糖尿病の予測バイオマーカーとしてのアルギニンバソプレシンプロホルモン
本発明の主題は、対象のサンプル中のアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを決定することを含む、対象がメタボリック症候群及び/又は糖尿病に罹患するリスクを予測するための、並びにメタボリック症候群を診断するためのアッセイ及びin vitro方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予後バイオマーカー及び予後アッセイに関する。本発明は、特に、糖尿病の予測及びメタボリック症候群の診断に関する。
【背景技術】
【0002】
抗利尿ホルモン(ADH)としても知られているアルギニンバソプレシン(AVP)は、高血漿浸透圧、低血漿容積及び低血圧の条件下、視床下部で産生され、神経下垂体(neuropituitary gland)から放出される。AVPは、3種類の異なる受容体(V1aR,V1bR及びV2R)に結合する。V1aRは広範に発現しているが(Nature 1993 : 356 : 523-526)、V1bR及びV2Rはそれぞれ下垂体及び腎臓集合管でより特異的に発現している(Nature 1992 : 336-339 及び FEBS Lett 1994 : 356 : 215-220)。AVPの抗利尿作用はV2Rを通じて媒介されるので、V2Rの薬理学的遮断は低ナトリウム血症及び心不全の処置において好ましい作用を有する一方、出血及び低血圧疾患において臨床的に用いられるAVPの血栓形成促進及び血管収縮作用は、主にV1aRを通じて媒介される。さらに、AVP作用は、ACTH放出の調節(V1bR)、肝臓でのグリコーゲン分解の刺激(V1aR)、並びにインスリン及びグルカゴン分泌の刺激(V1aR)と関連することが示唆されている(Morel等, Nature 1992 ; 356 (6369) : 523-6 ; de Keyzer等, FEBS letters 1994 ; 356 (2-3) : 215-20 ; Ventura等, Journal of molecular endocrinology 1999 ; 22 (3) : 251-60)。
【0003】
ヒト及び動物モデルを用いた過去の研究によって、グルコース恒常性、インスリン抵抗性及び糖尿病におけるAVP系の役割が示されている。糖尿病の管理が不良であって浸透圧が増加している患者において、血漿AVPは顕著に上昇しており(Lolait等, Nature 1992 ; 357 (6376) : 336-9)、健康な対象において、AVP注入は血中グルコースレベルの増加をもたらす(Schrier等, N Engl J Med 2006 ; 355 (20) : 2099-112)。V1aR欠損マウスは、グルコース耐性の異常、インスリン抵抗性及びAVPレベルの上昇を呈する一方(Gheorghiade等, Jama 2007 ; 297 (12) : 1332-43 ; Federici等, Annals of medicine 2007 ; 39 (5) : 346-58)、V1bR欠損マウスは、正常マウスと比較して、空腹時血漿グルコースの低下及びインスリン感受性の増加という反対の表現型を示す(Dunser等, Circulation 2003 ; 107 (18) : 2313-9)。
【0004】
バソプレシン遺伝子は、19個のアミノ酸シグナル配列、アルギニンバソプレシン及び2種類の関連タンパク質(すなわち、ニューロフィジンII及びグリコペプチドであるコペプチン)を含む前駆体タンパク質(プレ−プロ−AVP)をコードする。コペプチンは、AVP前駆体のC末端に相当する生物学的に不活性な分解産物であり、AVPと等モル量で産生される。しかしながら、AVPとは対照的に、コペプチンは安定であり、半減期が長く、血小板に結合せず、従ってAVPよりも有意に高い血漿濃度が観察されるので、バソプレシン放出を評価するための代替的な診断ターゲットとして提案されている(Struck J, Morgenthaler NG, Bergmann A. Copeptin, a stable peptide derived from the vasopressin precursor, is elevated in serum of sepsis patients. Peptides. 2005 Dec ; 26 (12) : 2500-4)。
【0005】
AVPは、糖尿病の診断マーカーとして文献に記載されており、AVPレベルが、1型糖尿病モデル動物において、急性又は慢性ストレス因子として、糖尿病と関連することが知られている(Sun Shin Yi等, Enhanced expressions of arginine vasopressing (Avp) in the hypothalamic paraventricular and supraoptic nucleic of type 2 diabetic rats, Neurochem Res (2008) 33 : 833-841)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、驚くべきことに、アルギニンバソプレシン(AVP)プロホルモン又はそのフラグメントの比較的増加したレベルと、メタボリック症候群の存在及び糖尿病の発症リスクとが関係することを見出した。これとの関連において、少なくとも1種類のモノクローナル抗体を含む高感度かつ高精度のコペプチンアッセイが、本発明により提供される。
【0007】
したがって、本発明の主題は、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測するための、或いは糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクが増加した対象を特定するための、或いは対象のメタボリック症候群を診断するためのin vitro方法であって、
以下の工程:
a.前記対象由来のサンプルを準備する工程、
b.前記サンプル中のアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを決定する工程
c.前記アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを用いて、前記対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患する可能性を予測する、或いはそれに基づいて前記対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを推測する、或いは前記対象のメタボリック症候群を診断する工程
を含む前記方法である。
【0008】
本発明の別の主題は、高感度かつ高感度のコペプチンアッセイである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、プレ−プロ−AVPのアミノ酸配列(配列番号1)を示す図である。
【図2】図2は、CT−プロ−AVP(コペプチン)のアミノ酸配列(配列番号2)を示す図である。
【図3】図3は、プロ−AVPのアミノ酸配列(配列番号3)を示す図である。
【図4】図4は、ポリクローナル/ポリクローナル抗体コペプチンアッセイに関する精度プロファイルを示す図である。コペプチン濃度[pmol/L]に対してアッセイ間変動係数(Inter-assay Coefficient of Variation)(CV[%])がプロットされ、10%及び20%というCVでそれぞれ決定されたコペプチン濃度が示されている。
【図5】図5は、モノクローナル/ポリクローナル抗体コペプチンアッセイに関する精度プロファイルを示す図である。コペプチン濃度[pmol/L]に対してアッセイ間CV[%]がプロットされ、10%及び20%というCVでそれぞれ決定されたコペプチン濃度が示されている。
【図6】図6は、増加した血漿コペプチンが非依存的に糖尿病と関連することを示す図である。糖尿病に関するORとコペプチンレベルの四分位数とがプロットされており、年齢、性別、TG、HDL、SBP、DBP、AHT、BMI、ウエスト、W/H、シスタチンC、CRP、過去のCVDに関して調整されている。
【図7】図7は、血漿コペプチンの上昇が将来の糖尿病(糖尿病であることが知られている被験者又はベースライン時のFBG>6.0mMである被験者は除く)の非依存的な指標であることを示す図である。効果はベースラインのグルコースに非依存的である。糖尿病発症に関するORとコペプチンレベルの四分位数とがプロットされており、年齢、性別、TG、HDL、SBP、DBP、AHT、BMI、ウエスト、W/H、シスタチンC、CRP、過去のCVD、喫煙、糖尿病の遺伝性、fP−インスリン及びfB−グルコースに関して調整されている。
【図8】図8は、血漿コペプチンの上昇が将来の糖尿病(糖尿病であることが知られている被験者又はベースライン時のFBG≧5.4mMである被験者は除く)の非依存的な指標であることを示す図である。効果はグルコースに非依存的であり、IFGの除外後にも維持(強化)される。糖尿病発症に関するORとコペプチンレベルの四分位数とがプロットされており、年齢、性別、TG、HDL、SBP、DBP、AHT、BMI、ウエスト、W/H、シスタチンC、CRP、過去のCVD、喫煙、糖尿病の遺伝性、fP−インスリン及びfB−グルコースに関して調整されている。
【図9】図9は、a)年齢、性別、BMI及び糖尿病の遺伝性の組み合わせ、並びにb)この組み合わせへのコペプチンの追加に基づいて将来の糖尿病を予測するためのROCプロットを示す図である。
【図10】図10は、年齢、性別、SBP、BMI、ウエスト、グルコース、TG、HDL及び糖尿病の遺伝性の組み合わせ、並びにb)この組み合わせへのコペプチンの追加に基づいて将来の糖尿病を予測するためのROCプロットを示す図である。
【図11】図11は、非糖尿病被験者(n=4377)における、増加する血漿コペプチンの四分位数と、空腹時血中グルコースレベル(mmol/L)との相関を示す図である(平均値で表し、信頼区間は95%、P(線形傾向)<0.001である)。
【図12】図12は、非糖尿病被験者(n=4377)における、増加する血漿コペプチンの四分位数と、空腹時インスリングルコースレベル(mU/L)との相関を示す図である(平均値で表し、信頼区間は95%、P(線形傾向)<0.001である)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測するための、或いは糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクが増加した対象を特定するための、或いは対象のメタボリック症候群を診断するための方法であって、
以下の工程:
a.前記対象由来のサンプルを準備する工程、
b.前記サンプル中のアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを決定する工程、
c.前記アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを用いて、前記対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患する可能性を予測する、或いはそれに基づいて前記対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを推測する、或いは前記対象のメタボリック症候群を診断する工程
を含む前記方法に関する。
【0011】
明細書中において「アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを用いて、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患する可能性を予測する、或いはそれに基づいて対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを推測する、或いは対象のメタボリック症候群を診断する」とは、「アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクと、或いは対象のメタボリック症候群の診断と相関させる」という意味を有し得る。
【0012】
本発明の全ての態様の好ましい実施形態において、対象は外見上健康である。
【0013】
明細書中の「外見上健康」という用語は、糖尿病に罹患していない個体に関して用いられる。幾つかの実施形態において、外見上健康な対象は、メタボリック症候群に罹患している。本発明の方法は、対象がメタボリック症候群に罹患しているか否かを診断するために使用し得る。
【0014】
明細書中の「対象」という用語は、生存するヒト又は非ヒト生物を意味する。好ましくは、対象はヒトである。好ましくは、対象は非糖尿病である。
【0015】
特定の実施形態において、外見上健康な対象は、過去に心臓血管若しくは冠動脈イベント又は心不全を発症したことがない又は発症したことが知られていない、或いは心臓血管疾患に罹患していない個体である。冠動脈イベントは、致死的又は非致死的な急性冠症候群(例えば心筋梗塞)、或いは虚血性心疾患による死として定義される。心臓血管イベントは、致死的又は非致死的な急性冠症候群(例えば心筋梗塞)、致死的又は非致死的な脳卒中、或いは心臓血管疾患による死として定義される。さらに、外見上健康な対象は、非常に特定の実施形態において、急性感染症に罹患していなくてもよい。
【0016】
別の非常に特定の実施形態において、外見上健康な対象は、心臓血管疾患に罹患していてもよいし、それに加えて/それに代えて、心臓血管若しくは冠動脈イベント又は心不全を発症していてもよい。ある実施形態において、外見上健康な対象は感染症に罹患していてもよい。
【0017】
ある実施形態において、対象は、6.1mmol/L未満であるが5.4mmol/Lを超える異常な空腹時血糖(異常な空腹時グルコース)、すなわち空腹時血中グルコースレベル(空腹時血中グルコース(FBG)又は空腹時血糖(FBS))を呈する。したがって、特に好ましい実施形態における対象は、空腹時血中グルコースが6.1mmol/L未満であって5.4mmol/Lを超える非糖尿病対象である。
【0018】
別の特に好ましい実施形態において、対象は、異常な空腹時血糖を有しない対象である。したがって、特に好ましい実施形態における対象は、空腹時血中グルコースが5.4mmol/L未満である対象である。
【0019】
空腹時血中グルコースは、対象が最後に食物を摂取してから少なくとも8時間後、典型的には最後の食物摂取から8〜10時間後に測定される。
【0020】
明細書中において、(空腹時)血中グルコースレベルは、全血中グルコースレベルという意味で用いられる。一般的に、全血、血清又は血漿中のグルコースを測定し得るが、基準値はサンプルの種類に応じて異なる。
【0021】
アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルの決定(又は測定又は検出)は、以下で説明する診断アッセイを用いて実施される。
【0022】
アルギニンバソプレシンプロホルモン(プロ−AVP)の好ましいフラグメントは、プロ−AVPのC末端フラグメント(CT−プロ−AVP又はコペプチン)、すなわちプロ−AVPのアミノ酸位置107−145(プレ−プロ−AVPのアミノ酸位置126−164)に相当する、翻訳後修飾(グリコシル化)されたペプチドである。
【0023】
好ましい実施形態において、アルギニンバソプレシンプロホルモン(プロ−AVP)のフラグメントは、成熟AVPではない。
【0024】
本発明の方法の特に好ましい実施形態において、コペプチンのレベルが決定される。
【0025】
プロホルモン及びその他のペプチドとの関連において明細書で言及される「フラグメント」という用語は、より大きなタンパク質又はペプチドから誘導され得る、より小さなタンパク質又はペプチドを意味し、従ってより大きなタンパク質又はペプチドの部分配列を含む。フラグメントは、より大きなタンパク質又はペプチドの1又は2以上のペプチド結合の鹸化により、より大きなタンパク質又はペプチドから誘導し得る。
【0026】
アルギニンバソプレシンプロホルモン(プロ−AVP)の「フラグメント」は、好ましくは、少なくとも6個のアミノ酸長のフラグメント、最も好ましくは少なくとも12個のアミノ酸残基長のフラグメントである。そのようなフラグメントは、好ましくは、明細書中に記載された免疫学的アッセイで検出可能である。
【0027】
本発明との関連において、「プロホルモンのレベル」等の表現及び類似の表現で用いられる「レベル」という用語は、各文脈で言及される分子実体(molecular entity)の量という意味であり、酵素の場合には、酵素活性という意味を含み得る。
【0028】
本発明の方法は、2型糖尿病を発症するリスクの予測に特に好適である。
【0029】
ある実施形態において、空腹時血中又は血漿グルコース、トリグリセリド、HDLコレステロール又はその副画分、LDLコレステロール又はその副画分、シスタチンC、インスリン、CRP、A型及びB型ナトリウム利尿ペプチド並びにそれらの前駆体及びフラグメント(例えば、ANP、プロANP、NT−プロANP、MR−プロANP、BNP、プロBNP、NT−プロBNP、GDF15、ST2)、プロカルシトニン及びそのフラグメント、プロ−アドレノメデュリン及びそのフラグメント(例えば、ADM、PAMP、MR−プロADM、CT−プロADM)、プロ−エンドセリン−1及びそのフラグメント(例えば、CT−プロET−1、NT−プロET−1、ビッグ−エンドセリン−1)並びにエンドセリン−1を含む群より選択された少なくとも1種の検査パラメーター又は追加的なマーカーのレベルをさらに決定して用いることにより、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクの予測、或いはメタボリック症候群の診断を向上させ得る。
【0030】
本発明の特定の実施形態において、年齢、性別、収縮期血圧、拡張期血圧、抗高血圧治療(AHT)、ボディー・マス・インデックス、胴囲、ウエスト・ヒップ比、現在の喫煙、糖尿病の遺伝性及び過去の心臓血管疾患(CVD)を含む群より選択された少なくとも1種の臨床パラメーターがさらに決定される。
【0031】
世界保健機関(WHO)によると、糖尿病は、膵臓が十分なインスリンを産生しない場合又は体内で産生されたインスリンを有効に利用できない場合に発症する慢性疾患である。これにより、血中グルコース濃度の増加(高血糖)が引き起こされる。1型糖尿病(インスリン依存型又は小児期発症型糖尿病として従来から知られている)は、インスリン産生の不足によって特徴付けられる。2型糖尿病(インスリン非依存型又は成人発症型糖尿病と以前呼ばれていた)は、体内でインスリンが有効に利用できないことで引き起こされる。それは、通常、過剰な体重及び運動不足によって生じる。
【0032】
2型真性糖尿病又は2型糖尿病は、インスリン抵抗性、相対的インスリン欠乏及び高血糖によって主に特徴付けられる代謝障害である。世界保健機構によると、糖尿病は、(i)空腹時血漿グルコースが≧7.0mmol/l(126mg/dl)又は(ii)耐糖試験(GTT)において、経口投与2時間後の血漿グルコースが≧11.1mmol/l(200mg/dl)のうち、1つのグルコース値増加が症状とともに観察されるか、そうでなければ2つのグルコース値増加が観察される場合と定義されている。2型糖尿病に共通する初期症状は、呼吸時の微かなフルーツ又は野菜臭である。これは、インスリンに対する応答不足が誘起するケトーシスによって引き起こされ、細胞へのグルコース取込不足を招く。一般的に、高血中グルコースレベルを伴い、それは、インスリンに対する感受性の減少の結果でもある。
【0033】
メタボリック症候群は、心臓血管疾患及び糖尿病を発症するリスクを増加させる医学的障害の組み合わせである。それによって多数の人が影響を被り、有病率は年齢とともに増加する。幾つかの研究では、米国における有病率が人口の25%に及ぶと推定されている。メタボリック症候群はまた、メタボリック症候群X、症候群X、インスリン抵抗性症候群、レーベン(Reaven)症候群、及びCHAOS(オーストラリア)としても知られている。生活スタイルに介入し、これを改善して、糖尿病及び/又は心臓血管疾患の発症を予防できるように、メタボリック症候群に罹患した個体を早期に特定することが重要である。メタボリック症候群の根底にある原因が、専門家たちを悩まし続けている。インスリン抵抗性及び中心性肥満がともに重要な因子であると考えられている。遺伝、運動不足、加齢、炎症状態及びホルモン変化も因果効果となり得るが、これらの役割は民族に応じて変化し得る。メタボリック症候群を引き起こすメカニズムが明らかとなっていないため、メタボリック症候群に関する多数の定義が乱立している。メタボリック症候群に関する複数の定義の存在が、混乱を引き起こし、各定義の利点を比較する多数の研究及び論文につながった。成人における高血中コレステロールの検出、評価及び処置に関するNCEP(The National Cholesterol Education Program)専門家パネルの第3次報告のエグゼクティブ・サマリーによると(Adult Treatment Panel III)(JAMA. 2001 ; 285(19) : 2486-2497)、メタボリック症候群は、以下の事項のうち3以上に該当することとして定義されている:(1)女性の場合は胴囲≧88cm(35インチ)、男性の場合は胴囲≧102cm(40インチ)、(2)BP≧130/85mmHg又は高血圧の治療、(3)空腹時トリグリセリド≧150mg/dL、(4)男性の場合はHDLコレステロール≦40mg/dL、女性の場合はHDLコレステロール≦50mg/dL、及び(5)空腹時血中グルコース≧110mg/dL又は糖尿病の治療。さらに最近の定義では、国際糖尿病連合(International Diabetes Federation)により(http://www.idf.org/webdata/docs/IDF_Meta_def_final.pdf)、幾つかの修正が加えられている。メタボリック症候群を定義する目的は、糖尿病及び/又は心臓血管疾患を発症するリスクが増加した対象を特定することにあるので、そのようなリスクと非依存的に関連する予後因子は、メタボリック症候群と直接的に関連する可能性があり、その意味でメタボリック症候群の有無の診断に有用である。したがって、糖尿病の発症を独立して予測するマーカー、例えば、本発明で示されるコペプチンが、メタボリック症候群の存在に関する診断マーカー(その他の診断検査及び臨床パラメーターとともに)と同時に考慮される必要があり、それは、将来、メタボリック症候群の定義の一部となることが予想される。
【0034】
