説明

糖化タンパク質の検出方法および糖化タンパク質の検出のためのバイオセンサーチップ

【課題】糖化タンパク質を簡便に検出できる方法および糖化タンパク質検出のためのバイオセンサーチップの提供。
【解決手段】ガレクチンまたはガレクチンのCRDへの糖化タンパク質の結合量を測定することを含んでなる、糖化タンパク質の検出方法であって、ガレクチンがガレクチン−3であり、糖化タンパク質が、糖化反応の前期反応生成物、カルボキシメチルリジン若しくはカルボキシエチルリジンが付加した糖化反応の後期反応生成物、またはグルコース、メチルグリオキサール若しくはグリセルアルデヒド由来の糖化反応の後期反応生成物である。ガレクチンまたはそのCRDへの糖化タンパク質の結合量を表面プラズモン共鳴法、水晶振動子マイクロバランス測定法、反射干渉分光法、プロテインチップ法若しくは半導体接触型バイオセンサー法または電気化学的方法により測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖化タンパク質の検出方法および糖化タンパク質の検出のためのバイオセンサーチップに関する。本発明は、糖化タンパク質の精製法および精製のためのカラムにも関する。
【背景技術】
【0002】
近年の食生活の多様化と共に様々な生活習慣病が蔓延し、社会問題となっている。生活習慣病を防ぐために、例えばメタボローム関連の研究などの様々な研究が精力的に進められているが、予防の糸口はほとんど見えていない。この理由の一つとして、様々な生活習慣病が引き起こす個々の生活習慣を規定するパラメーターを客観的に評価する系が確立されていないことが挙げられる。
【0003】
生活習慣病の中では、特に糖尿病は患者数が多く、厚生労働省による平成19年度人口動態統計によれば日本では年間死亡者数が14,000人程度とされ、さらに糖尿病の合併症として、年間15,000人が腎臓障害で人工透析を開始し、年間約3,000人が糖尿病を原因とする視覚障害に陥っているとされる。
【0004】
糖尿病などで、高血糖が長期的に持続すると体内のタンパク質が非酵素的に糖化を受けることが知られている。最近の研究では、糖尿病で特徴的な「持続する高血糖状態」により形成される様々な糖化タンパク質が、動脈硬化症等の心血管疾患(Selvin E., et.al., “Glycated hemoglobin, diabetes, and cardiocascular risk in nondiabetic adults”, N. Engl. J. Med., 2010, 362 (9): 800-811)、アルツハイマー病(Takeuchi M. et. al., Curr. Alzheimer Res., 2004, 1: 39-46, Sato T. et. al., Am. J. Alzheimers Dis. Other Dement., 2006, 21: 197-208)、がんの増殖および転移(Abe R., J. Ivest. Dermatol., 2004, 122: 461-467)、炎症反応などの合併症の重要な原因となりうることが明らかにされつつある。また、正常な血糖状態の場合でも、加齢に伴って様々なタンパク質が糖化を受けることが分かってきた。
【0005】
糖化タンパク質を測定するためには、糖化されていないタンパク質と糖化タンパク質を分けて測定する必要がある。現在では、質量分析計をつなげた高速液体クロマトグラフィー(HPLC−MS/MS)による測定や糖化タンパク質特異的抗体を用いたELISAによる測定などが主流である。しかしながら、HPLCを用いる方法は装置が重厚長大であり、時間がかかるため、簡便な検査に用いることは困難である。また、糖化タンパク質特異的抗体を用いる方法は、糖化タンパク質特異的な抗体を得ることが難しく、そのため、抗体を用いた検査は限られた事例で用いられるに過ぎない。よって、糖化タンパク質を簡便に測定できる方法の確立が強く望まれていた。
【0006】
ところで、生体内に存在するガレクチンはβ−ガラクトシドを含む複合糖質を架橋することにより細胞の接着や細胞の情報伝達を調節していることが知られている(非特許文献1)。また、ガレクチンと糖鎖の一種であるグリコサミノグリカンとの関係が報告されている(特許文献1)。しかし、ガレクチンと糖化タンパク質との関係はこれまで一切報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−332136号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Leffler,H.”Introduction to Galectins” Trends in Glycoscience and Glycotechnology, Vol.9, No.45, pp9-19(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、糖化タンパク質を簡便に検出できる方法を提供すると共に、糖化タンパク質検出のためのバイオセンサーチップを提供することを目的とする。また、糖化タンパク質を精製するための方法および糖化タンパク質の精製用カラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、ガレクチンファミリーに属するガレクチン−3が、ある種の糖化タンパク質群を特異的に認識することを見いだした。本発明者はまた、ガレクチンを固定化したバイオセンサーチップを用いて糖化タンパク質を表面プラズモン共鳴法で正確に測定できることを見出した。本発明はこれらの知見に基づくものである。
【0011】
すなわち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
