説明

精製された高純度ラクチドの製造方法

【課題】 高純度のラクチドを高収率で得ることができる方法を提供する。
【解決手段】 以下の(a)、(b)
(a) L―ラクチド及び/又はD−ラクチドと、メソ−ラクチドとを含む混合物
(b) 芳香族化合物溶媒と、脂肪族炭化水素化合物溶媒及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒とを含む混合溶媒
を接触させる工程と、固液分離して固体分を回収する工程とを含む、精製された高純度ラクチドの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、L−ラクチド及び/又はD−ラクチドと、メソ−ラクチドとを含むラクチド混合物から、メソ−ラクチドや不純物を除去することにより、精製された高純度ラクチドを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ラクチドは、乳酸の二分子環状エステルであり、L−ラクチド、D−ラクチド、メソ−ラクチドが存在する。近年、ラクチドはポリ乳酸の原料として注目されており、重合度の高いポリ乳酸を得るため、純度の高いラクチドが求められている。
ラクチドの精製方法としては、溶剤を用いた精製方法が知られている。例えば、特許文献1には、溶融状態のラクチド混合物を水と接触させることにより、水溶性が比較的高いメソ−ラクチドを水中に分離し、L−ラクチド及び/又はD−ラクチドを結晶として析出させ、さらに水溶性溶媒で洗浄した後、ラクチドと反応せずかつ水溶性溶媒と相溶性のある疎水性溶媒で再結晶することにより、光学活性ラクチドを精製する方法が記載されている。
【0003】
また、特許文献2、及び特許文献3には、粗ラクチドを水と接触させ、固液分離することにより、遊離酸成分やメソ−ラクチドを除去する精製ラクチドの製造方法が記載されている。
しかし、特許文献1〜3の方法は、何れも水を使用するため、目的物であるラクチドが加水分解して、収率が低下し易い。
特許文献4には、粗ラクチドをベンゼンまたはアルキル基置換ベンゼンと、水溶性のエーテル類、酢酸エチル、アセトンなどの有機溶媒との混合溶媒を用いて再結晶することにより、重合阻害物質を除去してラクチドを精製する方法が記載されている。しかし、特許文献4の方法は、収率が55%と非常に低い。
【特許文献1】特許3988195号
【特許文献2】特開2004-149418号
【特許文献3】特開平7−165753号
【特許文献4】特許2959375号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、高純度のラクチドを高収率で得ることができる方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行なった結果、L―ラクチド及び/又はD−ラクチドと、メソ−ラクチドとを含むラクチド混合物と、芳香族化合物溶媒と、脂肪族炭化水素化合物溶媒及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒とを含む混合溶媒とを接触させた後、固体分を回収することにより、メソ−ラクチドや不純物を液体分中に除去して、L―ラクチド及び/又はD−ラクチドを容易に分離できることを見出した。また、この方法によれば、高純度のラクチドを高収率で得られることを見出した。
【0006】
本発明は、上記知見に基づき完成されたものであり、以下の精製された高純度ラクチドの製造方法を提供する。
項1. 以下の(a)、(b)
(a) L―ラクチド及び/又はD−ラクチドと、メソ−ラクチドとを含む混合物
(b) 芳香族化合物溶媒と、脂肪族炭化水素化合物溶媒及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒とを含む混合溶媒
を接触させる工程と、固液分離して固体分を回収する工程とを含む、精製された高純度ラクチドの製造方法。
項2. 芳香族化合物溶媒が、炭素数6〜15のベンゼン系芳香族化合物溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種である項1に記載の方法。
