説明

糖ペプチド構造解析方法及び装置

【課題】目的の糖ペプチド由来のイオンをプリカーサイオンとしたMS/MSスペクトルに基づくデータベース検索により、糖ペプチドを構成するペプチドのアミノ酸配列と糖鎖結合部位とを高い信頼度で推定する。
【解決手段】MSスペクトルから糖ペプチド由来のイオンを見つけてMS/MSスペクトルを取得し(S1〜S3)、該スペクトルから全ての糖鎖が脱離したペプチドに帰属される、及び、糖による単純な修飾を受けたペプチドに帰属されるプロダクトイオンを抽出し、各プロダクトイオン以下のm/zを持つピークのリストをそれぞれ作成する(S4,S5)。S4で判明する修飾条件(糖の種類)を検索条件としピークリストをデータベース検索に供し、一致度の高いペプチドの候補をリスト化する(S6〜S8)。各ピークリストの検索結果を総合的に判定し、アミノ酸配列及び糖鎖結合部位の候補のリストを表示する(S9)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、質量分析を用いた糖タンパク質又は糖ペプチドの構造解析方法、及び構造解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体を構成するタンパク質の半分以上は糖鎖修飾を受けていると言われており、糖鎖修飾はタンパク質の構造や機能の調節に重要な役割を果たしている。また、近年の研究により、免疫疾患などの各種疾患と糖鎖構造異常や糖化異常との関連性も明らかになってきている。こうしたことから、糖タンパク質や糖ペプチドの構造解析、つまりはペプチドのアミノ酸配列と糖鎖結合部位の同定は、生命科学や医療、医薬品開発など様々な分野において非常に重要になっている。近年の質量分析装置の性能向上により、質量分析は糖鎖構造解析における主要な手法の一つになっているものの、質量分析を用いた糖鎖構造解析の手法は未だ研究途上であって、従来様々な手法が提案されている。
【0003】
一般的に、質量分析装置を用いたペプチドの同定手法としては、MS/MS分析により取得されたMS/MSスペクトルに現れるピークの質量電荷比を列挙したピークリストと、データベースに登録されたタンパク質より算出される質量電荷比とを照合し、その一致度を手がかりとしてペプチドのアミノ酸配列を決定する、いわゆるデータベース検索法がよく知られている。また、データベース検索に際して、ペプチドの受けた修飾の種類を検索条件としてユーザが指定することにより、蓋然性の高いペプチドとその修飾部位とを同定する手法も開発されている。
【0004】
例えば英国マトリックス・サイエンス社が提供するマスコット(Mascot)にはMS/MSイオンサーチという検索エンジンが含まれており、検索パラメータとして、タンパク質の分解に使用した消化酵素の種類(エンザイム:Enzyme)、修飾の種類(モディフィケイション:modification)、質量分析の精度の許容値(MS/MS tol.)などをユーザが入力設定できるようになっている(非特許文献1参照)。MS/MSイオンサーチ法では、複数のMS/MSスペクトル(又はMSスペクトル)に対して検索条件に従ったデータベース検索を行い、一致度(スコア)が高いペプチドがリストアップされる。
【0005】
しかしながら、糖鎖修飾された糖ペプチドをMS/MS分析することにより取得したMS/MSスペクトルから作成したピークリストを用い、単に上記MS/MSイオンサーチ法などによるデータベース検索を実行しても、妥当なペプチドを同定することはかなり困難である。これは、一般に糖ペプチドは複雑な糖鎖構造を持つ複数個の糖により修飾を受けているために、MS/MSスペクトルから得られるピークリストの内容が糖ペプチドに特有の非常に複雑なものとなるからである。例えば、本願発明者は、ヒトトランスフェリンに由来する糖ペプチド由来のイオンであるシアル酸脱離イオンに対するMS/MSスペクトルから作成したピークリストを、MS/MSイオンサーチ法によりデータベース検索する試みを行ったが、トランスフェリン由来のペプチドはリストアップされず、妥当なペプチド及び糖鎖結合部位を同定することはできなかった。
【0006】
一方、特許文献1、特許文献2、非特許文献2などにはMS分析(nは3以上の整数)可能な質量分析装置を用いて糖鎖構造解析を行う手法が開示されている。この手法は、2回以上の開裂操作を行うことで細かく断片化させたプロダクトイオンの質量分析により得られるMSスペクトルを用い、構造の推定を行うものである。こうした手法は糖鎖構造解析に有効ではあるものの、nが3以上のMS分析を実行する必要がある。MS/MS分析が可能な質量分析装置は比較的一般的であるのに対し、nが3以上のMS分析が可能な質量分析装置はかなり高価であって入手が容易ではない。そのため、こうした構造解析手法は汎用性に乏しく、簡便に採用できるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−265697号公報