(1)ガレクチンまたはその炭化水素認識領域(Carbohydrate Recognition Domain;以下、単に「CRD」ということがある)への糖化タンパク質の結合量を測定することを含んでなる、糖化タンパク質の検出方法(以下、「本発明の検出方法」という)。
(2)ガレクチンがガレクチン−3である上記(1)に記載の方法。
(3)糖化タンパク質が、糖化反応の前期反応生成物、カルボキシメチルリジン若しくはカルボキシエチルリジンが付加した糖化反応の後期反応生成物、またはグルコース、メチルグリオキサール若しくはグリセルアルデヒド由来の糖化反応の後期反応生成物である、上記(1)または(2)に記載の方法。
(4)ガレクチンまたはそのCRDへの糖化タンパク質の結合量を表面プラズモン共鳴法、水晶振動子マイクロバランス測定法、反射干渉分光法、プロテインチップ法若しくは半導体接触型バイオセンサー法または電気化学的方法により測定する、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)血糖値、糖化LDLまたは糖化Aβの測定方法である、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)ガレクチンまたはそのCRDが固定化された固体支持体からなる、バイオセンサーチップ。
(7)ガレクチンがガレクチン−3である、上記(6)に記載のバイオセンサーチップ。
(8)糖化タンパク質の検出に使用するための、上記(6)または(7)に記載のバイオセンサー。
(9)糖化タンパク質が糖化反応の前期反応生成物、カルボキシメチルリジン若しくはカルボキシエチルリジンが付加した糖化反応の後期反応生成物、またはグルコース、メチルグリオキサール若しくはグリセルアルデヒド由来の糖化反応の後期反応生成物である、上記(8)に記載のバイオセンサーチップ。
(10)血糖値の測定に使用するための、上記(6)〜(9)のいずれかに記載のバイオセンサーチップ。
(11)担体にガレクチンまたはそのCRDを結合させてなる、アフィニティーカラム。
(12)上記(11)に記載のアフィニティーカラムを用いて、糖化タンパク質を精製する方法。
【0012】
本発明では、ガレクチンへの糖化タンパク質の結合能を利用して、糖化タンパク質を検出することができる。後記のように糖化タンパク質の血中濃度は血糖値と関連していることから、本発明は、血糖値の測定に用いることができる。本発明はまた、試料からの特定の糖化タンパク質の分離に用いることができる。糖化タンパク質は生活習慣病などの疾患に関連していることから、本発明は糖化タンパク質の生体内メカニズムを解明するための機材や手法として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、D−グルコースからAGEが生成される代表的な経路を示す模式図である。
【図2】図2は、センサーチップに固定化したガレクチン−3と各AGEとの結合および解離をSPRにて分析した図である。図2−Aはグルコース−AGE−BSAとの結合のSPRセンサーグラムを示し、図2−BはCEL−HSAとの結合のSPRセンサーグラムを示し、図2−Cはグリセルアルデヒド−AGE−BSAとの結合のSPRセンサーグラムを示し、図2−Dはメチルグリオキサール−AGE−BSAとの結合のSPRセンサーグラムを示す。図2−A、B、CおよびDにおいてa、b、c、d、eおよびfは、それぞれ、AGE濃度を200μg/mL、100μg/mL、50μg/mL、25μg/mL、12.5μg/mL、6.25μg/mLとした際のセンサーグラムを示す。
【図3】図3は、センサーチップに固定化したガレクチン−3のCRDと各AGEとの結合・解離をSPRにて分析した図である。図3−Aはグルコース−AGE−BSAとの結合のSPRセンサーグラムを示し、図3−BはCEL−HSAとの結合のSPRセンサーグラムを示し、図3−Cはグリセルアルデヒド−AGE−BSAとの結合のSPRセンサーグラムを示し、図3−Dはメチルグリオキサール−AGE−BSAとの結合のSPRセンサーグラムを示す。図3−A、B、CおよびDにおいてa、b、c、d、eおよびfは、それぞれ、AGE濃度を200μg/mL、100μg/mL、50μg/mL、25μg/mL、12.5μg/mL、6.25μg/mLとした際のセンサーグラムを示す。
【図4】図4は、ガレクチン−3と各AGEとの結合速度定数(Kon)および解離速度定数(Koff)を示す。図4−Aはガレクチン−3と各AGEとの結合速度定数(Kon)を表し、図4−Bは解離速度定数(Koff)を示す。
【図5】図5は、ガレクチン−3のCRDと各AGEとの結合速度定数(Kon)および解離速度定数(Koff)を示す。図5−Aはガレクチン−3のCRDと各AGEとの結合速度定数(Kon)を表し、図5−Bは解離速度定数(Koff)を示す。
【図6】図6は、ガレクチン−3のグリセルアルデヒド−AGE−BSAに対する結合特性を示す。図6−A中、aはグリコールアルデヒドとガレクチン−3との結合のSPRセンサーグラムを示し、bはグリコールアルデヒド−AGE−BSAとガレクチン−3との結合のSPRセンサーグラムを示す。図6−B中、cはグリセルアルデヒドとガレクチン−3との結合のSPRセンサーグラムを示し、dはグリセルアルデヒド−AGE−BSAとガレクチン−3との結合のSPRセンサーグラムを示す。
【発明の具体的な説明】
【0014】
本発明の糖化タンパク質の検出方法は、ガレクチンへの糖化タンパク質の結合量を測定することを含んでなる。ガレクチンへの糖化タンパク質の結合量は試料中の糖化タンパク質の存在あるいは含有量を示していることから、本発明の糖化タンパク質の検出方法によれば試料中の糖化タンパク質の有無を決定することができ、また、試料中の糖化タンパク質を定量することができる。
【0015】
