説明

糖尿病または血糖コントロール用栄養組成物

【課題】 糖尿病患者の血糖コントロールおよび合併症予防に有効で、かつ十分な栄養管理が実施でき、風味も良好な糖尿病または血糖コントロール用栄養組成物を提供する。
【解決手段】 栄養成分として、糖質、たんぱく質、脂質、食物繊維、ビタミン類及びミネラル類を含有する糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物において、茶由来のカテキン類と、L−アラビノース及び/又は桑葉抽出物とを含有し、100kcal当たりのビタミンCの含有量が30〜150mgで、100kcal当たりのビタミンEの含有量が3〜10mgである。茶由来のカテキン類とL−アラビノース及び/又は桑葉抽出物との重量比率は、1:2〜1:5であり、かつ、食物繊維の含有量は、全固形分当たり5〜10重量%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物に関する。さらに詳しく言うと、本発明は、通常の栄養成分の他、茶由来のカテキン類と、L−アラビノース及び/又は桑葉抽出物と、特定量のビタミンC及びビタミンEとを含有することにより、糖尿病及びその合併症を予防することが可能な糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
日本における糖尿病患者あるいはその予備軍は、食事の欧米化に伴って、年々増加の一途を辿っており、平成14年度の厚生労働省調査によると、1600万人存在すると言われている。また、糖尿病は、メタボリック症候群の原因疾患の一つに挙げられることから、その治療は非常に重要になっている。
糖尿病の治療は、薬物療法や運動療法と併せて、食事療法が最も重要である。患者は十分な血糖値のコントロールをしながら、必要なエネルギーや栄養素をバランス良く摂取できるように考慮しなければならない。しかしながら、病院での給食や自宅療養中の糖尿病食では、糖質やエネルギー摂取を制限するだけのいわゆるエネルギー制限食が提供されている例が多く、糖尿病の治療にとって有効な成分や組成を考慮した献立が提供されていないというのが実情である。
その原因は、安易な薬物療法への安易な依存が挙げられるが、病院内や自宅内で、特別な献立の作製や素材の入手等にかかる手間や費用等の面で、患者や医療従事者への負担が大きいことが挙げられる。
【0003】
さらに、糖尿病患者は、その他の疾病や傷病を患っているなどの理由から、必要なエネルギーおよび栄養素の補給が不十分で、栄養状態が悪化し、糖尿病治療が十分に実施できない場合がある。たとえば、高齢者は、食欲の低下や独居等の理由から、十分な食事療法が難しく、また、癌患者が糖尿病を併発している場合は、抗癌剤の副作用により食欲が低下し、十分な食事療法が実施できないことが多い。さらに、術後患者や外傷患者などのように、生体に手術侵襲が加わった場合には、解糖系酵素の活性低下から術後高血糖となりやすく、糖尿病を併発している場合は、より一層の急激な血糖上昇に注意すべきであるが、消化管機能不全や食欲不振などで、通常の食事が十分に摂取できないことが多い。
【0004】
なお、糖尿病患者のQOLを考慮した場合、実施される食事療法の形態は可能であれば通常の食事が最も自然で望ましい形態である。しかし、食欲不振などで経口摂取はできないものの、患者の消化管機能が正常である場合には、原則として静脈栄養法よりも経腸栄養法を選択するべきである。経腸栄養は、医療コストの削減や消化管機能維持に有用であり、静脈栄養では製剤に配合されているグルコースは腸を介さず、直接血管内に大量に投与されるから糖尿患者にとっては好ましくないからである。
【0005】
このように糖尿病患者では他の疾患患者以上に、経腸栄養は必須の栄養管理法であり、そのための経腸栄養製品もいくつか販売されている。これらの既存の製品は糖質や脂質の配合が一般の経腸栄養製品とは若干異なり、血糖値の急激な上昇が起こり難いような組成的工夫がなされている。なお、糖尿病患者の食事療法では、十分な血糖コントロールが重要な目標であるが、一方で、高血糖に伴う糖尿病患者の重篤な合併症の予防及び進展抑制も重要な目標である。この食事療法の2つの目標のうち、血糖コントロールという面では有用であるが、合併症予防の主要因である生体蛋白質成分の糖化反応を抑制する効果を有する栄養製品は未だない。
【0006】
そのため、血糖コントロールと合併症予防のための両有効成分を適当量配合した栄養組成物を糖尿病患者に与えることは、糖尿病の治療や症状の進展予防に有効であり、インスリンや血糖降下薬などの薬物投与量を軽減することができると考えられる。したがって、そのような栄養組成物であって、しかも、手間や費用の負担がない製品の提供が望まれている。
