説明

糖尿病の処置

【課題】真性糖尿病または膵臓の他の疾患の処置方法を提供すること。
【解決手段】複数の機能的成熟β細胞を含む哺乳動物膵臓細胞を得るための方法であって、該方法は、少なくとも1つのガストリンレセプターリガンドを、該前駆体哺乳動物膵臓細胞の分化を達成するために十分な量で有する、該前駆体哺乳動物膵臓細胞の集団を提供する工程であって、該前駆体哺乳動物膵臓細胞の集団は、前駆体哺乳動物膵臓細胞に関連する少なくとも1つのマーカーを発現する細胞において富化され、それにより、複数の機能的成熟β細胞が得られる工程、
を包含する、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(導入)
(発明の分野)
本発明は、一般に、膵島前駆体細胞および成熟膵島細胞を得るための方法の、細胞生物学の分野に関する。より具体的には、本発明は、ガストリンレセプターリガンドおよびEGFレセプターリガンドの1つまたは両方を提供することによる、膵島前駆体細胞に関連する1つ以上のマーカーを発現するヒト幹細胞または他の膵島前駆体細胞の機能的膵臓β細胞に方向付けられた分化、およびこの細胞を、膵臓疾患(真性糖尿病を含む)の処置を必要とする個体におけるこの疾患の処置において使用するための方法に関する。本方法は、(a)ヒト膵島細胞に、インビトロでガストリンレセプターリガンドを提供してこの細胞の移植前にインスリン産生を刺激する工程であって、この細胞には、必要に応じて、EGFレセプターリガンドが提供されて細胞数が増える工程、ならびに(b)糖尿病についてのマウスモデル系において、ヒト膵島細胞の移植と、ガストリンレセプターリガンドおよびEGFレセプターリガンドの1つまたは両方でインビボで処置し、移植された膵島細胞の増殖を促進しかつこの細胞によるインスリン産生を促進することとの組み合わせを使用する糖尿病のインビボでの処置により、例示される。
【背景技術】
【0002】
(背景)
糖尿病は、全ての年齢層および全ての集団にわたる、最も一般的な内分泌疾患の1つである。臨床的罹患率(morbidity)および臨床的死亡率に加え、糖尿病の経済費用は巨大であり、米国のみで年間900億$を超える。そして、糖尿病の有病率は、2010年までに2倍を超えて増加することが予測される。
【0003】
真性糖尿病の2つの主要な形態が存在する:インスリン依存性(1型)真性糖尿病(IDDM)(全ての症例の5%〜10%にのぼる)、およびインスリン非依存性(2型)真性糖尿病(NIDDM)(症例のおよそ90%を構成する)。2型糖尿病は、加齢と関連するが、NIDDMと診断される若い人々(いわゆる若年者の成人発症型糖尿病(MODY))の数の増加傾向がある。1型および2型の両方の場合において、膵臓におけるβ細胞の破壊またはインスリンの不完全分泌またはインスリンの不完全産生を介して、インスリン分泌が減少する。NIDDMにおいて、患者は、代表的に、最適な食事、体重減少および運動のレジメンに従って、治療を開始する。薬物治療は、これらの手段が適切な代謝調節をもはや提供しなくなったときに開始される。最初の薬物治療としては、β細胞インスリン分泌を刺激するスルホニル尿素が挙げられるが、ビグアニド、βグルコシダーゼインヒビター、チアゾリデンジオンおよび併用治療もまた、挙げられ得る。しかし、2型糖尿病で作動する疾患メカニズムの進行性の性質を制御することが難しいことは、注目に値する。薬物処置した全ての糖尿病の50%超が、投与された薬物に関わりなく、6年以内に芳しくない血糖制御を示す。インスリン治療は、多くの人から、2型糖尿病の処置における最後の手段と考えられており、そして、インスリンの使用に抵抗を覚える患者がいる。糖尿病の合併症としては、網膜、腎臓および神経における微小血管に影響するもの(微小血管合併症)、ならびに心臓、脳、および下肢に供給する大血管に影響するもの(大血管(macrovascular)合併症)が挙げられる。糖尿病微小血管合併症は、20〜74歳の人々における新規の失明の主な原因であり、そして網膜疾患の末期の新規の症例全ての35%を含める。60%を超える糖尿病患者が、神経障害によって影響を受ける。糖尿病は、主に糖尿病大血管疾患の結果として、米国における全ての非外傷性切断術の50%を含む、そして糖尿病患者は、非糖尿病者の2.5倍の冠動脈疾患由来死亡率を有する。高血糖は、糖尿病大血管合併症の進行を開始し、加速すると考えられる。種々の
現行の処置レジメンの使用は、高血糖を適切には制御し得ず、従って、糖尿病合併症の進行を妨げも低減させもしない。
【0004】
膵島は、胎児小管膵臓上皮に存在する内胚葉幹細胞から発達し、この胎児小管膵臓上皮はまた、外分泌膵臓へと発達する多能性幹細胞も含む。TeitelmanおよびLee,Developmental Biology,121:454−466(1987);PictetおよびRutter,Development of the embryonic endocrine pancreas,Endocrinology,Handbook of Physiology,R.O.GreepおよびE.B.Astwood編(1972),American Physiological Society:Washington,D.C.,25−66頁。膵島の発達は、胎児の妊娠の間、別個の発生段階を通して進み、これは、劇的な移行によって中断される。最初の期間は、多能性幹細胞の膵島細胞系列への方向付けによって特徴付けられる、始原分化状態(protodifferentiated state)であり、始原分化細胞によるインスリンおよびグルカゴンの発現によって明らかになる。これらの始原分化細胞は、方向付けられた膵島前駆体細胞の集団を含み、この集団は、膵島特異的遺伝子産物を低レベルでのみ発現し、成熟膵島細胞の細胞分化を欠失する。PictetおよびRutter(前出)。マウスの妊娠16日目頃、原始分化膵臓は、膵島細胞の細胞分化および膵島特異的遺伝子発現の数百倍の上昇によって特徴付けられる迅速な増殖期および分化期を開始する。組織学的には、膵島形成(新生)は、膵管からの増殖性膵島芽として明らかになる(膵島細胞症)。生まれる直前、膵島増殖速度は低下し、そして膵島新生および膵島細胞症は、ずっと目立たなくなる。これに伴い、膵島は、最高レベルのインスリン遺伝子発現を伴う、完全に分化した段階に到達する。従って、多くの器官に類似して、細胞性分化の完了は、再生能の低下を伴う;分化した生体の膵臓は、発生中の膵臓と同じ再生能も増殖能も有さない。
【0005】
始原分化前駆体の分化は、膵臓の胎児発生後期の間に起こるため、膵島分化を調節する因子は、この時期の間の膵臓において発現されるようである。膵島発生の間に発現される遺伝子の1つは、胃腸管系のペプチドであるガストリンをコードする。ガストリンは、成体において酸分泌を調節する胃のホルモンとして作用するが、胎児におけるガストリン発現の主要部位は、膵島である。BrandおよびFuller,J.Biol Chem.,263:5341−5347(1988)。膵島におけるガストリンの発現は、一過性である。これは、始原分化膵島前駆体が、分化した膵島を形成する期間に限定される。膵島発生における膵臓ガストリンの重要性は未知であるが、幾つかの臨床観察は、この膵島発生におけるガストリンの法則を、以下のように示唆する。例えば、ガストリン発現膵島細胞腫瘍および萎縮症胃炎によって引き起こされる高ガストリン血症は、分化段階の胎児膵島において見られるのと同様に、膵島細胞症に付随する。Sacchi,ら,Virchows Archiv B,48:261−276(1985);およびHeitzら,Diabetes,26:632−642(1977)。さらに、膵臓ガストリンの異常な持続が、乳児膵島細胞症の症例において考証されている。Hollandeら,Gastroenterology,71:251−262(1976)。しかし、どちらの観察も、膵島細胞症とガストリン刺激との間に樹立された因果関係ではなかった。
【0006】
従って、膵島細胞の増殖および/または再生を刺激する薬剤を同定することは、初期IDDMの処置における使用およびNIDDMにおけるβ細胞欠損の予防における使用のために重要である。
【0007】
(関連文献)
3つの増殖因子が、胎児膵臓の発生に関与する:ガストリン、トランスフォーミング増殖因子α(TGF−α)および上皮増殖因子(EGF)(BrandおよびFuller
,J.Biol.Chem.263:5341−5347)。TGF−αまたはガストリン単独を過剰発現するトランスジェニックマウスは、活性な膵島細胞増殖を実証しなかったが、両方の導入遺伝子を発現するマウスは、有意に増加した膵島細胞の量を示した(Wangら(1993)J Clin Invest 92:1349−1356)。BouwensおよびPipeleers(1998)Diabetoligia 41:629−633は、正常成体ヒト膵臓において出芽β細胞が高い割合で存在すること、および全β細胞の15%が単一の単位として見出されたことを報告する。単一β細胞の病巣は、成体(未刺激)ラットの膵臓において、通常はみられない;Wangら((1995)Diabetologia 38:1405−1411)は、全β細胞数の約1%の頻度を報告する。
【0008】
被包性膵島移植後の1型糖尿病患者におけるインスリン非依存が、Soon−Shiongら(1994)Lancet 343:950−51において記載される。Sasakiら(1998年6月15日)Transplantation 65(11):1510−1512;Zhouら(1998年5月)Am J Physiol 274(5
Pt 1):C1356−1362;Soon−Shiongら(1990年6月)Postgrad Med 87(8):133−134;Kendallら(1996年6月)Diabetes Metab 22(3):157−163;Sandlerら(1997年6月)Transplantation 63(12):1712−1718;Suzukiら(1998年1月)Cell Transplant 7(1):47−52;Soon−Shiongら(1993年6月)Proc Natl Acad
Sci USA 90(12):5843−5847;Soon−Shiongら(1992年11月)Transplantation 54(5):769−774;Soon−Shiongら(1992年10月)ASAIO J 38(4):851−854;Benhamouら(1998年6月)Diabetes Metab 24(3):215−224;Christiansenら(1994年12月)J Clin Endocrinol Metab 79(6):1561−1569;Fragaら(1998年4月)Transplantation 65(8):1060−1066;Korsgrenら(1993)Ups J Med Sci 98(1):39−52;Newgardら(1997年7月)Diabetologiz 40(補遺)2:S42−S47もまた、参照のこと。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の要旨)
