説明

糖アルコールの連続的製造方法

本発明は、水素化により対応する糖アルコールを形成するサッカリドの水性溶液を、(i)非晶質二酸化ケイ素でできている担体物質を低分子量ルテニウム化合物のハロゲン非含有水性溶液で1回又は複数回処理し、次いで、処理された該担体物質を200℃未満の温度で乾燥させること;及び、(ii)ステップ(i)で得られた固体を100℃〜350℃の範囲の温度で水素で還元すること(ここで、ステップ(ii)はステップ(i)の直後に実施する)により得ることができるルテニウム触媒上で接触水素化することによる糖アルコールの連続的製造方法に関する。該サッカリド水性溶液は、水素化の前に、該担体物質に接触させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、適切なサッカリドを接触水素化することによる、糖アルコールを製造するための連続的方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖アルコールであるソルビトールは、グルコース、フルクトース、スクロース又は転化糖を接触水素化に付すことにより工業的に製造される(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th ed. CD-ROM版のH.Schiweckら,"Sugar Alcohol"を参照されたい)。この目的のために今日まで使用されてきた触媒は、主として、ニッケル触媒、例えば、担持ニッケル触媒又はラネーニッケルなどである。この目的のためにルテニウム含有触媒を使用することについても幾つか報告されている。一般に、ルテニウム触媒は、酸化物担体又は炭素などの有機担体に担持されたルテニウムを含有している担持触媒である。
【0003】
US-4,380,680、US-4,487,980、US-4,413,152及びUS-4,471,144には、グルコースの接触水素化によるソルビトールの製造が記述されており、該接触水素化では、熱水条件下で安定な担体物質に担持されたルテニウムを含有する触媒が使用されている。提案されている熱水用担体物質(hydrothermal support material)は、α-アルミナ(US-4,380,680)、酸化チタン(IV)(US-4,487,980)、ハロゲン化チタン(IV)で処理したアルミナ(US-4,413,152)、及び、θ-アルミナ(US-4,471,144)である。
【0004】
US-4,503,274には、グルコースを水素化してソルビトールとするための触媒が開示されている。US-4,503,274に開示されている該触媒は、熱水に対して安定な担体にハロゲン化ルテニウム水性溶液を含浸させた後、該固体を100℃〜300℃で水素化することにより製造される。
【0005】
US-3,963,788には、アルミノケイ酸塩をベースとする特定のゼオライトにルテニウムが担持されているルテニウム触媒の存在下で、トウモロコシデンプンの加水分解物を水素化してソルビトールとすることが記述されている。US-3,963,789では、ルテニウム触媒の担体として、結晶質アルミノケイ酸塩粘土、特に、モンモリロナイトが提案されている。
【0006】
FR-A-2526782には、例えばソルビトールを製造するためにモノサッカリドとオリゴサッカリドを水素化するためのシリカ担持ルテニウム触媒を製造するための、塩化ナトリウムとルテニウムを反応させてNa2RuCl6を介して製造される塩化ルテニウムの使用について記述されている。
【0007】
ルテニウム触媒の存在下での水素化によるソルビトールの製造に関して従来技術で知られている方法では、その触媒の活性があまり高くないことにより、用いた触媒に基づくソルビトールの空時収率はそれほど高いものではない。従って、ルテニウムのコストが高いことを考慮すると、これらの製造方法の経済的効率には、望むべきものが残っている。さらに、該触媒の選択性は充分なものではなく、その結果、価値のある生成物を単離するのにさらに経費が必要である。