項3. 脂肪族炭化水素化合物溶媒及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒が、n−ヘプタン、n-ヘキサン、及びシクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種である項1又は2に記載の方法。
項4. 芳香族化合物溶媒の使用量が、ラクチド混合物100重量部に対して、5〜5000重量部である項1〜3のいずれかに記載の方法。
項5. 脂肪族炭化水素化合物溶媒及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒の使用量が、ラクチド混合物100重量部に対して、5〜5000重量部である項1〜4のいずれかに記載の方法。
項6. 接触工程において、ラクチド混合物の状態がスラリー状態、溶解状態、若しくは溶融状態であるか、これらのうちの2以上の状態の間で経時的に変化するか、又はこれらのうちの2以上の状態が混在している項1〜5のいずれかに記載の方法。
項7. 項1〜6のいずれかに記載の方法により製造された高純度ラクチドを重合させることによりポリ乳酸を製造する方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明方法によれば、ラクチド(L―ラクチド及び/又はD−ラクチド)と、メソ−ラクチドとを含むラクチド混合物から、メソ−ラクチドや不純物が除去されて、高純度のラクチドが得られる。また、水を用いないためラクチドの加水分解が起こり難く、高収率でラクチドが得られる。また、光学活性なラクチドとメソ−ラクチドとの混合物を用いた場合には、光学純度の高いラクチドを得ることができる。本発明方法により得られる高純度ラクチドを原料とすることにより、重合度の高いポリ乳酸を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の精製された高純度ラクチドの製造方法は、以下の(a)、(b)を接触させる工程と、固液分離して固体分を回収する工程とを含む方法である。
(a) L―ラクチド及び/又はD−ラクチドと、メソ−ラクチドとを含む混合物
(b) 芳香族化合物溶媒と、脂肪族炭化水素化合物溶媒及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒とを含む混合溶媒
【0009】
ラクチド混合物
L―ラクチド及び/又はD−ラクチドと、メソ−ラクチドとを含むラクチド混合物は、合成乳酸又は発酵により得られる乳酸の何れの乳酸2分子のラクチド化により得られるものであってもよい。
ラクチド混合物中のメソ−ラクチドの含有量は、約40重量%以下が好ましく、約20重量%以下がより好ましく、約10重量%以下が特に好ましい。上記範囲であれば、メソ−ラクチドを十分に除去できる。
また、ラクチド混合物は、乳酸、乳酸塩、乳酸エステル、水などのラクチド以外の夾雑物を含んでいてもよく、その含有量も特に制限されない。また、接触工程に用いるラクチド混合物は、固体状態、溶液状態、溶融状態のどのような状態のものを用いてもよい。ただし、ラクチド混合物が溶液状態であるときは、精製に影響を与えない有機溶媒に溶解した状態でもよい。
【0010】
混合溶媒
ラクチド混合物と接触させる混合溶媒には、芳香族化合物溶媒と、脂肪族炭化水素化合物溶媒及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒とが含まれる。
芳香族化合物溶媒は、公知の置換または無置換の芳香族化合物溶媒を制限なく使用できる。このような芳香族化合物溶媒として、ベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、エチルベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロトルエン、クロロトルエンのような炭素数6〜15のベンゼン系芳香族化合物溶媒;フラン、ピロール、チオフェン、ピリジンのような炭素数4〜20の複素芳香族化合物溶媒などが挙げられる。中でも、安価で入手容易で、取り扱いが容易な点で、炭素数6〜10のベンゼン系芳香族化合物溶媒が好ましく、ベンゼン、トルエン、キシレンがより好ましい。芳香族化合物溶媒は1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0011】