本明細書において「糖化タンパク質」とは、糖化反応またはメイラード反応と呼ばれるアミノカルボニル反応によりタンパク質とグルコースとが非酵素的に結合して生成される一連のタンパク質をいう。糖化タンパク質は、前期反応生成物および後期反応生成物に大別される。
【0016】
前期反応生成物はメイラード反応の前期反応による生成物である。メイラード反応では主にグルコース、ガラクトース、フルクトースなどの単糖とタンパク質が反応してシッフ塩基が形成され、その後、安定なアマドリ転移生成物が形成される。前期反応生成物としては、シッフ塩基およびアマドリ転移生成物が挙げられる。
【0017】
後期反応生成物は総称してAGE(Advanced glycation end-product)と呼ばれ、メイラード反応の後期反応による生成物として見いだされた。その後の研究により、後期反応生成物(以下、単に「AGE」ということがある)は前期反応を経由しない様々な反応経路でも生成されることが明らかにされている。図1には、D−グルコースから様々なAGEを生成する代表的な経路が示されている。図1には、D−グルコースからシッフ塩基、アマドリ転移生成物を経て生成されるAGE−1、グリセルアルデヒドから生成されるAGE−2、グリコールアルデヒドから生成されるAGE−3、メチルグリオキサールから生成されるAGE−4およびカルボキシエチルリジン(以下、単に「CEL」ということがある)、グリオキサールから生成されるAGE−5およびカルボキシメチルリジン(以下、単に「CML」ということがある)がAGEとして示されている。
【0018】
本発明により検出されるAGEとしては、例えば、CML、ペントシジン、ピラリン、クロスリン、CEL、ピロピリジン、イミダゾロン、アルグピリミジン、GA−ピリジン、MG−イミダゾロン、3DG−イミダゾロン、GOLD(グリオキサール由来リジン二量体)、MOLD(メチルグリオキサール由来リジン二量体)、DOLD(3−デオキシグルコゾン由来リジン二量体)、ベスパーリジン、MRX(メイラード反応産物X)が付加したAGEが挙げられる。
【0019】
本発明により検出されるAGEは、好ましくは、CML若しくはCELが付加した糖化反応の後期反応生成物、またはメチルグリオキサール由来、グリセルアルデヒド由来若しくはグルコース由来の糖化反応の後期反応生成物とすることができる。
【0020】
生体中で糖化を受けるタンパク質としては、例えば、コラーゲン、ミエリン、フィブロネクチン、フィブリン、アミロイドβ(Aβ)などの細胞外基質タンパク質;赤血球グルコース輸送タンパク質、赤血球スペクトリン、赤血球膜タンパク質、内皮細胞膜タンパク質などの膜タンパク質;ヘモグロビンA、水晶体クリスタリン、チューブリン、カルモジュリンなどの細胞内タンパク質;カテプシンB、リゾチーム、膵リボアーゼ、銅/亜鉛スーパーオキシドジムスターゼ、炭酸デヒドラクターゼ、β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ、アルコールデヒドロゲナーゼ、アルドースレダクターゼ、アルデヒドレダクターゼ、ソルビトールデヒドロゲナーゼ、Na/K−ATPアーゼなどの酵素;アルブミン、免疫グロブリン、アポA−I、アポA−II、アポB、アポC−I、アポE、ハプトグロビン、フェリチン、トランスフェリン、α1−アンチトリプシン、プラスミノーゲン、プラスミノーゲンアクチベータ、フィブリノーゲン、フィブリン、アンチトロンビンIII、β2−ミクログロビン、セルロプラスミン、トロンボモジュリン、リポプロテインなどの血漿タンパク質;および甲状腺ホルモン、インスリンなどのホルモンが挙げられる。このようなタンパク質に由来する糖化タンパク質はいずれも本発明により検出される糖化タンパク質に含まれる。
【0021】
本発明では糖化タンパク質の検出のためにガレクチンを用いる。ほ乳類ではガレクチン−1からガレクチン−15までの15種類のガレクチンおよびそれらのアイソフォームが知られている(非特許文献1)。また、ほ乳類以外では、鳥類、両生類、魚類、線虫、海綿などでもガレクチンが見いだされている(非特許文献1)。従って、本明細書における「ガレクチン」は、ほ乳類、鳥類、両生類、魚類、線虫、海綿のすべてのガレクチンを含むものと理解されるべきである。すなわち、本発明では、糖化タンパク質の検出のために、ほ乳類、鳥類、両生類、魚類、線虫、海綿のガレクチンを用いることができ、好ましくは、ほ乳類のガレクチンを用いることができ、より好ましくは、ほ乳類のガレクチン−3を用いることができ、最も好ましくはヒトガレクチン−3を用いることができる。ヒトガレクチン−3は、配列番号2のアミノ酸配列に相当する。
【0022】
本発明では、糖化タンパク質の検出のためにガレクチンのCRDを用いてもよい。CRDは種を超えて保存された領域であり、当業者であれば容易にその領域を特定することができる(非特許文献1)。すなわち、本発明では、糖化タンパク質の検出のために、ほ乳類、鳥類、両生類、魚類、線虫、海綿のガレクチンのCRDを用いることができ、好ましくは、ほ乳類のガレクチンのCRDを用いることができ、より好ましくは、ほ乳類のガレクチン−3のCRDを用いることができ、最も好ましくは、ヒトガレクチン−3のCRDを用いることができる。ヒトガレクチン−3のCRDは、配列番号2の114番〜250番のアミノ酸領域に相当する。
【0023】
