説明

精製法

本発明は、固体担体に結合したスカベンジャー基を用いた放射標識トレーサーの新規精製法に関する。一般概念を以下のスキームに示す。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射標識トレーサーの新規精製法、特に陽電子放射断層撮影法(PET)の放射性トレーサーとしての好適な18F標識化合物及び11C標識化合物或いはPET若しくはSPECT撮影法又は放射線治療での使用に好適な放射性ヨウ素化合物の新規精製法に関する。本発明の精製法の実施に適した自動放射合成装置及びその使い捨て又は着脱式カセットも請求される。
【背景技術】
【0002】
臨床上重要な化合物の放射合成では、放射標識剤の使用量に対して非放射性有機前駆体が大過剰に用いられることが多い。過剰の前駆体は、放射標識化合物を臨床に用いる前に反応混合物から除去しなければならないが、これは従来高速液体クロマトグラフィー(HPLC)のようなクロマトグラフィー法で行われている。臨床上有用な大半の放射性同位体は半減期が限られているので、放射合成及び精製はできるだけ速やかに完了するのが望ましい。例えば、18Fは半減期が110分であるので、PET用の18F標識トレーサーは臨床使用の1時間以内に合成及び精製される。そこで、迅速かつ効率的な精製技術が求められている。
【特許文献1】国際公開第02/16333号パンフレット
【特許文献2】国際公開第01/77415号パンフレット
【特許文献3】国際公開第03/006491号パンフレット
【特許文献4】国際公開第02/16333号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、放射標識化合物をその前駆体から迅速かつ化学選択的に分離する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の広義の態様では、放射標識生成物の精製方法であって、以下の式(IV)の固体担体結合スカベンジャー基を使用することを含んでなる方法が提供される。
【0005】
【化1】

式中、Zはスカベンジャー基であり、SPは固体担体である。
【0006】
本発明の別の態様では、以下の段階:
(a)以下の式(III)の放射標識生成物と式(I)の過剰の前駆体との溶液相混合物を、以下の式(IV)の化合物と、式(IV)の化合物と式(I)の化合物が共有結合を形成し得るように接触させる段階
【0007】
【化2】

