説明

糖免疫原

開示するのは、免疫原性応答を被検者又は宿主において誘導するのに有用な組成物及び方法である。特に、該組成物及び方法は、炭水化物HIVワクチンと、HIVエンベロープ糖タンパク質、gp120及びgp41のグリカンの模倣体へ抗原性の糖を導入することによって炭水化物HIVワクチンを産生する方法へ向けられる可能性がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
[0001] 本出願は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、Raymond Dwek et al. の米国仮特許出願番号60/887,033(2007年1月29日出願)への優先権を主張する。
【0002】
[0002] 本発明は、糖免疫原の分野に概して関する。
【背景技術】
【0003】
[0003] 抗炭水化物認識は、獲得免疫と自然免疫の両方の主要成分を表す。しかしながら、表面炭水化物に対する抗体の保護特性がワクチン設計において利用された事例はごく限られている。
【0004】
[0004] グリコシル化の抗原性の役割は、ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV−1)の事例において特に意義深い。HIV−1の表面は、体液性の免疫回避を促進する「進化するグリカンシールド」を形成する、大きくて柔軟で免疫原性に乏しいN−結合炭水化物によって覆われている(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、X. Wei et. al.「Antibody neutralization and escape by HIV-1(HIV−1による抗体中和及び逃避)」Nature, 422(6929), pp. 307-312, 2003 を参照のこと)。HIVグリカンの乏しい免疫原性については3つの主たる説明が提唱されてきた。第一に、HIVへ付くグリカンは、宿主細胞によって合成されるので、免疫学的に「自己」であること。第二に、タンパク質の炭水化物に対する結合は、一般に弱いので、高アフィニティー抗炭水化物抗体への可能性が制限されること。最後に、どの所与のN−結合付着部位にも多数の異なる糖型が付着し得るので、潜在的な抗原のきわめて不均質なミックスが産生されること。HIV上には、広範囲の複合、オリゴマンノース、及びハイブリッド型のグリカンがいずれも存在しているが、オリゴマンノースグリカンは、gp120の曝露された外側ドメインに密集している。しかしながら、HIV炭水化物に対する抗体は、通常は、感染の間に観測されない。
【0005】
[0005] HIV−1 gp120分子は、共有結合性N−グリカンによって寄与される、この糖タンパク質の分子量のほぼ半分で広範にN−グリコシル化されている。この糖タンパク質表面上へN−グリカンが形成されたgp120コアの結晶構造では、N−グリカンのクラスターを含有するgp120分子の一面が特定される(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、P.D. Kwong et. al.「Structure of an HIV gp120 envelope glycoprotein in complex with the CD4 receptor and a neutralizing human antibody(CD4受容体及び中和ヒト抗体と複合したHIV gp120エンベロープ糖タンパク質の構造)」Nature, 393(6686) pp.648-659, 1998 を参照のこと。この面は、糖タンパク質分子のこの領域を認識することが可能な抗体(2G12)がこれまでにただ1つしか同定されていないので、免疫学的に沈黙した面であると示されてきた。HIV−1 gp120分子のN−グリコシル化は、N−グリコシル化部位の下に存在する抗原性タンパク質エピトープへの抗体接近可能性を妨げることによる免疫回避において主要な役割を担うと考えられている。この事例において、N−グリカンの正確な構造は、それらが下にあるgp120分子を抗体認識より遮蔽しさえすれば、ほとんど重要でない。従って、gp120グリカンの遮蔽は、ウイルスゲノムの突然変異に続く新たなN−グリコシル化部位の導入によって進化する可能性がある。これにより、宿主免疫の継続した回避が促進される。
【0006】
[0006] HIVの炭水化物に対する抗体は稀であるが、その炭水化物部分が強い抗体応答を誘導する多くの他の病原体がある。実際、ヒトの体液性の抗炭水化物反応性の注目すべき特徴は、a1→2結合マンノースオリゴ糖に特異的な抗マンノース抗体が広く存在していることである。しかしながら、2G12と異なり、これらの抗体は、「自己」オリゴマンノースグリカンの文脈内で提示されるマンノースへは結合しない。天然の抗マンノース抗体のあり得る標的は、多くの一般的に存在する酵母の脂質及びタンパク質上に存在する細胞壁マンナンである。酵母マンナンで免疫化すると、gp120炭水化物といくらかの体液性の交差反応性を提供することができる(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、W. E. Muller et. al.「Polyclonal antibodies to mannan from yeast also recognize the carbohydrate structure of gp120 of the AIDS virus: an approach to raise neutralizing antibodies to HIV-1 infection in vitro(酵母由来マンナンに対するポリクローナル抗体は、AIDSウイルスのgp210の炭水化物構造も認識する:HIV−1感染に対する中和抗体を in vitro で高めるアプローチ)」AIDS. 1990 Feb; 4(2), pp. 159-62;及び、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、W. E. Muller et. al.「Antibodies against defined carbohydrate structures of Candida albicans protect H9 cells against infection with human immunodeficiency virus-1 in vitro(カンジダ・アルビカンスの一定の炭水化物構造に対する抗体は、ヒト免疫不全ウイルス−1での in vitro 感染に対してH9細胞を保護する)」J Acquir Immune Defic Syndr. 1991; 4(7) pp. 694-703 を参照のこと)。しかしながら、観測される力価及びアフィニティーは、予防薬としての使用を保証するのに十分ではない。
