説明

糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤

【課題】本発明は、安全な糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤を提供することを課題とする。
【解決手段】塩基性アミノ酸ポリペプチドを糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤の有効成分とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルシウム受容体活性化作用を有するポリペプチドを有効成分として含有する糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近代社会においては、高脂肪食や高カロリー食の浸透により、肥満、高血圧、耐糖能異常、中性脂肪が4大疾患といわれている。その結果、心疾患や動脈硬化の発症率が高くなり、生命の危機に及ぶことから、有効な糖尿病又は肥満病の予防又は治療方法の開発が望まれている。
【0003】
体内のエネルギー代謝は、膵臓β細胞で作られるインシュリンによってコントロールされている。インシュリンは末梢組織や細胞に作用し、血中から糖分の取込を促進することで血糖値のコントロールに重要な役割を果たしている。しかし、継続的に高カロリー食を摂取し、細胞のインシュリン感受性が低下すると、血糖値の上昇とインシュリンの過剰分泌が同時に進む。その結果、膵臓のβ細胞が疲弊して機能不全となり、糖尿病、肥満症が発症する。
【0004】
インシュリンの分泌は種々のホルモンにより調節されており、特に、消化管で産生、分泌されるグルカゴン様ペプチド−1(Glucagon-like peptide-1、GLP-1)が重要と考えられている。GLP−1は分子量約4000のペプチドホルモンであり、主に小腸のL細胞で産生される。GLP−1は、β細胞のインシュリン分泌促進作用、胃嬬動運動と消化吸収の抑制作用、食欲、過食抑制作用、等を有し、糖尿病や肥満症の治療や予防に有効であることが明らかにされてきた。糖尿病や肥満症ではGLP−1産生能が低下していることが知られており、これら病態においてGLP−1産生を促進することができれば、糖尿病や肥満症の治療と予防につながるものと期待される。L細胞におけるGLP−1の産生は、糖質、脂質、蛋白質など様々な栄養分の摂取により促進されるが、特定の成分のペプチド等の化合物をGLP−1分泌促進剤として活用した例は稀である。
【0005】
コレシストキニン(CCK)は、分子量約4000のペプチドホルモンであり、主に十二指腸と小腸のL細胞で産生され、胆汁の分泌と膵臓消化液の分泌を促進する。CCKの生理作用で特に注目されるのは、食品の胃排出を抑制する作用、膵酵素分泌を促進する作用、満腹感により摂食を抑制する作用、である(非特許文献1、2)。更に、血糖調節ホルモンであるインスリンの分泌を促進する作用も知られている(非特許文献3、4)。CCKは、このような作用を有することから、糖尿病や肥満症や膵炎等の生活習慣病の治療または予防に有望と考えられている。
【0006】
GLP−1およびCCKはペプチドであることから、治療に応用するには、GLP−1およびCCKを注射等で血中投与することになるが、毎日の投与の煩雑さと多額の費用から現実的とはいえない。一方で、食品成分のタンパク質、ペプチド、アミノ酸、脂肪酸等によって、小腸粘膜にあるGLP−1又はCCK産生細胞から内因性のGLP−1又はCCKが分泌される機構を利用することが考えられる。すなわち、GLP−1又はCCK分泌促進作用を持った化合物や食品素材の開発が望まれていた。
【0007】
ところで、カルシウム受容体は、カルシウムセンシング受容体(Calcium Sensing Receptor:CaSR)とも呼ばれ、7回膜貫通型受容体(G蛋白質結合型受容体)のクラスCに分類されるアミノ酸1078個からなる受容体である。このカルシウム受容体は、1993年に遺伝子のクローニングが報告され(非特許文献5)、カルシウム等で活性化されると
細胞内カルシウム上昇等を介して様々な細胞応答を引き起こすことが知られている。ヒトカルシウム受容体の遺伝子配列はGenBank Accession No NM_000388として登録されており、動物間でよく保存されている。
【0008】
カルシウム受容体活性化剤としてはカルシウムの他に、ガドリニウムなどのカチオン、ポリアルギニン、ポリリジンなどの塩基性アミノ酸ポリペプチド、スペルミンなどのポリアミン、プロタミンなどのタンパク質、フェニルアラニンなどのアミノ酸、などが報告されている(非特許文献6)。
【0009】
非特許文献7には、低分子ペプチドであるグルタチオン(γ−Glu−Cys−Gly)がカルシウム受容体活性化剤であること(すなわち、活性化作用を有すること)が報告されているが、グルタチオンが糖尿病および肥満病の予防又は治療に有効である可能性は示されていない。
【0010】
一方、特許文献1には、特定の配列を有するジペプチドもしくはトリペプチドがカルシウム受容体活性化剤として有効であることが示されており、種々の疾患治療薬の可能性を記述しているが、糖尿病および肥満病に有効であることは示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】国際公開第WO2007/055388号パンフレット
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Science, vol.247, p.1589-1591, 1990
【非特許文献2】American Journal of Physiology, vol.276, R1701-R1709, 1999
【非特許文献3】Diabetes, vol.36, p.1212-1215, 1987
【非特許文献4】Journal of Clinical Endocrinological Metabolism, vol.65, p.395-401, 1987
【非特許文献5】Nature, 1993, Vol.366(6455), p.575-580
【非特許文献6】Cell Calcium, 2004, Vol.35(3), p.209-216
【非特許文献7】J. Biol. Chem, 2006, Vol.281(13), p.8864-8870
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記のとおり、生活習慣病、特に、糖尿病および肥満症が大きな社会問題となっている。これらの生活習慣病を予防または治療するためには、生体への安全性の高い医薬品、あるいは食品や食品に準ずる有用物質の開発が必要である。本発明は、消化管組織におけるGLP−1、CCK、又はその両方の産生を促進する、生体への安全性が高い糖尿病、肥満病、又はその両方の予防又は治療剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、カルシウム受容体の活性化剤について研究を行っていたところ、カルシウム受容体活性化剤に腸管由来のSTC−1細胞およびGLUTag細胞のGLP−1、およびCCKの分泌を促進する働きがあることを見出した。又、カルシウム受容体活性化剤に、盲腸由来のNCI−H716細胞のGLP−1の分泌を促進する働きがあることを見出した。本発明者らは、更に研究を重ねた結果、カルシウム受容体活性化作用を有する塩基性アミノ酸ポリペプチドが、盲腸由来細胞のGLP−1の分泌を促進すること、特に、ポリリジンがその作用に優れることから、ポリリジンなどの塩基性アミノ酸ポリペプチドが、糖尿病および肥満病の予防又は治療剤となりうることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)塩基性アミノ酸ポリペプチドを有効成分として含有する、糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤。