上記のように、「メタボリック症候群」を医学的状態として定義することの助けとなるように、対象由来のサンプル中のアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントの決定されたレベルを、その他の臨床及び/又は検査パラメーターとともに使用し得る。すなわち、上記に概説された現在の基準は、全てのケースにおいて満足した結果をもたらすものではないので、基準の明確化の点からメタボリック症候群の定義を改良するために、アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを追加的なパラメーターとして使用し得る。
【0035】
インスリン抵抗性(IR)は、所定濃度のインスリンが期待を下回る生物学的効果しか生じない状態である。インスリン抵抗性はまた、血糖コントロールを実現するために及びケトーシスを予防するために1日あたり200単位以上のインスリンが必要であることとして恣意的に定義されてきた。インスリン抵抗性による高レベルの血漿インスリン及びグルコースは、たびたび、メタボリック症候群及び2型糖尿病(その合併症を含む)を引き起こす。IRの症状は、疲労、脳霧(brain fogginess)、焦点不能、低血糖、腸膨満、眠気、体重増加、脂肪貯蔵、体重減少困難、血中トリグリセリド値の増加、血圧の増加及びうつ状態を含み得る。
【0036】
本発明はまた、上記のように、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測するための、或いは糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクが増加した対象を特定するための、或いは対象のメタボリック症候群を診断するための方法に関し、該方法では、アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを単独で、又は予測に有用な他の検査又は臨床パラメーターと組み合わせて用いて、以下の選択肢:
・外見上健康な対象の集団の所定サンプル群におけるアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルの中央値の比較、
・外見上健康な対象の集団の所定サンプル群におけるアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルの変位値の比較、
・コックス比例ハザード分析に基づく又はリスクインデックス計算法(例えばNRI(Net Reclassification Index)又はIDI(Integrated Discrimination Index))を用いた計算
から選択され得る方法によって、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測する、或いはメタボリック症候群を診断する。
【0037】
好ましい実施形態において、アルギニンバソプレシン(AVP)プロホルモン又は少なくとも12個のアミノ酸長を有するそのフラグメントのレベルは、診断アッセイ、好ましくはイムノアッセイにより決定される。特に好ましくは、コペプチン又は少なくとも12アミノ酸長を有するそのフラグメントのレベルが決定される。
【0038】
本発明はまた、各個体に関し、マーカー(本発明では、アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメント(例えばコペプチン等))のレベルを、所定値と比較することを含み得る。所定値は、様々な形をとり得る。それは、単一のカットオフ値、例えば、母集団の中央値、平均値、75th、90th、95th又は99thパーセンタイル値であり得る。それは、例えば、ある特定のグループにおけるリスクが別の特定のグループにおけるリスクの2倍であるというように、グループ間の比較に基づいて設定され得る。それは、例えば、試験された集団が、低リスク群、中リスク群及び高リスク群というグループに、又は最低リスクを有する個体が属する最低四分位数及び最高リスクを有する個体が属する最高四分位数という四分位数に、均一に(又は不均一に)分けられるような範囲であり得る。
【0039】
所定値は、選択された特定の集団において、習慣、民族性、遺伝性等に応じて変化し得る。例えば、外見上健康で非喫煙者の集団(検出可能な疾患なし、特に糖尿病なし)は、マーカーに関し、喫煙者の集団又は糖尿病患者が属する集団とは異なる「正常な」範囲を有し得る。したがって、所定値の選択には、個体が属するカテゴリーが考慮され得る。当業者は、単なる日常的な実験によって、適当な範囲及びカテゴリーを選択し得る。
【0040】
本発明の方法の特定の実施形態において、アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルの使用には、アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを閾値と比較することが含まれ、アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルが閾値を越えるとき、対象の糖尿病及び/又はメタボリック症候群が予測され、糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクが増加した対象が特定される。
【0041】
その他の好ましいカットオフ値は、例えば、正常な集団の90th、95th又は99thパーセンタイルである。75thパーセンタイルよりも高いパーセンタイルを用いることにより、偽陽性と特定される対象の数を減少させ得るが、リスクが緩やかに増加しているものの中程度である対象を特定できない可能性がある。したがって、「偽陽性」を特定することを犠牲にして、リスクを有する大部分の対象を特定することが適当であるか、又は、中程度のリスクを有する一部の対象を特定することを犠牲にして、高リスクを有する対象を主に特定することが適当であるかに基づいて、カットオフ値を選択し得る。
【0042】
各個体のコペプチン値並びにその他の予後検査及び臨床パラメーターを用いて各個体のリスクを計算するための他の数学的可能性として、例えば、コックス回帰分析、NRI(Net Reclassification Index)又はIDI(Integrated Discrimination Index)がある。これらのインデックスはPencina等の方法(Pencina MJ等: Evaluating the added predictive ability of a new marker: from area under the ROC curve to reclassification and beyond. Stat Med. 2008 ; 27 : 157-172)に従って計算され得る。
【0043】
例えば、サンプル中のコペプチンのレベルが5.04pmol/L(すなわち外見上健康な対象の基準集団の濃度中央値)又はそれを超えること、好ましくは7.93pmol/L(すなわち外見上健康な対象の基準集団のQ3/Q4境界濃度)を超えることは、患者の糖尿病に罹患するリスクが増加していることの指標となり得る。明細書中において、Ql、Q2、Q3及びQ4は、外見上健康な対象の基準集団の四分位数を意味する。
【0044】
さらに特定の態様において、本発明は、対象のメタボリック症候群を診断する方法であって、以下の工程:
a.前記対象由来のサンプルを準備する工程、
b.前記サンプル中のアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを決定する工程、
c.メタボリック症候群の診断に関連するその他の臨床及び/又は検査パラメーターを決定する工程
d.アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを、メタボリック症候群の診断に関連するその他の臨床及び/又は検査パラメーターと相関させる工程
を含む前記方法に関する。
【0045】
また、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測するために、或いはメタボリック症候群を診断するために、サンプル中のコペプチンレベルを決定するためのアッセイも、本発明の範囲に包含される。
【0046】
好ましくは、本発明のアッセイは、2.2pmol/L未満の濃度では20%CV、その濃度を超える標準的範囲の濃度では20%CV未満という合計アッセイ不正確度、及び/又は9pmol/L未満の濃度では10%CV、その濃度を超える標準的範囲の濃度では10%CV未満という合計アッセイ不正確度を有する。
【0047】
別の好ましい実施形態において、本発明のアッセイは、安静状態にある健康な絶食女性の白人個体群で測定された血清又は血漿中のコペプチン濃度の中央値において最大12%という合計アッセイ不正確度を有する。
【0048】
上記アッセイの好ましい実施形態において、アッセイは、2種類の抗コペプチン抗体を含み、該抗体のうちの少なくとも1種類がモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体である。
【0049】
本発明はまた、サンプル中のコペプチンのレベルを決定するためのアッセイであって、2種類の抗コペプチン抗体を含み、該抗体のうちの少なくとも1種類がモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体であるアッセイに関する。
【0050】
好ましくは、本発明のアッセイは、モノクローナル及びポリクローナル抗体を含む。
本発明のアッセイの別の好ましい実施形態において、1つのモノクローナル抗体がプレプロバソプレシンの132−147位に相当するペプチドに含まれるエピトープに結合する。
【0051】
本発明の方法により又は本発明のアッセイの使用により得られるマーカーのレベルは、当業者に周知の多数の方法で分析し得る。例えば、得られた各アッセイ結果を「正常」値又は特定の疾患又は転帰の指標となる値と比較し得る。特定の診断/予後は、各アッセイ結果と、診断又は予後の「閾値」と呼び得るそのような値との比較に依存し得る。ある実施形態において、1又は2以上の診断又は予後指標に関するアッセイは、アッセイの指標の有無だけに基づき、症状又は疾患と関連付けられる。例えば、アッセイは、対象となる特定の閾値濃度を越える場合のみ陽性シグナルが生じ、その濃度を下回る場合にはアッセイによってバックグラウンドを超えるシグナルが生じないように、設計し得る。
【0052】
診断及び/又は予後試験の感度及び特異度は、単に試験の分析の「質」だけに依存するわけではなく、異常な結果の構成因子の定義にも依存する。実際、受信者動作特性曲線(ROC曲線)は、典型的には、「正常」(すなわち外見上健康)及び「疾患」集団(すなわち糖尿病、インスリン抵抗性及び/又はメタボリック症候群に罹患する患者)における変数値 対 その相対度数をプロッティングすることにより算出し得る。ある特定のマーカーに関して、疾患に罹患している及び罹患していない対象のマーカーレベルの分布は重なる可能性がある。そのような条件下では、試験によって、正常を疾患から100%の精度で完全に区別できず、重なり合う領域は、試験によって正常を疾患から区別できないことを意味する。閾値は、それを超える場合(又は、マーカーが疾患によってどのように変化するかに依存して、それを下回る場合)は試験が異常であると判別され、それを下回る場合は試験が正常であると判別されるように選択される。ROC曲線下面積は、把握された測定結果によって状態を正確に特定できる可能性の尺度である。ROC曲線は、試験結果が必ずしも正確な数を与えない場合でさえも利用可能である。結果のランク付けが可能である限り、ROC曲線の作成が可能である。例えば、「疾患」サンプルの試験結果を程度に従ってランク付けし得る(例えば、1=低、2=正常、及び3=高)。このランク付けは、「正常」集団の結果及び作成されたROC曲線と相関させ得る。これらの方法は、当業界で周知である(例えば、Hanley等, Radiology 143 : 29-36 (1982)を参照のこと)。好ましくは、閾値は、ROC曲線面積が約0.5を超える、好ましくは約0.7を超える、さらに好ましくは約0.8を超える、さらに一層好ましくは約0.85を超える、最も好ましくは約0.9を超えるように選択される。この文脈において、「約」という用語は、所定の測定値の±5%を意味する。
【0053】
ROC曲線の横軸は(1−特異度)を表し、それは偽陽性の割合とともに増加する。ROC曲線の縦軸は感度を表し、それは真陽性の割合とともに増加する。したがって、選択された特定のカットオフに対して、(1−特異度)の値を決定し、対応する感度を求め得る。ROC曲線下面積は、測定されたマーカーレベルによって疾患又は状態を正確に特定できる可能性の尺度である。したがって、ROC曲線下面積は、試験の有効性を決定するために利用可能である。
【0054】
ある実施形態において、パネル中の1又は2以上のマーカーに関する特定の閾値は、対象から得られたマーカーレベルのプロファイルが特定の診断/予後の指標であるか否かの決定に依存しない。むしろ、本発明では、マーカーパネル「プロファイル」全体の統一的な評価が利用され得る。そのようなマーカーパネルにおける変化の特定の「フィンガープリント」パターンは、実際、特異的な診断又は予後の指標として機能し得る。明細書中で説明されるように、変化のパターンは、単一のサンプルから、或いはパネル(又はパネル反応値)の1又は2以上のメンバーにおける経時変化から得られる。明細書中で用いられるパネルとは、一組のマーカー群を意味する。
【0055】
明細書中で以下に説明されるように、パネル反応値は、好ましくは、特定のマーカーパネルの感度 対 様々なカットオフでのパネルに対する1−(特異度)についてROC曲線をプロッティングすることにより決定される。これらの方法において、対象由来マーカー測定値のプロファイルがともに考慮され、広範囲の診断又は予後の可能性(数値スコアとして又はパーセンテージリスクとして表現される)をもたらす。そのような実施形態において、あるマーカーサブセットの増加は、ある患者における特定の診断/予後の十分な指標となり得る一方、異なるマーカーサブセットの増加は、別の患者における同一の又は異なる診断/予後の十分な指標となり得る。因子の重み付けも、パネルにおける1又は2以上のマーカーに対して適用され得る。例えば、ある診断/予後を特定する際にあるマーカーが非常に高い有用性を有する場合、そのマーカーが重み付けされ、所定レベルにおいて、そのマーカー単独で陽性結果の十分なシグナルとなり得る。同様に、因子の重み付けにより、所定レベルにおいて、あるマーカーは陽性結果の十分なシグナルとなり得ないが、別のマーカーとともに分析に加えられた場合のみ結果のシグナルとなり得る。
【0056】
ある実施形態において、マーカー及び/又はマーカーパネルは、少なくとも約70%感度、好ましくは少なくとも約80%感度、さらに好ましくは少なくとも約85%感度、さらに一層好ましくは少なくとも約90%感度、最も好ましくは少なくとも約95%感度を、少なくとも約70%特異度、好ましくは少なくとも約80%特異度、さらに好ましくは少なくとも約85%特異度、さらに一層好ましくは少なくとも約90%特異度、最も好ましくは少なくとも約95%特異度とともに示すように、選択される。特に好ましい実施形態において、感度及び特異度はともに、少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約80%、さらに好ましくは少なくとも約85%、さらに一層好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%である。この文脈において、「約」という用語は、所定の測定値の±5%を意味する。
【0057】
その他の実施形態において、陽性尤度比、陰性尤度比、オッズ比又はハザード比が、リスクの予測又は疾患の診断に関する試験の能力の尺度として用いられる。陽性尤度比の場合、1という値は、「疾患」及び「対照」群の両方の対象間において陽性結果が同様に確からしいことを示し;1より大きな値は、疾患群において陽性結果が起こりやすいことを示し;そして、1よりも小さい値は、対照群において陽性結果が起こりやすいことを示す。陰性尤度比の場合、1という値は、「疾患」及び「対照」群の両方の対象間において陰性結果が同様に確からしいことを示し;1よりも大きい値は、試験群において陰性結果が起こりやすいことを示し;そして、1よりも小さい値は、対照群において陰性結果が起こりやすいことを示す。ある好ましい実施形態において、マーカー及び/又はマーカーパネルは、少なくとも約1.5以上又は約0.67以下、好ましくは少なくとも約2以上又は約0.5以下、さらに好ましくは少なくとも約5以上又は約0.2以下、さらに一層好ましくは少なくとも約10以上又は約0.1以下、最も好ましくは少なくとも約20以上又は約0.05以下という陽性又は陰性尤度比を示すように、好ましくは選択される。この文脈において、「約」という用語は、所定の測定値の±5%を意味する。
【0058】
オッズ比の場合、1という値は、「疾患」及び「対照」群の両方の対象間において陽性結果が同様に確からしいことを示し;1より大きな値は、疾患群において陽性結果が起こりやすいことを示し;そして、1よりも小さい値は、対照群において陽性結果が起こりやすいことを示す。ある好ましい実施形態において、マーカー及び/又はマーカーパネルは、少なくとも約2以上又は約0.5以下、好ましくは少なくとも約3以上又は約0.33以下、さらに好ましくは少なくとも約4以上又は約0.25以下、さらに一層好ましくは少なくとも約5以上又は約0.2以下、最も好ましくは少なくとも約10以上又は約0.1以下というオッズ比を示すように、好ましくは選択される。この文脈において、「約」という用語は、所定の測定値の±5%を意味する。
【0059】
ハザード比の場合、1という値は、「疾患」及び「対照」群の両方においてエンドポイント(例えば死)の相対リスクが等しいことを示し;1より大きな値は、疾患群において相対リスクが高いことを示し;そして、1よりも小さい値は、対照群において相対リスクが高いことを示す。ある好ましい実施形態において、マーカー及び/又はマーカーパネルは、少なくとも約1.1以上又は約0.91以下、好ましくは少なくとも約1.25以上又は約0.8以下、さらに好ましくは少なくとも約1.5以上又は約0.67以下、さらに一層好ましくは少なくとも約2以上又は約0.5以下、最も好ましくは少なくとも約2.5以上又は約0.4以下というハザード比を示すように、好ましくは選択される。この文脈において、「約」という用語は、所定の測定値の±5%を意味する。
【0060】
当業者は、診断又は予後の指標と、将来的な臨床転帰の診断又は予後リスクとの関連付けが統計的分析によって為されることを理解するであろう。例えば、統計的に有意なレベルで測定されたマーカーレベルがXよりも高いことは、その患者に有害転帰が生じる可能性が、マーカーレベルがX以下の患者よりも高いことのシグナルとなり得る。さらに、ベースラインレベルからのマーカー濃度の変化は、患者の予後を反映し得るし、マーカーレベルの変化の程度は、有害事象の重症度に関連し得る。統計的有意性は、通常、2以上の集団を比較し、信頼区間及び/又はp値を決定することにより判定される。例えば、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York, 1983を参照のこと。本発明において、好ましい信頼区間は90%,95%,97.5%,98%,99%,99.5%,99.9%及び99.99%であり、好ましいp値は0.1,0.05,0.025,0.02,0.01,0.005,0.001及び0.0001である。
【0061】
さらに別の実施形態において、診断又は予後マーカーの多重決定を行い得るし、マーカーの経時変化を用いて診断又は予後を決定し得る。例えば、対象のサンプル中のマーカー濃度は、初期の時点で決定し得るし、別の時点で再び、対象の別サンプルから決定し得る。そのような実施形態において、初期の時点からの別の時点までのマーカーの増加は、特定の診断又は特定の予後の指標となり得る。同様に、初期の時点から別の時点までのマーカーの減少は、特定の診断又は特定の予後の指標となり得る。
【0062】
明細書中で用いられる「サンプル」という用語は、目的とする対象(例え患者)の診断、予測又は評価のために得られた体液サンプルを意味する。好ましい試験サンプルとしては、例えば、血液,血清,血漿,脳脊髄液,尿,唾液,痰及び胸水が挙げられる。さらに、当業者は、分画又は精製工程(例えば、全血の血清又は血漿成分への分離)の後に、より容易に分析し得ることを理解するであろう。
【0063】
したがって、本発明の好ましい実施形態において、サンプルは、血液サンプル,血清サンプル,血漿サンプル,脳脊髄液サンプル,唾液サンプル及び尿サンプル又はそれらのサンプルのうちのいずれかの抽出物を含む群より選択される。好ましくは、サンプルは血液サンプルであり、最も好ましくは、血清サンプル又は血漿サンプルである。
【0064】
診断及び予後マーカーの使用に関連して明細書中で用いられる「相関する」という用語は、患者におけるマーカーの存在又は量を、所定の症状に罹患していることが知られている又はそのリスクがあることが知られている人における、或いは所定の症状に罹患していないことが知られている人における同マーカーの存在又は量と比較することを意味する。上記のように、患者サンプル中のマーカーレベルを、特定の診断と関連することが知られているレベルと比較し得る。サンプルのマーカーレベルは、診断と相関すると言われている;すなわち、当業者はマーカーレベルを用いて、患者が特定のタイプの診断に適するかどうか、然るべく応答するかどうかを決定し得る。また、サンプルのマーカーレベルを、良好な転帰(例えば、疾患の不存在等)と関連することが知られているマーカーレベルと比較し得る。好ましい実施形態において、マーカーレベルのプロファイルは、全体的な可能性又は特定の転帰と相関付けられる。
【0065】
本発明はまた、上記工程を含む、患者をリスク群に層別化する方法に関する。
【0066】
本発明はまた、対象が2型糖尿病を発症するリスクを予測するための、上記アッセイのいずれかの使用に関する。
【0067】
本発明はさらに、本発明の方法のための、イムノアッセイの使用に関し、該使用において、サンプル中のコペプチン又はその分子変異体のレベルを決定するために、少なくとも1種類の抗コペプチン抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体が用いられる。好ましくは、少なくとも1種類の抗コペプチン抗体は、モノクローナル抗体である。
【0068】
