説明

糖尿病改善薬のスクリーニングに利用できる新規蛋白質

本発明は、2型糖尿病改善薬のスクリーニング方法を提供する。c−Cb1に結合する蛋白質CbAP40を見出した。マウスCbAP40遺伝子は糖尿病モデルマウスの筋肉において正常個体より発現量が顕著に増加していること、ヒトCbAP40遺伝子を筋肉由来細胞に高発現させると糖の取り込みが阻害されることを明らかにし、同蛋白質が糖尿病態の原因因子であることを見出した。さらにヒトCbAP40遺伝子のプロモーター領域を同定し、該プロモーター由来の転写誘導活性がインスリン抵抗性を改善するチアゾリジン誘導体により抑制されることを明らかにした。これをもとに該プロモーター活性及びc−Cb1とCbAP40との相互作用の変化を指標としたインスリン抵抗性改善効果を有する物質のスクリーニング系を構築した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、2型糖尿病改善薬のスクリーニング方法に関する。c−Cb1に結合する新規なポリペプチド及び該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドに関する。また該ポリペプチドの発現量を制御するプロモーター、前記ポリヌクレオチド又は該プロモーターを含有する発現ベクター、該発現ベクターを含有する形質転換細胞に関する。さらに、前記ポリペプチド、プロモーター、発現ベクター及び/又は形質転換細胞の2型糖尿病改善薬スクリーニングのための使用に関する。
【背景技術】
インスリンは膵臓ランゲルハンス島のβ細胞より分泌され、主に筋肉、肝臓、脂肪に作用して血中の糖を細胞に取り込ませて貯蔵、消費させることにより血糖値を降下させる。糖尿病は、このインスリンの作用不足から引き起こされるが、患者にはインスリンの生産又は分泌に障害をもつ1型と、インスリンによる糖代謝促進が起こりにくくなる2型の2つのタイプが存在する。いずれの患者でも血糖値が健常人より高くなるが、1型では血中インスリンが絶対的に不足するのに対して、2型ではインスリンの存在にもかかわらず血糖の細胞における取り込み又は消費が促進されないインスリン抵抗性が生じている。2型糖尿病は遺伝的素因に加えて過食や運動不足、ストレスなどが原因となり惹起されるいわゆる生活習慣病である。今日先進諸国では摂取カロリーの増大に伴いこの2型糖尿病患者が急激に増加しており、日本では糖尿病患者の95%を占めている。そのため糖尿病の治療薬には単純な血糖降下剤のみでなく、インスリン抵抗性の改善により糖代謝を促進する2型糖尿病の治療を対象とした研究の必要性が増大している。
現在1型糖尿病患者の治療にはインスリン注射製剤が処方されている。一方、2型糖尿病患者に処方される血糖降下剤としては、インスリン注射製剤に加えて膵臓のβ細胞に作用してインスリンの分泌を促すスルホニル尿素系血糖降下剤(SU剤)や、嫌気的解糖作用による糖利用の増大や糖新生の抑制、及び糖の腸管吸収を抑制する作用を持つビグアナイド系血糖降下剤の他、糖質の消化吸収を遅らせるα−グルコシダーゼ阻害剤が知られている。これらは間接的にインスリン抵抗性を改善するが、近年より直接的にインスリン抵抗性を改善する薬剤としてチアゾリジン誘導体が使われるようになった。その作用は細胞内への糖の取り込みと細胞内における糖利用の促進である。このチアゾリジン誘導体はペルオキシソーム増殖剤応答性受容体ガンマ(peroxisome proliferator activated receptor:PPARγ)のアゴニストとして作用することが示されている(非特許文献1参照)。しかしチアゾリジン誘導体はインスリン抵抗性を改善するのみでなく、浮腫を惹起する副作用が知られている(非特許文献2−3参照)。この浮腫の惹起は心肥大をもたらす重篤な副作用なので、インスリン抵抗性改善のために、PPARγにかわるより有用な創薬標的分子が求められている。
インスリン作用のシグナルは細胞膜上にあるインスリン受容体を介して細胞内へ伝達される。このインスリンの作用経路には第一と第二の2経路が存在する。(非特許文献4参照)。第一経路においては、活性化されたインスリン受容体からIRS−1及びIRS−2、PI3キナーゼ、PDK1を介してAkt1(PKBα)又はAkt2(PKBβ)、或いはPKCλ又はPKCζへ順次シグナルが伝達され、その結果として細胞内に存在するグルコーストランスポーターGLUT4を細胞膜上へ移行させることにより、細胞外からの糖の取り込みを促進する(非特許文献5参照)。一方、第二経路ではインスリン受容体からc−Cb1及びCAPを介してCrK II、C3G、及びTC10へ順次シグナルが伝達され、結果GLUT4による糖の取り込みを促進する(非特許文献6参照)。しかし、これらインスリンシグナル伝達経路の詳細についてはいまだ不明な部分が多く、特にこれらのシグナルが最終的にどのような機構を経てグルコーストランスポーターを介した細胞の糖取り込みを促進するのか明らかではない。
c−Cb1はインスリンシグナル第二経路上に存在するシグナル伝達仲介因子であり、プロリンに富む120kDaの細胞質蛋白質である。c−Cb1はインスリン刺激によって一過性にチロシンがリン酸化され、SH2、SH3を有する種々のシグナル伝達分子と会合する。例えばインスリンシグナル第二経路に存在するアダプタータンパク質で、インスリン感受性組織である肝臓、骨格筋、腎臓や心臓で強く発現している(非特許文献7参照)CAP(Cb1 associated protein)は、そのC末端側にあるSH3ドメインを介してc−Cb1と結合する。このCAP/c−Cb1複合体はインスリンシグナルに応答してCrk II−C3G複合体及び、TC10を介してグルコーストランスポーターGLUT4の細胞膜への移行を促進する。c−Cb1との結合ドメインであるSH3を欠損させたCAPは、PI3キナーゼ活性には影響は与えないが、細胞の糖取り込みを阻害することが報告されている(非特許文献8参照)。またCAPの発現はインスリン抵抗性を改善するPPARγのアゴニストであるチアゾリジン誘導体によって亢進することが知られている。これらの事実から、c−Cb1はCAPとの結合を通じて細胞内への糖取り込みに働くシグナル伝達仲介因子であり、その機能阻害はCAPから下流のインスリンシグナルを遮断してインスリン抵抗性を引き起こすと考えられている(非特許文献9参照)。したがってインスリン抵抗性が見られる2型糖尿病患者の細胞内では何らかの機序によりc−Cb1を介したインスリンシグナル伝達が阻害されていると考えられている(非特許文献9参照)。しかしこれまでc−Cb1と直接相互作用してインスリンシグナル伝達に関わる活性を負に調節する分子はこれまでに知られていなかった。
【非特許文献1】「ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、(米国)、1995年、第270巻、p.12953−12956
【非特許文献2】「ダイアビーティーズ フロンティア(Diabetes Frontier)」、(米国)、1999年、第10巻、p.811−818
【非特許文献3】「ダイナビーティーズ フロンティア(Diabetes Frontier)」、(米国)、1999年、第10巻、p.819−824
【非特許文献4】「ザ・ジャーナル・オブ・クリニカル・インベスティゲーション(The Journal of Clinical Investigation)」、(米国)、2000年、第106巻、第2号、p.165−169
【非特許文献5】「ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry」、(米国)、1999年、第274巻、第4号、p.1865−1868
【非特許文献6】「ネイチャー(Nature)」、(英国)、2001年、第410巻、第6831号、p.944−948
【非特許文献7】「モレキュラー・アンド・セルラー・バイオロジー(Molecular and Cellular Biology)」(米国)、1998年、第18巻、第2号、p.872−879
【非特許文献8】「ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、(米国)、2001年、第276巻、第9号、p.6065−6068
【非特許文献9】「ザ・ジャーナル・オブ・バイオロジカル・ケミストリー(The Journal of Biological Chemistry)」、(米国)、2000年、第275巻、第13号、p.9131−9135
【発明の開示】
本発明の目的は、2型糖尿病改善薬のスクリーニング方法を提供することである。
本発明者らは、c−Cb1に結合する蛋白質を酵母ツーハイブリッドシステムにより同定した。その結果、c−Cb1に結合する蛋白質ヒトCbAP40(Cb1 associated protein 40)を見出し、加えて、該蛋白質をコードする遺伝子の発現がインスリン応答組織の一つである骨格筋に偏在していることを明らかにした。また、マウスCbAP40遺伝子及び蛋白質を取得し、c−Cb1と結合することを明らかにした。さらにマウスCbAP40遺伝子は糖尿病モデルマウスの筋肉において正常個体より発現量が顕著に増加していること、ヒトCbAP40遺伝子を筋肉由来細胞に高発現させると糖の取り込みが阻害されることを明らかにし、該蛋白質が糖尿病態の原因因子であることを見出し、新たな2型糖尿病改善薬スクリーニングツールを提供した。さらにヒトCbAP40遺伝子のプロモーター領域を同定し、該プロモーター由来の転写誘導活性がインスリン抵抗性を改善することが知られているチアゾリジン誘導体により抑制されることを明らかにした。これらの知見から、CbAP40プロモーター由来の転写誘導活性を抑制することによりインスリン抵抗性改善効果が得られることを明らかにした。これらの知見をもとに上記プロモーター活性を指標とした2型糖尿病治療効果を有する物質のスクリーニング系を構築した。
すなわち本発明は、以下のスクリーニング方法、ポリペプチド、ポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、該発現ベクターで形質転換された細胞、並びにそれらの用途に関する。
〔1〕(1)(i)配列番号3で表される塩基配列、(ii)配列番号3で表される塩基配列の第1364〜3119番で表される塩基配列、又は(iii)配列番号3で表される塩基配列の第2125〜3119番で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、あるいは(iv)前記(i)〜(iii)で表される塩基配列において、1〜10個の塩基が欠失、置換、及び/又は挿入された塩基配列を含み、配列番号2若しくは配列番号26で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのプロモーター活性を有するポリヌクレオチド
を含む発現ベクターで形質転換された細胞と試験物質とを接触させる工程、及び(2)プロモーター活性を検出する工程
を含む、試験物質が前記(i)乃至(iv)のポリヌクレオチドのプロモーター活性を阻害するか否かを分析する方法。
〔2〕〔1〕に記載の方法による分析工程、及び
プロモーター活性を阻害する物質を選択する工程
を含む、請求の範囲1に記載のポリペプチドの発現を抑制する物質をスクリーニングする方法。
〔3〕〔2〕に記載の方法により2型糖尿病改善薬をスクリーニングする方法。
〔4〕(1)配列番号3で表される塩基配列、(2)配列番号3で表される塩基配列の第1364〜3119番で表される塩基配列、又は(3)配列番号3で表される塩基配列の第2125〜3119番で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、あるいは(4)前記(1)〜(3)で表される塩基配列において、1〜10個の塩基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、〔1〕に記載のポリペプチドのプロモーター活性を有するポリヌクレオチド。
〔5〕(1)配列番号2又は配列番号26で表されるアミノ酸配列、(2)配列番号2又は配列番号26で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列、あるいは(3)配列番号2又は配列番号26で表されるアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、かつc−Cb1と結合及び/若しくは過剰発現により糖取り込みを阻害するポリペプチドとc−Cb1と試験物質とを接触させる工程、及び
前記ポリペプチドとc−Cb1との結合を検出する工程
を含む、試験物質が前記結合を阻害するか否かを分析する方法。
〔6〕〔5〕に記載の方法による分析工程、及び
結合を阻害する物質を選択する工程
を含む、〔5〕に記載のポリペプチドとc−Cb1との結合阻害物質をスクリーニングする方法。
〔7〕〔6〕に記載の方法により2型糖尿病改善薬をスクリーニングする方法。
〔8〕配列番号2又は配列番号26で表されるアミノ酸配列、あるいは配列番号2又は配列番号26で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含み、かつc−Cb1と結合及び/若しくは過剰発現により糖取り込みを阻害するポリペプチド。
〔9〕配列番号2若しくは配列番号26で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
〔10〕配列番号26で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
又は配列番号26で表されるアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつc−Cb1と結合及び/若しくは過剰発現により糖取り込みを阻害するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