【特許文献2】特開2005−300420号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「マトリックス・サイエンス−マスコット−MS/MS・イオン・サーチ(Matrix Science - Mascot - MS/MS Ions Search)」、[online]、英国マトリックス・サイエンス社(Matrix Science Ltd.)、[平成21年4月13日検索]、インターネット<URL : http://www.matrixscience.com/help/mis_help.html>
【非特許文献2】山田、福山、「MALDI−QIT−TOFMSによるタンパク質糖鎖修飾解析」、島津評論、島津評論編集部、第63巻、第1・2号、2006年9月29日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、従来のデータベース検索法では同定が困難であった糖タンパク質や糖ペプチドについて、MS/MS分析結果を用いて妥当なペプチドのアミノ酸配列とその糖鎖結合部位の同定を可能とする糖ペプチド構造解析方法及び解析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された第1発明は、MS/MS分析可能な質量分析装置を用いて糖ペプチドを構成するペプチドと糖鎖結合部位とを同定する糖ペプチド構造解析方法であって、
a)被検試料をMS分析して得られたMSスペクトル中に現れる糖ペプチド由来のイオンを見つけ、該イオンをプリカーサイオンとして選定して前記被検試料に対するMS/MS分析を実行し、MS/MSスペクトルを取得する分析実行ステップと、
b)前記分析実行ステップにより得られたMS/MSスペクトルから、全ての糖鎖が脱離したペプチドに帰属されるプロダクトイオンと糖による単純な修飾を受けたペプチドに帰属されるプロダクトイオンとを探索し、その複数のプロダクトイオン毎にそれぞれ、前記MS/MSスペクトル中でそのプロダクトイオンの質量電荷比以下の質量電荷比を有するイオンピークを列挙したピークリストを作成するピークリスト作成ステップと、
c)前記ピークリスト作成ステップにおいてプロダクトイオンを探索する際に想定された修飾条件と前記ピークリストとを検索条件として、同定用データベースを用いたデータベース検索を実行するデータベース検索実行ステップと、
d)前記データベース検索により、複数のピークリストに対し一致度が相対的に高いとの結果が得られたペプチドのアミノ酸配列及び糖鎖結合部位に関する情報を出力する結果提供ステップと、
を有することを特徴としている。
【0011】
また第2発明は、上記第1発明に係る糖ペプチド構造解析方法を実施するための糖ペプチド構造解析装置であって、MS/MS分析可能な質量分析装置を用いて糖ペプチドを構成するペプチドと糖鎖結合部位とを同定する糖ペプチド構造解析装置において、
a)被検試料をMS分析して得られたMSスペクトル中に現れる糖ペプチド由来のイオンを見つけ、該イオンをプリカーサイオンとして選定して前記被検試料に対するMS/MS分析を実行し、MS/MSスペクトルを取得する分析制御手段と、
b)前記分析制御手段の制御の下に得られたMS/MSスペクトルから、全ての糖鎖が脱離したペプチドに帰属されるプロダクトイオンと糖による単純な修飾を受けたペプチドに帰属されるプロダクトイオンとを探索し、その複数のプロダクトイオン毎にそれぞれ、前記MS/MSスペクトル中でそのプロダクトイオンの質量電荷比以下の質量電荷比を有するイオンピークを列挙したピークリストを作成するピークリスト作成手段と、
c)前記ピークリスト作成手段においてプロダクトイオンを探索する際に想定された修飾条件と前記ピークリストとを検索条件として、同定用データベースを用いたデータベース検索を実行するデータベース検索実行手段と、
d)前記データベース検索により、複数のピークリストに対し一致度が相対的に高いとの結果が得られたペプチドのアミノ酸配列及び糖鎖結合部位に関する情報を出力する結果提供手段と、
を備えることを特徴としている。
【0012】
本発明に係る糖ペプチド構造解析方法及び装置に使用される質量分析装置では、被検試料中の各種成分をイオン化するイオン源として例えばMALDI(マトリックス支援レーザ脱離イオン化)やESI(エレクトロスプレイイオン化)を用いることができる。例えばMALDIイオン源を用いたMALDI質量分析では、シアル酸や硫酸基などが付加した酸性糖鎖が比較的脱離し易いことが知られている(関谷、ほか1名、「質量分析による糖鎖解析」、トレンズ・イン・グリコサイエンス・アンド・グリコテクノロジー(Trends in Glycoscience and Glycotechnology)、Vol.20、No.111(2008年1月)、pp.51-65参照)。そのため、例えばシアル酸を有する糖鎖で修飾されたペプチドをMALDI質量分析して得られたMSスペクトルでは、元の糖ペプチドによるイオンのピークと該糖ペプチドからシアル酸が脱離したイオンのピークが現れる。したがって、シアル酸に相当する質量電荷比差を有する2本のピークを見つけることで糖ペプチド由来のイオンを見つけることができる。またシアル酸や硫酸基に限らず、ESIを用いた場合を含めて、既知の質量電荷比を有する基の脱離や付加、糖鎖の脱離などを利用することで、糖ペプチド由来のイオンを見つけることができる。もちろん、予め目的とする糖ペプチド由来のイオンの質量電荷比が既知である場合もあり得る。
