説明

精製ペンタメチレンジアミンの製造方法及びポリアミド樹脂の製造方法

【課題】ペンタメチレンジアミン炭酸塩の熱分解によるペンタメチレンジアミンの製造において、配管閉塞等の製造トラブルを防止した上で、簡易な製造工程で、精製ペンタメチレンジアミンを高収率で回収する。
【解決手段】ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液を加熱することにより、留出液を除去しながら、粗ペンタメチレンジアミンと二酸化炭素に分解する熱分解工程を含む精製ペンタメチレンジアミンの製造方法。ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解率が90モル%を超えるまで、留出液中の水分濃度が75重量%以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製ペンタメチレンジアミンの製造方法及びポリアミド樹脂の製造方法に関し、詳しくは、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液の加熱による熱分解工程を含む精製ペンタメチレンジアミンの製造方法と、該精製ペンタメチレンジアミンを用いたポリアミド樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、プラスチック原料としては、その殆どがいわゆる化石原料由来のものが用いられている。再生利用する場合を除き、化石原料由来のプラスチックを廃棄する場合、燃焼等による処理は炭酸ガスの放出を招くことから近年問題となりつつある。そこで、地球温暖化防止及び循環型社会の形成に向けて、プラスチックの製造原料をバイオマス由来の原料に置き換えることが嘱望されている。このようなニーズは、フィルム、自動車部品、電気・電子部品、機械部品等の射出成形品、繊維、モノフィラメント等、多岐にわたる。
【0003】
このような背景の下、リジンから得られたペンタメチレンジアミン(以下、カダベリンと称する場合がある)を原料として用いるポリアミド56やポリアミド56/66等は植物由来ポリマーとしての期待が大きい。ポリアミド樹脂は、機械的強度、耐熱性、耐薬品性等に優れており、所謂エンジニアリングプラスチックスの1つとして多くの分野で使用されている。
【0004】
従来、ペンタメチレンジアミンの製造方法として、以下の報告(特許文献1〜特許文献5)が挙げられる。
【0005】
特許文献1には、リジン溶液のpHが酵素的脱炭酸反応に適したpH4.0〜8.0に維持されるように、炭素数4〜10のジカルボン酸を加えながら、リジンの酵素的脱炭酸反応を行うことにより、カダベリン・ジカルボン酸塩を生成させる方法が記載されている。
【0006】
特許文献2には、L−リジン・ジカルボン酸塩水溶液に、L−リジン脱炭酸酵素遺伝子を導入した大腸菌もしくはL−リジン脱炭酸酵素を細胞表面に局在化させた大腸菌を接触させ、ジカルボン酸によりpHを制御しながら行ったL−リジン発酵液を用い、L−リジン脱炭酸酵素を調製することによりカダベリン・ジカルボン酸塩を製造する方法が記載されている。
【0007】
特許文献3には、高濃度のL−リジン一塩酸塩に、N末端アミノ酸配列に6個のヒスチジンを付与したL−リジン脱炭酸酵素遺伝子を導入した大腸菌の細胞破砕液もしくはL−リジン脱炭酸酵素を細胞表面に局在化させた大腸菌を接触させることにより、pHを制御する必要がなく、カダベリンを高濃度、高反応収率、高生産速度で生成させ、この反応液をpH13以上にし、極性有機溶媒で抽出し、蒸留することによりカダベリンを製造する方法及び該カダベリンを用いたポリアミド樹脂の製造方法が記載されている。
【0008】
特許文献4には、リジン炭酸塩を基質として、二酸化炭素添加によるpH調整後にリジンの酵素的脱炭酸反応により生成したカダベリン炭酸塩にジカルボン酸塩を添加し、炭酸との塩交換反応後、単離工程を経てカダベリン・ジカルボン酸塩を製造する方法及び該カダベリン・ジカルボン酸塩を用いたポリアミド樹脂の製造方法が記載されている。
【0009】
特許文献5には、ペンタメチレンジアミン炭酸塩を熱分解させて特定濃度のペンタメチレンジアミンを得、蒸留精製することにより、高品質のペンタメチレンジアミンを高収率で得る方法及び該ペンタメチレンジアミンを用いたポリアミド樹脂の製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−006650号公報
【特許文献2】特開2004−208646号公報
【特許文献3】特開2004−000114号公報
【特許文献4】国際公開第2006/123778号パンフレット
【特許文献5】国際公開第2010/002000号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、リジンの酵素的脱炭酸反応(以下、LDC反応と称する場合がある。)から得られたペンタメチレンジアミン・ジカルボン酸塩は、反応液から公知の方法を組み合わせることによって単離、生成することができる。例えば、ペンタメチレンジアミン・ジカルボン酸塩の結晶は、濃縮した反応液を冷却することによりペンタメチレンジアミン・ジカルボン酸塩を析出させ、その後、遠心分離等、通常の固液分離方法によって単離される。
しかし、晶析法では、高収率でペンタメチレンジアミン・ジカルボン酸塩を得ることは困難であるだけでなく、不純物の除去が完全に行われないために、これを原料として得られたポリアミドが着色するという問題があった。
【0012】
また、LDC反応により生成したペンタメチレンジアミンを反応液から採取する方法として、反応終了液に水酸化ナトリウム等のアルカリを添加し、液pHを12〜14に調整後、クロロホルム等の極性有機溶媒でペンタメチレンジアミンを抽出する方法が知られている。しかし、有機溶媒は有害性があるものが多く、特に、クロロホルムには急性毒性があるため、その取り扱いは好ましくない。また、抽出に有機溶媒を使用すると、有機溶媒を回収しない場合はコストに大きく影響し、一方で有機溶媒を回収する場合は、回収工程が必要となり、プロセスが複雑になるだけでなく、エネルギー的にも不利になるという問題がある。
【0013】
さらに、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液を40℃程度で減圧濃縮し、炭酸イオン等を二酸化炭素として放出することによりペンタメチレンジアミンを得る方法も考えられる。しかし、この方法では、ペンタメチレンジアミン炭酸塩から炭酸イオン等を分離するために長時間を要する場合がある。
【0014】
また、特許文献5に記載されるペンタメチレンジアミン炭酸塩を熱分解させて特定濃度のペンタメチレンジアミンを得る工程では、留出したペンタメチレンジアミンと分解により発生した二酸化炭素とが反応してペンタメチレンジアミン炭酸塩を形成して配管閉塞やコンデンサー閉塞等の危険性があるが、特許文献5にはそれらの危険性、及び防止策についての記載はない。
【0015】
本発明は、ペンタメチレンジアミン炭酸塩から、配管閉塞等の製造トラブルを防止した上で、簡易な製造工程で、精製ペンタメチレンジアミンを高収率で回収する精製ペンタメチレンジアミンの製造方法を提供することを課題とする。
本発明はまた、このようにして製造された精製ペンタメチレンジアミンを用いたポリアミド樹脂の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは鋭意検討を行った結果、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液を熱分解することにより粗ペンタメチレンジアミンと二酸化炭素を得る際に、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解率が90モル%を超えるまで、系外へ除去する留出液の水分濃度を75重量%以上に維持することにより、配管閉塞等の製造トラブル危険性を低減し、高収率で精製ペンタメチレンジアミンを得ることができることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成した。
【0017】
本発明によれば、下記請求項に係る精製ペンタメチレンジアミンの製造方法及びポリアミド樹脂の製造方法が提供される。
【0018】
請求項1に係る発明は、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液を加熱することにより、留出液を除去しながら、粗ペンタメチレンジアミンと二酸化炭素を得る熱分解工程を含む精製ペンタメチレンジアミンの製造方法であって、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解率が90モル%を超えるまで、前記留出液中の水分濃度が75重量%以上であることを特徴とする精製ペンタメチレンジアミンの製造方法、である。
【0019】
請求項2に係る発明は、前記熱分解工程の圧力が0.21MPa〜1.0MPaであることを特徴とする請求項1又は2に記載の精製ぺンタメチレンジアミンの製造方法、である。
【0020】
請求項3に係る発明は、前記熱分解工程の最高温度が110℃〜250℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載の精製ペンタメチレンジアミンの製造方法、である。
