説明

糖尿病、肥満症若しくは動脈硬化症の治療又は予防剤

【課題】糖尿病治療薬の提供
【解決手段】式(1):


で表される化合物又はその製薬上許容される塩。を有効成分として含有する医薬は、糖尿病(特にインスリン非依存性糖尿病)、肥満症(特に内臓脂肪型肥満症)又は動脈硬化症の予防又は治療剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病、肥満症若しくは動脈硬化症の予防又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、血糖値のコントロールが困難になる病気で、末梢神経障害などを併発する代表的な成人病の一つである。糖尿病には、インスリン依存型糖尿病(以下、1型糖尿病ともいう。)とインスリン非依存型糖尿病(以下、2型糖尿病ともいう。)とが存在し、2型糖尿病は日本人の糖尿病の大部分を占める病型である。2型糖尿病は1型糖尿病に比べ生活習慣や加齢の関与が大きく、中年以降の比較的高齢の肥満者に発症しやすいタイプである。
【0003】
肥満は、脂肪組織が全身的に増加した状態をいい、長期間にわたり摂取するエネルギー量が消費するエネルギー量よりも多いときに起きる。肥満は、内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満とに分類できる。内臓脂肪型肥満は、大網、腸間膜周囲に存在する腹腔内脂肪の蓄積量が増加する肥満で、糖尿病(特に、インスリン抵抗性を伴う2型糖尿病)、動脈硬化症、肝臓病、心臓病等を引き起こす元凶の一つとされ、現代社会において大きな問題となっている。
【0004】
動脈硬化は、一般に動脈壁が限局的に肥厚増殖し、ここに脂質、カルシウム塩の沈着が生じ、血管壁の弾性繊維が破壊され、血管の弾力性消失した状態をいい、生活習慣病の一病態として分類されている。動脈硬化の危険因子は、血清コレステロールや血栓に限らず、肥満、糖尿病を含め多岐に亘っている。
【0005】
上記のように、動脈硬化、肥満及び糖尿病は相互に深い関係があるが、従来これらの疾患に対する治療・予防は食事療法と運動療法に加え各種の薬剤が用いられている。
【0006】
一方、特許文献1には、式
【化1】

で示される化合物が開示されており、該化合物がMTP阻害作用、アポB分泌抑制作用、トリグリセライド低下作用などを有し、高脂血症治療薬として有用であることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2003/072532号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、優れた抗糖尿病作用、抗肥満作用及び抗動脈硬化作用を有する、糖尿病(特に2型糖尿病)、肥満症(特に内臓脂肪型肥満症)若しくは動脈硬化症の予防又は治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、上記特許文献1に記載のエステル構造を有する極めて広範囲の化合物のうち、意外にも式(1):
【化2】

で表される化合物が、極めて優れた抗糖尿病作用(特に抗2型糖尿病作用)、抗肥満作用(特に抗内臓脂肪型肥満作用)及び抗動脈硬化作用を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1]式(1):
【化3】

で表される化合物又はその製薬上許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする糖尿病の予防又は治療剤、
[2]糖尿病がインスリン非依存性糖尿病であることを特徴とする前記[1]に記載の予防又は治療剤、
[3]インスリン非依存性糖尿病が、肥満症又は/及び動脈硬化症を伴うことを特徴とする前記[2]に記載の予防又は治療剤、
[4]肥満症又は/及び動脈硬化症を抑制することを特徴とする前記[3]に記載の予防又は治療剤、
[5]肥満症が内臓脂肪型肥満症であることを特徴とする前記[3]又は[4]に記載の予防又は治療剤、
[6]インスリン非依存性糖尿病がインスリン抵抗性であることを特徴とする前記[2]〜[5]のいずれかに記載の予防又は治療剤、
[7]肝臓の機能障害を誘発しないことを特徴とする前記[1]〜[6]のいずれか1つに記載の予防又は治療剤、
[8]式(1)で表される化合物又はその製薬上許容される塩の1回当たりの投与量が0.5〜30mgであり、1日当たりの投与量が0.5〜30mgであることを特徴とする前記[1]〜[7]のいずれか1つに記載の予防又は治療剤、
【0011】
[9]式(1):
【化4】

で表される化合物又はその製薬上許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする肥満症の予防又は治療剤、
[10]肥満症が内臓脂肪型肥満症であることを特徴とする前記[9]に記載の予防又は治療剤、
[11]内臓脂肪型肥満症が、インスリン非依存性糖尿病又は/及び動脈硬化症を伴うことを特徴とする前記[10]に記載の予防又は治療剤、
[12]インスリン非依存性糖尿病又は/及び動脈硬化症を抑制することを特徴とする前記[11]に記載の予防又は治療剤、
[13]インスリン非依存性糖尿病がインスリン抵抗性であることを特徴とする前記[11]または[12]に記載の予防又は治療剤、
[14]肝臓の機能障害を誘発しないことを特徴とする前記[9]〜[13]のいずれか1つに記載の予防又は治療剤、
[15]式(1)で表される化合物又はその製薬上許容される塩の1回当たりの投与量が0.5〜30mgであり、1日当たりの投与量が0.5〜30mgであることを特徴とする前記[9]〜[14]のいずれか1つに記載の予防又は治療剤、
【0012】
[16]式(1):
【化5】

