説明

精製油脂の製造方法

【課題】副生成物が少なく、風味及び色相が良好で、発煙が抑えられた油脂を製造する方法の提供。
【解決手段】(1)油脂に、白土(A)と、アルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩、及びケイ酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属塩類(B)とを接触させる吸着処理を行った後に、(2)得られた油脂に180℃以下で水蒸気を接触させる脱臭処理を行う精製油脂の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製油脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油脂は身体の栄養素やエネルギーの補給源(第1次機能)として欠かせないものであるが、加えて、味や香りなど嗜好性を満足させる、いわゆる感覚機能(第2次機能)を提供するものとして重要である。さらに、ジアシルグリセロールを高濃度に含む油脂は体脂肪燃焼作用等の生理作用(第3次機能)を有していることが知られている。
【0003】
植物の種子、胚芽、果肉等から圧搾されたままの油脂には、脂肪酸、モノアシルグリセロール、有臭成分等が含まれている。また、油脂を加工する際には、エステル交換反応、エステル化反応、水素添加処理等の加熱工程を経ることで、微量成分が副生し、風味が低下する。そのため、高温減圧下で水蒸気と接触させる、いわゆる脱臭処理が一般的に行われている(特許文献1)。
また、ジアシルグリセロール高含有油脂においては、良好な風味とするためジアシルグリセロールに富む油脂に有機酸を添加した後、多孔性吸着剤で脱色処理し、脱臭処理を行う方法(特許文献2)や、酵素分解法により原料油脂を加水分解して得られた脂肪酸とグリセリンとをエステル化反応させた後、脱臭時間と脱臭温度が一定範囲内となるよう脱臭処理を行う方法(特許文献3)が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平3−7240号公報
【特許文献2】特開平4−261497号公報
【特許文献3】特開2009−40854号公報
【特許文献4】国際公開第2010/126136号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、消費者の食用油脂への品質向上の要望が大きく、また風味や見た目に敏感な消費者の増加も著しい。このため、従来よりもさらに純度が高く、風味及び色相の良好な油脂が望まれている。
しかしながら、風味改善のために行われている従来の脱臭操作によって、却って副生成物が増加してしまう場合があることが判明した。すなわち、脱臭処理を低い温度で行った場合、臭気成分の留去効果が小さいため油脂の風味・色相が悪く、脱臭処理を高温で行う必要があったが、高温では別異の副生成物、グリシドール脂肪酸エステルが副生することが見出され、ジアシルグリセロール含有量の高い油脂ほど、その傾向が強かった。
油脂中のグリシドール脂肪酸エステル等の生成を抑制する手段として、脱臭処理の前に、油脂を吸着剤処理及び/又はアルカリ処理しておく方法が知られている(特許文献4)。しかし、特許文献4の方法は、得られる油脂の風味については不明であり、最終工程においてなお高温で脱臭処理が行われているため、さらなる風味の改善技術が求められる。
一方、脱臭処理を低温で行えば、副生成物の生成をある程度抑制できるものの、風味・色相の改善が不十分となる。また、発煙点の低下が発生する。これらの課題を全て解決できる方法は未だ見出されていなかった。
【0006】
従って、本発明の課題は、副生成物が少なく、風味及び色相が良好で、発煙が抑えられた精製油脂を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、油脂の精製操作について種々検討したところ、予め油脂に白土とアルカリ土類金属塩類を接触させる処理を行った後、温和な条件で油脂に水蒸気を接触させる処理をすることで、副生成物の生成が抑制されること、さらに斯かる処理を経た油脂は風味及び色相が良好で、かつ加熱時の発煙が抑えられることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、(1)油脂に、白土(A)と、アルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩、及びケイ酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属塩類(B)とを接触させる吸着処理を行った後、(2)得られた油脂に180℃以下で水蒸気を接触させる脱臭処理を行う精製油脂の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、副生成物が少なく、且つ風味及び色相が良好で、加熱時の発煙が抑えられた精製油脂が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の精製油脂の製造方法は、次の工程(1)及び工程(2)を含むことを特徴とする。