特に、ヒドロキシル基のエピマー化がしばしば観察される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、水素化により所望の糖アルコールを形成する対応するサッカリドを接触水素化することにより糖アルコールを製造するための連続的方法において、上記不利点を回避し、特に、所望の糖アルコールを改善された空時収率でもたらし、副産物の生成を殆ど伴わず、また、触媒のより長い有効寿命を可能とするような連続的方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、驚くべきことに、水素化により糖アルコールを形成するサッカリドの水性溶液を、ルテニウム触媒の存在下で接触水素化することによってその対応する糖アルコールを連続的に製造する方法であって、該ルテニウム触媒が、
(i) 非晶質二酸化ケイ素をベースとする担体物質を低分子量ルテニウム化合物のハロゲン非含有水性溶液で1回又は複数回処理し、次いで、処理された該担体物質を200℃未満の温度で乾燥させること;
及び、
(ii) 上記(i)で得られた固体を100℃〜350℃の温度にて水素で還元すること;
によって得られるものであり、ステップ(ii)はステップ(i)の直後に実施され、
該水素化の前に、水素化の対象である該サッカリド水性溶液を該担体物質に接触させることを含む方法により達成された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
適するサッカリドは、原則として、公知となっている全てのテトロース類、ペントース類、ヘキソース類及びヘプトース類を包含し、また、より正確には、アルドースのみではなくケトースも包含し、さらに、それらのジサッカリド及びオリゴサッカリドも包含する。本発明の方法で使用することが可能なモノサッカリドには、例えば、エリトロース、トレオース、リボース、アラビノース、キシロース、リキソース、アロース、アルトロース、マンノース、グロース、イドース、ガラクトース、タロース、エリトルロース、リブロース、キシルロース、プシコース、タガトース、グルコース、フルクトース及びグロースなどが包含され、より正確には、D形のみではなくL形も包含される。さらにまた、スクロースを加水分解することにより得られる転化糖も適している。ジサッカリドの例は、マルトース、イソマルトース、ラクトース、セロビオース、メリビオース(melobiose)及びスクロースである。
【0011】
本発明の水素化プロセスに適しているモノサッカリド及びオリゴサッカリドとして挙げることができるものは、特に、モノサッカリドとして、マンニトールを製造するためのマンノース、ズルシトール(ガラクチトール)を製造するためのガラクトース、及び、キシリトールを製造するためのキシロースであり、好ましくは、これらモノサッカリドのD形であり、また、ジサッカリドとして、マルチトールを製造するためのマルトース、イソマルチトールを製造するためのイソマルツロース(パラチノース)、及び、ラクチトールを製造するためのラクトースである。
【0012】
糖アルコールのソルビトールを製造するための好ましい出発物質はグルコースであり、さらにまた、トウモロコシデンプン加水分解物、コムギデンプン加水分解物及びジャガイモデンプン加水分解物などのグルコースを多く含んでいるシロップも好ましい。特に興味深いのは、上記モノサッカリドのD形を水素化することによるD-ソルビトールの製造である。
【0013】
しかしながら、上記で挙げた別のモノサッカリド及びオリゴサッカリドも、同様に、本発明のルテニウム触媒の存在下で水素化することにより、対応する糖アルコールを得ることができる。アルドースを水素化すると、用いた糖とOH基に関して同じ立体配置を有する糖アルコールが得られる。また、フラノースを水素化すると、一般に、該フラノース内のカルボニル官能基を有している炭素原子の立体配置のみが異なっている2種類のジアステレオマー糖アルコールが得られる。個々の純粋な糖アルコールは、一般に、この混合物から問題なく単離される。
【0014】
モノサッカリド及びオリゴサッカリドは、それ自体で又は混合物として使用し得るが、該出発物質は、好ましくは、純粋な形態で使用する。
【0015】
