説明

精製含フッ素ポリマーの製造方法

【課題】本発明は、大型の重合槽を用いた高圧重合が可能な製造方法であって、着色、発泡等の外観異常のないペレット、及び、成形品を得ることができる精製含フッ素ポリマーの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明は、懸濁安定剤の存在下に行う懸濁重合によって得られる含フッ素ポリマーを酸化処理することを特徴とする精製含フッ素ポリマーの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製含フッ素ポリマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素ポリマーの製造のために用いられている重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合などがある。懸濁重合では、重合槽の壁面や攪拌翼、撹拌軸、邪魔板等に生成ポリマーが付着するという問題があった。含フッ素ポリマーの懸濁重合においては、これまで、主に重合槽等にグラスライニング等の付着防止処理を施すことで、この問題を解決してきた。グラスライニングを施した重合槽を用いた場合、重合槽の大型化が困難なため1バッチあたりの収量も少なく、また、重合圧力にも制限があるため重合速度が小さいなど、生産効率を良くすることが困難であった。
【0003】
一方、懸濁重合における付着の問題に対する別の解決方法として、分散安定剤や懸濁安定剤(以下、両者をまとめて「懸濁安定剤」と記載)を使用することが提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。この場合、懸濁安定剤の添加により、生成ポリマーの付着を防止することはできるが、懸濁安定剤が生成ポリマーに残存するため、特に懸濁安定剤が炭化水素物である場合、溶融温度を高くせざるを得ない含フッ素ポリマーにとっては溶融成形時の着色や発泡を引き起こしてしまうという問題があった。
【0004】
【特許文献1】特開平7−18026号公報
【特許文献2】特開昭49−028675号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、上記現状に鑑み、大型の重合槽を用いた高圧重合が可能であって、着色、発泡等の外観異常のないペレット、または、成形品を得ることができる精製含フッ素ポリマーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、懸濁安定剤の存在下に行う懸濁重合によって得られる含フッ素ポリマーを酸化処理することを特徴とする精製含フッ素ポリマーの製造方法である。
以下に本発明について詳細に説明する。
【0007】
本発明は、懸濁安定剤の存在下に行う懸濁重合によって含フッ素ポリマーを製造するものであるので、重合槽壁面への生成ポリマーの付着を抑制することができ、グラスライニング等の付着防止処理を施した重合槽等を使用する必要が無い。従って、大型の重合槽を用いることができ、重合圧力を上げることができるため、生産性が大幅に向上し、コストを低減することができる。
【0008】
本発明は、更に、懸濁重合によって得られる含フッ素ポリマーを酸化処理して精製含フッ素ポリマーを製造するものであるので、上記含フッ素ポリマー中に残存する炭化水素物を除去することができる。従って、懸濁重合時に懸濁安定剤を使用することにより生じる不利益を解消することができ、製造された精製含フッ素ポリマーを使用すれば、着色、発泡等の外観異常のないペレット、または、成形品を得ることができる。
【0009】
上記炭化水素物としては、懸濁安定剤、後述する付着防止剤のみならず、未反応モノマー、低分子量の生成ポリマー等が挙げられる。
【0010】
上記懸濁重合の重合条件は、目的とする含フッ素ポリマーの種類、物性等に応じて適宜設定することができる。特に重合圧力は、従来の懸濁重合よりも高圧とすることができ、例えば、従来のグラスライニングを施した重合槽の実質的な上限圧力と言われている2.0MPaゲージ圧(以下MPaGと記載)を越える圧力の下でも何ら問題なく行うことができる。
【0011】
懸濁安定剤としては、大きく分けて、無機コロイド系のものと、炭化水素系重合物からなるものの2つがあるが、酸化によって効率よく系から除去でき、また、得られた含フッ素ポリマー内に金属を残留させない点で、炭化水素系重合物からなるものであることが好ましい。上記懸濁安定剤は、重合開始前に重合水に溶解させて使用することができる。上記炭化水素系重合物としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアスパラギン酸等が挙げられ、なかでも、安全性、低コスト、実績の観点から、ポリビニルアルコール又はメチルセルロースが好ましい。
