糖・脂質代謝能の改善剤、およびそのスクリーニング方法
【課題】糖・脂質代謝能の改善剤、およびその開発に必要な手段の提供。
【解決手段】KLF15発現ベクターを含む、糖・脂質代謝能の改善剤;被験物質がKLF15の発現を促進し得るか否かを評価し、KLF15の発現を促進し得る被験物質を、糖・脂質代謝能の改善に有効な物質として選択することを含む、糖・脂質代謝能の改善に有効な物質のスクリーニング方法;ならびにKLF15遺伝子が脂肪細胞特異的に導入された、トランスジェニック非ヒト動物など。
【解決手段】KLF15発現ベクターを含む、糖・脂質代謝能の改善剤;被験物質がKLF15の発現を促進し得るか否かを評価し、KLF15の発現を促進し得る被験物質を、糖・脂質代謝能の改善に有効な物質として選択することを含む、糖・脂質代謝能の改善に有効な物質のスクリーニング方法;ならびにKLF15遺伝子が脂肪細胞特異的に導入された、トランスジェニック非ヒト動物など。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖・脂質代謝能の改善剤、糖・脂質代謝能の改善に有効な物質のスクリーニング方法、KLF15トランスジェニック動物などを提供する。
【背景技術】
【0002】
転写因子KLF(Kruppel-like factor)はショウジョバエのホメオドメイン蛋白として単離されたことにより、発生や分化を制御する転写因子であると推定され、ほ乳類では現在までに17種類(KLF1〜KLF17)が同定されている。KLF15が制御する遺伝子としては、クロライドチャンネル蛋白(腎臓)、糖輸送担体(骨格筋、脂肪細胞)、アセチルCoA合成酵素(骨格筋)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシナーゼ(肝臓)、ロドプシン及びロドプシン結合蛋白(眼)が報告されている。
【0003】
特許文献1および非特許文献1には、KLF15(KKLF)が、前駆脂肪細胞から成熟脂肪細胞への分化誘導によって細胞内の脂肪蓄積を促進する因子であり得ることが記載されている。
特許文献2には、KLF15(KKLF)の転写調節領域、ならびにこの転写調節領域を用いる脂肪蓄積調節能力を有する物質の探索方法などが記載されている。
非特許文献2には、KLF15(KKLF)が、培養肝細胞においてホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼを活性化し、新たなブドウ糖を肝細胞より産制する因子であり得ることが記載されている。
非特許文献3には、KLF15(KKLF)が、培養筋細胞、培養脂肪細胞において糖輸送担体の発現を誘導し、ブドウ糖を細胞内に取り込み、脂肪として蓄積する因子であり得ることが記載されている。
しかしながら、脂肪細胞におけるKLF15が、個体の糖・脂質代謝能を改善し得る因子として作用することについては何ら報告がない。
【0004】
【特許文献1】特開2003−171316号公報
【特許文献2】特開2003−164296号公報
【非特許文献1】Mori et al., Journal of Biological Chemistry Vol. 280(13): 12867-12875 (2005)
【非特許文献2】Teshigawara et al., Biochemical Biophysical Research Communications Vol. 327(3): 920-926 (2005)
【非特許文献3】Gray et al., Jornal of Biological Chemistry Vol. 277(3): 34322-34328 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遺伝子の機能解析は、種々の疾患に対する新たな作用機序を有する医薬の開発などにつながる。本発明は、KLF15の機能解析により得られた知見に基づき、種々の疾患に対し新たな作用機序を有する医薬を提供すること、ならびに医薬の開発などに有用な手段を提供することなどを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、肥満モデル動物におけるKLF15の発現を解析した結果、その発現が著明に抑制されることを見出した。そこで、本発明者らは、肥満誘導時にKLF15の発現が低下しないマウスを用いてKLF15の肥満病態における役割を検討するため、脂肪細胞特異的にKLF15を発現するトランスジェニック動物を作製、解析した。その結果、KLF15は脂肪蓄積を促進する因子であるという従来の知見によればKLF15トランスジェニック動物は対照動物に比しより太ると考えられたが、予想外なことに、作製したKLF15トランスジェニック動物は、高脂肪食飼育下では対照動物に比し痩せるとともに、耐糖能に優れること、肥満の程度にかかわらず血中アディポネクチンが低下することなどを見出した。以上より、本発明者らは、脂肪細胞におけるKLF15が、個体の糖・脂質代謝能を改善し得る因子として作用することを見出し、以って本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は下記の通りであり得る:
〔1〕KLF15発現ベクターを含む、糖・脂質代謝能の改善剤。
〔2〕KLF15発現ベクターを含む、耐糖能異常に起因する疾患、肥満及び肥満に起因する疾患、高インスリン血症及び高インスリン血症に起因する疾患からなる群より選ばれる疾患または状態の予防または治療薬。
〔3〕以下の工程(a)、(b)を含む、糖・脂質代謝能の改善に有効な物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質がKLF15の発現を促進し得るか否かを評価する工程;
(b)KLF15の発現を促進し得る被験物質を、糖・脂質代謝能の改善に有効な物質として選択する工程。
〔4〕以下の工程(a)、(b)を含む、耐糖能異常に起因する疾患、肥満及び肥満に起因する疾患、高インスリン血症及び高インスリン血症に起因する疾患からなる群より選ばれる疾患または状態の予防・治療に有効な物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質がKLF15の発現を促進し得るか否かを評価する工程;
(b)KLF15の発現を促進し得る被験物質を、該疾患または状態の予防・治療に有効な物質として選択する工程。
〔5〕工程(a)が以下の工程(a1)、(a2)を含む、上記〔4〕の方法:
(a1)被験物質を、該疾患または状態のモデル動物に投与する工程;
(a2)被験物質を投与した動物におけるKLF15の発現量を測定し、該発現量を被験物質を投与しない対照動物におけるKLF15の発現量と比較する工程。
〔6〕該疾患または状態のモデル動物が高脂肪食負荷動物である、上記〔5〕の方法。
〔7〕KLF15遺伝子が脂肪細胞特異的に導入された、トランスジェニック非ヒト動物。
〔8〕抗肥満または低アディポネクチン状態のモデル動物である、上記〔7〕の動物。
〔9〕上記〔7〕の動物に由来する脂肪組織または脂肪細胞。
【発明の効果】
【0008】
本発明の剤は、例えば糖・脂質代謝能の改善に有用である。より詳細には、本発明の剤は、耐糖能異常に起因する疾患(例、糖尿病)、肥満及び肥満に起因する疾患(例、高脂血症、高血圧症等の生活習慣病)、高インスリン血症及び高インスリン血症に起因する疾患(例、動脈硬化症、高脂血症、高血圧症、多嚢胞性卵巣症候群)等の疾患または状態の予防または治療に有用である。本発明のスクリーニング方法は、例えば、上述したような糖・脂質代謝能の改善剤の開発に有用である。本発明の動物は、例えば、抗肥満、低アディポネクチン状態等のモデル動物として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、KLF15発現ベクターを含む、糖・脂質代謝能の改善剤を提供する。
【0010】
Kruppel-like factor 15(KLF15)は、ヒトKLF15(例、GenBankアクセッション番号:NM_014079参照)またはそのオルソログ、あるいはそれらの変異体(SNP、ハプロタイプを含む)であり得る。KLF15のオルソログは特に限定されず、例えば哺乳動物(例、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、サル、ウサギ、ラット、ハムスター、モルモット、マウス)等の動物に由来するものであり得る。KLF15は、糖・脂質代謝能の改善能を有し得る限り、そのコードするアミノ酸配列において1以上のアミノ酸の変異(例、欠失、置換、付加、挿入)を有していてもよい。
【0011】
KLF15発現ベクターは、上記KLF15をコードするポリヌクレオチドが、投与対象である哺乳動物の細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されていなければならない。使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物で機能し得るものであれば特に制限されず、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、ならびにβ−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーターなどが挙げられる。また、脂肪細胞等のKLF15発現細胞に特異的なプロモーターを用いてもよい。このようなプロモーターは、KLF15発現細胞に特異的に発現している任意の遺伝子のプロモーターであり得るが、例えば、脂肪細胞特異的プロモーターとしては、aP2(fatty acid binding promoter 4)、アディポネクチン(adiponectin)、レシスチン(resistin)、アディプシン(adipsin)を使用できる。
【0012】
発現ベクターは、好ましくは核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含む。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含むこともできる。
【0013】
発現ベクターとして使用される基本骨格のベクターは、プラスミドまたはウイルスベクターであり得るが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、エプスタイン・バー・ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0014】
本発明の剤は、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0015】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤、あるいは散剤、顆粒剤等である。
【0016】
非経口的な投与(例、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0017】
本発明の剤の投与量は、有効成分の活性や種類、投与様式(例、経口、非経口)、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり約0.001mg〜約5.0g/kgである。
【0018】
本発明の剤は、糖・脂質代謝能を改善し得る。従って、本発明の剤は、例えば、医薬として有用である。本発明の剤が医薬として使用される場合、糖・脂質代謝能の改善が所望される疾患または状態の予防・治療のために使用することができる。また、本発明において、KLF15の適用が有効な疾患または状態としては、例えば、耐糖能異常に起因する疾患(例、2型糖尿病、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経症など)、肥満及び肥満に起因する疾患(例、高脂血症、高血圧症等の生活習慣病)、高インスリン血症及び高インスリン血症に起因する疾患(例、動脈硬化症、高脂血症、高血圧症、多嚢胞性卵巣症候群)が挙げられる。