で表される化合物又はその製薬上許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする動脈硬化症の予防又は治療剤、
[17]動脈硬化症が、インスリン非依存性糖尿病又は/及び内臓型肥満症を伴うことを特徴とする前記[16]に記載の予防又は治療剤、
[18]インスリン非依存性糖尿病又は/及び内臓型肥満症を抑制することを特徴とする前記[17]に記載の予防又は治療剤、
[19]インスリン非依存性糖尿病がインスリン抵抗性であることを特徴とする前記[17]または[18]に記載の予防又は治療剤、
[20]肝臓の機能障害を誘発しないことを特徴とする前記[16]〜[19]のいずれか1つに記載の予防又は治療剤、および
[21]式(1)で表される化合物又はその製薬上許容される塩の1回当たりの投与量が0.5〜30mgであり、1日当たりの投与量が0.5〜30mgであることを特徴とする前記[16]〜[20]のいずれか1つに記載の予防又は治療剤、
に関する。
【0013】
また、本発明は、
[22]糖尿病を予防又は治療する医薬を製造するための、式(1):
【化6】

で表される化合物又はその製薬上許容される塩の使用、
[23]糖尿病がインスリン非依存性糖尿病であることを特徴とする前記[22]に記載の使用、
[24]インスリン非依存性糖尿病が、肥満症又は/及び動脈硬化症を伴うことを特徴とする前記[23]に記載の使用、
[25]肥満症又は/及び動脈硬化症を抑制することを特徴とする前記[24]に記載の使用、
[26]肥満症が内臓脂肪型肥満症であることを特徴とする前記[24]又は[25]に記載の使用、
[27]インスリン非依存性糖尿病がインスリン抵抗性であることを特徴とする前記[23]〜[26]のいずれかに記載の使用、
[28]肝臓の機能障害を誘発しないことを特徴とする前記[22]〜[27]のいずれか1つに記載の使用、
[29]式(1)で表される化合物又はその製薬上許容される塩の1回当たりの投与量が0.5〜30mgであり、1日当たりの投与量が0.5〜30mgであることを特徴とする前記[22]〜[28]のいずれか1つに記載の使用、
【0014】
[30]肥満症を予防又は治療するための医薬を製造するための、式(1):
【化7】

で表される化合物又はその製薬上許容される塩の使用、
[31]肥満症が内臓脂肪型肥満症であることを特徴とする前記[30]に記載の使用、
[32]内臓脂肪型肥満症が、インスリン非依存性糖尿病又は/及び動脈硬化症を伴うことを特徴とする前記[31]に記載の使用、
[33]インスリン非依存性糖尿病又は/及び動脈硬化症を抑制することを特徴とする前記[32]に記載の使用、
[34]インスリン非依存性糖尿病がインスリン抵抗性であることを特徴とする前記[32]または[33]のいずれかに記載の使用、
[35]肝臓の機能障害を誘発しないことを特徴とする前記[30]〜[34]のいずれか1つに記載の使用、
[36]式(1)で表される化合物又はその製薬上許容される塩の1回当たりの投与量が0.5〜30mgであり、1日当たりの投与量が0.5〜30mgであることを特徴とする前記[30]〜[35]のいずれか1つに記載の使用、
【0015】
[37]動脈硬化症を予防又は治療するための医薬を製造するための、式(1):
【化8】

で表される化合物又はその製薬上許容される塩の使用、
[38]動脈硬化症が、インスリン非依存性糖尿病又は/及び内臓型肥満症を伴うことを特徴とする前記[37]に記載の使用、
[39]インスリン非依存性糖尿病又は/及び動脈硬化症を抑制することを特徴とする前記[38]に記載の使用、
[40]インスリン非依存性糖尿病がインスリン抵抗性であることを特徴とする前記[38]または[39]のいずれかに記載の使用、
[41]肝臓の機能障害を誘発しないことを特徴とする前記[37]〜[40]のいずれか1つに記載の使用、および
[42]式(1)で表される化合物又はその製薬上許容される塩の1回当たりの投与量が0.5〜30mgであり、1日当たりの投与量が0.5〜30mgであることを特徴とする前記[37]〜[41]のいずれか1つに記載の使用、
に関する。
【0016】
また、本発明は、
[43]式(1):
【化9】

で表される化合物又はその製薬上許容される塩を哺乳動物に投与することを特徴とする糖尿病の予防又は治療方法、
[44]糖尿病がインスリン非依存性糖尿病であることを特徴とする前記[43]に記載の予防又は治療方法、
[45]インスリン非依存性糖尿病が、肥満症又は/及び動脈硬化症を伴うことを特徴とする前記[44]に記載の予防又は治療方法、
[46]肥満症又は/及び動脈硬化症を抑制することを特徴とする前記[45]に記載の予防又は治療方法、
[47]肥満症が内臓脂肪型肥満症であることを特徴とする前記[45]又は[46]に記載の予防又は治療方法、
[48]インスリン非依存性糖尿病がインスリン抵抗性であることを特徴とする前記[44]〜[47]のいずれか1つに記載の予防又は治療方法、
[49]肝臓の機能障害を誘発しないことを特徴とする前記[43]〜[48]のいずれか1つに記載の予防又は治療方法、
[50]式(1)で表される化合物又はその製薬上許容される塩の1回当たりの投与量が0.5〜30mgであり、1日当たりの投与量が0.5〜30mgであることを特徴とする前記[43]〜[49]のいずれか1つに記載の予防又は治療方法、
【0017】
[51]式(1):
【化10】

