説明

糖尿病治療における優れた血糖コントロール

【課題】臨床的に重要な後期食後低血糖の発症を抑える一方で、食後血糖変動を有効に抑えるための方法を提供。
【解決手段】組成物は、インスリン関連障害のある患者において、肺投与ができるように適合されていて、食後血糖変動を抑えるための長期作用型基礎インスリンと組み合わせて使用され、患者の血清インスリン濃度を投与後15分以内にピークに到達させ投与後50分以内に半最大値まで低下させ、そして、臨床上重要な後期食後低血糖の発症は抑えられる、前記使用。前記インスリン組成物がジケトピペラジンとヒトインスリンの間の複合体を含み、乾燥粉末として吸入により投与できるように適合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病を治療して血糖のコントロールを改善する方法に関する。具体的には、本発明の方法は、非糖尿病個体のインスリン応答動態を模倣することによって、後期食後低血糖のリスクを抑える一方で、食後血糖値の優れたコントロールを提供する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病には、現在、全世界で少なくとも2億人が罹患している。1型糖尿病は、この数の約10%を占め、膵臓のランゲルハンス島にあるインスリン分泌性β細胞の自己免疫破壊より生じる。生存は、1日数回のインスリン注射に依存する。2型糖尿病は、罹患個体の残る90%を占め、罹患率は増加している。2型糖尿病は、しばしば、必ずではないが、肥満を伴い、かつては後期発症又は成人の糖尿病と呼ばれていたが、今日では、より若い個体でますます顕著になっている。これは、インスリン抵抗性と不十分なインスリン分泌の組合せにより引き起こされる。
【0003】
非ストレス状態の正常個体において、基礎血糖値は、内因性フィードバックループのために毎日同じ状態を保とうとする。血漿グルコース濃度を増加させるどの傾向も、インスリン分泌の増加とグルカゴン分泌の抑制により相殺され、それが肝臓グルコース産生(糖新生とグリコゲン貯蔵からの放出)と組織グルコース取込みを調節して、血漿グルコース濃度を一定に維持する。個体が体重を増やすか又は他の理由によりインスリン抵抗性になると、血糖値が増加し、インスリン抵抗性を補填するためのインスリン分泌増加を生じる。故に、グルコースの比較的正常な産生及び利用が維持される一方で、グルコース及びインスリンのレベルは、これらの濃度の変化を最小化するように変調される。
【0004】
インスリン分泌の5つの異なる相が確認されている:(1)基礎インスリン分泌(ここでは、インスリンが吸収後の状態で放出される);(2)脳相(ここでは、食物を見ること、そのにおい、味により、栄養素が腸により吸収されて、膵臓の神経支配に仲介される前に、インスリン分泌が始動される);(3)第一相インスリン分泌(ここでは、グルコースや他の分泌促進剤の急速な増加へβ細胞が曝露されてから最初の5〜10分以内に、インスリンの最初のバーストが放出される;(4)第二相インスリン分泌(ここでは、インスリンレベルがより漸進的に上昇して、刺激の度合い及び期間に関連する);及び(5)in vitroでのみ記載されている、第三相のインスリン分泌。上記の段階の間、インスリンは、他の多くのホルモンと同じように、パルス形式で分泌され、振動性の血中濃度を生じる。振動には、(8〜15分毎に生じる)迅速パルスと、それに重なるより遅い(80〜120分毎に生じる)、血糖濃度の振動に関連する振動が含まれる。
【0005】
インスリン分泌は、ホルモンや薬物だけでなく、グルコース以外の他のエネルギー物質(特に、アミノ酸)によって誘導される場合がある。注目されるのは、食物摂取後に観察されるインスリン分泌が血糖値の増加によるだけでは説明し得ず、食事中の遊離脂肪酸や他の分泌促進剤の存在、神経活性化の脳相、及び胃腸ホルモンといった他の要因にも依存することである。
【0006】
個体に静脈内グルコースチャレンジを与えるとき、二相性のインスリン応答が見られ、これには、ピークのある迅速な増加、ピーク間の最下点、及び後続のより遅い増加相が含まれる。この二相性の応答が見られるのは、グルコースボーラス又はグルコース注入の後のように、グルコース濃度が急速に増加するときだけである。グルコース投与時のより遅い増加は、生理学的な条件の下で見られるものであり、グルコースのボーラス注入に応答して見られる明確な二相性応答を伴うことなく、より漸進的に増加するインスリン分泌を誘導する。
【0007】
正常な生理学的条件下での第一相インスリン応答のモデリングにより、食後では、グルコースの静脈内ボーラス注射で見られる(ほぼ3〜10分でCmaxに到達する)より漸進的に(ほぼ20分でCmaxに到達する)グルコース濃度が増加することが実証された。
【0008】
健常な膵臓β細胞は、食事様のグルコース曝露に対して初期の応答を産生して、門脈循環と末梢の両方で血清インスリンを急速に上昇させる。逆に、欠陥のあるβ細胞は、第一相インスリン応答に障害があるので、食事様のグルコース曝露に対して鈍い応答を産生する。
【0009】
証拠は、ますます、グルコース摂取に続く初期の比較的速いインスリン応答が食後血糖ホメオスタシスの維持に必須の役割を担うことを示している。インスリン濃度の初期の高まりは、主に内因性グルコース産生の阻害により、初期の血糖変動を制限することができる。故に、糖尿病個体における迅速なインスリン応答の誘導は、改善された血糖ホメオスタシスをもたらすことが期待される。
【0010】
正常な個体では、食事がインスリンのバーストの分泌を誘導し、血清インスリン濃度の比較的速やかなスパイクを産生し、これはその後比較的速やかに減衰する(図1を参照のこと)。この初期相インスリン応答は、グルコースの肝臓からの放出のシャットオフの原因になる。次いで、ホメオスタシス機序により、インスリン分泌(及び、血清インスリンレベル)がグルコース負荷へ適合される。これは、やや上昇した血清インスリンレベルがベースラインへ戻るときの遅い減衰として観察され、第二相の動態となる。
【0011】
2型糖尿病患者は、典型的には、血糖値の増加に対する遅延した応答を明示する。通常、正常な個体が食物の消費後2〜3分以内にインスリンを放出しはじめるのに対し、2型糖尿病患者は、血糖が上昇しはじめるまで内因性インスリンを分泌し得ず、第二相の動態は、延長した濃度のプラトーへのゆっくりとした上昇になる。結果として、内因性のグルコース産生はシャットオフされず、食物消費後も継続するので、患者は、高血糖症(上昇血糖値)を体験する。
【0012】
食事誘導性インスリン分泌の喪失は、β細胞機能の最も初期の障害の1つである。遺伝要因が重要な役割を担う一方で、ある種のインスリン分泌障害は後天的であるらしく、最適な血糖コントロールにより少なくとも一部は可逆的であり得る。食後インスリン療法による最適な血糖コントロールは、投与インスリンへの正常な組織応答性と血清インスリン濃度の急激な増加の両方を必要とすることによって、天然のグルコース誘導インスリン放出の有意な改善をもたらすことができる。故に、β細胞機能が過度に喪失してはいない初期の2型糖尿病患者の治療において提示される課題は、食後のインスリンの速やかな上昇を回復させることである。
【0013】
第一相動態の喪失に加えて、初期の2型糖尿病患者は、食後のグルコース放出をシャットオフしない。この疾患が進行するにつれて、膵臓に課せられる要求はインスリンを産生するその能力を低下させ、血糖値のコントロールは徐々に悪化する。この疾患は、抑えなければ、インスリン産生の欠乏が、完全に発達した1型糖尿病に典型的な欠乏へ接近するほどに進行し得る。しかしながら、1型糖尿病には、初期の危機に続いて、インスリンが依然として産生されるものの、初期の2型疾患に似た放出の欠損が明示される、初期の「蜜月」期を伴う場合がある。
【0014】
現在、ほとんどの初期2型糖尿病患者は、経口剤で治療されるが、成功は限られている。皮下注射剤も、2型糖尿病患者へインスリンを提供するのに理想的であることはほとんどなく、現実には、遅延して変動するわずかな作用の発現のために、インスリン作用を悪化させる場合もある。しかしながら、食事のときにインスリンを静脈内投与すれば、初期の2型糖尿病患者は、肝臓グルコース放出のシャットダウンを体験して、生理学的な血糖コントロールの増加を明示することが示された。さらに、その遊離脂肪酸レベルは、インスリン療法を伴わない場合より速い速度で下降する。インスリンの静脈内投与は、2型糖尿病患者を治療するのにおそらくは有効であるが、インスリンを食事のたびに静脈内投与することは、患者にとって安全でも実施可能でもないので、妥当な解決策ではない。
【0015】
糖尿病患者の顕著な病理(及び罹病状態)は、血糖の不十分なコントロールと関連している。血糖濃度が望ましい正常範囲の上と下の両方に変動することは、問題である。生理学的なインスリン放出を模倣し得ない治療法では、インスリン濃度を高めても、食事より生じるグルコース負荷へ完全に応答するほど十分に高いグルコース消失速度をもたらさない。このことは、肝臓からのグルコース放出をシャットオフし得ないことによりさらに悪化する場合がある。さらに、多くの形態のインスリン療法では、食事グルコース負荷が軽減した後でも血清インスリンレベルとグルコース消失速度が依然として上昇して、低血糖が危惧される。インスリン用量を増加することによってピークグルコース負荷をよりよく制御しようとする試みは、この危険をさらに高める。実際、食後低血糖は、インスリン療法によくある結果であり、患者は、低血糖の重症度に応じて、食事の間にスナックを食べることがしばしば必要になるか、要求される場合もある。このことがインスリン療法にしばしば関連する体重増加に貢献する。これらのリスクとその発生の頻度及び重症度は、当該技術分野でよく理解されている。
【0016】
現行のインスリン療法モダリティは、内因的に産生されるインスリンに補充又は置換して基礎の第二相に似たプロフィールを提供することができるが、第一相動態を模倣するものではない(図2を参照のこと)。さらに、慣用のインスリン療法では、しばしば、1日1回だけか又は2回のインスリン注射を伴う。しかしながら、1日3回以上の投与のような、より徹底した療法は、血糖値のよりよいコントロールを提供して、有益であることは明らかである(例えば、非特許文献1を参照のこと)が、多くの患者は、この追加注射を受けたくないものである。
【0017】
最近まで、皮下(SC)注射は、1型糖尿病患者と2型糖尿病患者の両方へインスリンを送達する唯一の経路であった。しかしながら、SCインスリン投与は、投与インスリンに最適な薬物動態をもたらすわけではない。血液への吸収は、(速効性インスリン類似体でも)血清インスリン濃度の迅速なスパイクという食事の生理学的なインスリン分泌パターンを模倣しない。インスリンの発見以来、投与インスリンの薬物動態を改善して、SC注射に関連する不快感を抑えることによりコンプライアンスを改善することの実施可能性のために、種々の代替可能な投与経路が検討されてきた。
【0018】
詳しく評価されてきた代替可能なインスリン投与経路には、皮膚、口、頬内、鼻、及び肺の経路が含まれる。皮膚インスリン適用は、きわめて効率的な皮膚バリアーを通過するインスリンの再現可能で十分な転送をもたらさない。有効な経口インスリン投与は、主にこのタンパク質の消化と腸内の特異的なペプチド担体系の欠乏のために、まだ達成されていない。経鼻インスリン適用は、鼻粘膜を通過するインスリンのより速やかな吸収をもたらすが、第一相動態を伴わない。経鼻投与インスリンの相対的なバイオアベイラビリティは低く、高率の副作用及び治療失敗がある。頬内吸収インスリンも、第一相放出を模倣することができない(非特許文献2)。
【0019】
最近、インスリンの肺適用が実行可能なインスリン送達系となっている。開発中の肺インスリン製剤のなかには、典型的な皮下送達製品より速やかなインスリンの血中出現をもたらすものがある(図3を参照のこと)が、明らかに、第一相動態のすべての側面を十分に再現するわけではない。
【0020】
故に、第一相動態を模倣して、生理学的な食後インスリン薬物動態及び薬力学を血糖値の改善コントロールに提供し得るインスリン製剤へのニーズが存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】Nathan,D.M.他,The New England Journal of Medicine,2005年,353号,2643−2653頁
【非特許文献2】Raz,I.他,Fourth Annual Diabetes Meeting,ペンシルバニア州フィラデルフィア,2004年
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明は、糖尿病の患者において、糖尿病を治療して、血糖値の優れたコントロールを生じる方法を提供する。本方法は、吸入インスリン組成物を食事の開始時又はその直後に投与することによって低血糖症のリスクを抑える一方で、食後血糖値のホメオスタシス制御の再主張(reassertion)を可能にして、非糖尿病個体のインスリン放出動態を模倣する。
【0023】
本発明による1つの態様では、インスリン組成物を肺投与に適した形態で投与することを含んでなる、インスリン関連障害のある患者において食後血糖変動(postprandial glucose excursions)を抑える方法を提供し、ここで臨床上重要な後期食後低血糖の発症は抑えられる。