【0012】
上記懸濁重合は、懸濁安定剤と共に付着防止剤の存在下に行うものであっても良い。上記付着防止剤は、生成ポリマーの重合槽壁面等への付着を防止するものであり、重合槽壁面、攪拌機等に塗布して使用することができる。上記付着防止剤としては、ナフトール類とアルデヒド化合物との縮合反応生成物及び無機コロイドの混合物、ヒドロキシメタンスルフィン酸ナトリウム塩とナフトール化合物とヒドロキシナフタリン系化合物との縮合生成物及び水溶性メトキシル基類との反応生成物、該反応性生物及びポリビニルアルコールの混合物、アルデヒド置換セルロースエーテルの混合物等、汎用樹脂の懸濁重合で用いられているもの、あるいは、市販されているものを問題なく用いる事ができる。
【0013】
懸濁重合に使用する重合開始剤としては、一般的にラジカル重合に用いられる油溶性の各種有機過酸化物、あるいは、水溶性の過硫酸塩などを適宜用いることができるが、特に、パーオキシカーボネート、パーオキシエステルといった有機過酸化物、すなわち、ジ(クロロフルオロアシル)パーオキサイド、ジ(フルオロアシル)パーオキサイド、ジ(ω−ハイドロドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−i−プロピルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロへキシル)パーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−i−ブチリルパーオキサイド等を好適に用いることができる。なかでも、分解速度(半減期)、頻度因子、コストなどの点から炭化水素系の有機過酸化物である、ジ−i−プロピルパーオキシジカーボネート、ジ−n−プロピルパーオキシジカーボネートが好ましい。
【0014】
上記含フッ素ポリマーとしては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ビニリデンフルオライド、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、パーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)、及び、パーフルオロブチルエチレンよりなる群から選択される少なくとも1種以上のモノマーからなるもの(ただし、エチレンのみからなるものは、含フッ素ポリマーではないので除かれる)が好ましく、溶融加工可能な含フッ素ポリマーがより好ましく、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体〔FEP〕、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体〔FEP〕、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体〔PFA〕、ポリ(クロロトリフルオロエチレン)〔PCTFE〕、テトラフルオロエチレン/クロロトリフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体〔CPT〕、テトラフルオロエチレン/エチレン/パーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)共重合体〔ETFE〕、テトラフルオロエチレン/エチレン/パーフルオロブチルエチレン重合体〔ETFE〕、テトラフルオロエチレン/エチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロ(1,1,5−トリハイドロ−1−ペンテン)共重合体〔EFEP〕、テトラフルオロエチレン/エチレン/ヘキサフルオロプロピレン/パーフルオロブチルエチレン共重合体〔EFEP〕、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体〔ECTFE〕、ポリ(ビニリデンフルオライド)〔PVdF〕、テトラフルオロエチレン/ビニリデンフルオライド共重合体〔VT〕、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン/ビニリデンフルオライド共重合体〔THV〕等が更に好ましい。これらのなかでも、C−H結合を含まず、酸化処理に対する耐性が高いパーハロポリマー、FEP、PFA、PCTFE、CPTが特に好ましい。