好ましくは、イムノアッセイは、サンドイッチアッセイであり、サンプル中のコペプチン又はその分子変異体のレベルを決定するために、第1の抗コペプチン抗体に加え、第2の抗コペプチン抗体が用いられる。好ましくは、それらの抗体のうち少なくとも1つは、モノクローナル抗体である。
【0069】
また、本発明の範囲には、外見上健康な対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測するための、或いは対象のメタボリック症候群を診断するための、バソプレシン若しくはそのフラグメント又はバソプレシンの前駆体若しくはそのフラグメントに対する捕捉プローブの使用が包含される。好ましくは、捕捉プローブは、プレ−プロ−AVPのアミノ酸位置126−164に存在する1又は2以上のエピトープに対するものである。
【0070】
本発明はまた、プレ−プロ−AVPの132−147位に相当するペプチドに含まれるエピトープに結合するモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体に関する。
【0071】
モノクローナル抗体のフラグメント又は組換え変異体は、プレ−プロ−AVPに対するモノクローナル抗体のアフィニティーの少なくとも80%を示す。好ましくは、モノクローナル抗体のフラグメント又は組換え変異体は、プレ−プロ−AVPの132−147位に相当するペプチドに含まれるエピトープに対するモノクローナル抗体のアフィニティーの少なくとも80%を示す。この要件は、本発明において、合計アッセイ不正確度が2.2pmol/L未満の濃度では20%CVであり、その濃度を超える標準的範囲の濃度では20%CV未満であり、及び/又は9pmol/L未満の濃度では10%CVであり、その濃度を超える標準的範囲の濃度では10%CV未満であるアッセイを実現する上で、上記フラグメント及び組換え変異体がモノクローナル抗体と同程度に有用であるための好ましい要件である。このアッセイは、少なくとも1つの抗体が、プレ−プロ−AVPの132−147位に相当するペプチドに含まれるエピトープに対するモノクローナル抗体のアフィニティーの少なくとも80%を示すモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体である場合に実現され得る。
【0072】
本発明はまた、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測するための、或いはメタボリック症候群を診断するための、アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントに対する捕捉プローブの使用に関する。好ましくは、捕捉プローブは、プレ−プロ−バソプレシン(プレ−プロ−AVP)のアミノ酸位置126−164に存在する1又は2以上のエピトープに対するものである。
【0073】
さらに別の態様において、本発明は、糖尿病、インスリン抵抗性及び/又はメタボリック症候群に対する予防的治療における上記アッセイ又は方法の使用に関する。
【0074】
プレ−プロ−AVPのアミノ酸配列は、配列番号1(図1)に記載されている。コペプチンのアミノ酸配列は、配列番号2(図2)に記載されている。コペプチンはグリコシル化されていてもよい。プレ−プロ−AVPは、アルギニンバソプレシンプロホルモン(プロ−AVP,配列番号3,図3)及びそのフラグメントの前駆体ペプチドである(アルギニンバソプレシン,ニューロフィジンII及びコペプチンを含む)。プレ−プロ−AVPは、プロ−AVPに加えてN末端19アミノ酸シグナル配列を含む。特に明記しない限り、明細書中に記載される全ての配列は、プレ−プロ−AVPの配列を意味する。
【0075】
明細書中で説明されるように、「アッセイ」又は「診断アッセイ」は、診断分野で適用されるいかなる種類のものであってもよい。そのようなアッセイは、検出されるべき検体が、1又は2以上の捕捉プローブに対して、一定のアフィニティーで結合することに基づく。捕捉分子と標的分子又は目的の分子との相互作用に関して、親和定数は、好ましくは108M-1よりも大きい。
【0076】
本発明との関連において、「捕捉分子」は、サンプル由来の標的分子又は目的の分子、すなわち検体(すなわち、本発明との関連では心臓血管ペプチド)に結合させるために用いられ得る分子である。したがって、捕捉分子は、標的分子又は目的の分子に特異的に結合するように、空間的に及び表面特徴(例えば、表面電荷,疎水性,親水性,ルイスドナー及び/又はアクセプターの有無)の点から適切に形作られる必要がある。ここで、捕捉分子と標的分子又は目的の分子との間の結合は、例えば、イオン性,ファン・デル・ワールス,pi−pi,シグマ−pi,疎水性又は水素結合相互作用或いはこれらの相互作用のうち2以上の組み合わせによって媒介され得る。本発明との関連において、捕捉分子は、例えば、核酸分子,炭水化物分子,RNA分子,タンパク質,抗体,ペプチド又は糖タンパク質を含む群より選択され得る。好ましくは、捕捉分子は抗体であり、抗体には、標的又は目的の分子に対する十分なアフィニティーを有する抗体のフラグメントが含まれるとともに、組換え抗体又は組換え抗体フラグメント、並びに、抗体又は変異鎖から誘導された少なくとも12個のアミノ酸長を有するフラグメントの、化学的及び/又は生化学的に修飾された誘導体が含まれる。
【0077】
好ましい検出方法は、イムノアッセイ、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA),化学発光−及び蛍光−イムノアッセイ,酵素結合免疫測定法(ELISA),ルミネックスビーズアレイ,タンパク質マイクロアレイアッセイ等の様々な方式、並びに、例えばイムノクロマトグラフィー細片試験等の迅速試験方式を含む。
【0078】
アッセイは、ホモジニアス又はヘテロジニアスアッセイ、競合及び非競合サンドイッチアッセイ等であり得る。特に好ましい実施形態において、アッセイはサンドイッチアッセイの形態であり、該サンドイッチアッセイは、検出及び/又は定量化すべき分子が1次抗体及び2次抗体に結合する非競合イムノアッセイである。1次抗体は、固相、例えば、ビーズ,ウェル又はその他の容器の表面,チップ又はストリップに結合していてよく、2次抗体は標識された(例えば、色素や、ラジオアイソトープ又は反応性若しくは触媒活性分子で標識された)抗体である。検体に結合する標識化抗体の量が、次いで、適当な方法により測定される。「サンドイッチアッセイ」に関連する一般的な組成物及び方法は十分に確立されており、当業者に周知である(The Immunoassay Handbook, Ed. David Wild, Elsevier LTD, Oxford; 3rd ed. (May 2005), ISBN- 13: 978-0080445267; Hultschig C等, Curr Opin Chem Biol. 2006 Feb ; 10(l) : 4-10. PMID: 16376134, 参照により明細書に組み込まれる)。
【0079】
特に好ましい実施形態において、アッセイは、2種類の捕捉分子、好ましくは両方とも液体反応混合物中に分散状態で存在する2種類の抗体を含み、第1の標識化成分は第1の捕捉分子に結合しており、第1の標識化成分は蛍光−又は化学発光−消光又は増幅に基づく標識化システムの一端を担い、標識化システムの第2の標識化成分は、第2の捕捉分子に結合しており、両捕捉分子の検体に対する結合に基づいて、測定可能なシグナルが生じし、サンプルを含む溶液中で形成されたサンドイッチ複合体の検出が可能となる。
【0080】
さらに一層好ましくは、標識化システムは、希土類元素クリプテート又は希土類元素キレートを、蛍光色素又は化学発光色素、特にシアニン系色素とともに含む。
【0081】
本発明との関連において、蛍光を利用したアッセイは色素の使用を含み、該色素は、例えば、FAM(5−又は6−カルボキシフルオレセイン),VIC,NED,フルオレセイン,フルオレセインイソチオシアネート(FITC),IRD−700/800,シアニン色素、例えば、CY3,CY5,CY3.5,CY5.5,Cy7,キサンテン,6−カルボキシ−2',4',7',4,7−ヘキサクロロフルオレセイン(HEX),TET,6−カルボキシ−4',5'−ジクロロ−2',7'−ジメトキシフルオレセイン(JOE),N,N,N',N'−テトラメチル−6−カルボキシローダミン(TAMRA),6−カルボキシ−X−ローダミン(ROX),5−カルボキシローダミン−6G(R6G5),6−カルボキシローダミン−6G(RG6),ローダミン,ローダミングリーン,ローダミンレッド,ローダミン110,BODIPY色素,例えば、BODIPY TMR,オレゴングリーン,クマリン、例えば、ウンベリフェロン、ベンズイミド、例えば、Hoechst33258;フェナントリジン、例えば、テキサスレッド、ヤキマイエロー、Alexa Fluor、PET、エチジウムブロマイド、アクリジニウム色素、カルバゾール色素、フェノキサジン色素、ポルフィリン色素、ポリメチン色素等を含む群より選択され得る。
【0082】
本発明との関連において、化学発光を利用したアッセイは、Kirk-Othmer, Encyclopedia of chemical technology 4th ed., executive editor, J. I. Kroschwitz; editor, M. Howe-Grant, John Wiley & Sons, 1993, vol.15, p.518-562(この文献および551-562頁に記載された引用文献は参照により明細書に組み込まれる)において化学発光物質に関して記載された物理的原理に基づく色素の使用を含む。好ましい化学発光色素はアクリジニウムエステルである。
【0083】
最も好ましい実施形態において、アッセイはモノクローナル及びポリクローナル抗体を含み、該実施形態を2種類のポリクローナル抗体を含むアッセイと比較した。両アッセイの精度を相対的に評価するために、様々なコペプチン濃度の22個のヒト血清サンプル(2連)測定により、合計アッセイ不正確度を決定した。これらのデータは、6人の異なる実験者が2種類の異なるロットの試薬を用いて2ヶ所の異なる実験室で12種のアッセイ系を実施することにより得られた。得られた精度プロファイルは図4及び5に示される。ポリ/ポリアッセイにおいて、20%CVが2.2pmol/Lの濃度で得られ、10%CVが9pmol/Lの濃度で得られた。対照的に、モノ/ポリアッセイにおいて、20%CVが0.75pmol/Lの濃度で得られ、10%CVが2.9pmol/Lの濃度で得られた。
【0084】
安静状態にある健康な絶食女性のコペプチン濃度の中央値は、3.2pmol/L(Bhandari SS, Loke I, Davies JE, Squire IB, Struck J, Ng LL. Gender and renal function influence plasma levels of copeptin in healthy individuals. Clin Sci (Lond). 2008 JuI 22. [Epub ahead of print])及び3.7pmol/L(Morgenthaler NG, Struck J, Alonso C, Bergmann A. Assay for the measurement of copeptin, a stable peptide derived from the precursor of vasopressin.Clin Chem. 2006 Jan ; 52 (l) : 112-9.)と報告されている。本アッセイにおいて、3.2pmol/Lでの合計アッセイ不正確度は、ポリ/ポリアッセイでは15%と測定され、一方、モノ/ポリアッセイでは9.5%と測定された。したがって、明らかに、モノ/ポリアッセイは、正常集団におけるコペプチンレベルの評価により適している。両アッセイの詳細が以下で説明される:
【0085】
アッセイ1(ポリ/ポリ)
化学発光/コーティング−チューブ方式でのコペプチン測定が文献記載の通り(Morgenthaler NG, Struck J, Alonso C, Bergmann A. Assay for the measurement of copeptin, a stable peptide derived from the precursor of vasopressin. Clin Chem. 2006 Jan ; 52(l) : 112-9.)実施された。すなわち、プレ−プロ−バソプレシンの132−147位に相当するペプチドに対する精製ヒツジポリクローナル抗体でチューブをコーティングした(2μg/チューブ)。プレ−プロ−バソプレシンの149−164位に相当するペプチドに対する精製ヒツジポリクローナル抗体をMACN−アクリジニウム−N−ヒドロキシスクシンイミド−エステルで標識し、トレーサーとして用いた。プレ−プロ−AVPの132−164位に相当するペプチドを正常ウマ血清で希釈した希釈物を標準として用いた。イムノアッセイは、コーティングされたチューブ中、2時間、室温で50μLのサンプル/標準及び200μLのトレーサーをインキュベートすることにより実施した。チューブを1mLのLUMI試験洗浄液(B.R.A.H.M.S. AG, Hennigsdorf Germany)で4回洗浄し、結合した化学発光をLB952Tルミノメーター(Berthold, Bad Wildbach Germany)で測定した。
【0086】
アッセイ2(モノ/ポリ)
プレ−プロ−バソプレシンの132−147位に存在するコペプチン中のエピトープに対するモノクローナル抗体(294/1A7)を開発した。モノクローナル抗体は、文献(Harlow E, Lane D "Antibodies-A Laboratory Manual" 1988 by Cold Spring Harbor Laboratory, pages 148 ff, ISBN 0-87969-314-2)記載の標準的な方法を用いて開発した。すなわち、プレ−プロ−バソプレシンの132−164位に相当する部分のN末端にシステイン残基が付加されて伸長されたペプチドを化学合成し、スルホ−MBSを架橋剤として用いることにより、該ペプチドをBSAに結合させた。この複合体でBalb/cマウスを免疫及び追加免疫した。免疫したマウスの脾臓細胞を骨髄腫細胞株SP2/0と融合し、抗−コペプチン産生ハイブリドーマ細胞を、プレ−プロ−バソプレシンの132−147位に相当するペプチドを認識する抗体を分泌する能力に基づいて選択した。陽性として選択されたハイブリドーマ細胞を再度クローン化し、幾つかのハイブリドーマ細胞株を確立し、そのうちの1つが産生するモノクローナル抗体294/1A7をさらに用いた。
【0087】
モノクローナル抗体を用いて、上記ポリ/ポリアッセイにおいて固相上で用いたポリクローナル抗体と置き換えた。その他の全てのアッセイ成分およびアッセイ性能は、上記ポリ/ポリアッセイに対して変更しなかった。
【0088】
本発明の方法及びアッセイによれば、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群を罹患するリスクを決定し得る。その他の場合では、対象のメタボリック症候群の診断を実施し得る。その際、好ましくは、その他の臨床及び/又は検査パラメーターが組み合わせられる。本発明の方法及びアッセイの結果に基づいて、適当な治療又は予防ストラテジーが対象のために選択され得る。メタボリック症候群及び/又は糖尿病に罹患するリスクが増加した対象に対して、ライフスタイルを変えるように、例えば、日常のカロリー摂取を適度に減らすように、食事構成を変えるように、及び/又は運動を増やすように、アドバイスし得る。
【0089】
本発明者によって見出されたような、対象由来サンプル中のアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルと、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクとの相関は、グルコース恒常性及び糖尿病発症におけるバソプレシン系の役割を示唆する。バソプレシン(並びにそのプロ−ホルモン及びそのフラグメント)のレベルの増加は、糖尿病及びメタボリック症候群と関連する。バソプレシンの作用は、特に、V1b受容体(V1bR)を通じて媒介され得る。したがって、本発明はまた、V1bR受容体の阻害によるメタボリック症候群及び/又は糖尿病の治療又は予防に関する。本発明は、メタボリック症候群及び/又は糖尿病の治療及び/又は予防で用いるためのV1bRアンタゴニストに関する。特に好ましいV1bRアンタゴニストは、抗体及び小分子を含む群から選択し得る。候補となり得るV1bRアンタゴニストは、そのIC50値を、例えば、ラジオ受容体アッセイを用いて測定することにより、当業者に公知の結合アッセイで同定し得る。
【実施例】
【0090】
実施例1:臨床試験
マルモの食事及び癌に関する研究(Malmo Diet and Cancer study, MDC)は、集団に基づく前向きコホートであり、1991−1996年に28,449人に対して実施された。このコホートから、6103人がランダムに選択され、頸動脈疾患の疫学に関して研究された。この研究は、MDC心臓血管コホート(MDC−CC)と呼ばれている。MDC−CCでは、空腹時血漿サンプルが5405人の被験者で採取された。それらのうち、糖尿病に関する公知のリスクファクター、潜在的交絡因子、血漿中コペプチン(P−コペプチン)等の共変量に関する完全なデータは、4742人の個体で利用可能であった(表1)。
【0091】
ベースライン調査では、糖尿病を、医師診断に関する自己申告、抗糖尿病薬の使用、又は6.1mmol/L以上の空腹時血中グルコース(FBG)に基づいて特定した。血漿及び血液に関する全ての分析は、一晩絶食したサンプルで実施した。FBGは、ヘキソキナーゼ−グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ法により、全血で測定した。LDLコレステロールは、Friedewaldの式に従って算出した。−80℃で保存していた空腹時血漿サンプルに関し、我々は上記アッセイ2(モノ/ポリ)を用いてコペプチンを測定した。C反応性タンパク質(CRP)は、高感度アッセイ(Tina-quant CRP, Roche Diagnostics, Basel, Switzerland)を用いて測定した。シスタチンCは、粒子増強免疫比濁分析(particle-enhanced immuno-nephelometric assay)(N Latex Cystatin C, Dade Behring, IL)を用いて測定した。
【0092】
血圧は、仰臥位での安静状態の10分後に、水銀柱血圧計を用いて測定した。喫煙に関しては自己記入質問書から収集し、現在の喫煙を、この1年以内に何らかの喫煙をしたこととして定義した。過去の心臓血管疾患を、ベースライン調査以前の心筋梗塞又は脳卒中の存在として定義した。糖尿病の遺伝性に関しては質問書によって収集し、一等親血縁者の少なくとも1人が糖尿病であることが知られていることとして定義した。
【0093】
ベースライン調査後、2007年6月までの初発糖尿病は、次の3種類の登録データを用いて評価した:(1)マルモ(Malmo)大学病院臨床化学部におけるマルモのHbA1c登録データ(MHR)(該データは、主要なマルモ地域で1990年以降に施設内ケア及び非施設内ケアの下で採取された全てのHbA1cサンプルが分析されて分類されている)。MHRでは、Swedish Mono-S 標準化システムが用いられ、少なくとも2つのHbA1c登録データが≧6.0%であるか(これは、米国グリコヘモグロビン標準化プログラム(NGSP)では7.0%に相当する)、又は少なくとも3つのHbA1c登録データが≧5.5%である(これは、NGSPでは6.5%に相当する)個体が、糖尿病に罹患していると定義された。(2)スウェーデンの全国糖尿病登録データ(National Diabetes Register, NDR)(該データは1996年に開始され、2007年においてスウェーデンの全糖尿病患者の約50%を網羅している);(3)マルモが主要都市であるスコーネ地方の局所的登録データ(糖尿病2000登録データ)(Lindholm E, Eur J Epidemiol 2001 : 17 : 983-989)(該データは2000年に開始され、2001年においてスコーネ地方の全糖尿病患者の約25%を網羅している)。
【0094】
ベースライン調査前に上記3種類の登録データのいずれにも出現しておらず、我々の基準(すなわち、自己報告された病歴において医師が糖尿病と診断していないこと、抗糖尿病治療を行っていないこと、基準試験でのFBGが<6.0mmol/Lであること)に基づくとMDC−CCでのベースライン調査時には糖尿病でなく、NDR又は糖尿病2000登録データにおいて糖尿病患者として登録されていたか或いはMDC−CCでのベースライン調査後から2007年6月までの間のMHRにおいて我々のHbA1cに基づく糖尿病の基準を満たしていた被験者を、初発糖尿病として分類した。研究プロトコルはルンド大学の倫理委員会によって承認された。全ての参加者から書面によるインフォームド・コンセントを得た。
【0095】
統計
全ての計算に関してSPSS統計ソフトウエア(version 14.0)を用いた。正規分布である場合、連続型変数における群間差(group wise differences)はスチューデントt−検定を用いて評価し、平均±SDとして表した。一方、正規分布ではない場合、群間差はマンホイットニー検定を用いて評価し、中央値及び四分位範囲として表した。二値変数における差はカイ二乗検定を用いて評価した。非糖尿病被験者におけるP−コペプチンの四分位数を超える空腹時グルコース及びインスリンの線形傾向に関するP値は、自然対数に変換した空腹時インスリン濃度に関する線形回帰を用いて評価した。我々は、P−コペプチンの四分位数(Q1コペプチン−Q4コペプチン,Q1コペプチンは対照分類である)の増加がコホート全体(n=4742)におけるベースライン時の糖尿病と関係するかを、未処理及び多変量調整したロジスティック回帰を用いて評価した。ベースライン時の非糖尿病被験者(n=4377)において、P−コペプチンの四分位数(Q1コペプチン−Q4コペプチン,Q1コペプチンは対照分類である)の増加が、空腹時インスリンの上位四分位数に属するとともに初発糖尿病に属することとして定義されたインスリン抵抗性と関係するかを、未処理及び多変量ロジスティック回帰を用いて評価した。最後に、空腹時グルコースの異常がない被験者において(空腹時血漿グルコースが6.1mmol/L(FBGが<5.5mmol/Lに相当))(n=3702)、P−コペプチンの四分位数の増加と、初発糖尿病との間の関係を評価した。ロジスティック回帰分析に基づくデータはオッズ比(OR)及び95%信頼区間(CI)として表現した。両側P値が<0.05である場合を統計的に有意と見なした。