本明細書における「ガレクチン」は、その糖化タンパク質結合能が損なわれない限り、改変されたガレクチンを包含する。改変されたガレクチンとしては、特定の糖化タンパク質またはすべての糖化タンパク質に対して高い結合能を有するガレクチンや、結合する糖化タンパク質の選択性の異なるガレクチンなどが挙げられる。改変されたガレクチンの調製方法としては、例えば、試験管内分子進化の方法を用いて、糖化タンパク質への結合特性を高めたガレクチン、または結合特性を変更したガレクチンを作成し、得られたガレクチンを糖化タンパク質と結合させる方法が挙げられる。具体的には、DNA合成酵素などを用いて人為的にガレクチンをコードするDNAに変異を導入し、特定の1種以上の糖化タンパク質に対してより高い結合能を示すガレクチンをコードするDNAを取得することができる。望む結合能が十分に得られない場合には、さらなる試験管内分子進化により、結合特性を高めたガレクチンを取得することができる。試験管内分子進化により、特定の物質に対してより高い結合能を有するタンパク質またはそのタンパク質をコードするDNAを取得する手法は当業者をして周知である。また、結合特性の評価は後記実施例に記載された手順に従って行うことができる。
【0024】
同様に、本発明では、その糖化タンパク質結合能が損なわれない限り、改変されたガレクチンのCRDを用いることができる。
【0025】
改変されたガレクチン−3としては、1または複数個の改変を有する配列番号2のアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。このタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列と同等の機能を有するものとすることができ、例えば、糖化タンパク質結合能が損なわれていないものとすることができる。
【0026】
改変されたガレクチン−3のCRDとしては、1または複数個の改変を有する配列番号1の114番〜250番のアミノ酸領域からなるタンパク質が挙げられる。このタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列と同等の機能を有するものとすることができ、例えば、糖化タンパク質結合能が損なわれていないものとすることができる。
【0027】
改変されたアミノ酸配列が糖化タンパク質結合能を有しているかどうかは前述のような試験管内分子進化の方法を用いることができる。ここで、アミノ酸配列の「改変」とは置換、欠失、挿入および付加から選択され、「置換」はタンパク質の機能に実質的に影響を与えない「保存的置換」とすることができる。複数の改変が存在する場合にそれらは同一でも異なっていてもよい。また、改変の個数は好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、特に好ましくは1〜数個とすることができ、最も好ましくは、1、2、3または4個である。
【0028】
本願明細書において、「保存的置換」とは、タンパク質の機能を実質的に改変しないように、1または複数個のアミノ酸残基を、別の化学的に類似したアミノ酸残基で置換えることを意味する。例えば、ある疎水性残基を別の疎水性残基によって置換する場合、ある極性残基を同じ電荷を有する別の極性残基によって置換する場合などが挙げられる。このような置換を行うことができる機能的に類似のアミノ酸は、アミノ酸ごとに当業者に広く知られている。具体的には、非極性(疎水性)アミノ酸としては、アラニン、バリン、イソロイシン、ロイシン、プロリン、トリプトファン、フェニルアラニン、メチオニンなどが挙げられる。極性(中性)アミノ酸としては、グリシン、セリン、スレオニン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、システインなどが挙げられる。陽電荷をもつ塩基性アミノ酸としては、アルギニン、ヒスチジン、リジンなどが挙げられる。負電荷をもつ酸性アミノ酸としては、アスパラギン酸、グルタミン酸などが挙げられる。
【0029】
改変されたガレクチン−3としてはまた、配列番号2のアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。このタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列と同等の機能を有するものとすることができ、例えば、糖化タンパク質結合能が損なわれていないものとすることができる。
【0030】
改変されたガレクチン−3のCRDとしては、配列番号2の114番〜250番のアミノ酸領域と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。このタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列と同等の機能を有するものとすることができ、例えば、糖化タンパク質結合能が損なわれていないものとすることができる。
【0031】
ここで、アミノ酸配列の同一性の数値はいずれも、当業者に公知の相同性検索プログラムを用いて算出される数値であればよく、例えば、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)(初期設定)のパラメーターなどを用いることにより算出することができる。
【0032】
改変されたガレクチン−3としてはさらに、配列番号2のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドの相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。このタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列と同等の機能を有するものとすることができ、例えば、糖化タンパク質結合能が損なわれていないものとすることができる。配列番号2のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチドとしては、例えば、配列番号1のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドが挙げられる。