で表される化合物又はその製薬上許容される塩を哺乳動物に投与することを特徴とする肥満症の予防又は治療方法、
[52]肥満症が内臓脂肪型肥満症であることを特徴とする前記[51]に記載の予防又は治療方法、
[53]内臓脂肪型肥満症が、インスリン非依存性糖尿病又は/及び動脈硬化症を伴うことを特徴とする前記[52]に記載の予防又は治療方法、
[54]インスリン非依存性糖尿病又は/及び動脈硬化症を抑制することを特徴とする前記[53]に記載の予防又は治療方法、
[55]インスリン非依存性糖尿病がインスリン抵抗性であることを特徴とする前記[53]又は[54]のいずれか1つに記載の予防又は治療方法、
[56]肝臓の機能障害を誘発しないことを特徴とする前記[51]〜[55]のいずれか1つに記載の予防又は治療方法、
[57]式(1)で表される化合物又はその製薬上許容される塩の1回当たりの投与量が0.5〜30mgであり、1日当たりの投与量が0.5〜30mgであることを特徴とする前記[51]〜[56]のいずれか1つに記載の予防又は治療方法、
【0018】
[58]式(1):
【化11】

で表される化合物又はその製薬上許容される塩を哺乳動物に投与することを特徴とする動脈硬化症の予防又は治療方法、
[59]動脈硬化症が、インスリン非依存性糖尿病又は/及び内臓型肥満症を伴うことを特徴とする前記[58]に記載の予防又は治療方法、
[60]インスリン非依存性糖尿病又は/及び内臓型肥満症を抑制することを特徴とする前記[59]に記載の予防又は治療方法、
[61]インスリン非依存性糖尿病がインスリン抵抗性であることを特徴とする前記[59]又は[60]のいずれか1つに記載の予防又は治療方法、
[62]肝臓の機能障害を誘発しないことを特徴とする前記[58]〜[61]のいずれか1つに記載の予防又は治療方法、および
[63]式(1)で表される化合物又はその製薬上許容される塩の1回当たりの投与量が0.5〜30mgであり、1日当たりの投与量が0.5〜30mgであることを特徴とする前記[58]〜[62]のいずれか1つに記載の予防又は治療方法、
に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の有効成分である式(1)で表される化合物は、極めて優れた抗糖尿病作用を有し、特に2型糖尿病、とりわけインスリン抵抗性である2型糖尿病に対して特に優れた抗糖尿病作用を有する。また、本発明の有効成分である式(1)で表される化合物は、極めて優れた抗肥満作用を有し、特に内臓脂肪型肥満症に対して特に優れた抗肥満作用を有する。さらに本発明の有効成分である式(1)で表される化合物は、極めて優れた抗動脈硬化作用を有する。特に、本発明の有効成分である式(1)で表される化合物は、糖尿病(特に2型糖尿病、とりわけインスリン抵抗性である2型糖尿病)、肥満症(特に内臓脂肪型肥満症)及び/又は動脈硬化症を同時に予防又は治療する作用を有する。また、本発明の有効成分である式(1)で表される化合物は、特に肝臓の機能障害等の副作用を誘発しないので、安全に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の有効成分である式(1)で表される化合物の化合物名は、2−(2−{3−ジメチルカルバモイル−4−[(4’−トリフルオロメチル−ビフェニル−2−カルボニル)−アミノ]−フェニル}−アセトキシメチル)−2−フェニル−マロン酸 ジエチル エステル(以下、化合物(1)と略記する。)である。
【0021】
「製薬上許容される塩」とは、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩又は硝酸塩等の各種無機酸付加塩;酢酸塩、プロピオン酸塩、コハク酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩、リンゴ酸塩、シュウ酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、メタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩又はアスコルビン酸塩等の各種有機酸付加塩;アスパラギン酸塩、又はグルタミン酸塩等の各種アミノ酸との塩が含まれるが、これらに限定されるものではない。本発明の有効成分である化合物(1)の薬理的に許容し得る塩は、化合物(1)の分子内塩、付加物や、それらの錯体、含水物、溶媒和物或いは水和物等をいずれも含む。また、場合によっては、その代謝物についても包含されるものである。
【0022】
なお、本発明の有効成分である化合物(1)は、特許文献1の実施例2−5に記載された既知化合物であり、同特許文献に記載の方法に従って製造できる。
【0023】
本発明の有効成分である化合物(1)は、全身的或いは局所的に、経口若しくは非経口で投与される。投与量は、投与ルート、患者の年齢、体重、症状、治療効果等により異なるが、通常成人一人当たり、1回に0.1mg乃至1gの範囲、好ましくは0.5乃至30mgの範囲で、1日1回乃至数回、好ましくは1日1回が投与される。また、本発明の有効成分である化合物(1)は、ヒトはもちろんのこと、ヒト以外の動物、特に哺乳類の前記疾患の治療又は予防にも用いることができる。
【0024】
また、本発明の有効成分である化合物(1)は、化合物(1)以外に所望により医薬的に許容される担体及びその他の添加剤とともに、医薬として前記疾患の予防又は治療剤とすることができる。該予防又は治療剤の剤型としては、例えば、錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、坐剤、注射剤、点眼剤、液剤、カプセル剤、トローチ剤、エアゾール剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等が挙げられる。
【0025】