【0015】
上記酸化処理は、F、SF、IF、NF、PF、ClF、及び、ClFよりなる群から選択される少なくとも1種のフッ素系ガスを用いたフッ素化処理であってもよい。なかでも、生産の容易さなどの面からFが最も好ましい。上記フッ素化処理により、含フッ素ポリマー中の炭化水素物を除去することができ、溶融成形時の着色、発泡等の外観異常のない含フッ素ポリマーを得ることができる。更に、同時に末端の安定化もできるため、FEPの誘電正接の値を低減することができ、PFAの水へのフッ素イオンの溶出量を低減することができる。
【0016】
上記フッ素化処理は、懸濁重合により得られた含フッ素ポリマーをパウダー状、フレーク状、ペレット状にした後、上記フッ素系ガスと接触させることにより行うことができる。取扱い易さの点では、パウダー状よりもフレーク状、更には、ペレット状の方が好ましい。一方、上記フッ素化処理は、炭化水素物からなる不純物の除去効率が向上するという点で、懸濁重合により得られた含フッ素ポリマーをパウダー状のまま、あるいは、フレーク状でフッ素化処理することが好ましいが、その一方で、フッ素化処理されたパウダーもしくはフレークを溶融押出しによりペレット化すると、その過程で主鎖の断裂により不安定末端が発生してしまい、ペレット化後の物性や色調が若干劣化するため好ましくない。そのため、ペレット化する前にパウダー状又はフレーク状の含フッ素ポリマーをフッ素化処理しておき、フッ素化処理後の含フッ素ポリマーをペレット化した後、再度フッ素化処理することが好ましい。ただし、性能と生産効率およびコストとのバランスの点から、重合により得られたパウダー状、あるいは、フレーク状の含フッ素ポリマーを溶融押出しによりペレット化した後、フッ素化処理する事が実用的で好ましい。なお、含フッ素ポリマーは、フッ素化処理前に充分に乾燥しておくことが好ましい。
【0017】
上記フッ素ガスは、Fと不活性ガスとの混合ガスであってもよい。この場合、フッ素は全体の1〜50容積%であることが好ましく、取扱いの際の安全性と反応性のバランスから、10〜25容積%がより好ましい。上記不活性ガスとしては特に限定されず、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等が挙げられる。
【0018】
上記フッ素化処理は、連続式、バッチ式の何れもの操作も可能である。上記フッ素化処理は、含フッ素ポリマーの融点未満の温度で実施することが好ましく、通常、100〜250℃で行い、熱効率や設備の耐熱性の点から、130〜200℃の範囲で行う事がより好ましい。上記フッ素化処理は、通常、10〜24時間行えばよく、フッ素化処理時の圧力は、設備の耐食性なども考慮し、通常、大気圧程度であるが、圧力を上げることで、反応時間を短縮する事が可能となる。
【0019】
フッ素ガスの供給量は、フッ素化処理の温度、フッ素ガスとの接触時間、懸濁安定剤、付着防止剤の種類と量等によって異なるが、除去すべき懸濁安定剤、付着防止剤等と少なくとも等モル量であることが好ましく、拡散ロスや反応に寄与せず排気される量を考えると過剰量であることがより好ましく、例えば5倍モル量以上であっても良い。
【0020】
上記酸化処理は、オゾンを用いたオゾン酸化処理であってもよい。上記オゾン酸化処理により、含フッ素ポリマー中の炭化水素物を除去することができ、溶融成形時に着色、発泡等の外観異常のない含フッ素ポリマーを得ることができる。
【0021】
上記オゾン酸化処理は、懸濁重合により得られた含フッ素ポリマーをパウダー状、フレーク状、ペレット状にした後、オゾン含有ガスと接触させることにより行うことができる。しかし、反応速度を上げるために含フッ素ポリマー中にオゾン分子を充分拡散させることが好ましいという点から、パウダー状、フレーク状が特に好ましい。
【0022】
オゾン含有ガスのオゾン以外の成分としては、空気、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスが挙げられる。オゾン含有ガスのオゾン濃度としては、安全性の観点から、30質量%以下であることが好ましい。
【0023】
上記オゾン酸化処理は、連続式、バッチ式の何れもの操作も可能である。上記オゾン酸化処理は、含フッ素ポリマーの融点未満の温度で実施することが好ましく、通常、30〜300℃、より好ましくは、100〜250℃で行う。上記オゾン酸化処理は、通常、4〜20時間、好ましくは8〜16時間行えばよく、フッ素化処理時の圧力は、通常、大気圧である。
