説明

糖尿病治療用のアルジロロビウム・ロゼウム植物抽出物

本発明は、フラボノイド配糖体を含有するアルジロロジウム・ロゼウム植物抽出物を分離する方法に関し、この抽出物は血糖降下作用を有する。本発明はさらに、この抽出物を含有する組成物、およびこの抽出物を投与してインスリン非依存型糖尿病疾患症状を含めた種々の高血糖症状を治療する方法も企図している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルジロロビウム・ロゼウム(Argyrolobium roseum)植物から得られる抗糖尿病性抽出物、この抽出物の分離法、および高血糖関連疾患または症状を有する患者を治療するためのこの抽出物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルジロロビウム・ロゼウムは、インド北西部の熱帯および亜熱帯地域に見出される草または低木である。この植物は、例えば、インドのジャム・カシミール州ウダンプル地区の丘陵地帯に成育し、通常、4月から6月の間に花を咲かせ、実をつける(以下を参照のこと、チャウダリーおよびワドワ(Chowdhary and Wadhwa)、「ヒマチャル・プラデシュの植物相(flora of himachal pradesh)」、p.181−1821;「天然物辞典(dictionary of natural products)」、チャップマン・アンド・ホール(Chapman and Hall)、1994年、第7巻、p.414、1994年、第1巻、p.457;「インデックス・キューエンシス(Index Kewensis)」、1895年、第1巻 184;オム(Om)、「ジャンムー・アンド・カシミールおよびラダクの野生および栽培植物(wild and cultivated plants of J&K and ladakh)」、1997年、p.23)。
【0003】
アルジロロビウム植物についての解説は、以下のものに見出される;イー ナシル(E.Nasirl)、「西パキスタンの植物相(FLORA OF WEST PAKISTAN)」、第100巻、p.385;オレグ ポルーニン(Oleg Polunin)、アダム スタイントン(Adam Staintonj)、「ヒマラヤの植物相(FLORA OF THE HIMALAYA)」、94ページ、版番号323、d460;エイチ ジェイ チャウダリーおよびビー エム ワドワ(H.J.Chowdhary and B.M.Wadhwal)、「ジャンムーの植物相および近郊の植物(FLORA OF JAMMU AND PLANTS OF NEIGHBOURHOOD)」、1983年、第II巻、版番号64、p.180−1821:「ヒマチャル・プラデシュの植物相(FLORA OF HLMACHAL PRADESH)」、p.181−182;エヌ シー ナイル(N.C.Nairl)、「バシャール・ヒマラヤの植物相(FLORA OF BASHAHR HLMALAYAS)」、1997年、p.69;フッカー(Hooker)、「英領インドの植物相(FLORA OF BRITISH INDIA)、第II巻、p.63。他のアルジロロビウム種としては、アルジロロビウム・メガリズム(Argyrolobium megharizum)およびアルジロロビウム・フラックシダム(Argyrolobium flaccidum)(「天然物辞典(DICTIONARY OF NATURAL PRODUCTS)」、チャップマン・アンド・ホール(Chapman & Hall)、1994年、第1巻、p.457参照)が挙げられる。しかし、アルジロロビウム・ロゼウムが動物やヒトなどの哺乳動物用に医学的または生物学的用途を有するという報告はない。特に、この天然産物を高血糖症状の治療に使用するという記述はない。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、血糖降下作用を有し、フラボノイド配糖体化合物を含有するアルジロロビウム・ロゼウム抽出物の分離法に関する。さらに、本発明は、動物への投与に適した抽出物を含有する組成物、および、この組成物を投与して、インスリン非依存型糖尿病(NIDDM)などの種々の高血糖症状を治療する方法を包含する。
【0005】
本発明の1つの目的は、アルジロロビウム・ロゼウム植物から抽出物を分離する方法であり、ここでこの抽出物は、血糖降下作用を有し、フラボノイド配糖体化合物を含有する。この抽出物は、例えば、ヒトを含めた動物における高血糖症およびNIDDMの治療に有用な組成物として、例えば錠剤形態に配合することができる。さらに、本発明は、本発明の抽出物組成物を含有する製剤中に他の血糖降下剤や添加剤を混合することも企図している。