本発明の方法で使用される触媒が有する高い活性は、ルテニウムが該担体物質の表面上で特に良好に分布していること、及び、該担体物質中にハロゲンが実質的に存在しないことに起因していると考えることができる。
【0016】
製造方法の結果として、ルテニウムは金属ルテニウムとして本発明の触媒中に存在している。
【0017】
該触媒の電子顕微鏡試験(TEM)により、ルテニウムが、該担体物質上に、遊離原子の分散形態及び/又はルテニウム粒子の形態(ここで、該ルテニウム粒子は、実質的に独占的に、即ち、肉眼で観察可能な粒子数に基づいて、90%を超えるルテニウム粒子、好ましくは、95%を超えるルテニウム粒子が、10nm未満、特に7nm未満の粒径を有する孤立した粒子として存在する)で存在していることが分かっている。換言すれば、該触媒は、10nmを超える粒径を有するルテニウム粒子及び/又はルテニウム粒子の凝集塊を本質的に含まない。即ち、10nmを超える粒径を有するルテニウム粒子及び/又はルテニウム粒子の凝集塊が、10%未満、特に5%未満である。該製造においてハロゲンを含有しないルテニウム前駆体及び溶媒を使用することにより、本発明で使用される触媒の塩素含有量は、さらに、該触媒の総重量を基準として0.05重量%未満(<500ppm)である。
【0018】
本発明の方法で使用される触媒の本質的な構成成分は、非晶質二酸化ケイ素をベースとする担体物質である。これに関連して、用語「非晶質」は、結晶質二酸化ケイ素相の含有率が該担体物質の10%未満であることを意味している。しかしながら、該触媒を製造するのに用いられる担体物質は、担体物質内に細孔が規則的に配置することによって形成される超格子構造を有することができる。
【0019】
考慮対象となる担体物質は、基本的に、少なくとも90重量%が二酸化ケイ素からなる全ての種類の非晶質二酸化ケイ素であり、その際、該担体物質の残りの10重量%、好ましくは5重量%以下は、別の酸化物物質、例えば、MgO、CaO、TiO2、ZrO2、Fe2O3又はアルカリ金属酸化物であることが可能である。明らかに、使用される担体物質もハロゲンを含有しない。即ち、ハロゲン含有率は500ppm未満である。該担体物質は、好ましくは、Al2O3として計算して、酸化アルミニウムを1重量%以下、特に0.5重量%以下しか含有せず、特に、検出可能な量の酸化アルミニウムを含有しない(<500ppm)。好ましい実施形態においては、Fe2O3を500ppm未満しか含有しない担体物質を使用する。アルカリ金属酸化物の割合は、通常、該担体物質の製造に由来し、2重量%以下であることが可能である。多くの場合、それは、1重量%未満である。適する担体は、さらにまた、アルカリ金属酸化物を含有しない担体である(<0.1重量%)。MgO、CaO、TiO2又はZrO2の割合は、該担体物質の10重量%以下を構成することができ、好ましくは、5重量%以下である。しかしながら、これらの金属酸化物を検出可能な量では含まない(<0.1重量%)担体物質も適している。
【0020】
好ましいのは、50〜700m2/gの範囲、特に、80〜600m2/gの範囲、特に、100〜600m2/gの範囲の比表面積(DIN 66131で定義されているBET表面積)を有する担体物質である。粉末状の担体物質の中では、比(BET)表面積が200〜600m2/gの範囲であるものが特に好ましい。成形体の形態にある担体物質の場合、該比表面積は、特に、100〜300m2/gである。
【0021】
非晶質二酸化ケイ素をベースとする好適な担体物質は、当業者にはよく知られており、また、市販されている(例えば、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th ed. CD-ROM版の O.W. Florke, "Silica"を参照されたい)。それらは、天然のものであり得るか又は合成的に製造されたものであり得る。非晶質二酸化ケイ素をベースとする好適な担体物質の例は、ケイ藻土、シリカゲル、焼成ケイ酸(pyrogenic silicic acid)及び沈降ケイ酸(precipitated silicic acid)である。本発明の好ましい実施形態では、該触媒は担体物質としてシリカゲルを含んでいる。
【0022】