脂肪族炭化水素化合物溶媒は、公知の脂肪族炭化水素化合物溶媒を制限なく使用できる。このような脂肪族炭化水素化合物溶媒として、n−ペンタン、n−ヘキサン、2−メチルペンタン、n−ヘプタン、2−メチルヘキサン、n−オクタン、ノナン、デカンのような炭素数5〜10の脂肪族炭化水素化合物溶媒が挙げられる。中でも、安価に入手可能な点で、n−ヘキサン、n−ヘプタンのような炭素数が6〜7の脂肪族炭化水素化合物溶媒が好ましい。
脂環式炭化水素化合物溶媒は、公知の脂環式炭化水素化合物溶媒を制限なく使用できる。このような脂環式炭化水素化合物溶媒として、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロオクタンのような炭素数5〜8の脂環式炭化水素化合物溶媒が挙げられる。中でも、安価に入手可能な点で、シクロヘキサンのような炭素数6の脂環式炭化水素化合物溶媒が好ましい。
【0012】
脂肪族炭化水素化合物溶媒及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用できる。
芳香族化合物溶媒の使用量は、ラクチド混合物100重量部に対して、約5〜5000重量部が好ましく、約10〜3000重量部がより好ましく、約50〜2000重量部が特に好ましい。
脂肪族炭化水素化合物及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒の使用量は、ラクチド混合物100重量部に対して、約5〜5000重量部が好ましく、約10〜3000重量部がより好ましく、約50〜2000重量部が特に好ましい。
【0013】
混合溶媒の使用量が上記範囲であれば、不純物を十分に除去することができる。また、上記範囲であれば、高いラクチド回収率が得られるとともに、溶媒コストを抑えることができる。
芳香族化合物溶媒と、脂肪族炭化水素化合物溶媒及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒との混合割合は、芳香族化合物溶媒/脂肪族炭化水素化合物溶媒及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒の重量比が、約95/5〜5/95であることが好ましく、約80/20〜20/80であることがより好ましく、約70/30〜30/70であることが特に好ましい。芳香族化合物溶媒だけを使用するとラクチド回収率が低下し、脂肪族炭化水素化合物溶媒及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒だけを使用するとメソ-ラクチドや不純物の除去が不十分となる。上記混合割合であれば、目的ラクチドの回収率が十分に高く、かつメソ-ラクチドや不純物を十分に除去できる。
混合溶媒には、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の溶媒が含まれていてもよい。
【0014】
接触工程
ラクチド混合物と混合溶媒との接触は、例えば、両者を混合したり、両者を混合、攪拌したり、ラクチド混合物に溶媒を含浸させたり、ラクチド混合物を充填したカラム等に溶媒を通液したり、ラクチド混合物を溶媒で洗浄したりすることにより行える。
また、ラクチド混合物と接触させるときに、芳香族化合物溶媒と、脂肪族炭化水素化合物溶媒及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒とが混合していればよい。従って、混合溶媒の状態でラクチド混合物と接触させるだけではなく、先に芳香族化合物溶媒とラクチド混合物とを接触させた後、脂肪族炭化水素化合物溶媒及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒を添加してもよく、先に脂肪族炭化水素化合物溶媒及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒とラクチド混合物とを接触させた後、芳香族化合物溶媒を添加してもよい。
【0015】
ラクチド混合物が混合溶媒に溶解している状態を除き、異相間の接触(固-液もしくは液-液)は微粒子化、分散化など、混合溶媒とラクチド混合物の接触頻度、接触面積等の点で効率の良い手段を採用することが望ましい。
