説明

糖尿病性腎症を阻止および治療するための薬学的組成物ならびにその調製方法

本発明は、主に糖尿病性腎症と呼ばれる、糖尿病合併症を阻止および治療するための薬学的組成物に関し、薬物組成物は、組成物の総重量に基づき0.1〜99.5重量%として、カリコシンおよびカリコシン−7−O−β−D−グルコシドのうちの1つまたは両方と、従来の薬物担体と、を含む。薬学的組成物は糖尿病性腎症を著しく阻止および治療することができ、品質制御および投与の利便性を有し、糖尿病性腎症患者に対し新規薬物候補を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、漢方薬の分野に関し、特定的には、糖尿病性腎症(DN)を阻止および治療するための薬物の製造における、カリコシン(CAL)および/またはカリコシン−7−O−β−D−グルコシド(CAG)の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
腎糸球体中の毛細血管の血管障害により引き起こされる進行性腎疾患であるDNは、糖尿病の最も重篤な合併症の1つである。DNは初期のメサンギウム細胞増殖、その後の、腎糸球体の高濾過およびアルブミン尿に至る細胞外マトリクスタンパク質の蓄積により特徴づけられる。その主な臨床症状はアルブミン尿、進行性腎病変、高血圧および浮腫であり、これらは主な死因の1つである末期腎不全に至る可能性がある。統計学的データによれば、糖尿病患者の約30〜40%が腎病変を有する。これは合衆国および欧州において、それぞれ、末期腎疾患の主因および二次的原因となっている。現在では、中国人の末期腎疾患患者の15%が糖尿病である。しかしながら、糖尿病発生率が増加し続け、集団が高齢化すると、この数字は上昇し続けるであろう。
【0003】
今なお、DNに対し有効な治療効果を有する薬物はほとんどなく、血糖降下薬(アンジオテンシン変換酵素阻害剤、ACEI)および降圧薬、例えばインスリンおよびカプトプリルが臨床診療で広く使用されている。しかしながら、これらの薬物の長期の適用により、多くの重篤な副作用、すなわち、高カリウム血症、または機能性または器質性腎動脈狭窄による急性腎不全さえも起こる結果となるであろう。そのため、安全で有効に、DNを阻止および治療する新規薬物の開発が非常に重要である。
【0004】
DNはまた、糖尿病性糸球体硬化症としても公知である。腎糸球体では、メサンギウム細胞が中心位置を占め、総腎糸球体細胞集団の約30〜40%を構成する。糸球体メサンギウム細胞は、多くの様々な生理機能、すなわちメサンギウム細胞外マトリクス(ECM)の構造支持および分泌、サイトカイン類への応答および分泌、高分子および免疫複合体の食作用が可能である。メサンギウム細胞増殖、ECM拡大および沈着はDNにおける重要な病理学的特徴である。
【0005】
オウギ(Radix Astragali)は漢方薬として広く使用されている。主な効能は、鬱血を分散し、疼痛を軽減すること、血液循環を促進し、チャネルを開口させること、熱を除去しイライラの元を緩和すること、などである。現在、ますます実験および臨床診療により、オウギ抽出物がDNの進行に有利な効果を有することが証明されている。この所見はまた、オウギが漢方薬において糖尿病の治療に広く使用されているという事実と一致する。現在のところ、ほとんどの研究者がハーブ粗エキスに焦点を当て続けているが、効果に対応するその生物活性成分は依然として不明瞭である。そのため、DNを阻止し、治療するために、明確な構造および品質制御の利便性という特徴を有する現代の漢方調製物を開発するためには、それについてさらなる研究を実施することが重要である。
【0006】
オウギの前の化学的調査では、イソフラボノイドが主化学成分の1つであり、フリーラジカルスカベンジャ、免疫調節、抗ウイルスおよび抗腫瘍活性を含む様々な生物学的効果を有することが示された。カリコシン(CAL)およびカリコシン−7−O−β−D−グルコシド(CAG)はオウギ中の2つの主なイソフラボノイドである。特許CN01126608.2は、CALおよびCAGが抗心筋虚血活性を示すことを報告した。特許CN200510110641.3は、CAGがコクサッキーウィルスを阻害し、ウイルス性心筋炎を治療することができることを報告した。さらに、それらはまた、いくつかの他の生物学的効果、例えば、酸化防止剤(Biomed Environ Sci,2005,18(5),pp.297−301)、血管内皮細胞への保護効果(Chin J Pharm,2008,43(8),pp.594−597;Pharmacol Clin Chin Mater Med,2000,16(4),pp.16−18)、およびカルシウムチャネル遮断活性(Acta Pharmacol Sin,2006,27(8),pp.1007−1012)、赤血球細胞変形態の修正(Nat Prod Res Develop,1999,6(2),pp.1−5)、ならびに変形性関節症の軽減(変形性関節症軟骨(Osteoarthritis Cartilage,2007,15(9),pp.1086−1092)を有した。
