説明

糖尿病の治療又は予防のためのジペプチジルペプチダーゼ阻害剤としての縮合インドール

本発明は、ジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素の阻害剤(「DP−IV阻害剤」)であり、ジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素が関与する、糖尿病、特に2型糖尿病などの疾病の治療又は予防に有用である縮合インドール誘導体に関する。本発明は、これらの化合物を含む医薬組成物、並びにジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素が関与するこのような疾病の予防又は治療におけるこれらの化合物及び組成物の使用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素の阻害剤(「DP−IV阻害剤」)であり、ジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素が関与する、糖尿病、特に2型糖尿病などの疾病の治療又は予防に有用である新規縮合インドール誘導体に関する。本発明は、これらの化合物を含む医薬組成物、並びにジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素が関与するこのような疾病の予防又は治療におけるこれらの化合物及び組成物の使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病とは、複数の原因因子に由来し、絶食状態又は経口グルコース負荷試験時のグルコースの投与後における血漿グルコースレベルの上昇又は高血糖を特徴とする疾病過程を指す。高血糖が持続する場合、又は制御されない場合、発病及び死亡時期が早まり、罹病率及び死亡率が上昇する。グルコースホメオスタシスの異常は、直接的及び間接的に、脂質、リポタンパク質及びアポリポタンパク質の代謝の変化並びに他の代謝性及び血行性疾患を伴うことが多い。従って、2型糖尿病患者は、冠状動脈性心疾患、発作、末梢血管疾患、高血圧、腎症、神経障害及び網膜症を含む、大血管及び微小血管の合併症を発症するリスクが極めて高くなる。従って、糖尿病の臨床管理及び治療では、グルコースのホメオスタシス、脂質代謝及び高血圧を治療によって管理することが非常に重要である。
【0003】
糖尿病には、一般に認知されている2つの形態が存在する。1型糖尿病又はインスリン依存性糖尿病(IDDM)の場合、患者は、グルコースの利用を制御するホルモンであるインスリンをほとんど、又は全く産生しない。2型糖尿病又はインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)の場合、非糖尿病の個体と比較して、患者の血漿インスリンレベルが同じであることが多く、上昇している場合さえあるが、これらの患者においては、主要なインスリン感受性組織である筋肉、肝臓及び脂肪組織中でのグルコース及び脂質代謝へのインスリンの刺激効果に対する耐性が生じており、血漿インスリンレベルが上昇しているにもかかわらず、顕著なインスリン抵抗性を克服するには十分でない。
【0004】
インスリン抵抗性は、インスリン受容体数の減少が主たる原因ではなく、未だ解明されていないインスリン受容体結合後の欠陥が原因である。インスリン応答性に対するこのような抵抗性があるために、インスリンによる筋肉中へのグルコースの取り込み、酸化及び保存の活性化が不十分となり、脂肪組織中でのインスリンによる脂肪分解の抑制及び肝臓中でのインスリンによるグルコース産生と分泌の抑制が不十分となる。
【0005】
2型糖尿病に対して実施できる治療は、長年にわたって実質的に変化しておらず、限界が認められている。身体的な運動及び食事におけるカロリー摂取を抑えることにより、糖尿病の症状が劇的に改善するものと思われるが、デスクワーク中心のライフスタイルと過度の食物消費(特に、飽和脂肪を大量に含有する食物の消費)が確立されているために、この治療はほとんど遵守されない。スルホニル尿素(例えば、トルブタミド及びグリピジド)若しくはメグリチニド(膵臓のβ細胞を刺激して、より多くのインスリンをβ細胞に分泌させる。)を投与することによって、及び/又はスルホニル尿素若しくはメグリチニドが有効でなくなった場合にはインスリンを注射することによって、インスリンの血漿レベルを増加させると、インスリン抵抗性が極めて強い組織を刺激するのに十分な濃度までインスリン濃度を高くすることができる。しかしながら、インスリン又はインスリン分泌促進物質(スルホニル尿素又はメグリチニド)の投与によって、血漿グルコースレベルが危険なまでに低下する場合があり、血漿インスリンレベルがさらに高まる可能性があるため、インスリン抵抗性のレベルが上昇し得る。ビグアナイドは、インスリン感受性を向上させ、それにより高血糖をある程度是正する。しかしながら、2種類のビグアナイド、フェンホルミン及びメトホルミンは、乳酸アシドーシス及び悪心/下痢を引き起こし得る。メトホルミンは、フェンホルミンに比べて副作用が少なく、2型糖尿病の治療のために処方されることが多い。
【0006】
グリタゾン(すなわち、5−ベンジルチアゾリジン−2,4−ジオン)は、さらに最近になって報告された化合物のクラスであり、2型糖尿病の数多くの症候を軽減する可能性を秘めている。これらの薬剤は、幾つかの2型糖尿病の動物モデルにおいて、筋肉、肝臓及び脂肪組織中のインスリン感受性を大きく向上させ、その結果、低血糖を生じさせずに、血漿グルコースレベルの上昇をある程度、又は完全に是正する。現在市販されているグリタゾンは、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体(PPAR)、主にPPAR−γサブタイプのアゴニストである。一般に、グリタゾンを用いた場合に見られるインスリン感受性の向上は、PPAR−γのアゴニズムによるものと考えられている。II型糖尿病の治療に向けて試験されている、さらに新しいPPARアゴニストは、α、γ若しくはδサブタイプ又はこれらの組み合わせのアゴニストであり、多くの場合、グリタゾンとは化学的に異なっている(すなわち、それらは、チアゾリジンジオンではない。)。トログリタゾンなど、グリタゾンの一部には、深刻な副作用(例えば、肝臓毒性)が生じるものがある。
【0007】
本疾病を治療するさらなる方法が、今なお研究途上にある。最近導入された、又は現在開発中である新しい生化学的アプローチには、α−グルコシダーゼ阻害剤(例えば、アカルボース)及びタンパク質チロシンホスファターゼ−1B(PTP−1B)阻害剤を用いた治療がある。
【0008】
ジペプチジルペプチダーゼ−IV(「DP−IV」又は「DPP−IV」)酵素の阻害剤である化合物も、糖尿病、特に2型糖尿病の治療において有用であり得る薬物として研究中である。例えば、WO 97/40832号、WO 98/19998号、米国特許第5,939,560号、Bioorg. Med. Chem. Lett., 6:1163−1166(1996);及びBioorg. Med. Chem. Lett., 6:2745−2748(1996)を参照されたい。2型糖尿病の治療におけるDP−IV阻害剤の有用性は、DP−IVがインビボで即座にグルカゴン様ペプチド−1(GLP−1、glucagon like peptide−1)及び胃抑制ペプチド(GIP、gastric inhibitory peptide)を不活化するという事実に基づいている。GLP−1及びGIPはインクレチンであり、食物を摂取する際に産生される。インクレチンは、インスリンの産生を刺激する。DP−IVの阻害により、インクレチンの不活化が抑制され、次いで、その結果、膵臓によるインスリンの産生を刺激する上でのインクレチンの有効性が向上する。従って、DP−IVの阻害により、血清インスリンのレベルが向上する。インクレチンは、食物を摂取した時のみ身体によって産生されるので、DP−IVの阻害により、有利に、食間などの不適切な時間にインスリンレベルが向上する(これは、極度に低い血糖(低血糖)をもたらし得る。)ことはないと予想される。従って、DP−IVの阻害は、インスリン分泌促進物質の使用に伴う危険な副作用である低血糖のリスクを増加させずにインスリンを増加させるものと思われる。
【0009】
DP−IV阻害剤は、本明細書に述べられているように、他の治療用途も有している。DP−IV阻害剤は、現在まで、とりわけ糖尿病以外の用途については深く研究されていない。糖尿病の治療のために使用され、その他の疾病及び症状にも使用できる可能性がある改善されたDP−IV阻害剤を発見できるような、新しい化合物が必要とされている。2型糖尿病の治療におけるDP−IV阻害剤の治療剤としての可能性に関して、D.J.Drucker(Exp. Opin.Invest.Drugs,12,87−100(2003))及びK.Augustynsら(Exp.Opin.Ther.Patents,13:499−510(2003))により考察が行われている。
【発明の開示】
【0010】
本発明は、ジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素の阻害剤(「DP−IV阻害剤」)であり、ジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素が関与する、糖尿病、特に2型糖尿病などの疾病の治療又は予防に有用である新規縮合インドール誘導体に関する。本発明は、これらの化合物を含む医薬組成物、並びにジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素が関与するこのような疾病の予防又は治療におけるこれらの化合物及び組成物の使用にも関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、ジペプチジルペプチダーゼ−IVの阻害剤として有用である、新規縮合インドール誘導体に関する。本発明化合物は、構造式I:
【0012】
【化3】

(式中、
各nは、独立に、0、1、2又は3であり;
Xは、S、S(O)、S(O)CH、CHF及びCFから選択され;
は、水素又は−CNであり;
は、
水素、
1−6アルキル(アルキルは、置換されていないか、又はハロゲン、ヒドロキシ、COH、C1−6アルキルオキシカルボニルから独立に選択される1個から5個の置換基で置換されている。)及び
(CH−アリール(アリールは、置換されていないか、又はハロゲン、ヒドロキシ、COH、C1−6アルキルオキシカルボニル、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル及びC1−6アルコキシ(アルキル及びアルコキシは、置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されている。)から独立に選択される1個から5個の置換基で置換されている。)からなる群から選択され;
、R、R及びRは、それぞれ独立に、
水素、
ハロゲン、
シアノ、
ヒドロキシ、
1−6アルキル(アルキルは、置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されている。)、
1−6アルコキシ(アルコキシは、置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されている。)、
(CH−COOH、
(CH−COOC1−6アルキル、
(CH2)−CONR
(CH−NR
(CH−NR10SO
(CH−NR10CONR
(CH−NR10COR10
(CH−NR10CO
(CH−アリール(アリールは、置換されていないか、又はハロゲン、ヒドロキシ、COH、C1−6アルキルオキシカルボニル、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル及びC1−6アルコキシ(アルキル及びアルコキシは、置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されている。)から独立に選択される1個から5個の置換基で置換されている。)
からなる群から選択され;
、R、R及びR中のいずれのメチレン(CH)炭素原子も、置換されていないか、又はハロゲン、ヒドロキシ及びC1−4アルキル(置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されている。)から独立に選択される1個から2個の基で置換されており;
及びRは、それぞれ独立に、
水素、
(CH−フェニル、
(CH−C3−6シクロアルキル及び
1−10アルキル(アルキルは、置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されており、フェニル及びシクロアルキルは、置換されていないか、又はハロゲン、ヒドロキシ、C1−6アルキル及びC1−6アルコキシ(アルキル及びアルコキシは、置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されている。)から独立に選択される1個から5個の置換基で置換されている。)からなる群より選択されるか;又は、
及びRは、それらが結合している窒素原子とともに、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン及びモルホリンから選択される複素環を形成しており、前記複素環は、置換されていないか、又はハロゲン、ヒドロキシ、C1−6アルキル及びC1−6アルコキシ(アルキル及びアルコキシは、置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されている。)から独立に選択される1個から3個の置換基で置換されており;
は、(CH−フェニル、(CH−C3−6シクロアルキル及びC1−6アルキル(アルキルは、アルキルは、置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されており、フェニル及びシクロアルキルは、置換されていないか、又はハロゲン、ヒドロキシ、C1−6アルキル及びC1−6アルコキシ(アルキル及びアルコキシは、置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されている。)から独立に選択される1個から5個の置換基で置換されている。)からなる群より選択され、R中のいずれのメチレン(CH)炭素原子も、置換されていないか、又はハロゲン、ヒドロキシ及びC1−4アルキル(置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されている。)から独立に選択される1個から2個の基で置換されており;
各R10は、水素又はRである。)により説明される。
【0013】
本発明化合物のある実施形態において、*の印が付された炭素原子は、構造式Ia:
【0014】
【化4】

