説明

糖尿病性腎症予防・改善・治療用組成物

【課題】糖尿病および/または糖尿病性腎症の予防、改善または治療用組成物を提供する
【解決手段】セイヨウニンジンボクエキスを含有する糖尿病および/または糖尿病性腎症の予防、改善または治療用組成物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病および/または糖尿病性腎症、または糖尿病の疑いのあるヒトに使用することのできる予防、改善、または治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は、多飲、多尿、体重減少などの症状、慢性の高血糖を主な特徴とし、一般的に、網膜症、腎症、末梢神経障害などの合併症を伴う疾患である。糖尿病は、その病因により、インスリン依存性糖尿病(I型糖尿病)、インスリン非依存性糖尿病(II型糖尿病)、二次性糖尿病(膵臓性糖尿病、膵外性/内分泌性糖尿病、薬剤誘発性糖尿病)などに分類されている。糖尿病は、血糖値の上昇を伴い、これにより血管系の脆弱性をもたらし、心筋梗塞、脳梗塞などの動脈硬化性疾患、失明や抹消血管の塞栓など種々の疾患の危険因子となることが知られている。
【0003】
従来、糖尿病の治療方法として、例えば、食事療法、運動療法などによる生活改善をはじめ、インスリン注射、薬物投与などの治療方法が行われていた。また、植物由来の物質も糖尿病の治療に用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
一方、糖尿病の進行に伴って発生する顕性腎症の前期も、やはり厳格な血糖のコントロールが必要といわれている。また、ある程度たんぱく質を制限することが好ましいともいわれている。後期になると、厳密な低たんぱく食にすることが一般的である。腎不全期には、やはり食事療法として、たんぱく質の摂取の制限を行い、血液中のクレアチニン(糸球体の濾過能力の目安になる物質)の量の増え方によっては、透析療法に移行する。糖尿病性腎症には高血圧がともなうことが多いので、降圧薬の使用によってたんぱく質の漏出を抑制する治療も行われているが、根本的な糖尿病性腎症の治療剤は提供されていない。現在では、糖尿病性腎症の治療方法として、哺乳動物の腸管粘膜由来のスロデキサイド(特許文献2参照)、塩酸エホニジピン(特許文献3参照)、サルビエミルチオルヒゼラディクスハーブ(特許文献4)などの治療方法が提案されている。
【0005】
セイヨウニンジンボク(学名 Vitex agnus-castus)はチェストツリーとも呼ばれている地中海や中央アジアに広く自生している植物で、この植物の果実はチェストベリーとよばれており、黄体ホルモン様の作用を有しており、そのまま、或いは水やアルコール抽出物が女性の月経不順などの治療に広く用いられている。また安全性が高く、副作用の心配が殆どないとも言われている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−068995号公報
【特許文献2】特開平06−329541号公報
【特許文献3】特開平11−246417号公報
【特許文献4】特表2003−510286号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】キャサリン・E・ウルブリヒト他編、渡邊昌 他監修、ハーブ&サプリメント486−493ページ(2007年1月10日発行)産調出版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、糖尿病性腎症の改善がみとめられず、完全に透析療法に移行してしまう症例もある。また、薬物療法においては、その薬物による治療効果のほかに副作用が生じるおそれがあるなどの問題を有している。
【0009】
従って、本発明の目的は、副作用などの問題が生じにくく、安全性の高い糖尿病および/または糖尿病性腎症の予防、改善または治療用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは糖尿病性腎症の治療方法を研究する過程で、上記のセイヨウニンジンボクに強い糖尿病と糖尿病性腎症の予防、改善又は治療効果を有することを発見し、本発明を完成するに至った。