【0019】
本発明はまた、糖・脂質代謝能の改善あるいは上記疾患の予防・治療に有効な物質のスクリーニング方法、ならびに当該スクリーニング方法により得られる物質、および当該物質を含む糖・脂質代謝能の改善剤あるいは上述の疾患または状態の予防・治療薬を提供する。本発明のスクリーニング方法は、例えば、以下の工程(a)、(b)を含み得る:
(a)被験物質がKLF15の発現を促進し得るか否かを評価する工程;
(b)KLF15の発現を促進し得る被験物質を、糖・脂質代謝能の改善あるいは上述の疾患または状態の予防・治療に有効な物質として選択する工程。
【0020】
本発明のスクリーニング方法の工程(a)では、スクリーニング方法に供される被験物質は、任意の公知化合物および新規化合物であり得、例えば、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、核酸(例、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド)、糖質(例、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖)、脂質(例、飽和または不飽和の直鎖、分岐鎖および/または環を含む脂肪酸)、アミノ酸、蛋白質(例、オリゴペプチド、ポリペプチド)、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
【0021】
工程(a)は、被験物質によるKLF15の発現の促進を評価可能である限り如何なる様式でも行われ得るが、例えば、非ヒト動物、あるいはKLF15の発現を測定可能な細胞を用いて行われ得る。
【0022】
例えば、工程(a)が動物を用いて行われる場合、動物は、KLF15の発現に基づく糖・脂質代謝能の改善あるいは上述の疾患の予防・治療に有効な物質のスクリーニングを可能とするものである限り特に限定されず、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル等の非ヒト哺乳動物などが挙げられる。好ましくは、工程(a)で用いられる動物は、糖・脂質代謝異常のモデル動物であり得る。糖・脂質代謝異常のモデル動物としては、例えば、高脂肪食負荷された動物、ならびにその他の動物、例えば、耐糖能異常に起因する疾患のモデル動物(例、db/dbマウス、KKAyマウス、Wistar-fattyラット、Goto-Kakizaki (GK)ラット、Otsuka long-evans fatty (OLETF)ラット、秋田マウス、ストレプトゾトシンなどの薬物投与による膵破壊マウス及びラット)、肥満のモデル動物(例、ob/obマウス、Ayマウス、Zucker-fattyラット、Otsuka long-evans fatty (OLETF)ラット、グルタミン酸などの薬物投与による過食誘発マウス及びラット)、低アディポネクチン血症のモデル動物(例、アディポネクチン欠損マウス、ob/obマウス、A-ZIP脂肪萎縮症マウス)、高インスリン血症のモデル動物(例、IRS1欠損マウス、上記の肥満モデル動物)、動脈硬化症のモデル動物(例、apoE欠損マウス、LDL受容体欠損マウス、WHHLウサギ)、高血圧症のモデル動物(例、11βHSD導入マウス、SHRラット、SHRSPラット)が挙げられる。高脂肪食負荷された動物は、高脂肪食が与えられた動物である。高脂肪食は、マウスに対する通常食に比し脂肪分を高めたものであり得る。本発明のスクリーニング方法に用いられ得る高脂肪食としては、例えば、大豆オイル、ラード等の脂肪分を加えることにより、単位カロリーに占める粗脂肪の割合を4.8%から30%に高めたものであり得る。
【0023】
工程(a)で動物が用いられる場合、工程(a)は、例えば、以下の工程(a1)、(a2)を含み得る:
(a1)被験物質を動物に投与する工程;
(a2)被験物質を投与した動物におけるKLF15の発現量を測定し、該発現量を被験物質を投与しない対照動物におけるKLF15の発現量と比較する工程。
【0024】
上記工程(a1)では、被験物質の動物への投与は自体公知の方法により行なわれ得る。例えば、投与方法としては、経口投与、非経口投与(例、静脈注射、皮下注射、腹腔内注射、局所注入)が挙げられる。投与量、投与間隔、投与期間等は、用いる被験物質や動物の種類等に応じて適宜設定され得る。
【0025】
上記工程(a2)では、先ず、被験物質を投与した動物におけるKLF15の発現量が測定される。発現量の測定は、例えば、動物から生体試料を採取し、その試料中の転写産物または翻訳産物量を測定することにより行われ得る。例えば、転写産物の発現量は、RT−PCR、ノザンブロッティング等により、また、翻訳産物の発現量は、免疫学的手法により測定され得る。KLF15発現量の測定のために動物から採取されるべき生体試料としては、KLF15発現組織のなかでも、脂肪組織(例、皮下脂肪、副睾丸周囲脂肪)を含むものが好ましい。
【0026】
次いで、被験物質を投与した動物におけるKLF15の発現量が、被験物質を投与しない対照動物におけるKLF15の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を投与しない対照動物におけるKLF15の発現量は、被験物質を投与した動物におけるKLF15の発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【0027】
また、工程(a)は、KLF15の発現を測定可能な細胞を用いて行われ得る。KLF15の発現を測定可能な細胞とは、KLF15の産物(例、転写産物、翻訳産物)の発現レベルを直接的または間接的に評価可能な細胞をいう。KLF15の産物の発現レベルを直接的に評価可能な細胞は、脂肪細胞等のKLF15発現細胞であり得、一方、KLF15の産物の発現レベルを間接的に評価可能な細胞は、KLF15遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞であり得る。KLF15の発現を測定可能な細胞は、動物細胞、例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル、ヒト等の哺乳動物細胞であり得る。
【0028】
KLF15発現細胞は、KLF15を潜在的に発現するものである限り特に限定されない。かかる細胞は、当業者であれば容易に同定でき、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株などを使用できる。例えば、3T3-L1細胞、3T3-F442A細胞、C3H10T1/2細胞、C2C12細胞、L6細胞、H4II-E細胞等の細胞株が好ましく使用され得る。また、上述した糖・脂質代謝異常のモデル動物由来の細胞(例、初代培養細胞)を用いてもよい。
【0029】
KLF15遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、KLF15遺伝子の転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む細胞である。KLF15遺伝子の転写調節領域、レポーター遺伝子は、発現ベクター中に挿入され得る。KLF15遺伝子の転写調節領域は、KLF15の発現を制御し得る領域である限り特に限定されないが、例えば、各KLF15遺伝子の転写調節領域、あるいは該領域の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つこれらのKLF15の転写を制御する能力を有する領域などが挙げられる(例えば、特開2003-164296号公報; Journal of Biological Chemistry Vol. 280(13): 12867-12875 (2005) 参照)。レポーター遺伝子は、検出可能な蛋白質または検出可能な物質を生成する酵素をコードする遺伝子であればよく、例えばGFP(緑色蛍光蛋白質)遺伝子、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、LUC(ルシフェラーゼ)遺伝子、CAT(クロラムフェニコルアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子等が挙げられる。なお、KLF15遺伝子の転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子が導入される細胞は、KLF15遺伝子の転写調節機能を評価できる限り、即ち、該レポーター遺伝子の発現量が定量的に解析可能である限り特に限定されない。しかしながら、KLF15に対する生理的な転写調節因子を発現し、KLF15の発現調節の評価により適切であると考えられることから、該導入される細胞としては、KLF15発現細胞が好ましい。
【0030】
工程(a)で細胞が用いられる場合、工程(a)は、例えば、以下の工程(a1’)、(a2’)を含み得る:
(a1’)被験物質を、KLF15の発現を測定可能な細胞に接触させる工程;
(a2’)被験物質を接触させた細胞におけるKLF15の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるKLF15の発現量と比較する工程。
【0031】
上記工程(a1’)では、被験物質の細胞への接触は自体公知の方法により培地中で行なわれ得る。被験物質とKLF15の発現を測定可能な細胞とが接触される培地は、用いられる細胞の種類などに応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件もまた、用いられる細胞の種類などに応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
【0032】
上記工程(a1’)では、先ず、被験物質を接触させた細胞におけるKLF15の発現量が測定される。発現量の測定は、用いた細胞の種類などを考慮し、自体公知の方法により行われ得る。例えば、KLF15の発現を測定可能な細胞として、KLF15発現細胞を用いた場合、発現量は、上述の工程(a2)と同様の方法により測定され得る。一方、KLF15の発現を測定可能な細胞として、KLF15転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞を用いた場合、発現量は、レポーターのシグナル強度に基づき測定され得る。
【0033】
次いで、被験物質を接触させた細胞におけるKLF15の発現量が、被験物質を接触させない対照細胞におけるKLF15の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を接触させない対照細胞におけるKLF15の発現量は、被験物質を接触させた細胞におけるKLF15の発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【0034】
本発明のスクリーニング方法の工程(b)では、KLF15の発現量を増加させる(発現を促進する)被験物質が、糖・脂質代謝能の改善に有効な物質として選択され得る。このように選択された被験物質は、例えば、糖・脂質代謝能の改善あるいは上述の疾患または状態の予防または治療に有効であり得る。即ち、KLF15の発現を増強する化合物もまた、本発明の糖脂質代謝能の改善剤に包含される。
【0035】