【0033】
改変されたガレクチン−3のCRDとしては、配列番号2の114番〜250番のアミノ酸領域をコードするポリヌクレオチドの相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質が挙げられる。このタンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列と同等の機能を有するものとすることができ、例えば、糖化タンパク質結合能が損なわれていないものとすることができる。
【0034】
本願明細書において「ストリンジェントな条件でハイブリダイズする」とは、ハイブリダイゼーション後のメンブレンの洗浄操作を、高温下低塩濃度溶液中で行うことを意味する。ここで、「ストリンジェントな条件」とは、当業者が通常使用し得るハイブリダイゼーション緩衝液中で、温度が40℃〜70℃などで反応を行い、塩濃度が15〜300mmol/Lなどの洗浄液中で洗浄する条件であり、当業者であれば標的配列と90%以上の同一性を有するポリヌクレオチドがハイブリダイズし、同一性が90%未満のポリヌクレオチドがハイブリダイズしない条件を適宜設定することができる。ストリンジェントな条件は、例えば、0.5×SSC濃度(1×SSC:15mMクエン酸3ナトリウム、150mM塩化ナトリウム)、60℃、15分間の洗浄条件である。ハイブリダイゼーションは、公知の方法に従って行うことができる。
【0035】
本発明では糖化タンパク質の検出のために、ガレクチンおよびガレクチンのCRDから選択される2種以上のガレクチンを組み合わせて用いることができる。また、使用されるガレクチンは例えば生体内でガレクチンと複合体を形成する他のタンパク質(例えば、OST48および/または80K−H)の存在下で用いても、ガレクチン単独で用いてもよい。
【0036】
本発明で使用するガレクチンやガレクチンのCRDは、種々の公知の方法、例えば、遺伝子工学的手法、合成法などによって調製することができる。具体的には、遺伝子工学的手法の場合、ガレクチンまたはそのCRDをコードするポリヌクレオチドを適当な宿主細胞に導入し、得られた形質転換体を発現可能な条件下で培養し、発現タンパク質の分離および精製に一般的に用いられる方法により、その培養物から所望のポリペプチドを分離および精製することによって調製することができる。また、合成法の場合は、液相法、固相法など常法に従い合成することが可能であり、通常、自動合成機を利用することができる。化学修飾物の合成は常法により行なうことができる。
【0037】
ガレクチンまたはそのCRDをコードするポリヌクレオチドは天然由来のものであっても、全合成したものであってもよく、これ以外に、天然由来のものの一部を利用して合成を行なったものであってもよい。本発明のガレクチンやそのCRDをコードするポリヌクレオチドの典型的な取得方法としては、例えば、市販のライブラリーやcDNAライブラリーから、遺伝子工学の分野で慣用されている方法、例えば、ガレクチンやそのCRDの部分アミノ酸配列の情報を基にして作成した適当なDNAプローブを用いてスクリーニングを行なう方法などを挙げることができる。
【0038】
本発明の糖化タンパク質の検出では、タンパク質間の相互作用を検出できる方法であればいずれの方法を用いてもよい。例えば、バイオセンサーによる方法、免疫沈降による方法、カラムによる方法、タンパク質の共局在に基づいて判定する方法、電気化学的方法、蛍光標識による方法などのタンパク質間の相互作用を検出する方法は当業者に周知であり、いずれの方法を用いることができる。タンパク質の有無だけでなく、その結合量などを迅速かつ簡便にモニターできる点および無標識でタンパク質間の相互作用を検出できる点では、バイオセンサーによる方法が好ましい。
【0039】
本発明における糖化タンパク質の検出に用いることのできるバイオセンサーとしては、以下に限定されないが、例えば、表面プラズモン共鳴法(以下、単に「SPR」ということがある)、水晶振動子マイクロバランス測定法(以下、単に「QCM」ということがある)、反射干渉分光法、プロテインチップ法または半導体接触型バイオセンサー法などが挙げられる。
【0040】
表面プラズモン共鳴では、センサーチップ上に固定化されたガレクチンと糖化タンパク質とを結合させると、光を照射した際に生じる共鳴角に変化がもたらされ、共鳴角の変化により糖化タンパク質の検出が可能である。水晶振動子マイクロバランス測定法では、センサーチップ上に固定化されたガレクチンと糖化タンパク質とを結合させると、水晶振動子の共振周波数に変化(低下)がもたらされ、共振周波数の変化により糖化タンパク質の検出が可能である。反射干渉分光法では、センサーチップ上に固定化されたガレクチンと糖化タンパク質とを結合させると、センサーチップの上面に物理的な厚みの変化および光の屈折率の変化がもたらされ、ここに光を照射することにより反射する干渉スペクトルの変化をモニターすることにより、結合糖化タンパク質の検出が可能である。また、プロテインチップ法では、センサーチップ上に固定化されたガレクチンと標識された糖化タンパク質とが結合することにより、標識された糖化タンパク質がガレクチンを介してセンサーチップ上に留まるため、標識をモニターすることで結合糖化タンパク質の検出が可能である。さらに半導体接触型バイオセンサーは、センサーチップ上に固定化されたガレクチンと糖化タンパク質とを結合させると、電界効果トランジスタのゲートと接続されたセンサーチップ面に糖化タンパク質の吸着することによりセンサーチップ面の表面電位が変化し、これに応じて変化するソースとドレインの電流値変化をモニターすることにより、結合糖化タンパク質の検出が可能である。
【0041】