【0024】
本発明による別の態様では、インスリン組成物を食事の開始近くで投与する。1つの態様では、インスリン組成物を食事の開始に先立つほぼ10分〜食事の開始後ほぼ30分に投与する。
【0025】
なお別の態様において、インスリン組成物は、ジケトピペラジンとヒトインスリンの間の複合体を含み、ジケトピペラジンは、フマリルジケトピペラジンである。本発明による態様では、上記組成物を乾燥粉末として吸入により投与する。
【0026】
本発明のなお別の態様では、インスリン組成物を肺投与に適した形態で投与することを含んでなる、インスリン関連障害のある患者において食後血糖変動を抑える方法を提供し、ここで臨床上重要な後期食後低血糖の発症は抑えられ、長期作用型基礎インスリンを投与することをさらに含む。
【0027】
1つの態様では、インスリン関連障害が糖尿病である。別の態様では、インスリン関連障害が2型糖尿病である。なお別の態様では、インスリン関連障害が1型糖尿病である。
【0028】
別の態様では、インスリン組成物を肺投与に適した形態で投与することを含んでなる、
インスリン関連障害のある患者において食後血糖変動を抑える方法を提供し、ここで食後血糖変動は、実質的に同様のインスリン曝露をもたらす皮下投与インスリンの用量より生じる食後血糖変動より小さく、ここで平均血糖変動は、皮下投与の場合より少なくとも約25%小さい。
【0029】
なお別の態様では、食後血糖変動が、インスリン単独の適正な皮下用量での治療により産生されるものより抑えられる。
【0030】
別の態様では、臨床上重要な後期食後低血糖のエピソードの頻度が、インスリン単独の適正な皮下用量での治療に比べて抑えられる。
【0031】
本発明による別の態様では、ヒトインスリン及びフマリルジケトピペラジンを含んでなる吸入インスリン組成物を食事の開始近くで投与することを含んでなる、インスリン関連障害のある患者において食後血糖変動を抑える方法を提供し、ここで臨床上重要な後期食後低血糖の発症は抑えられる。1つの態様では、インスリン組成物を食事の開始に先立つほぼ10分〜食事の開始後ほぼ30分に投与する。別の態様では、インスリン関連障害が糖尿病である。なお別の態様では、該方法が長期作用型基礎インスリンを投与することをさらに含む。
【0032】
本発明による1つの態様では、ヒトインスリン及びフマリルジケトピペラジンを含んでなる吸入インスリン組成物を食事の開始近くで投与することを含んでなる、基礎インスリンで治療されているインスリン関連障害のある患者において食後血糖変動を抑える方法を提供し、ここで臨床上重要な後期食後低血糖の発症は抑えられる。
【0033】
本発明の別の態様では、インスリン組成物を肺投与に適した形態で投与することを含んでなる、インスリン関連障害のある患者において食後血糖変動を抑える方法を提供し、ここで患者の全インスリン曝露(INS−AUC0−y,3≦y≦6時間)は、インスリンの適正な皮下用量により産生されるものを実質的に超えず、そしてここで食後血糖変動は抑えられる。本発明のなお別の態様では、後期食後低血糖のリスクを高めない。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】図1は、ボーラスグルコース注入による人工的な刺激に続く第一相インスリン放出動態の測定を図示する。
【図2】図2は、皮下(SC)標準ヒトインスリン又はSC速効性インスリン(NovologTM)の投与後の血清インスリン濃度を図示する。NovologTMは、ノボ・ノルディクス・ファーマシューティカルズ(Bagsvaerd,デンマーク)の登録商標である。
【図3】図3は、異なる製造業者からの多様な形態の吸入(MannKind,ファイザー/アベンティス/ネクター、Alkermes,Aerogen,KOS,ノボ・ノルディクス/Aradigm)及び注射(Lispro SC)インスリンの時間−作用プロフィールの複合を図示する(Br J Diab Vasc. Dis 4:295−301,2004より)。
【図4】図4は、本発明の教示に従って、速効性皮下投与インスリン(SC)とフマリルジケトピペラジンとともに製剤化した肺乾燥粉末(Technosphere(登録商標)/インスリン,TI)についての、グルコースクランプ下での血清インスリン濃度とグルコース注入速度(GIR)としてのグルコース消失速度の間の経時的な関係を図示する。
【図5】図5は、本発明の教示に従って、2型糖尿病の個体における、速効性皮下投与インスリン(24 IU SC)に対するTechnosphere(登録商標)/インスリン(48 U TI)での食後血糖消失の増加を図示する。
【図6】図6A〜Bは、本発明の教示に従って、皮下(SC)及び肺(TI)インスリンの様々な時点での、2型糖尿病の個体におけるGIR(図6A)とインスリン濃度(図6B)の患者内変動性の比較を図示する。
【図7】図7A〜Bは、本発明の教示に従って、TI及びSCインスリンの異なる用量レベルでの、2型糖尿病の個体における平均血清インスリン濃度(図7A)とAUCとしてのインスリン吸収(図7B)を図示する。
【図8】図8は、本発明の教示に従って、48UのTI投与後の2型糖尿病の個体における経時的なインスリン濃度及びグルコース消失速度の比較を図示する。
【図9】図9A〜Bは、本発明の教示に従って、14IU SCインスリン又は48U TIの投与後の2型糖尿病の個体における血中インスリン(図9A)と血糖値(図9B)を図示する。
【図10】図10は、本発明の教示に従って、14IU SCインスリン又は48U TIの投与後の2型糖尿病の個体における、同様のインスリン曝露での改善された食後血糖曝露を図示する。
【図11】図11は、本発明の教示に従って、2型糖尿病の個体におけるTI又はプラセボ(PL)で3ヶ月のインスリン療法後の、食後血糖値に対する吸入インスリンの効果の維持を図示する。
【図12】図12A〜Bは、本発明の教示に従って、TI又はPLの投与後の2型糖尿病の個体における全体(図12A)及び最大(図12B)の食後血糖変動を図示する。
【図13】図13は、本発明の教示に従って、2型糖尿病の個体における、対照群(Control)での推定用量に比較した、TIの投与後の最大食後血糖変動に対する用量効果を図示する。
【図14】図14A〜Bは、本発明の教示に従って、2型糖尿病患者における、TI についての経時的なインスリン出現速度とTIの投与後の内因性インスリンを図示する。
【図15】図15は、本発明の教示に従って、静脈内(IV,5IU)、SC(10IU)、又は吸入(TI,100U)インスリンの投与後の2型糖尿病の個体におけるインスリン濃度とグルコース消失速度の間の関係を図示する。
【図16】図16は、本発明の教示に従って、2型糖尿病の個体におけるTI又はSCインスリンの投与後のC−ペプチドのレベルを図示する。
【図17】図17は、本発明の教示に従って、2型糖尿病の個体におけるTI又はプラセボの12週の投与後の平均グリコシル化ヘモグロビン(HbA1c)レベルの変化を図示する。
【図18】図18は、本発明の教示に従って、TI又はプラセボ(PL)を投与した2型糖尿病の個体における体重レベルを図示する。
【図19】図19A〜Bは、本発明の教示に従って、TIを用いた3ヶ月のプラセボ対照臨床試験において、1秒努力呼気量(FEV1,図19A)及び努力肺活量(FVC,図19B)として表される肺機能を経時的に図示する。
【図20】図20は、実施例6に開示する臨床治験の試験計画を図示する。
【図21】図21A〜Bは、本発明の教示に従って、TIと等カロリー食(図21A)又は高カロリー食(図21B)の投与後の治療群による、「ベースライン補正血糖濃度」対「時間」を図示する。
【図22】図22A〜Bは、本発明の教示に従って、TIと等カロリー食(図22A)又は高カロリー食(図22B)の投与後の治療群による、「ベースライン補正血清インスリン濃度」対「時間」を図示する。
【図23】図23A〜Bは、本発明の教示に従って、IV、SC、又はTI(吸入)インスリンの投与後の経時的な平均血糖値(図23A)又はC−ペプチドレベル(図23B)を図示する。
【図24】図24A〜Bは、本発明の教示に従って、IV、SC、又はTI(吸入)インスリンの投与後の経時的なグルコース注入速度(図24A)又は平均インスリン濃度(図24B)を図示する。
【発明を実施するための形態】
【0035】
(用語の定義)
本発明を説明する前に、下記に使用するいくつかの用語の理解を深めることは役に立つかもしれない。
【0036】
乾燥粉末:本明細書に使用するように、「乾燥粉末」は、推進剤、担体、又は他の液体に懸濁も溶解もしていない微粒子組成物を意味する。これは、すべての水分子の完全な非存在を含意するものではない。
【0037】
初期相:本明細書に使用するように、「初期相」は、食事へ応答して誘導される血中インスリン濃度の上昇を意味する。食事に応答したこの初期のインスリン上昇は、第一相と呼ばれる場合がある。
【0038】
変動:本明細書に使用するように、「変動」は、食前ベースライン又は他の出発点の上又は下のいずれかに該当する血糖濃度に関連する。変動は、一般に、経時的な血糖のプロットの曲線下面積(AUC)として表される。AUCは、多様なやり方で表すことができる。ある事例では、ベースラインの下の下降とその上の上昇がともにあり、プラスとマイナスの面積を創出する。負のAUCを正のAUCから差し引く計算もあれば、その絶対値を加える計算もある。正のAUCと負のAUCを別々に考慮してもよい。より洗練された統計学的評価も使用してよい。ある事例では、正常範囲の外で上昇又は下降する血糖濃度に関連する場合もある。正常な血糖濃度は、通常、絶食個体で70〜110mg/mLの間であり、食後2時間では120mg/dL未満で、食後は180mg/mL未満である。
【0039】
第一相:本明細書に使用するように、「第一相」は、グルコースのボーラス静脈内注射により誘導されるような、インスリンレベルにおけるスパイクを意味する。第一相インスリン放出は、速やかなピークであってから比較的速やかに減衰する、血中インスリン濃度のスパイクを産生する。
【0040】
グルコース消失速度:本明細書に使用するように、「グルコース消失速度」は、グルコースが血液より消失する速度であり、安定な血糖(本試験期間の間は、しばしば、約120mg/dL)を維持するのに必要とされるグルコース注入の量により決定される。このグルコース消失速度は、グルコース注入速度(GIRと略記される)に等しい。
【0041】
高血糖:本明細書に使用するように、「高血糖」は、正常な絶食時血糖濃度より高く、通常、126mg/dL以上である。ある試験では、高血糖エピソードが280mg/dL(15.6mM)を超える血糖濃度として定義された。
【0042】
低血糖:本明細書に使用するように、「低血糖」は、正常な血糖濃度より低く、通常、63mg/dL(3.5mM)である。臨床上重要な低血糖は、63mg/dL未満の血糖濃度として定義されるか、又は低血糖の症状として認知され、適正なカロリー摂取で消失する、緊張低下、潮紅、及び虚弱のような患者症状を引き起こすものと定義される。重篤な低血糖は、グルカロン注射、グルコース注入、又は第三者による助けが必要となる低血糖エピソードとして定義される。
【0043】
近く:本明細書に使用するように、食事に関連して使用する「近く」は、食事の開始に時間的に近い期間を意味する。
【0044】
インスリン組成物:本明細書に使用するように、「インスリン組成物」は、哺乳動物への投与に適したインスリンのあらゆる形態を意味して、哺乳動物より単離されたインスリン、組換えインスリン、他の分子と会合したインスリンが含まれ、また、肺、皮下、鼻、口、頬内、及び舌下が含まれるあらゆる経路により投与されるインスリンも含まれる。インスリン組成物は、吸入用の乾燥粉末又は水溶液剤、皮下、舌下、頬内、経鼻、又は経口投与用の水溶液剤、そして経口及び舌下投与用の固体剤形として製剤化することができる。
【0045】
インスリン関連障害:本明細書に使用するように、「インスリン関連障害」は、哺乳動物におけるインスリンの産生、調節、代謝、及び作用に関連した障害を意味する。インスリン関連障害には、限定されないが、1型糖尿病、2型糖尿病、低血糖、高血糖、インスリン抵抗性、膵臓β細胞機能の喪失、及び膵臓β細胞の喪失が含まれる。
【0046】
微粒子:本明細書に使用するように、用語「微粒子」には、ジケトピペラジン単独又はジケトピペラジンと1以上の薬物の組合せのいずれかを含む外殻を有する微粒子が含まれる。それには、球体全体に分散した薬物を含有するミクロスフェア、不規則な形状の粒子、及び薬物が粒子の表面に被覆されているか又はその中の隙間を充填する粒子も含まれる。
【0047】
食事付近:本明細書に使用するように、「食事付近」は、食事又はスナックの摂取の直前に始まってその直後に終わる時間を意味する。
【0048】
食後:本明細書に使用するように、「食後」は、食事又はスナックの摂取後の時間を意味する。本明細書に使用するように、後期食後は、食事又はスナックの摂取後、3、4、又はそれより多い時間の期間を意味する。
【0049】
増強:一般に、「増強」は、ある薬剤の有効性又は活性を、その薬剤が他のやり方で達成し得るレベル以上に高める条件又は作用を意味する。同様に、それは、高められた効果又は作用を直接意味する場合がある。本明細書に使用するように、「増強」は、特に、上昇した血中インスリン濃度が、例えば、グルコース消失速度を高める後続のインスリンレベルの有効性をさらに高める能力を意味する。