(式中、X、R、R、R、R、R及びRは、本明細書中で定義するとおりである。)に示されるような立体化学配置をとる。
【0015】
本発明化合物の第二の実施形態において、Xは、S、S(O)又はS(O)である。この実施形態のクラスにおいて、Rは、水素である。この実施形態の別のクラスにおいて、*の印が付された炭素原子は、構造式Ib:
【0016】
【化5】

(式中、Xは、S、S(O)又はS(O)であり、RからRは、本明細書中で定義するとおりである。)に示されるような立体化学配置をとる。
【0017】
本発明化合物の第三の実施形態において、Xは、CH、CHF又はCFである。この実施形態のクラスにおいて、Rは、水素である。この実施形態の別のクラスにおいて、*の印が付された炭素原子は、構造式Ic:
【0018】
【化6】

(式中、Xは、CH、CHF又はCFであり、RからRは、本明細書中で定義するとおりである。)に示されるような立体化学配置をとる。
【0019】
本発明化合物の第四の実施形態において、Rは、水素、メチル又はフェニルである。この実施形態のクラスにおいて、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、カルボキシ及びCOOC1−4アルキルからなる群から選択される。このクラスのサブクラスにおいて、R及びRは、水素である。
【0020】
本明細書で使用される場合、以下の定義が使用される。
【0021】
「アルキル」、並びにアルコキシ及びアルカノイルなどの接頭語「アルク(alk)」を有する他の基は、炭素鎖に別段の定義が与えられていなければ、線状又は分枝及びそれらの組み合わせであり得る炭素鎖を意味する。アルキル基の例は、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec−ブチル及びtert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニルなどである。炭素原子の指定された数が、例えば、C3−10を許容する場合、アルキルという用語には、シクロアルキル基及びシクロアルキル構造と組み合わされた線状又は分枝アルキル鎖の組み合わせも含まれる。炭素原子の数が指定されていない場合には、C1−6を意味するものとする。
【0022】
「シクロアルキル」は、アルキルのサブセットであり、指定された数の炭素原子を有する飽和炭素環式環を意味する。シクロアルキルの例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチルなどである。特段の記載がなければ、シクロアルキル基は、一般的には、単環式である。特段の記載がなければ、シクロアルキル基は飽和している。
【0023】
「アルコキシ」という用語は、指定された炭素原子数の直鎖若しくは分枝鎖アルコキシド(例えば、C1−10アルコキシ)又はこの範囲に属する任意の数の直鎖若しくは分枝鎖アルコキシド(すなわち、メトキシ(MeO−)、エトキシ、イソプロポキシなど)を表す。
【0024】
「アルキルチオ」という用語は、指定された炭素原子数の直鎖若しくは分枝鎖アルキルスルフィド(例えば、C1−10アルキルチオ)、又はこの範囲に属する任意の炭素原子数の直鎖若しくは分枝鎖アルキルチオ(すなわち、メチルチオ(MeS−)、エチルチオ、イソプロピルチオなど)を表す。
【0025】
「アルキルアミノ」という用語は、指定された炭素原子数の直鎖若しくは分枝鎖アルキルアミン(例えば、C1−6アルキルアミノ)又はこの範囲に属する任意の炭素原子数の直鎖若しくは分枝鎖アルキルアミン(すなわち、メチルアミノ、エチルアミノ、イソプロピルアミノ、t−ブチルアミノなど)を表す。
【0026】
「アルキルスルホニル」という用語は、指定された炭素原子数の直鎖若しくは分枝鎖アルキルスルホン(例えば、C1−6アルキルスルホニル)又はこの範囲に属する任意の炭素原子数の直鎖又は分枝鎖アルキルスルホン(すなわち、メチルスルホニル(MeSO−)、エチルスルホニル、イソプロピルスルホニルなど)を表す。
【0027】
「アルキルオキシカルボニル」という用語は、指定された炭素原子数の本発明のカルボン酸誘導体の直鎖若しくは分枝鎖エステル(例えば、C1−6アルキルオキシカルボニル)又はこの範囲に属する任意の炭素原子数の本発明のカルボン酸誘導体の直鎖若しくは分枝鎖エステル(すなわち、メチルオキシカルボニル(MeOCO−)、エチルオキシカルボニル又はブチルオキシカルボニルなど)を表す。
【0028】
「アリール」は、炭素環原子を含有する単環又は多環式芳香族環系を意味する。好ましいアリールは、単環又は二環式の6員から10員環芳香族環系である。フェニル及びナフチルは、好ましいアリールである。最も好ましいアリールは、フェニルである。
【0029】
「複素環」及び「ヘテロシクリル」は、O、S及びNから選択される少なくとも1つのヘテロ原子を含有し、さらに硫黄の酸化型(すなわち、SO及びSO)を含む、飽和又は不飽和非芳香族環又は環系を意味する。複素環の例には、テトラヒドロフラン(THF)、ジヒドロフラン、1,4−ジオキサン、モルホリン、1,4−ジチアン、ピペラジン、ピペリジン、1,3−ジオキソラン、イミダゾリジン、イミダゾリン、ピロリン、ピロリジン、テトラヒドロピラン、ジヒドロピラン、オキサチオラン、ジチオラン、1,3−ジオキサン、1,3−ジチアン、オキサチアン、チオモルホリンなどが含まれる。
【0030】
「ヘテロアリール」は、O、S及びNから選択される少なくとも1個の環ヘテロ原子を含有する芳香族又は部分的芳香族複素環を意味する。ヘテロアリールには、アリール、シクロアルキル及び芳香族でない複素環などの他の種類の環に縮合したヘテロアリールも含まれる。ヘテロアリール基の例としては、ピロリル、イソキサゾリル、イソチアゾリル、ピラゾリル、ピリジニル、2−オキソ−(1H)−ピリジニル(2−ヒドロキシ−ピリジニル)、オキサゾリル、1,2,4−オキサジアゾリル、1,3,4−オキサジアゾリル、チアジアゾリル、チアゾリル、イミダゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、フリル、トリアジニル、チエニル、ピリミジニル、ピラジニル、ベンズイソキサゾリル、ベンズオキサゾリル、ベンゾチアゾリル、ベンゾチアジアゾリル、ジヒドロベンゾフラニル、インドリニル、ピリダジニル、インダゾリル、イソインドリル、ジヒドロベンゾチエニル、インドリジニル、シンノリニル、フタラジニル、キナゾリニル、ナフチリジニル、カルバゾリル、ベンゾジオキソリル、キノキサリニル、プリニル、フラザニル、イソベンジルフラニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル、キノリル、インドリル、イソキノリル、ジベンゾフラニル、イミダゾ[1,2−a]ピリジニル、[1,2,4−トリアゾロ][4,3−a]ピリジニル、ピラゾロ[1,5−a]ピリジニル、[1,2,4−トリアゾロ][1,5−a]ピリジニル、2−オキソ−1,3−ベンズオキサゾリル、4−オキソ−3H−キナゾリニル、3−オキソ−[1,2,4]−トリアゾロ[4,3−a]−2H−ピリジニル、5−オキソ−[1,2,4]−4H−オキサジアゾリル、2−オキソ−[1,3,4]−3H−オキサジアゾリル、2−オキソ−1,3−ジヒドロ−2H−イミダゾリル、3−オキソ−2,4−ジヒドロ−3H−1,2,4−トリアゾリルなどがある。ヘテロシクリル基及びヘテロアリール基の場合、3個から15個の原子を含有する環及び環系が含まれ、1個から3個の環を形成する。
【0031】
「ハロゲン」は、フッ素、塩素、臭素及びヨウ素を表す。塩素及びフッ素が、一般に好ましい。アルキル又はアルコキシ基に対してハロゲンが置換される場合には、フッ素が最も好ましい(例えば、CFO及びCFCHO)。
【0032】
本発明の化合物は、1又は複数の不斉中心を含有することができ、このため、ラセミ体及びラセミ混合物、単一の鏡像異性体、ジアステレオマー混合物並びに個別のジアステレオマーとして存在することができる。本発明の化合物は、式Ia中の*印が付された炭素原子に1つの不斉中心を有する。分子上に存在する様々な置換基の性質に応じて、不斉中心がさらに存在することがあり得る。このような不斉中心のそれぞれが、独立に、2つの光学異性体を与え、混合物において、及び純粋な又は部分的に精製された化合物として、想定し得る全ての光学異性体及びジアステレオマーが本発明の範囲に含まれるものとする。本発明は、これらの化合物のかかる異性体形態を全て包含するものとする。
【0033】
本明細書に記載されている化合物の中には、オレフィン二重結合を含有するものがあり、別段の記載がなければ、E及びZ幾何異性体の両方を含むものとする。
【0034】
本明細書に記載されている化合物の中には、互変異性体として存在し得るものがあり、1又は複数の二重結合の移動に付随して水素の結合点に変化が生じる。例えば、ケトンとそのエノール型は、ケト−エノール互変異性体である。各互変異性体及びそれらの混合物が、本発明の化合物とともに包含される。
【0035】
式Iには、好ましい立体化学を表さずに、化合物のクラスの構造が示されている。式Iaは、これらの化合物の調製源であるαアミノ酸のアミノ基が結合された炭素原子における好ましい立体化学を示している。
【0036】
これらのジアステレオマーの独立した合成又はクロマトグラフィーによるこれらの分離は、本明細書に開示されている方法を適切に改変することによって、本分野で知られているとおりに行うことができる。それらの絶対的な立体化学は、必要であれば、絶対配置が知られた不斉中心を含有する試薬で誘導体化された結晶産物又は結晶中間体のX線結晶構造解析によって決定し得る。
【0037】
必要であれば、各鏡像異性体が単離されるように、前記化合物のラセミ混合物を分離することができる。分離は、鏡像異性体として純粋な化合物に化合物のラセミ混合物をカップリングさせてジアステレオマー混合物を形成させた後に、分別再結晶又はクロマトグラフィーなどの標準的な方法によって各ジアステレオマーを分離するような、本分野で周知の方法によって実施することができる。カップリング反応は、多くの場合、鏡像異性体として純粋な酸又は塩基を用いた塩の形成である。次いで、付加されたキラル残基を切断することによって、ジアステレオマー誘導体を純粋な鏡像異性体に変換させることができる。前記化合物のラセミ混合物は、本分野で周知の方法であるキラル固定相を用いたクロマトグラフィー法によって、直接分離することも可能である。
【0038】
あるいは、化合物の任意の鏡像異性体は、立体配置が知られた光学的に純粋な出発物質又は試薬を用いた立体選択的な合成により、本分野で周知の方法によって得ることもできる。
【0039】
本明細書中において、構造式Iの化合物と表記する場合には、医薬適合性の塩も含まれること、遊離の化合物若しくは医薬適合性のそれらの塩への前駆体として使用した場合、又はその他の合成操作において使用する場合には、医薬適合性でない塩も含まれることが理解できるであろう。
【0040】
本発明の化合物は医薬適合性の塩の形態で投与することができる。「医薬適合性の塩」という用語は、無機又は有機塩基及び無機又は有機酸を含む医薬適合性の非毒性塩基又は酸から調製された塩を表す。「医薬適合性の塩」という用語に包含される塩基性化合物の塩は、一般に、遊離塩基を適切な有機酸又は無機酸と反応させることによって調製される本発明の化合物の非毒性塩を表す。本発明の塩基性化合物の代表的な塩には、酢酸塩(acetate)、ベンゼンスルホン酸塩(benzenesulfonate)、安息香酸塩(benzoate)、重炭酸塩(bicarbonate)、重硫酸塩(bisulfate)、重酒石酸塩(bitartrate)、ホウ酸塩(borate)、臭化物(bromide)、カンシル酸塩(camsylate)、炭酸塩(carbonate)、塩化物(chloride)、クラブラン酸塩(clavulanate)、クエン酸塩(citrate)、二塩酸塩(dihydrochloride)、エデト酸塩(edetate)、エジシル酸塩(edisylate)、エストル酸塩(estolate)、エシル酸塩(esylate)、フマル酸塩(fumarate)、グルセプトン酸塩(gluceptate)、グルコン酸塩(gluconate)、グルタミン酸塩(glutamate)、グリコリルアルサニル酸塩(glycollylarsanilate)、ヘキシルレゾルシン酸塩(hexylresorcinate)、ヒドラバミン(hydrabamine)、臭化水素酸塩(hydrobromide)、塩酸塩(hydrochloride)、ヒドロキシナフトエ酸塩(hydroxynaphthoate)、ヨウ化物(iodide)、イソチオン酸塩(isothionate)、乳酸塩(lactate)、ラクトビオン酸塩(lactobionate)、ラウリン酸塩(laurate)、リンゴ酸塩(malate)、マレイン酸塩(maleate)、マンデル酸塩(mandelate)、メシル酸塩(mesylate)、臭化メチル(methylbromide)、硝酸メチル塩(methylnitrate)、硫酸メチル塩(methylsulfate)、粘液酸塩(mucate)、ナプシル酸塩(napsylate)、硝酸塩(nitrate)、N−メチルグルカミンアンモニウム塩(N−methylglucamine ammonium salt)、オレイン酸塩(oleate)、シュウ酸塩(oxalate)、パモン酸塩(pamoate)(エンボナート)、パルミチン酸塩(palmitate)、パントテン酸塩(pantothenate)、リン酸塩/二リン酸塩(phosphate/diphosphate)、ポリガラクツロン酸塩(polygalacturonate)、サリチル酸塩(salicylate,)、ステアリン酸塩(stearate)、硫酸塩(sulfate)、塩基性酢酸塩(subacetate)、コハク酸塩(succinate)、タンニン酸塩(tannate)、酒石酸塩(tartrate)、テオクル酸塩(teoclate)、トシル酸塩(tosylate)、トリエチオダイド(triethiodide)及び吉草酸塩(valerate)が含まれるが、これらに限定されるものではない。さらに、本発明の化合物が酸性部分を有する場合には、医薬適合性の適切なそれらの塩には、アルミニウム、アンモニウム、カルシウム、銅、第二鉄、第一鉄、リチウム、マグネシウム、マンガン(manganic)、亜マンガン(mangamous)、カリウム、ナトリウム、亜鉛などの無機塩基から得られる塩が含まれるが、これらに限定されるものではない。特に好ましいのは、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、カリウム及びナトリウム塩である。医薬適合性の非毒性有機塩基から得られる塩には、アルギニン、ベタイン、カフェイン、コリン、N,N−ジベンジルエチレンジアミン、ジエチルアミン、2−ジエチルアミノエタノール、2−ジメチルアミノエタノール、エタノールアミン、エチレンジアミン、N−エチルモルホリン、N−エチルピペリジン、グルカミン、グルコサミン、ヒスチジン、ヒドラバミン、イソプロピルアミン、リジン、メチルグルカミン、モルホリン、ピペラジン、ピペリジン、ポリアミン樹脂、プロカイン、プリン、テオブロミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリプロピルアミン、トロメタミンなどの、一級、二級及び三級アミン、環状アミン並びに塩基性イオン交換樹脂の塩が含まれる。
【0041】
さらに、本発明の化合物中に存在するカルボン酸(−COOH)又はアルコール基の場合には、アルコールのメチル、エチル又はピバロイルオキシメチル又はアシル誘導体(酢酸エステル又はマレイン酸エステルなど)のような、カルボン酸誘導体の医薬適合性のエステルも使用することができる。徐放又はプロドラッグ製剤として使用するために溶解度又は加水分解特性を改変するための、本分野において公知のエステル及びアシル基が含まれる。
【0042】
溶媒和物、特に、構造式Iの化合物の水和物も、本発明に含まれる。
【0043】
本発明の例は、実施例及び本明細書に開示されている化合物の使用である。
【0044】
本発明の化合物は、該化合物の有効量を投与することを含む、ジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素の阻害を必要とする哺乳動物などの患者のジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素を阻害する方法において有用である。本発明は、本明細書に開示されている化合物の、ジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素活性の阻害剤としての使用に関する。
【0045】
ヒトなどの霊長類に加えて、本発明の方法に従って、他の様々な哺乳動物を治療することができる。例えば、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット又は他のウシ、ヒツジ、ウマ、イヌ、ネコ、げっ歯類若しくはマウスの種を含む哺乳動物を治療することができるが、これらに限定されない。しかしながら、前記方法は、鳥類種(例えば、ニワトリ)などの他の種に対して実施することもできる。
【0046】
本発明は、さらに、本発明の化合物を医薬適合性の担体又は希釈剤と混合することを含む、ヒト及び動物中のジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素活性を阻害するための医薬を製造する方法に関する。
【0047】
本方法で治療される患者は、一般的には、ジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素活性の阻害が必要とされる雄又は雌の哺乳動物であり、好ましくはヒトの男性又は女性である。「治療的有効量」という用語は、研究者、獣医、医師又は他の臨床家によって調べられている組織、系、動物又はヒトの生物学的又は医学的反応を惹起させると予想される本発明の化合物の量を意味する。
【0048】
本明細書において使用される「組成物」という用語は、一定の成分を一定の量で含む生成物の他、一定の成分を一定の量で組み合わせることによって、直接又は間接的に得られるあらゆる生成物を包含するものとする。医薬組成物に関連したこのような用語には、活性成分及び担体を構成する不活性成分、並びに、任意の成分の2以上の化合、錯化若しくは凝集から、又は1若しくは複数の成分の解離から、又は1若しくは複数の成分の他の種類の反応又は相互作用から直接又は間接的に得られるあらゆる生成物を含む生成物が包含されるものとする。従って、本発明の医薬組成物には、本発明の化合物と医薬適合性の担体とを混合することによって調製されるあらゆる組成物が包含される。「医薬適合性の」とは、担体、希釈剤又は賦形剤が、製剤の他の成分に対して適合性があり、且つそれらの受容者に対して有害でないことを意味する。