【0007】
上記のように、それらは様々な生物学的効果を示したが、DNを阻止し、治療するためのCALおよびCAGの効果に対して何の情報も得られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Biomed Environ Sci,2005,18(5),pp.297−301
【非特許文献2】Chin J Pharm,2008,43(8),pp.594−597
【非特許文献3】Pharmacol Clin Chin Mater Med,2000,16(4),pp.16−18
【非特許文献4】Acta Pharmacol Sin,2006,27(8),pp.1007−1012
【非特許文献5】Nat Prod Res Develop,1999,6(2),pp.1−5
【非特許文献6】Osteoarthritis Cartilage,2007,15(9),pp.1086−1092
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、DNの阻止および治療を有する薬学的組成物、ならびにその調製方法を提供することであり、薬学的組成物の活性成分はCALおよび/またはCAGである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、技術的解決策は以下の通りである。
【0011】
DNを阻止し、治療するための薬学的組成物は、組成物の総重量に基づき、0.1〜99.5重量%としてCALおよびCAGのうちの1つまたは両方と、従来の薬物担体(conventional drug carrier)と、を含んでもよい。
【0012】
好ましくは、本発明の化合物の量は組成物の総重量に基づき5から90重量%の間で存在すべきである。
【0013】
好ましくは、DNの阻止および治療を有する薬学的組成物はCALおよびCAGの両方と従来の薬物担体とを含み、CALとCAGの含有比率は1:5〜5:1である。
【0014】
薬物担体は薬学分野における従来型のものであり、例として、希釈剤または賦形剤、例えば水、フィラー、例えばデンプン、スクロース、接着剤、例えばセルロース誘導体、藻類酸、ゼラチンおよびポリビニルピロリドン、湿潤剤、例えばグリセロール、崩壊剤、例えば寒天、炭酸カルシウムおよび重炭酸ナトリウム、吸収増強剤、例えば第4級アンモニウム化合物類、界面活性剤、例えばパルミチルアルコール、吸着担体、例えばカオリンおよびソープクレイ、潤滑剤、例えばタルク、ステアリン酸カルシウムおよびステアリン酸マグネシウム、ならびにポリエチレングリコール、などである。さらに、香味料および甘味料などの他の補助剤も添加することができる。
【0015】
薬学的組成物は、従来の方法により従来の剤形に調製することができ、従来の剤形は基礎的な経口調製物、例として、固体剤形、例えば錠剤、顆粒、ピル、粉末、顆粒またはカプセル、および液体剤形、例えば水もしくは油懸濁液またはエリキシル、などである。
【0016】
本発明の化合物または組成物の望ましい用量は、被験体の状態および体重、重篤度、薬物形態、投与経路および期間によって変動し、当業者であれば選択することができる。しかしながら、ラットに対する本発明の化合物の有効量は2〜10mg/kg重量/時間であるので、身体表面積の比により、本発明の発明化合物の20〜100mg/60kg重量/時間の範囲の量で投与されることが一般に推奨される。
【0017】
本発明の別の目的は、薬学的組成物の調製法を提供することであり、目的のための技術プロジェクトは下記の通りである。
【0018】
薬学的組成物の調製法は、CALおよびCAGの1つまたは両方と従来の薬物担体との混合である。
【0019】
CALおよびCAGは下記工程を含む手順により調製することができる。
A.微粉化されたオウギを80%エタノールで還流および濾過下、抽出し、アルコール抽出物を合わせ、その後真空で濃縮する。濃縮物をその後、一晩中4℃で冷蔵した。