【0007】
[0007] しかしながら、上記の、1つの稀な中和抗gp120抗体、2G12は、HIVエンベロープ上の特定の炭水化物エピトープへ結合するのである。2G12によって認識されるエピトープは、gp120の外側ドメインに存在する、きわめて珍しいマンノース残基のクラスターである(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、C. N. Scanlan et. al.「The Broadly Neutralizing Anti-Human Immunodeficiency Virus Type 1 Antibody 2G12 Recognizes a Cluster of α1→2 Mannose Residues on the Outer Face of gp120(広範に中和する抗ヒト免疫不全ウイルス1型抗体、2G12は、gp120の外面上のα1→2マンノース残基のクラスターを認識する)」J. Virol. 76 (2002) 7306-7321 を参照のこと)。2G12結合への主要な分子決定基は、gp120のAsn332及びAsn392へ付いたグリカンのα1→2結合マンノース末端である。このクラスターは、「自己」グリカンからなるものの、哺乳動物のグリコシル化ではきわめて非典型的な密集アレイで配置されて、それにより2G12による「非自己」識別の構造上の基礎を提供する。2G12 Fabの構造研究は、Fabの2つの重鎖が以前は未観測のドメイン交換配置を介して連結していることを明らかにする(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、D. Calarese et. al.「Antibody domain exchange is an immunological solution to carbohydrate cluster recognition(抗体ドメイン交換は、炭水化物クラスター認識への免疫学的解決法である)」Science, vol. 300, pp. 2065-2071, 2003 を参照のこと)。このドメイン交換されたFabによって形成される延長されたパラトープは、多価炭水化物の高親和性(avidity)結合のための大きな表面を提供する。
【0008】
[0008] 2G12の受動輸送研究は、この抗体がHIV−1の動物モデルにおいてウイルスチャレンジに抗して保護し得ることを示している。この分子基礎は、一連のHIV−1一次分離株に対する2G12の広い特異性について解明された。故に、2G12エピトープの既知の構造に基づいて、2G12様の抗体を誘導することが可能であり得て、HIV−1に対する殺菌免疫へ貢献し得る免疫源を開発することがきわめて望ましい。しかしながら、そのような免疫原の設計は、gp120上のグリカンエピトープの抗原模倣に必要とされる構造上の束縛と、免疫原性に乏しいHIVのN−結合グリカンに固有の免疫学上の束縛をともに克服しなければならない。
【0009】
[0009] gp120免疫原設計への1つのアプローチは、2G12が結合するgp120の抗原性部分を合成的に再創出することである(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、H. K Lee et. al.「Reactivity-Based One-Pot Synthesis of Oligomannoses: Defining Antigens Recognized by 2G12, a Broadly Neutralizing Anti-HIV-1 Antibody(オリゴマンノースの反応性ベースのワンポット合成:広範に中和する抗HIV−1抗体である2G12により認識される抗原を明確化すること)」Angew. Chem. Int. Ed. Engl, 43(8), pp. 1000-1003, 2004;その全体が参照により本明細書に組み込まれる、H. Li et. al.「Design and synthesis of a template-assembled oligomannose cluster as an epitope mimic for human HIV-neutralizing antibody 2G12(ヒトHIV中和抗体、2G12のエピトープ模倣体としての鋳型組立てオリゴマンノースクラスターの設計及び合成)」Org. Biomol. Chem., 2 (4), pp. 483-488, 2004;その全体が参照により本明細書に組み込まれる、L.-X. Wang,「Binding of High-Mannose-Type Oligosaccharides and Synthetic Oligomannose Clusters to Human Antibody 2G12: Implications for HIV-1 Vaccine Design(高マンノース型オリゴ糖と合成オリゴマンノースクラスターのヒト抗体2G12への結合:HIV−1ワクチン設計への意義)」Chem. Biol. 11(1), pp. 127-34, 2004 を参照のこと)。炭水化物免疫原を製造するための他のアプローチについては、参照により本明細書に組み込まれる、U.S.2006-0251680に記載されている。合成マンノシドの多価フォーマットでの提示により、2G12に対するそのアフィニティーをほぼ100倍増加させることができる(例えば、その全体が参照により本明細書に組み込まれる、L.-X. Wang,「Binding of High-Mannose-Type Oligosaccharides and Synthetic Oligomannose Clusters to Human Antibody 2G12: Implications for HIV-1 Vaccine Design(高マンノース型オリゴ糖と合成オリゴマンノースクラスターのヒト抗体2G12への結合:HIV−1ワクチン設計への意義)」Chem. Biol. 11(1), pp. 127-34, 2004 を参照のこと)。
【0010】
[0010] 免疫原設計への合成アプローチは、潜在的に強力なものであるが、この免疫原の「合理的な」設計に対しては、重大な課題がある。炭水化物免疫原を設計する代わりの方法を開発することがきわめて望ましい。
【発明の概要】
【0011】
[0011] 開示するのは、オリゴ−D−マンノース部分を含む抗原に対して免疫原性応答を誘導するための医薬組成物及びキットである。また開示するのは、免疫原性応答を誘導するための組成物を使用する方法と、医薬組成物を作製するための方法である。典型的には、該医薬組成物には:(a)抗原のオリゴ−D−マンノース部分の少なくとも1つのD−マンノース残基が少なくとも1つの非D−マンノース単糖残基によって置換されている、置換オリゴ−D−マンノース部分を含んでなる抗原の有効濃度;及び(b)担体(例、賦形剤、希釈剤、及び/又はアジュバント)が含まれる。