【0024】
オゾン含有ガスの供給量は、オゾン酸化処理の温度、オゾン含有ガスとの接触時間、懸濁安定剤、付着防止剤の種類と量等によって異なるが、除去すべき懸濁安定剤、付着防止剤等と少なくとも同モル量であることが好ましく、拡散ロスや反応に寄与せず排気される量を考えると過剰量であることがより好ましく、例えば5倍モル量以上であっても良い。
【0025】
上記酸化処理は、酸素を含むガスを二軸押出機の混練ブロックに注入しながら押し出す酸化押出により行われるものであってもよい。上記酸化押出により、含フッ素ポリマー中の炭化水素物を除去することができ、溶融成形時の着色、発泡等の外観異常のない含フッ素ポリマーを得ることができる。
【0026】
上記酸化押出は、二軸押出機内の混練ブロックを設けた領域(酸化処理領域)において、酸素の存在下に含フッ素ポリマーを溶融混練することにより、含フッ素ポリマーを酸化させるものである。
【0027】
酸化処理領域内の圧力は減圧状態であってもよいし、大気圧又は加圧状態であってもよい。酸化処理領域内を加圧状態とする場合は、その絶対圧力を0.2MPa以上、好ましくは0.3MPa以上とすることが好ましい。加圧することにより、供給する酸素の侵入が促進され、迅速な安定化処理が可能になる。圧力は二軸押出機に取り付けた圧力計により測定できる。上限はメルトシール部の状態や押出機の型式等によって異なるが、10MPa以下、好ましくは5MPa以下である。加圧は、例えば、酸素を含むガスを圧入することにより、あるいは酸素を含むガスを加熱してその自圧下に供給することにより行うことができる。
【0028】
酸化処理領域内における滞留時間は、好ましくは10分間以下、より好ましくは8分間以下である。滞留時間が長すぎると剪断により発生する熱を除くことが難しくなり、重合体を劣化させることがある。酸化処理領域の温度は、通常200〜450℃、好ましくは300〜400℃である。
【0029】
酸素の存在量は、酸化処理領域の温度、酸化処理領域での滞留時間、押出機の型式、懸濁安定剤、付着防止剤の種類と量等によって異なるが、除去すべき懸濁安定剤、付着防止剤等と少なくとも同モル量、拡散ロスや反応に寄与せず排気される量を考えると過剰量、例えば5倍モル量以上であっても良い。
【0030】
酸素を含むガスは、酸素ガスを窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスで適切な濃度(例えば10〜30容量%)に希釈して供給してもよいが、空気をそのまま用いることが経済面から好ましい。
【0031】
上記酸化処理領域は、例えば、二軸押出機のニーディングディスクで構成された溶融ゾーン直後のスクリュー部分に設ければよい。そのほか溶融ゾーンを長く設定し、その後流部分を酸化処理領域とするなどという変形も可能である。
【0032】
上記酸化押出で生じたガス状物質、例えば、フッ化水素、炭酸ガス、分解により発生する少量のモノマー等を、酸化処理済みの含フッ素ポリマー内部から取り出し二軸押出機の外部に排出するため、絶対圧力が0.1MPa以下の状態に保持された脱気領域を酸化処理領域に引き続き二軸押出機内に設けることが好ましい。この脱気領域での絶対圧力は、含フッ素ポリマーの溶融状態や二軸押出機のスクリュー回転数等の運転条件により異なるが、排気ノズルに重合体が侵入しない程度の減圧が好ましい。
【0033】
上述した3つの方法による酸化処理は、それぞれ組み合わせて実施してもよい。例えば、酸化押出によってペレット化した含フッ素ポリマーをフッ素化することにより、含フッ素ポリマー中の炭化水素物の除去効率を向上させ、さらに、末端基安定の効果も狙うことができる。
【0034】
上記懸濁重合は、重合場がステンレススチールと接するような重合容器で行われるものであることが好ましい。本発明は、懸濁安定剤の存在下に懸濁重合によって含フッ素ポリマーを製造するものであるので、生成ポリマーが直接ステンレススチールと接触することとなっても、重合槽壁面への生成ポリマーの付着を抑制することができる。従って、グラスライニング等の付着防止処理を施した重合槽等を使用する必要がなく、重合場がステンレススチールと接するような重合容器を使用することができる。重合場がステンレススチールと接するような重合容器の使用より、重合容器自体の製造コストを低減でき、重合設備の大型化や高圧下での重合反応を実現することができる。
【0035】