真性糖尿病または膵臓の他の疾患を、その処置を必要とする患者において処置するための方法および組成物が、提供される。この方法および組成物において、膵島細胞再生および/または膵島細胞新生を刺激するために、ガストリンレセプターリガンドおよびEGFレセプターリガンドの1つまたは両方が提供される。この組成物は、増殖性膵島細胞の集団を含有し、この集団は、細胞の集団を単離し、そして1つ以上の膵臓分化剤を前駆体細胞に提供して機能的膵島β細胞の集団を得る方法によって、得られる。必要に応じて、前駆体細胞はまた、概して分化剤による処置の前に、集団における細胞の数を増加させるために、1つ以上の細胞増殖剤が提供される。好ましくは、細胞の集団は、膵島前駆体細胞に関連する1つ以上のマーカーを発現する膵島前駆体細胞のより高い割合を含むように富化されており、これにより、機能的膵島β細胞の表現型特性(β細胞の形態的特徴、β細胞特有の表面マーカーを発現すること、ならびに膵臓機能に重要な酵素活性および生合成活性を有することが挙げられる)を有する細胞を高い割合で有する。膵臓分化剤組成物は、ガストリン/CCKレセプターリガンド(例えば、ガストリン)を、膵島前駆体細胞を成熟インスリン分泌細胞に分化させるために十分な量で、含有する。細胞増殖剤組成物は、1つ以上の上皮増殖因子(EGF)レセプターリガンドを、前駆体細胞の増殖を刺激す
るために十分な量で含有する。必要に応じて、これらの薬剤の両方は、増殖工程および分化工程の一方または両方で使用され得る。処置の方法は、未分化前駆体細胞を宿主動物に移植して、インビボで、膵臓分化剤を単独でまたは細胞増殖剤と組み合わせてのいずれかで提供する工程、あるいはエキソビボで1つまたは両方のいずれかのリガンドを提供した後で機能的膵島β細胞を宿主動物に移植する工程の、どちらかを包含する。この系は、種々の適用(例えば、薬物スクリーニング、および(特に糖尿病の)臨床処置と関連した膵臓機能の補充)のための機能的膵島β細胞の供給源を提供する。
上記に加えて、本発明は、以下を提供する:
(項目1)
複数の機能的成熟β細胞を含む哺乳動物膵臓細胞を得るための方法であって、該方法は、以下:
少なくとも1つのガストリンレセプターリガンドを、該前駆体哺乳動物膵臓細胞の分化を達成するために十分な量で有する、該前駆体哺乳動物膵臓細胞の集団を提供する工程であって、該前駆体哺乳動物膵臓細胞の集団は、前駆体哺乳動物膵臓細胞に関連する少なくとも1つのマーカーを発現する細胞において富化され、それにより、複数の機能的成熟β細胞が得られる工程、
を包含する、方法。
(項目2)
前記マーカーがCK19である、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記前駆体哺乳動物膵臓細胞の集団が、前駆体哺乳動物膵臓細胞に関連する少なくとも1つのマーカーを発現する細胞において、FACSによって富化される、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記前駆体哺乳動物膵臓細胞の集団が、複数の幹細胞または管上皮細胞を含む、項目1に記載の方法。
(項目5)
前記幹細胞が、臍帯、胚、および樹立幹細胞株からなる群から選択される1つ以上の供給源由来である細胞を含む、項目4に記載の方法。
(項目6)
1つ以上の膵島が、前記管上皮細胞を含む、項目4に記載の方法。
(項目7)
前記前駆体哺乳動物膵臓細胞の集団が、不死化されている、項目1に記載の方法。
(項目8)
前記前駆体哺乳動物膵臓細胞の集団が、前記前駆体哺乳動物膵臓細胞の集団の増殖を達成するために十分な量の少なくとも1つのEGFレセプターリガンドと共に提供される、項目1に記載の方法。
(項目9)
複数の機能的成熟β細胞を含む哺乳動物膵臓細胞集団を得るための方法であって、該方法は、以下:
前駆体哺乳動物膵臓細胞に関連する少なくとも1つのマーカーを発現する前駆体哺乳動物膵臓細胞の集団を、該前駆体哺乳動物膵臓細胞の分化を達成するために十分な量の、少なくとも1つのガストリンレセプターリガンドと共に提供する工程であって、該細胞の約10%〜約20%が、該マーカーを発現し、それにより、複数の機能的成熟β細胞が得られる工程、
を包含する、方法。
(項目10)
前記細胞が、機能的成熟β細胞の前記集団の、約2倍〜約5倍までの増殖を誘導するために十分な量の、少なくとも1つのEGFレセプターリガンドと共に提供される、項目9に記載の方法。
(項目11)
増殖が、約3倍〜約4倍である、項目10に記載の方法。
(項目12)
前記提供が、インビトロであり、前記EGFレセプターリガンドの前記量が、約0.1μg/ml〜約1.0μg/mlであり、そして前記ガストリンレセプターリガンドの前記量が、約0.5μg/ml〜3μg/mlである、項目9に記載の方法。
(項目13)
前記提供が、インビトロであり、前記EGFレセプターリガンドの前記量が、約0.2μg/ml〜約0.5μg/mlであり、そして前記ガストリンレセプターリガンドの前記量が、約0.6μg/ml〜約1.5μg/mlである、項目9に記載の方法。
(項目14)
前記複数の機能的成熟β細胞が、PDX−1を発現する、項目9に記載の方法。
(項目15)
前駆体哺乳動物膵臓細胞が、ヒト細胞またはブタ細胞である、項目9に記載の方法。
(項目16)
前記ガストリンレセプターリガンドが、ヒトガストリン1−17/Leu15である、項目9に記載の方法。
(項目17)
前記EGFレセプターリガンドが、ヒトEGF51Nである、項目10に記載の方法。
(項目18)
以下:
複数の増殖性成熟膵臓β細胞を含む細胞培養物であって、該増殖性膵臓β細胞が、少なくとも1つのガストリンレセプターリガンドおよび少なくとも1つのEGFレセプターリガンドを提供する方法によって得られ、ここで、該細胞培養物は、CK19管細胞において富化され、そしてガストリンレセプターリガンドおよびEGFレセプターリガンドと共に提供されない細胞と比較した場合、PDX−1の発現が増加する、細胞培養物
を、含有する組成物。
(項目19)
CK19を発現する前駆体細胞を、少なくとも20%含むように富化された、哺乳動物膵臓前駆体細胞の集団。
(項目20)
膵島細胞分化を刺激する化合物をスクリーニングするための方法であって、該方法は、以下:
哺乳動物膵臓前駆体細胞の集団を、該化合物および必要に応じて少なくとも1つのEGFレセプターリガンドと共に提供する工程;および
PDX−1の発現を、該化合物が膵島細胞分化を達成する指標として検出する工程、
を、包含する、方法。
【0010】
(好ましい実施形態の詳細な説明)
本発明は、真性糖尿病および他の変性膵臓障害の処置を必要とする患者において、ガストリン/CCKレセプターリガンド(例えば、ガストリン)および/またはEGFレセプターリガンド(例えば、TGF−αもしくはEGF)、あるいは両方の組み合わせを、膵島前駆体細胞の成熟インスリン分泌細胞への分化をもたらすために十分な量で提供することにより、真性糖尿病および他の変性膵臓障害を処置するための方法および組成物を提供する。この組成物が全身的に投与される場合、一般に注射によって、好ましくは静脈内に、生理学的に受容可能なキャリア中で提供される。この組成物がインサイチュで発現される場合、膵島前駆体細胞は、エキソビボまたはインビボのどちらかで、発現ベクター内の1つ以上の核酸発現構築物によって形質転換され、この核酸発現構築物は、膵島前駆体細胞において、所望のレセプターリガンドの発現を提供する。例として、発現構築物は、CCKレセプターリガンド(例えば、発現後にガストリンへとプロセシングされるプレプロ
ガストリン(preprogastrin)ペプチド前駆体コード配列)またはEGFレセプターリガンド(例えば、TGF−α)についてのコード配列を、膵島前駆体細胞における発現を提供する転写調節領域および翻訳調節領域と共に含む。転写調節領域は、構成的であって、または例えば、インスリン遺伝子由来の転写調節領域のように、細胞内グルコース濃度の上昇によって誘導されてもよい。形質転換は、任意の適切な発現ベクター(例えば、アデノウイルス発現ベクター)を使用して実行される。エキソビボで形質転換が実行される場合、形質転換された細胞は、例えば、腎被膜を使用して、糖尿病患者に移植される。
【0011】
あるいは、膵島細胞は、エキソビボで、糖尿病患者への移植前に、膵島内の前駆体膵臓β細胞の数を増加させるために、十分な量のガストリン/CCKレセプターリガンドおよび/またはEGFレセプターリガンドで処理される。要求に応じ、エキソビボ増殖後、前駆体膵臓β細胞の集団を、これらを少なくともガストリンレセプターリガンドに接触させることにより、移植前に培養物中で分化させる。増殖および/または分化が、移植前または移植後のどちらで行われようと、細胞は、膵島前駆体細胞についての1つ以上のマーカーを保有する細胞(例えば、幹細胞またはCK 19を発現する管細胞)について、処理前に必要に応じて富化される。
【0012】
本発明は、糖尿病患者についての現存する処置レジメンを超える利点を提供する。成熟膵臓細胞を刺激して再生させる手段を提供することにより、従来の薬物治療(2型)またはインスリン治療(1型および2型)の必要を減らすかまたはなくしさえするのみならず、正常血糖レベルの維持はまた、糖尿病のより衰弱性の合併症のうち幾つかを軽減し得る。膵島組織または他の膵島前駆体細胞の増殖および分化の1つまたは両方を、特により大きな膵島前駆体細胞の集団を含むために前駆体細胞集団を富化することと共に、移植前または移植後に使用することにより、移植に必要な不足している膵島数を低下させる手段を提供する。さらに、移植に使用される細胞集団の可変性が本発明の方法によって低下するだけでなく、移植された細胞の機能特性の再現性が上昇する。本発明の別の利点は、免疫拒絶を、例えば、ブタ膵島の異種移植によって低下させ得ることである。
【0013】
本明細書中において使用される場合、用語「ガストリン/CCKレセプターリガンド」とは、ガストリン/CCKレセプターを刺激する化合物を包含する。このようなガストリン/CCKレセプターリガンドの例としては、種々の形態のガストリン(例えば、ガストリン34(ビッグガストリン)、ガストリン17(リトルガストリン)、およびガストリン8(ミニガストリン));種々の形態のコレシストキニン(例えば、CCK 58、CCK 33、CCK 22、CCK 12およびCCK 8);ならびに単独またはEGFレセプターリガンドと組み合わせた、成熟膵臓において細胞の分化を誘導してインスリンを分泌する膵島細胞を形成させる、他のガストリン/CCKレセプターリガンドが挙げられる。上記のものの活性なアナログ、フラグメントおよび他の改変物のペプチドアゴニストおよび非ペプチドアゴニストの両方、または部分アゴニスト(ガストリン/CCKレセプター(例えば、A71378(Linら、Am.J.Physiol.258(4 Pt 1):G648,1990))を含む)もまた企図され、これは、単独でまたはEGFレセプターリガンドと組み合わせて、成熟膵臓における細胞の分化を誘導して、インスリンを分泌する膵島細胞を形成させる。特に興味深いのは、15位でメチオニンの代わりに置換されたロイシンを有するガストリン誘導体である。米国特許第10/044,048号(2002年7月25日公開)を、参照のこと。この開示は、本明細書中で参考として援用される。ガストリン/CCKレセプターリガンドはまた、内因性のガストリン、コレシストキニンまたは同様に活性なペプチドの、組織貯蔵部位からの分泌を増加させる化合物を包含する。これらの例は、ペプチド(例えば、EGFならびにそのアナログおよびフラグメント)、ならびに、非ペプチド低分子(例えば、オメプラゾール(これは、胃酸の分泌を阻害し、そして/またはガストリン/CCKレセプターの数を増加させる)、