B.工程Aにより得られた上清をマクロポーラス樹脂カラム上で流し、水で溶離し、その後、TLCを用いてCAGが検出されなくなるまで、50%エタノールで溶離する。
C.50%エタノール画分溶媒を濃縮し、その後、等量の酢酸エチルを用いて抽出し、酢酸エチル抽出物を合わせ、その後、真空で濃縮する。
D.抽出物をシリカゲルクロマトグラフィにかけ、クロロホルム−メタノール溶媒系で徐々に溶離し、TCL分析により同じ画分を合わせ、結晶化させ、その後、吸引濾過により結晶を得る。最後に、CALおよびCAGをメタノール中での再結晶化により得る。
【0020】
CALおよびCAGはまた、上記方法にしたがい他の漢方薬から得ることができる。
【0021】
本発明はまた、I、II、III、IV型DNを含むDNの阻止および治療における薬物製造でのCALおよび/またはCAGの使用を提供する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の薬学的組成物は下記有用な重要性を有した。
1.本発明は、CALおよび/またはCAGが、薬理実験によりDNの阻止および治療を有する新規医学的用途を有することを発見し、ならびに、DN患者に対する新規薬物候補を提供した。
2.薬学的組成物の効果は、明確な構造および品質制御の利便性のキャラクタリゼーションと共に、オウギの水性抽出物よりも良好であった。
3.薬学的組成物は糖尿病により誘発される糸球体損傷、および糖尿病自体の治療および阻止の著しい効果を示し、というのは、血清クレアチニンの増加、尿産生および尿タンパクの誘発を著しく阻止することができたからである。
4.薬学的組成物を様々な便利な経口剤形、例えば、ピル、顆粒、錠剤などに加工することができた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】高グルコースにより誘発されたECM芽生生殖に対するCALおよび/またはCAGの効果を示す(PAS、200×)。 ここで、A:正常グルコース群、B:高グルコース群(25mM)、C:オウギ群(RA、50mg/ml水性抽出物)、D:CAL群(100nM)、E:CAL群(10nM)、F:CAL群(1nM)、G:CAG群(100nM)、H:CAG群(10nM)、I:CAG群(1nM)、J:CAL:CAG群(10μg/ml:5μg/ml)、K:CAL:CAG群(5μg/ml:10μg/ml)。
【図2】高グルコースにより誘発されたTGFβ−1発現に対するCALおよび/またはCAGの効果を示す(200×)。 ここで、A:正常グルコース群、B:高グルコース群(25mM)、C:陰性対照群、D:CAL群(100nM)、E:CAL群(10nM)、F:CAL群(1nM)、G:CAG群(100nM)、H:CAG群(10nM)、I:CAG群(1nM)、J:オウギ群(RA、50mg/ml水性抽出物)、K:CAL:CAG群(10μg/ml:5μg/ml)、L:CAL:CAG群(5μg/ml:10μg/ml)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明はより詳細には、下記実施例により説明される。しかしながら、本発明はこれらの実施例にいかなる形においても限定されないことを理解すべきである。
【0025】
<実施例1 オウギからのCALおよびCAGの調製>
モウコモメンヅル(Astragalus membranaceus var.monghulicus)(10kg)の乾燥させた根を80%エタノールで還流下(80L×3)、3度(2時間、1時間、1時間)抽出した。アルコール抽出物を合わせ、その後、真空で濃縮した。濃縮物を水に溶解し、その後、一晩中4℃で冷蔵した。上清をD101マクロポーラス樹脂カラム上で流し、水で溶離し、その後、TLCを用いてCAGが検出されなくなるまで、50%エタノールで溶離した。50%エタノール画分溶媒を濃縮し、その後、酢酸エチルを用いて7度抽出し、その後、抽出物を濃縮し、シリカゲル(200〜300メッシュ)クロマトグラフィにかけ、クロロホルム−メタノール(50:1、25:1、12:1、6:1、3:1、1.5:1、1:1)溶媒系で徐々に溶離した。同じ画分を合わせ、結晶化させた。最後に白色針状結晶(CAL)および粉末(CAG)が、メタノールを使用する再結晶化により得られた。それらの構造をNMRならびにMSにより確認し、純度はHPLC分析により98%を超えた。それらの構造を下記に示す。
【0026】
【化1】