(式中、XYは官能基であり、Rは放射性同位体又は放射標識部分である。)
【0008】
【化3】

(式中、Zはスカベンジャー基である。)、及び
(b)溶液相中の式(III)の精製放射標識生成物を分離する段階を含む方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
好適には、式(III)の放射標識生成物は18F標識を含んでおり、例えば2−フルオロ−2−デオキシ−D−グルコース([18F]−FDG)、6−フルオロ−L−DOPA([18F]−FDOPA)、3′−デオキシ−3′−フルオロチミジン([18F]−FLT)、[18F]フルオロチロシン、5−[18F]フルオロウラシル、5−[18F]フルオロシトシン、2−(1,1−ジシアノプロペン−2−イル)−6−(2−フルオロエチル)メチルアミノ)ナフタレン([18F]−FDDNP)、2−フルオロ−(2(S)−アゼチニルメトキシ)ピリジン、5−フルオロ−(2(S)−アゼチニルメトキシ)ピリジン、6−フルオロ−(2(S)−アゼチニルメトキシ)ピリジン、N−スクシンイミジル−4−[18F]フルオロベンゾエート([18F]−SFB)、[18F]−1−アミノ−3−フルオロシクロブタン−1−カルボン酸([18F]−FACBC)のような18F標識アミノ酸、国際公開第02/16333号に記載されているような18F標識ベンゾチアゾール化合物、2β−カルボメトキシ−3β−(4−[18F]フルオロフェニル)トロパン([18F]CFT)又はN−[18F]フルオロプロピル−2β−カルボメトキシ−3β−(4−ヨードフェニル)ノルトロパン([18F]FP−CIT)のような[18F]フルオロトロパン化合物、[18F]FETNIM、[18F]ドーパミン、18F標識ペプチド、例えば、オクトレオチドのようなソマトスタチン類似体、ボンベシン、血管作用性小腸ペプチド 、化学走性ペプチド類似体、α−メラノサイト刺激ホルモン、ニューロテンシン、Arg−Gly−Aspペプチド及びその類似体、ヒトプロインシュリン結合ペプチド、エンドセリン、アンジオテンシン及びホルミル−ノルロイシル−ロイシル−フェニルアラニル−ノルロイシル−チロシル−リシン、さらに好適には国際公開第01/77415号及び同03/006491号に記載されているようなArg−Gly−Aspペプチド及びその類似体、又はこれらの保護誘導体である。
【0010】
或いは、式(III)の放射標識生成物は11C標識を含んでおり、例えば[11C]ラクロプリド、[11C−カルボキシル]L−DOPA、[11C−カルボキシル]5−ヒドロキシトリプトファン、[11C]−WAY−100635、[11C]−デプレニル、[11C]フェニレフリン、[11C]FLB457、[11C]SCH23390、[11C]SCH39166、[11C]−NNC112、[11C]NNC756、[11C]MDL100907、[11C]DSAB、[11C]PK11195、[11C]GR205171、[11C]RTI−32、[11C]CIT、[11C]CFT、[11C]フルマゼニル、[11C]−ジプレノルフィン、[11C]−メトミデート、[11C]SCH442416、[11C]カルフェンタニル、又は国際公開第02/16333号に記載されているような11C標識ベンゾチアゾール化合物、或いはこれらの保護誘導体である。
【0011】
或いは、式(III)の放射標識生成物は131I、123I、124I、122I又は125Iのような放射性ヨウ素標識を含んでおり、例えば2−β−カルボメトキシ−3−β−(4−ヨードフェニル)−8−(3−フルオロプロピル)ノルトロパン又はその保護誘導体である。
【0012】
式(III)の放射標識生成物は、所与の生物学的標的に対する親和性をもつ分子断片であるベクター部分(例えば修飾薬物ファルマコフォア又はペプチドなど)とRで表される放射性同位体又は放射標識部分とを含む。
【0013】
式(I)の前駆体は、式(III)の放射標識生成物と同じベクター部分を含んでいるが、後述の官能基−XYを有している。
【0014】
多くの放射合成では、式(I)の前駆体の放射性アルキル化(例えば[11C]アルキル化)又は放射性ハロゲン化(例えば[18F]フッ素化又は[18F]フルオロアルキル化)が行われる。前駆体を式(II)の放射性同位体又は放射標識剤で処理すると、式(III)の所望放射標識生成物と式(I)の過剰の未反応前駆体とを含む混合物を生じる。従って、式(I)の前駆体は、スキーム1に示す式(II)の放射性同位体又は放射標識剤と反応し得る官能基−XYを有する。官能基−XYは、好適には脱離基(例えばスルホネートエステル、好ましくはメシルエステル、トシルエステル、ノシルエステル)、又はトリメチルアンモニウム塩、又は式(II)の放射標識剤の基と部位特異的に反応して安定な共有結合を形成する官能基であり、好ましくはアルデヒド基、ケトン基、アミノオキシ基、ヒドラジド基、ヒドラジン基、α−ハロセチル基及びチオール基から選択される。
【0015】
式(IV)の化合物において、スカベンジャー基Zは好適にはイソシアネート、イソチオシアネート、チオール、ヒドラジン、ヒドラジド、アミノオキシ、1,3−双極子、アルデヒド又はケトンであり、例えば、以下の本発明のさらに具体的な態様で記載するスカベンジャー基などである。
【0016】
【化4】