【0021】
請求項4に係る発明は、前記熱分解工程に先立って、リジン脱炭酸酵素、リジン脱炭酸酵素活性の向上した組み換え微生物、リジン脱炭酸酵素を産生する細胞もしくは当該細胞の処理物からなる群の少なくとも1つを使用し、リジン及び/又はリジン炭酸塩からペンタメチレンジアミン炭酸塩を産出する酵素的脱炭酸反応工程を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の精製ペンタメチレンジアミンの製造方法、である。
【0022】
請求項5に係る発明は、前記粗ペンタメチレンジアミンを更に蒸留する蒸留工程を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の精製ペンタメチレンジアミンの製造方法、である。
【0023】
請求項6に係る発明は、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法により製造された精製ペンタメチレンジアミンとジカルボン酸とを重縮合させる工程を含むことを特徴とするポリアミド樹脂の製造方法、である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、従来法と比較して、単純な製造工程により、高い収率で精製ペンタメチレンジアミンを製造することができ、且つ、配管閉塞等の製造トラブル危険性を低減することができる。
従って、本発明によれば、精製ペンタメチレンジアミン及びこの精製ペンタメチレンジアミンを用いたポリアミド樹脂を工業的に有利に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】自動滴定装置による測定結果の一例を示すチャートである。
【図2】自動滴定装置による測定結果の一例を示すチャートである。
【図3】cadAのクローニングの手順を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。また、使用する図面は本実施の形態を説明するためのものであり、実際の大きさを表すものではない。
【0027】
なお、本発明において、「全ペンタメチレンジアミン」とは、「ペンタメチレンジアミンとペンタメチレンジアミン炭酸塩中のペンタメチレンジアミン成分の両方を含むペンタメチレンジアミン」を表す。また、通常「ペンタメチレンジアミン」と表記した場合は、「遊離のペンタメチレンジアミン」を表し、「全ペンタメチレンジアミン」とは区別して使用する。
また、本発明において、「粗ペンタメチレンジアミン」とは、未精製のペンタメチレンジアミンを表し、「精製ペンタメチレンジアミン」とは、精製後のペンタメチレンジアミンを表す。
【0028】
また、本発明において、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解率(モル%)とは、熱分解反応系内の全ペンタメチレンジアミン(ペンタメチレンジアミンとペンタメチレンジアミン炭酸塩のペンタメチレンジアミン成分との合計)のモル数を100とした時のペンタメチレンジアミンの割合を表したものであり、次式で表すことが出来る。
ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解率(モル%)=(ペンタメチレンジアミン濃度(重量%)÷102.18)÷(ペンタメチレンジアミン濃度(重量%)÷102.18+ペンタメチレンジアミン炭酸塩濃度(重量%)÷164.21)×100
ここで、102.18とはペンタメチレンジアミンの分子量であり、164.21とはペンタメチレンジアミン炭酸塩の分子量である。
【0029】
[精製ペンタメチレンジアミンの製造方法]
{ペンタメチレンジアミン炭酸塩}
本実施の形態で使用するペンタメチレンジアミン炭酸塩は、リジンの酵素的脱炭酸反応(LDC反応)により得られるものであることが好ましい。リジンのLDC反応は、リジン及び/又はリジン炭酸塩と、リジン脱炭酸酵素、リジン脱炭酸酵素活性の向上した組み換え微生物、リジン脱炭酸酵素を産生する細胞もしくは当該細胞の処理物からなる群の少なくとも1つを使用して行われる。リジンのLDC反応については後述する。
【0030】
リジンのLDC反応により産出されるペンタメチレンジアミン炭酸塩は、通常水溶液として得られる。通常、このペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液中のペンタメチレンジアミン炭酸塩の濃度は1重量%〜80重量%、好ましくは10重量%〜50重量%である。
【0031】
{ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液中の不純物の処理}
リジンのLDC反応により得られたペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液には、通常3個以上の官能基を有する有機物やタンパク質等の高分子物質を含む不純物が含まれている。
【0032】
ここで、3個以上の官能基を有する有機物とは、分子内に架橋ゲルの原因となり得る官能基を3個以上有する有機物が挙げられる。このような官能基としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、スルホン基、リン酸基、水酸基、ヒドラジド基、エポキシ基、メルカプト基、ニトロ基、アルコキシル基等が挙げられる。
3個以上の官能基を有する有機物としては、アミノ酸、オリゴ糖、リンゴ酸、クエン酸等が挙げられる。アミノ酸の具体例としては、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸、アスパラギン、グルタミン、リジン、オルニチン、ヒドロキシリジン、アルギニン、ヒスチジン等が挙げられる。中でもリジンが多く存在する。なお、これらのアミノ酸はL体でもD体でも構わない。
また、特に、ペンタメチレンジアミン炭酸塩が、後述するリジン脱炭酸酵素を使用しリジン又はリジン炭酸塩から産出されたものである場合、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液中には、高分子不純物として、例えば、タンパク質、核酸、多糖類等が含まれる。
【0033】
上述のように、リジンのLDC反応により得られたペンタメチレンジアミン炭酸塩は、通常3個以上の官能基を有する有機物やタンパク質等の高分子物質を含む不純物が含まれている。このような不純物が残存した状態で、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液の加熱、蒸留操作を例えば蒸留塔等により行うと、蒸留塔の塔底等に不純物が原因と考えられる高粘度物質が堆積する等、トラブルの原因となる。また、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液中に高分子不純物が含まれた状態で加熱処理を行うと、加熱処理装置の伝熱効率低下等の原因になり得る。
このため、本実施の形態では、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液中の不純物を、少なくとも後述する蒸留工程の前、あるいは熱分解工程を行う前に、予め低減させることが好ましい。
【0034】
<3個以上の官能基を有する有機物の低減方法>
ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液中に存在する3個以上の官能基を有する有機物のなかでも、リジン等のアミノ酸は、リジン脱炭酸酵素(以下、LDCと称する場合がある)の使用に伴う微生物(菌体)に由来する。このため、リジンのLDC反応時に使用する菌体の量を所定範囲内に抑えることにより、得られるペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液中のリジン等のアミノ酸量を低減することができる。さらに、LDC反応の転化率が約100%になるまでLDC反応を行うことにより、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液中のリジン濃度を検出限界以下にすることが可能である。
上述した操作により、本実施の形態では、少なくとも後述の蒸留工程の前あるいは熱分解工程の前にペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液中に含まれる3個以上の官能基を有する有機物の合計含有量は、水溶液に含まれるペンタメチレンジアミン換算のペンタメチレンジアミン炭酸塩量に対する重量比率で、通常0.01以下、好ましくは0.009以下、さらに好ましくは0.008以下、特に好ましくは0.007以下に低減する。
【0035】
<高分子不純物の除去処理>
本実施の形態で使用するペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液は、加熱による熱分解工程に先立ち、予め、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液中に含まれる高分子不純物を除去することが好ましい。
【0036】