【0050】
食事:本明細書に使用するように、「食事(prandial)」は、食事(meal)又はスナックを意味する。
【0051】
第二相:本明細書に使用するように、「第二相」は、第一相が過ぎた後で、やや上昇した血中インスリンレベルがベースラインへゆっくり減衰することを意味する。第二相は、上昇した血糖値に応答するインスリンの非スパイク放出を意味する場合もある。
【0052】
Technosphere(登録商標)/Insulin:本明細書に使用するように、「Technosphere(登録商標)/Insulin」又は「TI」は、標準ヒトインスリンとTechnosphere(登録商標)微粒子、薬物送達系を含んでなるインスリン組成物を意味する。Technosphere(登録商標)微粒子は、ジケトピペラジン、具体的には3,6−ジ(フマリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン(フマリルジケトピペラジン、FDKP)を含む。具体的には、Technosphere(登録商標)/Insulinは、FDKP/ヒトインスリン組成物を含む。
【0053】
本明細書に使用するように、「ジケトピペラジン」又は「DKP」には、一般式1[式中、1位と4位にある環原子E及びEは、O又はNのいずれかであり、それぞれ3位と6位に位置する側鎖R及びRの少なくとも1つに、カルボン酸(カルボキシレート)基を含有する]の範囲に該当する、ジケトピペラジンとその塩、誘導体、類似体、及び修飾体が含まれる。式1による化合物には、制限なしに、ジケトピペラジン、ジケトモルホリン、及びジケトジオキサンとそれらの置換類似体が含まれる。
【0054】
【化1】

【0055】
ジケトピペラジンは、空気力学的に好適な微粒子をつくることに加えて、細胞層を通過する輸送も促進し、循環への吸収をさらに加速させる。ジケトピペラジンは、薬物を取り込む粒子、又は薬物をその上へ吸着させることができる粒子へ成型することができる。薬物とジケトピペラジンの組合せは、改善された薬物安定性を付与することができる。これらの粒子は、様々な投与経路により投与することができる。これらの粒子は、乾燥粉末として、吸入により、粒径に応じて、呼吸系の特定領域へ送達することができる。さらに、該粒子は、静脈内の懸濁剤形への取込み用に十分小さくすることができる。懸濁液剤、錠剤、又はカプセル剤へ取り込む粒子では、経口送達も可能である。ジケトピペラジンは、会合する薬物の吸収を促進する場合もある。
【0056】
本発明の別の態様では、DKPが3,6−ジ(4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジンの誘導体であり、これは、アミノ酸、リシンの(熱的)縮合により生成することができる。例示の誘導体には、3,6−ジ(スクシニル−4−アミノブチル)−、3,6−ジ(マレイル−4−アミノブチル)−、3,6−ジ(グルタリル−4−アミノブチル)−、3,6−ジ(マロニル−4−アミノブチル)−、3,6−ジ(オキサリル−4−アミノブチル)−、及び3,6−ジ(フマリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジンが含まれる。DKPの薬物送達への使用は、当該技術分野で知られている(例えば、米国特許第5,352,461、5,503,852、6,071,497、及び6,331,318号を参照のこと。このいずれも、ジケトピペラジンとジケトピペラジン仲介性の薬物送達に関して教示されることすべてについて、参照により本明細書に組み込まれる)。DKP塩の使用については、同時出願中の米国特許出願番号11/210,710(2005年8月23日出願)に記載され、これは、ジケトピペラジン塩に関して教示されることすべてについて、参照により本明細書に組み込まれる。DKP微粒子を使用する肺への薬物送達は、そのまま参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,428,771号に開示されている。
【0057】
Technosphere(登録商標)/プラセボ:本明細書に使用するように、「Technosphere(登録商標)/プラセボ」は、インスリンと会合していないTechnosphere(登録商標)粒子を意味する。
【0058】
測定の単位:皮下及び静脈内のインスリン投与量は、標準化された生物学的測定により定義されるIUで表される。フマリルジケトピペラジンとともに製剤化したインスリンの量も、血中のインスリンの測定値と同様に、IUで報告される。Technosphere(登録商標)/Insulin投与量は、この投与剤形において製剤化されたインスリンの量に数的に等しい任意単位(U)で表される。
【0059】
(発明の詳細な説明)
糖尿病の治療用のインスリン療法に伴う一般的な問題は、食事グルコース負荷を制御するのに十分なインスリン用量が、食後に存続し得る延長期間の間に上昇するグルコース消失速度をもたらして、食後低血糖を導くことである。皮下投与後のインスリンの血中レベルの増加は、正常個体において見られる食事グルコースへの生理学的な応答より、糖尿病患者において有意に遅い。故に、血清インスリンレベルのより迅速な上昇をもたらしてから下降する、インスリンの組成物及び方法は、最大のグルコース消失速度を達成するためのより生理学的な手段をもたらす。このことは、投与されるインスリンの効果の大部分を食事付近の時間間隔へ圧縮して、それにより食後低血糖のリスクを抑えて、食事グルコースに対するより正常な生理学的インスリン応答をもたらす効果を有する。
【0060】
一般に、グルコース消失の速度は、どの時点でも、その時点でのインスリン濃度の関数であると仮定されてきた。実際は、どの特別なインスリン濃度により達成されるグルコース消失速度も、先行のインスリン濃度により影響を受ける。従って、グルコース消失速度は、どの特別なインスリン濃度でも、被検者が高いインスリン濃度を先行する時間間隔において経験したときにグルコース消失速度がより高くなるように、以前の高いインスリンレベルにより増強される。本発明者は、今回驚くべきことに、この増強が、ピークインスリン濃度により漸進的に接近するときよりも、インスリン濃度の大きくて迅速なピークへ応答して、グルコース消失速度をずっとより速やかに最大値へ推進することを発見した。
【0061】
本発明の吸入インスリン組成物、インスリン/ジケトピペラジン微粒子(Technosphere(登録商標)/Insulin,TI)を食事の開始時又はその直後に投与するとき、食後の血糖値は、患者が皮下インスリン又は経口医薬品で自らの疾患を制御することを試みるよりも、より確実に制御される。
【0062】
典型的な速効性皮下(SC)投与インスリンでは、最高インスリン濃度に約30〜45分で達成して、このプラトーに数時間留まることができる(図2)。しかしながら、グルコース消失速度(グルコース注入速度[GIR]として測定する)は、このプラトー相を通して上昇し続けて(図5)、インスリン濃度が減衰し始めたときにやっとピークになる(図4)。対照的に、生理学的な第一相インスリン放出を模倣する投与では、インスリン濃度がずっと高いレベルでピークになり、約15分までに低下し始める(図1)。しかしながら、GIRは、インスリン濃度のピーク後も上昇し続けるが、1時間未満でその最大値に達してから、インスリン濃度と協奏的に下降する(図4)。3時間までにこのインスリンにより達成されるグルコース消失の大部分が生じるが、皮下インスリンでは、その効果の1/3未満が行使されるだけである(図5)。
【0063】
インスリン濃度の迅速スパイクの増強効果を利用することによって、第一相動態を模倣するインスリン療法の方法論は、いくつかの利点を提供することができる。一般に、そのようなインスリン製剤は、通常食事前の規定期間に服用される、よりゆっくりと吸収されるインスリンと違って、食事の開始の数分以内に投与される。一般に、この間隔は、グルコース消失速度がインスリン濃度の関数であるという暗黙の仮定に基づいて、最高インスリン濃度を達成するのに必要とされる時間に基づく。しかしながら、グルコース消失速度は、インスリン濃度のプラトーを通して増加し続けるので、血糖値が正常範囲を超えないようにするのに十分大きな用量は、食後に生じる高いグルコース消失速度の時間が低血糖をもたらすというリスクを提起する。血清インスリン濃度の迅速なピークを引き起こすインスリン調製品の増強効果により、それは、より容易に食事と同調することができる。最大グルコース消失速度の速やかな獲得は、食事時間の投与に、又は食事開始後の1時間までにも十分適している。インスリン濃度の第二相減衰は、食後に低血糖の時間を引き起こすリスクを抑える。インスリンを産生する能力をいくらか保持する糖尿病患者では、その内因性の第二相及び基礎インスリンも増強されて、その制限されたインスリンの有効性を高めて、膵臓ストレスを抑えるという点で、さらなる利点が実現される。本発明の外因的に投与するインスリン組成物で膵臓ストレスを抑える方法は、「インスリン産生細胞の機能を糖尿病において保存する方法(Methods of Preserving the Function of Insulin−Producing Cells in Diabetes)」と題して、ジケトピペラジン/インスリン組成物を投与することによって膵臓ストレスを抑える方法に関して教示されることすべてについて参照により本明細書に組み込まれる、同時出願中の米国仮特許出願番号60/704,295に開示される。外因性インスリンの投与はまた、膵臓からのインスリン分泌を抑制する。迅速にピークに達するインスリンで達成される、ベースラインへのより速やかな復帰は、膵臓分泌のより早期の再主張(reassertion)と、血糖値のホメオスタシス制御の再確立を可能にして、処置後の低血糖と血糖値の変動のリスクをさらに抑える。有意なレベルのインスリンを産生しない糖尿病患者では、迅速にピークに達して長く作用する外因性のインスリンでの組合せ治療より、同様の利点が推定される。
【0064】
本明細書に使用するように、生理学的な食事時間又は第一相インスリン放出(又は薬物動態)を模倣することは、生理学的応答のすべての特徴の正確な複製を必ずしも示すものではない。これは、濃度の比較的速やかな上昇(投与又はベースラインからの最初の出発から約15分未満)と下降(ピーク後80分、好ましくは50分、より好ましくは35分までに半最大値を通る低下)の両方を構成する、血中インスリン濃度のスパイク又はピークを産生する方法論に関連し得るのである。これは、達成される最高インスリン濃度へのより漸進的な上昇(20分以上〜数時間)と最高濃度付近での延長したプラトーをもたらす方法と対照的である。それはまた、インスリン濃度のスパイクが食事の開始と確実に同調され得る方法論に関連し得る。それはまた、投与後約30〜90分、好ましくはほぼ45〜60分以内の最大グルコース消失速度を達成する方法論に関連し得る。第一相放出を模倣する方法論は、概して言えば、静脈内注射の訓練のような特別な医学的訓練を受けていない糖尿病患者が自分自身に対して実践し得るものでもある。医療専門家ではない人々により定常的に使用される、乾燥粉末吸入器のような医療デバイスを使用するための訓練は、特別な医学的訓練に決して含まれない。本明細書に使用するように「食事」、「食事(複数)」、及び/又は「食事時間」、等には、伝統的な食事と食事時間が含まれるが、
これらには、量及び/又は時機にかかわらず、あらゆる栄養物の摂取も含まれる。
【0065】
優れた血糖コントロールは、(上昇)グルコース濃度(AUCGLU)への曝露低下、低下レベルのHbA1c(グリコシル化ヘモグロビン)、低血糖の潜在可能性(リスク)又は発症の低下、治療への応答変動性の低下、等として評価することができる。グリコシル化ヘモグロビンレベルは、過去3ヶ月にわたる全体的な血糖コントロールに相関する。一般に、異なる手法の結果は、様々な時間間隔でのインスリンへの曝露(AUCINS)の類似レベルで比較される。グルコース曝露と低血糖のリスクは、最終的には、グルコース消失速度が経時的なグルコース負荷とどのくらい十分に適合するかにかかっている。このことは、一般に、インスリン濃度曲線の曲線下面積だけではなく、その形状に依存するのである。生理学的な第一相応答に典型的なインスリン濃度の速やかな上昇及び下降は、グルコース消失速度を食事グルコース負荷へ適合させるのに十分適している。
【0066】
