説明

糖尿病治療剤

本発明の課題は、糖尿病治療剤、インスリン抵抗性改善剤、または糖尿病治療用もしくはインスリン抵抗性改善用の飲食品、飲食品添加剤、飼料もしくは飼料添加剤を提供することにある。該課題を解決するために、本発明は、ヒドロキシプロリンもしくはヒドロキシプロリン誘導体またはそれらの薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する糖尿病治療剤およびインスリン抵抗性改善剤、ならびに糖尿病治療用またはインスリン抵抗性改善用の飲食品、飲食品添加剤、飼料および飼料添加剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、糖尿病治療剤およびインスリン抵抗性改善剤、ならびに糖尿病治療用またはインスリン抵抗性改善用の飲食品、飲食品添加剤、飼料および飼料添加剤に関する。
【背景技術】
糖尿病治療剤としては、これまでにスルホニルウレア剤やスルホニルアミド剤のようなインスリン分泌を促進するもの、チアゾリジオン剤やビグアナイド剤のようなインスリン抵抗性を改善するもの、α−グルコシダーゼ阻害剤のような食後過血糖を改善するものなどが知られており、糖尿病治療にはこれらの治療剤が単独または組み合わせて用いられている。
ヒドロキシプロリンは、コラーゲン中の主要構成アミノ酸として自然界に広く存在し、N−アセチル体が消炎剤として用いられているほか、カルバペナム系抗生物質や血圧降下剤、抗喘息薬、末梢循環改善剤、血液凝固阻止剤等種々の医薬品の合成原料として用いられており、また保湿性を有するという機能的特性から化粧品にも用いられている(バイオサイエンスとインダストリー、1998年、第56巻、第1号、p.11−16)。また食品添加物として、果汁飲料や清涼飲料水、一般食品の味質の調整や風味の改善に使用されたり、フレーバーの原料としても使用されている(第7版 食品添加物公定書解説書、廣川書店、1998年、p.D−1114−1115)。
ヒドロキシプロリンの薬理作用として、肌の老化抑制作用および肌質改善作用(国際公開第00/51561号パンフレット、特開2002−80321号公報)、消炎作用、抗リュウマチ作用、鎮痛作用および創傷治癒作用(特開平8−337526号公報)が知られているが、抗糖尿病作用およびインスリン抵抗性改善作用に関する報告はない。
また、モノヒドロキシ化したアミノ酸にインスリン類似及び/又はインスリン感受性促進作用が知られているが(特表2003−508435号公報)、ヒドロキシプロリンおよびヒドロキシプロリン誘導体の有効性に関するデータはいっさい示されていない。
【発明の開示】
本発明の目的は、糖尿病治療剤、インスリン抵抗性改善剤、または糖尿病治療用もしくはインスリン抵抗性改善用の飲食品、飲食品添加剤、飼料もしくは飼料添加剤を提供することにある。
本発明は、以下の(1)〜(14)に関する。
(1)一般式(I)

