説明

精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法

【課題】特定のイオン交換樹脂を用いて効率的に酸性不純物を除去する精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法を提供する。
【解決手段】イオン交換樹脂を用いて酸性不純物を除去する精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法において、前記イオン交換樹脂がアミノリン酸形キレート樹脂であることを特徴とする精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法。この製造方法は、カラム法により行われることが好ましく、カラムに導入する粗製2−シアノアクリル酸エステルを含む溶液の粘度が、25℃において10mPa・s以下であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオン交換樹脂を用いて精製2−シアノアクリル酸エステルを製造する方法に関するものである。特に、高分子量、多官能、又はシアノアクリロイル基以外の官能基を有するなど従来の蒸留による酸性不純物の除去が困難な2−シアノアクリル酸エステルから、効率的に酸性不純物を除去し精製2−シアノアクリル酸エステルを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シアノアクリレート系接着剤の主成分である2−シアノアクリル酸エステルは、被着体表面の微量の水分や塩基性成分などによりアニオン重合し、常温下短時間で硬化する性質を有している。そのため、当該接着剤はいわゆる瞬間接着剤として各種産業界、医療分野、更には一般家庭において使用されている。しかし、2−シアノアクリル酸エステル中にアニオン重合を阻害する物質、特に酸性不純物が存在する場合は、瞬間接着性が損なわれることになる。そこで、シアノアクリレート系接着剤の特徴である優れた瞬間接着性を付与するためには、主成分である2−シアノアクリル酸エステル中の酸性不純物を低減することが必要となる。
【0003】
従来、2−シアノアクリル酸エステル中の酸性不純物を除き精製品を得る方法としては一般に蒸留が行われている。しかし、蒸留により精製可能な2−シアノアクリル酸エステルは蒸気圧等の問題から特定なものだけであり、高分子量、多官能、又はシアノアクリロイル基以外の官能基を有する等により蒸留不可能な2−シアノアクリル酸エステルは、酸性不純物の除去ができなかった。また、精製方法としては、固体の化合物に関しては再結晶による精製も考えられるが、化合物が限られ汎用性に乏しい。更に、酸性の化合物を除去する目的で塩基性の試薬を使用することも考えられるが、塩基性化合物が共存した場合、即座に2−シアノアクリル酸エステルのアニオン重合が開始されるため使用は不可能である。
以上のような蒸留、再結晶等による精製以外の方法として、例えば、特許文献1にはイオン交換樹脂を用いて酸性不純物を除去する精製方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−29543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されるようなイミノジ酢酸基を有するイオン交換樹脂は、少量の2−シアノアクリル酸エステルを処理することはできるものの、処理量が多くなると酸分の上昇が早く、結果的に多量のイオン交換樹脂が必要となり効率が悪いという問題がある。
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、イオン交換樹脂を用いて効率的に酸性不純物を除去する精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、粗製2−シアノアクリル酸エステルから酸性不純物を除去するにあたり、アミノリン酸形キレート樹脂を用いることにより、効率的に酸性不純物を除去することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下の通りである。
1.イオン交換樹脂を用いて酸性不純物を除去する精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法において、前記イオン交換樹脂がアミノリン酸形キレート樹脂であることを特徴とする精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法。