望ましい第一相動態は、3,6−ジ(フマリル−4−アミノブチル)−2,5−ジケトピペラジン(以下、フマリルジケトピペラジン又はFDKP)と複合したインスリンを含有する乾燥粉末インスリン製剤の肺投与により獲得することができる。ジケトピペラジンの薬物送達への使用は、当該技術分野でよく知られている(例えば、「自己集合性ジケトピペラジン薬物送達系(Self Assembling Diketopiperazine Drug Delivery System)」と題した米国特許第5,352,461号;「自己集合性ジケトピペラジン薬物送達系を作製する方法(Method for Making Self−Assembling Diketopiperazine Drug Delivery System)」と題した5,503,852号;「ジケトピペラジンを含んでなる肺送達用の微粒子(Microparticles for Lung Delivery Comprising Diketopiperazine)」と題した6,071,497号;及び、「炭素置換されたジケトピペラジン送達系(Carbon−Substituted Diketopiperazine Delivery System)」と題した6,331,318号を参照のこと。このいずれも、ジケトピペラジンとジケトピペラジン仲介性の薬物送達に関して教示されることすべてについて参照により本明細書に組み込まれる)。ジケトピペラジンと他の微粒子を使用する肺薬物送達については、ジケトピペラジンベースの組成物の肺系への送達に関して教示されることすべてについて参照により本明細書に組み込まれる、「肺系への薬物送達の方法(Method for Drug Delivery to the Pulmonary System)」と題した米国特許第6,428,771号に開示される。インスリンとFDKPの複合体、それらの生成、特性、及び使用については、いずれも「ペプチド及びタンパク質製剤の精製と安定化(Purification and Stabilization of Peptide and Protein Pharmaceutical Agents)」と題して、そのいずれもFDKP複合剤の生成及び投与に関して教示されることすべてについて参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第6,444,226号及び6,652,885号に開示される。ジケトピペラジン及びインスリンの複合体の製造の追加の方法は、「結晶性微粒子表面への活性剤のアフィニティーを高めることに基づいた薬物製剤化の方法(Method of Drug Formulation Based on Increasing the Affinity of Active Agents for Crystalline Microparticle Surfaces)」と題して、ジケトピペラジン及びインスリンの複合体の製造に関して教示されることすべてについて参照により本明細書に組み込まれる、米国仮特許出願番号60/717,524に開示される。この粉末の送達に特に有利なデバイスは、「単回用量カートリッジと乾燥粉末吸入器(Unit Dose Cartridge and Dry Powder Inhaler)」と題した米国特許出願番号10/655,153と、「吸入装置(Inhalation Apparatus)」と題した米国特許第6,923,175号に開示され、そのいずれもインスリン組成物の肺送達に関して教示されることすべてについて参照により本明細書に組み込まれる。
【0067】
Technosphere(登録商標)/Insulinの吸入による投与は、皮下投与インスリンより速やかに上昇する血清インスリンレベルをもたらし(図9A)、食事関連グルコースに対する正常個体でのインスリン応答により密接に近似する。追加的に、食後期間でのTI投与後では、グルコースの食後変動が、SC投与インスリンより大きな程度で制限される(図10)。対照臨床治験では、患者のインスリンに対する曝露全体は、患者にTI又はSCが投与されても同じであるが、正常血糖値からの食後変動は、SCインスリンよりTIで有意に小さい(約半分)(図10)。故に、健常個体のインスリン応答に近似したやり方でのインスリンの送達により、糖尿病患者には、食後期間の間にその血糖値全体に対してより大きなコントロールを達成することが可能になる。
【0068】
HbA1c(3ヶ月間にわたる血糖値コントロールのマーカー)のやや重篤な上昇がある患者では、TIでの治療により、対照治療した個体に比較して、HbA1cレベルの低下をもたらし(図17)、TI治療での経時的な血糖値の優れたコントロールが実証された。
【0069】
さらに、規則的な基礎インスリン投与へのTIの追加により、統計学的に有意な、用量依存性のHbA1cレベルの低下と、食後グルコース変動に対する用量依存的な効果がもたらされる。
【0070】
グルコースに対する正常なインスリン応答を実質的に模倣して、食後グルコース変動を実質的に抑えるTIの能力は、糖尿病患者の健康全般に対して追加の利益があるかもしれない。過度の食後グルコース変動は、アテローム性動脈硬化症や糖尿病性血管疾患(眼、腎臓、及び末梢の自律神経系に影響する糖尿病の合併症)に関連する。故に、本発明の教示によるTIの投与は、血糖値の優れたコントロールを提供して、糖尿病症状の優れた管理と糖尿病患者の健康全般の良好化をもたらす。
【0071】
タンパク質やペプチドのような大型高分子のジケトピペラジンにおける複合化は、金属イオンや他の低分子のような不純物又は汚染物質を除去するために使用することができる。ジケトピペラジンはまた、複合した材料を安定化して、その送達を亢進することの両方に役立つ。活性剤の生体膜を通過する輸送を促進する製剤も開発されてきた。これらの製剤には、(i)活性剤(帯電性でも中性でもよい)と(ii)その剤の電荷をマスクする、及び/又は膜と水素結合を形成する輸送促進剤、からなる微粒子が含まれる。該製剤は、製剤の投与に続いて、活性剤の血中濃度の速やかな増加を提供することができる。
【0072】
Technosphere(登録商標)は、小粒子中でペプチドと複合して安定化させることができる、ジケトピペラジンをベースとする薬物送達系を意味する。ジケトピペラジン、特にフマリルジケトピペラジン(FDKP)は、約2ミクロンの平均径の微粒子へ自己集合する。そのプロセスにおいて、それは、自己集合の間、又は後で、溶液中に存在するインスリンのようなペプチドを捕捉するか又はそれと複合化することができる。乾燥させるとすぐに、これらの微粒子は、全身循環への肺送達に適した組成物となる。肺経路により投与されるとき、Technosphere(登録商標)粒子は、肺深部の中性pH環境において溶解して、ペプチドの全身循環中への迅速で効率的な吸収を促進する。FDKP分子は、投与の数時間以内に、非代謝状態で尿中に排泄される。
【0073】
追加的に、ジケトピペラジンの塩は、「薬物送達用のジケトピペラジン塩と関連の方法(Diketopiperazine Salts for Drug Delivery and Related Methods)」と題して、ジケトピペラジン塩とインスリンの肺送達におけるそれらの使用に関して教示されることすべてについて参照により本明細書に組み込まれる、同時出願中の米国特許出願番号11/210,710に開示されるように、本発明の組成物において使用することができる。
【0074】
6,000ダルトンの名目分子量のポリペプチドであるインスリンは、伝統的には、ブタ及びウシの膵臓を処理して天然産物を単離することによって生産されてきた。しかし、より最近では、組換え技術を使用して、ヒトインスリンがin vitro生産されている。天然及び組換えのヒトインスリンは、水溶液中で六量体のコンホメーションにあり、即ち、組換えインスリンの6つの分子は、亜鉛イオンの存在下の水に溶けるとき、六量体の複合体で非共有的に会合している。六量体インスリンは、迅速には吸収されない。組換えヒトインスリンが患者の循環へ吸収されるには、この六量体型がはじめに二量体及び/又は単量体の型へ解離しなければならず、その後でこの材料は血流へ移動することができる。
【0075】
例えば、フマリルジケトピペラジン製剤では、インスリンを肺へ送達することができて、ピーク血中濃度に3〜10分以内に達することが見出された。対照的に、フマリルジケトピペラジンなしに肺経路により投与された六量体インスリンは、典型的には、ピーク血中濃度へ達するのに25〜60分かかり、一方、皮下注射により投与されるとき、六量体インスリンは、ピーク血液レベルに達するのに30〜90分かかる。この好成績(feat)は、数回、そしてヒトが含まれるいくつかの種で成功裡に再現された。
【0076】
インスリンから亜鉛を除去すると、典型的には、望み得ないほどに短い貯蔵寿命の不安定なインスリンをもたらす。亜鉛を除去するための精製、安定化、及びインスリンの送達亢進がジケトピペラジン微粒子を使用して実証された。フマリルジケトピペラジンと複合したインスリンの製剤は、安定していて、受容し得る貯蔵寿命を有することが見出された。亜鉛レベルの測定は、洗浄工程が含まれるとき、この複合化の方法の間に亜鉛がほとんど除去されて、単量体インスリンを安定した送達製剤で生じることを実証した。
【0077】
本発明のインスリン組成物は、インスリン療法の必要な患者へ投与することができる。本組成物は、好ましくは、肺投与用の乾燥粉末型であるか、又は生理食塩水のような好適な医薬担体に懸濁し得る微粒子の形態で投与する。
【0078】
この微粒子は、好ましくは、投与直前まで乾燥又は凍結乾燥の形態で保存する。次いで、微粒子は、例えば、当該技術分野で知られた乾燥粉末吸入器を使用する吸入によるように、乾燥粉末として直接投与することができる。あるいは、微粒子は、例えば、エアゾール剤としての投与用の水溶液剤として、十分量の医薬担体に懸濁させてよい。微粒子はまた、経口、皮下、及び静脈内の経路より投与することができる。
【0079】
吸入可能インスリン組成物は、患者の標的指向された生体膜(好ましくは、粘膜)へ投与することができる。1つの態様において、患者は、糖尿病のようなインスリン関連障害に罹患しているヒトである。別の態様において、吸入可能インスリン組成物は、インスリンを生物活性型で患者へ送達し、これは、食事に対する正常な応答を刺激する血清インスリン濃度のスパイクを提供する。
【0080】
別の態様において、吸入可能インスリン組成物は、長期作用型基礎インスリンと組み合わせて患者へ投与する。長期作用型基礎インスリンの用量及び投与は、標準的な医療実践に従って、患者の担当医により確立される。吸入可能インスリン組成物は、基礎インスリンの投与変数から独立して、本発明の教示に従って食事近くで投与する。故に、本開示の目的では、「組み合わせて」が本発明の吸入可能インスリン組成物と長期作用型基礎インスリンの両方を患者へ投与することに関連するが、この2つのインスリンの形態は、独立的に投与する。
【0081】
本発明の1つの態様では、インスリンを肺投与に適した形態で含んでなる医薬組成物を提供し、該組成物は、食事の開始近くの時間で投与するとき、皮下投与インスリンより、95%信頼区間でより低い変動係数のインスリン曝露、INS−AUC0−x,x≦3を引き起こし、ここで全インスリン曝露[INS−AUC0−y,3≦y≦6時間]は、実質的に同様である。
【0082】
本発明の別の態様では、インスリンを肺投与に適した形態で含んでなる医薬組成物を提供し、該組成物は、食事の開始近くの時間で投与するとき、皮下投与インスリンより、95%信頼区間でより低い変動係数のグルコース消失を引き起こし、ここでグルコース消失は、グルコース注入速度、(GIR−)AUC0−x,x≦3時間として測定され、ここで全インスリン曝露[INS−AUC0−y,3≦y≦6時間]は、実質的に同様である。
【0083】
本発明のなお別の側面では、インスリンを肺投与に適した形態で含んでなる医薬組成物を提供し、該組成物は、食事の開始近くの時間で投与するとき、実質的に同様のインスリン曝露を提供する用量のインスリンの皮下投与より小さい平均グルコース変動を引き起こし、ここで平均グルコース変動は、皮下投与の場合より少なくとも約28%、特に少なくとも約25%小さい。
【0084】
本発明の態様では、インスリンを肺投与に適した形態で含んでなる医薬組成物を提供し、該組成物は、食事の開始近くの時間で投与するとき、実質的に同様のインスリン曝露を提供する用量のインスリンの皮下投与より少ない平均グルコース曝露をもたらし、ここで平均グルコース曝露は、皮下投与の場合より少なくとも約35%少なく、好ましくは、皮下投与の場合より約50%少ない。
【0085】
本発明の態様では、インスリンを肺投与に適した形態で含んでなる医薬組成物を提供し、該組成物は、食事の開始近くの時間で投与するとき、実質的に同様のインスリン曝露を提供する用量のインスリンの皮下投与の場合より小さい、処置後HbA1c:処置前HbA1cの比を示す。
【0086】
本発明の態様では、インスリンを肺投与に適した形態で含んでなる医薬組成物を提供し、該組成物は、食事の開始近くの時間で投与するとき、実質的に同様のインスリン曝露を提供する用量のインスリンの皮下投与の場合の比より小さい、グルコース曝露、AUCGLU(分*mg/dL):インスリン曝露、AUCINS(μU/mL)の比を示す。
【0087】
本発明の別の態様では、インスリンを通院患者への投与に適した速吸収可能形態で含んでなる医薬組成物を提供し、該組成物は、食事の開始近くの時間で投与するとき、1未満である、グルコース曝露、AUCGLU(分*mg/dL):インスリン曝露、AUCINS(μU/mL)の比を示す。本発明の態様では、該医薬組成物は、肺送達に適している。
【0088】
本発明の態様では、インスリンをジケトピペラジン微粒子、好ましくはフマリルジケトピペラジンと複合した医薬組成物を提供する。
【0089】
本発明の別の態様では、医薬組成物を食事の開始近くの時間で投与することを含んでなる、インスリン療法の再現性を高める方法を提供する。
【0090】
本発明の1つの態様では、インスリン関連障害を治療する方法を提供し、該方法は、インスリン関連障害を有する患者へ、外因的に投与するインスリン組成物が第一相インスリン動態を模倣するように、外因的に投与する組成物を投与することを含んでなり、ここで外因的に投与するインスリン組成物は、静脈内投与されない。
【0091】