およびダイズトリプシンインヒビター(これは、CCK刺激を増加させる))である。
【0014】
本明細書で使用する場合、用語「EGFレセプターリガンド」は、同じ組織または隣接する組織、あるいは同じ個体のガストリン/CCKレセプターも刺激される場合に、インスリン産生膵島細胞の新生が誘導されるようなEGFレセプターを刺激する化合物を包含する。ガストリン/CCKレセプターの刺激は、ガストリン/CCKレセプターリガンドの提供によって直接的になされ得るか、または例えば、インビボで内因性および/または外因性の因子により、胃酸分泌を阻害することによって間接的になされ得る。EGFレセプターリガンドの例としては、EGF1−53、ならびにそのフラグメントおよび活性なアナログ(EGF1−48、EGF1−52、EGF1−49を含む)が挙げられる。例えば、米国特許第5,434,135号を参照のこと。目的の他のアナログとしては、Xの長さのアミノ酸配列を有するEGFが挙げられ、Xは、少なくとも48でかつ53を超えない整数であり、このような配列は、(i)ヒトEGFの1位からヒトEGFのX−1位までのアミノ酸配列の一部分と実質的に相同であり、そして(ii)X位に、ヒトEGFにおいて見出されるアミノ酸残基とは異なるアミノ酸残基を有する。特に興味深いものは、ヒトEGFのアナログであり、ここでXは51であり、そしてX位のアミノ酸残基は、グルタミン酸以外(例えば、中性アミノ酸、疎水性アミノ酸、または荷電アミノ酸)である。Xが51である場合、目的の置換としては、アスパラギン、グルタミン、アラニン、およびセリンが挙げられる(2003年5月15日公開のPCT/US02/233097を参照のこと。この開示は、本明細書中で参考として援用される)。EGFレセプターリガンドの他の例としては、TGF−αレセプターリガンド(1〜50)ならびにそのフラグメントおよび活性なアナログ(1〜48、1〜47および他のEGFレセプターリガンド(例えば、アンフィレグリン(amphiregulin)およびポックスウイルス増殖因子、ならびにガストリン/CCKレセプターリガンドと同じ相乗活性を実証する、他のEGFレセプターリガンド)が挙げられる)が、挙げられる。これらは、上記のものの活性なアナログ、フラグメントおよび他の改変物を含む。さらなる背景として、CarpenterおよびWahl,Peptide Growth Factors(SpornおよびRoberts編)の第4章,Springer Verlag,(1990)を参照のこと。
【0015】
本発明の主な局面は、真性糖尿病の処置を必要とする個体に、ガストリン/CCKレセプターリガンドおよび/またはEGFレセプターリガンドを膵島前駆体細胞の成熟インスリン分泌細胞への分化を達成するために十分な量で含有する組成物を提供することによって、この個体において真性糖尿病を処置するための方法である。このようにして分化した細胞は、膵管における残留潜在型膵島前駆体細胞である。1つの実施形態は、好ましくは全身的に、分化を再生させる量のガストリン/CCKレセプターリガンドおよびEGFレセプターリガンド(好ましくは、置換EGF−51のようなEGF)を、単独または併用して、この個体に投与することを包含する。
【0016】
糖尿病の処置はまた、精製した膵島または膵島前駆体細胞の移植を必要とする患者への、これらの移植によって達成され得る。移植のための細胞は、一般に、ドナー膵臓から得られるかまたは幹細胞(例えば、臍帯、胚または樹立培養幹細胞株から得られる)である。細胞は、器官(例えば、膵臓、腎臓または肝臓)への直接注射のような経路によって移植され得る。あるいは、細胞は、静脈内投与によって投与され、例えば、細胞は、例えば、門脈への経皮的経肝臓的注射によって、門脈または肝静脈に投与される。この細胞を、ガストリン/CCKレセプターリガンドおよび/またはEGFレセプターリガンドを用いて、移植後(移植後の細胞に提供することによって)または移植前のどちらかで増殖させ得、そして/または機能的膵島細胞へと分化させ得る。
【0017】
膵島前駆体細胞をエキソビボで分化させる場合、幹細胞または移植された膵臓組織のど
ちらであっても、膵臓組織を移植する前の以下の分化工程または増殖工程のどちらかのために、部分的または完全に分離された細胞に解離し得、宿主哺乳動物を刺激し得る。
【0018】
移植された膵臓組織を分化増強組成物に接触させる前または接触させると同時に、細胞の集団、特に移植組織における膵島前駆体細胞を、十分な量のEGFレセプターリガンドをガストリン/CCKレセプターリガンドと併用してまたは併用せずに提供して有糸分裂誘発を誘導することにより、増殖させ得る。必要に応じて、移植膵臓組織を、まず膵島前駆体細胞(特に膵島前駆体細胞または管上皮細胞に関連するマーカータンパク質(例えばCK19、ネスチン、CK7、CK8、CK18、炭酸脱水酵素II、DU−PAN2、炭水化物抗原19−9およびムチンMUC1)を発現する細胞)内で富化し得る。必要に応じて、不死化膵島前駆体細胞が、当業者に公知の方法(例えば、hTERTによる形質転換)を使用して調製され得る。このような細胞を、EGFレセプターリガンドでエキソビボで増殖させ得、次いで、移植の前に、ガストリンレセプターリガンドで刺激して、完全な成熟膵島細胞への分化過程を、インビボまたはエキソビボで完了させ得る。
【0019】
別の実施形態において、ガストリン/CCKレセプターリガンド刺激は、このような前駆体細胞に、トランスジェニックで導入したキメラインスリンプロモーター−ガストリン融合遺伝子構築物の発現によって引き起こされる。別の実施形態において、EGFレセプターリガンド刺激は、哺乳動物にトランスジェニックで導入したEGFレセプターリガンド遺伝子の発現によって引き起こされる。EGF遺伝子の配列は、米国特許第5,434,135号において提供される。
【0020】
別の実施形態において、ガストリン/CCKレセプターリガンドおよびEGFレセプターリガンドによる刺激は、哺乳動物に安定的に導入された、(i)プレプロガストリンペプチド前駆体遺伝子と、(ii)EGFレセプターリガンド遺伝子との同時発現によって引き起こされる。
【0021】
別の局面において、本発明は、このような細胞を、ガストリン/CCKレセプターリガンドとEGFレセプターリガンドとの組み合わせで刺激することによって、哺乳動物の膵島前駆体細胞の分化を引き起こすための方法に関する。この局面の好ましい実施形態において、ガストリン刺激は、哺乳動物に安定的に導入されたプレプロガストリンペプチド前駆体遺伝子の発現によって引き起こされる。この発現は、インスリンプロモーターの制御下である。EGFレセプターリガンド(例えば、TGF−α)刺激は、哺乳動物にトランスジェニックで導入されたEGFレセプターリガンド遺伝子によって達成され得る。上記の促進において、ガストリンおよびTGF−αによる刺激は、好ましくは、哺乳動物に導入された、(i)プレプロガストリンペプチド前駆体遺伝子と、(ii)EGFレセプターリガンドとの同時発現によって影響を及ぼされる。遺伝子の転写を指示し得る適切なプロモーターとしては、ウイルスプロモーターおよび細胞性プロモーターの両方が挙げられる。ウイルスプロモーターとしては、最初期サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(Boshartら(1985)Cell 41: 521−530)、SV40プロモーター(Subramaniら(1981)Mol.Cell.Biol.1:854−864)およびアデノウイルス2由来の主要な後期プロモーター(KaufmanおよびSharp(1982)Mol.Cell.Biol.2:1304−13199)が、挙げられる。好ましくは、ガストリン/CCKレセプターリガンド遺伝子およびEGFレセプターリガンド遺伝子の1つまたは両方の発現は、インスリンプロモーターの制御下である。
【0022】
本発明の別の局面は、核酸構築物である。この構築物は、プレプロガストリンペプチド前駆体をコードする核酸配列と、プレプロガストリンペプチド前駆体をコードする配列の転写を支持するのに効果的である、5’からのインスリン転写調節配列とを含む。好まし
くは、インスリン転写調節配列は、少なくとも1つのインスリンプロモーターを含む。好ましい実施形態において、プレプロガストリンペプチド前駆体をコードする核酸配列は、ヒトガストリン遺伝子のエキソン2およびエキソン3、ならびに必要に応じてイントロン1およびイントロン2をも含む、ポリヌクレオチド配列を含む。
【0023】
本発明の別の実施形態は、(i)哺乳動物EGFレセプターリガンド(例えば、TGF−α)をコードする核酸配列およびその転写調節配列;ならびに(ii)プレプロガストリンペプチド前駆体をコードする核酸配列およびその転写調節配列を含む、発現カセットである。好ましくは、EGFレセプターリガンドの転写調節配列は、強い組織非特異的プロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)である。好ましくは、プレプロガストリンペプチド前駆体の転写調節配列は、インスリンプロモーターである。この実施形態の好ましい形態は、プレプロガストリンペプチド前駆体をコードする核酸配列は、ヒトガストリン遺伝子のイントロン1およびイントロン2ならびにエキソン2およびエキソン3を含むポリヌクレオチド配列を、含む。
【0024】
本発明の別の局面は、プレプロガストリンペプチド前駆体コード配列を含む、発現カセットを含むベクターに関する。このベクターは、プラスミド(例えば、pGem1)であり得るか、またはインスリンプロモーターを含む転写調節配列を有するファージであり得る。
【0025】
本発明の別の局面は、(1)強い組織非特異的プロモーター(例えば、メタロチオネインプロモーター)の制御下に哺乳動物EGFレセプターリガンド(例えば、TGF−αレセプターリガンド)をコードする核酸配列を有し;そして、インスリンプロモーター制御下にプレプロガストリンペプチド前駆体コード配列を有する、ベクターの組成物に関する。この局面において、各ベクターは、プラスミド(例えば、プラスミドpGem1)またはファージであり得る。あるいは、発現カセットまたはベクターはまた、適切な組織栄養機能を有するウイルスベクターにも挿入され得る。ウイルスベクターの例としては、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、アデノ関連ウイルス、レトロウイルス、レンチウイルスなどが挙げられる。Blomerら(1996)Human Molecular Genetics 5 Spec.No:1397−404;およびRobbinsら(1998)Trends in Biotechnology 16:35−40を、参照のこと。アデノウイルス媒介性遺伝子治療は、首尾よく使用され、嚢胞性線維症を有する患者の鼻腔上皮の塩素輸送欠損を一時的に治している。Zabnerら(1993)Cell 75:207−216を参照のこと。
【0026】
本発明の別の局面は、安定的に組み込まれた遺伝子を発現可能な、非ヒト哺乳動物または哺乳動物組織(細胞を含む)であり、この組み込まれた遺伝子は、プレプロガストリンをコードする。この局面の別の実施形態は、(i)プレプロガストリンペプチド前駆体遺伝子;および/または(ii)非ヒト哺乳動物、哺乳動物組織または哺乳動物細胞に安定的に組み込まれたEGFレセプターリガンド(例えば、TGF−α遺伝子)を同時発現可能な、非ヒト哺乳動物である。哺乳動物組織または哺乳動物細胞は、ヒト組織またはヒト細胞であり得る。