【0013】
目的とする糖ペプチド由来のイオンをプリカーサイオンとして実施されたMS/MS分析により得られたMS/MSスペクトルには、その糖ペプチドが様々な態様で開裂して生成したプロダクトイオンによるピークが現れる。もちろん、夾雑物などがあれば、それに由来するピークも現れる。そこで、ピークリスト作成手段により実施されるピークリスト作成ステップでは、MS/MSスペクトルに現れる多数のピークの中から、全ての糖鎖が脱離したペプチドに帰属されるプロダクトイオンによるピークと、糖による単純な修飾を受けたペプチドに帰属されるプロダクトイオンによるピークとを探索する。前者は、糖鎖を構成する全ての糖のみならず糖の開裂片も含まない、ペプチドのみに帰属されるプロダクトイオンである。後者は、1個の糖による単純な修飾を受けた(つまり1個の糖が付加している)又は1個の糖の開裂片による単純な修飾を受けた(つまり1個の糖の一部が付加している)ペプチドに帰属されるプロダクトイオンのピークである。
【0014】
典型的なN型糖鎖結合糖ペプチドの場合、修飾の種類(修飾の条件)に応じた質量電荷比差を持つ特徴的なトリプレット(三連)ピークが観測されるから、トリプレットピークを見つけ、それが複数組存在した場合には例えば強度が最大である1組を自動的に選択する又はユーザに選択肢を示しその中から選択させるようにして1組のトリプレットピークを選択すればよい。一方、O型糖鎖結合糖ペプチドの場合には、トリプレットピークを観測することはできないが、例えば、プリカーサイオンからの質量電荷比の差が既知の糖鎖の質量電荷比である複数のプロダクトイオンの中で、質量電荷比が最小のプロダクトイオンが全ての糖鎖が脱離したペプチドに帰属するプロダクトイオンであるとみなすことができる。
【0015】
そうして全ての糖鎖が脱離したペプチドに帰属されるプロダクトイオンと1個の糖による単純な修飾を受けたペプチドに帰属されるプロダクトイオンとが求まったならば、それぞれ、それらプロダクトイオン以下の質量電荷比を有するプロダクトイオンによるピークの情報(少なくとも質量電荷比)を集めてピークリストを作成する。糖による単純な修飾を受けたペプチドに帰属されるプロダクトイオンが1個であればピークリストは2個になるし、糖による単純な修飾を受けたペプチドに帰属されるプロダクトイオンが2個であれば(つまり1個の糖による修飾、及び1個の糖の開裂片による修飾の2個)ピークリストは3個になる。
【0016】
データベース検索実行手段により実施されるデータベース検索実行ステップでは、上記のようにして作成された複数のピークリストについてピークリスト毎に、所定の検索条件に則ったデータベース検索を実施し、データベースに登録されているペプチドとの照合を行う。検索条件は少なくともピークリスト作成ステップにおいてプロダクトイオンを探索する際に想定された修飾条件を含む。もちろん、糖鎖以外の修飾条件がある場合には、これについても検索条件として設定することが好ましい。データベース検索の手法自体は既存のものを利用することができ、例えば、上述した英国マトリックス・サイエンス社が提供するMS/MSイオンサーチ法を利用することができるが、これに限るものではない。
【0017】
例えば3個のピークリストを用いてそれぞれデータベース検索を行えば、独立した検索結果が3個得られる。一般的に検索結果は、最も一致度が高い(つまりは最も確からしい)ペプチドのアミノ酸配列(或いはアミノ酸配列と糖鎖修飾)から順に複数の候補がリストアップされたものである。そこで、結果提供手段により実施される結果提供ステップでは、例えば、複数のピークリストに対する検索結果に基づいて一致度が相対的に高い順に、ペプチドのアミノ酸配列及び糖鎖結合部位に関する情報をリストアップし、表示画面上に出力する。
【発明の効果】
【0018】
以上のように本発明に係る糖ペプチド構造解析方法及び装置では、目的とする糖ペプチド由来のイオンをプリカーサイオンとして取得したMS/MSスペクトル上に現れる、全ての糖鎖が脱離したペプチドに帰属されるプロダクトイオンのイオンピークよりも低質量電荷比側のピークリストと、1個の糖(及び1個の糖の開裂片)による単純な修飾を受けたペプチドに帰属されるプロダクトイオンとのイオンピークよりも低質量電荷比側のピークリストとをそれぞれデータベース検索に供することにより、ペプチドのアミノ酸配列及び糖鎖結合部位を同定する。このように本発明によれば、同一の糖ペプチドに由来する異なるプロダクトイオンを用いて作成される複数のピークリストのデータベース検索結果が同定に利用されるため、従来の方法では同定が困難であったMS/MSスペクトルに基づく糖ペプチドのアミノ酸配列及び糖鎖結合部位を同定できる可能性が高くなる。
【0019】