(2)前記塩基性アミノ酸ポリペプチドがポリリジンである、前記糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤。
(3)前記ポリリジンが、α−ポリ−L−リジン、α−ポリ−D−リジン、ε−ポリ−L−リジン、およびε−ポリ−D−リジンからなる群から選択される1種または2種以上である、前記糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤。
(4)前記ポリリジンの平均分子量が650〜300000である、前記糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤。
【0016】
(5)塩基性アミノ酸ポリペプチドを0.000001質量%以上含む、糖尿病又は肥満病の予防又は治療のための食品。
(6)前記塩基性アミノ酸ポリペプチドがポリリジンである、前記糖尿病又は肥満病の予防又は治療のための食品。
(7)前記ポリリジンが、α−ポリ−L−リジン、α−ポリ−D−リジン、ε−ポリ−L−リジン、およびε−ポリ−D−リジンからなる群から選択される1種または2種以上である、前記糖尿病又は肥満病の予防又は治療のための食品。
(8)前記ポリリジンの平均分子量が650〜300000である、前記糖尿病又は肥満病の予防又は治療のための食品。
【0017】
(9)ポリリジンからなる糖尿病又は肥満病の予防又は治療活性付与剤。
(10)前記ポリリジンが、α−ポリ−L−リジン、α−ポリ−D−リジン、ε−ポリ−L−リジン、およびε−ポリ−D−リジンからなる群から選択される1種または2種以上である、前記糖尿病又は肥満病の予防又は治療活性付与剤。
(11)前記ポリリジンの平均分子量が650〜300000である、前記糖尿病又は肥満病の予防又は治療活性付与剤。
【0018】
(12)前記糖尿病又は肥満病の予防又は治療活性付与剤を、該治療活性付与剤の含有量が糖尿病又は肥満病の予防又は治療のための食品に対して1質量ppb〜99.9質量%となるように、食品に添加することを特徴とする、糖尿病又は肥満病の予防又は治療のための食品の製造方法。
(13)前記糖尿病又は肥満病の予防又は治療活性付与剤を、該治療活性付与剤の含有量が糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤に対して1質量ppb〜99.9質量%となるように、医薬用担体に添加することを特徴とする、糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤の製造方法。
【0019】
(14)塩基性アミノ酸ポリペプチドを、糖尿病又は肥満病の予防又は治療が必要な対象に投与することを含む、糖尿病又は肥満病の予防又は治療方法。
(15)前記塩基性アミノ酸ポリペプチドがポリリジンである、前記糖尿病又は肥満病の予防又は治療方法。
(16)前記ポリリジンが、α−ポリ−L−リジン、α−ポリ−D−リジン、ε-ポリ-L-リジン、およびε-ポリ-D-リジンからなる群から選択される1種または2種以上である、前記糖尿病又は肥満病の予防又は治療方法。
(17)前記ポリリジンの平均分子量が650〜300000である、前記糖尿病又は肥満病の予防又は治療方法。
【0020】
(18)糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤の製造のための塩基性アミノ酸ポリペプチドの使用。
(19)前記塩基性アミノ酸ポリペプチドがポリリジンである、前記使用。
(20)前記ポリリジンが、α−ポリ−L−リジン、α−ポリ−D−リジン、ε−ポリ−L−リジン、およびε−ポリ−D−リジンからなる群から選択される1種または2種以上である、前記使用。
(21)前記ポリリジンの平均分子量が650〜300000である、前記使用。
【0021】
(22)糖尿病又は肥満病の予防又は治療のために用いられる塩基性アミノ酸ポリペプチド。
(23)糖尿病又は肥満病の予防又は治療のために用いられるポリリジン。
(24)糖尿病又は肥満病の予防又は治療のために用いられるα−ポリ−L−リジン、α−ポリ−D−リジン、ε−ポリ−L−リジン、およびε−ポリ−D−リジンからなる群から選択される1種または2種以上。
(25)糖尿病又は肥満病の予防又は治療のために用いられる平均分子量が650〜300000であるポリリジン。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】ポリリジンによる、NCI−H716細胞のGLP−1分泌促進を示す図。図中、左からそれぞれ、α-poly-D-lysine(mol wt 30000-70000)、α-poly-L-lysine(mol wt 30000-70000)、α-poly-D-lysine(mol wt 1000-4000)、α-poly-L-lysine(mol wt 1000-5000)、ε-poly-lysine(mol wt 3650-5120)、HepesバッファーによるGLP−1分泌を示す。サンプル濃度は、ウェル中の終濃度を示す。図2〜4においても同様。
【図2】γ−Glu−Cys−Gly、γ−Glu−Val−Gly、及びシナカルセットによる、STC-1細胞のCCK分泌促進を示す図。図中、Blk、γEVG、GSH、CCTは、ブランク(対照)、γ−Glu−Val−Gly、及びγ−Glu−Cys−Gly、シナカルセットを示す。
【図3】γ−Glu−Cys−Gly、及びシナカルセットによる、GLUTag細胞のGLP−1分泌促進を示す図。
【図4】γ−Glu−Cys、及びプロタミンによる、GLUTag細胞のGLP−1分泌促進を示す図。図中、γECはγ−Glu−Cysを示す。
【図5】γ−Glu−Cys(EC)によるラット腸管からのGLP−1分泌の変化を示す図。値は平均値と標準誤差(n=8)。+は0分に対して統計的に有意差あり、*は水投与群に対して有意差有り(Tukey's test、P<0.05)
【図6】ラットにおけるγ−Glu−Cys(EC)による血糖上昇抑制作用を示す図。値は平均値と標準誤差(n=8)。*はグルコース溶液投与群に対して有意差有り(Tukey's test、P<0.05)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤は、塩基性アミノ酸ポリペプチドを有効成分として含む。
【0024】
<1>塩基性アミノ酸ポリペプチド
本発明において、塩基性アミノ酸ポリペプチドとは、塩基性アミノ酸(リジン、アルギニン、オルニチン)が少なくとも5残基連結したポリペプチドをいう。加えて、本発明において、塩基性アミノ酸ポリペプチドとは、塩基性アミノ酸を、モノマー数割合で95%以上、更に好ましくは98%以上、特に好ましくは実質的に100%含むポリペプチドである。
塩基性アミノ酸ポリペプチドは、カルシウム受容体活性化作用を有することが知られており、又、例えば後述のオリゴペプチド等についての検出方法等と同様にして該作用を確
認することができる。
【0025】
後述の参考例に示すように、本発明者らは、カルシウム受容体活性化作用を有する物質が、共通して腸管由来のSTC−1細胞およびGLUTag細胞のGLP−1およびCCKの分泌を促進する働きを示すことを見出している。更に、後述する実施例1の結果に基づいて、本発明の塩基性アミノ酸ポリペプチドが糖尿病又は肥満病の予防又は治療に有効であることが理解できる。
【0026】
塩基性アミノ酸ポリペプチドの大きさは連結する塩基性アミノ酸の数により異なるが、平均分子量650〜300000が好ましく、特に1000〜70000が好ましい。
塩基性アミノ酸ポリペプチドとして、ポリリジン、ポリアルギニン等が好ましく挙げられる。