【0012】
[0012] いくつかの態様において、非D−マンノース単糖残基は、D−マンノースの構造模倣体又は類似体を含む。非D−マンノース単糖残基は、該医薬組成物が投与される被検者(例、ヒト)において抗原性である単糖残基を含んでよい。非D−マンノース単糖残基は、被検者(例、ヒト)において非天然に産生又は観測される単糖残基を含んでよい。非D−マンノース単糖残基は、D又はL型単糖を含んでよい。典型的には、非D−マンノース単糖残基は、5若しくは6の炭素を有して、炭素又はヒドロキシルの位置で置換されていてもよい。非D−マンノース単糖残基の例には、デオキシ単糖(例、ラムノース)、ハロ置換単糖又はハロ置換デオキシ単糖(例、6−デオキシ−6−フルオロ−D−グルコース)、ニトロ置換単糖、アミノ置換単糖(例、ノジリマイシン及びデオキシノジリマイシン)、スルホ置換単糖、リン置換単糖、及びアリール置換単糖(例、1−パラニトロフェニル−D−ラムノース)からなる群より選択される単糖残基が含まれてよい。
【0013】
[0013] 本医薬組成物において、置換オリゴ−D−マンノース部分は、糖タンパク質、複合糖質骨格、又はデンドリマーのようなより大きな分子の一部として存在してよい。いくつかの態様において、置換オリゴ−D−マンノース部分は、医薬組成物において、置換オリゴ−D−マンノース部分がN−グリカンとして結合している糖タンパク質の一部として存在する。
【0014】
[0014] オリゴ−D−マンノース部分には、直鎖又は分岐鎖のオリゴ−D−マンノースオリゴ糖が含まれてよい。いくつかの態様において、オリゴ−D−マンノース部分には、約5〜12のマンノース残基(例、Man9GlcNAc2、Man8GlcNAc2、Man7GlcNAc2、又はMan6GlcNAc2)が含まれる。
【0015】
[0015] オリゴ−D−マンノース部分のマンノース残基は、還元ヒドロキシルや他のどの好適なヒドロキシル基を介しても結合してよい。いくつかの態様において、オリゴ−D−マンノース部分のマンノース残基は、1→2結合(例、α1→2結合)を介して、1→3結合(例、α1→3結合)を介して、1→6結合(例、α1→6結合)を介して、又はこれらの組合せを介して結合してよい。置換オリゴ−D−マンノース部分の非D−マンノース単糖残基は、どの好適な結合(例、α1→2結合を介して、α1→3結合を介して、又はα1→6結合を介して、好ましくはα1→2結合)を介しても結合してよい。
【0016】
[0016] オリゴ−D−マンノース部分は、ポリペプチドへ結合してよい。例えば、オリゴ−D−マンノース部分は、N−グリカンとして結合してよく、ここでオリゴ−D−マンノース部分には、ポリペプチドへ結合している(例えば、アミド結合を介してアスパラギン残基(Asn)で)1以上のN−アセチルガラクトサミン残基(GlcNAc)が含まれてよい。例示のN−グリカンには、Man9GlcNAc2、Man8GlcNAc2、又はMan7GlcNAc2が含まれてよい。
【0017】
[0017] 抗原のオリゴ−D−マンノース部分は、どの好適な非D−マンノース単糖残基でも置換されてよい。いくつかの態様において、オリゴ−D−マンノース部分はMan9GlcNAc2であり、置換オリゴ−D−マンノース部分は、Rham1Man8GlcNAc2である。
【0018】
[0018] オリゴ−D−マンノース部分は、式:
【0019】
【化1】

【0020】
[ここで「Man」はマンノースであり、「GlcNAc」はN−アセチルガラクトサミンである]に従って表される構造を有してよい。オリゴ−D−マンノース部分は、末端GlcNAc残基によってペプチドへ(例えば、アスパラギン残基で)コンジュゲートしていてもよい。
【0021】
[0019] 置換オリゴ−D−マンノース部分は、式:
【0022】
【化2】

【0023】
[ここで「Man」はマンノースであり、「GlcNAc」はN−アセチルガラクトサミンであり、そして「X」は、本明細書に記載のような非D−マンノース単糖残基(例、ラムノース)である]の1つに従って表される構造を有してよい。
【0024】
[0020] 抗原は、HIV糖タンパク質、又はオリゴ−D−マンノース部分(例、Man9GlcNAc2)へ結合した10以上の連続アミノ酸を有するその断片であってよい。抗原には、HIV糖タンパク質120(gp120)又はHIV糖タンパク質41(gp41)が含まれてよい。いくつかの態様において、HIV糖タンパク質はgp120であり、オリゴ−D−マンノース部分は、Asn332又はAsn392でN−グリカンとして付いたオリゴ−D−マンノース部分である。
【0025】
[0021] 本組成物は、典型的には、被検者(例、ヒト)において免疫原性応答を誘導するための抗原の有効量を含む。いくつかの態様では、該組成物を使用して被検者において体液性応答を誘導して、ここで体液性応答には、オリゴ−D−マンノース部分へ特異的に結合する抗体の産生が含まれる。
【0026】
[0022] また開示するのは、オリゴ−D−マンノース部分を含む抗原に対する免疫原性応答を誘導するための方法及びキットである。典型的には、該方法には、本明細書に開示する医薬組成物のいずれもその必要な被検者(例、HIV感染症を有するか又はそれを獲得するリスク状態にあるヒト)へ投与することが含まれる。
【0027】
[0023] また開示するのは、非置換オリゴ−D−マンノース部分を含んでなる抗原に対する免疫原性応答を誘導するために使用してもよい、置換オリゴ−D−マンノース部分を含む抗原を製造するための方法である。典型的には、この方法には:(a)オリゴ−D−マンノース部分を含む抗原を第一のグリコシダーゼで処理して、少なくとも1つのD−マンノース残基を除去すること;及び(b)処理した抗原を、第二のグリコシダーゼの存在下に少なくとも1つの非D−マンノース単糖残基と反応させて、置換オリゴ−D−マンノース部分を含む抗原を提供することが含まれる。
【0028】
[0024] オリゴ−D−マンノース部分には、HIV gp120又はHIV gp41に存在するオリゴ−D−マンノース部分が含まれてよい。例えば、オリゴ−D−マンノース部分には、HIV gp120のAsn332又はAsn392へ付いたN−グリカンが含まれてよい。本製造法のオリゴ−D−マンノース部分には、Man9GlcNAc2、Man8GlcNAc2、又はMan7GlcNAc2が含まれてよい。
【0029】