本発明の製造方法により製造される精製含フッ素ポリマーは、懸濁安定剤の存在下に懸濁重合して得られたものであるにもかかわらず、懸濁安定剤の残存量がほとんどない。従って、上記精製含フッ素ポリマーを溶融成形して得られる成形品に発泡や着色等の外観不良がなく、各種含フッ素ポリマー成形品用材料として極めて好適である。
【発明の効果】
【0036】
本発明の精製含フッ素ポリマーの製造方法は、グラスライニング等の付着防止処理を施した重合槽等を使用する必要がないため、大型の重合槽を用いることができ、高圧での重合が可能であるため、生産性が大幅に向上し、生産コストを低減することができる。本発明の精製含フッ素ポリマーの製造方法は、上記含フッ素ポリマー中に残存する炭化水素物を除去するものであるので、溶融成形時に着色、発泡等の外観異常のない精製含フッ素ポリマーを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0038】
合成例、実施例及び比較例で用いた評価方法、評価基準は以下の通りである。
【0039】
(ペレットの着色の程度)
安定剤、付着防止剤を用いない従来の重合方法による通常生産品のペレットの色を基準とし、ペレットの白色度を目視により以下の段階に従って評価した。
A:差がない
B:わずかにくすんで見える
C:わずかに黄色に見える
D:濃い茶褐色となっている
【0040】
(発泡の程度)
ペレットのメルトフローレート測定で得られるストランドにおいて、下端より10cmから20cmまでの10cm間の気泡の数により、以下の段階に従って評価した。
A:0〜3
B:4〜7
C:8以上
なお、メルトフローレートの測定は、内径0.376インチのシリンダーを備えたメルトインデクサーを372℃に保ち、サンプル7gを投入し、5分間の予熱後、49Nの荷重で直径0.0825インチ、長さ0.315インチのオリフィスから押出すことで行なった。
【0041】
(誘電正接)
FEPの場合、用途に対応した重要な要求特性の一つが誘電正接の値に代表される電気特性である。この誘電正接の値を以下の方法によって測定した。
【0042】
ペレットより溶融成形した直径2mmの円柱を、関東電子応用開発社製6GHz用空洞共振器にセットし、アジレントテクノロジー社製ネットワークアナライザで測定した。測定結果は、ネットワークアナライザに接続されたPC上の関東電子応用開発社製解析ソフト「CPMA」で解析し、6GHzでの誘電正接(tanδ)を求めた。
【0043】
安定剤、付着防止剤を用いない従来の重合方法により通常生産されているFEPの誘電正接の値は、フッ素化前で8〜10×10−4程度、完全フッ素化(全ての不安定末端をフッ素化によって安定化)後で4×10−4程度となる。これらの値と比較して、以下の段階に従って評価した。
A:通常生産品の完全フッ素化品並み
B:通常生産品の未フッ素化品並み
C:通常生産品の未フッ素化品よりはるかに悪い
【0044】
(フッ素イオン溶出量)
PFAの場合、重要な要求特性の一つが水へのフッ素イオンの溶出の少なさである。これを、以下の方法によって求めた。
【0045】
ペレット25gを純水50gに浸漬し、加圧式滅菌機で120℃、1時間抽出処理を行った。その後、純水中のフッ素イオン量をイオンクロマトグラフィー(YOKOGAWA製1C7000式液体クロマトグラム)にて定量した。
【0046】
安定剤、付着防止剤を用いない従来の重合方法により通常生産されているPFAでは、フッ素化前で10〜20ppm、完全フッ素化後で1ppm以下となる。これらの値と比較して、以下の段階に従って評価した。
A:通常生産品の完全フッ素化品並み
B:通常生産品の未フッ素化品並み
C:通常生産品の未フッ素化品よりはるかに悪い
【0047】
合成例1
内容量1336リットルのグラスライニングしていないジャケット付き撹拌式SUS製オートクレーブに、脱ミネラル、脱酸素した後、メチルセルロース(信越化学工業社製メトローズ(登録商標)SM−100)480ppmを溶解させた純水360リットルを仕込んだ。攪拌を開始し、内部空間を純窒素で充分置換した後、槽内を真空にし、ヘキサフルオロプロピレン(以下HFP)360kgを仕込んだ。引き続き、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(以下PPVE)3.5kgを圧入し、槽内温度を反応温度の40℃にし、テトラフルオロエチレン(以下TFE)を1.27MPaGまで圧入した。ここに、開始剤としてジ−i−プロピルパーオキシジカーボネート(以下IPP)380gと分子量調節剤としてメタノール900gを圧入し重合を開始した。反応中、系内の圧力を一定に保持するようTFEとHFPの混合モノマー(混合比率 TFE:HFP=86:14モル)を逐次追加し、また同時に、混合モノマーの追加量に応じてPPVEを360gづつ10回に分けて追加圧入した。さらに、IPPの半減期が経過する毎に初期仕込量の半分の量を追加していった。21時間後、TFE、HFP、PPVEを計390kg仕込んだところで反応を終了し、モノマーをパージした。得られたポリマーを分離、洗浄、乾燥することにより白色粉末360kgを得た。
