説明

精製リグニン及びエポキシ樹脂

【課題】合成樹脂原料、とりわけエポキシ樹脂原料としてより適した精製リグニン、また、それを使用した、安価でかつ植物原料の使用率が高く、更に力学的性能の優れたエポキシ樹脂を提供する。
【解決手段】イネ科植物を原料としたアルカリ蒸解法によるパルプ廃液を酸性にして沈殿物を回収して得たイネ科植物リグニンを、さらに親水性有機溶媒の可溶分と不溶分に分離し、不溶分を除去し可溶分のみを回収したものである精製イネ科植物リグニン。この精製イネ科植物リグニンにエピクロロヒドリンを反応させているものであって、前記リグニンの使用割合が60重量%以上であるエポキシ樹脂。エポキシ樹脂に、この精製イネ科植物リグニンを硬化剤として使用して得たエポキシ樹脂硬化物であって、リグニンの使用割合が30%以上であるエポキシ樹脂硬化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は精製リグニン及びそれを使用するエポキシ樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ樹脂は、力学的強度性能、耐熱性、絶縁性が非常に優れており、自動車、電気製品等の用途に広く利用されている。近年、自動車、電気製品の業界は、環境負荷の低減が強く求められており、脱石油、カーボンニュートラルな材料への切り替えの動きがさかんになってきている。これまで全て石油由来の化学原料に依存してきたエポキシ樹脂に、非石油系原料を導入することが強く求められている。
【0003】
植物成分リグニンは石油に代わる樹脂原料として期待されており、エポキシ樹脂やその硬化剤への利用が検討されている。エポキシ樹脂はフェノール性水酸基を複数持つ化合物とエピクロロヒドリンを反応させて合成されるが、リグニンもフェノール性水酸基を複数持っているからである。しかし、これまでエポキシ樹脂の原料として利用可能なリグニンは、高温高圧処理や爆砕など特殊な条件で得たもので(特許文献1、2)、エネルギーコストが高い、設備費が高い、処理工程が煩雑など、製造コストが非常に高かった。
【0004】
本発明者は先に、アルカリ蒸解法によるパルプ廃液から回収したイネ科植物リグニンを、より安価なエポキシ樹脂原料として使用する技術を開発した(特許文献3)。
しかし、このエポキシ樹脂の力学的性能は、従来のリグニン系エポキシ樹脂と比較すると同等以上であるが、市販の石油系エポキシ樹脂には及ばなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−84320号公報
【特許文献2】特開2006−66237号公報
【特許文献3】特願2010−22564
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、合成樹脂原料として、とりわけエポキシ樹脂原料としてより適した精製リグニンを提供することを目的とする。
また、このリグニンを使用して、安価でかつ植物原料の使用率が高く、更に力学的性能のより優れたエポキシ樹脂とその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、先のアルカリ蒸解法によるパルプ廃液から回収したイネ科植物リグニンを使用したエポキシ樹脂の力学的性能を向上すべく鋭意研究を行ってきた。そして、イネ科植物リグニンの分子量に着目した。アルカリ蒸解法によるパルプ廃液を酸性にして沈殿させて得たリグニンを更にメタノールあるいはアセトン、メチルエチルケトン等の親水性溶媒に混合してその可溶成分を分析した所、低分子量成分が多くなると共に分子量分布の幅が小さくなり、それにより融点が明瞭になるという知見を得た。そこで、このリグニンをエポキシ化した所これまでよりはるかに力学的性能の優れたエポキシ樹脂が得られ、課題を解決するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、イネ科植物を原料としたアルカリ蒸解法によるパルプ廃液を酸性にして沈殿物を回収して得たイネ科植物リグニンを、さらに親水性有機溶媒の可溶分と不溶分に分離し、不溶分を除去し可溶分のみを回収したものであることを特徴とする精製イネ科植物リグニンである。
また本発明は、この精製イネ科植物リグニンにエピクロロヒドリンを反応させているものであって、リグニンの使用割合が60重量%以上であることを特徴とするエポキシ樹脂である。
また本発明は、エポキシ樹脂に、この精製イネ科植物リグニンを硬化剤として使用して得たエポキシ樹脂硬化物であって、リグニンの使用割合が30重量%以上であることを特徴とするエポキシ樹脂硬化物である。
以下、本発明を詳細に説明する。
【0009】