本発明の予防又は治療剤が、例えば錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤等の固形製剤である場合、添加剤としては、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微晶性セルロース、澱粉、ポリビニルピロリドン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム又は無水ケイ酸末等が挙げられる。錠剤又は丸剤に調製する場合は、必要により白糖、ゼラチン、ヒドロキシプロピルセルロース又はヒドロキシメチルセルロースフタレート等の胃溶性或いは腸溶性物質のフィルムで皮膜してもよいし、二以上の層からなる多層錠であってもよい。
【0026】
本発明の予防又は治療剤を顆粒又は錠剤等の固形製剤として製造する場合の製造方法は、下記のとおりである。
1.造粒工程
(1)有効成分としての適量の化合物(1)を、アセトン、無水エタノール等の適当な有機溶媒またはこれらの混合溶媒に溶解させる。該有機溶媒は、次工程で添加される高分子物質を溶解するのに十分な量とする。しかし、不要に多くの溶媒を使用した場合、後々の操作が煩雑になるばかりか、製剤にも悪影響を及ぼすので、溶媒の使用量は、高分子物質の1重量倍量から2重量倍量が適切である。攪拌溶解は、例えばプロペラミキサーを用いることによって行うことができる。
(2)適量の化合物(1)を溶解させた有機溶媒中に水溶性高分子物質を添加し、更に攪拌混合して、化合物(1)と水溶性高分子物質の両者を十分に溶解させる。このとき、溶解を促進させるために、必要により溶媒を加熱してもよい。
(3)これとは別に、混合攪拌機等を用いて、賦形剤としての軽質無水ケイ酸等の無機多孔性物質と必要に応じてカルボキシメチルセルロースカルシウム等の崩壊剤を攪拌混合しておく。
(4)次に上記(3)で用意した無機多孔性物質と崩壊剤からなる混合物と、(2)で得られた化合物(1)と高分子物質の両者を溶解した溶液を混合し、常法に従ってこれを造粒する。
操作性の観点からすると、(3)で得られた混合物に対して(2)の溶液を加えて混合するのが好ましいが、特に制限されるものではなく、(2)の溶液中に(3)の混合物を添加して混合してもよい。
(5)次いで、これを造粒し、引き続き、真空乾燥などにより減圧下または常圧下で有機溶媒を溜去して乾燥させる。
(6)最後に、ふるい等を用いて、乾燥造粒物を整粒し、顆粒とする。
【0027】
上記操作(1)で使用する有機溶媒としては、有効成分としての化合物(1)および高分子物質を溶解しうるものであれば特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、モノメトキシエタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール;アセトン、メチルケトン等のケトン類、又はこれらの混合液などを用いることができる。アセトン等のケトン類、無水エタノール等のアルコール類などの低沸点の溶剤が好ましく、特に、アセトン、無水エタノール又はそれらの混合液が好ましい。必要に応じてこれらに水を加えてもよい。
【0028】
2.打錠工程
錠剤を所望のときは、更に、上記造粒工程で得られた整粒された粒状物にカルボキシメチルセルロースカルシウム、架橋ポリビニルピロリドン等の崩壊剤とステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤を加えて均一に混合した後、常法に従って打錠することによって錠剤を得ることができる。
【0029】
固形製剤に含有させるべき有効成分としての化合物(1)の量は、剤型、投与方法、担体、あるいは被投与者の年齢、体重等により異なり、それぞれの条件、環境に応じて決定すればよく、特に限定されるものではない。化合物(1)は、製剤全量に対して、通常0.1乃至20%(w/w)、好ましくは1乃至8%(w/w)である。0.1%(w/w)未満では薬剤としての効果が期待できず、また、20%(w/w)より大きい場合は、固体分散体としての十分な効果が発揮し得ない。
【0030】
本発明の固形製剤における水溶性高分子物質の配合量は、固体分散体としての十分な効果を得るためには、有効成分としての化合物(1)に対して重量比で3乃至100倍量、好ましくは3乃至50倍量、更に好ましくは3乃至20倍量であり、ポリビニルピロリドンの場合は重量比で3乃至20倍量、より好ましくは重量比で8乃至12倍量であり、また、ヒドロキシプロピルセルロースの場合は特に好ましくは6乃至15倍量である。
【0031】
本発明の固形製剤としての十分な効果を得るためには、無機多孔性物質は、有効成分としての化合物(1)に対して重量比で4乃至14倍量が好ましく、更には6乃至13倍量が好ましく、特に7乃至11倍量であることが好ましい。
【0032】
本発明の固形製剤としての十分な効果を得るためには、崩壊剤は、有効成分としての化合物(1)に対して重量比で1乃至10倍量が好ましく、特に3乃至7倍量であることが好ましい。また、好ましい崩壊剤は、架橋ポリビニルピロリドン(クロスポビドン)である。
【0033】
このようにして得られた「固形製剤」は重質(高密度)であり、錠剤の他、それ自体経口投与用医薬製剤として使用することができる。また、常法に従って、細粒剤、微細顆粒、顆粒、カプセル剤、液剤などの医薬製剤とすることもできる。散剤、顆粒剤、カプセル剤などの製剤を所望のときは、上記方法により得られた整粒された薬剤粒を、必要に応じて適宜の賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、界面活性剤等を添加し、常法に従って調製することによって容易に得ることができる。これらの製剤の製造方法は当業者に周知かつ慣用であり、製剤の形態に応じて適宜の方法を採用することが可能である。
また、糖衣錠等を所望の場合は、製剤表面を適当なコーテイング組成物でコーティングしてもよい。
【0034】
通常、医薬有効成分としての化合物(1)は、水難溶性ないし不溶性であるため、経口投与した場合、投与量のうち実際に血中へ吸収される割合が小さいために、バイオアベイラビリティが低いという欠点を有している。しかし、本発明の固形製剤は、優れた溶解度、経口吸収性、血液中への吸収性を有し、これにより化合物(1)のバイオアベイラビリティが飛躍的に改良されている。
さらに、本発明の固形製剤は、溶解性の改善のみなら、卓越した安定性を維持した。
【0035】