上記以外にも現在様々な原理に基づくバイオセンサーが開発されているが、物質間相互作用を検出できる原理を用いるいずれのバイオセンサーも本発明における糖化タンパク質の検出に用いることができる。本明細書において「バイオセンサー」とは、生体の分子認識機構を利用して生体分子を検出する化学センサーをいう。
【0042】
ガレクチンによる糖化タンパク質の検出を、表面プラズモン共鳴を用いて行う場合には、ガレクチンを通常の方法でSPRのセンサーチップ上に固定化し、洗浄した後に、試料と接触させ、光を照射した際に生じる共鳴角の変化を検出することにより行う。共鳴角の0.1°の変化を1,000共鳴単位(RU)とした場合、1,000ユニットはタンパク質の約1ng/mmの質量変化に相当することが確認されており、共鳴角の変化から結合したタンパク質量を見積もることができる。SPRによれば、結合の過程および解離の過程をモニターすることができるため、結合する糖化タンパク質の有無だけでなく、結合速度定数(Kon)、解離速度定数(Koff)および平衡定数(K)を知ることもできる。
【0043】
ガレクチンによる糖化タンパク質の検出を、水晶振動子マイクロバランス測定法を用いて行う場合には、ガレクチンを通常の方法でQCMセンサーチップ上に固定化し、洗浄した後に、試料と接触させ、その際に生じる水晶振動子の共振周波数の変化(低下)を検出することにより行う。QCMはポータブル化が進んでおり、ベッドサイドでの検査などが可能である点で有利である。
【0044】
他のバイオセンサーを用いるいずれの方法も、センサーチップ上に固定化したガレクチンと、測定対象中の糖化タンパク質の結合量を精度高く検出することが可能であり、本発明の検出方法に用いることができる。タンパク質の検出方法として一般に広く用いられ、検出手法が確立している点で、SPRおよびQCMが好ましい。
【0045】
タンパク質間相互作用を測定できる電気化学的方法では、例えば、微小電極の先端部にガレクチン−3を結合させ、その後、電圧をかけてから試料と接触させて糖化タンパク質がガレクチン−3と結合すると生ずる電位変化をモニターすることにより、糖化タンパク質の検出が可能である。
【0046】
後記のように糖化タンパク質は様々な疾患の指標となりうることから、本発明の検出方法はヒトを含むほ乳類から単離された試料について実施することができる。このような生体から単離された試料としては、例えば、血液、涙、汗、唾液、尿等が挙げられる。
【0047】
これまでに血糖値の上昇とタンパク質の糖化の進行の関連が明らかにされており、血液中の糖化タンパク質の量を測定することで血糖値を推定することが可能である(Bleyer JM., R. I. Med. J., 1979, 62 (4):131-133)。従って、本発明の検出方法は血糖値の測定や糖尿病の診断に用いることができる。
【0048】
血液中のタンパク質の糖化は長期間をかけて徐々に引き起こされるものであり、直前の短期的な血糖値変化に左右されにくい。一方で、上記のように、ガレクチンを用いることにより糖化タンパク質を検出することができる。従って、本発明によれば、直前の血糖値の変化に左右され難い信頼性の高い血糖値の測定方法が提供されうる。後記実施例に示されるように、ガレクチンは複数の糖化タンパク質を認識することから、本発明の検出方法は特定の糖化タンパク質の測定よりも信頼性の高い血糖値の測定方法である。この方法は、例えば、貧血などで糖化ヘモグロビン(HbA1c)などが測定できないとき、過去2〜4週間の平均的な血糖状態を調べるときに有用である。
【0049】
上記に加えて、AGE−LDL(糖化LDL)やAGEによるコラーゲン分子間の非生理的架橋はアテローム硬化の原因となりうることが知られている(Fu MX, et. al., J. Biol. Chem., 1996, 271: 9982-9986)。また、糖化アミロイドβ(糖化Aβ)はアルツハイマー病の原因となりうることが知られている(Yan SD., et. al., Nature, 1996, 382: 685-691; Takeuchi M., J. Neuropathol. Exp. Neurol., 2000, 59: 1094-1105)。従って、本発明の検出方法はアテローム硬化症やアルツハイマー病の診断やこれらの病気への罹りやすさの判定に用いることができる。
【0050】
本発明の糖化タンパク質の検出方法ではバイオセンサーを用いることができることから、本発明の別の面によれば、ガレクチンが固定化されたバイオセンサーチップが提供される。本発明のバイオセンサーチップ上の固体支持体には、ガレクチンの代わりにガレクチンのCRDを固定化してもよく、ガレクチン若しくはそのCRDまたはそれらの2種以上の混合物を固定化してもよい。本発明のバイオセンサーチップに固定化されるガレクチンや検出対象の糖化タンパク質は本発明の検出方法で説明したものを用いることができる。また、本発明のバイオセンサーチップは本発明の検出方法と同様に実施することができる。
【0051】
バイオセンサーチップは、物質間相互作用の検出が可能なバイオセンサーチップであれば特に限定されるものではないが、例えば、表面プラズモン共鳴法、水晶振動子マイクロバランス測定法、反射干渉分光法、プロテインチップ法または半導体接触型バイオセンサー法用のバイオセンサーチップを用いることができる。好ましくは表面プラズモン共鳴法のバイオセンサーチップまたは水晶振動子マイクロバランス測定法のバイオセンサーチップを用いることができる。
【0052】
