説明

糖尿病の予防のためのスルホンアミド

糖尿病、特にI型糖尿病を予防する医薬の調製のための、式(I)のスルホンアミド(式中のRおよびRは明細書中に定めるものである)の使用を本明細書に開示する。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病の予防に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、膵β細胞(ランゲルハンス島細胞)が分泌する、グルコースをエネルギーに変えるホルモンであるインスリンを、身体が十分に産生しないか、またはインスリンに応答できない疾患である。
【0003】
より詳細には、糖尿病は、ランゲルハンス島細胞がインスリンを産生せず、大部分の場合は自己免疫由来のものであるI型糖尿病、およびインスリンに対する細胞の応答性欠損による状態であって通常はインスリン分泌低下と組み合わさったII型糖尿病に区別される。
【0004】
I型糖尿病の療法は、慎重な血糖値モニタリングと組み合わせた皮下注射による人工インスリン投与で構成される。初期のII型糖尿病の療法は、インスリン抵抗性を改善し、肝臓によるグルコース放出を低下させ、インスリン分泌の増加を促進する、経口医薬の投与で構成されるが、後期にはインスリン投与も必要になる。
【0005】
I型およびII型糖尿病は共に少なくとも部分的に遺伝性であり、この病的状態を伴う血族をもつ対象は一定の糖尿病発症リスクをもつ。
さらに、特にI型糖尿病において、糖尿病の発症を予言できる一連の推定マーカーが同定された(Curr Diabetes Rev, 208, May 4(2), 110-121; Autoimmune Rev 2006 Jul, 5(6), 424-428)。したがって、低費用および簡単な方法で、糖尿病の発症リスクが高い個体を同定することができる。
【0006】
リスクをもつ個体において糖尿病の発症を制御および/または遅延する多数の試みがなされた;しかし、これらは費用/効果の比率が高すぎる療法の使用を必要とする。したがって現在は、この疾患を推定できる手段があるにもかかわらず、その発症を予防または少なくとも遅延できる適切な薬理学的処置がない。
【0007】
リスクをもつ対象に適用できる唯一の方法は、血糖の定期的なモニタリングと、体重管理、身体運動および適切な食事計画を含めた健全な生活様式である。しかし、これは有効性が著しく限られる。
【0008】
したがって、糖尿病を予防するための医薬の必要性が以前から感じられていた。
EP 1 123 276には、IL−8により誘導される好中球走化性および脱顆粒の阻害薬として使用するための、特に乾癬、リウマチ性関節炎、潰瘍性大腸炎、急性呼吸不全(ARDS)、特発性線維症および腎炎などの病的状態の処置に使用するための、N−(2−アリール−プロピオニル)−スルホンアミド、特にR(−)−2−[(4−イソブチルフェニル)プロピオニル]−メタンスルホンアミド(I)、およびそれらの医薬的に許容できる塩類が開示されている。
【0009】
EP 1 355 641には、実質臓器、特に移植前にドナーから採取して保存する必要がある腎臓の移植後の拒絶反応から生じる移植臓器の虚血/再潅流傷害および機能傷害の予防および治療に、R(−)−2−[(4−イソブチルフェニル)プロピオニル]−メタンスルホンアミドおよびその医薬的に許容できる塩類、特にそれのリジン塩を使用することが開示されている。そのような傷害は移植体機能の遅れによるものであると思われ、このため腎移植の場合には透析が必要になる。
【0010】
EP 1 579 859には、脊髄損傷の治療のための医薬の調製にN−(2−アリール−プロピオニル)−スルホンアミド、特にR(−)−2−[(4−イソブチルフェニル)プロピオニル]−メタンスルホンアミドおよびそれのリジン塩を使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】EP 1 123 276
【特許文献2】EP 1 355 641
【特許文献3】EP 1 579 859
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Curr Diabetes Rev, 208, May 4(2), 110-121
【非特許文献2】Autoimmune Rev 2006 Jul, 5(6), 424-428)
【発明の概要】
【0013】
本発明は糖尿病の予防のためのスルホンアミドに関する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は、0日目から5日間、(ML)−ストレプトゾトシン(streptozotocin)(STZ)で処理し、これと共に−1日目から7日間、ビヒクル(点線)またはレパリキシン(Reparixin)(実線)を投与したマウスにおける、経時(日)的な無糖尿病生存率を示す。
【図2】図2は、0日目から5日間、(ML)−ストレプトゾトシン(STZ)で処理し、これと共に−1日目から7日間、ビヒクル(パネルA)またはレパリキシン(パネルB)を投与したマウスにおける、経時(日)的な血糖値(mg/dl)を示す。