本発明はさらに、KLF15トランスジェニック動物、あるいはそれに由来する組織または細胞を提供する。
【0036】
本発明の動物は、KLF15遺伝子が脂肪細胞特異的に導入され、その脂肪細胞内に発現可能な状態で永続的に存在し得る。本発明の動物の種は、トランスジェニック動物の作製が可能である動物種である限り特に限定されないが、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル等の非ヒト哺乳動物などが挙げられる。
【0037】
本発明の動物は、抗肥満のモデル動物であり得る。本発明の動物は、通常食飼育下では、野生型動物に比し体重および/または脂肪組織重量の変化は認められないが、高脂肪食飼育下では、体重および/または脂肪組織重量の有意な減少が認められ得る。
【0038】
本発明の動物はまた、低アディポネクチン状態のモデル動物であり得る。本発明の動物は、肥満の程度、あるいは飼育条件(例、通常食または高脂肪食での飼育)にかかわらず、野生型動物に比し、血中アディポネクチン値の有意な低下が認められ得る。
低アディポネクチン状態は、脂肪細胞のみより分泌されるアディポネクチンの血中濃度および/または血中量が低値である状態である。
【0039】
本発明の動物はさらに、上述の表現型以外にも、高脂肪食飼育下において、野生型動物に比し通常食飼育下では認められない表現型を呈し得る。このような表現型としては、例えば、食後インスリン値の上昇、空腹時および/または糖負荷後の血糖値の低下、糖負荷後の血中インスリン値の上昇、血中レプチン値の低下、血中遊離脂肪酸値の低下などが挙げられる。
【0040】
本発明の動物は、自体公知の方法により作出できる。より詳細には、本発明の動物は、例えば、発生の初期段階において、動物の受精卵またはその他の細胞(例、未受精卵、精子またはそれらの前駆細胞)に、脂肪細胞特異的な発現を可能とするプロモーターに機能可能に連結されたKLF15遺伝子(例、上述のKLF15発現ベクター)を導入することにより作出できる。遺伝子の導入法としては、例えば、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、凝集法、リン酸カルシウム共沈殿法、マイクロインジェクション法が挙げられる。本発明の動物はまた、このように作出されたKLF15トランスジェニック動物と同種の他の動物(例、上述の糖・脂質代謝異常のモデル動物)との交配により作出される動物であってもよい。
【0041】
本発明の動物に由来する組織または細胞は、本発明の動物から採取可能な任意の組織または細胞である限り特に限定されない。より詳細には、本発明の動物に由来する組織または細胞としては、例えば、脂肪組織または脂肪細胞、骨髄間質細胞、繊維芽細胞、血中単核球が挙げられるが、脂肪組織または脂肪細胞が好ましい。
【0042】
本発明の動物あるいはそれに由来する組織または細胞は、例えば、本発明のスクリーニング方法、糖・脂質代謝能の改善が所望される疾患または状態のマーカー遺伝子のスクリーニング、または脂肪細胞マーカー遺伝子のスクリーニング、糖・脂質代謝能の改善が所望される疾患または状態の病態メカニズムの解析、肥満や低アディポネクチン状態、高インスリン血症に起因する疾患または状態の病態メカニズムの解析などに有用である。これらは、例えば、マイクロアレイ、プロテインチップ(例、抗体チップ、またはサイファージェン社製チップ等の非抗体チップ)等を用いて本発明の動物における発現プロファイル(特に脂肪細胞の発現プロファイル)を測定し、対照動物の発現プロファイルと比較することを含む、発現プロファイル解析により行われ得る。
【0043】
本明細書中で挙げられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0044】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0045】
実施例1:肥満モデルマウスの脂肪組織におけるKLF15発現変動
Kruppel-like factor 15 (KLF15) は、脂肪細胞の分化を正に制御する転写因子である(Journal of Biological Chemistry Vol. 280(13): 12867-12875 (2005))。先ず、我々は、肥満モデルマウスの脂肪組織におけるKLF15発現変動を解析した。肥満モデルマウスは、8週齢の雄C57BL/6マウスに高脂肪食を負荷することにより作製した。また、Lep ob/obマウスを、遺伝的肥満モデルとして用いた。高脂肪食としては、大豆オイル及びラードを加えることにより、単位カロリーに占める粗脂肪の割合を4.8 %から30 %に高めたものを用いた。一方、コントロールとして用いた通常食は、単位カロリーに占める粗脂肪の割合が4.8%である。高脂肪食の負荷期間は、8週間であった。
1.1.周囲脂肪組織におけるKLF15 mRNAの発現解析
GLUT4やPPARγ、Adiponectinと同様に、高脂肪食給餌によってKLF15 mRNAの発現が著明に抑制された(図1A)。
1.2.RT-PCRによる、高脂肪食給餌肥満モデルマウスの皮下脂肪組織及び副睾丸周囲脂肪組織におけるKLF15 mRNAの発現解析
皮下脂肪組織及び副睾丸周囲脂肪組織において、高脂肪食給餌によってKLF15 mRNAの発現が著明に抑制された(図1B)。
1.3.Northern blotによる、遺伝的肥満モデルLep ob/obマウスの副睾丸周囲脂肪組織におけるKLF15 mRNAの発現解析
GLUT4やPPARγ、Adiponectinと同様に、高脂肪食給餌によってKLF15 mRNAの発現が著明に抑制された(図1C)。
以上から、KLF15が高脂肪食給餌による肥満モデルマウスや遺伝的肥満モデルであるLep ob/obマウスにおいて、その発現が著明に抑制されることが示された。
【0046】
実施例2:脂肪細胞特異的KLF15トランスジェニックマウス(aP2-KLF15 Tgマウス)の作出
肥満誘導時にKLF15の発現が低下しない(発現が持続する)マウスを用いてKLF15の肥満病態における役割を検討するため、aP2 (fatty acid binding promoter 4) のプロモーター5.4kb(Ross et al., Proceedings of the national academy of science of the United States of America Vol.87: 9590-9594 (1990) 参照)によって、脂肪細胞にKLF15を特異的に発現するaP2-KLF15トランスジェニックマウス (aP2-KLF15 Tgマウス) を作出した。詳細には、aP2-KLF15 DNA溶液をC57BL/6受精卵に注入後、仮親の子宮に戻し、仔マウスを得た。スクリーニングの結果、2匹のマウスがaP2-KLF15DNAを持つことを見出した。さらに、これらのマウスは次代にaP2-KLF15DNAを伝達することが明らかとなり、2系統(系統1、系統3)のaP2-KLF15導入マウスを樹立することが出来た。
次いで、得られたマウスが脂肪細胞特異的にKLF15を発現しているか否かを確認した。その結果、系統1 (L1) では、内因性KLF15と同程度のKLF15の発現が認められ、また、系統3 (L3) では、内因性KLF15の約5倍のKLF15の発現が認められたが、系統2及び系統8の脂肪組織には、KLF15の発現は認められなかった(図2)。
以上から、皮下脂肪組織、副睾丸周囲脂肪組織及び褐色脂肪組織にKLF15を発現するマウスが得られた。
【0047】
実施例3:通常食飼育によるaP2-KLF15 Tgマウスの表現型の解析
3.1.通常食飼育下におけるaP2-KLF15 Tgマウスの体重及び組織重量変化
通常食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1及びL3とも、体重に有意差を認めなかった(図3A)。また、通常食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1及びL3 (いずれも21週齢マウス)とも、副睾丸周囲脂肪組織、皮下脂肪組織、肝臓及び褐色脂肪組織の重量に有意差を認めなかった(図3B)。
3.2.通常食飼育下におけるaP2-KLF15 Tgマウスの血糖値 (食後) 及びインスリン値 (食後) の測定
通常食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1及びL3とも、血糖値に有意差を認めなかった(図4A)。同様に、通常食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1及びL3とも、血中インスリン値に有意差を認めなかった(図4B)。
3.3.通常食飼育下におけるaP2-KLF15 Tgマウスにおける糖負荷試験 (腹腔内投与、2g/kg)
通常食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1及びL3 (いずれも19週齢マウス)では、血糖値(図5A)、血中インスリン値(図5B)は、空腹時及び負荷後とも有意差を認めなかった。
3.4.通常食飼育下におけるaP2-KLF15Tgマウスにおけるインスリン感受性試験 (腹腔内、1U/kg)
通常食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1及びL3 (いずれも17週齢マウス)では、腹腔内インスリン投与により野生型マウスと同程度の血糖降下作用が認められ、また、インスリン感受性には有意差がなかった(図6)。
3.5.通常食飼育下におけるaP2-KLF15 Tgマウスの血中レプチン値及び血中アディポネクチン値の測定
通常食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1及びL3 (いずれも17週齢マウス) では、血中レプチン値に有意差を認めなかったが(図7A)、L3マウスのみ血中アディポネクチン値が低値を示した(図7B)。
以上から、通常食aP2-KLF15 TgマウスL3 (KLF15高発現マウス) は、肥満の程度とは無関係に低アディポネクチン状態を呈するモデルマウスとして用い得ることが示された(結論1)。
【0048】
実施例4:高脂肪食を給餌したaP2-KLF15Tgマウスの表現型の解析
4.1.高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 Tgマウスの体重及び組織重量変化
高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1は体重に有意差を認めなかったが、aP2-KLF15 TgマウスL3は、高脂肪食飼育野生型マウスに比べ、著明な体重増加抑制を認めた(図8A)。また、高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1は、副睾丸周囲脂肪組織、皮下脂肪組織、肝臓及び褐色脂肪組織の重量に有意差を認めなかったが、aP2-KLF15 TgマウスL3は、高脂肪食飼育野生型マウスに比べ、著明な副睾丸周囲脂肪組織、皮下脂肪組織重量の増加抑制が認められた(図8B)。
4.2.高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 Tgマウスの血糖値 (食後) 及びインスリン値 (食後)
高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1及びL3とも、血糖値に有意差を認めなかった(図9A)。また、高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1では、血中インスリン値に有意差を認めなかったがaP2-KLF15 TgマウスL3は、高脂肪食飼育野生型マウスに比べ、著明な血中インスリンの増加を16週齢マウスで認めた(図9B)。