【0007】
特許文献1には、桑葉抽出物および茶カテキンを1:1〜1:5の割合で使用することによって、糖質消化酵素活性を阻害して、糖尿病患者の血糖コントロールを正常し得ることが開示されている。
しかし、本発明者らが検討したところ、桑葉抽出物と茶カテキンをこの割合で使用して調製した栄養組成物は、桑葉に対して茶由来のカテキン量が多すぎ、組成物中の糖質及び脂肪の吸収が妨げられ、患者の栄養管理には不適当であった。
【0008】
また、特許文献2には、桑葉中の有効成分である1−デオキシノジリマイシン(1重量比)と、緑茶及び/又は桑茶から得られるフラボノイド含有物(0.025〜5重量比)とを有効成分とする血糖改善用飲食組成物が開示されている。
しかし、桑葉抽出物中の1−デオキシノジリマイシンと茶カテキンを特許文献2に記載の重量比で混合して栄養組成物を作成したところ、茶カテキンの配合量に対して桑葉抽出物量が多すぎ、桑葉抽出物由来の苦味や収斂味が強く、経腸栄養剤として経口で摂取するには著しく不適当な風味であった。
【特許文献1】特開2004−105157号公報
【特許文献2】特許第3530657号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の課題を解決し、糖尿病患者の血糖コントロールおよび合併症予防に有効であり、かつ、十分な栄養管理が実施でき、しかも、風味の上でも良好な糖尿病または血糖コントロール用栄養組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、主要栄養成分の他、茶由来のカテキンと桑葉及び/又はL−アラビノースと、特定量のビタミンC及びビタミンEとを含有する栄養組成物が、血糖のコントロールができ、合併症の予防進展予防にも有効であることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、栄養成分として、糖質、たんぱく質、脂質、食物繊維、ビタミン類及びミネラル類を含有する糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物において、茶由来のカテキン類と、L−アラビノース及び/又は桑葉抽出物とを含有し、100kcal当たりのビタミンCの含有量が30〜150mgで、100kcal当たりのビタミンEの含有量が3〜10mgであることを特徴とする前記栄養組成物である。
栄養成分として、糖質、たんぱく質、脂質、食物繊維、ビタミン類及びミネラル類を含有し、かつ、茶由来のカテキン類と、L−アラビノース及び/又は桑葉抽出物とを含有することを特徴とする糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物である。
本発明はまた、茶由来のカテキン類とL−アラビノース及び/又は桑葉抽出物との重量比率が、1:2〜1:5であり、かつ、食物繊維の含有量が全固形分当たり5〜10重量%である前記糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物である。
本発明はまた、茶由来のカテキン以外の抗酸化成分として、ポリフェノール類を含有することを特徴とする前記糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物である。
本発明はまた、ポリフェノール類が、ブドウ種子抽出物、オリーブ葉抽出物、グァバ葉抽出物、明日葉抽出物、イチョウ葉抽出物、ルチン又は柑橘類若しくはベリー類由来のフラボノイド類である前記糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、糖尿病患者の血糖コントロールおよび合併症予防に有効で、かつ十分な栄養管理が実施でき、また風味の上でも良好な糖尿病または血糖コントロール用栄養組成物を提供することを課題とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳しく説明する。
本発明の糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物は、栄養成分として、糖質、タンパク質、脂質、食物繊維、ビタミン類及びミネラル類を含有し、その他の必須成分として、茶由来のカテキン類と、L−アラビノース及び/又は桑葉抽出物と、特定量のビタミンCとビタミンEとを含有する。
【0013】
栄養成分のうち、糖質、タンパク質、脂質は、特に限定されず、慣用の成分をそれぞれ慣用の量で配合することができる。