工程(1)油脂に、白土(A)と、アルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩及びケイ酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属塩類(B)とを接触させる吸着処理。
工程(2)工程(1)で得られた油脂を、180℃以下で水蒸気を接触させる脱臭処理。
【0011】
本明細書において油脂は、トリアシルグリセロール、及びジアシルグリセロールを含むものが含まれる。すなわち、本発明の工程(1)には、トリアシルグリセロール、又はジアシルグリセロールを含む油脂が用いられる。
【0012】
トリアシルグリセロールに比べ、ジアシルグリセロールは精製工程において副生成物を生成しやすい傾向がある。したがって、本発明の製造方法は、ジアシルグリセロールを含有する油脂に適用するのがより好ましい。油脂中のジアシルグリセロールの含有量は20質量%(以下、単に「%」とする)以上が好ましく、50%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。上限は特に規定されないが、99%以下が好ましく、98%以下がより好ましく、97%以下がさらに好ましい。具体的には、ジアシルグリセロールを、好ましくは20〜99%、より好ましくは50〜99%、さらに好ましくは70〜99%含有する油脂が好ましい。
【0013】
ジアシルグリセロールを含有する油脂は、原料油脂由来の脂肪酸とグリセリンとのエステル化反応、原料油脂とグリセリンとのグリセロリシス反応等により得ることができる。
【0014】
エステル化反応及び/又はグリセロリシス反応は、アルカリ金属又はその合金、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物、水酸化物もしくは炭素数1〜3のアルコキシド等の化学触媒を用いる化学法と、リパーゼ等の酵素を用いる酵素法に大別される。なかでも、触媒としてリパーゼ等を用いて酵素的に温和な条件で反応を行うのが風味等の点で優れており好ましい。
【0015】
原料油脂は、植物性油脂、動物性油脂のいずれでもよい。具体的な原料としては、菜種油、ひまわり油、とうもろこし油、大豆油、米油、紅花油、綿実油、牛脂、あまに油、魚油等を挙げることができる。
原料油脂中のトリアシルグリセロールの含有量の上限は特に規定されないが、85%以上が好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がさらに好ましい。
【0016】
原料油脂は、色相及び風味の点から、脱臭処理を施したものを用いるのが好ましい。本明細書では原料油脂の脱臭処理を予備脱臭処理という。予備脱臭処理は、原料油脂を水蒸気蒸留する処理であり、減圧水蒸気蒸留が脱臭効率上好ましい。
【0017】
予備脱臭処理は、バッチ式、半連続式、連続式等で行うことができる。処理すべき油の量が少量の場合はバッチ式を用い、多量になると半連続式、連続式を用いることが好ましい。
半連続式装置としては、例えば数段のトレイを備えた脱臭塔からなるガードラー式脱臭装置等が挙げられる。本装置は、上部から脱臭すべき油脂を供給し、トレイ上で油脂と水蒸気の接触を適当な時間行った後、油脂を下段のトレイへ下降させ、間欠的に次々と下降しながら移動することにより処理を行うものである。
連続式装置としては、薄膜状の油脂と水蒸気を接触させることが可能な、構造物が充填された薄膜脱臭装置等が挙げられる。
【0018】
原料油脂と水蒸気の接触温度は180〜250℃が好ましく、190〜240℃がより好ましく、さらに200〜230℃が好ましく、殊更210〜230℃が好ましい。
また、油脂と水蒸気の接触時間は10〜180分が好ましく、15〜120分がより好ましく、さらに20〜90分が好ましい。
原料油脂と水蒸気を接触させる際の圧力は、10〜4000Paが好ましく、50〜1000Paがより好ましく、100〜800Paがさらに好ましく、150〜700Paがさらに好ましい。
原料油脂と接触させる水蒸気の量は、原料油脂に対して0.1〜20質量%/hrが好ましく、0.2〜10質量%/hrがより好ましく、0.3〜5質量%/hrがさらに好ましく、0.4〜4質量%/hrがさらに好ましい。ここでの「質量%」は原料油脂100質量部に対する水蒸気質量部、即ち外比を意味する(以下、同様)。
【0019】
本発明の製造方法の工程(1)では、油脂に、白土(A)と、アルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩、及びケイ酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属塩類(B)とを接触させる吸着処理を行う。当該処理において、白土(A)及びアルカリ土類金属塩類(B)を接触させる順序は特に限定されず、各成分を任意の順序で投入するか、あるいは全てを同時に投入して接触させることができる。具体的には、
(i)油脂に白土を接触させた後、アルカリ土類金属塩類を接触させる、
(ii)油脂にアルカリ土類金属塩類を接触させた後、白土を接触させる、
(iii)白土とアルカリ土類金属塩類を同時に投入して油脂に接触させる、