本発明の別の態様によれば、ガレクチン若しくはガレクチンのCRDまたはこれらの混合物を結合させたアフィニティーカラムと、それを用いて、糖化タンパク質を精製する方法が提供される。例えば、ガレクチン−3を結合させたカラムにより、糖化タンパク質のうち、グルコース由来の前期反応生成物およびAGE、CELが付加したタンパク質、メチルグリオキサール由来のAGEおよびグリセルアルデヒド由来のAGEを精製することができ、ガレクチン−3のCRDを用いることで、グルコース由来の前期反応生成物およびAGE、CELが付加したタンパク質、メチルグリオキサール由来のAGEおよびグリセルアルデヒド由来のAGEに加えて、さらにCMLが付加したタンパク質を精製することができる。また、ガレクチン−3とガレクチン−3のCRDの結合能の差異を利用することで、CMLが付加したタンパク質を精製することができる。糖化タンパク質は生活習慣病などの疾患に関連していることから、本発明のアフィニティーカラムや本発明の精製方法は、糖化タンパク質の生体内メカニズムを解明するための機材や手法として用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、下記の実施例により本発明が限定されるものではない。
【0054】
実施例1:ガレクチンによる糖化タンパク質の検出
(1)ガレクチン−3およびガレクチン−3のCRDの調製
ガレクチン−3発現プラスミドで形質転換した大腸菌Escherichia coli BL−21(DE3)株を、10%(重量/体積)のグルコースおよび100μg/mLのアンピシリンを添加した1Lの2×YT培地を用いて、37℃で培養し、O.D.600を0.7とした。この培養液に最終濃度が0.1mMとなるようにイソプロピル−β−D−1−チオガラクトピラノシド(IPTG)を加え、融合タンパク質の発現を誘導し、さらに37℃にて2時間培養した。遠心分離により培地を取り除き、大腸菌のペレットを100mLの細胞破砕溶液(10mM Tris−HCl(pH7.5)、0.5M NaCl、5mM β−メルカプトエタノール、1mM EDTA、1mMフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF))で懸濁し、氷上で4分間の超音波処理を行った。次いで、最終濃度1%(重量/体積)となるようにTriton X−100を添加し、4℃で30分間攪拌した。遠心分離の後に、上澄み液をラクトース−アガロースアフィニティークロマトグラフィー(生化学工業社、東京、日本)(Matsushita et. al. 2000; Nishi et. al., 2003)により、更に精製した。なお、ガレクチン−3発現プラスミドは、ガレクチン−3をコードするヒトJurkat細胞由来のポリヌクレオチド(配列番号1)またはガレクチンのCRDをコードするポリヌクレオチド(配列番号1の340番〜750番のヌクレオチド配列)を含有するpET11−aベクタ−から構成されている。
【0055】
(2)実施例で用いたAGE
本実施例においては、AGEとして、サイクレックス社(長野、日本)から購入したNε−(カルボキシメチル)リジン−HSA(CML−HSA)(カタログ番号:CY−R2066)、Nε−(カルボキシエチル)リジン−HSA(CEL−HSA)(カタログ番号:CY−R2067)、グリオキサール−AGE−BSA(カタログ番号:CY−R2064)、グリコールアルデヒド−AGE−BSA(カタログ番号:CY−R2060)、グリセルアルデヒド−AGE−BSA(カタログ番号:CY−R2058)、メチルグリオキサール−AGE−BSA(カタログ番号:CY−R2062)、グルコース−AGE−BSA(カタログ番号:CY−R2056)を用いた。
【0056】
(3)ガレクチン−3固定化センサーチップおよびガレクチン−3のCRD固定化センサーチップの調製
上記(1)で調製したガレクチン−3(配列番号2)またはガレクチン−3のCRD(配列番号2のアミノ酸配列の114番〜250番)を、製造会社の取扱説明書に従い、アミノカップリング反応により、Birecore3000(ビアコア社、ピスカタウェイ、NJ)用のセンサーチップCM5(研究グレード)上に固定化した。固定化するタンパク質量は5000共鳴単位(RU)とした。流速を10μL/分とし、30℃にて、10mM酢酸ナトリウム(pH5.0)中で、N−ヒドロキシ−スクシニミド/1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミドカップリング反応により固定化した。
【0057】
(4)ガレクチン−3およびガレクチン−3のCRDとAGEの相互作用の分析条件
ガレクチン−3およびガレクチン−3のCRDとAGEとの結合特性は、表面プラズモン共鳴(SPR)現象に基づく相互作用解析装置Birecore3000を用いて分析した。SPR分析は30℃、流速10μL/分にて行った。すべての試料は20μLずつ分析に供し、ガレクチン−3固定化CM5センサーチップまたはおよびガレクチン−3のCRD固定化CM5センサーチップ上で120秒間接触させて、ガレクチン−3またはガレクチン−3のCRDとAGEとの結合をモニターした。その後、センサーチップをランニング緩衝液(10mM Hepes(pH7.4)、3mM EDTA、150mM NaClおよび0.005%界面活性剤P20)中に溶解した70μLの20mM乳酸溶液で120秒間処理し、センサーチップからのAGEの解離をモニターした。溶出処理後の残留AGE量を%RUとして計測した。また、結合速度定数(Kon)および解離速度定数(Koff)は、BIAevaluation4.1ソフトウェアパッケージ(GEヘルスケア、ピスカタウェイ、NJ)を用いて決定した。平衡定数(K)はKoffをKonで除して求めた。
【0058】
(5)ガレクチン−3とAGEとの結合の評価
