糖タンパク質の測定方法、肝疾患の検査方法および糖タンパク質定量用試薬
【課題】肝線維化の進展と相関する糖鎖を有するα1−酸性糖タンパク(AGP)をレクチンマイクロアレイ法に比べて短時間で検出可能なAGPの定量方法を提供すること。
【解決手段】本願発明は、 肝炎患者から採取した血液試料に含まれるα1−酸性糖タンパク(AGP)の定量方法であって、肝臓の線維化ステージの変化に伴うAGPの糖鎖の変化を検出可能な所定のレクチンを用いて、磁性粒子−所定のレクチン−AGP−標識抗AGP抗体の複合体を形成し、複合体の標識量を測定することにより所定のレクチンに反応する糖鎖を有するAGPを定量することを特徴とするAGP定量方法、並びに、それに用いられるAGP定量用試薬を包含する。
【解決手段】本願発明は、 肝炎患者から採取した血液試料に含まれるα1−酸性糖タンパク(AGP)の定量方法であって、肝臓の線維化ステージの変化に伴うAGPの糖鎖の変化を検出可能な所定のレクチンを用いて、磁性粒子−所定のレクチン−AGP−標識抗AGP抗体の複合体を形成し、複合体の標識量を測定することにより所定のレクチンに反応する糖鎖を有するAGPを定量することを特徴とするAGP定量方法、並びに、それに用いられるAGP定量用試薬を包含する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、糖タンパク質としてalpha-1-acid glycoprotein(AGP)を測定する糖タンパク質の測定方法、および糖タンパク質としてAGPを用いた肝疾患の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓がんは、肝臓で発生する原発性肝がんと、転移性肝がんに大きく分けることができ、原発性肝がんの90%が肝細胞がんであるといわれている。
【0003】
肝細胞がん患者は、基礎疾患として、C型肝炎ウイルス、又はB型肝炎ウイルスに感染している場合が多く、急性ウイルス性肝炎から、慢性ウイルス性肝炎、肝硬変へと進行し、ウイルス性肝炎に罹患した後、長期間経過後、初めてがん化することが多い。肝硬変では、炎症と再生を繰り返すことにより、正常な肝細胞が減少し、線維組織から構成される臓器へと変化する。例えば、C型肝炎患者は、わが国だけでも300万人、中国やアフリカでは、1000万以上とも言われている。また、B型・C型肝炎患者の場合、慢性肝炎からの発がん率は、慢性肝炎軽度(F1)では年率0.8%、慢性肝炎中度(F2)では年率0.9%であるが、慢性肝炎重度(F3)になると年率3.5%になり、更に肝硬変(F4)からがんとなる確率は、年率7%にも上昇する(図1,2)。又肝疾患は、病態の進行に伴い、まず慢性肝炎で機能が消失し始め、肝硬変で病的構造が現れ、肝臓の線維化が進むなど、組織像が変化する(図3)。
【0004】
がん治療においては、がんの早期発見が重要で、肝細胞がんの場合も早期のがん発見が治療、術後予後に大きく影響している。肝切除治療による5年生存率は、ステージIであれば80%のところ、ステージIVでは38%に過ぎない。
【0005】
肝がんマーカーとしては、現在までに、α-フェトプロテイン(AFP)やprotein induced by Vitamin K absence or antagonist-II(PIVKA-II)が知られている(特許文献1,2)が、その特異性、感度とも十分ではない。そのため、現在は、肝がん早期発見のために検診は、肝がんマーカーと、超音波検査、コンピューター断層撮影(CT)、核磁気共鳴画像法(MRI)など画像検査によりおこなわれている。
【0006】
また、非特許文献1には、血清中のフコシル化AGPを、AALレクチンを用いて測定し肝硬変を検出する試みが記載されている。しかし、非特許文献1記載の技術は、その表2に記載された結果から理解されるように、感度が66%程度であるにもかかわらず特異度が87%程度であり、正診率77%程度であるため肝疾患検出性能の観点で満足できるものではない。
【0007】
また、非特許文献2には、健常者、急性肝炎患者、慢性肝炎患者、肝硬変患者および肝細胞がん患者の血清中のアシアロAGPを、RCAレクチンを用いたイムノクロマトグラフィーによって測定し、各肝疾患を陽性判別できるか否かの実験を行ったことが記載されている。しかし、非特許文献2記載の技術は、その表2に記載された結果から理解されるように、肝硬変に着目するとその感度は88%程度であるものの慢性肝炎患者における擬陽性率が63%になってしまい、肝疾患検出性能の観点で満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−26622号
【特許文献2】特開平8-184594号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Ingvar Ryden等、Diagnostic Accuracy of α1-Acid Glycoprotein Fucosylation for Liver Cirrhosis in Patients Undergoing Hepatic Biopsy、Clinical Chemistry 48:12、2195-2201 (2002)
【非特許文献2】Eun Young Lee等、Development of a rapid, immunochromatographic strip test for serum asialo α1-acid glycoprotein in patients with hepatic disease、Journal of Immunological Methods 308 (2006) 116-123
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願発明は、従来よりも高い精度で肝疾患を検出できる糖鎖マーカー糖タンパク質の測定方法を提供することを課題とする。また、本願発明は、従来よりも高い精度で肝疾患を検出できる肝疾患の検査方法を提供することを課題とする。また、本願発明は、上記測定方法に用いる糖タンパク質定量用試薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
被験者より採取された試料に含まれるalpha-1-acid glycoprotein(AGP)の糖タンパク質の測定方法であって、AOLおよびMALから選択される第1レクチンに結合するAGPを測定する糖タンパク質の測定方法。
【発明の効果】
【0012】
本願発明の測定方法により、高い信頼性で肝硬変などの肝疾患の検査を行うことが可能な糖鎖マーカー糖タンパク質を簡便に測定することができる。
【0013】
更に本願発明の肝疾患病態指標糖鎖マーカー糖タンパク質により、既存のマーカーよりも正診率が高く、かつ微量の血清により検査が可能となり、肝線維化進展モニタリングが可能となって病態進展の把握が可能になるばかりでなく、インターフェロンをはじめとする抗ウイルス療法後の肝線維化や炎症の改善を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】C型肝炎感染から肝細胞がんへと至るまでの時間経過と肝の状態の変化を示す図である。
【図2】慢性肝炎からの肝細胞がん発がん率を示す図である。
【図3】肝硬変の肝細胞がん発がん率を示す図である。
【図4】背景肝組織の変化と発がんとの関係を示す図である。
【図5】感染から発がんへ至るまでの肝の構造変化を示す図である。
【図6】肝の状態変化と診断治療スキームとの関係を示す図である。
【図7】レクチンマイクロアレイを基軸としたバイオマーカー候補分子の検証実験手順を表す図である。
【図8】肝疾患病態指標マーカー糖タンパク質の一つであるα1酸性糖タンパク質(AGP)について、抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイにより比較糖鎖解析を行った結果を示す図である。
【図9】肝疾患病態指標マーカー糖タンパク質の一つである90K/Mac-2 Binding Protein(M2BP)について、抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイにより比較糖鎖解析を行った結果を示す図である。
【図10】肝臓の線維化進展とAGPの抗体オーバーレイ・レクチンアレイ解析により得られたレクチンシグナル強度の変化との相関を示す図である。
【図11】肝疾患病態指標糖鎖マーカーであるAGPの抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ解析による肝硬変の検出スキームを表す図である。
【図12】肝臓の線維化進展をモニタリングできるマーカーとしてAGPを用いたインターフェロンの治療効果判定を示す図である。
【図13】第1迅速測定方法でDSAを用いた場合の希釈直線性を示す図である。
【図14】第1迅速測定方法でMALを用いた場合の希釈直線性を示す図である。
【図15】第1迅速測定方法でAOLを用いた場合の希釈直線性を示す図である。
【図16】第1迅速測定方法で市販検体に対してMALを用いた場合の測定結果を示す図である。
【図17】第1迅速測定方法で市販検体に対してAOLを用いた場合の測定結果を示す図である。
【図18】レクチンアレイ法で市販検体に対するMALによる測定結果を示す図である。
【図19】レクチンアレイ法で市販検体に対するAOLによる測定結果を示す図である。
【図20】第2迅速測定方法でDSAを用いた場合の希釈直線性を示す図である。
【図21】第2迅速測定方法でMALを用いた場合の希釈直線性を示す図である。
【図22】第2迅速測定方法でAOLを用いた場合の希釈直線性を示す図である。
【図23】第2迅速測定方法で市販検体に対してMALを用いた場合の測定結果を示す図である。
【図24】第2迅速測定方法で市販検体に対してAOLを用いた場合の測定結果を示す図である。
【図25】第2迅速測定方法で臨床検体に対してMALを用いた場合の測定結果を示す図である。
【図26】第2迅速測定方法で臨床検体に対してAOLを用いた場合の測定結果を示す図である。
【図27】レクチンアレイ法で臨床検体に対するMALによる測定結果を示す図である。
【図28】レクチンアレイ法で臨床検体に対するAOLによる測定結果を示す図である。
【図29】HCV感染患者血清125症例分を対象に第2迅速測定法で測定した結果を示す図である。
【図30】健常者100検体分を対象にレクチンアレイ法と第2迅速測定法で測定した結果を比較した図である。
【図31】肝臓の線維化進展とM2BPの抗体オーバーレイ・レクチンアレイ解析により得られたレクチンシグナル強度の変化との相関を示す図である。
【図32】肝細胞がん患者術前術後の血清中M2BP上糖鎖変化を示す図である。
【図33】WFA結合性M2BPを検出するための最良の形態であるレクチン―抗体サンドイッチELISAのモデルを示す図である。
【図34】肝臓がん患者術後血清中WFA結合性M2BP量の経時的変化を示す図である。
【図35】ELISA法によるWFA結合性M2BP検出において、検体加熱処理の有無が検出感度に及ぼす影響を示す図である。
【図36】第2迅速測定法によるM2BPの測定において、試料としてHepG2培養細胞の上清を用いた場合の、WFAを用いる測定系の希釈直線性を示す図である。
【図37】第2迅速測定法によるM2BPの測定において、試料としてRecombinant Human Galectin−3BP/MAC−2BPを用いた場合の、WFAを用いる測定系の希釈直線性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.慢性肝疾患の現状
1−1.肝疾患の病態
B型肝炎ウイルス又はC型肝炎ウイルスに感染すると、急性期炎症から5−15年をかけて慢性期炎症へと進行する。特に慢性期に移行したC型肝炎が自然に治癒する事は稀で、肝機能の低下が進行し肝硬変に至る。C型肝炎感染から肝細胞がんへと至るまでの時間経過と肝の状態の変化を図1に示す。慢性肝炎から肝硬変に至る病態を定義するため、肝臓のグリソン領域及び肝小葉に出現する線維性変化を病理形態学的に捉えて、軽度(F1)、中度(F2)、重度(F3)、肝硬変期(F4)に分類する。線維化の進展は肝細胞がん発がんのリスク上昇と相関しており、図2に示されるようにF1もしくは2である場合年率1%以下であるのに対し、F3である場合には年3−4%に上昇する。線維化の程度がより進展した組織像を確認して診断される肝硬変(F4)では、図3に示されるように年率7%程度の確率で肝細胞がんが出現する。従って肝細胞がんを効率良く発見して治療するためには、特にF3およびF4の状態にある患者を簡便に選別して、精密検査対象者としてフォローすることが重要である。
【0016】
我が国のB型およびC型肝炎患者医療給付事業は専ら、肝生検標本に対する病理組織学的診断によって決定される線維化の程度F1〜3を対象とする。その一方、F4と診断される場合には、肝硬変に分類されるため、インターフェロン治療に対するB型およびC型肝炎患者医療給付事業では、一部のみ助成対象となるが、満足のいく治療成績は得られない。
【0017】
1−2.抗ウイルス療法による線維化抑制の評価
C型慢性肝炎に対しては、PEG-IFN+RBV療法、C型肝硬変代償期に対してインターフェロン単独投与が適応されている。一方、B型肝炎(慢性肝炎、肝硬変)に対する治療としては核酸アナログが主体であり、炎症や線維化評価マーカーは必須と思われる。特に、血清バイオマーカーは診断・評価目的に幅広く臨床応用されることが期待される。
【0018】
1−3.肝細胞がん
肝細胞発がんには、 B型肝炎ウイルスもしくはC型肝炎ウイルス感染による微生物学的因子と、環境因子が大きく交互に作用すると考えられている。わが国において、肝細胞がん患者の約9割は、B型あるいはC型肝炎ウイルスの感染既往があり、慢性肝炎・肝硬変患者に発生している事が知られている。肝細胞がんの発がん危険因子には、ウイルス以外にも、男性、高齢、アルコール多飲、タバコ、カビ毒の一つであるアフラトキシンなどが指摘されている(肝がん診療ガイドライン、財)国際医学情報センター)。
【0019】
1−4.肝細胞がんの早期診断
肝細胞がんの発見は、現在のところ、被験者からの血清サンプル中のAFPやPIVKA-IIなどの肝臓がんマーカーの測定、及び超音波検査(エコー検査)を中心とした画像診断が主として用いられている。画像診断としては、最初の検査として、超音波検査又はCTを用い、これらで何らかの異常が見いだされときには、更にMRIや血管造影をするのが通常である。
【0020】
1−5.肝細胞がん予防の観点から発がん高リスク群の囲い込み
肝細胞がん患者の約9割が、B型肝炎ウイルスもしくはC型肝炎ウイルス感染による肝炎患者から発生する我が国においては、ウイルス感染と肝機能低下を指標として、精密検査の対象となる患者を囲い込む事は可能である。
【0021】
しかしながら、年率7%程度の確率で肝細胞がんが出現する肝硬変(F4)患者であったとしても、早期がんを発見して治療するため、3ヶ月おきに高額で侵襲性の高い精密検査を繰り返す事は、経済的にも身体的にも患者の負担は大きいと言わざるを得ない。年3−4%の発がん率であるF3である場合にはなおさらである。さらには、インターフェロンによるC型肝炎ウイルス治療の成功率が5割程度であることを考慮すると、かなりの人数に上るインターフェロン治療が奏功しなかった慢性肝炎患者には、肝硬変および肝細胞発がんへ至るどの位置にあるのかを明確にして臨床的フォローアップをすることが必要である。つまり現在の肝炎〜肝細胞がんに至る疾病の治療においては、血液検査などの簡易な検査によって肝炎〜肝硬変患者に対して発がんリスクの重み付けを行ない、それに見合った肝細胞がんの診断治療を実施することが必要な状況にある。
【0022】
臨床病理学的には、線維化の程度が肝硬変および肝細胞発がんのリスクと相関する事から、我々は、線維化の進展を血清学的に定量的に測定できる検査技術の開発に、この問題解決の可能性を見いだしている。図4に示されるように、肝臓に生じたC型肝炎ウイルス感染は、障害された肝細胞の再生と瘢痕修復としての線維化を惹起する。肝臓の線維化が進むにつれて発がんのリスクが高まることから、「線維化の程度」は、発がんへと向かう指標となる。がんを生じる背景肝組織では、構成細胞が変化することから、線維化の進展に伴って糖鎖変化を生じることが予測される。図5に示されるように、感染から経時的に発がんへ至るが、この時、肝には正常構造や機能の恒常的活動性の喪失が観察され、同時に線維化を特徴とする病的構造の出現をみる。肝細胞がんは、早期肝細胞がんから古典的肝細胞がんへ進展して細胞の性質が変化する事が知られており、2cmを超えると早期肝細胞がんのなかに古典的肝細胞がんが出現する。図6に肝の状態変化と診断治療スキームとの関係を示す。慢性肝炎に対しては、ペグインターフェロン/リバビリン併用療法(PEG-IFN+RBV療法)がなされるのに対し、早期肝細胞がんに対してはラジオ波焼灼術(RFA)がなされる。肝硬変に対しては、診断的検査法や、有効な治療法がない。本願発明の糖鎖マーカー糖タンパク質は、慢性肝炎、肝硬変、肝細胞がんを区別できるので、肝硬変に対する新規治療開発における指標となる。また、ファイブロスキャンと共用する事で、線維化の定量的評価が可能となる事が期待されるので、糖鎖マーカー糖タンパク質によって、線維化(F3〜4)症例の囲い込みも可能となる。これは、線維化の定量的診断に加えて、肝線維化進展や発がん抑制を目指した治療の臨床導入に際し、治療効果の血清評価マーカーとして活用される事が期待される。
【0023】
2.新規肝疾患病態指標糖鎖マーカー糖タンパク質の肝疾患特異的糖鎖変化
本願発明の新規肝疾患病態指標糖鎖マーカー糖タンパク質であるAGPおよびM2BPは、ウイルス感染による疾患の発症と進展において生じる慢性肝炎、肝硬変、肝細胞がんを特徴づける糖鎖変化を生じることが見出された。このような、ウイルス性肝疾患の病態進行に伴う糖鎖変化を指標として、肝疾患病態を特定できるマーカー糖タンパク質を肝疾患病態指標糖鎖マーカーと呼ぶ。
【0024】
本願発明の新規肝疾患病態指標糖鎖マーカーであるAGPおよびM2BPの糖鎖変化検出は、ウイルス性肝疾患のそれぞれの病態、つまり、肝細胞がん、肝硬変、肝線維化(F3及びF4マーカー)、あるいは慢性肝炎に特徴的で各疾患の鑑別に有効である。しかしながら、これらマーカーの糖鎖変化は疾患の種類や進展度合いにより種類や比率を異にする。したがってマーカーを活用しそれぞれの対象に特化した検出キットを構築するためには、疾患特異的糖鎖変化を反映するレクチンプローブの統計学的な選抜が必要である。
【0025】
3.糖鎖マーカー糖タンパク質の肝疾患特異的糖鎖変化の検証
AGPおよびM2BP上に存在する糖鎖の疾患特異的な変化は後述するレクチンアレイにより検証する。より好ましくは抗体オーバーレイ・レクチンアレイ法を用いる。上記マーカー糖タンパク質をレクチンアレイを用いて測定した結果をもとに、1)病気の進み具合に応じてどのレクチンシグナルにどの程度の測定値変化が見られるのか、2)測定値の変化は、どの病期(初期か晩期か)にもっとも顕著となるのか、3)測定値変化の情報は、疾病のコントロールに資するかどうかを検討し、有用性を評価し、どの肝疾患病態に適したマーカーであるかを検証する。
【0026】
糖鎖マーカー糖タンパク質を肝線維化進展モニタリングや、肝硬変検出のために利用するのに適したレクチンプローブを選抜するより具体的な方法を以下に記す。
【0027】
(ウイルス性)肝炎患者、肝硬変患者、及び肝細胞がん患者の血清より捕集した糖タンパク質(AGPおよびM2BP)に対して抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ等による比較糖鎖プロファイリングを行う。まず、(ウイルス性)肝炎患者、慢性肝炎、肝硬変患者、及び肝細胞がん患者から血液試料を採取する。採取されたそれぞれの血液試料から、AGPおよびM2BPについて、抗体を用いた免疫沈降により濃縮精製し、抗体オーバーレイ・レクチンアレイを用いて、肝疾患病態の糖鎖マーカー糖タンパク質として使用できることを確認する。より具体的には、図7に示したように、肝炎ウイルス罹患患者血清を対象にAGPおよびM2BPについて比較糖鎖解析を行う。AGPおよびM2BPはそれぞれ抗AGP抗体および抗M2BP抗体を用いた免疫沈降法により簡易にエンリッチされる。レクチンマイクロアレイは高感度な比較糖鎖解析装置であり、100ナノグラム程度のタンパク質調製量で十分分析が可能であることから、上述の前処理はミニスケールで行うことが可能である。エンリッチされたAGPおよびM2BPは速やかにレクチンマイクロアレイに添加され、一定時間反応後、抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ法によりAGPおよびM2BPの糖鎖プロファイルを取得する。この際、レクチンアレイに添加するタンパク質量はタンパク質により異なるが、おおむねナノグラムから数十ナノグラム程度である。統計解析に耐えうるだけの検体数についてアレイ解析を行った後、そのデータセットを用いてStudent-T testなどの2群比較解析を実施する。それにより、客観的に病態変化によりシグナルに有意差を生じるレクチンを選抜することが可能になる。レクチンマイクロアレイとしては、たとえば、後に示す表2に記載のレクチンの一部または全部を含む複数のレクチンを固相化したレクチンマイクロアレイを用いることができ、更に具体的には、Kuno A., et al. Nat. Methods 2,851-856(2005).に記載のレクチンマイクロアレイまたはGPバイオサイエンス社製のLecChipを用いることができる。又抗体としては、表1に記載の抗体を用いることができる。
【表1】
【0028】
3−1.レクチンマイクロアレイ(単にレクチンアレイとも呼ぶ)
レクチンアレイは、複数種の特異性の異なる判別子(プローブ)レクチンを1つの基板上に並列に固定(アレイ化)したもので、分析対象となる複合糖質にどのレクチンがどれだけ相互作用したかを一斉に解析できるものである。レクチンアレイを用いることで、糖鎖構造推定に必要な情報が一度の分析で取得でき、かつ、サンプル調製からスキャンまでの操作工程は迅速かつ簡便にできる。質量分析などの糖鎖プロファイリングシステムでは、糖タンパク質をそのまま分析することはできず、あらかじめ糖ペプチドや遊離糖鎖の状態にまで処理をしなければならない。一方、レクチンマイクロアレイでは、例えば、コアタンパク質部分へ直接蛍光体を導入するだけで、そのまま分析できるという利点がある。レクチンマイクロアレイ技術は、本発明者等が開発したもので、その原理・基礎は、例えば、Kuno A., et al. Nat. Methods 2,851-856(2005).に記載されている。
【0029】
レクチンアレイに用いるレクチンとしては、次の表2に記載のものが挙げられる。
【表2】
【0030】
【0031】
例えば、45種類のレクチンを基盤に固定化したレクチンアレイ(GPバイオサイエンス社製のLecChip)が既に商用上入手可能である。
【0032】
3−2.レクチンアレイによる糖鎖プロファイルの統計解析
レクチンアレイは、現在では、精製標品だけでなく、血清や細胞ライセートなどの混合試料の定量比較糖鎖プロファイリングができる実用化技術にまで発展してきている。特に細胞表層糖鎖の比較糖鎖プロファイリングはその発展がめざましい(Ebe, Y. et al. J. Biochem. 139, 323-327(2006)、Pilobello, K.T. et al. Proc Natl Acad Sci USA.104,11534-11539(2007)、Tateno, H. et al. Glycobiology 17, 1138-1146(2007))。
【0033】
また、糖鎖プロファイルの統計解析によるデータマイニングについては、例えば、「Kuno A, et al. J Proteomics Bioinform. 1, 68-72(2008).」、あるいは、「日本糖質学会2008/8/18レクチンマイクロアレイ応用技術開発〜生体試料の比較糖鎖プロファイリングと統計解析〜久野敦、松田厚志、板倉陽子、松崎英樹、成松久、平林淳」および「Matsuda A, et al. Biochem Biophys Res Commun. 370, 259-263(2008).」に示される方法で行うことができる。
【0034】
3−3.抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ法
レクチンマイクロアレイのプラットフォームは基本的に上記の通りとし、検出に際しては上記被検体を直接蛍光などで標識するのではなく、抗体を介して間接的に蛍光基などを被検体に導入することで、一斉に多検体に対する分析を簡便、高速化することができる応用法である(「Kuno A, Kato Y, Matsuda A, Kaneko MK, Ito H, Amano K, Chiba Y, Narimatsu H, Hirabayashi J. Mol Cell Proteomics. 8, 99-108(2009)」、「平林淳、久野敦、内山昇「レクチンマイクロアレイを用いた糖鎖プロファイリング応用技術の開発」、実験医学増刊「分子レベルから迫る癌診断研究〜臨床応用への挑戦〜」、羊土社、Vol25(17)164-171(2007)」、久野敦、平林淳「レクチンマイクロアレイによる糖鎖プロファイリングシステムの糖鎖バイオマーカー探索への活用」、遺伝子医学MOOK11号「臨床糖鎖バイオマーカーの開発と糖鎖機能の解明」、pp.34-39、メディカルドゥ(2008)参照)。
【0035】