が挙げられる。なお、(i)、(ii)の方法における各接触操作間には濾過工程を入れて、各成分を濾別してから次の操作に移行してもよい。
油脂と各成分とを接触させる方法は、特に限定されず、全ての成分を撹拌槽に入れ、攪拌・混合する方法や、カラムに白土及び/又はアルカリ土類金属塩類を充填し、これに油脂を流通させる方法等が挙げられる。
【0020】
本発明の製造方法で用いられる白土(A)としては、酸性白土、活性白土又はこれらの混合物のいずれでもよい。活性白土は天然に産出する酸性白土(モンモリロナイト系粘土)を硫酸等の鉱酸で処理したものであり、大きい比表面積と吸着能を有する多孔質構造をもった化合物である。酸性白土を酸処理することにより比表面積や水分散液のpH等が変化し、性能が変化することが知られている。酸性白土又は活性白土の比表面積は、酸処理の程度などにより異なるが、50〜400m2/gであるのが好ましく、pH(5%サスペンジョン)は2.5〜9のものが好ましく、3〜7のものがより好ましい。
酸性白土としては、例えば、ミズカエース#20、ミズカエース#400(以上、水澤化学工業(株)製)等の市販品を用いることができ、活性白土としては、例えば、ガレオンアースV2R、ガレオンアースNV、ガレオンアースGSF(以上、水澤化学工業(株)製)等の市販品を用いることができる。
【0021】
白土(A)の使用量は、濾過速度が早く生産性が良好である点、副生成物の含有量低減の点、処理後の油脂の歩留まりが高い点から、油脂100質量部に対して2.0質量部(以下、単に「部」とする)未満が好ましく、1.5部以下がより好ましく、1.3部以下がさらに好ましい。また、白土(A)の使用量の下限は、上限と同様の理由で、油脂100部に対して0.1部以上が好ましく、0.2部以上がより好ましく、0.3部以上がさらに好ましい。より具体的には、白土(A)の使用量は、油脂100部に対して0.1〜2.0部未満が好ましく、0.2〜1.5部がより好ましく、0.3〜1.3部がさらに好ましい。
【0022】
油脂と白土(A)の接触温度は、副生成物の含有量低減及び工業的生産性の点から、20〜150℃が好ましく、さらに40〜135℃、さらに60〜120℃が好ましい。また、接触時間は、同様の点から、3〜180分が好ましく、さらに5〜120分、さらに7〜90分、さらに15〜90分が好ましい。圧力は、減圧下でも常圧でもよいが、酸化抑制及び脱色性の点から減圧下が好ましい。
【0023】
本発明の製造方法で用いられるアルカリ土類金属塩類(B)は、アルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩、及びケイ酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である。ここで、アルカリ土類金属酸化物としては、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)等が挙げられる。アルカリ土類金属炭酸塩としては、炭酸カルシウム(CaCO3)、炭酸マグネシウム(MgCO3)等が挙げられる。アルカリ土類金属ケイ酸塩としては、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム等が挙げられる。なお、これらのアルカリ土類金属塩類は、各種の結晶形、各種の水和物が用いられる。
なかでも、風味の点より、アルカリ土類金属酸化物、及びアルカリ土類金属ケイ酸塩が好ましく、アルカリ土類金属ケイ酸塩がより好ましい。具体的には、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウムが好ましく、ケイ酸カルシウムがより好ましい。これらは1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
より具体的には、例えば、食品添加物 ケイ酸カルシウム(富田製薬製)、食品添加物酸化マグネシウムDS(富田製薬製)等の市販品を用いることができる。
【0024】
吸着処理においては、アルカリ土類金属塩類(B)とともに、シリカ、アルミナ、アルミノシリケート、ゼオライト等の金属酸化物(C)を接触させてもよい。
金属酸化物とアルカリ土類金属塩類との質量比((C)/(B))は0.1〜10が好ましく、0.5〜8がより好ましく、1〜7がさらに好ましい。また、濾過性能を改善するために、珪藻土や等の濾過助剤と併用しても良い。
【0025】
アルカリ土類金属塩類(B)の使用量の下限は、風味の点、濾過速度が早く生産性が良好である点、歩留まりが高い点から、油脂100部に対して0.1部以上が好ましく、さらに0.2部以上、さらに0.3部以上が好ましい。また、アルカリ土類金属塩類(B)の使用量の上限は、下限と同様の点から、油脂100部に対して10部以下が好ましく、さらに5部以下、さらに3部以下が好ましい。具体的なアルカリ土類金属塩類(B)の使用量は、油脂100部に対して0.1〜10部が好ましく、さらに0.2〜5部、さらに0.3〜3部が好ましい。
【0026】