【0048】
合成例2
合成例1のIPPをジ−n−プロピルパーオキシジカーボネート(以下NPP)に変え、初期仕込量を190gとした他は合成例1と同様に重合反応を行い、反応時間30時間で360kgの白色粉末を得た。
【0049】
合成例3
合成例1のIPPをジ(ω−ハイドロドデカフルオロヘプタノイル)パーオキサイド(以下DHP)に変え、初期仕込量を400gとし、槽内温度を30℃、槽内圧力を0.95MPaGとした他は合成例1と同様に重合反応を行い、反応時間21時間で360kgの白色粉末を得た。
【0050】
合成例4
合成例1のメチルセルロース480ppm水溶液をポリビニルアルコール(日本合成化学社製ゴーセノール(登録商標)KH−20)(以下PVA)4wt%に変えた他は合成例1と同様に重合反応を行い、反応時間21時間で360kgの白色粉末を得た。
【0051】
合成例5
合成例1のメチルセルロースを用いない他は合成例1と同様に重合反応を行った。ただし、この場合、重合途中で重合槽内壁の気液界面、撹拌翼へのポリマーの付着がひどくなって続行が困難となったため、10時間で重合を中断し、モノマーをパージした。槽内に付着していないポリマーを分離、洗浄、乾燥することにより白色ポリマー80kgを得た。
【0052】
合成例6
内容量3.0リットルのグラスライニングしていないジャケット付き撹拌式SUS製オートクレーブに、脱ミネラル、脱酸素した後、PVA4wt%を溶解させた純水0.89リットルを仕込んだ。攪拌を開始し、内部空間を純窒素で充分置換した後、槽内を真空にし、パーフルオロシクロブタン700gを仕込んだ。引き続き、PPVE22gを圧入し、槽内温度を反応温度の35℃にし、TFEを0.57MPaGまで圧入した。ここに、開始剤としてNPP0.3gと分子量調節のためのメタノール12gを圧入し重合を開始した。反応中、系内の圧力を一定に保持するようTFEを逐次追加し、また同時に、TFEの追加量に応じてPPVEを1.8gづつ16回に分けて、追加圧入した。さらに、TFE315gを追加したところで、メタノール42gを追加圧入した。15時間後、TFEとPPVEを計654g仕込んだところで反応を終了し、モノマーをパージした。得られたポリマーを分離、洗浄、乾燥することにより白色粉末650gを得た。
【0053】
合成例7
内容量3.0リットルのジャケット付き撹拌式SUS製オートクレーブを洗浄後、槽内壁および撹拌軸、撹拌翼に付着防止剤(アクゾノーベル社製NOXOL ETH)のエタノール10%溶液を噴霧し60℃で加熱乾燥させ、再度軽く水洗いしたオートクレーブを用いた他は、合成例6と同様にして、重合反応を行い、反応時間15時間で650kgの白色粉末を得た。
【0054】
実施例1
合成例1で得られたFEPパウダーをローラーコンパクターにかけ、フレーク状にした。このフレーク状FEPを200℃で、窒素にて25%に希釈されたフッ素ガスに6時間曝すことによりフッ素化した。これを軸径30mm、全長1630mmの真空ベントを有する二軸スクリュー型押出機にて、ペレット化した。得られたペレットを170℃、5時間乾燥後、200℃で、窒素にて25%に希釈されたフッ素ガスに15時間曝すことによりフッ素化した。
【0055】
実施例2
合成例2で得られたFEPパウダーをローラーコンパクターにかけ、フレーク状にした。このフレーク状FEPを200℃で、窒素にて25%に希釈されたフッ素ガスに6時間曝すことによりフッ素化した。これを軸径30mm、全長1630mmの真空ベントを有する二軸スクリュー型押出機にて、ペレット化した。得られたペレットを170℃、5時間乾燥した。
【0056】
実施例3
合成例3で得られたFEPパウダーを、軸径30mm、全長1630mmの真空ベントを有する二軸スクリュー型押出機にて、ペレット化した。得られたペレットを170℃、5時間乾燥後、200℃で、窒素にて25%に希釈されたフッ素ガスに20時間曝すことによりフッ素化した。
【0057】
実施例4