【0096】
従来の糖尿病の指標群に加えて、初発糖尿病を予測する際のP−コペプチンの感度及び特異度を評価するために、我々は、パーソナルモデル(年齢,性別,BMI及び糖尿病の遺伝性)及び臨床モデル(パーソナルモデル+収縮期血圧,トリグリセリド,HDL,胴囲及びFBG)の2つの各モデルを、P−コペプチンを追加して及び追加せずに用いて、受信者動作特性(ROC)曲線下面積を比較した。
【0097】
結果
ベースライン調査時の糖尿病患者のうち(n=365)、医師による糖尿病との診断又は治療の前歴を報告した者は29%にすぎなかったが、その大部分(71%)が、ベースライン調査時のFBG≧6.1mmol/Lに基づき、糖尿病に罹患していると分類された。糖尿病患者では、非糖尿病被験者と比較して、P−コペプチンが高かった(表1)。集団のうち非糖尿病区分では、FBGがコペプチンとともに増加した(図11)。未処理モデルと、糖尿病患者及び対照間の単変量比較で有意に相違した全てのベースライン特性の調整後の両方において、空腹時血漿インスリン濃度を除き(モデル1調整)(表2)(図6)、コペプチンの四分位数の増加とともに糖尿病に関するORが漸増した(表1)。非糖尿病被験者において、血漿インスリン濃度が、P−コペプチンの四分位数とともに漸増し(図12)、未処理分析と、モデル1共変量及びFBGを含む拡張モデル1調整後の両方において、インスリン抵抗性に関するOR(集団のうち非糖尿病区分における空腹時血漿インスリンの上位四分位数)が、P−コペプチンとともに増加した(表2)。ベースライン時の非糖尿病被験者において、四分位数の境界のコペプチン濃度は次の通りであった:Q1/Q2:3.13pmol/L,Q2/Q3:5.05pmol/L,Q3/Q4:7.94pmol/L。
【0098】
追跡調査の間に、ベースライン時の非糖尿病被験者のうち(n=4377)、174人の被験者が初発糖尿病を発症し、ベースライン時に空腹時グルコース異常のなかった被験者のうち(n=3702)、79人の被験者が初発糖尿病を発症した(表3)。ベースライン時のP−コペプチンは、初発糖尿病を発症した被験者において、ベースライン時の非糖尿病被験者及びベースライン時に空腹時グルコース異常のなかった被験者と比較して有意に高かった(表3)。初発糖尿病を発症する尤度は、ベースライン時の非糖尿病被験者(図7)及び空腹時グルコース異常のなかった被験者(図8)の両方において、未処理分析及びモデル1共変量の調整後におけるP−コペプチンの四分位数、並びに空腹時インスリン、FBG、喫煙、糖尿病の遺伝性及びLDLとともに増加した(表4)。ベースライン時の非糖尿病被験者において、将来の糖尿病を予測するための受信者動作特性(ROC)曲線下面積は、糖尿病予測のパーソナルモデル及び臨床モデルにコペプチンを追加すると、それぞれ、69.4から71.0%(P=0.08)及び83.2から84.1%(P=0.007)に増加した。ベースライン時に空腹時グルコース異常のなかった被験者において、将来の糖尿病を予測するためのROC曲線下面積は、糖尿病予測のパーソナルモデル及び臨床モデルにコペプチンを追加すると、それぞれ、66.3から71.3%(P=0.03)(図9)及び78.3から80.5%(P=0.04)(図10)に増加した。
【0099】
考察
実施例において、我々は、大規模な集団に基づくコホートにより、糖尿病患者においてP−コペプチンが顕著に上昇していること、並びに、非糖尿病被験者(すなわちFBSが浸透圧に全く影響を与えないレベルである被験者)においてP−コペプチンがFBGとともに直線的に増加することを示した。非糖尿病被験者において、P−コペプチンとインスリン抵抗性(空腹時血漿インスリンによって推定された)との間に強い横断的関係が存在し、この関係はFBGを含む多数の交絡因子に依存しなかった。さらに、ベースライン時のP−コペプチンは、追跡調査間において、初発糖尿病の発症に関する強力なリスク因子であった。重要なことは、この関係が、ベースライン時の糖尿病に関する周知の広範なリスク因子に依存しなかったが、該リスク因子に含まれるFBG及び空腹時インスリンは、P−コペプチンと強い横断的関係にあったことである。コホートが空腹時グルコース異常のない被験者に限定された場合、初発糖尿病症例のうちほぼ半分が、ベースライン時に空腹時グルコース異常のあった被験者で生じたという事実にもかかわらず、P−コペプチンと初発糖尿病との関係が強化された。予想通り、FBGは、初発糖尿病に関する最も強力なリスク因子であった。ベースライン時のFBSが1mmol/L増加するごとに、完全に調整されたモデルにおいて、将来の糖尿病のリスクが11.4(95% CI 7.4−17.5)というORで増加した(表4)。印象深かったことは、FBSを含むベースライン共変量の完全な調整後、空腹時グルコース異常のない被験者における初発糖尿病に関し、コペプチンの上位 対 下位の四分位数が3.6というORと関連したことである(表4)。重要なことは、空腹時グルコース異常のない被験者において、P−コペプチンが従来の糖尿病リスク因子のモデルに追加されると、ROC曲線下面積が有意に2.2−4.0%向上したことであり、このことは、P−コペプチンが各個人の糖尿病のリスク予測の感度及び特異度を向上させることを示す。空腹時グルコース異常のあった被験者を含む大規模なサンプルにおいて、P−コペプチンによるROC曲線下面積の向上は、あまり顕著ではなかった。FBGが高レベルであった被験者(すなわち空腹時グルコース異常のあった被験者)を含む分析においてROC曲線下面積の向上が低下したことは、FBGレベルが6.1mmol/Lという診断限界付近である場合にFBGがより有力な糖尿病の指標となることに起因するかもしれない。一方、糖尿病の診断に用いられていないマーカー、例えば、P−コペプチンは、前糖尿病段階の初期における糖尿病感受性の良好なシグナルとなり得る。空腹時グルコース異常のあった被験者は、一般的に、糖尿病の予測を目的とした医学的処置を受け、いずれにしても、周知の有力な糖尿病予測値であるFBGの上昇が考慮されるので、重要なことは、将来の糖尿病リスクのスクリーニングツールである新規リスクマーカーが、FBGが正常な被験者にとって、より重要であるということである。したがって、我々の知見は、糖尿病予測のために確立されたスクリーニングツールにP−コペプチンを追加することに臨床的価値がある可能性を示す。我々は、初発糖尿病のサブタイプに関するデータを有していないが、我々の集団の非糖尿病区分における平均年齢が57歳であること、及びP−コペプチンとインスリン抵抗性との間に強い横断的関係が存在することを考慮すると、P−コペプチンの上昇は、1型糖尿病よりもむしろ2型糖尿病リスクの指標となると考えられる。
【0100】
糖尿病予測に関連する事項とは別に、我々の知見は、糖尿病の病態生理におけるAVP系の役割及び新規な抗糖尿病治療法の開発可能性を示唆する。動物試験によって、V1aR(V1aR−/−)欠損マウスがAVPレベルの上昇、耐糖能異常及びインスリン抵抗性を呈する一方、V1bR(V1bR−/−)欠損マウスがFBGの低下及びインスリン感受性の改善という反対の表現型を呈することが示された。これらの動物データと、P−コペプチンの上昇がFBGの上昇、インスリン抵抗性及び将来の糖尿病リスクの増加と関連するという我々の知見とに基づき、V1aRレベル又はその付近におけるAVP抵抗性の結果であるAVPの上昇が、V1bRの刺激を通じて、インスリン抵抗性及び糖尿病に寄与することが推測され得る。実際、V2Rの薬理学的遮断、すなわち、視床下部−神経下垂体軸に対するネガティブ・フィードバックを通じたAVP分泌増加の強力な刺激は、低ナトリウム血症患者を30日間トルバプタンで処置した場合の高血糖性イベントの5倍増と関連した。したがって、AVPの上昇は、その発症機序が何であれ、おそらくV1bRの刺激を通じてグルコース恒常性の異常の原因となり得る。これらの知見は、ヒトにおけるグルコース代謝と関係するAVP系の薬理学的処置に関する研究を正当化する。
【0101】
MDC−CCにおいて初発糖尿病症例数は、予想よりも少ないように見えるかもしれない。これを説明できる可能性が最も高い3つの重要な理由がある。(1)MDC研究における参加率は40%にすぎず、その結果、MDC集団は、バックグラウンド集団と比較して、より健康であり、不均衡に多数の女性を含む(Manjer 2001)。この結果、我々が記載した、P−コペプチンと初発糖尿病との関係は、過小評価される可能性がある。(2)3種類の登録データで観察される糖尿病発症率は、人々が積極的にヘルスケアを求めるという前提条件に基づくが、グルコースレベルの集団スクリーニングに基づかず、これにより、FBGの測定により糖尿病が規則的にスクリーニングされる研究で観察されるものよりも低い発症率が生じる。さらに、初発糖尿病に関する我々の定義とは対照的に、MDC−CCのベースライン調査時の糖尿病の定義には、FBGの測定値が含まれていた。実際、糖尿病に罹患していると定義された人々のうち、71%は糖尿病又は抗糖尿病治療の前歴を報告しなかったが、FBGだけに基づいて糖尿病と診断された。ベースライン調査以前に糖尿病に罹患していたことが知られていない多数の糖尿病患者を排除すると、追跡調査間の初発糖尿病の発症率がさらに顕著に減少した。(3)上記で検討した事項に関わらず、我々の研究は、実際に医療システムで糖尿病と診断された多数の初発症例を見落とした可能性がある。MHRでは主要なマルモ地域における1990年以降の全てのHbA1c値が記録されているが、我々は、主要なマルモ地域において、HbA1cが測定されずに糖尿病と診断された症例、或いはHbA1cが1度しか測定されなかったかどうか又はHbA1cが繰り返し測定されたがわずかにしか上昇しなかったかどうかを見落とした。MDC−CCベースライン調査後に主要なマルモ地域の外に移動した結果、MHRにおいて検出されなかった初発糖尿病症例は、全国的なNDR及び/又は局所的な糖尿病2000登録データによって、特に、スウェーデンにおける2007年の全ての糖尿病患者の50%を網羅すると推定された登録データであるNDRによって、検出される十分な機会があるだろう。それでも、NDR及び糖尿病2000登録データの範囲は不完全である。これらの理由から、我々は、追跡調査間に糖尿病を実際に発症した未知数の被験者を非糖尿病と分類した。一方、MHRにおける初発糖尿病の厳格なHbA1c基準と、NDR及び糖尿病2000登録データの証明された有効性とに基づく場合、初発糖尿病症例と分類された被験者のエンドポイントの有効性を、我々は確信している。初発糖尿病の診断に基づく登録データの有効性は、3種類の登録データにおいて、糖尿病に関する周知のリスク因子の大部分が、これらの被験者では糖尿病を発症しなかった被験者と比較して、MDC−CCベースライン時に顕著に上昇したという事実によってさらに裏付けられる(表3)。重要なことは、これらの相違は、初発糖尿病に関連して確立された糖尿病リスク因子及びP−コペプチンに関する我々の知見がMDC−CCベースライン調査時にFBGがほとんど糖尿病性であった被験者によって単に左右された可能性がある点を除き、研究集団がベースライン時に空腹時グルコース異常のない被験者に限定された場合にも等しく顕著であったことである。
【0102】
結論として、P−コペプチンによって、確立された広範な糖尿病リスク因子(例えば、グルコース及びインスリンの空腹時レベル等)とは非依存的に糖尿病が予測される。我々の知見は、糖尿病発症におけるAVP系の役割を示唆し、リスク評価及び新規抗糖尿病薬物療法に対して意義がある。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
【表4】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予後バイオマーカー及び予後アッセイに関する。本発明は、特に、糖尿病の予測及びメタボリック症候群の診断に関する。
【背景技術】
【0002】
抗利尿ホルモン(ADH)としても知られているアルギニンバソプレシン(AVP)は、高血漿浸透圧、低血漿容積及び低血圧の条件下、視床下部で産生され、神経下垂体(neuropituitary gland)から放出される。AVPは、3種類の異なる受容体(V1aR,V1bR及びV2R)に結合する。V1aRは広範に発現しているが(Nature 1993 : 356 : 523-526)、V1bR及びV2Rはそれぞれ下垂体及び腎臓集合管でより特異的に発現している(Nature 1992 : 336-339 及び FEBS Lett 1994 : 356 : 215-220)。AVPの抗利尿作用はV2Rを通じて媒介されるので、V2Rの薬理学的遮断は低ナトリウム血症及び心不全の処置において好ましい作用を有する一方、出血及び低血圧疾患において臨床的に用いられるAVPの血栓形成促進及び血管収縮作用は、主にV1aRを通じて媒介される。さらに、AVP作用は、ACTH放出の調節(V1bR)、肝臓でのグリコーゲン分解の刺激(V1aR)、並びにインスリン及びグルカゴン分泌の刺激(V1aR)と関連することが示唆されている(Morel等, Nature 1992 ; 356 (6369) : 523-6 ; de Keyzer等, FEBS letters 1994 ; 356 (2-3) : 215-20 ; Ventura等, Journal of molecular endocrinology 1999 ; 22 (3) : 251-60)。
【0003】
ヒト及び動物モデルを用いた過去の研究によって、グルコース恒常性、インスリン抵抗性及び糖尿病におけるAVP系の役割が示されている。糖尿病の管理が不良であって浸透圧が増加している患者において、血漿AVPは顕著に上昇しており(Lolait等, Nature 1992 ; 357 (6376) : 336-9)、健康な対象において、AVP注入は血中グルコースレベルの増加をもたらす(Schrier等, N Engl J Med 2006 ; 355 (20) : 2099-112)。V1aR欠損マウスは、グルコース耐性の異常、インスリン抵抗性及びAVPレベルの上昇を呈する一方(Gheorghiade等, Jama 2007 ; 297 (12) : 1332-43 ; Federici等, Annals of medicine 2007 ; 39 (5) : 346-58)、V1bR欠損マウスは、正常マウスと比較して、空腹時血漿グルコースの低下及びインスリン感受性の増加という反対の表現型を示す(Dunser等, Circulation 2003 ; 107 (18) : 2313-9)。
【0004】
バソプレシン遺伝子は、19個のアミノ酸シグナル配列、アルギニンバソプレシン及び2種類の関連タンパク質(すなわち、ニューロフィジンII及びグリコペプチドであるコペプチン)を含む前駆体タンパク質(プレ−プロ−AVP)をコードする。コペプチンは、AVP前駆体のC末端に相当する生物学的に不活性な分解産物であり、AVPと等モル量で産生される。しかしながら、AVPとは対照的に、コペプチンは安定であり、半減期が長く、血小板に結合せず、従ってAVPよりも有意に高い血漿濃度が観察されるので、バソプレシン放出を評価するための代替的な診断ターゲットとして提案されている(Struck J, Morgenthaler NG, Bergmann A. Copeptin, a stable peptide derived from the vasopressin precursor, is elevated in serum of sepsis patients. Peptides. 2005 Dec ; 26 (12) : 2500-4)。
【0005】
AVPは、糖尿病の診断マーカーとして文献に記載されており、AVPレベルが、1型糖尿病モデル動物において、急性又は慢性ストレス因子として、糖尿病と関連することが知られている(Sun Shin Yi等, Enhanced expressions of arginine vasopressing (Avp) in the hypothalamic paraventricular and supraoptic nucleic of type 2 diabetic rats, Neurochem Res (2008) 33 : 833-841)。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、驚くべきことに、アルギニンバソプレシン(AVP)プロホルモン又はそのフラグメントの比較的増加したレベルと、メタボリック症候群の存在及び糖尿病の発症リスクとが関係することを見出した。これとの関連において、少なくとも1種類のモノクローナル抗体を含む高感度かつ高精度のコペプチンアッセイが、本発明により提供される。
【0007】
したがって、本発明の主題は、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測するための、或いは糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクが増加した対象を特定するための、或いは対象のメタボリック症候群を診断するためのin vitro方法であって、
以下の工程:
a.前記対象由来のサンプルを準備する工程、
b.前記サンプル中のアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを決定する工程
c.前記アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを用いて、前記対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患する可能性を予測する、或いはそれに基づいて前記対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを推測する、或いは前記対象のメタボリック症候群を診断する工程
を含む前記方法である。
【0008】
本発明の別の主題は、高感度かつ高感度のコペプチンアッセイである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、プレ−プロ−AVPのアミノ酸配列(配列番号1)を示す図である。
【図2】図2は、CT−プロ−AVP(コペプチン)のアミノ酸配列(配列番号2)を示す図である。
【図3】図3は、プロ−AVPのアミノ酸配列(配列番号3)を示す図である。
【図4】図4は、ポリクローナル/ポリクローナル抗体コペプチンアッセイに関する精度プロファイルを示す図である。コペプチン濃度[pmol/L]に対してアッセイ間変動係数(Inter-assay Coefficient of Variation)(CV[%])がプロットされ、10%及び20%というCVでそれぞれ決定されたコペプチン濃度が示されている。
【図5】図5は、モノクローナル/ポリクローナル抗体コペプチンアッセイに関する精度プロファイルを示す図である。コペプチン濃度[pmol/L]に対してアッセイ間CV[%]がプロットされ、10%及び20%というCVでそれぞれ決定されたコペプチン濃度が示されている。
【図6】図6は、増加した血漿コペプチンが非依存的に糖尿病と関連することを示す図である。糖尿病に関するORとコペプチンレベルの四分位数とがプロットされており、年齢、性別、TG、HDL、SBP、DBP、AHT、BMI、ウエスト、W/H、シスタチンC、CRP、過去のCVDに関して調整されている。
【図7】図7は、血漿コペプチンの上昇が将来の糖尿病(糖尿病であることが知られている被験者又はベースライン時のFBG>6.0mMである被験者は除く)の非依存的な指標であることを示す図である。効果はベースラインのグルコースに非依存的である。糖尿病発症に関するORとコペプチンレベルの四分位数とがプロットされており、年齢、性別、TG、HDL、SBP、DBP、AHT、BMI、ウエスト、W/H、シスタチンC、CRP、過去のCVD、喫煙、糖尿病の遺伝性、fP−インスリン及びfB−グルコースに関して調整されている。
【図8】図8は、血漿コペプチンの上昇が将来の糖尿病(糖尿病であることが知られている被験者又はベースライン時のFBG≧5.4mMである被験者は除く)の非依存的な指標であることを示す図である。効果はグルコースに非依存的であり、IFGの除外後にも維持(強化)される。糖尿病発症に関するORとコペプチンレベルの四分位数とがプロットされており、年齢、性別、TG、HDL、SBP、DBP、AHT、BMI、ウエスト、W/H、シスタチンC、CRP、過去のCVD、喫煙、糖尿病の遺伝性、fP−インスリン及びfB−グルコースに関して調整されている。
【図9】図9は、a)年齢、性別、BMI及び糖尿病の遺伝性の組み合わせ、並びにb)この組み合わせへのコペプチンの追加に基づいて将来の糖尿病を予測するためのROCプロットを示す図である。
【図10】図10は、年齢、性別、SBP、BMI、ウエスト、グルコース、TG、HDL及び糖尿病の遺伝性の組み合わせ、並びにb)この組み合わせへのコペプチンの追加に基づいて将来の糖尿病を予測するためのROCプロットを示す図である。
【図11】図11は、非糖尿病被験者(n=4377)における、増加する血漿コペプチンの四分位数と、空腹時血中グルコースレベル(mmol/L)との相関を示す図である(平均値で表し、信頼区間は95%、P(線形傾向)<0.001である)。
【図12】図12は、非糖尿病被験者(n=4377)における、増加する血漿コペプチンの四分位数と、空腹時インスリングルコースレベル(mU/L)との相関を示す図である(平均値で表し、信頼区間は95%、P(線形傾向)<0.001である)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測するための、或いは糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクが増加した対象を特定するための、或いは対象のメタボリック症候群を診断するための方法であって、
以下の工程:
a.前記対象由来のサンプルを準備する工程、
b.前記サンプル中のアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを決定する工程、
c.前記アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを用いて、前記対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患する可能性を予測する、或いはそれに基づいて前記対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを推測する、或いは前記対象のメタボリック症候群を診断する工程
を含む前記方法に関する。
【0011】