【0049】
化合物の「投与」及び/又は「投与する」という用語は、治療を必要としている個体に、本発明の化合物又は本発明の化合物のプロドラッグを与えることを意味するものと理解されたい。
【0050】
ジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素活性の阻害剤としての本発明に係る化合物の有用性は、本分野において公知の方法によって実証し得る。阻害定数は、以下のように決定される。DP−IVによって切断されて蛍光性のAMC脱離基を放出する基質Gly−Pro−AMCを用いた連続的蛍光定量アッセイを利用する。この反応を説明する速度論パラメータは、以下のとおり:K=50μM;kcat=75s−1;kcat/K=1.5x10−l−lである。典型的な反応系は、100μLの総反応体積中に、約50pMの酵素、50μMのGly−Pro−AMC及び緩衝液(100mM HEPES、pH7.5、0.1mg/mL BSA)を含有する。360nmの励起波長と460nmの発光波長とにより、96ウェルのプレート蛍光光度計中で、AMCの遊離を連続的にモニターする。これらの条件下では、25℃にて30分間に、約0.8μMのAMCが生成される。これらの研究に使用した酵素は、バキュロウイルス発現系(Bac−To−Bac、Gibco BRL)中で産生された可溶性の(膜貫通ドメインと細胞質伸長が除去された)ヒトタンパク質であった。Gly−Pro−AMC及びGLP−1の加水分解に対する速度定数は、ネイティブ酵素についての文献値と一致することが明らかとなった。化合物の解離定数を測定するために、酵素と基質とを含有する反応液(最終DMSO濃度は1%である。)にDMSO中の阻害剤の溶液を添加した。全ての実験は、上記の標準的な反応条件を用いて、室温で行った。解離定数(Ki)を求めるために、拮抗阻害のためのミカエリス−メンテンの方程式に対する非線形回帰により、反応速度のフィッティングを行った。解離定数を再現する際の誤差は、通常2倍未満である。
【0051】
特に、以下の実施例の化合物は、先述したアッセイにおいて、概してIC50が約1μM未満というように、ジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素を阻害する活性を有していた。このような結果は、ジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素活性の阻害剤として使用される活性が前記化合物に内在していることを示唆するものである。
【0052】
ジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素(DP−IV)は、多岐にわたる生物機能への関与が予想されている細胞表面タンパク質である。本酵素は、幅広い組織に分布しており(腸、腎臓、肝臓、膵臓、胎盤、胸腺、脾臓、上皮細胞、血管内皮、リンパ球及び骨髄性細胞、血清)、組織及び細胞の種類によって発現レベルが異なる。DP−IVは、T細胞活性化マーカーCD26と同一であり、インビトロにおいて、多数の免疫制御、内分泌及び神経ペプチドを切断することができる。この事実から、ヒト又はその他の種において、該ペプチダーゼが様々な疾病過程に関与している可能性があることが示唆される。
【0053】
従って、本化合物は、以下の疾病、疾患及び症状を予防又は治療する方法において有用である。
【0054】
II型糖尿病及び関連疾患:インクレチンであるGLP−1及びGIPがインビボでDP−IVによって急速に不活化されることは、十分に確定されている。DP−IVを阻害するとGLP−1及びGIPの定常状態濃度が上昇し、グルコース耐性が改善されることが、DP−IV(−/−)欠損マウスを用いた研究及び臨床前試験によって示されている。GLP−1及びGIPへの類推により、グルコース制御に関わる他のグルカゴンファミリーペプチドもDP−IVによって不活化されるものと思われる(例えば、PACAP)。DP−IVによるこれらのペプチドの不活化は、グルコースのホメオスタシスにも関与している可能性がある。従って、本発明のDP−IV阻害剤は、II型糖尿病の治療並びに代謝性シンドロームX、反応性低血糖及び糖尿病性異脂肪血症などのII型糖尿病を伴うことが多い多数の症状の治療及び予防に使用される。以下で考察されている肥満は、II型糖尿病とともに観察されることが多く、本発明の化合物による治療に反応し得るまた別の症状である。
【0055】
以下の疾病、疾患及び症状は、2型糖尿病に関連しており、従って、本発明の化合物を用いた治療によって治療し、制御し、又は、幾つかの事例では、予防することができる。(1)高血糖、(2)低グルコース耐性、(3)インスリン抵抗性、(4)肥満、(5)脂質疾患、(6)異脂肪血症、(7)高脂血症、(8)高トリグリセリド血症、(9)高コレステロール血症、(10)低HDLレベル、(11)高LDLレベル、(12)アテローム性動脈硬化症及びその続発症、(13)血管再狭窄、(14)過敏性腸症候群、(15)クローン病及び潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患、(16)その他の炎症性症状、(17)膵炎、(18)腹部肥満、(19)神経変性疾患、(20)網膜症、(21)腎症、(22)神経障害、(23)シンドロームX、(24)卵巣アンドロゲン過剰症(多嚢胞性卵巣症候群)、並びにインスリン抵抗性を要素とする他の疾患。
【0056】
肥満:DP−IV阻害剤は、肥満の治療に有用であり得る。これは、GLP−1及びGLP−2が食物摂取及び胃内容排出に対して阻害的効果を示すことが観察されたことに基づく。GLP−1をヒトに外来投与すると、食物摂取が著しく減少し、胃内容排出が著しく遅くなる(Am.J.Physiol.,277:R910−R916(1999))。GLP−1のラット及びマウスへのICV投与によっても、食物摂取に対して著しい効果が得られる(Nature Medicine,2:1254−1258(1996))。かかる摂食の阻害は、GLP−1R(−/−)マウスでは観察されないので、これらの効果には脳のGLP−1受容体が介在することが示唆される。GLP−1への類推により、GLP−2もDP−IVによって調節されるものと思われる。GLP−2のICV投与も、GLP−1について観察された効果と同様に、食物摂取を阻害する(Nature Medicine,6:802−807(2000))。さらに、DP−IV欠損マウスを用いた研究から、これらの動物が食餌により誘発される肥満及び関連病態(例えば、高インスリン血症)に耐性があることが示唆される。
【0057】
成長ホルモン欠乏症:下垂体前葉からの成長ホルモンの放出を刺激するペプチドである成長ホルモン放出因子(GRF)が、DP−IV酵素によってインビボで切断されるという仮説に基づけば、DP−IV阻害は成長ホルモン欠乏症の治療に有用であり得る(WO 00/56297号)。以下のデータは、GRFが内因性基質であるという証拠を提供する。(1)GRFは、インビトロで効率的に切断されて、不活性産物GRF[3−44]を生成する(BBA 1122:147−153(1992))。(2)GRFは、血漿中で素早く分解されてGRF[3−44]になるが、これは、DP−IV阻害剤であるジプロチンAによって抑制される。(3)GRF[3−44]は、ヒトGRFトランスジェニックブタの血漿中に見出される(J.Clin.Invest.,83:1533−1540(1989))。このため、DP−IV阻害剤は、成長ホルモン分泌促進物質について考えられる適応症と同一の領域に対して有用であり得る。
【0058】
腸の損傷:DP−IVに対する内因性基質であると思われるグルカゴン様ペプチド−2(GLP−2)が、腸上皮に対して栄養性効果を示し得ることを示唆する研究結果から、腸の損傷の治療にDP−IV阻害剤を使用できる可能性があることが示唆されている(Regulatory Peptides,90:27−32(2000))。GLP−2の投与の結果、げっ歯類において小腸重量が増加し、大腸炎及び腸炎のげっ歯類モデルにおいて腸の損傷が緩和される。
【0059】
免疫抑制:T細胞の活性化及びケモカインのプロセシングにDP−IV酵素が関与していること、及び疾病のインビボモデルにおいてDP−IV阻害剤が有効であることを示唆する研究に基づくと、DP−IVの阻害は、免疫反応の調節に有用であり得る。DP−IVは、活性化された免疫細胞の細胞表面マーカーであるCD26と同一であることが示されている。CD26の発現は、免疫細胞の分化及び活性化状態によって制御される。CD26はT細胞活性化のインビトロモデルにおいて同時刺激分子として機能することが一般に認められている。多数のケモカインが、おそらくは非特異的アミノペプチダーゼによる分解から保護するために、最後から2番目の位置にプロリンを含有している。これらの多くは、DP−IVによってインビトロでプロセシングを受けることが示されている。複数の事例で(RANTES、LD78−β、MDC、エオタキシン、SDF−1α)、切断により化学走性及びシグナル伝達アッセイにおける活性が変化する。幾つかの事例では(RANTES)、受容体の選択性も変更されるようである。DP−IV加水分解の予想産物を含む数多くのケモカインのN末端切断型が、インビトロ細胞培養系で複数同定されている。
【0060】
DP−IV阻害剤は、移植及び関節炎の動物モデルにおいて、効果的な免疫抑制物質であることが示されている。DP−IVの不可逆的阻害剤であるプロジピン(Pro−Pro−ジフェニル−ホスホネート)は、ラットにおける心臓同種移植の生存日数を7日から14日まで倍増させることが示された(Transplantation,63:1495−1500(1997))。コラーゲン及びアルキルジアミンでラットに誘発された関節炎においてDP−IV阻害剤を試験したところ、このモデルでは、後肢の腫脹が統計的に有意に減弱されることが示された[Int.J.Immunopharmacology,19:15−24(1997)及びImmunopharmacology,40:21−26(1998)]。DP−IVは、関節リウマチ、多発性硬化症、グレーブズ病及び橋本甲状腺炎を含む、数多くの自己免疫疾患において上方制御される(Immunology Today,20:367−375(1999))。
【0061】
HIV感染:HIV細胞侵入を阻害する数多くのケモカインがDP−IVの基質となり得る可能性があるので、DP−IV阻害は、HIV感染又はAIDSの治療又は予防に有用であり得る(Immunology Today 20:367−375(1999))。SDF−1αの場合には、切断により抗ウイルス活性が低下する(PNAS,95:6331−6(1998))。このため、DP−IVの阻害によりSDF−1αを安定化させると、HIV感染性が低下すると予想される。
【0062】
造血:DP−IVは造血に関与している可能性があるので、DP−IVの阻害は、造血の治療又は予防に有用であり得る。DP−IV阻害剤であるVal−Boro−Proは、シクロホスファミドで誘発した好中球減少症のマウスモデルにおいて造血を刺激した(WO 99/56753号)。
【0063】
ニューロン疾患:ニューロンの様々な過程に関与していることが示唆される多くのペプチドがDP−IVによってインビトロで切断されるので、DP−IV阻害は、様々なニューロン疾患又は精神疾患の治療又は予防に有用であり得る。このため、DP−IV阻害剤は、ニューロン疾患の治療において、治療上の利点を有し得る。エンドモルフィン−2、β−カソモルフィン及びサブスタンスPは全て、DP−IVに対するインビトロ基質であることが示されている。何れの場合にも、インビトロ切断は極めて効率的であり、kcat/Kは約10−1−1以上である。ラットにおける無痛覚症の電気ショックジャンプ試験モデルでは、DP−IV阻害剤は、外来性エンドモルフィン−2の存在とは無関係に顕著な効果を示した(Brain Research,815:278−286(1999))。
【0064】
DP−IV阻害剤が、運動ニューロンを興奮毒性による細胞死から保護できること、MPTPと同時に投与した場合にドーパミン作動性ニューロンの線条体への神経分布を保護できること、MPTP処置後に治療的な様式で与えた場合に線条体の神経分布密度の回復を促進できることによっても、DP−IV阻害剤の神経保護効果及び神経再生効果が裏付けられた[Yong−Q.Wuら、“Neuroprotective Effects of Inhibitors of Dipeptidyl Peptidase−IV In Vitro and In Vivo,”Int. Conf.On Dipeptidyl Aminopeptidases:Basic Science and Clinical Applications,September 26−29,2002(Berlin,Germany)を参照。]。
【0065】
腫瘍の侵襲及び転移:正常な細胞が悪性表現型へと変化する間に、DP−IVを含む複数のエクトペプチダーゼの発現が増加又は減少することが観察されているので、DP−IV阻害は、腫瘍の侵襲及び転移の治療又は予防に有用であり得る(J.Exp.Med.,190:301−305(1999))。これらのタンパク質の上方制御又は下方制御は、組織及び細胞の種類に特異的であるものと思われる。例えば、T細胞リンパ腫、T細胞急性リンパ芽球性白血病、細胞由来甲状腺癌、基底細胞癌及び乳癌において、CD26/DP−IV発現の増加が観察されている。このため、DP−IV阻害剤は、このような癌の治療に利用し得る。
【0066】
良性前立腺肥大症:BPH患者から得た前立腺組織中でDP−IV活性の向上が認められたので、DP−IV阻害は、良性前立腺肥大症の治療に対して有用であり得る(Eur.J.Clin.Chem.Clin.Biochem.,30:333−338(1992))。
【0067】
精子の運動性/男性避妊:精液中では、プロステートソーム(精子の運動性にとって重要な前立腺由来の細胞小器官)が極めて高レベルのDP−IV活性を有しているので、DP−IV阻害は、精子の運動性の変更及び男性避妊に有用であり得る(Eur.J.Clin.Chem.Clin.Biochem.,30:333−338(1992))。
【0068】
歯肉炎:歯肉溝液中にDP−IV活性が見出され、幾つかの研究では、歯周病の重篤度に相関していたので、DP−IV阻害は、歯肉炎の治療に有用であり得る(Arhc.Oral Biol.,37:167−173(1992))。
【0069】
骨粗鬆症:GIP受容体が骨芽細胞中に存在するので、DP−IV阻害は、骨粗鬆症の治療又は予防に有用であり得る。
【0070】
本発明の化合物は、以下の症状又は疾病の1又は複数を治療又は予防する上で有用性がある。(1)高血糖、(2)低グルコース耐性、(3)インスリン抵抗性、(4)肥満、(5)脂質疾患、(6)異脂肪血症、(7)高脂血症、(8)高トリグリセリド血症、(9)高コレステロール血症、(10)低HDLレベル、(11)高LDLレベル、(12)アテローム性動脈硬化症及びその続発症、(13)血管再狭窄、(14)過敏性腸症候群、(15)クローン病及び潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患、(16)その他の炎症性症状、(17)膵炎、(18)腹部肥満、(19)神経変性疾患、(20)網膜症、(21)腎症、(22)神経障害、(23)シンドロームX、(24)卵巣アンドロゲン過剰症(多嚢胞性卵巣症候群)、(25)II型糖尿病、(26)成長ホルモン欠乏症、(27)好中球減少症、(28)ニューロン疾患、(29)腫瘍の転移、(30)良性前立腺肥大、(32)歯肉炎、(33)高血圧、(34)骨粗鬆症並びにDP−IVの阻害によって治療又は予防し得る他の症状。
【0071】
本化合物は、さらに、他の薬剤と組み合わせて、先述した疾病、疾患及び症状を予防又は治療する方法においても有用である。
【0072】
本発明の化合物は、式Iの化合物又はその他の薬物を使用し得る疾病又は症状の治療、予防、抑制又は軽減において、1又は複数の他の薬物と組み合わせ使用することができ、この場合、薬物を組み合わせると、それぞれの薬物単独に比べて安全性又は有効性がさらに高くなる。このような他の薬物は、かかる薬物に対して一般的に用いられている経路及び量で、式Iの化合物と同時に又は順次に投与することができる。式Iの化合物が、1又は複数の他の薬物と同時に使用される場合、このような他の薬物と式Iの化合物とを含有する単位剤形の医薬組成物が好ましい。しかしながら、式Iの化合物と1又は複数の他の薬物とが重複する様々なスケジュールで投与される療法も、併用療法に含まれ得る。1又は複数の他の活性成分と組み合わせて使用される場合、本発明の化合物及び他の活性成分は、それぞれが単独で使用される場合に比べて少ない用量で使用し得ることも想定される。従って、本発明の医薬組成物には、式Iの化合物に加えて、1又は複数の他の活性成分を含有する医薬組成物が含まれる。
【0073】
式Iの化合物と組み合わせて投与することができ、個別に又は同一の医薬組成物中で投与し得る他の活性成分の例には、以下のものが含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0074】
(a)他のジペプチリルペプチダーゼIV(DP−TV)阻害剤;
(b)(i)グリタゾン(例えば、トログリタゾン、ピオグリタゾン、エングリタゾン、MCC−555、ロシグリタゾンなど)などのPPARγアゴニスト及びKRP−297などのPPARα/γデュアルアゴニストを含む他のPPARリガンド及びフェノフィブリン酸誘導体(ゲムフィブロジル、クロフィブレート、フェノフィブレート及びベンザフィブレレート)などのPPARαアゴニスト、(ii)メトホルミン及びフェンホルミンなどのビグアナイド、並びに(iii)タンパク質チロシンホスファターゼ−1B(PTP−1B)阻害剤などのインスリン増感剤;
(c)インスリン又はインスリン模倣物;
(d)スルホニル尿素、並びにトルブタミド、グリブリド、グリピジド、グリメピリド及びメグリチニド(レパグリニドなど)などの他のインスリン分泌促進物質;
(e)α−グルコシダーゼ阻害剤(アカルボース及びミグリトールなど);