合成例6で得られたPFAパウダーをローラーコンパクターにかけ、フレーク状にした。このフレーク状PFAをNi製流通型反応機に仕込み、150℃で、0.15質量%のオゾン含有ガスを0.15NL/minの流量で反応機内を流通させ、12時間反応させた。このオゾン処理されたフレークを軸径30mm、全長1630mmの真空ベントを有する二軸スクリュー型押出機にて、ペレット化した。得られたペレットを170℃、5時間乾燥した。
【0058】
実施例5
合成例7で得られたPFAパウダーを、軸径30mm、全長1630mmの真空ベントを有する二軸スクリュー型押出機にて、ペレット化した。得られたペレットを170℃、5時間乾燥後、200℃で、窒素にて25%に希釈されたフッ素ガスに20時間曝すことによりフッ素化した。
【0059】
実施例6
合成例4で得られたFEPパウダーを、軸径30mm、全長1630mmの混練ブロック(酸化処理領域)を有する二軸スクリュー型押出機に、8kg/hrの速度で供給した。酸化処理領域の温度を360℃に設定し、FEPパウダーの供給口の下流側で空気(酸素濃度約21%)を絶対圧力で1.0MPa、10NL/minの流量で酸化処理領域へ供給した。加熱溶融時間などを含む全処理に要した時間は約4分であった。この酸化処理を伴う酸化押出によって得られたペレットを、170℃、5時間乾燥した。
【0060】
実施例7
合成例1で得られたFEPパウダーを、実施例6と同一の条件で、酸化処理を伴う酸化押出でペレット化した。得られたペレットを、170℃、5時間乾燥した後、200℃で、窒素にて25%に希釈されたフッ素ガスに20時間曝すことによりフッ素化した。
【0061】
比較例1
合成例5で得られたFEPパウダーを、軸径30mm、全長1630mmの真空ベントを有する二軸スクリュー型押出機にて、ペレット化した。得られたペレットを170℃、5時間乾燥した。
【0062】
比較例2
合成例1で得られたFEPパウダーを、比較例1と同一の処理でペレットとした。
【0063】
比較例3
合成例7で得られたFEPパウダーを、比較例1と同一の処理でペレットとした。
【0064】
比較例4
合成例1得られたFEPパウダーに対し、実施例6の空気に代わり、純窒素を供給した以外は、実施例6と同一に処理し、ペレットとした。
【0065】
合成例、実施例及び比較例の結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の製造方法は、各種成形品用材料としての含フッ素ポリマーの製造に好適に利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁安定剤の存在下に行う懸濁重合によって得られる含フッ素ポリマーを酸化処理することを特徴とする精製含フッ素ポリマーの製造方法。
【請求項2】
酸化処理は、F、SF、IF、NF、PF、ClF、及び、ClFよりなる群から選択される少なくとも1種以上のフッ素系ガスを用いたフッ素化処理である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
フッ素系ガスは、Fと不活性ガスとの混合ガスである請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
酸化処理は、オゾンを用いたオゾン酸化処理である請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
酸化処理は、酸素を含むガスを二軸押出機の混練ブロックに注入しながら押し出す酸化押出により行われるものである請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
懸濁重合は、重合場がステンレススチールと接する重合容器で行われる請求項1、2、3、4又は5記載の製造方法。
【請求項7】
懸濁安定剤は、炭化水素系重合物からなるものである請求項1、2、3、4、5又は6記載の製造方法。
【請求項8】
炭化水素系重合物は、ポリビニルアルコール又はメチルセルロースである請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
懸濁重合は、付着防止剤の存在下に行うものである請求項1、2、3、4、5、6、7又は8記載の製造方法。

【公開番号】特開2010−229163(P2010−229163A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−192590(P2007−192590)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】