糖タンパク質(AGPおよびM2BP)が被検体であれば糖鎖部分はレクチンマイクロアレイ上のレクチンによって認識されるため、コアタンパク質部分に対する抗体(抗AGP抗体および抗M2BP抗体)をその上から被せる(オーバーレイ)ことによって、被検糖タンパク質を標識したり、あるいは高度に精製したりすることなく、特定的に感度高く検出することができる。
【0036】
3−4.レクチンオーバーレイ・抗体マイクロアレイ法
レクチンマイクロアレイの代わりにコアタンパク質に対する抗体をガラス基板などの基板上に並列に固定(アレイ化)した抗体マイクロアレイを用いる方法である。調べるマーカーに対するだけの数の抗体が必要である。糖鎖変化を検出するレクチンをあらかじめ確定することが必要である。
【0037】
4.肝疾患病態指標糖鎖マーカーの疾患特異的糖鎖変化を利用する肝疾患の検出方法
AGPおよびM2BPは、線維化の進展などの肝疾患の病態変化に伴い糖鎖構造が変化する新規肝疾患病態指標糖鎖マーカーである。このためAGPおよびM2BP糖鎖構造の変化に対応して反応性が変化するレクチン(以下、レクチン“A”と略す)と、被験者から採取した試料に含まれるマーカーとを反応させ、レクチンに反応したマーカーを測定することにより、肝疾患の病態を判別したり、肝の線維化の度合いを判定したりすることができる。
【0038】
例えば、新規肝疾患病態指標糖鎖マーカーの検出は、(1)(イ)上記レクチン“A”及び(ロ)上記マーカーの糖鎖以外の部分(コアタンパク質)を検出する抗体を用いて実施することができる。また(2)肝疾患病態指標糖鎖マーカーに対する特異的な抗体であって、糖鎖結合部分を含む個所ををエピトープとする抗体を用いて肝疾患病態指標糖鎖マーカーを検出することができる。
【0039】
例えば、マーカーのコアタンパク質に対する抗体及びレクチン“A”を用いて、マーカーを検出することにより、肝疾患患者を健常人と区別して検出することができ、好適には、レクチンアレイを用いる抗体オーバーレイ法(「Kuno A, Kato Y, Matsuda A, Kaneko MK, Ito H, Amano K, Chiba Y, Narimatsu H, Hirabayashi J. Mol Cell Proteomics. 8, 99-108(2009))を用いることができる。3の疾患特異的糖鎖変化の検証試験で1つないし2つ以上の最適なレクチン“A”が選抜されている場合、後述する第1または第2迅速測定方法を用いるのがより好適である。
【0040】
例えば、新規肝疾患病態指標糖鎖マーカーを用いる具体的な肝疾患の検出方法としては、
1)被験者から採取された試料中のレクチン“A”と特異的に反応する糖鎖を有する肝疾患病態指標糖鎖マーカーを測定する工程、
2)健常者から採取された試料中のレクチン“A”と特異的に反応する糖鎖を有する肝疾患病態指標糖鎖マーカーを測定する工程、
3)肝疾患患者から採取された試料中のレクチン“A”と特異的に反応する糖鎖を有する肝疾患病態指標糖鎖マーカーを測定する工程、
及び
4)被験者から得られた肝疾患病態指標糖鎖マーカーの測定結果と健常者又は肝疾患患者から得られた肝疾患病態指標糖鎖マーカーの測定結果を比較し、被験者の測定結果がより肝疾患患者の測定値に近い場合に肝疾患であると判別する工程を含む肝疾患の検出方法が挙げられる。
【0041】
また、多数の肝疾患患者および健常者の測定結果に基づいて、予め肝疾患を判別するための閾値を設定しておき、被験者の測定値を閾値と比較して被験者が肝疾患であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0042】
4−1.線維化の進展測定方法
肝炎ウイルス感染による肝炎の進展に於いて、線維化の程度は、肝機能低下及び肝細胞発がんのリスクと相関する事が知られている。したがって線維化の測定は、肝機能低下および発がんリスクを評価することを意味する。また肝炎患者の全体の4割程度は、インターフェロン治療に反応せずウイルス感染が持続する。これらの病態が活動性に進行するか否かは、線維化の進展で判断されるべきであると考えられている。これらの観点から、線維化の進展を測定する事は、肝炎の診断治療に於いて重要な意味を持つ。
【0043】
現在行なわれている線維化の評価は、生検標本に対する病理診断による。近年、ファイブロスキャンの導入されたことで、当該方法が普及する事が期待される。また線維化を血清学的に評価する方法として、Fibro Test、Forn`s index、Hepatoscoreなどが臨床的に使用されているが、生検診断に比べて感度と特異度のいずれも劣る。
【0044】
AGPおよびM2BPについて、線維化の進展度合いの異なる患者血清群を用いて、抗体オーバレイ・レクチンマイクロアレイにより線維化の進展度合いに相関してシグナル強度が増加もしくは減少するレクチンを選択する。この情報をもとに、マーカー候補分子に対する抗体および線維化の進展でシグナル変動するレクチン“A”を用いたサンドイッチ検出方法、たとえばレクチン―抗体サンドイッチELISAや抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ法が確立できる。病理診断により線維化のステージングがされている患者血清を100程度収集し、それらについて分析を行い、各ステージにおけるカットオフ値を設定することにより、被患者血清を用い、肝線維化の進展をモニタリングすることができる。
【0045】
また、レクチン“A”として、AGPについては、AOLおよびMALから選択される第1レクチンを挙げることができ、M2BPについては、WFA、BPL、AAL、RCA120およびTJAIIから選択される第2レクチンを挙げることができる。以下、AOLおよびMALから選択されるレクチンを第1レクチンと呼ぶことがあり、WFA、BPL、AAL、RCA120およびTJAIIから選択されるレクチンを第2レクチンと呼ぶことがある。
例えば、少なくとも第1レクチンが固定された第1レクチンアレイと、抗AGP抗体とを用いて、第1レクチンに結合するAGPを測定することができ、少なくとも第2レクチンが固定された第2レクチンアレイと、抗M2BP抗体とを用いて、第2レクチンに結合するM2BPを測定することができる。
【0046】
4−2.肝硬変の検出
肝硬変は、肝小葉構造の消失した再生結節とこれを取り囲む緻密な線維性結合組織が肝全体に瀰漫性に出現する病態と定義される。これは、肝細胞障害と線維化が持続する進行性慢性肝疾患の終末状態でもある。肝硬変における肝生検は成因診断を探るために行なわれるもので、早期の肝硬変や大結節型の肝硬変では診断困難な症例が多い(外科病理学第4版、文光堂より)。したがって、肝硬変を定性的、定量的に診断できる検査技術が必要とされている。この目的に対し、1)の線維化の進展測定方法、の項で見出された線維化の進展をモニタリングできる候補分子抗体およびレクチンセットのうち、線維化ステージF3とF4を見分けることができる場合、肝硬変検出に使用できる。
【0047】
4−3.試料中の新規肝疾患病態指標糖鎖マーカー上の疾患特異的糖鎖変化の検出
試料としては、生検試料、体液試料、好適には、血液(血清、血漿等)が挙げられる。
測定とは、定性的測定及び定量的測定の両者を包含する。
【0048】
肝疾患病態指標糖鎖マーカーの測定は、例えば、(1)レクチン“A”を固定したカラムやアレイ、及び(2)AGPまたはM2BPに対する抗体を用いて行なうことができる。好適には、抗体オーバーレイ・レクチンアレイ法、より好適には迅速第1または第2迅速測定方法を用いることができる。
【0049】
また、AGPまたはM2BPの濃度を計測することもでき、これには、レクチンアレイを用いた抗体オーバーレイ・レクチンアレイ法、免疫学的測定法、酵素活性測定法、キャピラリー電気泳動法等が挙げられる。好適には、抗体オーバーレイ・レクチンアレイにより統計学的に選抜された疾患特異的糖鎖変化を最も反映するレクチン“A”とAGPまたはM2BPに特異的なモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を用いた、酵素免疫測定法、2抗体サンドイッチELISA法、金コロイド法、放射免疫測定法、酵素化学発光免疫測定法、電気化学発光免疫測定法、ラテックス凝集免疫測定法、蛍光免疫測定法、ウェスタンブロッティング法、免疫組織化学法、表面プラズモン共鳴法(以下、SPR法と記す)等による定性的又は定量的手法を用いることができる。
【0050】
更に具体的には、準定量を、レクチン“A”及び抗新規疾患病態指標糖鎖マーカー抗体を用いるウエスタンブロッティング法により行なうこともできる。定性的測定において、前記「被験者の測定結果がより高い場合」とは、正常者より被験者の試料中に新規疾患病態指標糖鎖マーカーがより多く存在することが定性的に示された場合を意味する。更に、抗体を介さない糖鎖の直接測定法としてのレクチン法も含まれる。
【0051】
ここで、肝線維化進展に伴うAGPの糖鎖構造の変化に対応して反応性が変化するレクチン“A”としては、抗体オーバーレイ・レクチンアレイ後の統計解析により厳選されたAOL、MAL、又はAOLおよびMALの併用を挙げることができる。AOLは、肝線維化進展に伴いAGPの糖鎖に対する反応性が高くなるレクチン群の中で最も有意差を示すレクチンであり、MALは、肝線維化進展に伴いAGPの糖鎖に対する反応性が低くなるレクチン群の中で最も有意差を示すレクチンである。このためAOLに結合したAGPの測定値と、MALに結合したAGPの測定値の両方を用いると、より正確に被験者の肝疾患の病態を判別することができる。AOLに結合したAGPの測定値(AOL測定値)と、MALに結合したAGPの測定値(MAL測定値)の両者を用いる方法としては、周知の統計学的手法を採用することができるが、簡便には、AOL測定値とMAL測定値との差や比を用いることができる。なお、AOL測定値とMAL測定値との差や比を用いる場合には、両測定値のスケールを揃えることが好ましく、簡便には、両測定値のカットオフライン値の違いを求めてスケールを補正することができる。例えば、MALカットオフライン値とAOLカットオフライン値の比を用いて、AOL測定値およびMAL測定値の何れか一方を補正すれば良い。」AOLおよび/またはMALを用いて被験者から採取された試料に含まれるAGPを測定することにより、AGPを肝の線維化判別マーカー、肝硬変検出マーカーまたは肝細胞がん検出マーカーとして使用することができる。また、これらのレクチン“A”を用いて、インターフェロンなどの治療を行っている患者から採取された試料中のAGPを測定することにより治療効果のモニターを行うことが可能である。
【0052】
なお、AOLやMALに結合したAGPの測定値は、AGPの糖鎖構造の変化にかかわらず反応性が実質変化しないレクチンに結合したAGPの測定値を用いて規格化することが好ましい。このようなレクチンとしてはDSAが好ましい。また、被験者から採取した試料に含まれるAGPのコアタンパクの測定値を用いて、AOLやMALに結合したAGPの測定値の規格化を行っても良い。また、AOL測定値およびMAL測定値の両者を用いる方法においても、規格化されたAOL測定値および規格化されたMAL測定値を用いることが好ましい。例えば、上記第1レクチンアレイおよび第2レクチンアレイとして、それぞれにさらにDSAが固定されてものを用いて、DSAに結合するAGPを測定し、第1レクチンに結合したAGPの測定値をDSAに結合したAGPの測定値で規格化し、DSAに結合するM2BPを測定し、第2レクチンに結合したM2BPの測定値をDSAに結合したM2BPの測定値で規格化して、AGP及び/又はM2BPの測定を行うことができる。 肝の病態変化に伴うM2BPの糖鎖構造の変化に対応して反応性が変化するレクチン“A”としては、抗体オーバーレイレクチンアレイ後の統計解析により厳選されたWFA、BPL、AAL、RCA120、および/またはTJAIIを挙げることができる。WFA、BPL、AAL、RCA120、およびTJAIIはいずれも肝疾患の病態が進行するに従ってM2BPの糖鎖に対する反応性が高くなるレクチンである。WFA、BPLおよびTJAIIは、肝細胞がん患者、特に術後がん再発症例のM2BPとの反応性が強く、WFA、BPLおよび/またはTJAIIを用いて被験者から採取された試料に含まれるM2BPを測定することにより、M2BPを肝細胞がん高リスク群患者囲い込みマーカーとして使用することができる。また、AALおよび/またはRCA120を用いて被験者から採取された試料に含まれるM2BPを測定することにより、M2BPを肝の線維化判別マーカー、肝硬変検出マーカーまたは肝細胞がん検出マーカーとして使用することができる。また、肝細胞がんを摘出後の患者に対して、定期的にWFAを用いて、患者から採取された試料中のM2BPを測定することにより再発リスクの予測を行うことが可能である。なお、血清中に含まれる糖タンパク質でWFAに結合できる分子が非常に少ないため、測定試料として血清を直接使用することが可能となるため、WFAは測定系を構築する際の自由度が大きく好ましい。
【0053】
なお、WFA、BPL、AAL、RCA120またはTAJIIに結合したM2BPの測定値は、M2BPの糖鎖構造の変化にかかわらず反応性が実質変化しないレクチンに結合したM2BPの測定値を用いて規格化することが好ましい。このようなレクチンとしてはDSAが好ましい。また、被験者から採取した試料に含まれるM2BPのコアタンパクの測定値を用いて、WFA、BPL、AAL、RCA120またはTAJIIに結合したM2BPの測定値の規格化を行っても良い。
【0054】
AOL、MAL、又はDSAに結合したAGPの測定、およびWFA、BPL、AAL、RCA120、又はTAJIIに結合したM2BPの測定は、抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ法によって行うことが好ましい。特に、抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ法は、複数種のレクチンに結合したAGPまたはM2BPを同時に測定することができる。
また、レクチン“A”を用いてAGPやM2BPなどのマーカーを迅速に測定する場合には、下記の第1又は第2迅速測定方法で測定することが好ましい。
【0055】
第1迅速測定方法としては、レクチン“A”にビオチンを結合したビオチン化レクチン“A”と試料を混合し、そこにストレプトアビジンが固定された磁性粒子を添加して、磁性粒子−レクチン“A”−AGPの複合体を形成し、その複合体に標識抗AGP抗体を反応させて、磁性粒子−レクチン“A”−AGP−標識抗AGP抗体の第2複合体を形成し、第2複合体の標識量を測定することにより上記レクチン“A”に反応するAGPを定量する方法が挙げられる。なお、M2BPを測定する場合は、標識抗M2BP抗体を用いる以外は上記のAGPの測定方法と同様に実施できる。第1迅速測定方法では、試料中のAGPやM2BPの定量を60分程度で行うことが可能である。ビオチン化レクチン“A”とストレプトアビジン固定化磁性粒子を使用すると、試料中のAGPやM2BPに対するレクチン“A”の反応性が向上して、AGPやM2BPとレクチン“A”の反応時間を約30分程度に短縮できる。
【0056】
さらに、第2迅速測定方法としては、レクチン“A”を固定化した磁性粒子と試料を混合して試料中のAGPの糖鎖をレクチン“A”で捕捉し、磁性粒子に捕捉されたAGPに標識抗AGP抗体を反応させて、磁性粒子−レクチン“A”−AGP−標識抗AGP抗体の複合体を形成し、複合体の標識量を測定することにより上記レクチン“A”に反応するAGPを定量する方法が挙げられる。第2迅速測定方法においてもM2BPを測定する場合には、標識抗M2BP抗体を用いる以外は上記のAGPの測定方法と同様に実施できる。第2迅速測定方法では、試料中のAGPやM2BPの定量を20分程度で行うことが可能である。これはレクチン“A”固定化磁性粒子を使用すると、試料中のAGPやM2BPに対するレクチン“A”の反応性が著しく向上して、AGPやM2BPとレクチン“A”の反応時間を約5分程度まで短縮できる。
【0057】
第1及び第2迅速測定方法は、自動化に適しており、特に第2迅速測定方法は全自動測定装置で好適に実施可能である。第2迅速測定方法を自動化することにより、多検体の連続測定を容易に行うことができる。また、自動化により一つの検体に対する多項目測定(異なるレクチンを用いた測定)を短時間に実行することができる。
【0058】
標識抗AGP抗体や標識抗M2BP抗体の標識としては、蛍光物質や酵素が使用可能である。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、グリーン蛍光タンパク質(GFP)、ルシフェリンなどが挙げられる。酵素としては、例えば、アルカリホスファターゼ(ALP)、ペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼなどが挙げられる。酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、公知の発光基質、発色基質などを用いることができ、例えばCDP−star(登録商標)(4−クロロ−3−(メトキシスピロ{1,2−ジオキセタン−3,2'−(5'−クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}−4−イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3−(4−メトキシスピロ{1,2−ジオキセタン−3,2−(5'−クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}−4−イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質、p−ニトロフェニルホスフェート、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−リン酸(BCIP)、4−ニトロブルーテトラゾリウムクロリド(NBT)、ヨードニトロテトラゾリウム(INT)などの発色基質が挙げられる。また、抗体をビオチン標識し、ストレプトアビジンが結合した上記蛍光物質や上記酵素をビオチン−アビジン結合を介して抗体に結合させてもよい。
【0059】
血液試料中に含まれる、肝臓の線維化により糖鎖構造が変化したAGPやM2BP量は微量であるため、高感度と標識検出の迅速化の観点から標識として酵素を使用し、発光基質を使用することが好ましい。
【0060】
なお、ALPなどの酵素は糖鎖を持っている。その糖鎖とレクチンの非特異反応を防止するために、脱グリコシル化処理された酵素を用いることが好ましい。このような処理を施した酵素としては、例えば、Recombinant AP,EIA Drade,CR 03535452(Roche Diagnostics社製)のように脱グリコシル化処理されたALPを使用することができる。
【0061】
また、抗AGP抗体や抗M2BP抗体についても糖鎖を持っている。その糖鎖とレクチンの非特異反応を防止するために、脱グリコシル化した抗体を使用することが好ましい。例えば、ペプシン消化及び還元を行うことでFab’に転換した抗AGP抗体や抗M2BP抗体を使用することが好ましい。
【0062】
標識抗体試薬の作製は、公知の方法に従い、抗AGP抗体または抗M2BP抗体と、EMCS[N−(6−Maleimidocaproyloxy)succinimido](同仁化学)のような架橋剤を用いてマレイミド化した標識を混合して、反応させることで標識抗体を調製することができる。例えば、脱グルコシル化処理されたALPを、架橋剤を用いてマレイミド化し、Fab’に転換した抗AGP抗体または抗M2BP抗体と反応させて調製したものを用いることが非特異反応防止の観点から好ましい。
【0063】
5.新規肝疾患病態指標糖鎖マーカーを用いた新規の特異的ポリクローナル抗体及び/又はモノクローナル抗体
新規肝疾患病態指標糖鎖マーカーを利用する肝細胞がんの検出方法において、肝疾患病態指標糖鎖マーカー特異的ポリクローナル抗体及び/又はモノクローナル抗体が容易に入手できる場合は、それらを用いることができるが、容易に入手できない場合は、例えば、以下のように調製できる。
【0064】
5−1.抗体の調製
本願発明の新規肝疾患病態指標糖鎖マーカーは、肝疾患検出用のポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の調製に用いることができる。
【0065】
例えば、新規肝疾患病態指標糖鎖マーカーに対する抗体は、周知の方法で、調製出来る。フロインドの完全アジュバントを同時投与して抗体の生成をブーストすることもできる。また、Xの糖鎖が結合している結合位置を含むペプチドを合成し、このペプチドを市販キーホール・リンペット・ヘモシアニン(keyhole limpet hemocyanin、KLH)に共有結合させ、動物に投与する。なお、このとき顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte-macrophage colony stimulating factor, GM-CSF)を同時に投与して抗体産生をブーストすることもできる。
【0066】
また、例えば、抗新規肝疾患病態指標糖鎖マーカーモノクローナル抗体は、ケラーとミルシュタインの方法で調製することができる(Nature Vol.256,pp495-497 (1975))。例えば、抗原で免疫した動物から得られる抗体産生細胞と、ミエローマ細胞との細胞融合によりハイブリドーマを調製し、得られるハイブリドーマから抗X抗体を産生するクローンを選択することにより調製することができる。
【0067】
具体的には、得られた抗原用の肝疾患病態指標糖鎖マーカーにアジュバントを添加する。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント、フロイントの不完全アジュバント等が挙げられ、これらの何れのものを混合してもよい。
【0068】
上記のようにして得られた抗原を哺乳動物、例えばマウス、ラット、ウマ、サル、ウサギ、ヤギ、ヒツジなどの哺乳動物に投与する。免疫は、既存の方法であれば何れの方法をも用いることができるが、主として静脈内注射、皮下注射、腹腔内注射などにより行う。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔で、好ましくは4〜21日間隔で免疫する。
【0069】
最終の免疫日から2〜3日後に抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞が挙げられる。
【0070】
抗体産生細胞と融合させるミエローマ(骨髄腫)細胞として、マウス、ラット、ヒトなど種々の動物に由来し、当業者が一般に入手可能な株化細胞を使用する。使用する細胞株としては、薬剤抵抗性を有し、未融合の状態では選択培地(例えばHAT培地)で生存できず、融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが用いられる。一般的に8-アザグアニン耐性株が用いられ、この細胞株は、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼを欠損し、ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン(HAT)培地に生育できないものである。
【0071】
ミエローマ細胞は、既に公知の種々の細胞株、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J. Immunol. 123, 1548-1550 1979))、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology 81, 1-7 (1978))、NS-1(Kohler, G. and Milstein, C., Eur. J. Immunol. 6,511-519(1976))、MPC-11 (Margulies, D.H. et al., Cell 8,405-415(1976))、SP2/0(Shulman, M. et al., Nature 276,269-270(1978)) 、FO(de St.Groth, S.F. et al., J. Immunol. Methods 35, 1-21(1980))、S194(Trowbridge, I.S., J. Exp. Med. 148, 313-323(1978))、R210(Galfre, G. et al.,Nature 277, 131-133(1979))等が好適に使用される。
【0072】
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、MEM、DMEM、RPME-1640培地などの動物細胞培養用培地中で、ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを、混合比1:1〜1:10で融合促進剤の存在下、30〜37℃で1〜15分間接触させることによって行われる。細胞融合を促進させるためには、平均分子量1,000〜6,000のポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール又はセンダイウイルスなどの融合促進剤や融合ウイルスを使用することができる。また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
【0073】
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、選択培地における細胞の選択的増殖を利用する方法等が挙げられる。すなわち、細胞懸濁液を適切な培地で希釈後、マイクロタイタープレート上にまき、各ウェルに選択培地(HAT培地など)を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0074】