ビタミン類としては、抗酸化作用を有するビタミンC及びビタミンEの他、ビタミンA、D、K、B1、B2、B6、B12、葉酸、パントテン酸、ナイアシンを含有することが好ましい。
ビタミンCは、本発明の栄養組成物100kcal当たり30〜150mg含まれる。
また、ビタミンEは、本発明の栄養組成物100kcal当たり5〜10mg含まれる。
ビタミンCとビタミンEは、抗酸化性の強い栄養成分であり、この量で配合することにより、抗グリケーション効果が得られ、茶由来のカテキン類との相乗効果により、糖尿病合併症予防効果を高めることができる。
ちなみに、市販の通常の栄養組成物に含まれるビタミンCとビタミンEの量は、100kcal当たり、それぞれ、5〜25mg及び0.3〜3mgであり、本発明の栄養組成物に比べて著しく低い量となっている。
また、ミネラル類としては、特に限定されないが、好ましい例として、Na、K、Ca、Mg、P、Cl、Fe、Se、I、Mo、Mn、Cr等の有機または無機塩混合物を挙げることができる。
【0014】
食物繊維は、消化管内容物の粘度を上昇させて、糖尿病患者および耐糖能異常者の食後高血糖を緩やかにし、血糖管理の正常化に寄与するという効果を有する。食物繊維は、特に限定されないが、本発明の栄養組成物の全固形分当たり5〜10重量%含有することが好ましい。食物繊維の配合量を5〜10重量%とすることにより、他の成分とともに、食後の急激な血糖上昇を抑制することができる。
本発明の栄養組成物において、食物繊維とL−アラビノース及び/又は桑葉抽出物とを併用することにより、それぞれ別の作用機序により、効率的に食後高血糖を抑制することが可能となる。
食物繊維としては、特に限定されないが、寒天、セルロース、ビートファイバー、小麦ふすま、グルコマンナン、ガラクトマンナン、カラギーナン、アラビアガム、ローカストビーンガム、ペクチン類、グアーガム、グアーガム分解物、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、ポリデキストロース、難消化性デキストリン等が好ましい例として挙げられ、これらを1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0015】
本発明の糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物は、茶由来のカテキン類を含有する。
茶としては、緑茶、ウーロン茶、紅茶等が好ましい例として挙げられるが、これらに限定されない。茶由来のカテキン類は、糖尿病の合併症予防、すなわち、生体タンパク質の糖化反応を抑制する優れた作用を有する。
茶由来のカテキン類は、特に限定されないが、例えば、茶葉乾燥物を15分間浸水した後、蒸気ブランチング(100℃、10分間)することにより得られる茶葉抽出物を、乾燥、粉砕した後、180℃の熱風で3秒間殺菌処理を行うことにより調製したものを使用することができる。
【0016】
本発明の栄養組成物には、茶由来のカテキン類以外にも、その他の抗酸化作用を有する物質を配合することもできる。
その他の抗酸化作用を有する物質としては、例えば、ポリフェノール類を挙げることができる。ポリフェノール類としては、前記茶由来のカテキンの重合体であるタンニンや、グァバ葉抽出物、明日葉抽出物、イチョウ葉抽出物、ルチン、ブドウ種子由来のプロアントシアニジン、オリーブ葉抽出物由来のオレウロペイン、柑橘類の果実やベリー類に多く含まれるフラボノイド類を挙げることができる。また、その他の抗酸化作用を有する物質として、カロテノイド類、動物性エキス中に含まれているアンセリン−カルノシンからなるヒスチジン含有ジペプチド、ビタミンC、ビタミンE等を例示することができる。
これらの抗酸化成分は、茶由来のカテキンと併用した場合、相乗効果により糖化反応を抑制する効果を高めることができる。
【0017】
本発明の栄養組成物における茶由来のカテキン類の含有量、または茶由来のカテキン類とその他の抗酸化成分を併用した場合の合計含有量は、全固形分当たり0.1重量%〜2重量%とすることが好ましい。含有量が0.1重量%未満となると、グリケーション抑制効果が得られず、2重量%を超えると、栄養組成物の風味が低下し、極端な場合は収斂味さえ感じるようになるため、好ましくない。
【0018】
本発明の糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物は、L−アラビノース及び/又は桑葉抽出物を必須成分として含有する。L−アラビノース及び/又は桑葉抽出物は、食物繊維と同様、食後の急激な血糖上昇を抑制することができる。