高分子不純物を除去する方法は、通常水溶液中に添加した吸着剤に高分子不純物を吸着させる方法、水溶液を予め定めたサイズの膜により濾過する方法等が挙げられる。中でも簡便性と除去効果の観点から、水溶液を限外濾過膜(UF膜)を用いて処理する方法が好ましい。
【0037】
本実施の形態では、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液を、UF膜を用いて処理することにより、水溶液中に含まれる分子量12,000以上、好ましくは分子量5,000以上、特に好ましくは分子量1,000以上の高分子不純物を除去する。
【0038】
用いるUF膜の材質としては、例えば、酢酸セルロース、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム、アクリロニトリル共重合体、ポリアミド12等が挙げられる。中でもアクリロニトリル共重合体が好ましい。
UF膜の膜形状は、平膜、中空糸、板、管、スパイラル巻き等が挙げられる。中でも中空糸膜が好ましい。また、種々のUF膜モジュールが各社から販売されており、操作のしやすさからモジュール化したものが好ましい。
【0039】
{熱分解工程}
本実施の形態において、リジンのLDC反応等により得られたペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液を加熱し、予め定めた温度及び圧力により粗ペンタメチレンジアミンと二酸化炭素とに熱分解する。更に必要に応じて、ペンタメチレンジアミンを蒸留し、不純物が除去された精製ペンタメチレンジアミンを得ることができる。
初めに、ペンタメチレンジアミン炭酸塩を熱分解する工程について説明する。
【0040】
ペンタメチレンジアミン炭酸塩は、加熱することにより熱分解する。そのため、熱分解は加熱を伴う濃縮、還流、脱水蒸留等のいずれにおいても発生する。従って、本発明における熱分解温度の最高温度とは、加熱を伴う全工程における最高温度と等しい。
【0041】
前述したように、リジンのLDC反応により得られたペンタメチレンジアミン炭酸塩は、通常水溶液として得られる。この場合、加熱処理により蒸発する水の蒸発潜熱のため、そのまま加熱した場合、水溶液の温度が上昇しにくいために、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の熱分解が進行せずに、脱水後にペンタメチレンジアミン炭酸塩が析出する可能性がある。
【0042】
このため、本実施の形態では、リジンのLDC反応等により得られたペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液を、必要に応じて濃縮操作や還流操作を施し、予め定めたペンタメチレンジアミン炭酸塩濃度に調製した後、熱分解工程によりペンタメチレンジアミン炭酸塩を粗ペンタメチレンジアミンと二酸化炭素に分解することが好ましい。
熱分解に供するペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液中のペンタメチレンジアミン炭酸塩濃度は、通常1重量%〜80重量%、好ましくは20重量%〜60重量%であるので、リジンのLDC反応後、得られたペンタメチレンジアミン炭酸塩の濃度がこの範囲より低い場合は、必要に応じて濃縮操作や還流操作により濃度調整を行うことが好ましい。
【0043】
本発明における熱分解工程では、留出液を系外へ除去しながら、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液を粗ペンタメチレンジアミンと二酸化炭素に分解する。
本熱分解工程においては、前記留出液にペンタメチレンジアミンと、ペンタメチレンジアミン炭酸塩が分解して生成した二酸化炭素とが含まれる場合があり、コンデンサー付近や配管内で再びペンタメチレンジアミン炭酸塩を生成し、生成したペンタメチレンジアミン炭酸塩が析出して、配管閉塞等を引き起こす可能性がある。
とりわけ、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解率が高く、且つ、留出液の水分濃度が低いと、前記配管閉塞等の可能性が高くなる。
【0044】
本発明の熱分解工程においては、熱分解反応液中のペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解率が90モル%を超えるまで、留出液の水分濃度が75重量%以上、好ましくは80重量%以上、更に好ましくは85重量%以上となるように、水分濃度を制御する。ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解率が十分に上がるまでの間に抜き出される留出液の水分濃度が過度に低いと、配管等が閉塞する可能性があり、熱分解工程が行えなくなる場合がある。
【0045】
更に本発明の熱分解工程において、熱分解反応液中のペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解率が95モル%を超えるまで、留出液の水分濃度が通常35重量%以上、好ましくは40重量%以上、より好ましくは45重量%以上、更に好ましくは50重量%以上となるように、水分濃度を制御する。ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解率が十分に上がるまでの間に抜き出される留出液の水分濃度が過度に低いと、配管等が閉塞する可能性があり、熱分解工程が行えなくなる場合がある。
【0046】
本発明において、留出液の水分濃度を上記下限以上に維持する方法には特に制限はなく、上記水分濃度の留出液が得られるような条件で熱分解を行えばよい。通常、熱分解工程の温度と圧力を調整することにより、留出液の水分濃度を制御することができる。なお、前記ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液に水を添加しながら熱分解を行うことも好ましい。とりわけ、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解率が高い段階で、水添加を行うことが更に好ましい。添加する水の形態は、スチーム、温水、冷水等のいずれであっても良い。
【0047】
なお、留出液中の水分濃度の上限には特に制限はないが、通常ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解率が90モ%ルを超えるまでに留出する留出液中の水分濃度は100重量%以下、好ましくは90重量%以下であり、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解率が95モル%を超えるまでに留出する留出液中の水分濃度は50重量%以下、好ましくは60重量%以下である。
留出液中の水分濃度が過度に高いと熱分解工程の時間が長くなる可能性がある。
【0048】
本発明に係る熱分解工程における圧力は、通常0.21MPa以上、好ましくは0.30MPa以上、さらに好ましくは0.40MPa以上である。また、通常1.0MPa以下、好ましくは0.90MPa以下、さらに好ましくは0.80MPa以下である。
熱分解工程における圧力が過度に低いと熱分解中にペンタメチレンジアミンと、ペンタメチレンジアミン炭酸塩が分解して生成した二酸化炭素が留出液中に含有されやすくなり、両者が反応してペンタメチレンジアミン炭酸塩を生成し、生成したペンタメチレンジアミン炭酸塩が析出する可能性がある。また、圧力が過度に高いと熱分解速度が遅くなるため好ましくない。なお、本発明における圧力とは絶対圧力である。
【0049】
本発明に係る熱分解温度の最高温度は、通常110℃以上、好ましくは130℃以上、より好ましくは150℃以上、特に好ましくは170℃以上である。また、通常250℃以下、好ましくは230℃以下、より好ましくは210℃以下、特に好ましくは200℃以下ある。
前記最高温度が過度に低いと、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解の進行が遅くなり、その後に行われる蒸留操作による収率が低下したり、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の析出が起こる傾向がある。また、前記最高温度が過度に高いと、ペンタメチレンジアミンそのものが分解し、別の化合物に変化する可能性がある。
【0050】
熱分解反応槽の伝面及び総括伝熱係数(U)によっても異なるため、特に限定されないが、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の熱分解のための加熱時間は、特に限定されないが、通常1時間以上、好ましくは2時間以上、さらに好ましくは3時間以上で、通常50時間以下である。加熱時間が過度に短いと、分解が不十分である場合がある。又、加熱時間が過度に長いと、重縮合反応で得られたポリアミド樹脂の色調が悪化する可能性がある。
【0051】
熱分解工程では、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液にガスを吹き込ながらペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解を行ってもよい。この場合のガスの種類としては不活性ガスが好ましく、通常窒素やアルゴンが好ましく使用される。ガスを吹き込むことにより二酸化炭素の分圧が低下し、より分解が進行しやすくなる。