このうち、特にポリリジンが好ましい。ここでポリリジンとは、リジンが少なくとも5残基連結したポリマーであり、リジンをモノマー数割合で95%以上、更に好ましくは98%以上、特に好ましくは100%含むポリペプチドである(このモノマー連結個数及びモノマー数割合についての定義は、ポリアルギニン及びポリオルニチンの場合にも適用される)。ポリリジンを構成するリジンはL体であってもD体であってもよく、ポリリジンには、L-リジンが連結したポリ−L−リジン、D−リジンが連結したポリ−D−リジンが含まれる。また、ポリリジンには、リジンのαアミノ基とカルボキシル基がペプチド結合したα−ポリリジン、リジンのεアミノ基とカルボキシル基がペプチド結合したε-ポリリジンが含まれる。本発明のポリリジンには、例えば、α-ポリ-L-リジン、α-ポリ-D-リジン、ε-ポリ-L-リジン、ε-ポリ-D-リジンなどが含まれる。特にα−ポリ−L−リジン、ε−ポリ−L−リジンが好ましい。
ポリリジンの大きさは連結するリジンの数により異なるが、平均分子量650〜300000が好ましく、特に1000〜70000が好ましい。特に、α−ポリリジンの場合は、平均分子量1000〜5000が好ましく、ε−ポリリジンの場合は3500〜5500が好ましい。中でも、平均分子量1000〜5000のα−ポリ−L−リジンが好ましく挙げられる。
ポリリジンはカルシウム受容体活性化作用を有し、糖尿病の予防又は治療剤として用いるのに特に好適であり、本発明には例えば以下の態様も好ましいものとして挙げられる:
α−ポリリジンを有効成分として含有する糖尿病の予防又は治療剤、
ε-ポリリジンを有効成分として含有する糖尿病の予防又は治療剤、
α−ポリリジンからなる糖尿病の予防又は治療活性付与剤、
ε-ポリリジンからなる糖尿病の予防又は治療活性付与剤、
ポリリジンからなる糖尿病の予防又は治療剤(該予防又は治療剤において、有効成分として含まれるのはポリリジンのみである)。
又、ポリリジンはカルシウム受容体活性化作用を有し、肥満病の予防又は治療剤として用いるのにも好適であり、本発明には例えば以下の態様も好ましいものとして挙げられる:
ポリリジンを対象に投与することを含む、体重管理又は減量(weight-loss)の方法、
ポリリジンを0.000001質量%以上より好ましくは0.00001質量%以上、特に好ましくは0.1質量%以上かつ95重量%以下含む体重管理または減量のための食品、
ポリリジンからなる肥満症の予防又は治療剤(該予防又は治療剤において、有効成分として含まれるのはポリリジンのみである)。
【0027】
上記ポリペプチドは、市販品を用いることが可能である。また、上記ポリペプチドは、(1)化学的に合成する方法、又は(2)酵素的な反応により合成する方法等の公知手法を適宜用いることによって取得することができる。本発明において用いられる上記ポリペプチドは、含まれるアミノ酸の残基数が比較的短い場合は特に、化学的に合成する方法が
簡便である。化学的に合成する場合は、ポリペプチドをペプチド合成機を用いて合成あるいは半合成することにより行うことができる。化学的に合成する方法としては、例えばペプチド固相合成法が挙げられる。そのようにして合成したペプチドは通常の手段、例えばイオン交換クロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等によって精製することができる。このようなペプチド固相合成法、およびそれに続くペプチド精製はこの技術分野においてよく知られたものである。
【0028】
また、本発明において用いられるペプチドを、酵素的な反応により生産することも出来る。例えば、国際公開パンフレットWO2004/011653号に記載の方法を用いることが出来る。即ち、一方のアミノ酸又はジペプチドのカルボキシル末端をエステル化又はアミド化したアミノ酸又はジペプチドと、アミノ基がフリーの状態であるアミノ酸(例えばカルボキシル基が保護されたアミノ酸)とを、ペプチド生成酵素の存在下において反応せしめ、生成したポリペプチドを精製することによっても生産することもできる。ペプチド生成酵素としては、ペプチドを生成する能力を有する微生物(例えば放線菌)の培養物、該培養物より分離した微生物菌体、又は、該微生物の菌体処理物、又は、該微生物に由来するペプチド生成酵素が挙げられる。
【0029】
尚、上述した様な酵素的な方法や化学的合成法以外にも本発明において用いられるポリペプチドが、野菜や果物等の植物、菌類等に存在する場合がある。ポリペプチドが天然に存在する場合には、これらから抽出して用いてもかまわない。上記ポリペプチドは、単離して用いる必要はなく、ポリペプチドを多く含んでいる画分を用いてもかまわない。
【0030】
本発明において用いられるポリペプチドは塩の形態をも包含する。本発明のポリペプチドが塩の形態を成し得る場合、その塩は薬理学的に許容されるものであればよく、例えば、アミノ酸のカルボキシル基等の酸性基に対しては、アンモニウム塩、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、トリエチルアミン、エタノールアミン、モルホリン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ジシクロへキシルアミン等の有機アミンとの塩、アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸との塩を挙げることができる。また、アミノ酸の塩基性基に対しては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、臭化水素酸などの無機酸との塩、酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、タンニン酸、酪酸、ヒベンズ酸、パモ酸、エナント酸、デカン酸、テオクル酸、サリチル酸、乳酸、シュウ酸、マンデル酸、リンゴ酸等の有機カルボン酸との塩、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸との塩を挙げることができる。
【0031】
<2>糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤
上記塩基性アミノ酸ポリペプチドは、糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤の有効成分として使用される。本発明の糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤において、塩基性アミノ酸ポリペプチドは単独で用いてもよく、また任意の2種又は3種以上を混合して用いることも可能である。本発明の糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤の形態としては、医薬、医薬部外品、食品等が挙げられる。
【0032】
本発明の糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤の適用方法としては、特に制限されず、経口投与あるいは注射等を利用した侵襲的投与あるいは座薬投与あるいは経皮投与を採用することが出来る。有効成分を経口、注射などの投与方法に適した固体または液体の医薬用担体と混合して、慣用の医薬製剤の形態で投与することが出来る。本発明においては、特に経口投与が好ましい。このような製剤としては例えば、錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などの固形剤の形態、溶液剤、懸濁剤、乳剤などの液剤の形態、凍結乾燥剤などの形態が挙げられる。これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。
【0033】
上記医薬用担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ゼラチン、アルブミン、アミノ酸、水、生理食塩水などが挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤などの慣用の添加剤を適宜添加することもできる。
【0034】