L−アラビノースは、五炭糖であり、シュークラーゼを特異的に阻害することによってショ糖の消化吸収を抑制し、血糖上昇を調節することにより、食後高血糖を抑制する。L−アラビノースは、ユニチカ社製のものを使用することができる。
桑葉抽出物には、1−デオキシノジリマイシンが含まれており、α−グルコシダーゼ阻害活性を有するために、糖質の消化吸収を調節し食後高血糖を抑制する。桑葉抽出物は、株式会社ミナト製薬製のものを使用することができる。または、桑葉から熱水抽出法のような抽出方法により調製したものを用いてもよい。さらに、桑葉そのものを用いることもできる。
L−アラビノース及び/又は桑葉抽出物は、いずれか一方を用いても両者を混合して用いてもよい。
本発明の栄養組成物におけるL−アラビノース及び/又は桑葉抽出物の配合量は、全固形分当たり0.2重量%〜5.0重量%とすることが好ましい。
【0019】
なお、本発明の糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物において、茶由来のカテキン類と、L−アラビノース及び/又は桑葉抽出物との重量比率は、1:2〜1:5であることが好ましい。
茶由来のカテキン類と桑葉抽出物及び/又はL−アラビノースとの重量比率が、前記比率の範囲外となると、食後高血糖を引き起こしたり、糖質及び脂質の吸収が抑制され、下痢の発生傾向が強くなるので、好ましくない。
【0020】
以上のような組成を有することにより、本発明の糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物は、食後の急激な血糖上昇を抑制することができ、生体タンパク質の糖化反応を抑制し、糖尿病合併症の予防ができ、糖尿病患者の栄養管理に極めて有効である。
また、本発明の栄養組成物は、風味も良好であり、苦味や収斂味がない。
【0021】
本発明の栄養組成物の形態は、特に限定されず、各有効成分および各栄養成分を粉混合して得られる粉粉混合のもの、水に溶解して得られる液状のもの、液状のものにゲル化剤を混合して得られるゲル状のもの、液状のものを乾燥させて得られる粉末のものが好ましい例として挙げられる。
本発明の栄養組成物は、いずれの形態のものも慣用の製造方法により製造することができる。また、上記で特定した成分のほかに、慣用の成分を含有することも可能である。たとえば、液状の栄養組成物の調製には、必要に応じて、リン脂質、グリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなどの乳化剤を用いてもよい。また、ゲル状の栄養組成物の調製には、必要に応じて、寒天、ペクチン、カラギーナン、ジェランガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、アルギン酸ナトリウムなどのゲル化剤を用いてもよい。
【0022】
本発明の栄養組成物の投与形態は、特に限定されず、患者の状況や患者の状態によって変更することができ、経口、経管または経腸のいずれによっても投与することができる。
さらに、本発明の糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物は、単独で使用してもよいが、通常食、ハーフ食または適量食と併用してもよい。
なお、本発明の糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物は、患者の症状、年齢等によって異なるが、1日当たり1200kcal〜1800kcal程度、1〜数回に分けて摂取させることが好ましい。
【実施例】
【0023】
以下、実施例及び試験例によって本発明をさらに詳細に説明する。ただし、これらは単なる例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。なお、単に「%」と記載したものは、特に断らない限り、「重量%」を示すものとする。
【0024】
(実施例1)
(ゲル状栄養組成物の製造)
表1に示す配合により、ゲル状の栄養組成物を常法に従い調製した。
本実施例の栄養組成物の茶由来のカテキン添加量は、全固形分当たり1.8重量%であった。桑葉抽出物添加量は全固形分当たり3.7重量%であった。食物繊維としては、難消化性デキストリン及び寒天を用い、食物繊維としての添加量は、全固形分当たり7.3重量%であった。また、ポリフェノール類としてオリーブ葉抽出物を用い、配合量は全固形分当たり0.4重量%であった。ビタミンCおよびEは、100kcal当たりそれぞれ50mgと5mgであった。ミネラル類は、Na、K、Ca、Mg、P、Cl、Fe、Se、I、Mo、Mn及びCrの有機または無機塩混合物、ビタミンCおよびE以外のビタミン類は、ビタミンA、D、K、B1、B2、B6、B12、葉酸、パントテン酸、ナイアシンの混合物を、それぞれ日本人の食事摂取基準に合致した量となるように配合した。