〔11〕〔4〕又は〔10〕に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
〔12〕〔11〕に記載の発現ベクターで形質転換された細胞。
〔13〕(1)〔8〕に記載のポリペプチド、(2)〔8〕に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又は〔1〕の(i)乃至(iv)に記載のポリヌクレオチド、あるいは(3)〔8〕のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又は〔1〕の(i)乃至(iv)に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された細胞からなる2型糖尿病改善薬スクリーニングツール。
〔14〕(1)〔8〕に記載のポリペプチド、(2)〔8〕に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又は〔1〕の(i)乃至(iv)に記載のポリヌクレオチド、あるいは(3)〔8〕のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又は〔1〕の(i)乃至(iv)に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された細胞の2型糖尿病改善薬スクリーニングのための使用。
〔3〕又は〔7〕記載の2型糖尿病改善薬をスクリーニングする方法は、2型糖尿病改善作用分析工程を更に含むことがより好ましい。
本発明のスクリーニング方法で得られる2型糖尿病改善薬は、特にインスリン抵抗性改善薬及び/又は糖代謝改善薬として好ましい。また、本発明の2型糖尿病改善薬スクリーニングツールは、特にインスリン抵抗性改善薬及び/又は糖代謝改善薬のスクリーニングツールとして好ましい。
配列番号26に記載の配列からなる本発明のポリペプチドと同一の配列は知られていない。本願優先日(2003年8月8日)以前に、配列データベースGenPeptに、アクセッション番号AK091037として、本発明のポリペプチドの一つの配列である配列番号2で表されるアミノ酸配列と同一配列が、また本願優先日(2004年1月6日)以前に、配列データベースGenPeptに、アクセッション番号AK044445として、本発明のポリペプチドの一つの配列である配列番号26で表されるアミノ酸配列において、4個のアミノ酸が置換され、103個のアミノ酸が付加されたアミノ酸配列が収載されている。しかしながら、実際にこれらポリペプチドを取得したとの情報はおろか、どのように取得できるかの具体的情報もない。また、当該ポリペプチドの具体的用途についても記載されていない。アクセッション番号AK044445はデータベース上にポリペプチドの配列が推定上の(putative)ものであると記載されている。本発明者らは本発明のポリペプチドを初めて製造し、本発明のポリペプチドの発現亢進及びc−Cb1との相互作用が糖尿病病態の原因であることを初めて明らかにした。また、本発明のポリペプチドとc−Cb1との結合を利用した本発明のスクリーニング方法は本発明者らによって初めて提供された方法である。
本願優先日前に、配列データベースGenBankに、アクセッション番号AL590235として、配列番号3で表される3119塩基の塩基配列のうち1個の塩基が置換された配列を一部に含む159246塩基からなる配列が収載されているが、配列が開示されたにすぎず、その具体的用途については記載されていない。本発明の配列番号3で表される塩基配列、配列番号3で表される塩基配列の第1364〜3119番で表される塩基配列、又は配列番号3で表される塩基配列の第2125〜3119番で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドと同一のポリヌクレオチドは知られておらず、本発明のポリヌクレオチドのプロモーター活性を指標とした本発明のスクリーニング方法は本発明者らによって初めて提供された方法である。
【図面の簡単な説明】
図1は、培養細胞におけるヒトCbAP40の発現を示す図面である。レーン1は空ベクターを、レーン2はpcDNA−CbAP40を導入した場合を示している。レーン3は分子量マーカーを示している。
図2は、正常マウスC57BL/6Jとm+/m+、および2型糖尿病モデルマウスKKA/Taとdb/dbの筋肉組織におけるCbAP40遺伝子発現量を比較した図である。図の縦軸はマウス筋肉における相対発現量を示す。C57BL/6Jにおける発現量を1として表示している。
図3は、CbAP40を過剰発現させた筋肉細胞における糖取り込み量を示す図である。図の縦軸は2−デオキシ−D−グルコースの取り込み量(cpm)を示す。図の横軸は測定時における培地中のインスリン濃度を示す。黒塗りのバーはCbAP40を高発現させた筋肉細胞、白塗りのバーはコントロールウィルスを感染させた筋肉細胞における結果を示す。
図4は、CbAP40プロモーターの転写誘導活性およびピオグリタゾンによるその抑制作用を示す図である。図の縦軸の数値は、ルシフェラーゼ活性を示す。図の横軸の数値は、ピオグリタゾンの濃度(μM)を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
<本発明のポリペプチド>
本発明のポリペプチドには、
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;及び
(2)配列番号2で表されるアミノ酸配列
あるいは配列番号2で表されるアミノ酸配列において、1〜10個(好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜3個)のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列
を含み、かつc−Cb1に結合及び/又は過剰発現により糖取り込みを阻害する(好ましくはc−Cb1に結合及び過剰発現により糖取り込みを阻害する)ポリペプチド(以下、ヒト機能的等価改変体と称する);
(3)配列番号26で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;及び
(4)配列番号26で表されるアミノ酸配列
あるいは配列番号26で表されるアミノ酸配列において、1〜10個(好ましくは1〜7個、より好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜3個)のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列
を含み、かつc−Cb1に結合及び/又は過剰発現により糖取り込みを阻害する(好ましくはc−Cb1に結合及び過剰発現により糖取り込みを阻害する)ポリペプチド(以下、マウス機能的等価改変体と称する);
が含まれる。
また、本発明のヒト又はマウス機能的等価改変体の起源はヒト又はマウスに限定されない。例えば、配列番号2又は配列番号26で表されるアミノ酸配列のヒト又はマウスにおける変異体が含まれるだけでなく、前述の(1)乃至(4)のいずれかに該当する限り、ヒト又はマウス以外の他の脊椎動物(例えばラット、ウサギ、ウマ、ヒツジ、イヌ、サル、ネコ、クマ、ブタ、ニワトリなど)由来のものも含まれる。更には、前述の(1)乃至(4)のいずれかに該当する限り、天然ポリペプチドに限定されず、配列番号2又は配列番号26で表されるアミノ酸配列を元にして遺伝子工学的に人為的に改変したポリペプチドも含まれるが、天然ポリペプチド、特には脊椎動物由来のポリペプチドがより好ましい。
「c−Cb1に結合する」とは、c−Cb1(好ましくはGenBankのアクセッション番号X57111によりコードされるポリペプチド)にポリペプチドが結合することを意味しており、「結合する」か否かは以下の方法により確認することができる。
結合するか否かの検討対象ポリペプチドの一部若しくは全長域、またはGSTやFlag、Hisなどのタグを融合させた検討対象ポリペプチドの一部若しくは全長域を細胞に発現させる。前記細胞としてはインスリンに応答する細胞が好ましく、より具体的には脂肪細胞、肝細胞、あるいは骨格筋由来細胞が好ましい。前記細胞から抗c−Cb1抗体を用いた免疫沈降によりc−Cb1蛋白質とそこに結合する蛋白質を濃縮することができる。得られたc−Cb1およびその結合蛋白質の濃縮液を公知の方法によりポリアクリルアミドゲル電気泳動法により分離し、抗体を用いたウエスタンブロティングにより検討対象のポリペプチドがc−Cb1に結合するか否かを確認することができる。ここで用いる抗体は、検討対象のポリペプチド若しくはその部分配列をもとに作製した検討対象のポリペプチドに対する抗体、または上記タグを認識する抗体を利用することができる。
また検討対象のポリペプチドを発現させた細胞の抽出液、または、インビトロで転写及び翻訳して作製した蛋白質混合液と、GSTなどのタグをつけて精製したc−Cb1蛋白質とを用いたin vitroのプルダウン法(実験工学、Vol13、No.6、1994年528頁 松七五三ら)と上述と同様のウエスタンブロッティングを組み合わせるによってもc−Cb1と検討対象のポリペプチドの結合を検出することができる。好ましくは、実施例9に示すように検討対象蛋白質発現用プラスミドから直接検討対象蛋白質をインビトロトランスレーションキット(例えばTNTキット(プロメガ社))を用いてin vitroで転写及び翻訳して作製した蛋白質混合液を用いて結合を検出できる。より好ましくは、実施例9に記載の方法により検討対象のポリペプチドとc−Cb1との結合を検出することができる。
「過剰発現により糖取り込みを阻害する」とは、あるポリペプチドが過剰発現されることによって、過剰発現されない場合に比較して糖取り込みを阻害することをいう。「糖取り込みを阻害する」か否かは以下の方法により確認することができる。検討対象のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターで細胞(例えば筋肉細胞L6細胞)を形質転換する。形質転換により、該細胞に検討対象のポリペプチドが高発現(過剰発現)したか否かは、該細胞の抽出液を用い検討対象のポリペプチドを検出できる抗体を利用したウエスタンブロッティング又は検討対象のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを特異的に検出するプライマーを用いたリアルタイムPCRなどにより確認することができる。検討対象のポリペプチドが糖取り込みを阻害するか否かは、該ポリペプチドを過剰発現した又は過剰発現していない細胞を用いて細胞内に取り込まれるグルコース量を測定することにより確認することができる。検討対象ポリペプチドを過剰発現していない細胞に比較して過剰発現した細胞のグルコース取り込み量が減少した場合、検討対象ポリペプチドは過剰発現により糖取り込みを阻害すると判断できる。
好ましくは実施例6に記載の方法により検討対象ポリペプチドが過剰発現により糖取り込みを阻害するか否かを確認できる。
以上、本発明のポリペプチドについて説明したが、配列番号2又は配列番号26で表されるアミノ酸からなるポリペプチド、及び本発明のヒト又はマウス機能的等価改変体を総称して、以下、「本発明のポリペプチド」と称する。「本発明のポリペプチド」のうち、配列番号2で表されるアミノ酸からなるポリペプチドである蛋白質を「ヒトCbAP40蛋白質」、配列番号26で表されるアミノ酸からなるポリペプチドである蛋白質を「マウスCbAP40蛋白質」と称する。
本発明のポリペプチドとしては、配列番号2又は配列番号26で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいはヒト又はマウス機能的等価改変体のうち、配列番号2又は配列番号26で表されるアミノ酸配列を含むポリペプチドが最も好ましい。
本発明のポリペプチドの一つであるCbAP40がc−Cb1と結合することを見出し(実施例1及び実施例9)、更にヒトCbAP40をコードする遺伝子を筋肉細胞に高発現させると糖取り込み量が減少することを見出した(実施例6)。従って、CbAP40はインスリンのシグナル伝達におけるc−Cb1の機能を妨げていると考えられ、本発明のポリペプチドとc−Cb1との結合を阻害する物質は糖取り込みを改善する物質、即ち2型糖尿病改善薬となることがわかった。本発明のポリペプチドは前記結合阻害物質(即ち2型糖尿病改善薬、特に糖取り込み改善物質)をスクリーニングする方法のスクリーニングツールとして有用である。
<本発明のポリヌクレオチド及び本明細書のポリヌクレオチドの製造法>
本発明のポリヌクレオチドには、
[1]マウスCbAP40蛋白質及びマウス機能的等価改変体であるポリペプチドをコードする塩基配列からなるポリヌクレオチド(以下、マウス型ポリヌクレオチドと称する);
[2](1)配列番号3で表される塩基配列、(2)配列番号3で表される塩基配列の第1364〜3119番で表される塩基配列、又は(3)配列番号3で表される塩基配列の第2125〜3119番で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、あるいは(4)前記(1)〜(3)で表される塩基配列において、1〜10個の塩基が欠失、置換、及び/又は挿入された塩基配列を含み、ヒトCbAP40蛋白質又はヒト機能的等価改変体であるポリペプチドのプロモーター活性を有するポリヌクレオチド(プロモーター型ポリヌクレオチドと称する);
が含まれる。
マウス型ポリヌクレオチドとしては、マウスCbAP40蛋白質及びマウス機能的等価改変体であるポリペプチドをコードする塩基配列なら何れの種由来であってもよく、マウスCbAP40をコードする塩基配列からなるポリヌクレオチドが好ましく、配列番号25で表されるポリヌクレオチドが最も好ましい。プロモーター型ポリヌクレオチドのうち最も好ましいのは配列番号3で表される塩基配列の第2125〜3119番で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドである。
