯体、およびサッカリン第二鉄錯体からなる群から選択される有効造血性化学種を含む保存性組成物であって、水および分子量が約5,000ダルトン未満である賦形剤を実質的に含有しない組成物。
【請求項16】
前記賦形剤が約5重量%未満存在する請求項15の組成物。
【請求項17】
前記有効造血性化学種が、少なくとも約100,000ダルトンの絶対分子量を有する請求項15の組成物。
【請求項18】
水酸化第二鉄錯体、グルコン酸第二鉄ナトリウム錯体、およびサッカリン第二鉄錯体からなる群から選択される有効造血性化学種を含む組成物であって、前記有効造血性化学種が少なくとも約100,000ダルトンの絶対分子量を有し、賦形剤を実質的に含有しない組成物。
【請求項19】
前記賦形剤が、前記有効造血性化学種の合成における副生成物および未反応出発物質、分解副生成物、ならびに非造血性有効成分を含む請求項18の組成物。
【請求項20】
少なくとも1種類の溶媒、希釈剤またはこれらの混合物をさらに含む請求項18の組成物。
【請求項21】
非経口用途に適した水性非経口組成物であって、賦形剤を実質的に含まない有効造血性化学種を含む水性組成物。
【請求項22】
前記有効造血性化学種が、水酸化第二鉄錯体、グルコン酸第二鉄ナトリウム錯体、およびサッカリン第二鉄錯体からなる群から選択される請求項21の水性組成物。
【請求項23】
再構成し非経口投与するのに適した組成物であって、少なくとも1種類の凍結乾燥有効造血性化学種を含み、賦形剤を実質的に含まない組成物。
【請求項24】
前記凍結乾燥有効造血性化学種が、水酸化第二鉄錯体、グルコン酸第二鉄ナトリウム錯体、およびサッカリン第二鉄錯体からなる群から選択される請求項23の水性組成物。
【請求項25】
前記凍結有効造血性化学種が、少なくとも約100,000ダルトンの絶対分子量を有する請求項24の組成物。
【請求項26】
水酸化第二鉄錯体、グルコン酸第二鉄ナトリウム錯体、およびサッカリン第二鉄錯体からなる群から選択される有効造血性化学種を少なくとも85重量%含み、これに対して、分子量が約5,000ダルトン未満である賦形剤を15重量%未満含む組成物。
【請求項27】
前記賦形剤が約2重量%未満存在する請求項26の組成物。
【請求項28】
前記有効造血性化学種の溶媒、前記有効造血性化学種の希釈剤、および前記溶媒と希釈剤との混合物からなる群から選択される液体をさらに含む請求項26の組成物。
【請求項29】
水酸化第二鉄錯体、グルコン酸第二鉄ナトリウム錯体、およびサッカリン第二鉄錯体からなる群から選択される有効造血性化学種を少なくとも85重量%含み、これに対して、賦形剤を15重量%未満含み、前記有効造血性化学種が、少なくとも約100,000ダルトンの絶対分子量を有する組成物。
【請求項30】
前記賦形剤が、前記有効造血性化学種の合成における副生成物および未反応出発物質、分解副生成物、ならびに非造血性有効成分を含む請求項29の組成物。
【請求項31】
少なくとも1種類の溶媒、希釈剤またはこれらの混合物をさらに含む請求項29の組成物。
【請求項32】
前記有効造血性化学種を少なくとも98重量%含む請求項29の組成物。
【請求項33】
非経口用途に適した水性非経口組成物であって、有効造血性化学種を含み、15重量%未満の賦形剤を含む水性組成物。
【請求項34】
前記有効造血性化学種が、水酸化第二鉄錯体、グルコン酸第二鉄ナトリウム錯体、およびサッカリン第二鉄錯体からなる群から選択される請求項33の水性組成物。
【請求項35】
請求項15の保存性組成物と液体とを混合するステップにより、再構成された造血性組成物を調整する方法。
【請求項36】
請求項18の組成物と液体とを混合するステップにより、再構成された造血性組成物を調整する方法。
【請求項37】
請求項23の組成物と液体とを混合するステップにより、再構成された造血性組成物を調整する方法。
【請求項38】
請求項29の組成物と液体とを混合するステップにより、再構成された造血性組成物を調整する方法。
【請求項39】
鉄−サッカリド錯体と希釈剤とを含む組成物を精製する方法であって、前記組成物が、少なくとも1種類の有効造血性化学種と少なくとも1種類の賦形剤とを含み、前記鉄−サッカリド錯体が、非経口投与に適しており、(1)前記少なくとも1種類の有効造血性化学種を前記少なくとも1種類の賦形剤から実質的に分離し、有効造血性化学種含有相を得るステップと、(2)前記少なくとも1種類の有効造血性化学種を実質的に乾燥するステップとを含む方法。