【図3】図3は、0日目から5日間、(ML)−ストレプトゾトシン(STZ)で処理し、これと共に−1日目から、ビヒクル、メラキシン(Meraxin)(15mg/kg)7日間、またはメラキシン(15mg/kg)14日間を投与したマウスにおける、経時(日)的な無糖尿病生存率を示す。
【図4】図4は、0日目から5日間、(ML)−ストレプトゾトシン(STZ)で処理し、続いて+5日目から14日間、ビヒクル(パネルA)またはメラキシン(15mg/kg)(パネルB)を投与したマウスにおける、経時(日)的な血糖値(mg/dl)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
式Iの化合物またはその医薬的に許容できる塩:
【0016】
【化1】

[式中、Rは直鎖または分枝鎖4−(C−C)アルキル、4−トリフルオロメタンスルホニルオキシまたは3−ベンゾイルから選択され、Rは直鎖または分枝鎖(C−C)アルキルである]が膵β細胞を構造傷害および/または機能損傷から保護し、糖尿病の発症を著しく遅延させ、また糖尿病が発症した場合にはその重症度を軽減できることが今回見出された。
【0017】
本発明による特に好ましい化合物は、R(−)−2−[(4−イソブチルフェニル)プロピオニル]−メタンスルホンアミド(一般にレペルタキシン(Repertaxin)またはレパリキシンとして知られ、以下、レパリキシンと呼ぶ)およびR(−)−2−[(4’−トリフルオロメタンスルホニルオキシ)フェニル]プロピオニル−メタンスルホンアミド(一般にメラキシン(Meraxin)として知られ、以下、そのように呼ぶ)である。
【0018】
本発明化合物の好ましい塩は、リジン塩およびナトリウム塩である。本発明化合物の特に好ましい塩は、レパリキシンのリジン塩およびメラキシンのナトリウム塩である。
実験のセクションに記載するように、STZ、すなわちヒトI型糖尿病の臨床的および組織免疫学的特徴を備えた状態を誘導できる化合物を注射したマウスは、レパリキシンまたはメラキシンによる処理の存在下では、対照と比較して2培を超える時間でこの疾患を発症する。より重要なことに、糖尿病の発症後ですら、レパリキシンまたはメラキシンで処理したマウスでは血糖値は依然として対照マウスの場合より有意に低い。これらの結果は、レパリキシンおよびメラキシンがβ細胞を傷害から保護できることを明らかに証明する。
【0019】
したがって、本発明の第1目的は、膵β細胞を構造傷害および/または機能傷害から保護する医薬の調製のための、式Iの化合物またはその医薬的に許容できる塩、好ましくはリジン塩またはナトリウム塩の使用である。
【0020】
好ましくは、式Iの化合物はレパリキシンまたはメラキシンである。
本発明の他の目的は、糖尿病、好ましくはI型糖尿病の予防のための、式Iの化合物、好ましくはレパリキシンまたはメラキシンの使用である。この医薬は、好ましくは糖尿病の素因をもつかまたは糖尿病のごく初期の症状を示し始めている個体に投与される。
【0021】
特に、本発明は、糖尿病、好ましくはI型糖尿病の発症を遅延させ、および/または進行を低下させる医薬の調製のための、本発明化合物、好ましくはレパリキシンまたはメラキシンの使用に関する。
【0022】
式Iの化合物は、当技術分野で周知の方法に従って製造できる。たとえば、レパリキシンはEP 1 123 276の例1およびEP 1 355 641の例1の開示に従って製造でき、一方、そのリジン塩は上記特許のそれぞれ例7および例2の開示に従って製造できる。メラキシンは、たとえばEP 1776336の例1に従って製造できる。
【0023】
本発明の目的のために、前記化合物は、経口投与により使用するのに適した医薬組成物、たとえば錠剤、カプセル剤、シロップ剤中に、好ましくは制御放出配合物の形で、あるいは非経口投与により使用するのに適した医薬組成物中に、好ましくは静脈内または筋肉内投与に適した無菌液剤の形で配合される。医薬組成物は、たとえばRemington, “The Science and Practice of Pharmacy”, 21st ed. (Lippincott Williams and Wilkins)に示される一般法に従って調製できる。好ましくは、上記投与形態それぞれにおけるレパリキシンまたはそれの医薬的に許容できる塩の量は、化合物または塩2〜15mg/kg体重を供給する量であり、一方、メラキシンまたはそれの医薬的に許容できる塩の量は、化合物または塩10〜20mg/kg体重を供給する量である。いずれの場合も、医薬の投与方式および投与量は医師が患者の要件に従って決定するであろう。
【0024】
本発明を以下の実験のセクションにさらに詳細に説明する。
【実施例】
【0025】
多数回低用量(multiple low dose)(MLD)−ストレプトゾトシン(STZ)注射後の糖尿病の誘導にレパリキシンが及ぼす効果