【0006】
さらに、本発明の目的は、アルジロロビウム・ロゼウムから分離された抽出物を投与して、哺乳動物のような動物における高血糖症およびNIDDMを治療する方法を開発することであり、ここでこの抽出物はフラボノイド配糖体化合物を含有する。この抽出物または抽出物配合組成物が動物、哺乳動物またはヒトに有害な副作用を引き起こさない限り、この抽出物で例えばヒトを治療することができる。本発明のアルジロロビウム・ロゼウム抽出組成物と共に他の血糖降下剤や添加剤を同時投与してもよい。本発明の別の目的は、糖尿病のような高血糖疾患症状を治療するための投薬方式を開発することである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
したがって、本発明は、有効量のフラボノイド配糖体化合物含有アルジロロビウム・ロゼウム植物抽出物を投与するか、フラボノイド配糖体化合物自体を投与して、ヒトを含めた動物の高血糖症およびNIDDMを治療する方法に関する。本発明は、本発明の抽出物組成物で治療したモデル動物が高血糖疾患関連症状を克服したことを示す。実際に、本発明は、世界中の国民各層を苦しめている糖尿病のような高血糖疾患の治療にアルジロロビウム・ロゼウム抽出物を初めて利用する。そうすることで、本発明は、糖尿病治療に用い得る天然植物ベースの無毒性薬草製剤を提供する。本発明の抽出物は、溶媒を用いて特定の植物粉末を分離し、次いで真空乾燥することにより、抗糖尿病作用を失うことなく容易に調製することができる。さらに、最大2000mg/kg経口(p.o.)用量の抽出物で治療した動物に、望ましくない副作用はなかった。したがって、この抽出物の抗糖尿病作用は、高血糖症および特にNIDDMの調整に利用できる。
【0008】
本発明の抽出物と共に、医薬上許容し得る添加剤を同時投与することもできる。適当な添加剤としては、タンパク質、炭水化物、糖、タルク、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、炭酸カルシウム、スターチ・ゼラチンペーストを含む栄養素群、および/または医薬上許容し得る担体、賦形剤、希釈剤、溶媒および他の血糖降下剤が挙げられるが、それらには限定されない。
【0009】
本発明の別の実施形態において、本発明の抽出物の有効量は、約1〜約3000mg/kg p.o./日の範囲の用量であってよく、投薬方式は約2〜約4週間継続し得る。この有効量は、約2〜4週間にわたる治療中、約200〜約1000mg/kg p.o./日の範囲の用量であるのが好ましい。
【0010】
動物または哺乳動物に1回投与すると、投与された抽出物の薬効は約8時間継続するであろう。実際に、本発明の抽出物組成物は、全抽出物に比べて約20倍も有効であり得、投与を受けた動物または哺乳動物に望ましくない副作用を引き起こさない。
【0011】
したがって、本発明は、ヒトを含めた動物の高血糖症およびNIDDMの治療に有用な組成物を提供し、この組成物は、有効量のフラボノイド配糖体化合物含有アルジロロビウム・ロゼウム植物由来抽出物またはフラボノイド配糖体化合物自体と、場合によって添加剤とを含む。
【0012】
本発明の別の実施形態において、添加剤は、タンパク質、炭水化物、糖、タルク、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、炭酸カルシウム、スターチ・ゼラチンペーストを含む栄養素群、および/または医薬上許容し得る担体、賦形剤、希釈剤、溶媒および他の血糖降下剤から選択される。通常、添加剤は、抽出物の薬効に悪影響を及ぼさない。本発明のさらに別の実施形態において、組成物は、カプセル剤、錠剤、シロップ剤、濃縮剤、散剤、顆粒剤、エアゾール剤、またはビーズとして経口投与される。
【0013】
さらに、本発明は、アルジロロジウム・ロゼウム植物から抽出物を分離する方法を企図し、この抽出物は、フラボノイド配糖体化合物を含有し、血糖降下作用を有する。この方法は:
(a) 全植物を乾燥して粉末状にすること、
(b) 粉末を極性または非極性溶媒で3〜5回パーコレートすること、
(c) 抽出物を離解すること、
(d) 7〜10%の収率の離解済抽出物を得ること、
(e) 抽出物を真空乾燥すること、
(f) クロマトグラフィーにかけてフラボノイド配糖体化合物を分離すること、および
(g) 0.015〜0.019%の範囲のフラボノイド配糖体化合物を得ること
を含み得る。
【0014】
本発明の別の実施形態において、フラボノイド配糖体化合物は、メッシュサイズ60〜120ミクロンのシリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけて分離する。