ハイブリドーマのスクリーニングは、限界希釈法、蛍光励起セルソーター法等により行い、最終的にモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを取得する。取得したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法としては、通常の細胞培養法や腹水形成法等が挙げられる。
【0075】
また、本願発明で言う抗体には、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよく、1本鎖Fvs(scFv)、1本鎖抗体、Fab断片、F(ab')断片、ジスルフィド連結Fvs(sdFv)なども含まれる。更に、第1又は第2の迅速測定法に限らず、本願発明で用いる抗体としては、糖鎖とレクチンの非特異反応を防止するために、脱グリコシル化した抗体を使用することが好ましい。例えば、ペプシン消化及び還元を行うことでFab’に転換した抗AGP抗体や抗M2BP抗体を使用することができる。
【実施例】
【0076】
[実施例1] 肝疾患病態指標糖鎖マーカー糖タンパク質の肝疾患検出への利用
肝疾患病態指標糖鎖マーカー糖タンパク質であるAGP、およびMac2BP(M2BP)について、抗体オーバーレイ・レクチンアレイを活用して肝疾患の検出を実施した例を以下に示す。なお、本手法による(ウイルス性)肝炎患者(CH)、肝硬変患者(LC)、肝細胞がん患者(HCC)、および健常者(HV)血清に由来する該マーカー糖タンパク質上糖鎖の比較解析の手順を図7に示す。
【0077】
1.マーカータンパク質の血清からのエンリッチ
(ウイルス性)肝炎患者(CH)、肝硬変患者(LC)、肝細胞がん患者(HCC)、および健常者(HV)血清に由来する該マーカー糖タンパク質のエンリッチは、「Kuno A, Kato Y, Matsuda A, Kaneko MK, Ito H, Amano K, Chiba Y, Narimatsu H, Hirabayashi J.Mol Cell Proteomics. 8, 99-108 (2009) 」に従って行われた。なお、得られる結果が病態に依存していることを明らかにするため、各病態につき5例ずつを分析に用いることにした。各患者血清を0.2%SDS含有PBS緩衝液で10倍希釈し、10分間95℃で加熱処理したものを、AGPにおいては5μL、Mac2BPにおいては20μL反応チューブに分注し、そこへ500 ngの各抗原に対する抗体(ビオチン化物)を添加した。各反応溶液は反応バッファー(1%Triton X-100入りTris-buffered saline (TBSTx))により、45μLに調整された後、4℃で2時間振盪反応された。抗原抗体反応後、速やかにストレプトアビジン固定化磁気ビーズ溶液(Dynabeads MyOne Streptavidin T1, DYNAL Biotech ASA製)をあらかじめ反応バッファーで3回洗浄し、かつ2倍濃縮状態で調整したもの5μL(元のビーズ溶液10μL分に相当)を上記反応溶液へ加え、1時間さらに反応した。この反応により、ビオチン化抗体を介して、該糖タンパク質は磁気ビーズと複合体を形成する。この複合体を磁気ビーズ回収用マグネットに吸着させた後に溶液を廃棄した。回収された複合体は500μLの反応バッファーにより3回洗浄された後に、10μLの溶出バッファー(0.2%SDS含有TBS)に懸濁された。この懸濁溶液を95℃で5分間熱処理することで、該糖タンパク質を磁気ビーズから解離溶出し、得られた溶液を溶出液とした。その際、熱変性されたビオチン抗体も混入するため、溶出液に上述の手法で2倍濃縮状態で調整された磁気ビーズ溶液を10μL(元のビーズ溶液20μl分に相当)加え、1時間反応することで、ビオチン化抗体を吸着除去した。これにより得られた溶液を血清由来該糖タンパク質溶液とし、以降の実験に用いた。
【0078】
2.抗体オーバーレイ・レクチンアレイ
上述により得られた該糖タンパク質溶液適当量とり、レクチンアレイ反応バッファーである1%Triton X-100含有Phosphate-buffered saline (PBSTx)により、60μLに調整した。この溶液をレクチンマイクロアレイの各反応槽(ガラス1枚当たり8つの反応槽が形成されている)へ添加し、20℃で10時間以上反応した。この8つの反応槽からなるレクチンマイクロアレイ基盤の作製は内山ら(Proteomics 8, 3042-3050 (2008))の手法に従った。これにより該糖タンパク質上の糖鎖とアレイ基板上に固定されている43種のレクチンとの結合反応が平衡状態に達する。その後、未反応の基盤上レクチンへ検出用抗体上の糖鎖が結合し、ノイズとして生じてしまうことを避けるため、ヒト血清由来IgG溶液(シグマ社製)を2μL加え、30分反応させた。60μLのPBSTxで各反応槽を3回洗浄した後、再度ヒト血清由来IgG溶液を2μL加え、若干攪拌した後に、検出用の該糖タンパク質に対する抗体(ビオチン化物)を100 ng相当加え、20℃で1時間反応させた。抗原抗体反応後、60μLのPBSTxで各反応槽を3回洗浄し、次いでCy3標識ストレプトアビジン200 ng相当が含有しているPBSTx溶液を加え、さらに30分、20℃で反応した。反応後、60μLのPBSTxで各反応槽を3回洗浄した後、モリテックス社製アレイスキャナーGlycoStationによりアレイスキャンを行った。
【0079】
得られた結果のうち、各病態の典型例をAGPは図8に、Mac2BPは図9ににそれぞれ示す。図8は肝疾患病態指標マーカー糖タンパク質の一つであるα1酸性糖タンパク質(AGP)について、抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイにより比較糖鎖解析を行った結果を示す図である。レクチンマイクロアレイ上のレクチン配置を上段左図に示す。本実験により有意なシグナルが得られたレクチンを太字で示す。15種のレクチンにおいてシグナルが得られた。肝細胞がん、肝硬変、および慢性肝炎患者血清、および健常者血清由来AGPの典型的なスキャンイメージを上段右図に示す。スキャンデータよりアレイ解析ソフトを用い各シグナルを数値化し、15種のレクチンについてグラフで表したものを下段に示す。明らかに肝細胞がん、肝硬変群と肝炎、健常者群の間にシグナルパターンに差が生じているのが分かる。図9は、肝疾患病態指標マーカー糖タンパク質の一つである90K/Mac-2 Binding Protein(M2BP)について、抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイにより比較糖鎖解析を行った結果である。レクチンマイクロアレイ上のレクチン配置を上段左図に示す。本実験により有意なシグナルが得られたレクチンを太字で示す。17種のレクチンにおいてシグナルが得られた。肝細胞がん、肝硬変、および慢性肝炎患者血清、および健常者血清由来M2BPの典型的なスキャンイメージを上段右図に示す。スキャンデータよりアレイ解析ソフトを用い各シグナルを数値化し、17種のレクチンについてグラフで表したものを下段に示す。病態の重篤度に応じてシグナル強度に変化(増加もしくは減少)が生じているのが分かる。
【0080】
[実施例2] 肝疾患病態指標糖鎖マーカー糖タンパク質AGPの抗体オーバーレイ・レクチンアレイ解析による肝線維化進展の判別
実施例1の通り、糖タンパク質の抗体オーバーレイ・レクチンアレイ解析により得られたレクチンシグナル情報から、統計解析により取捨選択し最適なものを用いることで、各肝疾患病態を検出できる可能性が見出された。
そこでAGPを標的分子とし、以下の手順で実験を実施した。
【0081】
1.肝硬変と肝炎を区別するレクチンの絞り込み
線維化進展に伴いシグナル変動を示すレクチン群を絞り込むため、まず臨床診断済み患者HCC, LC, CH各10症例の血清を用い、AGPの抗体オーバーレイ・レクチンアレイ解析を実施した。より客観的な絞り込みを行うため、HCC-LCおよびLC-CH間でStudent T検定を行い、危険度が0.1%以下の値を示すレクチンを有用レクチンとした。その結果を表3に示す。先の実験結果(図8)からわかるように、AGPのアレイ解析により、15種のレクチンにおいてシグナルが得られているが、そのうちStudent T検定により危険度が0.1%以下の有意差を示すレクチンはLEL, AOL, AAL, MAL, STL,およびPHAEの6種であった。また、本実験により、最もシグナル変動せず再現性高い結果を取得できたレクチンDSAについては、取得されたデータの規格化に有効性を見出し、以降スキャン後、数値化されたデータはすべてDSAシグナルにより規格化することとした。
【表3】
【0082】
2.線維化進展を判別するレクチンの絞り込み
つぎに、肝炎ウイルスに罹患し、肝生検により病理診断され線維化のステージングがなされている患者群125症例を対象に、抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイを実施例1の手順に従い行った。なお、125症例の肝臓線維化ステージの内訳は、F0およびF1が33症例、F2が32症例、F3が31症例、F4が29症例である。上述の手順に従い、統計学的に判別に有用なレクチンの絞り込みを行った。その結果、上位6種レクチンの結果を表4に示す。先に得られた6つレクチンが上位を占め、その中でもLEL, AOL, MALが最も判別に有効なものとして選抜されたため、この3種についてより詳細なデータ解析を行った。
【表4】
【0083】
図10は、肝臓の線維化進展とAGPの抗体オーバーレイ・レクチンアレイ解析により得られたレクチンシグナル強度の変化との相関を示す図である。各シグナルはDSAレクチンのシグナルにより規格化されており、数値はDSAシグナルを100%とした時の相対シグナル強度としてあらわされている。図10の上段のAにおいては、肝生検後の病理解析により線維化のステージング(F)がされている125症例についてレクチンアレイ解析を行い、各ステージのレクチンシグナルの分布を箱ひげ図により示している。箱の上端および下端はそれぞれ75%点、25%点を示し、ひげの上端および下端はそれぞれ95%点、5%点を示す。箱中の横線は中央値を示し、×は平均値を示す。肝硬変(F4)と慢性肝炎の各ステージ群(F0, 1, 2および3)の有意差を検定するためにStudent-T 検定を行い、その危険度がP<0.0001のものに*を付記した。また対照として一般的生化学検査で肝臓の線維化の指標として用いられている血小板の数値の分布も同様に記す。その結果AOLのシグナルは、線維化の進展に伴い強度を増し、強度差で慢性肝炎(F0-3)と肝硬変(F4)を十分見分けることができることが分かった。それに対し、MALおよびLELシグナルは線維化の進展に伴い強度が減少していることが分かった。
【0084】
AOL、MALおよびLELのシグナル変動を同一患者で経時的に測定した結果を図10の下段B に示す。図10の下段Bにおいては、肝硬変患者、および肝細胞がん患者それぞれ1症例のシリーズ検体(採取時期の異なる血清)中のAGPについて抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ解析を行い、DSAシグナルによる規格化後のAOL, MAL, LELの相対シグナル値をプロットしている。時間軸は肝硬変および肝細胞がんと確定診断された日を0としている。AOLシグナルは経時的に増加し、MALのシグナルは減少しており、これが肝線維化進展を反映させている。それに対し、LELシグナルや簡易線維化マーカーとして用いられている血小板数は、ある特定の時期に急激な変動を示しており、線維化の進展をクリアーに表現するものではなかった。
【0085】
以上の結果より、AOLおよびMALのシグナル変動を単独もしくは組み合わせることで、肝臓の線維化の進展判別が可能となることが分かった。
【0086】
[実施例3] 肝疾患病態指標糖鎖マーカー糖タンパク質AGPの抗体オーバーレイ・レクチンアレイ解析による肝硬変の検出
実施例2の結果から、肝線維化の進展を基準として各レクチンシグナル単独もしくは組み合わせのカットオフ値を設定することで、肝硬変の検出が可能となると考え、以下の手順で実験を実施した。
【0087】
1.肝硬変を検出するためのレクチンシグナル・カットオフ値の設定
まず、肝炎ウイルス罹患者の中から肝硬変発症患者を検出するための、各レクチンのカットオフ値を設定することにした。このために病理診断済み患者80症例分(F1, F2, F3, F4各20症例)を対象に、実施例2で絞り込まれた2種レクチンのシグナルをDSAレクチンシグナルで規格化したデータを用い、他(F1-F3)からF4(肝硬変)を区別するReceiver operating characteristic curve (ROC曲線)を作成した。その結果を図11左に示す。図11には、AOL, MALシグナルを単独に用いた場合の曲線のほかに、2つのシグナルを用いた数式(AOLの相対シグナル強度)X 1.5 -(MALの相対シグナル強度)から得られる数値による曲線も示す。曲線の下部領域の面積を示すAUC(area under curve)値を求め、各手法の診断力を査定する。また感度100%、特異度100%点から最も近い距離にある曲線上の点、言い換えるとY=Xの直線に平行な線と、ROC曲線との接点を、「最適な特異度および感度」とし、その周辺にカットオフ値を設定した。それらの数値を図11の右表に記す。得られたカットオフ値を用い、病理学的診断又は画像・臨床診断 により肝炎および肝硬変と確定された患者、45症例および43症例を対象にブラインドテストを実施した。その結果を図11の右表のValidation setの項に記す。肝硬変を陽性、肝炎を陰性とし、それぞれの検出数を列挙した。ROC曲線より、最良の感度(Sensitivity)および特異度(Specificity)を示す点におけるカットオフ値を決定したところ、AOLは8%、MALは11.8%であった。また、コンビネーションの系が最も偽陰性、偽陽性患者数が少なく、正診率(%)((総患者数―偽陽性、偽陰性患者数)/(総患者数)X100)が高くなった。
【0088】
2.肝硬変の検出
臨床診断済み慢性肝炎患者45症例および肝硬変患者43症例について、実施例2の手順に従い、AGPを標的分子とした抗体オーバーレイ・レクチンアレイを実施した。シグナルはすべてDSAレクチンのシグナルを100%とし、規格化した。その数値を上述したカットオフ値を利用し、陽性、陰性の判別をすることにより、肝硬変検出検定を試みた。その結果、AOLシグナルを用いた場合、検出力として感度86.1%、特異度91.1%、正診率88.6%となり、MALシグナルを用いた場合、検出力として感度90.7%、特異度88.9%、正診率89.8%となった。いずれもかなり高度な検出が可能でり、正診率が85%を超えていた。さらに、2つのシグナルをコンビネーションした式((AOLの相対シグナル強度)X 1.5 -(MALの相対シグナル強度))を用いて検出力を調べてみたところ、感度95.4%、特異度91.1%、正診率は93.2%という最も確度の高い肝硬変検出結果が得られた。特筆すべきことは、これまで公知となっているAALレクチンやRCAレクチンを用いたAGPの疾患特異的糖鎖変化を検出する手法と比較して圧倒的に検出力が高い点である。このような結果は、今回の抗体オーバーレイ・レクチンアレイによる絞り込みの工程で、AALやRCA120がAOL, MALに比べ劣っていたことと一致する(表3,4を参照)。
【0089】
[実施例4] 肝臓の線維化進展をモニタリングできるマーカーを用いたインターフェロンの治療効果判定
実施例2の結果により、AOLおよびMALのシグナル変動の観察により、線維化の進展をモニタリングすることができることが分かった。そこで、AOL/DSAやMAL/DSAを線維化進展パラメーターとして用い、抗ウイルス剤であるインターフェロンの治療効果を判定できるかを試みた。C型肝炎患者でインターフェロンの治療効果が認められた持続性ウイルス陰性化(SVR)例群と、治療効果が認められなかったウイルス学的不応(NVR)例群について以下の実験を行った。インターフェロン治療後、経時的に血液採取された患者の血清を対象に実施例1と同様の手法で血清中AGPのエンリッチおよび抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ解析を行い、DSAシグナルによる規格化後のAOL, MALの相対シグナル値を算出した。その典型例それぞれ2症例分の各シグナルの経時的変化を図12に示す。時間軸は治療直後の採血日を0とし、相対結合シグナルは治療直後の相対値を0としている。SVR症例ではMALシグナルは経時的に増加したが、AOLのシグナルは減少もしくはシグナル検出できなかった。すなわち、これら症例は線維化が緩和されている傾向にあった。それに対しNVR症例では、AOLシグナルは経時的に増加し、MALのシグナルはほぼ変化がなかった。すなわちこれら症例の線維化は緩和されず、むしろ悪化している(線維化が進展している)傾向が観察された。以上により、インターフェロン治療後の効果判定を血液検査で行うことが可能であることがわかった。
【0090】
[実施例5]
1.第1迅速測定方法(マニュアル法)
1−1.試薬の調製
R1試薬の調製:緩衝液A(PBS−1%TritonX、pH7.4)中に5μg/mLのビオチン化DSA(J−オイルミルズ社製)を添加してR1試薬1を調製した。緩衝液A中に5μg/mLのビオチン化MAL(Vector社製)を添加してR1試薬2を調製した。緩衝液A中に2.5μg/mLのビオチン化AOLを添加してR1試薬3を調製した。なお、ビオチン化AOLは、ビオチン標識キット(DOJIDO社製)を用いて、AOL(東京化成社製)をビオチン化したものを使用した。
【0091】
R2試薬の調製:緩衝液A中にストレプトアビジンが固定された磁性粒子(個数平均粒径2μm)を0.5w/v%となるように添加してR2試薬を調製した。
【0092】
R3試薬の調製:0.025U/mLのALP標識マウス抗AGPモノクローナル抗体、0.1MのMES(2−(N−Morpholino)ethanesulfonic acid、pH6.5)、0.15Mの塩化ナトリウム、1mMの塩化マグネシウム、0.1mMの塩化亜鉛、0.1w/v%のNaN3および0.5w/v%のカゼインNa含む溶液を調製しR3試薬1とした。0.025U/mLのALP標識マウス抗AGPモノクローナル抗体に代えて0.5U/mLのALP標識マウス抗AGPモノクローナル抗体を用いる以外はR3試薬1と同様にしてR3試薬2を調製した。
【0093】
R4試薬の調製:0.1Mの2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP、pH9.6)、1mMの塩化マグネシウムおよび0.1w/v%のNaN3を含む溶液を調製しR4試薬とした。
【0094】
R5試薬の調製:CDP−Star with Sapphirine−II(ALPの発光基質、アプライドバイオシステムズ社製)をR5試薬とした。
【0095】
洗浄試薬の調製:20mMのトリス(pH7.4)、0.1w/v%のTween20、0.1w/v%のNaN3および0.8w/v%の塩化ナトリウムを含む溶液を調製し洗浄試薬とした。
【0096】
1−2.DSAの希釈直線性の確認
コンセーラ(正常ヒト血清、日水製薬社製)中のAGPを、実施例1のエンリッチと同様にして、抗AGP抗体を用いて緩衝液B(TBS−0.5%TritonX−0.1%SDS)に回収し試料とした。回収した試料を緩衝液Bで1倍、1/2倍、1/4倍、1/8倍、1/16倍にそれぞれ希釈した希釈試料を調製した。
【0097】
各希釈試料30μLについて、110μLのR1試薬1を添加し室温で2分間反応後、30μLのR2試薬を添加し室温で30分間反応させた。DSAとAGPの複合体を担持した磁性粒子を集磁してB/F分離を行った後、洗浄試薬で分離された磁性粒子を洗浄し溶液を廃棄する処理を4回行った。洗浄された磁性粒子に100μLのR3試薬1を添加し室温で20分間反応を行い、磁性粒子に担持された複合体中のAGPとALP標識マウス抗AGPモノクローナル抗体を反応させた。ALP標識マウス抗AGPモノクローナル抗体とAGPとDSAの複合体を担持した磁性粒子を集磁した状態で液体成分を除去(B/F分離)した後、洗浄試薬で分離された磁性粒子を洗浄し溶液を廃棄する処理を4回行った。複合体担持磁性粒子を50μLのR4試薬に分散させ100μLのR5試薬を添加し、発光測定装置を用いてALPによる化学発光強度をphoto count値として測定した。結果を図13に示す。図13に示されるようにDSA測定系についてはR2=0.99と良好な直線性を示した。
【0098】
1−3.MALの希釈直線性の確認
「DSAの希釈直線性の確認」において、R1試薬1に代えてR1試薬2を使用し、R3試薬1に代えてR3試薬2を使用すること以外は同様にして、MAL測定系における希釈直線性の確認実験を行い、結果を図14に示した。図14に示されるようにMAL測定系についてはR2=0.99と良好な直線性を示した。
【0099】
1−4.AOLの希釈直線性の確認
「DSAの希釈直線性の確認」において、コンセーラに代えてHCV陽性血漿2(Millenium Biotech社製)を使用し、R1試薬1に代えてR1試薬3を使用すること以外は同様にして、AOL測定系における希釈直線性の確認実験を行い、結果を図3に示した。図15に示されるようにAOL測定系についてはR2=0.98と良好な直線性を示した。
【0100】
1−5.各種市販検体に対するDSA、MALおよびAOL測定
コンセーラ(正常ヒト血清、日水製薬社製)、正常ヒト血清(TRINA社製)、HCV陽性血漿1および2(Millenium Biotech社製)のそれぞれについて、実施例1のエンリッチと同様にして、抗AGP抗体を用いてAGPを分離し、緩衝液(TBS−0.5%TritonX−0.1%SDS)に回収し測定試料とした。また、緩衝液のみをブランク測定試料(NC)とした。
【0101】
各測定試料30μLについて、110μLのR1試薬1を添加し室温で2分間反応後、30μLのR2試薬を添加し室温で30分間反応させた。DSAとAGPの複合体を担持した磁性粒子を集磁してB/F分離を行った後、洗浄試薬で分離された磁性粒子を洗浄し溶液を廃棄する処理を4回行った。洗浄された磁性粒子に100μLのR3試薬1を添加し室温で20分間反応を行い、磁性粒子に担持された複合体中のAGPとALP標識マウス抗AGPモノクローナル抗体を反応させた。ALP標識マウス抗AGPモノクローナル抗体とAGPとDSAの複合体を担持した磁性粒子を集磁してB/F分離を行った後、洗浄試薬で分離された磁性粒子を洗浄し溶液を廃棄する処理を4回行った。複合体担持磁性粒子を50μLのR4試薬に分散させ100μLのR5試薬を添加し、発光測定装置を用いてDSA測定系における化学発光強度をphoto count値として測定した。測定に要した時間は65分であった。測定結果を表5に示す。
【0102】
また、DSA測定系において、R1試薬1に代えてR1試薬2を使用し、R3試薬1に代えてR3試薬3を使用すること以外は同様にしてMAL測定系における化学発光を測定し、結果を表5に示した。また、DSA測定系において、R1試薬1をR1試薬3に代えること以外は同様にしてAOL測定系における化学発光を測定し、結果を表5に示した。また、MALおよびAOLによる測定結果をDSAによる測定結果で規格化した値を表5に示すと共に図16および図17に示した。
【表5】
【0103】
1−6.各種市販検体に対するレクチンアレイ法による測定
上記1−5の各測定試料について、実施例1で用いたレクチンアレイを用いて、抗体オーバーレイ法による測定を行った。レクチンアレイ法による測定時間は約18時間であった。結果を表6に示すと共に図18及び図19に示した。
【表6】
【0104】
DSAで規格化したMALの測定結果について、図16に示した本実施形態の第1測定法による測定結果が、図18に示したレクチンアレイ法による測定結果と良好な相関を示すことがわかった。また、DSAで規格化したAOLの測定結果について、図17に示した第1迅速測定法による測定結果が、図19に示したレクチンアレイ法による測定結果と同様のパターンを示し、良好な相関を示すことがわかった。
【0105】
2.第2迅速測定方法(自動測定法)
2−1.試薬の調製
R1試薬の調製:緩衝液A(PBS−1%TritonX、pH7.4)をR1試薬とした。
【0106】
R2試薬の調製:緩衝液A中にストレプトアビジンが固定された磁性粒子(個数平均粒径2μm)を0.5w/v%となるように添加し、さらに2.5μg/mLのビオチン化DSA(J−オイルミルズ社製)を添加して室温で30分撹拌した。撹拌後集磁して磁性粒子を沈降させて溶液成分を廃棄した。ここに緩衝液Aを添加して撹拌後、集磁して磁性粒子を沈降させて溶液成分を廃棄する操作を3回繰返し行った。これに磁性粒子濃度が0.5w/v%になるように緩衝液Aを添加してDSAを担持した磁性粒子を含むR2試薬1とした。2.5μg/mLのビオチン化DSA(J−オイルミルズ社製)に代えて25μg/mLのビオチン化MAL(Vector社製)を用いる以外はR2試薬1と同様にしてMALを担持した磁性粒子を含むR2試薬2を調製した。2.5μg/mLのビオチン化DSA(J−オイルミルズ社製)に代えて25μg/mLのビオチン化AOLを用いる以外はR2試薬1と同様にしてAOLを担持した磁性粒子を含むR2試薬3を調製した。なお、ビオチン化AOLは、ビオチン標識キット(DOJIDO社製)を用いて、AOL(東京化成社製)をビオチン化したものを使用した。
【0107】