本発明の方法の実施形態に応じて、該担体物質は異なる形態を有し得る。本発明の方法が懸濁方法として構成されている場合、本発明の触媒を製造するために、担体物質は、通常、微粉砕粉末の形態で用いる。その粉末粒子の粒径は、好ましくは、1〜200μmの範囲、特に、10〜100mmの範囲である。該触媒を固定床触媒で使用する場合、通常、成形体の担体物質を使用し、ここで、そのような成形体の担体物質は、例えば、押出し又は打錠によって得ることができ、例えば、球形、タブレット、円柱、ストランド、リング又は中空円柱及び星形などの形状を有し得る。これらの成形体の寸法は、通常、1mm〜25mmの範囲である。多くの場合、2〜5mmのストランド径と2〜25mmのストランド長を有する触媒ストランドが使用される。
【0023】
該触媒のルテニウム含有量は、広い範囲で変えることができる。該触媒のルテニウム含有量は、いずれの場合も、担体物質の重量を基準にして、一般に、少なくとも0.1重量%、好ましくは、少なくとも0.2重量%であり、多くの場合、10重量%の値を超えることはない。好ましくは、該ルテニウム含有量は、0.2〜7重量%の範囲、特に、0.4〜5重量%の範囲である。
【0024】
本発明の方法で使用するルテニウム触媒は、一般に、所望量のルテニウムが担体物質に取り込まれるような方法で最初に該担体物質を低分子量ルテニウム化合物(以下において、(ルテニウム)前駆体と称する)のハロゲン非含有水性溶液で処理することにより製造する。このステップは、以下において、含浸とも称する。このように処理した担体を、次に、上記で特定した温度で乾燥させる。適切な場合には、得られた固体を、次に、ルテニウム前駆体の水性溶液で再度処理し、再度乾燥させる。該担体物質によって取り込まれたルテニウム化合物の量が該触媒中の所望のルテニウム含有量に相当するまで、その手順を繰り返す。
【0025】
該担体物質は、その形状に応じて、既知の方法でさまざまなやり方で、処理することができるか又は含浸させることができる。例えば、担体物質に該前駆体溶液を噴霧するか若しくは担体物質を該前駆体溶液で濯ぐことが可能であり、又は、担体物質を前駆体溶液に懸濁させることもできる。例えば、担体物質をルテニウム前駆体の水性溶液に懸濁させ、一定の時間が経過した後、水性の上清から濾過することができる。次に、該触媒のルテニウム含有量は、取り込まれる液体の量と該溶液のルテニウム濃度を介して、簡単な方法で制御することができる。該担体物質は、さらにまた、例えば、担体物質が取り込むことが可能な液体の最大量に相当する所定量のルテニウム前駆体水性溶液で担体を処理することにより、含浸させることも可能である。この目的のために、例えば前記量の液体で、該担体物質に噴霧することもできる。それを行うのに適する装置は、液体と固体を混合するのに慣習的に使用されている装置(例えば、以下の文献を参照されたい:Vauck/Muller, Grundoperationen chemischer Verfahrenstechnik [Unit operations of chemical engineering], 10th edition, Deutscher Verlag fur Grundstoffindustrie, 1994, pp. 405 et seq.)であり、例えば、タンブラー乾燥機、含浸ドラム(impregnating drum)、ドラムミキサー及びブレードミキサーなどである。モノリシックな担体は、通常、ルテニウム前駆体の水性溶液で濯ぐ。
【0026】
含浸に使用される水性溶液は、本発明では、ハロゲンを含んでいない。即ち、含浸に使用される水性溶液は、ハロゲンを含んでいないか又は100ppm未満のハロゲンしか含有しない。従って、使用されるルテニウム前駆体は、化学的に結合したハロゲンを含まず、水性溶媒に十分可溶であるルテニウム化合物のみである。そのようなルテニウム化合物としては、例えば、硝酸ニトロシルルテニウム(III)(Ru(NO)(NO3)3)、酢酸ルテニウム(III)及びルテニウム酸(IV)アルカリ金属塩(例えば、ルテニウム酸(IV)ナトリウム及びルテニウム酸(IV)カリウムなど)などを挙げることができる。
【0027】