(f)WO 98/04528号、WO 99/01423号、WO 00/39088号及びWO 00/69810号に開示されているものなどのグルカゴン受容体アンタゴニスト;
(g)WO 00/42026号及びWO 00/59887号に開示されているものなどのGLP−1、GLP−1模倣物及びGLP−1受容体アゴニスト;
(h)GIP及びWO 00/58360号に開示されているものなどのGIP模倣物、並びにGIP受容体アゴニスト:
(i)PACAP、PACAP模倣物及びWO 01/23420号に開示されているものなどのPACAP受容体アゴニスト;
(j)(i)HMG−CoA還元酵素阻害剤(ロバスタチン、シンバスタチン、プラバスタチン、セリバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、イタバスタチン及びロスバスタチン並びに他のスタチン)、(ii)金属イオン封鎖剤(コレスチラミン、コレスチポール、及び架橋されたデキストランのジアルキルアミノアルキル誘導体)、(iii)ニコチニルアルコール、ニコチン酸又はそれらの塩、(iv)フェノフィブリン酸誘導体(ゲムフィブロジル、クロフィブレート、フェノフィブレート及びベンザフィブレレート)などのPPARαアゴニスト、(v)KRP−297などのPPARα/γデュアルアゴニスト、(vi)β−シトステロール及びエゼチミブなどのコレステロール吸収の阻害剤、(vii)アバシミブ(avasimibe)などのアシルCoA:コレステロールアシルトランスフェラーゼ阻害剤、並びに(viii)プロブコールなどの抗酸化剤などの、コレステロール降下剤;
(k)WO 97/28149号に開示されているものなどの、PPARδアゴニスト;
(l)フェンフルラミン、デクスフェンフルラミン、フェンテルミン、シブトラミン、オルリスタット、ニューロペプチドY又はYアンタゴニスト、CB−1受容体逆アゴニスト及びアンタゴニスト、βアドレナリン作動性受容体アゴニスト、メラノコルチン−受容体アゴニスト、とりわけ、メラノコルチン−4受容体アゴニスト、グレリンアンタゴニスト及びメラニン凝集ホルモン(MCH)受容体アンタゴニストなどの肥満抑制化合物;
(m)回腸の胆汁酸輸送体阻害剤;
(n)アスピリン、非ステロイド性抗炎症剤、グルココルチコイド、アザルフィジン及び選択的シクロオキシゲナーゼ−2阻害剤などの炎症症状に使用するための薬剤;及び
(o)ACE阻害剤(エナラプリル、リシノプリル、カプトプリル、キナプリル、タンドラプリル(tandolapril))、A−II受容体ブロッカー(ロサルタン、カンデサルタン、イルベサルタン、バルサルタン、テルミサルタン、エプロサルタン)、βブロッカー及びカルシウムチャネルブロッカーなどの降圧剤。
【0075】
構造式Iの化合物と組み合わせることができるジペプチジルペプチダーゼ−IVには、WO 03/004498号(2003年1月16日);WO 03/004496号(2003年1月16日);EP 1 258 476号(2002年11月20日);WO 02/083128号(2002年10月24日);WO 02/062764号(2002年8月15日);WO 03/000250号(2003年1月3日);WO 03/002530号(2003年1月9日);WO 03/002531号(2003年1月9日);WO 03/002553号(2003年1月9日);WO 03/002593号(2003年1月9日);WO 03/000180号(2003年1月3日);及びWO 03/000181号(2003年1月3日);で開示されているものが含まれる。具体的なDP−IV阻害剤化合物には、イソロイシン チアゾリジド;NVP−DPP728;P32/98;及びLAP237が含まれる。
【0076】
構造式Iの化合物と組み合わせることができる肥満抑制化合物には、フェンフルラミン、デクスフェンフルラミン、フェンテルミン、シブトラミン、オルリスタット、ニューロペプチドY又はYアンタゴニスト、カナビノイドCB1受容体アンタゴニスト又は逆アゴニスト、メラノコルチン受容体アゴニスト、とりわけ、メラノコルチン−4受容体アゴニスト、グレリンアンタゴニスト及びメラニン凝集ホルモン(MCH)受容体アンタゴニストが含まれる。構造式Iの化合物と組み合わせることができる肥満抑制化合物のまとめとして、S.Chakiら、“Recent advance in feeding suppressing agents:potential therapeutic strategy for the treatment of obesity,”Expert Opin.Ther.Patents,11:1677−1692(2001)及びD.Spanswick及びK.Lee,“Emerging antiobesity drugs,”Expert Opin.Emerging Drugs,8:217−237(2003)を参照のこと。
【0077】
構造式Iの化合物と組み合わせることができるニューロペプチドY5アンタゴニストには、米国特許第6,335,345号(2002年1月1日)及びWO 01/14376(2001年3月1日)で開示されているもの;及びGW59884A;GW569180A;LY366377;及びCGP−71683Aとされる具体的な化合物が含まれる。
【0078】
構造式Iの化合物と組み合わせることができるカナビノイドCB1受容体アンタゴニストには、PCT公開WO 03/007887号;米国特許5,624,941号
(リモナバントなど);PCT公開WO 02/076949号(SLV−319など);米国特許第6,028,084号;PCT公開WO 98/41519号;PCT公開WO 00/10968号;PCT公開WO 99/02499号;米国特許第5,532,237号及び米国特許第5,292,736号で開示されているものが含まれる。
【0079】
構造式Iの化合物と組み合わせることができるメラノコルチン受容体アゴニストには、WO 03/009847号(2003年2月6日);WO 02/068388号(2002年9月6日);WO 99/64002号(1999年12月16日);WO 00/74679号(2000年12月14日);WO 01/70708号(2001年9月27日);及びWO 01/70337号(2001年9月27日)ならびに、J.D.Speakeら、“Recent advances in the development of melanocortin−4 receptor agonists,”Expert Opin.Ther.Patents,12:1631−1638(2002)で開示されているものが含まれる。
【0080】
本発明の化合物を1又は複数の他の薬物と同時に使用する場合、本発明の化合物に加えて、このような他の薬物を含有する医薬組成物が好ましい。従って、本発明の医薬組成物には、本発明の化合物に加えて、1又は複数の他の活性成分も含有する医薬組成物が含まれる。
【0081】
第二の活性成分に対する本発明の化合物の重量比は変動させることができ、各成分の有効用量に依存するであろう。一般に、それぞれの有効用量が使用されるであろう。つまり、例えば、本発明の化合物を別の薬剤と組み合わせる場合には、他の薬剤に対する本発明の化合物の重量比は、一般に、約1000:1から約1:1000、好ましくは約200:1から約1:200の範囲にわたるであろう。本発明の化合物と他の活性成分との組み合わせは、一般に、先述した範囲内に存在するであろうが、各事例において、各活性成分の有効量を使用すべきである。
【0082】
このような組み合わせでは、本発明の化合物及び他の活性物質は、別個に又は同時に投与することができる。さらに、1つの要素の投与は、他の薬剤の投与の前、それと同時、又は後に行うことができる。
【0083】
本発明の化合物は、経口、非経口(例えば、筋肉内、腹腔内、静脈内、ICV、大槽内注射若しくは注入、皮下注射又はインプラント)、吸入スプレー、経鼻、膣、直腸、舌下又は局所投与経路によって投与することができ、投与の各経路に適切な非毒性の医薬適合性の従来の担体、佐剤及びビヒクルを含有する適切な投薬単位製剤中に、単独で又は一緒に調合することができる。マウス、ラット、ウマ、ウシ、ヒツジ、イヌ、ネコ、サルなどの温血動物の治療に加えて、本発明の化合物は、ヒトへの使用についても有効である。
【0084】
本発明の化合物を投与するための医薬組成物は、都合よく投薬単位形態で与えることができ、薬学の分野において周知のあらゆる方法によって調製することができる。全ての方法には、前記活性成分を、1又は複数の補助成分を成す担体と混合する段階が含まれる。一般に、前記医薬組成物は、液体担体若しくは微粉化された固体担体又は両方に、前記活性成分を均一かつ緊密に混合させ、必要であればその後、所望の製剤になるように生成物を成形することによって調製される。前記医薬組成物において、活性な対象化合物は、疾病の過程又は症状に対して所望の効果をもたらすのに十分な量で含有される。本明細書において使用される場合、「組成物」という用語は、一定の成分を一定の量で含む生成物の他、一定の成分を一定の量で組み合わせることによって、直接又は間接的に得られるあらゆる生成物を包含するものとする。
【0085】
前記活性成分を含有する医薬組成物は、経口での使用に適した形態、例えば、錠剤、トローチ、トローチ剤、水性若しくは油性懸濁液、分散性粉末若しくは顆粒、乳剤、硬カプセル若しくは軟カプセル又はシロップ若しくはエリキシル剤とすることができる。経口で使用するための組成物は、医薬組成物の製造の分野において公知である任意の方法に従って調製することができ、このような組成物は、薬学的に洗練されかつ口当たりがよい調製物を与えるために、甘味料、香味料、着色料及び防腐剤からなる群から選択される1又は複数の薬剤を含有することができる。錠剤は、錠剤の製造に適した医薬適合性の非毒性賦形剤と混合された活性成分を含有する。これらの賦形剤は、例えば、炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、ラクトース、リン酸カルシウム又はリン酸ナトリウムなどの不活性な希釈剤;造粒剤及び崩壊剤、例えば、コーンスターチ又はアルギン酸;結合剤、例えば、デンプン、ゼラチン又はアラビアゴム;並びに潤滑剤、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸又はタルクであり得る。前記錠剤は素錠とすることができ、又は公知の技術によってコーティングを施して、胃腸管での崩壊及び吸収を遅延させることにより、長期にわたって持続的な作用を与えることができる。例えば、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルなどの時間遅延物質を使用し得る。それらは、制御放出のための浸透圧性治療用錠剤を形成するための、米国特許第4,256,108号;第4,166,452号;第4,265,874号に記載されている技術によってコーティングを施すこともできる。
【0086】
経口用の製剤は、活性成分が不活性な固体希釈剤(例えば、炭酸カルシウム、リン酸カルシウム又はカオリン)と混合された硬ゼラチンカプセルとして、又は活性成分が水若しくは油媒体(例えば、ピーナッツ油、流動パラフィン又はオリーブ油)と混合された軟ゼラチンカプセルとして与えることもできる。
【0087】
水性懸濁液は、水性懸濁液の製造に適した賦形剤と混合された活性物質を含有する。このような賦形剤は、懸濁剤、例えば、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、トラガカントゴム及びアラビアゴムであり、分散剤又は湿潤剤は、天然に存在するホスファチド(例えば、レシチン)、又はアルキレンオキシドと脂肪酸との縮合生成物(例えば、ポリオキシエチレンステアリン酸)、又はエチレンオキシドと長鎖脂肪族アルコールとの縮合生成物(例えば、ヘプタデカエチレンオキシセタノール)、又はエチレンオキシドと、脂肪酸及びヘキシトールから誘導された部分エステルとの縮合生成物(モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビトールなど)、又はエチレンオキシドと、脂肪酸及びヘキシトール無水物由来の部分エステルとの縮合生成物(例えば、モノオレイン酸ポリエチレンソルビタン)であり得る。水性懸濁液は、1又は複数の防腐剤、例えば、p−ヒドロキシ安息香酸エチル又はn−プロピル、1又は複数の着色料、1又は複数の香味料及び1又は複数の甘味料(スクロース又はサッカリンなど)も含有し得る。
【0088】
油性懸濁液は、活性成分を、例えば、ラッカセイ油、オリーブ油、ゴマ油若しくはココナッツ油などの植物油、又は流動パラフィンなどの鉱油中に懸濁させることによって調合することができる。油性懸濁液は、濃縮剤、例えば、蜜蝋、固形パラフィン又はセチルアルコールを含有し得る。口当たりがよい経口調製物を与えるために、上記のものなどの甘味料及び香味料を添加することもできる。これらの組成物は、アスコルビン酸などの抗酸化剤を添加することによって保存し得る。
【0089】
水を加えることによって水性懸濁液を調製するのに適した分散性粉末及び顆粒は、分散剤又は湿潤剤、懸濁剤及び1又は複数の防腐剤と混合された活性成分を与える。適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁剤の例は、既に上述したものである。さらなる賦形剤、例えば、甘味料、香味料及び着色料を存在させ得る。
【0090】
本発明の医薬組成物は、水中油型乳剤の形態とすることもできる。油相は、植物油(例えば、オリーブ油若しくはラッカセイ油)又は鉱油(例えば流動パラフィン)、又はこれらの混合物とすることができる。適切な乳化剤は、天然に存在するゴム(例えば、アラビアゴム又はトラガカントゴム)、天然に存在するホスファチド(例えば、大豆、レシチン)、並びに脂肪酸及びヘキシトール無水物由来のエステル又は部分エステル(例えば、モノオレイン酸ソルビタン)、並びに前記部分エステルとエチレンオキシドとの縮合生成物(例えば、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン)であり得る。乳剤は、甘味料及び香味料も含有し得る。
【0091】
シロップ及びエリキシル剤は、例えば、グリセロール、プロピレングリコール、ソルビトール又はスクロース等の甘味料とともに調合することができる。このような製剤は、粘滑剤、防腐剤及び香味料及び着色料も含有し得る。
【0092】
前記医薬組成物は、無菌の注射可能な水性又は油脂性懸濁液の形態とすることができる。該懸濁液は、上述の適切な分散剤又は湿潤剤及び懸濁剤を用いて、本分野で公知の方法で調合することができる。無菌の注射可能な調製物は、例えば、1,3−ブタンジオール中の溶液として、非毒性の非経口的に許容される希釈剤又は溶媒中の注射可能な無菌溶液又は懸濁液とすることもできる。利用し得る許容可能なビヒクル及び溶媒には、水、リンゲル溶液及び等張の塩化ナトリウム溶液が含まれる。さらに、無菌の不揮発性油は、通常、溶媒又は懸濁媒体として使用される。この目的のために、合成モノグリセリド又はジグリセリドを含む、あらゆる無刺激性不揮発油を使用することができる。さらに、オレイン酸などの脂肪酸を注射剤の調製に使用できる。
【0093】
本発明の化合物は、薬物を直腸投与するための座薬の形態で投与することもできる。これらの組成物は、常温では固体であるが、直腸温では液体となり、従って、直腸内で溶けて薬物を放出する適切な非刺激性賦形剤とともに薬物を混合することによって調製することができる。このような材料は、カカオバター及びポリエチレングリコールである。
【0094】
局所に使用する場合には、本発明の化合物を含有するクリーム、軟膏、ゼリー、溶液又は懸濁液などが用いられる。(本願においては、局所投与には、洗口剤及びうがい薬が含まれるものとする。)
本発明の医薬組成物及び方法は、上記の病態の治療に一般的に使用される、本明細書に記載されている治療的に活性のある他の化合物をさらに含むことができる。
【0095】
ジペプチジルペプチダーゼ−IV酵素活性の阻害を必要とする症状の治療又は予防においては、適切な投薬レベルは、一般に、約0.01から500mg/kg患者体重/日であり、これは単回又は複数回の投薬で与えることができる。好ましくは、前記投薬レベルは、約0.1から約250mg/kg/日、より好ましくは、約0.5から約100mg/kg/日であろう。適切な投薬レベルは、約0.01から250mg/kg/日、約0.05から100mg/kg/日、又は約0.1から50mg/kg/日とすることができる。この範囲内で、前記投薬量は、0.05から0.5、0.5から5又は5から50mg/kg/日とすることができる。経口投与の場合、治療すべき患者への投薬量を症状に応じて調節するために、前記組成物は、活性成分を1.0から1000mg、特に活性成分を1.0、5.0、10.0、15.0、20.0、25.0、50.0、75.0、100.0、150.0、200.0、250.0、300.0、400.0、500.0、600.0、750.0、800.0、900.0及び1000.0mg含有する錠剤の形態で与えることが好ましい。前記化合物は、1から4回/日、好ましくは1又は2回/日の投薬計画で投与することができる。
【0096】
糖尿病及び/又は高血糖若しくは高トリグリセリド血症、又は本発明の化合物が適応症となる他の疾病を治療又は予防する場合、約0.1mgから約100mg/kg動物体重の一日投薬量で、好ましくは一日一回の投薬若しくは一日に2回から6回に分割した投薬又は徐放形態で本発明の化合物を投与すると、一般に満足な結果が得られる。殆どの大型哺乳動物では、一日総投薬量は、約1.0mgから約1000mg、好ましくは約1mgから約50mgである。70kgの成人の場合には、一日総投薬量は、一般に、約7mgから約350mgであろう。この投薬計画は、最適の治療応答を与えるように調節され得る。
【0097】
しかしながら、個々の患者に対する具体的な投薬レベルと投薬の頻度には変更を加えることができ、使用する具体的な化合物の活性、当該化合物の代謝的安定性及び作用の長さ、年齢、体重、一般的な健康状態、性別、食事、投与の様式及び時間、排泄速度、薬物の組み合わせ、症状の重篤度、並びに治療を受ける対象など様々な要因に依存し得ることが理解されるであろう。
【0098】
本発明の化合物を調製する幾つかの方法を、以下のスキーム及び実施例に例示する。出発物質は、本分野において公知の手法又は本明細書に記されている手法に従って調製される。
【0099】
【化7】