【0052】
熱分解工程において得られる粗ペンタメチレンジアミン中には、ペンタメチレンジアミンの他、ペンタメチレンジアミン炭酸塩、水、更にはリジン由来の不純物、酵素的脱炭酸反応で生成した不純物等が含まれている。使用するリジンの種類には、精製された医薬グレードのリジンや、グルコースの醗酵により得られたリジン水溶液があり、含まれる不純物量が異なる。そのため、使用するリジンの種類により熱分解で得られる粗ペンタメチレンジアミン中に含まれる不純物量が異なり、粗ペンタメチレンジアミン中の全ペンタメチレンジアミン(ペンタメチレンジアミンとペンタメチレンジアミン炭酸塩のペンタメチレンジアミン成分との合計)濃度は通常50重量%以上であるが、通常99重量%以下であり、リジンの種類によっては不純物量が多いため、95重量%以下の場合もある。
【0053】
{蒸留工程}
本実施の形態においては、好ましくは、前記熱分解工程で得られる粗ペンタメチレンジアミンを蒸留することにより、不純物が除去された精製ペンタメチレンジアミンを得る。
次に、その蒸留工程について説明する。
【0054】
蒸留工程では、前述した熱分解工程により得られた粗ペンタメチレンジアミンを蒸留することにより、精製ペンタメチレンジアミンを得る。
この蒸留工程に先立って、熱分解工程で発生した二酸化炭素を、反応槽もしくは蒸留塔内から除去しておくことが好ましい。二酸化炭素を除去しない場合、反応槽や蒸留塔上部に二酸化炭素が存在するために、二酸化炭素と蒸留されたペンタメチレンジアミンとが反応してペンタメチレンジアミン炭酸塩を生成し、塔内壁に付着して閉塞等の原因となる場合がある。
【0055】
二酸化炭素を除去する方法としては、不活性ガスを吹き込むことにより、塔内を不活性ガス雰囲気とする方法がある。不活性ガスの種類としては、窒素やアルゴンを用いることができる。また、熱分解工程で使用する反応槽や蒸留塔と、蒸留工程で使用する蒸留塔を別に設けることで、蒸留工程でのペンタメチレンジアミン炭酸塩の生成を防ぐことができる。
【0056】
さらに、蒸留により単離されたペンタメチレンジアミン中にペンタメチレンジアミン炭酸塩が含まれ、ペンタメチレンジアミンの融点以上の温度においても凝固し、抜き出しが困難となる可能性がある。その場合、蒸留した精製ペンタメチレンジアミンに水を加えることにより、ペンタメチレンジアミンを凝固させずに水溶液として得ることができる。その際、水溶液中の全ペンタメチレンジアミン濃度は通常20重量%以上、好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは40重量%以上であり、通常99重量%以下、好ましくは95重量%以下、さらに好ましくは90重量%以下である。
【0057】
蒸留工程における温度や圧力の条件は、熱分解工程の条件と比較してペンタメチレンジアミン炭酸塩が分解しにくい条件が好ましい。熱分解工程において分解せずに残ったペンタメチレンジアミン炭酸塩が、蒸留工程において分解した場合、前述のとおり、蒸留塔上部に二酸化炭素が存在するためにペンタメチレンジアミン炭酸塩が生成し、閉塞や蒸留により得たペンタメチレンジアミンの凝固の原因となる。
【0058】
蒸留の際の蒸留温度は、通常40℃〜300℃、好ましくは50℃〜200℃、より好ましくは60℃〜180℃、さらに好ましくは70℃〜150℃、特に好ましくは70℃〜120℃である。また蒸留圧力は、通常0.2kPa〜1200kPa、好ましくは0.5kPa〜800kPa、さらに好ましくは1.0kPa〜500kPaである。
【0059】
なお、蒸留により得られた精製ペンタメチレンジアミンには、一部、ペンタメチレンジアミン炭酸塩が含まれる可能性がある。しかし、このペンタメチレンジアミン炭酸塩は容易にジカルボン酸と塩交換をするため、ポリアミド樹脂の重合に供する単量体として問題なく使用することができる。
【0060】
また、蒸留で得られる精製ペンタメチレンジアミンの重量(回収量)は、使用するリジンの種類による熱分解工程で得られる粗ペンタメチレンジアミンの純度の差異によるが、バッチ式の場合は粗ペンタメチレンジアミンの重量に対して、連続式の場合は単位時間当たりに蒸留装置に供給される粗ペンタメチレンジアミンの重量に対して、通常99重量%以下、好ましくは97重量%以下、さらに好ましくは95重量%以下である。また通常40重量%以上、好ましくは45重量%以上、さらに好ましくは50重量%以上である。蒸留回収量が過度に多いと、蒸留塔の塔底で、不純物による反応生成物又は不純物の濃縮物のような高粘度物質が堆積し、トラブルを招く原因となる。また、蒸留回収量が過度に少ないと、バッチ式の場合は収率の低下に繋がり、連続式の場合は生産効率が低下するため好ましくない。
【0061】
{回収物の再使用}
<二酸化炭素の回収・再使用>
次に、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の熱分解工程における分解で生成した二酸化炭素の回収・再使用について説明する。
二酸化炭素は、出発原料からペンタメチレンジアミンを製造する間のいずれの工程においても使用することができ、特に限定されない。特に、本実施の形態では、リジンと二酸化炭素からリジン炭酸塩を得るリジン炭酸塩生成工程、リジン炭酸塩からペンタメチレンジアミン炭酸塩を生成する酵素的脱炭酸反応工程に使用することが好ましい。後者の場合は、酵素的脱炭酸反応が進むとpHが高くなるので、中性になるようにpH調整することが好ましく、そのpH調整に二酸化炭素を使用することができる。
【0062】
二酸化炭素の回収・再使用の方法は特に限定されないが、熱分解工程にて回収される水を冷却器により分離した後、排出される二酸化炭素をそのままリジン炭酸塩生成工程、あるいは酵素的脱炭酸反応工程にて再使用してもよい。その際、圧縮機を使用して二酸化炭素を圧縮して使用してもよい。
【0063】
<水の回収・再使用>
更に、ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液の濃縮や、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の熱分解工程にて回収された水と、後述するペンタメチレンジアミンとジカルボン酸の濃縮工程及び重縮合反応工程にて回収された水の再使用について説明する。
水は、出発原料からペンタメチレンジアミンを製造する間のいずれの工程においても使用することができ、特に限定されない。特に、本実施の形態では、リジンと二酸化炭素からリジン炭酸塩を得るリジン炭酸塩生成工程、リジン炭酸塩からペンタメチレンジアミン炭酸塩を産出する酵素的脱炭酸反応工程に使用することが好ましい。
【0064】
ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液の濃縮、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の熱分解、ペンタメチレンジアミンとジカルボン酸の濃縮工程及び/又は重縮合反応工程では加熱を伴うため、回収された水にはペンタメチレンジアミンの一部が分解して生成した不純物が含まれる可能性がある。このため、回収された水はそのまま再使用してもよいが、ペンタメチレンジアミンが分解して生成した不純物を除去してから再使用することが好ましい。不純物の除去の方法は特に限定されないが、イオン交換樹脂法、活性炭処理法などの吸着法、逆浸透膜などを用いる膜処理、蒸留により除去する方法が挙げられる。
【0065】
{リジン炭酸塩生成、リジンの酵素的脱炭酸反応}
次に、本実施の形態において使用するペンタメチレンジアミン炭酸塩を調製するためのリジン炭酸塩生成及びリジンの酵素的脱炭酸反応について説明する。
【0066】
本実施の形態において、リジンの酵素的脱炭酸反応は、例えば、リジンを水に溶解したリジン溶液に、同溶液のpHがリジンの酵素的脱炭酸反応(LDC反応)に適したpHに維持されるように二酸化炭素を加えながら、あるいは、二酸化炭素雰囲気下にて行われる。
【0067】
原料として使用するリジンは、通常遊離塩基(リジンベース、即ち、遊離リジン)であることが好ましい。また、リジンの炭酸塩であってもよい。リジンは、L−リジン、D−リジンが挙げられる。通常入手の容易性からL−リジンが好ましい。また、リジンは、精製されたリジンであってもよく、リジンを含む発酵液であってもよい。
リジン溶液を調製する溶媒は、好適には水が使用される。LDC反応が行われる反応液のpHは、二酸化炭素によって調節され、通常他のpH調節剤や緩衝剤は使用されない。なお、リジンを溶解する溶媒に、例えば酢酸ナトリウム緩衝液等を使用する場合、ペンタメチレンジアミン炭酸塩を形成させるという点から、リジン濃度は低濃度に抑えることが好ましい。
【0068】
遊離リジンを使用する場合、例えば水に溶解したリジン溶液に二酸化炭素を加えながら、あるいは二酸化炭素雰囲気下にて、反応液のpHをLDC反応に適したpHとなるように調節する。具体的なpHは、通常4.0以上、好ましくは5.0以上であり、通常12.0以下、好ましくは9.0以下である。以下、このように、反応液のpHをLDC反応に適したpHに調節することを「中和」と称する場合がある。なお、本発明における二酸化炭素雰囲気下とは、気相部分を二酸化炭素でほぼ満たした状態のことを意味する。