本明細書において、「水性」は、水及び水の混合物を意味し、ここで、水の混合物は、50容積%以下、好ましくは、30容積%以下、特に、10容積%以下の1種以上の水混和性有機溶媒を含有し、例えば、水とC1-C4-アルカノール(例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール又はイソプロパノールなど)の混合物である。多くの場合、単独の溶媒として水を使用する。水性溶媒は、多くの場合、ルテニウム前駆体を安定化させるために、溶液中に、さらに、ハロゲンを含まない少なくとも1種類の酸、例えば、硝酸、硫酸、リン酸又は酢酸、好ましくは、ハロゲンを含まない鉱酸を含んでいる。従って、多くの場合、ルテニウム前駆体用の溶媒として、水で希釈したハロゲンを含まない鉱酸、例えば、半分の濃度まで希釈した硝酸を使用する。水性溶液中のルテニウム前駆体の濃度は、当然のことながら、加えるルテニウム前駆体の量とその水性溶液に対する担体物質の吸収能力に依存し、一般に、0.1〜20重量%の範囲である。
【0028】
乾燥は、上記温度条件を満たしながら、固体を乾燥させるための慣習的な方法で行うことができる。本発明による乾燥温度の上限に従うことは、触媒の質、即ち、触媒の活性にとって重要である。上記で規定されている乾燥温度を超えると、活性が著しく損なわれる。従来技術で提案されているような比較的高い温度、例えば、300℃を超える温度、又は、さらに、400℃を超える温度で、担体を焼成することは、不必要であるばかりか、触媒の活性に対して有害な影響をもたらす。
【0029】
ルテニウム前駆体を含浸させた固体は、通常、大気圧下で乾燥させるが、減圧を用いて乾燥を促進することも可能である。多くの場合、乾燥を促進するために、空気又は窒素などのガス流を、乾燥させる物質上又はその中に通過させる。
【0030】
乾燥時間は、当然のことながら、所望される乾燥の程度及び乾燥温度に依存し、通常は、2〜30時間の範囲、好ましくは、4〜15時間の範囲である。
【0031】
好ましくは、処理した担体物質は、還元(ii)の前に、水又は揮発性溶媒成分の含有量が、固体の総重量を基準にして、5重量%未満、特に、2重量%以下、特に好ましくは、1重量%以下となるまで乾燥させる。ここで特定した重量%は、300℃、1バールの圧力下で10分間測定した、固体の重量減損に関するものである。このようにして、本発明の触媒の活性をさらに増強することができる。
【0032】
好ましくは、乾燥は、例えばロータリーキルン又は回転する球形炉の中で固体を乾燥させることにより、前駆体溶液で処理した固体を撹拌しながら行う。このようにして、本発明の触媒の活性をさらに増強することができる。
【0033】
乾燥後に得られた固体は、自体公知の方法で、上記で特定した温度で固体を水素化することにより、本発明の触媒として活性な形態に変換する。
【0034】
この目的のために、担体物質を上記で特定した温度で水素と接触させるか又は水素と不活性ガスの混合物と接触させる。還元の結果に対しては水素分圧はあまり重要ではなく、0.2バール〜1.5バールの範囲で変えることができる。多くの場合、水素流中で、大気圧の水素を用いて、触媒物質を水素化する。好ましくは、該水素化は、例えばロータリーキルン又は回転する球形炉の中で固体を水素化することにより、(i)で得られた固体を撹拌しながら行う。このようにして、本発明の触媒の活性をさらに増強することができる。
【0035】
水素化後、取り扱い性を改善するために、既知の方法で、例えば、酸素含有ガス(例えば、空気)、好ましくは、1〜10容積%の酸素を含有する不活性ガス混合物)で、触媒を短時間処理することにより、該触媒を不動態化することができる。
【0036】
本発明の方法では、サッカリドは、好ましくは、個々のサッカリドの水性溶液を水素化することにより水素化するか、又は、出発物質として転化糖を用いる場合は、サッカリド混合物の水性溶液を水素化することにより水素化する。この場合の「水性」は、上記で定義のとおりである。便宜上、単独の溶媒として水を使用するが、この水は、pHを調節するための少量酸(好ましくは、ハロゲンを含有しない酸)を含むことができる。特に、モノサッカリドは、4〜10の範囲のpH、特に、5〜7の範囲のpHを有する水性溶液として使用する。