マウス型ポリヌクレオチドとしては、マウスCbAP40蛋白質及びマウス機能的等価改変体であるポリペプチドをコードする限りあらゆる変異体が含まれる。プロモーター型ポリヌクレオチドとしては、(1)配列番号3で表される塩基配列、(2)配列番号3で表される塩基配列の第1364〜3119番で表される塩基配列、又は(3)配列番号3で表される塩基配列の第2125〜3119番で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、あるいは(4)前記(1)〜(3)で表される塩基配列において、1〜10個の塩基が欠失、置換、挿入及び/又は付加された塩基配列からなり、ヒト若しくはマウスCbAP40蛋白質又はヒト若しくはマウス機能的等価改変体であるポリペプチドのプロモーター活性を含む限り、あらゆる変異体が含まれる。より具体的には天然に存在する変異体、天然に存在しない変異体、欠失、置換、付加及び挿入を有する変異体が含まれる。前記の変異は、例えば天然において突然変異によって生じることもあるが、人為的に改変して作製することも出来る。本発明は、上記ポリヌクレオチドの変異の原因及び手段を問わない。上記の変異体作製にいたる人為的手段としては、例えば塩基特異的置換法(Methods in Enzymology、(1987)154、350,367−382)等の遺伝子工学的手法の他、リン酸トリエステル法やリン酸アミダイド法などの化学合成手段(Science、150,178、1968)を挙げることができる。それらの組み合わせによって所望の塩基置換を伴うDNAを得ることが可能である。あるいはPCR法の繰り返し作業や、その反応液中にマンガンイオンなどを存在させることによりDNA分子中の非特定塩基に置換を生じさせることが可能である。
本発明のプロモーター型ポリヌクレオチド及び本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、本発明により開示された配列情報に基づいて一般的遺伝子工学的手法により容易に製造・取得することが出来る。
本発明のプロモーター及び本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、例えば次のように得ることができるが、この方法に限らず公知の操作「Molecular Cloning」[Sambrook,Jら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年、等]でも得ることができる。
例えば、(1)PCRを用いた方法、(2)常法の遺伝子工学的手法(すなわちcDNAライブラリーで形質転換した形質転換株から所望のアミノ酸を含む形質転換株を選択する方法)を用いる方法、又は(3)化学合成法などを挙げることができる。各製造方法については、WO01/34785に記載されているのと同様に実施できる。
PCRを用いた方法では、例えば、前記特許文献の「発明の実施の形態」1)蛋白質遺伝子の製造方法a)第1製造法に記載された手順により、本明細書記載のポリヌクレオチドを製造することができる。該記載において、「本発明の蛋白質を産生する能力を有するヒト細胞あるいは組織」とは、例えば、ヒト骨格筋を挙げることができる。ヒト骨格筋からmRNAを抽出する。次いで、このmRNAをランダムプライマーまたはオリゴdTプライマーの存在下で、逆転写酵素反応を行い、第一鎖cDNAを合成することが出来る。得られた第一鎖cDNAを用い、目的遺伝子の一部の領域をはさんだ2種類のプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(PCR)に供し、本発明のポリヌクレオチドまたはその一部を得ることができる。より具体的には、例えば実施例1、実施例7、又は実施例8に記載の方法により本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド及び/又は本発明のプロモーター型ポリヌクレオチドを製造することが出来る。
常法の遺伝子工学的手法を用いる方法では、例えば、前記特許文献の「発明の実施の形態」1)蛋白質遺伝子の製造方法b)第2製造法に記載された手順により、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド及び/又は本発明のプロモーター型ポリヌクレオチドを製造することができる。
化学合成法を用いた方法では、例えば、前記特許文献の「発明の実施の形態」1)蛋白質遺伝子の製造方法c)第3製造法、d)第4製造法に記載された方法によって、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド及び/又は本発明のプロモーター型ポリヌクレオチドを製造することができる。
本発明のプロモーター型ポリヌクレオチドを用い、試験化合物が本発明のプロモーター活性を阻害するか否かを分析することにより、本発明のポリペプチドの発現を抑制する物質をスクリーニングすることができる。本発明者らは、本発明のポリペプチドの1つであるヒトCbAP40は糖の取り込みを阻害すること(実施例6)、インスリン抵抗性を改善することが知られているチアゾリジン誘導体により本発明のプロモーター由来の転写誘導活性が抑制されること(実施例7)を明らかにした。これらのことから前記本発明のポリペプチドの発現を抑制する物質は、糖取り込み阻害を改善し2型糖尿病改善薬、特にインスリン抵抗性改善薬及び/又は糖代謝改善薬として有用である。従って、本発明のプロモーターは2型糖尿病改善薬、特にインスリン抵抗性改善薬及び/又は糖代謝改善薬のスクリーニングツールとして使用することができる。
本発明のマウス型ポリヌクレオチドにより本発明のポリペプチド、例えばマウスCbAP40を製造することができる。
<本発明のポリペプチドの製造方法>
本発明には、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを組み込んだ発現ベクターにより形質転換された細胞を培養することを特徴とする本発明のポリペプチドの製造方法も包含される。
上述のように得られた本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、「Molecular Cloning、Sambrook,Jら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年」等に記載の方法により、適当なプロモーターの下流に連結することで本発明のポリペプチドを試験管内、あるいは試験細胞内で発現させることができる。
具体的には上述のように得られた本発明のポリペプチドの開始コドン上流に特定のプロモーター配列を含むポリヌクレオチドを付加することにより、これを鋳型として用いた無細胞系での遺伝子の転写、翻訳による本発明のポリペプチドの発現が可能である。
あるいは上述の本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを適当なプラスミドベクターに組み込み、プラスミドの形で宿主細胞に導入すれば細胞内で本発明のポリペプチドの発現が可能になる。あるいは、このような構成が染色体DNAに組み込まれた細胞を取得してこれを用いてもよい。より具体的には、単離されたポリヌクレオチドを含む断片は、適当なプラスミドベクターに再び組込むことにより、真核生物及び原核生物の宿主細胞を形質転換させることができる。さらに、これらのベクターに適当なプロモーター及び形質発現にかかわる配列を導入することにより、それぞれの宿主細胞において本発明のポリペプチドを発現させることが可能である。宿主細胞は、特に限定されるわけではなく、本発明のポリペプチドの発現量をメッセンジャーRNAレベルで、あるいは蛋白質レベルで検出できるものであればよい。内在性のCbAP40が豊富に存在する筋肉由来細胞を宿主細胞として用いることがより好ましい。
宿主細胞を形質転換し遺伝子を発現させる方法は、例えば、前記特許文献の「発明の実施の形態」2)本発明のベクター、本発明の宿主細胞、本発明の組換え蛋白の製造方法に記載された方法により実施できる。発現ベクターは、所望のポリヌクレオチドを含む限り、特に限定されるものではない。例えば、用いる宿主細胞に応じて適宜選択した公知の発現ベクターに、所望のポリヌクレオチドを挿入することにより得られる発現ベクターを挙げることができる。本発明の細胞は、例えば、前記発現ベクターにより所望の宿主細胞をトランスフェクションすることにより得ることができる。より具体的には、例えば、実施例2又は実施例8に記載のように所望のポリヌクレオチドを哺乳類動物細胞用の発現ベクターpcDNA3.1(インビトロジェン社)に組み込むことにより、所望の蛋白質の発現ベクターを得ることができ、該発現ベクターをリン酸カルシウム法を用いて293細胞に取り込ませて本発明の形質転換細胞を製造することができる。
上記で得られる所望の形質転換細胞は、常法に従い培養することができ、該培養により所望の蛋白質が生産される。該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択できる。例えば上記293細胞であれば牛胎児血清(FBS)等の血清成分を添加したダルベッコ修飾イーグル最小必須培地(DMEM)等の培地にG418を加えたものを使用できる。
本発明の細胞を培養することにより、細胞中で産生した本発明のポリペプチドを検出、定量、さらには精製することが出来る。例えば、本発明のポリペプチドと結合する抗体を用いたウエスタンブロット法、あるいは免疫沈降法により本発明のポリペプチドを検出、精製することが可能である。あるいは、本発明のポリペプチドを、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、プロテインA、β−ガラクトシダーゼ、マルトース−バインディングプロテイン(MBP)など適当なタグ蛋白質との融合蛋白質として発現させることにより、これらタグ蛋白質に特異的な抗体を用いてウエスタンブロット法、あるいは免疫沈降法により本発明のポリペプチドを検出、タグ蛋白質を利用して精製することが出来る。より具体的には以下のようにしてタグ蛋白質を利用して精製することができる。
本発明のポリペプチド(例えば、配列番号2又は配列番号26で表されるポリペプチド)は、これらをコードするポリヌクレオチドを、例えばHisタグが融合されるベクター、より具体的には例えば実施例1又は実施例8に記載のpcDNA3.1/V5−His−TOPO(インビトロジェン社)等に組み込むことで培養細胞に発現させ、Hisタグを用いて精製した後でタグ部分を除去することにより得ることができる。例えば実施例1又は実施例8においてpcDNA3.1/V5−His−TOPOを用いて作製したヒトあるいはマウスのCbAP40発現プラスミドは、いずれもCbAP40のC−末端にV5およびHisタグが付加されるように設計されている。これにより、それらのHisタグを利用して、実施例2又は実施例8に示したCbAP40を発現させた培養細胞からCbAP40蛋白質を精製することができる。具体的には公知の方法(実験医学別冊 タンパク質の分子間相互作用実験法、1996年 32頁 中原ら)に従って、破砕した細胞の抽出液よりHisタグと融合したCbAP40蛋白質をNi2+−NTA−Agarose(フナコシ)に結合させて遠心分離により単離することができる。より具体的には培養フラスコ(例えば10cm径のシャーレ)に培養させた本発明のポリペプチド発現細胞を適当な量の緩衝液(例えば、1ml)を加えて掻き取った後、毎分15000回転で5分間の遠心分離によって上清を分離し、適当な緩衝液で置換した適量(例えば50μM)のNi2+−NTA−Agaroseを加えて十分に混合する(例えば、ローテーターで10分以上攪拌する)ことができる。続いて遠心分離(例えば毎分2000回転で2分間)により上清を分離して除去し、pHを6.8にした緩衝液を適量(例えば0.5ml)加えて再度遠心分離することにより洗浄する。これを3回繰り返した後適量(例えば50μl)の100mM EDTAを加えて10分置き、上清を回収することにより遊離した本発明のポリペプチドを精製することができる。上記緩衝液としては、例えば緩衝液B(8M Urea,0.1M NaHPO,0.1M NaHPO,0.01M Tris−HCl pH8.0)を用いることができる。精製した蛋白質分子中のHisタグは、例えばN末端側にHisタグを融合させるよう設計することによりTAGZyme System(キアゲン社)を用いることで分子中から除去することができる。
あるいは所望により、タグ蛋白質を利用しない方法、例えば、本発明のポリペプチドからなる蛋白質の物理的性質、化学的性質を利用した各種の分離操作によっても精製できる。具体的には限外濾過、遠心分離、ゲル濾過、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィーの利用を例示することが出来る。
本発明のポリペプチドは、配列番号2又は配列番号26に示すアミノ酸配列情報に従って、一般的な化学合成法により製造することが出来る。具体的には液相、及び固相法によるペプチド合成法が包含される。合成はアミノ酸を1個ずつ逐次結合させても、数アミノ酸からなるペプチド断片を合成した後に結合させてもよい。これらの手段により得られる本発明ポリペプチドは前記した各種の方法に従って精製を行うことが出来る。
<本発明の発現ベクター及び細胞>
本発明の発現ベクターには、本発明のマウス型ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、及びプロモーター型ポリヌクレオチドを含む発現ベクターが含まれる。