4.3.高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 Tgマウスにおける糖負荷試験 (腹腔内投与、2g/kg)
高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1 (19週齢マウス) では、負荷後血糖値の低下を認められたが(図10A)、血中インスリン値は、空腹時及び負荷後とも有意差を認めなかった(図10B)。高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL3 (19週齢マウス) では、空腹時及び負荷後血糖値の低下が認められ(図10A)、さらに負荷後血中インスリン値の上昇が認められた(図10B)。
4.4.高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 Tgマウスにおけるインスリン感受性試験(腹腔内、1U/kg)
高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1及びL3 (いずれも17週齢マウス) では、腹腔内インスリン投与により野生型マウスと同程度の血糖降下作用が認められたが、インスリン感受性には有意差がなかった(図11)。
4.5.高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 Tgマウスの血中レプチン値及び血中アディポネクチン値
高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1 (17週齢マウス) では、血中レプチン値及び血中アディポネクチン値に有意差を認めなかったが(図12A)、高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL3 (17週齢マウス) では、血中レプチン値及び血中アディポネクチン値が低値を示した(図12B)。
以上から、高脂肪食aP2-KLF15 TgマウスL3 (KLF15高発現マウス)は、抗肥満モデルマウスとして用い得ることが示された(結論2)。また脂肪組織でのKLF15発現維持が、インスリン分泌を促進することで糖尿病の治療法となり得ることが示された(結論3)。
【0049】
(結論)
本発明者らの研究成果より、以下などが明らかとなった:
1)通常食aP2-KLF15 TgマウスL3 (KLF15高発現マウス) は、肥満の程度とは無関係に低アディポネクチン状態を呈するモデルマウスとして有用であり得る(結論1)。
2)高脂肪食aP2-KLF15 TgマウスL3 (KLF15高発現マウス)は、抗肥満モデルマウスとして有用であり得る(結論2)。
3)脂肪組織でのKLF15の発現維持することが、インスリン分泌促進により糖尿病の治療法となり得る(結論3)。
なお、参考のため、通常食または高脂肪食給餌aP2-KLF15 Tgマウスの表現型解析の結果を、以下の表1にまとめる。
【0050】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の剤は、糖・脂質代謝能を改善し得る。より詳細には、本発明の剤は、耐糖能異常に起因する疾患、肥満等の疾患または状態を予防または治療し得る。本発明のスクリーニング方法は、上述したような糖・脂質代謝能の改善剤の開発を可能とする。本発明の動物は、例えば、抗肥満、低アディポネクチン状態等のモデル動物として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1A】ノザンブロッティングによる、高脂肪食給餌肥満モデルマウスの副睾丸周囲脂肪組織におけるKLF15 mRNAの発現解析を示す図である。
【図1B】RT−PCRによる、高脂肪食給餌肥満モデルマウスの皮下脂肪組織及び副睾丸周囲脂肪組織におけるKLF15 mRNAの発現解析を示す図である。
【図1C】ノザンブロッティングによる、遺伝的肥満モデルLepob/obマウスの副睾丸周囲脂肪組織におけるKLF15 mRNAの発現解析を示す図である。
【図2】作製された脂肪細胞特異的KLF15トランスジェニックマウス(aP2−KLF15 Tgマウス)におけるKLF15の発現を示す図である。1,副睾丸周囲脂肪組織;2,皮下脂肪組織;3,褐色脂肪組織;4,骨格筋;5,心筋;6,肝臓;7,脳。
【図3A】通常食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスの体重変化を示す図である(L1 n=8,L3 n=8,WT n=16)。
【図3B】通常食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスの組織重量変化を示す図である(L1 n=7,L3 n=8,WT n=16)。
【図4A】通常食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスの血糖値(食後)を示す図である(8週齢:L1 n=6,L3 n=8,WT n=14、16週齢:L1 n=8,L3 n=8,WT n=16)。左,8週齢マウス;右,16週齢マウス。
【図4B】通常食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスのインスリン値(食後)を示す図である(8週齢:L1 n=6,L3 n=8,WT n=14、16週齢:L1 n=8,L3 n=8,WT n=15)。左,8週齢マウス;右,16週齢マウス。
【図5A】通常食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスにおける糖負荷試験(腹腔内投与、2g/kg)後の血糖値を示す図である(L1 n=8,L3 n=7,WT n=15)。
【図5B】通常食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスにおける糖負荷試験(腹腔内投与、2g/kg)後の血中インスリン値を示す図である(L1 n=7,L3 n=6,WT n=15)。
【図6】通常食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスにおけるインスリン感受性試験(腹腔内、1U/kg)の結果を示す図である(L1 n=8,L3 n=8,WT n=15)。
【図7A】通常食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスの血中レプチン値を示す図である(L1 n=8,L3 n=8,WT n=16)。
【図7B】通常食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスの血中アディポネクチン値を示す図である(L1 n=7,L3 n=8,WT n=16)。
【図8A】高脂肪食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスの体重変化を示す図である(L1 n=12,L3 n=8,WT n=19)。aP2−KLF15 TgマウスL1及びL3とも、21週齢マウスで検討した。*<0.05
【図8B】高脂肪食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスの組織重量変化を示す図である(L1 n=12,L3 n=8,WT n=14)。aP2−KLF15 TgマウスL1及びL3とも、21週齢マウスで検討した。**<0.001
【図9A】高脂肪食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスの血糖値(食後)を示す図である(L1 n=12,L3 n=8,WT n=19)。左,8週齢マウス;右,16週齢マウス。
【図9B】高脂肪食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスのインスリン値(食後)を示す図である(L1 n=12,L3 n=8,WT n=19)。左,8週齢マウス;右,16週齢マウス。*<0.05
【図10A】高脂肪食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスにおける糖負荷試験(腹腔内投与、2g/kg)後の血糖値の変化を示す図である(L1 n=11,L3 n=8,WT n=15)。*<0.05、**<0.001
【図10B】高脂肪食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスにおける糖負荷試験(腹腔内投与、2g/kg)後の血中インスリン値の変化を示す図である(L1 n=11,L3 n=8,WT n=15)。*<0.05
【図11】高脂肪食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスにおけるインスリン感受性試験(腹腔内、1U/kg)の結果を示す図である(L1 n=9,L3 n=6,WT n=12)。aP2−KLF15 TgマウスL1及びL3とも、17週齢マウスで検討した。
【図12A】高脂肪食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスの血中レプチン値を示す図である(L1 n=11,L3 n=8,WT n=20)。*<0.05
【図12B】高脂肪食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスの血中アディポネクチン値を示す図である(L1 n=11,L3 n=8,WT n=18)。**<0.001
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖・脂質代謝能の改善剤、糖・脂質代謝能の改善に有効な物質のスクリーニング方法、KLF15トランスジェニック動物などを提供する。
【背景技術】
【0002】
転写因子KLF(Kruppel-like factor)はショウジョバエのホメオドメイン蛋白として単離されたことにより、発生や分化を制御する転写因子であると推定され、ほ乳類では現在までに17種類(KLF1〜KLF17)が同定されている。KLF15が制御する遺伝子としては、クロライドチャンネル蛋白(腎臓)、糖輸送担体(骨格筋、脂肪細胞)、アセチルCoA合成酵素(骨格筋)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシナーゼ(肝臓)、ロドプシン及びロドプシン結合蛋白(眼)が報告されている。
【0003】
特許文献1および非特許文献1には、KLF15(KKLF)が、前駆脂肪細胞から成熟脂肪細胞への分化誘導によって細胞内の脂肪蓄積を促進する因子であり得ることが記載されている。
特許文献2には、KLF15(KKLF)の転写調節領域、ならびにこの転写調節領域を用いる脂肪蓄積調節能力を有する物質の探索方法などが記載されている。
非特許文献2には、KLF15(KKLF)が、培養肝細胞においてホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼを活性化し、新たなブドウ糖を肝細胞より産制する因子であり得ることが記載されている。
非特許文献3には、KLF15(KKLF)が、培養筋細胞、培養脂肪細胞において糖輸送担体の発現を誘導し、ブドウ糖を細胞内に取り込み、脂肪として蓄積する因子であり得ることが記載されている。
しかしながら、脂肪細胞におけるKLF15が、個体の糖・脂質代謝能を改善し得る因子として作用することについては何ら報告がない。
【0004】
