説明

糖尿病用組成物

【課題】インスリン様の作用を有し、従来の経口糖尿病薬のような副作用がなく、軽度の高血糖状態の治療や、日常的に摂取する方法に適用できる糖尿病用組成物を提供すること。
【解決手段】糖尿病用組成物の有効成分として、以下の(1)及び(2)工程により得られる発酵茶抽出残渣を用いる。
(1)発酵茶を、水性液体を用いて抽出操作を行い抽出物を得る工程
(2)上記抽出物を、有機溶媒を用いて抽出操作を行い発酵茶抽出残渣を得る工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵茶抽出残渣を有効成分とする糖尿病用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病患者の90%を占める2型糖尿病は、インスリンの分泌低下と感受性低下を主要因とする生活習慣病であり、持続的な高血糖をきたすことが大きな特徴である。高血糖が長期間持続すると、血管障害、網膜症、腎症、神経障害等、種々の臓器や神経に深刻な合併症が生じる。従って、2型糖尿病の治療では、血糖値をコントロールして正常値に維持することが極めて重要である。2型糖尿病は遺伝的要因と生活習慣が絡み合って発症するため、2型糖尿病の治療としては、食事療法及び運動療法を原則とし、これに薬物療法を組み合わせて血糖値をコントロールする方法が取られている。
【0003】
糖尿病の薬物療法では、インスリンが用いられているが、インスリンはペプチドであり、小腸で分解されてしまうため経口投与できず、医師の治療によるか又は自分で、皮下または筋肉注射により投与を行わなくてはならない。このようなインスリンの不便な点を改善するため、現在、インスリン分泌促進薬、ブドウ糖吸収阻害薬、インスリン抵抗性改善薬といった、糖尿病経口薬が市販されているが、副作用があり、軽度の高血糖状態の治療や、日常的に摂取する方法には適用できない。
【0004】
一方、お茶は嗜好品として古くから利用されてきており、健康に良いというイメージがあり、日本人にとっても馴染み深い食品である。お茶に含まれるポリフェノールであるカテキン類は血糖調節作用や脂肪分解作用等様々な作用を示すことが知られ、これを有効利用しようとする試みがなされている。しかしながら、カテキン類は多種の化合物を含み、水や有機溶媒等様々な溶媒に溶解するため、効率よく効果的な成分を取り出すことが難しいため、大量に摂取しなければならないという問題があった。
【0005】
また、紅茶や烏龍茶等の発酵茶から機能性成分を取り出そうという提案もなされており、例えば特許文献1には、発酵茶から抽出された高分子ポリフェノールが、血糖降下作用を示すことが提案されている。しかしながらこのものは特定構造、特定分子量の成分を必須成分とし、効果を得るためには複雑な製造工程を経なければならず、コスト高になるという問題があった。また、特許文献2には、紅茶ポリフェノールを有効成分とする糖化ヘモグロビン上昇抑制剤が提案されている。しかしながらこのものも、効果を得るためには、特定の成分を有効量とするために複雑な製造工程が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2006/049258号パンフレット
【特許文献2】特開2007-269677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、インスリン様の作用を有し、従来の経口糖尿病薬のような副作用がなく、軽度の高血糖状態の治療や、日常的に摂取する方法に適用できる糖尿病用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記問題点に鑑み、簡便な操作で効果の高い糖尿病用組成物を得るための検討を行った。その結果、発酵茶を水性液体で抽出した抽出物を、有機溶媒で抽出した抽出残渣が、極めて高い糖尿病の改善効果を示すことを見出した。
【0009】
本発明は、以下の(1)及び(2)工程により得られる発酵茶抽出残渣を有効成分とする糖尿病用組成物を提供するものである。
(1)発酵茶を、水性液体を用いて抽出操作を行い抽出物を得る工程
(2)上記抽出物を、有機溶媒を用いて抽出操作を行い発酵茶抽出残渣を得る工程
【発明の効果】
【0010】
本発明の糖尿病用組成物は、インスリン様の作用を有し、従来の経口糖尿病薬のような副作用がなく、軽度の高血糖状態の治療や、日常的に摂取する方法に適用でき、糖尿病の予防及び/又は治療に有用である。