CAL:分子量:284、分子式C1612、化学名:3’−ヒドロキシ−4’−メトキシイソフラボン
【化2】


CAG:分子量:446、分子式C222210、化学名:3’−ヒドロキシ−4’−メトキシイソフラボン−7−O−β−D−グルコピラノシド。
【0027】
以下、調合法および賦形剤の種類について記載するが、本発明はそれらに限定されない。代表的な調製例は以下のように記載される。
【0028】
<実施例2 顆粒の調製>
CAG 1mg
デンプン 500mg
微結晶セルロース 500mg
粉末調製物は上記成分を混合し、密閉パッケージに充填することにより調製した。
【0029】
<実施例3 錠剤の調製>
CAG 20mg
ラクトース 127mg
トウモロコシデンプン 50mg
ステアリン酸マグネシウム3mg
錠剤調製物は上記成分を混合し、錠剤化することにより調製した。
【0030】
<実施例4 カプセルの調製>
CAL 30mg
CAG 70mg
ラクトース 40mg
デキストリン 15mg
デンプン 45mg
3%HPMC 適当
カプセル調製物は上記成分を混合し、従来のゼラチン調製法によりゼラチンカプセルに充填することにより調製した。
【0031】
<実施例5 顆粒の調製>
CAG 50mg
デンプン 400mg
微結晶セルロース 550mg
粉末調製物は上記成分を混合し、密閉パッケージに充填することにより調製した。
【0032】
<実施例6 カプセルの調製>
CAL 120mg
CAG 60mg
デキストリン 10mg
デンプン 10mg
カプセル調製物は上記成分を混合し、従来のゼラチン調製法によりゼラチンカプセルに充填することにより調製した。
【0033】
<実施例7 錠剤の調製>
CAL 200mg
HPMC 2mg
錠剤調製物は上記成分を混合し、錠剤化することにより調製した。
【0034】
<実施例8 錠剤の調製>
CAG 200mg
HPMC 2mg
錠剤調製物は上記成分を混合し、錠剤化することにより調製した。
【0035】
<実施例9 カプセルの調製>
CAL 80mg
CAG 20mg
ラクトース 40mg
デキストリン 15mg
デンプン 45mg
3%HPMC 適当
カプセル調製物は上記成分を混合し、従来のゼラチン調製法によりゼラチンカプセルに充填することにより調製した。
【0036】
本発明では、CALおよび/またはCAGを実験で使用し、DNを阻止し、治療する効果を確認し、これをオウギ水性抽出物と比較した。
【0037】
<実験1 高グルコースまたはAGE誘発ラットメサンギウム細胞増殖に対するCALおよび/またはCAGの効果>
メサンギウム細胞は腎糸球体において最も活性な細胞であり、メサンギウム細胞の病理学的変化はDN発生において中央位置を占め、DNの標的細胞でもある。このように、高グルコースまたはAGE誘発ラットメサンギウム細胞増殖に対するCALおよび/またはCAGの効果はインビトロで研究された。
【0038】
1.材料および試薬
ラットメサンギウム細胞系HBZY21(武漢細胞生物学学会(Wuhan Institute of Cell Biology)、新生仔ウシ血清(杭州シジキン血清工場(Hangzhou Sijiqin Serum Factory)、MTT(アムレスコ(Amresco))、ジメチルスルホキシド(上海ジウチー化学試薬社(Shanghai Jiuqi Chemical Reagent Co. Ltd.)、COインキュベータ(ナプコ(NAPCO)05410、プレシジョンサイエンティフィック(PRECISION SCIENTIFIC))、XSZ−D2倒立顕微鏡(重慶光学機器工場(Chongqing Optical Instrument Factory)、超クリーンベンチ(蘇州バイシェンネットワークシステム社(Suzhou Baishen network system Co.Ltd.)、マイクロプレート分光光度計(スペクトラマックス(SPECTRAmax)190、AD CO. Ltd.USA)、臨床遠心分離機(LDZ5−2、北京臨床遠心分離機工場(Beijing Clinical Centrifuge Factory)。
【0039】
2.方法
2.1 実験モデル
指数増殖期のメサンギウム細胞を96ウェルプレートにおいて、50000cm−2の密度で、DMEM(5mMグルコース)中、37℃で、5%CO−95%空気中24時間培養した。仔ウシ血清が添加されていないDMEM中で24時間プレインキュベートした後、細胞をその後、様々な濃度のグルコースまたはAGEでそれぞれ、24時間、48時間、72時間、96時間処理した。メサンギウム細胞増殖をMTTにより測定し、結果から、0.25mg/ml AGEまたは25mMグルコースにより24時間処理されたメサンギウム細胞は最良の実験モデル条件であることが示された。
【0040】
2.2 高グルコースにより誘発されたラットメサンギウム細胞増殖に対する効果
上記方法にしたがい、仔ウシ血清が添加されていないDMEM中で24時間プレインキュベートした後、細胞を25mMグルコースで予め処理し、その後、示したように様々な濃度の試薬で処理した:正常グルコース群(NG、5.5mMグルコース)、高グルコース群(HG、25mMグルコース)、CAL群(CAL、10、100nM)、CAG群(CAG、10、100nM)、CAL+CAG群(CAL:CAG、10μg/ml:5μg/ml、5μg/ml:10μg/ml)、オウギ群(RA、50mg/ml水性抽出物)。その後、プレートを24時間インキュベートした。MTT還元アッセイ法により増殖を調べた。実験条件を6通り試験した(1実験条件あたり96ウェルプレートの6ウェル)。
【0041】
2.3 AGEにより誘発されたラットメサンギウム細胞増殖に対する効果
細胞を0.25mg/ml AGEで予め処理し、その後、示したように様々な濃度の試薬で処理した:正常グルコース群(NG、5.5mMグルコース)、AGE群(AGE、0.25mg/ml AGE)、CAL群(CAL、10、100nM)、CAG群(CAG、10、100nM)、CAL+CAG群(CAL:CAG、10μg/ml:5μg/ml、5μg/ml:10μg/ml)、オウギ群(RA、50mg/ml水性抽出物)。その後、プレートを24時間インキュベートした。MTT還元アッセイ法により増殖を調べた。実験条件を6通り試験した(1実験条件あたり96ウェルプレートの6ウェル)。
【0042】
3.結果
3.1 高グルコース誘発ラットメサンギウム細胞増殖に対するCALおよび/またはCAGの効果
表1に示されるように、NG群と比較して、25mMグルコース(HG)単独では、24時間の処理後、ラットメサンギウム細胞増殖が増加した(p<0.05)。しかしながら、CALおよび/またはCAG、オウギを添加すると、10から100nMの範囲の濃度では、用量依存様式で、高グルコース誘発ラットメサンギウム細胞増殖が阻害された。さらに、100nM CAL、100nM CAG、およびCAL+CAG群(CAL:CAG、5μg/ml:10μg/ml)の効果は全てオウギ群よりも良好であった。CAL+CAG群(CAL:CAG、5μg/ml:10μg/ml)の効果はCALおよびCAG群よりも良好であった。これらの結果から、CALおよび/またはCAGは初期DNに対し有益な効果を有することができることが示された。
【0043】
【表1】