油脂とアルカリ土類金属塩類(B)の接触温度は、副生成物の含有量低減及び工業的生産性の点から、20〜150℃が好ましく、さらに30〜135℃、さらに50〜120℃が好ましい。また、接触時間は、同様の点から、3〜180分が好ましく、さらに5〜120分、さらに7〜90分、さらに15〜90分が好ましい。圧力は、減圧下でも常圧でもよいが、風味の点、加熱時の発煙抑制の点から常圧下が好ましい。
【0027】
本発明においては、風味の点、加熱時の発煙抑制の点より、アルカリ土類金属塩類(B)を油脂に接触させる吸着処理[工程(1)]を水の存在下に行うのが好ましい。水分量は、油脂100部に対して5部以下、さらに0.1〜4部、さらに0.1〜3部、さらに0.1〜2部、殊さらに0.2〜1.5部とするのが、同様の点から好ましい。水は、蒸留水、イオン交換水、水道水、井戸水等いずれのものでもよい。
【0028】
本発明においては、次に180℃以下の条件で油脂に水蒸気を接触させる工程[工程(2)]、すなわち、脱臭処理を行う。
本発明の製造方法において、脱臭処理は、前述の予備脱臭処理と同様の装置で行うことができる。
【0029】
脱臭処理において、油脂に水蒸気を接触させる際の温度は、副生成物の含有量を低減する点、処理の効率、及び風味の点より、180℃以下であるが、同様の点から、175℃以下が好ましく、170℃以下がより好ましい。また、水蒸気を接触させる際の温度の下限は100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましく、120℃以上がさらに好ましい。具体的な温度は、100〜180℃が好ましく、110〜175℃がより好ましく、120〜170℃がさらに好ましい。なお、本発明において、油脂に水蒸気を接触させる際の温度は、水蒸気を接触させる油脂の温度である。
【0030】
油脂と水蒸気の接触時間は、処理の効率、及び風味の点より、0.5〜180分が好ましく、2〜120分がより好ましく、5〜90分がさらに好ましく、10〜80分がさらに好ましい。
油脂と水蒸気を接触させる際の圧力は、同様の点より、10〜4000Paが好ましく、50〜1000Paがより好ましく、100〜800Paがさらに好ましく、150〜700Paがさらに好ましい。
油脂と接触させる水蒸気の量は、油脂に対して0.1〜20%/hrが好ましく、0.2〜10%/hrがより好ましく、0.3〜5%/hrがさらに好ましく、0.4〜4%/hrがさらに好ましい。
【0031】
本発明の製造方法において、油脂は、本発明の工程(1)及び工程(2)の前及び/又は後に、通常油脂に対して用いられる精製工程を行ってもよい。具体的には、トップカット蒸留工程、酸処理工程、水洗工程等を挙げることができる。トップカット蒸留工程は、油脂を蒸留することにより、油脂から脂肪酸等の軽質の副生物を除去する工程をいう。
酸処理工程は、油脂にクエン酸等のキレート剤を添加、混合する工程をいう。
水洗工程は、油脂に水を接触させ、油水分離を行う操作を行う工程をいう。水洗により水溶性の副生成物を除去することができる。水洗工程は複数回(例えば3回)繰り返すことが好ましい。
【0032】
本発明の処理[工程(1)及び工程(2)]の結果、精製工程における副生成物の生成、特にグリシドール脂肪酸エステルの生成を抑えることができ、副生成物が少なく、且つ風味及び色相が良好で、加熱時の発煙が抑えられた精製油脂を得ることができる。本発明の処理によれば、製造工程全般を通じて副生成物の生成を抑えることができる。
グリシドール脂肪酸エステルは、ドイツ脂質科学会標準法C−III 18(09)(DGF Standard Methods 2009 (14. Supplement),C−III 18(09),”Ester−bound 3−chloropropane−1,2−diol (3−MCPD esters) and glycidol(glycidyl esters)”)記載の方法にて測定することができる。本測定方法は、3−クロロプロパン−1,2−ジオールエステル(MCPDエステル)並びにグリシドール及びそのエステルの測定方法である。本発明においては、グリシドールのエステルを定量するため、当該標準法7.1記載のオプションA(”7.1 Option A:Determination of the sum of ester−bound 3−MCPD and glycidol”)の方法を用いる。測定方法の詳細は実施例に記載した。
グリシドール脂肪酸エステルとMCPDエステルとは異なる物質ではあるが、本発明においては、上記測定方法にて得られた値をもってグリシドール脂肪酸エステル含有量とする。
【0033】
本発明の精製油脂におけるグリシドール脂肪酸エステルの含有量は、7ppm以下、さらに3ppm以下、さらに1ppm以下、さらに0.5ppm以下、殊更0.3ppm以下であることが好ましい。
【0034】
本発明の精製油脂の発煙温度は、実施例記載の方法で測定される温度が200℃以上、さらに210℃以上、さらに215℃以上、さらに220℃以上であることが、調理作業性より好ましい。
【0035】
また、本発明の精製油脂中のジアシルグリセロールの含有量は20%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、50%以上がより好ましく、70%以上がさらに好ましい。上限は特に規定されないが、99%以下が好ましく、98%以下がより好ましく、97%以下がさらに好ましい。