本発明の糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤の投与又は摂取量は、糖尿病又は肥満病の治療や予防に有効な量であればよく、患者の年齢、性別、体重、症状などに応じて適宜調節されるが、例えば、経口投与の場合、本発明に用いられる塩基性アミノ酸ポリペプチドの投与量として、1回の投与において1kg体重あたり、0.01g〜10gが好ましく、1kg体重あたり、0.1g〜1gがより好ましい。投与回数は特に制限されず、1日あたり1回〜数回投与することができる。
【0035】
本発明の糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤中の塩基性アミノ酸ポリペプチドの含有量は、上記投与量に適したものであれば特に制限されず、好ましくは乾燥重量当り0.000001質量%〜99.9質量%、より好ましくは0.00001質量%〜99.9質量%、特に好ましくは0.0001質量%〜99.9質量%である。又、0.00001質量%〜10質量%も好ましい。
【0036】
本発明の糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤はまた、糖尿病又は肥満病の治療や予防のための食品、例えば、容器や包装に糖尿病又は肥満病の予防効果又は治療効果がある旨を表示した食品として用いることもできる。食品としては、塩基性アミノ酸ポリペプチドを0.000001質量%以上、より好ましくは0.000001質量%〜99.9質量%、更には0.00001質量%〜99.9質量%含むことが好ましい。特に好ましくは、塩基性アミノ酸ポリペプチドを0.00001質量%以上98質量%以下含むことが好ましく、又、0.00001質量%〜10質量%も好ましい。食品の形態としては特に制限されず、塩基性アミノ酸ポリペプチドを配合する以外は、通常の食品と同様の材料を用いて、同様の製法で製造することができる。食品としては、例えば、調味料、飲料、健康食品、農産物加工品、水産物加工品、畜産物加工品等が挙げられる。
【0037】
本発明の糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤は、塩基性アミノ酸ポリペプチドに加えて、他のカルシウム受容体活性化剤を1種または2種以上含むものであってもよい。
【0038】
本明細書中において「カルシウム受容体活性化剤」とは、カルシウム受容体に結合し、カルシウム受容体を活性化し、カルシウム受容体を発現している細胞の機能を調節するものをいう。また、本明細書中において「カルシウム受容体活性化」とは、カルシウム受容体にリガンドが結合し、グアニンヌクレオチド結合タンパク質を活性化して、シグナルを伝達することを意味する。また、カルシウム受容体がこのシグナルを伝達することを「カルシウム受容体活性」という。
【0039】
上記他のカルシウム受容体活性化剤としては、カルシウム受容体活性化作用を有するオリゴペプチド及び低分子化合物が挙げられる。
カルシウム受容体活性化作用を有するオリゴペプチド及び低分子化合物は、例えば、カルシウム受容体と被検物質とを反応させ、カルシウム受容体活性を検出することにより取得することができる。このようにして得られるオリゴペプチド及び低分子化合物について、GLP−1又はCCKの分泌促進作用、あるいは糖尿病又は肥満病の予防又は治療効果を有することを確認することが好ましい。
【0040】
以下に、カルシウム受容体活性化作用を有するオリゴペプチド及び低分子化合物をスクリーニングする方法を具体的に示すが、これらのステップに限定されるものではない。
1)カルシウム受容体活性を測定するためのカルシウム受容体活性測定系に被検物質を添加して、カルシウム受容体活性を測定する。
2)被験物質を添加したときのカルシウム受容体活性と、被験物質を添加しなかったときのカルシウム受容体活性を比較する。
3)被験物質を添加したときに高いカルシウム受容体活性を示す被験物質を選択する。
【0041】
カルシウム受容体活性の測定は、例えば、カルシウム受容体を発現する細胞を用いた測定系を用いて行われる。上記細胞はカルシウム受容体を内在的に発現している細胞であっても、外来のカルシウム受容体遺伝子が導入された組み換え細胞であってもよい。上記カルシウム受容体活性測定系は上記カルシウム受容体を発現する細胞に、カルシウム受容体に特異的な細胞外リガンド(活性化剤)を加えたときに、活性化剤とカルシウム受容体との結合(反応)を検出することができるか、又は、活性化剤とカルシウム受容体との結合(反応)に応答して細胞内に検出可能なシグナルを伝達するものであれば、特に制限なく使用することができる。被検物質との反応によりカルシウム受容体活性が検出された場合、当該被検物質はカルシウム受容体刺激活性を有し、糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤を有する物質であることが判別される。
【0042】
一方、カルシウム受容体活性化剤の持つ、糖尿病又は肥満病の予防又は治療効果は、例えば、実施例、参考例に記載したGLP−1又はCCKの分泌促進作用を調べる試験等により確認することができる。又、糖尿病の予防又は治療効果は、参考例に記載したグルコース負荷下の血糖上昇抑制効果を調べる試験等により確認することもでき得る。また、被験物質として用いるオリゴペプチド及び低分子化合物は特に制限はないが、オリゴペプチドとしては2〜10のアミノ酸残基からなるペプチド又はその誘導体が好ましく、2又は3個のアミノ酸残基からなるペプチド又はその誘導体がより好ましい。また、オリゴペプチドのN末端側のアミノ酸残基は、γ−グルタミン酸であることが好ましい。低分子化合物としてはシナカルセット((R)-N-(3-(3-(trifluoromethyl)phenyl)propyl)-1-(1-naphthyl)ethylamine)及びその類縁化合物が好ましい。シナカルセットの類縁化合物については後述する。
【0043】
上記カルシウム受容体は、その由来は特に制限されず、上記ヒトのカルシウム受容体のみならず、マウス、ラット、イヌなど含めた動物由来のカルシウム受容体が挙げられる。具体的には、上記カルシウム受容体としては、GenBank Accession No NM_00388で登録されているヒトカルシウム受容体遺伝子によってコードされるヒトカルシウム受容体が好ましく例示できる。尚、カルシウム受容体は、上記配列の遺伝子によってコードされるタンパク質に制限されず、カルシウム受容体機能を有するタンパク質をコードする限りにおいて、上記配列と60%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上の相同性を有する遺伝子によってコードされるタンパク質であってもよい。GPRC6A受容体や5.24受容体もまたカルシウム受容体のサブタイプとして知られており、本発明において利用可能である。なお、カルシウム受容体機能はこれらの遺伝子を細胞に発現させ、カルシウム添加時の電流の変化や細胞内カルシウムイオン濃度の変化を測定することによって調べることができる。
【0044】
上述の如く、カルシウム受容体活性は、カルシウム受容体又はその断片を発現した生きた細胞、カルシウム受容体又はその断片を発現した細胞膜、カルシウム受容体又はその断片のタンパク質を含むインビトロの系などを利用して確認することが出来る。
以下に生きた細胞を用いた一例を示すが、この一例に限定されるものではない。
【0045】
カルシウム受容体は、アフリカツメガエル卵母細胞やハムスター卵巣細胞やヒト胎児腎臓細胞等の培養細胞に発現させる。これは外来遺伝子を保持するプラスミドにカルシウム受容体遺伝子をクロ−ニングしたものを、プラスミドの状態もしくはそれを鋳型にしたc
RNAを導入することで可能となる。反応の検出には電気生理学的手法や細胞内カルシウム上昇の蛍光指示試薬を用いることができる。
【0046】