【0027】
(治療投与および治療組成物)
投与様式としては、経皮経路、筋肉内経路、腹腔内経路、静脈内経路、皮下経路、鼻腔内経路、および経口経路が挙げられるが、これらに限定されない。この化合物は、任意の便利な経路(例えば、上皮または粘膜裏層(例えば、口腔粘膜、直腸粘膜または腸管粘膜など)を通して吸収される、注入またはボーラス注射)で投与され得、そして、他の生物学的に活性な薬剤と共に投与され得る。投与は、好ましくは、全身的である。
【0028】
本発明はまた、薬学的組成物も提供する。このような組成物は、治療的有効量の、治療的かつ薬学的受容可能なキャリアまたは賦形剤を含む。このようなキャリアとしては、生理食塩水、緩衝化生理食塩水、デキストロース、水、グリセロール、エタノール、およびこれらの組み合わせが上げられるが、これらに限定されない。処方物は、投与様式に適するべきである。薬学的受容可能キャリアおよび本発明における使用のための処方物は、Remington’s Pharmaceutical Sciences,Mack Publishing Company,Philadelphia,PA,第17版(1985)(本明細書中で参考として援用される)において見出される。薬物送達のための方法の簡潔な総説については、Langer(1990)Science 249:1527−1533(本明細書中で参考として援用される)を参照のこと。
【0029】
本発明の薬学的組成物の調製において、本発明の組成物を改変し、その薬物動態学および体内分布を変えることが望ましい。薬物動態学の一般的考察については、Remingtons’s Pharmaceutical Sciences,前出,第37〜39章を、参照のこと。薬物動態学および体内分布を変えるための多くの方法が、当業者に公知である(例えば、Langer,前出を参照のこと)。このような方法の例としては、タンパク質、脂質(例えば、リポソーム)、炭水化物、または合成ポリマーのような物質からなる小胞中での薬剤の保護が挙げられる。例えば、本発明の薬剤は、その薬物動態学および体内分布特性を拡大するために、リポソーム内に組み込まれ得る。リポソームを調製するために、種々の方法が使用可能である。これらの方法は、例えば、Szokaら(1980)Ann.Rev.Biophys.Bioeng.9:467、米国特許第4,235,871号、同第4,501,728号、および同第4,837,028号(これら全ては本明細書中で参考として援用される)に記載される。種々の他の送達系が公知であり、本発明の治療物(例えば、微小粒子、微小カプセルなど)を投与するために使用され得る。
【0030】
この組成物はまた、所望される場合、微量の湿潤剤または乳化剤、あるいはpH緩衝化剤を含有し得る。この組成物は、液体溶液、懸濁液、乳液、錠剤、丸剤、カプセル、徐放性処方物、または散剤であり得る。この組成物は、従来の結合剤およびキャリア(例えば、トリグリセリド)を用いて、座剤として処方され得る。経口処方物は、標準的キャリア(例えば、薬学等級のマンニトール、乳糖、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどを含有し得る。
【0031】
好ましい実施形態において、この組成物は、慣用的手順(例えば、ヒトへの静脈内投与に適した薬学的組成物)に従って処方される。代表的に、静脈内投与のための組成物は、無菌等張水性緩衝液中の溶液である。必要な場合、この組成物はまた、溶解補助剤および注射の部位でのあらゆる痛みを緩和する局所麻酔を含有し得る。一般に、成分は、例えば、密封容器内の凍結乾燥粉末または水非含有濃縮物(例えば、アンプルまたはサシェ(sachette)(活性薬剤の質を表す))として、別々に供給されるか、または単位投薬形態中に混合して供給されるかのどちらかである。組成物が注入によって投与されるべきである場合、組成物は、無菌薬学等級の水または生理食塩水を含む注入瓶で投与され得る。組成物が注射で投与される場合、注射のための滅菌水または生理食塩水のアンプルが提供され得、成分が投与前に混合され得る。
【0032】
本発明の治療物は、中性形態または塩形態で処方され得る。薬学的に受容可能な塩としては、遊離のアミノ基で形成される(例えば、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来する)塩、および遊離のカルボキシル基で形成される(例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、および他の二価カチオン、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2−エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来する)塩が、挙げられる。
【0033】
本発明の治療物の、特定の障害または症状を処置するために効果的な量は、障害または症状の性質に依存し、標準的臨床技術によって決定され得る。処方物中に使用される正確な用量はまた、投与経路、および疾患または障害の重篤度にも依存し、そして臨床医の判断および各患者の環境に従って決定されるべきである。しかし、静脈内投与の適切な用量範囲は、EGFレセプターリガンドについては一般に体重1kgあたり活性化合物約0.01〜500μgであり、ガストリンレセプターリガンドについては一般に体重1kgあたり活性化合物0.1〜5000μgである。有効用量は、インビトロ試験系または動物モデル試験系からの用量応答曲線から外挿され得る。座剤は、一般に、0.5重量%〜10重量%の範囲の活性成分を含有し、経口処方物は、好ましくは10%〜95%の活性成分を含有する。
【0034】
本発明の遺伝子治療方法において、インビボトランスフェクションは、治療物転写ベクターまたは治療物発現ベクターの哺乳動物宿主への、脂質キャリア(特にカチオン性脂質キャリア)と混合した裸の(naked)DNAまたはウイルスベクターへ挿入したDNA(例えば、組換えアデノウイルス)のどちらかとしての導入によって得られる。哺乳動物宿主への導入は、幾つかの経路(静脈内注射経路または腹腔内注射経路、気管内経路、くも膜下腔内経路、非経口経路、関節内経路、鼻腔内経路、筋肉内経路、局所的経路、経皮経路、任意の粘膜表面への適用、角膜導入(corneal installation)など)のいずれかによってなされ得る。特に興味深いのは、循環体液内または体の開口部もしくは体腔への治療物発現ベクターの導入である。従って、静脈内投与およびくも膜下腔内投与は、特に興味深い。なぜなら、ベクターは、このような経路の後に広範に散在し得、そしてエアロゾル投与は、体の開口部または体腔への導入による使用を見出すからである。特定の細胞および組織が、投与経路および投与部位に基づいて標的化され得る。例えば、血流の方向の注射の位置に近接した組織は、任意の特定の標的化の非存在下でトランスフェクトされ得る。脂質キャリアが使用される場合、これらは、部位特異的分子を使用して、細胞の特定の型の複合体を目指すように改変され得る。従って、特定のレセプターまたは他の細胞表面タンパク質についての抗体またはリガンドが、特定の表面タンパク質に関連する標的細胞に使用され得る。
【0035】
任意の生理学的に受容可能な媒体(例えば、上述のように薬学的組成物のために、投与の経路に依存して、脱イオン水、生理食塩水、リン酸緩衝化生理食塩水、水中5%デキストロースなど)が、DNA、組換えウイルスベクターまたは脂質キャリアを投与するために使用され得る。他の成分(例えば、緩衝液、安定剤、殺生剤など)が、処方物中に含有され得る。これらの成分は、文献において広範な例証を見出しており、ここで特に記載する必要はない。避けるべき複合体の凝集を引き起こすなんらかの希釈剤または希釈剤の成分としては、高濃度の塩、キレート剤などが挙げられる。
【0036】
使用される治療物ベクターの量は、標的組織内における発現の治療レベルを提供するために十分な量である。発現の治療レベルは、血糖を正常レベルに減少するために十分な発現量である。加えて、使用される核酸ベクターの用量は、インビボの導入組織において、導入遺伝子発現の所望のレベルを生成するために十分でなければならない。他のDNA配列(例えば、アデノウイルスVA遺伝子)は、投与媒体に含有され得、そして目的の遺伝子に同時トランスフェクトされ得る。アデノウイルスVA遺伝子産物をコードする遺伝子の存在は、所望される場合、発現カセットから転写されるmRNAの翻訳を有意に増大し得る。
【0037】
多くの因子が、トランスフェクトされた組織における発現の量に影響し、従って発現のレベルを改変して、特定の目的に合わせるために使用され得る。高レベルの発現が所望される場合、全ての因子を最適化し得、より少ない発現が所望される場合、1つ以上のパラ
メータを変えて所望の発現レベルを達成し得る。例えば、高い発現が治療濃度域を超える場合、最適条件未満を使用し得る。
【0038】
組換え遺伝子の発現のレベルおよび組織は、上述のように、mRNAレベル、および/またはポリペプチドもしくはタンパク質のレベルにおいて決定され得る。遺伝子産物は、組織におけるその生物学的活性を測定することによって定量され得る。例えば、タンパク質活性は、上述のイムノアッセイ、生物学的アッセイ(例えば、血糖)、または免疫染色技術(例えば、遺伝子産物または発現カセット内に存在するレポーター遺伝子産物を特異的に認識する抗体での探索)によるトランスフェクトされた細胞の遺伝子産物の同定によって、測定され得る。
【0039】
代表的に、治療カセットは、患者のゲノム内に組み込まれない。必要な場合、処置は、達成された結果に依存して、非定型に繰り返され得る。処置が繰り返される場合、患者をモニターし、処置に有害な免疫応用または他の有害応答が存在しないことを確認し得る。
【0040】
本発明はまた、膵臓β細胞の集団をインビトロで増殖するための方法を提供する。適切なドナーからの膵臓の単離に基づき、細胞を単離してインビトロで増殖させる。使用される細胞は、哺乳動物ドナー由来の組織サンプル(ヒト死体、ブタ胎児、または他の適切な膵臓細胞供給源が挙げられる)から得られる。ヒト細胞が使用される場合、可能であれば、細胞は、レシピエントに合った組織適合性が高い。細胞の精製は、単離した膵臓の酵素(例えば、コラゲナーゼ)分解後の、勾配分離によって達成され得る。精製した細胞を、細胞を生存させるために十分な栄養、およびインスリン分泌膵臓β細胞を形成するために十分な量のβ細胞増殖誘導組成物(ガストリン/CCKレセプターリガンドおよびEGFレセプターリガンドを含む)を含有する培地内で増殖する。本発明に従って、刺激後、インスリン分泌膵臓β細胞を、培養物中で直接増殖し、その後移植を必要とする患者に移植し得るか、または、β細胞増殖誘導組成物による処置後、直接移植し得る。
【0041】
移植の方法は、得られたインスリン分泌膵臓β細胞を、免疫抑制剤(例えば、シクロスポリン)と共にその移植を必要とする患者に移植する工程を包含する。インスリン産生細胞はまた、移植前に、半透性膜中にカプセル化され得る。このような膜は、カプセル化細胞からのインスリン分泌を許容し、一方で、細胞を免疫攻撃から保護する。移植するべき細胞の数は、患者1kgあたりインスリン産生β細胞が10,000個と20,000個との間で見積もられる。繰り返しの移植が、インスリン分泌細胞の治療的有効数を維持するために、必要に応じて要求され得る。本発明に従い、移植レシピエントはまた、移植されたインスリン分泌β細胞の増殖を誘導するために、十分な量のガストリン/CCKレセプターリガンドおよびEGFレセプターリガンドを提供され得る。