本発明のインスリン関連障害を治療する方法の別の態様では、外因的に投与するインスリン組成物が、ジケトピペラジンとヒトインスリンの間の複合体を含む。別の態様において、ジケトピペラジンは、フマリルジケトピペラジンである。なお別の態様において、外因的に投与するインスリン組成物は、吸入される。
【0092】
本発明のインスリン関連障害を治療する方法のなお別の態様において、インスリン関連障害は、1型又は2型糖尿病のような糖尿病である。
【0093】
本発明の1つの態様では、外因的に投与するインスリン組成物を提供することを含んでなる、インスリン関連障害のある患者において血糖値を正常範囲に維持する方法を提供し、ここで第一相インスリン薬物動態は、投与の約30分以内に、あるいは、投与の約15分以内に得られ、ここで外因的に投与するインスリン組成物は、静脈内投与されない。
【0094】
本発明の血糖値を維持する方法の別の態様では、外因的に投与するインスリン組成物が、ジケトピペラジンとヒトインスリンの間の複合体を含む。別の態様において、ジケトピペラジンは、フマリルジケトピペラジンである。
【0095】
本発明の血糖値を維持する方法の別の態様において、外因的に投与するインスリン組成物は、天然に存在しないインスリンの形態である。
【0096】
本発明の1つの態様では、その必要な患者において正常なインスリン動態を回復させる方法を提供し、該方法は、インスリン関連障害を有する患者へ、吸入されるインスリン組成物が第一相インスリン動態を模倣するように、吸入インスリン組成物を投与することを含んでなる。別の態様において、インスリン関連障害は、糖尿病である。なお別の態様において、本方法は、長期作用型基礎インスリンを投与することをさらに含む。
【0097】
(実施例)
(実施例1)
(異なる用量レベルでのインスリン濃度は、線形吸収を示す)
様々な投与量のTechnosphere(登録商標)/Insulin(TI,MannKind Corporation)をヒト被検者へ投与して、血中インスリン濃度を測定した(図7A)。インスリン吸収は、AUCとして、少なくとも100U TIまでは投与量と比例した(図7B)。
【0098】
(実施例2)
(ヒトにおける初期相インスリン応答を迅速に生体利用される吸入インスリンで模倣すると、より遅いバイオアベイラビリティのインスリンに比較して、食後グルコース処理が加速される)
12名の2型糖尿病被検者の群において、等血糖クランプ(isoglycemic clamp)の間の時間、インスリン濃度、及びグルコース消失速度の間の関連性を試験した。各被検者は、24IU皮下インスリン(Actrapid(登録商標)、ノボ・ノルディスク)又は48U Technosphere(登録商標)/Insulin(TI)を別々の試験日に、クロスオーバー法で服用した。
【0099】
グルコース消失速度(GIR)は、540分の試験期間の間に安定した120mg/dLの血糖を維持するのに必要とされるグルコース注入の量により決定した(図4)。48単位のTIが114.8±44.1(平均±SD)mIU/Lの平均最高インスリン濃度(Cmax)をもたらして、15分の最高濃度へのメジアン時間(Tmax)を有したのに対し、24IUの皮下インスリン(SC)は、63±10.1mIU/LのCmaxを150分のTmaxで有した。Technosphere(登録商標)/Insulinが最大GIR値、3.33±1.35mg/分/kgに45分で達したのに対し、この時点では、SCは、1.58±1.03にすぎず、ほとんど一定した濃度でありながら、最大値の3.38±1.45に達したのは255分であった。GIR及びインスリン濃度についてのTIのデータも、図8において時間に対して個別にプロットする。最大インスリン効果に達した時点での、濃度−効果の関係は、TIとSCで同一であった(図4)。180分の時点でのグルコース処理は、TIで326±119mg/kg又は全体の61%であり、SCでは330±153mg/kg(全体の27%)であった。
【0100】
初期相インスリン応答に類似した、インスリン濃度の迅速で鋭い増加は、最大のグルコース消失速度をもたらした。48単位のTIが45分以内に最大効果に達したのに対して、24IU SCでは、同様の効果に達するのに270分かかった。この現象は、2つのインスリン種の用量−効果関係の違いにより引き起こされるものではないが、Technosphere(登録商標)/Insulinにより提供されるより迅速に生体利用可能なインスリンに対して、インスリン濃度の増加が経時的により穏やかであるときの応答の違いを反映する。このことは、食後血糖コントロールにとって重要であり得る。
【0101】
追加的に、投薬から3時間後、48U TIと24IU SCは、すでに同じグルコース低下効果を発揮していた。しかしながら、SC用量で得られたのは、全グルコース低下効果の1/3未満であった。食後180分以内にもたらされた全グルコース低下効果の百分率は、TIでは74%、SCインスリンでは29%であった(図5)。食事インスリン用量を食後3時間で正常血糖の目標に向かって増量すれば、SCインスリンの大きな残留グルコース低下効果は、TIに比較して、後期食後低血糖のリスクを高める可能性がある。グルコース低下活性の大部分を食事により創出されるグルコース負荷により類似した時間間隔へ制限することに加えて、TIにより明示される動態は、内因性インスリン分泌の再主張をより早く可能にするので、血糖コントロールは、ホメオスタシス機序へ復帰する。後期の時点(>150分)では、インスリン濃度の下降が、初期相の時点で見られる減衰速度に基づいて予測されたものより遅れる。このことは、下降する外因性インスリン(TI由来)と上昇する内因性インスリンの重なりとして理解することができる(図14)。
【0102】
内因性インスリン分泌には、Cペプチドの産生が伴うはずである。吸入TI及び注射可能SC標準インスリンについての経時的な平均血清Cペプチド濃度を図16に提示する。Cペプチド濃度は、SC治療の間は本質的に不変であったが、TI治療では、図14に図示するモデルに一致するタイミングで上昇した。
【0103】
2型糖尿病の患者における薬物療法の最も重要な目的の1つは、2型糖尿病の経過の初期に失われる食事関連インスリン応答の第一相を回復又は復帰させることである。吸入TIの迅速な発現と短い作用期間は、それを糖尿病患者における食事インスリン分泌の復帰に適したものとする。
【0104】
(実施例3)
(速いインスリンスパイクは、低血糖のリスクを高めない)
高濃度のインスリンは、特にその亢進効果と組み合わされると、グルコース消失速度をあまりに高く誘導して、低血糖を誘発する危険をもたらすと危惧されることだろう。しかしながら、事実はそうではない。正常血糖クランプ下の健常なヒト被検者に静脈内、皮下、又は肺へインスリンを与えて、投与後20分から始まる血中インスリン濃度に対してGIRをプロットした。正常被検者では、インスリンへ応答するGIRヒステレシスが、上記の実施例1に開示されるように、2型糖尿病患者よりずっと目立たない。このように、正常被検者では、インスリン投与後20分とそれ以降で、GIRとインスリン濃度の間の関係は、真の数学的な関数に近似する。より低いインスリン濃度では、その関数が直線的に見える一方で、より高い濃度の考察は、その関係が実際に対数的であることを示し、インスリン濃度が上昇するにつれて、GIRのさらに小さな増加が得られることが観察された(図15)。このように、グルコース消失は、破局的なほど高い速度に到達せず、そのようにすることができないように見えた。
【0105】
(実施例4)
(吸入Technosphere(登録商標)/Insulinの変動性及び時間−作用プロフィールは、皮下へのヒト標準インスリンのそれに対して好ましく比較される)
インスリンの代謝効果のタイミング及び再現性は、正常に近い血糖コントロールを達成して、患者と医師が適切な用量調整をすることを可能にするのにきわめて重要である。反復用量の48U吸入Technosphere(登録商標)/Insulin(TI)及び24IU皮下注射ヒト標準インスリン(SC)の間で、時間−作用プロフィールとインスリン吸収及びインスリン効果における患者内変動性を比較した。
【0106】
Technosphere(登録商標)/InsulinとSCを、それぞれ別々の試験日の3つの別々の時機に無作為化した順序で、2型糖尿病の12名のインスリン治療被検者(男性10名、女性2名、年齢56歳(40〜65歳の範囲)、糖尿病期間14.4(3〜29)年、HbA1c 6.9±0.9%(平均±SD)、いずれも肺機能は正常(FVC、FEV1、及びVCは、予測正常値の80%))に投与した。正常血糖クランプ(クランプレベル:120mg/dL)を使用して、薬物動態(PK)及び薬力学(PD)上の時間−作用プロフィールを、各形態のインスリン投与後540分にわたり測定した。AUC0−tのCV%として表現される、吸収及び効果の変動性について、投薬後120、180、及び540分で決定した。
【0107】
Technosphere(登録商標)/Insulinは、SCより速やかな作用の発現(INS−Tmax17±6対135±68分、TI対SC、p<0.0001)とより高いピークインスリン濃度(INS−Cmax)を示した(表1)。Technosphere(登録商標)/Insulinが最大グルコース注入速度(GIR)値にすでに79±47分で到達したのに対し、SC用量の最大効果が生じたのは、293±83分である(p<0.00001)。INS曲線とGIR曲線の両方のAUCは、投与後最初の2及び3時間では、SCに比較してTIでより高かった(表1)。インスリン濃度とインスリン作用の両方の変動性は、投与後最初の3時間では、SCに比較してTIでより低かった。具体的には、TIでインスリン効果(GIR)の変動性が120、180、及び540分でそれぞれ23%、22%、及び26%であったのに対し、SCでは39%、33%、及び18%であった(図6A)。インスリン濃度の変動性(図6B)は、同様のパターンに従った(TIは19%、18%、及び16%で、SCは27%、25%、及び15%)。270分でTIのGIRはベースラインへ復帰して、540分で測定した血漿インスリンの変動性は、SCの変動性と同等であった(CV%:GIR−AUC0−540分 26%対18%(TI対SC);INS−AUC0−540分 16%対15%)。
【0108】
Technosphere(登録商標)/Insulinは、皮下の標準ヒトインスリンより速やかな発現とより短い作用期間を示し、それにより、2型糖尿病患者の食事インスリン分泌の代わりに適したものとなり得る。特に、TIは、SCと対照的に、そのグルコース低下効果のほとんどが3時間の時点の前に起きたので、後期食後低血糖のより低いリスクをもたらすことができる。さらに、TIの反復吸入の患者内変動性は、投薬後最初の3時間の間、SCインスリンに優ったので、用量の増減(titration)を容易にすることができる。
【0109】
【表1】

【0110】
(実施例5)
(2型糖尿病患者における吸入Technosphere(登録商標)/Insulinの効果及び安全性に関する無作為化、二重盲検、プラセボ対照試験)
小さなMannKindTM吸入器より送達されるTechnosphere(登録商標)乾燥粉末肺インスリンは、正常な食事関連の第一相又は初期相インスリン放出を模倣するバイオアベイラビリティを有する。この多施設、無作為化、二重盲検、プラセボ対照試験は、食事又は経口剤療法で十分制御されない2型糖尿病患者(HbA1c>6.5%〜10.5%)において実施した。全部で123名の患者を登録し、119名の治療意思集団(ITT)を、6〜48の間の単位のヒトインスリン(rDNA起源)を含有する単位用量カートリッジ由来の食事吸入Technosphere(登録商標)/Insulin(TI)又は吸入Technosphere(登録商標)/プラセボを12週間受けるように、1:1の比で無作為化した。TIは、12週の試験を通して、1日の各主食又は主食相当食の最初1口の食事を摂るときに吸入して、1日につき3又は4回の投与に相当した。被検者は、試験に入る前に使用していたどんな経口糖尿病薬でも継続した。最初と最後の治療通院からのHbA1cの差異と最初の通院と2回の中間通院の間の差異を、
血糖の変化として、様々な時点のAUCと、食事チャレンジ後のCmax及びTmaxとして定量した。
【0111】
患者には、試験の間、標準食を数回与えて、その血糖値を測定した。試験薬は、試験施設で調製した標準朝食(Uncle Ben’s Breakfast BowlTM)とともにその施設で投与した。食事の直前に絶食時血糖を測定した。被検者が試験薬の初回用量を受ける前に、肺活量測定を実施した。次いで、被検者は試験薬を吸入して、60秒以内に、1回の肺活量測定試験法を実施した。試験薬吸入の90秒以内、そして肺活量測定検査の後で、被検者は、試験食を食べ始めた。食事が完了したらすぐに、血糖値とグルコースメーターの読取りを食事の直前、その開始後30、60及び120分で入手した。
【0112】
TI又はプラセボのいずれか一方を受けた患者では、血糖が食事チャレンジ後に上昇したが、TI群で有意に少なく、よりすぐにベースラインへ戻った(図11)。従って、AUC0−120として表される全量グルコース曝露(図12A)と最大血糖変動(Cmax;図12B)は低下した。図13は、異なる投与量のTIを受けた患者と対照アームの患者の間の最大血糖変動で観察された差異を示す。30Uの用量では、TI患者の最大血糖変動が対照群の患者のレベルの50%であったことに注目されたい。また、平均血糖変動が、TI患者が本試験に入るときに50mg/dLであったのに対して、約28mg/dLであったことにも注目されたい。28mg/dLだけの変動は、臨床治療の目標である範囲内にある。