また、本発明では糖ペプチドのアミノ酸配列及び糖鎖結合部位を同定するためにnが3以上のMS分析を行う必要がないので、MS/MS分析までしか行うことができない比較的廉価で入手が容易な質量分析装置を用いて糖タンパク質や糖ペプチドの構造解析が行える。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る糖ペプチド構造解析方法を実施する糖ペプチド構造解析システムの一実施例の全体構成図。
【図2】本実施例の糖ペプチド構造解析システムにおいて実施される糖ペプチド構造解析の処理手順を示すフローチャート。
【図3】糖ペプチドを含む試料をMS分析して実際に得られるMSスペクトルの一例を示す図。
【図4】MS/MSスペクトル中のトリプレットピーク探索の際の表示画面の一例を示す図。
【図5】データベース検索の際の検索条件の設定画面の一例を示す図。
【図6】図4に基づいて作成されたピークリストをデータベース検索に供することで最終的に出力される結果の一例を示す図。
【図7】O型糖鎖結合糖ペプチドに対するMS/MSスペクトルから全ての糖鎖が脱離したペプチドと単純な糖鎖修飾を受けたペプチド由来のピークとを探索する方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る糖ペプチド構造解析方法を実施する糖ペプチド構造解析システムの一実施例について、添付の図面を参照して説明する。図1は本実施例の糖ペプチド構造解析システムの全体構成図、図2は本システムにおける糖ペプチド構造解析の処理手順を示すフローチャートである。
【0022】
本実施例の糖ペプチド構造解析システムは、大別して、質量分析部1と、コンピュータを中心に構成される制御・処理部2と、から成る。質量分析部1はマトリックス支援レーザ脱離イオン化四重極イオントラップ飛行時間型質量分析装置(MALDI−QIT−TOFMS)であり、分析対象である試料中の分子や原子をイオン化するMALDI法によるイオン化部10と、発生したイオンを一時的に捕捉し、質量電荷比(m/z)に応じたイオンの選別と衝突誘起解離(CID)によるイオンの開裂とを実行可能な3次元四重極型のイオントラップ11と、そのイオントラップ11から出射された各種イオンを質量電荷比に応じて分離して検出する飛行時間型質量分析器12と、を備える。飛行時間型質量分析器12は、リフレクトロン電極により発生する電場によりイオンを折返し飛行させる飛行空間13と、該飛行空間13を飛行する間に質量電荷比に応じて時間的に分離されたイオンを順次検出するイオン検出器14と、を含む。
【0023】
ここではイオン化部10はMALDIイオン源であるが、イオン化法はこれに限るものではなく、例えばESIなどを用いてもよい。但し、後述の例のように、イオンソース分解(ISD=Ion-Source Decoy)などにより糖鎖からシアル酸や硫酸基などが脱離することを利用してMSスペクトル上で目的とする糖ペプチド由来のイオンを検出する場合には、ISDなどが起こり易いイオン化法を採用する必要があり、その目的ではMALDI(又はそれ以外のレーザ照射を利用したイオン化法)が好適である。
【0024】
制御・処理部2は、質量分析部1の各部を制御する分析制御部20、イオン検出器14から得られる検出信号に基づいてMSスペクトル及びMS/MSスペクトルを作成するスペクトル作成部21、MSスペクトルやMS/MSスペクトルを解析して例えば特定のピークを抽出して該ピークに関連したピークリストを作成する等のデータ処理を実行するスペクトル解析部22、ペプチドのアミノ酸配列を推定するための同定用情報が予め登録された同定用データベース(DB)24、そのデータベース24を用いてピークリストに一致する可能性の高いペプチドの検索を行うデータベース検索部23、などを機能ブロックとして含む。
【0025】
制御・処理部2の実体はコンピュータであって、該コンピュータにインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアが動作することにより、前述の各種機能が達成される。入力部28はユーザが検索条件を入力設定したりスペクトル解析のために必要な各種操作を行ったりするためのものであり、具体的には、コンピュータに接続されるキーボードや、マウス等のポインティングデバイスである。また、表示部29は検索条件入力設定画面を表示したり同定結果を表示するためのものである。
【0026】
次に、本実施例の糖ペプチド構造解析システムにおける糖ペプチドの構造解析方法について、図2のフローチャートに沿って説明する。ここでは、質量分析装置として島津製作所/Kratos Analytical社製のAXIMA−Qを使用し、ヒトトランスフェリン由来のN型糖鎖結合糖ペプチド(2分岐N−グリカン結合ペプチド、[M+H]+:m/z=3680)を被検試料として、そのシアル酸脱離イオン(m/z=3101)をプリカーサイオンとしたMS/MSスペクトルを対象にした解析例を挙げて説明を行う。
【0027】