本発明では、イネ科植物を原料としたアルカリ蒸解法によるパルプ廃液が使用される。
ここで言うイネ科植物とは、稲ワラ、麦ワラ、アシ、コウリャン、竹等あらゆるイネ科植物が対象となる。イネ科植物のリグニンは、フェノール骨格のオルソ位にメトキシ基が無いものが多く、反応性が高い。
また、本発明におけるアルカリ蒸解法とは、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを蒸解薬品として使用するパルプ蒸解法であるが、特にソーダ法が好ましい。また、アルカリ蒸解法であっても、硫化ソーダ、亜硫酸塩等硫化物を併用するものは、好ましくない。
尚、本発明におけるパルプ廃液とは、パルプを蒸解する工程でパルプと分離されて排出される液で通称黒液とよばれるものである。
【0010】
次に本発明の精製イネ科植物リグニンについて説明する。
本発明の精製イネ科植物リグニンは、パルプ廃液を酸性にして沈殿させて回収する工程と親水性有機溶媒の可溶分のみを回収する工程の、二つの工程で得られる。
【0011】
まず、パルプ廃液を酸性にして沈殿させて回収する工程について説明する。
リグニンはアルカリ水溶液に可溶であるが、酸性の水にはほとんど溶けない。アルカリ蒸解法のパルプ廃液は通常pH10以上のアルカリ性であるが、それに酸を加えて酸性にすると大部分のリグニンは沈殿する。パルプ廃液中には、リグニンの他に糖やその分解物、無機塩類等が溶解しているが、そこからリグニンが分離される。
本発明においては、パルプ廃液に酸性物質を添加してpH6以下、好ましくはpH4〜1にする。酸性物質としては、硫酸、塩酸などの強酸の他、二酸化炭素、酸性塩等パルプ廃液のpHを低下させるあらゆるものが対象となるが、特にコストと効果の点から硫酸、塩酸、二酸化炭素が好ましい。
沈殿したイネ科植物リグニンは、ろ過等の一般的な方法で回収し、その後乾燥させる。
この工程で、大部分のリグニンが回収されるが、低分子量のリグニンは少量液中に残存する。
この工程で得られるリグニンは、純度が80〜90%程度である。また、無機塩類などの灰分を通常5〜15%程度含有している。
【0012】
次に、親水性有機触媒の可溶分のみを回収する工程について説明する。
前記工程で回収したイネ科植物リグニンは、多くは親水性有機溶媒に可溶であるが一部は不溶である。
本発明においては、前記工程で回収したイネ科植物リグニンを親水性有機溶媒に混合してろ過、あるいは抽出するなどして、親水性有機溶媒不溶分を分離し除去する。分離した後、親水性有機溶媒を蒸発させて、本発明の精製イネ科植物リグニンが得られる。
尚、蒸発させた親水性有機溶媒は回収して再利用できる。又、除去した親水性有機溶媒不溶なリグニンは、バインダー等別の用途に使用できる。
本発明で使用される親水性有機溶媒としては、メタノール、アセトン、メチルエチルケトンなどが好ましく、特にメタノールが好ましい。
【0013】
以上の工程で得られる本発明の精製イネ科植物リグニンは、パルプ廃液を酸性にして沈殿させる工程で低分子量のリグニンが除外され、親水性有機溶媒で分離する工程で高分子量のものが除外される。低分子量のリグニンの中には、フェノール性水酸基が1つしかなくエポキシ樹脂原料として使用できないものが多い。また、親水性有機溶媒に不溶な高分子量のリグニンは、分子量が2000〜数10万と幅が広く、融点が不明瞭で樹脂原料に適さない。
本発明の精製イネ科植物リグニンは、平均分子量が数平均で450〜1200であり、より好ましくは500〜1000である。また、全リグニン中の分子量500以上1500未満のものの割合は、重量平均で80%以上、好ましくは90%以上である。
【0014】
本発明の精製イネ科植物リグニンは、親水性有機溶媒の可溶分だけからなるので灰分の含有量が非常に少なく純度が高い。
本発明の精製イネ科植物リグニンの純度は、水分を除くと、通常90%以上、好ましくは95重量%以上である。また、灰分の含有量は5%以下、好ましくは2%以下である。
【0015】
次に、本発明の精製イネ科植物リグニンからエポキシ樹脂を作る方法は、精製イネ科植物リグニンに大過剰のエピクロロヒドリンを加え、アルカリ触媒下で反応させる方法が用いられる。
かかる反応において、精製イネ科植物リグニンとエピクロロヒドリンの結合比は、重量比で精製イネ科植物リグニン:エピクロロヒドリン=100:20〜35程度である。
【0016】
本発明において相間移動触媒としてテトラメチルアンモニウム(TBAB)を用い、80℃で2時間の条件でエピクロロヒドリンを付加した後冷却し、20%の水酸化ナトリウム水溶液を10℃以下に保ちながら滴下して閉環させる2段階で、エポキシを形成させる方法も有効である。
【0017】