式(IV)の化合物並びに以下の本発明のさらに具体的な態様において、SPで表される固体担体は、本発明の方法に用いられる溶媒に不溶性であるが、リンカー及び/又はスカベンジャー基Zを共有結合することができる固相担体であればよい。好適な固体担体の例としては、ポリマー、例えばポリスチレン(これは例えばポリエチレングリコールでブロックグラフト化してもよい。)、ポリアクリルアミド、開環メタセシス重合(ROMP)ポリマー、又はポリプロピレン、或いは、かかるポリマーで被覆したガラス又はケイ素が挙げられる。固体担体は、好適な官能基で修飾したセファロース系のもの、その他イオン交換樹脂又はC18逆相媒体を始めとする公知の高分子クロマトグラフィー媒体であってもよい。固体担体は、ビーズ又はピンのような離散小粒子の形態であってもよいし、或いは、カートリッジの内表面又は微細加工容器のコーティングの形態であってもよい。
【0017】
式(IV)の化合物並びに以下の本発明のさらに具体的な態様において、「リンカー」は、反応性を最大限に高めるためスカベンジャー基Zを固体担体構造体から十分に離隔するのに役立つ好適な有機基であればよい。好適には、リンカーは、0〜4個のアリール基(好適にはフェニル)及び/又はC1〜6アルキル若しくはC1〜6ハロアルキル(好適にはC1〜6フルオロアルキル)を含み、適宜、アミド基又はスルホンアミド基のような他の官能基を1〜4個含んでいてもよい。好ましい実施形態では、リンカーはポリエチレングリコール含有部分である。
【0018】
式(IV)の化合物は、当業者に公知の方法で調製することもできるし(そうした方法の総説としては、Stabile−Harris and Ciampoli; Laboratory Automation in the Chemical Industries, 111−32(2002)参照)、或いは、例えば、Novabiochem社(Merck Biosciences社(英国ノッティンガム))又はArgonaut社(英国ミッドグラモーガン)から市販されてもいる。
【0019】
精製は、容器内で式(III)の放射標識生成物を含む溶液相混合物と式(IV)の固体担体結合スカベンジャー基を混合し、得られた固相を濾過分離することによって実施できる。別法として、式(IV)の固体担体結合スカベンジャー基を自動合成装置内で使用するときに特に適しているが、式(III)の放射標識生成物を含む溶液相混合物を流す容器に式(IV)の固体担体結合スカベンジャー基を含ませてもよい。式(III)の放射標識生成物を含む溶液相混合物は、精製に十分な固相上での滞留時間が担保されるように、式(IV)の固体担体結合スカベンジャー基の中に連続流(例えば流速0.1ml/分〜100ml/分)又は回分法で流してもよい。当業者には明らかであろうが、式(IV)の固体担体結合スカベンジャー基は、プラスチック又は金属製カラム、カートリッジ又はシリンジのような適当な容器内に保持することができる。精製は室温で都合よく実施できるが、極端に高くない昇温(例えば、120℃以下、好ましくは約80℃以下)を用いると抽出効率を高めることができる。温度が高すぎると、式(IV)の固体担体結合スカベンジャー基及び/又は式(III)の放射標識生成物の安定性が損なわれかねない。
【0020】
本発明の別の態様では、固体担体に結合したイソシアネートスカベンジャー基又はイソチオシアネートスカベンジャー基を使用することを含む、放射標識生成物の精製法を提供する。この方法は以下の段階を含む。
(a)以下の式(IIIa)の放射標識生成物と式(Ia)の過剰の前駆体との溶液相混合物を、以下の式(IVa)の化合物と、式(IVa)の化合物と式(Ia)の化合物が共有結合を形成し得るように接触させる段階
【0021】
【化5】

(式中、RはC1〜6アルキルであり、R11CHのような[11C]−C1〜6アルキル又は[18F]フルオロC1〜6アルキル又は[18F]フルオロC6〜12アリールである。)
【0022】
【化6】

(式中、Rは酸素又は硫黄である。)、及び
(b)溶液相中の式(IIIa)の精製放射標識生成物を分離する段階。
【0023】
式(IVa)の化合物と式(Ia)の化合物が反応して、以下の式(Va)の対応ウレア又はチオウレアを形成する。
【0024】
【化7】

式中、R及びRはそれぞれ式(IVa)の化合物及び式(Ia)の化合物で定義した通りである。
【0025】
式(IVa)の化合物を用いる精製法は、10〜120℃のような極端でない温度、好適には室温〜80℃で、キシレン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)又はクロロホルムのような不活性溶媒を用いて実施できる。
【0026】
本発明のこの態様では、式(IIIa)の化合物は、好適には[11C−CH]−2−ピリジン−4−イル−キノリン−8−カルボン酸(2−ジメチルアミノエチル)アミド、[N−11C−メチル]ジメチルフェネチルアミン又は[11C]DASBのような11C標識第三アミンであり、式(Ia)の化合物は、2−ピリジン−4−イル−キノリン−8−カルボン酸(2−メチルアミノエチル)アミドのような対応する第二アミンである。
【0027】
本発明の別の態様では、固体担体に結合したチオールスカベンジャー基を使用することを含む、放射標識生成物の精製法を提供する。この方法は以下の段階を含む。
(a)以下の式(IIIb)の放射標識生成物と式(Ib)の過剰の前駆体との溶液相混合物を、以下の式(IVb)の化合物と、式(IVb)の化合物と式(Ib)の化合物が共有結合を形成し得るように接触させる段階
【0028】
【化8】

(式中、
(i)式(Ib)の化合物における官能基−Xは−OSOであり、RはC1〜15アルキル又はC1〜10アルキルアリールであって、Rはハロ(好ましくはフルオロ)で適宜置換されていてもよく、例えばRはメチル、p−トルエン、トリフルオロメチルであり、式(IIIb)の化合物におけるR*bは放射性フルオロ(例えば18F)又は放射性ヨード(例えば123I、124I又は125Iなど)又は放射性ブロモ(例えば76Brなど)のような放射性ハロゲンであるか、或いは、
(ii)式(Ib)の化合物における官能基−Xは−C(O)CHClであり、式(IIIb)の化合物におけるR*bは−S−LFであり、Lは適宜1〜10個のヘテロ原子を含んでいてもよいC1〜30ヒドロカルビルリンカー基であり、Fはフッ素の放射性同位体(例えば、18Fなど)である。)
【0029】
【化9】