2.イオン交換樹脂をカラムに充填し、前記カラムに粗製2−シアノアクリル酸エステルを導入して処理することを特徴とする上記1に記載の精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法。
3.上記カラムに導入する粗製2−シアノアクリル酸エステルを含む溶液の粘度が、25℃において10mPa・s以下であることを特徴とする上記2に記載の精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法。
4.上記カラムにおける空間速度(SV)が、0.1〜2(1/hr)であることを特徴とする上記2又は3に記載の精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法。
5.上記2−シアノアクリル酸エステルが、1分子あたり2個以上のシアノアクリロイル基を有する2−シアノアクリル酸エステルであることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載の精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法。
6.精製後の2−シアノアクリル酸エステルの酸分が、5×10-6グラム当量/g以下であることを特徴とする上記1〜5のいずれかに記載の精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法は、以上のように、アミノリン酸形キレート樹脂を用いて粗製2−シアノアクリル酸エステル中の酸性不純物を除去する。アミノリン酸形キレート樹脂は、イオン交換能が優れているため、効率的に前記酸性不純物を除去することができる。また、イオン交換樹脂をカラムに充填し、当該カラムに粗製2−シアノアクリル酸エステルを導入することにより、連続的に精製2−シアノアクリル酸エステルを製造することができる。更に、本発明に係る精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法は、汎用モノマーである2−シアノアクリル酸アルキルエステルの精製だけでなく、高分子量、多官能、又はシアノアクリロイル基以外の官能基を有する2−シアノアクリル酸エステルなどの種々の2−シアノアクリル酸エステルに適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法は、イオン交換樹脂としてアミノリン酸形キレート樹脂を用いて酸性不純物を除去する方法である。以下に、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0010】
1.イオン交換樹脂
本発明の精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法に用いられるイオン交換樹脂は、下記式(1)で示されるアミノリン酸基を官能基として有するイオン交換樹脂である。
−CH2−NH−CH2−PO3Na2 ・・・(1)
【0011】
イオン交換樹脂の母体構造は特に限定されないが、一般的なスチレン・ジビニルベンゼン共重合体を用いることができる。また、イオン交換の効率が高いことから、MR構造(多孔質型)が好ましい。このようなイオン交換樹脂は市販されており、例えば、オルガノ社製 商品名「アンバーライトIRC747UPS」、ユニチカ社製 商品名「UR−3300」、PUROLITE INTERNATIONAL社製 商品名「S−940」、「S−950」、ムロマチテクノス社製 商品名「OT−65」等がある。
【0012】
2.2−シアノアクリル酸エステル
本発明で精製する2−シアノアクリル酸エステルは、下記式(2)で示されるシアノアクリロイル基を、1分子あたり少なくとも1個有する化合物であれば特に限定されない。
−OC(O)C(CN)=CH2 ・・・(2)