【請求項40】
前記少なくとも1種類の賦形剤が、鉄−サッカリド錯体合成反応副生成物、未反応鉄−サッカリド錯体合成出発物質、鉄−サッカリド錯体分解副生成物、廃棄グルカン、ポリグルカン、糖ラクトン、溶媒、および希釈剤からなる群から選択される非造血性有効成分である請求項39の方法。
【請求項41】
ステップ(2)が、凍結乾燥するステップを含む請求項39の方法。
【請求項42】
前記実質的に分離するステップが、前記組成物をクロマトグラフィー用カラムに通して、カラム溶出液をフラクションに分離することによって前記組成物を処理することを含む請求項39の方法。
【請求項43】
前記少なくとも1種類の有効造血性化学種以外に、前記組成物が、前記少なくとも1種類の有効造血性化学種よりも分子量が高い鉄凝集体をさらに含み、前記分離するステップが、(1)前記組成物の溶出組成プロファイルを同定するステップであって、前記溶出プロファイルが、少なくとも、前記鉄凝集体を含む第1の溶出物と、前記鉄−サッカリド錯体の前記少なくとも1種類の有効造血性化学種を含む第2の溶出物と、前記少なくとも1種類の有効造血性化学種よりも分子量が低い賦形剤を含む第3の溶出物とを含むステップ、および(2)前記第1および第3の溶出物を前記第2の溶出物から分離するステップをさらに含む請求項42の方法。
【請求項44】
鉄−サッカリド錯体と希釈剤とを含む組成物を精製する方法であって、前記錯体が、少なくとも1種類の有効造血性化学種と少なくとも1種類の賦形剤とを含み、(1)前記少なくとも1種類の有効造血性化学種を前記少なくとも1種類の賦形剤から実質的に分離するステップと、必要に応じて任意に、(2)前記少なくとも1種類の有効造血性化学種を実質的に凍結乾燥するステップとを含む方法であって、前記実質的に分離するステップが、前記組成物をクロマトグラフィー用カラムに通して、カラム溶出液をフラクションに分離することによって前記組成物を処理することを含み、前記フラクションの少なくとも1種類が前記有効造血性化学種を含む方法。
【請求項45】
実質的に乾燥するステップが、約85重量%から少なくとも約99重量%、約90重量%から少なくとも約97重量%、および約92重量%から少なくとも約95重量%からなる群から選ばれる程度まで、水を除去するステップを含む請求項39の方法。
【請求項46】
再構成および非経口用途に適した実質的に乾燥した有効造血性化学種を内部に含む密封容器を含む製品。
【請求項47】
再構成および非経口用途に適した実質的に乾燥した有効造血性化学種の1回投与量を内部に含む密封パウチまたは密封ガラスを含む製品。
【請求項48】
前記有効造血性化学種が、水酸化第二鉄錯体、グルコン酸第二鉄ナトリウム錯体、およびサッカリン第二鉄錯体からなる群から選択される請求項46の製品。
【請求項49】
有効造血性化学種を含む組成物であって、前記組成物が、合成反応副生産物、未反応出発物質および異常な有効造血性化学種を実質的に含まず、前記異常な有効造血性化学種が、分解した有効造血性化学種、凝集した有効造血性化学種およびこれらの混合物からなる群から選ばれる組成物。
【請求項50】
再構成し非経口投与するのに適した組成物であって、少なくとも1種類の凍結乾燥有効造血性化学種を含み、前記組成物が、合成反応副生産物、未反応出発物質および異常な有効造血性化学種を実質的に含まず、前記異常な有効造血性化学種が、分解した有効造血性化学種、凝集した有効造血性化学種およびこれらの混合物からなる群から選ばれる組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−137993(P2009−137993A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−8909(P2009−8909)
【出願日】平成21年1月19日(2009.1.19)
【分割の表示】特願2002−557337(P2002−557337)の分割
【原出願日】平成13年10月31日(2001.10.31)
【出願人】(503162704)クロマシューティカル・アドヴァンスト・テクノロジーズ,インコーポレイテッド (1)
【Fターム(参考)】