[0025] 本製造法において、第一のグリコシダーゼ又は第二のグリコシダーゼは、マンノシダーゼであってよい。グリコシダーゼには、エクソマンノシダーゼとエンドマンノシダーゼが含まれてよい。例示のマンノシダーゼには、クラスI小胞体(ER)マンノシダーゼとタチナタマメ(Jack Bean)マンノシダーゼが含まれる。いくつかの態様では、第一のグリコシダーゼがエクソマンノシダーゼであり、第二のグリコシダーゼがタチナタマメマンノシダーゼである。好適なマンノシダーゼには、保持型酵素(ここでは、酵素がグリコシド結合を加水分解した後で、糖のα又はβ−アノマー配置がその酵素によって保持される)が含まれてよい。好適なマンノシダーゼには、反転型酵素(ここでは、酵素がグリコシド結合を加水分解した後で、糖のα又はβ−アノマー配置がその酵素によってβ又はα−アノマー配置へ反転される)が含まれてよい。
【0030】
[0026] 例えば、この製造法には、非D−マンノース残基がα−アノマー配置を有する保持型酵素であるマンノシダーゼ(例、タチナタマメマンノシダーゼ)の使用が含まれてよい。他の態様において、この製造法には、非D−マンノース残基がβ−アノマー配置を有する反転型酵素(例、クラスI ERエクソマンノシダーゼ)であるマンノシダーゼの使用が含まれてよい。
【0031】
[0027] この製造法は、どの好適な非D−マンノース単糖残基も利用してよい。いくつかの態様において、非D−マンノース単糖残基は、D−マンノースの構造模倣体又は類似体を含む。非D−マンノース単糖残基には、被検者(例、ヒト)において抗原性である単糖残基が含まれてよい。いくつかの態様において、非D−マンノース単糖残基は、被検者(例、ヒト)において非天然に産生又は観測される単糖残基である。例えば、非D−マンノース単糖残基には、デオキシ単糖(例、ラムノース)、ハロ置換単糖、ニトロ置換単糖、アミノ置換単糖(例、ノジリマイシン及びデオキシノジリマイシン)、スルホ置換単糖、リン置換単糖、及びパラニトロフェニル置換単糖からなる群より選択される単糖残基が含まれてよい。
【0032】
[0028] この製造法において、オリゴ−D−マンノース部分を含む抗原には、糖タンパク質、複合糖質骨格、又はデンドリマーが含まれてよい。この製造法のいくつかの態様において、オリゴ−D−マンノース部分を含む抗原は、オリゴ−D−マンノース部分がN−グリカンとして結合している糖タンパク質である。この抗原は、HIV糖タンパク質(例、gp120又はgp41)、又はオリゴ−D−マンノース部分へ結合した10以上の連続アミノ酸を有するその断片であってよい。この製造法のいくつかの態様において、抗原は、HIV gp120であり、オリゴ−D−マンノース部分は、Asn332又はAsn392でN−グリカンとして付く。
【0033】
[0029] この製造法のいくつかの態様において、オリゴ−D−マンノース部分には、Man9GlcNAc2、Man8GlcNAc2、又はMan7GlcNAc2が含まれてよい。非D−マンノース単糖部分は、ヒドロキシル位置に置換を有してよい。例えば、非D−マンノース単糖部分には、C6位置での酸素→水素置換(例、6−デオキシ−α−D−マンノース又は「ラムノース」)が含まれてよい。ヒドロキシル位置での置換には、脱離基置換(例えば、C6ヒドロキシルでのニトロフェニル基)が含まれてよい。非D−マンノース単糖残基には、パラニトロフェニル−α−D−ラムノースが含まれてよい。例示の製造抗原は、Rham1Man8GlcNAc2、Rham1Man7GlcNAc2、Rham1Man6GlcNAc2、及びRham1Man5GlcNAc2のような置換オリゴ−D−マンノース部分を含んでよい。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、蛍光抗ヒト抗体により測定した、グリカンマイクロアレイに対するヒト血清(n=10)の結合の分析を提供する。
【図2】図2は、オリゴマンノースグリカンの抗原性誘導体の合成の例示スキームを提供する。
【図3】図3は、図2の反応の反応生成物のMALDI−TOFF質量分析について図解する。
【発明を実施するための形態】
【0035】
[0033] 本開示は、医薬組成物、方法、及びキットへ向けられる。特に、本開示は、炭水化物ワクチン又は免疫原性組成物、炭水化物部分に対する抗体を誘導するための方法、並びに、免疫原性組成物とそれらを産生する方法に関する。いくつかの態様において、本開示は、炭水化物HIVワクチンと免疫原性組成物、並びにそれらを産生する方法に関する。
【0036】
関連出願
[0034] 本開示は、公開公報US2006−0251680として公開された米国特許出願番号:11/376,549をその全体において参照により取り込む。
【0037】
諸定義
[0035] 他に特定しなければ、用語「a」又は「an」(不定冠詞)は、「1以上」を意味する。
【0038】
[0036] 他に特定しなければ、本明細書に使用する用語「アルキル」は、1以上の炭素原子を含有する直鎖及び分岐鎖のアルキル残基を意味して、例えば、メチル、エチル、ブチル、及びノニルが含まれる。
【0039】
[0037] 本明細書に使用する用語「アリール」は、フェニルのような単環系芳香族基、又はインダニル、ナフチル、又はフルオレニルのようなベンゾ縮合芳香族基、等を意味する。
【0040】
[0038] 用語「ヘテロアリール」は、1以上のヘテロ原子を含有する芳香族化合物を意味する。例には、ピリジル、フリル、及びチエニル、又は、インドリル又はキノリルのような、1以上のヘテロ原子を含有するベンゾ縮合芳香族化合物が含まれる。
【0041】
[0039] 本明細書に使用する用語「ヘテロ原子」は、N、O、及びSのような非炭素原子を意味する。
【0042】
[0040] 本明細書に使用する用語「シクロアルキル」は、3、4、5、6、7、又は8の炭素を含有する炭素環式環を意味して、例えば、シクロプロピル及びシクロヘキシルが含まれる。
【0043】
[0041] 他に特定しなければ、本明細書に使用する用語「アルコキシ」は、1以上の炭素原子を含有する直鎖又は分岐鎖のアルコキシを意味して、例えば、メトキシ及びエトキシが含まれる。
【0044】
[0042] 本明細書に使用する用語「アルケニル」は、エテニル及びプロペニルのような、1以上の二重結合を含有する直鎖又は分岐鎖のアルキルを意味する。
【0045】
[0043] 本明細書に使用する用語「アラルキル」は、ベンジル及びフェネチルのような、アリールで置換されたアルキルを意味する。
【0046】
[0044] 本明細書に使用する用語「アルキニル」は、エチニル及びプロピニルのような、1以上の三重結合を含有する直鎖又は分岐鎖のアルキルを意味する。
【0047】
[0045] 本明細書に使用する用語「アリールオキシ」は、−OH基中の水素原子をアリール基で置き換えることによって創出される置換基を意味して、例えば、フェノキシが含まれる。
【0048】
[0046] 本明細書に使用する用語「アラルコキシ」は、2−フェニルエトキシのような、アリール基で置換されたアルコキシ基を意味する。
【0049】