【0100】
構造式Iの化合物(式中、Rは水素である。)の調製をスキーム1で説明する。エステル1(市販されている、又は、例えばジ−tert−ブチルジカルボネートを用いて保護を行い、塩酸などの酸を含有するメタノール又はエタノール中でエステル化することにより、対応するアミノ酸から容易に調製することができる。)を、最高で50psiまでの圧力にて、2時間から16時間、酢酸などの溶媒中で酸化白金などの触媒を用いて接触水素化し、シクロヘキシル誘導体2を得る。化合物2中のエステル官能基を除去して、カルボン酸3を得ることができる。メチル又はエチルなどのエステルの場合は、テトラヒドロフラン、メタノール又は同様の溶媒の混合物などの極性溶媒中で水酸化リチウム水溶液などの塩基を用いて鹸化することによりこれを達成する。当業者に理解されるであろうように、鏡像異性体として純粋なαアミノ酸の調製のために、鏡像異性体として純粋なαアミノ酸1を使用することができる。これらの化合物に対する関連経路は、次の文献、Nuttら、Peptides:Structure and Function,Proceed.of the 9th Amer.Pept.Symp.,編集 C.Deberら、Pierce Chemical Co.Rockford,Il,441(1985)及びBanfiら、Syn.Commun.,19,1787−1799(1989)で見出すことができる。標準的なペプチドカップリング条件下で、例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)及び塩基、通常はN,N−ジイソプロピルエチルアミンを用いて、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)又はジクロロメタンなどの溶媒中で、室温にて3時間から48時間、酸3を複素環アミン4とカップリングさせ、中間体5を得る。室温にて1時間から5時間、ジクロロメタン中で、例えばDess−Martinペルヨージナン試薬を用いて、得られたアルコールをケトンに酸化し、中間体6を得ることができる。室温にてジクロロメタン又はジオキサンなどの溶媒中でTFA又はHClなどの酸で処理することにより、Boc保護したケトン6を脱保護する。クロロギ酸ベンジルとともに重炭酸ナトリウム飽和水溶液及びTHFを用いて、得られたTFA塩又はHCl塩を処理して、カルボキシベンジル(Cbz)保護した生成物7を得ることができる。エタノールなどの溶媒中で、通常高温にて、パラ−トルエンスルホン酸などの酸の存在下で適切なアリールヒドラジン8を用いてケトン7を処理し、所望するCbz保護した縮合インドールを得ることができる。例えば触媒として水酸化パラジウムを用いて、接触水素化条件下で脱保護することにより、最終化合物I(式中、Rは水素である。)が得られる。必要であれば、再結晶化、摩砕、分取薄層クロマトグラフィー、Biotage(R)装置などのシリカゲルを用いたフラッシュクロマトグラフィー又はHPLCにより、不要な副生成物からこの生成物を精製する。HPLCで精製した化合物は、対応する塩として単離され得る。ChiralCelカラム(types AD、AS、OD又はOJ)を用いてジアステレオマー混合物を分離することができる。中間体の精製を同様にして行う。
【0101】
アリールヒドラジン8は、市販されており、文献に記載されており、又は当業者に周知の様々な方法によって調製することができる。
【0102】
【化8】