本発明の細胞には、本発明のマウス型ポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された細胞(以下、マウス型ポリヌクレオチド発現細胞と称する)、及びプロモーター型ポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された細胞(以下、プロモーター発現細胞と称する)が含まれる。本発明の細胞としては、マウス型ポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された細胞又はプロモーター型ポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された細胞のうち、マウス型ポリヌクレオチドを発現している細胞又はプロモーター型ポリヌクレオチドのプロモーター活性を発現している細胞が好ましい。
本発明のマウス型ポリヌクレオチド形質転換細胞又はプロモーター形質転換細胞は、目的に応じ適宜選択した宿主細胞に本発明のマウス型ポリヌクレオチド又はプロモーター型ポリヌクレオチドを組み込むことにより製造できる。目的に応じ適宜選択したベクターに本発明のマウス型ポリヌクレオチド又はプロモーター型ポリヌクレオチドを組み込むことにより製造するのが好ましい。
例えばプロモーター形質転換細胞は、プロモーター活性を阻害するか否かを分析する系の構築を目的とする場合には実施例7に示したように、ルシフェラーゼ等のレポーター遺伝子を組み込んだベクターに本発明のプロモーター型ポリヌクレオチドを組み込んで製造することが好ましい。プロモーター領域と融合するレポーター遺伝子は、一般に用いられるものであれば特に限定されないが、定量的測定が容易な酵素遺伝子などが好ましい。例えば、バクテリアトランスポゾン由来のクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(CAT)、ホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子(Luc)、クラゲ由来の緑色蛍光蛋白質遺伝子(GFP)等があげられる。レポーター遺伝子は、本発明のプロモーター型ポリヌクレオチドと機能的に融合されていればよい。例えば、本発明のプロモーター活性を調節する物質のスクリーニング系の構築を目的とする場合には、細胞としては哺乳動物(例えば、ヒト、マウス又はラットなど)由来の細胞を用いることが好ましく、ヒト由来の細胞を用いることがより好ましい。
マウス型ポリヌクレオチド形質転換細胞は本発明のポリペプチドを製造するために利用することができる。
本発明の発現ベクター及び細胞は本発明のスクリーニング方法(例えば、プロモーター活性を調節する物質のスクリーニング方法(実施例7)、本発明のポリペプチドとc−Cb1との結合を利用したスクリーニング方法)に用いることができ、該スクリーニングのツールとして有用である。
<本発明のスクリーニングツール及びスクリーニングのための使用>
本発明には、(1)本発明のポリペプチド、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、本発明のプロモーター型ポリヌクレオチド、又は本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド若しくは本発明のプロモーター型ポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された細胞からなる2型糖尿病改善薬スクリーニングツール、
(2)本発明のポリペプチド、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、本発明のプロモーター型ポリヌクレオチド、又は本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド若しくは本発明のプロモーター型ポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された細胞の2型糖尿病改善薬スクリーニングのための使用が含まれる。
本明細書において、「スクリーニングツール」とは、スクリーニングの為に用いる物(具体的には、スクリーニングの為に用いるポリペプチド、ポリヌクレオチド又は細胞)をいう。「2型糖尿病改善薬スクリーニングツール」とは、2型糖尿病改善薬(特にインスリン抵抗性改善薬及び/又は糖代謝改善薬)をスクリーニングするために、本発明のスクリーニング方法において、試験化合物を接触させる対象となる細胞、ポリヌクレオチド又はポリペプチドである。本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド又は細胞の、2型糖尿病改善薬(特にインスリン抵抗性改善薬及び/又は糖代謝改善薬)スクリーニングのための使用も本発明に含まれる。
<本発明の分析方法又はスクリーニング方法>
本発明のポリペプチドの一つであるCbAP40がc−Cb1と結合すること(実施例1、実施例9)、糖尿病モデルマウスで発現が増加していること(実施例5)を見出し、更にヒトCbAP40蛋白質をコードする遺伝子を筋肉細胞に高発現させると糖取り込み量が減少することを見出した(実施例6)。従って、本発明のポリペプチドとc−Cb1との結合を阻害する物質は糖取り込みを改善する物質となることがわかった。加えて、本発明のポリペプチドのプロモーター由来の転写誘導活性がインスリン抵抗性を改善することが知られているチアゾリジン誘導体により抑制されることを明らかにした(実施例7)。このことから該プロモーター活性を指標として2型糖尿病改善作用を有する物質(特にインスリン抵抗性改善作用及び/又は糖代謝改善作用を有する物質)をスクリーニングできることがわかった。
即ち、本発明の分析方法又はスクリーニング方法には、本発明のポリペプチドを使用した、本発明のポリペプチドとc−Cb1蛋白質との相互作用の変化を指標とすることからなる2型糖尿病改善作用を有する物質(特にインスリン抵抗性改善作用を有する物質及び/又は糖代謝改善作用を有する物質)のスクリーニング方法が含まれる。また、本発明の分析方法又はスクリーニング方法には、本発明プロモーター型ポリヌクレオチドを利用して、該プロモーター活性の変化を指標とすることからなる2型糖尿病改善作用を有する物質(特にインスリン抵抗性改善作用を有する物質及び/又は糖代謝改善作用を有する物質)のスクリーニング方法が含まれる。
c−Cb1蛋白質との相互作用を利用した本発明のスクリーニングに用いるポリペプチドとしては、本発明のポリペプチド又は相同ポリペプチドを挙げることができる。配列番号2又は配列番号26で表されるアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、かつ、c−Cb1に結合する蛋白質であるポリペプチドのことを相同ポリペプチドと称する。本明細書の相同ポリペプチドは、配列番号2又は配列番号26で表されるアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列からなり、かつ、c−Cb1に結合するポリペプチドである限り、特に限定されるものではないが、配列番号2又は配列番号26で表されるアミノ酸配列に関して、好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなるポリペプチドが好ましい。
なお、本明細書における前記「相同性」とは、Clustal program(Higgins and Sharp,Gene 73,237−244,1998;Thompson et al.Nucl.Acids Res.22,4673−4680,1994)(Clustal V)検索によりデフォルトで用意されているパラメータを用いて得られた値(同一性)を意味する。前記のパラメータは以下のとおりである。
Pairwise Alignment Parametersとして
K tuple 1
Gap Penalty 3
Window 5
Diagonals Saved 5
本発明のスクリーニングに用いることができるポリペプチド(すなわち本発明のポリペプチド及び相同ポリペプチド)をスクリーニング用ポリペプチドと称する。
本発明の分析方法又はスクリーニング方法には、より具体的には以下の方法が含まれる。
本発明のプロモーターを利用する系として、
〈1〉(1)本発明のプロモーター発現細胞と試験物質とを接触させる工程、及び
(2)プロモーター活性を検出する工程
を含む、試験物質が本発明のプロモーターの活性を阻害するか否かを分析する方法。
〈2〉〈1〉に記載の方法による分析工程、及び
プロモーター活性を阻害する物質を選択する工程
を含む、本発明のポリペプチドの発現を抑制する物質あるいは2型糖尿病改善薬をスクリーニングする方法。
本発明のポリペプチドとc−Cb1との結合を利用した系として、
〈3〉本発明スクリーニング用ポリペプチドとc−Cb1と試験物質とを接触させる工程、及び
前記ポリペプチドとc−Cb1との結合を検出する工程
を含む、試験物質が前記結合を阻害するか否かを分析する方法。
〈4〉〈3〉に記載の方法による分析工程、及び
結合を阻害する物質を選択する工程
を含む、本発明のスクリーニング用ポリペプチドとc−Cb1との結合阻害物質あるいは2型糖尿病改善薬をスクリーニングする方法。
本発明のプロモーターを利用する系としての実施態様の一つとしてレポーター遺伝子アッセイ系が上げられる。レポーター遺伝子アッセイ(田村ら、転写因子研究法、羊土社、1993年)は、レポーター遺伝子の発現をマーカーとして遺伝子の発現調節を検出する方法である。一般に遺伝子の発現調節はその5’上流域に存在するプロモーター領域と呼ばれる部分で制御されており、転写段階での遺伝子発現量はこのプロモーターの活性を測定することで推測することができる。試験物質がプロモーターを活性化すれば、プロモーター領域の下流に配置されたレポーター遺伝子の転写を活性化する。このようにプロモーター活性化作用すなわち発現亢進作用をレポーター遺伝子の発現に置き換えて検出することができる。したがって、本発明のプロモーター型ポリヌクレオチドを用いたレポーター遺伝子アッセイにより、本発明のポリペプチドの発現調節に対する試験物質の作用はレポーター遺伝子の発現に置き換えて検出することができる。本発明のプロモーター型ポリヌクレオチド(例えば配列番号3で表される塩基配列からなる配列)と融合された「レポーター遺伝子」は、一般に用いられるものであれば特に限定されないが、定量的測定が容易な酵素遺伝子などが好ましい。例えば、バクテリアトランスポゾン由来のクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子(CAT)、ホタル由来のルシフェラーゼ遺伝子(Luc)、クラゲ由来の緑色蛍光蛋白質遺伝子(GFP)等があげられる。レポーター遺伝子は、本発明のプロモーター型ポリヌクレオチドと機能的に融合されていればよい。本発明のプロモーターと融合されたレポーター遺伝子により形質転換された細胞に試験物質を接触した場合と接触しなかった場合のレポーター遺伝子の発現量を比較することにより試験物質依存的な転写誘導活性の変化を分析することができる。上記工程を実施することにより、本発明のポリペプチドの発現を抑制する物質あるいはインスリン抵抗性改善薬及び/又は糖代謝改善薬のスクリーニングを実施できる。具体的には、実施例7に記載の方法により、前記スクリーニングを実施できる。
本発明のポリペプチドとc−Cb1との結合を利用した系として、具体的には、本発明のスクリーニング用ポリペプチドの一部あるいは全長域、あるいはGSTやFlag、6×Hisなどのタグを融合させた本発明のスクリーニング用ポリペプチドの一部あるいは全長域を発現させた試験用細胞を試験物質で未処理又は処理する。
前記試験用細胞としてはインスリンに応答する細胞が好ましく、より具体的には脂肪細胞、肝細胞、あるいは骨格筋由来細胞が好ましい。前記細胞から抗c−Cb1抗体を用いた免疫沈降によりc−Cb1蛋白質とそこに結合する蛋白質を濃縮することができる。この濃縮過程では反応液中に上記で細胞を処理した同じ試験物質を含有させておくことが望ましい。得られたc−Cb1およびその結合蛋白質の濃縮液を公知の方法によりポリアクリルアミドゲル電気泳動法により分離し、抗体を用いたウエスタンブロティングによりスクリーニング用ポリペプチドの量を測定することにより、スクリーニング用ポリペプチドとc−Cb1との結合を阻害する試験物質を選択することができる。ここで用いる抗体は、スクリーニング用ポリペプチド或いはその部分配列をもとに作製したスクリーニング用ポリペプチドに対する抗体(例えば抗CbAP40抗体)、あるいは上記タグを認識する抗体を利用することができる。
また上述と同様にスクリーニング用ポリペプチドを発現させた細胞の抽出液に試験物質を添加あるいは未添加したものから、GSTなどのタグをつけて精製したc−Cb1蛋白質を用いたin vitroのプルダウン法(実験工学、Vol13、No.6、1994年528頁 松七五三ら)とウエスタンブロッティングを組み合わせるによってもc−Cb1とスクリーニング用ポリペプチドの結合を阻害する試験物質を選択することができる。あるいはここでスクリーニング用ポリペプチドを発現させた細胞の抽出液を用いずに、スクリーニング用ポリペプチドの発現プラスミドから直接スクリーニング用ポリペプチドである蛋白質をTNTキット(プロメガ社)を用いてin vitroで転写及び翻訳して作製した蛋白質混合液に試験物質を添加あるいは未添加したものを用いても同様にc−Cb1とスクリーニング用ポリペプチドとの結合を阻害する試験物質を選択することができる。これらの方法ではいずれもポリアクリルアミド電気泳動法を行わずに公知のスポットウエスタンブロッティングを行うことにより多数の試験物質をスクリーニングすることが可能である。また上述と同様のタグを融合させて発現させたスクリーニング用ポリペプチドおよびc−Cb1を同時に発現させた細胞の溶解液に試験物質を添加することからなる公知のELISA法に従ってもc−Cb1とスクリーニング用ポリペプチドの結合を阻害する試験物質を選択するスクリーニングが可能である。また公知の哺乳類細胞におけるツーハイブリッドシステム(クロンテック社)を利用して、ベイトにGAL4のDNA結合領域と融合させたc−Cb1を、プレイ側にVP16の転写促進領域を融合させたスクリーニング用ポリペプチドを配置することにより、既存のCATあるいはルシフェラーゼ活性の検出によりc−Cb1とスクリーニング用ポリペプチドとの結合を阻害する試験物質を大多数の母集団からスクリーニングし選択することが可能である。