本発明の固形製剤は他の医薬品製剤と併用することができる。例えば、化合物(1)を有効成分とする本発明の固形製剤は、これとは別の他の高脂血症治療薬との併用することができる。この場合、化合物(1)の固形製剤と他の高脂血症治療薬を別々に服用してもよいし、あるいは両者を一体化して合剤として用いてもよい。
【0036】
本発明の予防又は治療剤としては、化合物(1)を溶媒に溶解し、さらに添加剤を加えて得られる液状、半固形状又は固形状の内容物を充填した硬カプセル剤又はソフトカプセル剤も好ましく挙げられる。
硬カプセル剤は、例えば化合物(1)含む散剤または上記顆粒を、例えばゼラチン、プルラン又はセルロースなどの可食性皮膜で成型された、例えば硬カプセル(00号、0号、1号、2号、3号、4号又は5号カプセル等)に充填すればよい。
【0037】
ソフトカプセル剤は、例えばカプセル基剤で一定の厚さのフィルムを常法により調製し、得られるフィルム二枚を左右対称の回転する金属製の金型の間に挟み、ソフトカプセル外皮殻となるように成型しながら、化合物(1)を溶媒で溶解し、所望により添加剤を添加した溶液をソフトカプセル外皮殻中に充填し、同時に例えば金型等の回転によりソフトカプセル外皮殻を溶着閉塞しながら打ち抜き、乾燥する等により製造できる。
前記溶媒としては、精製水、エタノール又は植物油等が挙げられ、中でもエタノール、又は精製水とエタノールの混合液を用いるのが好ましく、とりわけ無水エタノールを用いるのが好ましい。添加剤としては、カプセル剤製造の際に通常用いられる添加剤を特に制限なく用いることができる。前記添加剤としては、例えば、プロピレングリコール脂肪酸エステル類;ポリエチレングリコール200〜600等の低分子量ポリエチレングリコールやそのグリセリン脂肪酸エステル及び中鎖脂肪酸トリグリセライド;例えばステアリルアルコール、セタノール、ポリエチレングリコール等のアルコール/多価アルコール類又はそのエステル体;例えば、ゴマ油、大豆油、落花生油、コーン油、硬化油、パラフィン油、サラシミツロウ等の油脂類;例えば、クエン酸トリエチル、トリアセチン、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸等の脂肪酸及びその誘導体等を挙げることができ、液状又は半固形状の内容物の作製に適したものである。本発明のカプセル剤においては、添加剤としてプロピレングリコール脂肪酸エステル類を用いることが好ましい。プロピレングリコール脂肪酸エステル類としては、例えば、プロピレングリコールモノカプリレート(Capmul PG−8(商品名)、Sefol218(商品名)、Capryol90(商品名))、プロリレングリコールモノラウレート(Lauroglycol FCC(商品名))、プロピレングリコールモノオレアート(Myverol P−O6(商品名))、プロピレングリコールミリステート、プロピレングリコールモノステアラート、プロピレングリコールリシノレート(Propymuls(商品名))、プロピレングリコールジカプリレート/ジカプラート(Captex(登録商標)200(商品名))、プロリレングリコールジラウレート、プロピレングリコールジステアラート、及びプロピレングリコールジオクタノエート(Captex(登録商標)800(商品名))が挙げられる。本発明のカプセル基剤は、特に限定されないが、例えば、寒天、アルギン酸塩、デンプン、キサンタン若しくはデキストラン等の天然由来の多糖類;ゼラチン若しくはカゼイン等のタンパク;例えばデンプン(例えば、トウモロコシデンプン等)由来の糖アルコール;ヒドロキシデンプン、プルラン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール若しくはその誘導体、ポリアクリル誘導体、ポリビニルピロリドン若しくはその誘導体、又はポリエチレングリコール等の化学処理品;例えば、精製水等の溶剤等が挙げられる。
【0038】
本発明の予防又は治療剤が、例えば薬剤的に許容される乳濁剤、溶解剤、懸濁剤、シロップ剤又はエリキシル剤等の経口投与のための液体製剤である場合、用いる希釈剤としては、例えば精製水、エタノール、植物油又は乳化剤等が挙げられる。又、この液体製剤においては希釈剤以外に浸潤剤、懸濁剤、甘味剤、風味剤、芳香剤又は防腐剤等のような補助剤を混合させてもよい。
【0039】
本発明の予防又は治療剤が注射剤等の非経口製剤である場合は、添加剤として無菌の水性若しくは非水性の溶解剤、可溶化剤、懸濁剤又は乳化剤等を用いる。水性の溶解剤、可溶化剤、懸濁剤としては、例えば注射用蒸留水;生理食塩水シクロデキストリン及びその誘導体;トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリエチルアミン等の有機アミン類或いは無機アルカリ溶液等がある。水性の溶解剤を用いる場合、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール或いはオリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類等をさらに添加してもよい。又、可溶化剤として、例えばポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、蔗糖脂肪酸エステル等の界面活性剤(混合ミセル形成)、又はレシチン或いは水添レシチン(リポソーム形成)等も用いられる。又、本発明の非経口製剤は、例えば植物油等の非水性の溶解剤と、レシチン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油又はポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール等の乳化剤などとを用いて、常法に従いエマルジョン製剤にすることもできる。
【0040】
本明細書において、糖尿病とは、血糖値が高くなる病気をいい、1型糖尿病および2型糖尿病が挙げられるが、特に2型糖尿病をいう。2型糖尿病は、末梢細胞への糖の取り込みが減少し血糖が上がる病気である。その原因としては、膵臓β細胞からのインスリンの分泌量の低下あるいは末梢細胞におけるインスリン抵抗性(インスリン作用の減弱)が挙げられる。インスリン抵抗性を伴う2型糖尿病において、インスリン抵抗性が高まるとインスリン分泌が過剰となり血中のインスリン値も高くなる。本発明の有効成分である化合物(1)は、特にインスリン抵抗性を伴う2型糖尿病に対して、顕著な効果を有する。