本発明のエポキシ樹脂は、精製イネ科植物リグニンの使用割合が60重量%以上であり、65〜75重量%であるのが好ましい。この使用割合は、本発明のエポキシ樹脂の原料全重量に対するリグニンの重量%である。かかる使用割合は、本発明におけるリグニンとエピクロロヒドリンとの結合割合にほぼ等しい。
本発明のエポキシ樹脂は、耐熱性、絶縁性に優れるだけでなく力学的性能が非常に優れている。特に、曲げ強さは先の本発明者による特許文献3のエポキシ樹脂よりもはるかに向上している。また、これまでリグニン系エポキシ樹脂の欠点であった脆さが改善され、伸びが非常に良い。
【0018】
本発明のエポキシ樹脂は、硬化剤として脂肪族や芳香族のアミン類、ポリフェノール化合物、ノボラック樹脂、酸無水物など一般のエポキシ樹脂用硬化剤を使用することができるが、本発明の精製イネ科植物リグニンを硬化剤として使用することもできる。
【0019】
次に、本発明のエポキシ樹脂硬化物について説明する。
本発明のエポキシ樹脂硬化物は、エポキシ樹脂に、本発明の精製イネ科植物リグニンすなわちイネ科植物を原料としたアルカリ蒸解法によるパルプ廃液を酸性にして沈殿物を回収して得たイネ科植物リグニンをさらに親水性有機溶媒の可溶分と不溶分に分離し不溶分を除去し可溶分のみを回収したものである精製イネ科植物リグニンを、硬化剤として使用したものである。
ここで使用されるエポキシ樹脂は、市販のビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂等あらゆるタイプのエポキシ樹脂が対象となる。
【0020】
硬化剤の使用量は、エポキシ樹脂のエポキシ基とリグニンのフェノール性水酸基が等量で行うのが一般的であるが、当量で±20%の範囲で加減することもできる。
必要とされる特性に応じてほかのエポキシ樹脂硬化剤を併用することも可能である。
【0021】
本発明のエポキシ樹脂硬化物は、リグニンの使用割合が30重量%以上、好ましくは35%以上である。
【0022】
本発明のエポキシ樹脂硬化物の製造において、硬化促進剤を使用することができる。硬化促進剤としては、2−エチル−4−メチルイミダゾール及び1−シアノ−2−エチル−4−メチルイミダゾール等とその誘導体、ベンジルジメチルアミン等の3級アミン、トリフェニルフォスフィン(TPP)のカリボール塩等の誘導体など、フェノール樹脂型エポキシ樹脂の硬化促進剤として一般的に使用されているものを用いることができる。
硬化促進剤の使用量は、エポキシ樹脂と硬化剤全量を100重量部とした場合、0.1〜3重量部の範囲、好ましくは0.2〜2重量部の範囲で用いることができる。
【0023】
本発明のエポキシ樹脂硬化物は、使用されるエポキシ樹脂として、特に本発明のエポキシ樹脂すなわち本発明の精製イネ科植物リグニンにエピクロロヒドリンを反応させているエポキシ樹脂を使用するのが好ましい。
このようにして得られたエポキシ樹脂硬化物は、リグニン使用割合が70%以上となる。
【0024】
本発明のエポキシ樹脂硬化物は、耐熱性、絶縁性に優れるだけでなく力学的特性が非常に優れている。曲げ強さは、先の発明者による特許文献1のものよりも約5〜10%程度向上している。また、これまでリグニンを原料とするエポキシ樹脂硬化物は、曲げ強度測定時の伸び率が小さく脆いという欠点があったが、本発明のエポキシ樹脂硬化物は、従来のリグニンを原料とするエポキシ樹脂硬化物の約1.5倍の伸び率がある。
【0025】
本発明のエポキシ樹脂、エポキシ樹脂用硬化剤及びエポキシ樹脂硬化物は、接着剤、成形材料、構造材料、半導体封止材、プリント配線板等の電子材料等の従来のエポキシ樹脂が使用されるあらゆる用途で使用することができる。
特にカーボンニュートラルな材料が求められる電気製品、自動車部材等の用途に適している。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば次のような効果がある。
(1)本発明の精製イネ科植物リグニンは、合成樹脂原料として適しており、特にエポキ シ樹脂原料として適している。
(2)本発明の精製イネ科植物リグニンは、安価である。
(3)本発明のエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化物は、従来のリグニン系エポキシ樹脂 と比較してはるかに優れた力学的性能を有し、市販の石油系エポキシ樹脂と同等の 力学的性能を有する。
(4)本発明のエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化物は、従来のリグニン系エポキシ樹脂 の欠点であった脆さを大幅に改善し、市販の石油系エポキシ樹脂と同等の伸び性能 を有する。