【0069】
LDC反応の際、生産速度及び反応収率向上のため、ビタミンB6を添加することが好ましい。ビタミンB6としては、ピリドキシン、ピリドキサミン、ピリドキサール、ピリドキサルリン酸等が挙げられる。中でもピリドキサルリン酸が好ましい。ビタミンB6の添加方法、添加時期は特に制限されず、LDC反応中に適宜添加すればよい。
【0070】
LDC反応は、上述したように中和されたリジン溶液にリジン脱炭酸酵素(LDC)を添加することによって行われる。LDCとしては、リジンに作用しペンタメチレンジアミンを生成させるものであれば特に制限はない。LDCとしては、精製酵素、LDCを産生する微生物、植物細胞又は動物細胞等の細胞が挙げられる。LDC又はLDCを産生する細胞は2種以上を併用してもよい。また、細胞をそのまま使用してもよく、LDCを含む細胞処理物を使用してもよい。細胞処理物としては、細胞破砕液やその分画物が挙げられる。
【0071】
LDCを産生する微生物としては、エシェリヒア・コリ(E.coli)等のエシェリヒア属細菌、ブレビバクテリウム・ラクトファーメンタム(Brevibacterium lactofermentum)等のコリネ型細菌、バチルス・サチリス(Bacillus subtilis)等のバチルス属細菌、セラチア・マルセッセンス(Serratia marcescens)等のセラチア属細菌等の細菌、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)等の真核細胞が挙げられる。これらの中では細菌が好ましく、E.coliが特に好ましい。
【0072】
前記の微生物は、LDCを産生する限り、野生株でもよく、変異株であってもよい。また、LDC活性が上昇するように改変された組換え株であってもよい。植物細胞又は動物細胞も、LDC活性が上昇するように改変された組換え細胞を使用することができる。詳細については、例えば、特開2008−189661号公報に記載されている。
【0073】
LDC反応は、リジン溶液にLDCを添加して反応を開始する。反応開始後は、反応の進行に伴い、リジンから遊離される二酸化炭素が反応液から放出されpHが上昇する。このため、反応液のpHがLDC反応に適したpHの範囲となるように、二酸化炭素を反応液に添加する(吹き込む)。二酸化炭素は反応液中に連続的に添加してもよく、分割添加してもよい。また、二酸化炭素雰囲気下や密閉系にする等して、リジンから遊離される二酸化炭素をpH調整に使用してもよい。LDC反応の反応温度は特に制限されず、通常20℃以上、好ましくは30℃以上であり、通常60℃以下、好ましくは40℃以下である。
なお、原料のリジンは、反応開始時に反応液に全量添加してもよく、LDC反応の進行に応じ、分割して添加してもよい。
【0074】
LDC反応がバッチ式により行われる場合、反応液中に二酸化炭素を容易に添加することができる。また、LDC、LDCを産生する細胞又はその処理物を固定化した担体を含む移動床カラムクロマトグラフィーにより反応を行うこともできる。その場合、反応系のpHが予め定めた範囲に維持されたまま反応が進行するように、リジン及び二酸化炭素をカラムの適当な部位に注入する。
【0075】
また、二酸化炭素の添加を行わず、LDC反応により放出される二酸化炭素の全量若しくは一部を中和のために使用しても良い。
LDC反応は、上述したようにペンタメチレンジアミンの生成に伴って上昇するpHを、二酸化炭素を使用して逐次中和することにより、良好に進行する。LDC反応により生成したペンタメチレンジアミンは二価の炭酸塩又は一価の炭酸水素塩として反応液中に蓄積する。
【0076】
[ポリアミド樹脂]
{ポリアミド樹脂の製造方法}
本発明の精製ペンタメチレンジアミンの製造方法によりペンタメチレンジアミン炭酸塩から得られる精製ペンタメチレンジアミンは、ポリアミド樹脂の製造原料として好適に使用される。
以下に、この精製ペンタメチレンジアミンとジカルボン酸とを単量体成分として用いるポリアミド樹脂の製造方法について説明する。
本実施の形態では、ペンタメチレンジアミン炭酸塩から得られたペンタメチレンジアミンとジカルボン酸とを単量体成分とし、重縮合触媒を用いる重縮合反応によりポリアミド樹脂を製造する。
【0077】
<ジカルボン酸>
ペンタメチレンジアミンとの重縮合反応に用いる、単量体成分としてのジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシル酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸等の脂肪族ジカルボン酸;シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
これらのジカルボン酸の中でも、脂肪族ジカルボン酸が好ましく、アジピン酸が特に好ましい。また、ジカルボン酸としてアジピン酸を用いる場合、ジカルボン酸中のアジピン酸の濃度は、通常90重量%以上、好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは100重量%である。
【0078】
<他の単量体成分>
さらに、本発明により得られる効果を損なわない程度において、他の単量体成分を用いることができる。このような他の単量体成分としては、例えば、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等のアミノ酸;ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム等のラクタム;エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,15−ジアミノペンタデカン、1,16−ジアミノヘキサデカン、1,17−ジアミノヘプタデカン、1,18−ジアミノオクタデカン、1,19−ジアミノノナデカン、1,20−ジアミノエイコサン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン等の脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、ビス−(4−アミノヘキシル)メタン等の脂環式ジアミン;キシリレンジアミン等の芳香族ジアミンが挙げられる。これらの単量体成分は2種以上を併用しても良い。
【0079】
<重縮合反応方法>
本実施の形態において、ペンタメチレンジアミンとジカルボン酸との重縮合反応方法は特に限定されず、従来公知の方法から適宜選択することができる。また、重縮合触媒は、従来公知のものの中から適宜選択して使用することができ、特に限定されない。一般的なポリアミド樹脂の製造方法としては、例えば、「ポリアミド樹脂ハンドブック」(日刊工業新聞社:福本修編、昭和63年1月30日初版)等に開示されている。
【0080】
重縮合反応方法の一例としては、例えば、ペンタメチレンジアミン及びジカルボン酸を含む水溶液を高温高圧下で、脱水反応を進行させる加熱重縮合法が挙げられる。ここで、加熱重縮合法において、重縮合反応の最高温度は通常200℃以上、好ましくは220℃以上で、通常300℃以下である。重縮合方式には、特に制限は無く、バッチ式又は連続方式が採用できる。
【0081】
なお、加熱重縮合法により得られたポリアミド樹脂を、例えば、真空中又は不活性ガス中で100℃以上、融点以下の温度で加熱することにより、ポリアミド樹脂の分子量を高くすることができる(固相重合)。
【0082】
また、ペンタメチレンジアミン及びジカルボン酸を高温高圧下で重縮合して得られた低次縮合物(オリゴマー)を高分子量化する方法、ペンタメチレンジアミンを溶解した水溶液と、ジカルボン酸塩やジカルボン酸ジハライドを水性溶媒又は有機溶媒に溶解させた溶液とを接触させ、これらの界面で重縮合反応させる界面重縮合法等を採用することもできる。
【0083】
なお、本実施の形態では、重縮合反応に先立ち、ペンタメチレンジアミン及びジカルボン酸を含む水溶液の濃縮工程を組み入れても良い。濃縮工程を組み入れることにより、前記重縮合反応時間の短縮を図ることができる。濃縮工程では、ペンタメチレンジアミンとジカルボン酸の塩が析出しないように通常140℃〜160℃、好ましくは加圧下で、ペンタメチレンジアミンとジカルボン酸の塩の濃度が70重量%〜90重量%になるまで濃縮する。
【0084】
本実施の形態において、ペンタメチレンジアミン及びジカルボン酸の重縮合により得られるポリアミド樹脂の分子量は特に限定されず、目的に応じて適宜選択される。実用性の観点から、通常ポリアミド樹脂の25℃における98%硫酸溶液(ポリアミド樹脂濃度:0.01g/mL)の相対粘度の下限が、通常1.5、好ましくは1.8、特に好ましくは2.2であり、上限は、通常8.0、好ましくは5.5、特に好ましくは3.5である。相対粘度が過度に小さいと実用的強度が得られない傾向がある。相対粘度が過度に大きいと、ポリアミド樹脂の流動性が低下し、成形加工性が損なわれる傾向がある。
【0085】
{ポリアミド樹脂の添加剤}
本実施の形態が適用されるポリアミド樹脂には、必要に応じて、各種の添加剤が配合される。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、離型剤、滑剤、顔料、染料、結晶核剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、充填剤、他の重縮合体等が挙げられる。