なお、接触工程におけるラクチド混合物は、接触工程の温度、接触工程で用いられる溶媒の種類、量、芳香族化合物溶媒と、脂肪族炭化水素化合物溶媒及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒との混合比、接触工程に付される時間等により、接触工程に付される前と同様の固体状態、溶解状態、溶融状態であるとは限らない。
【0016】
具体的には、混合溶媒との接触時、ラクチド混合物の一部が不溶で、懸濁している状態(スラリー状態)、加熱等を行うことによりラクチド混合物を混合溶媒に完全に溶解させた状態(溶解状態)、液状となったラクチド混合物相と混合溶媒相に分離し、攪拌を行うと液状のラクチド混合物が混合溶媒中に分散した状態(溶融状態)を例示することができる。
【0017】
接触工程において、ラクチド混合物が混合溶媒中に固体状態、すなわち、スラリー状態で存在している場合には、接触工程の温度は約−50〜90℃であることが好ましく、約-20〜70℃であることが好ましい。ラクチド混合物が混合溶媒中に溶解状態で存在している場合には、接触工程の温度は約30〜150℃であることが好ましく、約40〜120℃であることが好ましい。ラクチド混合物が混合溶媒中に溶融状態で存在している場合には、接触工程の温度は約90〜150℃が好ましく、約90〜120℃がより好ましい。
【0018】
また、メソ−ラクチドやその他の不純物を除去し、得られるラクチドの純度を上げる目的で、接触時のラクチド混合物の状態を互いに異なる2以上の状態を組み合わせることもできる。例えば、接触時のラクチド混合物の状態を上記説明したスラリー状態、溶解状態、及び溶融状態の2以上の状態の間で経時的に変化させることができ、具体的には、接触工程において加熱し、ラクチド混合物を混合溶媒に完全に溶解させた状態(溶解状態)、若しくは溶融させた状態(溶融状態)で、一定時間保った後に、冷却してスラリー状態に戻し、さらに、任意に、スラリー状態で一定時間接触を行うこと等が挙げられる。また、2以上の状態の間で経時的に変化させる場合には、混合溶媒との接触時のラクチド混合物の状態の組み合わせに特に限定はないが、溶融状態で接触させた後に、スラリー状態で接触させることが好ましい。また、接触時のラクチド混合物の状態が混在していてもよい。例えば、上記説明したスラリー状態、溶解状態、及び溶融状態の2以上の状態を混在させることができ、具体的には、ラクチド混合物の一部が混合溶媒に溶解し、一部がスラリー状態で接触を行うこと等が挙げられる。
【0019】
従って、接触工程における温度は、ラクチド混合物の各状態における好ましい接触工程における温度が存在するが、特に限定されることがなく、一般的には約−50〜150℃とすればよく、約0〜130℃であることが好ましく、約20〜120℃であることがより好ましい。
接触時間は、一般的には約10〜240分とすればよく、これにより、通常メソ-ラクチドや不純物を十分に除去することができる。
【0020】
固液分離工程
接触工程後、ラクチド混合物を濾過、又は遠心分離等で固液分離し、固体分を回収する。固液分離工程は、上記ラクチド混合物と混合溶媒とを接触させた後の、混合溶媒中のラクチド混合物の状態に合わせて行えばよい。ラクチド混合物が溶媒中でスラリー状態である場合は、接触工程のままの温度で固液分離を行うことができる。また、混合溶媒の温度を例えば約−50〜10℃に冷却後に固液分離することで、目的とするL―ラクチド及び/又はD−ラクチドの固体分への回収率を高くすることができる。ラクチド混合物が溶媒中で溶解状態または溶融状態である場合は、スラリー状のラクチド混合物が得られるまで冷却した後、固液分離を行う。また、固液分離工程は、接触工程に引き続き、同じ槽で実施することができる。即ち、接触工程の後、反応系の温度を下げることにより固液分離工程を行える。
【0021】
また、回収された高純度ラクチドを、再度、上記説明した芳香族化合物溶媒と、脂肪族炭化水素化合物溶媒及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒とを含む混合溶媒と接触させることにより洗浄してもよい。洗浄は、混合、混合・攪拌、含浸、通液などにより行えばよい。固体分を乾燥することにより、高純度のラクチドを回収することができる。乾燥は、自然乾燥、又は減圧乾燥など通常の方法の何れでもよい
【0022】
高純度ラクチド
本発明で目的とする高純度ラクチドとは、下記に規定するものである。
回収された画分中のメソ−ラクチド含有量は、通常1.5%以下、特に1%以下である。また、高純度ラクチドの回収率は、通常80%以上である。