明細書中において「アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを用いて、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患する可能性を予測する、或いはそれに基づいて対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを推測する、或いは対象のメタボリック症候群を診断する」とは、「アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクと、或いは対象のメタボリック症候群の診断と相関させる」という意味を有し得る。
【0012】
本発明の全ての態様の好ましい実施形態において、対象は外見上健康である。
【0013】
明細書中の「外見上健康」という用語は、糖尿病に罹患していない個体に関して用いられる。幾つかの実施形態において、外見上健康な対象は、メタボリック症候群に罹患している。本発明の方法は、対象がメタボリック症候群に罹患しているか否かを診断するために使用し得る。
【0014】
明細書中の「対象」という用語は、生存するヒト又は非ヒト生物を意味する。好ましくは、対象はヒトである。好ましくは、対象は非糖尿病である。
【0015】
特定の実施形態において、外見上健康な対象は、過去に心臓血管若しくは冠動脈イベント又は心不全を発症したことがない又は発症したことが知られていない、或いは心臓血管疾患に罹患していない個体である。冠動脈イベントは、致死的又は非致死的な急性冠症候群(例えば心筋梗塞)、或いは虚血性心疾患による死として定義される。心臓血管イベントは、致死的又は非致死的な急性冠症候群(例えば心筋梗塞)、致死的又は非致死的な脳卒中、或いは心臓血管疾患による死として定義される。さらに、外見上健康な対象は、非常に特定の実施形態において、急性感染症に罹患していなくてもよい。
【0016】
別の非常に特定の実施形態において、外見上健康な対象は、心臓血管疾患に罹患していてもよいし、それに加えて/それに代えて、心臓血管若しくは冠動脈イベント又は心不全を発症していてもよい。ある実施形態において、外見上健康な対象は感染症に罹患していてもよい。
【0017】
ある実施形態において、対象は、6.1mmol/L未満であるが5.4mmol/Lを超える異常な空腹時血糖(異常な空腹時グルコース)、すなわち空腹時血中グルコースレベル(空腹時血中グルコース(FBG)又は空腹時血糖(FBS))を呈する。したがって、特に好ましい実施形態における対象は、空腹時血中グルコースが6.1mmol/L未満であって5.4mmol/Lを超える非糖尿病対象である。
【0018】
別の特に好ましい実施形態において、対象は、異常な空腹時血糖を有しない対象である。したがって、特に好ましい実施形態における対象は、空腹時血中グルコースが5.4mmol/L未満である対象である。
【0019】
空腹時血中グルコースは、対象が最後に食物を摂取してから少なくとも8時間後、典型的には最後の食物摂取から8〜10時間後に測定される。
【0020】
明細書中において、(空腹時)血中グルコースレベルは、全血中グルコースレベルという意味で用いられる。一般的に、全血、血清又は血漿中のグルコースを測定し得るが、基準値はサンプルの種類に応じて異なる。
【0021】
アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルの決定(又は測定又は検出)は、以下で説明する診断アッセイを用いて実施される。
【0022】
アルギニンバソプレシンプロホルモン(プロ−AVP)の好ましいフラグメントは、プロ−AVPのC末端フラグメント(CT−プロ−AVP又はコペプチン)、すなわちプロ−AVPのアミノ酸位置107−145(プレ−プロ−AVPのアミノ酸位置126−164)に相当する、翻訳後修飾(グリコシル化)されたペプチドである。
【0023】
好ましい実施形態において、アルギニンバソプレシンプロホルモン(プロ−AVP)のフラグメントは、成熟AVPではない。
【0024】
本発明の方法の特に好ましい実施形態において、コペプチンのレベルが決定される。
【0025】
プロホルモン及びその他のペプチドとの関連において明細書で言及される「フラグメント」という用語は、より大きなタンパク質又はペプチドから誘導され得る、より小さなタンパク質又はペプチドを意味し、従ってより大きなタンパク質又はペプチドの部分配列を含む。フラグメントは、より大きなタンパク質又はペプチドの1又は2以上のペプチド結合の鹸化により、より大きなタンパク質又はペプチドから誘導し得る。
【0026】
アルギニンバソプレシンプロホルモン(プロ−AVP)の「フラグメント」は、好ましくは、少なくとも6個のアミノ酸長のフラグメント、最も好ましくは少なくとも12個のアミノ酸残基長のフラグメントである。そのようなフラグメントは、好ましくは、明細書中に記載された免疫学的アッセイで検出可能である。
【0027】
本発明との関連において、「プロホルモンのレベル」等の表現及び類似の表現で用いられる「レベル」という用語は、各文脈で言及される分子実体(molecular entity)の量という意味であり、酵素の場合には、酵素活性という意味を含み得る。
【0028】
本発明の方法は、2型糖尿病を発症するリスクの予測に特に好適である。
【0029】
ある実施形態において、空腹時血中又は血漿グルコース、トリグリセリド、HDLコレステロール又はその副画分、LDLコレステロール又はその副画分、シスタチンC、インスリン、CRP、A型及びB型ナトリウム利尿ペプチド並びにそれらの前駆体及びフラグメント(例えば、ANP、プロANP、NT−プロANP、MR−プロANP、BNP、プロBNP、NT−プロBNP、GDF15、ST2)、プロカルシトニン及びそのフラグメント、プロ−アドレノメデュリン及びそのフラグメント(例えば、ADM、PAMP、MR−プロADM、CT−プロADM)、プロ−エンドセリン−1及びそのフラグメント(例えば、CT−プロET−1、NT−プロET−1、ビッグ−エンドセリン−1)並びにエンドセリン−1を含む群より選択された少なくとも1種の検査パラメーター又は追加的なマーカーのレベルをさらに決定して用いることにより、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクの予測、或いはメタボリック症候群の診断を向上させ得る。
【0030】
本発明の特定の実施形態において、年齢、性別、収縮期血圧、拡張期血圧、抗高血圧治療(AHT)、ボディー・マス・インデックス、胴囲、ウエスト・ヒップ比、現在の喫煙、糖尿病の遺伝性及び過去の心臓血管疾患(CVD)を含む群より選択された少なくとも1種の臨床パラメーターがさらに決定される。
【0031】
世界保健機関(WHO)によると、糖尿病は、膵臓が十分なインスリンを産生しない場合又は体内で産生されたインスリンを有効に利用できない場合に発症する慢性疾患である。これにより、血中グルコース濃度の増加(高血糖)が引き起こされる。1型糖尿病(インスリン依存型又は小児期発症型糖尿病として従来から知られている)は、インスリン産生の不足によって特徴付けられる。2型糖尿病(インスリン非依存型又は成人発症型糖尿病と以前呼ばれていた)は、体内でインスリンが有効に利用できないことで引き起こされる。それは、通常、過剰な体重及び運動不足によって生じる。
【0032】
2型真性糖尿病又は2型糖尿病は、インスリン抵抗性、相対的インスリン欠乏及び高血糖によって主に特徴付けられる代謝障害である。世界保健機構によると、糖尿病は、(i)空腹時血漿グルコースが≧7.0mmol/l(126mg/dl)又は(ii)耐糖試験(GTT)において、経口投与2時間後の血漿グルコースが≧11.1mmol/l(200mg/dl)のうち、1つのグルコース値増加が症状とともに観察されるか、そうでなければ2つのグルコース値増加が観察される場合と定義されている。2型糖尿病に共通する初期症状は、呼吸時の微かなフルーツ又は野菜臭である。これは、インスリンに対する応答不足が誘起するケトーシスによって引き起こされ、細胞へのグルコース取込不足を招く。一般的に、高血中グルコースレベルを伴い、それは、インスリンに対する感受性の減少の結果でもある。
【0033】
メタボリック症候群は、心臓血管疾患及び糖尿病を発症するリスクを増加させる医学的障害の組み合わせである。それによって多数の人が影響を被り、有病率は年齢とともに増加する。幾つかの研究では、米国における有病率が人口の25%に及ぶと推定されている。メタボリック症候群はまた、メタボリック症候群X、症候群X、インスリン抵抗性症候群、レーベン(Reaven)症候群、及びCHAOS(オーストラリア)としても知られている。生活スタイルに介入し、これを改善して、糖尿病及び/又は心臓血管疾患の発症を予防できるように、メタボリック症候群に罹患した個体を早期に特定することが重要である。メタボリック症候群の根底にある原因が、専門家たちを悩まし続けている。インスリン抵抗性及び中心性肥満がともに重要な因子であると考えられている。遺伝、運動不足、加齢、炎症状態及びホルモン変化も因果効果となり得るが、これらの役割は民族に応じて変化し得る。メタボリック症候群を引き起こすメカニズムが明らかとなっていないため、メタボリック症候群に関する多数の定義が乱立している。メタボリック症候群に関する複数の定義の存在が、混乱を引き起こし、各定義の利点を比較する多数の研究及び論文につながった。成人における高血中コレステロールの検出、評価及び処置に関するNCEP(The National Cholesterol Education Program)専門家パネルの第3次報告のエグゼクティブ・サマリーによると(Adult Treatment Panel III)(JAMA. 2001 ; 285(19) : 2486-2497)、メタボリック症候群は、以下の事項のうち3以上に該当することとして定義されている:(1)女性の場合は胴囲≧88cm(35インチ)、男性の場合は胴囲≧102cm(40インチ)、(2)BP≧130/85mmHg又は高血圧の治療、(3)空腹時トリグリセリド≧150mg/dL、(4)男性の場合はHDLコレステロール≦40mg/dL、女性の場合はHDLコレステロール≦50mg/dL、及び(5)空腹時血中グルコース≧110mg/dL又は糖尿病の治療。さらに最近の定義では、国際糖尿病連合(International Diabetes Federation)により(http://www.idf.org/webdata/docs/IDF_Meta_def_final.pdf)、幾つかの修正が加えられている。メタボリック症候群を定義する目的は、糖尿病及び/又は心臓血管疾患を発症するリスクが増加した対象を特定することにあるので、そのようなリスクと非依存的に関連する予後因子は、メタボリック症候群と直接的に関連する可能性があり、その意味でメタボリック症候群の有無の診断に有用である。したがって、糖尿病の発症を独立して予測するマーカー、例えば、本発明で示されるコペプチンが、メタボリック症候群の存在に関する診断マーカー(その他の診断検査及び臨床パラメーターとともに)と同時に考慮される必要があり、それは、将来、メタボリック症候群の定義の一部となることが予想される。
【0034】
上記のように、「メタボリック症候群」を医学的状態として定義することの助けとなるように、対象由来のサンプル中のアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントの決定されたレベルを、その他の臨床及び/又は検査パラメーターとともに使用し得る。すなわち、上記に概説された現在の基準は、全てのケースにおいて満足した結果をもたらすものではないので、基準の明確化の点からメタボリック症候群の定義を改良するために、アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを追加的なパラメーターとして使用し得る。
【0035】
インスリン抵抗性(IR)は、所定濃度のインスリンが期待を下回る生物学的効果しか生じない状態である。インスリン抵抗性はまた、血糖コントロールを実現するために及びケトーシスを予防するために1日あたり200単位以上のインスリンが必要であることとして恣意的に定義されてきた。インスリン抵抗性による高レベルの血漿インスリン及びグルコースは、たびたび、メタボリック症候群及び2型糖尿病(その合併症を含む)を引き起こす。IRの症状は、疲労、脳霧(brain fogginess)、焦点不能、低血糖、腸膨満、眠気、体重増加、脂肪貯蔵、体重減少困難、血中トリグリセリド値の増加、血圧の増加及びうつ状態を含み得る。
【0036】
本発明はまた、上記のように、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測するための、或いは糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクが増加した対象を特定するための、或いは対象のメタボリック症候群を診断するための方法に関し、該方法では、アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを単独で、又は予測に有用な他の検査又は臨床パラメーターと組み合わせて用いて、以下の選択肢:
・外見上健康な対象の集団の所定サンプル群におけるアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルの中央値の比較、
・外見上健康な対象の集団の所定サンプル群におけるアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルの変位値の比較、
・コックス比例ハザード分析に基づく又はリスクインデックス計算法(例えばNRI(Net Reclassification Index)又はIDI(Integrated Discrimination Index))を用いた計算
から選択され得る方法によって、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測する、或いはメタボリック症候群を診断する。
【0037】
好ましい実施形態において、アルギニンバソプレシン(AVP)プロホルモン又は少なくとも12個のアミノ酸長を有するそのフラグメントのレベルは、診断アッセイ、好ましくはイムノアッセイにより決定される。特に好ましくは、コペプチン又は少なくとも12アミノ酸長を有するそのフラグメントのレベルが決定される。
【0038】
本発明はまた、各個体に関し、マーカー(本発明では、アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメント(例えばコペプチン等))のレベルを、所定値と比較することを含み得る。所定値は、様々な形をとり得る。それは、単一のカットオフ値、例えば、母集団の中央値、平均値、75th、90th、95th又は99thパーセンタイル値であり得る。それは、例えば、ある特定のグループにおけるリスクが別の特定のグループにおけるリスクの2倍であるというように、グループ間の比較に基づいて設定され得る。それは、例えば、試験された集団が、低リスク群、中リスク群及び高リスク群というグループに、又は最低リスクを有する個体が属する最低四分位数及び最高リスクを有する個体が属する最高四分位数という四分位数に、均一に(又は不均一に)分けられるような範囲であり得る。
【0039】
所定値は、選択された特定の集団において、習慣、民族性、遺伝性等に応じて変化し得る。例えば、外見上健康で非喫煙者の集団(検出可能な疾患なし、特に糖尿病なし)は、マーカーに関し、喫煙者の集団又は糖尿病患者が属する集団とは異なる「正常な」範囲を有し得る。したがって、所定値の選択には、個体が属するカテゴリーが考慮され得る。当業者は、単なる日常的な実験によって、適当な範囲及びカテゴリーを選択し得る。
【0040】
本発明の方法の特定の実施形態において、アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルの使用には、アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを閾値と比較することが含まれ、アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルが閾値を越えるとき、対象の糖尿病及び/又はメタボリック症候群が予測され、糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクが増加した対象が特定される。
【0041】
その他の好ましいカットオフ値は、例えば、正常な集団の90th、95th又は99thパーセンタイルである。75thパーセンタイルよりも高いパーセンタイルを用いることにより、偽陽性と特定される対象の数を減少させ得るが、リスクが緩やかに増加しているものの中程度である対象を特定できない可能性がある。したがって、「偽陽性」を特定することを犠牲にして、リスクを有する大部分の対象を特定することが適当であるか、又は、中程度のリスクを有する一部の対象を特定することを犠牲にして、高リスクを有する対象を主に特定することが適当であるかに基づいて、カットオフ値を選択し得る。
【0042】
各個体のコペプチン値並びにその他の予後検査及び臨床パラメーターを用いて各個体のリスクを計算するための他の数学的可能性として、例えば、コックス回帰分析、NRI(Net Reclassification Index)又はIDI(Integrated Discrimination Index)がある。これらのインデックスはPencina等の方法(Pencina MJ等: Evaluating the added predictive ability of a new marker: from area under the ROC curve to reclassification and beyond. Stat Med. 2008 ; 27 : 157-172)に従って計算され得る。
【0043】
例えば、サンプル中のコペプチンのレベルが5.04pmol/L(すなわち外見上健康な対象の基準集団の濃度中央値)又はそれを超えること、好ましくは7.93pmol/L(すなわち外見上健康な対象の基準集団のQ3/Q4境界濃度)を超えることは、患者の糖尿病に罹患するリスクが増加していることの指標となり得る。明細書中において、Ql、Q2、Q3及びQ4は、外見上健康な対象の基準集団の四分位数を意味する。
【0044】
さらに特定の態様において、本発明は、対象のメタボリック症候群を診断する方法であって、以下の工程:
a.前記対象由来のサンプルを準備する工程、
b.前記サンプル中のアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを決定する工程、
c.メタボリック症候群の診断に関連するその他の臨床及び/又は検査パラメーターを決定する工程
d.アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを、メタボリック症候群の診断に関連するその他の臨床及び/又は検査パラメーターと相関させる工程
を含む前記方法に関する。
【0045】
また、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測するために、或いはメタボリック症候群を診断するために、サンプル中のコペプチンレベルを決定するためのアッセイも、本発明の範囲に包含される。
【0046】
好ましくは、本発明のアッセイは、2.2pmol/L未満の濃度では20%CV、その濃度を超える標準的範囲の濃度では20%CV未満という合計アッセイ不正確度、及び/又は9pmol/L未満の濃度では10%CV、その濃度を超える標準的範囲の濃度では10%CV未満という合計アッセイ不正確度を有する。
【0047】
別の好ましい実施形態において、本発明のアッセイは、安静状態にある健康な絶食女性の白人個体群で測定された血清又は血漿中のコペプチン濃度の中央値において最大12%という合計アッセイ不正確度を有する。
【0048】
上記アッセイの好ましい実施形態において、アッセイは、2種類の抗コペプチン抗体を含み、該抗体のうちの少なくとも1種類がモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体である。
【0049】
本発明はまた、サンプル中のコペプチンのレベルを決定するためのアッセイであって、2種類の抗コペプチン抗体を含み、該抗体のうちの少なくとも1種類がモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体であるアッセイに関する。
【0050】
好ましくは、本発明のアッセイは、モノクローナル及びポリクローナル抗体を含む。
本発明のアッセイの別の好ましい実施形態において、1つのモノクローナル抗体がプレプロバソプレシンの132−147位に相当するペプチドに含まれるエピトープに結合する。
【0051】
本発明の方法により又は本発明のアッセイの使用により得られるマーカーのレベルは、当業者に周知の多数の方法で分析し得る。例えば、得られた各アッセイ結果を「正常」値又は特定の疾患又は転帰の指標となる値と比較し得る。特定の診断/予後は、各アッセイ結果と、診断又は予後の「閾値」と呼び得るそのような値との比較に依存し得る。ある実施形態において、1又は2以上の診断又は予後指標に関するアッセイは、アッセイの指標の有無だけに基づき、症状又は疾患と関連付けられる。例えば、アッセイは、対象となる特定の閾値濃度を越える場合のみ陽性シグナルが生じ、その濃度を下回る場合にはアッセイによってバックグラウンドを超えるシグナルが生じないように、設計し得る。
【0052】
診断及び/又は予後試験の感度及び特異度は、単に試験の分析の「質」だけに依存するわけではなく、異常な結果の構成因子の定義にも依存する。実際、受信者動作特性曲線(ROC曲線)は、典型的には、「正常」(すなわち外見上健康)及び「疾患」集団(すなわち糖尿病、インスリン抵抗性及び/又はメタボリック症候群に罹患する患者)における変数値 対 その相対度数をプロッティングすることにより算出し得る。ある特定のマーカーに関して、疾患に罹患している及び罹患していない対象のマーカーレベルの分布は重なる可能性がある。そのような条件下では、試験によって、正常を疾患から100%の精度で完全に区別できず、重なり合う領域は、試験によって正常を疾患から区別できないことを意味する。閾値は、それを超える場合(又は、マーカーが疾患によってどのように変化するかに依存して、それを下回る場合)は試験が異常であると判別され、それを下回る場合は試験が正常であると判別されるように選択される。ROC曲線下面積は、把握された測定結果によって状態を正確に特定できる可能性の尺度である。ROC曲線は、試験結果が必ずしも正確な数を与えない場合でさえも利用可能である。結果のランク付けが可能である限り、ROC曲線の作成が可能である。例えば、「疾患」サンプルの試験結果を程度に従ってランク付けし得る(例えば、1=低、2=正常、及び3=高)。このランク付けは、「正常」集団の結果及び作成されたROC曲線と相関させ得る。これらの方法は、当業界で周知である(例えば、Hanley等, Radiology 143 : 29-36 (1982)を参照のこと)。好ましくは、閾値は、ROC曲線面積が約0.5を超える、好ましくは約0.7を超える、さらに好ましくは約0.8を超える、さらに一層好ましくは約0.85を超える、最も好ましくは約0.9を超えるように選択される。この文脈において、「約」という用語は、所定の測定値の±5%を意味する。
