説明

精製過酸化水素水溶液の製造方法

【課題】 過酸化水素水溶液中の有機不純物を高い除去効率で且つ簡便に除去する方法を提供する。
【解決手段】 有機不純物を含む過酸化水素水溶液と、イオン交換容量0.6〜1.6meq/gの三級アミン基を含有し且つ比表面積が少なくとも800m2 /gである親水性の多孔性樹脂とを接触させて、過酸化水素水溶液の有機不純物を除去することを特徴とする精製過酸化水素水溶液の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は過酸化水素水溶液中に含有する有機不純物を除去して精製過酸化水素水溶液を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
過酸化水素は、現在ほとんどがアントラキノン法により製造されている。その工程は一般に以下の通りである。アントラキノン誘導体として、例えば、2−アルキルアントラキノンを水不溶性の溶媒中で水素化触媒の存在下水素化して対応するアントラヒドロキノンとし、触媒をろ別した後、空気により酸化することによって元の2−アルキルアントラキノンを再生するとともに、過酸化水素を得、これを水で抽出することによって過酸化水素含有水溶液を得る方法である。水抽出後の過酸化水素含有水溶液は、アントラキノン類や溶媒およびそれらの劣化物からなる有機不純物を混入しており、実用的な使用濃度の5〜70wt%の過酸化水素水溶液中には全有機炭素量として20〜数100mg/lの有機不純物が含まれているのが普通である。これらの過酸化水素水溶液は、品質要求に応じた精製操作が行われる。
【0003】
過酸化水素水溶液の用途は、これまでは主として紙、パルプの漂白、化学研磨液等の分野で広く利用されていたが、近年、シリコンウエハの洗浄剤や半導体工程の洗浄剤などの電子工業分野に於ける利用が増大し、デバイスの高集積化に伴う高純度化の要求は、これまでの有機不純物、Al、Fe、Crなどの金属成分を含めた全ての不純物を極力低減した高純度な品質が要求されるようになっている。
【0004】
過酸化水素水溶液中に含まれるこれらの有機不純物を除去する方法としてスチレンを重合し、ジビニルベンゼンで架橋させて得た網目状分子構造を持ち且つイオン交換基を持たない樹脂で、有機不純物を含む過酸化水素を40℃以下で処理する方法が知られている。(特許文献1、2参照)。また、ハロゲン含有多孔性樹脂を使用して過酸化水素水溶液中の有機不純物を除去する方法が知られている(特許文献3参照)。
【0005】
しかしながら、これら従来使用されている吸着樹脂により過酸化水素水溶液中の有機不純物を除去使用とする場合、種々の問題が発生する。まず、従来のスチレン−ジビニルベンゼンで架橋させた分子吸着樹脂及びハロゲン含有多孔性樹脂の粒子表面は疎水性の状態になっているため、これに直接水あるいは過酸化水素水溶液を接触させることは分離、浮遊の問題が発生する。そのためこれらの溶液となじみやすくするためにアルコール又はアセトン等の極性溶媒による処理が必要であった。又、あらかじめアルコール又はアセトン等の処理を行った従来樹脂に過酸化水素水を通液させた場合、樹脂の一部が水溶液となじまなくなることが起こり、有機不純物の除去効率が大幅に低下する問題があった。
一方、イオン交換基を持たない親水性の多孔性樹脂としてアクリルエステル重合体があるが、この構造の場合、比表面積が前述の吸着樹脂と比べて格段に小さく過酸化水素水中の有機不純物を除去するには多量の樹脂が必要となる欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公昭46−26095号公報
【特許文献2】仏国特許第3,294,488号明細書
【特許文献3】特開昭63−156004号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来技術における課題を解決し、過酸化水素水溶液中の有機不純物を高い除去効率で且つ簡便に除去する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、過酸化水素水溶液中の有機不純物を除去し、高純度化した精製過酸化水素水溶液を製造する方法について、鋭意、研究を重ねた結果、有機不純物を含む過酸化水素水溶液を三級アミン基と特定の比表面積を有する親水性の多孔性樹脂に接触させることにより、効率的に有機不純物を除去することができることを見いだし本発明に到達した。
すなわち、本発明は有機不純物を含む過酸化水素水溶液と、イオン交換容量0.6〜1.6meq/gの三級アミン基を含有し且つ比表面積が少なくとも800m2 /gである親水性の多孔性樹脂とを接触させて、過酸化水素水溶液の有機不純物を除去することを特徴とする精製過酸化水素水溶液の製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有機不純物を含む過酸化水素水溶液を三級アミン基と特定の比表面積を有する親水性の多孔性樹脂に接触させることによって、有機不純物を効率的に除去でき、高純度に精製された過酸化水素水溶液を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明で用いられる親水性の多孔性樹脂は、イオン交換容量が0.6〜1.6meq/gの三級アミン基を含有し且つ比表面積が少なくとも800m/gである。ここで、多孔性樹脂の比表面積はBET法(N2 )により測定した比表面積に相当する。また、本発明の多孔性樹脂は連続した多孔を有するものであることが好ましい。また、本発明における親水性の多孔性樹脂は2〜10nm(20〜100オングストローム)の最頻度細孔径を有する多孔性樹脂であることが好ましい。ここで、多孔性樹脂の最頻度細孔径は、窒素吸着法もしくは水銀圧入法により測定することができる。本発明における親水性の多孔性樹脂は平均粒子径が0.2〜1.2mmの粒子の形状であることが好ましい。ここで、平均粒子径とは樹脂全体の10%を通し90%を網目上に残す網目の大きさを言うものとする。