本発明のさらに別の実施形態において、抽出物は、ヘキサン、酢酸エチル、アセトン、クロロホルムからなる群から選択される化合物で離解(macerate)する。
本発明のさらに別の実施形態において、パーコレーション用に好ましい溶媒はアルコールおよびアセトンである。
【0015】
本発明のさらに別の実施形態において、本抽出物からフラボノイド配糖体自体を精製し、これを、哺乳動物およびヒトのインスリン非依存型糖尿病治療用の医薬組成物の調製に用いる。
本発明のさらに別の実施形態において、フラボノイド配糖体化合物は有意な血糖降下作用を有する。
本発明のさらに別の実施形態において、アルコール抽出物化合物は、ストレプトゾトシン処理ラットの膵臓p細胞再生作用を有する。
【0016】
本発明のさらに別の実施形態において、アルジロロジウム・ロゼウムから分離されたフラボノイド配糖体は、有意な血糖降下作用を示した200mg/kg p.o.用量の上記植物のアルコールまたはアセトン画分に対して20分の1の用量、すなわち、10mgで用い得る。
本発明のさらに別の実施形態において、水性抽出物、アルカロイドおよび非アルカロイド画分は有意な血糖降下作用を有さない。
【0017】
以下の実施例で本発明を説明するが、これらの実施例は、例示目的で提供されているに過ぎず、本発明の範囲を限定するものと解釈してはならない。
【実施例】
【0018】
実施例−1
薬用量のストレプトゾトシンを用いて、臨床的に多くの患者に見られるNIDDMに似た糖尿病を誘発させる。NIDDM糖尿病ラットは、アルジロロジウム・ロゼウム植物のアルコール抽出物で2〜3週間治療すると、正常な状態に回復したのに対し、コントロールNIDDM糖尿病群ラットは、糖尿病を持ち続け、やがて死亡した。
【0019】
実施例−2
1kgのアルジロロジウム・ロゼウム(全植物)を陰干しして、粉末にする。粉末状植物材料をエチルアルコール(5リットル)で20時間抽出した。次いで、アルコール抽出物を真空乾燥した。収量は91グラムであった。乾燥アルコール抽出物をヘキサンとクロロホルムで連続離解して、それぞれ、8.2グラムおよび39.3グラムの抽出物を得た。繰返しメッシュサイズ60〜120ミクロンのシリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけて、クロロホルム抽出物からフラボノイド配糖体(230ミリグラム)を分離した。この抽出物(200mg/kg p.o.)は、標準的な18時間絶食中のグルコース投与ストレプトゾトシン惹起高血糖ラットで試験すると、有意な血糖降下作用を示した。作用の発現は30分以内であり、この作用は5時間以上も続いた。上記用量で記録された血糖降下は26mg/dl(n=24)であったのに対し、18時間絶食ラットでそれぞれトルブタミド50mg/kg p.o.(n=9)およびグリピシド0.5mg/kg p.o.(n=8)で記録された血糖降下は17および23mg/dlであった。
植物粉末(2.5g/kg p.o.)およびこの植物から分離したフラボノイド配糖体でも血糖降下作用が記録された。
【0020】
実施例−3
1kgのアルジロロジウム・ロゼウム(全植物)を乾燥して、粉末にする。粉末状植物材料を95%メチルアルコール(毎回3リットル)で4回パーコレートした。アルコール抽出物を真空乾燥して、85グラムを得た。アルコール抽出物をヘキサンとクロロホルムで連続離解して、それぞれ6.7グラムおよび49.6グラムの抽出物を得た。繰返しメッシュサイズ60〜120ミクロンのシリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけて、アセトン抽出物からフラボノイド配糖体(170ミリグラム)を分離した。この抽出物(200mg/kg p.o./日)で2〜3週間治療したインスリン非依存型糖尿病ラットには、以下のパラメータ:(i)血糖値、(ii)体重への効果、(iii)動物の生存率、(iv)水分摂取量、尿量および尿糖の存在、(v)動物の全身状態および(vi)ラット排泄尿へのアリの来襲に関して極めて有意な回復が見られた。
【0021】
実施例−4