【0113】
グリコシル化ヘモグロビンA1c(HbA1c)の結果は、一次効果集団(Primary Efficacy Population)(PEP、最小投薬や併用糖尿病薬の非調整が含まれる試験の必要条件を遵守した人々として、盲検化を解除する前に定義する)、PEP亜群A(6.6〜7.9%のベースラインHbA1cの人々)、PEP亜群B(8.0〜10.5%のベースラインHbA1cの人々)、並びにITTについて予め決定した統計解析プランにより解析した。これらの結果を表2に要約して、PEP亜群Bについて図17に要約する。この「個別化用量」試験では、有効治療群において毎食前に使用したTIの平均用量はほぼ30単位で、PEP亜群Aでは28単位を使用して、PEP亜群Bでは33.5単位を使用した。
【0114】
【表2】

【0115】
TI群では、重症低血糖のエピソードは起こらなかった。プラセボを受けた被検者とTIを受けた被検者の間で、低血糖イベントの比率において統計学的有意差はなかった(表3)。
【0116】
【表3】

【0117】
DLco(肺の一酸化炭素拡散能力)(表4)、FEV1(1秒努力呼気量)、及び全肺胞量(努力肺活量、FVC)が含まれる肺機能検査は、TIの患者間でそのベースライン値に比較しても、プラセボを受けた患者の結果と比較しても、有意差を示さなかった(図19)。
【0118】
【表4】

【0119】
12週の曝露期間の間に、TIでのインスリン抗体の誘導(表5)、又は体重増加(図18)の証拠はなかった。
【0120】
【表5】

【0121】
結論として、本試験は、Technosphere(登録商標)肺インスリンが、これまで食事や運動のみ、又は経口剤療法では不十分な血糖コントロールであった患者に使用するときに、インスリン放出の初期相の動態を再現して、安全かつ有意に血糖コントロールを改善して、低血糖の発症の有意な増加も、インスリン抗体の誘導も、体重増加への傾向も、肺機能に対する全体的な影響の証拠もないことを実証した。
【0122】
(実施例6)
(FDKP/Insulinは、食事開始の10分前〜30分後に投与するときに血糖コントロールを提供する)
乾燥粉末としてのFDKP−インスリン複合体(FDKP/Insulin;Technosphere(登録商標)/Insulin,TIとも呼ぶ)の肺投与のタイミングの効果を評価するために臨床治験を実施した。被検者は、その糖尿病の治療にインスリン以外の薬物も、炭水化物代謝に影響を及ぼす他の薬物も服用していない1型糖尿病患者であった。この治験は、前向き、単一施設、無作為化、クロスオーバー、オープンラベル試験であった。それぞれ8回の治療通院時に、ヒト被検者は、1回の個別用量を、等カロリー食(I;ほぼ500キロカロリー)又は高カロリー食(H;ほぼ720キロカロリー)の摂取の10分前(B10)、直前(C0)、15分後(A15)、又は30分後(A30)に吸入した。各被検者は、別々の時機にランダムな順序で、治療通院の間は1〜14日経過して、8種の可能な投与タイミング/食事の組合せ(即ち、B10I、B10H、C0I、C0H、A15I、A15H、A30I、及びA30H)のいずれかを受けた(図20を参照のこと)。TIの吸入と食事消費の前と後で採取した血液試料を使用して、
グルコースとインスリンの薬物動態変数を決定した。
【0123】
TIの用量は、各被検者で個別化した。この個別化用量は、治療通院の間に消費する食事の炭水化物含量(TIバイオアベイラビリティの相関因子)と、被検者の個別の「インスリン因子」(Fi)(これは、最初の治療通院前の予備通院の間に決定する)に基づいた。用量個別化の方法は、以下の式に従って、治療通院ごとに算出した:
IU用量=(BE*Fi)/0.30
[ここで:
IU用量は、投与するTIのIU数である。
BE(Brot−Einheit,パン単位)は、消費する食事の炭水化物含量(グラム)の1/10である(等カロリー食と高カロリー食で、それぞれ5と8.5)。
Fiは、1BEを受けるのに必要とされるインスリンの単位に等しい、個別のインスリン因子である。
0.30は、TIバイオアベイラビリティの相関因子である]。
【0124】
計算の後で、TIの用量を、6U、12U、又は24Uのインスリンを含有する、多数のTIカートリッジを使用して投与することができる最も近い用量へ近似した。
【0125】
治療通院の間、インスリンは1IU/時間の速度で静脈内に注入して、グルコースは、食事消費及び/又はTI吸入の前に、安定した毛細血糖濃度を80〜140mg/dLの範囲内に達成するように調整する速度で注入した。この注入は、本試験の間、調整せずに継続した。食事消費の45分前から始めて消費後4時間まで継続する、多様な間隔で静脈血試料を採取した。この試料を血液(血清)グルコースと血清インスリン濃度の定量に使用した。
【0126】
一次効果変数は、血糖濃度であった。TI及び食事の投与の前及び後での血糖濃度のプロフィールを提供することだけでなく、血糖濃度値を使用して、血糖変動全体について記載するために以下の薬物動態変数を算出した:
食事消費の開始後の最高(Cmax)及び最低(Cmin)血糖濃度(ベースライン値に対して補正する)。
【0127】
TI吸入後の最低(Cmin)血糖濃度(ベースライン値に対して補正する)。
【0128】
食事開始後のCmax到達時間(Tmax)、Cmin到達時間(Tmin)、及びベースラインレベルより高い最終血糖変動への時間(T)。
【0129】
血糖濃度曲線下面積(AUC)は、3つの別々の時間に台形法を使用して計算した:
AUC:食事開始10分前〜食事開始後240分
AUC1:10分前〜Tまで、及び
AUC2:T〜食事開始後240分まで。
【0130】
食事開始後1時間での血糖濃度(BG1)と2時間での血糖濃度(BG2)。
【0131】
治療間で比較可能であるベースラインを確実にするために、食事前−45、−30、及び−20分の測定の平均に基づいて、血糖及び血清のベースラインを計算した。
【0132】
二次効果変数は、血清インスリン濃度であった。インスリン吸収は、食事に対する投薬の時間とは無関係であると仮定した。インスリンの薬物動態プロフィールは、用量について正規化した血清インスリン値に基づいて、すべてのデータセットについて投薬時間をT=0として使用して決定した。平均Cmax(ピークインスリン濃度)、AUC(インスリン濃度時間曲線下面積)、Tmax(投薬〜ピーク濃度への時間)、投薬〜Cmaxの50%に達する時間(初期T50%)、及び、Tmax〜Cmaxの50%低下までの時間(後期T50%)を計算した。個別用量について(仮定の100IUに対して)正規化した後で、個人内及び個人間の変動を個々のCmax及びAUCの平均についてのCV%として決定した。
【0133】
一次効果変数は、血糖濃度であった。等カロリー又は高カロリー食の前及び後の平均(SD)ベースライン補正血糖濃度に対するTI投与タイミングの効果を一次効果集団について図21に示す。全体的に、血糖の比較変動は、等カロリー食より高カロリー食の後でより高かったが、TIの投与タイミングに依存すること以外は、2つの食事タイプでプロフィールが類似していた(図21)。注目すべきことに、いずれの食事でも、10分前にTIを吸入すると、血糖値の最初の減少があった。食事の開始の約10分後に最下点に達した後で、血糖値は、その後ほぼ30分の間、ベースラインレベル上で上昇した。比較すると、TIを食事の開始後15又は30分で吸入すると、血糖値は、食事消費を開始からほぼ10〜15分後にベースライン上に上昇した(図21)。
【0134】
各種の食事に続く血糖とTI投与の各タイミングについての薬物動態変数の比較を一次効果集団について表6に示す。平均最小血糖値(Cmin、ベースラインからの変化として表す)と初期時間の血糖濃度曲線下面積(AUC1)により示されるように、血糖の最大低下を生じたのは、被検者が等カロリー食又は高カロリー食のいずれかを摂りはじめる10分前にTIを吸入したときである(それぞれ、Cmin−21mg/dL及び−27mg/dL;それぞれ、AUC1−722及び−907分*mg/dL)(表6)。TIを食事消費の10分前か又は直前に吸入したとき、血糖値は、ほぼ10〜13分で最下点に達し(メジアンTminにより示される)、その後20〜30分間までベースラインレベル上に上昇しなかった(メジアンTにより示される)(表6)。比較すると、TIを食事消費の開始後15分又は30分のいずれかで吸入したとき、血糖の低下はより少なく(Cmin−10〜−13mg/dL;AUC1−141〜−176分*mg/dL)、
それらはより早く起こり(Tmin3〜5分)、そしてそれらは、より短時間であった(ほぼ6〜7分)。血糖の最大の個別低下があったのは、等カロリー食又は高カロリー食の消費の直前にTIを吸入した被検者である(それぞれ、Cmin−58mg/dL及び−57mg/dL)。
【0135】
【表6】

【0136】
平均Cmax値(ベースラインからの変化として表す)、AUC、及びAUC2は、特定種の食事の前又は後のいずれでTIを与えても概ね同等であったが、いずれも高カロリー食より等カロリー食の後でより低かった(表6)。Cmaxへのメジアン時間(Tmax)は、等カロリー食で120〜165分、そして高カロリー食で150〜180分に及んだ。食事開始後1時間の平均血糖値(BG1)と2時間の平均血糖値(BG2)は、いずれの食事に関しても、TIの吸入時間に対して首尾一貫した関係を示さなかった(表6)が、BG1は、TIを食事開始10分前に与えるときに最低で、食事開始30分後に与えるときに最高であった。
【0137】
選択したグルコース薬物動態変数に対するTI吸入の異なる時間の比較効果を各食事タイプについて対応するC0での数値の比(即ち、B10/C0、A15/C0、及びA30/C0)として表した。これらの比率を、その95%信頼区間(CI)とともに表7(一次効果集団)に要約する。これらの結果は、あらゆる薬物動態変数に対する食事消費直前でのTI吸入の比較効果が食事消費の10分前での吸入のそれと異ならないことを示した(即ち、ほとんどのB10/C0比は1に近くて、95% CIには、その範囲内で1が含まれた)。ほとんどの比較でも、食事消費の直前と15又は30分後のTIの間で差を生じなかった。
【0138】
【表7】

【0139】
二次効果変数は、血清インスリン濃度であった。TI吸入後の平均(SD)ベースライン補正血清インスリン濃度のプロフィールを一次効果集団について図22に図示する。TI吸入の直後に血清インスリンの鋭い増加があったが、これは投薬時間や食事タイプと無関係であった。血清インスリン濃度は、投薬後ほぼ15分でピークに達して、その後投薬後60分まで急速に下降して、その後で、一次消失と一致した、より緩やかな下降があった。
【0140】
各種の食事に対するTI投与の各タイミングについての血清インスリンの薬物動態変数の比較を一次効果集団について表8に示す。全体的に、平均Cmax(ベースラインからの変化として表す)と血清インスリンのAUC値は、食事のタイプに拘らず、そしてTIを食事の前又は後で投与しても、概ね同等であった(表8)。食事タイプと食事に対する投薬のタイミングにかかわらず、血清インスリン濃度は、TI吸入後急速に上昇し、初期T50%は3〜5分に及び、ピーク濃度は、投与後10〜20分で観察された。その後、
血清インスリン濃度は下降し、後期T50%は33〜43分に及び、ここでもTIの吸入時間や食事タイプと首尾一貫した変動を示さなかった(表8)。
【0141】
【表8】

【0142】
このように、TIの個別用量の吸入は、等カロリー食又は高カロリー食を摂取する1型糖尿病の被検者において血糖コントロールを提供する。食事に対する投与のタイミングに基づくインスリンの薬物動態には差がなかった。食物を最初に噛む時間の10分前と食事開始後30分までの間のTIの投与は、食後時間において同等の血糖コントロールを提供する。
【0143】
(実施例7)
(ジケトピペラジン肺投与製剤におけるインスリンのバイオアベイラビリティ)
被検者と方法
本試験は、5名の男性ボランティアを用いて実施した。包含基準は、良好な健康(身体検査により判定する)、年齢:18〜40歳、ボディマス指数:18〜26kg/m、4L/秒以上のピーク呼吸フローに達する能力(コンピュータ支援肺活量測定により測定する)、及び予測正常値の80%以上のFEV1(FEV1=1秒努力呼気量)であった。除外基準は、1若しくは2型糖尿病患者、ヒトインスリン抗体の罹病性、試験医薬品又は類似化学構造の薬物に対する過敏症の既往歴、重症アレルギー又は多重アレルギーの既往歴、試験エントリー前3ヶ月での他の治験薬での治療、進行性の致命的な疾患、薬物又はアルコール乱用の既往歴、他の薬物で薬物療法を受けていること、重大な心臓血管系、呼吸系、胃腸、肝臓、腎臓、神経系、精神医学系、及び/又は血液疾患の既往歴、進行性の気道感染症、明白な喫煙者又はタバコ又はニコチン使用の既往歴ありと判定される被検者であった。
【0144】
試験の実施