【0103】
構造式I(式中、Rはシアノである。)の化合物の合成をスキーム2で説明する。標準的なペプチドカップリング条件下で、例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(EDC)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBT)及び塩基(通常は、N,N−ジイソプロピルエチルアミン)を用いて、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)又はジクロロメタンなどの溶媒中で、室温にて3時間から48時間、酸3(スキーム1で述べたようにして調製。)を、複素環アミン9とカップリングさせ、中間体10を得る。上記スキーム1で述べたようにして、中間体10をCbz保護インドール13に変換する。次に、例えばジメチルホルムアミドなどの極性溶媒中で、0℃から50℃にて1時間から16時間、塩化シアヌルなどの脱水剤を用いて、インドール13を処理し、ニトリルを得る。次に、例えば酢酸中の臭化水素酸を用いて保護基を除去し、構造式I(式中、Rはシアノである。)の所望する産物を得る。
【0104】
【化9】

【0105】
複素環アミン9は、市販されており、文献に記載されており、又は当業者に周知の様々な方法によって都合よく調製することができる。ある一般的な経路をスキーム3で説明するが、それには、ジクロロメタンなどの溶媒中における、1時間から16時間の、N−ヒドロキシスクシニミド及びEDC又は他の適切なカップリング剤による酸14(式中、Pは、Boc又はCbzなどのカルバメート保護基である。)の処理が含まれる。次に、ジオキサンなどの溶媒中で、得られた産物15を塩基、例えば水酸化アンモニウム水溶液など、で処理する。例えば、Bocの場合は、ジクロロメタン中でTFAを用いて処理することにより、又はCbzの場合は接触水素化条件下で、保護基の除去を行い、中間体9を得る。酸誘導体14は、市販されており、文献に記載されており、又は当業者に周知の様々な方法によって都合よく調製することができる。例えば、XがCHF又はCFである場合、14のメチルエステルの合成は、Demangeら、Tetrahedron Lett.,39:1169(1998)において述べられている。
【0106】
ある場合には、構造式Iの化合物又は上記スキームで説明した合成中間体を、例えばR、R、R、R及びRにおける置換基の操作により、さらに修飾し得る。これらの操作には、当業者にとって公知である、置換、還元、酸化、アルキル化、アシル化及び加水分解反応が含まれる得るが、これらに限定されない。
【0107】
ある場合には、反応を促進するために、又は不必要な反応産物を避けるために、上述の反応スキームを遂行する順番を変化させ得る。次の実施例は、本発明をさらに十分に理解できるよう提供するものである。ただ説明することを目的とするものであり、本発明を何ら限定するものとして解釈されるべきではない。
【実施例】
【0108】
中間体1
【0109】
【化10】