カルシウム受容体の発現は、初めにカルシウムもしくは特異的活性化剤による応答で確認する。5mM程度の濃度のカルシウムに対して、細胞内電流が見られた卵母細胞もしくは蛍光指示試薬の蛍光が見られた培養細胞を使用する。カルシウムの濃度を変えて濃度依存性を測定する。次に、ペプチド等の被験物質を1μM〜1mM程度に調製し、卵母細胞もしくは培養細胞に添加することで、上記ペプチド等の被験物質のカルシウム受容体活性を測定する。
【0047】
本発明に使用するカルシウム受容体活性を有するオリゴペプチドとしては、例えば、γ−Glu−X−Gly(Xはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)、γ−Glu−Val−Y(Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)、γ−Glu−Ala、γ−Glu−Gly、γ−Glu−Cys、γ−Glu−Met、γ−Glu−Thr、γ−Glu−Val、γ−Glu−Orn、Asp−Gly、Cys−Gly、Cys−Met、Glu−Cys、Gly−Cys、Leu−Asp、γ−Glu−Met(O)、γ−Glu−γ−Glu−Val、γ−Glu−Val−NH2、γ−Glu−Val−ol、γ−Glu−Ser、γ−Glu−Tau、γ−Glu−Cys(S−Me)(O)、γ−Glu−Leu、γ−Glu−Ile、γ−Glu−t−Leuおよびγ−Glu−Cys(S−Me)(以下、本発明のペプチド等ともいう)が挙げられる。
【0048】
前記化合物のうち、好ましい化合物は、前記XがCys、Cys(SNO)、Cys(S−allyl)、Gly、Cys(S−Me)、AbuまたはSerであり、前記YがGly、Val、Glu、Lys、Phe、Ser、Pro、Arg、Asp、Met、Thr、His、Orn、Asn、CysまたはGlnである化合物である。
【0049】
尚、本明細書中において各オリゴペプチドを構成するアミノ酸は、特に断わらない限りいずれもL−体である。ここで、アミノ酸とは、Gly, Ala, Val, Leu, Ile, Ser, Thr, Cys, Met, Asn, Gln, Pro, Hypなどの中性アミノ酸、Asp, Gluなどの酸性アミノ酸、Lys, Arg, Hisなどの塩基性アミノ酸、Phe, Tyr, Trpなどの芳香族アミノ酸や、ホモセリン、シトルリン、オルニチン、α-アミノ酪酸、ノルバリン、ノルロイシン、タウリンなども含有する。
【0050】
本明細書においてアミノ基残基の略号は以下のアミノ酸を意味する。
(1)Gly:グリシン
(2)Ala:アラニン
(3)Val:バリン
(4)Leu:ロイシン
(5)Ile:イソロイシン
(6)Met:メチオニン
(7)Phe:フェニルアラニン
(8)Tyr:チロシン
(9)Trp:トリプトファン
(10)His:ヒスチジン
(11)Lys:リジン
(12)Arg:アルギニン
(13)Ser:セリン
(14)Thr:トレオニン
(15)Asp:アスパラギン酸
(16)Glu:グルタミン酸
(17)Asn:アスパラギン
(18)Gln:グルタミン
(19)Cys:システイン
(20)Pro:プロリン
(21)Orn:オルニチン
(22)Sar:サルコシン
(23)Cit:シトルリン
(24)N−Val:ノルバリン
(25)N−Leu:ノルロイシン
(26)Abu:α−アミノ酪酸
(27)Tau:タウリン
(28)Hyp:ヒドロキシプロリン
(29)t−Leu:tert−ロイシン
【0051】
また、アミノ酸誘導体とは、上記アミノ酸の各種誘導体であって、例えば、特殊アミノ酸や非天然アミノ酸、アミノアルコール、或いは末端カルボニル基やアミノ基、システインのチオール基などのアミノ酸側鎖が各種置換基により置換したものが挙げられる。置換基としては、アルキル基、アシル基、水酸基、アミノ基、アルキルアミノ基、ニトロ基、スルフォニル基や各種保護基などが挙げられ、例えば、Arg(NO2):N−γ−ニトロアルギニン、Cys(SNO):S−ニトロシステイン、Cys(S−Me):S−メチルシステイン、Cys(S−allyl):S−アリルシステイン、Val−NH2:バリンアミド、Val−ol:バリノール(2−アミノ−3−メチル−1−ブタノール)などが含まれる。
【0052】
尚、上記γ−Glu−Cys(SNO)−Gly(S−ニトロソグルタチオン(GNSO))は下記の構造式を有するものであり、上記γ−Glu−Met(O)およびγ−Glu−Cys(S−Me)(O)式中の(O)はスルフォキシド構造であることを意味する。γ-Gluの(γ)とは、グルタミン酸のγ位のカルボキシ基を介して他のアミノ酸が結合していることを意味する。
【0053】
【化1】

【0054】
γ−Glu−X−Gly(Xはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)、γ−Glu−Val−Y(Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)、γ−Glu−Ala、γ−Glu−Gly、γ−Glu−Cys、γ−Glu−Met、γ−Glu−Thr、γ−Glu−Val、γ−Glu−Orn、Asp−Gly、Cys−Gly、Cys−Met、Glu−Cys、Gly−Cys、Leu−Asp、γ−Glu−Met(O)、γ−Gl
u−γ−Glu−Val、γ−Glu−Val−NH2、γ−Glu−Val−ol、γ−Glu−Ser、γ−Glu−Tau、γ−Glu−Cys(S−Me)(O)、γ−Glu−Leu、γ−Glu−Ile、γ−Glu−t−Leuおよびγ−Glu−Cys(S−Me)がカルシウム受容体を活性化することが示された(国際公開第WO2007/055388号パンフレット、国際公開第WO2007/055393号パンフレット、国際公開第WO2008/139945号パンフレット、国際公開第WO2008/139946号パンフレット、国際公開第WO2008/139947号パンフレット)。そして、実施例、参考例に示すように、カルシウム受容体活性化作用を有する複数種の化合物がGLP−1又はCCKの分泌促進作用を有することが確認された。したがって、γ−Glu−X−Gly(Xはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)、γ−Glu−Val−Y(Yはアミノ酸又はアミノ酸誘導体を表す)、γ−Glu−Ala、γ−Glu−Gly、γ−Glu−Cys、γ−Glu−Met、γ−Glu−Thr、γ−Glu−Val、γ−Glu−Orn、Asp−Gly、Cys−Gly、Cys−Met、Glu−Cys、Gly−Cys、Leu−Asp、γ−Glu−Met(O)、γ−Glu−γ−Glu−Val、γ−Glu−Val−NH2、γ−Glu−Val−ol、γ−Glu−Ser、γ−Glu−Tau、γ−Glu−Cys(S−Me)(O)、γ−Glu−Leu、γ−Glu−Ile、γ−Glu−t−Leuおよびγ−Glu−Cys(S−Me)は、本発明の糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤の他の有効成分として、上記塩基性アミノ酸ポリペプチドと組み合わせて用いることができる。本発明において、これらのオリゴペプチド又は低分子化合物は単独で用いてもよく、また任意の2種又は3種以上を混合して用いることもできる。
【0055】
上記の化合物のうち、特に好ましい化合物は、γ−Glu−Val−Gly、γ−Glu−Cys−Gly及びシナカルセットである。又、γ−Glu−Cysも特に好ましい。
γ−Glu−Val−Gly、γ−Glu−Cys−Gly及びシナカルセットは肥満病の予防又は治療剤の成分として用いるのに特に好適であり、γ−Glu−Cys、γ−Glu−Cys−Gly及びシナカルセットは、糖尿病の予防又は治療剤の成分として用いるのに特に好適である。