【特許文献1】特開2003−171316号公報
【特許文献2】特開2003−164296号公報
【非特許文献1】Mori et al., Journal of Biological Chemistry Vol. 280(13): 12867-12875 (2005)
【非特許文献2】Teshigawara et al., Biochemical Biophysical Research Communications Vol. 327(3): 920-926 (2005)
【非特許文献3】Gray et al., Jornal of Biological Chemistry Vol. 277(3): 34322-34328 (2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
遺伝子の機能解析は、種々の疾患に対する新たな作用機序を有する医薬の開発などにつながる。本発明は、KLF15の機能解析により得られた知見に基づき、種々の疾患に対し新たな作用機序を有する医薬を提供すること、ならびに医薬の開発などに有用な手段を提供することなどを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、肥満モデル動物におけるKLF15の発現を解析した結果、その発現が著明に抑制されることを見出した。そこで、本発明者らは、肥満誘導時にKLF15の発現が低下しないマウスを用いてKLF15の肥満病態における役割を検討するため、脂肪細胞特異的にKLF15を発現するトランスジェニック動物を作製、解析した。その結果、KLF15は脂肪蓄積を促進する因子であるという従来の知見によればKLF15トランスジェニック動物は対照動物に比しより太ると考えられたが、予想外なことに、作製したKLF15トランスジェニック動物は、高脂肪食飼育下では対照動物に比し痩せるとともに、耐糖能に優れること、肥満の程度にかかわらず血中アディポネクチンが低下することなどを見出した。以上より、本発明者らは、脂肪細胞におけるKLF15が、個体の糖・脂質代謝能を改善し得る因子として作用することを見出し、以って本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は下記の通りであり得る:
〔1〕KLF15発現ベクターを含む、糖・脂質代謝能の改善剤。
〔2〕KLF15発現ベクターを含む、耐糖能異常に起因する疾患、肥満及び肥満に起因する疾患、高インスリン血症及び高インスリン血症に起因する疾患からなる群より選ばれる疾患または状態の予防または治療薬。
〔3〕以下の工程(a)、(b)を含む、糖・脂質代謝能の改善に有効な物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質がKLF15の発現を促進し得るか否かを評価する工程;
(b)KLF15の発現を促進し得る被験物質を、糖・脂質代謝能の改善に有効な物質として選択する工程。
〔4〕以下の工程(a)、(b)を含む、耐糖能異常に起因する疾患、肥満及び肥満に起因する疾患、高インスリン血症及び高インスリン血症に起因する疾患からなる群より選ばれる疾患または状態の予防・治療に有効な物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質がKLF15の発現を促進し得るか否かを評価する工程;
(b)KLF15の発現を促進し得る被験物質を、該疾患または状態の予防・治療に有効な物質として選択する工程。
〔5〕工程(a)が以下の工程(a1)、(a2)を含む、上記〔4〕の方法:
(a1)被験物質を、該疾患または状態のモデル動物に投与する工程;
(a2)被験物質を投与した動物におけるKLF15の発現量を測定し、該発現量を被験物質を投与しない対照動物におけるKLF15の発現量と比較する工程。
〔6〕該疾患または状態のモデル動物が高脂肪食負荷動物である、上記〔5〕の方法。
〔7〕KLF15遺伝子が脂肪細胞特異的に導入された、トランスジェニック非ヒト動物。
〔8〕抗肥満または低アディポネクチン状態のモデル動物である、上記〔7〕の動物。
〔9〕上記〔7〕の動物に由来する脂肪組織または脂肪細胞。
【発明の効果】
【0008】
本発明の剤は、例えば糖・脂質代謝能の改善に有用である。より詳細には、本発明の剤は、耐糖能異常に起因する疾患(例、糖尿病)、肥満及び肥満に起因する疾患(例、高脂血症、高血圧症等の生活習慣病)、高インスリン血症及び高インスリン血症に起因する疾患(例、動脈硬化症、高脂血症、高血圧症、多嚢胞性卵巣症候群)等の疾患または状態の予防または治療に有用である。本発明のスクリーニング方法は、例えば、上述したような糖・脂質代謝能の改善剤の開発に有用である。本発明の動物は、例えば、抗肥満、低アディポネクチン状態等のモデル動物として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、KLF15発現ベクターを含む、糖・脂質代謝能の改善剤を提供する。
【0010】
Kruppel-like factor 15(KLF15)は、ヒトKLF15(例、GenBankアクセッション番号:NM_014079参照)またはそのオルソログ、あるいはそれらの変異体(SNP、ハプロタイプを含む)であり得る。KLF15のオルソログは特に限定されず、例えば哺乳動物(例、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、サル、ウサギ、ラット、ハムスター、モルモット、マウス)等の動物に由来するものであり得る。KLF15は、糖・脂質代謝能の改善能を有し得る限り、そのコードするアミノ酸配列において1以上のアミノ酸の変異(例、欠失、置換、付加、挿入)を有していてもよい。
【0011】
KLF15発現ベクターは、上記KLF15をコードするポリヌクレオチドが、投与対象である哺乳動物の細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されていなければならない。使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物で機能し得るものであれば特に制限されず、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、ならびにβ−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーターなどが挙げられる。また、脂肪細胞等のKLF15発現細胞に特異的なプロモーターを用いてもよい。このようなプロモーターは、KLF15発現細胞に特異的に発現している任意の遺伝子のプロモーターであり得るが、例えば、脂肪細胞特異的プロモーターとしては、aP2(fatty acid binding promoter 4)、アディポネクチン(adiponectin)、レシスチン(resistin)、アディプシン(adipsin)を使用できる。
【0012】
発現ベクターは、好ましくは核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含む。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含むこともできる。
【0013】
発現ベクターとして使用される基本骨格のベクターは、プラスミドまたはウイルスベクターであり得るが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、エプスタイン・バー・ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
【0014】
本発明の剤は、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0015】
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤、あるいは散剤、顆粒剤等である。
【0016】
非経口的な投与(例、静脈内注射、皮下注射、筋肉注射、局所注入など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
【0017】
本発明の剤の投与量は、有効成分の活性や種類、投与様式(例、経口、非経口)、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり約0.001mg〜約5.0g/kgである。
【0018】
本発明の剤は、糖・脂質代謝能を改善し得る。従って、本発明の剤は、例えば、医薬として有用である。本発明の剤が医薬として使用される場合、糖・脂質代謝能の改善が所望される疾患または状態の予防・治療のために使用することができる。また、本発明において、KLF15の適用が有効な疾患または状態としては、例えば、耐糖能異常に起因する疾患(例、2型糖尿病、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病性神経症など)、肥満及び肥満に起因する疾患(例、高脂血症、高血圧症等の生活習慣病)、高インスリン血症及び高インスリン血症に起因する疾患(例、動脈硬化症、高脂血症、高血圧症、多嚢胞性卵巣症候群)が挙げられる。
【0019】
本発明はまた、糖・脂質代謝能の改善あるいは上記疾患の予防・治療に有効な物質のスクリーニング方法、ならびに当該スクリーニング方法により得られる物質、および当該物質を含む糖・脂質代謝能の改善剤あるいは上述の疾患または状態の予防・治療薬を提供する。本発明のスクリーニング方法は、例えば、以下の工程(a)、(b)を含み得る:
(a)被験物質がKLF15の発現を促進し得るか否かを評価する工程;
(b)KLF15の発現を促進し得る被験物質を、糖・脂質代謝能の改善あるいは上述の疾患または状態の予防・治療に有効な物質として選択する工程。
【0020】
本発明のスクリーニング方法の工程(a)では、スクリーニング方法に供される被験物質は、任意の公知化合物および新規化合物であり得、例えば、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、核酸(例、ヌクレオシド、オリゴヌクレオチド、ポリヌクレオチド)、糖質(例、単糖、二糖、オリゴ糖、多糖)、脂質(例、飽和または不飽和の直鎖、分岐鎖および/または環を含む脂肪酸)、アミノ酸、蛋白質(例、オリゴペプチド、ポリペプチド)、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
【0021】
工程(a)は、被験物質によるKLF15の発現の促進を評価可能である限り如何なる様式でも行われ得るが、例えば、非ヒト動物、あるいはKLF15の発現を測定可能な細胞を用いて行われ得る。
【0022】