【0042】
糖尿病の処置の効果を、以下のように評価し得る。可能であれば、処置様式の生物学的効力および臨床的効力の両方を、評価する。例えば、疾患はそれ自体、血糖増加により発現し、従って、例えば、評価した血糖の正常値への回帰を観察することにより、処置の生物学的効力は評価され得る。臨床的効力(すなわち、効果の基礎を成す処置が疾患の経過の変化において有効であるか否か)を測定することは、より難しくあり得る。生物学的効力の評価は、臨床的効力の代用評価項目として貢献するが、決定的ではない。従って、たとえば6ヶ月の期間後のβ細胞再生の指標を与え得る臨床的終末点の測定は、処置レジメンの臨床的効力の指標を与え得る。
【0043】
本組成物は、1つ以上の手順で使用のためのキットとして提供され得る。遺伝的治療のためのキットは、通常、ミトコンドリア標的配列ペプチドを有するかもしくは有さない裸のDNAとして、組換えウイルスベクターとしてかまたは脂質キャリアと混合されるかのどちらかで、治療的DNA構築物を含む。さらに、脂質キャリアは、提供されるDNAと
混合するために、別の容器中に提供され得る。このキットは、使用前にさらに希釈され得る濃縮物(凍結乾燥組成物を含む)としての有効な薬剤か、または使用する濃度で提供され得る有効な薬剤のどちらかを含有する組成物を含み、バイアルは、1回以上の用量を含み得る。好都合なことに、キットにおいて単回用量は、滅菌バイアル中で提供され得、従って、医師は、バイアルが所望の量および濃度の薬剤を有する場合、バイアルを直接使用し得る。バイアルが、直接使用のための処方物を含む場合、通常、本方法と共に使用するための他の試薬は必要ない。このようなキットは、医薬品または生物学製品の製造、使用または販売を規制する政府機関によって定められた形態の通知(この医薬品または生物学製品の製造、使用または販売を規制する機関により、ヒト投与のための認可を反映する)に沿い得る。
【0044】
以下の実施例は、例証の目的で提供され、限定の目的で提供されない。
【実施例】
【0045】
(方法)
以下の方法が、別に述べない限り、以下に示す実施例において使用された。
【0046】
(動物)
通常の飼料を適宜与え、水を自由に摂らせた正常なWistarラットおよびZuckerラットを、各実験の開始の一週間前に順応させた。体重1kgあたり80mgの用量の新しく調製したストレプトゾトシンを、糖尿病の誘導の5日〜7日後に静脈内(I.V.)投与し、ラットを、その後の処理のためのグループに無作為に割り当てた。実施例1〜4において、TGF−αおよびラットガストリンを、0.1%BSA含有の滅菌正常食塩水中で再構築した。別々の実験についての所定の処置計画に従い、各動物に、TGF−αもしくはガストリンを単独(4.0μg/kg体重)または1:1(w/w)混合物(計8.0μg/kg体重)での、あるいはPBSの、単回の腹腔内(i.p.)注射を毎日10日間の間与えた。
【0047】
雌NODマウスを、特定の病原体非含有条件下で餌を与え、無処理雌NODマウスにおいてそして98%の糖尿病発生率を得るように、適切に世話した。NOD糖尿病マウスを、FBGによる糖尿についての毎朝の試験(10週齢で開始)によって、糖尿病発生についてモニターした。糖尿が出た場合、空腹時血糖レベル(FBG)を測定し、2日連続のFBG>6.6mmol/lを、糖尿病と定義した。最近発症したNODモデルについて(実施例7)、糖尿病マウスを、代表的に14〜18週で、使用のために選択した。慢性的NODモデルについて、糖尿病マウスを、代表的に25週齢で、使用のために選択した(FBGレベルは、代表的に30mMを超えた)(実施例5および6)。実施例8および実施例9における雌NOD−SCID(免疫不全(immunodeficient)と組み合わせた免疫不全切断(immunoincompetent sever)マウスの処置を、マウスが5〜7週齢のときに行った。実施例8〜9において、マウスを、一般に、移植直後から始めて6〜8週間、30μg/kgのヒト変異体EGF(51アミノ酸残基を有し、51位の残基はアスパラギンである)(出願番号第10/000,840に記載)、および30〜1000μg/kgのヒトガストリンアナログであるhGastrin1−17Leul5の各用量を、生理食塩水/リン酸緩衝液中で、腹腔内(i.p.)注射によって1日2回投与することにより、処置した。
【0048】
(血糖)
処置期間の終わりに動物を、一晩絶食させ、そして静脈内(i.v.)または腹腔内(i.p.)のグルコース耐性試験を行った。絶食被験体からの血液サンプルを収集し、そしてグルコース注射後の異なった時間にサンプルを収集した。サンプルを、血糖濃度について分析し、次いで、必要な場合、特異的ラジオイムノアッセイによるヒトインスリンC
ペプチドレベルのアッセイのために調製した。このアッセイは、マウス由来のCペプチドに対し、無視できる交差反応性を有した。
【0049】
(組織インスリン分析)
各研究の最後に、動物を屠殺し、そして膵臓およびヒト膵島移植片(移植した場合)を取り出し、重さを量った。
【0050】
小さな生検を、膵臓組織の全体に渡って別々の代表部位から取り、そして免疫組織化学測定、タンパク質測定、およびインスリン測定のために、液体窒素中で直ちに急速凍結した。急速凍結した膵臓サンプルを、迅速に融解し、脱イオン水中で超音波的に崩壊させて、アリコートをタンパク質測定のために取り、ホモジネートを酸/エタノール抽出に供した後でRIAによってインスリン測定を行い、そして総膵島含量を計算した。
【0051】
ヒト膵島移植片を、凍結し、抽出してインスリン含量をイムノアッセイによってアッセイするか、または、組織学的分析のためにホルマリン中で固定した。ヒト膵島移植片を、分析のために採取し、酸/エタノール中で抽出して、インスリン含量をイムノアッセイによってアッセイした。
【0052】
(免疫組織化学分析)
ヒト膵島移植片を、採取し、解離させて細胞調製物とし、これをインスリン、グルカゴン、アミラーゼおよびサイトケラチン(CK)7およびCK 19のそれぞれについて特異的な抗体で免疫染色した。免疫組織化学技術を、Suarez−Pinzon WLら(Diabetes 49:1810−1818,2000)中に記載のように行った。移植組織および細胞調製物における各別々の細胞型の割合およびインスリン含量を、染色スライドおよびコード化スライドを計数することによって決定した。各スライドは、1サンプルにつき少なくとも12,000個の細胞を含み、そして各スライドを少なくとも3連で、明視野顕微鏡下で100×液浸系対物レンズを使用して、実施した。1回の調製につき少なくとも6,000個の細胞を計数し、そして計数を、目隠しコード様式で2回繰り返した。数値を、移植前に、移植細胞調製物中の換算値と比較した。
【0053】
(ヒト膵島調製物および移植)
ヒト膵島を、上述したように、ヒトドナーの膵臓組織から以下のように調製した。ヒト膵臓からの膵島を、脳死した器官ドナーから、親族のインフォームドコンセントの下に得て単離した。病院の人間倫理委員会が組織獲得および実験的プロトコールを認可している。ドナーからの膵臓摘出および膵島単離手順を、Lakey JRTら(1999)Cell transplant 8:285−292、およびRicordi C.ら(1988)Diabetes 37:413−420に従って行った。
【0054】
ヒト膵島を、腎被膜下移植により、非糖尿病NOD/マウスに移植した(2000膵島当量)。代表的に、1人のヒトドナー膵臓を、約10〜12匹のマウスに移植するために使用した。
【0055】
(実施例1)
(正常ラットにおけるTGF−αおよびガストリンでのインビボ処置の膵臓インスリン含量に対する効果)
この実験を、TGF−α、ガストリン、またはTGF−αおよびガストリンの組み合わせで処置した非糖尿病動物における膵臓インスリン含量に対する効果を、コントロール動物(無処理)と比較して調べるために、設計した。正常Wistarラットのグループ(n=5)を、以下の4つの処置グループの1つに割り当てた。
【0056】
グループI:TGF−α;組換えヒトTGF−αを、0.1%BSA含有の滅菌生理食塩水中で再構築し、一日あたり0.8μgの用量で10日間、i.p.投与した。
【0057】
グループII:ガストリン:合成RatガストリンIを、かなり希釈した水酸化アンモニウム中に溶解し、そして0.1% BSA含有滅菌生理食塩水中で再構築した。これをi.p.で、一日あたり0.8μgの用量で10日間投与した。
【0058】
グループIII:TGF−α+ガストリン:上記調製物の組み合わせを、i.p.で、上記の用量レベルで10日間、投与した。
【0059】
グループIV:コントロール動物に、ビヒクルのみのi.p.注射を10日間与えた。
【0060】
実験期間(10日間)の最後に、全ての動物を屠殺し、そして膵臓のサンプルを以下のように得た:膵臓組織の5つの生検標本(1〜2mg)を、各ラット膵臓における別々の代表部位から得、そしてインスリン含量の分析のために液体窒素中で直ちに急速凍結した。膵臓インスリン含量の分析のために、急速凍結膵臓サンプルを迅速に融解し、蒸留水中で超音波的に崩壊させ、アリコートをタンパク質測定のために取り、そして酸/エタノール抽出して、その後インスリンラジオイムノアッセイを行った(Greenら,(1983)Diabetes 32:685−690)。膵臓インスリン含量値を、タンパク質含量に従って補正し、そして最後にμgインスリン/mg膵臓タンパク質で表した。全ての値を、平均+/−SEMで計算し、そして統計学的有意性を、スチューデント2サンプルt検定を使用して評価した。
【0061】
【表1】

【0062】
上の表1に示されるように、膵臓インスリン含量は、TGF−α+ガストリン処置動物において、コントロール動物と比較して有意に増加した(p=0.007);コントロール動物と比較して、膵臓インスリン含量においておよそ3倍の増加があった。これらのデータは、TGF−αおよびガストリンの組み合わせは、機能的膵島β細胞容量を増加させるという仮定を支持する。この増加は、β細胞肥大(β細胞個々のサイズの増大)よりもむしろβ細胞過形成(数の増加)の全体条件を反映する。
【0063】
(実施例2)
(糖尿病動物における、TGF−αおよびガストリンの組み合わせによるインビボ処置の膵臓インスリン含量に対する効果)
この実験を、TGF−αおよびガストリンの組み合わせが、糖尿病(ストレプトゾトシン(STZ)処理)動物において、膵臓インスリン含量のレベルを正常(STZ無処理)動物のレベルと比較して、増加し得るか否かを決定するために設計した。
【0064】
正常Wistarラットに、80mg/Kg体重の用量のSTZの単回I.V.注射を与えた。STZのこの用量は、実験動物を糖尿病にするが、これらは機能的であるが減少した重量のβ細胞を保持することを確認することを意図した。STZを、投与の直前に、氷冷した10mMクエン酸緩衝液に溶解した。この動物を、毎日モニターした;持続性の糖尿病を、糖尿によって示し、そして非空腹時血糖測定によって確認した。糖尿病導入の一週間後、ラットを無作為に2つのグループ(n=6)に以下のように割り当てた。