【0025】
【表1】

【0026】
(実施例2)
(液状栄養組成物の調製)
表2に示す配合で、液状の栄養組成物を常法に従い調製した。
本実施例の栄養組成物の茶由来のカテキン類の添加量は、全固形分当たり1.2重量%であった。桑葉抽出物添加量は、全固形分当たり2.4重量%であった。食物繊維として難消化性デキストリンおよび寒天を用い、食物繊維としての添加量は全固形分当たり8.6重量%であった。また、ポリフェノール類としてブドウ種子抽出物抽出物を用い、配合量は全固形分当たり0.4重量%であった。ビタミンCおよびEは、100kcalあたりそれぞれ100mgと7mgであった。ミネラル類は、Na、K、Ca、Mg、P、Cl、Fe、Se、I、Mo、Mn及びCrの有機または無機塩混合物、ビタミンCおよびE以外のビタミン類は、ビタミンA、D、K、B1、B2、B6、B12、葉酸、パントテン酸、ナイアシンの混合物を、それぞれ日本人の食事摂取基準に合致した量となるように配合した。
【0027】
【表2】

【0028】
(試験例1)
(健常ラットの血糖値に及ぼす影響)
表3に示す配合の栄養組成物A〜Eを用い、健常ラットの血糖値に及ぼす影響を検討した。栄養組成物A〜Eの各配合成分の配合量については表4に示す。
5週齢のSpurague−Dawley雄ラット(日本クレア社製)を1週間CE2飼料(日本クレア社製)で予備飼育後、6週齢で本試験に供した。ラットを18時間絶食後、各個体の尾静脈の血糖値を測定し、各群間での平均血糖値が同一になるように、表3に示した栄養組成物A投与群、B投与群、C投与群と比較対照群として栄養組成物D投与群および栄養組成物E投与の合計5群に分けた。各群の個体数は10匹とし、各群間の比較はTukey−Kramer検定法で行いP<0.05を有意とした。
各群に、表3に示した栄養組成物A〜Eをそれぞれ体重kgあたり10.0kcalとなるように、ラット用胃ゾンデを用いて強制経口投与した。投与前(0分)、投与後30分、60分、90分、および120分後に尾静脈血の血糖値を、小型比色法血糖測定器(メディセーフリーダー:テルモ社製)により測定した。結果を図1に示す。
図1において、各群の血糖値推移を比較すると、栄養組成物Dは30分後に149mg/dL程度まで上昇したのに対し、栄養組成物A、B、C、E投与群の血糖値はそれぞれ124mg/dL、121mg/dL、115mg/dL、119mg/dL程度と、有意に抑制された。
また、L−アラビノースおよび食物繊維を過剰に配合した栄養組成物E投与群の血糖値推移は、栄養組成物A、B、C群とほぼ同様であった。この結果より、本発明に基づき栄養成分を配合した栄養組成物A、B、Cは、食後高血糖の抑制に有効であることが分かった。
【0029】
【表3】

【0030】
【表4】

【0031】
(試験例2)
(ストレプトゾトシン誘発1型糖尿病ラットの血糖値に及ぼす効果)
表3に示す配合栄養組成物を用い、ストレプトゾトシン誘発1型糖尿病モデルラットの血糖値に及ぼす影響を検討した。試験に用いた各栄養組成物A、B、C、D、Eの各栄養成分配合量について表4に示す。
5週齢のSpurague−Dawley雄ラット(日本クレア社製)を1週間CE2飼料(日本クレア社製)で予備飼育後、6週齢で本試験に供した。ストレプトゾトシン(以下、STZとする)誘発1型糖尿病モデルラットは、STZ(和光純薬社製)をクエン酸緩衝液(pH4.5,0.05M)で14mg/mL濃度に溶解後、直ちに70mg/5mL/kgをラットの腹腔内に注射して作製した。STZを注射後は、CE2(日本クレア社製)と水を摂取させ、1週間飼育した。その後、ラットを18時間絶食後、各個体の尾静脈の血糖値を測定し、各群間での平均血糖値が同一になるように、表3に示した栄養組成物A投与群、B投与群、C投与群と比較対照群として栄養組成物D投与群および一用栄養組成物E投与の合計5群に分けた。各群の個体数は10匹とし、各群間の比較はTukey−Kramer検定法で行いP<0.05を有意とした。
各群に、表3に示した栄養組成物A、B、C、DあるいはEを体重kgあたり10.0kcalとなるように、ラット用胃ゾンデを用いて強制経口投与した。投与前(0分)、投与後30分、60分、90分、120分、150分、および180分後に尾静脈血の血糖値を、小型比色法血糖測定器(メディセーフリーダー:テルモ社製)により測定した。結果を図2に示す。
【0032】