【0110】
メチル(2S)−[(tert−ブトキシカルボニル)アミノ](4−ヒドロキシシクロへキシル)エタン酸
0℃の、メタノール400ml中の塩化アセチル 20ml(230mmol)溶液に、(S)−4−ヒドロキシフェニルグリシン 20g(120mmol)を添加した。その混合物を室温にて16時間撹拌し、2時間、40℃に加熱し、冷却して真空中で濃縮した。水を添加し、その混合物をジクロロメタン3部で抽出した。合わせた有機相を食塩水で洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、真空中で濃縮し、未精製のメチルエステルを得た。この物質を、ジクロロメタン400mlに溶解し、ジ−tert−ブチルジカルボネート 28.8g(132mmol)及びN,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIEA) 31.4ml(180mmol)を添加した。この混合物を室温にて20時間撹拌し、真空中で濃縮し、酢酸エチル400mlに溶解した。この有機相を、重炭酸ナトリウム飽和溶液、水及び食塩水で連続して洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、真空中で濃縮した。未精製の固体を1:4 エーテル:ヘキサン 200mlで摩砕し、Bocカルバメート 30gを得て、それを酢酸 300mlに溶解した。その溶液に、酸化白金(IV)2.2gを添加し、その反応系を水素雰囲気下(48psi)で2時間、振盪し、濾過し、真空中で濃縮した。この未精製物質を酢酸エチルに溶解し、重炭酸ナトリウム飽和溶液、水及び食塩水で連続して洗浄し、硫酸マグネシウムで乾燥させ、真空中で濃縮した。フラッシュクロマトグラフィーによる精製(シリカゲル、ヘキサン中20%から40%酢酸エチル)により、cisの表題化合物8.83gを得た:H NMR(400MHz、CDCl)δ5.05(bd,1H,J=12Hz),4.33−4.27(m,1H),4.05(bs,1H),3.78(s,3H),1.89−1.78(m,2H),1.63−1.38(m,16H).
溶出を続けて、transの表題化合物3.50gを得た。:H NMR(400MHz、CDCl)δ5.04(bd,1H,J=12Hz),4.30−4.23(m,1H),3.78(s,3H),3.59−3.51(m,1H),2.08−2.00(m,2H),1.79−1.50(m,3H),1.43(m,9H),1.33−1.04(m,4H).
【0111】
中間体2
【0112】
【化11】

【0113】
tert−ブチル[(1S)−1−(4−ヒドロキシシクロへキシル)−2−オキソ−2−ピロリジン−1−イルエチル]カルバメート
メタノール 50mlとTHF150ml中の中間体1 3.0g(11mmol)の溶液に、1Nの水酸化リチウム水溶液 54ml(54mmol)を添加した。この反応物を室温にて2時間撹拌し、次に真空中で濃縮した。5% 塩酸水溶液 200mlでこの残渣を酸性化し、この混合物を酢酸エチル200mlで2回抽出した。合わせた有機抽出物を10% 塩酸水溶液 250ml及び食塩水 250mlで連続して洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、真空中で濃縮した。次に未精製の酸をジクロロメタン 100mlに溶解し、ピロリジン 1.1ml(13mmol)、EDC 2.2g(11mmol)、HOBt 1.4g(11mmol)及びN,Nジイソプロピルエチルアミン 2.0ml(11mmol)を連続して添加した。室温にて12時間、窒素雰囲気下でこの反応混合物を撹拌し、ジクロロメタン 300mlを添加した。次にこの反応混合物を5%塩酸水溶液 400ml、重炭酸ナトリウム飽和水溶液 400ml及び食塩水 400mlで連続して洗浄し、次に、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、真空中で濃縮した。フラッシュクロマトグラフィーによる精製(シリカゲル、勾配、100% 酢酸エチルから10%メタノール/酢酸エチル)により、所望するピロリジンアミド 1.7gを得た。LC−MS(M+23):327.3。
【0114】
中間体3
【0115】
【化12】

【0116】
ベンジル[(1S)−2−オキソ−1−(4−オキソシクロヘキシル)−2−ピロリジン−1−イルエチル]カルバメート
ジクロロメタン100ml中の中間体2 1.7g(5.3mmol)の溶液に、Dess−Martinペルヨージナン 2.9g(6.9mmol)を添加した。この反応混合物を室温にて2時間撹拌し、次に、亜硫酸ナトリウム飽和水溶液 50mlで反応を停止させた。この反応混合物を5分間撹拌し、次に、重炭酸ナトリウム飽和水溶液 50mlを添加し、この混合物をさらに15分間撹拌した。次に、有機層を亜硫酸ナトリウム飽和水溶液100ml、重炭酸ナトリウム飽和水溶液 100ml及び食塩水 100mlで連続して洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、真空中で濃縮した。
【0117】
ジクロロメタン/TFA(1:1) 20ml中の上記未精製Boc保護化ケトンの溶液を、室温にて30分間撹拌した。次に、その溶液を真空中で濃縮し、その未精製残渣をTHE 500ml、重炭酸ナトリウム飽和水溶液 20ml及びクロロギ酸ベンジル 0.70ml(4.9mmol)で処理した。その反応混合物を室温にて1時間撹拌し、次に、酢酸エチル(150ml)で抽出した。有機層を食塩水 80mlで1回洗浄し、硫酸ナトリウムで乾燥させ、濾過し、真空中で濃縮した。フラッシュクロマトグラフィーによる精製(シリカゲル、勾配、90% 酢酸エチル/ヘキサンから10% メタノール/酢酸エチル)により、表題化合物 1.2gを得た。LC−MS(M+1):359.2。
【0118】
インドールの生成のための一般的手段
市販のアリールヒドラジン(1.5等量)、中間体3(1等量)及びパラ−トルエンスルホン酸(pTsOH、3等量)をエタノール(10ml/mmol)に溶解し、その反応混合物を一晩、又は、薄層クロマトグラフィー(TLC)によりケトンが消費されたことが示されるまで、還流温度に加熱した。次に、この反応混合物を室温に冷まし、真空中で濃縮し、Gilson逆相分取HPLC(YMC−Pack Pro C18、勾配方法、9:1から1:9 水/アセトニトリル、9分間にわたり、20ml/分)で直接この未精製生成物を精製した。純粋な画分を濃縮して、所望するCbz保護インドールを得た後、その化合物をエタノール(10.0ml/mmol)に溶解し、水酸化パラジウムの触媒量(10mgから50mg、炭素中20%)を添加し、その反応混合物を水素下(1atm)で、1時間から3時間、TLC又はLC−MSにより保護化合物が消費されたことが分かるまで撹拌した。Celiteパッドを介して反応混合物を濾過し、濾過ケーキをメタノール(20ml/mmol)で洗浄し、得られた溶液を真空中で濃縮した。この未精製アミンをGilson逆相分取HPLC(YMC−Pack Pro C18、勾配方法、9:1から1:9 水/アセトニトリル、9分間にわたり、20ml/分)で精製し、構造式Iの純粋な縮合インドールを得た。
【0119】
必要な場合は、最終生成物のジアステレオマー混合物をChiralCel OJ 4.6x250mm 10ミクロンカラム(60% エタノール/ヘキサン)を用いて分離した。
【0120】
基本的に、この方法に従い、表1に示す化合物例を調製した。
【0121】
【表2】