[式中、Rは水素またはアシルを示し、Rは水素、または飽和もしくは不飽和の炭化水素基を示し、RおよびRの一方は水素を示し、他方はOR(式中、Rは水素またはアシルを示す)]で表されるヒドロキシプロリンもしくはヒドロキシプロリン誘導体[以下、化合物(I)という]またはそれらの薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する糖尿病治療剤。
(2)化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する糖尿病治療用の飲食品または飲食品添加剤。
(3)化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する糖尿病治療用の飼料または飼料添加剤。
(4)化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するインスリン抵抗性改善剤。
(5)化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するインスリン抵抗性改善用の飲食品または飲食品添加剤。
(6)化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するインスリン抵抗性改善用の飼料または飼料添加剤。
(7)化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩を投与することを特徴とする糖尿病治療方法。
(8)化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩を投与することを特徴とするインスリン抵抗性改善方法。
(9)糖尿病治療剤の製造のための化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩の使用。
(10)糖尿病治療用の飲食品または飲食品添加剤の製造のための化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩の使用。
(11)糖尿病治療用の飼料または飼料添加剤の製造のための化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩の使用。
(12)インスリン抵抗性改善剤の製造のための化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩の使用。
(13)インスリン抵抗性改善用の飲食品または飲食品添加剤の製造のための化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩の使用。
(14)インスリン抵抗性改善用の飼料または飼料添加剤の製造のための化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩の使用。
化合物(I)の各基の定義において、アシルとしては、例えば炭素数2〜23の直鎖または分岐状のアシルがあげられ、より具体的には、アセチル、プロピオニル、ブチリル、イソブチリル、バレリル、ヘキサノイル、ヘプタノイル、オクタノイル、デカノイル、エイコサノイル、トリコサノイル等があげられるが、中でも、アセチル、プロピオニルが好ましい。
飽和または不飽和の炭化水素基としては、例えば炭素数1〜30の直鎖または分岐状の飽和または不飽和の炭化水素基があげられ、より具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、イソブチル、3−メチル−1−ブチル、2−メチル−1−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、ラウリル、ミリスチル、パルミチル、ステアリル、オレイル、エイコサノイル、フィチル、ベヘニル、メリッシル、トリアコンチル等があげられる。このうち、炭素数1〜20の直鎖または分岐状の飽和または不飽和の炭化水素基が好ましく、具体的には、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t−ブチル、イソブチル、3−メチル−1−ブチル、2−メチル−1−ブチル、ペンチル、ヘキシル、オクチル、2−エチルヘキシル、ラウリル、ミリスチル、パルミチル、ステアリル、オレイル、エイコシル、フィチル等があげられる。
化合物(I)のうち、RおよびRが水素で、RおよびRの一方が水素で他方がOHである化合物がヒドロキシプロリンである。ヒドロキシプロリンは、コラーゲン中の主要構成アミノ酸成分として、また、エラスチンの構成アミノ酸として自然界に広く存在する。天然に存在するヒドロキシプロリンとしては、プロリンがD体かL体か、水酸基の位置が3位か4位か、およびその立体異性体がシス体かトランス体かによって、8種類の立体異性体が知られている。具体的には、シス−4−ヒドロキシ−L−プロリン、シス−4−ヒドロキシ−D−プロリン、シス−3−ヒドロキシ−L−プロリン、シス−3−ヒドロキシ−D−プロリン、トランス−4−ヒドロキシ−L−プロリン、トランス−4−ヒドロキシ−D−プロリン、トランス−3−ヒドロキシ−L−プロリンおよびトランス−3−ヒドロキシ−D−プロリン等があげられる。
本発明においては、いずれのヒドロキシプロリンも用いることができるが、トランス−4−ヒドロキシ−L−プロリンが好ましく用いられる。
ヒドロキシプロリンは、ブタやウシ等の動物由来のコラーゲンを酸加水分解し、常法により精製して取得することができるが、微生物を用いて製造したヒドロキシプロリンが好ましく用いられる。
微生物としては、アミコラトプシス(Amycolatopsis)属、ダクチロスポランジウム(Dactylosporangium)属およびストレプトマイセス(Streptomyces)属から選ばれる属に属する微生物または該微生物由来のプロリン3位水酸化酵素またはプロリン4位水酸化酵素遺伝子を導入された微生物等を用いることができる。アミコラトプシス属、ダクチロスポランジウム属およびストレプトマイセス属から選ばれる属に属する微生物由来のプロリン3位水酸化酵素またはプロリン4位水酸化酵素遺伝子の微生物への導入は、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,Second Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989)、Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley & Sons(1987−1997)等に記載の方法に準じて行うことができる。
また、例えば、トランス−4−ヒドロキシ−L−プロリンは、アミコラトプシス属またはダクチロスポランジウム属に属する微生物より単離したプロリン4位水酸化酵素(特開平7−313179号公報)を用いて製造することができ、また、シス−3−ヒドロキシ−L−プロリンは、ストレプトマイセス属に属する微生物より単離したプロリン3位水酸化酵素(特開平7−322885号公報)を用いて製造することもできる〔バイオインダストリー,14,31(1997)〕。