分析者は目的とするタンパク質(この例ではヒトトランスフェリン)を適宜の酵素(この例ではトリプシン酵素)により消化し、糖ペプチドを含む被検試料を調製する。分析制御部20の制御の下に、質量分析部1により上記被検試料に対するMS分析が実行されると、スペクトル作成部21ではMSスペクトルが作成される(ステップS1)。スペクトル解析部22は作成されたMSスペクトルから目的とする糖ペプチド由来のプロダクトイオンを見つけ、このイオンをプリカーサイオンとして選定する(ステップS2)。
【0028】
ヒトトランスフェリンのトリプシン酵素消化物を被検試料とした例では、図3に示すようなMSスペクトルが取得される。ヒトトランスフェリン由来N型糖鎖結合糖ペプチドを修飾している糖鎖にはシアル酸(m/z=291)が含まれ、シアル酸はMALDI質量分析では脱離し易いので、図3に示すように、元の糖ペプチドからシアル酸が脱離したシアル酸脱離糖ペプチドイオンのイオンピークが観測される。そこで、ステップS2におけるプリカーサイオンの選定方法として、まず、高質量電荷比側のプロダクトイオンの中から質量電荷比の差がシアル酸に相当する2本のピーク、つまりペアピークを検出する。図3では、m/z=3391.77、m/z=3100.71の2本のピークがペアピークとして検出される。さらに、それ以下の低質量電荷比側において既知の糖鎖(糖鎖断片)の質量電荷比差で並ぶ複数のプロダクトイオン由来のピークのうち、最もピーク強度の強いものをプリカーサイオンとして選択する。図3の例では、m/z=3100.71のピークの強度が最も大きいので、これがプリカーサイオンとして選定される。なお、糖鎖断片の質量電荷比は、ヘキソースが162[Da]、N−アセチルヘキソサミン(HexNAc)が203[Da]、フコースが146[Da]、であることが既知である。
【0029】
なお、シアル酸脱離イオンに相当するピークが観測されない場合には、他の既知の質量電荷比を有する基の脱離や付加、糖鎖の脱離などに相当するピークが観測されるか否かを調べることにより、糖ペプチド由来のピークの有無を判断することができる。
【0030】
次に、分析制御部20の制御の下に、質量分析部1によりステップS2で選択されたプリカーサイオンを設定したMS/MS(MS2)分析が実行される(ステップS3)。即ち、イオン化部10において被検試料から生成された各種イオンは一旦イオントラップ11に捕捉され、イオントラップ11において上記質量電荷比を持つイオンのみが選別された後にCIDによる1回の開裂操作がなされる。それによって生成された各種プロダクトイオンがイオントラップ11から一斉に出射されて、飛行時間型質量分析器12により質量分析され、スペクトル作成部21でMS/MSスペクトルが作成される。
【0031】
続いてスペクトル解析部22はMS/MSスペクトルに現れているピークを解析し、全ての糖鎖が脱離したペプチドに帰属されるプロダクトイオンと、糖による単純な修飾を受けたペプチドとして、1個の糖(及び1個の糖の開裂片)が付加したペプチドに帰属されるプロダクトイオンと、を抽出する(ステップS4)。N型糖鎖結合糖ペプチドの場合、互いに質量電荷比の差が特徴的である3本のピークからなるトリプレットピークが現れるから、既知の糖及び糖の開裂断片の質量電荷比に基づき、実際のピークの質量電荷比差を判定することによりトリプレットピークの候補を探索する。トリプレットピークの候補が複数組存在した場合には、イオンピーク強度の高い組から順に候補を表示部29の画面上に表示し、例えば分析者がそのうちの1組のトリプレットピークを入力部28により選択する。
【0032】
図4は、MS/MSスペクトル解析処理時に表示部29に表示される表示画面30の一例を示す図である。この例では、N型糖鎖結合糖ペプチドの開裂により得られたプロダクトイオンとして特徴的な、HexNAcの脱離及びHexNAc環開裂断片の脱離により得られる質量電荷比差が120[Da]、83[Da]で並ぶ3本のピークを検出し、検出されたピークの組をトリプレットピークの候補であることを示す記号32でもってMS/MSスペクトル31中の上部に表示している。また、別に開かれた候補表示ウインドウ33中には、トリプレットピークを構成する3つの質量電荷比が1組として、ピーク強度の順に列記されている。分析者はこの中から適宜の1組のトリプレットピークを選択して指定する。一般的には、最上位に表示されたトリプレットピークの候補、つまり最大のピーク強度を与えるトリプレットピークを選択する。なお、こうした分析者の選択指示に依らずに、最大のピーク強度を与えるトリプレットピークを自動的に選択するようにしてもよい。ここでは、候補表示ウインドウ33の最上位のトリプレットピークは、m/z=1476.2470、1559.2850、1679.3051、である。
【0033】