さらに、過血糖における余剰のグルコースは脂肪として蓄積されるので、2型糖尿病は同時に肥満(特に内臓脂肪型肥満)を誘発し得る。また、高血糖に起因して血管壁マトリックスタンパク質の増加や石灰化等により動脈硬化を併発し得る。本発明の有効成分である化合物(1)は、2型糖尿病の予防又は治療と同時に、2型糖尿病(特にインスリン抵抗性を伴う2型糖尿病)に伴う、肥満症(特に内臓脂肪型肥満症)や動脈硬化症に対しても顕著な予防又は治療効果を有する。
【0041】
また、本明細書において、肥満症とは、内臓又は皮下に脂肪が蓄積する肥満をいう。本発明の有効成分である化合物(1)は、特に例えば大網、腸間膜周囲等の内臓周囲に脂肪が蓄積する内臓脂肪型肥満症に対して顕著な効果を有する。内臓等の脂肪が増加すると、脂肪細胞から放出されるTNFα(腫瘍壊死因子)や遊離脂肪酸が末梢細胞におけるインスリンの作用を減弱させてインスリン抵抗性となり、血糖が上昇し2型糖尿病を誘発し得る。また、内臓脂肪型肥満症では血中の脂質も増加し、動脈硬化症を併発し得る。本発明の有効成分である化合物(1)は、肥満症の予防又は治療と同時に、肥満症(特に内臓脂肪型肥満症)に伴う、2型糖尿病(特にインスリン抵抗性を伴う2型糖尿病)や動脈硬化症に対しても顕著な予防又は治療効果を有する。
【0042】
また、本明細書において、動脈硬化症とは、動脈の壁が厚くなり、脂質が沈着し、弾力性がなくなって硬くなる疾患をいう。本発明の有効成分である化合物(1)は、動脈硬化症に対して顕著な効果を有する。動脈硬化は、上記したように2型糖尿病(特にインスリン抵抗性を伴う2型糖尿病)や肥満症(特に内臓脂肪型肥満症)を伴い得る。本発明の有効成分である化合物(1)は、動脈硬化症の予防又は治療と同時に、動脈硬化症に伴う、2型糖尿病(特にインスリン抵抗性を伴う2型糖尿病)や肥満症(特に内臓脂肪型肥満症)に対しても顕著な予防又は治療効果を有する。
【0043】
本発明の予防又は治療剤は、他の薬剤と併用することができる。他の薬剤としては、高脂血症、肥満症若しくは糖尿病の予防又は治療剤が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。他の高脂血症治療薬としては、例えば、スタチン系の薬剤等が挙げられ、より具体的には、例えば、ロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン又はセリバスタチン等が挙げられる。他の肥満症治療薬としては、例えばマジンドール又はオルリスタット等が挙げられる。他の糖尿病治療薬としては、例えば、インスリン製剤、スルホニル尿素薬、インスリン分泌促進薬、スルホンアミド薬、ビグアナイド薬、αグルコシターゼ阻害薬又はインスリン抵抗性改善薬等が挙げられ、より具体的には、例えば、インスリン、グリベンクラミド、トルブタミド、グリクロピラミド、アセトヘキサミド、グリメピリド、トラザミド、グリクラジド、ナテグリニド、グリブゾール、塩酸メトホルミン、塩酸ブホルミン、ボグリボース、アカルボース又は塩酸ピオグリタゾン等が挙げられる。
【0044】
本発明の予防又は治療剤及び併用薬剤の投与時期は限定されず、これらを投与対象に対し、同時に投与してもよいし、時間差をおいて投与してもよい。併用薬剤の投与量は、臨床上用いられている投与量に準ずればよく、投与対象、投与対象の年齢及び体重、症状、投与時間、剤形、投与方法、組み合わせ等により適宜選択することができる。併用薬剤の投与形態は、特に限定されず、投与時に本発明の予防又は治療剤と併用薬剤とが組み合わされていればよい。
【0045】
以下に実施例および試験例をもって、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例1】
【0046】
1.造粒;
(1)有効成分としての化合物(1)の溶解;
418.5gのアセトンと46.5gの無水エタノール(重量%比;9対1)をプロペラミキサー機に注入して攪拌混合して得られたアセトン/無水エタノール混合溶液に化合物(1)30.0gを加えて十分に溶解させた。
(2)高分子物質の溶解;
化合物(1)が溶解された上記溶媒中に、水溶性高分子物質として300.0gのポリビニルピロリドン(ポビドンK30)を徐々に添加して更に攪拌混合して溶解させた。
(3)賦形剤の準備;
これとは別に、混合攪拌機を用いて、賦形剤としての軽質無水ケイ酸239.1gと崩壊剤としての150.0gのカルボキシメチルセルロースカルシウム混合攪拌造粒機を用いて均一に攪拌混合しておいた。
(4)賦形剤と高分子物質溶液の混合;
(2)の工程で準備しておいた化合物(1)とポリビニルピロリドンを溶液させた有機混合溶媒を、(3)の工程で準備した軽質無水ケイ酸混合物に徐々に加えて均質になるまで混合攪拌した。
(5)粗造粒;
上記(4)で得られた混合物を常法に従ってこれを造粒し、次いで、これを、真空乾燥機で乾燥させた。
(6)整粒;
更に、粒度を均一にするため目開き600μmのふるいを用いて常法に従って整粒操作を行った。
【0047】
2.打錠;
上記造粒工程を2回繰り返し、その結果得られた粒状物1438.2gに崩壊剤としての架橋ポリビニルピロリドン(クロスポビドン)150.0gと滑沢剤としてのステアリン酸マグネシウム7.8gを加えてW型混合機を用いて均一に混合した後、ロータリー打錠機を用いて打錠することによって1錠当たり約133mg(有効成分としての化合物(1)は約5mg/錠)の錠剤を約1,200錠製造した。
【実施例2】
【0048】
皮膜組成物(1a)を使用し一定の厚さのフィルムを常法により調製した。得られたフィルム二枚を左右対称の回転する金属製の金型の間に挟み、ソフトカプセル外皮となるように成型しながら、内容液(1b)をソフトカプセル外皮殻中に充填し、同時に金型の回転によりソフトカプセル外皮殻を溶着閉塞しながら打ち抜きカプセルを作った。これを回転式乾燥機にて乾燥し、更に、4日間静置乾燥し、ソフトカプセル(長径約19.5mm、短径約7mm)を得た。
【0049】
【表1】