R3試薬の調製:0.1U/mLのALP(Recombinant AP,EIA Drade,CR 03535452)標識マウス抗AGPモノクローナル抗体−Fab’、0.1MのMES(2−(N−Morpholino)ethanesulfonic acid、pH6.5)、0.15Mの塩化ナトリウム、1mMの塩化マグネシウム、0.1mMの塩化亜鉛、0.1w/v%のNaN3および0.25w/v%のカゼインNa含む溶液を調製しR3試薬1とした。0.25w/v%のカゼインNaに代えて0.1w/v%のBSAを用いる以外はR3試薬1と同様にしてR3試薬2を調製した。
【0108】
なお、上記の第1迅速測定方法(マニュアル法)においては、脱グリコシル化されていないALPを用いたが、第2迅速測定方法では脱グリコシル化されたALPを使用した。
【0109】
R4試薬の調製:0.1Mの2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP、pH9.6)、1mMの塩化マグネシウムおよび0.1w/v%のNaN3を含む溶液を調製しR4試薬とした。
【0110】
R5試薬の調製:CDP−Star with Sapphirine−II(ALPの発光基質、アプライドバイオシステムズ社製)をR5試薬とした。
【0111】
洗浄試薬の調製:20mMのトリス(pH7.4)、0.1w/v%のTween20、0.1w/v%のNaN3および0.8w/v%の塩化ナトリウムを含む溶液を調製し洗浄試薬とした。
【0112】
2−2.DSAを用いる測定系の希釈直線性の確認
コンセーラ(正常ヒト血清、日水製薬社製)中のAGPを、実施例1のエンリッチと同様にして、抗AGP抗体を用いて緩衝液B(TBS−0.5%TritonX−0.1%SDS)に回収し試料とした。回収した試料を緩衝液Bで1倍、1/2倍、1/4倍、1/8倍、1/16倍にそれぞれ希釈した希釈試料を調製した。
【0113】
全自動免疫測定装置HISCL2000i(シスメックス社製)の動作設定を下記の条件に変更し、各希釈試料について化学発光(photo count値)を測定した。
【0114】
各希釈試料30μLを容器に分注し、42℃で2.25分間インキュベートした後、30μLのR2試薬1を分注し、42℃で2.5分間反応させた。さらに100μLのR3試薬1を分注し、42℃で2.75分間反応させた。磁気分離により磁性粒子を集磁して溶液を吸引廃棄した。洗浄試薬を分注して洗浄試薬に磁性粒子を分散洗浄し、磁気分離により磁性粒子を集磁して溶液を吸引廃棄する処理を3回繰り返し実行した。50μLのR4試薬を分注し、次いで100μLのR5試薬を分注し化学発光を測定した。上記の測定を3回行いその結果を図20に示す。図20に示されるようにDSA測定系についてはR2=0.98と良好な直線性を示した。
【0115】
2−3.MALを用いる測定系の希釈直線性の確認
「DSAを用いる測定系の希釈直線性の確認」において、R2試薬1に代えてR2試薬2を使用し、R3試薬1に代えてR3試薬2を使用すること以外は同様にして、MAL測定系における希釈直線性の確認実験を行い、結果を図21に示した。図21に示されるようにMAL測定系についてはR2=0.99と良好な直線性を示した。
【0116】
2−4.AOLを用いる測定系の希釈直線性の確認
「DSAの希釈直線性の確認」において、コンセーラに代えてHCV陽性血漿2(Millenium Biotech社製)を使用し、R2試薬1に代えてR2試薬3を使用すること以外は同様にして、AOL測定系における希釈直線性の確認実験を行い、結果を図22に示した。図22に示されるようにAOL測定系についてはR2=0.99と良好な直線性を示した。
【0117】
2−5.各種市販検体に対するDSA、MALおよびAOLを用いる測定
コンセーラ(正常ヒト血清、日水製薬社製)、正常ヒト血清(TRINA社製)、HCV陽性血漿1および2(Millenium Biotech社製)のそれぞれについて、抗AGP抗体を用いた免疫沈降法によりAGPを分離し、緩衝液B(TBS−0.5%TritonX−0.1%SDS)に回収し測定試料とした。また、緩衝液Bのみをブランク測定試料とした。
【0118】
「DSAを用いる測定系の希釈直線性の確認」、「MALを用いる測定系の希釈直線性の確認」および「AOLを用いる測定系の希釈直線性の確認」と同様の条件で全自動免疫測定装置HISCL2000iを用いて各測定試料の測定を行った。各測定に要した時間は17分であった。結果を表7、図23および図24に示す。
【表7】
【0119】
DSAを用いた測定結果で規格化したMALを用いた測定結果について、図23に示した第2迅速測定法による測定結果が、図18に示したレクチンアレイ法による測定結果と良好な相関を示すことがわかった。また、DSAを用いた測定結果で規格化したAOLを用いた測定結果について、図24に示した第2迅速測定法による測定結果が、図19に示したレクチンアレイ法による測定結果と同様のパターンを示し、良好な相関を示すことがわかった。
【0120】
2−6.臨床検体に対するDSA、MALおよびAOLを用いる測定
線維化ステージF1の患者血清1及び2、線維化ステージF2の患者血清3及び4、線維化ステージF3の患者血清5及び6、線維化ステージF4の患者血清7及び8のそれぞれについて、実施例1のエンリッチと同様にして、抗AGP抗体を用いてAGPを分離し、緩衝液B(TBS−0.5%TritonX−0.1%SDS)に回収し測定試料とした。また、緩衝液Bのみをブランク測定試料とした。
【0121】
「DSAを用いる測定系の希釈直線性の確認」、「MALを用いる測定系の希釈直線性の確認」および「AOLの希釈直線性の確認」と同様の条件で全自動免疫測定装置HISCL2000iを用いて各測定試料の測定を行った。各測定に要した時間は17分であった。結果を表8、図25および図26に示す。
【表8】
【0122】
2−7.臨床検体に対するレクチンアレイ法による測定
上記2−6の各測定試料について、実施例1で用いたレクチンアレイを用いて、抗体オーバーレイ法による測定を行った。レクチンアレイ法による測定時間は約18時間であった。結果を表9、図27及び図28に示した。
【表9】
【0123】
図25〜図28に示された結果から第2迅速測定法が、臨床検体に対してもレクチンアレイ法と同様のパターンを示し、良好な相関を示すことがわかった。
【0124】
[実施例6] 第2迅速測定法のバリデーション
1.HCV感染患者125症例を用いた解析
実施例5により第2迅速測定法はレクチンアレイと同様のパターンを示すことがわかった。より多くの症例で実証するために、実施例2で使用した、肝炎ウイルスに罹患し、肝生検により病理診断され線維化のステージングがなされている患者群125症例を対象に、第2迅速測定法を実施例5の2−6の手順に従い行った。なお、125症例の肝臓線維化ステージの内訳は、F0およびF1が33症例、F2が32症例、F3が31症例、F4が29症例である。
【0125】
図29は、肝臓の線維化進展とAGPの第2迅速測定法により得られたレクチンシグナル強度の変化との相関を示す図である。各シグナルはDSAレクチンのシグナルにより規格化されており、数値はDSAシグナルを100%とした時の相対シグナル強度としてあらわされている。図29の左においては、肝生検後の病理解析により線維化のステージング(F)がされている125症例について第2迅速測定法を行い、各ステージのレクチンシグナルの分布を箱ひげ図により示している。第2迅速測定法により得られた3種レクチン値からMAL/DSA値を求め、箱ひげ図にしたものが左上段であり、AOL/DSA値を求め、箱ひげ図にしたものが左下段である。箱の上端および下端はそれぞれ75%点、25%点を示し、ひげの上端および下端はそれぞれ95%点、5%点を示す。箱中の横線は中央値を示し、×は平均値を示す。その結果はいずれもレクチンアレイの結果と酷似しており、AOLのシグナルは、線維化の進展に伴い強度を増し、強度差で慢性肝炎(F0-3)と肝硬変(F4)を十分見分けることができることが分かった。それに対し、MALシグナルは線維化の進展に伴い強度が減少していることが分かった。レクチンアレイの結果と第2迅速測定法の結果との間に相関性があることを支持するために、両者から得られた数値を2次元プロットした。そのグラフを図29の右に示す。このグラフよりレクチンアレイの結果と第2迅速測定法の結果との間に強い相関があることが判明した。
【0126】
2.肝硬変の検出
実施例3に示したレクチンアレイによる肝硬変の検出と同様の手順で、第2迅速測定法により肝硬変の検出を試みた。上述の病理診断済み患者125症例分を対象に、2種レクチンのシグナルをDSAレクチンシグナルで規格化したデータを用い、他(F1-F3)からF4(肝硬変)を区別するROC曲線を作成し、感度100%、特異度100%点から最も近い距離にある曲線上の点、言い換えるとY=Xの直線に平行な線と、ROC曲線との接点を、「最適な特異度および感度」とし、その周辺にカットオフ値を設定した。得られた個々のレクチンに対するカットオフ値から肝硬変検出に最適なコンビネーション式(AOL/DSA ×1.8 − MAL/DSA)を求め、それにより病理学的診断又は画像・臨床診断 により肝炎および肝硬変と確定された患者、45症例および43症例を対象にブラインドテストを実施した。
【0127】
その結果、コンビネーション式(AOL/DSA ×1.8 − MAL/DSA)を用いて検出力を調べてみたところ、感度88.3%、特異度91.1%、正診率は89.8%結果が得られた。
【0128】
次いで、本数式による偽陽性の出現頻度を検討するため、健常者100人分の血清についても第2迅速測定法による解析を行った。数式を用いて肝硬変判定ところ、図30に示すように偽陽性率は5%であり、レクチンアレイの結果と偽陽性検体が一致した。
【0129】
[実施例7] 肝疾患病態指標糖鎖マーカー候補糖タンパク質M2BPの抗体オーバーレイ・レクチンアレイ解析による肝線維化進展の判別
実施例2の通り、M2BPにおいても、抗体オーバーレイ・レクチンアレイ解析により得られたレクチンシグナル情報から、各肝疾患病態を検出できる可能性が見出された。そこで肝線維化との相関を検討するための実験を実施した。AGPの実験で用いた肝炎ウイルスに罹患し、肝生検により病理診断され線維化のステージングがなされている患者群125症例を対象に、抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイを実施例2の手順に従い行った。結合シグナルの生じた17種レクチンのうち、有意差検定により線維化の進展に伴うシグナル変化が認められた6つのレクチンについて、線維化進展との相関を表すグラフを作成した。それを図31に示す。各ステージのレクチンシグナルの分布を箱ひげ図により示した。箱の上端および下端はそれぞれ75%点、25%点を示し、ひげの上端および下端はそれぞれ95%点、5%点を示す。箱中の横線は中央値を示し、×は平均値を示す。なお、各グラフの縦軸はDSAのシグナルを100%とした時の相対値となっている。RCA120, AAL, TJAII, WFA, BPLのシグナルは、線維化の進展に伴い強度を増す一方、LELシグナルは線維化の進展に伴い強度が減少していることが分かった。このうち、線維化の進展をモニタリングするという観点においてはRCA120やAALが適していると考えられる。また、TJAII, WFA, BPLに関しては肝硬変(F4)になり初めてシグナルが生じているタイプである。かつ、F4におけるシグナルのばらつきが大きいため、これは発がん高リスク群を囲い込むのに有効なマーカーとなる可能性が示唆された。
【0130】
[実施例8] M2BPの糖鎖変化検出による肝がん発がん高リスク群囲い込み
1.肝がん発がん高リスク群囲い込みに適したレクチンの選抜
実施例7において、肝線維化に伴いシグナル強度が増すレクチン群が見出された。それらレクチン群のうち発がん高リスク群を囲い込むことのできるものを選抜するため、肝細胞がん患者術前術後血清7症例を対象にした、M2BPの抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ解析を行った。その実験手順は実施例1に従った。また、全自動蛍光免疫測定装置(μTAS Wako i30;和光純薬工業株式会社製)および専用試薬により、公知である肝細胞がんマーカーAFP血中量および良性疾患・肝細胞がん鑑別マーカーAFP-L3%の測定も行った。その結果の一部のレクチンシグナルパターンを図32に示す。AFP-L3%を含めたすべてのパラメーターが、7症例すべてで必ずしも術後のシグナル減少を示すというわけではなかった。これはいずれもがん検出マーカーではないことを意味している。本実験では肝細胞がん発がんの高リスク群囲い込みマーカー候補を選抜することが目的である。その点においては、AFP-L3%にパターンが類似していることが望まれる。実施例7で予想したとおりWFA, BPLレクチンがAFP-L3%のパターンに類似していた。かつ、BPLに比べWFAはシグナル強度がより強く安定であったため、WFAを有力レクチンとして選抜した。
【0131】
2.レクチン―抗体サンドイッチELISA 法によるWFA結合性M2BPの検出
WFA結合性M2BPを肝がん発がん高リスク群囲い込みマーカーとし、該バイオマーカーを検出する最良の形態としては、血清に含まれるバイオマーカーを臨床上許容される性能で、かつ、臨床上適用可能な簡便な手段により検出及び判別する方法が考えられる。以下にはその例として、抗M2BP抗体オーバーレイ−WFAウェルプレート(図33を参照)を用いたサンドイッチ検出分析の結果を示す。なお、本手法においてWFAウェルプレートには血清を直接添加することが可能である。その根拠としては、血清中に含まれる糖タンパク質でWFAに結合できる分子は非常に少なく、発がん高リスク群患者においてはM2BPが最も血中濃度の高い分子の一つであるからである。
【0132】
(実験方法)
マイクロタイタープレート(グライナー社製 96ウェル平底ストレプトアビジンコートプレート)へPBS緩衝液に溶解したビオチン化WFA(Vector社製、5μg/mL)を各ウェルに50μLずつ加え、2時間室温で保温し、支持体へWFAを固相化した。未結合WFAを洗浄液である0.1%Tween20含有PBS(300μL)で2回ずつ洗浄し、WFA固相化ウェルプレートを完成させた。
【0133】
各サンプル1μLを上記洗浄液50μLで希釈し、1で作製したWFA固相化ウェルプレートへ添加した後、2時間室温で結合反応した。反応後、各ウェルは上記洗浄液300μLで5回洗浄し、未結合タンパク質を除去した。そこにあらかじめ1.0μg/mLへ洗浄液で調整した検出剤(ヤギ抗M2BPポリクロ―ナル抗体溶液;R&D Systems社製)を1ウェルあたり50μLずつ加え、室温で2時間抗原抗体反応した。
【0134】
未結合抗体を除去するために洗浄液300μLで洗浄後、洗浄液で10,000倍希釈した抗ヤギIgG抗体−HRP溶液(Jackson immuno Research社製)を、1ウェルあたり50μLずつ加え、室温で1時間保温した。各ウェルを300μLの洗浄液で5回洗浄後、発色試薬であるULTRA-TMB溶液 (Thermo 社製)を各ウェルに100μLずつ加え、10分間発色反応した。1MのH2SO4溶液を1ウェルあたり100μL加え反応を停止し、プレートリーダーにより450nmで吸光度測定した。得られたシグナルは健常者血清をネガティブコントロール(N)とし、S/N比として数値化し、以降の解析に用いた。
【0135】
(結果)
まず、上述の肝細胞がん患者術前術後血清7症例を対象にアッセイした。その結果、図32の結果に酷似したシグナルパターンが得られた(図34上段)。これら症例のうち術後に継続的に採血を実施していた3症例についてWFA結合性M2BP量の測定を試みた。なお、患者AおよびBは術後再発症例であり、患者Eは再発なし症例である。再発したポイントを矢印で示す。その結果を図34下段に示す。横軸は施術日を0とし、経過月数を表す。また、縦軸は健常者血清をネガティブコントロール(N)とし、S/N比で表す。患者Aは術後も測定値はS/N=2.5付近で推移し、再発ポイント以降で値が上昇している。患者Bは術前の測定値が非常に高く、術後その値は減少するがS/N=2.5付近で停滞した。一方患者Eは術前術後にS/N=2.0と最も低値を示し、かつその数値は徐々に下降していった。以上の結果より、術後、S/N>2.5で停滞した患者は再発リスクが高く、かつ再発後値が上昇する一方で、術後速やかに減少しS/N=2.0を大きく下回る患者は再発しない可能性が高いことが見出された。以上により、WFA結合性M2BPは肝がん発がん高リスク群囲い込みマーカーとして有用であり、それを検出する簡易測定系として、抗M2BP抗体オーバーレイ−WFAウェルプレートを開発することができた。
【0136】
[実施例9] ELISA法によるWFA結合性M2BP検出における検体加熱処理の影響の検証
ELISA法によるWFA結合性M2BP検出において、検体加熱処理の有無が検出感度に及ぼす影響を確認した。
【0137】
ヒト肝がん由来細胞株(HepG2培養上清)を0.2%SDS含有PBS緩衝液で10倍希釈し、10分間95℃で加熱処理した。
【0138】
サンプルとして、HepG2培養上清(未処理)とHepG2培養上清(加熱処理)を、1ウエル当りのタンパク量が下記表10になるように用いること以外は、実施例8の2と同様の方法でWFAに結合するM2BPの測定を行った。プレートリーダーにより測定された吸光度を表10および図35に示す。
【表10】
【0139】
表10および図35の結果からELISA法によるWFA結合性M2BPの測定においては、加熱処理の行われていない血清を測定サンプルとして用いることにより、測定感度が向上することが判明した。
【0140】
[実施例10] 第2迅速測定法によるM2BPの測定
1.試薬の調製
R1試薬の調製:10mMのHEPES(pH7.5)、150mMのNaCl、0.01mMのMnCl2、0.1mMのCaCl2、0.08w/v%のNaN3を含む溶液(緩衝液C)を調製し、R1試薬とした。
【0141】
R2試薬の調製:緩衝液Cに市販のストレプトアビジンが固定された磁性粒子(個数平均粒径2μm)(以下、ストレプトアビジン感作磁性粒子とする)を0.5w/v%の濃度となるように添加し、さらにここにビオチン化したレクチン溶液(WFA)を添加した。この混合液を室温で30分攪拌した。攪拌後、磁石で集磁して磁性粒子を沈降させ、溶液成分を廃棄した。緩衝液Cで3回洗浄後、緩衝液D(10mMのHEPES(pH7.5)、150mMのNaCl、0.01mMのMnCl2, 0.1mMのCaCl2、0.1%W/VのBSA、0.08w/v%のNaN3を含む溶液)を磁性粒子濃度が0.5w/v%になるように添加した。
【0142】
R3試薬の調製:0.1U/mLのRecombinant ALP標識マウス抗M2BPモノクローナル抗体、0.1MのMES(2−(N−Morpholino) ethanesulfonic acid、pH6.5)、0.15MのNaCl、1mMのMgCl2、0.1mMのZnCl2、0.1w/v%のNaN3を含む溶液を調製しR3試薬とした。
【0143】
R4試薬、R5試薬および洗浄試薬については、実施例5の第2迅速測定法で用いたR4試薬、R5試薬および洗浄試薬を使用した。
【0144】
2.WFAを用いる測定系の希釈直線性の確認
ヒト肝がん由来細胞株培養上清(HepG2培養上清)100μg/mlを緩衝液(PBS)で10倍、100倍、1000倍および10000倍に希釈した希釈試料を調製した。 また、Recombinant Human Galectin−3BP/MAC−2BP(R&D SYSTEMS製)5μg/mlを緩衝液(PBS)で2倍、4倍、8倍、16倍、32倍および64倍に希釈した希釈試料を調製した。
【0145】
全自動免疫測定装置HISCL2000i(シスメックス社製)の動作設定を下記の条件に変更し、各希釈試料について化学発光強度(photo count値)を測定した。
【0146】
R1試薬30μLと、各希釈試料10μLとを容器に分注し、42℃で2.25分間インキュベートした後、30μLのR2試薬を分注し、42℃で1.5分間反応させた。磁気分離により磁性粒子を集磁して溶液を吸引廃棄した。洗浄試薬を分注して洗浄試薬に磁性粒子を分散洗浄し、磁気分離により磁性粒子を集磁して溶液を吸引廃棄する処理を3回繰り返し実行した。100μLのR3試薬を分注し、42℃で2.75分間反応させた。磁気分離により磁性粒子を集磁して溶液を吸引廃棄した。洗浄試薬を分注して洗浄試薬に磁性粒子を分散洗浄し、磁気分離により磁性粒子を集磁して溶液を吸引廃棄する処理を3回繰り返し実行した。50μLのR4試薬を分注し、次いで100μLのR5試薬を分注し化学発光強度を測定した。HepG2培養細胞の上清の測定結果を表11および図36に、Recombinant Human Galectin−3BP/MAC−2BPの測定結果を表12および図37示す。これらの測定結果に示されるようにWFA測定系について良好な希釈直線性を示した。
【表11】
【表12】
【0147】
3.臨床検体に対する測定
健常人血清、HBV陽性肝細胞がん患者血清およびHCV陽性肝細胞がん患者血清を、「2.WFAを用いる測定系の希釈直線性の確認」と同様の条件で全自動免疫測定装置HISCL2000iにより測定した。各検体の測定に要した時間は17分であった。結果を表13に示す。
【表13】
【0148】
表13の結果から、WFAに結合するM2BPが第2迅速測定法により迅速且つ正確に測定できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本願発明は、肝疾患又は肝疾患病態の判定のための装置、器具又はキット製造や、肝疾患の病態の判別、あるいは、肝硬変の検出などに用いることができる。
【技術分野】
【0001】
本願発明は、糖タンパク質としてalpha-1-acid glycoprotein(AGP)を測定する糖タンパク質の測定方法、および糖タンパク質としてAGPを用いた肝疾患の検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓がんは、肝臓で発生する原発性肝がんと、転移性肝がんに大きく分けることができ、原発性肝がんの90%が肝細胞がんであるといわれている。
【0003】
肝細胞がん患者は、基礎疾患として、C型肝炎ウイルス、又はB型肝炎ウイルスに感染している場合が多く、急性ウイルス性肝炎から、慢性ウイルス性肝炎、肝硬変へと進行し、ウイルス性肝炎に罹患した後、長期間経過後、初めてがん化することが多い。肝硬変では、炎症と再生を繰り返すことにより、正常な肝細胞が減少し、線維組織から構成される臓器へと変化する。例えば、C型肝炎患者は、わが国だけでも300万人、中国やアフリカでは、1000万以上とも言われている。また、B型・C型肝炎患者の場合、慢性肝炎からの発がん率は、慢性肝炎軽度(F1)では年率0.8%、慢性肝炎中度(F2)では年率0.9%であるが、慢性肝炎重度(F3)になると年率3.5%になり、更に肝硬変(F4)からがんとなる確率は、年率7%にも上昇する(図1,2)。又肝疾患は、病態の進行に伴い、まず慢性肝炎で機能が消失し始め、肝硬変で病的構造が現れ、肝臓の線維化が進むなど、組織像が変化する(図3)。
【0004】
がん治療においては、がんの早期発見が重要で、肝細胞がんの場合も早期のがん発見が治療、術後予後に大きく影響している。肝切除治療による5年生存率は、ステージIであれば80%のところ、ステージIVでは38%に過ぎない。
【0005】
肝がんマーカーとしては、現在までに、α-フェトプロテイン(AFP)やprotein induced by Vitamin K absence or antagonist-II(PIVKA-II)が知られている(特許文献1,2)が、その特異性、感度とも十分ではない。そのため、現在は、肝がん早期発見のために検診は、肝がんマーカーと、超音波検査、コンピューター断層撮影(CT)、核磁気共鳴画像法(MRI)など画像検査によりおこなわれている。
【0006】
また、非特許文献1には、血清中のフコシル化AGPを、AALレクチンを用いて測定し肝硬変を検出する試みが記載されている。しかし、非特許文献1記載の技術は、その表2に記載された結果から理解されるように、感度が66%程度であるにもかかわらず特異度が87%程度であり、正診率77%程度であるため肝疾患検出性能の観点で満足できるものではない。
【0007】
また、非特許文献2には、健常者、急性肝炎患者、慢性肝炎患者、肝硬変患者および肝細胞がん患者の血清中のアシアロAGPを、RCAレクチンを用いたイムノクロマトグラフィーによって測定し、各肝疾患を陽性判別できるか否かの実験を行ったことが記載されている。しかし、非特許文献2記載の技術は、その表2に記載された結果から理解されるように、肝硬変に着目するとその感度は88%程度であるものの慢性肝炎患者における擬陽性率が63%になってしまい、肝疾患検出性能の観点で満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−26622号
【特許文献2】特開平8-184594号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Ingvar Ryden等、Diagnostic Accuracy of α1-Acid Glycoprotein Fucosylation for Liver Cirrhosis in Patients Undergoing Hepatic Biopsy、Clinical Chemistry 48:12、2195-2201 (2002)
【非特許文献2】Eun Young Lee等、Development of a rapid, immunochromatographic strip test for serum asialo α1-acid glycoprotein in patients with hepatic disease、Journal of Immunological Methods 308 (2006) 116-123