また、本発明の糖尿病用組成物は、従来用いられてきた発酵茶抽出物ではなく、発酵茶抽出残渣を利用するものであり、この発酵茶抽出残渣は、発酵茶抽出物に比べて高い効果を有し、しかも簡便な操作で製造することができ、極めて有用性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施例1で得られたフラクション1〜4のグルコース‐6‐ホスファターゼ(G6Pase)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)及びHNF4αの発現に対する作用の結果を示す図である。
【図2】図2は、実施例1で得られたフラクション4のFoxO1及びPPARγの発現に対する作用の結果を示す図である。
【図3】図3は、実施例1で得られたフラクション4の添加濃度を変化させたときのG6Pase、PEPCK及びHNF4αの発現に対する作用の結果を示す図である。
【図4a】図4aは、実施例1で得られたフラクション4のG6Pase及びPEPCKの発現に対する作用の結果を示す図である。
【図4b】図4bは、茶ポリフェノールであるエピガロカテキンガレート(EGCG)のG6Pase及びPEPCKの発現に対する作用の結果を示す図である。
【図5】図5は、実施例1で得られたフラクション4、インスリン及びEGCGの、IGFBP-1の発現に対する作用の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の糖尿病用組成物について、好ましい実施形態に基づき詳述する。
本発明の糖尿病用組成物は、以下の(1)及び(2)工程により得られる発酵茶抽出残渣を有効成分とすることに特徴がある。
(1)発酵茶を、水性液体を用いて抽出操作を行い抽出物を得る工程
(2)上記抽出物を、有機溶媒を用いて抽出操作を行い発酵茶抽出残渣を得る工程
【0013】
上記(1)工程で用いられる「発酵茶」としては、製造工程中に発酵過程を含む茶であれば特に制限されず、例えば、烏龍茶等の青茶(半発酵茶)、プーアル茶等の黒茶(後発酵茶)、紅茶(完全発酵茶)、白茶(軽度発酵茶)及び黄茶(軽発酵茶)等が挙げられる。これらの中でも、効率よく効果の高い抽出物を得るとの観点から、半発酵茶である青茶が好ましく、烏龍茶がもっとも好ましい。
【0014】
また上記(1)工程で用いられる「水性液体」としては、水を主体とした媒体であれば特に制限されず、純水、蒸留水、水道水、酸性水、アルカリ水、中性水等を例示することが出来る。媒体の状態も、本発明の組成物を抽出できるものであれば、冷水(約-5〜40℃)、熱水(40〜98℃)、沸騰水(98〜約105℃)及び水蒸気(約105℃以上)も含まれる。これらの中でも、抽出温度の安定性、抽出効率の観点から、沸騰水が好ましい。
【0015】
上記(1)の工程における抽出操作方法としては、特に制限されないが、例えば、発酵茶を溶媒中に浸漬、攪拌又は還流等する方法が挙げられる。抽出操作の条件については、特に制限されず、公知の抽出の条件に則り行えばよい。
【0016】
上記(2)工程で用いられる「有機溶媒」としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール等の低級アルコール、及び1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンのように多価アルコールのうち室温で液体であるアルコール類;ジエチルエーテル、プロピルエーテル等のエーテル類;酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、エチルメチルケトン等のケトン類;ヘキサン;クロロホルム等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種又は2種以上を組合せて用いてもよいが、効果の高い抽出残渣を得るためには、2種以上の有機溶媒を組み合わせて用いることが好ましく、さらに3種以上の有機溶媒を組み合わせることがもっとも好ましい。なお、「組み合わせて用いる」には、異なる有機溶媒を混合して用いる場合、1種ずつ順番に用いる場合及びこれらの組合せを含む。
【0017】
上記(2)工程で用いられる有機溶媒の好ましい組み合わせとしては、不要な成分を効率的に除去するという観点から、クロロホルム、酢酸エチル、低級アルコールの3種類の有機溶媒を用いるのが好ましい、また、低級アルコールとしては、メタノールがもっとも好ましい。
【0018】
上記(2)工程における抽出操作の方法としては、特に制限されないが、上記(1)の工程で得られた抽出物を水性液体に分散した状態のまま又は濃縮した状態のところに、水性液体と混合しない有機溶媒を加えて、攪拌後に分液する方法(液液抽出法)、及び上記(1)工程で得られた抽出物を乾燥等の方法により固体とした後、有機溶媒を加えて、浸漬、攪拌又は還流等した後に固体を取り出す方法(固液抽出法)が挙げられる。これらの抽出操作の中では、水性液体と混合・均一化する有機溶媒を用いても抽出操作を行えるという点、並びに抽出操作及び抽出後の有機溶媒との分離が容易という点から、後者の固液抽出法が好ましい。抽出操作の条件については、5℃以上用いる溶媒の沸点以下の温度で行うことができるが、20〜30℃程度の室温で行うのが好ましく、25℃で抽出するのがより好ましい。