【0053】
ROC曲線の横軸は(1−特異度)を表し、それは偽陽性の割合とともに増加する。ROC曲線の縦軸は感度を表し、それは真陽性の割合とともに増加する。したがって、選択された特定のカットオフに対して、(1−特異度)の値を決定し、対応する感度を求め得る。ROC曲線下面積は、測定されたマーカーレベルによって疾患又は状態を正確に特定できる可能性の尺度である。したがって、ROC曲線下面積は、試験の有効性を決定するために利用可能である。
【0054】
ある実施形態において、パネル中の1又は2以上のマーカーに関する特定の閾値は、対象から得られたマーカーレベルのプロファイルが特定の診断/予後の指標であるか否かの決定に依存しない。むしろ、本発明では、マーカーパネル「プロファイル」全体の統一的な評価が利用され得る。そのようなマーカーパネルにおける変化の特定の「フィンガープリント」パターンは、実際、特異的な診断又は予後の指標として機能し得る。明細書中で説明されるように、変化のパターンは、単一のサンプルから、或いはパネル(又はパネル反応値)の1又は2以上のメンバーにおける経時変化から得られる。明細書中で用いられるパネルとは、一組のマーカー群を意味する。
【0055】
明細書中で以下に説明されるように、パネル反応値は、好ましくは、特定のマーカーパネルの感度 対 様々なカットオフでのパネルに対する1−(特異度)についてROC曲線をプロッティングすることにより決定される。これらの方法において、対象由来マーカー測定値のプロファイルがともに考慮され、広範囲の診断又は予後の可能性(数値スコアとして又はパーセンテージリスクとして表現される)をもたらす。そのような実施形態において、あるマーカーサブセットの増加は、ある患者における特定の診断/予後の十分な指標となり得る一方、異なるマーカーサブセットの増加は、別の患者における同一の又は異なる診断/予後の十分な指標となり得る。因子の重み付けも、パネルにおける1又は2以上のマーカーに対して適用され得る。例えば、ある診断/予後を特定する際にあるマーカーが非常に高い有用性を有する場合、そのマーカーが重み付けされ、所定レベルにおいて、そのマーカー単独で陽性結果の十分なシグナルとなり得る。同様に、因子の重み付けにより、所定レベルにおいて、あるマーカーは陽性結果の十分なシグナルとなり得ないが、別のマーカーとともに分析に加えられた場合のみ結果のシグナルとなり得る。
【0056】
ある実施形態において、マーカー及び/又はマーカーパネルは、少なくとも約70%感度、好ましくは少なくとも約80%感度、さらに好ましくは少なくとも約85%感度、さらに一層好ましくは少なくとも約90%感度、最も好ましくは少なくとも約95%感度を、少なくとも約70%特異度、好ましくは少なくとも約80%特異度、さらに好ましくは少なくとも約85%特異度、さらに一層好ましくは少なくとも約90%特異度、最も好ましくは少なくとも約95%特異度とともに示すように、選択される。特に好ましい実施形態において、感度及び特異度はともに、少なくとも約75%、好ましくは少なくとも約80%、さらに好ましくは少なくとも約85%、さらに一層好ましくは少なくとも約90%、最も好ましくは少なくとも約95%である。この文脈において、「約」という用語は、所定の測定値の±5%を意味する。
【0057】
その他の実施形態において、陽性尤度比、陰性尤度比、オッズ比又はハザード比が、リスクの予測又は疾患の診断に関する試験の能力の尺度として用いられる。陽性尤度比の場合、1という値は、「疾患」及び「対照」群の両方の対象間において陽性結果が同様に確からしいことを示し;1より大きな値は、疾患群において陽性結果が起こりやすいことを示し;そして、1よりも小さい値は、対照群において陽性結果が起こりやすいことを示す。陰性尤度比の場合、1という値は、「疾患」及び「対照」群の両方の対象間において陰性結果が同様に確からしいことを示し;1よりも大きい値は、試験群において陰性結果が起こりやすいことを示し;そして、1よりも小さい値は、対照群において陰性結果が起こりやすいことを示す。ある好ましい実施形態において、マーカー及び/又はマーカーパネルは、少なくとも約1.5以上又は約0.67以下、好ましくは少なくとも約2以上又は約0.5以下、さらに好ましくは少なくとも約5以上又は約0.2以下、さらに一層好ましくは少なくとも約10以上又は約0.1以下、最も好ましくは少なくとも約20以上又は約0.05以下という陽性又は陰性尤度比を示すように、好ましくは選択される。この文脈において、「約」という用語は、所定の測定値の±5%を意味する。
【0058】
オッズ比の場合、1という値は、「疾患」及び「対照」群の両方の対象間において陽性結果が同様に確からしいことを示し;1より大きな値は、疾患群において陽性結果が起こりやすいことを示し;そして、1よりも小さい値は、対照群において陽性結果が起こりやすいことを示す。ある好ましい実施形態において、マーカー及び/又はマーカーパネルは、少なくとも約2以上又は約0.5以下、好ましくは少なくとも約3以上又は約0.33以下、さらに好ましくは少なくとも約4以上又は約0.25以下、さらに一層好ましくは少なくとも約5以上又は約0.2以下、最も好ましくは少なくとも約10以上又は約0.1以下というオッズ比を示すように、好ましくは選択される。この文脈において、「約」という用語は、所定の測定値の±5%を意味する。
【0059】
ハザード比の場合、1という値は、「疾患」及び「対照」群の両方においてエンドポイント(例えば死)の相対リスクが等しいことを示し;1より大きな値は、疾患群において相対リスクが高いことを示し;そして、1よりも小さい値は、対照群において相対リスクが高いことを示す。ある好ましい実施形態において、マーカー及び/又はマーカーパネルは、少なくとも約1.1以上又は約0.91以下、好ましくは少なくとも約1.25以上又は約0.8以下、さらに好ましくは少なくとも約1.5以上又は約0.67以下、さらに一層好ましくは少なくとも約2以上又は約0.5以下、最も好ましくは少なくとも約2.5以上又は約0.4以下というハザード比を示すように、好ましくは選択される。この文脈において、「約」という用語は、所定の測定値の±5%を意味する。
【0060】
当業者は、診断又は予後の指標と、将来的な臨床転帰の診断又は予後リスクとの関連付けが統計的分析によって為されることを理解するであろう。例えば、統計的に有意なレベルで測定されたマーカーレベルがXよりも高いことは、その患者に有害転帰が生じる可能性が、マーカーレベルがX以下の患者よりも高いことのシグナルとなり得る。さらに、ベースラインレベルからのマーカー濃度の変化は、患者の予後を反映し得るし、マーカーレベルの変化の程度は、有害事象の重症度に関連し得る。統計的有意性は、通常、2以上の集団を比較し、信頼区間及び/又はp値を決定することにより判定される。例えば、Dowdy and Wearden, Statistics for Research, John Wiley & Sons, New York, 1983を参照のこと。本発明において、好ましい信頼区間は90%,95%,97.5%,98%,99%,99.5%,99.9%及び99.99%であり、好ましいp値は0.1,0.05,0.025,0.02,0.01,0.005,0.001及び0.0001である。
【0061】
さらに別の実施形態において、診断又は予後マーカーの多重決定を行い得るし、マーカーの経時変化を用いて診断又は予後を決定し得る。例えば、対象のサンプル中のマーカー濃度は、初期の時点で決定し得るし、別の時点で再び、対象の別サンプルから決定し得る。そのような実施形態において、初期の時点からの別の時点までのマーカーの増加は、特定の診断又は特定の予後の指標となり得る。同様に、初期の時点から別の時点までのマーカーの減少は、特定の診断又は特定の予後の指標となり得る。
【0062】
明細書中で用いられる「サンプル」という用語は、目的とする対象(例え患者)の診断、予測又は評価のために得られた体液サンプルを意味する。好ましい試験サンプルとしては、例えば、血液,血清,血漿,脳脊髄液,尿,唾液,痰及び胸水が挙げられる。さらに、当業者は、分画又は精製工程(例えば、全血の血清又は血漿成分への分離)の後に、より容易に分析し得ることを理解するであろう。
【0063】
したがって、本発明の好ましい実施形態において、サンプルは、血液サンプル,血清サンプル,血漿サンプル,脳脊髄液サンプル,唾液サンプル及び尿サンプル又はそれらのサンプルのうちのいずれかの抽出物を含む群より選択される。好ましくは、サンプルは血液サンプルであり、最も好ましくは、血清サンプル又は血漿サンプルである。
【0064】
診断及び予後マーカーの使用に関連して明細書中で用いられる「相関する」という用語は、患者におけるマーカーの存在又は量を、所定の症状に罹患していることが知られている又はそのリスクがあることが知られている人における、或いは所定の症状に罹患していないことが知られている人における同マーカーの存在又は量と比較することを意味する。上記のように、患者サンプル中のマーカーレベルを、特定の診断と関連することが知られているレベルと比較し得る。サンプルのマーカーレベルは、診断と相関すると言われている;すなわち、当業者はマーカーレベルを用いて、患者が特定のタイプの診断に適するかどうか、然るべく応答するかどうかを決定し得る。また、サンプルのマーカーレベルを、良好な転帰(例えば、疾患の不存在等)と関連することが知られているマーカーレベルと比較し得る。好ましい実施形態において、マーカーレベルのプロファイルは、全体的な可能性又は特定の転帰と相関付けられる。
【0065】
本発明はまた、上記工程を含む、患者をリスク群に層別化する方法に関する。
【0066】
本発明はまた、対象が2型糖尿病を発症するリスクを予測するための、上記アッセイのいずれかの使用に関する。
【0067】
本発明はさらに、本発明の方法のための、イムノアッセイの使用に関し、該使用において、サンプル中のコペプチン又はその分子変異体のレベルを決定するために、少なくとも1種類の抗コペプチン抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体が用いられる。好ましくは、少なくとも1種類の抗コペプチン抗体は、モノクローナル抗体である。
【0068】
好ましくは、イムノアッセイは、サンドイッチアッセイであり、サンプル中のコペプチン又はその分子変異体のレベルを決定するために、第1の抗コペプチン抗体に加え、第2の抗コペプチン抗体が用いられる。好ましくは、それらの抗体のうち少なくとも1つは、モノクローナル抗体である。
【0069】
また、本発明の範囲には、外見上健康な対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測するための、或いは対象のメタボリック症候群を診断するための、バソプレシン若しくはそのフラグメント又はバソプレシンの前駆体若しくはそのフラグメントに対する捕捉プローブの使用が包含される。好ましくは、捕捉プローブは、プレ−プロ−AVPのアミノ酸位置126−164に存在する1又は2以上のエピトープに対するものである。
【0070】
本発明はまた、プレ−プロ−AVPの132−147位に相当するペプチドに含まれるエピトープに結合するモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体に関する。
【0071】
モノクローナル抗体のフラグメント又は組換え変異体は、プレ−プロ−AVPに対するモノクローナル抗体のアフィニティーの少なくとも80%を示す。好ましくは、モノクローナル抗体のフラグメント又は組換え変異体は、プレ−プロ−AVPの132−147位に相当するペプチドに含まれるエピトープに対するモノクローナル抗体のアフィニティーの少なくとも80%を示す。この要件は、本発明において、合計アッセイ不正確度が2.2pmol/L未満の濃度では20%CVであり、その濃度を超える標準的範囲の濃度では20%CV未満であり、及び/又は9pmol/L未満の濃度では10%CVであり、その濃度を超える標準的範囲の濃度では10%CV未満であるアッセイを実現する上で、上記フラグメント及び組換え変異体がモノクローナル抗体と同程度に有用であるための好ましい要件である。このアッセイは、少なくとも1つの抗体が、プレ−プロ−AVPの132−147位に相当するペプチドに含まれるエピトープに対するモノクローナル抗体のアフィニティーの少なくとも80%を示すモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体である場合に実現され得る。
【0072】
本発明はまた、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測するための、或いはメタボリック症候群を診断するための、アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントに対する捕捉プローブの使用に関する。好ましくは、捕捉プローブは、プレ−プロ−バソプレシン(プレ−プロ−AVP)のアミノ酸位置126−164に存在する1又は2以上のエピトープに対するものである。
【0073】
さらに別の態様において、本発明は、糖尿病、インスリン抵抗性及び/又はメタボリック症候群に対する予防的治療における上記アッセイ又は方法の使用に関する。
【0074】
プレ−プロ−AVPのアミノ酸配列は、配列番号1(図1)に記載されている。コペプチンのアミノ酸配列は、配列番号2(図2)に記載されている。コペプチンはグリコシル化されていてもよい。プレ−プロ−AVPは、アルギニンバソプレシンプロホルモン(プロ−AVP,配列番号3,図3)及びそのフラグメントの前駆体ペプチドである(アルギニンバソプレシン,ニューロフィジンII及びコペプチンを含む)。プレ−プロ−AVPは、プロ−AVPに加えてN末端19アミノ酸シグナル配列を含む。特に明記しない限り、明細書中に記載される全ての配列は、プレ−プロ−AVPの配列を意味する。
【0075】
明細書中で説明されるように、「アッセイ」又は「診断アッセイ」は、診断分野で適用されるいかなる種類のものであってもよい。そのようなアッセイは、検出されるべき検体が、1又は2以上の捕捉プローブに対して、一定のアフィニティーで結合することに基づく。捕捉分子と標的分子又は目的の分子との相互作用に関して、親和定数は、好ましくは108M-1よりも大きい。
【0076】
本発明との関連において、「捕捉分子」は、サンプル由来の標的分子又は目的の分子、すなわち検体(すなわち、本発明との関連では心臓血管ペプチド)に結合させるために用いられ得る分子である。したがって、捕捉分子は、標的分子又は目的の分子に特異的に結合するように、空間的に及び表面特徴(例えば、表面電荷,疎水性,親水性,ルイスドナー及び/又はアクセプターの有無)の点から適切に形作られる必要がある。ここで、捕捉分子と標的分子又は目的の分子との間の結合は、例えば、イオン性,ファン・デル・ワールス,pi−pi,シグマ−pi,疎水性又は水素結合相互作用或いはこれらの相互作用のうち2以上の組み合わせによって媒介され得る。本発明との関連において、捕捉分子は、例えば、核酸分子,炭水化物分子,RNA分子,タンパク質,抗体,ペプチド又は糖タンパク質を含む群より選択され得る。好ましくは、捕捉分子は抗体であり、抗体には、標的又は目的の分子に対する十分なアフィニティーを有する抗体のフラグメントが含まれるとともに、組換え抗体又は組換え抗体フラグメント、並びに、抗体又は変異鎖から誘導された少なくとも12個のアミノ酸長を有するフラグメントの、化学的及び/又は生化学的に修飾された誘導体が含まれる。
【0077】
好ましい検出方法は、イムノアッセイ、例えば、ラジオイムノアッセイ(RIA),化学発光−及び蛍光−イムノアッセイ,酵素結合免疫測定法(ELISA),ルミネックスビーズアレイ,タンパク質マイクロアレイアッセイ等の様々な方式、並びに、例えばイムノクロマトグラフィー細片試験等の迅速試験方式を含む。
【0078】
アッセイは、ホモジニアス又はヘテロジニアスアッセイ、競合及び非競合サンドイッチアッセイ等であり得る。特に好ましい実施形態において、アッセイはサンドイッチアッセイの形態であり、該サンドイッチアッセイは、検出及び/又は定量化すべき分子が1次抗体及び2次抗体に結合する非競合イムノアッセイである。1次抗体は、固相、例えば、ビーズ,ウェル又はその他の容器の表面,チップ又はストリップに結合していてよく、2次抗体は標識された(例えば、色素や、ラジオアイソトープ又は反応性若しくは触媒活性分子で標識された)抗体である。検体に結合する標識化抗体の量が、次いで、適当な方法により測定される。「サンドイッチアッセイ」に関連する一般的な組成物及び方法は十分に確立されており、当業者に周知である(The Immunoassay Handbook, Ed. David Wild, Elsevier LTD, Oxford; 3rd ed. (May 2005), ISBN- 13: 978-0080445267; Hultschig C等, Curr Opin Chem Biol. 2006 Feb ; 10(l) : 4-10. PMID: 16376134, 参照により明細書に組み込まれる)。
【0079】
特に好ましい実施形態において、アッセイは、2種類の捕捉分子、好ましくは両方とも液体反応混合物中に分散状態で存在する2種類の抗体を含み、第1の標識化成分は第1の捕捉分子に結合しており、第1の標識化成分は蛍光−又は化学発光−消光又は増幅に基づく標識化システムの一端を担い、標識化システムの第2の標識化成分は、第2の捕捉分子に結合しており、両捕捉分子の検体に対する結合に基づいて、測定可能なシグナルが生じし、サンプルを含む溶液中で形成されたサンドイッチ複合体の検出が可能となる。
【0080】
さらに一層好ましくは、標識化システムは、希土類元素クリプテート又は希土類元素キレートを、蛍光色素又は化学発光色素、特にシアニン系色素とともに含む。
【0081】
本発明との関連において、蛍光を利用したアッセイは色素の使用を含み、該色素は、例えば、FAM(5−又は6−カルボキシフルオレセイン),VIC,NED,フルオレセイン,フルオレセインイソチオシアネート(FITC),IRD−700/800,シアニン色素、例えば、CY3,CY5,CY3.5,CY5.5,Cy7,キサンテン,6−カルボキシ−2',4',7',4,7−ヘキサクロロフルオレセイン(HEX),TET,6−カルボキシ−4',5'−ジクロロ−2',7'−ジメトキシフルオレセイン(JOE),N,N,N',N'−テトラメチル−6−カルボキシローダミン(TAMRA),6−カルボキシ−X−ローダミン(ROX),5−カルボキシローダミン−6G(R6G5),6−カルボキシローダミン−6G(RG6),ローダミン,ローダミングリーン,ローダミンレッド,ローダミン110,BODIPY色素,例えば、BODIPY TMR,オレゴングリーン,クマリン、例えば、ウンベリフェロン、ベンズイミド、例えば、Hoechst33258;フェナントリジン、例えば、テキサスレッド、ヤキマイエロー、Alexa Fluor、PET、エチジウムブロマイド、アクリジニウム色素、カルバゾール色素、フェノキサジン色素、ポルフィリン色素、ポリメチン色素等を含む群より選択され得る。
【0082】
本発明との関連において、化学発光を利用したアッセイは、Kirk-Othmer, Encyclopedia of chemical technology 4th ed., executive editor, J. I. Kroschwitz; editor, M. Howe-Grant, John Wiley & Sons, 1993, vol.15, p.518-562(この文献および551-562頁に記載された引用文献は参照により明細書に組み込まれる)において化学発光物質に関して記載された物理的原理に基づく色素の使用を含む。好ましい化学発光色素はアクリジニウムエステルである。
【0083】
最も好ましい実施形態において、アッセイはモノクローナル及びポリクローナル抗体を含み、該実施形態を2種類のポリクローナル抗体を含むアッセイと比較した。両アッセイの精度を相対的に評価するために、様々なコペプチン濃度の22個のヒト血清サンプル(2連)測定により、合計アッセイ不正確度を決定した。これらのデータは、6人の異なる実験者が2種類の異なるロットの試薬を用いて2ヶ所の異なる実験室で12種のアッセイ系を実施することにより得られた。得られた精度プロファイルは図4及び5に示される。ポリ/ポリアッセイにおいて、20%CVが2.2pmol/Lの濃度で得られ、10%CVが9pmol/Lの濃度で得られた。対照的に、モノ/ポリアッセイにおいて、20%CVが0.75pmol/Lの濃度で得られ、10%CVが2.9pmol/Lの濃度で得られた。
【0084】
安静状態にある健康な絶食女性のコペプチン濃度の中央値は、3.2pmol/L(Bhandari SS, Loke I, Davies JE, Squire IB, Struck J, Ng LL. Gender and renal function influence plasma levels of copeptin in healthy individuals. Clin Sci (Lond). 2008 JuI 22. [Epub ahead of print])及び3.7pmol/L(Morgenthaler NG, Struck J, Alonso C, Bergmann A. Assay for the measurement of copeptin, a stable peptide derived from the precursor of vasopressin.Clin Chem. 2006 Jan ; 52 (l) : 112-9.)と報告されている。本アッセイにおいて、3.2pmol/Lでの合計アッセイ不正確度は、ポリ/ポリアッセイでは15%と測定され、一方、モノ/ポリアッセイでは9.5%と測定された。したがって、明らかに、モノ/ポリアッセイは、正常集団におけるコペプチンレベルの評価により適している。両アッセイの詳細が以下で説明される:
【0085】
アッセイ1(ポリ/ポリ)
化学発光/コーティング−チューブ方式でのコペプチン測定が文献記載の通り(Morgenthaler NG, Struck J, Alonso C, Bergmann A. Assay for the measurement of copeptin, a stable peptide derived from the precursor of vasopressin. Clin Chem. 2006 Jan ; 52(l) : 112-9.)実施された。すなわち、プレ−プロ−バソプレシンの132−147位に相当するペプチドに対する精製ヒツジポリクローナル抗体でチューブをコーティングした(2μg/チューブ)。プレ−プロ−バソプレシンの149−164位に相当するペプチドに対する精製ヒツジポリクローナル抗体をMACN−アクリジニウム−N−ヒドロキシスクシンイミド−エステルで標識し、トレーサーとして用いた。プレ−プロ−AVPの132−164位に相当するペプチドを正常ウマ血清で希釈した希釈物を標準として用いた。イムノアッセイは、コーティングされたチューブ中、2時間、室温で50μLのサンプル/標準及び200μLのトレーサーをインキュベートすることにより実施した。チューブを1mLのLUMI試験洗浄液(B.R.A.H.M.S. AG, Hennigsdorf Germany)で4回洗浄し、結合した化学発光をLB952Tルミノメーター(Berthold, Bad Wildbach Germany)で測定した。
【0086】
アッセイ2(モノ/ポリ)
プレ−プロ−バソプレシンの132−147位に存在するコペプチン中のエピトープに対するモノクローナル抗体(294/1A7)を開発した。モノクローナル抗体は、文献(Harlow E, Lane D "Antibodies-A Laboratory Manual" 1988 by Cold Spring Harbor Laboratory, pages 148 ff, ISBN 0-87969-314-2)記載の標準的な方法を用いて開発した。すなわち、プレ−プロ−バソプレシンの132−164位に相当する部分のN末端にシステイン残基が付加されて伸長されたペプチドを化学合成し、スルホ−MBSを架橋剤として用いることにより、該ペプチドをBSAに結合させた。この複合体でBalb/cマウスを免疫及び追加免疫した。免疫したマウスの脾臓細胞を骨髄腫細胞株SP2/0と融合し、抗−コペプチン産生ハイブリドーマ細胞を、プレ−プロ−バソプレシンの132−147位に相当するペプチドを認識する抗体を分泌する能力に基づいて選択した。陽性として選択されたハイブリドーマ細胞を再度クローン化し、幾つかのハイブリドーマ細胞株を確立し、そのうちの1つが産生するモノクローナル抗体294/1A7をさらに用いた。
【0087】
モノクローナル抗体を用いて、上記ポリ/ポリアッセイにおいて固相上で用いたポリクローナル抗体と置き換えた。その他の全てのアッセイ成分およびアッセイ性能は、上記ポリ/ポリアッセイに対して変更しなかった。
【0088】
本発明の方法及びアッセイによれば、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群を罹患するリスクを決定し得る。その他の場合では、対象のメタボリック症候群の診断を実施し得る。その際、好ましくは、その他の臨床及び/又は検査パラメーターが組み合わせられる。本発明の方法及びアッセイの結果に基づいて、適当な治療又は予防ストラテジーが対象のために選択され得る。メタボリック症候群及び/又は糖尿病に罹患するリスクが増加した対象に対して、ライフスタイルを変えるように、例えば、日常のカロリー摂取を適度に減らすように、食事構成を変えるように、及び/又は運動を増やすように、アドバイスし得る。
【0089】
本発明者によって見出されたような、対象由来サンプル中のアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルと、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクとの相関は、グルコース恒常性及び糖尿病発症におけるバソプレシン系の役割を示唆する。バソプレシン(並びにそのプロ−ホルモン及びそのフラグメント)のレベルの増加は、糖尿病及びメタボリック症候群と関連する。バソプレシンの作用は、特に、V1b受容体(V1bR)を通じて媒介され得る。したがって、本発明はまた、V1bR受容体の阻害によるメタボリック症候群及び/又は糖尿病の治療又は予防に関する。本発明は、メタボリック症候群及び/又は糖尿病の治療及び/又は予防で用いるためのV1bRアンタゴニストに関する。特に好ましいV1bRアンタゴニストは、抗体及び小分子を含む群から選択し得る。候補となり得るV1bRアンタゴニストは、そのIC50値を、例えば、ラジオ受容体アッセイを用いて測定することにより、当業者に公知の結合アッセイで同定し得る。
【実施例】
【0090】
実施例1:臨床試験
マルモの食事及び癌に関する研究(Malmo Diet and Cancer study, MDC)は、集団に基づく前向きコホートであり、1991−1996年に28,449人に対して実施された。このコホートから、6103人がランダムに選択され、頸動脈疾患の疫学に関して研究された。この研究は、MDC心臓血管コホート(MDC−CC)と呼ばれている。MDC−CCでは、空腹時血漿サンプルが5405人の被験者で採取された。それらのうち、糖尿病に関する公知のリスクファクター、潜在的交絡因子、血漿中コペプチン(P−コペプチン)等の共変量に関する完全なデータは、4742人の個体で利用可能であった(表1)。
【0091】
ベースライン調査では、糖尿病を、医師診断に関する自己申告、抗糖尿病薬の使用、又は6.1mmol/L以上の空腹時血中グルコース(FBG)に基づいて特定した。血漿及び血液に関する全ての分析は、一晩絶食したサンプルで実施した。FBGは、ヘキソキナーゼ−グルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ法により、全血で測定した。LDLコレステロールは、Friedewaldの式に従って算出した。−80℃で保存していた空腹時血漿サンプルに関し、我々は上記アッセイ2(モノ/ポリ)を用いてコペプチンを測定した。C反応性タンパク質(CRP)は、高感度アッセイ(Tina-quant CRP, Roche Diagnostics, Basel, Switzerland)を用いて測定した。シスタチンCは、粒子増強免疫比濁分析(particle-enhanced immuno-nephelometric assay)(N Latex Cystatin C, Dade Behring, IL)を用いて測定した。
【0092】
血圧は、仰臥位での安静状態の10分後に、水銀柱血圧計を用いて測定した。喫煙に関しては自己記入質問書から収集し、現在の喫煙を、この1年以内に何らかの喫煙をしたこととして定義した。過去の心臓血管疾患を、ベースライン調査以前の心筋梗塞又は脳卒中の存在として定義した。糖尿病の遺伝性に関しては質問書によって収集し、一等親血縁者の少なくとも1人が糖尿病であることが知られていることとして定義した。
【0093】
ベースライン調査後、2007年6月までの初発糖尿病は、次の3種類の登録データを用いて評価した:(1)マルモ(Malmo)大学病院臨床化学部におけるマルモのHbA1c登録データ(MHR)(該データは、主要なマルモ地域で1990年以降に施設内ケア及び非施設内ケアの下で採取された全てのHbA1cサンプルが分析されて分類されている)。MHRでは、Swedish Mono-S 標準化システムが用いられ、少なくとも2つのHbA1c登録データが≧6.0%であるか(これは、米国グリコヘモグロビン標準化プログラム(NGSP)では7.0%に相当する)、又は少なくとも3つのHbA1c登録データが≧5.5%である(これは、NGSPでは6.5%に相当する)個体が、糖尿病に罹患していると定義された。(2)スウェーデンの全国糖尿病登録データ(National Diabetes Register, NDR)(該データは1996年に開始され、2007年においてスウェーデンの全糖尿病患者の約50%を網羅している);(3)マルモが主要都市であるスコーネ地方の局所的登録データ(糖尿病2000登録データ)(Lindholm E, Eur J Epidemiol 2001 : 17 : 983-989)(該データは2000年に開始され、2001年においてスコーネ地方の全糖尿病患者の約25%を網羅している)。
【0094】
ベースライン調査前に上記3種類の登録データのいずれにも出現しておらず、我々の基準(すなわち、自己報告された病歴において医師が糖尿病と診断していないこと、抗糖尿病治療を行っていないこと、基準試験でのFBGが<6.0mmol/Lであること)に基づくとMDC−CCでのベースライン調査時には糖尿病でなく、NDR又は糖尿病2000登録データにおいて糖尿病患者として登録されていたか或いはMDC−CCでのベースライン調査後から2007年6月までの間のMHRにおいて我々のHbA1cに基づく糖尿病の基準を満たしていた被験者を、初発糖尿病として分類した。研究プロトコルはルンド大学の倫理委員会によって承認された。全ての参加者から書面によるインフォームド・コンセントを得た。
【0095】
統計
全ての計算に関してSPSS統計ソフトウエア(version 14.0)を用いた。正規分布である場合、連続型変数における群間差(group wise differences)はスチューデントt−検定を用いて評価し、平均±SDとして表した。一方、正規分布ではない場合、群間差はマンホイットニー検定を用いて評価し、中央値及び四分位範囲として表した。二値変数における差はカイ二乗検定を用いて評価した。非糖尿病被験者におけるP−コペプチンの四分位数を超える空腹時グルコース及びインスリンの線形傾向に関するP値は、自然対数に変換した空腹時インスリン濃度に関する線形回帰を用いて評価した。我々は、P−コペプチンの四分位数(Q1コペプチン−Q4コペプチン,Q1コペプチンは対照分類である)の増加がコホート全体(n=4742)におけるベースライン時の糖尿病と関係するかを、未処理及び多変量調整したロジスティック回帰を用いて評価した。ベースライン時の非糖尿病被験者(n=4377)において、P−コペプチンの四分位数(Q1コペプチン−Q4コペプチン,Q1コペプチンは対照分類である)の増加が、空腹時インスリンの上位四分位数に属するとともに初発糖尿病に属することとして定義されたインスリン抵抗性と関係するかを、未処理及び多変量ロジスティック回帰を用いて評価した。最後に、空腹時グルコースの異常がない被験者において(空腹時血漿グルコースが6.1mmol/L(FBGが<5.5mmol/Lに相当))(n=3702)、P−コペプチンの四分位数の増加と、初発糖尿病との間の関係を評価した。ロジスティック回帰分析に基づくデータはオッズ比(OR)及び95%信頼区間(CI)として表現した。両側P値が<0.05である場合を統計的に有意と見なした。
【0096】
従来の糖尿病の指標群に加えて、初発糖尿病を予測する際のP−コペプチンの感度及び特異度を評価するために、我々は、パーソナルモデル(年齢,性別,BMI及び糖尿病の遺伝性)及び臨床モデル(パーソナルモデル+収縮期血圧,トリグリセリド,HDL,胴囲及びFBG)の2つの各モデルを、P−コペプチンを追加して及び追加せずに用いて、受信者動作特性(ROC)曲線下面積を比較した。
【0097】
結果
ベースライン調査時の糖尿病患者のうち(n=365)、医師による糖尿病との診断又は治療の前歴を報告した者は29%にすぎなかったが、その大部分(71%)が、ベースライン調査時のFBG≧6.1mmol/Lに基づき、糖尿病に罹患していると分類された。糖尿病患者では、非糖尿病被験者と比較して、P−コペプチンが高かった(表1)。集団のうち非糖尿病区分では、FBGがコペプチンとともに増加した(図11)。未処理モデルと、糖尿病患者及び対照間の単変量比較で有意に相違した全てのベースライン特性の調整後の両方において、空腹時血漿インスリン濃度を除き(モデル1調整)(表2)(図6)、コペプチンの四分位数の増加とともに糖尿病に関するORが漸増した(表1)。非糖尿病被験者において、血漿インスリン濃度が、P−コペプチンの四分位数とともに漸増し(図12)、未処理分析と、モデル1共変量及びFBGを含む拡張モデル1調整後の両方において、インスリン抵抗性に関するOR(集団のうち非糖尿病区分における空腹時血漿インスリンの上位四分位数)が、P−コペプチンとともに増加した(表2)。ベースライン時の非糖尿病被験者において、四分位数の境界のコペプチン濃度は次の通りであった:Q1/Q2:3.13pmol/L,Q2/Q3:5.05pmol/L,Q3/Q4:7.94pmol/L。
【0098】
追跡調査の間に、ベースライン時の非糖尿病被験者のうち(n=4377)、174人の被験者が初発糖尿病を発症し、ベースライン時に空腹時グルコース異常のなかった被験者のうち(n=3702)、79人の被験者が初発糖尿病を発症した(表3)。ベースライン時のP−コペプチンは、初発糖尿病を発症した被験者において、ベースライン時の非糖尿病被験者及びベースライン時に空腹時グルコース異常のなかった被験者と比較して有意に高かった(表3)。初発糖尿病を発症する尤度は、ベースライン時の非糖尿病被験者(図7)及び空腹時グルコース異常のなかった被験者(図8)の両方において、未処理分析及びモデル1共変量の調整後におけるP−コペプチンの四分位数、並びに空腹時インスリン、FBG、喫煙、糖尿病の遺伝性及びLDLとともに増加した(表4)。ベースライン時の非糖尿病被験者において、将来の糖尿病を予測するための受信者動作特性(ROC)曲線下面積は、糖尿病予測のパーソナルモデル及び臨床モデルにコペプチンを追加すると、それぞれ、69.4から71.0%(P=0.08)及び83.2から84.1%(P=0.007)に増加した。ベースライン時に空腹時グルコース異常のなかった被験者において、将来の糖尿病を予測するためのROC曲線下面積は、糖尿病予測のパーソナルモデル及び臨床モデルにコペプチンを追加すると、それぞれ、66.3から71.3%(P=0.03)(図9)及び78.3から80.5%(P=0.04)(図10)に増加した。
【0099】
考察
実施例において、我々は、大規模な集団に基づくコホートにより、糖尿病患者においてP−コペプチンが顕著に上昇していること、並びに、非糖尿病被験者(すなわちFBSが浸透圧に全く影響を与えないレベルである被験者)においてP−コペプチンがFBGとともに直線的に増加することを示した。非糖尿病被験者において、P−コペプチンとインスリン抵抗性(空腹時血漿インスリンによって推定された)との間に強い横断的関係が存在し、この関係はFBGを含む多数の交絡因子に依存しなかった。さらに、ベースライン時のP−コペプチンは、追跡調査間において、初発糖尿病の発症に関する強力なリスク因子であった。重要なことは、この関係が、ベースライン時の糖尿病に関する周知の広範なリスク因子に依存しなかったが、該リスク因子に含まれるFBG及び空腹時インスリンは、P−コペプチンと強い横断的関係にあったことである。コホートが空腹時グルコース異常のない被験者に限定された場合、初発糖尿病症例のうちほぼ半分が、ベースライン時に空腹時グルコース異常のあった被験者で生じたという事実にもかかわらず、P−コペプチンと初発糖尿病との関係が強化された。予想通り、FBGは、初発糖尿病に関する最も強力なリスク因子であった。ベースライン時のFBSが1mmol/L増加するごとに、完全に調整されたモデルにおいて、将来の糖尿病のリスクが11.4(95% CI 7.4−17.5)というORで増加した(表4)。印象深かったことは、FBSを含むベースライン共変量の完全な調整後、空腹時グルコース異常のない被験者における初発糖尿病に関し、コペプチンの上位 対 下位の四分位数が3.6というORと関連したことである(表4)。重要なことは、空腹時グルコース異常のない被験者において、P−コペプチンが従来の糖尿病リスク因子のモデルに追加されると、ROC曲線下面積が有意に2.2−4.0%向上したことであり、このことは、P−コペプチンが各個人の糖尿病のリスク予測の感度及び特異度を向上させることを示す。空腹時グルコース異常のあった被験者を含む大規模なサンプルにおいて、P−コペプチンによるROC曲線下面積の向上は、あまり顕著ではなかった。FBGが高レベルであった被験者(すなわち空腹時グルコース異常のあった被験者)を含む分析においてROC曲線下面積の向上が低下したことは、FBGレベルが6.1mmol/Lという診断限界付近である場合にFBGがより有力な糖尿病の指標となることに起因するかもしれない。一方、糖尿病の診断に用いられていないマーカー、例えば、P−コペプチンは、前糖尿病段階の初期における糖尿病感受性の良好なシグナルとなり得る。空腹時グルコース異常のあった被験者は、一般的に、糖尿病の予測を目的とした医学的処置を受け、いずれにしても、周知の有力な糖尿病予測値であるFBGの上昇が考慮されるので、重要なことは、将来の糖尿病リスクのスクリーニングツールである新規リスクマーカーが、FBGが正常な被験者にとって、より重要であるということである。したがって、我々の知見は、糖尿病予測のために確立されたスクリーニングツールにP−コペプチンを追加することに臨床的価値がある可能性を示す。我々は、初発糖尿病のサブタイプに関するデータを有していないが、我々の集団の非糖尿病区分における平均年齢が57歳であること、及びP−コペプチンとインスリン抵抗性との間に強い横断的関係が存在することを考慮すると、P−コペプチンの上昇は、1型糖尿病よりもむしろ2型糖尿病リスクの指標となると考えられる。
【0100】
糖尿病予測に関連する事項とは別に、我々の知見は、糖尿病の病態生理におけるAVP系の役割及び新規な抗糖尿病治療法の開発可能性を示唆する。動物試験によって、V1aR(V1aR−/−)欠損マウスがAVPレベルの上昇、耐糖能異常及びインスリン抵抗性を呈する一方、V1bR(V1bR−/−)欠損マウスがFBGの低下及びインスリン感受性の改善という反対の表現型を呈することが示された。これらの動物データと、P−コペプチンの上昇がFBGの上昇、インスリン抵抗性及び将来の糖尿病リスクの増加と関連するという我々の知見とに基づき、V1aRレベル又はその付近におけるAVP抵抗性の結果であるAVPの上昇が、V1bRの刺激を通じて、インスリン抵抗性及び糖尿病に寄与することが推測され得る。実際、V2Rの薬理学的遮断、すなわち、視床下部−神経下垂体軸に対するネガティブ・フィードバックを通じたAVP分泌増加の強力な刺激は、低ナトリウム血症患者を30日間トルバプタンで処置した場合の高血糖性イベントの5倍増と関連した。したがって、AVPの上昇は、その発症機序が何であれ、おそらくV1bRの刺激を通じてグルコース恒常性の異常の原因となり得る。これらの知見は、ヒトにおけるグルコース代謝と関係するAVP系の薬理学的処置に関する研究を正当化する。
【0101】
MDC−CCにおいて初発糖尿病症例数は、予想よりも少ないように見えるかもしれない。これを説明できる可能性が最も高い3つの重要な理由がある。(1)MDC研究における参加率は40%にすぎず、その結果、MDC集団は、バックグラウンド集団と比較して、より健康であり、不均衡に多数の女性を含む(Manjer 2001)。この結果、我々が記載した、P−コペプチンと初発糖尿病との関係は、過小評価される可能性がある。(2)3種類の登録データで観察される糖尿病発症率は、人々が積極的にヘルスケアを求めるという前提条件に基づくが、グルコースレベルの集団スクリーニングに基づかず、これにより、FBGの測定により糖尿病が規則的にスクリーニングされる研究で観察されるものよりも低い発症率が生じる。さらに、初発糖尿病に関する我々の定義とは対照的に、MDC−CCのベースライン調査時の糖尿病の定義には、FBGの測定値が含まれていた。実際、糖尿病に罹患していると定義された人々のうち、71%は糖尿病又は抗糖尿病治療の前歴を報告しなかったが、FBGだけに基づいて糖尿病と診断された。ベースライン調査以前に糖尿病に罹患していたことが知られていない多数の糖尿病患者を排除すると、追跡調査間の初発糖尿病の発症率がさらに顕著に減少した。(3)上記で検討した事項に関わらず、我々の研究は、実際に医療システムで糖尿病と診断された多数の初発症例を見落とした可能性がある。MHRでは主要なマルモ地域における1990年以降の全てのHbA1c値が記録されているが、我々は、主要なマルモ地域において、HbA1cが測定されずに糖尿病と診断された症例、或いはHbA1cが1度しか測定されなかったかどうか又はHbA1cが繰り返し測定されたがわずかにしか上昇しなかったかどうかを見落とした。MDC−CCベースライン調査後に主要なマルモ地域の外に移動した結果、MHRにおいて検出されなかった初発糖尿病症例は、全国的なNDR及び/又は局所的な糖尿病2000登録データによって、特に、スウェーデンにおける2007年の全ての糖尿病患者の50%を網羅すると推定された登録データであるNDRによって、検出される十分な機会があるだろう。それでも、NDR及び糖尿病2000登録データの範囲は不完全である。これらの理由から、我々は、追跡調査間に糖尿病を実際に発症した未知数の被験者を非糖尿病と分類した。一方、MHRにおける初発糖尿病の厳格なHbA1c基準と、NDR及び糖尿病2000登録データの証明された有効性とに基づく場合、初発糖尿病症例と分類された被験者のエンドポイントの有効性を、我々は確信している。初発糖尿病の診断に基づく登録データの有効性は、3種類の登録データにおいて、糖尿病に関する周知のリスク因子の大部分が、これらの被験者では糖尿病を発症しなかった被験者と比較して、MDC−CCベースライン時に顕著に上昇したという事実によってさらに裏付けられる(表3)。重要なことは、これらの相違は、初発糖尿病に関連して確立された糖尿病リスク因子及びP−コペプチンに関する我々の知見がMDC−CCベースライン調査時にFBGがほとんど糖尿病性であった被験者によって単に左右された可能性がある点を除き、研究集団がベースライン時に空腹時グルコース異常のない被験者に限定された場合にも等しく顕著であったことである。
【0102】
結論として、P−コペプチンによって、確立された広範な糖尿病リスク因子(例えば、グルコース及びインスリンの空腹時レベル等)とは非依存的に糖尿病が予測される。我々の知見は、糖尿病発症におけるAVP系の役割を示唆し、リスク評価及び新規抗糖尿病薬物療法に対して意義がある。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
【表3】
【0106】