スペクトル解析部22はステップS4で抽出されたプロダクトイオン毎にそれぞれ、MS/MSスペクトルにおいて各プロダクトイオンの質量電荷比以下の低い質量電荷比を有するプロダクトイオン(多くはペプチドの開裂に由来するプロダクトイオン)を列挙したピークリストを作成する(ステップS5)。即ち、糖鎖が全て脱離したペプチドに由来するプロダクトイオン、HexNAcによる修飾を受けたペプチドに由来するプロダクトイオン、及び、HexNAc環開裂断片による修飾を受けたペプチドに由来するプロダクトイオン、の3個のプロダクトイオンの質量電荷比以下の質量電荷比を持つ、計3個のピークリストを作成する。通常、いずれのピークリストにもペプチドの開裂に由来するプロダクトイオンピークが含まれるから、かなりのピークが3個のピークリストに共通である。
【0034】
次に、データベース検索部23はステップS5で作成された3個のピークリストとステップS4で得られた修飾条件とに基づき、後述する同定のためのデータベース検索の検索条件を設定する(ステップS6)。この例では、上述したようにトリプレットピークを構成する3本のピーク間の質量電荷比の差が120[Da]、83[Da]であることから、それぞれHexNAcによる修飾、HexNAc環開裂断片による修飾であることが分かるから、これが検索条件として設定すべき修飾条件である。もちろん、トリプレットピークを構成するピーク間の質量電荷比の差から、別の糖及び糖の開裂断片による修飾であることが判明すれば、それを修飾条件とすればよい。また、ここでは、データベース検索として上述した英国マトリックス・サイエンス社が提供するマスコットのMS/MSイオンサーチ法を用いるが、データベース検索法はこれに限るものではなく、周知の他の方法を用いてもよい。
【0035】
図5は、MS/MSイオンサーチ法の場合の検索条件の設定画面の一例である。ここで、標準状態のマスコットには、修飾条件の選択肢としてHexNAc環開裂断片(83[Da])が登録されていないため、利用者によってHexNAc環開裂断片(83[Da])が修飾条件の選択肢としてマスコットに追加登録されているものとする。本例では、HexNAc環開裂断片(83[Da])に対応する修飾条件として、HexNAcの開裂により生成された0,2Xイオンである「0,2XHexNAc(N)」が登録されているものとする。また、その他に、修飾条件として設定したい糖の環開裂断片がマスコットに登録されていない場合にも、利用者が予めマスコットに追加登録を行えばよい。図5においては、上記の修飾条件を示す0,2XHexNAc(N)(図5中では「02xHexNAc(N)」と表記)とHexNAc(N)が、分析者の入力操作により、可変修飾(Variable modification)として設定されている。この際に、分析者が前もって糖鎖以外の修飾があることを知っていれば、その糖鎖以外の修飾についても、固定修飾(Fixed modification)又は可変修飾(Variable modification)として設定する。この例では、ペプチドのC末端がカルバミドメチル(Carbamidomethyl)化されていることが分析者にとって既知であるため、これが固定修飾として設定されている。一般的に、糖鎖以外の修飾の種類は試料であるタンパク質の前処理方法などに依存しており、これは分析者自身が行うことであるから分析者には既知である。
【0036】
データベース検索部23はステップS6において設定された検索条件に従って、同定用データベース24に登録されているペプチドのアミノ酸配列のピークパターンとの照合によるデータベース検索を実行する(ステップS7)。そして、その検索では、既知のペプチドとのピークパターンの一致度を示す指標(スコア)が計算されるから、そのスコアが高く、且つ、指定した修飾を受けているものを、候補として例えばスコア順にリストアップする(ステップS8)。即ち、3個のピークリストについてそれぞれ一致度の高いペプチドの候補が複数リストアップされるが、その順序は必ずしも同じではない。そこで、データベース検索部23は3つの結果における各候補の順位又はスコアを総合的に判断し、最も蓋然性の高いものから順にペプチドのアミノ酸配列の候補をリストアップし、そのリストを表示部29の画面に表示して分析者に提示する(ステップS9)。
【0037】
図6は、図4に基づいて作成されたピークリストをデータベース検索に供することで最終的に出力される結果を示す図である。具体的には、図4中の候補表示ウインドウ33の最上位に示されたトリプレットピークについて作成したピークリストを、データベース検索に供した結果である。ここでは、全ての結果の中でスコアが高い順に検索結果が提示される。この例では、最上位に提示された結果において、m/z=1476.2470のプロダクトイオンについてのピークリストから検索された結果では、1位のランクで、且つ、最も高いスコア(Score)35で、[CGLVPVLAENYNK]のアミノ酸配列、つまりヒトトランスフェリンの配列がヒットしている。またm/z=1559.2850のプロダクトイオンについてのピークリストから検索された結果では、8位のランクで、[CGLVPVLAENYNK]のアミノ酸配列+HexNAc環開裂断片による修飾がヒットしている。さらに、m/z=1679.305のプロダクトイオンについてのピークリストから検索された結果では、2位のランクで、[CGLVPVLAENYNK]のアミノ酸配列+HexNAcによる修飾がヒットしている。これより、総合的には、[CGLVPVLAENYNK]のアミノ酸配列が最も蓋然性が高い候補として挙げられている。また、糖鎖結合部位はアミノ酸配列の中に下線が付された位置で示されている。