【0065】
グループI:TGF−α+ガストリン:STZ糖尿病ラットを、組換えヒトTGF−αと合成ラットガストリン1との組み合わせの単回のi.p.注射により処置した;両方の調製物を、0.8μg/日の用量で10日間投与した。
【0066】
グループII:コントロール:STZ糖尿病ラットに、ビヒクルのみのi.p.注射を、10日間与えた。
【0067】
実験期間の最後に、全ての動物を屠殺し、そして膵臓のサンプルを採取して、実施例1に記載のように分析した;この結果を、表2に示す。
【0068】
【表2】

【0069】
STZによる糖尿病の導入は成功し、そして中程度であるが持続性の高血糖を生じた。完全なインスリン欠損(insulinopaenia)は見出されなかったため、従って、実験動物は、機能的であるが、重量の減少したβ細胞を保持していることを確認した。
【0070】
上の表2において示されるように、コントロールストレプトゾトシン処置動物の膵臓インスリン含量は、STZによるβ細胞の破壊の結果として、正常ラットの1/3未満であった(20.6±6.0mgインスリン/mgタンパク質、上の表1参照)。TGF−αとガストリンとの組み合わせで処置したSTZ動物において、膵臓インスリン含量は、STZのみを与えた動物の4倍を超え、正常ラットと統計的に同一であった(例えば、上の表1を参照)。
【0071】
(実施例3)
(STZ誘導性糖尿病動物における、TGF−αおよびガストリンによるインビボ処置のIPGTTに対する効果)
STZ誘導性糖尿病Wistarラットの2つのグループ(平均体重103g)(n=6/グループ)を、TGF−αとガストリンとの組み合わせまたはPBSのどちらかのi.p.注射により、10日間毎日処置した。空腹時血糖を、全てのラットについて、0日目、6日目および10日目に測定した。このインスリンが分泌されかつ機能的であること
を証明するため、IPGTT試験を行った。10日目に、腹腔内グルコース耐性試験(IPGTT)を、一晩の絶食後に行った。血液サンプルを、2g/kg体重の用量のi.p.グルコース注射の前および30分後、60分後および120分後に、尾静脈から得た。血糖測定を、上記のように行った。血糖レベルは、時間0において両実験グループにおいて同様であったが、i.p.グルコースを与えた30分後、60分後、および120分後において、TGFαおよびガストリン処置ラットは、コントロールラットと比較して、血糖値の50%低下を示した(図1)。
【0072】
(実施例4)
(糖尿病傾向の動物におけるTGF−αおよびガストリンの体重上昇およびインスリン含量に対する効果)
Zuckerラットを、30日齢で、肥満の発達の約10日〜15日に得た。糖尿病傾向のZuckerラット(遺伝子型fa/fa、肥満および糖尿病について常染色体劣勢変異体)の他に、痩型非糖尿病の同腹仔(遺伝子型+/+)もまた、以下に記載するように実験に含めた。このラットを、肥満および糖尿病の発達について、体重および血糖レベルの測定により、毎日モニターした。Zuckerラットにおける糖尿病の発症は、通常、45〜50日の間に開始し、血糖レベルにおける同齢の痩型コントロールのレベルと比較した有意な上昇によって、確認した。
【0073】
各5匹のラットの5つのグループを含めた実験を、表3において記載する。グループ1およびグループ2(痩型、非糖尿病)を、それぞれTGF−αとガストリンとの組み合わせまたはPBSで、0日目から10日目まで処置した。グループ3、グループ4およびグループ5は、肥満、初期糖尿病Zuckerラット、遺伝子型fa/faを含んだ。グループ3に、糖尿病の発症前に組み合わせ前処置を15日間(−15日〜0日)与え、そして糖尿病発症後さらに10日間(0日目〜10日目)与え続けた。グループ4を、TGF−αおよびガストリンで、糖尿病の発症後10日間処置し、そしてグループ5を、同じ期間にわたってPBSで処置した。実験の最後に、ラットを屠殺し、膵臓を摘出した。小さな生検を、上述のように、別々の代表部位からタンパク質およびインスリンの測定のために採取した。
【0074】
肥満糖尿病の、前処置したZuckerラット、処置のみをしたZuckerラット、または生理食塩水処置したZuckerラットにおける体重増加(表3におけるグループ3、グループ4およびグループ5)は、グループの間で任意の相違を示さなかった。TGF−α+ガストリンによる延長した処置(25日、グループ3)でさえ、正常体重増加における効果がなかったことを述べることは、特に興味深い。誤差限度内で、体重増加は、全てのグループにおいて同一である。
【0075】
肥満Zuckerラットにおける空腹時血糖に対するTGF−α+ガストリン処置の効果を、対応するPBSコントロールと比較した。空腹時血糖は、15日目まで有意に上昇し(4.0±0.6対5.0±0.2)、そしてこの時点を、TGF−α+ガストリンまたはPBSコントロールで処置する10日間処置の開始時期をして選択した。空腹時血糖レベルは、TGF−α+ガストリン処置またはPBSにより、有意に変化しなかった。空腹時血糖値は、増殖因子またはPBSで処置しようとするまいと、肥満動物と比較して、痩型においてより低かった。
【0076】
これらの結果を、下の表3および図2に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
(実施例5)
(慢性インスリン依存性糖尿病のNODマウスにおけるガストリンによるインビボ処置の空腹時血糖に対する用量依存性効果)
この実験の目的は、慢性インスリン依存性糖尿病のNODマウスにおいてガストリンのみで重篤な高血糖の発達および死を防ぎ得るか否かを決定することであった。慢性インスリン依存性糖尿病のインスリン治療で維持されたNODマウスを、以下で処置する、異なった処理グループに分配した:(i)ビヒクル(n=4);(ii)G1 1μg/kg/日、i.p.によって28日間にわたって1日2回(n=4);(iii)G1 5μg/kg/日、i.p.によって28日間にわたって1日2回(n=4);(iv)G1
10μg/kg/日、i.p.によって28日間にわたって1日2回(n=4)。インスリン治療を、G1による処置開始から14日後に停止した。G1は、天然のガストリン分子と同じ長さであるが、15位においてmetからleuへの1つのアミノ酸置換を含む、17aaガストリンアナログである。
【0079】
0日から14日まで、動物を、インスリン治療で維持し、全ての処置グループについて、空腹時血糖(FBG)値は、10μg/kg/日のG1で処置したグループ(FBGの減少を示した)を除き、0日目に記録したレベルの近くで維持された。28日目(インスリン治療中止14日後)に、ビヒクルグループの全ての動物は、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)で死亡した。何故なら、これら全てのマウスは、完全にインスリン注射に依存していたからである。しかし、G1で処置した全てのマウスは、インスリン処置無しで2週間生き延びた。1μg/kg/日のG1で処置したマウスの空腹時血糖レベルは高いままだったが、G1の用量の増加に対応して、空腹時血糖レベルが低下した(それぞれ、5μg/kg/日および10μg/kg/日)。図4を参照のこと。これらのデータは、ガストリンによる処置は、慢性的糖尿病インスリン依存性NODマウスにおいて、インスリン治療の使用無しで、有意にグルコース制御を改善することを示す。
【0080】
(実施例6)
(慢性的インスリン依存性糖尿病のNODマウスにおけるEGFによるインビボ処置の空腹時血糖に対する用量依存的効果)
この実験の目的は、慢性的インスリン依存性糖尿病のNODマウスにおいて、EGFが、重篤な高血糖の発達および死亡を防ぎ得るか否か、そして膵臓インスリン含量を増加し得るか否かを決定することである。慢性的インスリン依存性糖尿病のインスリン治療で維持されたNODマウスを、以下で処置する、異なった処理グループに分配した:(i)ビヒクル(n=4);(ii)E1 0.25μg/kg/日、i.p.によって28日間
にわたって1日2回(n=4);(iii)E1 1μg/kg/日、i.p.によって28日間にわたって1日2回(n=4);(iv)E1 3μg/kg/日、i.p.によって28日間にわたって1日2回(n=4)。インスリン治療を、E1による処置開始から14日後に停止した。E1は、51アミノ酸のEGFアナログである。
【0081】
0日から14日まで、動物を、インスリン治療で維持し、E1で処置した全てのグループについて、空腹時血糖(FBG)値は、用量の増加に依存して低下した。28日目(インスリン治療中止14日後)に、ビヒクルグループの全ての動物は、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)で死亡した。何故なら、これら全てのマウスは、完全にインスリン注射に依存していたからである。対照的に、E1で処置した全てのNODマウスは、インスリン処置無しで2週間生き延びた。加えて、E1処置グループについてのFBGの減少は、0.25μg/kg/日のE1で処置したグループ(28日目でFBGが上昇したままだった)を除き、2週間前に観察されたレベルで安定し続けた。図5を参照のこと。これらのデータは、EGFによる処置は、慢性的糖尿病インスリン依存性NODマウスにおいて、インスリン治療の使用無しで、有意にグルコース制御を改善することを示す。
【0082】
(実施例7)
(最近糖尿病を発症したNODマウスにおける、ガストリンまたはEGFによるインビボ処置の空腹時血糖および膵島インスリン含量に対する効果)
本実験の目的は、ガストリンまたはEGFのどちらかのみが、最近糖尿病を発症したNODマウスにおいて、糖尿病状態を改善し得るか否かを決定することであった。非肥満糖尿病(NOD)雌マウスを、糖尿病の発達についてモニターした(空腹時血糖FBG>6.6mmol/l)。糖尿病発症後、マウスを、以下で処置した:(i)ビヒクル(n=4)、(ii)E1 1μg/kg/日、i.p.によって14日間にわたって1日1回(n=5);(iii)G1 1μg/kg/日、i.p.によって14日間にわたって1日1回(n=5)。マウスには、インスリン代替処置を与えなかった。空腹時血糖レベルおよび膵臓インスリンレベルを、モニターした。E1は、51アミノ酸のEGFアナログであり、一方G1は、天然のガストリンと同じ長さであるが15位において1つのアミノ酸置換を含むガストリンアナログである。
【0083】
ビヒクル処置コントロール動物において、空腹時血糖(FBG)値は、35日後に倍になった。E1またはG1のどちらかで処置した動物のFBG値は、この動物モデルにおける膵島細胞の破壊の進行にもかかわらず、糖尿病発症時(0日目)に記録した値の近くで維持された。膵島細胞新生は、これらの細胞の破壊の最小限の補償で、EGFまたはガストリンによって刺激された。図7を参照のこと。膵臓インスリンレベルもまた、全ての動物において測定した。ビヒクル処置コントロールにおける膵臓インスリンレベルは、β細胞の破壊に起因して35日で低下したが、E1またはG1のどちらかで処置した動物は、処置前の値と比較して、有意に高いレベルの膵臓インスリンレベルを示した。図8を参照のこと。この研究は、NODマウスにおける最近糖尿病を発症した後のE1またはG1のどちらかによる短期(14日間)の処置が、治療停止後少なくとも3週間にわたって、膵臓インスリン含量を上昇させ、そして糖尿病状態の進行を防ぐことを実証した。