本発明のスクリーニング法で使用する試験物質としては、特に限定されるものではないが、例えば、市販の化合物(ペプチドを含む)、ケミカルファイルに登録されている種々の公知化合物(ペプチドを含む)、コンビナトリアル・ケミストリー技術(N.Terrett et al.,Drug Discov.Today,4(1):41,1999)によって得られた化合物群、微生物の培養上清、植物や海洋生物由来の天然成分、動物組織抽出物、あるいは、本発明のスクリーニング法により選択された化合物(ペプチドを含む)を化学的又は生物学的に修飾した化合物(ペプチドを含む)を挙げることができる。
2型糖尿病改善作用の分析は、当業者に公知の方法、あるいは、それを改良した方法を用いることにより実施することができる。例えば、本発明のスクリーニング法により選択された化合物を糖尿病モデル動物に連続投与し、常法に従って随時血糖低下作用を確認することにより、あるいは、経口糖負荷試験後の血糖上昇抑制作用の確認を行なうことにより、2型糖尿病改善効果の有無を判定することができる。また、ヒトのインスリン抵抗性を測定し、その値の改善を指標に2型糖尿病改善作用を分析することもできる。インスリン抵抗性はヒトでは主に2つの方法で測定されている。ひとつは絶食後に血糖値とインスリン濃度を測定するものであり、他方はブドウ糖負荷試験といわれるもので、グルコース液を経口投与し、血液循環からのクリアランス率を知る方法である。さらに、より正確な試験としてはオイグリセミック・高インスリン血症クランプ法が挙げられる。この試験は、血中のインスリンとグルコースは一定濃度に維持されるという原理を利用したもので、時間の経過に伴って投与されたグルコース液の総量と代謝に利用されるインスリン濃度を測定するものである。
<糖尿病の検査方法>
本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドにストリンジェントな条件下でハイブリダイズするプローブを用いることにより、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現量を調べることができ、その発現量(好ましくは骨格筋における発現量)の増加を指標として糖尿病の診断をすることができる。糖尿病の検査方法において、「ストリンジェントな条件」とは、非特異的な結合が起こらない条件を意味し、具体的には、0.1%ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)を含有する0.1×SSC(Saline−sodium citrate buffer)溶液を使用し、温度が65℃である条件を意味する。プローブとしては、本発明のポリヌクレオチドの少なくとも一部若しくは全部の配列(またはその相補配列)を有し、少なくとも15bpの鎖長のDNAが用いられる。
糖尿病の検出方法では、上述のプローブと試験試料とを接触させ、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド(例えば、mRNA又はそれ由来のcDNA)と前記プローブとの結合体を、公知の分析方法(例えば、ノザンブロッティング)で分析することにより、糖尿病であるか否かを検出することができる。また、上述のプローブをDNAチップに適用し、発現量を分析することもできる。前記結合体の量、すなわち、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの量が、健常人に比べて増加している場合には、糖尿病であると判定することができる。
本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現レベルを測定する方法として、発現レベルを本発明のポリペプチドの検出によって測定する方法が可能である。このような検査方法としては、例えば、試験試料を本発明のポリペプチドに結合する抗体、好ましくは、本発明のポリペプチドに特異的に結合する抗体を利用したウエスタンブロッティング、免疫沈降法、ELISA法などを利用することが出来る。試験試料中に含まれる本発明のポリペプチドの量を定量する際、本発明のポリペプチドを標準量として利用することができる。また、本発明のポリペプチドは本発明のポリペプチドに結合する抗体を作製するために有用である。本発明のポリペプチドの量が健常人に比べて増加している場合には、糖尿病であると判定することができる。
以下、実施例によって本発明を詳述するが、本発明は該実施例によって限定されるものではない。なお、特に断りがない場合は、公知の方法(「Molecular Cloning」Sambrook,Jら、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989年、等)に従って実施可能である。また、市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従って実施可能である。
[実施例1]c−Cb1結合分子CbAP40の遺伝子クローニングと発現ベクターの構築
(1)c−Cb1遺伝子のクローニング
遺伝子データベースGenBankのアクセッション番号X57111に記載されたマウスc−Cb1の全長領域をコードするcDNA配列を参照して設計した配列番号4及び配列番号5(5’側)、並びに配列番号6および配列番号7(3’側)で示されるオリゴヌクレオチドをプライマーとし、マウス骨格筋cDNAを鋳型として、DNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA Polymerase、宝酒造社)を用いて、95℃3分間の熱変性反応の後、98℃10秒間、60℃30秒間、74℃1分30秒からなるサイクルを40回、さらに74℃7分間の条件でPCRを行なった。これにより生成した約1.3kbpおよび1.5kbpのDNA断片を、プラスミドpZErOTM−2.1(インビトロジェン社)のEcoRV認識部位に挿入することにより、マウスc−Cb1 cDNAの5’側と3’側をそれぞれサブクローニングした。どちらの遺伝子断片もマウスc−Cb1 cDNA上に唯一存在するBamHI認識部位を含んでいる。このBamHI認識部位と配列番号4に付加したKpnI認識部位、および配列番号7に付加したXhoI認識部位を利用し、各サブクローンから5’側のKpnI−BamHI断片、3’側のBamHI−XhoI断片を切り出し、pcDNA3.1(+)のKpnI−XhoI間に挿入することにより、マウスc−Cb1 cDNAの全長を得た。なおシーケンシングキット(アプライドバイオシステム社)及びシーケンサー(ABI 3700 DNA sequencerアプライドバイオシステムズ社)を用いて、ベクター上にクローニングしたc−Cb1 cDNAの塩基配列が報告されている配列と一致することを確認した。
(2)酵母ツーハイブリッド検索
上述のマウスのc−Cb1 cDNAを特許文献(WO03/062427)実施例2(2)に示された方法に従い酵母ツーハイブリッド用発現ベクターに相同組み換えを利用して挿入した。ここでは配列番号8及び配列番号9に示すプライマーを設計し、これらを用いて上述のマウスのc−Cb1 cDNAを鋳型としてPCR反応により相同組み換えに必要な40merの配列を前後に付随させたc−Cb1 cDNA断片を得た。相同組み換えにより作製した発現ベクターは上記遠藤らの特許文献実施例2(2)の方法に従い配列の確認を行った後、同実施例2(3)と同一の方法に従いヒト骨格筋ライブラリー中から相互作用因子をスクリーニングした。c−Cb1に結合する蛋白質を発現している酵母細胞を特定し、同細胞からライブラリー由来のプラスミドを抽出した。そこに含まれる遺伝子断片の塩基配列を、同実施例2(2)に示した方法に従い塩基配列決定した結果、配列番号1に示す塩基配列の3’末端側にある934番目から1101番目の塩基に相当する部分の配列を含む1クローンが含まれていることを確認した。このクローンは配列番号2に示すポリペプチドのカルボキシル末端側の正味55アミノ酸を含む蛋白質をコードするDNA配列を有しており、酵母中で該55アミノ酸のポリペプチドを含む融合蛋白質を発現する能力を有している。従って配列番号2に示すポリペプチドはカルボキシル末端側の55アミノ酸部分でc−Cb1と結合する能力を有する蛋白質であることが示された。
(3)ヒトCbAP40遺伝子の全長cDNAのクローニング
前述(2)の結果、配列番号1で表される塩基配列の一部を含む遺伝子断片を持ったライブラリー由来のプラスミドが得られ、c−Cb1に結合する因子の存在が示された。そこで配列番号1で示された塩基配列の第1079〜1089番の塩基配列の相補鎖に相当する配列番号10で表される塩基配列のプライマーを合成(プロリゴ社)し、該プライマーを用いて、前記特許文献(WO03/062427)の実施例1(4)に示した方法に従い、前述の骨格筋由来cDNAライブラリー中からPCR法により全長cDNAの増幅を試みた。PCR反応はDNAポリメラーゼ(TAKARA LA Taq;宝酒造社)を用い、94℃(3分)の後、94℃(30秒)・58℃(1.5分)・72℃(4分)のサイクルを35回繰り返し、そのPCR産物を鋳型にしてさらに同じ条件でPCRを行った。PCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分離した結果、約1200塩基対のDNA断片が増幅されたことを確認した。そこで反応液中の同DNA断片を発現ベクター(pcDNA3.1/V5−His−TOPO;インビトロジェン社)にTOPO TA Cloningシステム(インビトロジェン社)を用いてクローニングした。得られたプラスミド中の挿入DNA断片の塩基配列を、ベクター上のT7プロモーター領域に結合するプライマー(TOPO TA Cloning kit/インビトロジェン社;配列番号11)とシーケンシングキット(アプライドバイオシステム社)及びシーケンサー(ABI 3700 DNA sequencerアプライドバイオシステムズ社)を用いて決定した。その結果、配列番号1に示すDNA配列を含むクローンであることを確認し、配列番号1よりさらに5’側上流約70塩基対の配列が得られたが、配列番号2に示すアミノ酸配列をコードするDNAのトリプレットに従うと配列番号1の初めにあるATG(開始コドン)より上流には別の開始コドンは認められず、ストップコドンのトリプレットが存在した。これにより配列番号1に示す遺伝子のオープンリーディングフレームを確定した。この配列番号1の塩基配列で表される遺伝子をヒトCbAP40遺伝子と名付けた。
(4)ヒトCbAP40発現ベクターの作製
配列番号1に示す塩基配列情報に従い、配列番号12に示すプライマーを合成(プロリゴ社)し、該プライマーと前述の配列番号10に示すプライマーを用いて、正味ヒトCbAP40蛋白質をコードするcDNAを前述の(3)で得られたプラスミドを鋳型としてPCR法により増幅した。これら2種類のDNAプライマーはそれぞれ配列番号1が示すCbAP40遺伝子の5’側、3’側の部分配列と相同な塩基配列を有する。PCR反応はDNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA Polymerase;宝酒造社)を用い、98℃(1分)の後、98℃(5秒)、55℃(30秒)、72℃(5分)のサイクルを35回繰り返した。PCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分離した結果、約1.1kbpのDNA断片が増幅されたことを確認した。そこで反応液中の同DNA断片を発現ベクター(pcDNA3.1/V5−His−TOPO;インビトロジェン社)にTOPO TA Cloningシステム(インビトロジェン社)を用いてサブクローニングした。このとき用いた配列番号10に示すプライマーはクローニング後3’側にベクター由来のV5エピトープ(paramyxovirus SV5のV protein由来、Southern J A,J.Gen.Virol.72,1551−1557,1991)及びHis6タグ(Lindner P BioTechniques22,140−149,1997)がCbAP40遺伝子のトリプレットと同じフレームで続くように、ヒトCbAP40のストップコドン配列が除かれるよう設計した。得られたプラスミド中の挿入DNA断片の塩基配列を、ベクター上のT7プロモーター領域に結合するプライマー(TOPO TA Cloning kit;インビトロジェン社;配列番号11)とシーケンシングキット(アプライドバイオシステム社)及びシーケンサー(ABI 3700 DNA sequencer;アプライドバイオシステムズ社)を用いて決定した。その結果、配列番号1に示す正味ヒトCbAP40蛋白質をコードする1101塩基対のヒトCbAP40 cDNAがDNA配列の3’側のストップコドンを除いたDNAとして前述の発現ベクターpcDNA3.1/V5−His−TOPOに挿入されていることを確認した。以下この発現プラスミドをpcDNA−CbAP40と略記する。
[実施例2]ヒトCbAP40蛋白質を発現する培養細胞の作製
(1)ヒトCbAP40発現細胞の作製
上述の実施例1(4)で作製した発現プラスミドpcDNA−CbAP40又は空ベクター(pcDNA3.1)(インビトロジェン社)を293細胞に導入した。293細胞は6ウェル培養プレート(ウェル直径35mm)の培養皿に各ウェル2mlの10%牛胎児血清(シグマ社)を含む最少必須培地DMEM(ギブコ社)を加えて70%コンフルエントの状態になるまで培養した。この細胞にリン酸カルシウム法(Graham et al.,Virology,52,456,1973;新井直子、遺伝子導入と発現/解析法13−15頁1994年)によりpcDNA−CbAP40(3.0μg/ウェル)を一過性に導入した。30時間培養した後、培地を除去し、細胞をリン酸緩衝液(以下PBSと略称する)で洗浄した後にウェルあたり0.1mlの細胞溶解液(100mMリン酸カリウム(pH7.8)、0.2%トリトンX−100)を添加して細胞を溶解した。