またはRがアシルである化合物は、RまたはRが水素である化合物から、例えば国際公開第00/51561号パンフレット等に記載の公知の方法により製造することができる。
が飽和または不飽和の炭化水素基である化合物は、Rが水素である化合物から、例えば特開2000−355531号公報等に記載の公知の方法により製造することができる。
なお、定義した基が実施方法の条件下で変化するかまたは方法を実施するのに不適切な場合、有機合成化学で常用される保護基の導入および除去方法[例えば、プロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・シンセンス(Protective Groups in Organic Synthesis)、グリーン(T.W.Greene)著、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ・インコーポレイテッド(John Wiley & Sons Inc.)(1981)]等を用いることにより、目的化合物を得ることができる。
得られた化合物は、結晶化、クロマトグラフィー等の通常の精製法を用いて精製することができる。
化合物(I)の薬理学的に許容される塩における塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、マグネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩、アンモニウム、テトラメチルアンモニウム等のアンモニウム塩、モルホリン、ピペリジン等の付加した有機アミン付加塩等があげられる。
本発明の糖尿病治療剤またはインスリン抵抗性改善剤は、有効成分として化合物(I)またはその塩を単独または混合して、あるいは任意の他の治療のための有効成分との混合物として含有する製剤である。
該製剤は、有効成分を薬理学的に許容される一種もしくはそれ以上の担体と一緒に混合し、製剤学の技術分野においてよく知られている任意の方法により製造される。
製剤の投与形態は、治療に際し最も効果的なものを使用するのが望ましく、経口投与または、例えば静脈内、腹膜内もしくは皮下投与等の非経口投与をあげることができるが、経口投与が好ましい。
投与する剤形としては、例えば錠剤、散剤、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、浸剤・煎剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、エリキシル剤、エキス剤、チンキ剤、流エキス剤等の経口剤、注射剤、点滴剤、クリーム剤、坐剤等の非経口剤のいずれでもよいが、経口剤として好適に用いられる。
経口剤を製剤化する際には、賦形剤、結合剤、崩壊剤、潤沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤、緩衝剤、抗酸化剤、細菌抑制剤等の添加剤を用いることができる。
経口投与に適当な、例えばシロップ剤のような液体調製物は、水、蔗糖、ソルビトール、果糖等の糖類、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、ごま油、オリーブ油、大豆油等の油類、p−ヒドロキシ安息香酸エステル類等の防腐剤、パラオキシ安息香酸メチル等のパラオキシ安息香酸誘導体、安息香酸ナトリウム等の保存剤、ストロベリーフレーバー、ペパーミント等のフレーバー類などを添加して製剤化することができる。
また、経口投与に適当な、例えば錠剤、散剤および顆粒剤等は、乳糖、白糖、ブドウ糖、蔗糖、マンニトール、ソルビトール等の糖類、バレイショ、コムギ、トウモロコシ等の澱粉、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム等の無機物、結晶セルロース、カンゾウ末、ゲンチアナ末等の植物末等の賦形剤、澱粉、寒天、ゼラチン末、結晶セルロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカルシウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、アルギン酸ナトリウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、タルク、水素添加植物油、マクロゴール、シリコーン油等の滑沢剤、ポリビニールアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、カルメロース、ゼラチン、澱粉のり液等の結合剤、脂肪酸エステル等の界面活性剤、グリセリン等の可塑剤などを添加して製剤化することができる。
非経口投与に適当な、例えば注射剤は、好ましくは受容者の血液と等張である化合物(I)またはその塩を含む滅菌水性剤からなる。例えば、注射剤の場合は、塩溶液、ブドウ糖溶液または塩溶液とブドウ糖溶液の混合物からなる担体等を用いて注射用の溶液を調製する。
また、これら非経口剤においても、経口剤で例示した希釈剤、防腐剤、フレーバー類、賦形剤、崩壊剤、潤沢剤、結合剤、界面活性剤、可塑剤などから選択される1種またはそれ以上の補助成分を添加することができる。
本発明の製剤の投与量および投与回数は、投与形態、患者の年齢、体重、治療すべき症状の性質もしくは重篤度により異なるが、通常、成人一日当り、化合物(I)またはその塩として5mg〜5000mg、好ましくは50mg〜5000mgとなるように一日一回ないし数回投与する。
投与期間は、特に限定されないが、通常は1日間〜1年間、好ましくは2週間〜3ヶ月間である。
なお、本発明の製剤は、ヒトだけでなく、ヒト以外の動物(以下、非ヒト動物と略す)に対しても使用することができる。
非ヒト動物としては、ほ乳類、鳥類、は虫類、両生類、魚類等、ヒト以外の動物をあげることができる。
非ヒト動物に投与する場合の投与量は、動物の年齢、種類、症状の性質もしくは重篤度により異なるが、通常、体重1kg1日当たり、化合物(I)またはその塩として0.5mg〜500mg、好ましくは5mg〜500mgとなるように一日一回ないし数回投与する。
投与期間は、特に限定されないが、通常は1日間〜1年間、好ましくは2週間〜3ヶ月間である。
本発明の製剤と同様な方法により、化合物(I)またはその塩を有効成分として含有する飲食品添加剤を調製することができる。
本発明の飲食品添加剤は、必要に応じて他の飲食品添加物を混合または溶解し、例えば粉末、顆粒、ペレット、錠剤、各種液剤の形態に加工、製造される。
本発明の飲食品は、飲食品中に化合物(I)またはその塩、あるいは本発明の飲食品添加剤を添加する以外は、一般的な飲食品の製造方法を用いることにより、加工、製造することができる。
また、本発明の飲食品は、例えば流動層造粒、攪拌造粒、押し出し造粒、転動造粒、気流造粒、圧縮成形造粒、解砕造粒、噴霧造粒、噴射造粒等の造粒方法、パンコーティング、流動層コーティング、ドライコーティング等のコーティング方法、パフドライ、過剰水蒸気法、フォームマット方法、マイクロ波加熱方法等の膨化方法、押出造粒機やエキストルーダー等の押出方法等を用いて製造することもできる。