[0047] 本明細書に使用する用語「アルキルアミノ」は、メチルアミノ(−NHCH)及びエチルアミノ(−NHCHCH)のような、1つのアルキル基で置換されたアミノ基を意味する。本明細書に使用する用語「ジアルキルアミノ」は、ジメチルアミノ(−N(CH)及びジエチルアミノ(−N(CHCH)のような、2つのアルキル基で置換されたアミノ基を意味する。
【0050】
[0048] 用語「ハロゲン」又は「ハロ置換」は、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素を意味する。
【0051】
[0049] 単糖は、テトロース、ペントース、及びヘキソースのような、加水分解によってより単純な糖へ分解され得ない炭水化物である。本発明に使用し得る非D−マンノース単糖には、限定されないが、ラムノース、フコース、ジギトキソース、オレアンドロース、及びキノボースのような6−デオキシ糖、アロース、アルトロース、グルコース、グロース、イドース、ガラクトース、及びタロースのようなヘキソース、リボース、アラビノース、キシロース、及びリキソースのようなペントース、エリスロース及びトレオースのようなテトロース、グルコサミン及びダウノサミンのようなアミノ糖、グルクロン酸及びガラクツロン酸のようなウロン酸、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトース、及びペンツロースのようなケトース、並びに2−デオキシリボースのようなデオキシ糖が含まれる、D及びL型の天然単糖より誘導される残基;天然又は合成のピラノース及びフラノース糖より誘導される残基;及び、上記残基のいずれものヒドロキシ及び/又はアミノ基が保護されているか又はアシル化されている、又は脱離基(即ち、−O−脱離基)が含まれる糖残基誘導体、又はヒドロキシがフッ素のようなハロゲンで置き換えられているハロゲン化糖残基を有する糖が含まれる。「ヒドロキシルの脱離基」の用語における脱離基は、加水分解のような適正な生化学プロセスによって外し得るものを意味する。用語「その必要な被検者」により本文脈で意味されるのは、置換オリゴ−D−マンノース部分に対する免疫原性応答が治療又は予防の効果をもたらす、ヒトが含まれるどの動物でもよい被検者を意味する。「その必要な被検者」には、ヒト免疫不全ウイルス1型又はHIV−1のような病原体に感染しているか、又はそれに感染するリスク状態にあるヒトが含まれてよい。用語「被検者」及び「患者」及び「宿主」は、本明細書において交換可能的に使用される。
【0052】
[0050] 用語「有効量」は、患者の大多数において免疫原性応答(例えば、オリゴ−D−マンノース部分を含んでなる抗原に対する抗体の産生)を誘導する、問題となっている物質(例、置換オリゴ−D−マンノース部分を含んでなる抗原)の量を意味する。用語「有効量」はまた、その物質が、それを投与された被検者において軽微な副作用しか引き起こさないか又は副作用を引き起こさない量で与えられること、又はその副作用が、その物質を治療又は予防のために与えた疾患の重症度に照らして、医学的及び薬学的な視点から忍容され得ることを含意する。
【0053】
[0051] 本明細書に使用するように、「治療」には、予防と療法が含まれる。従って、被検者を治療するとき、本発明の化合物は、すでに感染症を収容している被検者へ投与しても、又はそのような感染症が生じることを防ぐために投与してもよい。
【0054】
[0052] 本文脈において、用語「マンノース類似体」又は「マンノース模倣体」は、2G12モノクローナル抗体(米国立衛生研究所(NIH)AIDS Research & Reference Reagent Program(AIDS研究及び標準試薬プログラム)、カタログ番号1476より入手可能)の有効部分へ結合するマンノース糖を(結合特性に関して)模倣するあらゆる物質を意味するように、広い意味で理解されるべきである。従って、類似体又は模倣体は、単に、マンノース−オリゴ糖のマンノース糖の2G12抗体への in vivo 又は in vitro での結合を模倣することが可能とみなされる他のどの化合物であってもよい。本文脈において、マンノース類似体又はマンノース模倣体は、2G12抗体のHIV gp120への結合に関連した少なくとも1つの結合特性を明示する。例えば、類似体又は模倣体において、それぞれの側鎖は、2G12抗体との会合に必須である特別な特徴が保存される限りは、類似の立体化学又は極性及び非極性原子の配置を有する別の基によって置き換えてよい。
【0055】
[0053] いくつかの態様において、非D−マンノース単糖は:
【0056】
【化3】

【0057】
[式中、R1a、R1b、R2a、R2b、R3a、R3b、R4a、R4b、R5a、R5b、R6a、R6b、及びR6cのそれぞれは、他から独立して、−H;−OH;−F;−Cl;−Br;−I;−NH;アルキル−及びジアルキルアミノ;直鎖又は分岐鎖のC1−6アルキル、C2−6アルケニル及びアルキニル;アラルキル;直鎖又は分岐鎖のC1−6アルコキシ;アリールオキシ;アラルコキシ;−(アルキレン)オキシ(アルキル);−CN;−NO;−COOH;−COO(アルキル);−COO(アリール);−C(O)NH(C1−6アルキル);−C(O)NH(アリール);スルホニル;(C1−6アルキル)スルホニル;アリールスルホニル;スルファモイル、(C1−6アルキル)スルファモイル;(C1−6アルキル)チオ;(C1−6アルキル)スルホンアミド;アリールスルホンアミド;−NHNH;−NHOH;アリール;及び、ヘテロアリールからなる群より選択される]より選択される式を有する。それぞれの置換基は、同じであっても異なっていてもよい。さらなる態様において、炭素原子は、ヘテロ原子で置換されてよい。
【0058】
免疫原を提供するための炭水化物の修飾
[0054] 免疫原設計への合成アプローチは、潜在的に強力なものであるが、免疫学的には「自己」のオリゴマンノースグリカンは、生得的には非力な免疫原である。例えば、「自己」及び「非自己」マンノシドの間の識別は密接に調節されて、ワクチン設計への課題を提示する。2G12へ結合する炭水化物(Man(α1−2)Man(α1−2)Man(α1−3)Man,D1と[Man(α1−2)Man(α1−6)][Man(α1−2)Man(α1−3)]Man,D2D3)は、生来的には抗原性である。しかしながら、それでも、これらの抗原性の構造は、自己グリカンの文脈内では免疫沈黙性である。原子レベルでは、α−D−ラムノースとは対照的に、単糖α−D−マンノースの抗原性を決定するのは単一のヒドロキシルである。故に、1つのアプローチは、オリゴマンノースグリカンに近似した構造相同性を維持する非自己、抗原性の炭水化物の導入によって免疫学的寛容を克服することである。例えば、オリゴマンノースグリカンの化学的及び/又は酵素的修飾によって、2G12エピトープの抗原性模倣体を産生してよい。
【0059】