本発明の製造方法で得られる高純度ラクチドを公知の方法で重合することによりポリ乳酸を製造することができる。例えば、光学活性ラクチドに重合開始剤としてラウリルアルコールなどのアルコールを微量加えて、スズ系触媒を用いて減圧下約130〜220℃に加熱して重合させるとポリ乳酸が得られる。
【0023】
実施例
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
(ラクチドの分析方法)
後述する実施例及び比較例において、ラクチドの分析は下記GC分析方法で行った。
1.ラクチドの純度
ラクチド分析用の試料は、ラクチド混合物500mg、内部標準としてジグライム100μLを秤取り、アセトンで10mLにメスアップすることで調整した。測定機器はガスクロマトグラフにGC−17A(Shimadzu)、オートサンプラーにAOC-20i(Shimadzu)、クロマトデータ処理装置にGC−Solution(Shimadzu)を用いた。また、検出器は水素イオン化検出器(FID)、試料注入口はSPL(1:100)、試料気化室温度は250℃、検出器温度は250℃、カラムはInertcap 1701(0.25 mm × 30 m, 0.25μm)(GL Sciences)、カラム温度は70℃(5min)−10℃/min−270℃(3min):28min、キャリアーガスは窒素、流速は0.8 mL/min、分析時間は28 min、分析量は1μL、という条件でそれぞれ測定を実施した。
【0024】
2.ラクチドの光学純度
ラクチド混合物500mgを秤取り、アセトンで5mLにメスアップした調整液で光学純度の測定を行った。測定機器はガスクロマトグラフにGC−2014(Shimazu)、オートサンプラーにAOC-20i、クロマトデータ処理装置にC−R8Aを用いた。また、検出器は水素イオン化検出器(FID)、試料注入口はSPL(1:1000)、試料気化室温度は250℃、検出器温度は200℃、カラムはCP-Cyclodextrin-β-2,3,6-M-19(0.25 mm × 50 m, 0.25μm)、カラム温度は150℃(一定)、キャリアーガスは窒素、流速は0.5 mL/min、分析時間は30 min、分析量は1μL、という条件で測定を実施した。
【0025】
3.L+D−ラクチドの収率
以下の実施例及び比較例において、L+D−ラクチドの収率は、精製に供したラクチド量に対する、精製後に得られたラクチド量の割合であり、以下の式で表される。
L+D−ラクチドの収率(%)=(精製後に得られたラクチド収量(g)×精製後のL+D−ラクチド(%))/(精製に供したラクチド量(g)×精製前のL+D-ラクチド(%))×100
【0026】
実施例1
500mlのフラスコにトルエン87gとn−ヘプタン68gを加え、混合溶媒を作成した。混合溶媒にラクチド混合物(粗ラクチド)100gを加え攪拌を行うと、スラリー状のラクチド混合物が得られた。得られたラクチド混合物のスラリーを25℃で1時間攪拌した。次いで、氷浴下5℃に冷却し、さらに1時間攪拌した。ラクチド混合物のスラリーを吸引濾過で固液分離し、予め5℃に冷却したトルエン44gとn−ヘプタン34gの混合溶媒で結晶を洗浄した。分離した結晶を100mmHg、70℃で6時間乾燥させ、90.4gの高純度ラクチドを得た。回収したラクチド中のメソ−ラクチドの割合は0.3%、光学純度は99.9%eeであった。
【0027】
結果を表1に示す。
【表1】

【0028】
実施例2
500mlのフラスコにトルエン87gとラクチド混合物(粗ラクチド)100gを加え攪拌を行うと、スラリー状のラクチド混合物が得られた。得られたラクチド混合物のスラリーを25℃で1時間攪拌した。次いで、n−ヘプタン68gを加え、混合溶媒とした後に、氷浴下5℃に冷却し、さらに1時間攪拌した。ラクチド混合物のスラリーを吸引濾過で固液分離し、予め5℃に冷却したトルエン44gとn−ヘプタン34gの混合溶媒で結晶を洗浄した。分離した結晶を100mmHg、70℃で6時間乾燥させ、90.5gの高純度ラクチドを得た。回収したラクチド中のメソ−ラクチドの割合は0.2%、光学純度は99.9%eeであった。
【0029】
結果を表2に示す。
【表2】

【0030】
実施例3