本発明の飲食品としては、例えばジュース類、清涼飲料水、茶類、乳酸菌飲料、発酵乳、冷菓、バター、チーズ、ヨーグルト、加工乳、脱脂乳等の乳製品、ハム、ソーセージ、ハンバーグ等の畜肉製品、蒲鉾、竹輪、さつま揚げ等の魚肉練り製品、だし巻き、卵豆腐等の卵製品、クッキー、ゼリー、チューインガム、キャンディー、スナック菓子等の菓子類、パン類、麺類、漬物類、燻製品、干物、佃煮、塩蔵品、スープ類、調味料等、いずれの形態のものであってもよい。
また、本発明の飲食品は、例えば粉末食品、シート状食品、瓶詰め食品、缶詰食品、レトルト食品、カプセル食品、タブレット状食品、流動食品、ドリンク剤等の形態のものであってもよい。
本発明の飲食品は、抗糖尿病活性またはインスリン抵抗性改善活性を有する健康飲食品または機能性飲食品として用いることができる。
本発明の飲食品または飲食品添加物には、一般に飲食品に用いられる添加剤、例えば食品添加物表示ハンドブック(日本食品添加物協会、平成9年1月6日発行)に記載されている甘昧料、着色料、保存料、増粘安定剤、酸化防止剤、発色剤、漂白剤、防かび剤、ガムベース、苦味料、酵素、光沢剤、酸味料、調味料、乳化剤、強化剤、製造用剤、香料、香辛料抽出物等が添加されてもよい。
本発明の飲食品中への化合物(I)またはその塩、あるいは飲食品添加剤の添加量は、飲食品の種類、当該飲食品の摂取により期待する効果等に応じて適宜選択されるが、化合物(I)またはその塩として、通常は0.1重量%〜100重量%、好ましくは1.0重量%〜100重量%含有するように添加される。
本発明の飲食品は、摂取形態、摂取者の年齢、体重等に応じて異なるが、通常成人一日あたり、化合物(I)またはその塩として、5mg〜5000mg、好ましくは50mg〜5000mgとなるように一日一回ないし数回経口投与、すなわち摂取する。
摂取期間は特に限定はないが、通常は1日間〜1年間、好ましくは2週間〜3ヶ月間である。
本発明の飲食品添加剤と同様な方法により、化合物(I)またはその塩を有効成分として含有する飼料添加剤を調製することができる。本発明の飼料添加剤は、必要に応じて他の飼料添加物を混合または溶解し、例えば粉末、顆粒、ペレット、錠剤、各種液剤の形態に加工、製造される。
本発明の飼料は、非ヒト動物用の飼料に化合物(I)またはその塩、あるいは本発明の飼料添加剤を添加する以外は、一般的な飼料の製造方法を用いることにより、加工、製造することができる。
非ヒト動物用の飼料としては、ほ乳類、鳥類、は虫類、両生類または魚類等の非ヒト動物用の飼料で有ればいずれでもよく、例えば、イヌ、ネコ、ネズミ等のペット用飼料、ウシ、ブタ等の家畜用飼料、ニワトリ、七面鳥等の家禽用飼料、タイ、ハマチ等の養殖魚用飼料等があげられる。
化合物(I)またはその塩、あるいは本発明の飼料添加剤を添加する飼料としては、穀物類、糟糠類、植物性油かす類、動物性飼料原料、その他の飼料原料、精製品等があげられる。
穀物としては、例えばマイロ、小麦、大麦、えん麦、らい麦、玄米、そば、あわ、きび、ひえ、とうもろこし、大豆等があげられる。
糟糠類としては、例えば米ぬか、脱脂米ぬか、ふすま、末粉、小麦胚芽、麦ぬか、ペレット、トウモロコシぬか、トウモロコシ胚芽等があげられる。
植物性油かす類としては、例えば大豆油かす、きな粉、あまに油かす、綿実油かす、落花生油かす、サフラワー油かす、やし油かす、パーム油かす、ごま油かす、ひまわり油かす、なたね油かす、カポック油かす、からし油かす等があげられる。
動物性飼料原料としては、例えば魚粉(北洋ミール、輸入ミール、ホールミール、沿岸ミール)、フィッシュソルブル、肉粉、肉骨粉、血粉、分解毛、骨粉、家畜用処理副産物、フェザーミール、蚕よう、脱脂粉乳、カゼイン、乾燥ホエー等があげられる。
その他の飼料原料としては、植物茎葉類(アルファルファ、ヘイキューブ、アルファルファリーフミール、ニセアカシア粉末等)、トウモロコシ加工工業副産物(コーングルテンミール、コーングルテンフィード、コーンステープリカー等、)、でんぷん加工品(でんぷん等)、砂糖、発酵工業産物(酵母、ビールかす、麦芽根、アルコールかす、しょう油かす等)、農産製造副産物(柑橘加工かす、豆腐かす、コーヒーかす、ココアかす等)、キャッサバ、そら豆、グアミール、海藻、オキアミ、スピルリナ、クロレラ、鉱物等があげられる。
精製品としては、タンパク質(カゼイン、アルブミン等)、アミノ酸、糖質(スターチ、セルロース、蔗糖、グルコース等)、ミネラル、ビタミン等があげられる。
本発明の飼料は、例えば流動層造粒、攪拌造粒、押し出し造粒、転動造粒、気流造粒、圧縮成形造粒、解砕造粒、噴霧造粒、噴射造粒等の造粒方法、パンコーティング、流動層コーティング、ドライコーティング等のコーティング方法、パフドライ、過剰水蒸気法、フォームマット方法、マイクロ波加熱方法等の膨化方法、押出造粒機やエキストルーダー等の押出方法等を用いて製造することもできる。
本発明の飼料は、抗糖尿病用またはインスリン抵抗性改善用の飼料として用いることができる。
本発明の飼料中への化合物(I)またはその塩、あるいは飼料添加剤の添加量は、飼料の種類、当該飼料の摂食により期待する効果等に応じて適宜選択されるが、化合物(I)またはその塩として、通常は0.1重量%〜100重量%、好ましくは1.0重量%〜100重量%含有するように添加される。
本発明の飼料を非ヒト動物に摂餌させる場合は、摂取形態、摂取動物の種類、該動物の年齢、体重等に応じて異なるが、化合物(I)またはその塩として、通常体重1kg1日当たり、0.5mg〜500mgであり、好ましくは5mg〜500mgとなるように一日一回ないし数回経口投与、すなわち摂餌する。
摂餌期間は、特に限定はないが、通常1日間〜1年間、好ましくは2週間〜3ヶ月間である。
上記方法で化合物(I)またはその塩をヒトまたは非ヒト動物に投与することにより、該ヒトまたは非ヒト動物における糖尿病を治療またはインスリン抵抗性を改善することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例1】
2型糖尿病モデルのKK−Ay/Ta Jclマウス(日本クレア社、オス、6週齢)15匹を5匹ずつ3つの群に分け、第1群〜第3群とした。
第1群〜第3群のマウスに自由に摂食、摂水させた。第1群のマウスに、市販飼料CE−2(日本クレア社製)を摂取させた。第2群のマウスに、トランス−4−ヒドロキシ−L−プロリン(協和発酵工業社製、以下、ヒドロキシプロリンと略す)を1重量%添加したCE−2を摂取させた。第3群のマウスに、トランス−N−アセチル−4−ヒドロキシ−L−プロリン(協和発酵工業社製、以下、N−アセチルヒドロキシプロリンと略す)を1重量%添加したCE−2を摂取させた。
試験開始当日および17日後に尾静脈より採血し、メディセーフリーダーGR−101(テルモ社製)で非絶食時血糖値を測定した。試験開始17日後から18日後にかけて18時間絶食したのち、下大静脈より全採血し血清を得た。該血清中のインスリン値をレビインスリンキットマウス−T(シバヤギ社製)で測定した。値は平均値±標準誤差(n=5)で示し、統計学的な危険率(p値)はt検定により求めた。なお試験期間中の摂食量に第1群〜第3群で有意な差はなかった。
試験開始当日および17日後の非絶食時血糖値の測定結果を第1表に示す。