【0084】
(実施例8)
(マウスに移植され、インビボでガストリンおよびEGFで処置されたヒト膵島移植片の特徴付け)
マウスを、ヒト膵島(2000膵島当量)で、腎被膜下に移植し、そして高血糖刺激として、1.5g/kgのグルコースをI.V.で投与した。血液サンプルを採取し、そして上述のようにアッセイした。このデータは、血糖濃度時間経過が、EGF/ガストリンマウスとビヒクル処置マウスにおいて同様であることを示した(図8A)。しかし、同じ高血糖刺激に応答して、EGF/ガストリン処置マウスの血漿中に放出されるヒトC−ペ
プチド量は、ビヒクル処置マウスの血漿中より5倍を超えて高かった(それぞれ9.2ナノモル/L/分および1.8ナノモル/L/分;図8Aおよび図8Bを参照のこと)。これは、処置が、移植されたヒト膵島におけるインスリン合成の刺激において有効であったことを示す。これらのデータはまた、移植されたヒトβ細胞の機能的重量は、ガストリン/EGF処置マウスにおいて、ビヒクル処置コントロールと比較して有意に高かったことを示す。
【0085】
ヒト膵島移植片のインスリン含量を、移植8週後に分析した。ガストリン/EGFによる処置は、ビヒクルで処置したマウスの膵島移植片におけるインスリン含量(移植片につき1.34±0.21μg、p>0.02;図9)または移植前膵島(移植片につき、インスリン0.7μg未満)と比較して、インスリン含量において有意に増加した(移植片につき2.42±0.28μg)。
【0086】
ヒト膵島移植片の免疫細胞化学試験は、ガストリン/EGF処置が、ビヒクルで処置したマウスにおける膵島移植片におけるβ細胞の割合(19.6±1.2%)と比較して、膵島移植片において観察されるβ細胞の割合を上昇させる(29.7±1.2%;図10)ことを示した。EGF/ガストリン処置マウスからの移植片において観察されるβ細胞の総数(4.4±0.2×10個のβ細胞)もまた、ビヒクル処置マウスからの移植片において観察される(2.6±0.2×10個のβ細胞)よりも有意に高い。ビヒクル処置マウスからの移植片と比較したガストリン/EGF処置マウスからの移植片におけるグルカゴン発現α細胞の分析は、ガストリン/EGF処置への応答において、細胞の割合と細胞数の両方を上昇させることを明らかにした(表4)。さらに、CK19染色した管細胞の割合が、ガストリン/EGF処置移植片において上昇した。これは、CK19/20管細胞が、膵島新生の間に膵島細胞になる前駆体集団を含む(Gmyr,V.ら,2001,Diabetes 49:1671−80;Gmyr,V.ら,Cell Transplantation,2001,10:109−121)と考えられるため、重要である。膵島は、膵島における細胞全体の約1/5〜1/3であるように多様に見積もられる、幹細胞の集団を含む。表4はまた、ガストリン/EGF組成物による処置において、同定された細胞の割合が、主にβ分泌細胞およびα分泌細胞の割合における増加に起因して、約53%または59%〜約84%まで増加することを例証し、ガストリン/EGF処置が、膵島における幹細胞のインスリン分泌細胞への分化を刺激することを示す。
【0087】
移植前の膵臓と比較して、移植8週間後までに、ガストリン/EGF処置マウスおよびビヒクル処置マウスの両方において、腺房細胞数が減少した。全体で、ガストリン/EGF移植片における細胞構成は、ビヒクル処置(26%)および移植前組織(20%)と比較して、膵島分化への移動を示す(62%の膵島細胞およびCK19細胞)。
【0088】
【表4】

【0089】
ガストリン/EGFでの処置は、NOD−SCIDマウスに移植されたヒト膵島において、インスリン陽性β細胞の増加を誘導した。図11において、上段パネル(インタクトな膵島移植片からの細胞からのデータ)は、インスリン染色β細胞が、ガストリン/EGF治療を施したマウスからのヒト膵島移植片において、ビヒクルを投与したマウスからの移植片におけるよりも、より豊富であったことを示す。下段パネル(単離された膵島移植片細胞からのデータ)は、免疫ペルオキシダーゼによって検出されたインスリン染色細胞の数が、ガストリン/EGFで処置されたマウスから回収されたヒト膵島移植片からの解離細胞調製物において、ビヒクル処置マウスからと比較して、ずっと大きかったことを示した。
【0090】
マウスのガストリン/EGFによる処置は、潜在的膵島β細胞についてのマーカーの発現の量を有意に増大し、そのマーカーは、ヒト膵島細胞において、前駆体転写因子PDX1である(図12および図13)。このタンパク質は、膵臓および十二指腸のホメオボックス遺伝子1(PDX−1)によってコードされ、膵臓発生および膵島機能調節の中心であり、そしてインスリン遺伝子発現を調節する。
【0091】
両方の図において見られるように、PDX1およびインスリンの発現の共存もまた観察された。これらのデータは、NOD−SCIDマウスに移植されたヒト膵島において、ガストリン/EGFが、PDX1発現およびβ細胞量増加を誘導することを実証する。
【0092】
(実施例9)
(低用量のガストリン/EGFの投与は、ヒト組織の移植片において、ヒトβ細胞増殖およびインスリン分泌応答を改善する)
実施例8(前出)の手順と同様に、NOD−SCIDマウスを、ビヒクルまたは低用量のガストリン/EGF(EGF、30μg/kg/日、およびガストリン、30μg/kg/日、6週間にわたって、1日1回用量で、腹腔内投与で与えた)のどちらかで処置し、インスリン分泌応答を測定した。
【0093】
高血糖刺激としてIVグルコース1.5g/kg投与後、ガストリン/EGF処置マウスにおいて、血糖耐性に、僅かな改善しか観察されなかった(図13)。しかし、ビヒクル処置マウスの血漿中におけるヒトC−ペプチドの放出と比較して、ガストリン/EGF処置マウスの血漿中のヒトC−ペプチドのより大きな放出によって証明されるように、インスリン分泌応答において有意な改善が、ことによって観察された。従って、低用量のガ
ストリン/EGFでさえも、ガストリン/EGF処置は、ヒト膵島移植片のインスリン分泌応答において、改善をもたらす。
【0094】
(実施例10)
(移植およびヒト幹細胞のインスリン分泌細胞への分化)
この実験の目的は、幹細胞(例えば、樹立細胞株、臍帯、または胚に由来する幹細胞)を、糖尿病患者への移植およびガストリン/EGF処置によるインスリン分泌細胞への分化のために、膵島移植片の代わりに使用し得るか否かを決定することである。
【0095】
細胞株から、または臍帯からの幹細胞を、近い血縁の新生児個体(子、従兄弟、姪または甥)から入手し、そして多くのI型糖尿病患者のそれぞれに移植する。この実施例の反復の初回において、実施例1におけるように、幹細胞を、腎被膜下に移植する。後の反復において、移植の他の方法は、I.V.投与(例えば、門脈血管内または肝静脈内)を含む。
【0096】
レシピエントのグループを形成し、各レシピエントグループにおける患者に、全細胞数の25%の膵島の幹細胞含量、または膵島1つあたり約2×10幹細胞を使用して、約5膵島(約10細胞)、約50膵島(約10細胞)、約100膵島(約2×10細胞)、約500膵島(約10細胞)、約1000膵島(約2×10細胞)、または約2000膵島(約4×10細胞)、における幹細胞の概数に相当する幹細胞の用量を投与した(1膵島あたりのおよその全細胞数については表4を参照のこと)。
【0097】
各移植レシピエントグループを、さらに、ビヒクル(生理食塩水/リン酸化緩衝液)のみを投与するコントロールグループと、処置グループに分ける。全ての患者に標準的IRB病院検閲局臨床試験同意書を与え、そして患者は、偽薬を与えられ得る試験の一部であることに同意する。処置グループに、ガストリン/EGF組成物の用量についての標準的ヒトプロトコール(約3μg/kgのEGF51N、および約100μg/kgのhガストリン1−17Leu15)を、i.p.で、1日2回ビヒクル中で与える。インスリン治療を、全てのレシピエントグループにおいて約1ヶ月続け、次いで、量を減らして(例えば、通常用量の約50%〜80%)提供し、同時に、血中インスリンおよび血糖の、毎日多数回のモニタリングおよび記録を行う。さらなるインスリンを、任意の患者に必要に応じて投与し、正常血糖を維持し、そして全てのインスリン用量ならびにインスリンおよびグルコースの血中濃度を、記録する。
【0098】
終点の決定は、ガストリン/EGF処置グループにおいて、コントロールグループにおいて必要な幹細胞の数と比較して、より少ない数の幹細胞の最初の投与は、十分なインスリンを提供し得ることを示す。
【0099】
(実施例11)
(培養物中に維持される単離ヒト膵島のβ細胞個体集団における、EGF(E1)およびガストリン(G1)の効果)
この実験の目的は、EGFおよびガストリンでの処置が、インビトロで、ヒト膵島のβ細胞個体集団を増加させ得るか否か、およびどのような機構で増加させ得るかを決定することであった。膵島細胞調製物を、ヒトドナー膵臓(n=5)から単離し、そして膵島細胞移植のためのヒト膵島の調製について使用される認可プロトコール(Lakey JRTら(1999)Cell transplant 8:285−292,およびRicordi C.ら(1988)Diabetes 37:413−420)に従って調製した。膵島細胞を、シャーレ1枚につき1×10細胞の濃度で播種し、そして無血清MEM培地のみの中で4週間にわたって培養するか、またはEGF(0.3μg/ml)、ガストリン(1.0μg/ml)、もしくはEGF+ガストリンの組み合わせを補充した
無血清MEM培地中で4週間にわたって培養し、そして培養物中でさらに4週間にわたって維持した。
【0100】
処置に先立ち、これらの膵島の細胞組成を、免疫組織化学的抗体染色で決定した。これらの組成は、以下であった:7±2%グルカゴンα−細胞、23±3%インスリンβ細胞、17±2% CK7管細胞、6±1% CK19管細胞、33±2%アミラーゼ腺房細胞、および11±1%ビメンチン間充織細胞(平均±SE、ドナー膵臓n=5)。4週間後、β細胞重量は、EGF+ガストリン(+128%、p<0.001)、およびEGF(+77%、p<0.01)によって増加したが、ガストリン(−1%)またはEGFもガストリンも非含有の培地(−60%、p<0.01)によっては増加しなかった。
【0101】
EGFもガストリンも添加しないさらに4週間のインキュベーションのあと、EGF+ガストリン処置膵島において、β細胞重量は継続して増加した(+244%、p<0.001)(図14)。EGF+ガストリン処置膵島調製物はまた、CK19管細胞の増加、(+580%、p<0.001)(図15)、ならびにCK19管細胞における膵島転写因子であるPDX−1の発現の増加も有した(培養前にはPDX発現はなく、そしてEGF+ガストリンと共に行った培養のたった二週間後、82±5% PDX−1に増加した)(図16)。EGF+ガストリンはまた、膵島培養物においてα−細胞の割合を増加させ、一方、CK7管細胞および腺房細胞の割合は、減少した。
【0102】