1分子あたりシアノアクリロイル基を1個有する化合物としては、2−シアノアクリル酸のメチル、エチル、クロロエチル、n−プロピル、i−プロピル、アリル、プロパギル、n−ブチル、i−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、アミル、2−メチル−3−ブテニル、3−メチル−3−ブテニル、2−ペンテニル、n−ヘキシル、6−クロロヘキシル、シクロヘキシル、フェニル、テトラヒドロフルフリル、2−ヘキセニル、4−メチルーペンテニル、3−メチル−2−シクロヘキセニル、ノルボルニル、ヘプチル、シクロヘキサンメチル、シクロヘプチル、1−メチル−シクロヘキシル、2−メチル−シクロヘキシル、3−メチル−シクロヘキシル、2−エチルヘキシル、n−オクチル、2−オクチル、シクロオクチル、シクロペンタンメチル、2,3−ジメチルシクロヘキシル、n−ノニル、イソノニル、オキソノニル、n−デシル、イソデシル、n−ドデシル、2−メトキシエチル、2−エトキシエチル、2−エトキシ−2−エトキシエチル、ブトキシ−エトキシ−エチル、2,2,2−トリフルオロエチル、ヘキサフルオロイソプロピル、ラウリル、イソトリデシル、ミリスチル、セチル、ステアリル、オレイル、ベヘニル、ヘキシルデシル、オクチルドデシル、ベンジル、クロロフェニル、2−ペンチルオキシエチル、2−ヘキシルオキシエチル、2−シクロヘキシルオキシエチル、2−(2−エチルヘキシルオキシ)エチル、及び2−フェノキシエチル等が挙げられる。
また、2−ヒドロキシプロピル−1−(メタ)アクリレート、1−ヒドロキシプロピル−2−(メタ)アクリレートの2−シアノアクリル酸エステルのようなシアノアクリロイル基以外の官能基を有する化合物でもよい。
【0013】
1分子あたりシアノアクリロイル基を2個有する化合物としては、下記ジオールと2−シアノアクリル酸又はその酸ハロゲン化物を反応させて得られるビス(2−シアノアクリル酸)エステルが挙げられる。ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(ブタジエン)−α,ω−ジオール等が挙げられる。
【0014】
1分子あたりシアノアクリロイル基を3個以上有する化合物としては、下記ポリオールと2−シアノアクリル酸又はその酸ハロゲン化物を反応させて得られる多官能2−シアノアクリル酸エステルが挙げられる。ポリオールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
これらの2−シアノアクリル酸エステルの中でも、1分子あたりシアノアクリロイル基を2個以上有する化合物や、高分子量の2−シアノアクリル酸エステル等に対して、本発明の製造方法は効果的である。
【0015】
3.精製方法
本発明で使用するイオン交換樹脂(アミノリン酸形キレート樹脂)は、Na型(リン酸塩型)で市販されているため、H型(リン酸型)に変換してから使用する。粗製2−シアノアクリル酸エステルからの酸性不純物の除去は、バッチ法又はカラム法のいずれの方法でも行うことができ、2−シアノアクリル酸エステルを含む溶液をイオン交換樹脂と接触させて行う。多量の2−シアノアクリル酸エステルを効率的に処理することができることから、カラム法が好ましい。
【0016】
上記カラムに導入する粗製2−シアノアクリル酸エステルの酸分は、100×10-6グラム当量/g以下であることが好ましく、50×10-6グラム当量/g以下であることがより好ましく、30×10-6グラム当量/g以下であることが更に好ましい。前記酸分が100×10-6グラム当量/g以下であれば、精製後の酸分を5×10-6グラム当量/g以下にすることができ、シアノアクリレート系接着剤の成分として実用上問題のないレベルまで低減することができる。また、前記酸分が100×10-6グラム当量/gを超える場合は、水洗等の前処理により、カラムに導入する酸分を低減することが好ましい。
カラム法で精製する場合のイオン交換樹脂の使用量は、2−シアノアクリル酸エステル1gに対して、0.5〜5gであることが好ましい。この範囲であれば、上記酸分の2−シアノアクリル酸エステルを効率的に精製することができる。
【0017】
また、上記カラム法で処理する場合の空間速度(以下、「SV」ともいう)は、0.1〜2(1/hr)であることが好ましく、0.3〜1.5(1/hr)であることがより好ましく、0.5〜1.0(1/hr)であることが更に好ましい。SVが0.1(1/hr)に満たないと、生産性が悪い。一方、2(1/hr)を超えると、イオン交換樹脂の交換速度を超えるため、イオン交換樹脂の能力を十分に利用することができない。その結果、酸性不純物の除去が不十分となり、所望の精製2−シアノアクリル酸エステルを得ることができない場合がある。
【0018】
4.溶媒