図2において、各栄養組成物摂取後の血糖値推移を比較すると、栄養組成物Dは30分後に328mg/dL程度まで上昇したのに対し、栄養組成物A、B、C、E投与群の血糖値はそれぞれ289mg/dL、274mg/dL、288mg/dL、289mg/dL程度と、有意に抑制された。また、L−アラビノースおよび食物繊維を過剰に配合した栄養組成物E投与群の血糖値推移は、栄養組成物A、B、C群とほぼ同様であった。この結果より、本発明に基づき栄養成分を配合した栄養組成物A、B、Cは、食後高血糖の抑制に有効であることが分かった。
【0033】
(試験例3)
(自然発症2型糖尿病ラット(GKラット)の血糖値に及ぼす効果)
表3に示す配合栄養組成物を用い、GKラットの血糖値に及ぼす影響を検討した。試験に用いた各栄養組成物A、B、C、D、Eの各栄養成分配合量については表4に示す。
5週齢のGK雄ラット(日本クレア社製)を1週間CE2飼料(日本クレア社製)で予備飼育後、6週齢で本試験に供した。ラットを18時間絶食後、各個体の尾静脈の血糖値を測定し、各群間での平均血糖値が同一になるように、表3に示した栄養組成物A投与群、B投与群、C投与群と比較対照群として栄養組成物D投与群および一用栄養組成物E投与の合計5群に分けた。各群の個体数は10匹とし、各群間の比較はTukey−Kramer検定法で行いP<0.05を有意とした。
各群に、表3に示した栄養組成物A、B、C、DあるいはEをkg体重あたり10.0kcalとなるように、ラット用胃ゾンデを用いて強制経口投与した。投与前(0分)、投与後30分、60分、90分、120分、150分、および180分後に尾静脈血の血糖値を、小型比色法血糖測定器(メディセーフリーダー:テルモ社製)により測定した。さらに、各栄養組成物を5週間自由摂取させ、生長量、摂取量及び摂取エネルギー量を測定した。結果を図3および図4、図5に示す。
【0034】
図3において、各栄養組成物摂取後の血糖値推移を比較すると、栄養組成物Dは30分後に180mg/dL程度まで上昇したのに対し、栄養組成物A、B、CおよびE投与群の血糖値はそれぞれ169mg/dL、160mg/dL、159mg/dL、162mg/dL程度であった。また、L−アラビノースおよび食物繊維を過剰に配合した栄養組成物E投与群の血糖値推移は、栄養組成物A、B、C群とほぼ同様であった。この結果より、本発明に基づき栄養成分を配合した栄養組成物A、B、Cは、食後高血糖の抑制に有効であると示唆された。
また、図4及び図5に示す各栄養組成物を5週間自由摂取させたときの生長量および摂取量は、カテキンを多く配合した栄養組成物E群において、生長量および摂取量が有意に低下するという結果となった。カテキンは配合量が過剰となると渋味および収斂味を呈すことが知られている。そのため、栄養組成物E群において摂取量が少なくなったのではないかと考えられた。この結果より、栄養組成物Eは自由摂取による栄養管理には不向きであることが分かった。
【0035】
(試験例4)
(臨床ヒト試験における補食として用いた場合の血糖値およびHbA1cに及ぼす効果)
表5に示した配合栄養組成物を用い、健常な成人男女を対象に募集した。栄養組成物Cは、本発明に基づき設計したもの、栄養組成物Fは、糖尿病者用栄養組成物であるインスロー(明治乳業社製)、栄養組成物Gは一般者用栄養組成物を使用した。ヘルシンキ宣言の精神にのっとり、本試験の目的、試験方法、予測される結果、参加しても不利益にならないこと、プライバシーの保護に関する事項目を説明した上で、内容を十分に理解して同意書を自主的に提出した健常成人で、空腹時の血糖値が基準値以内(70mg/dL以上120mg/dL未満)の者を被験者として採用した(単回摂取試験:36名、平均年齢45.3±11.3歳)。また、長期試験には同様の主旨を良く理解し、同意書を自主的に提出した空腹時血糖値が120mg/dL以上150mg/dL未満の成人を被験者として採用した(長期継続摂取試験:15名、平均39.±9.5歳)。
単回摂取試験では、試験前日の21時以降絶食とし、被験者36名(男性18名、女性18名)を無作為にC、F、G群の3群に分け一群当たり12名とした。試験当日の朝に医師の問診を受けた後、空腹状態で採血し、その後1時間以内に負荷試験を開始した。被験者には、負荷食のおにぎり50g(エネルギー約80kcal)を栄養組成物とともに15分以内に摂取させ、食後30、60、90、120分に再度採血を行い、血糖値を測定した。全ての測定値は平均値±標準偏差で表示し、各群間の比較はTukey−Kramer検定法で行いP<0.05を有意とした。結果を図6に示す。