上記オリゴペプチドは、市販品を用いることが可能である。また、上記オリゴペプチドは、(1)化学的に合成する方法、又は(2)酵素的な反応により合成する方法等の公知手法を適宜用いることによって取得することができる。オリゴペプチドに含まれるアミノ酸の残基数が2〜3残基と特に短い場合には、化学的に合成する方法が簡便である。化学的に合成する場合は、オリゴペプチドをペプチド合成機を用いて合成あるいは半合成することにより行うことができる。化学的に合成する方法としては、例えばペプチド固相合成法が挙げられる。そのようにして合成したオリゴペプチドは通常の手段、例えばイオン交換クロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等によって精製することができる。このようなペプチド固相合成法、およびそれに続くペプチド精製はこの技術分野においてよく知られたものである。
【0056】
また、前記オリゴペプチドを、酵素的な反応により生産することも出来る。例えば、国際公開パンフレットWO2004/011653号に記載の方法を用いることが出来る。即ち、一方のアミノ酸又はジペプチドのカルボキシル末端をエステル化又はアミド化したアミノ酸又はジペプチドと、アミノ基がフリーの状態であるアミノ酸(例えばカルボキシル基が保護されたアミノ酸)とを、ペプチド生成酵素の存在下において反応せしめ、生成したジペプチド又はトリペプチドを精製することによっても生産することもできる。ペプチド生成酵素としては、ペプチドを生成する能力を有する微生物(例えば放線菌)の培養物、該培養物より分離した微生物菌体、又は、該微生物の菌体処理物、又は、該微生物に由来するペプチド生成酵素が挙げられる。
【0057】
尚、上述した様な酵素的な方法や化学的合成法以外にも本発明において用いられ得るオ
リゴペプチドが、野菜や果物等の植物、酵母等の微生物、酵母エキス等に存在する場合がある。天然に存在する場合には、これらから抽出して用いてもかまわない。
【0058】
また、オリゴペプチドは、単離して用いる必要はなく、オリゴペプチドを多く含んでいる画分を用いてもかまわない。例えば、グルタチオン(γ−Glu−Cys−Gly)を含む酵母エキス又はその分画物が挙げられる。酵母エキス等の調製は、通常の酵母エキスの調製と同様にして行えばよい。酵母エキスは、酵母菌体を熱水抽出したものを処理したものでもよいし、酵母菌体を消化したものを処理したものでもよい。酵母エキスの分画物としては、グルタチオンを含む限り、特に制限されない。又、例えば、γ−Glu−Cysを含む酵母エキス又はその分画物も挙げられる。酵母エキス等の調製は、通常の酵母エキスの調製と同様にして行えばよい。酵母エキスは、酵母菌体を熱水抽出したものを処理したものでもよいし、酵母菌体を消化したものを処理したものでもよい。酵母エキスの分画物としては、γ−Glu−Cysを含む限り、特に制限されない。
【0059】
本発明において用いられ得るオリゴペプチドは塩の形態をも包含する。オリゴペプチドが塩の形態を成し得る場合、その塩は薬理学的に許容されるものであればよく、例えば、ペプチド中のカルボキシル基等の酸性基に対しては、アンモニウム塩、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属との塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属との塩、アルミニウム塩、亜鉛塩、トリエチルアミン、エタノールアミン、モルホリン、ピロリジン、ピペリジン、ピペラジン、ジシクロへキシルアミン等の有機アミンとの塩、アルギニン、リジン等の塩基性アミノ酸との塩を挙げることができる。ペプチド中に塩基性基が存在する場合の塩基性基に対しては、塩酸、硫酸、リン酸、硝酸、臭化水素酸などの無機酸との塩、酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、コハク酸、タンニン酸、酪酸、ヒベンズ酸、パモ酸、エナント酸、デカン酸、テオクル酸、サリチル酸、乳酸、シュウ酸、マンデル酸、リンゴ酸等の有機カルボン酸との塩、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸との塩を挙げることができる。
【0060】
本発明に用いられ得るカルシウム受容体活性を有する低分子化合物としては、シナカルセット、及びシナカルセット類縁化合物が挙げられる。シナカルセット類縁化合物としては、米国特許第6211244号、第6213146号、第5688938号、第5763569号、第5858684号、第5962314号、第6001884号、第6011068号、第6031003号、国際公開WO1995011221号、WO1996012687号、WO2002059102号等に記載された化合物が挙げられる。なお、本発明において用いられ得る低分子化合物は、上記ペプチドの場合と同様に、塩の形態をも包含する。
【0061】
また、他のカルシウム受容体活性化剤として、カルシウム及びカドリニウムなどのカチオン、プトレッシン、スペルミン、スペルミジンなどのポリアミン、プロタミンなどのタンパク質、フェニルアラニンなどのアミノ酸なども挙げられる。本発明において、これらのカルシウム受容体活性化剤は単独で用いてもよく、また任意の2種又は3種以上を混合して用いることも可能である。これらのうち、カルシウム及びガドリニウムなどのカチオンが好ましく、カルシウムがより好ましい。すなわち、更に加えられる他のカルシウム受容体活性化剤の少なくとも1種はカチオンであることが好ましい。
【0062】
上記他のカルシウム受容体活性化剤が、前記塩基性アミノ酸ポリペプチドと共存することによって、カルシウム受容体のより強い活性化が見られる。本発明の糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤における塩基性アミノ酸ポリペプチドの合計含有量と他のカルシウム受容体活性化剤の合計含有量の割合は、カルシウム受容体のより強い活性化が可能である限り特に制限されないが、例えば、他のカルシウム受容体活性化剤の合計と、塩基性アミノ酸ポリペプチド及び低分子化合物の合計の質量比が、1:100〜100:1であることが好ましい。
【0063】
<3>糖尿病又は肥満病の予防又は治療活性付与剤
本発明の糖尿病又は肥満病の予防又は治療活性付与剤は、カルシウム受容体活性化作用を有するポリリジンからなる。該活性付与剤において、その有効成分として含まれるのはポリリジンのみである。使用するポリリジンの好ましい形態については、上述したとおりである。
本発明の活性付与剤の使用方法としては、特に制限されず、食品や医薬用担体等に添加して用いることができる。
本発明の活性付与剤の、食品や医薬用担体等に対する使用量は、糖尿病又は肥満病の予防又は治療活性の付与に有効な量であればよく、用途に応じて適宜調節される。
例えば、食品の場合、食品中に1質量ppb〜99.9質量%、好ましくは10質量ppb〜99.9質量%、より好ましくは10質量ppm〜10質量%程度のポリリジンが含有されるように使用される。従って、本発明の活性付与剤の含有量が、糖尿病又は肥満病の予防又は治療のための食品(目的製造物)に対して1質量ppb〜99.9質量%、好ましくは10質量ppb〜99.9質量%、より好ましくは10質量ppm〜10質量%程度となるように、該活性付与剤を食品に添加することで、糖尿病又は肥満病の予防又は治療のための食品を製造することができる。
又、医薬用担体の場合、例えば、予防又は治療剤中に1質量ppb〜99.9質量%、好ましくは10質量ppb〜99.9質量%、より好ましくは10質量ppm〜10質量%程度のポリリジンが含有されるように使用される。従って、本発明の活性付与剤の含有量が、糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤(目的製造物)に対して1質量ppb〜99.9質量%、好ましくは10質量ppb〜99.9質量%、より好ましくは10質量ppm〜10質量%程度となるように、該活性付与剤を医薬用担体に添加することで、糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤を製造することができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0065】
