説明

精製クロロゲン酸の製造法

【課題】
簡便な方法で、効率よく高純度のクロロゲン酸類を製造する方法を提供すること。
【解決手段】
コーヒー豆抽出物を中性からアルカリ条件下にて合成吸着樹脂と接触処理することを特徴とする精製クロロゲン酸の製造法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品、保健衛生・医薬品等の天然抗酸化剤として有用な精製クロロゲン酸の製造方法に関し、更に詳しくは、クロロゲン酸以外の不純物、特にカフェインを実質的に含有しない高純度の精製クロロゲン酸の製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
コーヒーは単に嗜好品としてだけではなく多くの機能性、生理学的効果を有することが判明しつつあり、その機能性成分としてクロロゲン酸類が注目されている。クロロゲン酸類の機能としては従来より抗酸化性(特許文献1、2)、抗変異原性(非特許文献1)、発ガン抑制(非特許文献2)、活性酸素消去能(非特許文献3)などが知られている。コーヒー豆からクロロゲン酸類を抽出・精製する提案はすでに幾つかなされており、例えば、生コーヒー豆粉の水性スラリーを蛋白質分解酵素および/または繊維素分解酵素の存在下で処理し、その水性抽出物を濃縮して濃厚溶液とするか、凍結乾燥又は噴霧乾燥することからなる食用天然抗酸化物質の製造方法(特許文献3)、生コーヒー豆粉を還流下に水抽出し、生成する水性抽出液を濃縮して濃厚溶液とするか、凍結乾燥又は噴霧乾燥することを特徴とする食用天然抗酸化物質の製造法(特許文献4)、生コーヒー豆を粗粉砕し、脱脂し、次いで平均粒径100μm以下に微粉砕するか又は生コーヒー豆を直ちに平均粒径100μm以下に微粉砕し、次いで脱脂し、得られた微粉末を熱水抽出し、抽出液を必要に応じて濃縮及び/又は乾燥することからなる、食品用天然抗酸化剤の製造方法(特許文献5)、コーヒー生豆の水性溶媒抽出物を強陽イオン交換樹脂と接触させ、カフェインを除くことを特徴とするクロロゲン酸の精製方法(特許文献6)、コーヒー生豆の水性溶媒抽出物を合成吸着剤樹脂と接触処理し、吸着部を希アルカリ水溶液で脱着することを特徴とするクロロゲン酸の精製方法(特許文献7)、生コーヒー豆、コケモモの葉等の抽出物を架橋した修飾多糖類からなるモレキュラーシーブを用いたクロマトグラフィーを行いクロロゲン酸を精製する方法(特許文献8)、コーヒー生豆を含水エタノールにて抽出し、抽出液を塩酸分解し、さらに濃縮し、濃縮液をアルカリ性として有機溶媒洗浄を行い、中和後、多孔性重合樹脂にクロロゲン酸類を吸着させエタノールにて脱着し、エタノールを濃縮除去しクロロゲン酸類を精製する方法(特許文献9)、植物から得られるクロロゲン酸類を含む水溶性抽出物を活性炭処理後、活性炭に吸着した吸着物を有機溶媒あるいはそれらを含む水溶液によって溶離させる工程を備えることを特徴とする高濃度のクロロゲン酸類を含む組成物の製造方法(特許文献10)等が提案されている。
【0003】
【非特許文献1】Nuyen V.C.,Araki Y.,Jinnouchi T.and Murai H.:ASIC,16 Colloque,Kyoto,88−93(1995)
【非特許文献2】T.Tanaka and H.Mori:Proceedings of the 16th International Scientific Colloquium on Coffee,1995,Vol.1,pp.79−87
【非特許文献3】Araki Y.and Nguyen V.C.:ASIC,16 Colloque,Kyoto,104−108(1995)
【特許文献1】特開平4−27374号公報
【特許文献2】特開平6−38723号公報
【特許文献3】特開昭58−138347号公報
【特許文献4】特公昭61−30549号公報
【特許文献5】特開昭62−111671号公報
【特許文献6】特開平4−145048号公報
【特許文献7】特開平4−145049号公報
【特許文献8】特表昭63−502434号公報
【特許文献9】特許第2983386号公報
【特許文献10】特開2005−263632号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら特許文献3〜10に記載の先行技術によって得られる抽出物はクロロゲン酸の純度が低いか、または、工程が長く操作が煩雑であり実用上は必ずしも満足のいく方法とはいえなかった。したがって本発明の目的は簡便な方法で、効率よく高純度のクロロゲン酸を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
特許文献7に記載の精製方法では、コーヒー生豆の水性溶媒抽出物を合成吸着剤樹脂と接触処理し、吸着部を希アルカリ水溶液で脱着する2段階の工程による方法であり、操作が煩雑であった。そこで、本発明者等は、鋭意検討を行ったところ、コーヒー豆抽出物を中性からアルカリ条件下にて、合成吸着樹脂と接触処理することにより、1段階の工程でカフェインを実質的に含まないクロロゲン酸を精製できることを見出し、本発明を完成するに至った。