図6において、各栄養組成物摂取後の血糖値推移を比較すると、栄養組成物FおよびGは30分後に180mg/dLおよび186mg/dL程度まで上昇したのに対し、栄養組成物C投与群の血糖値は164mg/dL程度であった。この結果より、本発明に基づき栄養成分を配合した栄養組成物Cは、糖尿病者用栄養組成物Fおよび一般者用栄養組成物Gに比べ、通常食とともに摂取しても、有意に食後高血糖を抑制することが分かった。
【0036】
長期摂取試験では、15名(男性8名、女性7名)の被験者に食事とともに栄養組成物Cを一日3回、12週間摂取させた。摂取開始前(0週)、4週、8週、12週、16週、週後に採血を行い、糖尿病病態の指標となる空腹時血糖値およびヘモグロビンA1c(以下、HbA1cとする)を測定した。全ての測定値は平均値±標準偏差で表示した。それぞれの結果を図7、8に示す。
図7において、栄養組成物摂取後の血糖値推移を比較すると、栄養組成物Cは摂取開始0週目より、4、8、12、16、20週目において低値を示し、摂取開始から20週目には空腹時血糖値が正常値である110mg/dL程度になった。また、図8におけるHbA1c値も、摂取開始0週目より、4、8、12、16、20週目において低値を示した。HbA1cは、赤血球の中に含まれるヘモグロビンにブドウ糖が結合したものでありグリケーションの指標となる。この結果より、本発明に基づき栄養成分を配合した栄養組成物Cは、摂取し続けることで空腹時血糖の正常化、グリケーションの予防に有益であり、糖尿病および合併症を防止することが分かった。
【0037】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物は、血糖コントロール及び合併症予防に有効で、かつ十分な栄養管理ができ、風味の上でも良好であり、糖尿病患者のための栄養組成物として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】健常ラットの血糖値に及ぼす影響を示すグラフである。
【図2】ストレプトゾトシン誘発1型糖尿病の血糖値に及ぼす影響を示すグラフである。
【図3】GKラットにおける血糖値に及ぼす影響を示すグラフである。
【図4】GKラットにおける成長量に及ぼす影響を示すグラフである。
【図5】GKラットにおける摂取エネルギー量に及ぼす影響を示すグラフである。
【図6】常食と各栄養組成物摂取後の血糖値に及ぼす影響を示すグラフである。
【図7】栄養組成物Cの長期摂食による空腹時血糖の変化を示すグラフである。
【図8】栄養組成物Cの長期摂食による血中HbAlcの変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
栄養成分として、糖質、たんぱく質、脂質、食物繊維、ビタミン類及びミネラル類を含有する糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物において、茶由来のカテキン類と、L−アラビノース及び/又は桑葉抽出物とを含有し、100kcal当たりのビタミンCの含有量が30〜150mgで、100kcal当たりのビタミンEの含有量が3〜10mgであることを特徴とする糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物。
【請求項2】
茶由来のカテキン類とL−アラビノース及び/又は桑葉抽出物との重量比率が、1:2〜1:5であり、かつ、食物繊維の含有量が全固形分当たり5〜10重量%である請求項1に記載の糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物。
【請求項3】
茶由来のカテキン以外の抗酸化成分として、ポリフェノール類を含有することを特徴とする請求項1または2記載の糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物。
【請求項4】
ポリフェノール類が、ブドウ種子抽出物、オリーブ葉抽出物、グァバ葉抽出物、明日葉抽出物、イチョウ葉抽出物、ルチン又は柑橘類若しくはベリー類由来のフラボノイド類である請求項3記載の糖尿病または血糖値コントロール用栄養組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−94754(P2008−94754A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−278190(P2006−278190)
【出願日】平成18年10月11日(2006.10.11)
【出願人】(502138359)イーエヌ大塚製薬株式会社 (56)
【Fターム(参考)】