[0055] ヒト免疫系に対して生来的又は生得的に抗原性である炭水化物を同定するために、固定化グリカンに対するヒト血清抗体についてスクリーニングすることができる(図1を参照のこと)。これにより、「非自己」として認識される炭水化物及び/又は炭水化物配置が明らかになる場合がある。ヒト血清反応性の分析により、α−D−ラムノースがきわめて抗原性の糖であるのに対して、α−D−マンノース(2G12エピトープの主要な構成成分)はそうでないことが明らかになった(図1を参照のこと)。重要にも、ラムノースは、C6位置での単一酸素原子の欠落だけが異なる、マンノースに近似した構造模倣体であるので、α−D−ラムノースは、6−デオキシ−α−D−マンノースである。ラムノース又は類似の抗原性模倣体をgp120の天然のオリゴマンノース構造へ取り込むことによって、HIVの(マンノース)糖に対する生得的な寛容が克服されるかもしれない。
【0060】
[0056] 従って、α−D−ラムノース(又は他の「非自己」単糖)をgp120に見出されるオリゴマンノースグリカンへ取り込んでよい。この抗原性グリカンを合成するための1つの方法は、マンノシダーゼの加水分解活性を逆転させて、マンノース複合糖質を産生することである。このように、α−マンノシダーゼの作用によって、過剰のマンノース類似体を酵素的にグリカンへ移すことができる。実行可能な合成スキームを図2に略記する。ラムノース置換グリカン(複数)は、Man9GlcNAc2のD1及びD3アームが含まれる2G12の結合部位を保持するだけでなく、きわめて抗原性の糖(即ち、ラムノース)を含有する。このような炭水化物修飾は、HIV−1の炭水化物ワクチンの設計に有用である。
【0061】
HIVワクチンと免疫原性組成物
[0057] 炭水化物部分を含むHIV成分を、修飾したHIV成分が被検者において抗原性になるようなやり方(例えば、グリコシル化を修飾すること)で修飾することによってHIVワクチン又は免疫原性組成物を作製することができる。次いで、この修飾HIV成分を被検者へ投与して、非修飾HIV成分へ結合する抗体の産生のような免疫原性応答を誘導することができる。
【0062】
[0058] 本文脈において、用語「グリコシル化を修飾すること」又は「修飾グリコシル化」は、成分(例、糖タンパク質)のグリカン(オリゴ糖)が、成分上に生来的に見出されるグリカンとは、少なくとも1つ、そして好ましくは1より多く異なることを意味する。
【0063】
[0059] 本明細書に開示する抗原のオリゴ−D−マンノース部分には、高マンノースグリカンが含まれてよい。高マンノースグリカンには、少なくとも1つの末端Manα1,2Man結合を有するグリカンが含まれる。そのようなオリゴ糖の例は、Man9GlcNAc2、Man8GlcNAc2、Man7GlcNAc2、Man6GlcNAc2、又はそれらの異性体である。好ましくは、抗原は、N−グリカンを有する糖タンパク質であり、この糖タンパク質のN−グリカンは、大部分はMan9GlcNAc2又はその異性体である。
【0064】
糖免疫原の提示のための自己タンパク質
[0060] gp120への免疫応答は、普通は、このタンパク質コアに特異的な抗体によって支配されている。N−結合グリカンは、通常は、抗体認識において直接的な役割を担わない。このタンパク質部分に対する免疫応答とそれによる免疫調節をともに消失させるために、「自己」タンパク質を「非自己」オリゴマンノースクラスターの骨格として利用することができる。
【0065】
[0061] 組換え「自己」糖タンパク質の発現により、2G12エピトープを模倣する、オリゴマンノース型グリカンのある骨格を提供することができる。例えば、組換え「自己」糖タンパク質を、修飾グリコシル化(例えば、置換オリゴ−D−マンノース部分)が含まれるように修飾してよい。このアプローチの利点は、2G12エピトープを免疫沈黙したタンパク質骨格において提示して、あらゆる抗体応答をこの置換オリゴ−D−マンノース部分の方へのみ向けることができることであり得る。
【0066】
修飾した糖タンパク質及びマンナンの免疫原としての使用
[0062] 本開示はまた、2G12抗体への特異的な相補性を有する置換オリゴ−D−マンノース部分を含んでなるHIVワクチン又は免疫原性組成物を提供する。このような置換オリゴ−D−マンノース部分は、マンノースを含有する多糖であり、好ましくは酵母又は細菌の細胞に由来するマンナン(Mannans)より製造することができる。マンナンは、単離マンナン;酵母又は細菌の細胞全体(これらは、殺傷された細胞であっても、弱毒化された細胞であってもよい)の形態であっても、担体分子又はタンパク質へ結合したマンナンとしてでもよい。マンナンは、2G12抗体に対する生来のアフィニティーを有する酵母又は細菌の細胞のマンナンであり得る。そのようなマンナンの1つの例は、2G12エピトープを模倣する、即ち、2G12抗体に対する生来の特異的な相補性を有するカンジダ・アルビカンスのマンナン構造であり得る。マンナンは、本明細書に記載のように、1以上の非D−マンノース単糖残基が含まれるように修飾してよい。
【0067】
[0063] マンナンはまた、人工的又は遺伝学的に選択されたマンナンであり得る。そのようなマンナンは、2G12抗体に対してより高いアフィニティーを有する酵母又は細菌の細胞を反復的に選択することによって産生することができる。この反復法の細胞の出発プールは、いくらかのノンゼロアフィニティー又は特異性を明示する細胞を含むことができる。この出発プールより、細胞の残りよりも高い2G12抗体へのアフィニティーを有する細胞の亜集合を選択することができる。次いで、この亜集合の細胞を複製して、後続の反復への出発プールとして使用することができる。2G12抗体へのより高いアフィニティーを有する細胞の亜集合を同定するには、様々な判定基準を使用し得る。例えば、第一の反復では、2G12抗体への検出可能なアフィニティーを有する細胞である。後続の反復では、選択される細胞は、2G12抗体に対して高アフィニティーを表示する細胞を代表する細胞であり得て、蛍光活性化細胞選別機(FACS)を使用して、又は固定化2G12をアフィニティー分離用に使用する直接濃縮法によって選別することができる。この選択したマンナンは、本明細書に記載のように、1以上の非D−マンノース単糖残基が含まれるように修飾してよい。
【0068】
[0064] 細胞の出発プールのために使用し得る1つの非限定例は、S. cervisiae(サッカロミセス・セレビシエ)細胞である。2G12抗体は、S. cervisiae マンナンへ結合することができるので、マンナンとgp120糖タンパク質の間には、ある種のノンゼロ度の抗原擬態が示唆される。S. cerivisiae 細胞壁の炭水化物構造は、gp120のオリゴマンノースグリカと共通の抗原構造を共有する。しかしながら、天然に存在する S. cervisiae マンナンは、免疫原として使用するときに、gp120に対して十分な体液性の交差反応性を誘導しない。この S. cervisiae マンナンは、本明細書に記載のように、1以上の非D−マンノース単糖残基が含まれるように修飾してよい。