かくして本発明は、コーヒー豆抽出物を中性からアルカリ条件下にて合成吸着樹脂と接触処理することを特徴とする精製クロロゲン酸の製造法を提供するものである。
また、本発明は、中性からアルカリ条件がpH7〜12であることを特徴とする前記の精製クロロゲン酸の製造法を提供するものである。
さらに、本発明は、合成吸着樹脂がスチレン・ジビニルベンゼン系またはメタクリル酸エステル系多孔性合成吸着樹脂であることを特徴とする、前記の精製クロロゲン酸の製造法を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、飲料中での安定性が高く、異味異臭の無い、汎用性の高い、飲食品・保健衛生・医薬品等の天然抗酸化剤として有用な実質的にカフェインを含まない高純度の精製クロロゲン酸類を効率よく、簡便な方法で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について更に詳細に述べる。本発明でいうクロロゲン酸類としては、クロロゲン酸、カフェー酸、フェルラ酸、イソクロロゲン酸、ネオクロロゲン酸ならびにこれらの酸のナトリウム、カリウムのごとき水溶性塩類などを挙げることができる。
【0008】
本発明に使用するコーヒー豆は、例えば、アラビカ種、ロブスタ種、リベリカ種等のいずれでも良く、その種類、産地を問わずいかなるコーヒー豆でも利用することができる。
【0009】
コーヒー豆としては従来、生豆から抽出することが一般的であったが、焙煎したコーヒー豆でも使用することができる。特に、クロロゲン酸類が生豆に対し実質的に減少しない範囲の浅い焙煎、すなわちL値として30〜55、好ましくはL値45〜55の焙煎を行うと生豆特有の生臭みが消失するため、本発明の原料として好ましく例示できる。
【0010】
抽出溶媒としては、水が好ましいが、含水親水性有機溶媒、例えば、含水率5重量%以上、好ましくは含水率約5〜約90重量%のメタノール、エタノール、2−メチルエチルケトン、2−プロパノール、アセトン、メチルエチルケトン等の含水水混和性有機溶媒を例示することができる。
【0011】
これらの水または含水親水性有機溶媒は通常コーヒー豆粉砕物1重量部に対して約2〜約50重量部を使用し、温度約20℃〜100℃にて抽出を行う。抽出操作はバッチ式またはカラムによる連続式等の従来既知の抽出方法をそのまま採用することができる。
【0012】
アルカリ条件下での合成吸着樹脂による脱カフェイン処理方法は以下の方法を例示することができる。前記方法により得られた抽出液を、水抽出の場合はそのまま、また、含水水混和性有機溶媒抽出液の場合は、蒸留などの手段によって該有機溶媒の含有量を、例えば約5重量%以下とする。その後、抽出液のpHを約7〜約12の中性からアルカリ性とした後、合成吸着樹脂と接触処理することによってコーヒー豆抽出液中のカフェイン及びトリゴネリン等の抽出成分を該合成吸着樹脂に吸着せしめる。かかるアルカリ性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等を挙げることができる。合成吸着樹脂としては例えば、例えば、比表面積約300〜約700m/g;細孔容積約0.7〜約1.1ml/g;細孔半径約5〜約130nmの範囲の物性を有するスチレン・ジビニルベンゼ系多孔性合成吸着樹脂を挙げることができる。このような合成吸着樹脂は市場で容易に入手することができ、例えば、ダイヤイオンHP10,同HP20,同HP30,同HP40,同HP50,同SP206,同SP207(以上三菱化成社);アンバーライトXAD−2,同XAD−4(以上Rohm & Haas社);日立ゲル#3010,同#3011,同#3019(以上日立化成社)等を挙げることができる。また、上記スチレン・ジビニルベンゼン系合成樹脂吸着樹脂と同程度の比表面積、細孔容積及び細孔半径を有するメタクリル酸エステル系多孔性合成樹脂吸着剤を例示することができ、かかる合成吸着樹脂の市販品としては、例えば、ダイヤイオンHP1MG、同2MG(以上三菱化成社);アンバーライトXAD−7,同XAD−8i(以上Rohm & Haas社)等を挙げることができる。このような合成樹脂吸着樹脂との接触処理はバッチ式、カラムによる連続処理等のいかなる態様も採用することができるが、一般的には該合成吸着樹脂を充填したカラムによる連続処理が採用される。
【0013】
上記接触処理の条件は、コーヒー豆の種類、抽出液の濃度などに応じて適宜に選択することができるが、例えば、カラムによる連続処理の条件としては、合成樹脂吸着樹脂1容量に対して約1〜約50容量のコーヒー抽出液を、液温約10〜約30℃、SV約0.5〜約30程度の流速で通液するごとき条件を例示することができる。
【0014】
かくして得られた通過液は液性が中性からアルカリ性となっているため、既知の有機酸、無機酸を用いて中和、または、中和処理に代えて、予めH型にしておいた陽イオン交換樹脂と接触させて、該溶液の液性を酸性側にすることによって中和による生成塩を含有しない、脱カフェインコーヒー抽出液とすることができる。陽イオン交換樹脂を用いることにより、有機酸または無機酸添加による中和処理よりも更にクロロゲン酸純度を高めることができる。