液体の2−シアノアクリル酸エステルに関しては直接イオン交換樹脂に接触させることも可能であるが、固体の2−シアノアクリル酸エステルは適当な溶媒に溶解させた溶液状態で、イオン交換樹脂と接触させる必要がある。また、粘性の高い2−シアノアクリル酸エステルも取り扱いを簡便にするために、同様に適当な溶媒で溶解させておくことが好ましい。処理時に使用する溶媒としては、2−シアノアクリル酸エステルを溶解するものであれば格別な限定なく使用可能であるが、処理中のアニオン重合による収率の減少を抑えるためには非極性溶媒の使用が好ましい。代表的なもとしてはトルエン、ベンゼン、キシレン等の芳香族、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族の溶媒があげられる。これらの溶媒は、蒸留又は脱水剤の使用等により脱水操作を施したものが好ましい。
【0019】
上記2−シアノアクリル酸エステルを含む溶液の粘度は、25℃において10mPa・s以下であることが好ましく、8mPa・s以下であることがより好ましく、6mPa・sであることが更に好ましい。前記粘度が、10mPa・sを超えると、溶液がイオン交換樹脂の内部に入り込みにくくなるため、その能力を十分に利用することができない場合がある。
【0020】
上記溶液中の2−シアノアクリル酸エステルの濃度は、20質量%以下であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。前記濃度が20質量%を超えると、溶液がイオン交換樹脂の内部に入り込みにくくなるため、その能力を十分に利用することができない場合がある。
【0021】
本発明に係る精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法においては、収量向上の観点から重合禁止剤を使用することもできる。重合禁止剤としては、一般にシアノアクリレート系接着剤に使用されるアニオン重合禁止剤や、ラジカル重合禁止剤を用いることができる。
アニオン重合禁止剤の具体例としては、二酸化硫黄、三フッ化ホウ素のような酸性ガス、メタンスルホン酸、ヒドロキシプロピルスルホン酸、p−トルエンスルホン酸のようなスルホン酸化合物、三フッ化ホウ素エチルエーテル、三フッ化ホウ素フェノール、三フッ化ホウ素メタノール、三フッ化ホウ素n−ブチルエーテル、酢酸三フッ化ホウ素のような三フッ化ホウ素錯体、ポリリン酸、五酸化二リン、アルキルリン酸エステルのようなリン酸化合物、ピロメリット酸、アコニット酸、シアノ酢酸、カプリン酸のような有機酸等が挙げられる。
また、ラジカル重合禁止剤の具体例としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、カテコール、ピロガロール、ジ−t−ブチルフェノール、及びt−ブチルピロカテコール等が挙げられる。
これらの重合禁止剤は、精製前の粗製2−シアノアクリル酸エステルに添加しておくことが好ましい。
【実施例】
【0022】
以下に、実施例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明の主旨を超えない限り、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。なお、下記において、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
評価方法は次の通りである。
1.酸分
50mlの三角フラスコに試料0.5gを精秤し、これに特級アセトン25mlを加えて希釈した後、蒸留水0.5mlを加えた。次に、指示薬としてブロモフェノールブルー溶液(キシダ化学製pH試験用)を0.3ml加えた後、ミクロビュレットを用いて1/1000Nの水酸化ナトリウム水溶液(f=1.00)を1滴ずつ滴下し、溶液の色が黄色から青色に変わる点を中和終了点とした。また、試料を用いずに特級アセトン、蒸留水のみで行った時の数値をブランクとして、次の式から試料の酸分Aを求めた。
酸分A[×10-6グラム当量]=10-3[N]×(試料の滴定量−ブランク滴定量)
×10-3[L]×f
次に、試料の固形分を以下のように求めた。
風袋を測定した内径75mmのガラスシャーレに試料1.0gを精秤し、これを100℃の通風乾燥機を用いて1時間乾燥させた。乾燥後にシリカゲルを入れたデシケーター内でシャーレを放冷し、重量を測定した。
固形分[%]=(乾燥後シャーレ重量−シャーレ風袋重量)÷(乾燥前試料込みシャーレ重量−シャーレ風袋重量)×100
そして、固形分100%あたりの酸分Bを以下の式から求めた。本発明において、この酸分B(固形分換算)を2−シアノアクリル酸エステルの酸分とする。
酸分B[×10-6グラム当量/g]=酸分A×100÷固形分
【0023】
2.水分
カールフッシャー法を用いて各試料の水分を測定した。