(5)本発明のエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化物は、安価である。
(6)本発明のエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂用硬化物は、植物成分であるリグニンの使 用割合が非常に多く石油化学原料の使用を大幅に減らしたカーボンニュートラルな ものであり、地球温暖化の防止に貢献する。
(7)本発明のエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化物は、パルプ廃液から回収されたリグ ニンを使用するので、パルプ廃液による環境汚染の問題解決に貢献する。
(8)本発明のエポキシ樹脂及びエポキシ樹脂硬化物は、パルプ廃液から回収されたリグ ニンを使用するので未利用のバイオマス資源の活用に貢献する。
【本発明を実施するための最良の形態】
【0027】
次に実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれによって限定されるものではない。
尚、本実施例中の分子量の測定は、ゲル濾過クロマトグラフィー(トーソー8020システム)を使用し、キャリア:THFlcc/min、検出器UVで測定したものである。
実施例及び比較例のエポキシ樹脂硬化物の曲げ強さは、JIS K7171に準拠して求めた。また伸び率は、曲げ破壊時の曲げひずみを伸び率とし ε=600Sh/L(%)の試算式で求めた。(S:たわみmm,h:試験片厚さ,L:支点間距離)。
また、リグニンの融点は島津製作所製サーモメカニカルアナライザーTMA−60でペネトレーションモードで昇温速度5℃/分で測定した。
リグニンの純度は、クラーソン法(72%硫酸不溶分をリグニン分とする方法)によって定量した。ただし、水分を除いた固形分中のリグニン%をリグニン純度とした。
リグニン中の灰分は、電気炉で徐々に昇温し最高1000℃でこれ以上重量が減少しなくなるまで加熱し、残存したものを灰分とし、その重量%で求めた。
【比較例1】
【0028】
(パルプ廃液を酸性にして沈殿させて回収したイネ科植物リグニン)
麦ワラを原料とし水酸化ナトリウムのみを蒸解薬品として使用したソーダ蒸解法によるpH11、濃度5%のパルプ廃液に、10%塩酸を加えて混合しpH2の酸性にした。24時間放置した後沈殿物をろ過して回収した。この沈殿物を洗浄するために過剰の水を加えて混合し、10%塩酸を加えてpH2にして、24時間放置した後、沈殿物をろ過して回収、送風乾燥機で乾燥してイネ科植物リグニンを得た。
このイネ科植物リグニンは純度85%で、灰分を8%含有していた。また、このイネ科植物リグニンの融点は174℃であったが、不明瞭で160℃でじわじわと軟化し174℃で完全に溶融した。このイネ科植物リグニンの数平均分子量は、1260であった。
【実施例1】
【0029】
(本発明の精製イネ科植物リグニン)
比較例1のイネ科植物リグニンに10倍量のメタノールを添加混合し、よく攪拌した後、ろ過して可溶部と不溶部に分離した。そして、メタノール可溶部を、エバボレーターで大部分のメタノールを回収した後、60℃で3時間減圧乾燥を行って完全乾燥させ、本発明の精製イネ科植物リグニンを得た。
この精製イネ科植物リグニンの数平均分子量は780であった。尚、除去したメタノール不溶のイネ科植物リグニンの数平均分子量は1540であった。
また、この精製イネ科植物リグニンの純度は97%、灰分含有量は1%であった。また、融点は160℃であった。このリグニンは、160℃付近ですみやかに溶融し明瞭な融点を示した。
【実施例2】
【0030】
(本発明のエポキシ樹脂)
実施例1で得た本発明の精製イネ科植物リグニン100gと大過剰量のエピクロロヒドリン300gを1リットルの四つ口フラスコ中に仕込み、攪拌モーター、温度計、滴下ロート、還流冷却管を取り付けた。約110℃の油浴中にフラスコを入れ、攪拌しながら温度を100℃に維持した。次いで、40%水酸化ナトリウム水溶液200gを2時間かけて滴下した。滴下終了後さらに1時間攪拌を続け、反応を終了した。反応物中からエバポレーターを用いて未反応のエピクロロヒドリンと水を80℃で減圧しながら留去し、本発明のエポキシ樹脂170gを得た。このエポキシ樹脂のリグニンの使用割合は72%であった。
このエポキシ樹脂の性能を調べるために、エポキシ樹脂の硬化試験を行った。硬化剤として市販のノボラック樹脂(フェノライトTD−2131、DIC社製)を使用した。
本発明のエポキシ樹脂と前記硬化剤を150:100の割合でメチルエチルケトンに溶解し、硬化促進剤として1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾールを、エポキシ樹脂と硬化剤を合わせた重量に対して1重量%添加した。