(式中、Rは水素である。)、及び
(b)溶液相中の式(IIIb)の精製放射標識生成物を分離する段階。
【0030】
式(IVb)の化合物と式(Ib)の化合物が反応して、以下の式(Vbi)又は(Vbii)の対応化合物を形成する。
【0031】
【化10】

式(IVb)の化合物を用いる精製法は、10〜120℃のような極端でない温度、好適には室温〜80℃で、キシレン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、DMSO、アセトニトリル又はクロロホルムのような不活性溶媒を用いて実施できる。好ましくは、溶媒は水性緩衝液又はアセトニトリルと水の混液若しくはアルコールと水の混液である。
【0032】
本発明の別の態様では、固体担体に結合したアミノスカベンジャー基を使用することを含む、放射標識生成物の精製法を提供する。この方法は以下の段階を含む。
(a)以下の式(IIIc)の放射標識生成物と式(Ic)の過剰の前駆体との溶液相混合物を、以下の式(IVc)の化合物と、式(IVc)の化合物と式(Ic)の化合物が共有結合を形成し得るように接触させる段階
【0033】
【化11】

(式中、式(Ic)の化合物における官能基−Xはアルデヒド又はケトンであり、式(IIIc)の化合物におけるR*cは=N−W−リンカー−Fであり、WはC1〜15アルキル又はC7〜15アリールである。)
【0034】
【化12】

(式中、Zは−NH、ヒドラジン、ヒドラジド、アミノオキシ、フェニルヒドラジン、セミカルバジド又はチオセミカルバジドから選択される。)、及び
(b)溶液相中の式(IIIc)の精製放射標識生成物を分離する段階。
【0035】
式(IVc)の化合物と式(Ic)の化合物が反応して、以下の式(Vc)の対応化合物を形成する。
【0036】
【化13】

式中、Aは水素、C1〜6アルキル又はアリール(例えばフェニルなど)であり、Bは−CO−NH−、−NH−、−O−、−NHCONH−又は−NHCSNH−である。
【0037】
本発明のこの態様では、式(IIc)の化合物は式NH−W−リンカー−Fを有し(式中、Wは既に定義した通りであり、Fは好ましくは18Fである。)、式(IIIc)の化合物は、好適には、18F標識化合物(例えばペプチド又は薬物など)であり、式(Ic)の前駆体はその対応アルデヒド又はケトンである。
【0038】
式(IVc)の化合物を用いる精製法は、10〜120℃のような極端でない温度、好適には室温〜80℃で、キシレン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、DMSO、アセトニトリル又はクロロホルムのような不活性溶媒を用いて実施できる。好ましくは、溶媒は水性緩衝液又はアセトニトリルと水の混液若しくはアルコールと水の混液である。
【0039】
本発明のこの態様の別の実施形態では、式(Ic)の化合物における官能基−Xは−OSOであり(式中、RはC1〜15アルキル又はC1〜10アルキルアリールであって、Rはハロ(好ましくはフルオロ)で適宜置換されていてもよく、例えばRはメチル、p−トルエン、トリフルオロメチルである。)、精製は以下の式(IVci)の化合物を用いて実施される。
【0040】
【化14】

式中、WはC1〜15アルキル又はC7〜15アリール、−NH−、−NH−CO−又は−O−から選択され、リンカーは式(Ic)の化合物と式(IVci)の化合物が共有結合を形成し得るように既に定義した通りである。
【0041】
式(IVci)の化合物と式(Ic)の化合物が反応して、以下の式(Vci)の対応化合物を形成する:
【0042】
【化15】

式中、Wは式(IVci)の化合物について定義した通りである。
【0043】
本発明の別の態様では、固体担体に結合したアルデヒドスカベンジャー基又はケトンスカベンジャー基を使用することを含む、放射標識生成物の精製法を提供する。この方法は以下の段階を含む。
(a)以下の式(IIId)の放射標識生成物と式(Id)の過剰の前駆体との溶液相混合物を、以下の式(IVd)の化合物と、式(IVd)の化合物と式(Id)の化合物が共有結合を形成し得るように接触させる段階
【0044】
【化16】