【0044】
3.2 AGE誘発ラットメサンギウム細胞増殖に対するCALおよび/またはCAGの効果
表2に示されるように、NG群と比較して、0.25mg/ml AGE単独では、24時間の処理後、ラットメサンギウム細胞増殖が増加した(p<0.05)。しかしながら、CALおよび/またはCAG、オウギを添加すると、それぞれ、AGE誘発ラットメサンギウム細胞増殖が阻害された。さらに、CALおよび/またはCAGの効果は全てオウギ群よりも良好であった。CAL+CAG群の効果はCAL群よりも良好であった。これらの結果から、CALおよび/またはCAGは初期DNに対し有益な効果を有することができることが示された。
【0045】
【表2】

【0046】
<実験2 高グルコース誘発ラットECM拡大に対するCALおよび/またはCAGの効果>
メサンギウム細胞外マトリクス(ECM)の拡大および沈着はDNにおける主な病理学的特徴であり、これはDNを含む慢性腎疾患の治療のための重要な標的である。
【0047】
1.材料および試薬
TGFβ−1抗体(キャンタクルズ(Canta Cruz))、Di−抗体(深川ジングメイバイオエンジニアリング社(Shenzhen Jingmei Bio−engineering Co.,Ltd)、SABC免疫組織化学染色キット(武漢ボスター社(Wuhan Boster Co.))、DAB呈色システム(遺伝子工学生命工学社(Gene Tech Biotechnology Co., Ltd.))、免疫組織化学ボックス(福州マイキシン生物工学開発社(Fuzhou Maixin Biological Technology Development Co.)。
【0048】
2.方法
処理は実験1のセクション2.1と同じとした。マトリクス増殖の測定は、ヒドロキシプロリンの量およびTGFβ−1の発現を決定することにより測定した。
カバーガラスを24ウェルプレート内に予め配置し、細胞を付着させた。細胞を、実施例1で示したように、様々な濃度の試薬で処理した。細胞をカバーガラスで覆った後、ヒドロキシプロリンの定量のために上清を使用し、細胞のスライドを免疫組織化学およびPAS染色により染色して処理した。TGFβ−1抗体なしで培養させた細胞を陰性対照と見なした。
【0049】
3.結果
3.1 高グルコースにより誘発されたラットメサンギウム細胞の細胞培養液中のヒドロキシプロリンの量に対するCALおよび/またはCAGの効果
表3に示されるように、NG群と比較して、25mMグルコース(HG)は、ラットメサンギウム細胞の細胞培養液中のヒドロキシプロリンの量を増加させる可能性があった(p<0.05)。しかしながら、CALおよび/またはCAG、オウギを添加すると、それぞれ、ヒドロキシプロリンの量の増加が阻害された。さらに、100nM CALおよび100nM CAGの効果は全てオウギ群よりも良好であった。CAL+CAG群(CAL:CAG、5μg/ml:10μg/ml)の効果は別のCAL+CAG群(CAL:CAG、10μg/ml:5μg/ml)群よりも良好であった。
【0050】
【表3】