【0019】
上記(1)及び(2)工程により得られる発酵茶抽出残渣は、それ単独で本発明の糖尿病用組成物として用いてもよく、また、本発明の効果を阻害しない範囲で、カテキン、ビタミン等の成分を配合してもよい。
【0020】
本発明の糖尿病用組成物は、発酵茶抽出残渣の乾燥質量を基準として、成人1日当たり
通常0.01〜2gの範囲、好ましくは0.05〜1gの範囲で投与される。また1日当たりの投与量を1回に投与または摂取することもできるが、数回に分けて投与または摂取してもよい。
【0021】
本発明の糖尿病用組成物は、従来用いられてきた発酵茶の抽出物ではなく、発酵茶抽出残渣を利用するものであるため、本発明の糖尿病用組成物を得るための抽出操作は液液抽出のみならず、固液抽出で行うことも可能である。しかも後述する実施例の様に、本発明で用いる発酵茶抽出残渣は、抽出物に比べて高い効果を有するため、カラムクロマトグラフィーなどの高度な精製操作を行うことなく利用することが可能であり、極めて有用性が高い。
【0022】
また、本発明の糖尿病用組成物は、食経験のある発酵茶の抽出残渣を用いているため、ヒトや動物に対する安全性の点で優れ、入手および調製の容易性、経済性等の点からも好ましい。また、本発明の糖尿病用組成物は、飲食品、医薬品等の様々な形態にして摂取することができる。
【0023】
本発明の糖尿病用組成物を飲食品の形態で使用する場合、その形態は特に制限されず、健康食品、機能性食品、特定保健用食品等の他、発酵茶抽出残渣を配合できる全ての飲食品が含まれる。具体的には、錠剤、チュアブル錠、粉剤、カプセル剤、顆粒剤、ドリンク剤、経管経腸栄養剤等の流動食等の各種製剤形態とすることができる。製剤形態の飲食品は、後述する医薬品と同様に製造することができる。
【0024】
本発明に係る飲食品にはさらに、飲食品の製造に用いられる他の食品素材、各種栄養素、各種ビタミン、ミネラル、アミノ酸、各種油脂、種々の添加剤(例えば、呈味成分、甘味料、有機酸等の酸味料、界面活性剤、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、色素、フレーバー)等を配合して、常法に従って製造することができる。また、通常食されている食品に本発明に係る発酵茶抽出残渣を配合することにより、本発明に係る飲食品を製造することもできる。
【0025】
本発明に係る飲食品において、発酵茶抽出残渣の含有量は、飲食品の形態により異なるが、乾燥質量を基準として、通常は、0.1〜40質量%、好ましくは0.5〜30質量%、より好ましくは1〜20質量%の範囲である。1日当たりの摂取量は、1回で摂取してもよいが、数回に分けて摂取してもよい。上述した、成人1日当たりの摂取量が飲食できるよう、1日当たりの摂取量が管理できる形にするのが好ましい。
【0026】
本発明の糖尿病用組成物を医薬品の形態で使用する場合、その剤型としては、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、ドライシロップ剤、液剤、懸濁剤等の経口剤、吸入剤、坐剤等の経腸製剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤等の皮膚外用剤、点滴剤、注射剤等が挙げられる。これらのうちでは、経口剤が好ましい。
【0027】
本発明に係る医薬品には、さらに、慣用される添加剤、例えば、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、界面活性剤、アルコール、水、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料等を剤型に応じて配合し、常法に従って製剤化することができる。なお、液剤、懸濁剤等の液体製剤は、服用直前に水又は他の適当な媒体に溶解又は懸濁する形であってもよく、また錠剤、顆粒剤の場合には周知の方法でその表面をコーティングしてもよい。
【0028】
本発明に係る医薬品における発酵茶抽出残渣の含有量は、その剤型により異なるが、乾燥質量を基準として、通常は、0.1〜60質量%、好ましくは0.5〜35質量%の範囲であり、上述した成人1日当たりの摂取量を摂取できるよう、1日当たりの投与量が管理できる形にすることが望ましい。
【実施例】
【0029】
以下、実施例をもって本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例によって何ら制限を受けるものではない。