第1表から明らかなように、試験開始17日後における第2群および第3群の血糖値は、同日の第1群の血糖値と比較して有意に低値を示し、両群で試験開始当日からの高血糖症状の進行が抑制された。この結果から、ヒドロキシプロリンおよびN−アセチルヒドロキシプロリンの抗糖尿病作用が明らかとなった。
血清インスリン値の測定結果を第2表に示す。

第2表から明らかなように、第3群の血清インスリン値は、第1群の血清インスリン値と比較して有意に低値を示し、高インスリン血症が改善された。また、第2群の血清インスリン値は、第1群の血清インスリン値と比較して有意差は認められなかった。
第1表および第2表の結果から、ヒドロキシプロリンおよびN−アセチルヒドロキシプロリンは、インスリン抵抗性を改善することにより抗糖尿病作用を示すことが明らかとなった。
【実施例2】
2型糖尿病モデルのKK−Ay/Ta Jclマウス(日本クレア社、オス、6週齢)15匹を5匹ずつ3つの群に分け、第1群〜第3群とした。
第1群〜第3群のマウスに自由に摂食、摂水させた。第1群のマウスに、市販飼料CE−2(日本クレア社製)を摂取させた。第2群のマウスに、トランス−4−ヒドロキシ−L−プロリンエチルエステル(三洋化学研究所社製、以下ヒドロキシプロリンエチルエステルと略す)を1重量%添加したCE−2を摂取させた。第3群のマウスに、トランス−N,O−ジアセチル−4−ヒドロキシ−L−プロリンオレイルエステル(日生化学社製、以下ジアセチルヒドロキシプロリンオレイルエステルと略す)を1重量%添加したCE−2を摂取させた。
試験開始当日および10日後に尾静脈より採血し、メディセーフリーダーGR−101で非絶食時血糖値を測定した。試験開始10日後から11日後にかけて18時間絶食したのち、下大静脈より全採血し血清を得た。該血清中のインスリン値をレビインスリンキットマウス−Tで測定した。値は平均値±標準誤差(n=5)で示し、統計学的な危険率(p値)はt検定により求めた。なお試験期間中の摂食量に第1群〜第3群で有意な差はなかった。
試験開始当日および10日後の非絶食時血糖値の測定結果を第3表に示す。