(式中、式(Id)の化合物における官能基−Xは、アミン、ヒドラジン、ヒドラジド、アミノオキシ、フェニルヒドラジン、セミカルバジド又はチオセミカルバジド基であり、式(IIId)の化合物におけるR*dは=CH−リンカー−Fであり、リンカーはアルキル、アリール又はポリエチレングリコール成分を含む。)
【0045】
【化17】

(式中、Zはアルデヒド又はケトン部分である。)、及び
(b)溶液相中の式(IIId)の精製放射標識生成物を分離する段階。
【0046】
式(Id)の化合物と式(IVd)の化合物が反応して、以下の式(Vd)の化合物を形成する。
【0047】
【化18】

式中、Aは水素、C1〜6アルキル又はアリール(例えばフェニルなど)であり、Bは−CO−NH−、−NH−、−O−、−NHCONH−又は−NHCSNH−である。
【0048】
式(IVd)の化合物を用いる精製法は、10〜120℃のような極端でない温度、好適には室温〜80℃で、キシレン、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、DMSO、アセトニトリル又はクロロホルムのような不活性溶媒を用いて実施できる。好ましくは、溶媒は水性緩衝液又はアセトニトリルと水の混液若しくはアルコールと水の混液である。
【0049】
本発明のこの態様では、式(IIId)の化合物は、好適には18F標識化合物(例えばペプチド又は薬物など)であり、式(Id)の化合物は、好適にはアミノオキシ(NH−O−)、ヒドラジド又はヒドラジン部分を有する修飾ペプチド又は薬物である。
【0050】
本発明のこの態様で有用となり得る式(IVd)のある特定の化合物は、開環メタセシス重合(ROMP)ポリマー骨格に基づく大量のケトンスカベンジャー基を有している。ROMPポリマーの主な利点の一つは、原理的に、すべてのモノマー単位が官能基を有していて、他のポリマーよりも担持量が格段に高くなることである。ROMPは、有機合成による官能化ポリマーの製造で公知である(Barrett et al, Chemical Reviews, 2002, 102, pp.3301−24)。式(IVd)の好適なROMP系ポリマーは、スキーム2に示すように、市販のケトンアルケンをフランと縮合し、次いで重合することによって調製できる。
【0051】
【化19】

本発明の別の態様では、固体担体に結合した双極子スカベンジャー基を使用することを含む、放射標識生成物の精製法を提供する。この方法は以下の段階を含む。
(a)以下の式(IIIe)の放射標識生成物と式(VIIe)の過剰の副生物との溶液相混合物を、以下の式(IVe)の化合物と、式(IVe)の化合物及び式(VIIe)の化合物が共有結合を形成し得るようにする段階
【0052】
【化20】

(式中、副生物(VIIe)は、脱離副反応で形成される望ましくない二重結合を含有し、式(IIIe)の化合物におけるR*eは放射性ハロ(特に[18F]フルオロ)である。)
【0053】
【化21】

(式中、Zは−N=N=N又は−C≡N−Oのような1,3−双極子である。)、及び
(b)溶液相中の式(IIIe)の精製放射標識生成物を分離する段階。
【0054】
本発明のこの態様は特に3′−デオキシ−3′−フルオロチミジン([18F]−FLT)(IIIe)の合成と関連しており、一般的な副生物(VIIe)が、スキーム2に示すように、糖環からの[18F]HFの脱離によって生ずる。
【0055】
【化22】

式中、各PGは水素又はヒドロキシ保護基(好適にはtert−ブトキシカルボニル、ベンジル、トリフェニルメチル又はジメトキシトリフェニルメチル)であり、−Xは好適な脱離基(例えばアルキル−又はアリール−スルホネートエステル(例えばトリフルオロメタンスルホネート、メタンスルホネート又はトルエン−p−スルホネート))又はハロ(例えばヨウ素又はブロモなど)である。
【0056】
以下の式(IVe)の化合物を用いた精製では、以下のスキーム3に示すように式(Ve)の化合物が得られる。
【0057】
【化23】

式中、Zは−N=N=N又は−C≡N−Oのような1,3−双極子−A−E−Gである。
【0058】
【化24】

本発明の別の態様では、式(IV)の化合物のようなスカベンジャー樹脂も、スキーム4に示す通り式(II)の未反応放射標識剤と反応させて共有結合させ、式(VI)の化合物を得るのに使用できる。この精製法は、本明細書に記載した過剰の前駆体を除くための方法に代えて、或いは本明細書に記載した過剰の前駆体を除くための方法に加えて使用することができる。
【0059】
【化25】