〔実施例1〕 GLP-1分泌促進作用
ヒト盲腸由来のGLP-1産生細胞株NCI-H716(ATCC No CCL-251)を、10% FBSを含むDMEM/HamF-12 mediumにて、37℃、5% CO2存在下で培養した。NCI-H716細胞をpoly-D-lysine コート96ウェルプレートに、100000 cells/wellで播種し、2日間培養した。サンプル添加前に、Hepesバッファー(20 mM Hepes, 146 mM NaCl, 5 mM KCl, 1.5 mM CaCl2, 1 mM MgSO4, 5.5 mM D-glucose, 0.2% BSA, pH 7.4)にてウェルを洗浄し、各種ポリリジンを同バッファーに溶解したサンプル溶液を50μl添加し、37℃にて60分間インキュベーションした。使用したポリリジンとその濃度は、α-poly-D-lysine(mol wt 30000-70000, Sigma-Aldrich、2008-2009年 カタログ番号P7886)、25μg/ml; α-poly-D-lysine(mol wt 1000-4000, Sigma-Aldrich、2008-2009年 カタログ番号P0296)、1.25μg/ml; α-poly-L-lysine(mol wt 30000-70000, Sigma-Aldrich、2008-2009年 カタログ番号P2636)、25μg/ml; α-poly-L-lysine(mol wt 1000-5000, Sigma-Aldrich、2008-2009年 カタログ番号P0879)、1.25μg/ml; ε-poly-lysine(25〜35残基、mol wt 約3650-5120、商品名ガードエース GA-22;チッソ株式会社(東京)製)、3μg/mlである。また、対照として、Hepesバッファーを用いた。
サンプル溶液を回収して、それを遠心分離(5000 x g、1分)にかけ、細胞を沈殿させて上清を得た。この上清をAmicon Microcon(Ultracel YM-10、分子量cut off=10000 ;Milipore社)を用いてろ過し、ろ液を回収した。ろ液中のGLP-1濃度をEnzyme immuno assay kit (矢内原研究所)によりGLP−1抗体を用いて測定した。
【0066】
結果を図1に示す。各種ポリリジンにGLP-1分泌促進作用が確認された。
【0067】
以下、カルシウム受容体活性化作用を有する物質が、共通して腸管由来のSTC−1細胞およびGLUTag細胞のGLP−1およびCCKの分泌を促進する働きを示すこと、同物質が、血糖上昇抑制作用を示すことを、参考例により示す。
【0068】
〔製造例1〕γ−Glu−Val−Glyの合成
Boc−Val−OH(8.69g, 40.0mmol)とGly−OBzl・HCl(8.07g, 40.0
mmol)を塩化メチレン(100ml)に溶解し、溶液を0℃に保った。トリエチルアミン(6.13ml, 44.0mmol)、HOBt(1-Hydroxybenzotriazole, 6.74 g, 44.0 mmol)及びWSC・HCl(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide Hydrochloride, 8.44g, 44.0mmol)を溶液に加え、室温で一夜撹拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣を酢酸エチル(200ml)に溶解した。溶液を水(50ml)、5%クエン酸水溶液(50ml×2回)、飽和食塩水(50ml)、5%炭酸水素ナトリウム水溶液(50ml×2回)、飽和食塩水(50ml)で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、硫酸マグネシウムを濾過して除き、濾液を減圧濃縮した。残渣を酢酸エチル−n−ヘキサンから再結晶してBoc−Val−Gly−OBzl(13.2g, 36.2mmol)を白色結晶として得た。
【0069】
Boc−Val−Gly−OBzl(5.47g, 15.0mmol)を4N−HCl/ジオキサン溶液(40ml)に加え、室温で50分撹拌した。ジオキサンを減圧濃縮で除き、残渣にn−ヘキサン(30ml)を加え減圧濃縮した。この操作を3回繰り返し、H−Val−Gly−OBzl・HClを定量的に得た。
【0070】
上記H−Val−Gly−OBzl・HCl及びZ−Glu−OBzl(5.57g, 15.0mmol)を塩化メチレン(50ml)に溶解し、溶液を0℃に保った。トリエチルアミン(2.30ml, 16.5mmol)、HOBt(1-Hydroxybenzotriazole, 2.53g, 16.5mmol)及びWSC・HCl(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide Hydrochloride, 3.16g, 16.5mmol)を溶液に加え、室温で二夜撹拌した。反応液を減圧濃縮し、残渣を加熱した酢酸エチル(1500ml)に溶解した。溶液を水(200ml)、5%クエン酸水溶液(200ml×2回)、飽和食塩水(150ml)、5%炭酸水素ナトリウム水溶液(200ml×2回)、飽和食塩水(150ml)で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、硫酸マグネシウムを濾過して除き、濾液を減圧濃縮した。析出した結晶を濾取、減圧乾燥してZ−Glu(Val−Gly−OBzl)−OBzl(6.51g,10.5mmol)を白色結晶として得た。
【0071】
上記Z−Glu(Val−Gly−OBzl)−OBzl(6.20g, 10.03mmol)をエタノール(200ml)に懸濁し、10%パラジウム炭素(1.50g)を加え、水素雰囲気下に55℃で5時間還元反応を行った。この間、全量で100mlの水を徐々に加えた。触媒を桐山ロートで濾過して除き、濾液を半分に減圧濃縮した。反応液を更にメンブランフィルターで濾過し、濾液を減圧濃縮した。残渣を少量の水に溶かした後にエタノールを加えて結晶を析出させ、結晶を濾過して集め減圧乾燥してγ−Glu−Val−Glyの白色粉末(2.85g, 9.40mmol)を得た。
【0072】
ESI-MS:(M+H)+=304.1
1H-NMR(400MHz, D2O)δ(ppm):0.87 (3H, d, J=6.8 Hz), 0.88 (3H, d, J=6.8 Hz), 1.99-2.09 (3H, m), 2.38-2.51 (2H, m), 3.72 (1H, t, J=6.35 Hz), 3.86 (1H, d, J=17.8 Hz), 3.80 (1H, d, J=17.8 Hz), 4.07 (1H, d, J=6.8 Hz)
【0073】
〔参考例1〕CCK分泌促進作用
マウス小腸由来のCCK産生細胞株STC-1を10% FBSを含むDulbecco's modified Eagle's medium にて、37℃、5% CO2存在下で培養した。STC-1細胞を48ウェルプレートに、サブコンフルエントになるまで2-3日間培養した。サンプル添加前に、HepesBバッファー(140
mM NaCl, 4.5 mM KCl, 20 mM Hepes, 1.2 mM CaCl2, 1.2 mM MgCl2, 10 mM D-glucose, 0.1% BSA, pH 7.4)にてウェルを洗浄し、サンプルを同バッファーに溶解したサンプル溶液を100μl添加し、37℃にて60分間インキュベーションした。サンプルとして、γ−Glu−Cys−Gly(シグマアルドリッチジャパン株式会社)、及び、γ−Glu−Val−Gly、シナカルセットを用いた。また、対照として、HepesBバッファーを用いた。上清を回収後、遠心分離(800 x g、5分、4℃)により細胞を沈殿させ、その上清80μlを回収し、凍結保存した。