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願発明は、従来よりも高い精度で肝疾患を検出できる糖鎖マーカー糖タンパク質の測定方法を提供することを課題とする。また、本願発明は、従来よりも高い精度で肝疾患を検出できる肝疾患の検査方法を提供することを課題とする。また、本願発明は、上記測定方法に用いる糖タンパク質定量用試薬を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
被験者より採取された試料に含まれるalpha-1-acid glycoprotein(AGP)の糖タンパク質の測定方法であって、AOLおよびMALから選択される第1レクチンに結合するAGPを測定する糖タンパク質の測定方法。
【発明の効果】
【0012】
本願発明の測定方法により、高い信頼性で肝硬変などの肝疾患の検査を行うことが可能な糖鎖マーカー糖タンパク質を簡便に測定することができる。
【0013】
更に本願発明の肝疾患病態指標糖鎖マーカー糖タンパク質により、既存のマーカーよりも正診率が高く、かつ微量の血清により検査が可能となり、肝線維化進展モニタリングが可能となって病態進展の把握が可能になるばかりでなく、インターフェロンをはじめとする抗ウイルス療法後の肝線維化や炎症の改善を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】C型肝炎感染から肝細胞がんへと至るまでの時間経過と肝の状態の変化を示す図である。
【図2】慢性肝炎からの肝細胞がん発がん率を示す図である。
【図3】肝硬変の肝細胞がん発がん率を示す図である。
【図4】背景肝組織の変化と発がんとの関係を示す図である。
【図5】感染から発がんへ至るまでの肝の構造変化を示す図である。
【図6】肝の状態変化と診断治療スキームとの関係を示す図である。
【図7】レクチンマイクロアレイを基軸としたバイオマーカー候補分子の検証実験手順を表す図である。
【図8】肝疾患病態指標マーカー糖タンパク質の一つであるα1酸性糖タンパク質(AGP)について、抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイにより比較糖鎖解析を行った結果を示す図である。
【図9】肝疾患病態指標マーカー糖タンパク質の一つである90K/Mac-2 Binding Protein(M2BP)について、抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイにより比較糖鎖解析を行った結果を示す図である。
【図10】肝臓の線維化進展とAGPの抗体オーバーレイ・レクチンアレイ解析により得られたレクチンシグナル強度の変化との相関を示す図である。
【図11】肝疾患病態指標糖鎖マーカーであるAGPの抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ解析による肝硬変の検出スキームを表す図である。
【図12】肝臓の線維化進展をモニタリングできるマーカーとしてAGPを用いたインターフェロンの治療効果判定を示す図である。
【図13】第1迅速測定方法でDSAを用いた場合の希釈直線性を示す図である。
【図14】第1迅速測定方法でMALを用いた場合の希釈直線性を示す図である。
【図15】第1迅速測定方法でAOLを用いた場合の希釈直線性を示す図である。
【図16】第1迅速測定方法で市販検体に対してMALを用いた場合の測定結果を示す図である。
【図17】第1迅速測定方法で市販検体に対してAOLを用いた場合の測定結果を示す図である。
【図18】レクチンアレイ法で市販検体に対するMALによる測定結果を示す図である。
【図19】レクチンアレイ法で市販検体に対するAOLによる測定結果を示す図である。
【図20】第2迅速測定方法でDSAを用いた場合の希釈直線性を示す図である。
【図21】第2迅速測定方法でMALを用いた場合の希釈直線性を示す図である。
【図22】第2迅速測定方法でAOLを用いた場合の希釈直線性を示す図である。
【図23】第2迅速測定方法で市販検体に対してMALを用いた場合の測定結果を示す図である。
【図24】第2迅速測定方法で市販検体に対してAOLを用いた場合の測定結果を示す図である。
【図25】第2迅速測定方法で臨床検体に対してMALを用いた場合の測定結果を示す図である。
【図26】第2迅速測定方法で臨床検体に対してAOLを用いた場合の測定結果を示す図である。
【図27】レクチンアレイ法で臨床検体に対するMALによる測定結果を示す図である。
【図28】レクチンアレイ法で臨床検体に対するAOLによる測定結果を示す図である。
【図29】HCV感染患者血清125症例分を対象に第2迅速測定法で測定した結果を示す図である。
【図30】健常者100検体分を対象にレクチンアレイ法と第2迅速測定法で測定した結果を比較した図である。
【図31】肝臓の線維化進展とM2BPの抗体オーバーレイ・レクチンアレイ解析により得られたレクチンシグナル強度の変化との相関を示す図である。
【図32】肝細胞がん患者術前術後の血清中M2BP上糖鎖変化を示す図である。
【図33】WFA結合性M2BPを検出するための最良の形態であるレクチン―抗体サンドイッチELISAのモデルを示す図である。
【図34】肝臓がん患者術後血清中WFA結合性M2BP量の経時的変化を示す図である。
【図35】ELISA法によるWFA結合性M2BP検出において、検体加熱処理の有無が検出感度に及ぼす影響を示す図である。
【図36】第2迅速測定法によるM2BPの測定において、試料としてHepG2培養細胞の上清を用いた場合の、WFAを用いる測定系の希釈直線性を示す図である。
【図37】第2迅速測定法によるM2BPの測定において、試料としてRecombinant Human Galectin−3BP/MAC−2BPを用いた場合の、WFAを用いる測定系の希釈直線性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.慢性肝疾患の現状
1−1.肝疾患の病態
B型肝炎ウイルス又はC型肝炎ウイルスに感染すると、急性期炎症から5−15年をかけて慢性期炎症へと進行する。特に慢性期に移行したC型肝炎が自然に治癒する事は稀で、肝機能の低下が進行し肝硬変に至る。C型肝炎感染から肝細胞がんへと至るまでの時間経過と肝の状態の変化を図1に示す。慢性肝炎から肝硬変に至る病態を定義するため、肝臓のグリソン領域及び肝小葉に出現する線維性変化を病理形態学的に捉えて、軽度(F1)、中度(F2)、重度(F3)、肝硬変期(F4)に分類する。線維化の進展は肝細胞がん発がんのリスク上昇と相関しており、図2に示されるようにF1もしくは2である場合年率1%以下であるのに対し、F3である場合には年3−4%に上昇する。線維化の程度がより進展した組織像を確認して診断される肝硬変(F4)では、図3に示されるように年率7%程度の確率で肝細胞がんが出現する。従って肝細胞がんを効率良く発見して治療するためには、特にF3およびF4の状態にある患者を簡便に選別して、精密検査対象者としてフォローすることが重要である。
【0016】
我が国のB型およびC型肝炎患者医療給付事業は専ら、肝生検標本に対する病理組織学的診断によって決定される線維化の程度F1〜3を対象とする。その一方、F4と診断される場合には、肝硬変に分類されるため、インターフェロン治療に対するB型およびC型肝炎患者医療給付事業では、一部のみ助成対象となるが、満足のいく治療成績は得られない。
【0017】
1−2.抗ウイルス療法による線維化抑制の評価
C型慢性肝炎に対しては、PEG-IFN+RBV療法、C型肝硬変代償期に対してインターフェロン単独投与が適応されている。一方、B型肝炎(慢性肝炎、肝硬変)に対する治療としては核酸アナログが主体であり、炎症や線維化評価マーカーは必須と思われる。特に、血清バイオマーカーは診断・評価目的に幅広く臨床応用されることが期待される。
【0018】
1−3.肝細胞がん
肝細胞発がんには、 B型肝炎ウイルスもしくはC型肝炎ウイルス感染による微生物学的因子と、環境因子が大きく交互に作用すると考えられている。わが国において、肝細胞がん患者の約9割は、B型あるいはC型肝炎ウイルスの感染既往があり、慢性肝炎・肝硬変患者に発生している事が知られている。肝細胞がんの発がん危険因子には、ウイルス以外にも、男性、高齢、アルコール多飲、タバコ、カビ毒の一つであるアフラトキシンなどが指摘されている(肝がん診療ガイドライン、財)国際医学情報センター)。
【0019】
1−4.肝細胞がんの早期診断
肝細胞がんの発見は、現在のところ、被験者からの血清サンプル中のAFPやPIVKA-IIなどの肝臓がんマーカーの測定、及び超音波検査(エコー検査)を中心とした画像診断が主として用いられている。画像診断としては、最初の検査として、超音波検査又はCTを用い、これらで何らかの異常が見いだされときには、更にMRIや血管造影をするのが通常である。
【0020】
1−5.肝細胞がん予防の観点から発がん高リスク群の囲い込み
肝細胞がん患者の約9割が、B型肝炎ウイルスもしくはC型肝炎ウイルス感染による肝炎患者から発生する我が国においては、ウイルス感染と肝機能低下を指標として、精密検査の対象となる患者を囲い込む事は可能である。
【0021】
しかしながら、年率7%程度の確率で肝細胞がんが出現する肝硬変(F4)患者であったとしても、早期がんを発見して治療するため、3ヶ月おきに高額で侵襲性の高い精密検査を繰り返す事は、経済的にも身体的にも患者の負担は大きいと言わざるを得ない。年3−4%の発がん率であるF3である場合にはなおさらである。さらには、インターフェロンによるC型肝炎ウイルス治療の成功率が5割程度であることを考慮すると、かなりの人数に上るインターフェロン治療が奏功しなかった慢性肝炎患者には、肝硬変および肝細胞発がんへ至るどの位置にあるのかを明確にして臨床的フォローアップをすることが必要である。つまり現在の肝炎〜肝細胞がんに至る疾病の治療においては、血液検査などの簡易な検査によって肝炎〜肝硬変患者に対して発がんリスクの重み付けを行ない、それに見合った肝細胞がんの診断治療を実施することが必要な状況にある。
【0022】
臨床病理学的には、線維化の程度が肝硬変および肝細胞発がんのリスクと相関する事から、我々は、線維化の進展を血清学的に定量的に測定できる検査技術の開発に、この問題解決の可能性を見いだしている。図4に示されるように、肝臓に生じたC型肝炎ウイルス感染は、障害された肝細胞の再生と瘢痕修復としての線維化を惹起する。肝臓の線維化が進むにつれて発がんのリスクが高まることから、「線維化の程度」は、発がんへと向かう指標となる。がんを生じる背景肝組織では、構成細胞が変化することから、線維化の進展に伴って糖鎖変化を生じることが予測される。図5に示されるように、感染から経時的に発がんへ至るが、この時、肝には正常構造や機能の恒常的活動性の喪失が観察され、同時に線維化を特徴とする病的構造の出現をみる。肝細胞がんは、早期肝細胞がんから古典的肝細胞がんへ進展して細胞の性質が変化する事が知られており、2cmを超えると早期肝細胞がんのなかに古典的肝細胞がんが出現する。図6に肝の状態変化と診断治療スキームとの関係を示す。慢性肝炎に対しては、ペグインターフェロン/リバビリン併用療法(PEG-IFN+RBV療法)がなされるのに対し、早期肝細胞がんに対してはラジオ波焼灼術(RFA)がなされる。肝硬変に対しては、診断的検査法や、有効な治療法がない。本願発明の糖鎖マーカー糖タンパク質は、慢性肝炎、肝硬変、肝細胞がんを区別できるので、肝硬変に対する新規治療開発における指標となる。また、ファイブロスキャンと共用する事で、線維化の定量的評価が可能となる事が期待されるので、糖鎖マーカー糖タンパク質によって、線維化(F3〜4)症例の囲い込みも可能となる。これは、線維化の定量的診断に加えて、肝線維化進展や発がん抑制を目指した治療の臨床導入に際し、治療効果の血清評価マーカーとして活用される事が期待される。
【0023】
2.新規肝疾患病態指標糖鎖マーカー糖タンパク質の肝疾患特異的糖鎖変化
本願発明の新規肝疾患病態指標糖鎖マーカー糖タンパク質であるAGPおよびM2BPは、ウイルス感染による疾患の発症と進展において生じる慢性肝炎、肝硬変、肝細胞がんを特徴づける糖鎖変化を生じることが見出された。このような、ウイルス性肝疾患の病態進行に伴う糖鎖変化を指標として、肝疾患病態を特定できるマーカー糖タンパク質を肝疾患病態指標糖鎖マーカーと呼ぶ。
【0024】
本願発明の新規肝疾患病態指標糖鎖マーカーであるAGPおよびM2BPの糖鎖変化検出は、ウイルス性肝疾患のそれぞれの病態、つまり、肝細胞がん、肝硬変、肝線維化(F3及びF4マーカー)、あるいは慢性肝炎に特徴的で各疾患の鑑別に有効である。しかしながら、これらマーカーの糖鎖変化は疾患の種類や進展度合いにより種類や比率を異にする。したがってマーカーを活用しそれぞれの対象に特化した検出キットを構築するためには、疾患特異的糖鎖変化を反映するレクチンプローブの統計学的な選抜が必要である。
【0025】
3.糖鎖マーカー糖タンパク質の肝疾患特異的糖鎖変化の検証
AGPおよびM2BP上に存在する糖鎖の疾患特異的な変化は後述するレクチンアレイにより検証する。より好ましくは抗体オーバーレイ・レクチンアレイ法を用いる。上記マーカー糖タンパク質をレクチンアレイを用いて測定した結果をもとに、1)病気の進み具合に応じてどのレクチンシグナルにどの程度の測定値変化が見られるのか、2)測定値の変化は、どの病期(初期か晩期か)にもっとも顕著となるのか、3)測定値変化の情報は、疾病のコントロールに資するかどうかを検討し、有用性を評価し、どの肝疾患病態に適したマーカーであるかを検証する。
【0026】
糖鎖マーカー糖タンパク質を肝線維化進展モニタリングや、肝硬変検出のために利用するのに適したレクチンプローブを選抜するより具体的な方法を以下に記す。
【0027】
(ウイルス性)肝炎患者、肝硬変患者、及び肝細胞がん患者の血清より捕集した糖タンパク質(AGPおよびM2BP)に対して抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ等による比較糖鎖プロファイリングを行う。まず、(ウイルス性)肝炎患者、慢性肝炎、肝硬変患者、及び肝細胞がん患者から血液試料を採取する。採取されたそれぞれの血液試料から、AGPおよびM2BPについて、抗体を用いた免疫沈降により濃縮精製し、抗体オーバーレイ・レクチンアレイを用いて、肝疾患病態の糖鎖マーカー糖タンパク質として使用できることを確認する。より具体的には、図7に示したように、肝炎ウイルス罹患患者血清を対象にAGPおよびM2BPについて比較糖鎖解析を行う。AGPおよびM2BPはそれぞれ抗AGP抗体および抗M2BP抗体を用いた免疫沈降法により簡易にエンリッチされる。レクチンマイクロアレイは高感度な比較糖鎖解析装置であり、100ナノグラム程度のタンパク質調製量で十分分析が可能であることから、上述の前処理はミニスケールで行うことが可能である。エンリッチされたAGPおよびM2BPは速やかにレクチンマイクロアレイに添加され、一定時間反応後、抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ法によりAGPおよびM2BPの糖鎖プロファイルを取得する。この際、レクチンアレイに添加するタンパク質量はタンパク質により異なるが、おおむねナノグラムから数十ナノグラム程度である。統計解析に耐えうるだけの検体数についてアレイ解析を行った後、そのデータセットを用いてStudent-T testなどの2群比較解析を実施する。それにより、客観的に病態変化によりシグナルに有意差を生じるレクチンを選抜することが可能になる。レクチンマイクロアレイとしては、たとえば、後に示す表2に記載のレクチンの一部または全部を含む複数のレクチンを固相化したレクチンマイクロアレイを用いることができ、更に具体的には、Kuno A., et al. Nat. Methods 2,851-856(2005).に記載のレクチンマイクロアレイまたはGPバイオサイエンス社製のLecChipを用いることができる。又抗体としては、表1に記載の抗体を用いることができる。
【表1】
【0028】
3−1.レクチンマイクロアレイ(単にレクチンアレイとも呼ぶ)
レクチンアレイは、複数種の特異性の異なる判別子(プローブ)レクチンを1つの基板上に並列に固定(アレイ化)したもので、分析対象となる複合糖質にどのレクチンがどれだけ相互作用したかを一斉に解析できるものである。レクチンアレイを用いることで、糖鎖構造推定に必要な情報が一度の分析で取得でき、かつ、サンプル調製からスキャンまでの操作工程は迅速かつ簡便にできる。質量分析などの糖鎖プロファイリングシステムでは、糖タンパク質をそのまま分析することはできず、あらかじめ糖ペプチドや遊離糖鎖の状態にまで処理をしなければならない。一方、レクチンマイクロアレイでは、例えば、コアタンパク質部分へ直接蛍光体を導入するだけで、そのまま分析できるという利点がある。レクチンマイクロアレイ技術は、本発明者等が開発したもので、その原理・基礎は、例えば、Kuno A., et al. Nat. Methods 2,851-856(2005).に記載されている。
【0029】
レクチンアレイに用いるレクチンとしては、次の表2に記載のものが挙げられる。
【表2】
【0030】
【0031】
例えば、45種類のレクチンを基盤に固定化したレクチンアレイ(GPバイオサイエンス社製のLecChip)が既に商用上入手可能である。
【0032】
3−2.レクチンアレイによる糖鎖プロファイルの統計解析
レクチンアレイは、現在では、精製標品だけでなく、血清や細胞ライセートなどの混合試料の定量比較糖鎖プロファイリングができる実用化技術にまで発展してきている。特に細胞表層糖鎖の比較糖鎖プロファイリングはその発展がめざましい(Ebe, Y. et al. J. Biochem. 139, 323-327(2006)、Pilobello, K.T. et al. Proc Natl Acad Sci USA.104,11534-11539(2007)、Tateno, H. et al. Glycobiology 17, 1138-1146(2007))。
【0033】
また、糖鎖プロファイルの統計解析によるデータマイニングについては、例えば、「Kuno A, et al. J Proteomics Bioinform. 1, 68-72(2008).」、あるいは、「日本糖質学会2008/8/18レクチンマイクロアレイ応用技術開発〜生体試料の比較糖鎖プロファイリングと統計解析〜久野敦、松田厚志、板倉陽子、松崎英樹、成松久、平林淳」および「Matsuda A, et al. Biochem Biophys Res Commun. 370, 259-263(2008).」に示される方法で行うことができる。
【0034】
3−3.抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ法
レクチンマイクロアレイのプラットフォームは基本的に上記の通りとし、検出に際しては上記被検体を直接蛍光などで標識するのではなく、抗体を介して間接的に蛍光基などを被検体に導入することで、一斉に多検体に対する分析を簡便、高速化することができる応用法である(「Kuno A, Kato Y, Matsuda A, Kaneko MK, Ito H, Amano K, Chiba Y, Narimatsu H, Hirabayashi J. Mol Cell Proteomics. 8, 99-108(2009)」、「平林淳、久野敦、内山昇「レクチンマイクロアレイを用いた糖鎖プロファイリング応用技術の開発」、実験医学増刊「分子レベルから迫る癌診断研究〜臨床応用への挑戦〜」、羊土社、Vol25(17)164-171(2007)」、久野敦、平林淳「レクチンマイクロアレイによる糖鎖プロファイリングシステムの糖鎖バイオマーカー探索への活用」、遺伝子医学MOOK11号「臨床糖鎖バイオマーカーの開発と糖鎖機能の解明」、pp.34-39、メディカルドゥ(2008)参照)。
【0035】
糖タンパク質(AGPおよびM2BP)が被検体であれば糖鎖部分はレクチンマイクロアレイ上のレクチンによって認識されるため、コアタンパク質部分に対する抗体(抗AGP抗体および抗M2BP抗体)をその上から被せる(オーバーレイ)ことによって、被検糖タンパク質を標識したり、あるいは高度に精製したりすることなく、特定的に感度高く検出することができる。
【0036】
3−4.レクチンオーバーレイ・抗体マイクロアレイ法
レクチンマイクロアレイの代わりにコアタンパク質に対する抗体をガラス基板などの基板上に並列に固定(アレイ化)した抗体マイクロアレイを用いる方法である。調べるマーカーに対するだけの数の抗体が必要である。糖鎖変化を検出するレクチンをあらかじめ確定することが必要である。
【0037】
4.肝疾患病態指標糖鎖マーカーの疾患特異的糖鎖変化を利用する肝疾患の検出方法
AGPおよびM2BPは、線維化の進展などの肝疾患の病態変化に伴い糖鎖構造が変化する新規肝疾患病態指標糖鎖マーカーである。このためAGPおよびM2BP糖鎖構造の変化に対応して反応性が変化するレクチン(以下、レクチン“A”と略す)と、被験者から採取した試料に含まれるマーカーとを反応させ、レクチンに反応したマーカーを測定することにより、肝疾患の病態を判別したり、肝の線維化の度合いを判定したりすることができる。
【0038】
例えば、新規肝疾患病態指標糖鎖マーカーの検出は、(1)(イ)上記レクチン“A”及び(ロ)上記マーカーの糖鎖以外の部分(コアタンパク質)を検出する抗体を用いて実施することができる。また(2)肝疾患病態指標糖鎖マーカーに対する特異的な抗体であって、糖鎖結合部分を含む個所ををエピトープとする抗体を用いて肝疾患病態指標糖鎖マーカーを検出することができる。
【0039】
例えば、マーカーのコアタンパク質に対する抗体及びレクチン“A”を用いて、マーカーを検出することにより、肝疾患患者を健常人と区別して検出することができ、好適には、レクチンアレイを用いる抗体オーバーレイ法(「Kuno A, Kato Y, Matsuda A, Kaneko MK, Ito H, Amano K, Chiba Y, Narimatsu H, Hirabayashi J. Mol Cell Proteomics. 8, 99-108(2009))を用いることができる。3の疾患特異的糖鎖変化の検証試験で1つないし2つ以上の最適なレクチン“A”が選抜されている場合、後述する第1または第2迅速測定方法を用いるのがより好適である。
【0040】
例えば、新規肝疾患病態指標糖鎖マーカーを用いる具体的な肝疾患の検出方法としては、
1)被験者から採取された試料中のレクチン“A”と特異的に反応する糖鎖を有する肝疾患病態指標糖鎖マーカーを測定する工程、
2)健常者から採取された試料中のレクチン“A”と特異的に反応する糖鎖を有する肝疾患病態指標糖鎖マーカーを測定する工程、
3)肝疾患患者から採取された試料中のレクチン“A”と特異的に反応する糖鎖を有する肝疾患病態指標糖鎖マーカーを測定する工程、
及び
4)被験者から得られた肝疾患病態指標糖鎖マーカーの測定結果と健常者又は肝疾患患者から得られた肝疾患病態指標糖鎖マーカーの測定結果を比較し、被験者の測定結果がより肝疾患患者の測定値に近い場合に肝疾患であると判別する工程を含む肝疾患の検出方法が挙げられる。
【0041】
また、多数の肝疾患患者および健常者の測定結果に基づいて、予め肝疾患を判別するための閾値を設定しておき、被験者の測定値を閾値と比較して被験者が肝疾患であるか否かを判定するようにしてもよい。
【0042】
4−1.線維化の進展測定方法
肝炎ウイルス感染による肝炎の進展に於いて、線維化の程度は、肝機能低下及び肝細胞発がんのリスクと相関する事が知られている。したがって線維化の測定は、肝機能低下および発がんリスクを評価することを意味する。また肝炎患者の全体の4割程度は、インターフェロン治療に反応せずウイルス感染が持続する。これらの病態が活動性に進行するか否かは、線維化の進展で判断されるべきであると考えられている。これらの観点から、線維化の進展を測定する事は、肝炎の診断治療に於いて重要な意味を持つ。
【0043】
現在行なわれている線維化の評価は、生検標本に対する病理診断による。近年、ファイブロスキャンの導入されたことで、当該方法が普及する事が期待される。また線維化を血清学的に評価する方法として、Fibro Test、Forn`s index、Hepatoscoreなどが臨床的に使用されているが、生検診断に比べて感度と特異度のいずれも劣る。
【0044】
AGPおよびM2BPについて、線維化の進展度合いの異なる患者血清群を用いて、抗体オーバレイ・レクチンマイクロアレイにより線維化の進展度合いに相関してシグナル強度が増加もしくは減少するレクチンを選択する。この情報をもとに、マーカー候補分子に対する抗体および線維化の進展でシグナル変動するレクチン“A”を用いたサンドイッチ検出方法、たとえばレクチン―抗体サンドイッチELISAや抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ法が確立できる。病理診断により線維化のステージングがされている患者血清を100程度収集し、それらについて分析を行い、各ステージにおけるカットオフ値を設定することにより、被患者血清を用い、肝線維化の進展をモニタリングすることができる。
【0045】
また、レクチン“A”として、AGPについては、AOLおよびMALから選択される第1レクチンを挙げることができ、M2BPについては、WFA、BPL、AAL、RCA120およびTJAIIから選択される第2レクチンを挙げることができる。以下、AOLおよびMALから選択されるレクチンを第1レクチンと呼ぶことがあり、WFA、BPL、AAL、RCA120およびTJAIIから選択されるレクチンを第2レクチンと呼ぶことがある。