そこで、例えば、
(i)式(IVd)の化合物のような固体担体に結合したアルデヒドスカベンジャー基又はケトンスカベンジャー基は、反応混合物からの、式(IIc)の化合物のような未反応のアミノ官能化放射標識剤の除去を容易にして、以下の式(VId)の化合物を与える。
【0060】
【化26】

(ii)式(IVc)の化合物のような固体担体に結合したアミノスカベンジャー基は、アルデヒド官能性又はケトン官能性を有する未反応放射標識剤の除去を容易にして、以下の式(VIc)の化合物を与える。
【0061】
【化27】

式中、A及びBは式(Vc)の化合物について定義した通りである。
(iii)以下の式(IVf)の化合物のような固体担体に結合したハロアセチルスカベンジャー基は、反応混合物からの、式(II)のチオール部分を含有する未反応放射標識剤の除去に使用することができ、以下の式(VIf)の化合物を与える。
【0062】
【化28】

式中、ZはCl−CH−CO−又は他のハロアセチル含有部分である。
【0063】
【化29】

18F]FDGのような放射性トレーサーは現在試薬Kryptofix(商標)2.2.2に基づく18との求核反応による放射性フッ素化反応を用いた自動化放射合成装置で調製されることが多い。かかる装置は、Tracerlab MX(Coincidence Technologies社製)及びTracerlab FX(Nuclear Interface社製)を始めとして、幾つか市販されている。かかる装置は一般にカセット(大抵は使い捨て型)を備えており、カセットを装置に装着して放射合成が行われる。カセットは通常、流体用の流路と、反応容器と、試薬バイアルを収容するためのポートと、放射合成後の清浄化段階で用いられる固相抽出カートリッジ(典型的にはC18又はアルミナ)とを備える。本発明の方法は、自動化放射合成の分野で特に好適である。
【0064】
本発明の他の態様では、式(IV)、式(IVa)、式(IVb)、式(IVc)、式(IVd)、式(IVe)又は式(IVf)の固体担体結合スカベンジャー基を収容した容器(カートリッジなど)を含む自動化放射合成装置を提供する。
【0065】
式(IV)の固体担体結合スカベンジャー基を収容した容器(例えばカートリッジ)は、自動化放射合成装置での使用に設計された使い捨て又は着脱式カセットに収容することができる。そこで、本発明は、式(IV)、式(IVa)、式(IVb)、式(IVc)、式(IVd)、式(IVe)又は式(IVf)の固体担体結合スカベンジャー基を収容した容器(例えばカートリッジ)を備える自動化放射合成装置用のカセットを提供する。
【0066】
以下の非限定的な実施例で本発明を例示する。
【実施例】
【0067】
実施例1:11C−トレーサーの精製のためのイソシアネート樹脂の使用
【0068】
【化30】

いずれの場合も、前駆体の抽出に用いる溶媒と同じ溶媒を用いてイソシアネート樹脂をコンディショニングした。HPLCを用いて抽出効率を求めた。非放射性標準溶液を用いた試験では、非特異的抽出及び溶媒損失について調節できるように、キシレンを対照として用いた。
【0069】
実施例1(a):高温でのその場での樹脂コンディショニング及び固相抽出(SPE)
外径3.2mm(1/8インチ)の鋼管及び円形フリットからなるカートリッジ(内容積0.067ml)に、25mgの乾燥イソシアネート官能化ポリスチレン樹脂(Novabiochem)を仕込んだ。約5mlの溶媒(ジクロロメタン(DCM)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)又はジメチルスルホキシド(DMSO))をカートリッジに流し、過剰の溶媒を圧縮空気で除いた。高温試験には、二体型ヒーターブロック、熱電対及びバンドヒーターをカートリッジの周囲に取り付けて、アセンブリ全体を約10分間保温して熱的に平衡化させた。次いで、0.5mgの前駆体2−ピリジン−4−イル−キノリン−8−カルボン酸(2−メチルアミノエチル)アミド(A)と1.3mgのキシレンを含有する500μl溶液を、シリンジを用いてカートリッジに流した。この方法を用いると、SPE効率は使用した溶媒に依存し、抽出効率は室温においてDCM(67%)、DMF(36%)及びDMSO(5%未満)の順に低下した。
【0070】
実施例1(b):外部樹脂コンディショニングによるSPE
外部樹脂コンディショニングのため、300mgのイソシアネート樹脂(Novabiochem社製)を過剰の溶媒(約9ml)に約5分間懸濁した。コンディショニングした樹脂スラリーを、6mm(2/8インチ)の鋼管からなる0.8ml容積のカートリッジに仕込んだ。過剰の溶媒を圧縮空気で除いた。前駆体溶液(300μl)又は自動化合成標品からの反応混合物(300μl)を、シリンジを用いてカートリッジに流した。1mlシリンジは0.4ml/minの流速を与えたが、これは約2分の接触時間に等しかった。
【0071】
実施例1(c):[11C−CH]2−ピリジン−4−イル−キノリン−8−カルボン酸(2−ジメチルアミノエチル)アミド反応混合物のSPE精製
11C]放射標識化に続いて、得られた300μlの反応混合物(A+B)を反応バイアルから抜き取り、実施例1(a)及び実施例1(b)に詳細を記載したコンディショニングしたイソシアネート樹脂カートリッジに(シリンを用いて)444μl/minの流速で注入した。次いでカートリッジに500μlのクロロホルムを流し、一緒にした溶液をHPLCで分析した。次いでカートリッジに500μlのクロロホルムをさらに3回流した。実施例1(b)の外部コンディショニング法を用いたSPE後での生成物の積算回収率は90%であり、前駆体のレベルは、精製していない反応混合物で観察されたレベルの約4%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射標識生成物の精製方法であって、以下の式(IV)の固体担体結合スカベンジャー基を使用することを含んでなる方法。
【化1】