【0024】
3.粘度
B型回転粘度計(ローターNo.1)を用いて、25℃における粘度を測定した。
【0025】
<イオン交換樹脂の前処理>
イオン交換樹脂であるアミノリン酸形キレート樹脂、及びイミノジ酢酸形キレート樹脂はNa型として市販されているため、H型に戻す前処理が必要である。前処理は、以下のように行った。
内径30mmの下部にG1(孔径100〜120μm)のガラスフィルターを備えた下部コック付きガラス製カラムにイオン交換樹脂200mlを充填し、アセトン1730mlをSV;4(1/hr)で通液した。更に、メタノール1730mlをSV;4(1/hr)で通液し、イオン交換樹脂製造時の有機不純物の除去を行った。
次に、1N−塩酸865gをSV;4(1/hr)で通液して、イオン交換樹脂の官能基をNa型からH型に変換した。その後、イオン交換水4325gをSV;10(1/hr)で通液して、留出する水のpHがイオン交換水と同等の中性になっていることを、pHメーターで確認した。
次に、乾燥を容易にするために、アセトン173mlをSV;1(1/hr)で通液した後、イオン交換樹脂をロータリーエバポレーターに移し、50℃、267Pa以下で5時間の減圧乾燥を行った。
イオン交換樹脂を使用する際には、水分既知のトルエンで膨潤させて使用した。イオン交換樹脂の比重は、乾燥済みのイオン交換樹脂を上記の前処理に使用したカラムに50g入れ、その後水分既知のトルエンを静かに入れながら、カラムを軽く叩いてイオン交換樹脂中の空気を抜くとともにイオン交換樹脂を密に充填して、膨潤樹脂の高さから次の式によって算出した。
膨潤樹脂比重(g/cm3)=乾燥樹脂重量(g)÷膨潤後の樹脂体積(1.5×1.5×3.14×膨潤樹脂高さ)
また、イオン交換樹脂の乾燥状態は、膨潤樹脂中のトルエンの水分を測定し、把握した。
以上の前処理により、以下のイオン交換樹脂が得られた。
・オルガノ社製アミノリン酸形キレート樹脂 商品名「アンバーライトIRC747UPS」;膨潤樹脂比重0.420g/cm3、水分22ppm
・オルガノ社製イミノジ酢酸形キレート樹脂 商品名「アンバーライトIRC748」;膨潤樹脂比重0.418g/cm3、水分18ppm
【0026】
実施例1
重量平均分子量10,000の2官能ポリプロピレングリコール骨格の両末端にシアノアクリロイル基を有するビス(2−シアノアクリル酸)ポリプロピレングリコール(以下、「PPG−BCA」と略す)をモレキュラーシーブで脱水したトルエンで10質量%に希釈した。この溶液の粘度は5mPa・sであり、固形分100%あたりの酸分Bは、111.9×10-6グラム当量/gであった。この溶液20mlを三角フラスコに入れ、上記の前処理で得たトルエン膨潤した「アンバーライトIRC747UPS」を4ml添加した後、振とう機で4時間振とうさせた。その後、イオン交換樹脂を10μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過し、精製PPG−BCAを得た。固形分100%あたりの酸分Bは、21.8×10-6グラム当量/gに減少した。イオン交換樹脂1mlあたりの交換量は、22.5×10-6グラム当量/gである。
【0027】
実施例2〜4
実施例1のトルエンで希釈したPPG−BCAの濃度を20質量%、30質量%、40質量%と変更した以外は、実施例1と同様に行った。PPG−BCAに対するイオン交換樹脂量は、実施例1と同量とした。結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

【0029】
PPB−BCAを含む溶液の粘度が高くなるにつれて、イオン交換樹脂1mlあたりの交換量は低くなっており、イオン交換樹脂の能力を十分に利用できていない。
【0030】
実施例5
実施例1のPPG−BCAを、2−シアノアクリル酸2−オクチルに変更した以外は、実施例1と同様に精製した。その結果、精製前の固形分100%あたりの酸分Bは16×10-6グラム当量/gであったが、精製後は0.75×10-6グラム当量/gに減少した。イオン交換樹脂1mlあたりの交換量は、3.8×10-6グラム当量/gである。
【0031】
実施例6
重量平均分子量10,000の3官能ポリプロピレングリコール骨格の全末端にシアノアクリロイル基を有するトリ(2−シアノアクリル酸)ポリプロピレングリコール(以下、「PPG−TCA」と略す)をトルエンで10質量%に希釈した。この溶液の粘度は5mPa・sであり、固形分100%あたりの酸分Bは、28.4×10-6グラム当量/gであった。