【0037】
液相中のサッカリド濃度は、基本的に、自由に選択することが可能であるが、多くの場合、溶液の総重量を基準にして、10〜80重量%の範囲、好ましくは、15〜50重量%の範囲である。
【0038】
サッカリド溶液は、水素化に先立ち、即ち、ルテニウム触媒と接触させる前に、該担体物質と接触させる。これにより担体物質(即ち、特に、二酸化ケイ素)がサッカリド溶液で飽和し、結果として、触媒から担体物質が殆ど溶け出さなくなる。このことは、触媒の寿命(有効寿命)に対して有利な影響をもたらす。サッカリド溶液は、多くの方法で、例えば、粉末状の担体物質をサッカリド溶液中に懸濁させるか、又は、サッカリド溶液を担体物質で作られている成形体を通して移動させることにより、該担体物質と接触させることができる。
【0039】
サッカリド溶液をシリカロッドを通して移動させることは、特に該溶液を押出シリカロッドが充填されている管に加圧して強制的に通す場合、本発明の方法の特に好ましい実施形態である。
【0040】
本発明の方法のさらなる有利な点は、サッカリド溶液をシリカロッドに強制的に通したときに、保持されているサッカリド溶液内にオリゴマー糖が依然として存在していることによりもたらされる。従って、形成される糖アルコールの純度が増大する。これは、特に、デンプンの加水分解物をサッカリドとして使用する場合に観察される。
【0041】
実際の水素化は、通常、冒頭で挙げた従来技術に記載されているような糖アルコール製造のための既知の水素化方法と同様の方法で行う。この目的のために、サッカリドを含んでいる液相を水素の存在下に該触媒と接触させる。この場合、該触媒を液相中に懸濁させてもよいし(懸濁法)、又は、液相を流動触媒床に通してもよいし(流動床法)、又は、液相を固定触媒床に通してもよい(固定床法)。水素化は、連続式又はバッチ式で行うことができる。好ましくは、本発明の方法は、固定床法により、散水リアクター(trickling reactor)で行う。水素は、水素化される出発物質の溶液と並流又は向流の何れかで触媒を通過させることができる。
【0042】
懸濁法による水素化を実施するのに適する装置、及び、固定触媒床での水素化に適する装置は、従来技術(例えば:Ullmanns Enzyklopadie der Technischen Chemie [Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry], 4th Edition, Volume 13, pp. 135 et seq. 及び P.N. Rylander, "Hydrogenation and Dehydrogenation" in Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th ed. CD-ROM版)により公知である。
【0043】
一般に、水素化は、高い水素圧下、例えば、少なくとも10バール、好ましくは、少なくとも20バール、特には、少なくとも40バールの水素分圧下で行う。通常、水素分圧は500バールを超えず、特には、350バールを超えない。特に好ましくは、水素分圧は、40〜200バールの範囲である。反応温度は、一般に、少なくとも40℃であり、多くの場合、250℃を超えない。特に、水素化法は、80〜150℃で行う。
【0044】
触媒活性が高いので、使用される出発物質に基づいて必要とされる触媒量は比較的少量である。従って、バッチ式の懸濁法では、1molの糖を基準にして、一般に、1mol%未満、例えば、10-3mol%〜0.5mol%のルテニウムを使用する。連続式の水素化法では、通常、水素化される出発物質を、0.05〜2kg/(L(触媒)×時間)の速度で、特に、0.07〜0.7kg/(L(触媒)×時間)の速度で触媒上を通過させる。
【0045】
