説明

糖尿病治療剤

【課題】 糖尿病治療剤の提供
【解決手段】 (±)−2−メトキシエチル 3−フェニル−2−(E)−プロペニル 1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(3−ニトロフェニル)−3,5−ピリジンジカルボキシレートは糖尿病患者に投与すると生体内のノルエピネフィリン(NE)を低下させるため、糖尿病殊にインスリン非依存性糖尿病(NIDDM)の治療に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、構造式
【化1】


で表される(±)−2−メトキシエチル 3−フェニル−2−(E)−プロペニル 1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(3−ニトロフェニル)−3,5−ピリジンジカルボキシレート(以下、シルニジピンという)を有効成分として含有する糖尿病治療剤に関する。
【0002】
【従来の技術】糖尿病は、国内の患者数が200〜300万人ともいわれている。糖尿病はその発症原因から、大きくインスリン依存型糖尿病(IDDM)とインスリン非依存型糖尿病(NIDDM)に分類され、NIDDMが糖尿病患者の中で多くの割合を占めていることが報告されている。NIDDMでは、インスリンの分泌不全とインスリンが存在しても効きにくい状態のインスリン抵抗性がその原因として考えられている。中でもインスリン抵抗性は遺伝的な因子よりも肥満、ストレス等の環境因子が深く関与し、現代の生活環境に密接に関係している。生体内の神経伝達物質であるノルエピネフィリン(以下NEという)は、環境因子が加わることにより生体内で増加し、その結果インスリン抵抗性が亢進するといわれている。しかしながら、糖尿病の薬物療法において、長時間にわたりNE放出を抑制することによりインスリン抵抗性を改善する薬剤に関しては、現在まで他に報告を見ない。
【0003】また、一般的に糖尿病には合併症と言われる各種疾患を併発することが知られ、高血圧症もその一つである。糖尿病に高血圧症が合併した場合、高血圧のない糖尿病患者に比べ、心臓血管障害や腎障害の進行速度が約40〜70%も速いとの報告もあり、糖尿病に伴う高血圧症の治療も降圧剤によって積極的に行われるようになった。
【0004】一方、シルニジピンはジヒドロピリジン構造を持つ高血圧症の治療薬として広く用いられている(特公平3−14307号)。シルニジピンはカルシウムL型チャンネルとカルシウムN型チャンネルに対して作用を持つカルシウム拮抗剤であり、持続的な降圧作用を示す薬剤であることが知られている(Jpn J Pharmacol 56: 225-229, 1991 )。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】上述のように、インスリン抵抗性が深く関与するNIDDMに対しては、未だ満足すべき薬剤がないのが現状で、その治療剤の出現が強く望まれている。また、高血圧症を併発した糖尿病に対してその治療にも有用な薬剤が望まれている。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者は、鋭意研究を行った結果、高血圧症の治療剤として知られているシルニジピンが糖尿病患者の生体内NEを長時間抑制し、糖尿病の治療に用いると有効であることを見出し本発明を完成した。
【0007】シルニジピンはN型チャンネルに作用してNEの放出を抑制することが知られていたが、下記実施例に示される通り糖尿病患者に投与すると、1日に1回の投与であっても、長時間にわたって生体内のNEを低下させることがわかった。NEは、インスリン抵抗性を起こし糖尿病の発症原因となるため、生体内のNEを低下させることは糖尿病の治療に有効である。シルニジピンは糖尿病患者に投与すると生体内NEを極めて優位に長時間にわたって低下させることは、本発明者が初めて見出したことであり、シルニジピンを投与した患者の24時間蓄尿中のNE量の測定結果から確認することができる。また、シルニジピンはインスリン抵抗性の改善の指標となる尿中C−ペプチド(CPR)の量を低下させることからも、糖尿病の治療に有用である。
【0008】また、糖尿病の患者では高血圧を併発する頻度が高く、その高血圧症の治療も同時に行われている。シルニジピンは降圧作用を有し、従来高血圧症の治療に用いられてきたが、この高血圧症を併発した糖尿病患者の治療にも用いることができる。シルニジピンの降圧作用は緩徐で持続的であるために、反射性の瀕脈を起こすことが少なく、高血圧を伴う患者以外にも広く糖尿病の治療に用いることができる。
【0009】本発明で用いるシルニジピンは、(±)−2−メトキシエチル 3−フェニル−2−(E)−プロペニル 1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(3−ニトロフェニル)−3,5−ピリジンジカルボキシレートであり、例えば特公平3−14307号に記載の方法により製造される。このシルニジピンはラセミ体であり光学異性体が存在し、そのいずれの光学活性体を用いることもできる。この光学活性体は、例えば特公平6−43397号に記載の方法により製造される。