このワニスをフィルム上にキャストして、60℃の温度で3時間かけてメチルエチルケトンを除去した。
続いて、テフロンの型に充填し、真空プレス中140℃で2時間+170℃で3時間加熱し硬化させた。樹脂は加熱時に溶融して流動性を示した後、硬化した。樹脂硬化物の曲げ強度は165MPa、伸び率は8%であった。
【比較例2】
【0031】
比較例1で得たイネ科植物リグニンを使用する以外は、実施例2と同じ方法で、エポキシ樹脂165gを得た。このエポキシ樹脂のリグニン使用割合は74%であった。
次に、実施例2と同じ方法で、このエポキシ樹脂の硬化試験を行った所、樹脂硬化物の曲げ強さは155MPa、伸び率は5%であった。
【実施例3】
【0032】
(本発明のエポキシ樹脂硬化物)
市販のビスフェノールA型エポキシ樹脂(エポキシ当量190)を使用し、実施例1で得た本発明の精製イネ科植物リグニンを硬化剤として、重量比で110:100の割合でエポキシ樹脂硬化物を作製した。
メチルエチルケトンに溶解し、硬化促進剤として1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾールを、エポキシ樹脂と硬化剤を合わせた重量に対して1重量%添加した。
このワニスをフィルム上にキャストして、60℃の温度で3時間かけてメチルエチルケトンを除去した。
続いて、テフロンの型に充填し、真空プレス中で140℃で2時間+170℃で3時間加熱し硬化させた。樹脂は加熱時に溶融して流動性を示した後、硬化した。
このエポキシ樹脂硬化物のリグニンの使用割合は44%であった。また、このエポキシ樹脂硬化物の曲げ強度は170MPa、伸び率は9%であった。
【比較例3】
【0033】
比較例1で得たイネ科植物リグニンを硬化剤として使用する以外は実施例3と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物を得た。このエポキシ樹脂硬化物のリグニンの使用割合は46%であった。また、このエポキシ樹脂硬化物の曲げ強さは160MPa、伸び率は6%であった。
【実施例4】
【0034】
(本発明のエポキシ樹脂硬化物)
エポキシ樹脂として実施例2で得た本発明のエポキシ樹脂を使用する以外は実施例3と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物を得た。
このエポキシ樹脂硬化物のリグニンの使用割合は82%であった。またこのエポキシ樹脂硬化物の曲げ強さは168MPa、伸び率は8%であった。
【比較例4】
【0035】
エポキシ樹脂として比較例2で得たエポキシ樹脂を使用する以外は比較例3と同じ方法でエポキシ樹脂硬化物を得た。
このエポキシ樹脂硬化物のリグニンの使用割合は84%であった。また、このエポキシ樹脂硬化物の曲げ強さは156MPa、伸び率は6%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イネ科植物を原料としたアルカリ蒸解法によるパルプ廃液を酸性にして沈殿物を回収して得たイネ科植物リグニンを、さらに親水性有機溶媒の可溶分と不溶分に分離し、不溶分を除去し可溶分のみを回収したものであることを特徴とする精製イネ科植物リグニン。
【請求項2】
前記親水性有機溶媒がメタノール、アセトン又はメチルエチルケトンである請求項1記載の精製イネ科植物リグニン。
【請求項3】
請求項1または2記載の精製イネ科植物リグニンにエピクロロヒドリンを反応させているものであって、リグニンの使用割合が60重量%以上であることを特徴とするエポキシ樹脂。
【請求項4】
エポキシ樹脂に、請求項1または2記載の精製イネ科植物リグニンを硬化剤として使用して得たエポキシ樹脂硬化物であって、リグニンの使用割合が30重量%以上であることを特徴とするエポキシ樹脂硬化物。
【請求項5】
前記エポキシ樹脂が請求項1または2に記載の精製イネ科植物リグニンにエピクロロヒドリンを反応させたものであり、リグニンの使用割合が70重量%以上であることを特徴とする請求項4記載のエポキシ樹脂硬化物

【公開番号】特開2012−236811(P2012−236811A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118485(P2011−118485)
【出願日】平成23年5月9日(2011.5.9)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(500068913)河野新素材開発株式会社 (12)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】