500mlのフラスコにラクチド混合物(粗ラクチド)100gを添加し、約100℃に加熱した。ラクチド混合物が溶融状態になったことを確認した後、トルエン87gを加えた。25℃まで放冷しスラリー状のラクチド混合物を得た。さらに、n-ヘプタン68gを加え混合溶媒とし、25℃で1時間攪拌した。次いで、氷浴下5℃に冷却し、さらに1時間攪拌した。ラクチド混合物のスラリーを吸引濾過で固液分離し、予め5℃に冷却したトルエン44gとn−ヘプタン34gの混合溶媒で結晶を洗浄した。分離した結晶を100mmHg、70℃で6時間乾燥させ、90.9gの高純度ラクチドを得た。回収したラクチド中のメソ−ラクチドの割合は0.4%、光学純度は99.9%eeであった。結果を表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
実施例4
100mlのフラスコにラクチド混合物(粗ラクチド)20gを添加し、約90℃に加熱した。ラクチド混合物が溶融状態になったことを確認した後、その温度を維持しながら、トルエン17gを添加し、さらに、n-ヘプタン14gを加え混合溶媒とした。90℃で攪拌をおこないラクチド混合物と混合溶媒を溶融状態で接触させた。その後、25℃まで放冷しスラリー状のラクチド混合物を得た。さらに、混合溶媒中でラクチド混合物のスラリーを25℃で1時間攪拌した。次いで、氷浴下5℃に冷却し1時間攪拌した。ラクチド混合物のスラリーを吸引濾過で固液分離し、予め5℃に冷却したトルエン9gとn−ヘプタン7gの混合溶媒で結晶を洗浄した。分離した結晶を100mmHg、70℃で6時間乾燥させ、18.8gの高純度ラクチドを得た。回収したラクチド中のメソ−ラクチドの割合は0.7%、光学純度は99.2%eeであった。結果を表4に示す。
【0033】
【表4】

【0034】
実施例5
100mlのフラスコにラクチド混合物(粗ラクチド)20gを添加し、約120℃に加熱した。ラクチド混合物が溶融状態になったことを確認した後、その温度を維持しながら、トルエン17gを添加し、さらに、n-ヘプタン14gを加え混合溶媒とした。120℃で攪拌をおこないラクチド混合物と混合溶媒を溶融状態で接触させた。その後、25℃まで放冷しスラリー状のラクチド混合物を得た。さらに、混合溶媒中でラクチド混合物のスラリーを25℃で1時間攪拌した。次いで、氷浴下5℃に冷却し1時間攪拌した。ラクチド混合物のスラリーを吸引濾過で固液分離し、予め5℃に冷却したトルエン9gとn−ヘプタン7gの混合溶媒で結晶を洗浄した。分離した結晶を100mmHg、70℃で6時間乾燥させ、18.5gの高純度ラクチドを得た。回収したラクチド中のメソ−ラクチドの割合は0.6%、光学純度は99.2%eeであった。結果を表5に示す。
【0035】
【表5】

【0036】
実施例6
100mlのフラスコにラクチド混合物(粗ラクチド)20gを添加し、約90℃に加熱した。ラクチド混合物が溶融状態になったことを確認した後、その温度を維持しながら、トルエン12gを添加し、さらに、n-ヘプタン18gを加え混合溶媒とした。90℃で攪拌をおこないラクチド混合物と混合溶媒を溶融状態で接触させた。その後、25℃まで放冷しスラリー状のラクチド混合物を得た。さらに、混合溶媒中でラクチド混合物のスラリーを25℃で1時間攪拌した。次いで、氷浴下5℃に冷却し1時間攪拌した。ラクチド混合物のスラリーを吸引濾過で固液分離し、予め5℃に冷却したトルエン6gとn−ヘプタン9gの混合溶媒で結晶を洗浄した。分離した結晶を100mmHg、70℃で6時間乾燥させ、18.7gの高純度ラクチドを得た。回収したラクチド中のメソ−ラクチドの割合は0.9%、光学純度は99.3%eeであった。結果を表6に示す。
【0037】
【表6】

【0038】
実施例7
100mlのフラスコにラクチド混合物(粗ラクチド)20gを添加し、120℃に加熱した。ラクチド混合物が溶融状態になったことを確認した後、その温度を維持しながら、トルエン12gを添加し、さらに、n-ヘプタン18gを加え混合溶媒とした。120℃で攪拌をおこないラクチド混合物と混合溶媒を溶融状態で接触させた。その後、25℃まで放冷しスラリー状のラクチド混合物を得た。さらに、混合溶媒中でラクチド混合物のスラリーを25℃で1時間攪拌した。次いで、氷浴下5℃に冷却し1時間攪拌した。ラクチド混合物のスラリーを吸引濾過で固液分離し、予め5℃に冷却したトルエン6gとn−ヘプタン9gの混合溶媒で結晶を洗浄した。分離した結晶を100mmHg、70℃で6時間乾燥させ、18.6gの高純度ラクチドを得た。回収したラクチド中のメソ−ラクチドの割合は1.0%、光学純度は99.3%eeであった。結果を表7に示す。