(2)ヒトCbAP40蛋白質の検出
上記ヒトCbAP40発現細胞の溶解液10μlに10μlの2倍濃度SDSサンプルバッファー(125mMトリス塩酸(pH6.8)、3%ラウリル硫酸ナトリウム、20%グリセリン、0.14M β−メルカプトエタノール、0.02%ブロムフェノールブルー)を添加し、100℃で2分間処理した後、10%のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、試料中に含まれている蛋白質を分離した。セミドライ式ブロッティング装置(バイオラッド社)を用いてポリアクリルアミド中の蛋白質をニトロセルロース膜に転写した後、常法に従いウエスタンブロッティング法により該ニトロセルロース上のヒトCbAP40蛋白質の検出を行った。一次抗体にはCbAP40のC末端に融合させたV5エピトープを認識するモノクローナル抗体(インビトロジェン社)を用い、二次抗体にはラビットIgG−HRP融合抗体(バイオラッド社)を用いた。その結果、図1に示す通り、45アミノ酸からなるC末端側のタグを含む合計411アミノ酸からなるCbAP40−V5−His6融合蛋白質を示す約45kDaの蛋白質が発現ベクターpcDNA−CbAP40の細胞導入に依存して検出されることを確認した。これにより、培養細胞中でクローニングした前述のヒトCbAP40遺伝子は全長領域が確かに発現し、蛋白質として安定な構造をとりうることが明らかになった。
[実施例3]ヒトCbAP40蛋白質の作製
ヒトCbAP40のcDNAをGST融合発現ベクターpGEX−6P−1(アマシャムバイオサイエンス社)に挿入するため、配列番号33および34に示すプライマーを用いて前述実施例1で作製したpcDNA−CbAP40を鋳型としてPCR反応を行い、CbAP40遺伝子cDNAの5’末端に制限酵素BamHIサイトを、3’末端側には制限酵素XhoIサイトをそれぞれ付加したDNA断片を作製した。PCR反応はDNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA Polymerase;宝酒造社)を用い、98℃(1分)の後、98℃(5秒)、55℃(30秒)、72℃(5分)のサイクルを35回繰り返した。該DNA断片をBamHI及びXhoIで酵素処理して、pGEX−6P−1のBamHIおよびXhoI部位に組み換え、発現プラスミドpGEX−CbAP40を得た。
pGEX−CbAP40を大腸菌BL21を用いて、heat shock法による形質転換を行い、2.4mlの培養液で一晩振盪培養した後、その全量を400ml培養液に移し変え、37℃で3時間振盪培養した後、最終濃度が2.5mMとなるようにIPTG(シグマ社)を添加し、更に3時間振盪培養してGST融合CbAP40蛋白質(以下GST−CbAP40と略記する)の発現を誘導した。菌体を回収し、実験工学、Vol13、No.6、1994年 528頁 松七五三らに従ってGST−CbAP40をグルタチオンセファロースビーズ(Glutathione Sepharose 4B;アマシャム・ファルマシア社)上に精製した。コントロールとしてpGEX−6P−1で形質転換した大腸菌BL21からGST部分のみの蛋白質(以下GST蛋白質と略記する)を上述と同様に発現誘導して精製した。精製したこれらの蛋白質は、公知の方法に従ってSDSゲル電気泳動法による分離と、クーマジーブリリアントブルー染色により期待される分子量の蛋白質(GST−CbAP40;67kDa、GST蛋白質;26kDa)が精製されていることを確認した。
このCbAP40蛋白質の精製標品は、c−Cb1との相互作用解析、CbAP40蛋白質の抗体作製など多岐の用途に利用できる。具体的には、後述の実施例9(3)に示す方法により、c−Cb1蛋白質との直接の相互作用の有無をGST−pull down法(実験工学、Vol13、No.6、1994年 528頁 松七五三ら)によって確認することが可能である。より具体的には、c−Cb1のcDNAを鋳型としてTNT kit(TNTQuick Coupled Transcription/Translation System;プロメガ社)およびラジオアイソトープ(redivue Pro−mix L−[35S];アマシャム)を用いて添付のプロトコールに従いin vitroでの転写・翻訳によりラジオアイソトープラベルされたc−Cb1蛋白質を調製する。このc−Cb1蛋白質にグルタチオンビーズ上に精製したGST−CbAP40蛋白質をを添加して4℃で1時間振盪した後、遠心分離によりビーズ上のGST−CbAP40蛋白質に結合する蛋白質を共沈殿させる。沈殿物中の蛋白質を公知の方法に従ってSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法により分離し、オートラジオグラフィによりラベルされたc−Cb1を検出することにより、本発明のCbAP40とc−Cb1蛋白質との直接の相互作用を調べることが可能である。
[実施例4]ヒトCbAP40遺伝子の組織別発現分布解析
前述配列番号10および12に示すプライマーを用いて、CbAP40遺伝子の全長cDNA断片を、ヒト各種組織由来cDNAからPCR反応を用いて増幅を試み、各種組織におけるCbAP40の発現の有無を調べた。ヒト骨髄、脳、軟骨、心臓、腎臓、白血球、肝臓、肺、リンパ球、乳腺、卵巣、膵臓、胎盤、前立腺、骨格筋、脂肪、大動脈由来のcDNAライブラリー(クロンテック社)各2μgを鋳型としてPCR反応はDNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA Polymerase;宝酒造社))を用い、98℃(1分)の後、98℃(5秒)、55℃(30秒)、72℃(5分)のサイクルを35回繰り返した。得られたPCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分離した結果、骨格筋、膵臓由来のcDNAライブラリーから所望するヒトCbAP40遺伝子と思われる約1100塩基対のDNA断片が増幅された。これらのDNA断片をアガロースゲル中から分離した後、上述の実施例1(4)に記した方法に従い配列番号12に示すプライマーを用いて該DNA断片の塩基配列をそれぞれ決定した結果、配列番号1に示すヒトCbAP40遺伝子であることを確認した。このことから、ヒトCbAP40遺伝子の発現はインスリンシグナルに応答する筋肉および膵臓などごく限定された臓器で特異的に制御されていることが判明した。
[実施例5]正常マウスおよび糖尿病モデルマウスにおけるCbAP40発現量の測定
上述の知見により本発明のヒトCbAP40蛋白質はc−Cb1と結合し、骨格筋などのインスリン応答組織に発現していることが判明した。c−Cb1蛋白質はインスリンシグナル第2経路に作用する因子であることから、本発明のCbAP40の作用がインスリン抵抗性に関わることが予想された。そこで正常マウスC57BL/6Jとm+/m+、および2型糖尿病モデルマウスKKA/Taとdb/dbの筋肉におけるCbAP40遺伝子のメッセンジャーRNA(mRNA)発現量を測定した。
遺伝子発現量は、本発明のマウスCbAP40遺伝子の発現量を測定し、同時に測定したグリセルアルデヒド3−リン酸脱水素酵素(Glyceraldehyde 3−phosphate dehydrogenase(G3PDH))遺伝子の発現量により補正した。測定系としてはPRISMTM 7700 Sequence Detection SystemとSYBR Green PCR Master Mix(アプライドバイオシステムズ社)を用いた。本測定系においてはPCRで増幅された2本鎖DNAがとりこむSYBR Green I色素の蛍光量をリアルタイムに検出・定量することにより、目的とする遺伝子の発現量が決定される。
具体的には、以下の手順により測定した。
(1)全RNA(totalRNA)の調製
15週齢のオスのC57BL/6Jマウス、KKA/Taマウス、m+/m+マウス、db/dbマウス(いずれも日本クレア社)を使用した。各マウスの筋肉を摘出し、RNA抽出用試薬(Isogen;ニッポンジーン社)を用いて説明書に従い全RNAを調製した。調製した各々の全RNAはその後デオキシリボヌクレアーゼ(ニッポンジーン社)を用いて処理し、フェノール/クロロホルム処理、エタノール沈殿して滅菌水に溶解し−20℃で保存した。
(2)1本鎖cDNAの合成
全RNAから1本鎖cDNAへの逆転写は、(1)で調製した1μgのRNAをそれぞれ用い、逆転写反応用キット(AdvantageTM RT−for−PCR Kit;クロンテック社)を用いて20μlの系で行った。逆転写後、滅菌水180μlを加えて−20℃で保存した。
(3)PCRプライマーの作製
4つのオリゴヌクレオチド(配列番号13−配列番号16)を(4)の項で述べるPCRのプライマーとして設計した。マウスCbAP40遺伝子に対しては配列番号13と配列番号14の組合せ、G3PDH遺伝子に対しては配列番号15と配列番号16の組み合わせで使用した。
(4)遺伝子発現量の測定
PRISMTM 7700 Sequence Detection SystemによるPCR増幅のリアルタイム測定は25μlの系で説明書に従って行った。各系において1本鎖cDNAは5μl、2×SYBR Green試薬を12.5μl、各プライマーは7.5pmol使用した。ここで1本鎖cDNAは(2)で保存したものを100倍希釈して使用した。なお検量線作成には、1本鎖cDNAに代えて0.1μg/μlのマウスゲノムDNA(クロンテック社)を適当に希釈したものを5μl用いた。PCRは、50℃で10分に続いて95℃で10分の後、95℃で15秒、60℃で60秒の2ステップからなる工程を45サイクル繰り返すことにより行った。
各試料におけるマウスCbAP40遺伝子の発現量は、下記式に基づいてG3PDH遺伝子の発現量で補正した。
[CbAP40補正発現量]=[CbAP40遺伝子の発現量(生データ)]/[G3PDH遺伝子の発現量(生データ)]
筋肉組織における発現量の比較においてはC57BL/6Jマウスの発現量を1とした相対量を図2に示した。図の値は平均±SEを示している。図中の記号「*」はDunnett検定における評価を示しており、有意差がp<0.05であることを意味している。
図2に示す通り、本発明のマウスCbAP40遺伝子の発現は、糖尿病モデルマウスの筋肉において発現が顕著に増加していることが判明した。またヒトにおいてはインスリンに依存した細胞への糖取り込みの75%が骨格筋で行われることが知られている。従って本発明のCbAP40は筋肉における発現亢進を介してインスリン抵抗性を惹起すると考えられ、インスリン抵抗性への関与が大きいと結論づけられる。
また本実施例の結果より、CbAP40発現量の測定により糖尿病病態の診断が出来ることが明らかとなった。
[実施例6]ヒトCbAP40高発現細胞における糖取り込み能の測定
(1)アデノウイルスベクターを利用したヒトCbAP40高発現ウイルスの作製
基本的に次のWebサイトの情報(He T−Cら、A simplified system for rapid generation of recombinant adenoviruses.A practical guide for using the AdEasy system.)を基にウイルスを作製した。
http://www.coloncancer.org/adeasy/protocol.htm
実施例1で作製したpcDNA−CbAP40から制限酵素KpnIとNotIを用いてヒトCbAP40遺伝子断片を切り出し、同制限酵素を利用してベクターpAdTrack−CMV(He T−C.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,95,2509−2514,1998)にヒトCbAP40遺伝子をサブクローニングした(以下pAdTrack−CMV−CbAP40)。これを制限酵素PmeIで消化し大腸菌内でアデノウイルスベクターpAdEasy−1に組み換えた。組み換えが起きたことは、制限酵素PacI消化及びアガロースゲル電気泳動により4.5kbの遺伝子断片が見られることで確認された。組み換えられたウイルスベクターを調製し制限酵素PacIで消化して1本鎖化したのち、リポフェクトアミン2000試薬(インビトロジェン社)を利用して293細胞に遺伝子導入した。ヒトCbAP40高発現ウイルスは、293細胞で大量に増殖させたのち以下に示す塩化セシウムを用いた密度勾配遠心により精製して実験に用いた。
まずヒトCbAP40高発現ウイルスに感染させた293細胞をコラーゲンコートしたシャーレからスクレーパーを用いてはがし、1500rpmで5分遠心して集めた。培地を除去したのち293細胞をPBSに懸濁し、ドライアイスエタノールを用いた凍結と37℃の湯浴を用いた融解および激しい懸濁の3ステップからなる工程を4回繰り返した。この操作により細胞内で増殖したウイルスが細胞外に出てくる。細胞懸濁液を1500rpmで5分遠心し、その上清画分を集めた。次に1リットルあたりNaCl 43.9g,KCl 3.7g,Tris 30.3g,Na2HPO4 1.42gを含みHClでpH7.4に調製した溶液を作製し、これに塩化セシウムを溶解させて、密度1.339,1.368,1.377の3種の塩化セシウム溶液を用意した。密度1.377の塩化セシウム溶液に密度1.339の塩化セシウム溶液を重層し、さらにその上に先に集めたウイルス上清画分を重層して、ベックマンのSW41ローターを用いて35000rpmで1.5時間超遠心した。一番下に見られるバンドにウイルスが含まれるので、これを18ゲージのシリンジで回収した。密度1.368の塩化セシウム溶液にこのウイルス画分を重層し、もう一度35000rpmで18時間超遠心した。18ゲージのシリンジでウイルスを回収し、透析チューブに移して、透析液(10mM Tris−HCl,1mM MgCl2,135mM NaCl pH7.5)を用いて透析した。透析後、260nmにおける吸光度(A260)を測定して下記の計算式によりウイルスを定量、換算し、グリセロールを10%になるように添加し、実験に使用するまで−80℃でウイルスを保存した。