【0086】
具体的には、酸化防止剤又は熱安定剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、ヒドロキノン系化合物、ホスファイト系化合物及びこれらの置換体等が挙げられる。耐候剤としては、レゾルシノール系化合物、サリシレート系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ヒンダードアミン系化合物等が挙げられる。離型剤又は滑剤としては、脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素、ポリエチレンワックス等が挙げられる。顔料としては、硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等が挙げられる。染料としては、ニグロシン、アニリンブラック等が挙げられる。結晶核剤としては、タルク、シリカ、カオリン、クレー等が挙げられる。可塑剤としては、p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等が挙げられる。
【0087】
帯電防止剤としては、アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート等の非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等が挙げられる。難燃剤としては、メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等が挙げられる。
【0088】
充填剤としては、ガラス繊維、炭素繊維、カーボンブラック、グラファイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、硫化亜鉛、亜鉛、鉛、ニッケル、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス、ベントナイト、モンモリロナイト、合成雲母等の粒子状、針状、板状充填材が挙げられる。
【0089】
他の重合体としては、他のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ABS樹脂、AS樹脂、ポリスチレン等が挙げられる。
【0090】
これらは、ポリアミド樹脂を製造する工程において、添加量、添加工程等が適宜選択され、添加すればよい。
【0091】
また、本実施の形態において、ポリアミド樹脂の重縮合から成形までの任意の段階で、ポリアミド樹脂に上記の添加剤を配合することができる。中でも、ポリアミド樹脂と添加剤とを押出機中に投入し、これらを溶融混練することにより、ポリアミド樹脂組成物を調製することが好ましい。
【0092】
{ポリアミド樹脂の用途}
本実施の形態が適用されるポリアミド樹脂は、射出成形、フィルム成形、溶融紡糸、ブロー成形、真空成形等の任意の成形方法により、所望の形状に成形することができる。成形品としては、例えば、射出成形品、フィルム、シート、フィラメント、テーパードフィラメント、繊維等が挙げられる。また、ポリアミド樹脂は、接着剤、塗料等にも使用することができる。
【0093】
さらに、本実施の形態が適用されるポリアミド樹脂の具体的な用途例としては、自動車・車両関連部品として、例えば、インテークマニホールド、ヒンジ付きクリップ(ヒンジ付き成形品)、結束バンド、レゾネーター、エアークリーナー、エンジンカバー、ロッカーカバー、シリンダーヘッドカバー、タイミングベルトカバー、ガソリンタンク、ガソリンサブタンク、ラジエータータンク、インタークーラータンク、オイルリザーバータンク、オイルパン、電動パワステギヤ、オイルストレーナー、キャニスター、エンジンマウント、ジャンクションブロック、リレーブロック、コネクタ、コルゲートチューブ、プロテクター等の自動車用アンダーフード部品;ドアハンドル、フェンダー、フードバルジ、ルーフレールレグ、ドアミラーステー、バンパー、スポイラー、ホイールカバー等の自動車用外装部品;カップホルダー、コンソールボックス、アクセルペダル、クラッチペダル、シフトレバー台座、シフトレバーノブ等の自動車用内装部品が挙げられる。
【0094】
また、本実施の形態が適用されるポリアミド樹脂は、釣り糸、漁網等の漁業関連資材、スイッチ類、超小型スライドスイッチ、DIPスイッチ、スイッチのハウジング、ランプソケット、結束バンド、コネクタ、コネクタのハウジング、コネクタのシェル、ICソケット類、コイルボビン、ボビンカバー、リレー、リレーボックス、コンデンサーケース、モーターの内部部品、小型モーターケース、ギヤ・カム、ダンシングプーリー、スペーサー、インシュレーター、キャスター、端子台、電動工具のハウジング、スターターの絶縁部分、ヒューズボックス、ターミナルのハウジング、ベアリングリテーナー、スピーカー振動板、耐熱容器、電子レンジ部品、炊飯器部品、プリンタリボンガイド等に代表される電気・電子関連部品、家庭・事務電気製品部品、コンピューター関連部品、ファクシミリ・複写機関連部品、機械関連部品等各種用途に使用することができる。
【実施例】
【0095】
以下に実施例を示し、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0096】
以下の実施例及び比較例において使用する試料等の物性測定ないし評価方法、試料の調製方法は下記の通りである。
【0097】
(1)ペンタメチレンジアミン濃度の測定方法
各試料中の全ペンタメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の各濃度は、自動滴定装置(三菱化学株式会社製GT−100)を使用し、滴定により測定した。
測定に際し、試料中の全ペンタメチレンジアミンの量が0.2g〜1.0gになるように試料を測りとり、脱塩水で希釈した後、1mol/L HCl水溶液(キシダ化学株式会社製)にて滴定を行った。
測定結果に基づき、以下の計算方法によりペンタメチレンジアミン濃度を求めた。
【0098】
滴定測定の結果、当量点が3点存在する場合(図1参照)、この当量点は表1に示したイオンの中和、塩交換による当量点である。2番目の当量点でのHClの滴定量をxmL、3番目の当量点でのHClの滴定量をymLとすると、それぞれのイオン濃度は(式1)〜(式3)のように表される。なお、ペンタメチレンジアミンの分子量を102.18、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分子量を164.21、試料の重量をag、1mol/L HCl水溶液のファクターをfとする。ここで、HClは和光純薬工業株式会社製容量分析用試薬を用いた。また、ファクターfは、試薬に記載された補正値であって、試薬調製時の重量から算出した規定度に対する逆滴定等により算出した真の規定度の比である。
【0099】
全ペンタメチレンジアミン濃度(重量%)
{y÷1000×f}÷2×102.18÷a×100 (式1)
ペンタメチレンジアミン濃度(重量%)
[{x−(y−x)}÷1000×f]÷2×102.18÷a×100 (式2)
ペンタメチレンジアミン炭酸塩濃度(重量%):
{(y−x)÷1000×f}×164.21÷a×100 (式3)
【0100】
【表1】

【0101】
滴定測定の結果、当量点が1点である場合(図2参照)、この当量点はペンタメチレンジアミンによるものであり、試料中に炭酸塩は含まれていない。当量点におけるHClの滴定量をzmLとすると、ペンタメチレンジアミン濃度は(式4)のように表される。なお、ペンタメチレンジアミンの分子量を102.18、試料の重量をag、1mol/L HClのファクターをfとした。
全ペンタメチレンジアミン濃度(重量%):
{z÷1000×f}÷2×102.18÷a×100 (式4)
【0102】
(2)ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解率
ペンタメチンレンジアミン炭酸塩の分解率は前記したとおり、ペンタメチレンジアミンとペンタメチレンジアミン炭酸塩との合計モル数を100とした時のペンタメチレンジアミンの割合を表したものであり、次式で表すことが出来る。
ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解率(モル%)=(ペンタメチレンジアミン濃度(重量%)÷102.18)÷(ペンタメチレンジアミン濃度(重量%)÷102.18+ペンタメチレンジアミン炭酸塩濃度(重量%)÷164.21)×100
ここで、102.18とはペンタメチレンジアミンの分子量であり、164.21とはペンタメチレンジアミン炭酸塩の分子量である。
【0103】
(3)水分濃度
カールフィッシャー型水分測定器(三菱化学社製「CA−06」)を使用し、留出液中の水分濃度を測定した。
【0104】
(4)配管内の析出物の有無
目視にて白色析出物の有無を確認し、析出物が確認されなかった場合を「○」、析出物が確認された場合を「×」とした。
【0105】
(5)留出の有無
目視にて留出液留出の有無を確認し、留出が確認された場合を「○」、留出が確認されなかった場合を「×」とした。
【0106】