感受性マウス系統に多数回低用量の(STZ)を注射すると、ヒトのI型糖尿病(DM)に類似する臨床的および組織免疫学的特徴を備えた状態が誘発される。雄C57BL/6マウスにおける遅発性、持続性および進行性の高血糖症および膵島炎には、1日1回で5回の40mg/kg/日のSTZが必要であることが確立されている。
【0026】
このモデルは、以前はI型糖尿病の発症における炎症性サイトカインの役割を調べるために用いられた。12匹の雄C57BL/6JマウスにMLD−STZ処理を施した。STZを40mg/kg/日の用量で連続5日間、腹腔内注射した。静脈血のグルコース濃度を、処理の1日目から開始して毎日測定した。連続3回の検査で250mg/dlを超える血糖を伴うマウスを糖尿病とみなし、最初の高血糖の検出を糖尿病発症日とした。マウスを初回STZ注射後、最大60日間モニターした。初回STZ注射後−1日目から開始して7日目まで、レパリキシンを8mg/時間/kgの用量で皮下連続注入により投与した。
【0027】
レパリキシンの投与は糖尿病発症のタイミングに有意の影響を及ぼした。無糖尿病中央時間は、レパリキシン処理マウスおよびビヒクル処理マウスについてそれぞれ27±15日(n=8,対照に対比してp=0.026)および7±0.5日(n=8)であった(図1)。より重要なことに、糖尿病が発症した後ですら、2ヶ月間の観察期間全体で、レパリキシン処理グループではビヒクル処理グループの場合より血糖値が依然として常に有意に低かった(図2)。
【0028】
多数回低用量(MLD)−ストレプトゾトシン(STZ)注射後の糖尿病の誘導にメラキシンが及ぼす効果
雄C57BL/6Jマウスに(ML)−ストレプトゾトシン(STZ)を40mg/kg/日の用量で連続5日間、腹腔内注射した。静脈血のグルコース濃度を、処理の1日目(0日目)から開始して毎日測定した。連続3回の検査で250mg/dlを超える血糖を伴うマウスを糖尿病とみなし、最初の高血糖の検出を糖尿病発症日とした。マウスを初回STZ注射後、最大60日間追跡した。初回STZ注射の−1日目から開始して7または14日間、メラキシンを15mg/kgの用量で経口投与した。
【0029】
両方の場合とも、メラキシンによる処理は対照と比較して無糖尿病時間を延長できた。無糖尿病中央時間は、7および14日間の処理についてそれぞれ13±2.8日(対照に対比してp=0.67,n=8)および29±16(対照に対比してp=0.016,n=8)であった(図3)。
【0030】
第2セットの実験で、糖尿病発症の臨床設定を模倣するために、マウスへの初回STZ注射後+5日目からメラキシンによる14日間の処理を開始した(n=4)。図4に示すように、メラキシンによる処理は19日目まで明らかに糖尿病発症を阻止した。さらに、2ヶ月間の観察期間全体で、メラキシン処理マウスではビヒクル処理マウスと比較して血糖値が依然として常に有意に低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膵β細胞を構造傷害および/または機能傷害から保護する医薬の調製のための、式Iの化合物またはその医薬的に許容できる塩:
【化1】

[式中、Rは直鎖または分枝鎖4−(C−C)アルキル、4−トリフルオロメタンスルホニルオキシおよび3−ベンゾイルから選択され、Rは(C−C)アルキルである]の使用。
【請求項2】
医薬が糖尿病の予防のためのものである、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
医薬が糖尿病の発症および進行を遅延させるためのものである、請求項1または2に記載の使用。
【請求項4】
糖尿病がI型糖尿病である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
式Iの化合物が、R(−)−N−2−[(4−イソブチルフェニル)プロピオニル]−メタンスルホンアミドおよびR(−)−2−[(4’−トリフルオロメタンスルホニルオキシ)フェニル]プロピオニル−メタンスルホンアミドから選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
塩がリジン塩およびナトリウム塩から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公表番号】特表2013−506703(P2013−506703A)
【公表日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−532578(P2012−532578)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【国際出願番号】PCT/EP2010/064920
【国際公開番号】WO2011/042465
【国際公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(501165813)ドムペ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ (8)
【Fターム(参考)】