【0036】
本発明の精製油脂の色相は、実施例記載の方法で測定される10R+Yの値が30以下が好ましく、さらに25以下、殊更20以下であることが好ましい。
【0037】
本発明の精製油脂には、一般の食用油脂と同様に、保存性及び風味安定性の向上を目的として、抗酸化剤を添加することができる。抗酸化剤としては、天然抗酸化剤、トコフェロール、アスコルビン酸パルミテート、アスコルビン酸ステアレート、BHT、BHA、リン脂質等が挙げられる。
【0038】
本発明の精製油脂は、一般の食用油脂とまったく同様に使用でき、油脂を用いた各種飲食物に広範に適用することができる。例えば、ドリンク、デザート、アイスクリーム、ドレッシング、トッピング、マヨネーズ、焼肉のたれ等の水中油型油脂加工食品;マーガリン、スプレッド等の油中水型油脂加工食品;ピーナッツバター、フライングショートニング、ベーキングショートニング等の加工油脂食品;ポテトチップ、スナック菓子、ケーキ、クッキー、パイ、パン、チョコレート等の加工食品;ベーカリーミックス;加工肉製品;冷凍アントレ;冷凍食品等に利用することができる。
【0039】
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下の製造方法を開示する。
【0040】
<1>(1)油脂に、白土(A)と、アルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩、及びケイ酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属塩類(B)とを接触させる吸着処理を行った後、(2)得られた油脂に180℃以下で水蒸気を接触させる脱臭処理を行う精製油脂の製造方法。
【0041】
<2>油脂が、トリアシルグリセロール、又はジアシルグリセロールを含む油脂である<1>の製造方法。
<3>油脂が、ジアシルグリセロールを20%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上含有するものである<1>又は<2>の製造方法。
<4>油脂が、ジアシルグリセロールを20〜99%、好ましくは50〜99%、より好ましくは70〜99%含有するものである<1>〜<3>の製造方法。
<5>油脂が、180〜250℃で予備脱臭処理を行った原料油脂からエステル化反応又はグリセロリシス反応により得られたものである、<1>〜<4>の製造方法。
<6>工程(1)が(i)油脂に白土を接触させた後、アルカリ土類金属塩類を接触させる処理、(ii)油脂にアルカリ土類金属塩類を接触させた後、白土を接触させる処理、又は(iii)白土とアルカリ土類金属塩類を同時に投入して油脂に接触させる処理である<1>〜<5>の製造方法。
<7>白土(A)が、酸性白土、活性白土又はこれらの混合物である<1>〜<6>の製造方法。
<8>白土(A)が、比表面積50〜400m2/g、5%サスペンジョンのpH2.5〜9の酸性白土又は活性白土である<1>〜<7>の製造方法。
<9>吸着処理における白土(A)の使用量が、油脂100部に対して2部未満、好ましくは1.5部以下、より好ましくは1.3部以下であり、白土(A)の使用量の下限が油脂100部に対して0.1部以上、好ましくは0.2部以上、より好ましくは0.3部以上である<1>〜<8>の製造方法。
<10>吸着処理における白土(A)の使用量が、油脂100部に対して0.1部以上2.0部未満、好ましくは0.2〜1.5部、より好ましくは0.3〜1.3部である<1>〜<9>の製造方法。
<11>油脂と白土(A)の接触温度が、20〜150℃、好ましくは40〜135℃、より好ましくは60〜120℃である<1>〜<10>の製造方法。
<12>油脂と白土(A)の接触時間が、3〜180分、好ましくは5〜120分、より好ましくは7〜90分、さらに好ましくは15〜90分である<1>〜<11>の製造方法。
<13>アルカリ土類金属塩類(B)が、アルカリ土類金属ケイ酸塩である<1>〜<12>の製造方法。
<14>アルカリ土類金属塩類(B)が、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム及びケイ酸マグネシウムから選ばれる1種又は2種以上であり、好ましくは酸化カルシウム、酸化マグネシウム及びケイ酸カルシウムから選ばれる1種又は2種以上であり、より好ましくはケイ酸カルシウムである<1>〜<12>の製造方法。
<15>吸着処理において、アルカリ土類金属塩類(B)とともに、シリカ、アルミナ、アルミノシリケート又はゼオライトを接触させる<1>〜<14>の製造方法。
<16>アルカリ土類金属塩類(B)の使用量の下限が、油脂100部に対して0.1部以上、好ましくは0.2部以上、より好ましく0.3部以上であり、アルカリ土類金属塩類(B)の使用量の上限が、油脂100部に対して10部以下、好ましくは5部以下、より好ましくは3部以下である<1>〜<15>の製造方法。
<17>アルカリ土類金属塩類(B)の使用量が、油脂100部に対して0.1〜10部、好ましくは0.2〜5部、より好ましくは0.3〜3部である<1>〜<16>の製造方法。