本発明の方法において、個々に使用される水性溶媒中の糖アルコールの溶液が製造され、そこから、既知の方法によりソルビトールを得ることができる(Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 5th ed. CD-ROM版の H. Schiweckら, "Sugar Alcohols"を参照されたい)。好ましくは得られる水性反応混合物の場合、糖アルコールは、例えば蒸発とそれに続く結晶化を行うことで単離することができるか(DE-A-2350690, EP-A-32288, EP-A-330352)、又は、噴霧乾燥によって単離することができる(DK-33603, DD-277176)。必要な場合には、慣習的な方法によって触媒を予め除去し、また、適切な濾過助剤の使用及び/又はイオン交換体での処理による金属イオン、グルコナート若しくは別の有機酸の除去により、反応溶液を脱色する。
【0046】
転化糖又はフルクトースを用いる場合、ソルビトールに加えて、明らかにマンニトールも形成される。純粋な糖アルコールが所望される場合、得られた反応混合物から、例えば選択的結晶化によって、ソルビトールを単離することができる。
【0047】
本発明の方法は、高い空時収量が達成されることを特徴とし、また、出発物質としてグルコースを使用する場合は、高い生成物選択性も特徴とする。さらに、本発明の方法は、ルテニウム触媒の特に長い有効寿命を特徴とする。その結果として、本発明の方法は、経済的に特に魅力的な方法となる。
【0048】
明らかに、上記方法で使用される触媒は、活性が低下した場合、ルテニウム触媒などの貴金属触媒について慣習的に行われている当業者に公知の方法に従って再生させることができる。本明細書で挙げることができる方法は、例えば、酸素による触媒の処理(BE-882279に記載されている)、又は、ハロゲンを含まない希鉱酸による処理(US-4,072,628に記載されている)、又は、過酸化水素(例えば、0.1〜35重量%の含有量を有する水性溶液の形態にある過酸化水素)による処理、又は、別の酸化性物質(好ましくは、ハロゲンを含まない溶液の形態にある別の酸化性物質)による処理である。通常、再活性化を行った後、新たに使用する前に、触媒を溶媒(例えば、水)で洗浄する。
【実施例】
【0049】
以下の実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明する。
【0050】
(I) 触媒の調製
1.プロトコルA: 粉末状ハロゲン非含有触媒(非焼成)
所定量の個々の担体物質に、個々の該担体物質が吸収することが可能な最大量の硝酸ニトロシルルテニウム(III)水溶液を含浸させた。個々の担体物質によって吸収される最大量は、予め、基準サンプルに基づいて確認しておいた。該溶液の濃度は、いずれの場合も、担体物質中のルテニウムの所望濃度が得られるようなものとした。
【0051】
得られた固体を、次に、回転式球形オーブン中で120℃で13時間乾燥させた。残留含水量は、1重量%未満であった。
【0052】
得られた固体を、回転式球形炉の中で、大気圧下、水素流中で、300℃で4時間還元した。冷却し、窒素で不活性化した後、窒素中の5容積%の酸素を120分間にわたり通すことで、触媒を不動態化した。
【0053】
2.プロトコルB: 粉末状ハロゲン非含有触媒(焼成)
乾燥後に得られた固体を空気流下に400℃で4時間加熱してから水素化に付した以外は、プロトコルAと同様の方法で触媒を製造した。
【0054】
3.プロトコルC: 粉末状ハロゲン含有触媒(非焼成)
硝酸ニトロシルルテニウム(III)の代わりに塩化ルテニウム(III)を用いた以外は、プロトコルAと同様の方法で触媒を製造した。
【0055】
4.プロトコルD: ロッド状ハロゲン非含有触媒(非焼成)
所定量の円柱状担体物質ストランド(直径 4mm, 長さ 3〜10mm)に、個々の該担体物質が吸収することが可能な最大量の硝酸ニトロシルルテニウム(III)水溶液を含浸させた。個々の担体物質によって吸収される最大量は、予め、基準サンプルに基づいて確認しておいた。該溶液の濃度は、いずれの場合も、担体物質中のルテニウムの所望濃度が得られるようなものとした。
【0056】
得られた含浸ロッドを、次に、回転式球形炉中で120℃で13時間乾燥させた。残留含水量は、1重量%未満であった。
【0057】
得られた乾燥ロッドを、回転式球形炉の中で、大気圧下、水素流中で、300℃で4時間還元した。冷却し、窒素で不活性化した後、得られた触媒を、窒素中の5容積%の酸素を120分間にわたり通すことで、不動態化した。