1kgのアルジロロジウム・ロゼウム(全植物)を陰干しして、粉末にした。粉末状植物材料を95%アセトン(毎回3リットル)で4回パーコレートした。アセトン抽出物を真空乾燥した。収量は87グラムであった。アルコール抽出物をヘキサンと酢酸エチルで連続離解して、それぞれ7.2グラムおよび42.8グラムの抽出物を得た。繰返しメッシュサイズ60〜120ミクロンのシリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけて、アセテート抽出物からフラボノイド配糖体(210ミリグラム)を分離した。KA(200mg/kg p.o./日)で2〜3週間治療したインスリン非依存型糖尿病ラットには、以下のパラメータ:(i)血糖値、(ii)体重への効果、(iii)動物の生存率、(iv)水分摂取量、尿量および尿糖の存在、(v)動物の全身状態および(vi)ラット排泄尿へのアリの来襲に関して極めて有意な回復が見られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物における高血糖症およびインスリン非依存型糖尿病治療の使用であって、有効量のアルジロロジウム・ロゼウム抽出物を前記動物に一定期間投与することを含んでなり、前記抽出物がフラボノイド配糖体化合物を含んでなる当該使用。
【請求項2】
前記方法が、少なくとも1種の医薬上許容し得る添加剤を同時投与することをさらに含んでなる、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記動物が哺乳動物である、請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記動物がヒトである、請求項3に記載の使用。
【請求項5】
前記添加剤が、タンパク質、炭水化物、糖、タルク、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、炭酸カルシウム、スターチ・ゼラチンペーストからなる群から選択される、請求項2に記載の使用。
【請求項6】
前記添加剤が、医薬上許容し得る担体、賦形剤、希釈剤、溶媒または他の血糖降下剤である、請求項2に記載の使用。
【請求項7】
前記有効量が、約1〜約3000mg/kg p.o./日である、請求項1に記載の使用。
【請求項8】
前記有効量が、約200〜約1000mg/kg p.o./日である、請求項1に記載の使用。
【請求項9】
前記一定期間が約2〜約4週間である、請求項1に記載の使用。
【請求項10】
前記抽出物が前記動物に有害な副作用を引き起こさない、請求項1に記載の使用。
【請求項11】
有効量のアルジロロジウム・ロゼウム抽出物を含んでなる精製組成物であって、前記化合物がフラボノイド配糖体化合物を含んでなる精製組成物。
【請求項12】
少なくとも1種の添加剤をさらに含んでなる、請求項11に記載の組成物。
【請求項13】
前記添加剤が、タンパク質、炭水化物、糖、タルク、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、炭酸カルシウム、スターチ・ゼラチンペーストからなる群から選択される、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
前記添加剤が、医薬上許容し得る担体、賦形剤、希釈剤、溶媒または他の血糖降下剤である、請求項12に記載の組成物。
【請求項15】
カプセル剤、錠剤、シロップ剤、濃縮剤、散剤、顆粒剤、エアゾール剤、またはビーズとして調剤される、請求項11に記載の組成物。
【請求項16】
フラボノイド配糖体化合物含有アルジロロジウム・ロゼウム抽出物の分離法であって、(a)アルジロロビウム・ロゼウム植物を乾燥して粉末状にすること、(b)粉末を極性または非極性溶媒で3〜5回パーコレートすること、(c)抽出物を離解すること、(d)抽出物を真空乾燥すること、(e)クロマトグラフィーにかけてフラボノイド配糖体化合物を分離すること、を含んでなり、前記フラボノイド配糖体化合物が血糖降下作用を有する当該方法。
【請求項17】
クロマトグラフィーカラム中のメッシュサイズ60〜120ミクロンのシリカゲルを用いて、フラボノイド配糖体化合物を分離する、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
ヘキサン、酢酸エチル、アセトン、またはクロロホルムの存在下で抽出物の離解を行う、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
アルコールまたはアセトンを用いてパーコレーションを行う、請求項16に記載の方法。

【公表番号】特表2006−513991(P2006−513991A)
【公表日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−542740(P2004−542740)
【出願日】平成15年10月8日(2003.10.8)
【国際出願番号】PCT/IB2003/004422
【国際公開番号】WO2004/032949
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(595059872)カウンシル オブ サイエンティフィク アンド インダストリアル リサーチ (81)
【Fターム(参考)】