【表4】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測するための、或いは糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクが増加した対象を特定するための、或いは対象のメタボリック症候群を診断するための方法であって、
前記対象が非糖尿病であり、
以下の工程:
a.前記対象由来のサンプルを準備する工程、
b.前記サンプル中のアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを決定する工程、
c.前記アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを用いて、前記対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患する可能性を予測する、或いはそれに基づいて前記対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを推測する、或いは前記対象のメタボリック症候群を診断する工程
を含む前記方法。
【請求項2】
前記対象が外見上健康である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記対象が、空腹時血中グルコースが6.1mmol/L未満であって5.4mmol/Lを超える非糖尿病対象である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記対象が、空腹時血中グルコースが5.4mmol/L未満である対象である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
前記対象が2型糖尿病を発症するリスクを判別する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
空腹時血中又は血漿グルコース;トリグリセリド;HDLコレステロール又はその副画分;LDLコレステロール又はその副画分;シスタチンC;インスリン;CRP;ANP、プロANP、NT−プロANP、MR−プロANP、BNP、プロBNP、NT−プロBNP、GDF15、ST2を含むA型及びB型ナトリウム利尿ペプチド並びにそれらの前駆体及びフラグメント;プロカルシトニン及びそのフラグメント;ADM、PAMP、MR−プロADM、CT−プロADMを含むプロ−アドレノメデュリン及びそのフラグメント;CT−プロET−1、NT−プロET−1、ビッグ−エンドセリン−1を含むプロ−エンドセリン−1及びそのフラグメント並びにエンドセリン−1を含む群より選択された少なくとも1種の検査パラメーター又は追加的なマーカーのレベルをさらに決定して用いることにより、前記対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクの予測、或いはメタボリック症候群の診断を向上させる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
年齢、性別、収縮期血圧、拡張期血圧、抗高血圧治療(AHT)、ボディー・マス・インデックス、胴囲、ウエスト・ヒップ比、現在の喫煙、糖尿病の遺伝性及び過去の心臓血管疾患(CVD)を含む群より選択された少なくとも1種の臨床パラメーターをさらに決定する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測するための、或いは糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクが増加した対象を特定するための、或いは対象のメタボリック症候群を診断するための、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法であって、
アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを単独で、又は予測に有用な他の検査又は臨床パラメーターと組み合わせて用いて、以下の選択肢:
・外見上健康な対象の集団の所定サンプル群におけるアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルの中央値の比較、
・外見上健康な対象の集団の所定サンプル群におけるアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルの変位値の比較、
・コックス比例ハザード分析に基づく又はリスクインデックス計算法(例えばNRI(Net Reclassification Index)又はIDI(Integrated Discrimination Index))を用いた計算
から選択され得る方法によって、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測する、或いはメタボリック症候群を診断する前記方法。
【請求項9】
前記サンプルが、血液サンプル、血清サンプル、血漿サンプル、脳脊髄液サンプル、唾液サンプル及び尿サンプル又はそれらのサンプルの抽出物を含む群から選択される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
アルギニンバソプレシン(AVP)プロホルモン又は少なくとも12個のアミノ酸長を有するそのフラグメントのレベルを、診断アッセイ、好ましくはイムノアッセイによって決定する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
コペプチン又は少なくとも12個のアミノ酸長を有するそのフラグメントのレベルを決定する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
対象のメタボリック症候群を診断するための方法であって、
以下の工程:
a.前記対象由来のサンプルを準備する工程、
b.前記サンプル中のアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを決定する工程、
c.メタボリック症候群の診断に関連する他の臨床及び/又は検査パラメーターを決定する工程、
d.アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを、メタボリック症候群の診断に関連する他の臨床及び/又は検査パラメーターと相関させる工程
を含む前記方法。
【請求項13】
サンプル中のコペプチンのレベルを決定するためのアッセイであって、2.2pmol/L未満の濃度では20%CV、その濃度を超える標準的範囲の濃度では20%CV未満という合計アッセイ不正確度、及び/又は9pmol/L未満の濃度では10%CV、その濃度を超える標準的範囲の濃度では10%CV未満という合計アッセイ不正確度を有する前記アッセイ。
【請求項14】
サンプル中のコペプチンのレベルを決定するためのアッセイであって、安静状態にある健康な絶食女性の白人個体群で決定された血清又は血漿中のコペプチン濃度の中央値において最大12%という合計アッセイ不正確度を有する前記アッセイ。
【請求項15】
サンプル中のコペプチンのレベルを決定するための請求項13又は14記載のアッセイであって、前記アッセイが2種類の抗コペプチン抗体を含み、前記抗体のうちの少なくとも1種類がモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体である前記アッセイ。
【請求項16】
サンプル中のコペプチンのレベルを決定するためのアッセイであって、前記アッセイが2種類の抗コペプチン抗体を含み、前記抗体のうちの少なくとも1種類がモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体である前記アッセイ。
【請求項17】
サンプル中のコペプチンのレベルを決定するための請求項15又は16記載のアッセイであって、前記アッセイが2種類の抗コペプチン抗体を含み、前記抗体のうちの少なくとも1種類が、プレプロバソプレシンの132−147位に相当するペプチドに含まれるエピトープに結合するモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体である前記アッセイ。
【請求項18】
請求項16又は17記載のアッセイであって、前記アッセイが抗コペプチンモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体と、抗コペプチンポリクローナル抗体又はそのフラグメント変異体とを含む前記アッセイ。
【請求項19】
対象が糖尿病を発症するリスクを予測するための請求項13〜18のいずれか1項に記載のアッセイの使用。
【請求項20】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法のためのイムノアッセイの使用であって、少なくとも1種類の抗コペプチン抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体を用いて、サンプル中のコペプチン又はその分子変異体のレベルを決定する前記使用。
【請求項21】
請求項20記載のイムノアッセイの使用であって、前記イムノアッセイがサンドイッチアッセイであり、二次抗体を用いてサンプル中のコペプチン又はその分子変異体のレベルを決定する前記使用。
【請求項22】
外見上健康な対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測するための、或いはメタボリック症候群を診断するための、バソプレシン若しくはそのフラグメント又はその前駆体若しくはそのフラグメントに対する捕捉プローブの使用。
【請求項23】
プレプロバソプレシンの132−147位に相当するペプチドに含まれるエピトープに結合するモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体。
【請求項24】
請求項13〜18のいずれか1項に記載のアッセイにおいてサンドイッチ方式で用いられるとき、2.2pmol/L未満の濃度では20%CV、その濃度を超える標準的範囲の濃度では20%CV未満という合計アッセイ不正確度、及び/又は9pmol/L未満の濃度では10%CV、その濃度を超える標準的範囲の濃度では10%CV未満という合計アッセイ不正確度をもたらすモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体。
【請求項25】
メタボリック症候群及び/又は糖尿病の予防に使用のためのV1bRアンタゴニスト。
【請求項26】
抗体及び小分子を含む群より選択される、請求項25記載のV1bRアンタゴニスト。
【請求項1】
対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測するための、或いは糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクが増加した対象を特定するための、或いは対象のメタボリック症候群を診断するための方法であって、
前記対象が非糖尿病であり、
以下の工程:
a.前記対象由来のサンプルを準備する工程、
b.前記サンプル中のアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを決定する工程、
c.前記アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを用いて、前記対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患する可能性を予測する、或いはそれに基づいて前記対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを推測する、或いは前記対象のメタボリック症候群を診断する工程
を含む前記方法。
【請求項2】
前記対象が外見上健康である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記対象が、空腹時血中グルコースが6.1mmol/L未満であって5.4mmol/Lを超える非糖尿病対象である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記対象が、空腹時血中グルコースが5.4mmol/L未満である対象である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項5】
前記対象が2型糖尿病を発症するリスクを判別する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
空腹時血中又は血漿グルコース;トリグリセリド;HDLコレステロール又はその副画分;LDLコレステロール又はその副画分;シスタチンC;インスリン;CRP;ANP、プロANP、NT−プロANP、MR−プロANP、BNP、プロBNP、NT−プロBNP、GDF15、ST2を含むA型及びB型ナトリウム利尿ペプチド並びにそれらの前駆体及びフラグメント;プロカルシトニン及びそのフラグメント;ADM、PAMP、MR−プロADM、CT−プロADMを含むプロ−アドレノメデュリン及びそのフラグメント;CT−プロET−1、NT−プロET−1、ビッグ−エンドセリン−1を含むプロ−エンドセリン−1及びそのフラグメント並びにエンドセリン−1を含む群より選択された少なくとも1種の検査パラメーター又は追加的なマーカーのレベルをさらに決定して用いることにより、前記対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクの予測、或いはメタボリック症候群の診断を向上させる、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
年齢、性別、収縮期血圧、拡張期血圧、抗高血圧治療(AHT)、ボディー・マス・インデックス、胴囲、ウエスト・ヒップ比、現在の喫煙、糖尿病の遺伝性及び過去の心臓血管疾患(CVD)を含む群より選択された少なくとも1種の臨床パラメーターをさらに決定する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測するための、或いは糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクが増加した対象を特定するための、或いは対象のメタボリック症候群を診断するための、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法であって、
アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを単独で、又は予測に有用な他の検査又は臨床パラメーターと組み合わせて用いて、以下の選択肢:
・外見上健康な対象の集団の所定サンプル群におけるアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルの中央値の比較、
・外見上健康な対象の集団の所定サンプル群におけるアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルの変位値の比較、
・コックス比例ハザード分析に基づく又はリスクインデックス計算法(例えばNRI(Net Reclassification Index)又はIDI(Integrated Discrimination Index))を用いた計算
から選択され得る方法によって、対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測する、或いはメタボリック症候群を診断する前記方法。
【請求項9】
前記サンプルが、血液サンプル、血清サンプル、血漿サンプル、脳脊髄液サンプル、唾液サンプル及び尿サンプル又はそれらのサンプルの抽出物を含む群から選択される、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
アルギニンバソプレシン(AVP)プロホルモン又は少なくとも12個のアミノ酸長を有するそのフラグメントのレベルを、診断アッセイ、好ましくはイムノアッセイによって決定する、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
コペプチン又は少なくとも12個のアミノ酸長を有するそのフラグメントのレベルを決定する、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
対象のメタボリック症候群を診断するための方法であって、
以下の工程:
a.前記対象由来のサンプルを準備する工程、
b.前記サンプル中のアルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを決定する工程、
c.メタボリック症候群の診断に関連する他の臨床及び/又は検査パラメーターを決定する工程、
d.アルギニンバソプレシンプロホルモン又はそのフラグメントのレベルを、メタボリック症候群の診断に関連する他の臨床及び/又は検査パラメーターと相関させる工程
を含む前記方法。
【請求項13】
サンプル中のコペプチンのレベルを決定するためのアッセイであって、2.2pmol/L未満の濃度では20%CV、その濃度を超える標準的範囲の濃度では20%CV未満という合計アッセイ不正確度、及び/又は9pmol/L未満の濃度では10%CV、その濃度を超える標準的範囲の濃度では10%CV未満という合計アッセイ不正確度を有する前記アッセイ。
【請求項14】
サンプル中のコペプチンのレベルを決定するためのアッセイであって、安静状態にある健康な絶食女性の白人個体群で決定された血清又は血漿中のコペプチン濃度の中央値において最大12%という合計アッセイ不正確度を有する前記アッセイ。
【請求項15】
サンプル中のコペプチンのレベルを決定するための請求項13又は14記載のアッセイであって、前記アッセイが2種類の抗コペプチン抗体を含み、前記抗体のうちの少なくとも1種類がモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体である前記アッセイ。
【請求項16】
サンプル中のコペプチンのレベルを決定するためのアッセイであって、前記アッセイが2種類の抗コペプチン抗体を含み、前記抗体のうちの少なくとも1種類がモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体である前記アッセイ。
【請求項17】
サンプル中のコペプチンのレベルを決定するための請求項15又は16記載のアッセイであって、前記アッセイが2種類の抗コペプチン抗体を含み、前記抗体のうちの少なくとも1種類が、プレプロバソプレシンの132−147位に相当するペプチドに含まれるエピトープに結合するモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体である前記アッセイ。
【請求項18】
請求項16又は17記載のアッセイであって、前記アッセイが抗コペプチンモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体と、抗コペプチンポリクローナル抗体又はそのフラグメント変異体とを含む前記アッセイ。
【請求項19】
対象が糖尿病を発症するリスクを予測するための請求項13〜18のいずれか1項に記載のアッセイの使用。
【請求項20】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法のためのイムノアッセイの使用であって、少なくとも1種類の抗コペプチン抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体を用いて、サンプル中のコペプチン又はその分子変異体のレベルを決定する前記使用。
【請求項21】
請求項20記載のイムノアッセイの使用であって、前記イムノアッセイがサンドイッチアッセイであり、二次抗体を用いてサンプル中のコペプチン又はその分子変異体のレベルを決定する前記使用。
【請求項22】
外見上健康な対象が糖尿病及び/又はメタボリック症候群に罹患するリスクを予測するための、或いはメタボリック症候群を診断するための、バソプレシン若しくはそのフラグメント又はその前駆体若しくはそのフラグメントに対する捕捉プローブの使用。
【請求項23】
プレプロバソプレシンの132−147位に相当するペプチドに含まれるエピトープに結合するモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体。
【請求項24】
請求項13〜18のいずれか1項に記載のアッセイにおいてサンドイッチ方式で用いられるとき、2.2pmol/L未満の濃度では20%CV、その濃度を超える標準的範囲の濃度では20%CV未満という合計アッセイ不正確度、及び/又は9pmol/L未満の濃度では10%CV、その濃度を超える標準的範囲の濃度では10%CV未満という合計アッセイ不正確度をもたらすモノクローナル抗体又はそのフラグメント若しくは組換え変異体。
【請求項25】
メタボリック症候群及び/又は糖尿病の予防に使用のためのV1bRアンタゴニスト。
【請求項26】
抗体及び小分子を含む群より選択される、請求項25記載のV1bRアンタゴニスト。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公表番号】特表2012−507020(P2012−507020A)
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533626(P2011−533626)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際出願番号】PCT/EP2009/007923
【国際公開番号】WO2010/049179
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(508093584)ベー.エル.アー.ハー.エム.エス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (27)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際出願番号】PCT/EP2009/007923
【国際公開番号】WO2010/049179
【国際公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(508093584)ベー.エル.アー.ハー.エム.エス ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (27)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】
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