[式] 1 A260=1.1×1012ウイルス粒子=3.3×1011pfu/ml
(2)筋肉細胞の分化とヒトCbAP40発現アデノウイルスの添加
L6細胞を用いてCbAP40の糖とりこみに対する効果を評価した。L6細胞を10%ウシ胎児血清(FCS)を含むα最小必須培地(αMEM、インビトロジェン社)に懸濁し、コラーゲンコートした24穴プレート(旭テクノグラス社)に1.6×10個/穴になるようにまいた。翌日、2%FCSを含むαMEMに培地を交換してL6細胞の筋肉への分化を誘導し、さらにその3日後に同培地400μlに交換した。その翌日ヒトCbAP40発現アデノウイルスを1穴あたり1.6×1010pfuの濃度で培地に添加した。コントロールとしてはeGFPのみを発現させるアデノウイルスを用いた。
(3)ヒトCbAP40高発現細胞における糖取り込み能の測定
アデノウイルスを添加して24時間後、糖取り込みに対する効果を評価した。
まず培地を所定濃度のインスリンを含むKRP緩衝液(136mM NaCl,4.7mM KCl,1.25mM CaCl2,1.25mM MgSO4,5mM Na2HPO4,pH7.4)0.25mlに交換し、37℃で20分インキュベートした。次に1mMの2−デオキシ−D−グルコースを含むKRPに1mlあたり15μlの2−デオキシ−D−[U−14C]グルコース(アマシャムバイオサイエンス社)を加えたものを用意し、各穴に50μlずつ添加して37℃で10分インキュベートした。その後、冷えたリン酸緩衝生理食塩液(PBS)で3回洗い、0.1%ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)を用いて細胞を溶解し、2mlのシンチレーター(Aquazol−2、パッカードバイオサイエンス社)と混合して、細胞内に取り込まれたグルコース量を液体シンチレーションアナライザー(トライカーブB2500TR、パッカード社)を用いて測定した。結果を図3に示す。図の値は平均±SEを示している。図中の記号「*」はDunnett検定における評価を示しており、「*」は有意差がp<0.05であることを、「**」は有意差がp<0.01であることを意味している。
図3に示す通り、ヒトCbAP40遺伝子を筋肉細胞に高発現させると糖取り込み量が減少することが判明した。
[実施例7]ヒトCbAP40遺伝子のプロモーター配列の同定、および該配列の転写誘導活性を利用したインスリン抵抗性を改善する化合物のスクリーニング系
(1)ヒトCbAP40遺伝子のプロモーターのクローニング
インスリンシグナル第2経路にある分子でc−Cb1と結合することが報告されているCAP(Cb1−assosiated protein)はインスリン抵抗性改善薬であるチアゾリジン誘導体によってその発現量が増加することが知られており、該発現量の増加はチアゾリジン誘導体によるインスリン抵抗性改善作用の一機序を担うと考えられている。本発明のCbAP40はCAPと同様にc−Cb1に結合するが、上述の事実からCbAP40はCAPとは対照的にインスリン抵抗性をもたらす糖尿病の増悪因子であると考えられる。このためCbAP40の発現についてもCAPとは対照的な調節を受けていることが予想された。しかしヒトCbAP40の発現調節に関わるプロモーター配列は明らかでなかった。そこで、ヒトCbAP40プロモーター配列の取得を試み、該プロモーター配列の下流にレポーター遺伝子を配置することにより、ヒトCbAP40の発現を検出して定量化可能な系を構築し、ヒトCbAP40遺伝子の発現調節機構を調べた。
配列番号17および18に示す一対のプライマーを設計した。これらのプライマーを用いてヒトゲノムDNA(クロンテック社)を鋳型とし、PCR法(DNAポリメラーゼ(LA Taq DNA polymerase;宝酒造社)により、ヒトCbAP40のプロモーター配列を含むポリヌクレオチドの増幅を試みた。PCRの反応条件は、98℃(5分)の後、96℃(30秒)、55℃(30秒)、72℃(90秒)のサイクルを35回繰り返した後72℃で7分加温した。その結果約3.1kbpのポリヌクレオチドの増幅に成功した。次に該ポリヌクレオチドがヒトCbAP40の発現を制御するプロモーターを含むことを示すため、このPCRによって得られたDNA断片を制限酵素XhoIおよびBamHI(宝酒造社)で処理し、同様に制限酵素XhoIおよびBglIIで処理したルシフェラーゼレポーターベクター(pGL3−Basicベクター;プロメガ社)に連結してCbAP40遺伝子プロモーター連結レポーターベクター(pGL3−CbAP40p)を構築した。
pGL3−CbAP40pに挿入した3.1kbpのポリヌクレオチドは、配列番号17及び18に示すプライマー並びにpGL3−Basicベクターのマルチクローニングサイトの前後に結合する配列番号19及び20に示すDNAプライマー(プロリゴ社)を用いて塩基配列を部分的に決定した。さらに決定した塩基配列情報をもとに設計した配列番号21、22、23、及び24に示す4種類のDNAプライマー(プロリゴ社)を用いてさらに該ポリヌクレオチドの全長の塩基配列を決定した。その結果、該ポリヌクレオチドは配列番号3に示す3119bpのポリヌクレオチドであることを明らかにした。
次に同塩基配列情報をもとに上述のpGL3−CbAP40pを制限酵素HindIII処理し、続いてライゲーション反応により同プラスミドを連結して配列番号3に示すポリヌクレオチドから1231番目から3119番目の塩基までの配列を除去したプラスミドpGL3−CbAP40p[1−1231]を作製した。さらにpGL3−CbAP40pを制限酵素SmaI及びHindIIIで処理して配列番号3に示すポリヌクレオチドの1364番目から3119番目の塩基に相当するDNA断片を切り出し、同断片を制限酵素SmaI及びHindIIIで処理したpGL3−Basicベクターに連結してpGL3−CbAP40p[1364−3119]を作製した。さらに配列番号18及び23、配列番号18及び24の2対のプライマーを用いて、pGL3−CbAP40pを鋳型として上述実施例7(1)に示した条件と同様のPCR反応により配列番号3に示すポリヌクレオチドの2125から3119番目の塩基を含むDNA断片及び同2569から3119番目の塩基を含むDNA断片をそれぞれ抽出した。これらのDNA断片をそれぞれ制限酵素SacI及びBamHIで処理し、同様に制限酵素SacIおよびBglIIで処理したpGL3−Basicベクターに連結してpGL3−CbAP40p[2125−3119]及び、pGL3−CbAP40p[2569−3119]をそれぞれ構築した。これらpGL3−CbAP40p[1−1231]、pGL3−CbAP40p[1364−3119]、pGL3−CbAP40p[2125−3119]及びpGL3−CbAP40p[2569−3119]はいずれも上述の配列番号19及び20に示すDNAプライマーを用いて挿入配列の塩基配列を決定した。その結果いずれも配列番号3に示すポリヌクレオチドの部分断片を有しており、各プラスミド名の括弧内に記した数値に相当する該ポリヌクレオチドの塩基配列部分を含むことを確認した。
(2)ヒトCbAP40プロモーターの転写誘導活性を利用した化合物のスクリーニング系の構築
pGL3−CbAP40pを上述の実施例2(1)に示した方法に従ってCOS−1細胞にトランスフェクトし、空ベクターpGL3−Basic Vectorをトランスフェクトした場合と比較することにより、該ポリヌクレオチドのプロモーターとしての発現誘導活性をルシフェラーゼの活性を指標に測定した。細胞へのトランスフェクション効率の補正及びルシフェラーゼアッセイの詳細は以下の方法に従った。培養細胞293細胞(セルバンク社)は12ウェル培養プレート(ウェル直径22mm)の培養皿に各ウェル1mlの10%牛胎児血清(シグマ社)を含む最少必須培地DMEM(ギブコ社)を加えて70%コンフルエントの状態になるまで培養した。この細胞にリポフェクタミン法(LIPOFECTAMINETM2000;インビトロジェン社)を用いて、添付のプロトコールに従い上述のpGL3−CbAP40pあるいはpGL3−Basic Vector(0.8μg/ウェル)を、一過性にトランスフェクトした。ピオグリタゾン(pioglitazone、(+)−5−[4−[2−(5−エチル−2−ピリジニル)エトキシ]ベンジル]−2,4−チアゾリジンジオン)0.1μMあるいは1.0μM、あるいは10μMを培地に添加して24時間培養した後、培地を除去し、細胞をPBSで洗浄した後にウェルあたり0.1mlの細胞溶解液(100mMリン酸カリウム(pH7.8)、0.2%トリトンX−100)を添加して細胞を溶解した。ピオグリタゾンは特許1853588号明細書の方法に従って合成した。
この細胞溶解液100μlにルシフェラーゼ基質溶液100μl(ピッカジーン社)を添加し、AB−2100型化学発光測定装置(アトー社)を用いて10秒間の発光量を測定した。ルシフェラーゼレポーター遺伝子と同時にβ−ガラクトシダーゼ発現遺伝子をもつプラスミドpCH110(アマシャムファルマシアバイオテク社)0.1μg/ウェルを細胞にコトランスフェクトし、β−ガラクトシダーゼ活性検出キットGalacto−Light PlusTMsystem(アプライドバイオシステム社)を用いてβ−ガラクトシダーゼ活性を測定及び数値化した。これを導入遺伝子のトランスフェクション効率として上述のルシフェラーゼ活性を各ウェル毎に補正した。
結果を図4に示す。図の値は平均±SEを示している。ヒトCbAP40遺伝子上流配列の存在に依存した有意なプロモーター活性が確認された。さらにこのプロモーター活性はインスリン抵抗性改善薬であるチアゾリジン誘導体の一種ピオグリタゾン0.1−10μMを加えた場合に抑制されることが明らかになった。さらに、同じ実験をpGL3−CbAP40pに替えて上述で作製したpGL3−CbAP40p[1−1231]、pGL3−CbAP40p[1364−3119]、pGL3−CbAP40p[2125−3119]、あるいはpGL3−CbAP40p[2569−3119]に置き換えて実施した。pGL3−CbAP40p[1364−3119]又はpGL3−CbAP40p[2125−3119]を用いた場合は、プロモーター活性が検出され、その活性はピオグリタゾンにより抑制された。pGL3−CbAP40p[2569−3119]を用いた場合には、プロモーター活性は検出されたが、ピオグリタゾンによる抑制効果は観察されなかった。pGL3−CbAP40p[1−1231]を用いた場合には、プロモーター活性は検出されなかった。従って、プロモーター活性の発現には配列番号3のポリヌクレオチドの第2125〜3119番の塩基配列が含まれていれば良いことがわかった。また、ピオグリタゾンによるプロモーター活性の抑制作用は配列番号3のポリヌクレオチドの第2125〜2569番の塩基までのDNA配列の存在に依存して引き起こされることが明らかになった。すなわち、配列番号3、配列番号3で表される塩基配列の第1364〜3119番及び第2125〜3119番で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドにはヒトCbAP40の発現を制御するプロモーター配列が含まれており、このプロモーターはインスリン抵抗性を低減させるピオグリタゾンなどのPPARγリガンドによって負に制御されることを示された。この事実から、インスリン抵抗性を低減させるチアゾリジン誘導体によってCbAP40の発現が抑制されることによりインスリン抵抗性の低減が引き起こされていることが予想された。
したがって本実施例におけるヒトCbAP40のプロモーターアッセイは、PPARγ蛋白質あるいはその応答配列を利用せずにPPARγリガンドあるいはインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングするために利用できる。
さらに、ピオグリタゾンによるプロモーター活性の抑制作用は上述のとおり配列番号3の第2125〜2569番の塩基配列の存在に依存して引き起こされることから、この配列部分を含むポリヌクレオチドを、CbAP40以外の遺伝子の、転写誘導に必要なTATAボックスを含む最低限の長さのプロモーター配列の上流に配置することによって、同様にPPARγ蛋白質あるいはその応答配列を利用せずにPPARγリガンドあるいはインスリン抵抗性改善薬をスクリーニングするために利用することができる。
本スクリーニング方法により得られる化合物には、従来のPPARγ蛋白質を介在させるスクリーニング方法によって得られたチアゾリジン誘導体などの典型的なPPARγリガンドとは異なる構造的特徴を有するものが含まれうる。すなわち、チアゾリジン誘導体に見られる浮腫や脂肪重量増加などの副作用を付帯しない2型糖尿病改善剤を得ることが可能である。
[実施例8]マウスCbAP40のクローニング
(1)マウスCbAP40のクローニング
前述実施例5で作製した糖尿病モデルマウスの筋肉由来mRNAを鋳型とした1本鎖DNAのライブラリーを用いて、公知の方法によりこれを鋳型としてさらにPCRを行って2本鎖DNAからなるcDNAライブラリーを作製した。これを鋳型とし、配列番号27及び配列番号28に示す一対のプライマーを用いて、前述の実施例1(3)と同様のPCR法により、CbAP40マウスオルソログ遺伝子全長cDNAの増幅を試みた。その結果得られた約1.4kbpのDNA断片を、実施例1と同様の方法に従い塩基配列を決定したところ、配列番号25に示す1404bpからなる遺伝子の全長cDNAが含まれることを確認した。該cDNAは配列番号26に示すポリペプチドをコードする新規の遺伝子である。公知の登録遺伝子GenBank NM_172708及びAK044445は、該新規遺伝子と部分的に同一の配列を有するが、cDNAの3’端が異なっており、コードするポリペプチドはカルボキシル末端長および配列が全く異なる分子である。対照的に該新規遺伝子はヒトCbAP40とほぼ同一のC末端構造を有しており、配列番号1に示すヒトCbAP40遺伝子と75.6%、コードするポリペプチドは配列番号2に示すヒトCbAP40蛋白質と71.1%の高い相同性をそれぞれ示す。この知見から該新規遺伝子は本発明ヒトCbAP40のマウスオルソログ遺伝子であり、ヒトCbAP40とマウスCbAP40は同じ機能を有するといえる。