<18>油脂とアルカリ土類金属塩類(B)の接触温度が、20〜150℃、好ましくは30〜135℃、より好ましくは50〜120℃である<1>〜<17>の製造方法。
<19>油脂とアルカリ土類金属塩類(B)の接触時間が、3〜180分、好ましくは5〜120分、より好ましくは7〜90分、さらに好ましくは15〜90分である<1>〜<18>の製造方法。
<20>アルカリ土類金属塩類(B)を油脂に接触させる吸着処理を水の存在下で行う<1>〜<19>の製造方法。
<21>吸着処理における水分量が油脂100部に対して5部以下、好ましくは0.1〜4部、より好ましくは0.1〜3部、さらに好ましくは0.1〜2部、さらに好ましくは0.2〜1.5部である<20>の製造方法。
<22>脱臭処理における油脂に水蒸気を接触させる温度が、100〜180℃、好ましくは110〜175℃、より好ましくは120〜170℃である<1>〜<21>の製造方法。
<23>脱臭処理における油脂と水蒸気の接触時間が、0.5〜180分、好ましくは2〜120分、より好ましくは5〜90分、さらに好ましくは10〜80分である<1>〜<22>の製造方法。
<24>脱臭処理における油脂と水蒸気を接触させる際の圧力が、10〜4000Pa、好ましくは50〜1000Pa、より好ましくは100〜800Pa、さらに好ましくは150〜700Paである<1>〜<23>の製造方法。
<25>脱臭処理における油脂と接触させる水蒸気の量が、油脂に対して0.1〜20%/hr、好ましくは0.2〜10%/hr、より好ましくは0.3〜5%/hr、さらに好ましくは0.4〜4%/hrである<1>〜<24>の製造方法。
<26>得られる精製油脂中のグリシドール脂肪酸エステル含有量が、ドイツ脂質科学会標準方C−III 18(09)記載の方法におけるMCPDエステル量として7ppm以下、好ましくは3ppm以下、より好ましくは1ppm以下、さらに好ましくは0.5ppm以下、さらに好ましくは0.3ppm以下である<1>〜<25>の製造方法。
<27>得られる精製油脂の発煙温度が、200℃以上、好ましくは210℃以上、より好ましくは215℃以上、さらに好ましくは220℃以上である<1>〜<26>の製造方法。
<28>得られる精製油脂の色相が、10R+Yの値として30以下、好ましくは25以下、より好ましくは20以下である<1>〜<27>の製造方法。
【実施例】
【0042】
〔分析方法〕
(i)グリシドール脂肪酸エステルの測定(ドイツ脂質科学会(DGF)標準法C−III 18(09) オプションA準拠)
フタ付試験管に油脂サンプル約100mgを計量し、内標(3−MCPD−d5/t−ブチルメチルエーテル)50μL、t−ブチルメチルエーテル/酢酸エチル混合溶液(体積比8:2)500μL、及び0.5Nナトリウムメトキシド1mLを添加して攪拌した後、10分間静置した。ヘキサン3mL、3.3%酢酸/20%塩化ナトリウム水溶液3mLを添加し攪拌した後、上層を除去した。さらにヘキサン3mLを添加し攪拌した後、上層を除去した。フェニルボロン酸1g/95%アセトン4mL混合液を250μL添加して攪拌した後、密栓し、80℃で20分間加熱した。これにヘキサン3mLを加え攪拌した後、上層をガスクロマトグラフ−質量分析計(GC−MS)に供して、グリシドール脂肪酸エステルの定量を行った。
【0043】
(ii)油脂のグリセリド組成
ガラス製サンプル瓶に、油脂サンプル約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で15分間加熱した。これに水1.0mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して分析した。
【0044】
(iii)色相測定
精製油脂の色は、日本油化学会編「基準油脂分析試験法2003年版」中の「色(2.2.1−1996)」に従って、ロビボンド比色計を用い5.25インチセルにより測定し、次の式(1)で求めた値をいう。
色=10R+Y (1)
(式中、R=Red値、Y=Yellow値)
【0045】
〔風味〕
風味の評価は、5人のパネルにより、各人1〜2gを生食し、下記に示す基準にて官能評価することにより行い、その平均値を四捨五入して示した。
〔風味の評価基準〕
5:非常に良好
4:良好
3:やや良好
2:不良
1:非常に不良
【0046】
〔発煙温度の測定〕
精製油脂の発煙点は、日本油化学会編「基準油脂分析試験法2003年版」中の「発煙点、引火点、燃焼点(2.2.11,1−1996)」のクリーブランド開放式引火点試験器を用いて測定した。
【0047】
〔油脂の調製1〕
未脱臭油脂を原料とした大豆油脂肪酸:菜種油脂肪酸=7:3(質量比)の混合脂肪酸100質量部とグリセリン15質量部とを混合し、酵素(固定化リパーゼLipozyme RM IM、ノボザイム ジャパン製)によりエステル化反応を行った。得られたエステル化物から、トップカット蒸留により脂肪酸とモノアシルグリセロールを除去し、DAG脱酸油a(トリアシルグリセロール11%、ジアシルグリセロール88%、モノアシルグリセロール1%)を得た。グリシドール脂肪酸エステルは1.5ppmであった。