【0011】
親水性の多孔性樹脂としては、例えば芳香族モノビニルモノマーと芳香族ポリビニルモノマーとの架橋重合体に水酸基、クロルアルキル基、水酸化アルキル基あるいはアミン基を導入したものが好適に用いられる。芳香族モノビニルモノマーとしては例えばスチレン、ビニルトルエン等が好適に使用される。又、芳香族ポリビニルモノマーとしては例えばジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等が好適に使用される。
【0012】
本発明方法において、親水性の多孔性樹脂としては、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体、スチレン−トリビニルベンゼン共重合体又はビニルトルエン−ジビニルベンゼン共重合体に三級アミン基を導入したものが好ましく、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体の三級アミン化物が特に好適に使用される。これらの樹脂は市販品として入手しうることも可能である。例えば商品名「Optipore L-493」(ダウ・ケミカル社製)は親水性を持ったスチレン−ジビニルベンゼンの共重合体であり、比表面積が800m2 /gである。
【0013】
本発明で対象となる有機不純物を含む過酸化水素水溶液は、アントラキノン法、水素と酸素を直接反応させる直接合成法など、いかなる製造法によるものでも良い。しかし、前記の如く、現在ほとんどの過酸化水素がアントラキノン法によって製造されており、この方法により得られた過酸化水素水は、各種要求に応じ精製操作を行っているが、有機物、金属などの不純物を含んでおり、さらに精製操作が必要である。本発明の有機不純物を含む過酸化水素水溶液としては、好ましくは5〜70重量%の過酸化水素濃度を有し、全有機炭素量として多くとも500mg/lの有機不純物を含有する過酸化水素水溶液である。
【0014】
本発明において、有機不純物を含む過酸化水素水溶液に親水性の多孔性樹脂に接触させる方法は連続通液方式又はバッチ方式のいずれでも実施することができる。例えば、連続通液方式は、カラムに充填した親水性の多孔性樹脂に有機不純物を含む過酸化水素水溶液を連続的に供給することにより実施される。又、バッチ方式では、親水性の多孔性樹脂と有機不純物を含む過酸化水素水溶液を所定時間撹拌混合した後、樹脂を分離した後、精製過酸化水素を抜き出す方法が考えられる。工業的には、カラムに充填した連続通液方式が精製度の高い過酸化水素が効率的に得られるため実用性が高く好ましい。
【実施例】
【0015】
次に実施例によって本発明を具体的に説明するが、その実施は以下の例に限定されるものではない。本発明において、過酸化水素水溶液中の全有機炭素量の測定は、全有機炭素計(島津 TOC−5000)を用いて測定した。
【0016】
実施例1
比表面積800m2 /g、三級アミン基のイオン交換容量0.8meq/gの親水性を有するOptipore L-493(親水性多孔性吸着樹脂、スチレン−ジビニルベンゼン架橋共重合体、ダウ・ケミカル社製)5mlをPTFE製カラムに充填し、59重量%の粗精製過酸化水素水溶液(有機不純物を全有機炭素量として52mg/l含有)をSV=18Hr-1で2.5時間通液した。カラムは水浴中に置き、10℃に温度を保った。通液開始2時間後から2.5時間までサンプリングを行い、通液過酸化水素水溶液中に含まれる全有機炭素量を分析した。過酸化水素水溶液中の全有機炭素量は2.7mg/lに低減された。
【0017】
比較例1
実施例1の親水性多孔性吸着樹脂の代わりに、疎水性の多孔性吸着樹脂SP−70(三菱化学社製)を使用し、前処理としてメタノールを多孔性吸着樹脂SP−70の10倍容量混合して水溶液になじむようにした後、多孔性樹脂に残留したメタノールを水洗により十分に除去した後にPTFE製カラムに充填した以外は実施例1と同様にして処理を行った。
通液開始2時間後から2.5時間までサンプリングを行い、通液過酸化水素溶液中に含まれる全有機炭素量を分析した。過酸化水素水溶液中の全有機炭素量は6.0mg/lであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機不純物を含む過酸化水素水溶液と、イオン交換容量0.6〜1.6meq/gの三級アミン基を含有し且つ比表面積が少なくとも800m2 /gである親水性の多孔性樹脂とを接触させて、過酸化水素水溶液の有機不純物を除去することを特徴とする精製過酸化水素水溶液の製造方法。
【請求項2】
有機不純物を含む過酸化水素水溶液が全有機炭素量として多くとも500mg/lの有機不純物を含有する過酸化水素水溶液である請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
親水性の多孔性樹脂が2〜10nmの最頻度細孔径を有する請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
親水性の多孔性樹脂がスチレン−ジビニルベンゼン共重合体、スチレン−トリビニルベンゼン共重合体又はビニルトルエン−ジビニルベンゼン共重合体に、三級アミン基を導入したものである請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
有機不純物を含む過酸化水素水溶液が5〜70重量%の過酸化水素濃度を有する請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法。


【公開番号】特開2012−12274(P2012−12274A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−152848(P2010−152848)
【出願日】平成22年7月5日(2010.7.5)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)