E1とG1との同時刺激による処置の4週間後、β細胞の割合は、ビヒクル処置コントロール培養物と比較して、有意に増加した。両ペプチドの使用中止の4週間後、インスリン陽性β細胞の数は、さらに顕著に増加した(処置開始時のβ細胞数と比較してほぼ4倍が観察された)。E1のみまたはG1のみで処置した細胞と比較して、両因子で処置した細胞において、有意な増加が観察された。対照的に、ビヒクル処置膵島について、8週間後、β細胞個体集団における減少が観察された。
【0103】
この実験の結果は、EGFとガストリンとによる併用治療が、ヒト膵島のβ細胞個体数を、インビトロで有意に増加させることを実証する。4週間後にペプチドを使用中止した後でさえ、β細胞数は、EGFとガストリンとの同時刺激により処置されていた細胞において、進行的に増加した。このことは、EGFとガストリンとの同時刺激が、β細胞個体集団における相乗的かつ長期の効果を有することを示す。
【0104】
さらに、ヒト膵島において、EGFは、主にCK19管細胞個体数(前駆体細胞)を増加させ、一方、ガストリンは、主にCK19管細胞におけるPDX−1発現の誘導を担うことが、見出された(図16)。膵臓および十二指腸のホメオボックス遺伝子1(PDX−1)によってコードされるタンパク質は、膵臓発生および膵島細胞機能の調節の中心である。PDX−1は、インスリン遺伝子発現を調節し、そして種々の遺伝子の膵島細胞特異的遺伝子発現に関係する。
【0105】
これらの発見は、EGFレセプターリガンドのみ(TGF−α)で管細胞を刺激した場合、EGFレセプターリガンドによって開始された膵島新生のプロセスを完了させるためにガストリンの存在が必須であったという、本発明者らのトランスジェニックマウスデータと一致する。
【0106】
これらのデータは、E1およびG1が、糖尿病患者におけるさらなる移植のための、ヒト膵島細胞調製物を、インビトロで増殖させるために使用され得ることを、強く示唆する。
【0107】
真性糖尿病は、根底にある生理学的欠損が、自己免疫プロセスに起因するβ細胞の破壊または血中高濃度のグルコースからの慢性的刺激に起因して分裂するβ細胞の能力の消耗のどちらかの結果としてのβ細胞の欠乏である疾患である。後者は、最終的に、β細胞の再生および/または置換のプロセスが、全体のβ細胞が減少しそれに伴って膵臓のインスリン含量が減少する程度まで損なわれるときの状況に導く。上記の結果は、成熟β細胞の産生を刺激し、膵臓のインスリン含量を非糖尿病レベルまで回復させることにより、TGF−αとガストリンとの組み合わせを、糖尿病を処置するために使用し得ることを実証する。
【0108】
本研究は、完全な膵島細胞新生が、哺乳動物の成体膵臓の管上皮において、ガストリン/CCKレセプターリガンド(例えば、ガストリン)および/またはEGFレセプターリガンド(例えば、TGF−α)での刺激により、インビボで再活性化されることを上記が実証することを、本研究は報告した。すい臓におけるTGF−αおよびガストリンの過剰発現のトランスジェニックにおける研究を報告し、その研究は、膵臓ガストリン発現の膵島発生における役割を明らかにし、TGF−αおよびガストリンがそれぞれ、膵島発生の調節において役割を果たすことを示す。従って、残りの多能性膵臓管細胞の、成熟インスリン分泌細胞への再生分化は、この因子の組み合わせまたはこれらの膵臓内でのインサイチュ発現を提供する組成物の治療的投与による糖尿病の処置についての実行可能な方法である。
【0109】
2型糖尿病のZuckerラットモデルにおけるTGF−αおよびガストリンでの処置の結果は、処置グループとコントロールグループとの間に血糖レベルの有意な違いがないことを示した。このことは、恐らく、長期の絶食(18時間)後の一過性の低血糖効果を反映している。免疫組織化学的研究は、コントロール動物と比較したTGF−αおよびガストリンで処置した動物における、インスリン含有細胞の単一の病巣の数における有意な増加を明らかにした(図3)。これらの発見は、TGF−αおよびガストリンでの処置後の、成体ラット膵臓における単一のβ細胞の増加を実証した。興味深いことに、このような単一のβ細胞病巣は、一般に、(刺激しない)成体ラット膵臓において見られない。これらの発見は、1型および2型糖尿病における、TGF−αおよびガストリンの治療的役割を支持する。何故なら、処置は、β細胞の新生および複製の両方を標的化するからである。
【0110】
本発明は、本明細書中に記載の特定の実施形態によって限定されない。上述の記載および添付の図面から明らかになる改変は、特許請求の範囲内である。
【0111】
種々の刊行物が、本明細書中に挙げられ、その開示は、その全体が参照として援用される。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】図1は、PBS処理(塗りつぶし黒ひし形(solid black diamond))またはTGF−αおよびガストリンを併用して、10日にわたって毎日腹腔内(i.p.)処置(塗りつぶし紫四角(solid purple square))した、ストレプトゾトシン誘導性糖尿病Wistarラットにおける、グルコース耐性に対するTGF−αおよびガストリンの効果を示す。
【図2】図2は、実施例4に記載のように、処置したZuckerラットの3グループにおけるβ細胞新生に対するTGF−αおよびガストリンの処置の効果を、対応するPBSコントロールと共に示す(1グループあたりn=6匹)。淡青色のバーは痩型TFG+ガストリンを表し、マゼンタのバーは肥満TFG+ガストリンを表し、黄色のバーは肥満PBSコントロールを表し、暗青色のバーはTFG+ガストリン処置前を表し、そして紫のバーは痩型PBSコントロールを表す。TGF−αおよびガストリンは、PBS処理コントロール動物と比較して、実験した全てのグループにおいて、単一β細胞病巣の相対的比率を有意に増加させた。グループ4とグループ5とは、有意に異なり(p<0.0015)、グループ1と2ともまた異なる(p<0.0041)。
【図3】図3は、痩型Zuckerラットおよび肥満Zuckerラットにおける、β細胞新生に対するTGF−αおよびガストリンの処置の効果を示す。β細胞新生を、総β細胞および新規に産生された単一β細胞病巣の差次的計数によって定量し、そして計数した総β細胞の百分率で表す。増殖因子で併用処置した痩型Zuckerラットにおける単一β細胞病巣の百分率は、10.5±0.9であり、対応するPBSコントロールにおける3.9±1.1(p=0.004)と比較される(図3Aおよび図3B)。肥満Zuckerラットにおいては、前処置グループにおける単一β細胞病巣の百分率は、8.7±1.3であり、これに対して、対応するコントロールグループにおいては4.2±1.1であった(p=0.0015)(図3Cおよび図3D)。図3Eは、図3Cの管領域(矢印で示す)の400×拡大図であり、β細胞新生に特有の、管上皮細胞からのインスリン含有β細胞の出芽の明らかな証拠を提供する。
【図4】図4は、慢性糖尿病インスリン依存性NODマウスにおいて、G1による処置が、空腹時血糖レベルを低下させ、そしてインスリン治療中止14日後の死を阻止することを示す。
【図5】図5は、慢性糖尿病インスリン依存性NODマウスにおけるEGFによる処置が、空腹時血糖レベルを低下させ、そしてインスリン治療中止14日後の死を阻止することを示す。
【図6】図6は、最近糖尿病を発症したNODマウスにおいて、E1またはG1のいずれかによる処置が、空腹時血糖レベルの上昇を防ぐことを示す。
【図7】図7は、最近糖尿病を発症したNODマウスにおいて、E1またはG1のいずれかによる処置が、膵臓インスリン含量を増加させることを示す。
【図8】図8は、糖尿病マウスにおけるEGF/ガストリン処置の結果を示す。図8Aは、ヒト膵島を移植し、そしてガストリン/EGFで処置したNOD−Scidマウス(EGF、30μg/kg、およびガストリン、1000μg/kg、塗りつぶし記号(solid symbol))、またはビヒクルのみを与えたコントロールマウス(中抜き記号(open symbol))におけるグルコース耐性試験の結果を示す、一組の折れ線グラフである。これらのグラフは、縦座標に血糖(左のグラフ)または血漿ヒトC−ペプチド(右のグラフ)を、横軸上の時間(120分まで)の関数として示す。右のグラフは、ガストリン/EGFがヒト組織のインスリン分泌応答を改善することを示す。図8Bは、血漿中のヒトC−ペプチドの含量が、EGF/ガストリン処置マウスにおいて、ビヒクル処置マウスより高いことを示す、棒グラフである。
【図9】図9は、NOD−Scidマウスに移植されたヒト膵島のインスリン含量をμg/移植片で示す、棒グラフである。このNOD−Scidマウスは、EGF+ガストリン(淡灰色のバー)、またはビヒクル(白色のバー)を投与されたか、あるいは膵島移植前(暗灰色バー)である。このデータは、ガストリン/EGFが、処置したNOD−Scidマウスに移植したヒト膵島のインスリン含量を、未処置NOD−Scidマウスのものと比べて、増加させることを示す。
【図10】図10は、図2のようにマウスに移植されたヒト膵島におけるβ細胞のパーセント(左のグラフ)およびβ細胞の総数(右のグラフ)の棒グラフである。このデータは、ガストリン/EGFが、処置したNOD−SCIDマウスに移植したヒト膵島において、β細胞新生を刺激することを示す。
【図11】図11は、NOD−SCIDマウスのインタクトな膵島移植片または単離された膵島移植片細胞における、インスリン陽性細胞(濃く染まっている)の一組の顕微写真である。このデータは、ガストリン/EGFが、移植されたヒト膵島のインスリン陽性β細胞の含量における増加を誘導することを示す。
【図12】図12は、処理した細胞におけるPDX−1発現およびインスリン発現に関する。図12Aは、PDX−1染色したヒト膵島細胞、ならびにガストリン/EGF処理細胞およびビヒクル処理細胞の各々におけるPDX−1発現およびインスリン発現の共存を示す、一組の顕微写真である。図12Bは、マウスをガストリン/EGFまたはビヒクルで処置する間の、NOD−SCIDマウスに移植したヒト膵島内での移植8週間後のPDX−1発現を示す棒グラフである。
【図13】図13は、ヒト膵島を移植され、低用量のガストリン/EGF(EGF、30μg/kg、およびガストリン、30μg/kg;四角記号)またはビヒクル(丸記号)で処置したNOD−SCIDマウスにおける、縦軸に示した血糖含量(左のパネル)または血漿ヒトC−ペプチド(右のパネル)についてグルコース耐性試験の結果を、横軸上に時間(120分まで)の関数として示す、一組の折れ線グラフである。このデータは、ガストリン/EGFが、低用量でさえ、ヒト組織のインスリン分泌応答を改善することを示す。
【図14】図14の説明なし。
【図15】図15の説明なし。
【図16】図16の説明なし。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−22300(P2009−22300A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260163(P2008−260163)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【分割の表示】特願2004−508266(P2004−508266)の分割
【原出願日】平成15年5月27日(2003.5.27)
【出願人】(504430972)ワラタ ファーマシューティカルズ, インコーポレイテッド (15)
【出願人】(504430994)ユニバーシティー オブ アルバータ (2)
【Fターム(参考)】