【0030】
〔実施例1〕糖尿病用組成物の製造
1gの烏龍茶葉を50mLの熱水ないし沸騰水(98℃)に浸漬し、3分間攪拌して抽出し抽出物を得た。この抽出物を遠心し、上清をとって凍結乾燥し、固形物を得た(175mg)。この固形物に、順次クロロホルム、酢酸エチル、メタノールをそれぞれ20mLずつ加え抽出し、クロロホルム抽出物、酢酸エチル抽出物、メタノール抽出物及び烏龍茶葉抽出残渣をそれぞれ得た。クロロホルム抽出物をフラクション1、酢酸エチル抽出物をフラクション2、メタノール抽出物をフラクション3とし、烏龍茶葉抽出残渣、即ち本発明の糖尿病用組成物をフラクション.4とした。フラクション1〜3は1mlのジメチルホルムアミド(DMSO)に溶解した。フラクション4は50mLの水に再溶解した。回収した各フラクションはフラクション1:9.1mg、フラクション2:10mg、フラクション3:51.2mg、フラクション4:51mgであった。
【0031】
〔実施例2〕組成物の製造
30gの烏龍茶葉を1500mLの熱水ないし沸騰水(98℃)に浸漬し、3分間攪拌して抽出した。これを濾過して濾液を得て、エバポレーターで200mLにまで濃縮した。濃縮液を分液漏斗に移し、200mLのクロロホルムを加えてよく攪拌し静置、分離後クロロホルム層を除去した。水層に200mLの酢酸エチルを加えてよく攪拌し、静置、分離後水層を取り出した。水層を蒸発乾固し、固形物2.8gを得た。固形物をスパーテルで細かく砕いた後、100mLのエタノールを加えて攪拌後、濾過してエタノールを除去し、乾燥して本発明の糖尿病用組成物2.4gを得た。
【0032】
〔実施例3〕錠剤の製造
実施例1と同様にして得られた本発明の糖尿病用組成物3g、乳糖20g、結晶セルロース75.8g及びポリビニルピロリドン1.2gを混合し、これにエタノールを添加して、湿式法により常法にしたがって顆粒を製造した。この顆粒を乾燥した後、ステアリン酸マグネシウム2mgを加えて打錠用顆粒末とし、打錠機を用いて打錠し、1錠が1gの錠剤100個を製造した。
【0033】
〔実施例4〕錠菓の製造
実施例2と同様にして得られた本発明の糖尿病用組成物10mg、砂糖70.2mg及びグルコース19mgを混合し、これに70%エタノールを適量加えて練和し、押出し造粒した後に乾燥して顆粒を得た。ショ糖脂肪酸エステル0.8mgを加えて打錠成形し、1gの錠菓を製造した。
【0034】
〔実施例5〕飲料の製造
<配合>
A成分
実施例2と同様にして得られた本発明の組成物 1g
ショ糖 60g
クエン酸 7.2g
香料 適量
B成分
精製水 700mL
C成分
精製水 全量を1000mLとする。
【0035】
上記B成分の精製水に、A成分を加え、撹拌溶解して濾過し、加熱殺菌後C成分を加えて1000mLとした。これを50mLごとガラス瓶に充填し、飲料を製造した。
【0036】
<試験例1>
H4IIE細胞(大日本住友製薬、肝モデル細胞)を10%FBS含有DMEM培地(1000mg/L グルコース、50U/ml ペニシリン、50μg/ml ストレプトマイシン、及び2.5μg/ml アンホテリシン B)にて維持(CO2 5%,37℃)した。無血清培地にて24時間培養後、500nMデキサメタゾン及び0.1mMジブチリルcAMPにより刺激して試験サンプルとし、下記の成分a)〜h)をそれぞれ添加して4時間培養した。尚、対照としては、各フラクションの溶媒(フラクション1〜3:DMSO、フラクション4:水)を用いた。
<成分>
a)実施例1のフラクション1:0.5ml/20ml培地
b)実施例1のフラクション2:0.5ml/20ml培地
c)実施例1のフラクション3:0.5ml/20ml培地
d)実施例1のフラクション4:0.1/20ml培地, 0.2/20ml培地, 0.5ml/20ml培地
e)エピガロカテキンガレート(EGCG):0.46mg/20ml培地
f)インスリン:1.2μg/20ml培地
g)実施例1のフラクション4(0.5ml/20ml)培地及びN−アセチルシステイン(NAC)(163μg /20ml培地)の併用系
h)EGCG(0.46mg /20ml培地)及びNAC(163μg/20ml培地)の併用系
【0037】
試験サンプル培養後細胞を回収し、QIAmp RNA Blood mini kit(Quiagen社製)を使用して全RNAを抽出し、Thermal Cycle Dice(Takara Bio社製)を使用し、定量的PCRを実施した。評価遺伝子は、グルコース−6−ホスファターゼ(G6Pase)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)、糖新生に関る転写因子(HNF4α及びPPARγ)、インスリンシグナルの抑制性転写因子(FoxO1)、及びインスリン様増殖因子結合蛋白質(IGFBP-1)を用いた。結果を図1〜図5に示す。