【0122】
医薬製剤の例
経口用医薬組成物の具体的な実施形態として、100mgの効力錠剤は、本発明の何れかの化合物100mg、微結晶性セルロース268mg、クロスカルメロースナトリウム20mg及びステアリン酸マグネシウム4mgから構成される。まず、活性な、微結晶性セルロースとクロスカルメロースとを混合する。次いで、ステアリン酸マグネシウムによってこの混合物を潤滑化し、圧縮して錠剤にする。
【0123】
本発明の幾つかの実施形態を参照しながら、本発明を記載し、説明してきたが、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく、操作及びプロトコールに対して様々な改変、変更、修飾、置換、削除又は付加を施し得ることが、当業者には自明であろう。例えば、上述されている本発明の化合物を用いて何らかの適応症の治療を受けている哺乳動物の反応性における変動の結果、本明細書に具体的に記載されている投薬量以外の有効投薬量を適用できる場合がある。観察される具体的な薬理学的応答は、選択した具体的な活性化合物又は薬学的担体の存否、並びに製剤の種類及び使用される投与の様式に従い、これらに依存して変動する場合があり、本発明の目的及び実施に応じて、結果にこのような予想される変動又は差異が生じることが想定される。従って、本発明は、特許請求の範囲により定義されるものであり、係る特許請求の範囲は、合理的な限度で最も広く解釈されるものとする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造式Iの化合物:
【化1】

(式中、
各nは、独立に、0、1、2又は3であり;
Xは、S、S(O)、S(O)、CH、CHF及びCFから選択され;
は、水素又は−CNであり;
は、
水素、
1−6アルキル(アルキルは、置換されていないか、又はハロゲン、ヒドロキシ、COH、C1−6アルキルオキシカルボニルから独立に選択される1個から5個の置換基で置換されている。)及び
(CH−アリール(アリールは、置換されていないか、又はハロゲン、ヒドロキシ、COH、C1−6アルキルオキシカルボニル、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル及びC1−6アルコキシ(アルキル及びアルコキシは、置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されている。)から独立に選択される1個から5個の置換基で置換されている。)からなる群から選択され;
、R、R及びRは、それぞれ独立に、
水素、
ハロゲン、
シアノ、
ヒドロキシ、
1−6アルキル(アルキルは、置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されている。)、
1−6アルコキシ(アルコキシは、置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されている。)、
(CH−COOH、
(CH−COOC1−6アルキル、
(CH−CONR
(CH−NR
(CH−NR10SO
(CH−NR10CONR
(CH−NR10COR10
(CH−NR10CO
(CH−アリール(アリールは、置換されていないか、又はハロゲン、ヒドロキシ、COH、C1−6アルキルオキシカルボニル、C1−6アルキル、C3−6シクロアルキル及びC1−6アルコキシ(アルキル及びアルコキシは、置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されている。)から独立に選択される1個から5個の置換基で置換されている。)
からなる群から選択され;
、R、R及びR中のいずれのメチレン(CH)炭素原子も、置換されていないか、又はハロゲン、ヒドロキシ及びC1−4アルキル(置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されている。)から独立に選択される1個から2個の基で置換されており;
及びRは、それぞれ独立に、
水素、
(CH−フェニル、
(CH−C3−6シクロアルキル及び
1−10アルキル(アルキルは、置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されており、フェニル及びシクロアルキルは、置換されていないか、又はハロゲン、ヒドロキシ、C1−6アルキル及びC1−6アルコキシ(アルキル及びアルコキシは、置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されている。)から独立に選択される1個から5個の置換基で置換されている。)からなる群より選択されるか;又は、
及びRは、それらが結合している窒素原子とともに、アゼチジン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン及びモルホリンから選択される複素環を形成しており、前記複素環は、置換されていないか、又はハロゲン、ヒドロキシ、C1−6アルキル及びC1−6アルコキシ(アルキル及びアルコキシは、置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されている。)から独立に選択される1個から3個の置換基で置換されており;
は、(CH−フェニル、(CH−C3−6シクロアルキル及びC1−6アルキル(アルキルは、置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されており、フェニル及びシクロアルキルは、置換されていないか、又はハロゲン、ヒドロキシ、C1−6アルキル及びC1−6アルコキシ(アルキル及びアルコキシは、置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されている。)から独立に選択される1個から5個の置換基で置換されている。)からなる群より選択され、R中のいずれのメチレン(CH)炭素原子も、置換されていないか、又はハロゲン、ヒドロキシ及びC1−4アルキル(置換されていないか、又は1個から5個のハロゲンで置換されている。)から独立に選択される1個から2個の基で置換されており;
各R10は、水素又はRである。)。
【請求項2】
*の印が付された炭素原子が、構造式Ia:
【化2】

に示される立体化学配置をとる、構造式Iaの請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Xが、S、S(O)又はS(O)である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
が水素である、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
Xが、S、S(O)又はS(O)である、請求項2に記載の化合物。
【請求項6】
Xが、CH、CHF又はCFである、請求項1に記載の化合物。
【請求項7】
が水素である、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
Xが、CH、CHF又はCFである、請求項2に記載の化合物。
【請求項9】
が、水素、メチル又はフェニルである、請求項1に記載の化合物。
【請求項10】
、R、R及びRが、それぞれ独立に、水素、ハロゲン、トリフルオロメチル、トリフルオロメトキシ、カルボキシ及びCOOC1−4アルキルからなる群から選択される、請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
及びRが、水素である、請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
【表1】

からなる群より選択される構造式IIの、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
請求項1に記載の化合物と医薬適合性の担体とを含む、医薬組成物。
【請求項14】
請求項1に記載の化合物の治療的有効量を哺乳動物に投与することを含む、糖尿病の治療を必要とする哺乳動物における糖尿病を治療するための方法。
【請求項15】
請求項1に記載の化合物の治療的有効量を哺乳動物に投与することを含む、インスリン非依存性(2型)糖尿病の治療を必要としている哺乳動物におけるインスリン非依存性(2型)糖尿病を治療するための方法。
【請求項16】
請求項1に記載の化合物の治療的有効量を哺乳動物に投与することを含む、高血糖の治療を必要としている哺乳動物における高血糖を治療するための方法。
【請求項17】
請求項1に記載の化合物の治療的有効量を哺乳動物に投与することを含む、肥満の治療を必要としている哺乳動物における肥満を治療するための方法。
【請求項18】
請求項1に記載の化合物の治療的有効量を哺乳動物に投与することを含む、異脂肪血症、高脂血症、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、低HDL及び高LDLの群から選択される1つ又は複数の脂質疾患の治療を必要とする哺乳動物における前記脂質疾患を治療するための方法。
【請求項19】
請求項1に記載の化合物の治療的有効量を哺乳動物に投与することを含む、(1)高血糖、(2)低グルコース耐性、(3)インスリン抵抗性、(4)肥満、(5)脂質疾患、(6)異脂肪血症、(7)高脂血症、(8)高トリグリセリド血症、(9)高コレステロール血症、(10)低HDLレベル、(11)高LDLレベル、(12)アテローム性動脈硬化症及びその続発症、(13)血管再狭窄、(14)過敏性腸症候群、(15)クローン病及び潰瘍性大腸炎を含む炎症性腸疾患、(16)その他の炎症性症状、(17)膵炎、(18)腹部肥満、(19)神経変性疾患、(20)網膜症、(21)腎症、(22)神経障害、(23)シンドロームX、(24)卵巣アンドロゲン過剰症(多嚢胞性卵巣症候群)、並びにインスリン抵抗性を要素とする他の疾患、からなる群から選択される1つ又は複数の症状の治療を必要としている哺乳動物における前記1つ又は複数の症状を治療する方法。
【請求項20】
(a)第二のジペプチジルペプチダーゼIV阻害剤;
(b)PPARγアゴニスト、PPARα/γデュアルアゴニスト、PPARαアゴニスト、ビグアナイド及びタンパク質チロシンホスファターゼ−1B阻害剤からなる群から選択されるインスリン増感剤;
(c)インスリン又はインスリン模倣物;
(d)スルホニル尿素又はその他のインスリン分泌促進物質;
(e)α−グルコシダーゼ阻害剤;
(f)グルカゴン受容体アンタゴニスト;
(g)GLP−1、GLP−1模倣物又はGLP−1受容体アゴニスト;
(h)GIP、GIP模倣物又はGIP受容体アゴニスト;
(i)PACAP、PACAP模倣物又はPACAP受容体アゴニスト;
(j)(i)HMG−CoA還元酵素阻害剤、(ii)金属イオン封鎖剤、(iii)ニコチニルアルコール、ニコチン酸又はその塩、(iv)PPARαアゴニスト、(v)PPARα/γデュアルアゴニスト、(vi)コレステロール吸収阻害剤、(vii)アシルCoA:コレステロールアシルトランスフェラーゼ阻害剤、及び(viii)抗酸化剤などの、コレステロール降下剤;
(k)PPARδアゴニスト;
(1)肥満抑制化合物;
(m)回腸の胆汁酸輸送体阻害剤;
(n)抗炎症剤;並びに
(o)降圧剤、
からなる群から選択される1つ又は複数のさらなる活性成分をさらに含有する、請求項13に記載の医薬組成物。
【請求項21】
前記PPARα/γデュアルアゴニストがKRP−297である、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
PPARα/γデュアルアゴニスト KRP−297と組み合わせて請求項1に記載の化合物の治療的有効量を哺乳動物に投与することを含む、糖尿病の治療を必要としている哺乳動物における糖尿病を治療する方法。
【請求項23】
インスリン増感剤又はインスリン分泌促進物質と組み合わせて請求項1に記載の化合物の治療的有効量を哺乳動物に投与することを含む、糖尿病の制御又は治療を必要としている哺乳動物における糖尿病の制御又は治療方法。

【公表番号】特表2006−527194(P2006−527194A)
【公表日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−515036(P2006−515036)
【出願日】平成16年6月2日(2004.6.2)
【国際出願番号】PCT/US2004/017111
【国際公開番号】WO2004/110436
【国際公開日】平成16年12月23日(2004.12.23)
【出願人】(390023526)メルク エンド カムパニー インコーポレーテッド (924)
【氏名又は名称原語表記】MERCK & COMPANY INCOPORATED
【Fターム(参考)】