【実施例3】
【0050】
皮膜組成物(1a)及び内容液(1b)をそれぞれ下記皮膜組成物(2a)及び内容液(2b)に代えて用いたこと以外、実施例1と同様にしてソフトカプセル(長径約19.5mm、短径約7mm)を得た。
【0051】
【表2】

【実施例4】
【0052】
化合物(1)、賦形剤、結合剤を混合して造粒末を常法により調製した。得られた造粒末に崩壊剤、滑沢剤を混合して常法により打錠末を調製した。この打錠末を常法により打錠して錠剤を得た。以下に具体的製剤例を示した。
【0053】
(実施例4−1)
【表3】

【0054】
(実施例4−2)
【表4】

【0055】
(実施例4−3)
【表5】

【0056】
(試験例1)
抗糖尿病作用
本試験には遺伝的に糖尿病の病態(インスリン抵抗性)を示す雄性KKAyマウス(日本クレア社製)を7週齢で使用した。粉末通常飼料(CRF−1、オリエンタル酵母社製)飼育下で馴化した動物の眼窩静脈叢から前採血し、血漿中の各パラメータ(中性脂肪値、遊離脂肪酸値、インスリン値、血糖値)において群間に差が生じないように6匹ずつ5群に群分けした。化合物(1)を、1、3、10及び30mg/kg/日となるように粉末飼料にそれぞれ添加し、混餌飼料を調製した。各飼料を14日間自由摂食させ、15日目の朝、動物の眼窩静脈叢から再度採血して上記血漿パラメータを測定した。その結果を下記表6に示す。
【0057】
【表6】