第3表から明らかなように、試験開始10日後における第2群および第3群の血糖値は、同日の第1群の血糖値と比較して有意に低値を示し、それぞれの試験開始当日の血糖値と比較しても低値を示した。この結果から、ヒドロキシプロリンエチルエステルおよびジアセチルヒドロキシプロリンオレイルエステルの抗糖尿病作用が明らかとなった。
血清インスリン値の測定結果を第4表に示す。

第4表から明らかなように、第2群および第3群の血清インスリン値は、第1群の血清インスリン値と比較して有意差は認められなかった。
第3表および第4表の結果から、ヒドロキシプロリンエチルエステルおよびジアセチルヒドロキシプロリンオレイルエステルは、インスリン抵抗性を改善することにより抗糖尿病作用を示すことが明らかとなった。
【実施例3】
2型糖尿病モデルのKK−Ay/Ta Jclマウス(日本クレア社、オス、6週齢)16匹を8匹ずつ2つの群に分け、第1群と第2群とした。
18時間絶食したのち、第1群のマウスに生理食塩水を経口投与し、第2群のマウスにN−アセチルヒドロキシプロリンの20%(w/v)水溶液(生理食塩水に溶解)を1g/kg体重(以下「B.W.」という。)となるように経口投与した。1時間後、第1群および第2群のマウスに40%(w/v)グルコース水溶液を2g/kg B.W.となるように経口投与し、糖負荷をかけた。グルコース水溶液の投与前60分(−60分)、投与時(0分)、投与後30分および120分に尾静脈より採血し、メディセーフリーダーGR−101で血糖値を測定した。値は平均値±標準誤差(n=8)で示し、統計学的な危険率(p値)はt検定により求めた。
血糖値の測定結果を第5表に示す。