例えば、少なくとも第1レクチンが固定された第1レクチンアレイと、抗AGP抗体とを用いて、第1レクチンに結合するAGPを測定することができ、少なくとも第2レクチンが固定された第2レクチンアレイと、抗M2BP抗体とを用いて、第2レクチンに結合するM2BPを測定することができる。
【0046】
4−2.肝硬変の検出
肝硬変は、肝小葉構造の消失した再生結節とこれを取り囲む緻密な線維性結合組織が肝全体に瀰漫性に出現する病態と定義される。これは、肝細胞障害と線維化が持続する進行性慢性肝疾患の終末状態でもある。肝硬変における肝生検は成因診断を探るために行なわれるもので、早期の肝硬変や大結節型の肝硬変では診断困難な症例が多い(外科病理学第4版、文光堂より)。したがって、肝硬変を定性的、定量的に診断できる検査技術が必要とされている。この目的に対し、1)の線維化の進展測定方法、の項で見出された線維化の進展をモニタリングできる候補分子抗体およびレクチンセットのうち、線維化ステージF3とF4を見分けることができる場合、肝硬変検出に使用できる。
【0047】
4−3.試料中の新規肝疾患病態指標糖鎖マーカー上の疾患特異的糖鎖変化の検出
試料としては、生検試料、体液試料、好適には、血液(血清、血漿等)が挙げられる。
測定とは、定性的測定及び定量的測定の両者を包含する。
【0048】
肝疾患病態指標糖鎖マーカーの測定は、例えば、(1)レクチン“A”を固定したカラムやアレイ、及び(2)AGPまたはM2BPに対する抗体を用いて行なうことができる。好適には、抗体オーバーレイ・レクチンアレイ法、より好適には迅速第1または第2迅速測定方法を用いることができる。
【0049】
また、AGPまたはM2BPの濃度を計測することもでき、これには、レクチンアレイを用いた抗体オーバーレイ・レクチンアレイ法、免疫学的測定法、酵素活性測定法、キャピラリー電気泳動法等が挙げられる。好適には、抗体オーバーレイ・レクチンアレイにより統計学的に選抜された疾患特異的糖鎖変化を最も反映するレクチン“A”とAGPまたはM2BPに特異的なモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体を用いた、酵素免疫測定法、2抗体サンドイッチELISA法、金コロイド法、放射免疫測定法、酵素化学発光免疫測定法、電気化学発光免疫測定法、ラテックス凝集免疫測定法、蛍光免疫測定法、ウェスタンブロッティング法、免疫組織化学法、表面プラズモン共鳴法(以下、SPR法と記す)等による定性的又は定量的手法を用いることができる。
【0050】
更に具体的には、準定量を、レクチン“A”及び抗新規疾患病態指標糖鎖マーカー抗体を用いるウエスタンブロッティング法により行なうこともできる。定性的測定において、前記「被験者の測定結果がより高い場合」とは、正常者より被験者の試料中に新規疾患病態指標糖鎖マーカーがより多く存在することが定性的に示された場合を意味する。更に、抗体を介さない糖鎖の直接測定法としてのレクチン法も含まれる。
【0051】
ここで、肝線維化進展に伴うAGPの糖鎖構造の変化に対応して反応性が変化するレクチン“A”としては、抗体オーバーレイ・レクチンアレイ後の統計解析により厳選されたAOL、MAL、又はAOLおよびMALの併用を挙げることができる。AOLは、肝線維化進展に伴いAGPの糖鎖に対する反応性が高くなるレクチン群の中で最も有意差を示すレクチンであり、MALは、肝線維化進展に伴いAGPの糖鎖に対する反応性が低くなるレクチン群の中で最も有意差を示すレクチンである。このためAOLに結合したAGPの測定値と、MALに結合したAGPの測定値の両方を用いると、より正確に被験者の肝疾患の病態を判別することができる。AOLに結合したAGPの測定値(AOL測定値)と、MALに結合したAGPの測定値(MAL測定値)の両者を用いる方法としては、周知の統計学的手法を採用することができるが、簡便には、AOL測定値とMAL測定値との差や比を用いることができる。なお、AOL測定値とMAL測定値との差や比を用いる場合には、両測定値のスケールを揃えることが好ましく、簡便には、両測定値のカットオフライン値の違いを求めてスケールを補正することができる。例えば、MALカットオフライン値とAOLカットオフライン値の比を用いて、AOL測定値およびMAL測定値の何れか一方を補正すれば良い。」AOLおよび/またはMALを用いて被験者から採取された試料に含まれるAGPを測定することにより、AGPを肝の線維化判別マーカー、肝硬変検出マーカーまたは肝細胞がん検出マーカーとして使用することができる。また、これらのレクチン“A”を用いて、インターフェロンなどの治療を行っている患者から採取された試料中のAGPを測定することにより治療効果のモニターを行うことが可能である。
【0052】
なお、AOLやMALに結合したAGPの測定値は、AGPの糖鎖構造の変化にかかわらず反応性が実質変化しないレクチンに結合したAGPの測定値を用いて規格化することが好ましい。このようなレクチンとしてはDSAが好ましい。また、被験者から採取した試料に含まれるAGPのコアタンパクの測定値を用いて、AOLやMALに結合したAGPの測定値の規格化を行っても良い。また、AOL測定値およびMAL測定値の両者を用いる方法においても、規格化されたAOL測定値および規格化されたMAL測定値を用いることが好ましい。例えば、上記第1レクチンアレイおよび第2レクチンアレイとして、それぞれにさらにDSAが固定されてものを用いて、DSAに結合するAGPを測定し、第1レクチンに結合したAGPの測定値をDSAに結合したAGPの測定値で規格化し、DSAに結合するM2BPを測定し、第2レクチンに結合したM2BPの測定値をDSAに結合したM2BPの測定値で規格化して、AGP及び/又はM2BPの測定を行うことができる。 肝の病態変化に伴うM2BPの糖鎖構造の変化に対応して反応性が変化するレクチン“A”としては、抗体オーバーレイレクチンアレイ後の統計解析により厳選されたWFA、BPL、AAL、RCA120、および/またはTJAIIを挙げることができる。WFA、BPL、AAL、RCA120、およびTJAIIはいずれも肝疾患の病態が進行するに従ってM2BPの糖鎖に対する反応性が高くなるレクチンである。WFA、BPLおよびTJAIIは、肝細胞がん患者、特に術後がん再発症例のM2BPとの反応性が強く、WFA、BPLおよび/またはTJAIIを用いて被験者から採取された試料に含まれるM2BPを測定することにより、M2BPを肝細胞がん高リスク群患者囲い込みマーカーとして使用することができる。また、AALおよび/またはRCA120を用いて被験者から採取された試料に含まれるM2BPを測定することにより、M2BPを肝の線維化判別マーカー、肝硬変検出マーカーまたは肝細胞がん検出マーカーとして使用することができる。また、肝細胞がんを摘出後の患者に対して、定期的にWFAを用いて、患者から採取された試料中のM2BPを測定することにより再発リスクの予測を行うことが可能である。なお、血清中に含まれる糖タンパク質でWFAに結合できる分子が非常に少ないため、測定試料として血清を直接使用することが可能となるため、WFAは測定系を構築する際の自由度が大きく好ましい。
【0053】
なお、WFA、BPL、AAL、RCA120またはTAJIIに結合したM2BPの測定値は、M2BPの糖鎖構造の変化にかかわらず反応性が実質変化しないレクチンに結合したM2BPの測定値を用いて規格化することが好ましい。このようなレクチンとしてはDSAが好ましい。また、被験者から採取した試料に含まれるM2BPのコアタンパクの測定値を用いて、WFA、BPL、AAL、RCA120またはTAJIIに結合したM2BPの測定値の規格化を行っても良い。
【0054】
AOL、MAL、又はDSAに結合したAGPの測定、およびWFA、BPL、AAL、RCA120、又はTAJIIに結合したM2BPの測定は、抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ法によって行うことが好ましい。特に、抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ法は、複数種のレクチンに結合したAGPまたはM2BPを同時に測定することができる。
また、レクチン“A”を用いてAGPやM2BPなどのマーカーを迅速に測定する場合には、下記の第1又は第2迅速測定方法で測定することが好ましい。
【0055】
第1迅速測定方法としては、レクチン“A”にビオチンを結合したビオチン化レクチン“A”と試料を混合し、そこにストレプトアビジンが固定された磁性粒子を添加して、磁性粒子−レクチン“A”−AGPの複合体を形成し、その複合体に標識抗AGP抗体を反応させて、磁性粒子−レクチン“A”−AGP−標識抗AGP抗体の第2複合体を形成し、第2複合体の標識量を測定することにより上記レクチン“A”に反応するAGPを定量する方法が挙げられる。なお、M2BPを測定する場合は、標識抗M2BP抗体を用いる以外は上記のAGPの測定方法と同様に実施できる。第1迅速測定方法では、試料中のAGPやM2BPの定量を60分程度で行うことが可能である。ビオチン化レクチン“A”とストレプトアビジン固定化磁性粒子を使用すると、試料中のAGPやM2BPに対するレクチン“A”の反応性が向上して、AGPやM2BPとレクチン“A”の反応時間を約30分程度に短縮できる。
【0056】
さらに、第2迅速測定方法としては、レクチン“A”を固定化した磁性粒子と試料を混合して試料中のAGPの糖鎖をレクチン“A”で捕捉し、磁性粒子に捕捉されたAGPに標識抗AGP抗体を反応させて、磁性粒子−レクチン“A”−AGP−標識抗AGP抗体の複合体を形成し、複合体の標識量を測定することにより上記レクチン“A”に反応するAGPを定量する方法が挙げられる。第2迅速測定方法においてもM2BPを測定する場合には、標識抗M2BP抗体を用いる以外は上記のAGPの測定方法と同様に実施できる。第2迅速測定方法では、試料中のAGPやM2BPの定量を20分程度で行うことが可能である。これはレクチン“A”固定化磁性粒子を使用すると、試料中のAGPやM2BPに対するレクチン“A”の反応性が著しく向上して、AGPやM2BPとレクチン“A”の反応時間を約5分程度まで短縮できる。
【0057】
第1及び第2迅速測定方法は、自動化に適しており、特に第2迅速測定方法は全自動測定装置で好適に実施可能である。第2迅速測定方法を自動化することにより、多検体の連続測定を容易に行うことができる。また、自動化により一つの検体に対する多項目測定(異なるレクチンを用いた測定)を短時間に実行することができる。
【0058】
標識抗AGP抗体や標識抗M2BP抗体の標識としては、蛍光物質や酵素が使用可能である。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、グリーン蛍光タンパク質(GFP)、ルシフェリンなどが挙げられる。酵素としては、例えば、アルカリホスファターゼ(ALP)、ペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼなどが挙げられる。酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、公知の発光基質、発色基質などを用いることができ、例えばCDP−star(登録商標)(4−クロロ−3−(メトキシスピロ{1,2−ジオキセタン−3,2'−(5'−クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}−4−イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3−(4−メトキシスピロ{1,2−ジオキセタン−3,2−(5'−クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン}−4−イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質、p−ニトロフェニルホスフェート、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−リン酸(BCIP)、4−ニトロブルーテトラゾリウムクロリド(NBT)、ヨードニトロテトラゾリウム(INT)などの発色基質が挙げられる。また、抗体をビオチン標識し、ストレプトアビジンが結合した上記蛍光物質や上記酵素をビオチン−アビジン結合を介して抗体に結合させてもよい。
【0059】
血液試料中に含まれる、肝臓の線維化により糖鎖構造が変化したAGPやM2BP量は微量であるため、高感度と標識検出の迅速化の観点から標識として酵素を使用し、発光基質を使用することが好ましい。
【0060】
なお、ALPなどの酵素は糖鎖を持っている。その糖鎖とレクチンの非特異反応を防止するために、脱グリコシル化処理された酵素を用いることが好ましい。このような処理を施した酵素としては、例えば、Recombinant AP,EIA Drade,CR 03535452(Roche Diagnostics社製)のように脱グリコシル化処理されたALPを使用することができる。
【0061】
また、抗AGP抗体や抗M2BP抗体についても糖鎖を持っている。その糖鎖とレクチンの非特異反応を防止するために、脱グリコシル化した抗体を使用することが好ましい。例えば、ペプシン消化及び還元を行うことでFab’に転換した抗AGP抗体や抗M2BP抗体を使用することが好ましい。
【0062】
標識抗体試薬の作製は、公知の方法に従い、抗AGP抗体または抗M2BP抗体と、EMCS[N−(6−Maleimidocaproyloxy)succinimido](同仁化学)のような架橋剤を用いてマレイミド化した標識を混合して、反応させることで標識抗体を調製することができる。例えば、脱グルコシル化処理されたALPを、架橋剤を用いてマレイミド化し、Fab’に転換した抗AGP抗体または抗M2BP抗体と反応させて調製したものを用いることが非特異反応防止の観点から好ましい。
【0063】
5.新規肝疾患病態指標糖鎖マーカーを用いた新規の特異的ポリクローナル抗体及び/又はモノクローナル抗体
新規肝疾患病態指標糖鎖マーカーを利用する肝細胞がんの検出方法において、肝疾患病態指標糖鎖マーカー特異的ポリクローナル抗体及び/又はモノクローナル抗体が容易に入手できる場合は、それらを用いることができるが、容易に入手できない場合は、例えば、以下のように調製できる。
【0064】
5−1.抗体の調製
本願発明の新規肝疾患病態指標糖鎖マーカーは、肝疾患検出用のポリクローナル抗体又はモノクローナル抗体の調製に用いることができる。
【0065】
例えば、新規肝疾患病態指標糖鎖マーカーに対する抗体は、周知の方法で、調製出来る。フロインドの完全アジュバントを同時投与して抗体の生成をブーストすることもできる。また、Xの糖鎖が結合している結合位置を含むペプチドを合成し、このペプチドを市販キーホール・リンペット・ヘモシアニン(keyhole limpet hemocyanin、KLH)に共有結合させ、動物に投与する。なお、このとき顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte-macrophage colony stimulating factor, GM-CSF)を同時に投与して抗体産生をブーストすることもできる。
【0066】
また、例えば、抗新規肝疾患病態指標糖鎖マーカーモノクローナル抗体は、ケラーとミルシュタインの方法で調製することができる(Nature Vol.256,pp495-497 (1975))。例えば、抗原で免疫した動物から得られる抗体産生細胞と、ミエローマ細胞との細胞融合によりハイブリドーマを調製し、得られるハイブリドーマから抗X抗体を産生するクローンを選択することにより調製することができる。
【0067】
具体的には、得られた抗原用の肝疾患病態指標糖鎖マーカーにアジュバントを添加する。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント、フロイントの不完全アジュバント等が挙げられ、これらの何れのものを混合してもよい。
【0068】
上記のようにして得られた抗原を哺乳動物、例えばマウス、ラット、ウマ、サル、ウサギ、ヤギ、ヒツジなどの哺乳動物に投与する。免疫は、既存の方法であれば何れの方法をも用いることができるが、主として静脈内注射、皮下注射、腹腔内注射などにより行う。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔で、好ましくは4〜21日間隔で免疫する。
【0069】
最終の免疫日から2〜3日後に抗体産生細胞を採集する。抗体産生細胞としては、脾臓細胞、リンパ節細胞、末梢血細胞が挙げられる。
【0070】
抗体産生細胞と融合させるミエローマ(骨髄腫)細胞として、マウス、ラット、ヒトなど種々の動物に由来し、当業者が一般に入手可能な株化細胞を使用する。使用する細胞株としては、薬剤抵抗性を有し、未融合の状態では選択培地(例えばHAT培地)で生存できず、融合した状態でのみ生存できる性質を有するものが用いられる。一般的に8-アザグアニン耐性株が用いられ、この細胞株は、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼを欠損し、ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン(HAT)培地に生育できないものである。
【0071】
ミエローマ細胞は、既に公知の種々の細胞株、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J. Immunol. 123, 1548-1550 1979))、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology 81, 1-7 (1978))、NS-1(Kohler, G. and Milstein, C., Eur. J. Immunol. 6,511-519(1976))、MPC-11 (Margulies, D.H. et al., Cell 8,405-415(1976))、SP2/0(Shulman, M. et al., Nature 276,269-270(1978)) 、FO(de St.Groth, S.F. et al., J. Immunol. Methods 35, 1-21(1980))、S194(Trowbridge, I.S., J. Exp. Med. 148, 313-323(1978))、R210(Galfre, G. et al.,Nature 277, 131-133(1979))等が好適に使用される。
【0072】
次に、上記ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを細胞融合させる。細胞融合は、MEM、DMEM、RPME-1640培地などの動物細胞培養用培地中で、ミエローマ細胞と抗体産生細胞とを、混合比1:1〜1:10で融合促進剤の存在下、30〜37℃で1〜15分間接触させることによって行われる。細胞融合を促進させるためには、平均分子量1,000〜6,000のポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール又はセンダイウイルスなどの融合促進剤や融合ウイルスを使用することができる。また、電気刺激(例えばエレクトロポレーション)を利用した市販の細胞融合装置を用いて抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることもできる。
【0073】
細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、選択培地における細胞の選択的増殖を利用する方法等が挙げられる。すなわち、細胞懸濁液を適切な培地で希釈後、マイクロタイタープレート上にまき、各ウェルに選択培地(HAT培地など)を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
【0074】
ハイブリドーマのスクリーニングは、限界希釈法、蛍光励起セルソーター法等により行い、最終的にモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを取得する。取得したハイブリドーマからモノクローナル抗体を採取する方法としては、通常の細胞培養法や腹水形成法等が挙げられる。
【0075】
また、本願発明で言う抗体には、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよく、1本鎖Fvs(scFv)、1本鎖抗体、Fab断片、F(ab')断片、ジスルフィド連結Fvs(sdFv)なども含まれる。更に、第1又は第2の迅速測定法に限らず、本願発明で用いる抗体としては、糖鎖とレクチンの非特異反応を防止するために、脱グリコシル化した抗体を使用することが好ましい。例えば、ペプシン消化及び還元を行うことでFab’に転換した抗AGP抗体や抗M2BP抗体を使用することができる。
【実施例】
【0076】
[実施例1] 肝疾患病態指標糖鎖マーカー糖タンパク質の肝疾患検出への利用
肝疾患病態指標糖鎖マーカー糖タンパク質であるAGP、およびMac2BP(M2BP)について、抗体オーバーレイ・レクチンアレイを活用して肝疾患の検出を実施した例を以下に示す。なお、本手法による(ウイルス性)肝炎患者(CH)、肝硬変患者(LC)、肝細胞がん患者(HCC)、および健常者(HV)血清に由来する該マーカー糖タンパク質上糖鎖の比較解析の手順を図7に示す。
【0077】
1.マーカータンパク質の血清からのエンリッチ
(ウイルス性)肝炎患者(CH)、肝硬変患者(LC)、肝細胞がん患者(HCC)、および健常者(HV)血清に由来する該マーカー糖タンパク質のエンリッチは、「Kuno A, Kato Y, Matsuda A, Kaneko MK, Ito H, Amano K, Chiba Y, Narimatsu H, Hirabayashi J.Mol Cell Proteomics. 8, 99-108 (2009) 」に従って行われた。なお、得られる結果が病態に依存していることを明らかにするため、各病態につき5例ずつを分析に用いることにした。各患者血清を0.2%SDS含有PBS緩衝液で10倍希釈し、10分間95℃で加熱処理したものを、AGPにおいては5μL、Mac2BPにおいては20μL反応チューブに分注し、そこへ500 ngの各抗原に対する抗体(ビオチン化物)を添加した。各反応溶液は反応バッファー(1%Triton X-100入りTris-buffered saline (TBSTx))により、45μLに調整された後、4℃で2時間振盪反応された。抗原抗体反応後、速やかにストレプトアビジン固定化磁気ビーズ溶液(Dynabeads MyOne Streptavidin T1, DYNAL Biotech ASA製)をあらかじめ反応バッファーで3回洗浄し、かつ2倍濃縮状態で調整したもの5μL(元のビーズ溶液10μL分に相当)を上記反応溶液へ加え、1時間さらに反応した。この反応により、ビオチン化抗体を介して、該糖タンパク質は磁気ビーズと複合体を形成する。この複合体を磁気ビーズ回収用マグネットに吸着させた後に溶液を廃棄した。回収された複合体は500μLの反応バッファーにより3回洗浄された後に、10μLの溶出バッファー(0.2%SDS含有TBS)に懸濁された。この懸濁溶液を95℃で5分間熱処理することで、該糖タンパク質を磁気ビーズから解離溶出し、得られた溶液を溶出液とした。その際、熱変性されたビオチン抗体も混入するため、溶出液に上述の手法で2倍濃縮状態で調整された磁気ビーズ溶液を10μL(元のビーズ溶液20μl分に相当)加え、1時間反応することで、ビオチン化抗体を吸着除去した。これにより得られた溶液を血清由来該糖タンパク質溶液とし、以降の実験に用いた。
【0078】
2.抗体オーバーレイ・レクチンアレイ
上述により得られた該糖タンパク質溶液適当量とり、レクチンアレイ反応バッファーである1%Triton X-100含有Phosphate-buffered saline (PBSTx)により、60μLに調整した。この溶液をレクチンマイクロアレイの各反応槽(ガラス1枚当たり8つの反応槽が形成されている)へ添加し、20℃で10時間以上反応した。この8つの反応槽からなるレクチンマイクロアレイ基盤の作製は内山ら(Proteomics 8, 3042-3050 (2008))の手法に従った。これにより該糖タンパク質上の糖鎖とアレイ基板上に固定されている43種のレクチンとの結合反応が平衡状態に達する。その後、未反応の基盤上レクチンへ検出用抗体上の糖鎖が結合し、ノイズとして生じてしまうことを避けるため、ヒト血清由来IgG溶液(シグマ社製)を2μL加え、30分反応させた。60μLのPBSTxで各反応槽を3回洗浄した後、再度ヒト血清由来IgG溶液を2μL加え、若干攪拌した後に、検出用の該糖タンパク質に対する抗体(ビオチン化物)を100 ng相当加え、20℃で1時間反応させた。抗原抗体反応後、60μLのPBSTxで各反応槽を3回洗浄し、次いでCy3標識ストレプトアビジン200 ng相当が含有しているPBSTx溶液を加え、さらに30分、20℃で反応した。反応後、60μLのPBSTxで各反応槽を3回洗浄した後、モリテックス社製アレイスキャナーGlycoStationによりアレイスキャンを行った。
【0079】