【0058】
以上の試験結果等から、化合物(1)は、優れた中性脂肪低下作用を有することが明らかであり、その結果、糖尿病の原因であるインスリン抵抗性を惹起する遊離脂肪酸をも低下させる。すなわちインスリン抵抗性を解除し、インスリンを有効に作用せしめることで、その必要量を低下させ、インスリン値も低下させる。つまるところ、中性脂肪を低下させた結果として、血糖値を低下させることができ、糖尿病の予防薬または治療薬として有用である。
【0059】
(試験例2)
抗肥満作用
試験には日本白色種ウサギ(北山ラベス社製)を9週齢で使用した。高脂肪食飼料(0.3%コレステロール−3%ピーナッツオイル含有RC−4、オリエンタル酵母社製)飼育下で馴化した動物の耳介動脈から前採血し、体重及び血漿中の各パラメータ(中性脂肪値、総コレステロール値、HDLコレステロール値)において群間に差が生じないように12匹ずつ4群に群分けした。化合物(1)の摂取量が3、10及び30mg/kg/100g飼料/日となるように、高脂肪食飼料に化合物(1)を添加し、混餌飼料を調製した。各飼料を12週間100g飼料/日の制限下に摂取させ、12週間後、体重及び体重増加量を測定した。その結果を下記表7に示す。
【0060】
【表7】

【0061】
以上の試験結果から、化合物(1)は、摂取量に差がない条件下においても優れた体重増加抑制作用を有することがわかる。そのため、化合物(1)は、肥満症の予防又は治療剤に有用である。
【0062】
(試験例3)
内臓脂肪低下作用
試験にはSDラット(日本チャールス・リバー社製)を8週齢で使用した。35%(w/w)高脂肪食飼料飼育下で1週間馴化した動物を、コントロール群と化合物(1)投与群の2群に分け、試験に供した。コントロール群には、35%(w/w)高脂肪食飼料を、化合物(1)投与群には、35%(w/w)高脂肪食飼料に化合物(1)を0.029%(w/w)となるよう添加した飼料を3ヶ月投与した。なお、試験中、動物には水道水を自由摂取させた。
3ヶ月投与後に実験動物用X線CT装置(アロカ社製)により脂肪重量を測定した。その結果を表8に示した。
【0063】
【表8】

【0064】
化合物(1)投与群は、コントロール群と比較し、筋肉重量を低下させることなく内臓脂肪および皮下脂肪の重量低下作用を示した。特に脂肪重量低下は内臓脂肪において顕著であった。
本発明に係る化合物は優れた抗肥満作用により、コントロールと比較し、筋肉重量を低下させることなく脂肪重量低下作用を示した。結果として、化合物(1)は、肥満の予防薬または治療薬として有用であることを示すものである。
【0065】
(試験例4)
抗動脈硬化作用
試験には日本白色種ウサギ(北山ラベス社製)を9週齢で使用した。高脂肪食飼料(0.3%コレステロール−3%ピーナッツオイル含有RC−4、オリエンタル酵母社製)飼育下で馴化した動物の耳介動脈から前採血し、体重及び血漿中の各パラメータ(中性脂肪値、総コレステロール値、HDLコレステロール値)において群間に差が生じないように12匹ずつ4群に群分けした。化合物(1)の摂取量が3、10及び30mg/kg/100g飼料/日となるように、高脂肪食飼料に化合物(1)を添加し、混餌飼料を調製した。各飼料を12週間100g飼料/日の制限下に摂取させ、大動脈の脂質を染色し、染色される領域を動脈硬化領域とした。動脈硬化領域面積率を下式により算出した。その結果を下記表9に示す。
【0066】
【数1】

【0067】
【表9】

【0068】
以上の試験結果から、化合物(1)は、コレステロール摂取量に差がない条件下においても大動脈への脂質の沈着を顕著に抑制せしめるという作用を有することがわかる。すなわち、化合物(1)は、大動脈における動脈硬化領域面積の形成を抑制し、心血管イベントの発生を低下せしめるという作用を有する。そのため、化合物(1)は、動脈硬化症の予防又は治療剤に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の予防又は治療剤は、糖尿病、肥満症若しくは動脈硬化症の治療又は予防に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1):
【化1】

で表される化合物又はその製薬上許容される塩を有効成分として含有することを特徴とする、患者の血糖低下薬であって、
当該患者は、
(1)肥満症又は動脈硬化症を伴い;及び
(2)インスリン抵抗性を伴う
2型糖尿病患者
である、
前記患者の血糖低下薬。
【請求項2】
1回当たりの投与量が0.5〜30mgであり、1日当たりの投与量が0.5〜30mgであることを特徴とする請求項1に記載の予防又は治療剤。
【請求項3】
請求項1に式(1)として記載されている化合物又はその製薬上許容される塩、水溶性高分子物質及び軽質無水ケイ酸を含む固形製剤である請求項1または2に記載の予防又は治療剤。

【公開番号】特開2012−167110(P2012−167110A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−103870(P2012−103870)
【出願日】平成24年4月27日(2012.4.27)
【分割の表示】特願2006−528923(P2006−528923)の分割
【原出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(000004569)日本たばこ産業株式会社 (406)
【Fターム(参考)】