【0051】
3.2 高グルコースによるECM芽生生殖に対するCALおよび/またはCAGの効果
図1および2に示されるように、CALおよび/またはCAG、オウギを添加すると、高グルコースにより誘発された、ECM芽生生殖およびTGFβ−1の発現が阻害された。CALまたはCAG(10、100nM)の効果はオウギ群よりも良好であり、CALとCAGを組み合わせて使用すると、単独使用よりも良好であった。
実験1および2の結果から、CALおよび/またはCAGはラットメサンギウム細胞増殖、ECM芽生生殖およびTGFβ−1発現を阻害することができた。これらの結果からCALおよび/またはCAGのDNに対する治癒効果が支持された。
【0052】
<実験3 ストレプトゾトシンにより誘発された糖尿病性腎症モデルラットに対するCALおよび/またはCAGの効果>
1.材料および試薬
ストレプトゾトシンにより誘発されたDNモデルウィスターラットは、南方医科大学(Southern Medical University)の動物実験センターから供給された。バイオベース−パール(BIOBASE−PEARL)個別自動生化学アナライザ(山東バイオベース社(Shandon BIOBASE Co.))。
【0053】
2.方法
DNモデルウィスターラットは無作為に、示したように、各群10匹の11の群に分割した:正常グルコース群、モデル群、CAL群(6、2、0.7mg/kg)、CAG群(9、3、1mg/kg)、CAL+CAG群(CAL:CAG、2mg/kg:1mg/kg、1mg/kg:2mg/kg)、オウギ群(5g/kg)、アミノグアニジン群(100mg/kg)。
薬物または塩化ナトリウムを、毎日1回、14週間胃内投与した。投与後、代謝ケージにより総体積尿を収集した。尿産生、総タンパク、ミクロアルブミン、およびクレアチニンの量を決定し、血液中の生化学的指標を、自動生化学アナライザを用いて決定した。その後、ホルマリン固定した腎臓を病理組織検査のために確保した。
【0054】
3.結果
3.1 STZ DNモデルラットにおける尿産生、総タンパク、ミクロアルブミン、およびクレアチニンに対するCALおよび/またはCAGの効果
表4に示されるように、中等量または高用量でのCALおよび/またはCAGの胃内投与により、尿産生、総タンパク、ミクロアルブミン、およびクレアチニンの量を減少させることができ、CALまたはCAGの効果はオウギ群よりも良好であり、CALとCAGを組み合わせて使用すると、単独使用よりも良好であるか、同じであった。
【0055】
【表4】

【0056】
3.2 STZ DNモデルラットにおける血清生化学的指標に対するCALおよび/またはCAGの効果
表5に示されるように、オウギ、CALおよび/またはCAGの胃内投与により、血清中のトリグリセリド、MDA、Scr、BUN、AGEおよびLDLの量を減少させることができ、SOD活性が著しく上昇した。CALまたはCAGの効果はオウギ群よりも良好であり、CALとCAGを組み合わせて使用すると、単独使用よりも良好であった。
【0057】
【表5】

【0058】
3.3 STZ DNモデルラットにおける病理組織学的指標に対するCALおよび/またはCAGの効果
表6に示されるように、オウギ、CALおよび/またはCAGの胃内投与により、ECM芽生生殖およびTGFβ−1発現が著しく阻害され、病理学的損傷スコアが減少する可能性があった。CALまたはCAGの効果はオウギ群よりも良好であり、CALとCAGを組み合わせて使用すると、単独使用よりもわずかに良好であった。
【0059】
【表6】