式中、Zはスカベンジャー基であり、SPは固体担体である。
【請求項2】
以下の段階:
(a)以下の式(III)の放射標識生成物と式(I)の過剰の前駆体との溶液相混合物を、以下の式(IV)の化合物と、式(IV)の化合物と式(I)の化合物が共有結合を形成し得るように接触させる段階
【化2】

(式中、XYは官能基であり、Rは放射性同位体又は放射標識部分である。)
【化3】

(式中、Zはスカベンジャー基である。)、及び
(b)溶液相中の式(III)の精製放射標識生成物を分離する段階
を含んでなる方法。
【請求項3】
スカベンジャー基Zが、イソシアネート、イソチオシアネート、チオール、ヒドラジン、ヒドラジド、アミノオキシ、1,3−双極子、アルデヒド又はケトンである、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
以下の段階:
(a)以下の式(IIIa)の放射標識生成物と式(Ia)の過剰の前駆体との溶液相混合物を、以下の式(IVa)の化合物と、式(IVa)の化合物と式(Ia)の化合物が共有結合を形成し得るように接触させる段階
【化4】

(式中、RはC1〜6アルキルであり、R11CHのような[11C]−C1〜6アルキル又は[18F]フルオロC1〜6アルキル又は[18F]フルオロC6〜12アリールである。)
【化5】

(式中、Rは酸素又は硫黄である。)、及び
(b)溶液相中の式(IIIa)の精製放射標識生成物を分離する段階
を含んでなる、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
以下の段階:
(a)以下の式(IIIb)の放射標識生成物と式(Ib)の過剰の前駆体との溶液相混合物を、以下の式(IVb)の化合物と、式(IVb)の化合物と式(Ib)の化合物が共有結合を形成し得るように接触させる段階
【化6】

(式中、
(i)式(Ib)の化合物における官能基−Xは−OSOであり、RはC1〜15アルキル又はC1〜10アルキルアリールであって、Rはハロ(好ましくはフルオロ)で適宜置換されていてもよく、例えばRはメチル、p−トルエン、トリフルオロメチルであり、式(IIIb)の化合物におけるR*bは放射性フルオロ(例えば18F)又は放射性ヨード(例えば123I、124I又は125Iなど)又は放射性ブロモ(例えば76Brなど)のような放射性ハロゲンであるか、或いは、
(ii)式(Ib)の化合物における官能基−Xは−C(O)CHClであり、式(IIIb)の化合物におけるR*bは−S−LFであり、Lは、適宜1〜10個のヘテロ原子を含んでいてもよいC1〜30ヒドロカルビルリンカー基であり、Fはフッ素の放射性同位体(例えば18Fなど)である。)
【化7】

(式中、Rは水素である。)、及び
(b)溶液相中の式(IIIb)の精製放射標識生成物を分離する段階
を含んでなる、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
以下の段階:
(a)以下の式(IIIc)の放射標識生成物と式(Ic)の過剰の前駆体との溶液相混合物を、以下の式(IVc)の化合物と、式(IVc)の化合物と式(Ic)の化合物が共有結合を形成し得るように接触させる段階
【化8】

(式中、式(Ic)の化合物における官能基−Xはアルデヒド又はケトンであり、式(IIIc)の化合物におけるR*cは=N−W−リンカー−Fであり、WはC1〜15アルキル又はC7〜15アリールである。)
【化9】