【0069】
ワクチンと免疫原性組成物
[0065] 本明細書に開示する医薬組成物は、ワクチン又は免疫原性組成物として使用してよい。ワクチン又は免疫原性組成物は、ヒトが含まれる哺乳動物をHIVに対してワクチン接種する、及び/又は免疫化するために投与することができる。ワクチン又は免疫原性組成物には、2G12抗体に対して特異的な相補性を有するマンナン(又は本明細書に記載のような修飾マンナン)、及び/又は上記に記載の方法に従って製造される糖タンパク質を含めることができる。糖タンパク質は、そのグリコシル化のさらなる修飾のない、単離又は精製された糖タンパク質としてワクチンに含めることができる。
【0070】
[0066] ワクチン又は免疫原性組成物は、どの簡便な手段によっても投与することができる。例えば、糖タンパク質及び/又はマンナン(又は、修飾糖タンパク質又はマンナン)は、医薬的に許容される担体をさらに含有する医薬的に許容される組成物の一部として、又はリポソーム又は制御放出医薬組成物のような送達系の手段によって投与することができる。用語「医薬的に許容される」は、生理学的に耐えられて、典型的には、投与されるときに、胃の不快感又は眩暈のようなアレルギー性又は類似の望まれない反応を引き起こさない分子及び組成物へ言及する。好ましくは、「医薬的に許容される」は、連邦又は州政府の規制当局によって承認されているか、又は米国薬局方、又は動物、好ましくはヒトにおける使用が一般に認められている他の薬局方に収載されていることを意味する。用語「担体」は、希釈剤、アジュバント、賦形剤、又は化合物が投与される運搬体を意味する。そのような医薬担体は、生理食塩水溶液、デキストロース溶液、グリセロール溶液、水のような無菌液剤と、石油、動物、植物、又は合成起源のオイル(落花生油、ダイズ油、鉱油、又はゴマ油)で作製されるようなオイル乳剤であり得る。好ましくは、水、生理食塩水溶液、デキストロース溶液、及びグリセロール溶液を担体として、特に注射可能な溶液剤に利用する。
【0071】
[0067] ワクチン又は免疫原性組成物は、糖タンパク質及び/又はマンナンと適合可能なあらゆる標準技術によって投与することができる。そのような技術には、非経口、経皮、及び経粘膜(例えば、経口又は経鼻)の投与が含まれる。
【0072】
例示の態様
[0068] 以下の非限定的な態様は、本発明をさらに詳しく説明する。
【0073】
[0069] 態様1.抗原性の糖をオリゴマンノースグリカンへ導入して非天然のオリゴマンノシドを産生して、前記オリゴマンノースグリカンの免疫原性を改善する方法。
【0074】
[0070] 態様2.非天然のオリゴマンノースグリカンの免疫原性が抗HIV抗体を誘発するその能力に関連する、態様1の方法。
【0075】
[0071] 態様3.炭水化物及び炭水化物アレイへのヒト血清のアフィニティー結合試験を介して糖を免疫原性として同定する、態様1又は2の方法。
【0076】
[0072] 態様4.抗原性の糖がD−マンノースの構造模倣体である、態様1〜3のいずれかの方法。
【0077】
[0073] 態様5.抗原性の糖がD−ラムノースである、態様1〜4のいずれかの方法。
【0078】
[0074] 態様6.オリゴマンノースグリカンが、Man9GlcNAc2、Man8GlcNAc2、Man7GlcNAc2、又はそれらの構造類似体、模倣体、又は誘導体である、態様1〜5のいずれかの方法。
【0079】
[0075] 態様7.態様1に従って置換されたオリゴマンノースグリカンを、糖タンパク質、複合糖質骨格、又はデントリマーの表面上に配置する、態様1〜6のいずれかの方法。
【0080】
[0076] 態様8.抗原性の糖のオリゴマンノース骨格への導入を、グリコシダーゼの触媒活性を使用する濃縮(逆加水分解)によって達成する、態様1〜7のいずれかの方法。
【0081】
[0077] 態様9.グリコシダーゼがマンノシダーゼである、態様1〜8のいずれかの方法。
【0082】
[0078] 態様10.ドナー糖の脱離基での置換によって逆加水分解を支援する、態様1〜9のいずれかの方法。
【0083】
[0079] 態様11.脱離基がパラニトロフェノールである、態様1〜10のいずれかの方法。
【0084】
[0080] 態様12.マンノシダーゼが保持型酵素であり、ドナー糖はα−アノマー配置で置換される、態様1〜11のいずれかの方法。
【0085】
[0081] 態様13.保持型酵素がタチナタマメマンノシダーゼである、態様1〜12のいずれかの方法。
【0086】
[0082] 態様14.マンノシダーゼが反転型酵素であり、ドナー糖はβ−アノマー配置で置換される、態様1〜13のいずれかの方法。
【0087】
[0083] 態様15.反転型酵素がクラスI ERエクソマンノシダーゼである、態様1〜14のいずれかの方法。
【0088】
[0084] このように大まかに記載した本発明は、例示により提供されて本発明を制限することを企図しない、以下の実施例を参照にしてより容易に理解されよう。
【実施例】
【0089】
[0085] 1つの実施例では、中央のD2単糖を切断するエクソマンノシダーゼでMan9GlcNAc2を処理して、Man8(B)GlcNAc2を得る(図2を参照のこと)。タチナタマメマンノシダーゼ(JBM)とドナー単糖としてのパラニトロフェニル−α−D−ラムノースを使用して後続の逆加水分解を実施して、新規化合物、Rham1Man8GlcNAc2を得る。この反応の進行は、反応産物のMALDI−TOFF質量分析の分析によって判定することができる(図3)。
【0090】
[0086] 本明細書において言及されるすべての出版物、特許出願、発行特許、及び他の文書は、それぞれ個別の出版物、特許出願、発行特許、又は他の文書が、その全体が参照により組み込まれると具体的かつ個別に示されるかのように、参照により本明細書に組み込まれる。参照により組み込まれるテキストに含まれる諸定義は、それらが本開示における定義と矛盾する範囲内では、除外される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV)のオリゴ−D−マンノース部分に対する免疫原性応答を誘導するための医薬組成物であって:
(a)HIVのオリゴ−D−マンノース部分の少なくとも1つのD−マンノース残基が少なくとも1つの非D−マンノース単糖残基によって置換されている、HIVのオリゴ−D−マンノース部分を含んでなる抗原の有効量;及び
(b)担体
を含んでなる、前記組成物。
【請求項2】
少なくとも1つの非D−マンノース単糖残基がD−マンノースの構造模倣体を含む、請求項1の組成物。
【請求項3】
少なくとも1つの非D−マンノース単糖残基が被検者において抗原性である単糖残基を含む、請求項1の組成物。
【請求項4】