【0060】
全体に、上記実験結果により、CALおよび/またはCAGはDNの発症および発生の阻止および治療、ならびにSTZ DNモデルラットに対する保護効果を示すことができることが示された。さらに、AGEにより引き起こされる腎臓酸化ストレスおよび線維症のレベルを低減させることができ、効果はオウギ水性抽出物よりも優れていた。
【図1A】

【図1B】

【図1C】

【図1D】

【図1E】

【図1F】

【図1G】

【図1H】

【図1I】

【図1J】

【図1K】

【図2A】

【図2B】

【図2C】

【図2D】

【図2E】

【図2F】

【図2G】

【図2H】

【図2I】

【図2J】

【図2K】

【図2L】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性成分として、カリコシンおよびカリコシン−7−O−β−D−グルコシドのうちの1つまたは両方と、従来の薬物担体と、を含み、前記活性成分は0.1〜99.5重量%のパーセンテージである、糖尿病性腎症を阻止および治療するための薬学的組成物。
【請求項2】
前記薬学的組成物は、活性成分として、カリコシンおよびカリコシン−7−O−β−D−グルコシドの両方と、前記従来の薬物担体と、を含み、カリコシンのカリコシン−7−O−β−D−グルコシドに対する重量比は1:5から5:1までの範囲である、請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記従来の薬物担体は、希釈剤、賦形剤、フィラー、接着剤、湿潤剤、崩壊剤、吸収増強剤、界面活性剤、吸着担体、潤滑剤、香味料および甘味料のうちの少なくとも1つを含み、前記賦形剤は水であり、前記フィラーはデンプン、スクロースまたはラクトースであり、前記接着剤はセルロース誘導体、アルギナート、ゼラチンおよびポリビニルピロリドンからなる群より選択される少なくとも1つであり、前記湿潤剤はグリセリンであり、前記崩壊剤は寒天、炭酸カルシウムまたは重炭酸ナトリウムであり、前記吸収増強剤は第4級アンモニウム化合物であり、前記界面活性剤はパルミチルアルコールであり、前記吸着担体はカオリンクレイまたはソープクレイであり、前記潤滑剤はタルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、またはポリエチレングリコールである、請求項1または2記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記薬学的組成物の剤形は、錠剤、顆粒、ピル、粉末、顆粒、カプセル、または液体製剤である、請求項3記載の薬学的組成物。
【請求項5】
カリコシンおよびカリコシン−7−O−β−D−グルコシドのうちの1つまたは両方を、前記従来の薬物担体と混合し、薬学的組成物を得る、請求項1記載の薬学的組成物を調製するための方法。
【請求項6】
前記カリコシンおよびカリコシン−7−O−β−D−グルコシドの調製は、下記工程を含む、請求項5記載の方法:
A.微粉化されたオウギを80%エタノールで還流および濾過下、抽出し、アルコール抽出物を合わせ、その後真空で濃縮し、前記濃縮物をその後、一晩中冷蔵する工程と、
B.工程Aにより得られた上清をマクロポーラス樹脂カラム上で流し、水で溶離し、その後、TLCを用いてカリコシン−7−O−β−D−グルコシドが検出されなくなるまで、50%エタノールで溶離する工程と、
C.50%エタノール画分溶媒を濃縮し、その後、等量の酢酸エチルを用いて抽出し、前記酢酸エチル抽出物を合わせ、その後、真空で濃縮する工程と、
D.前記抽出物をシリカゲルクロマトグラフィにかけ、クロロホルム−メタノール溶媒系で徐々に溶離し、TCL分析により同じ画分を合わせ、結晶化させ、その後、吸引濾過により結晶を得、カリコシンおよびカリコシン−7−O−β−D−グルコシドをメタノール中での再結晶化により得る工程。
【請求項7】
糖尿病性腎症を阻止および治療するための薬物の製造における、カリコシンおよび/またはカリコシン−7−O−β−D−グルコシドの使用。

【公表番号】特表2011−527284(P2011−527284A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−546202(P2010−546202)
【出願日】平成21年4月1日(2009.4.1)
【国際出願番号】PCT/CN2009/000352
【国際公開番号】WO2010/081264
【国際公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(510179294)グアンヂョウ コンスン メディシン アール アンド ディー カンパニー リミテッド (1)
【Fターム(参考)】