例えば、工程(a)が動物を用いて行われる場合、動物は、KLF15の発現に基づく糖・脂質代謝能の改善あるいは上述の疾患の予防・治療に有効な物質のスクリーニングを可能とするものである限り特に限定されず、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル等の非ヒト哺乳動物などが挙げられる。好ましくは、工程(a)で用いられる動物は、糖・脂質代謝異常のモデル動物であり得る。糖・脂質代謝異常のモデル動物としては、例えば、高脂肪食負荷された動物、ならびにその他の動物、例えば、耐糖能異常に起因する疾患のモデル動物(例、db/dbマウス、KKAyマウス、Wistar-fattyラット、Goto-Kakizaki (GK)ラット、Otsuka long-evans fatty (OLETF)ラット、秋田マウス、ストレプトゾトシンなどの薬物投与による膵破壊マウス及びラット)、肥満のモデル動物(例、ob/obマウス、Ayマウス、Zucker-fattyラット、Otsuka long-evans fatty (OLETF)ラット、グルタミン酸などの薬物投与による過食誘発マウス及びラット)、低アディポネクチン血症のモデル動物(例、アディポネクチン欠損マウス、ob/obマウス、A-ZIP脂肪萎縮症マウス)、高インスリン血症のモデル動物(例、IRS1欠損マウス、上記の肥満モデル動物)、動脈硬化症のモデル動物(例、apoE欠損マウス、LDL受容体欠損マウス、WHHLウサギ)、高血圧症のモデル動物(例、11βHSD導入マウス、SHRラット、SHRSPラット)が挙げられる。高脂肪食負荷された動物は、高脂肪食が与えられた動物である。高脂肪食は、マウスに対する通常食に比し脂肪分を高めたものであり得る。本発明のスクリーニング方法に用いられ得る高脂肪食としては、例えば、大豆オイル、ラード等の脂肪分を加えることにより、単位カロリーに占める粗脂肪の割合を4.8%から30%に高めたものであり得る。
【0023】
工程(a)で動物が用いられる場合、工程(a)は、例えば、以下の工程(a1)、(a2)を含み得る:
(a1)被験物質を動物に投与する工程;
(a2)被験物質を投与した動物におけるKLF15の発現量を測定し、該発現量を被験物質を投与しない対照動物におけるKLF15の発現量と比較する工程。
【0024】
上記工程(a1)では、被験物質の動物への投与は自体公知の方法により行なわれ得る。例えば、投与方法としては、経口投与、非経口投与(例、静脈注射、皮下注射、腹腔内注射、局所注入)が挙げられる。投与量、投与間隔、投与期間等は、用いる被験物質や動物の種類等に応じて適宜設定され得る。
【0025】
上記工程(a2)では、先ず、被験物質を投与した動物におけるKLF15の発現量が測定される。発現量の測定は、例えば、動物から生体試料を採取し、その試料中の転写産物または翻訳産物量を測定することにより行われ得る。例えば、転写産物の発現量は、RT−PCR、ノザンブロッティング等により、また、翻訳産物の発現量は、免疫学的手法により測定され得る。KLF15発現量の測定のために動物から採取されるべき生体試料としては、KLF15発現組織のなかでも、脂肪組織(例、皮下脂肪、副睾丸周囲脂肪)を含むものが好ましい。
【0026】
次いで、被験物質を投与した動物におけるKLF15の発現量が、被験物質を投与しない対照動物におけるKLF15の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を投与しない対照動物におけるKLF15の発現量は、被験物質を投与した動物におけるKLF15の発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【0027】
また、工程(a)は、KLF15の発現を測定可能な細胞を用いて行われ得る。KLF15の発現を測定可能な細胞とは、KLF15の産物(例、転写産物、翻訳産物)の発現レベルを直接的または間接的に評価可能な細胞をいう。KLF15の産物の発現レベルを直接的に評価可能な細胞は、脂肪細胞等のKLF15発現細胞であり得、一方、KLF15の産物の発現レベルを間接的に評価可能な細胞は、KLF15遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞であり得る。KLF15の発現を測定可能な細胞は、動物細胞、例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル、ヒト等の哺乳動物細胞であり得る。
【0028】
KLF15発現細胞は、KLF15を潜在的に発現するものである限り特に限定されない。かかる細胞は、当業者であれば容易に同定でき、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株などを使用できる。例えば、3T3-L1細胞、3T3-F442A細胞、C3H10T1/2細胞、C2C12細胞、L6細胞、H4II-E細胞等の細胞株が好ましく使用され得る。また、上述した糖・脂質代謝異常のモデル動物由来の細胞(例、初代培養細胞)を用いてもよい。
【0029】
KLF15遺伝子の転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、KLF15遺伝子の転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む細胞である。KLF15遺伝子の転写調節領域、レポーター遺伝子は、発現ベクター中に挿入され得る。KLF15遺伝子の転写調節領域は、KLF15の発現を制御し得る領域である限り特に限定されないが、例えば、各KLF15遺伝子の転写調節領域、あるいは該領域の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つこれらのKLF15の転写を制御する能力を有する領域などが挙げられる(例えば、特開2003-164296号公報; Journal of Biological Chemistry Vol. 280(13): 12867-12875 (2005) 参照)。レポーター遺伝子は、検出可能な蛋白質または検出可能な物質を生成する酵素をコードする遺伝子であればよく、例えばGFP(緑色蛍光蛋白質)遺伝子、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、LUC(ルシフェラーゼ)遺伝子、CAT(クロラムフェニコルアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子等が挙げられる。なお、KLF15遺伝子の転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子が導入される細胞は、KLF15遺伝子の転写調節機能を評価できる限り、即ち、該レポーター遺伝子の発現量が定量的に解析可能である限り特に限定されない。しかしながら、KLF15に対する生理的な転写調節因子を発現し、KLF15の発現調節の評価により適切であると考えられることから、該導入される細胞としては、KLF15発現細胞が好ましい。
【0030】
工程(a)で細胞が用いられる場合、工程(a)は、例えば、以下の工程(a1’)、(a2’)を含み得る:
(a1’)被験物質を、KLF15の発現を測定可能な細胞に接触させる工程;
(a2’)被験物質を接触させた細胞におけるKLF15の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるKLF15の発現量と比較する工程。
【0031】
上記工程(a1’)では、被験物質の細胞への接触は自体公知の方法により培地中で行なわれ得る。被験物質とKLF15の発現を測定可能な細胞とが接触される培地は、用いられる細胞の種類などに応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件もまた、用いられる細胞の種類などに応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
【0032】
上記工程(a1’)では、先ず、被験物質を接触させた細胞におけるKLF15の発現量が測定される。発現量の測定は、用いた細胞の種類などを考慮し、自体公知の方法により行われ得る。例えば、KLF15の発現を測定可能な細胞として、KLF15発現細胞を用いた場合、発現量は、上述の工程(a2)と同様の方法により測定され得る。一方、KLF15の発現を測定可能な細胞として、KLF15転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞を用いた場合、発現量は、レポーターのシグナル強度に基づき測定され得る。
【0033】
次いで、被験物質を接触させた細胞におけるKLF15の発現量が、被験物質を接触させない対照細胞におけるKLF15の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を接触させない対照細胞におけるKLF15の発現量は、被験物質を接触させた細胞におけるKLF15の発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
【0034】
本発明のスクリーニング方法の工程(b)では、KLF15の発現量を増加させる(発現を促進する)被験物質が、糖・脂質代謝能の改善に有効な物質として選択され得る。このように選択された被験物質は、例えば、糖・脂質代謝能の改善あるいは上述の疾患または状態の予防または治療に有効であり得る。即ち、KLF15の発現を増強する化合物もまた、本発明の糖脂質代謝能の改善剤に包含される。
【0035】
本発明はさらに、KLF15トランスジェニック動物、あるいはそれに由来する組織または細胞を提供する。
【0036】
本発明の動物は、KLF15遺伝子が脂肪細胞特異的に導入され、その脂肪細胞内に発現可能な状態で永続的に存在し得る。本発明の動物の種は、トランスジェニック動物の作製が可能である動物種である限り特に限定されないが、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル等の非ヒト哺乳動物などが挙げられる。
【0037】
本発明の動物は、抗肥満のモデル動物であり得る。本発明の動物は、通常食飼育下では、野生型動物に比し体重および/または脂肪組織重量の変化は認められないが、高脂肪食飼育下では、体重および/または脂肪組織重量の有意な減少が認められ得る。
【0038】
本発明の動物はまた、低アディポネクチン状態のモデル動物であり得る。本発明の動物は、肥満の程度、あるいは飼育条件(例、通常食または高脂肪食での飼育)にかかわらず、野生型動物に比し、血中アディポネクチン値の有意な低下が認められ得る。
低アディポネクチン状態は、脂肪細胞のみより分泌されるアディポネクチンの血中濃度および/または血中量が低値である状態である。
【0039】
本発明の動物はさらに、上述の表現型以外にも、高脂肪食飼育下において、野生型動物に比し通常食飼育下では認められない表現型を呈し得る。このような表現型としては、例えば、食後インスリン値の上昇、空腹時および/または糖負荷後の血糖値の低下、糖負荷後の血中インスリン値の上昇、血中レプチン値の低下、血中遊離脂肪酸値の低下などが挙げられる。
【0040】
本発明の動物は、自体公知の方法により作出できる。より詳細には、本発明の動物は、例えば、発生の初期段階において、動物の受精卵またはその他の細胞(例、未受精卵、精子またはそれらの前駆細胞)に、脂肪細胞特異的な発現を可能とするプロモーターに機能可能に連結されたKLF15遺伝子(例、上述のKLF15発現ベクター)を導入することにより作出できる。遺伝子の導入法としては、例えば、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、凝集法、リン酸カルシウム共沈殿法、マイクロインジェクション法が挙げられる。本発明の動物はまた、このように作出されたKLF15トランスジェニック動物と同種の他の動物(例、上述の糖・脂質代謝異常のモデル動物)との交配により作出される動物であってもよい。
【0041】
本発明の動物に由来する組織または細胞は、本発明の動物から採取可能な任意の組織または細胞である限り特に限定されない。より詳細には、本発明の動物に由来する組織または細胞としては、例えば、脂肪組織または脂肪細胞、骨髄間質細胞、繊維芽細胞、血中単核球が挙げられるが、脂肪組織または脂肪細胞が好ましい。
【0042】