【0048】
〔油脂の調製2〕
未脱臭大豆油:未脱臭菜種油=7:3(質量比)の混合油脂を、230℃、34分、260Pa、水蒸気3%/hr−対油の条件で予備脱臭処理して原料油脂を得た。次いで、脱臭油脂を原料とした脂肪酸100質量部とグリセリン15質量部とを混合し、酵素によりエステル化反応を行った。得られたエステル化物から、トップカット蒸留により脂肪酸とモノアシルグリセロールを除去し、DAG脱酸油b(トリアシルグリセロール10%、ジアシルグリセロール89%、モノアシルグリセロール1%)を得た。グリシドール脂肪酸エステルは1.4ppmであった。
【0049】
〔油脂の調製3〕
未脱臭大豆油:未脱臭菜種油=7:3(質量比)の混合油脂を、200℃、34分、260Pa、水蒸気3%/hr−対油の条件で予備脱臭処理して原料油脂を得た。次いで、油脂の調製2と同じ操作を行い、DAG脱酸油c(トリアシルグリセロール10%、ジアシルグリセロール89%、モノアシルグリセロール1%)を得た。グリシドール脂肪酸エステルは1.5ppmであった。
【0050】
〔油脂の調製4〕
未脱臭大豆油:未脱臭菜種油=7:3(質量比)の混合油脂を、230℃、34分、260Pa、水蒸気3%/hr−対油の条件で予備脱臭処理して原料油脂を得た。次いで、脱臭油脂を原料とした脂肪酸100質量部とグリセリン15質量部とを混合し、酵素(固定化リパーゼ)によりエステル化反応を行った。得られたエステル化物から、トップカット蒸留により脂肪酸とモノアシルグリセロールを除去し、DAG脱酸油d(トリアシルグリセロール4.8%、ジアシルグリセロール94.9%、モノアシルグリセロール0.2%)を得た。グリシドール脂肪酸エステルは0.1ppmであった。
【0051】
〔油脂の調製5〕
未脱臭大豆油:未脱臭菜種油=7:3(質量比)の混合油脂を、200℃、34分、260Pa、水蒸気3%/hr−対油の条件で予備脱臭処理して原料油脂を得た。次いで、油脂の調製4と同じ操作を行い、DAG脱酸油e(トリアシルグリセロール4.7%、ジアシルグリセロール95.1%、モノアシルグリセロール0.1%)を得た。グリシドール脂肪酸エステルは0.1ppmであった。
【0052】
実施例1〜6
〔白土処理〕
DAG脱酸油a、b又はc100部に対して活性白土(ガレオンアースV2R、水澤化学工業製)を1部添加し、表1に示す条件(1)で攪拌しながら減圧下で接触処理後、活性白土を濾別し、白土処理油脂サンプルを得た。
【0053】
〔アルカリ土類金属塩類処理〕
白土処理油脂サンプル100部に対してアルカリ土類金属塩類を2部添加し、表1に示す条件(2)で攪拌しながら常圧下で接触処理後、アルカリ土類金属塩類を濾別し、アルカリ土類金属塩類処理油脂サンプルを得た。実施例4はアルカリ土類金属塩類を添加前に、白土処理油脂サンプル100部に対して蒸留水を0.5部添加した。
【0054】
〔酸処理〕
得られたアルカリ土類金属塩類処理油脂サンプルに、50%クエン酸水溶液を油脂100部に対して0.5部添加して70℃で30分攪拌し、酸処理油脂サンプルを得た。
【0055】
〔水洗処理〕
得られた酸処理油脂サンプルに、蒸留水を油脂100部に対して10部添加し、70℃で30分攪拌し、遠心分離して水相を除去する操作を3回繰返して水洗油脂サンプルを得た。
【0056】
〔脱臭処理〕
得られた水洗油脂サンプルを、表1に示す条件(3)でバッチ式の脱臭処理を行った。ガラス製クライゼンフラスコに、水洗油脂サンプルを投入した後、水蒸気と接触処理して、精製油脂を得た。結果を表1に示す。
【0057】
比較例1
アルカリ土類金属塩類に代えてシリカゲル(ワコーゲルC−200、和光純薬工業製)を使用した以外は実施例1と同様にして精製油脂を得た。結果を表1に示す。
【0058】
比較例2
〔白土処理省略〕
DAG脱酸油a100部に対してアルカリ土類金属塩類を2部添加し、表1に示す条件(2)で攪拌しながら常圧下で接触処理後、アルカリ土類金属塩類を濾別し、アルカリ土類金属塩類処理油脂サンプルを得た。
次いで、実施例1と同様に酸処理及び水洗処理を行って得た水洗油脂サンプルを、表1に示す条件(3)でバッチ式の脱臭処理を行った。ガラス製クライゼンフラスコに、油脂サンプルを投入した後、水蒸気と接触処理して、精製油脂を得た。結果を表1に示す。
【0059】
比較例3
〔アルカリ土類金属塩類処理省略〕
実施例1と同様にして、DAG脱酸油aを白土処理後、濾別し、白土処理油脂サンプルを得た。
次いで、実施例1と同様に酸処理及び水洗処理を行って得た水洗油脂サンプルを、表1に示す条件(3)でバッチ式の脱臭処理を行った。ガラス製クライゼンフラスコに、油脂サンプルを投入した後、水蒸気と接触処理して、精製油脂を得た。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1より明らかなように、本発明の製造方法によりグリシドール脂肪酸エステルの含有量が少なく、風味及び色相が良好で、発煙の抑制された精製油脂を得ることができた。さらにDAG高含有油脂の起源に予備脱臭処理をした原料油脂を使用することで、一層風味と色相を良好にすることができた。