【0015】
かくして得られた精製クロロゲン酸を含む溶液は、減圧または常圧にて濃縮し、濃縮液とすることもできる。該濃縮物は濃縮の途中あるいは濃縮後にグリセリン、プロピレングリコール、エタノール等の保留剤を添加することにより、状態の安定化をはかり、また、クロロゲン酸類の含有濃度の調整を行うこともできる。また、該濃縮液はそのまま、あるいはデキストリン類、デンプン類、天然ガム類、糖類その他の賦形剤を添加して、既知の方法により乾燥して、粉末状、顆粒状その他任意の固体形態とすることもできる。
以下、実施例により本発明の好ましい態様をさらに詳しく説明する。
【実施例】
【0016】
実施例1(アルカリ条件下で合成吸着樹脂と接触処理する例)
L値43.2に焙煎したコーヒー豆の粉砕物1000gをカラムに充填し(カラム内径7cm、長さ25cm、1本につきコーヒー豆200gを充填し、5本連結)、95℃に加温した軟水を流速2500ml/hrでカラム上部から下部へ送り込み、カラム下部から抜き取った抽出液は、次のカラムの上部へ順次送り込み5本目のカラムより最終的な抽出液を抜き取る方法にて連続抽出を行い、抜き取り液がBx1.0°を下回った時点で抽出終了(所要時間約3時間)とし、Bx6.0°のコーヒーエキス5300g)を得た。得られたコーヒーエキスは20℃に冷却後、No.26(210mm)に濾紙ケイソウ土50gをプレコートしたヌッチェにて吸引濾過し、濾液5300g(以下、コーヒー抽出液1とする)を得た(pH5.6、クロロゲン酸1.4%、カフェイン0.4%)。これに、10%水酸化ナトリウム水溶液58gを加え、pHを10に調整した。この溶液を、合成吸着樹脂(SP−70)600mlを充填したカラムにSV=2.5で通液してカフェインを吸着させた。得られた通過液を引き続き陽イオン交換樹脂(SK−116)200mlを充填したカラムに通液してナトリウムイオンを除き、さらに水押して、脱カフェインコーヒー抽出液7694g(pH4.2、クロロゲン酸1.0%、カフェイン不検出)を得た。
【0017】
比較例1(コーヒー抽出液を合成吸着樹脂と接触処理し、合成吸着樹脂からアルカリ性のエタノール水溶液にて脱着する例)
実施例1と全く同ーの条件および方法にてコーヒー抽出液1(5300g)を得た。この溶液を、合成吸着樹脂(SP−70)600mlを充填したカラムにSV=1.0で通液してクロロゲン酸、カフェインを吸着させた。その後、0.5%炭酸ソーダ10%エタノール2100gをSV=1.0で通液してクロロゲン酸を脱着した。得られた脱着液を引き続き陽イオン交換樹脂(SK−116)200mlを充填したカラムに通液してナトリウムイオンを除き、さらに水押して、脱カフェインコーヒー抽出液7461g(pH4.5、クロロゲン酸0.9%、カフェイン不検出)を得た。
クロロゲン酸類含量の分析方法:
試料約0.3gを100mlメスフラスコに精秤し、イオン交換水にて100mlとする。その5mlを100mlメスフラスコにとり、イオン交換水を加えて100mlに希釈し、希釈液の波長325nmの吸光度を測定する。ここで測定した吸光度をA、試料採取量(約0.3g)をBとしたとき、次式によりクロロゲン酸量を算出する(クロロゲン酸の325nmにおける吸光係数を52000として計算する)。
クロロゲン酸(g)={A×(100÷5)×(50÷B)}÷52000
カフェインの分析方法:HPLC法
水分の測定方法:Kett赤外線水分計
固形分の測定方法:固形分(%)=(100−水分(%))
として計算した。
【0018】
比較例1では1)抽出、2)合成吸着樹脂通液、3)アルカリ性エタノール水溶液脱着、4)陽イオン交換樹脂通液の4工程を要しているが、実施例1では1)抽出、2)合成吸着樹脂通液、3)陽イオン交換樹脂通液の3工程で、同等のクロロゲン酸量、カフェイン含量を含有する抽出液を得ることができ、より簡便な工程にて実質的にカフェインを含まない高純度の精製クロロゲン酸を得ることができた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーヒー豆抽出物を中性からアルカリ条件下にて合成吸着樹脂と接触処理することを特徴とする精製クロロゲン酸の製造法。
【請求項2】
中性からアルカリ条件がpH7〜12であることを特徴とする請求項1に記載の精製クロロゲン酸の製造法。
【請求項3】
合成吸着樹脂がスチレン・ジビニルベンゼン系またはメタクリル酸エステル系多孔性合成吸着樹脂であることを特徴とする、請求項1に記載の精製クロロゲン酸の製造法。

【公開番号】特開2008−7450(P2008−7450A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−178314(P2006−178314)
【出願日】平成18年6月28日(2006.6.28)
【出願人】(000214537)長谷川香料株式会社 (176)
【Fターム(参考)】