【0038】
図1は、実施例1のフラクション1〜4のG6Pase、PEPCK及びHNF4αの発現に対する作用の結果を示している。図1から明らかなように、フラクション4、即ち本発明の糖尿病用組成物のみ、G6Pase、PEPCK及びHNF4αの発現を抑制することが確認された。
【0039】
図2は、実施例1のフラクション4のPPARγ及びFoxO1の発現に対する作用の結果を示している。図2から明らかなように、本発明の糖尿病用組成物であるフラクション4は、PPARγの発現を抑制し、FoxO1の発現を増加させることが確認された。
【0040】
図3は、実施例1のフラクション4の添加濃度を変化させたとき(0.1/20ml培地, 0.2/20ml培地, 0.5ml/20ml培地)のG6Pase、PEPCK及びHNF4αの発現に対する作用の結果を示している。図3から明らかなように、本発明の糖尿病用組成物であるフラクション4は、濃度依存的にG6Pase、PEPCK及びHNF4αの発現を抑制することが確認された。
【0041】
図4a及び図4bは、それぞれ実施例1のフラクション4と茶ポリフェノールであるEGCGのG6Pase及びPEPCKの発現に対する作用の結果を示している。図4a及び図4bの結果から明らかなように、EGCGの発現抑制作用はNACによって遮断されるが,本発明の糖尿病用組成物であるフラクション4の作用はNACによって遮断されないことが確認された。これらの結果から、本発明の糖尿病用組成物であるフラクション4は、茶ポリフェノールであるEGCGとは異なる物質であることが確認された。
【0042】
図5は、実施例1のフラクション4、インスリン及びEGCGの、IGFBP-1の発現に対する作用の結果を示している。図5の結果から、EGCGはIGFBP-1の発現を抑制しなかったが、本発明の糖尿病用組成物であるフラクション4及びインスリンはIGFBP-1の発現を抑制することが確認された。これらの結果から,本発明の糖尿病用組成物は,インスリン様の作用を有することが分る。
【0043】
以上の結果から、次のことが明らかである。
本発明の糖尿病用組成物(フラクション4)は、インスリンと同様に、糖新生系の酵素である、PEPCK及びG6Paseの発現を抑制することによって、血液中のグルコ−スを低下させる作用を有する。
また、本発明の糖尿病用組成物は、糖新生に関る転写因子(HNF4α及びPPARγ)及びインスリン様増殖因子結合蛋白質(IGFBP-1)の発現を抑制し、インスリンシグナルの抑制性転写因子(FoxO1)の発現を増加させる。
従って、本発明の糖尿病用組成物は、インスリン様の作用によって血糖を低下させることができるため、糖尿病の予防及び/又は治療に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(1)及び(2)工程により得られる発酵茶抽出残渣を有効成分とする糖尿病用組成物。
(1)発酵茶を、水性液体を用いて抽出操作を行い抽出物を得る工程
(2)上記抽出物を、有機溶媒を用いて抽出操作を行い発酵茶抽出残渣を得る工程
【請求項2】
上記有機溶媒が、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、ヘキサン及びクロロホルムから選択される1種又は2種以上の有機溶媒である請求項1記載の糖尿病用組成物。
【請求項3】
上記有機溶媒が、低級アルコール、酢酸エチル及びクロロホルムである請求項1記載の糖尿病用組成物。
【請求項4】
上記低級アルコールが、メタノールである請求項3記載の糖尿病用組成物。
【請求項5】
上記発酵茶が、烏龍茶である請求項1〜4のいずれか1項に記載の糖尿病用組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の糖尿病用組成物を用いた飲食品または医薬品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4a】
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【図4b】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−31078(P2012−31078A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170432(P2010−170432)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(301049744)日清ファルマ株式会社 (61)
【Fターム(参考)】