得られた結果のうち、各病態の典型例をAGPは図8に、Mac2BPは図9ににそれぞれ示す。図8は肝疾患病態指標マーカー糖タンパク質の一つであるα1酸性糖タンパク質(AGP)について、抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイにより比較糖鎖解析を行った結果を示す図である。レクチンマイクロアレイ上のレクチン配置を上段左図に示す。本実験により有意なシグナルが得られたレクチンを太字で示す。15種のレクチンにおいてシグナルが得られた。肝細胞がん、肝硬変、および慢性肝炎患者血清、および健常者血清由来AGPの典型的なスキャンイメージを上段右図に示す。スキャンデータよりアレイ解析ソフトを用い各シグナルを数値化し、15種のレクチンについてグラフで表したものを下段に示す。明らかに肝細胞がん、肝硬変群と肝炎、健常者群の間にシグナルパターンに差が生じているのが分かる。図9は、肝疾患病態指標マーカー糖タンパク質の一つである90K/Mac-2 Binding Protein(M2BP)について、抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイにより比較糖鎖解析を行った結果である。レクチンマイクロアレイ上のレクチン配置を上段左図に示す。本実験により有意なシグナルが得られたレクチンを太字で示す。17種のレクチンにおいてシグナルが得られた。肝細胞がん、肝硬変、および慢性肝炎患者血清、および健常者血清由来M2BPの典型的なスキャンイメージを上段右図に示す。スキャンデータよりアレイ解析ソフトを用い各シグナルを数値化し、17種のレクチンについてグラフで表したものを下段に示す。病態の重篤度に応じてシグナル強度に変化(増加もしくは減少)が生じているのが分かる。
【0080】
[実施例2] 肝疾患病態指標糖鎖マーカー糖タンパク質AGPの抗体オーバーレイ・レクチンアレイ解析による肝線維化進展の判別
実施例1の通り、糖タンパク質の抗体オーバーレイ・レクチンアレイ解析により得られたレクチンシグナル情報から、統計解析により取捨選択し最適なものを用いることで、各肝疾患病態を検出できる可能性が見出された。
そこでAGPを標的分子とし、以下の手順で実験を実施した。
【0081】
1.肝硬変と肝炎を区別するレクチンの絞り込み
線維化進展に伴いシグナル変動を示すレクチン群を絞り込むため、まず臨床診断済み患者HCC, LC, CH各10症例の血清を用い、AGPの抗体オーバーレイ・レクチンアレイ解析を実施した。より客観的な絞り込みを行うため、HCC-LCおよびLC-CH間でStudent T検定を行い、危険度が0.1%以下の値を示すレクチンを有用レクチンとした。その結果を表3に示す。先の実験結果(図8)からわかるように、AGPのアレイ解析により、15種のレクチンにおいてシグナルが得られているが、そのうちStudent T検定により危険度が0.1%以下の有意差を示すレクチンはLEL, AOL, AAL, MAL, STL,およびPHAEの6種であった。また、本実験により、最もシグナル変動せず再現性高い結果を取得できたレクチンDSAについては、取得されたデータの規格化に有効性を見出し、以降スキャン後、数値化されたデータはすべてDSAシグナルにより規格化することとした。
【表3】
【0082】
2.線維化進展を判別するレクチンの絞り込み
つぎに、肝炎ウイルスに罹患し、肝生検により病理診断され線維化のステージングがなされている患者群125症例を対象に、抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイを実施例1の手順に従い行った。なお、125症例の肝臓線維化ステージの内訳は、F0およびF1が33症例、F2が32症例、F3が31症例、F4が29症例である。上述の手順に従い、統計学的に判別に有用なレクチンの絞り込みを行った。その結果、上位6種レクチンの結果を表4に示す。先に得られた6つレクチンが上位を占め、その中でもLEL, AOL, MALが最も判別に有効なものとして選抜されたため、この3種についてより詳細なデータ解析を行った。
【表4】
【0083】
図10は、肝臓の線維化進展とAGPの抗体オーバーレイ・レクチンアレイ解析により得られたレクチンシグナル強度の変化との相関を示す図である。各シグナルはDSAレクチンのシグナルにより規格化されており、数値はDSAシグナルを100%とした時の相対シグナル強度としてあらわされている。図10の上段のAにおいては、肝生検後の病理解析により線維化のステージング(F)がされている125症例についてレクチンアレイ解析を行い、各ステージのレクチンシグナルの分布を箱ひげ図により示している。箱の上端および下端はそれぞれ75%点、25%点を示し、ひげの上端および下端はそれぞれ95%点、5%点を示す。箱中の横線は中央値を示し、×は平均値を示す。肝硬変(F4)と慢性肝炎の各ステージ群(F0, 1, 2および3)の有意差を検定するためにStudent-T 検定を行い、その危険度がP<0.0001のものに*を付記した。また対照として一般的生化学検査で肝臓の線維化の指標として用いられている血小板の数値の分布も同様に記す。その結果AOLのシグナルは、線維化の進展に伴い強度を増し、強度差で慢性肝炎(F0-3)と肝硬変(F4)を十分見分けることができることが分かった。それに対し、MALおよびLELシグナルは線維化の進展に伴い強度が減少していることが分かった。
【0084】
AOL、MALおよびLELのシグナル変動を同一患者で経時的に測定した結果を図10の下段B に示す。図10の下段Bにおいては、肝硬変患者、および肝細胞がん患者それぞれ1症例のシリーズ検体(採取時期の異なる血清)中のAGPについて抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ解析を行い、DSAシグナルによる規格化後のAOL, MAL, LELの相対シグナル値をプロットしている。時間軸は肝硬変および肝細胞がんと確定診断された日を0としている。AOLシグナルは経時的に増加し、MALのシグナルは減少しており、これが肝線維化進展を反映させている。それに対し、LELシグナルや簡易線維化マーカーとして用いられている血小板数は、ある特定の時期に急激な変動を示しており、線維化の進展をクリアーに表現するものではなかった。
【0085】
以上の結果より、AOLおよびMALのシグナル変動を単独もしくは組み合わせることで、肝臓の線維化の進展判別が可能となることが分かった。
【0086】
[実施例3] 肝疾患病態指標糖鎖マーカー糖タンパク質AGPの抗体オーバーレイ・レクチンアレイ解析による肝硬変の検出
実施例2の結果から、肝線維化の進展を基準として各レクチンシグナル単独もしくは組み合わせのカットオフ値を設定することで、肝硬変の検出が可能となると考え、以下の手順で実験を実施した。
【0087】
1.肝硬変を検出するためのレクチンシグナル・カットオフ値の設定
まず、肝炎ウイルス罹患者の中から肝硬変発症患者を検出するための、各レクチンのカットオフ値を設定することにした。このために病理診断済み患者80症例分(F1, F2, F3, F4各20症例)を対象に、実施例2で絞り込まれた2種レクチンのシグナルをDSAレクチンシグナルで規格化したデータを用い、他(F1-F3)からF4(肝硬変)を区別するReceiver operating characteristic curve (ROC曲線)を作成した。その結果を図11左に示す。図11には、AOL, MALシグナルを単独に用いた場合の曲線のほかに、2つのシグナルを用いた数式(AOLの相対シグナル強度)X 1.5 -(MALの相対シグナル強度)から得られる数値による曲線も示す。曲線の下部領域の面積を示すAUC(area under curve)値を求め、各手法の診断力を査定する。また感度100%、特異度100%点から最も近い距離にある曲線上の点、言い換えるとY=Xの直線に平行な線と、ROC曲線との接点を、「最適な特異度および感度」とし、その周辺にカットオフ値を設定した。それらの数値を図11の右表に記す。得られたカットオフ値を用い、病理学的診断又は画像・臨床診断 により肝炎および肝硬変と確定された患者、45症例および43症例を対象にブラインドテストを実施した。その結果を図11の右表のValidation setの項に記す。肝硬変を陽性、肝炎を陰性とし、それぞれの検出数を列挙した。ROC曲線より、最良の感度(Sensitivity)および特異度(Specificity)を示す点におけるカットオフ値を決定したところ、AOLは8%、MALは11.8%であった。また、コンビネーションの系が最も偽陰性、偽陽性患者数が少なく、正診率(%)((総患者数―偽陽性、偽陰性患者数)/(総患者数)X100)が高くなった。
【0088】
2.肝硬変の検出
臨床診断済み慢性肝炎患者45症例および肝硬変患者43症例について、実施例2の手順に従い、AGPを標的分子とした抗体オーバーレイ・レクチンアレイを実施した。シグナルはすべてDSAレクチンのシグナルを100%とし、規格化した。その数値を上述したカットオフ値を利用し、陽性、陰性の判別をすることにより、肝硬変検出検定を試みた。その結果、AOLシグナルを用いた場合、検出力として感度86.1%、特異度91.1%、正診率88.6%となり、MALシグナルを用いた場合、検出力として感度90.7%、特異度88.9%、正診率89.8%となった。いずれもかなり高度な検出が可能でり、正診率が85%を超えていた。さらに、2つのシグナルをコンビネーションした式((AOLの相対シグナル強度)X 1.5 -(MALの相対シグナル強度))を用いて検出力を調べてみたところ、感度95.4%、特異度91.1%、正診率は93.2%という最も確度の高い肝硬変検出結果が得られた。特筆すべきことは、これまで公知となっているAALレクチンやRCAレクチンを用いたAGPの疾患特異的糖鎖変化を検出する手法と比較して圧倒的に検出力が高い点である。このような結果は、今回の抗体オーバーレイ・レクチンアレイによる絞り込みの工程で、AALやRCA120がAOL, MALに比べ劣っていたことと一致する(表3,4を参照)。
【0089】
[実施例4] 肝臓の線維化進展をモニタリングできるマーカーを用いたインターフェロンの治療効果判定
実施例2の結果により、AOLおよびMALのシグナル変動の観察により、線維化の進展をモニタリングすることができることが分かった。そこで、AOL/DSAやMAL/DSAを線維化進展パラメーターとして用い、抗ウイルス剤であるインターフェロンの治療効果を判定できるかを試みた。C型肝炎患者でインターフェロンの治療効果が認められた持続性ウイルス陰性化(SVR)例群と、治療効果が認められなかったウイルス学的不応(NVR)例群について以下の実験を行った。インターフェロン治療後、経時的に血液採取された患者の血清を対象に実施例1と同様の手法で血清中AGPのエンリッチおよび抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ解析を行い、DSAシグナルによる規格化後のAOL, MALの相対シグナル値を算出した。その典型例それぞれ2症例分の各シグナルの経時的変化を図12に示す。時間軸は治療直後の採血日を0とし、相対結合シグナルは治療直後の相対値を0としている。SVR症例ではMALシグナルは経時的に増加したが、AOLのシグナルは減少もしくはシグナル検出できなかった。すなわち、これら症例は線維化が緩和されている傾向にあった。それに対しNVR症例では、AOLシグナルは経時的に増加し、MALのシグナルはほぼ変化がなかった。すなわちこれら症例の線維化は緩和されず、むしろ悪化している(線維化が進展している)傾向が観察された。以上により、インターフェロン治療後の効果判定を血液検査で行うことが可能であることがわかった。
【0090】
[実施例5]
1.第1迅速測定方法(マニュアル法)
1−1.試薬の調製
R1試薬の調製:緩衝液A(PBS−1%TritonX、pH7.4)中に5μg/mLのビオチン化DSA(J−オイルミルズ社製)を添加してR1試薬1を調製した。緩衝液A中に5μg/mLのビオチン化MAL(Vector社製)を添加してR1試薬2を調製した。緩衝液A中に2.5μg/mLのビオチン化AOLを添加してR1試薬3を調製した。なお、ビオチン化AOLは、ビオチン標識キット(DOJIDO社製)を用いて、AOL(東京化成社製)をビオチン化したものを使用した。
【0091】
R2試薬の調製:緩衝液A中にストレプトアビジンが固定された磁性粒子(個数平均粒径2μm)を0.5w/v%となるように添加してR2試薬を調製した。
【0092】
R3試薬の調製:0.025U/mLのALP標識マウス抗AGPモノクローナル抗体、0.1MのMES(2−(N−Morpholino)ethanesulfonic acid、pH6.5)、0.15Mの塩化ナトリウム、1mMの塩化マグネシウム、0.1mMの塩化亜鉛、0.1w/v%のNaN3および0.5w/v%のカゼインNa含む溶液を調製しR3試薬1とした。0.025U/mLのALP標識マウス抗AGPモノクローナル抗体に代えて0.5U/mLのALP標識マウス抗AGPモノクローナル抗体を用いる以外はR3試薬1と同様にしてR3試薬2を調製した。
【0093】
R4試薬の調製:0.1Mの2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP、pH9.6)、1mMの塩化マグネシウムおよび0.1w/v%のNaN3を含む溶液を調製しR4試薬とした。
【0094】
R5試薬の調製:CDP−Star with Sapphirine−II(ALPの発光基質、アプライドバイオシステムズ社製)をR5試薬とした。
【0095】
洗浄試薬の調製:20mMのトリス(pH7.4)、0.1w/v%のTween20、0.1w/v%のNaN3および0.8w/v%の塩化ナトリウムを含む溶液を調製し洗浄試薬とした。
【0096】
1−2.DSAの希釈直線性の確認
コンセーラ(正常ヒト血清、日水製薬社製)中のAGPを、実施例1のエンリッチと同様にして、抗AGP抗体を用いて緩衝液B(TBS−0.5%TritonX−0.1%SDS)に回収し試料とした。回収した試料を緩衝液Bで1倍、1/2倍、1/4倍、1/8倍、1/16倍にそれぞれ希釈した希釈試料を調製した。
【0097】
各希釈試料30μLについて、110μLのR1試薬1を添加し室温で2分間反応後、30μLのR2試薬を添加し室温で30分間反応させた。DSAとAGPの複合体を担持した磁性粒子を集磁してB/F分離を行った後、洗浄試薬で分離された磁性粒子を洗浄し溶液を廃棄する処理を4回行った。洗浄された磁性粒子に100μLのR3試薬1を添加し室温で20分間反応を行い、磁性粒子に担持された複合体中のAGPとALP標識マウス抗AGPモノクローナル抗体を反応させた。ALP標識マウス抗AGPモノクローナル抗体とAGPとDSAの複合体を担持した磁性粒子を集磁した状態で液体成分を除去(B/F分離)した後、洗浄試薬で分離された磁性粒子を洗浄し溶液を廃棄する処理を4回行った。複合体担持磁性粒子を50μLのR4試薬に分散させ100μLのR5試薬を添加し、発光測定装置を用いてALPによる化学発光強度をphoto count値として測定した。結果を図13に示す。図13に示されるようにDSA測定系についてはR2=0.99と良好な直線性を示した。
【0098】
1−3.MALの希釈直線性の確認
「DSAの希釈直線性の確認」において、R1試薬1に代えてR1試薬2を使用し、R3試薬1に代えてR3試薬2を使用すること以外は同様にして、MAL測定系における希釈直線性の確認実験を行い、結果を図14に示した。図14に示されるようにMAL測定系についてはR2=0.99と良好な直線性を示した。
【0099】
1−4.AOLの希釈直線性の確認
「DSAの希釈直線性の確認」において、コンセーラに代えてHCV陽性血漿2(Millenium Biotech社製)を使用し、R1試薬1に代えてR1試薬3を使用すること以外は同様にして、AOL測定系における希釈直線性の確認実験を行い、結果を図3に示した。図15に示されるようにAOL測定系についてはR2=0.98と良好な直線性を示した。
【0100】
1−5.各種市販検体に対するDSA、MALおよびAOL測定
コンセーラ(正常ヒト血清、日水製薬社製)、正常ヒト血清(TRINA社製)、HCV陽性血漿1および2(Millenium Biotech社製)のそれぞれについて、実施例1のエンリッチと同様にして、抗AGP抗体を用いてAGPを分離し、緩衝液(TBS−0.5%TritonX−0.1%SDS)に回収し測定試料とした。また、緩衝液のみをブランク測定試料(NC)とした。
【0101】
各測定試料30μLについて、110μLのR1試薬1を添加し室温で2分間反応後、30μLのR2試薬を添加し室温で30分間反応させた。DSAとAGPの複合体を担持した磁性粒子を集磁してB/F分離を行った後、洗浄試薬で分離された磁性粒子を洗浄し溶液を廃棄する処理を4回行った。洗浄された磁性粒子に100μLのR3試薬1を添加し室温で20分間反応を行い、磁性粒子に担持された複合体中のAGPとALP標識マウス抗AGPモノクローナル抗体を反応させた。ALP標識マウス抗AGPモノクローナル抗体とAGPとDSAの複合体を担持した磁性粒子を集磁してB/F分離を行った後、洗浄試薬で分離された磁性粒子を洗浄し溶液を廃棄する処理を4回行った。複合体担持磁性粒子を50μLのR4試薬に分散させ100μLのR5試薬を添加し、発光測定装置を用いてDSA測定系における化学発光強度をphoto count値として測定した。測定に要した時間は65分であった。測定結果を表5に示す。
【0102】
また、DSA測定系において、R1試薬1に代えてR1試薬2を使用し、R3試薬1に代えてR3試薬3を使用すること以外は同様にしてMAL測定系における化学発光を測定し、結果を表5に示した。また、DSA測定系において、R1試薬1をR1試薬3に代えること以外は同様にしてAOL測定系における化学発光を測定し、結果を表5に示した。また、MALおよびAOLによる測定結果をDSAによる測定結果で規格化した値を表5に示すと共に図16および図17に示した。
【表5】
【0103】
1−6.各種市販検体に対するレクチンアレイ法による測定
上記1−5の各測定試料について、実施例1で用いたレクチンアレイを用いて、抗体オーバーレイ法による測定を行った。レクチンアレイ法による測定時間は約18時間であった。結果を表6に示すと共に図18及び図19に示した。
【表6】
【0104】
DSAで規格化したMALの測定結果について、図16に示した本実施形態の第1測定法による測定結果が、図18に示したレクチンアレイ法による測定結果と良好な相関を示すことがわかった。また、DSAで規格化したAOLの測定結果について、図17に示した第1迅速測定法による測定結果が、図19に示したレクチンアレイ法による測定結果と同様のパターンを示し、良好な相関を示すことがわかった。
【0105】
2.第2迅速測定方法(自動測定法)
2−1.試薬の調製
R1試薬の調製:緩衝液A(PBS−1%TritonX、pH7.4)をR1試薬とした。
【0106】
R2試薬の調製:緩衝液A中にストレプトアビジンが固定された磁性粒子(個数平均粒径2μm)を0.5w/v%となるように添加し、さらに2.5μg/mLのビオチン化DSA(J−オイルミルズ社製)を添加して室温で30分撹拌した。撹拌後集磁して磁性粒子を沈降させて溶液成分を廃棄した。ここに緩衝液Aを添加して撹拌後、集磁して磁性粒子を沈降させて溶液成分を廃棄する操作を3回繰返し行った。これに磁性粒子濃度が0.5w/v%になるように緩衝液Aを添加してDSAを担持した磁性粒子を含むR2試薬1とした。2.5μg/mLのビオチン化DSA(J−オイルミルズ社製)に代えて25μg/mLのビオチン化MAL(Vector社製)を用いる以外はR2試薬1と同様にしてMALを担持した磁性粒子を含むR2試薬2を調製した。2.5μg/mLのビオチン化DSA(J−オイルミルズ社製)に代えて25μg/mLのビオチン化AOLを用いる以外はR2試薬1と同様にしてAOLを担持した磁性粒子を含むR2試薬3を調製した。なお、ビオチン化AOLは、ビオチン標識キット(DOJIDO社製)を用いて、AOL(東京化成社製)をビオチン化したものを使用した。
【0107】
R3試薬の調製:0.1U/mLのALP(Recombinant AP,EIA Drade,CR 03535452)標識マウス抗AGPモノクローナル抗体−Fab’、0.1MのMES(2−(N−Morpholino)ethanesulfonic acid、pH6.5)、0.15Mの塩化ナトリウム、1mMの塩化マグネシウム、0.1mMの塩化亜鉛、0.1w/v%のNaN3および0.25w/v%のカゼインNa含む溶液を調製しR3試薬1とした。0.25w/v%のカゼインNaに代えて0.1w/v%のBSAを用いる以外はR3試薬1と同様にしてR3試薬2を調製した。
【0108】
なお、上記の第1迅速測定方法(マニュアル法)においては、脱グリコシル化されていないALPを用いたが、第2迅速測定方法では脱グリコシル化されたALPを使用した。
【0109】
R4試薬の調製:0.1Mの2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP、pH9.6)、1mMの塩化マグネシウムおよび0.1w/v%のNaN3を含む溶液を調製しR4試薬とした。
【0110】
R5試薬の調製:CDP−Star with Sapphirine−II(ALPの発光基質、アプライドバイオシステムズ社製)をR5試薬とした。
【0111】
洗浄試薬の調製:20mMのトリス(pH7.4)、0.1w/v%のTween20、0.1w/v%のNaN3および0.8w/v%の塩化ナトリウムを含む溶液を調製し洗浄試薬とした。
【0112】
2−2.DSAを用いる測定系の希釈直線性の確認
コンセーラ(正常ヒト血清、日水製薬社製)中のAGPを、実施例1のエンリッチと同様にして、抗AGP抗体を用いて緩衝液B(TBS−0.5%TritonX−0.1%SDS)に回収し試料とした。回収した試料を緩衝液Bで1倍、1/2倍、1/4倍、1/8倍、1/16倍にそれぞれ希釈した希釈試料を調製した。
【0113】
全自動免疫測定装置HISCL2000i(シスメックス社製)の動作設定を下記の条件に変更し、各希釈試料について化学発光(photo count値)を測定した。
【0114】
各希釈試料30μLを容器に分注し、42℃で2.25分間インキュベートした後、30μLのR2試薬1を分注し、42℃で2.5分間反応させた。さらに100μLのR3試薬1を分注し、42℃で2.75分間反応させた。磁気分離により磁性粒子を集磁して溶液を吸引廃棄した。洗浄試薬を分注して洗浄試薬に磁性粒子を分散洗浄し、磁気分離により磁性粒子を集磁して溶液を吸引廃棄する処理を3回繰り返し実行した。50μLのR4試薬を分注し、次いで100μLのR5試薬を分注し化学発光を測定した。上記の測定を3回行いその結果を図20に示す。図20に示されるようにDSA測定系についてはR2=0.98と良好な直線性を示した。
【0115】
2−3.MALを用いる測定系の希釈直線性の確認
「DSAを用いる測定系の希釈直線性の確認」において、R2試薬1に代えてR2試薬2を使用し、R3試薬1に代えてR3試薬2を使用すること以外は同様にして、MAL測定系における希釈直線性の確認実験を行い、結果を図21に示した。図21に示されるようにMAL測定系についてはR2=0.99と良好な直線性を示した。
【0116】
2−4.AOLを用いる測定系の希釈直線性の確認
「DSAの希釈直線性の確認」において、コンセーラに代えてHCV陽性血漿2(Millenium Biotech社製)を使用し、R2試薬1に代えてR2試薬3を使用すること以外は同様にして、AOL測定系における希釈直線性の確認実験を行い、結果を図22に示した。図22に示されるようにAOL測定系についてはR2=0.99と良好な直線性を示した。
【0117】
2−5.各種市販検体に対するDSA、MALおよびAOLを用いる測定
コンセーラ(正常ヒト血清、日水製薬社製)、正常ヒト血清(TRINA社製)、HCV陽性血漿1および2(Millenium Biotech社製)のそれぞれについて、抗AGP抗体を用いた免疫沈降法によりAGPを分離し、緩衝液B(TBS−0.5%TritonX−0.1%SDS)に回収し測定試料とした。また、緩衝液Bのみをブランク測定試料とした。
【0118】
「DSAを用いる測定系の希釈直線性の確認」、「MALを用いる測定系の希釈直線性の確認」および「AOLを用いる測定系の希釈直線性の確認」と同様の条件で全自動免疫測定装置HISCL2000iを用いて各測定試料の測定を行った。各測定に要した時間は17分であった。結果を表7、図23および図24に示す。
【表7】
【0119】
DSAを用いた測定結果で規格化したMALを用いた測定結果について、図23に示した第2迅速測定法による測定結果が、図18に示したレクチンアレイ法による測定結果と良好な相関を示すことがわかった。また、DSAを用いた測定結果で規格化したAOLを用いた測定結果について、図24に示した第2迅速測定法による測定結果が、図19に示したレクチンアレイ法による測定結果と同様のパターンを示し、良好な相関を示すことがわかった。
【0120】
2−6.臨床検体に対するDSA、MALおよびAOLを用いる測定
線維化ステージF1の患者血清1及び2、線維化ステージF2の患者血清3及び4、線維化ステージF3の患者血清5及び6、線維化ステージF4の患者血清7及び8のそれぞれについて、実施例1のエンリッチと同様にして、抗AGP抗体を用いてAGPを分離し、緩衝液B(TBS−0.5%TritonX−0.1%SDS)に回収し測定試料とした。また、緩衝液Bのみをブランク測定試料とした。
【0121】
「DSAを用いる測定系の希釈直線性の確認」、「MALを用いる測定系の希釈直線性の確認」および「AOLの希釈直線性の確認」と同様の条件で全自動免疫測定装置HISCL2000iを用いて各測定試料の測定を行った。各測定に要した時間は17分であった。結果を表8、図25および図26に示す。