(2)マウスCbAP40発現ベクターの作製
前述の実施例1(4)に示した方法と同様の方法により上記マウスCbAP40cDNAをpcDNA3.1−V5−TOPO(インビトロジェン社)にクローニングした。クローニングに際してマウスCbAP40の停止コドンを除いてタグを融合させるため、配列番号29及び配列番号27に示すプライマーを用いてPCRおよびベクターへのリクローニングを行った。作製した該発現ベクターをpcDNA−mCbAP40と名付けた。
(3)マウスCbAP40発現細胞の作製、およびマウスCbAP40蛋白質の検出
前述実施例2の(1)に示した方法に従い、pcDNA−mCbAP40を293細胞にリン酸カルシウム法を用いて一過性に導入した。30時間培養した後、培地を除去し、細胞をPBSで洗浄した後にウェルあたり0.1mlの細胞溶解液(100mMリン酸カリウム(pH7.8)、0.2%トリトンX−100)を添加して細胞を溶解した。続いて前述実施例2(2)に示した方法に従い、ポリアクリルアミド電気泳動による分離と抗V5抗体を用いたウエスタンブロットでマウスCbAP40蛋白質の検出を行った。その結果、45アミノ酸からなるC末端側のタグを含む合計512アミノ酸からなるマウスCbAP40−V5−His6融合蛋白質を示す約60kDaの蛋白質が発現ベクターpcDNA−mCbAP40の細胞導入に依存して検出されることを確認した。これにより、培養細胞中でクローニングした前述のマウスCbAP40は、遺伝子の全長領域が確かに発現し、蛋白質として安定な構造をとりうることが明らかになった。
[実施例9]ヒトおよびマウスCbAP40とc−Cb1の相互作用の検証
(1)GST融合c−Cb1発現プラスミドの作製
マウスc−Cb1のcDNAをGST融合発現ベクターpGEX−6P−1(アマシャムバイオサイエンス社)に挿入するため、実施例1(1)で得られたマウスc−Cb1のcDNAを鋳型として配列番号30および31で表されるDNAオリゴプライマー(プロリゴ社)を用いたPCR反応により、cDNAの両末端に末端にそれぞれ制限酵素EcoRVサイトとXhoIサイトを付加した。なおPCR反応は実施例1(1)で述べた条件で行った。このcDNA断片を制限酵素EcoRV及びXhoIで、ベクターpGEX−6P−1を制限酵素SmaI及びXhoIでそれぞれ切断し、直鎖状にした。両者を混合したものをDNA ligase液(DNA ligation kit II;宝酒造社)と混合して16℃で3時間処理し、pGEX−6P−1のマルチクローニングサイトにc−Cb1 cDNAが挿入されたプラスミド(以下pGEX−Cb1と略称する)を作製した。配列番号32に示すオリゴヌクレオチドをプライマーとして、シーケンシングキット(アプライドバイオシステム社)及びシーケンサー(ABI 3700 DNA sequencerアプライドバイオシステムズ社)を用いて塩基配列の決定を行い、c−Cb1のcDNAのコード領域とpGEXベクターのGSTタグ翻訳フレームが一致して挿入されているものを選択した。
(2)GST融合c−Cb1タンパク質の精製
上述の(1)で得られたプラスミドpGEX−Cb1を用いて、実施例3と同様に、GST−Cb1を精製した。コントロールとしてpGEX−6P−1で形質転換した大腸菌BL21からGST部分のみの蛋白質(以下GST蛋白質と略記する)を上述と同様に発現誘導して精製した。公知の方法に従ってSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法による分離及びクーマジーブリリアントブルー染色を行い、期待される分子量の蛋白質(GST−Cb1;100kDa、GST蛋白質;26kDa)が精製されていることを確認した。
(3)c−Cb1蛋白質とヒト又はマウスCbAP40蛋白質との生化学的結合の確認
上述(2)で作製したGST−Cb1蛋白質を用いて、ヒトおよびマウスCbAP40蛋白質とc−Cb1蛋白質の直接の相互作用の有無をGST−pull down法(実験工学、Vol13、No.6、1994年 528頁 松七五三ら)によって確認した。まず上述実施例1(4)で作製したpcDNA−CbAP40あるいは上述実施例8(2)で作製したpcDNA−mCbAP40の0.5μgをそれぞれ鋳型としてTNT kit(TNTQuick Coupled Transcription/Translation System;プロメガ社)40μlおよびラジオアイソトープ(redivue Pro−mix L−[35S];アマシャム)1.3MBqを用いて添付のプロトコールに従いin vitroでの転写・翻訳によりラジオアイソトープラベルされたヒトあるいはマウスCbAP40蛋白質を調製した。このヒトあるいはマウスCbAP40蛋白質調製液各15μlと上述(2)でグルタチオンビーズ上に精製したGST蛋白質あるいはGST−Cb1各又は1μgを混合し、0.3mlのBuffer A(50mMトリス塩酸(pH7.5)、10%グリセロール、120mM NaCl、1mM EDTA、0.1mM EGTA、0.5mM PMSF、0.5%NP−40)を添加して4℃で1時間振盪した。その後遠心分離によりビーズ上のGST蛋白質あるいはGST−Cb1に結合する蛋白質を共沈殿させた。これを上述のBuffer AのNaCl濃度を100mMに置換した緩衝液0.5mlでけん濁し、再度遠心分離により共沈殿させた。この操作を4回繰り返したのち、沈殿物中の蛋白質を公知の方法に従ってSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法により分離し、オートラジオグラフィによりヒトあるいはマウスCbAP40蛋白質を検出した。その結果、GST蛋白質を混合した場合には検出されないバンドがGST−Cb1を混合した場合に検出された。これにより、本発明のポリペプチドの一つであるヒトあるいはマウスCbAP40は、同様にc−Cb1蛋白質と相互作用することが明らかになり、これらヒト、マウスのCbAP40は両動物種で互いに同一の機能を担うカウンターパートであることが裏付けられた。従って本発明のマウスCbAP40は、本発明のヒトCbAP40と同様にc−Cb1蛋白質との相互作用を介してインスリン抵抗性の惹起に関与することがわかった。
【産業上の利用可能性】
CbAP40はインスリンシグナルに関わる新たな新規分子であり、本発明のポリペプチド、ポリヌクレオチド、発現ベクター及び細胞は、2型糖尿病改善薬、特にインスリン抵抗性改善薬若しくは糖代謝改善薬の同定及びスクリーニングに有用である。本発明のスクリーニング方法により2型糖尿病改善薬をスクリーニングすることができる。また、本発明のポリペプチド及び該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは糖尿病の診断に有用である。
【配列表フリーテキスト】
以下の配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。具体的には、配列表の配列番号8,9,11,19,20,30,31,33,34の配列で表される各塩基配列は、人工的に合成したプライマー配列である。
以上、本発明を特定の態様に沿って説明したが、当業者に自明の変形や改良は本発明の範囲に含まれる。
【配列表】




















【図1】

【図2】

【図3】

【図4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)(i)配列番号3で表される塩基配列、(ii)配列番号3で表される塩基配列の第1364〜3119番で表される塩基配列、又は(iii)配列番号3で表される塩基配列の第2125〜3119番で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、あるいは(iv)前記(i)〜(iii)で表される塩基配列において、1〜10個の塩基が欠失、置換、及び/又は挿入された塩基配列を含み、配列番号2若しくは配列番号26で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのプロモーター活性を有するポリヌクレオチド
を含む発現ベクターで形質転換された細胞と試験物質とを接触させる工程、及び(2)プロモーター活性を検出する工程
を含む、試験物質が前記(i)乃至(iv)のポリヌクレオチドのプロモーター活性を阻害するか否かを分析する方法。
【請求項2】
請求の範囲1に記載の方法による分析工程、及び
プロモーター活性を阻害する物質を選択する工程
を含む、請求の範囲1に記載のポリペプチドの発現を抑制する物質をスクリーニングする方法。
【請求項3】
請求の範囲2に記載の方法により2型糖尿病改善薬をスクリーニングする方法。
【請求項4】
(1)配列番号3で表される塩基配列、(2)配列番号3で表される塩基配列の第1364〜3119番で表される塩基配列、又は(3)配列番号3で表される塩基配列の第2125〜3119番で表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、あるいは(4)前記(1)〜(3)で表される塩基配列において、1〜10個の塩基が欠失、置換、挿入、及び/又は付加された塩基配列からなり、請求の範囲1に記載のポリペプチドのプロモーター活性を有するポリヌクレオチド。
【請求項5】
(1)配列番号2又は配列番号26で表されるアミノ酸配列、(2)配列番号2又は配列番号26で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列、あるいは(3)配列番号2又は配列番号26で表されるアミノ酸配列との相同性が90%以上であるアミノ酸配列を含み、かつc−Cb1と結合及び/若しくは過剰発現により糖取り込みを阻害するポリペプチドとc−Cb1と試験物質とを接触させる工程、及び
前記ポリペプチドとc−Cb1との結合を検出する工程
を含む、試験物質が前記結合を阻害するか否かを分析する方法。
【請求項6】
請求の範囲5に記載の方法による分析工程、及び
結合を阻害する物質を選択する工程
を含む、請求の範囲5に記載のポリペプチドとc−Cb1との結合阻害物質をスクリーニングする方法。
【請求項7】
請求の範囲6に記載の方法により2型糖尿病改善薬をスクリーニングする方法。
【請求項8】
配列番号2又は配列番号26で表されるアミノ酸配列、あるいは配列番号2又は配列番号26で表されるアミノ酸配列において、1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含み、かつc−Cb1と結合及び/若しくは過剰発現により糖取り込みを阻害するポリペプチド。
【請求項9】
配列番号2若しくは配列番号26で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
【請求項10】
配列番号26で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド
又は配列番号26で表されるアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつc−Cb1と結合及び/若しくは過剰発現により糖取り込みを阻害するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項11】
請求の範囲4又は請求の範囲10に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項12】
請求の範囲11に記載の発現ベクターで形質転換された細胞。
【請求項13】
(1)請求の範囲8に記載のポリペプチド、(2)請求の範囲8に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又は請求の範囲1の(i)乃至(iv)に記載のポリヌクレオチド、あるいは(3)請求の範囲8のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又は請求の範囲1の(i)乃至(iv)に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された細胞からなる2型糖尿病改善薬スクリーニングツール。
【請求項14】
(1)請求の範囲8に記載のポリペプチド、(2)請求の範囲8に記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又は請求の範囲1の(i)乃至(iv)に記載のポリヌクレオチド、あるいは(3)請求の範囲8のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド又は請求の範囲1の(i)乃至(iv)に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクターで形質転換された細胞の2型糖尿病改善薬スクリーニングのための使用。

【国際公開番号】WO2005/014813
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【発行日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513016(P2005−513016)
【国際出願番号】PCT/JP2004/011585
【国際出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】