少なくとも1つの非D−マンノース単糖残基がヒトにとって非天然である単糖残基を含む、請求項1の組成物。
【請求項5】
少なくとも1つの非D−マンノース単糖残基が、デオキシ単糖、ハロ置換単糖、ニトロ置換単糖、アミノ置換単糖、スルホ置換単糖、及びリン置換単糖からなる群より選択される単糖残基を含む、請求項1の組成物。
【請求項6】
デオキシ単糖にラムノースが含まれる、請求項5の組成物。
【請求項7】
抗原が、糖タンパク質、複合糖質(glycoconjugate)骨格、又はデンドリマーを含む、請求項1の組成物。
【請求項8】
抗原が、N−グリカンとして結合した置換オリゴ−D−マンノース部分を含んでなる糖タンパク質である、請求項7の組成物。
【請求項9】
置換オリゴ−D−マンノース部分が:
【化1】

[ここで、「Man」はマンノースであり、「GlcNAc」はN−アセチルガラクトサミンであり、「X」は非D−マンノース単糖残基である]からなる群より選択される式を有する、請求項1の組成物。
【請求項10】
Xがラムノースである、請求項9の組成物。
【請求項11】
HIVのオリゴ−D−マンノース部分がHIV糖タンパク質120(gp120)又はHIV糖タンパク質41(gp41)に存在する、請求項1の組成物。
【請求項12】
HIVのオリゴ−D−マンノース部分が、gp120のAsn332又はAsn392でN−グリカンとして付いたオリゴ−D−マンノース部分である、請求項11の組成物。
【請求項13】
免疫原性応答が、HIVのオリゴ−D−マンノース部分へ特異的に結合する抗体の産生を含んでなる体液性応答である、請求項1の組成物。
【請求項14】
請求項1の組成物をその必要な被検者へ投与することを含んでなる、オリゴ−D−マンノース部分を含む抗原に対する免疫原性応答を誘導するための方法。
【請求項15】
HIVに対する免疫原性応答を誘導するための抗原を製造する方法であって:
(a)HIVオリゴ−D−マンノース部分を第一のグリコシダーゼで処理して、少なくとも1つのD−マンノース残基を除去すること;及び
(b)処理したオリゴ−D−マンノース部分を、第二のグリコシダーゼの存在下に少なくとも1つの非D−マンノース単糖残基と反応させて置換オリゴ−D−マンノース部分を提供して、それによりHIVに対する免疫原性応答を誘導するための抗原を製造することを含んでなる、前記方法。
【請求項16】
HIVオリゴ−D−マンノース部分がHIV gp120又はHIV gp41に存在する、請求項15の方法。
【請求項17】
HIVオリゴ−D−マンノース部分がHIV gp120に存在する、請求項16の方法。
【請求項18】
HIVオリゴ−D−マンノース部分がMan9GlcNAc2である、請求項17の方法。
【請求項19】
オリゴ−D−マンノース部分がgp120のAsn332又はAsn392へ付いたN−グリカンである、請求項17の方法。
【請求項20】
第一のグリコシダーゼがマンノシダーゼである、請求項15の方法。
【請求項21】
マンノシダーゼがエクソマンノシダーゼである、請求項20の方法。
【請求項22】
第二のグリコシダーゼがマンノシダーゼである、請求項15の方法。
【請求項23】
マンノシダーゼが保持型酵素であり、非D−マンノース単糖残基がα−アノマー配置を有する、請求項22の方法。
【請求項24】
保持型酵素がタチナタマメ(Jack Bean)マンノシダーゼである、請求項23の方法。
【請求項25】
マンノシダーゼが反転型酵素であり、非D−マンノース単糖残基がβ−アノマー配置を有する、請求項22の方法。
【請求項26】
反転型酵素がクラスI ERエクソマンノシダーゼである、請求項25の方法。
【請求項27】
少なくとも1つの非D−マンノース単糖残基がD−マンノースの構造模倣体を含む、請求項15の方法。
【請求項28】
少なくとも1つの非D−マンノース単糖残基がヒトにおいて抗原性である単糖残基を含む、請求項15の方法。
【請求項29】
少なくとも1つの非D−マンノース単糖残基がヒトにとって非天然である単糖残基を含む、請求項15の方法。
【請求項30】
少なくとも1つの非D−マンノース単糖残基が、デオキシ単糖、ハロ置換単糖、ニトロ置換単糖、アミノ置換単糖、スルホ置換単糖、リン置換単糖、及びパラニトロフェニル置換単糖からなる群より選択される単糖残基を含む、請求項15の方法。
【請求項31】
HIVオリゴ−D−マンノース部分が、糖タンパク質、複合糖質骨格、又はデンドリマーの一部である、請求項15の方法。
【請求項32】
HIVオリゴ−D−マンノースが、N−グリカンとして結合したオリゴ−D−マンノース部分を含んでなる糖タンパク質の一部である、請求項15の方法。
【請求項33】
置換オリゴ−D−マンノース部分が、Rham1Man8GlcNAc2、Rham1Man7GlcNAc2、及びRham1Man6GlcNAc2からなる群より選択される式を有する、請求項15の方法。
【請求項34】
HIVオリゴ−D−マンノース部分がHIV糖タンパク質の一部である、請求項15の方法。
【請求項35】
HIV糖タンパク質がgp120又はgp41である、請求項34の方法。
【請求項36】
HIV糖タンパク質がgp120であり、オリゴ−D−マンノース部分は、Asn332又はAsn392でN−グリカンとして付く、請求項35の方法。
【請求項37】
置換オリゴ−D−マンノース部分がRham1Man8GlcNAc2である、請求項15の方法。
【請求項38】
非D−マンノース単糖残基がヒドロキシル位置での置換を含む、請求項15の方法。
【請求項39】
置換が脱離基を含む、請求項38の方法。
【請求項40】
脱離基がパラニトロフェニル基である、請求項39の方法。
【請求項41】
非D−マンノース単糖残基がパラニトロフェニル−α−D−ラムノースを含む、請求項15の方法。
【請求項42】
請求項15の方法によって製造されるような置換オリゴ−D−マンノース部分を含む抗原。
【請求項43】
請求項42の抗原と担体を含んでなる医薬組成物。
【請求項44】
抗原が、HIVに対する免疫原性応答を誘導するのに有効な濃度で組成物に存在する、請求項43の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2010−516784(P2010−516784A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−547451(P2009−547451)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【国際出願番号】PCT/US2008/052165
【国際公開番号】WO2008/094849
【国際公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(501231576)ユニバーシティ・オブ・オックスフォード (5)
【Fターム(参考)】