従って、本発明は、
(1)セイヨウニンジンボクエキスを含有する糖尿病および/または糖尿病性腎症の予防、改善または治療用組成物。
(2)セイヨウニンジンボクエキスがセイヨウニンジンボク果実エキスである(1)記載の組成物。
(3)上記(1)又は(2)記載の組成物を含有する医薬。
(4)上記(1)又は(2)記載の組成物を含有する健康食品。
を提供するところにある。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、投与による副作用などの問題が生じにくく、安全性の高い糖尿病および/または糖尿病性腎症の予防、改善または治療用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明組成物を投与又は非投与の糖尿病モデル動物の尿蛋白量を測定した結果を示す図である。なお、図面中のVAはセイヨウニンジンボクエキスの学名からの略称である。
【図2】図2は本発明組成物を投与又は非投与の動物の経時的な血糖値の変化を示すグラフである。
【図3】本発明組成物を投与又は非投与の動物の血糖値の変化(図2)から求めたAUCを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、上述のとおり、セイヨウニンジンボクエキスに顕著な糖尿病および/または糖尿病性腎症の予防、改善または治療作用を有することを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の組成物は、セイヨウニンジンボクエキスを含有することを一つの特徴とする。また本発明においては、セイヨウニンジンボクエキスの別名としてチェストツリーエキス、チェストベリーエキス、アグニエキスを使用することがある。
【0015】
本発明の組成物は、I型糖尿病またはII型糖尿病のいずれの糖尿病の予防、改善または治療、およびこれらのタイプの糖尿病に由来する腎症の予防、改善、治療にも利用可能である。
【0016】
本発明に用いられるセイヨウニンジンボクエキスは上述したとおり、古くから食経験があり、また月経不順の治療に使用され、さらに安全性が明らかにされている水又はアルコール抽出物が好ましい。
【0017】
本発明において、セイヨウニンジンボクエキスとしては、市販のエキスであっても使用可能であり、また本発明の目的で水又は50%エタノールなどの溶媒で抽出しても良い。抽出液は、加熱乾燥や噴霧乾燥など公知の方法で乾燥させることができる。また乾燥工程においてデキストリンなどの粉末化助剤を併用することができる。市販のセイヨウニンジンボクエキスはアグヌサイド、アウクビン、カスチシンなどのプロラクチン様活性成分を含有している。
【0018】
本発明の実施例においては、セイヨウニンジンボクの乾燥果実から50%エタノール水溶液で抽出し、水分およびエタノールを蒸発させた濃縮物に40%重量のマルトデキストリンを添加し噴霧乾燥させたものをセイヨウニンジンボクエキスとして用いた。
【0019】
本発明においては必要に応じて食品添加物、食品として使用される他の添加剤、例えば乳糖、麦芽糖、ブドウ糖、ショ糖、還元麦芽糖、還元乳糖、澱粉、セルロース、セルロース誘導体、デキストリンなどの賦形剤、吸着剤、着色料、香料等を使用してもよい。
【0020】
本発明の組成物を製造するには、例えば錠剤とする場合は、セイヨウニンジンボクの果実若しくはその抽出物、或いはその他の活性成分若しくはその誘導体及び必要に応じて添加剤を混合し、アルコール水溶液を加え、混合、乾燥、粉砕したものに滑沢剤を添加して打錠すればよい。本発明の組成物は錠剤に限らず、常法によりカプセル、顆粒、一般飲料、焼き菓子、パン等の任意の食品とすることができる。
【0021】