本発明の動物あるいはそれに由来する組織または細胞は、例えば、本発明のスクリーニング方法、糖・脂質代謝能の改善が所望される疾患または状態のマーカー遺伝子のスクリーニング、または脂肪細胞マーカー遺伝子のスクリーニング、糖・脂質代謝能の改善が所望される疾患または状態の病態メカニズムの解析、肥満や低アディポネクチン状態、高インスリン血症に起因する疾患または状態の病態メカニズムの解析などに有用である。これらは、例えば、マイクロアレイ、プロテインチップ(例、抗体チップ、またはサイファージェン社製チップ等の非抗体チップ)等を用いて本発明の動物における発現プロファイル(特に脂肪細胞の発現プロファイル)を測定し、対照動物の発現プロファイルと比較することを含む、発現プロファイル解析により行われ得る。
【0043】
本明細書中で挙げられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
【0044】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
【実施例】
【0045】
実施例1:肥満モデルマウスの脂肪組織におけるKLF15発現変動
Kruppel-like factor 15 (KLF15) は、脂肪細胞の分化を正に制御する転写因子である(Journal of Biological Chemistry Vol. 280(13): 12867-12875 (2005))。先ず、我々は、肥満モデルマウスの脂肪組織におけるKLF15発現変動を解析した。肥満モデルマウスは、8週齢の雄C57BL/6マウスに高脂肪食を負荷することにより作製した。また、Lep ob/obマウスを、遺伝的肥満モデルとして用いた。高脂肪食としては、大豆オイル及びラードを加えることにより、単位カロリーに占める粗脂肪の割合を4.8 %から30 %に高めたものを用いた。一方、コントロールとして用いた通常食は、単位カロリーに占める粗脂肪の割合が4.8%である。高脂肪食の負荷期間は、8週間であった。
1.1.周囲脂肪組織におけるKLF15 mRNAの発現解析
GLUT4やPPARγ、Adiponectinと同様に、高脂肪食給餌によってKLF15 mRNAの発現が著明に抑制された(図1A)。
1.2.RT-PCRによる、高脂肪食給餌肥満モデルマウスの皮下脂肪組織及び副睾丸周囲脂肪組織におけるKLF15 mRNAの発現解析
皮下脂肪組織及び副睾丸周囲脂肪組織において、高脂肪食給餌によってKLF15 mRNAの発現が著明に抑制された(図1B)。
1.3.Northern blotによる、遺伝的肥満モデルLep ob/obマウスの副睾丸周囲脂肪組織におけるKLF15 mRNAの発現解析
GLUT4やPPARγ、Adiponectinと同様に、高脂肪食給餌によってKLF15 mRNAの発現が著明に抑制された(図1C)。
以上から、KLF15が高脂肪食給餌による肥満モデルマウスや遺伝的肥満モデルであるLep ob/obマウスにおいて、その発現が著明に抑制されることが示された。
【0046】
実施例2:脂肪細胞特異的KLF15トランスジェニックマウス(aP2-KLF15 Tgマウス)の作出
肥満誘導時にKLF15の発現が低下しない(発現が持続する)マウスを用いてKLF15の肥満病態における役割を検討するため、aP2 (fatty acid binding promoter 4) のプロモーター5.4kb(Ross et al., Proceedings of the national academy of science of the United States of America Vol.87: 9590-9594 (1990) 参照)によって、脂肪細胞にKLF15を特異的に発現するaP2-KLF15トランスジェニックマウス (aP2-KLF15 Tgマウス) を作出した。詳細には、aP2-KLF15 DNA溶液をC57BL/6受精卵に注入後、仮親の子宮に戻し、仔マウスを得た。スクリーニングの結果、2匹のマウスがaP2-KLF15DNAを持つことを見出した。さらに、これらのマウスは次代にaP2-KLF15DNAを伝達することが明らかとなり、2系統(系統1、系統3)のaP2-KLF15導入マウスを樹立することが出来た。
次いで、得られたマウスが脂肪細胞特異的にKLF15を発現しているか否かを確認した。その結果、系統1 (L1) では、内因性KLF15と同程度のKLF15の発現が認められ、また、系統3 (L3) では、内因性KLF15の約5倍のKLF15の発現が認められたが、系統2及び系統8の脂肪組織には、KLF15の発現は認められなかった(図2)。
以上から、皮下脂肪組織、副睾丸周囲脂肪組織及び褐色脂肪組織にKLF15を発現するマウスが得られた。
【0047】
実施例3:通常食飼育によるaP2-KLF15 Tgマウスの表現型の解析
3.1.通常食飼育下におけるaP2-KLF15 Tgマウスの体重及び組織重量変化
通常食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1及びL3とも、体重に有意差を認めなかった(図3A)。また、通常食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1及びL3 (いずれも21週齢マウス)とも、副睾丸周囲脂肪組織、皮下脂肪組織、肝臓及び褐色脂肪組織の重量に有意差を認めなかった(図3B)。
3.2.通常食飼育下におけるaP2-KLF15 Tgマウスの血糖値 (食後) 及びインスリン値 (食後) の測定
通常食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1及びL3とも、血糖値に有意差を認めなかった(図4A)。同様に、通常食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1及びL3とも、血中インスリン値に有意差を認めなかった(図4B)。
3.3.通常食飼育下におけるaP2-KLF15 Tgマウスにおける糖負荷試験 (腹腔内投与、2g/kg)
通常食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1及びL3 (いずれも19週齢マウス)では、血糖値(図5A)、血中インスリン値(図5B)は、空腹時及び負荷後とも有意差を認めなかった。
3.4.通常食飼育下におけるaP2-KLF15Tgマウスにおけるインスリン感受性試験 (腹腔内、1U/kg)
通常食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1及びL3 (いずれも17週齢マウス)では、腹腔内インスリン投与により野生型マウスと同程度の血糖降下作用が認められ、また、インスリン感受性には有意差がなかった(図6)。
3.5.通常食飼育下におけるaP2-KLF15 Tgマウスの血中レプチン値及び血中アディポネクチン値の測定
通常食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1及びL3 (いずれも17週齢マウス) では、血中レプチン値に有意差を認めなかったが(図7A)、L3マウスのみ血中アディポネクチン値が低値を示した(図7B)。
以上から、通常食aP2-KLF15 TgマウスL3 (KLF15高発現マウス) は、肥満の程度とは無関係に低アディポネクチン状態を呈するモデルマウスとして用い得ることが示された(結論1)。
【0048】
実施例4:高脂肪食を給餌したaP2-KLF15Tgマウスの表現型の解析
4.1.高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 Tgマウスの体重及び組織重量変化
高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1は体重に有意差を認めなかったが、aP2-KLF15 TgマウスL3は、高脂肪食飼育野生型マウスに比べ、著明な体重増加抑制を認めた(図8A)。また、高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1は、副睾丸周囲脂肪組織、皮下脂肪組織、肝臓及び褐色脂肪組織の重量に有意差を認めなかったが、aP2-KLF15 TgマウスL3は、高脂肪食飼育野生型マウスに比べ、著明な副睾丸周囲脂肪組織、皮下脂肪組織重量の増加抑制が認められた(図8B)。
4.2.高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 Tgマウスの血糖値 (食後) 及びインスリン値 (食後)
高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1及びL3とも、血糖値に有意差を認めなかった(図9A)。また、高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1では、血中インスリン値に有意差を認めなかったがaP2-KLF15 TgマウスL3は、高脂肪食飼育野生型マウスに比べ、著明な血中インスリンの増加を16週齢マウスで認めた(図9B)。
4.3.高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 Tgマウスにおける糖負荷試験 (腹腔内投与、2g/kg)
高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1 (19週齢マウス) では、負荷後血糖値の低下を認められたが(図10A)、血中インスリン値は、空腹時及び負荷後とも有意差を認めなかった(図10B)。高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL3 (19週齢マウス) では、空腹時及び負荷後血糖値の低下が認められ(図10A)、さらに負荷後血中インスリン値の上昇が認められた(図10B)。
4.4.高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 Tgマウスにおけるインスリン感受性試験(腹腔内、1U/kg)
高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1及びL3 (いずれも17週齢マウス) では、腹腔内インスリン投与により野生型マウスと同程度の血糖降下作用が認められたが、インスリン感受性には有意差がなかった(図11)。
4.5.高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 Tgマウスの血中レプチン値及び血中アディポネクチン値
高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL1 (17週齢マウス) では、血中レプチン値及び血中アディポネクチン値に有意差を認めなかったが(図12A)、高脂肪食飼育下におけるaP2-KLF15 TgマウスL3 (17週齢マウス) では、血中レプチン値及び血中アディポネクチン値が低値を示した(図12B)。
以上から、高脂肪食aP2-KLF15 TgマウスL3 (KLF15高発現マウス)は、抗肥満モデルマウスとして用い得ることが示された(結論2)。また脂肪組織でのKLF15発現維持が、インスリン分泌を促進することで糖尿病の治療法となり得ることが示された(結論3)。
【0049】
(結論)
本発明者らの研究成果より、以下などが明らかとなった:
1)通常食aP2-KLF15 TgマウスL3 (KLF15高発現マウス) は、肥満の程度とは無関係に低アディポネクチン状態を呈するモデルマウスとして有用であり得る(結論1)。
2)高脂肪食aP2-KLF15 TgマウスL3 (KLF15高発現マウス)は、抗肥満モデルマウスとして有用であり得る(結論2)。
3)脂肪組織でのKLF15の発現維持することが、インスリン分泌促進により糖尿病の治療法となり得る(結論3)。