【0039】
【表7】

【0040】
比較例1
500mlのフラスコにトルエン152gと酢酸エチル22.5gを加え、混合溶媒を作成した。混合溶媒にラクチド混合物(粗ラクチド)100gを添加し、65℃まで攪拌しながら加熱した。ラクチド混合物の溶解を確認した後、2.5℃/hrで4℃まで冷却し、その温度で2時間攪拌した。析出した固体を吸引濾過で固液分離し、予め5℃に冷却したトルエン88gで結晶を洗浄した。分離した結晶を100mmHg、70℃で6時間乾燥させ、69.1gの高純度ラクチドを得た。回収したラクチド中のメソ−ラクチドの割合は0.6%、光学純度は99.9%eeであった。結果を表8に示す。
【0041】
【表8】

【0042】
比較例2
200mlのフラスコにラクチド混合物(粗ラクチド)30g添加し、さらに、トルエン21gとテトラヒドロフラン9gを加え、65℃まで攪拌しながら、加熱してラクチド混合物を完全に溶解させた。次いで、この溶液を30℃まで冷却し、結晶を析出させ濾過を行った。さらに、トルエン42gとテトラヒドロフラン18gの混合溶媒で洗浄を行った。得られたラクチドの結晶を減圧下で乾燥させ、8.9gのラクチドを得た。回収したラクチド中のメソ−ラクチドの割合は0.3%、光学純度は99.9%eeであった。結果を表9に示す。
【0043】
【表9】

【0044】
表1〜表9より、芳香族化合物溶媒と、脂肪族炭化水素化合物溶媒及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒との混合溶媒を用いることにより、ラクチドを高回収率で、メソラクチドを効率的に除去でき、高純度ラクチドが得られることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)、(b)
(a) L―ラクチド及び/又はD−ラクチドと、メソ−ラクチドとを含む混合物
(b) 芳香族化合物溶媒と、脂肪族炭化水素化合物溶媒及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒とを含む混合溶媒
を接触させる工程と、固液分離して固体分を回収する工程とを含む、精製された高純度ラクチドの製造方法。
【請求項2】
芳香族化合物溶媒が、炭素数6〜15のベンゼン系芳香族化合物溶媒からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
脂肪族炭化水素化合物溶媒及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒が、n−ヘプタン、n-ヘキサン、及びシクロヘキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
芳香族化合物溶媒の使用量が、ラクチド混合物100重量部に対して、5〜5000重量部である請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
脂肪族炭化水素化合物溶媒及び/又は脂環式炭化水素化合物溶媒の使用量が、ラクチド混合物100重量部に対して、5〜5000重量部である請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
接触工程において、ラクチド混合物の状態がスラリー状態、溶解状態、若しくは溶融状態であるか、これらのうちの2以上の状態の間で経時的に変化するか、又はこれらのうちの2以上の状態が混在している請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の方法により製造された高純度ラクチドを重合させることによりポリ乳酸を製造する方法。

【公開番号】特開2010−143867(P2010−143867A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−323708(P2008−323708)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000108993)ダイソー株式会社 (229)
【Fターム(参考)】