これに対し、アルカリ土類金属塩類に代えてシリカゲルを用いたもの(比較例1)、アルカリ土類金属塩類処理を行わなかったもの(比較例3)では風味が不十分であり、発煙する温度も低かった。また、白土処理を行わなかったもの(比較例2)では色相及び風味が不十分で、さらにグリシドール脂肪酸エステルを十分に低減できなかった。
【0062】
実施例7〜9
〔白土処理〕
DAG脱酸油d100部に対して活性白土(ガレオンアースV2R、水澤化学工業製)を1部添加し、表2に示す条件(1)で攪拌しながら減圧下で接触処理後、活性白土を濾別し、白土処理油脂サンプルを得た。
【0063】
〔アルカリ土類金属塩類処理〕
白土処理油脂サンプル100部に対してアルカリ土類金属塩類を2部添加し、表2に示す条件(2)で攪拌しながら常圧の窒素下で接触処理後、アルカリ土類金属塩類を濾別し、アルカリ土類金属塩類処理油脂サンプルを得た。
実施例8はアルカリ土類金属塩類を添加前に、白土処理油脂サンプル100部に対して蒸留水を2部添加した。
【0064】
〔酸処理〕
得られたアルカリ土類金属塩類処理油脂サンプルに、50%クエン酸水溶液を油脂100部に対して0.5部添加して70℃で30分攪拌し、酸処理油脂サンプルを得た。
【0065】
〔水洗処理〕
得られた酸処理油脂サンプルに、蒸留水を油脂100部に対して10部添加し、70℃で30分攪拌し、遠心分離して水相を除去する操作を3回繰返して水洗油脂サンプルを得た。
【0066】
〔脱臭処理〕
得られた水洗油脂サンプルを、表1に示す条件(3)でバッチ式の脱臭処理を行った。ガラス製クライゼンフラスコに、水洗油脂サンプルを投入した後、水蒸気と接触処理して、精製油脂を得た。結果を表2に示す。
【0067】
比較例4
アルカリ土類金属塩類に代えて水酸化ナトリウムを使用した以外は実施例7と同様にして精製油脂を得た。結果を表2に示す。
【0068】
比較例5
水酸化ナトリウムの添加前に、白土処理油脂サンプル100部に対して蒸留水を2部添加した以外は比較例4と同様にして精製油脂を得た。結果を表2に示す。
【0069】
実施例10
DAG脱酸油eを用い、実施例9と同じ条件で精製油脂を得た。結果を表2に示す。
【0070】
実施例11
DAG脱酸油eを用い、実施例9と同じ条件で、ただしアルカリ土類金属塩類の添加前に、白土処理油脂サンプル100部に対して蒸留水を0.5部添加して、精製油脂を得た。結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
表2より明らかなように、本発明の製造方法によりグリシドール脂肪酸エステルの含有量が少なく、風味及び色相が良好で、発煙の抑制された精製油脂を得ることができた。さらにDAG高含有油脂の起源に予備脱臭処理をした原料油脂を使用することで、一層風味と色相を良好にすることができた。また、吸着処理において少量の水を添加することにより、風味が向上し、発煙温度が上昇した。
これに対し、アルカリ土類金属塩類に代えて水酸化ナトリウムを用いたもの(比較例4、5)では色相及び風味が不十分で、発煙温度も低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)油脂に、白土(A)と、アルカリ土類金属の酸化物、炭酸塩、及びケイ酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種のアルカリ土類金属塩類(B)とを接触させる吸着処理を行った後、(2)得られた油脂に180℃以下で水蒸気を接触させる脱臭処理を行う精製油脂の製造方法。
【請求項2】
吸着処理における白土(A)の使用量が、油脂100質量部に対して2質量部未満である請求項1記載の精製油脂の製造方法。
【請求項3】
白土(A)が酸性白土、活性白土又はこれらの混合物である請求項1又は2記載の精製油脂の製造方法。
【請求項4】
吸着処理におけるアルカリ土類金属塩類(B)の使用量が、油脂100質量部に対して0.1〜10質量部である請求項1〜3のいずれか1項記載の精製油脂の製造方法。
【請求項5】
アルカリ土類金属塩類(B)が、アルカリ土類金属ケイ酸塩である請求項1〜4のいずれか1項記載の精製油脂の製造方法。
【請求項6】
アルカリ土類金属塩類(B)を油脂に接触させる吸着処理を水の存在下で行う請求項1〜5のいずれか1項記載の精製油脂の製造方法。
【請求項7】
吸着処理における水分量が油脂100質量部に対して5質量部以下である請求項6記載の精製油脂の製造方法。
【請求項8】
油脂がジアシルグリセロールを20質量%以上含有するものである請求項1〜7のいずれか1項記載の精製油脂の製造方法。
【請求項9】
油脂が、180〜250℃で予備脱臭処理を行った原料油脂からエステル化反応又はグリセロリシス反応により得られたものである、請求項1〜8いずれか1項記載の精製油脂の製造方法。

【公開番号】特開2013−18970(P2013−18970A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−130603(P2012−130603)
【出願日】平成24年6月8日(2012.6.8)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】