(6)ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液の調製
(A)LDC遺伝子(cadA)増強株の作製
(a)大腸菌DNA抽出:
LB(Luria−Bertani)培地(組成:トリプトン10g、イーストエキストラクト5g、NaCl 5gを蒸留水1Lに溶解)10mLに、大腸菌(Eschericia coli)JM109株を対数増殖期後期まで培養し、得られた菌体を、10mg/mLのリゾチームを含む10mM NaCl/20mM トリス緩衝液(pH8.0)/1mM EDTA・2Na溶液0.15mLに懸濁した。
【0107】
次いで、上記の懸濁液にプロテナーゼKを最終濃度が100μg/mLになるように添加し、37℃で1時間保温した。さらに、ドデシル硫酸ナトリウムを最終濃度が0.5重量%になるように添加し、50℃で6時間保温して溶菌液を調製した。
次に、この溶菌液に等量の(フェノール/クロロホルム)溶液を添加し、室温で10分間ゆるやかに振盪した後、全量を遠心分離(5,000×g、20分間、10〜12℃)し、上清画分を分取し、酢酸ナトリウムを0.3Mとなるように添加した後、2倍量のエタノールを加えて混合した。次いで、遠心分離(15,000×g、2分間)により回収した沈殿物は70%エタノールで洗浄後、風乾した。得られたDNAに、10mMトリス緩衝液(pH7.5)/1mM EDTA・2Na溶液5mLを加え、4℃で一晩静置し、以後に述べるPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)の鋳型DNAに使用した。
【0108】
(b)cadAのクローニング:
大腸菌cadAの取得は、上記(a)で調製したDNAを鋳型とし、全ゲノム配列が報告されている大腸菌K12−MG1655株の当該遺伝子の配列(Genbank Database Accession No.U00096)を基に設計した合成DNA(配列番号1(配列;GTTGCGTGTTCTGCTTCATCGCGCTGATG)及び配列番号2(配列;ACCAAGCTGATGGGTGAGATAGAGAATGAGTAAG))を用いたPCRによって行った。
【0109】
(反応液組成)
鋳型DNAの1μL、PfxDNAポリメラーゼ(インビトロジェン株式会社製)0.2μL、1倍濃度添付バッファー、0.3μMの前記合成DNA、1mM MgSO及び0.25μMのデオキシヌクレオシド三リン酸(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)を混合し、全量を20μLとした。
【0110】
(反応温度条件)
DNAサーマルサイクラーとして、MJ Research株式会社製「PTC−200」を使用し、94℃で20秒間、60℃で20秒間、72℃で2.5分間からなるサイクルを35回繰り返した。但し、1サイクル目の94℃での保温は1分20秒間、最終サイクルの72℃での保温は10分間とした。
【0111】
図3は、cadAのクローニングの手順を説明する図である。
図3に示すように、PCR終了後、増幅産物をエタノール沈殿により精製した後、制限酵素Kpn I及び制限酵素Sph Iで切断した。このDNA標品を、0.75重量%アガロース(SeaKem GTG agarose:FMC BioProducts製)ゲル電気泳動により分離後、臭化エチジウム染色により可視化することによりcadAを含む約2.6kbの断片を検出し、QIAQuick Gel Extraction Kit(QIAGEN製)を使用して目的DNA断片の回収を行った。
【0112】
回収したDNA断片を、大腸菌プラスミドベクターpUC18(宝酒造株式会社製)を制限酵素Kpn I及び制限酵素Sph Iで切断して調節したDNA断片と混合し、ライゲーションキットver.2(宝酒造株式会社製)を使用して連結後、得られたプラスミドDNAを使用し、大腸菌(JM109株)を形質転換した。この様にして得られた組換え大腸菌を、50μg/mL アンピシリン、0.2mM IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)及び50μg/mL X−Galを含むLB寒天培地に塗抹した。
【0113】
この培地上で白色のコロニーを形成したクローンを、常法により液体培養した後、プラスミドDNAを精製した。得られたプラスミドDNAを制限酵素Kpn I及び制限酵素Sph Iで切断することにより、約2.5kbの挿入断片が認められることを確認し、これをpCAD1、pCAD1を含む大腸菌株をJM109/pCAD1とそれぞれ命名した。
【0114】
(B)ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液の調製
実施例で使用するペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液は、JM109/pCAD1を用い、リジン炭酸塩水溶液を原料とし、以下の方法で調製した。
【0115】
(a)JM109/pCAD1の培養:
JM109/pCAD1をLB培地入りフラスコで前培養した後、3mLの培養液を100mLの2倍濃度のLB培地が入った1L容フラスコに接種し、35℃、250rpmで撹拌培養を行った。培養開始4時間目に、滅菌したIPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド)を、終濃度で0.5mMになるように添加し、その後14時間培養を継続した。
【0116】
(b)菌体の分離及び保存:
培養液を8000rpm、10分間で遠心分離して上清を廃棄し、菌体を回収した。得られた湿菌体は、培養液体積の1/20になるように50mM酢酸ナトリウムバッファーで懸濁して反応に必要となるまで4℃で保存した。
【0117】
(c)ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液の調製:
50%(w/v)リジン水溶液(協和発酵バイオ株式会社製)48kgと脱塩水30Lを200L容反応槽内に準備し、二酸化炭素を15L/minで通気して加えて、リジン炭酸塩水溶液を調製した。リジン溶液のpHは、最初10.3付近であり、二酸化炭素の供給に伴い酸性側へと低下した。二酸化炭素の供給は、pH変化がほぼなくなったところで停止した。このときのpHは約7.5であった。
ピリドキサルリン酸を0.1mMの濃度となるように上記基質溶液に加え、さらに、JM109/pCAD1の菌体を、OD660(Optical Density 660)が0.5になるように加えて反応を開始した。
【0118】
反応時の条件は、温度37℃、通気なし(0vvm)、撹拌回転数148rpmとした。反応時、反応槽を密閉系とし、発生する二酸化炭素を封じ込め、pHを制御した。反応開始5時間後には、ほぼ100%のリジンがペンタメチレンジアミンに変換された。反応後の溶液(約72L)は、菌体の不活化処理(70℃、20分)を行った。続いてUF膜モジュール(旭化成工業株式会社製ACP−0013)を用いて処理し、分子量12,000以上の高分子量体の不純物が除去されたペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液を調製した。
【0119】
(7)ポリアミド樹脂の相対粘度(ηrel)の測定方法
ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液から回収したペンタメチレンジアミンとアジピン酸との重縮合反応により得られたポリアミド樹脂の試料を98重量%濃硫酸に溶解し、濃度0.01g/mLの試料溶液を調製した。次に、オストワルド式粘度計を使用し、25℃における試料溶液の落下時間tと濃硫酸の落下時間tとをそれぞれ測定し、(t/t)を相対粘度(ηrel)とした。
【0120】
(8)ポリアミド樹脂の融点(Tm)の測定方法
ポリアミド樹脂の融点(Tm)は、示差走査熱量計(DSC:セイコー電子工業株式会社製ロボットDSC)を使用して、窒素雰囲気下にて測定した。ポリアミド樹脂試料約5mgを完全に融解させ3分間保持した後、降温速度20℃/分で30℃まで降温した。続いて、ポリアミド樹脂試料を30℃で3分間保持した後、30℃から昇温速度20℃/分で昇温したときに観測される吸熱ピークの温度を融点Tmとして測定した。吸熱ピークが複数の場合は、最も高い温度を融点Tmとした。
【0121】
(9) ポリアミド樹脂の色調
ポリアミド樹脂の色調は白色であるものを「○」、例えば黄色等に着色しているものを「×」とした。
【0122】
〔実施例1〕
(濃縮工程)
前記(c)で得られたペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液(ペンタメチレンジアミン炭酸塩濃度:15重量%)を、ウォーターバスを具備した柴田科学社製ロータリーエバポレーター(R205V−0)内に投入した。次いで下記条件により濃縮を行った。
ウォーターバス温度:50℃
圧力:40kPaから1.3kPaまで段階的に減圧
回転数:200rpm
濃縮後のペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液中の全ペンタメチレンジアミン濃度は34.1重量%、フリーのペンタメチレンジアミン濃度は17.1重量%、ペンタメチレンジアミン炭酸塩濃度は27.4重量%であった。