本発明に包含される食品としては、乾燥食品、サプリメントなどの固形食品、また、清涼飲料やミネラルウォーター、嗜好飲料、アルコール飲料などの液状食品が挙げられる。固形食品としては、特に限定されるものではないが、練り製品、大豆加工品、調味料、ムース、ゼリー、冷菓、飴、チョコレート、ガム、クラッカー、ケーキ、パンなどが挙げられる。また、液状食品としては、特に限定されるものではないが、緑茶、ウーロン茶、紅茶、ハーブティーなどの茶類、濃縮果汁、濃縮還元ジュース、ストレートジュース、果実ミックスジュース、果肉入り果実ジュース、果汁入り飲料、果実・野菜ミックスジュース、野菜ジュース、炭酸飲料、清涼飲料、乳飲料、日本酒、ビール、ワイン、カクテル、焼酎、ウイスキーなどが挙げられる。本発明に含有される食品としてはまた、アミノ酸、タンパク質、ミネラルなどの各種栄養素を含有する栄養食品、栄養補助食品なども挙げられる。
【0022】
また、本発明に包含される医薬品としては、溶液、懸濁物、粉末、固体成型物などのいずれでもよく、その剤型としては、錠剤、カプセル剤、粉末剤、顆粒剤、ドリンク剤、注射剤、貼付剤、坐剤、吸入剤などが挙げられる。
【0023】
本発明の組成物の製法は、一般的な食品または医薬品の製法を適用することができる。
【0024】
本発明の所望の効果を得るための本発明の組成物の投与量は、セイヨウニンジンボクのエキスとして、好ましくは0.3〜10g/日、より好ましくは、0.5〜5g/日である。ただし、個体差(疾患の重篤度、性別、年齢など)があるため、本発明における投与量は、かかる範囲にのみ限定されるものではなく、本発明の所望の効果が得られるように、個別具体的に投与量を適宜設定すればよい。
【0025】
本発明の組成物の投与方法としては、特に限定されないが、好ましくは、経口投与であり、前記の好適範囲で投与すればよい。
【0026】
本発明の組成物により、糖尿病性腎症ラットにおいて、血液中のグルコース濃度、ならびに尿タンパク質量の低下がもたらされることが見出されている。従って、本発明の組成物は、糖尿病または糖尿病性腎症を予防、改善および治療するために使用することができる。
【0027】
以下に本発明を糖尿病性腎症モデルマウスを用いた試験例、糖尿病モデルマウスを用いたインシュリン応答性試験の2つの動物試験により説明するが、本発明の範囲がこれらによって限定されるものではない。
【0028】
試験例 1
糖尿病性腎症の予防・改善・治療試験
(1) 試験飼料の調製
動物試験の試験群は試験飼料の投与によって、以下のように分類した。
(a)高脂肪・高ショ糖食(HFS)群
オリエンタル酵母工業株式会社により調製された高脂肪・高ショ糖食(F2HFHSD:脂肪含量30%(v/v)、ショ糖含量20%(v/v))にデキストリン(松谷化学工業製:パインデックス)を0.66%(v/v)となるように添加して混合し調製した。
(b)高脂肪・高ショ糖食+セイヨウニンジンボク0.25%(HFS+VA0.25%)群
HFSにセイヨウニンジンボクエキスパウダー(商品名:アグニ乾燥エキス、アスク薬品株式会社製、賦形剤:40%含有)を0.42%(v/v)となるように添加し、混合したものを用いた。
(c)高脂肪・高ショ糖食+セイヨウニンジンボク0.5%(HFS+VA0.5%)群
HFSにセイヨウニンジンボクエキスパウダー(商品名:アグニ乾燥エキス、アスク薬品株式会社製、賦形剤:40%含有)を0.83%(v/v)となるように添加したもの。
(d)高脂肪・高ショ糖食+セイヨウニンジンボク1.0%(HFS+VA1.0%)群
HFSにセイヨウニンジンボクエキスパウダー(商品名:アグニ乾燥エキス、アスク薬品株式会社製、賦形剤:40%含有)を1.67%(v/v)となるように添加したもの。
【0029】
(2)試験方法
4週齢の雄性自然発症II型糖尿病モデルマウス(KKAy-TaJcl)を日本クレア株式会社(東京)より購入し、飼育・繁殖用飼料(CRF-1、オリエンタル酵母工業)を用いて1週間の馴化を行った。その後、各マウスに(1)に示した各試験飼料を2ヶ月間、自由に摂餌させた。その間、1週間に二回、一般状態の観察、体重及び摂餌量を測定した。2ヶ月間の摂餌の後、絶食下で18時間蓄尿を採取し、体外診断用医薬品 クラスII汎用検査用シリーズ プレテスト 3aII(和光純薬工業)を用いて尿中のタンパク質量を簡易測定し、糖尿病性腎症の発症と改善を確認した。