【0038】
以上のようにして、本実施例の糖ペプチド構造解析システムによれば、目的とする糖ペプチド由来のイオンをプリカーサイオンとして求めたMS/MSスペクトルに基づいて、糖ペプチドを構成するペプチドのアミノ酸配列と糖鎖結合部位とを高い信頼度で推定することが可能となる。
【0039】
上記説明では、N型糖鎖結合糖ペプチドを例に挙げて説明したが、糖タンパク質には、N型糖鎖結合以外にO型糖鎖結合がある。一般的に、O型糖鎖結合糖ペプチドの場合、上記ステップS4の処理を行うために、糖ペプチド由来のイオンをプリカーサイオンとしたMS/MSスペクトル上で既知の糖鎖修飾条件に基づいたトリプレットピークを利用することができない。そこで、例えばまず既知の糖鎖修飾条件に基づいたトリプレットピークの検出を試み、トリプレットピークが検出できない場合にO型糖鎖結合糖ペプチドの可能性があると判断し、次のようにして、糖鎖が全て脱離したペプチドに帰属されるプロダクトイオンと糖による単純な修飾を受けたペプチドに帰属されるプロダクトイオンとの抽出を試みるようにするとよい。
【0040】
図7は、O型糖鎖結合糖タンパク質であるフェチュイン(Fetuin)の酵素消化物に対するMS/MSスペクトルである。図7に示すように、m/z=3602.84であるプリカーサイオンから低質量電荷比側には、質量電荷比の差が上述したような既知の糖鎖の質量電荷比(例えばヘキソースであれば162[Da]、N−アセチルヘキソサミンであれば203[Da])であるプロダクトイオン由来のピークが並ぶ。この中で最も質量電荷比が小さなプロダクトイオンが全ての糖鎖が脱離したペプチド由来のプロダクトイオンであると推測できる。なお、この推測が正しいか否かは、選択したプロダクトイオンよりも低質量電荷比側にアミノ酸の脱離によって得られた(ペプチドの開裂によって得られた)プロダクトイオンに由来するピークが並んでいることで確認することが可能である。つまり、図7に示すMS/MSスペクトル中のX2の範囲に並ぶピークの間隔が既知のアミノ酸の質量電荷比に一致するか否かを調べることにより、選択したペプチドの妥当性を評価することができる。
【0041】
これにより、全ての糖鎖が脱離したペプチドが決まるから、それから高質量電荷比側に既知の糖鎖修飾だけ離れた位置のピークを1個の糖(又は1個の糖の開裂断片)による単純な修飾を受けたペプチド由来のピークとすればよい。このようなプロダクトイオンの抽出以外は、上記のN型糖鎖結合糖ペプチドと同様の処理を行うことにより、O型糖鎖結合糖ペプチドのアミノ酸配列と糖鎖結合部位とを同定することができる。
【0042】
なお、上記実施例では、ステップS4で例えばピーク強度が最大となる1組のトリプレットピークを選択し、該ピークに対応したピークリストから糖鎖構造を同定していたが、複数組のトリプレットピークが存在する場合に、必ずしもピーク強度が最大となるトリプレットピークが適切であるとは限らない。そこで、例えばピーク強度が大きい組から順にトリプレットピークを1組ずつ選びながらステップS4〜S8の処理を繰り返し、つまり異なるトリプレットピークを元にしたデータベース検索を実行し、最終的に、それらデータベース検索の結果を併せて最も妥当性の高い幾つかの結果を分析者に提示するようにしてもよい。
【0043】
またステップS4でプロダクトイオンを抽出する際に選択したトリプレットピークが適切なものであるか否かを、糖鎖解析を行うことでチェックするようにしてもよい。糖鎖解析の手法としては、トリプレットピークの中の質量電荷比が最小の、つまり全ての糖鎖が脱離したペプチド由来のピークを起点として高質量電荷比側に、既知の糖鎖の質量電荷比と一致する間隔で存在するピークを見つけるという操作を繰り返し、最終的にプリカーサイオン由来のピークに一致するピークを見いだせるか否かを調べる。プリカーサイオン由来のピークに一致するピークを見いだせない場合には、初めに設定した起点が適切でない可能性があるから、それを含むトリプレットピークは候補から除外すればよい。なお、上記のような既知の糖鎖の質量電荷比と一致する間隔で存在するピークを見つける操作の繰り返しにより、プリカーサイオンを修飾している糖鎖の組成を推定することが可能である。
【0044】
また、上記実施例は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨の範囲で適宜変形、修正、追加等を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【符号の説明】
【0045】
1…質量分析部
10…イオン化部
11…イオントラップ
12…飛行時間型質量分析器
13…飛行空間
14…イオン検出器
2…制御・処理部
20…分析制御部
21…スペクトル作成部