【0123】
(熱分解工程)
濃縮後のペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液(全ペンタメチレンジアミン濃度:34.1重量%)300gをジャケット付きオートクレーブに入れて窒素置換を行い窒素雰囲気とした。オートクレーブ内を密閉状態とし、ジャケット温度を常温から150℃に昇温し、150℃で30分保持後、昇温速度1℃/minで190℃まで昇温して80分保持(熱分解時間150分)した。このとき、圧力(この圧力を「所定圧力」という。)が0.30MPaに達した時点で、圧力調整弁にて圧力が0.30MPaに維持するように調整した。圧力が0.30MPaに達した時点を0分として、0.5時間後、1.0時間後、2.5時間後の留出液及びオートクレーブ内の分解反応液を経時でサンプリングした。留出液については、ペンタメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン炭酸塩、水分の濃度分析を行い、留出の有無、配管内の析出物の有無を確認した。分解反応液については、ペンタメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の濃度分析を行い、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解率を算出した。結果については表2A,2Bに示す。
【0124】
(蒸留工程)
続いて、上記の操作により得られた粗ペンタメチレンジアミンを内温80℃(オイルバス温度110℃)、圧力2.7kPaにて蒸留を行い、精製ペンタメチレンジアミンを得た。得られた精製ペンタメチレンジアミンの重量及び収率を表2Bに示す。収率は、下記(式5)により算出した。
ペンタメチレンジアミン収率(重量%)=
{精製蒸留後の全ペンタメチレンジアミン重量÷原料のペンタメチレン
ジアミン重量×100} (式5)
【0125】
〔実施例2〕
熱分解工程において、所定圧力を0.60MPaに、また、190℃に昇温後の保持時間を110分(熱分解時間180分)として、圧力が0.60MPaに達した時点で、圧力調整弁にて圧力が0.60MPaに維持するように調整し、圧力が0.60MPaに達した時点を0分として、0.5時間後、1.0時間後、2.0時間後、2.5時間後の留出液及びオートクレーブ内の分解反応液を経時でサンプリングした以外は実施例1と同様にして、精製ペンタメチレンジアミンを得た。各種結果を表2A,2Bに示す。
【0126】
〔実施例3〕
熱分解工程において、所定圧力を0.80MPaに、また、190℃に昇温後の保持時間を210分(熱分解時間280分)として、圧力が0.60MPaに達した時点で、圧力調整弁にて圧力が0.60MPaに維持するように調整し、圧力が0.60MPaに達した時点を0時間として、1.0時間後、2.0時間後、3.5時間後の留出液及びオートクレーブ内の分解反応液を経時でサンプリングした以外は実施例1と同様にして、精製ペンタメチレンジアミンを得た。各種結果を表2A,2Bに示す。
【0127】
得られた精製ペンタメチレンジアミン8.2gに脱塩水20gを添加した後、アジピン酸(本州化学工業株式会社製)約11.8gを加え、水溶液のpHを8.4〜8.5に調整した。次に、この水溶液に、重縮合触媒として予め調製した0.2重量%の亜燐酸水溶液0.5g(亜燐酸は和光純薬工業株式会社製試薬特級を使用)を添加し、70℃に加温して混合物を完全に溶解させ、重縮合反応に使用する原料水溶液を調製した。
続いて、前述の調製した原料水溶液40gをオートクレーブに入れ、窒素置換を行った。次に、オートクレーブを温度270℃のオイルバスに浸し重縮合反応を開始した。重縮合反応の開始後、オートクレーブの内圧を1.67MPaで2時間保持し、次いで、オートクレーブ内の圧力を徐々に放圧した後、さらに、圧力61.3kPaまで減圧し、1時間保持して重縮合反応を終了した。重縮合反応終了後、オートクレーブの内圧を減圧状態のまま放冷し、放冷後に重縮合反応により得られたポリアミド樹脂を取り出した。得られたポリアミド樹脂の相対粘度、融点、色調を表2Bに示す。
【0128】
〔比較例1〕
実施例1の濃縮工程で得られた濃縮後のペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液(全ペンタメチレンジアミン濃度:34.1重量%)300gをジャケット付きオートクレーブに入れて窒素置換を行い窒素雰囲気とした。オートクレーブ内を開放状態(圧力:0.10MPa)とした状態でジャケット温度を常温から100℃に昇温し、100℃で30分保持後、昇温速度1℃/minで140℃まで昇温して60分保持した。更に140℃から昇温速度1℃/minで190℃まで昇温した。留出が開始した時点を0時間として、1.0時間後、1.5時間後、2.0時間後、2.5時間後の留出液及びオートクレーブ内の分解反応液を経時でサンプリングした。3.2時間後に内圧が上昇したので途中で中断した。各種結果を表2A,2Bに示す。
【0129】
〔比較例2〕
熱分解工程において、所定圧力を1.1MPaとした以外は実施例1と同様にした。
但し、ジャケット温度190℃に於ける原料の蒸気圧が1.1MPaであったため圧力は封じ込め状態で熱分解を行った。
【0130】
【表2A】

【0131】
【表2B】

【0132】
実施例1〜3と比較例1の結果から、以下のことが分かる。
実施例1〜3では、時間の経過と共に、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解率が上昇し、留出液中のペンタメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン炭酸塩濃度は高くなり、水分濃度は低下した。実施例1では一番留出液中の水分濃度が低くなったが、分解率が90.5モル%に達した時点における留出液中の水分濃度は76.7重量%であり、析出物は一切確認されなかった。
実施例3では、最終的に得られたポリアミド樹脂の色調も白色であり、特に着色は認められなかった。
一方、比較例1では、時間の経過と共に、ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解率が上昇し、留出液中の水分濃度も低下し、分解率80.2モル%で留出液中の水分濃度は74.5重量%となり、分解率95.3モル%で析出物が確認された。
一方、比較例2ではジャケット温度190℃に於ける原料の蒸気圧が1.1MPaであったため圧力は封じ込め状態で熱分解を行ったが、全くペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解が進行していなかった。
以上のことから、ペタンメチレンジアミン炭酸塩の分解率が90モル%を超えるまで、留出液中の水分濃度を75重量%以上にする必要があることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペンタメチレンジアミン炭酸塩水溶液を加熱することにより、留出液を除去しながら、粗ペンタメチレンジアミンと二酸化炭素に分解する熱分解工程を含む精製ペンタメチレンジアミンの製造方法であって、
ペンタメチレンジアミン炭酸塩の分解率が90モル%を超えるまで、前記留出液中の水分濃度が75重量%以上であることを特徴とする精製ペンタメチレンジアミンの製造方法。
【請求項2】
前記熱分解工程の圧力が0.21MPa〜1.0MPaであることを特徴とする請求項1に記載の精製ぺンタメチレンジアミンの製造方法。
【請求項3】
前記熱分解工程の最高温度が110℃〜250℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載の精製ペンタメチレンジアミンの製造方法。
【請求項4】
前記熱分解工程に先立って、リジン脱炭酸酵素、リジン脱炭酸酵素活性の向上した組み換え微生物、リジン脱炭酸酵素を産生する細胞もしくは当該細胞の処理物からなる群の少なくとも1つを使用し、リジン及び/又はリジン炭酸塩からペンタメチレンジアミン炭酸塩を産出する酵素的脱炭酸反応工程を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の精製ペンタメチレンジアミンの製造方法。
【請求項5】
前記粗ペンタメチレンジアミンを更に蒸留する蒸留工程を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の精製ペンタメチレンジアミンの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法により製造された精製ペンタメチレンジアミンとジカルボン酸とを重縮合させる工程を含むことを特徴とするポリアミド樹脂の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−188407(P2012−188407A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−55011(P2011−55011)
【出願日】平成23年3月14日(2011.3.14)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】