試験日の朝、被検者(夜中から水以外は絶食)は午前7:30に来院した。被検者には、各処置日の24時間前から、過度の身体活動とアルコールの摂取を制限した。彼らを3つの処置アームの1つへ無作為に割り当てた。被検者は、0時点の前の2時間の間、血清インスリン濃度が10〜15μU/mLで確立されるように、0.15mU分−1kg−1に保つ一定の静脈内標準ヒトインスリン注入を受けた。この低用量注入を試験全体で継続して、内因性インスリン分泌を抑制した。血糖は、このグルコースクランプを通して、グルコース制御注入システム(BiostatorTM)により90mg/dLのレベルで一定に保った。グルコースクランプのアルゴリズムは、実際に測定される血糖濃度と、血糖濃度を一定に保つためのグルコース注入速度を計算する前の数分における変動性の度合いに基づいた。インスリンの適用(5IU IV又は10 IU SCの注射、又はカプセルにつき3回の深呼吸での吸入(各50Uで2つのカプセル)、市販の吸入デバイス(ベーリンガー・インゲルハイム)で適用する)は、0時点の直前に終了させなければならなかった。クランプ実験の時間は、0時点から6時間であった。グルコース注入速度、血糖、血清インスリン、及びCペプチドを測定した。
【0145】
生体効果(Bioefficacy)とバイオアベイラビリティ
生体効果を定量するために、グルコース注入速度の曲線下面積を投与後最初の3時間(AUC0−180)と投与後6時間の全観察期間(AUC0−360)について計算して、適用したインスリンの量へ関連づけた。バイオアベイラビリティを定量するために、インスリン濃度の曲線下面積を投与後最初の3時間(AUC0−180)と投与後6時間の全観察期間(AUC0−360)について計算して、適用したインスリンの量へ関連づけた。
【0146】
このクランプ試験において、100UのTechnosphere(登録商標)/Insulinの吸入は十分忍容されて、達成された血清インスリン濃度から計算されるように、最初の3時間は25.8%の相対バイオアベイラビリティで実質的な血糖低下効果を及ぼすことが示された。Technospheres(登録商標)は、特別なpH、典型的には低いpHで秩序だった格子アレイへ自己集合するジケトピペラジンより形成される微粒子(本明細書においては、ミクロスフェアとも呼ばれる)である。それらは、典型的には、約1〜約5μmの平均直径を有するように製造される。
【0147】
結果
薬物動態の結果を図23及び24と表9に図示する。
【0148】
効力結果
100UのTIの吸入は、インスリン濃度のピークを13分後に(静脈内(IV)(5IU):5分、皮下(SC)(10IU):121分)、そしてインスリンレベルのベースラインへの復帰を180分後に(IV:60分、SC:360分)示した。グルコース注入速度により測定される生物学的作用は、39分後に(IV:14分、SC:163分)ピークになり、360分より多く(IV:240分、SC:>360分)続いた。絶対バイオアベイラビリティ(IV適用との比較)は、最初の3時間で14.6±5.1%であり、最初の6時間で15.5±5.6%であった。相対バイオアベイラビリティ(SC適用との比較)は、最初の3時間で25.8±11.7%であり、最初の6時間で16.4±7.9%であった。
【0149】
【表9】

【0150】
安全性結果
Technosphere(登録商標)/Insulinは、すべての患者において安全であることが示された。1名の患者が吸入の間に咳をしていたが、さらなる症状も、呼吸系の悪化の徴候もなかった。
【0151】
結論
100UのTIの吸入は、十分忍容されて、達成された血清インスリン濃度から計算されるように、最初の3時間は25.8%の相対バイオアベイラビリティで実質的な血糖低下効果を有することが証明された。
【0152】
要約
本試験において、TIの吸入が、健常なヒト被検者において、インスリン濃度の迅速なピーク(Tmax:13分)と迅速な作用発現(Tmax:39分)、並びに6時間以上にわたる持続作用を伴う時間−作用プロフィールを有することが証明された。100UのTIの吸入後に測定された全代謝効果は、10IUのインスリンの皮下注射後より大きかった。TIの相対的な生体効果が19.0%であると計算された一方で、相対バイオアベイラビリティは、最初の3時間で25.8%であると定量された。
【0153】
上記のデータはまた、TIの吸入がSCインスリン注射よりずっとより速い作用の発現をもたらして、IVインスリン注射の作用の発現に近い一方で、TIの作用時間は、SCインスリン注射のそれと同等であったことを示している。
【0154】
上記薬物は、治験全体の間、十分忍容されて、重篤な有害事象は報告されなかった。
【0155】
(実施例8)
(食事のTechnosphere(登録商標)/Insulinは、食事の皮下インスリンより有意に優れた食事関連血糖変動のコントロールを提供する)
Technosphere(登録商標)/Insulin(TI)は、フマリルジケトピペラジン微粒子へ複合したインスリンを含んでなる、ヒトインスリンの乾燥粉末製剤である。乾燥粉末吸入器(MedTone(登録商標)Inhaler)を用いた肺投与によりTechnosphere(登録商標)/Insulinを送達して、迅速な作用発現と食事関連のグルコース吸収を受けるのに十分長い作用時間を達成した。本試験の主要目的は、食事前投与TIの安全性と血糖濃度に対する効力を7日の治療期間にわたり皮下(SC)標準インスリンに比較して評価することであった。
【0156】
2型糖尿病を有して、強化インスリン療法で治療されている16名の非喫煙被検者(年齢59(範囲:39〜69)歳;BMI29.6(23.8〜34.9)kg/m;平均糖尿病期間12.3年;正常な肺機能(1秒努力呼気量と努力肺活量が予測正常値の80%を超える))をこの無作為化、オープンラベル、2期間のクロスオーバー試験に組み入れた。被検者は、その食事インスリン必要量を1週間の治療期間にわたり吸入TIによるか又はSCインスリンによりそれぞれ受ける一方で、彼らの通常のインスリン基礎療法を続けた。TI及びSCインスリンの用量は、無作為化に先立つ24時間の収容時間の間に決定した。12U又は24Uのカートリッジを使用して、手持ちの吸入器によりTechnosphere(登録商標)/Insulinを吸入した。SC又はTIのいずれかを割り当てた食前療法を被検者に投与し、4点血糖自己測定を実施し、そしてその通常の活動と食事療法を5〜7日間続けた外来期間の後に、標準朝食(496キロカロリー、55%炭水化物)を48±9(平均±SD)UのTI又は14±5IUのSCインスリンのいずれか一方と一緒に摂取した後の室内条件下で食後血糖及び血清インスリン(INS)変動を定量した。
【0157】
SCインスリンで治療されるとき、被検者は、120分のインスリンメジアンTmaxを54μU/mLのメジアンCmaxとともに示した。比較すると、TIで治療されるとき、被検者は、14分のインスリンメジアンTmaxと102μU/mLのメジアンCmaxを示した(図9)。各治療サイクルの全インスリン曝露は、SCとTIで同等であり、平均AUCINSは、それぞれ9155と9180μU/mLで測定された(図10)。SCでの血糖のベースラインからの平均変動は、85mg/dLで、AUCGLUは、10925分*mg/dLであった。比較すると、TIでの血糖のベースラインからの平均変動は、59mg/dLで、AUCGLUは、6969分*mg/dLであった(図10)。このように、上記単位でのインスリン曝露に対する血糖変動の比(吸収されるインスリン用量の有効性の指標)は、TIでは約0.76でしかなかったのに対して、SCでは約1.2であった。このデータは、SCに対してTIで測定した240分にわたる平均血糖変動の31%低下(p=0.0022)とグルコース曝露の36%低下(p=0.0073)を実証する。
【0158】
インスリン(血漿中で測定する)、食事の量、および食事の組成への同等な曝露でありながら、食事のTIは、食事のSCに比較して、有意に改善された食後ピーク血糖のコントロールと全グルコース曝露をもたらした。この療法間の唯一の違いは、インスリン製剤とインスリン投与の方法であった。TIは、第一相インスリン放出動態を模倣して、肝臓グルコース放出に対して影響を及ぼすことが予測されるときに生じる、インスリンTmaxをもたらした。皮下インスリンレベルは、初期の食後期間の間、TIよりずっと低くて、TIほど明瞭な「ピーク」を明示せず、最高濃度への緩やかな上昇を示したが、肝臓グルコース放出を制御することを期待するにはあまりに遅いものの、後期食後低血糖のリスクを表出するには十分であった。
【0159】
(実施例9)
(2型糖尿病の被検者における、SC注射標準インスリンと比較した、吸入Technosphere(登録商標)/Insulinによる食後血糖変動の顕著な低下−ANOVAを用いた実施例8データの再解析)
ベースライン補正した食後の全インスリン曝露(INS−AUC0−240分)は、TIとSCで同等であった(8187±4269に対して8302±4025分*μU/dL;ns)が、TIのベースライン補正した食後血糖変動(BG−AUC0−240分)は、SCの約50%にすぎなかった(5095±5923分*mg/dLに対して9851±5593分*mg/dL;p<0.008)。このように、上記単位でのインスリン曝露に対する血糖変動の比(吸収されるインスリン用量の有効性の指標)は、TIでは約0.62でしかなかったのに対して、SCでは約1.2であった。言い換えると、吸収されるインスリンの単位あたりで見て、血液からグルコースを除去することにおいて、TIは、ほぼ2倍効率的であった。TIでは、SCよりメジアンインスリンTmaxがより短く、(15分対120分;p<0.001)、メジアンCmaxはより高かった(100μU/mL対54μU/mL;p=0.001)。従って、食後最高値で補正した血糖変動は、SCに比較してTIで28%低かった(49mg/dL対82mg/dL;p<0.003)。低血糖の発症(BG<63mg/dL、又は低血糖症状)は、治療で生じた(軽度〜中等度)副作用の件数(5エピソード対4エピソード)と同じように、TIとSCの間で同等(6エピソード対5エピソード)であった。高血糖(BG>280mg/dL)は、TIでより頻繁に生じた(12エピソード対4エピソード)が、2名の患者だけで8回のエピソードであった。
【0160】
全血清インスリン濃度が両治療薬の間で同等でありながら、Technosphere(登録商標)/Insulinは、食事SCに比較して食後血糖コントロールを顕著に改善した。これは、インスリンTmaxが第一相インスリン動態に似ている、TIの迅速な作用発現によるものであった。対照的に、SCインスリンレベルは、初期の食後期間の間、TIよりずっと低くて、TIで観察される明瞭なピークを明示しなかった。これらの結果は、食事インスリンニーズを提供して、食事関連の血糖変動を抑えることにおいて、食前TIがSCインスリンに優ったという結論を裏付ける。
【0161】
(実施例10)
(通院状況において食事TIを受ける2型患者の多施設試験)
Technosphere(登録商標)/Insulin(TI)を使用する肺吸入により標準ヒトインスリンを投与する薬物動態および薬力学試験は、最高血漿インスリン濃度を吸入後約10〜14分のメジアンで達成することができて、これは第一相インスリン放出を再現するのに理想的であることを示した。このきわめて再現可能な動態プロフィールのインスリンを通院患者へ投与することは、現在利用可能な他のインスリンシステムでは可能でなかった。上記の実施例のような試験は、食前に与える皮下インスリン(SC)の生体利用可能な同等量に比較して、TIでの食後血糖変動が48%低下したことを実証した。通院状況において食事TIを12週間受ける2型患者の別の多施設試験では、前向きにモニタリングした低血糖の頻度が、通院使用のSCでこれまで報告されている頻度の10%未満であった。
【0162】
2型糖尿病患者における食事Technosphere(登録商標)/Insulinの強制増量の無作為化、前向き二重盲検、プラセボ対照試験において、被検者は、SCインスリングラルジン(Lantus(登録商標);長期作用型インスリン)の基礎投与に加えて、食事中に投薬するTechnosphere(登録商標)Insulin(TI)を吸入した。227名の患者について18週にわたり試験した。最初の4週の間、患者はその既存の療法を遵守し、それからすべての経口抗高血糖療法を排除して、一定用量のSCインスリングラルジンを、彼らの報告されている操作前絶食時血糖レベルを再現するのに十分な用量で1日1回服用することにして、この用量で安定化させた。次いで、4週にわたる強制増量シナリオにおいて、患者を盲検量の追加吸入プラセボ又は盲検量の吸入TI(14、28、42又は56Uの標準ヒトインスリンを含有して、1日の各主食時に服用する)へ無作為化した。具体的には、被検者を5つのコホートへ分けて、はじめはSC長期作用型インスリンとともにプラセボ(インスリン無しのTechnosphere(登録商標)微粒子)を服用させた。1週後、1つのコホートはプラセボを服用することを継続して、4つのコホートは、14UのインスリンのTI用量へ切り換えた。もう1週の後で、3つのコホートを28UのTI用量へ切り換えて、このように続けて、最後のコホートは56UのTI用量へ達した。次いで、残る8週の治験の間、すべてのコホートで同一用量を続けた。
【0163】