【0074】
前記上清をOASISカートリッジ(C18)にて前処理した後、上清中のCCK濃度を、市販のEnzyme immuno assay kit (Phoenix Pharmaceuticals)にて測定した。
【0075】
結果を図2に示す。γ−Glu−Cys−Gly、γ−Glu−Val−Gly、シナカルセットにCCK分泌促進作用が確認された。
【0076】
〔参考例2〕GLP−1分泌促進作用(1)
マウス大腸由来のGLP-1産生細胞株GLUTagを、10% FBSを含むDulbecco's modified Eagle's mediumにて、37℃、5% CO2存在下で培養した。GLUTag細胞を48ウェルプレートに、サブコンフルエントになるまで2-3日間培養した。サンプル添加前に、HepesBバッファー(140 mM NaCl, 4.5 mM KCl, 20 mM Hepes, 1.2 mM CaCl2, 1.2 mM MgCl2, 10 mM D-glucose, 0.1% BSA, pH 7.4)にてウェルを洗浄し、サンプルを同バッファーに溶解したサンプル溶液を80μl添加し、37℃にて60分間インキュベーションした。サンプルとして、γ−Glu−Cys−Gly、及びシナカルセットを用いた。また、対照として、HepesBバッファーを用いた。上清を回収後、遠心分離(800 x g、5分、 4℃)により細胞を沈殿させ、その上清70 μlを回収、凍結保存した。上清中のGLP-1濃度を市販のEnzyme immuno assay kit (矢内原研究所)にて測定した。
【0077】
結果を図3に示す。γ−Glu−Cys−Gly、シナカルセットにGLP−1分泌促進作用が確認された。
【0078】
〔参考例3〕GLP−1分泌促進作用(2)
参考例2と同様にGLP-1産生細胞株GLUTagを用いてGLP−1分泌促進作用を調べた。サンプルとして、γ−Glu−Cys、及びプロタミンを用いた。
結果を図4に示す。γ−Glu−Cys、プロタミンにGLP−1分泌促進作用が確認された。
【0079】
〔参考例4〕ラットにおけるGLP−1分泌試験
SD系雄ラット(8週齢)を予備飼育後、一夜絶食しケタミン・キシラジン麻酔下で開腹した。GLP−1産生細胞は主に回腸部位に分布することから、回腸結紮ループ(30cm)を作成後、回腸腸管膜静脈にカテーテルを留置し、このカテーテルより0分時の採血(0 time)を行った。回腸結紮ループ内へ試料(2mL脱イオン水、γ−Glu−Cys 20mg/脱塩水2mL)を投与し、30、60、90、120分後にそれぞれ採血を行い、血漿中のGLP−1濃度をEnzyme immuno assay kit(矢内原研究所製)にて測定した。
結果を図5に示す。γ−Glu−Cysを投与したラットにおいて、水投与群よりも有意に高い血中GLP−1濃度の上昇が認められたことから、γ−Glu−Cysはラットに対するGLP−1分泌促進活性を有することが確認された。
【0080】
〔参考例5〕ラットにおけるグルコース負荷試験
SD系雄ラット(7週齢)を予備飼育(3〜4日)後に、一夜絶食し、経口グルコース負荷試験を行った。試料投与前の尾静脈血を採取し、試料{グルコース溶液のみ(2g/k
g体重)/γ−Glu−Cys(160mg/kg体重)を含むグルコース溶液}を、フィーディングチューブにより経口投与した。試料投与後、15、30、60、90、120分の尾静脈血を採取し、血漿中のグルコース濃度を市販のキット(和光純薬工業製)を用いて測定した。
結果を図6に示す。血中グルコース濃度は、γ−Glu−Cysを投与したラットにおいて、グルコース投与後15、30分後においてグルコース溶液のみを投与した群よりも有意に低い値を示したことから、γ−Glu−Cysが血糖上昇抑制作用を有することが確認された。GLP−1分泌促進活性を有するカルシウム活性化剤が血糖上昇抑制作用を有することが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明により、生体への安全性が高い糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性アミノ酸ポリペプチドを有効成分として含有する、糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤。
【請求項2】
前記塩基性アミノ酸ポリペプチドがポリリジンである、請求項1に記載の糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤。
【請求項3】
前記ポリリジンが、α−ポリ−L−リジン、α−ポリ−D−リジン、ε−ポリ−L−リジン、およびε−ポリ−D−リジンからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項2に記載の糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤。
【請求項4】
前記ポリリジンの平均分子量が650〜300000である、請求項2又は3に記載の糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤。
【請求項5】
塩基性アミノ酸ポリペプチドを0.000001質量%以上含む、糖尿病又は肥満病の予防又は治療のための食品。
【請求項6】
塩基性アミノ酸ポリペプチドがポリリジンである、請求項5に記載の糖尿病又は肥満病の予防又は治療のための食品。
【請求項7】
前記ポリリジンが、α−ポリ−L−リジン、α−ポリ−D−リジン、ε−ポリ−L−リジン、およびε−ポリ−D−リジンからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項6に記載の糖尿病又は肥満病の予防又は治療のための食品。
【請求項8】
前記ポリリジンの平均分子量が650〜300000である、請求項6又は7に記載の糖尿病又は肥満病の予防又は治療のための食品。
【請求項9】
ポリリジンからなる糖尿病又は肥満病の予防又は治療活性付与剤。
【請求項10】
前記ポリリジンが、α−ポリ−L−リジン、α−ポリ−D−リジン、ε−ポリ−L−リジン、およびε−ポリ−D−リジンからなる群から選択される1種または2種以上である、請求項9に記載の糖尿病又は肥満病の予防又は治療活性付与剤。
【請求項11】
前記ポリリジンの平均分子量が650〜300000である、請求項9又は10に記載の糖尿病又は肥満病の予防又は治療活性付与剤。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか一項に記載の糖尿病又は肥満病の予防又は治療活性付与剤を、該予防又は治療活性付与剤の含有量が糖尿病又は肥満病の予防又は治療のための食品に対して1質量ppb〜99.9質量%となるように、食品に添加することを特徴とする、糖尿病又は肥満病の予防又は治療のための食品の製造方法。
【請求項13】
請求項9〜11のいずれか一項に記載の糖尿病又は肥満病の予防又は治療活性付与剤を、該予防又は治療活性付与剤の含有量が糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤に対して1質量ppb〜99.9質量%となるように、医薬用担体に添加することを特徴とする、糖尿病又は肥満病の予防又は治療剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−224547(P2012−224547A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−193368(P2009−193368)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000000066)味の素株式会社 (887)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】