第5表から明らかなように、グルコース水溶液の投与後30分および120分において第2群の血糖値は第1群の血糖値と比較して低値を示し、第2群で糖負荷による血糖値上昇が抑制された。この結果から、N−アセチルヒドロキシプロリンの抗糖尿病作用が明らかとなった。
【実施例4】
2型糖尿病モデルのGK/Jclラット(日本クレア社、オス、9週齢)12匹を6匹ずつ2つの群に分け、第1群および第2群とした。
第1群のラットに、溶媒(0.5%(w/v)メチルセルロース#400)を5ml/kg B.W.となるように経口投与した。第2群のラットに、ヒドロキシプロリンの当該溶媒による200mg/ml溶液を、1000mg/kg B.W.となるように経口投与した。溶媒またはヒドロキシプロリン溶液の投与時(0分)、ならびに投与後の30分、60分および120分に尾静脈より採血し、メディセーフリーダーGR−101で血糖値を測定した。値は平均値±標準誤差(n=6)で示し、統計学的な危険率(p値)はt検定により求めた。
血糖値の測定結果を第6表に示す。

第6表から明らかなように、投与後60分および120分において、第2群の血糖値は第1群の血糖値と比較して有意に低値を示した。この結果から、ヒドロキシプロリンの抗糖尿病作用が明らかとなった。
【実施例5】
2型糖尿病モデルのGK/Jclラット(日本クレア社、オス、9週齢)18匹を6匹ずつ3つの群に分け、第1群〜第3群とした。
18時間絶食したのち、第1群のラットに、溶媒(0.5%(w/v)メチルセルロース#400)を5ml/kg B.W.となるように経口投与した。第2群のラットに、ヒドロキシプロリンの当該溶媒による60mg/ml溶液を、300mg/kg B.W.となるように経口投与した。第3群のラットに、ヒドロキシプロリンの当該溶媒による200mg/ml溶液を、1000mg/kg B.W.となるように経口投与した。経口投与の30分後、第1群〜第3群のマウスに20%(w/v)グルコース水溶液を2g/kg B.W.となるように経口投与し、糖負荷をかけた。グルコース水溶液の投与前30分(−30分)、投与時(0分)、ならびに投与後30分、60分および120分に尾静脈より採血し、メディセーフリーダーGR−101で血糖値を測定した。
値は平均値±標準誤差(n=6)で示し、第1群と第2群、および第1群と第3群の間における統計学的な危険率(p値)は一元配置分散分析およびDunnett検定により求めた。
血糖値の測定結果を第7表に示す。

第7表から明らかなように、グルコース投与後60分において、第2群の血糖値は第1群の血糖値と比較して有意に低値を示し、第2群で糖負荷による血糖値上昇が抑制された。また、グルコース投与後30分、60分および120分において、第3群の血糖値は第1群の血糖値と比較して有意に低値を示し、第3群で糖負荷による血糖値上昇が抑制された。これらの結果から、ヒドロキシプロリンの投与量依存的な抗糖尿病作用が明らかとなった。
【実施例6】
C2C12細胞(マウス横紋筋由来細胞株、大日本製薬社)を12穴プレートに1.2×10ずつ播種し、10%ウシ胎児血清(インビトロジェン社製)を添加したDMEM培地(インビトロジェン社製)で、COインキュベーター(5%CO/95%air)中、37℃で3日間培養した。細胞がコンフルエントになったところで2%ウマ血清(インビトロジェン社製)を添加したDMEM培地に交換してさらに4日間培養し、筋管細胞へと分化させた。2%ウマ血清を添加したDMEM培地で再度培地交換し、ウシインスリン(インビトロジェン社製)を終濃度1μg/mlまたは0.1μg/ml、またはウシインスリンを終濃度0.1μg/mlおよびトランス−4−ヒドロキシ−L−プロリンメチルエステル(国産化学社製、以下ヒドロキシプロリンメチルエステルと略す)を終濃度100μg/ml、またはウシインスリンを終濃度0.1μg/mlおよびヒドロキシプロリンエチルエステルを終濃度100μg/mlとなるように添加し、さらに3日間培養した。培養上清を回収してグルコースCIIテストワコー(和光純薬社製)によりグルコース濃度を測定することで、分化したC2C12細胞のグルコース消費を調べた。値は平均値±標準偏差(n=3、mg/l)で示し、統計学的な危険率(p値)はt検定により求めた。
添加したインスリン、ヒドロキシプロリンメチルエステルおよびヒドロキシプロリンエチルエステルの濃度、および培養上清中のグルコース濃度を第8表に示す。