HbA1cレベルと食事チャレンジ(300分)について、初回通院時、無作為化治療の開始時、及び完了時に評価した。治療群とプラセボ群の間で比較をした。明確な低血糖エピソードの頻度と、FEV及びDLCOが含まれる一連の肺機能検査の測定により安全性を評価した。TIのインスリングラルジンへの追加により、HbA1cレベルの用量依存性の低下が生じた。56単位で8週間治療した患者では、平均低下がインスリングラルジン/プラセボ群において観察されるものより0.79%大きかった(p=0.0002)。Technosphere(登録商標)/Insulinはまた、食後血糖変動の用量依存性の低下を生じ、最大変動は、56Uで平均して34mg/dLにすぎなかった(p<0.0001)。重篤な低血糖エピソードはなく、軽度/中等度の低血糖エピソードの頻度は、インスリングラルジン単独の被検者以上に増加しなかった。体重や肺機能において、ベースラインからの変化も、投与量群間での変化も観察しなかった。このように、吸入TIは、低血糖のリスクを高めることなく、2型糖尿病患者の血糖コントロールを改善することができた。
【0164】
(実施例11)
(基礎/食事治療方式における食事インスリンとしての吸入Technosphere(登録商標)/Insulin又はSC投与速効性インスリン類似体の1型糖尿病患者での3ヶ月比較)
本試験は、Technosphere(登録商標)/Insulin(TI)を比較対照としての速効性インスリン類似体(RAA,Novolog(登録商標))と比較する、1型糖尿病患者の長期コントロールの一次評価を表す。TIのこれまでの試験では、2型糖尿病患者において240分にわたり標準ヒトインスリンより有意に優れた食後コントロールが示された。
【0165】
1型糖尿病患者(111名の被検者、18〜80歳の年齢;HbA1c:7.0%以上、11.5%以下)を無作為化したオープンラベル試験に組み入れて、基礎インスリン(Lantus(登録商標))に加えて、食事インスリンとしてTI又はRAAを12週にわたり服用させた。食事インスリンと基礎インスリンの両方の増減は、医師の裁量で許可した。8週と12週のベースラインで、標準食試験を実施して、300分(12週では420分)にわたる血糖変動を評価して、HbA1cレベルと肺機能(FEV及びDLco)を両群で評価した。TIインスリン服用群では、SCインスリンを投薬した群と比較して、標準食に続く最初の2時間で、より低い最大血糖変動及び全血糖変動を観察した。
続く3〜4時間にわたり、TI群では血糖がベースラインレベル付近で維持されたが、速効性インスリンを服用した患者では、ベースラインより下に下降した。HbA1cレベルでは、2つの治療群の間に有意差を観察しなかった。ベースラインからの低下は、TI群で0.83(1.11);p<001(平均(SD))、SCRAA服用群で0.99(1.07);p<0.001であり、群間に統計学的な差はなかった(p=0.458)。同時に、体重は、TI群で0.41(2.22)kg減少したが、SCインスリン服用群では0.89(1.92)kg増加した。群間の差は、統計学的に有意であった(p=0.0016)。TI服用被検者では、RAAに比較して、食後血糖変動の改善を観察した。通院10での最大食後変動は、TIで0.92ミリモル/Lに対し、RAAで3.0ミリモル/Lであった。全食後血糖上昇(AUCGLU)は、TIで96.7ミリモル/L*分であり、RAAで400.6ミリモル/L*分であった。3ヶ月の治療後に、肺機能に対する副作用は見られなかった(FEV1の変化は、TIで−0.064l(0.189)であり、RAAで−0.072(0.193)であり(p=0.82;n.s.)、そしてDLcoでは、それぞれ−1.62(3.29)と−1.094(3.08)(p=0.39;n.s.)であった)。故に、1型糖尿病患者の基礎/食事治療方式にいて、吸入TIは、SC投与RAAに対して好適な代替品であり、RAAに類似した全体血糖コントロール(ベースラインHbA1cからの変化として表される)を提供する一方で、食後変動は有意に小さかった。
【0166】
他に示さなければ、本明細書及び特許請求項に使用する、分子量、反応条件、等のような、成分の量、特性を表すすべての数字は、用語「約」によって、すべての事例で変更されるものと理解されたい。従って、反対に示されなければ、以下の明細書と付帯の特許請求項において示す数的変数は近似値であり、本発明により得ることが求められる望みの特性に依存して変動してよい。少なくとも、そして均等論の原則の適用を特許請求項の範囲へ限定する試みとしてではなく、それぞれの数的変数は、少なくとも報告の有効桁数に照らして、通常の丸めの技術を適用することによって解釈されるべきである。本発明の広い範囲を示す数的範囲及び変数が近似値であるとしても、具体例において示す数値は、可能な限り正確に報告される。しかしながら、どの数値も、本来的には、そのそれぞれの検査測定値において見出される標準偏差より必然的に生じるいくらかの誤差を含有するものである。
【0167】
本発明を記載する文脈において(特に、以下の特許請求項の文脈において)使用する用語「a」及び「an」(不定冠詞)と「the」(定冠詞)、そして同様の指示物は、本明細書において他に示さなければ、又は文脈により明らかに矛盾しなければ、単数と複数の両方を網羅すると解釈されたい。本明細書における数値の範囲の再引用は、範囲内に該当するそれぞれ別々の数値へ個別に言及する手近な方法として役立てることを企図している。本明細書において他に示さなければ、それぞれの個別の数値は、それが本明細書において個別に引用されるかのように、本明細書へ組み込まれる。本明細書に記載するすべての方法は、本明細書において他に示さなければ、又は文脈により明らかに矛盾していなければ、どの好適な順序で実施してもよい。本明細書に提供するすべての例、又は例示の言葉(例えば、「のような」)の使用は、単に本発明をよりよく明示することを企図していて、他のやり方で特許請求される本発明の範囲を限定するものではない。明細書中のどの言葉も、本発明の実施に本質的な特許請求されない要素を示すものと解釈してはならない。
【0168】
本明細書に開示する本発明の代わりの要素又は態様の群分けは、限定として解釈してはならない。各群のメンバーは、個別に、又は本明細書に見出される群の他のメンバー又は他の要素とのあらゆる組合せにおいて言及されて特許請求され得る。群の1以上のメンバーは、便宜性及び/又は特許可能性の理由から、ある群に含めても、それから消去してもよいと期待される。そのような包含又は消去が生じるとき、本明細書は、その群を変更として含有して、付帯の特許請求項に使用するすべてのマーカッシュ群の文字記載を達成するものとみなされる。
【0169】
本発明を実施するための発明者に知られた最上の形式が含まれる、本発明の好ましい態様を本明細書に記載する。当然ながら、これらの好ましい態様のバリエーションは、先の記載を読めば、当業者には明らかになろう。本発明者は、当業者がそのようなバリエーションを適宜利用することを予測して、本発明者は、本発明が本明細書に具体的に記載したものとは別のやり方で実施されることを企図する。従って、本発明には、準拠法により許容されるように、付帯の特許請求項に引用される主題のすべての変更及び同等物が含まれる。さらに、本明細書において他に示されなければ、又は文脈により他に明らかに矛盾しなければ、上記に記載の要素のそのすべての可能なバリエーションにおけるあらゆる組合せが本発明に含まれる。
【0170】
さらに、本明細書を通して、特許や出版刊行物に対して数多くの参照がなされた。上記に引用した参考文献及び出版刊行物のいずれも、そのまま参照により個別に本明細書に組み込まれる。
【0171】
終わりに、本明細書に開示する本発明の態様は、本発明の原理を例示するものであると理解されたい。利用し得る他の修飾も、本発明の範囲内にある。このように、例として、
限定ではなく、本発明の代わりの配置を本明細書の教示に従って利用してよい。従って、
本発明は、正確には、示して記載したものに限定されない。
【0172】
(関連出願への相互参照)
本出願は、35U.S.C.§119(e)の下で、米国仮特許出願番号60/667,393(2005年3月31日出願)への優先権を主張して、米国特許出願番号11/329,686(2006年1月10日出願)の一部継続出願であり、このいずれもそのまま参照により本明細書に組み込まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インスリン関連障害のある患者の治療に使用の医薬品の製造におけるインスリン組成物の使用であって、
該組成物は、インスリン関連障害のある患者において、肺投与ができるように適合されていて、食後血糖変動を抑えるための長期作用型基礎インスリンと組み合わせて使用され、患者の血清インスリン濃度を投与後15分以内にピークに到達させ投与後50分以内に半最大値まで低下させ、そして、
臨床上重要な後期食後低血糖の発症は抑えられる、前記使用。
【請求項2】
前記インスリン組成物は、食事の開始近くで投与できるように適合されている、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記インスリン組成物がジケトピペラジンとヒトインスリンの間の複合体を含む、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記ジケトピペラジンがフマリルジケトピペラジンである、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記インスリンが、乾燥粉末として吸入により投与できるように適合されている、請求項4に記載の使用。
【請求項6】
前記インスリン組成物が、食事の開始に先立つ10分〜食事の開始後30分に投与できるように適合されている、請求項2に記載の使用。
【請求項7】
前記インスリン関連障害が糖尿病である、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
前記インスリン関連障害が2型糖尿病である、請求項7に記載の使用。
【請求項9】
前記インスリン関連障害が1型糖尿病である、請求項7に記載の使用。
【請求項10】
前記食後血糖変動が、同様のインスリン曝露をもたらす皮下投与インスリンの用量より生じる食後血糖変動より小さく、ここで平均血糖変動は、皮下投与の場合より少なくとも25%小さい、請求項1に記載の使用。
【請求項11】
前記食後血糖変動が、インスリン単独の適正な皮下用量での治療により産生されるものより抑えられる、請求項1に記載の使用。
【請求項12】
前記臨床上重要な後期食後低血糖のエピソードの頻度が、インスリン単独の適正な皮下用量での治療に比べて抑えられる、請求項1に記載の使用。
【請求項13】
インスリン関連障害のある患者の治療に使用の医薬品の製造におけるインスリン組成物の使用であって、該組成物は、インスリン関連障害のある患者において、肺投与ができるように適合されていて、食後血糖変動を抑えるための長期作用型基礎インスリンと組み合わせて使用され、患者の血清インスリン濃度を投与後15分以内にピークに到達させ投与後50分以内に半最大値まで低下させ、
患者の全インスリン曝露(INS−AUC0−y,3≦y≦6時間)は、インスリンの適正な皮下用量により産生されるものを超えず、そして
食後血糖変動は抑えられる、前記使用。
【請求項14】
後期食後低血糖のリスクを高めない、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
インスリン関連障害のある患者の治療に使用の医薬品の製造におけるインスリン組成物の使用であって、
該組成物は、ジケトピペラジンとインスリンを含み、肺投与に適していて、長期作用型基礎インスリンと組み合わせて使用され、患者の血清インスリン濃度を投与後15分以内にピークに到達させ投与後50分以内に半最大値まで低下させる、前記使用。
【請求項16】
体重増加が抑えられる、請求項15に記載の使用。
【請求項17】
インスリン関連障害のある患者の治療に使用の医薬品の製造におけるインスリン組成物の使用であって、
該組成物は、ジケトピペラジンとインスリンを含み、インスリン関連障害のある患者において、食後血糖変動を抑えるための肺投与に適していて、
患者の全インスリン曝露(INS−AUC0−y,3≦y≦6時間)は、インスリンの適正な皮下用量により産生されるものを超えない、前記使用。
【請求項18】
インスリン関連障害のある患者の治療に使用の医薬品の製造におけるインスリン組成物の使用であって、
該組成物は、ジケトピペラジンとインスリンを含み、肺投与に適していて、経口糖尿病薬と組み合わせて使用され、患者の血清インスリン濃度を投与後15分以内にピークに到達させ投与後50分以内に半最大値まで低下させる、前記使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2013−47256(P2013−47256A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−238430(P2012−238430)
【出願日】平成24年10月29日(2012.10.29)
【分割の表示】特願2008−504512(P2008−504512)の分割
【原出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(503208552)マンカインド コーポレイション (50)
【Fターム(参考)】