【0010】本発明のシルニジピンの投与量は、1日当たり有効成分1mg〜200mg、好ましくは3〜50mgの用量の範囲で、1回又は数回の分けて投与することができる。その投与量は、患者の体重、症状及び当業者が認める他の因子によって増量又は減量することができる。
【0011】本発明のシルニジピンの投与形態は任意であるが、有効成分に加えて、医薬上許容し得るベヒクル、担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、防腐剤、安定剤、香味剤等と共に一般的に認められた製薬実施に要求される単位用量で形態で混和することができる。これらの組成物又は製剤中の有効成分の量は、指示された範囲の適当な用量が得られるように適宜決められる。
【0012】本発明のシルニジピンの投与経路は、特に限定されないが、好ましくは経口投与又は吸入投与される。また、皮下、筋肉、又は静脈内投与することも可能である。また、糖尿病の治療に際し、悪影響を及ぼさない他剤と併用してもよい。
【0013】本発明のシルニジピンの治療剤の形態としては、例えば錠剤、カプセル剤、散剤、吸入液、注射液等が挙げられる。
【0014】
【実施例】以下本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
【0015】実施例1NIDDM患者35症例を対象にした。この患者35症例内訳は、男性13例、女性22例(平均年齢61.0±0.8歳)である。この患者を2群に分け、一方の群にはシルニジピン(CNP)10mg/1日、他方の群にはニルバジピン(NVP)8mg/1日を経口投与した。投与前と投与後、24時間の尿を蓄尿し、尿中のエピネフィリン(U−EP)、ノルエピネフィリン(U−NE)、ドーパミン(U−DA)及びC−ペプチド(U−CPR)を測定した。また、健常人15人についても同様に測定を行った。その結果を図1に示す。
【0016】図1に示す通りNIDDM患者で亢進している生体内のU−NEはシルニジピン投与により低下する。生体内の1日のNE量の変化を反映するU−NEを測定した結果、シルニジピンはニルバジピンに比べ優位にU−NEを低下させ、健常人とほぼ同じ値となった。また、インスリン抵抗性の発現により生体内で亢進をしているU−CPRも優位に低下し、シルニジピンがインスリン抵抗性を改善していた。
【0017】実施例2高血圧を併発し、頭痛及び意識消失発作を起こす糖尿病患者に対し、図2に示す他の併用薬とともにシルニジピン10mg/1回/1日を投与した。3ケ月間シルニジピンを投与後、ニルバジピン4mg/2回/1日に変更した。ニバルジピン投与を4ケ月間継続したところ、起床時の頭痛の症状が見られたため、もとのシルニジピンに変更した。初回のシルニジピン投与開始から10ケ月ほぼ1月毎に患者の24時間の尿を蓄尿し、U−EP、U−NE及びU−DAを測定した。その結果を図2に示す。
【0018】尿中のU−NE量はシルニジピン投与中には、基準値よりやや高い150μg/日前後であったものが、ニルバジピン投与により最大5倍量まで増加した。頭痛の発症により、シルニジピンへ変更投与したところ、U−NE量は150μg/日前後まで低下した。ニルバジピン投与中に観察された、頭痛もシルニジピンへの変更により解消した。
【0019】
【発明の効果】シルニジピンはNIDDM患者に1日1回投与すると、健常人とほぼ同じ基準値にまでNEを低下させた。また、インスリン抵抗性の発現により生体内で亢進をしているCPRも優位に低下させた。よって、シルニジピンは糖尿病患者、殊にインスリン抵抗性を示すNIDDM患者の治療に有用である。また、シルニジピンは降圧作用を有するために高血圧症を併発した糖尿病患者の治療にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 NIDDM患者にシルニジピン(CNP)又はニルバジピン(NVP)を経口投与し、24時間の尿を蓄尿し、尿中のU−EP、U−NE、U−DA及びU−CPRを測定した結果を示す図である。
【図2】 高血圧を併発した糖尿病患者に対しシルニジピンとニルバジピンを交互に投与し、その患者の尿中のU−EP、U−NE及びU−DAを10ケ月間測定した結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 (±)−2−メトキシエチル 3−フェニル−2−(E)−プロペニル 1,4−ジヒドロ−2,6−ジメチル−4−(3−ニトロフェニル)−3,5−ピリジンジカルボキシレートを有効成分として含有する糖尿病治療剤。
【請求項2】 糖尿病がインスリン非依存型糖尿病である請求項1記載の治療剤。
【請求項3】 高血圧症を合併した糖尿病である請求項1又は2記載の治療剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2000−351731(P2000−351731A)
【公開日】平成12年12月19日(2000.12.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−160839
【出願日】平成11年6月8日(1999.6.8)
【出願人】(500307269)ユーシービージャパン株式会社 (4)
【Fターム(参考)】