【0030】
(3)試験結果
セイヨウニンジンボクエキスは糖尿病性腎症ラットの食欲や、体重には影響しなかったが、図1に示すとおり、蛋白尿の発生を顕著に抑制した。以上の結果からセイヨウニンジンボクエキスは糖尿病性腎症の予防・改善・治療に効果があることが明らかとなった。
【0031】
試験例2
血糖低下改善試験
(1)試験飼料の調製及び試験方法
試験には、4週齢の雄性KKAy-TaJclマウス(日本クレア株式会社、東京)を用いた。
試験飼料としては高脂肪・高ショ糖食(オリエンタル酵母工業株式会社、F2HFHSD 粉末飼料、以下HFSとする)、HFSにセイヨウニンジンボクエキス(アスク薬品株式会社製、商品名:アグニ乾燥エキス、50%含水アルコール抽出、賦形剤40%を含む、以下VAと略す)をエキス相当量として0.25、0.5、1.0%(v/v)となるように添加した。なお、HFS群にはデキストリン(松谷化学工業製:パインデックス)を0.66%(v/v)となるように添加した。動物は、各群6匹とした。
1週間の馴化の後、上記の各試験飼料を2ヶ月間摂餌させた。試験期間中、摂餌量及び体重を測定した(2回/週)。2ヶ月間の摂餌の後に、絶食下で経口ブドウ糖負荷耐糖能試験(OGTT)を行った。すなわち、18時間絶食させたマウスに、グルコース(2g/kg 体重)を投与し、投与前(0分)、投与後30、60、120分後に尾静脈より採血を行い、血漿を調製した後、生化学自動分析装置 富士ドライケム3500(富士フィルム株式会社)を用いて血糖値を測定した。
(2)試験結果
図2、図3に示すとおり、セイヨウニンジンボクエキスはグルコース負荷に伴う血糖値の上昇を顕著に抑制し、糖尿病の予防改善治療効果を確認することができた。
【0032】
以下に本発明で用いたセイヨウニンジンボクエキスを配合した処方例を示す。
【0033】
処方例1
[カプセル剤]
組成
セイヨウニンジンボクエキス(セイヨウニンジンボク抽出物 50%含有)… 50mg
トコトリエノール … 30mg
ミツロウ … 10mg
ぶどう種子オイル …110mg

上記成分を混合し、ゼラチン及びグリセリンを混合したカプセル基剤中に充填し、軟カプセルを得た。
【0034】
処方例2
[錠剤]
組成
セイヨウニンジンボクエキス(セイヨウニンジンボク抽出物 50%含有)…25mg
マリアアザミ(シリマリン65%含有) …20mg
コラーゲン加水分解物 …50mg
セルロース …40mg
デンプン …20mg
ショ糖脂肪酸エステル … 2mg

上記成分を混合、打錠し、錠剤を得た。
【0035】
処方例3
〔ジュース〕
(組 成) (配合;質量%)
果糖ブトウ糖液糖 5.00
クエン酸 10.4
L−アスコルビン酸 0.20
香料 0.02
色素 0.10
ゼラチン分解物(平均分子量300) 1.00
セイヨウニンジンボクエキス(セイヨウニンジンボク抽出物 50%含有)1.00
水 82.28

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セイヨウニンジンボクエキスを含有する糖尿病および/または糖尿病性腎症の予防、改善または治療用組成物。
【請求項2】
セイヨウニンジンボクエキスがセイヨウニンジンボク果実エキスである請求項1記載の組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の組成物を含有する医薬。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載の組成物を含有する健康食品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−46427(P2012−46427A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−186758(P2010−186758)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(593106918)株式会社ファンケル (310)
【Fターム(参考)】