(式中、Zは、−NH、ヒドラジン、ヒドラジド、アミノオキシ、フェニルヒドラジン、セミカルバジド又はチオセミカルバジドから選択される。)、及び
(b)溶液相中の式(IIIc)の精製放射標識生成物を分離する段階
を含んでなる、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
以下の段階:
(a)以下の式(IIIc)の放射標識生成物と式(Ic)の過剰の前駆体との溶液相混合物を、以下の式(IVci)の化合物と、式(IVci)の化合物と式(Ic)の化合物が共有結合を形成し得るように接触させる段階
【化10】

(式中、式(Ic)の化合物における官能基−Xは−OSOであり、RはC1〜15アルキル又はC1〜10アルキルアリールであって、Rはハロ(好ましくはフルオロ)で適宜置換され、例えばRはメチル、p−トルエン、トリフルオロメチルであり、式(IIIc)の化合物におけるR*cは=N−W−リンカー−Fであり、WはC1〜15アルキル又はC7〜15アリールである。)
【化11】

(式中、WはC1〜15アルキル又はC7〜15アリール、−NH−、−NH−CO−又は−O−から選択される。)、及び
(b)溶液相中の式(IIIc)の精製放射標識生成物を分離する段階
を含んでなる、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
以下の段階:
(a)以下の式(IIId)の放射標識生成物と式(Id)の過剰の前駆体との溶液相混合物を、以下の式(IVd)の化合物と、式(IVd)の化合物と式(Id)の化合物が共有結合を形成し得るように接触させる段階
【化12】

(式中、式(Id)の化合物における官能基−Xは、アミン、ヒドラジン、ヒドラジド、アミノオキシ、フェニルヒドラジン、セミカルバジド又はチオセミカルバジド基であり、式(IIId)の化合物におけるR*dは=CH−リンカー−Fであり、リンカーはアルキル、アリール又はポリエチレングリコール成分を含む。)
【化13】

(式中、Zはアルデヒド又はケトン部分である。)、及び
(b)溶液相中の式(IIId)の精製放射標識生成物を分離する段階
を含んでなる、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
式(IVd)の化合物が、開環メタセシス重合(ROMP)ポリマー骨格に基づくケトンスカベンジャー基を有する請求項8記載の方法。
【請求項10】
以下の段階:
(a)以下の式(IIIe)の放射標識生成物と式(VIIe)の副生物との溶液相混合物を、以下の式(IVe)の化合物と、式(IVe)の化合物と式(VIIe)の化合物が共有結合を形成し得るように接触させる段階
【化14】

(式中、副生物(VIIe)は、脱離副反応で形成される望ましくない二重結合を含有し、式(IIIe)の化合物におけるR*eは放射性ハロ(特に、[18F]フルオロ)である。)
【化15】

(式中、Zは−N=N=N又は−C≡N−Oのような1,3−双極子である。)、及び
(b)溶液相中の式(IIIe)の精製放射標識生成物を分離する段階
を含んでなる請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
式(IIIe)及び式(VIIe)の化合物が以下の式のものである、請求項10記載の方法。
【化16】

式中、各PGは水素又はヒドロキシル保護基(好適には、tert−ブトキシカルボニル、ベンジル、トリフェニルメチル又はジメトキシトリフェニルメチル)である。
【請求項12】
反応混合物からチオール部分を含有する未反応放射標識剤を除くため以下の式(IVf)の化合物を使用して、以下の式(VIf)の化合物を形成させる、請求項1記載の方法。
【化17】

(式中、Zは、Cl−CH−CO−又は他のハロアセチル含有部分である。)
【化18】

(式中、Rは放射性同位体又は放射標識部分である。)
【請求項13】
請求項1乃至請求項12に記載の式(IV)、式(IVa)、式(IVb)、式(IVc)、式(IVd)、式(IVe)又は式(IVf)の固体担体結合スカベンジャー基を含む容器(カートリッジなど)を備える自動化放射合成装置又はそのカセット。

【公表番号】特表2008−500283(P2008−500283A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−512335(P2007−512335)
【出願日】平成17年5月11日(2005.5.11)
【国際出願番号】PCT/GB2005/001796
【国際公開番号】WO2005/107819
【国際公開日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(504000591)ハマースミス・イメイネット・リミテッド (26)
【氏名又は名称原語表記】Hammersmith Imanet Ltd
【出願人】(305040710)ジーイー・ヘルスケア・リミテッド (99)
【出願人】(396019387)ジーイー・ヘルスケア・アクスイェ・セルスカプ (82)
【Fターム(参考)】