第8表から明らかなように、インスリン0.1μg/mlの添加によりC2C12細胞のグルコース消費は有意に促進され、さらにインスリン0.1μg/mlおよびヒドロキシプロリンメチルエステル100μg/ml、インスリン0.1μg/mlおよびヒドロキシプロリンエチルエステル100μg/mlの共存下では、インスリン単独では10倍濃度(1μg/ml)でなければ為し得ないレベルにまで該消費が有意に高まった。
以上の結果から、ヒドロキシプロリンメチルエステルおよびヒドロキシプロリンエチルエステルは、筋肉に対するインスリンの作用を増強することが明らかとなった。
【実施例7】
第9表記載の配合の組成物に水を加えて1000mlとし、糖尿病治療用清涼飲料水(10本分)を製造する。

【実施例8】
第10表記載の配合の組成物を水1000mlにて抽出し、糖尿病治療用茶飲料1000mlを製造する。

【実施例9】
第11表記載の配合により糖尿病治療用チューインガム(30個分)を製造する。

【実施例10】
第12表記載の配合により糖尿病治療用キャンディー(20個分)を製造する。

【実施例11】
第13表記載の処方で常法により糖尿病治療用錠剤(1錠あたり200mg)を製造する。

【実施例12】
第14表記載の処方で常法により糖尿病治療用散剤(1包あたり550mg)を製造する。

【実施例13】
第15表記載の処方で糖尿病治療用ハードカプセル剤(1カプセルあたり160mg)を製造する。

50mgのヒドロキシプロリンエチルエステルに乳糖60mgおよびコーンスターチ30mgを添加して混合し、これにヒドロキシプロピルセルロース20mgの水溶液を添加して練合する。次いで、押し出し造粒機を用いて、常法により顆粒を製造する。この顆粒をゼラチンハードカプセルに充填することにより、ハードカプセル剤を製造する。
【実施例14】
第16表記載の処方で糖尿病治療用ソフトカプセル剤(1カプセルあたり170mg)を製造する。

大豆油120mgにジアセチルヒドロキシプロリンオレイルエステル50mgを添加して混合する。次いで、ロータリー・ダイズ式自動成型機を用いて、常法に従い、ソフトカプセルに充填することにより、ソフトカプセル剤を製造する。
【産業上の利用可能性】
本発明により、糖尿病治療剤、インスリン抵抗性改善剤、または糖尿病治療用もしくはインスリン抵抗性用改善の飲食品、飲食品添加剤、飼料もしくは飼料添加剤が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)

[式中、Rは水素またはアシルを示し、Rは水素、または飽和もしくは不飽和の炭化水素基を示し、RおよびRの一方は水素を示し、他方はOR(式中、Rは水素またはアシルを示す)]で表されるヒドロキシプロリンもしくはヒドロキシプロリン誘導体[以下、化合物(I)という]またはそれらの薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する糖尿病治療剤。
【請求項2】
化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する糖尿病治療用の飲食品または飲食品添加剤。
【請求項3】
化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩を有効成分として含有する糖尿病治療用の飼料または飼料添加剤。
【請求項4】
化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するインスリン抵抗性改善剤。
【請求項5】
化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するインスリン抵抗性改善用の飲食品または飲食品添加剤。
【請求項6】
化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩を有効成分として含有するインスリン抵抗性改善用の飼料または飼料添加剤。
【請求項7】
化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩を投与することを特徴とする糖尿病治療方法。
【請求項8】
化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩を投与することを特徴とするインスリン抵抗性改善方法。
【請求項9】
糖尿病治療剤の製造のための化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩の使用。
【請求項10】
糖尿病治療用の飲食品または飲食品添加剤の製造のための化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩の使用。
【請求項11】
糖尿病治療用の飼料または飼料添加剤の製造のための化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩の使用。
【請求項12】
インスリン抵抗性改善剤の製造のための化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩の使用。
【請求項13】
インスリン抵抗性改善用の飲食品または飲食品添加剤の製造のための化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩の使用。
【請求項14】
インスリン抵抗性改善用の飼料または飼料添加剤の製造のための化合物(I)またはそれらの薬理学的に許容される塩の使用。

【国際公開番号】WO2004/083179
【国際公開日】平成16年9月30日(2004.9.30)
【発行日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−503765(P2005−503765)
【国際出願番号】PCT/JP2004/003763
【国際出願日】平成16年3月19日(2004.3.19)
【出願人】(000001029)協和醗酵工業株式会社 (276)
【Fターム(参考)】