【表8】
【0122】
2−7.臨床検体に対するレクチンアレイ法による測定
上記2−6の各測定試料について、実施例1で用いたレクチンアレイを用いて、抗体オーバーレイ法による測定を行った。レクチンアレイ法による測定時間は約18時間であった。結果を表9、図27及び図28に示した。
【表9】
【0123】
図25〜図28に示された結果から第2迅速測定法が、臨床検体に対してもレクチンアレイ法と同様のパターンを示し、良好な相関を示すことがわかった。
【0124】
[実施例6] 第2迅速測定法のバリデーション
1.HCV感染患者125症例を用いた解析
実施例5により第2迅速測定法はレクチンアレイと同様のパターンを示すことがわかった。より多くの症例で実証するために、実施例2で使用した、肝炎ウイルスに罹患し、肝生検により病理診断され線維化のステージングがなされている患者群125症例を対象に、第2迅速測定法を実施例5の2−6の手順に従い行った。なお、125症例の肝臓線維化ステージの内訳は、F0およびF1が33症例、F2が32症例、F3が31症例、F4が29症例である。
【0125】
図29は、肝臓の線維化進展とAGPの第2迅速測定法により得られたレクチンシグナル強度の変化との相関を示す図である。各シグナルはDSAレクチンのシグナルにより規格化されており、数値はDSAシグナルを100%とした時の相対シグナル強度としてあらわされている。図29の左においては、肝生検後の病理解析により線維化のステージング(F)がされている125症例について第2迅速測定法を行い、各ステージのレクチンシグナルの分布を箱ひげ図により示している。第2迅速測定法により得られた3種レクチン値からMAL/DSA値を求め、箱ひげ図にしたものが左上段であり、AOL/DSA値を求め、箱ひげ図にしたものが左下段である。箱の上端および下端はそれぞれ75%点、25%点を示し、ひげの上端および下端はそれぞれ95%点、5%点を示す。箱中の横線は中央値を示し、×は平均値を示す。その結果はいずれもレクチンアレイの結果と酷似しており、AOLのシグナルは、線維化の進展に伴い強度を増し、強度差で慢性肝炎(F0-3)と肝硬変(F4)を十分見分けることができることが分かった。それに対し、MALシグナルは線維化の進展に伴い強度が減少していることが分かった。レクチンアレイの結果と第2迅速測定法の結果との間に相関性があることを支持するために、両者から得られた数値を2次元プロットした。そのグラフを図29の右に示す。このグラフよりレクチンアレイの結果と第2迅速測定法の結果との間に強い相関があることが判明した。
【0126】
2.肝硬変の検出
実施例3に示したレクチンアレイによる肝硬変の検出と同様の手順で、第2迅速測定法により肝硬変の検出を試みた。上述の病理診断済み患者125症例分を対象に、2種レクチンのシグナルをDSAレクチンシグナルで規格化したデータを用い、他(F1-F3)からF4(肝硬変)を区別するROC曲線を作成し、感度100%、特異度100%点から最も近い距離にある曲線上の点、言い換えるとY=Xの直線に平行な線と、ROC曲線との接点を、「最適な特異度および感度」とし、その周辺にカットオフ値を設定した。得られた個々のレクチンに対するカットオフ値から肝硬変検出に最適なコンビネーション式(AOL/DSA ×1.8 − MAL/DSA)を求め、それにより病理学的診断又は画像・臨床診断 により肝炎および肝硬変と確定された患者、45症例および43症例を対象にブラインドテストを実施した。
【0127】
その結果、コンビネーション式(AOL/DSA ×1.8 − MAL/DSA)を用いて検出力を調べてみたところ、感度88.3%、特異度91.1%、正診率は89.8%結果が得られた。
【0128】
次いで、本数式による偽陽性の出現頻度を検討するため、健常者100人分の血清についても第2迅速測定法による解析を行った。数式を用いて肝硬変判定ところ、図30に示すように偽陽性率は5%であり、レクチンアレイの結果と偽陽性検体が一致した。
【0129】
[実施例7] 肝疾患病態指標糖鎖マーカー候補糖タンパク質M2BPの抗体オーバーレイ・レクチンアレイ解析による肝線維化進展の判別
実施例2の通り、M2BPにおいても、抗体オーバーレイ・レクチンアレイ解析により得られたレクチンシグナル情報から、各肝疾患病態を検出できる可能性が見出された。そこで肝線維化との相関を検討するための実験を実施した。AGPの実験で用いた肝炎ウイルスに罹患し、肝生検により病理診断され線維化のステージングがなされている患者群125症例を対象に、抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイを実施例2の手順に従い行った。結合シグナルの生じた17種レクチンのうち、有意差検定により線維化の進展に伴うシグナル変化が認められた6つのレクチンについて、線維化進展との相関を表すグラフを作成した。それを図31に示す。各ステージのレクチンシグナルの分布を箱ひげ図により示した。箱の上端および下端はそれぞれ75%点、25%点を示し、ひげの上端および下端はそれぞれ95%点、5%点を示す。箱中の横線は中央値を示し、×は平均値を示す。なお、各グラフの縦軸はDSAのシグナルを100%とした時の相対値となっている。RCA120, AAL, TJAII, WFA, BPLのシグナルは、線維化の進展に伴い強度を増す一方、LELシグナルは線維化の進展に伴い強度が減少していることが分かった。このうち、線維化の進展をモニタリングするという観点においてはRCA120やAALが適していると考えられる。また、TJAII, WFA, BPLに関しては肝硬変(F4)になり初めてシグナルが生じているタイプである。かつ、F4におけるシグナルのばらつきが大きいため、これは発がん高リスク群を囲い込むのに有効なマーカーとなる可能性が示唆された。
【0130】
[実施例8] M2BPの糖鎖変化検出による肝がん発がん高リスク群囲い込み
1.肝がん発がん高リスク群囲い込みに適したレクチンの選抜
実施例7において、肝線維化に伴いシグナル強度が増すレクチン群が見出された。それらレクチン群のうち発がん高リスク群を囲い込むことのできるものを選抜するため、肝細胞がん患者術前術後血清7症例を対象にした、M2BPの抗体オーバーレイ・レクチンマイクロアレイ解析を行った。その実験手順は実施例1に従った。また、全自動蛍光免疫測定装置(μTAS Wako i30;和光純薬工業株式会社製)および専用試薬により、公知である肝細胞がんマーカーAFP血中量および良性疾患・肝細胞がん鑑別マーカーAFP-L3%の測定も行った。その結果の一部のレクチンシグナルパターンを図32に示す。AFP-L3%を含めたすべてのパラメーターが、7症例すべてで必ずしも術後のシグナル減少を示すというわけではなかった。これはいずれもがん検出マーカーではないことを意味している。本実験では肝細胞がん発がんの高リスク群囲い込みマーカー候補を選抜することが目的である。その点においては、AFP-L3%にパターンが類似していることが望まれる。実施例7で予想したとおりWFA, BPLレクチンがAFP-L3%のパターンに類似していた。かつ、BPLに比べWFAはシグナル強度がより強く安定であったため、WFAを有力レクチンとして選抜した。
【0131】
2.レクチン―抗体サンドイッチELISA 法によるWFA結合性M2BPの検出
WFA結合性M2BPを肝がん発がん高リスク群囲い込みマーカーとし、該バイオマーカーを検出する最良の形態としては、血清に含まれるバイオマーカーを臨床上許容される性能で、かつ、臨床上適用可能な簡便な手段により検出及び判別する方法が考えられる。以下にはその例として、抗M2BP抗体オーバーレイ−WFAウェルプレート(図33を参照)を用いたサンドイッチ検出分析の結果を示す。なお、本手法においてWFAウェルプレートには血清を直接添加することが可能である。その根拠としては、血清中に含まれる糖タンパク質でWFAに結合できる分子は非常に少なく、発がん高リスク群患者においてはM2BPが最も血中濃度の高い分子の一つであるからである。
【0132】
(実験方法)
マイクロタイタープレート(グライナー社製 96ウェル平底ストレプトアビジンコートプレート)へPBS緩衝液に溶解したビオチン化WFA(Vector社製、5μg/mL)を各ウェルに50μLずつ加え、2時間室温で保温し、支持体へWFAを固相化した。未結合WFAを洗浄液である0.1%Tween20含有PBS(300μL)で2回ずつ洗浄し、WFA固相化ウェルプレートを完成させた。
【0133】
各サンプル1μLを上記洗浄液50μLで希釈し、1で作製したWFA固相化ウェルプレートへ添加した後、2時間室温で結合反応した。反応後、各ウェルは上記洗浄液300μLで5回洗浄し、未結合タンパク質を除去した。そこにあらかじめ1.0μg/mLへ洗浄液で調整した検出剤(ヤギ抗M2BPポリクロ―ナル抗体溶液;R&D Systems社製)を1ウェルあたり50μLずつ加え、室温で2時間抗原抗体反応した。
【0134】
未結合抗体を除去するために洗浄液300μLで洗浄後、洗浄液で10,000倍希釈した抗ヤギIgG抗体−HRP溶液(Jackson immuno Research社製)を、1ウェルあたり50μLずつ加え、室温で1時間保温した。各ウェルを300μLの洗浄液で5回洗浄後、発色試薬であるULTRA-TMB溶液 (Thermo 社製)を各ウェルに100μLずつ加え、10分間発色反応した。1MのH2SO4溶液を1ウェルあたり100μL加え反応を停止し、プレートリーダーにより450nmで吸光度測定した。得られたシグナルは健常者血清をネガティブコントロール(N)とし、S/N比として数値化し、以降の解析に用いた。
【0135】
(結果)
まず、上述の肝細胞がん患者術前術後血清7症例を対象にアッセイした。その結果、図32の結果に酷似したシグナルパターンが得られた(図34上段)。これら症例のうち術後に継続的に採血を実施していた3症例についてWFA結合性M2BP量の測定を試みた。なお、患者AおよびBは術後再発症例であり、患者Eは再発なし症例である。再発したポイントを矢印で示す。その結果を図34下段に示す。横軸は施術日を0とし、経過月数を表す。また、縦軸は健常者血清をネガティブコントロール(N)とし、S/N比で表す。患者Aは術後も測定値はS/N=2.5付近で推移し、再発ポイント以降で値が上昇している。患者Bは術前の測定値が非常に高く、術後その値は減少するがS/N=2.5付近で停滞した。一方患者Eは術前術後にS/N=2.0と最も低値を示し、かつその数値は徐々に下降していった。以上の結果より、術後、S/N>2.5で停滞した患者は再発リスクが高く、かつ再発後値が上昇する一方で、術後速やかに減少しS/N=2.0を大きく下回る患者は再発しない可能性が高いことが見出された。以上により、WFA結合性M2BPは肝がん発がん高リスク群囲い込みマーカーとして有用であり、それを検出する簡易測定系として、抗M2BP抗体オーバーレイ−WFAウェルプレートを開発することができた。
【0136】
[実施例9] ELISA法によるWFA結合性M2BP検出における検体加熱処理の影響の検証
ELISA法によるWFA結合性M2BP検出において、検体加熱処理の有無が検出感度に及ぼす影響を確認した。
【0137】
ヒト肝がん由来細胞株(HepG2培養上清)を0.2%SDS含有PBS緩衝液で10倍希釈し、10分間95℃で加熱処理した。
【0138】
サンプルとして、HepG2培養上清(未処理)とHepG2培養上清(加熱処理)を、1ウエル当りのタンパク量が下記表10になるように用いること以外は、実施例8の2と同様の方法でWFAに結合するM2BPの測定を行った。プレートリーダーにより測定された吸光度を表10および図35に示す。
【表10】
【0139】
表10および図35の結果からELISA法によるWFA結合性M2BPの測定においては、加熱処理の行われていない血清を測定サンプルとして用いることにより、測定感度が向上することが判明した。
【0140】
[実施例10] 第2迅速測定法によるM2BPの測定
1.試薬の調製
R1試薬の調製:10mMのHEPES(pH7.5)、150mMのNaCl、0.01mMのMnCl2、0.1mMのCaCl2、0.08w/v%のNaN3を含む溶液(緩衝液C)を調製し、R1試薬とした。
【0141】
R2試薬の調製:緩衝液Cに市販のストレプトアビジンが固定された磁性粒子(個数平均粒径2μm)(以下、ストレプトアビジン感作磁性粒子とする)を0.5w/v%の濃度となるように添加し、さらにここにビオチン化したレクチン溶液(WFA)を添加した。この混合液を室温で30分攪拌した。攪拌後、磁石で集磁して磁性粒子を沈降させ、溶液成分を廃棄した。緩衝液Cで3回洗浄後、緩衝液D(10mMのHEPES(pH7.5)、150mMのNaCl、0.01mMのMnCl2, 0.1mMのCaCl2、0.1%W/VのBSA、0.08w/v%のNaN3を含む溶液)を磁性粒子濃度が0.5w/v%になるように添加した。
【0142】
R3試薬の調製:0.1U/mLのRecombinant ALP標識マウス抗M2BPモノクローナル抗体、0.1MのMES(2−(N−Morpholino) ethanesulfonic acid、pH6.5)、0.15MのNaCl、1mMのMgCl2、0.1mMのZnCl2、0.1w/v%のNaN3を含む溶液を調製しR3試薬とした。
【0143】
R4試薬、R5試薬および洗浄試薬については、実施例5の第2迅速測定法で用いたR4試薬、R5試薬および洗浄試薬を使用した。
【0144】
2.WFAを用いる測定系の希釈直線性の確認
ヒト肝がん由来細胞株培養上清(HepG2培養上清)100μg/mlを緩衝液(PBS)で10倍、100倍、1000倍および10000倍に希釈した希釈試料を調製した。 また、Recombinant Human Galectin−3BP/MAC−2BP(R&D SYSTEMS製)5μg/mlを緩衝液(PBS)で2倍、4倍、8倍、16倍、32倍および64倍に希釈した希釈試料を調製した。
【0145】
全自動免疫測定装置HISCL2000i(シスメックス社製)の動作設定を下記の条件に変更し、各希釈試料について化学発光強度(photo count値)を測定した。
【0146】
R1試薬30μLと、各希釈試料10μLとを容器に分注し、42℃で2.25分間インキュベートした後、30μLのR2試薬を分注し、42℃で1.5分間反応させた。磁気分離により磁性粒子を集磁して溶液を吸引廃棄した。洗浄試薬を分注して洗浄試薬に磁性粒子を分散洗浄し、磁気分離により磁性粒子を集磁して溶液を吸引廃棄する処理を3回繰り返し実行した。100μLのR3試薬を分注し、42℃で2.75分間反応させた。磁気分離により磁性粒子を集磁して溶液を吸引廃棄した。洗浄試薬を分注して洗浄試薬に磁性粒子を分散洗浄し、磁気分離により磁性粒子を集磁して溶液を吸引廃棄する処理を3回繰り返し実行した。50μLのR4試薬を分注し、次いで100μLのR5試薬を分注し化学発光強度を測定した。HepG2培養細胞の上清の測定結果を表11および図36に、Recombinant Human Galectin−3BP/MAC−2BPの測定結果を表12および図37示す。これらの測定結果に示されるようにWFA測定系について良好な希釈直線性を示した。
【表11】
【表12】
【0147】
3.臨床検体に対する測定
健常人血清、HBV陽性肝細胞がん患者血清およびHCV陽性肝細胞がん患者血清を、「2.WFAを用いる測定系の希釈直線性の確認」と同様の条件で全自動免疫測定装置HISCL2000iにより測定した。各検体の測定に要した時間は17分であった。結果を表13に示す。
【表13】
【0148】
表13の結果から、WFAに結合するM2BPが第2迅速測定法により迅速且つ正確に測定できることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本願発明は、肝疾患又は肝疾患病態の判定のための装置、器具又はキット製造や、肝疾患の病態の判別、あるいは、肝硬変の検出などに用いることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者より採取された試料に含まれる糖タンパク質としてalpha-1-acid glycoprotein(AGP)を測定する糖タンパク質の測定方法であって、
AOLおよびMALから選択されるレクチンに結合したAGPを測定する糖タンパク質の測定方法。
【請求項2】
AGPの糖鎖構造の変化にかかわらず反応性が実質変化しない規格化用レクチンに結合したAGPを測定し、前記レクチンに結合したAGPの測定値を、前記規格化用レクチンと結合したAGPの測定値を用いて規格化する請求項1に記載の糖タンパク質の測定方法。
【請求項3】
前記規格化用レクチンがDSAである請求項2に記載の糖タンパク質の測定方法。
【請求項4】
前記レクチン、前記AGPおよび標識抗AGP抗体の複合体を形成し、複合体における標識量を測定することにより前記レクチンに結合した前記AGPを定量する請求項1に記載の糖タンパク質の測定方法。
【請求項5】
前記複合体の形成が、前記レクチンが固定された磁性粒子を用いて実行される請求項4に記載の糖タンパク質の測定方法。
【請求項6】
前記複合体の形成が、ビオチン化された前記レクチンと、ストレプトアビジンまたはアビジンが固定された磁性粒子を用いて実行される請求項4に記載の糖タンパク質の測定方法。
【請求項7】
前記標識抗AGP抗体の標識が、脱グリコシル化処理されたアルカリホスファターゼである請求項4〜6の何れか1項に記載の糖タンパク質の測定方法。
【請求項8】
前記標識抗AGP抗体の抗AGP抗体が脱グリコシル化された抗AGP抗体である請求項4〜7の何れか1項に記載の糖タンパク質の測定方法。
【請求項9】
少なくとも前記レクチンが固定されたレクチンアレイと、抗AGP抗体とを用いて、前記レクチンに結合したAGPを測定する請求項1に記載の糖タンパク質の測定方法。
【請求項10】
前記レクチンアレイにさらにDSAが固定されており、DSAに結合したAGPを測定し、前記レクチンに結合したAGPの測定値をDSAに結合したAGPの測定値で規格化する請求項9に記載の糖タンパク質の測定方法。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載の糖タンパク質の測定方法によって得られたAGPの測定値に基づいて、肝臓の線維化ステージを判定する肝疾患の検査方法。
【請求項12】
請求項1〜10の何れか1項に記載の糖タンパク質の測定方法によって得られたAGPの測定値に基づいて、肝硬変か否かを判定する肝疾患の検査方法。
【請求項13】
請求項1〜10の何れか1項に記載の糖タンパク質の測定方法によって得られたAGPの測定値に基づいて、肝細胞がんの再発リスクを判定する肝疾患の検査方法。
【請求項14】
請求項1〜10の何れか1項に記載の糖タンパク質の測定方法によって得られたAGPの測定値に基づいて、肝疾患の治療における抗ウイルス剤の治療効果を判定する方法。
【請求項15】
被験者より採取された試料に含まれる糖タンパク質としてalpha-1-acid glycoprotein(AGP)を測定するためのAGP定量用試薬であって、AOLおよびMALから選択されるレクチンと、標識抗AGP抗体とを備えたことを特徴とする糖タンパク質定量用試薬。
【請求項16】
前記レクチンが磁性粒子に固定されている請求項15に記載の糖タンパク質定量用試薬。
【請求項17】
前記レクチンがビオチン化されており、ストレプトアビジンまたはアビジンが固定された磁性粒子をさらに備える請求項15に記載の糖タンパク質定量用試薬。
【請求項18】
前記標識抗AGP抗体の標識が、脱グリコシル化処理されたアルカリホスファターゼである請求項15〜17の何れか1項に記載の糖タンパク質定量用試薬。
【請求項19】
前記標識抗AGP抗体の抗AGP抗体が脱グリコシル化された抗AGP抗体である請求項15〜17の何れか1項に記載の糖タンパク質定量用試薬。
【請求項1】
被験者より採取された試料に含まれる糖タンパク質としてalpha-1-acid glycoprotein(AGP)を測定する糖タンパク質の測定方法であって、
AOLおよびMALから選択されるレクチンに結合したAGPを測定する糖タンパク質の測定方法。
【請求項2】
AGPの糖鎖構造の変化にかかわらず反応性が実質変化しない規格化用レクチンに結合したAGPを測定し、前記レクチンに結合したAGPの測定値を、前記規格化用レクチンと結合したAGPの測定値を用いて規格化する請求項1に記載の糖タンパク質の測定方法。
【請求項3】
前記規格化用レクチンがDSAである請求項2に記載の糖タンパク質の測定方法。
【請求項4】
前記レクチン、前記AGPおよび標識抗AGP抗体の複合体を形成し、複合体における標識量を測定することにより前記レクチンに結合した前記AGPを定量する請求項1に記載の糖タンパク質の測定方法。
【請求項5】
前記複合体の形成が、前記レクチンが固定された磁性粒子を用いて実行される請求項4に記載の糖タンパク質の測定方法。
【請求項6】
前記複合体の形成が、ビオチン化された前記レクチンと、ストレプトアビジンまたはアビジンが固定された磁性粒子を用いて実行される請求項4に記載の糖タンパク質の測定方法。
【請求項7】
前記標識抗AGP抗体の標識が、脱グリコシル化処理されたアルカリホスファターゼである請求項4〜6の何れか1項に記載の糖タンパク質の測定方法。
【請求項8】
前記標識抗AGP抗体の抗AGP抗体が脱グリコシル化された抗AGP抗体である請求項4〜7の何れか1項に記載の糖タンパク質の測定方法。
【請求項9】
少なくとも前記レクチンが固定されたレクチンアレイと、抗AGP抗体とを用いて、前記レクチンに結合したAGPを測定する請求項1に記載の糖タンパク質の測定方法。
【請求項10】
前記レクチンアレイにさらにDSAが固定されており、DSAに結合したAGPを測定し、前記レクチンに結合したAGPの測定値をDSAに結合したAGPの測定値で規格化する請求項9に記載の糖タンパク質の測定方法。
【請求項11】
請求項1〜10の何れか1項に記載の糖タンパク質の測定方法によって得られたAGPの測定値に基づいて、肝臓の線維化ステージを判定する肝疾患の検査方法。
【請求項12】
請求項1〜10の何れか1項に記載の糖タンパク質の測定方法によって得られたAGPの測定値に基づいて、肝硬変か否かを判定する肝疾患の検査方法。
【請求項13】
請求項1〜10の何れか1項に記載の糖タンパク質の測定方法によって得られたAGPの測定値に基づいて、肝細胞がんの再発リスクを判定する肝疾患の検査方法。
【請求項14】
請求項1〜10の何れか1項に記載の糖タンパク質の測定方法によって得られたAGPの測定値に基づいて、肝疾患の治療における抗ウイルス剤の治療効果を判定する方法。
【請求項15】
被験者より採取された試料に含まれる糖タンパク質としてalpha-1-acid glycoprotein(AGP)を測定するためのAGP定量用試薬であって、AOLおよびMALから選択されるレクチンと、標識抗AGP抗体とを備えたことを特徴とする糖タンパク質定量用試薬。
【請求項16】
前記レクチンが磁性粒子に固定されている請求項15に記載の糖タンパク質定量用試薬。
【請求項17】
前記レクチンがビオチン化されており、ストレプトアビジンまたはアビジンが固定された磁性粒子をさらに備える請求項15に記載の糖タンパク質定量用試薬。
【請求項18】
前記標識抗AGP抗体の標識が、脱グリコシル化処理されたアルカリホスファターゼである請求項15〜17の何れか1項に記載の糖タンパク質定量用試薬。
【請求項19】
前記標識抗AGP抗体の抗AGP抗体が脱グリコシル化された抗AGP抗体である請求項15〜17の何れか1項に記載の糖タンパク質定量用試薬。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図2】
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【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【公開番号】特開2012−185172(P2012−185172A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−110964(P2012−110964)
【出願日】平成24年5月14日(2012.5.14)
【分割の表示】特願2011−522830(P2011−522830)の分割
【原出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「健康安心プログラム/糖鎖機能活用技術開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(506218664)公立大学法人名古屋市立大学 (48)
【出願人】(510192802)独立行政法人国立国際医療研究センター (8)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年5月14日(2012.5.14)
【分割の表示】特願2011−522830(P2011−522830)の分割
【原出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「健康安心プログラム/糖鎖機能活用技術開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(506218664)公立大学法人名古屋市立大学 (48)
【出願人】(510192802)独立行政法人国立国際医療研究センター (8)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
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