なお、参考のため、通常食または高脂肪食給餌aP2-KLF15 Tgマウスの表現型解析の結果を、以下の表1にまとめる。
【0050】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の剤は、糖・脂質代謝能を改善し得る。より詳細には、本発明の剤は、耐糖能異常に起因する疾患、肥満等の疾患または状態を予防または治療し得る。本発明のスクリーニング方法は、上述したような糖・脂質代謝能の改善剤の開発を可能とする。本発明の動物は、例えば、抗肥満、低アディポネクチン状態等のモデル動物として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1A】ノザンブロッティングによる、高脂肪食給餌肥満モデルマウスの副睾丸周囲脂肪組織におけるKLF15 mRNAの発現解析を示す図である。
【図1B】RT−PCRによる、高脂肪食給餌肥満モデルマウスの皮下脂肪組織及び副睾丸周囲脂肪組織におけるKLF15 mRNAの発現解析を示す図である。
【図1C】ノザンブロッティングによる、遺伝的肥満モデルLepob/obマウスの副睾丸周囲脂肪組織におけるKLF15 mRNAの発現解析を示す図である。
【図2】作製された脂肪細胞特異的KLF15トランスジェニックマウス(aP2−KLF15 Tgマウス)におけるKLF15の発現を示す図である。1,副睾丸周囲脂肪組織;2,皮下脂肪組織;3,褐色脂肪組織;4,骨格筋;5,心筋;6,肝臓;7,脳。
【図3A】通常食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスの体重変化を示す図である(L1 n=8,L3 n=8,WT n=16)。
【図3B】通常食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスの組織重量変化を示す図である(L1 n=7,L3 n=8,WT n=16)。
【図4A】通常食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスの血糖値(食後)を示す図である(8週齢:L1 n=6,L3 n=8,WT n=14、16週齢:L1 n=8,L3 n=8,WT n=16)。左,8週齢マウス;右,16週齢マウス。
【図4B】通常食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスのインスリン値(食後)を示す図である(8週齢:L1 n=6,L3 n=8,WT n=14、16週齢:L1 n=8,L3 n=8,WT n=15)。左,8週齢マウス;右,16週齢マウス。
【図5A】通常食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスにおける糖負荷試験(腹腔内投与、2g/kg)後の血糖値を示す図である(L1 n=8,L3 n=7,WT n=15)。
【図5B】通常食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスにおける糖負荷試験(腹腔内投与、2g/kg)後の血中インスリン値を示す図である(L1 n=7,L3 n=6,WT n=15)。
【図6】通常食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスにおけるインスリン感受性試験(腹腔内、1U/kg)の結果を示す図である(L1 n=8,L3 n=8,WT n=15)。
【図7A】通常食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスの血中レプチン値を示す図である(L1 n=8,L3 n=8,WT n=16)。
【図7B】通常食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスの血中アディポネクチン値を示す図である(L1 n=7,L3 n=8,WT n=16)。
【図8A】高脂肪食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスの体重変化を示す図である(L1 n=12,L3 n=8,WT n=19)。aP2−KLF15 TgマウスL1及びL3とも、21週齢マウスで検討した。*<0.05
【図8B】高脂肪食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスの組織重量変化を示す図である(L1 n=12,L3 n=8,WT n=14)。aP2−KLF15 TgマウスL1及びL3とも、21週齢マウスで検討した。**<0.001
【図9A】高脂肪食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスの血糖値(食後)を示す図である(L1 n=12,L3 n=8,WT n=19)。左,8週齢マウス;右,16週齢マウス。
【図9B】高脂肪食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスのインスリン値(食後)を示す図である(L1 n=12,L3 n=8,WT n=19)。左,8週齢マウス;右,16週齢マウス。*<0.05
【図10A】高脂肪食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスにおける糖負荷試験(腹腔内投与、2g/kg)後の血糖値の変化を示す図である(L1 n=11,L3 n=8,WT n=15)。*<0.05、**<0.001
【図10B】高脂肪食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスにおける糖負荷試験(腹腔内投与、2g/kg)後の血中インスリン値の変化を示す図である(L1 n=11,L3 n=8,WT n=15)。*<0.05
【図11】高脂肪食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスにおけるインスリン感受性試験(腹腔内、1U/kg)の結果を示す図である(L1 n=9,L3 n=6,WT n=12)。aP2−KLF15 TgマウスL1及びL3とも、17週齢マウスで検討した。
【図12A】高脂肪食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスの血中レプチン値を示す図である(L1 n=11,L3 n=8,WT n=20)。*<0.05
【図12B】高脂肪食飼育下におけるaP2−KLF15 Tgマウスの血中アディポネクチン値を示す図である(L1 n=11,L3 n=8,WT n=18)。**<0.001
【特許請求の範囲】
【請求項1】
KLF15発現ベクターを含む、糖・脂質代謝能の改善剤。
【請求項2】
KLF15発現ベクターを含む、耐糖能異常に起因する疾患、肥満及び肥満に起因する疾患、高インスリン血症及び高インスリン血症に起因する疾患からなる群より選ばれる疾患または状態の予防または治療薬。
【請求項3】
以下の工程(a)、(b)を含む、糖・脂質代謝能の改善に有効な物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質がKLF15の発現を促進し得るか否かを評価する工程;
(b)KLF15の発現を促進し得る被験物質を、糖・脂質代謝能の改善に有効な物質として選択する工程。
【請求項4】
以下の工程(a)、(b)を含む、耐糖能異常に起因する疾患、肥満及び肥満に起因する疾患、高インスリン血症及び高インスリン血症に起因する疾患からなる群より選ばれる疾患または状態の予防・治療に有効な物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質がKLF15の発現を促進し得るか否かを評価する工程;
(b)KLF15の発現を促進し得る被験物質を、該疾患または状態の予防・治療に有効な物質として選択する工程。
【請求項5】
工程(a)が以下の工程(a1)、(a2)を含む、請求項4記載の方法:
(a1)被験物質を、該疾患または状態のモデル動物に投与する工程;
(a2)被験物質を投与した動物におけるKLF15の発現量を測定し、該発現量を被験物質を投与しない対照動物におけるKLF15の発現量と比較する工程。
【請求項6】
該疾患または状態のモデル動物が高脂肪食負荷動物である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
KLF15遺伝子が脂肪細胞特異的に導入された、トランスジェニック非ヒト動物。
【請求項8】
抗肥満または低アディポネクチン状態のモデル動物である、請求項7記載の動物。
【請求項9】
請求項7記載の動物に由来する脂肪組織または脂肪細胞。
【請求項1】
KLF15発現ベクターを含む、糖・脂質代謝能の改善剤。
【請求項2】
KLF15発現ベクターを含む、耐糖能異常に起因する疾患、肥満及び肥満に起因する疾患、高インスリン血症及び高インスリン血症に起因する疾患からなる群より選ばれる疾患または状態の予防または治療薬。
【請求項3】
以下の工程(a)、(b)を含む、糖・脂質代謝能の改善に有効な物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質がKLF15の発現を促進し得るか否かを評価する工程;
(b)KLF15の発現を促進し得る被験物質を、糖・脂質代謝能の改善に有効な物質として選択する工程。
【請求項4】
以下の工程(a)、(b)を含む、耐糖能異常に起因する疾患、肥満及び肥満に起因する疾患、高インスリン血症及び高インスリン血症に起因する疾患からなる群より選ばれる疾患または状態の予防・治療に有効な物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質がKLF15の発現を促進し得るか否かを評価する工程;
(b)KLF15の発現を促進し得る被験物質を、該疾患または状態の予防・治療に有効な物質として選択する工程。
【請求項5】
工程(a)が以下の工程(a1)、(a2)を含む、請求項4記載の方法:
(a1)被験物質を、該疾患または状態のモデル動物に投与する工程;
(a2)被験物質を投与した動物におけるKLF15の発現量を測定し、該発現量を被験物質を投与しない対照動物におけるKLF15の発現量と比較する工程。
【請求項6】
該疾患または状態のモデル動物が高脂肪食負荷動物である、請求項5記載の方法。
【請求項7】
KLF15遺伝子が脂肪細胞特異的に導入された、トランスジェニック非ヒト動物。
【請求項8】
抗肥満または低アディポネクチン状態のモデル動物である、請求項7記載の動物。
【請求項9】
請求項7記載の動物に由来する脂肪組織または脂肪細胞。
【図1B】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図1A】
【図1C】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9A】
【図9B】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12A】
【図12B】
【図1A】
【図1C】
【図2】
【公開番号】特開2007−274932(P2007−274932A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103577(P2006−103577)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【出願人】(000002912)大日本住友製薬株式会社 (332)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]