【0058】
5.プロトコルE: ロッド状ハロゲン含有触媒(非焼成)
硝酸ニトロシルルテニウム(III)の代わりに塩化ルテニウム(III)を用いた以外は、プロトコルDと同様の方法で触媒を製造した。
【0059】
(II) ソルビトールを製造するための固定床触媒の存在下におけるトウモロコシデンプン加水分解物の連続的水素化
サーキュレーションとポストリアクターを有する主反応器からなる反応ユニットに、上記(I)で製造したルテニウム触媒を入れる。
【0060】
グルコース濃度40%のトウモロコシデンプン加水分解物の水性溶液を、加圧下に、押出シリカロッドが充填されている管に通す。この溶液を、次いで、頂部温度(overhead temperature)が80〜130℃の主反応器に入れ、その後、頂部温度を該主反応器の底部温度に合わせておいたポストリアクターに通す。水素化は、140バールの圧力下で行った。
【0061】
上記方法により、99.8%の変換率と、ソルビトールに基づき99.3%の選択性が得られる。
【0062】
(III) キシリトールを製造するための固定床触媒の存在下におけるキシロースの連続的水素化
サーキュレーションとポストリアクターを有する主反応器からなる反応ユニットに、上記(I)で製造したルテニウム触媒を入れる。
【0063】
濃度30%のキシロース(製造元:Aldrich, 純度99.6%)の水性溶液を、加圧下に、押出シリカロッドが充填されている管に通す。この溶液を、次いで、頂部温度が80〜130℃の主反応器に入れ、その後、頂部温度を該主反応器の底部温度に合わせておいたポストリアクターに通す。水素化は、90バールの圧力下で行った。
【0064】
上記方法により、99.8%の変換率と、キシリトールに基づき98.5%の選択性が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素化により糖アルコールを形成するサッカリドの水性溶液を、ルテニウム触媒の存在下で接触水素化することによってその対応する糖アルコールを連続的に製造する方法であって、該ルテニウム触媒が、
(i) 非晶質二酸化ケイ素をベースとする担体物質を低分子量ルテニウム化合物のハロゲン非含有水性溶液で1回又は複数回処理し、次いで、処理された該担体物質を200℃未満の温度で乾燥させること;
及び、
(ii) 上記(i)で得られた固体を100℃〜350℃の温度にて水素で還元すること;
によって得られるものであり、ステップ(ii)はステップ(i)の直後に実施され、
該水素化の前に、水素化の対象である該サッカリド水性溶液を該担体物質に接触させることを含む、前記方法。
【請求項2】
製造される糖アルコールがソルビトール又はキシリトールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記サッカリド水性溶液がコムギデンプン加水分解物又はトウモロコシデンプン加水分解物である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記水素化の前に、前記サッカリド水性溶液を強制的にシリカロッドに通す、請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2006−509833(P2006−509833A)
【公表日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−502311(P2005−502311)
【出願日】平成15年12月3日(2003.12.3)
【国際出願番号】PCT/EP2003/013632
【国際公開番号】WO2004/052813
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(595123069)ビーエーエスエフ アクチェンゲゼルシャフト (847)
【氏名又は名称原語表記】BASF Aktiengesellschaft
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】