22…スペクトル解析部
23…データベース検索部
24…同定用データベース
28…入力部
29…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
MS/MS分析可能な質量分析装置を用いて糖ペプチドを構成するペプチドと糖鎖結合部位とを同定する糖ペプチド構造解析方法であって、
a)被検試料をMS分析して得られたMSスペクトル中に現れる糖ペプチド由来のイオンを見つけ、該イオンをプリカーサイオンとして選定して前記被検試料に対するMS/MS分析を実行し、MS/MSスペクトルを取得する分析実行ステップと、
b)前記分析実行ステップにより得られたMS/MSスペクトルから、全ての糖鎖が脱離したペプチドに帰属されるプロダクトイオンと糖による単純な修飾を受けたペプチドに帰属されるプロダクトイオンとを探索し、その複数のプロダクトイオン毎にそれぞれ、前記MS/MSスペクトル中でそのプロダクトイオンの質量電荷比以下の質量電荷比を有するイオンピークを列挙したピークリストを作成するピークリスト作成ステップと、
c)前記ピークリスト作成ステップにおいてプロダクトイオンを探索する際に想定された修飾条件と前記ピークリストとを検索条件として、同定用データベースを用いたデータベース検索を実行するデータベース検索実行ステップと、
d)前記データベース検索により、複数のピークリストに対し一致度が相対的に高いとの結果が得られたペプチドのアミノ酸配列及び糖鎖結合部位に関する情報を出力する結果提供ステップと、
を有することを特徴とする糖ペプチド構造解析方法。
【請求項2】
請求項1に記載の糖ペプチド構造解析方法であって、
前記ピークリスト作成ステップでは、N型糖鎖結合糖ペプチドに特徴的なトリプレットピークを探索することにより、全ての糖鎖が脱離したペプチドに帰属されるプロダクトイオンと糖による単純な修飾を受けたペプチドに帰属されるプロダクトイオンとを探索することを特徴とする糖ペプチド構造解析方法。
【請求項3】
請求項2に記載の糖ペプチド構造解析方法であって、
前記ピークリスト作成ステップでは、複数のトリプレットピークが存在した場合に最大強度を与えるトリプレットピークを選定し、そのトリプレットピークに基づいて、全ての糖鎖が脱離したペプチドに帰属されるプロダクトイオンと糖による単純な修飾を受けたペプチドに帰属されるプロダクトイオンとを求めることを特徴とする糖ペプチド構造解析方法。
【請求項4】
MS/MS分析可能な質量分析装置を用いて糖ペプチドを構成するペプチドと糖鎖結合部位とを同定する糖ペプチド構造解析装置において、
a)被検試料をMS分析して得られたMSスペクトル中に現れる糖ペプチド由来のイオンを見つけ、該イオンをプリカーサイオンとして選定して前記被検試料に対するMS/MS分析を実行し、MS/MSスペクトルを取得する分析制御手段と、
b)前記分析制御手段の制御の下に得られたMS/MSスペクトルから、全ての糖鎖が脱離したペプチドに帰属されるプロダクトイオンと糖による単純な修飾を受けたペプチドに帰属されるプロダクトイオンとを探索し、その複数のプロダクトイオン毎にそれぞれ、前記MS/MSスペクトル中でそのプロダクトイオンの質量電荷比以下の質量電荷比を有するイオンピークを列挙したピークリストを作成するピークリスト作成手段と、
c)前記ピークリスト作成手段においてプロダクトイオンを探索する際に想定された修飾条件と前記ピークリストとを検索条件として、同定用データベースを用いたデータベース検索を実行するデータベース検索実行手段と、
d)前記データベース検索により、複数のピークリストに対し一致度が相対的に高いとの結果が得られたペプチドのアミノ酸配列及び糖鎖結合部位に関する情報を出力する結果提供手段と、
を備えることを特徴とする糖ペプチド構造解析装置。
【請求項5】
請求項4に記載の糖ペプチド構造解析装置であって、
前記ピークリスト作成手段は、N型糖鎖結合糖ペプチドに特徴的なトリプレットピークを探索することにより、全ての糖鎖が脱離したペプチドに帰属されるプロダクトイオンと糖による単純な修飾を受けたペプチドに帰属されるプロダクトイオンとを探索することを特徴とする糖ペプチド構造解析装置。
【請求項6】
請求項5に記載の糖ペプチド構造解析装置であって、
前記ピークリスト作成手段は、複数のトリプレットピークが存在した場合に最大強度を与えるトリプレットピークを選定し、そのトリプレットピークに基づいて、全ての糖鎖が脱離したペプチドに帰属されるプロダクトイオンと糖による単純な修飾を受けたペプチドに帰属されるプロダクトイオンとを求めることを特徴とする糖ペプチド構造解析装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−256101(P2010−256101A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−104671(P2009−104671)
【出願日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】