前処理を行ったイオン交換樹脂「アンバーライトIRC747UPS」乾燥重量80g(トルエン膨潤樹脂体積190.5cm3)を、内径30mmの下部にG1(孔径100〜120μm)のガラスフィルターを備えた下部コック付きガラス製カラムに充填し(イオン交換樹脂高さ270mm)、SV;0.5(1/hr)[95.4ml/hr]でPPG−TCAを連続的に導入した。1時間毎に留出するPPG−TCAの酸分Bを測定したところ、表1の通りであった。
【0032】
【表2】

【0033】
比較例1
イオン交換樹脂を「アンバーライトIRC748」に変更した以外は、実施例1と同様に行ったところ、精製後の酸分Bは23.7×10-6グラム当量/gであった。イオン交換樹脂1mlあたりの交換量は、22.1×10-6グラム当量/gである。
【0034】
比較例2
イオン交換樹脂を「アンバーライトIRC748」に変更した以外は、実施例5と同様に行ったところ、精製後の酸分Bは1.8×10-6グラム当量/gであった。イオン交換樹脂1mlあたりの交換量は、3.5×10-6グラム当量/gである。
【0035】
比較例3
イオン交換樹脂を「アンバーライトIRC748」(トルエン膨潤樹脂体積191.4cm3)に変更した以外は実施例6と同様に行った。1時間毎に留出するPPG−TCAの酸分を測定したところ、表3の通りであった。
【0036】
【表3】

【0037】
実施例1及び比較例1、並びに実施例5及び比較例2の対比より、アミノリン酸形キレート樹脂は1mlあたりの交換量が多く、イオン交換能に優れている。また、表2及び3の結果より、アミノリン酸形キレート樹脂を用いて精製した場合は、最終留分の酸分が低く、酸性不純物を除去するために優れた方法であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の製造方法は、各種の精製2−シアノアクリル酸エステルを製造することができる。特に、従来の蒸留による酸性不純物の除去が困難な2−シアノアクリル酸エステルの精製に有効である。本発明の製造方法により得られた精製2−シアノアクリル酸エステルは、シアノアクリレート系接着剤の接着性や各種特性を向上させるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン交換樹脂を用いて酸性不純物を除去する精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法において、前記イオン交換樹脂がアミノリン酸形キレート樹脂であることを特徴とする精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法。
【請求項2】
イオン交換樹脂をカラムに充填し、前記カラムに粗製2−シアノアクリル酸エステルを導入して処理することを特徴とする請求項1に記載の精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法。
【請求項3】
上記カラムに導入する粗製2−シアノアクリル酸エステルを含む溶液の粘度が、25℃において10mPa・s以下であることを特徴とする請求項2に記載の精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法。
【請求項4】
上記カラムにおける空間速度(SV)が、0.1〜2(1/hr)であることを特徴とする請求項2又は3に記載の精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法。
【請求項5】
上記2−シアノアクリル酸エステルが、1分子あたり2個以上のシアノアクリロイル基を有する2−シアノアクリル酸エステルであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法。
【請求項6】
精製後の2−シアノアクリル酸エステルの酸分が、5×10-6グラム当量/g以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の精製2−シアノアクリル酸エステルの製造方法。

【公開番号】特開2013−1640(P2013−1640A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−130815(P2011−130815)
【出願日】平成23年6月13日(2011.6.13)
【出願人】(000003034)東亞合成株式会社 (548)
【Fターム(参考)】