ガレクチン−3と各AGEとの結合のセンサーグラムは図2に示される。ガレクチン−3は、グルコース−AGE−BSA(AGE−1、図2−A)、CEL−HSA(図2−B)、グリセルアルデヒド−AGE−BSA(AGE−2、図2−C)、メチルグリオキサール−AGE−BSA(AGE−4、図2−D)のいずれとも結合能を有することが分かった。それぞれの結合速度定数(Kon)および解離速度定数(Koff)を図4に示す。また、ガレクチン−3と様々なAGEとの結合能を調べたところ、ガレクチン−3は、グルコース−AGE−BSA、CEL−HSA、メチルグリオキサール−AGE−BSA、グリセルアルデヒド−AGE−BSAとは結合したが、グリオキサール−AGE−BSA、CML−HSA、グリコールアルデヒド−AGE−BSAとは結合しなかった(表1)。このように、ガレクチン−3は特定のAGEとの結合特異性を有することが示唆された。
【表1】

【0059】
表1は、SPRにより得られたガレクチン−3またはガレクチン−3のCRDと各AGEとの平衡定数(K)を示す。ガレクチン−3とAGEとの親和性を評価するために、陽性対象としてガレクチン−3と結合することが知られるアシアロフェチュインを用いた。平衡定数(K)は値が小さいほど結合が強固であることを意味する。
【0060】
(6)ガレクチン−3のCRDとAGEとの結合の評価
ガレクチン−3のCRDと各AGEとの結合のセンサーグラムを図2に示す。ガレクチン−3のCRDは、グルコース−AGE−BSA(AGE−1、図2−A)、CEL−HSA(図2−B)、グリセルアルデヒド−AGE−BSA(AGE−2、図2−C)、メチルグリオキサール−AGE−BSA(AGE−4、図2−D)のいずれとも結合能を有することが分かった。それぞれの結合速度定数(Kon)および解離速度定数(Koff)を図5に示す。
【0061】
また、ガレクチン−3のCRDと様々なAGEとの結合能を調べたところ、ガレクチン−3のCRDは、グルコース−AGE−BSA、CML−HSA、CEL−HSA、メチルグリオキサール−AGE−BSA、グリセルアルデヒド−AGE−BSAとは結合能を示したが、グリオキサール−AGE−BSA、グリコールアルデヒド−AGE−BSAとは結合能を示さなかった(表1)。このように、ガレクチン−3はCRDのみであっても、各AGEへの結合能と、各AGEに対する結合特異性を保持した。しかしながら、CML−HSAに対する結合能は、全長ガレクチン−3とガレクチン−3のCRDとで差が見られた(表1)。
【0062】
(7)ガレクチン−3の結合特性の評価
ガレクチン−3が認識するAGEの部位を特定するために、ガレクチン−3とグリセルアルデヒドとの結合特性をSPRにより分析した。ガレクチン−3はグリセルアルデヒド−AGE−BSA(AGE−2)とは結合する(図6−B、d)のに対して、グリセルアルデヒドそのものとは結合しない(図6−B、c)ことが分かった。ガレクチン−3はBSAそのものとも結合能を有さない(データ未掲載)。このことは、ガレクチン−3とAGEとの結合には、タンパク質部分と付加部分の両方が必要であること、すなわち、ガレクチン−3は糖化タンパク質のみを広く認識することができることを示唆する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガレクチンまたはその炭化水素認識領域(CRD)への糖化タンパク質の結合量を測定することを含んでなる、糖化タンパク質の検出方法。
【請求項2】
ガレクチンがガレクチン−3である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
糖化タンパク質が、糖化反応の前期反応生成物、カルボキシメチルリジン若しくはカルボキシエチルリジンが付加した糖化反応の後期反応生成物、またはグルコース、メチルグリオキサール若しくはグリセルアルデヒド由来の糖化反応の後期反応生成物である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ガレクチンまたはそのCRDへの糖化タンパク質の結合量を表面プラズモン共鳴法、水晶振動子マイクロバランス測定法、反射干渉分光法、プロテインチップ法若しくは半導体接触型バイオセンサー法または電気化学的方法により測定する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
血糖値、糖化LDLまたは糖化Aβの測定方法である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
ガレクチンまたはその炭化水素認識領域(CRD)が固定化された固体支持体からなる、バイオセンサーチップ。
【請求項7】
ガレクチンがガレクチン−3である、請求項6に記載のバイオセンサーチップ。
【請求項8】
糖化タンパク質の検出に使用するための、請求項6または7に記載のバイオセンサー。
【請求項9】
糖化タンパク質が、糖化反応の前期反応生成物、カルボキシメチルリジン若しくはカルボキシエチルリジンが付加した糖化反応の後期反応生成物、またはグルコース、メチルグリオキサール若しくはグリセルアルデヒド由来の糖化反応の後期反応生成物である、請求項8に記載のバイオセンサーチップ。
【請求項10】
血糖値の測定に使用するための、請求項6〜9のいずれか一項に記載のバイオセンサーチップ。
【請求項11】
担体にガレクチンまたはその炭化水素認識領域(CRD)を結合させてなる、アフィニティーカラム。
【請求項12】
請求項11に記載のアフィニティーカラムを用いて、糖化タンパク質を精製する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−225762(P2012−225762A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−93403(P2011−93403)
【出願日】平成23年4月19日(2011.4.19)
【出願人】(501061319)学校法人 東洋大学 (68)
【Fターム(参考)】